説明

移動体位置推定システム及び移動体位置推定方法

【課題】 電磁波強度の変化を利用した位置推定において推定対象である移動体を識別することが可能であり、また、上記周知の各種手法を用いたときに低コストにて推定精度を高めることが可能な移動体位置推定システム及び方法を提供する。
【解決手段】 固定ICタグA1〜A6と、移動ICタグB1,B2と、固定ICタグ及び移動ICタグと電磁波により通信可能なリーダR1,R2と、リーダR1、R2と通信可能なコンピュータシステムPCとを備え、コンピュータシステムは、同一リーダにより電磁波が受信される固定ICタグA1〜A6と移動ICタグB1,B2のなかで、所定のタイミングで当該電磁波の強度が変化する固定ICタグA2と移動ICタグB1をリーダR1とともに検出し、その固定ICタグA2の位置とリーダR1の位置から所定の規則に基づいて移動ICタグB1の位置を算出し、算出された位置を移動ICタグB1の位置として出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICタグとリーダとを利用して移動体の位置を推定する移動体位置推定システム及び移動体位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、施設内や室内において移動体の位置を把握するための研究開発が盛んに行われている。移動体の位置情報を用いることにより、施設内での案内や商品管理等、様々なサービスを提供できるようになることから、施設内等において移動体の位置を推定する技術は今後益々重要な技術になると期待される。
【0003】
移動体の位置を推定する技術としては、携帯電話やPHS,GPS等を用いるものが多数開発されているが、これらはコストがかかる上に、施設内や室内等の比較的狭い空間で使用するには精度が不十分である。そこで、近年は、ICタグ(RFID:Radio Frequency Identification)を用いた技術が提案されている。ICタグは比較的安価且つ取り扱いが容易であり、狭い空間内ではGPS等に比して測位精度を高めることができる点で、実用化の面からも非常に有効である。
【0004】
下記非特許文献1には、ICタグとリーダとの間の電磁波強度の変化を用いた技術が開示されている。通信状態のICタグとリーダとの間に移動体が位置すると、そのICタグからリーダに受信される電磁波の強度が変化する現象を利用したものである。ICタグとリーダを固定配置し、リーダがICタグから受信する電磁波の強度を監視し、電磁波強度に変化が発生したとき、そのICタグとリーダの間に移動体が位置すると判断し、その領域を移動体の位置と推定する。
【非特許文献1】Y.Liu,L.Chen,J.Pei,Q.Chen,Y.Zhao:Mining Frequent Trajectory Patterns for Activity Monitoring Using Radio Frequency Tag Arrays,Proceedings of the Fifth IEEE International Conference on Pervasive Computing and Communications(PerCom2007),pp。37−46,2007.
【0005】
また、比較的広く用いられている技術として、特許文献1等に開示されているように、対象となる空間に複数のリーダを配置し、移動体にICタグを付し、移動体に付されたICタグとリーダの通信状態から、移動体の位置を推定するものが提案されている。このような位置推定には、TDOA方式、Proximity方式、RSS方式等、従来から提案されている様々な手法が適用可能である。
【特許文献1】特開2003−296667号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記非特許文献1の技術は、移動体の位置は推定できるが、その移動体を識別することはできない。仮に、特許文献1のように移動体にICタグを付するようにし、リーダにてそのICタグの識別子を読み取るように構成したとしても、そのリーダの通信範囲内に複数の移動体が存在する場合は、それらのすべての移動体に付されたICタグの識別子を読み取ってしまうため、推定対象の移動体、すなわち電磁波強度の変化の原因となった移動体を特定することは不可能である。
【0007】
また、上記特許文献1等のような移動ICタグと固定リーダを用いた位置推定においては、上記RSS方式やTDOA方式等の既存の各種推定方法を用いるが、これらの推定方法に共通する問題として、コストに対する推定精度向上の効率が非常に悪い点が挙げられる。このため、これらの方法を採用するに際しては、コストを抑えつつ、推定精度を高める技術が強く望まれているのが現状である。
【0008】
そこで、本発明は、電磁波強度の変化を利用した移動体位置推定において推定対象である移動体を識別することが可能であり、また、上記RSS等の既存の各種方法を用いたときに低コストにて推定精度を高めることが可能な移動体位置推定システム及び移動体位置推定方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
まず、本発明の基本原理について図1を参照しながら説明する。対象となる空間に、電磁波により通信可能なICタグ(以下、固定ICタグという)A1〜A6とリーダR1,2とが各々一つ以上配置される。各移動体にはリーダR1,R2と通信可能なICタグ(以下、移動ICタグという)B1,B2が付される。固定ICタグA1〜A3とリーダR1、及び、固定ICタグA4〜A6とリーダR2が通信状態であるとき、通信ごとに領域t1〜t6が形成される。この領域t1〜t6は、リーダを頂点とし、リーダから固定ICタグまでの直線を中心線とする円錐形状であり、領域内に移動体が位置したときに、リーダR1,R2が各固定ICタグA1〜A6から受信する電磁波Ea1〜Ea6の強度が変化する領域である。例えば、一つの固定ICタグA2とリーダR1の領域t2内に移動体が位置すると、リーダR1が受信する各固定ICタグA1〜A3からの電磁波Ea1〜Ea3のうち、固定ICタグA2からの電磁波Ea2のみ強度に変化が生じる。この電磁波強度の変化から、領域t2内に移動体が位置すると推定できる。
【0010】
このとき、推定対象となった移動体を識別するために、従来技術と同様に、リーダR1が移動ICタグB1,B2から受信する識別子を利用する場合を検討する。リーダR1の通信可能領域tr1内に二つの移動ICタグB1,B2が存在する場合、リーダR1は両移動ICタグB1,B2の識別子B1,B2を受信することとなる。このため、移動ICタグB1,B2のいずれが推定対象であるか、すなわちリーダR1が受信する電磁波Ea2の強度に変化を与えた移動ICタグであるか、特定が不可能となる。
【0011】
そこで、発明者等は、鋭意研究を重ねた結果、リーダR1が固定ICタグA2から受信した電磁波Ea2の強度が変化するのと同じタイミングで、移動ICタグB1から受信する電磁波Eb1の強度も変化することを見出した。すなわち、リーダR1が受信する電磁波Ea1〜Ea3,Eb1,Eb2のうち、強度が同一のタイミングで変化する電磁波Ea2,Eb1を送信した固定ICタグA2と移動ICタグB1を特定すれば、固定ICタグA2とリーダR1の位置から移動ICタグの位置を推定でき、それは移動ICタグB1であると特定できる。本発明は、かかる独自の着想に基づいて完成されたものである。
【0012】
すなわち、本発明の移動体位置推定システムは、空間に配置される一つ以上の固定ICタグと、各移動体に付される移動ICタグと、空間に配置されて前記固定ICタグ及び移動ICタグと電磁波により通信可能なリーダと、当該リーダと通信可能なコンピュータシステムとを備え、前記各固定ICタグと移動ICタグは少なくとも自己の識別子を送信する手段を有し、前記各リーダは前記各固定ICタグ及び移動ICタグから前記識別子を受信する手段と、当該識別子及びそれに対応するICタグからの電磁波の強度を示す電磁波強度情報を自己の識別子とともに出力する手段を有し、
前記コンピュータシステムは、前記各リーダから出力された前記リーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を受信する受信手段と、前記受信手段により受信した前記リーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を関連付けて電磁波変化情報として記録する記録手段と、前記記録手段により記録された電磁波変化情報を参照し、同一リーダにより電磁波が受信される固定ICタグと移動ICタグのなかで、当該リーダにより受信される電磁波の強度が所定のタイミングで変化する固定ICタグと移動ICタグを当該リーダとともに検出する検出手段と、前記検出手段により検出された固定ICタグの位置とリーダの位置を特定する特定手段と、前記特定手段により特定された固定ICタグの位置と当該リーダの位置から所定の規則に基づいて前記移動ICタグの位置を算出する算出手段と、前記算出手段により算出された位置を前記検出手段により検出された移動ICタグの位置として出力する出力手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の移動体位置推定方法は、空間に配置される一つ以上の固定ICタグと、各移動体に付される移動ICタグと、空間に配置されて前記固定ICタグ及び移動ICタグと電磁波により通信可能なリーダと、当該リーダと通信可能なコンピュータシステムを用いる移動体位置推定方法であり、前記各固定ICタグと移動ICタグは少なくとも自己の識別子を送信する手段を有するものであり、前記各リーダは前記各固定ICタグ及び移動ICタグから前記識別子を受信する手段と、当該識別子及びそれに対応するICタグからの電磁波の強度を示す電磁波強度情報を自己の識別子とともに出力する手段を有するものであり、前記コンピュータシステムにより、前記各リーダから出力された前記リーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を受信する受信ステップと、前記受信ステップにより受信した前記リーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を関連付けて電磁波変化情報として記録する記録ステップと、前記記録ステップにより記録された電磁波変化情報を参照し、同一リーダにより電磁波が受信される固定ICタグと移動ICタグのなかで、当該リーダにより受信される電磁波の強度が所定のタイミングで変化する固定ICタグと移動ICタグを当該リーダとともに検出する検出ステップと、前記検出ステップにより検出された固定ICタグの位置とリーダの位置を特定する特定ステップと、前記特定ステップにより特定された固定ICタグの位置と当該リーダの位置から所定の規則に基づいて前記移動ICタグの位置を算出する算出ステップと、前記算出手段により算出された位置を前記検出手段により検出された移動ICタグの位置として出力する出力ステップとを実行することを特徴とする。
【0014】
この発明によれば、同一リーダにより受信される電磁波の強度が所定のタイミングで変化する固定ICタグと移動ICタグがそのリーダとともに検出され、検出された固定ICタグとリーダの位置から移動ICタグの位置が算出され、その位置が移動ICタグの位置、すなわちその移動ICタグが付された移動体の位置として出力される。ここで、所定のタイミングは、ほぼ同時とみなせる程度のタイミングとして予め設定されていることが好ましい。同一リーダに受信される電磁波の強度がほぼ同時に変化する固定ICタグと移動ICタグを検出することにより、その移動ICタグの位置を算出でき、その移動ICタグを上記検出された移動ICタグの識別子により特定できる。
【0015】
また、本発明の移動体位置推定システムは、空間に配置される一つ以上の固定ICタグと、各移動体に付される移動ICタグと、空間に配置されて前記固定ICタグ及び移動ICタグと電磁波により通信可能なリーダと、当該リーダと通信可能なコンピュータシステムとを備え、前記各固定ICタグと移動ICタグは少なくとも自己の識別子を送信する手段を有し、前記各リーダは前記各固定ICタグ及び移動ICタグから前記識別子を受信する手段と、当該識別子及びそれに対応するICタグからの電磁波の強度を示す電磁波強度情報を自己の識別子とともに出力する手段を有し、前記コンピュータシステムは、互いに異なる推定方法により前記移動ICタグの位置を推定する第一の推定手段と第二の推定手段と、当該第一の推定手段の推定結果と当該第二の推定手段の推定結果を合成する合成手段を備え、前記第二の推定手段として、前記各リーダから出力された前記リーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を受信する受信手段と、前記受信手段により受信した前記リーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を関連付けて電磁波変化情報として記録する記録手段と、前記記録手段により記録された電磁波変化情報を参照し、同一リーダにより電磁波が受信される固定ICタグと移動ICタグのなかで、当該リーダにより受信される電磁波の強度が所定のタイミングで変化する固定ICタグと移動ICタグを当該リーダとともに検出する検出手段と、前記検出手段により検出された固定ICタグの位置とリーダの位置を特定する特定手段と、前記検出手段により検出された移動ICタグの位置として、前記特定手段により特定された固定ICタグの位置と当該リーダの位置から所定の規則に基づいて前記移動ICタグの位置を算出する算出手段とを備えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の移動体位置推定方法は、空間に配置される一つ以上の固定ICタグと、各移動体に付される移動ICタグと、空間に配置されて前記固定ICタグ及び移動ICタグと電磁波により通信可能なリーダと、当該リーダと通信可能なコンピュータシステムを用いる移動体位置推定方法であり、前記各固定ICタグ及び移動ICタグは少なくとも自己の識別子を送信する手段を有するものであり、前記各リーダにより前記各固定ICタグ及び移動ICタグから前記識別子を受信する手段と、当該識別子及びそれに対応するICタグからの電磁波の強度を示す電磁波強度情報を自己の識別子とともに出力する手段を有するものであり、前記コンピュータシステムにより、互いに異なる推定方法により前記移動ICタグの位置を推定する第一の推定ステップと第二の推定ステップと、当該第一の推定ステップと第二の推定ステップによる推定結果を合成する合成ステップを実行し、前記第二の推定ステップは、前記各リーダから出力された前記リーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を受信する受信ステップと、前記受信ステップにより受信した前記リーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を関連付けて電磁波変化情報として記録する記録ステップと、前記記録ステップにより記録された電磁波変化情報を参照し、同一リーダにより電磁波が受信される固定ICタグと移動ICタグのなかで、当該リーダにより受信される電磁波の強度が所定のタイミングで変化する固定ICタグと移動ICタグを当該リーダとともに検出する検出ステップと、前記検出ステップにより検出された固定ICタグの位置とリーダの位置を特定する特定ステップと、前記検出ステップにより検出された移動ICタグの位置として、前記特定ステップにより特定された固定ICタグの位置と当該リーダの位置から所定の規則に基づいて前記移動ICタグの位置を算出する算出ステップを備えることを特徴とする。
【0017】
この発明によれば、二つの異なる推定方法を用い、第二の推定方法として上記電磁波強度の変化による推定方法を採用し、第一の推定方法と第二の推定方法により算出される移動ICタグの位置を合成することで、移動ICタグの位置が算出される。第二の推定方法は、推定対象となる移動ICタグが特定可能であるため、第一の推定方法と推定対象の一致を図ることができ、両推定結果の合成が可能となっている。第二の推定方法は低コストにて実現可能であり、第一の推定方法としてRSS等の既存の推定方法を採用すれば、既存の推定方法の推定精度を低コストにて高めることが可能である。第一の推定方法としては、RSS方式のほか、TOA方式、TDOA方式、Proximity方式など、どのような推定方法を用いるものでも良い。
【0018】
前記算出手段は、前記所定の規則として、前記検出手段により検出された固定ICタグとリーダの各位置を結ぶ直線を含む所定領域を移動体の位置とすることが好ましい。移動体が位置することにより電磁波の強度が変化する領域は、固定ICタグとリーダの間の伝送路となる領域、すなわち、固定ICタグとリーダの各位置を結ぶ直線を含む領域であることが多く、移動体の推定位置として適する。
【0019】
前記算出手段は、前記所定の規則として、前記検出手段により検出された固定タグとリーダの組が複数の場合は、各組ごとに前記移動ICタグの位置を算出し、当該算出された各位置の重複領域を移動体の位置とすることが好ましい。これにより領域の絞込みが行われ、より高精度に移動体の位置を推定することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る移動体位置推定ステム及び移動体位置推定方法によれば、同一のリーダに電磁波が受信される固定ICタグと移動ICタグのうち、所定のタイミングで電磁波強度が変化する固定ICタグと移動ICタグを検出することにより、そのリーダと固定ICタグの位置から移動ICタグの位置を算出でき、検出された移動ICタグの識別子により推定対象の移動ICタグを特定することができる。
【0021】
また、本発明に係る移動体位置推定ステム及び移動体位置推定方法によれば、互いに異なる第一の推定方法と第二の推定方法とを用い、第二の推定方法として上記電磁波強度の変化を利用した推定方法を採用するため、第二の推定方法において推定対象の移動ICタグを特定することができ、第一の推定方法による推定結果との関係において推定対象の一致を図ることができる。これにより、第二の推定方法を用いた場合でも、他の推定方法と推定結果を合成させることが可能となる。第二の推定方法は少なくとも一つのICタグとリーダとで実現できるため高いコストを要せず、第一の推定方法としてRSS方式やTDOA方式などの既存の推定方法を採用することにより、既存の推定方法の推定精度を低コストにて高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<第一の実施の形態>
本実施の形態の移動体位置推定システムSys1を、図面を参照しながら説明する。図2は、移動体位置推定システムSys1の全体を説明する説明図である。移動体位置推定システムSys1は、空間に配置される一つ以上の固定ICタグA1〜A6と、各移動体に付される移動ICタグB1,B2と、空間に配置されて固定ICタグA1〜A6及び移動ICタグB1,B2と電磁波により通信可能なリーダR1,R2と、リーダR1,R2と通信可能なコンピュータシステムPCとを備える。
【0023】
固定ICタグA1〜A6と移動ICタグB1,B2は、基体にICとアンテナを搭載し、少なくともICに記憶されている自己の識別子を、アンテナを介して送信する手段を有するICタグであり、パッシブ型でもアクティブ型でもよい。
【0024】
リーダR1,R2は、固定ICタグA1〜A6と移動ICタグB1,B2と電磁界や電波などの電磁波により非接触で通信可能なものであり、各固定ICタグA1〜A6や移動ICタグB1,B2から送信される識別子A1〜A6,B1,B2を受信し、且つ、その識別子に対応するICタグからの電磁波の強度を逐次測定し、その電磁波の強度を示す情報(以下、電磁波強度情報という。)を、そのICタグの識別子及び自己の識別子と関連付けて出力する手段を備える。自己の識別子は内蔵のICチップ等の記憶媒体に記憶されている。また、電磁波の強度の測定は、各リーダR1,R2に内蔵されるアナライザにより行われる。本実施の形態のアナライザは、受信した電磁波の強度に応じて複数段階の数値を出力するものであり、相対的な電磁波強度の値が出力されるが、例えば、磁界強度を表すガウス、電界強度を表すV/mで表される値など絶対値を出力するものでも良い。
【0025】
固定ICタグA1〜A6と移動ICタグB1,B2とリーダR1,R2とは、通信可能領域内に位置する間は通信状態を維持し、電磁波の強度の測定及びデータの送受信がほぼリアルタイムに行われる。
【0026】
コンピュータシステムPCは、パーソナルコンピュータやワークステーションなどの一般的なコンピュータシステムであり、CPU、メモリ、記憶装置、リーダインタフェース、入力装置、出力装置などを備える。リーダR1,R2とは、リーダインタフェースを介して無線通信又は有線通信が可能となっている。
【0027】
図3は、コンピュータシステムPCの機能ブロック図である。コンピュータシステムPCはプログラムにより受信手段s1、記録手段s2、検出手段s3、位置特定手段s4、算出手段s5、出力手段s6として機能する。
【0028】
受信手段s1は、少なくとも各リーダR1,R2から出力される各リーダの識別子R1,R2と各ICタグの識別子A1〜A6,B1,B2と各電磁波強度情報を受信する機能を備える。
【0029】
記録手段s2は、受信手段s1により受信したリーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を関連付け、電磁波変化情報Dとしてハードディスクやメモリ等の記憶媒体に記録する機能を備える。図4は電磁波変化情報Dを概念的に説明する説明図である。電磁波を送信したICタグの識別子と、その電磁波を受信したリーダの識別子と、その電磁波の電磁波強度情報が関連付けて記録されている。電磁波強度情報は、電磁波を送受信するリーダとICタグの組ごとに時系列で蓄積記憶されている。
【0030】
検出手段s3は、記録手段s2により記録された電磁波変化情報Dを参照し、各リーダR1,R2ごとに、同一リーダにより電磁波が受信される固定ICタグと移動ICタグのなかで、所定のタイミングで電磁波の強度が変化する固定ICタグと移動ICタグを当該リーダとともに検出する機能を備える。所定のタイミングは、ほぼ同時に受信したとみなせる程度の時間内に設定される。どの程度の時間とするかは、環境やハードウェアに依存するため、予め実験等により求めた値とすることが好ましい。
【0031】
図5は、本実施の形態の検出手段s3を概念的に説明する説明図である。ここでは、リーダR1のみについて説明するが(図5(a)参照)、他のリーダについても同様である。移動ICタグB1がスタート地点Sからゴール地点Gまで移動する場合、電磁波変化情報は次の通りとなる。移動ICタグB1が位置p1に位置する間は、電磁波強度が変化する領域t1〜t3外であるため、いずれの電磁波強度情報にも変化が発生しない(図5(b1)参照)。この間は検出手段s3による検出はない。位置p2に位置する間は、電磁波強度が変化する領域t2内に位置するため、固定ICタグA2からの電磁波強度及び移動ICタグB1からの電磁波強度に変化が生じる(図5(b2)参照)。検出手段s3は、この変化の発生を検知して、固定ICタグA2と移動ICタグB1を検出することとなる。リーダR1には移動ICタグB2からの電磁波も受信されているが、電磁波強度に変化が生じていないため、検出されることはない。位置p3に位置する間は、電磁波強度が変化する領域t1〜t3外であるため、いずれの電磁波強度情報にも変化が発生しない(図5(b3)参照)。この間は検出手段s3による検出はない。
【0032】
本実施の形態において、検出手段s3は具体的に次の機能を有する。図6は、検出手段s3の機能を説明する説明図である。ここでは、リーダR1のみを例に説明するが、他のリーダについても同様である。図6(a)に示すように、電磁波変化情報Dに新たなデータが記録されると、各リーダとICタグの組ごとに、最新の電磁波強度から直近の期間T1の電磁波強度の平均値を算出し、平均値と最新の電磁波強度との差分αを算出する。なお、期間T1は、一部に変化有りとされる電磁波強度(例えば、固定ICタグA2の電磁波強度a21,a22や、移動ICタグB1の電磁波強度b11,12,13)が含まれる場合があるが、その影響が出ない程度に十分に長い期間として設定されている。検出手段s3には変化の有無の判断基準となる閾値βが設定されており、|差分α|>閾値βのときに変化発生と判断する。ここでは、最新の電磁波強度のうち固定タグA2から受信した電磁波の強度a23について変化発生と判断される。この変化発生の情報(以下、変化発生情報という。)はメモリ等に蓄積記憶される。過去においては、固定タグA2から受信した電磁波の強度a22,a23、移動ICタグB1から受信した電磁波の強度b11〜b13について変化発生と判断されており、これらの情報も変化発生情報としてメモリ等により蓄積記憶されている(図6(b))。なお、変化発生の判断はこれに限るものではなく、例えば、最尤推定により正規分布Fを求め、正規分布Fに最新の電磁波強度を引数として渡し、その電磁波強度の発生確率が、予め設定されている閾値よりも低い場合に、変化発生と判断するようにしても良い。
【0033】
つぎに、所定のタイミングにて変化有りと判断された固定ICタグと移動ICタグを検出する。ここで、検出手段s3には、所定のタイミングとして、最新の電磁波強度の時間より直前の期間T2が設定されている。所定のタイミングは、ほぼ同時とみなせるタイミングであれば良く、完全一致でも良いが、各種データを送受信する際の同期のズレを吸収する観点から、ある程度の時間幅を持つ期間T2として設定することが好ましい。検出手段s3は、上記蓄積記憶した変化発生情報を参照し、所定期間T2内に変化が発生したICタグとリーダを検出する。たとえば、所定期間T2には、電磁波強度a23,a22,a21により電磁波強度に変化発生と判断された固定ICタグA2と、電磁波強度b13,b12により変化発生と判断された移動ICタグB2とが含まれるため、これらを所定タイミングに変化が発生した固定ICタグA2と移動ICタグB1としてリーダR1とともに検出する。
【0034】
なお、対象空間内の移動ICタグの移動を監視する場合等は、すべてのリーダを対象として上記検出手段s3による処理を行う。ここでは、リーダR2については電磁波の変化はないため固定ICタグと移動ICタグは検出されず、リーダR1についてのみ、電磁波が変化した固定ICタグA2と移動ICタグB1が、そのリーダR1とともに検出される。
【0035】
また、特定の固定ICタグの付近に位置する移動ICタグを監視する場合等は、対象とする固定ICタグの識別子の入力を受け付け、電磁波変化情報Dの中から、入力された識別子に対応する固定ICタグに限定して上記検出手段s3による処理を実行するようにしても良い。また、特定の移動ICタグを捜索するような場合は、捜索対象の識別子の入力を受け付け、電磁波変化情報Dの中から、入力された識別子に対応する移動ICタグに限定して上記検出手段s3による処理を実行するようにしても良い。
【0036】
また、対象空間内に複数の移動ICタグがある場合は、次のような問題が生じる。移動ICタグが移動中の間は、その移動ICタグから受信される電磁波の強度が変化する場合がある。この場合、上記検出手段s3は、この移動ICタグを固定ICタグとの影響により電磁波強度が変化したものとして誤検出してしまう可能性がある。そこで、検出手段s3は、その移動ICタグの電磁波を受信しているすべてのリーダにおいて、その電磁波の強度に変化が発生していることを確認した場合は、その電磁波の移動ICタグは検出しないこととするのが好ましい。このような電磁波強度の変化は、移動ICタグの移動が原因である可能性が高いことから、検出手段s3の検出から除外することにより、誤検出を防止することができる。
【0037】
特定手段s4は、検出手段s3により検出された固定ICタグA2の位置とリーダR1の位置を特定する機能を備える。固定ICタグとリーダの位置は、固定ICタグの位置が記録された固定ICタグ位置情報TB1とリーダの位置が記録されたリーダ位置情報TB2を参照することにより行われる。なお、各位置情報TB1,TB2は、固定ICタグやリーダの位置が予め測定されて、コンピュータシステムPCに記憶されている。
【0038】
算出手段s5は、特定手段s4により特定された固定ICタグA2の位置とリーダR1の位置から所定の規則に基づいて移動体の位置を算出する機能を備える。所定の規則は予め算出手段s5に設定されており、次の二つを例に説明する。いずれの規則も、検出手段s3により検出された固定ICタグとリーダの各位置を結ぶ直線を含む所定領域を移動体の位置とするものである。移動体が位置することにより電磁波の強度が変化する領域は、固定ICタグとリーダの間の伝送路となる領域、すなわち、固定ICタグとリーダの各位置を結ぶ直線を含む領域であることが多く、移動体の推定位置として適する。
【0039】
規則1:検出されたリーダの位置と固定ICタグの位置を結ぶ直線上を移動体の位置とする。図2の直線Ea1〜Ea6のうち、検出された固定ICタグとリーダの一を結ぶ直線Ea2が該当する。算出手段s5には、次の式1が設定されており、移動ICタグの位置は、検出されたリーダR1の位置と固定ICタグA2の位置が式1に代入されて算出される。

【式1】
【0040】

0≦t≦1
Xb,Yb,Zb:移動ICタグの位置
Xa,Ya,Za:固定ICタグの位置
Xr,Yr,Zr:リーダの位置

【0041】
規則2:所定の円錐内の領域を移動体の位置とする。図2の電磁波強度に変化が発生する領域t1〜t6のうち領域t2が該当する。検出されたリーダR1の位置を頂点とし、リーダR1の位置と固定ICタグA2の位置を結ぶ線を中心線とし、側面と中心線との距離関係が定められた円錐を示す次の式2,式3が設定されており、移動ICタグB1の位置は、検出されたリーダR1の位置と固定ICタグA2の位置が下記式2,式3に代入され、下記式2及び式3を満たす領域として算出される。
【式2】
【0042】

【式3】
【0043】


Xr,Yr,Zr:リーダの位置
Xa,Ya,Za:固定ICタグの位置
Xb,Yb,Zb:移動ICタグの位置
xb,yb,zb:リーダと固定ICタグの位置を結ぶ直線をLとすると,移動ICタグからその直線Lにおろす垂線と,直線Lの交点座標
Sqrt(p):pの平方根
D:リーダと固定ICタグの位置を結ぶ直線Lに垂直な直線上の,固定ICタグと電波変化の発生する円錐の外周との距離
【0044】
ただし、所定の規則は、上記二つの規則に限られるものではなく、例えば、各リーダと各固定ICタグとの間においてリーダが受信する電磁波強度を変化させる領域を予め事前実験等によって調査し、その領域を記録したデータをコンピュータシステムPC内に記憶させておき、このデータを参照することにより対応する領域を移動ICタグの位置として算出するようにしても良い。この領域は環境や装置に依存するため、実環境において予め事前実験等を行い、それに基づいて設定することは効果的である。
【0045】
また、検出手段s3により、固定ICタグとリーダの組が複数検出された場合は、算出手段s5は、検出された各組ごとに移動ICタグの位置を推定し、これらを組み合わせて位置を算出することが好ましい。組み合わせ方としては、たとえば、図7(a)に示すように、上記規則1の直線を用いて、直線の交点を位置として算出しても良いし、図7(b)に示すように上記規則2の円錐型の領域を用いて重複領域を位置として算出しても良い。
【0046】
出力手段s6は、算出手段s5により算出された移動ICタグの位置の情報を、検出手段3により検出された移動ICタグの位置として出力する機能を備える。たとえば、算出手段により算出された位置の情報とともに、移動ICタグの識別子B1を出力するようにする。位置の情報は、図示しない表示装置にグラフィカルに表示されるようにしても良い。これにより、移動ICタグの位置が表示され、識別子B1によりその移動ICタグが特定される。
【0047】
本実施の形態の移動体位置推定システムSys1は次の通り動作し、本実施の形態の移動体位置推定方法を実現する。なお、詳細は上記に説明しているため省略する。通信可能範囲内にある固定ICタグA1〜A3とリーダR1、及び、固定ICタグA4〜A6とリーダR2とは電磁波により常時通信状態にあり、リーダR1は各固定ICタグA1〜A3から識別子A1〜A3を受信し、リーダR2は各固定ICタグA4〜A6から識別子A4〜A6を受信している。移動ICタグB1,B2は、リーダとの位置関係において通信可能範囲内にあるときだけ、そのリーダと常時通信状態となる。
【0048】
リーダR1は、通信可能範囲内にある各固定ICタグA1〜A3及び移動ICタグB1,B2から識別子を受信するとともに、各ICタグからの電磁波Ea1〜Ea3の強度を示す電磁波強度情報を自己の識別子R1とともに出力する。リーダR2も同様に動作する。
【0049】
コンピュータシステムPCは、リーダR1,R2から受信手段s1によりデータを受信する(受信ステップ)。このデータには、少なくとも「リーダの識別子、そのリーダが電磁波を受信したICタグの識別子、そのICタグからの電磁波の強度を示す電磁波強度情報」が含まれる。記録手段s2は、「リーダの識別子、そのリーダが電磁波を受信したICタグの識別子、そのICタグからの電磁波の強度を示す電磁波強度情報」を関連付けて、電磁波変化情報Dとして記憶媒体に記録する(記録ステップ)。
【0050】
例えば、電磁波変化情報Dが図6(a)に示すものであると仮定すると、検出手段s3は次の通り動作する(検出ステップ)。その電磁波変化情報Dを参照し、各リーダR1,R2ごとに次の処理を行う。リーダR1により電磁波が受信される固定ICタグA1〜A3と移動ICタグB1,B2の中で、そのリーダR1により受信される電磁波Ea1〜Ea3の強度が所定のタイミングで変化する固定ICタグA2と移動ICタグB1をリーダR1とともに検出する。リーダR2についても同様の処理を行う。リーダR2は、いずれの電磁波にも強度の変化がないため、何も検出されない。
【0051】
特定手段s4は、検出された固定ICタグA2とリーダR1の位置を特定する(特定ステップ)。この特定は、コンピュータシステムPCの記憶媒体に記憶されている固定IC位置情報TB1やリーダ位置情報TB2を参照することにより行われる。算出手段s5は、固定ICタグA2の位置とリーダR1の位置から所定の規則に基づいて移動ICタグの位置を算出する(算出ステップ)。そして、出力手段s5が、算出された位置の情報とともに、検出手段s3により検出された移動ICタグB1の識別子B1を出力する。これにより、移動ICタグの位置が推定され、且つ、その移動ICタグを識別子Bにより特定することができる。
【0052】
<第二の実施の形態>
本実施の形態の移動体位置推定システムSys2は、RSS方式やTDOA方式などの既存の推定手段の精度を高めることが可能なものである。固定ICタグと移動ICタグとリーダは上記実施の形態のものとほぼ同一であるため説明を省略する。固定ICタグとリーダは、後述する第一の推定手段S10及び第二の推定手段S20による位置推定が可能なように配置される。
【0053】
図8は、コンピュータシステムPCの機能を説明するブロック図である。コンピュータシステムPCは、移動ICタグの位置を推定する第一の推定手段S10と第二の推定手段S20と合成手段S30を備える。第一の推定手段S10は第二の推定手段S20と異なる推定方法を実行するものである。そして、合成手段S30が第一の推定手段S10の推定結果と第二の推定手段S20の推定結果を合成することにより、最終的に移動ICタグの位置が推定される。
【0054】
第一の推定手段S10は、TDOA方式、Proximity方式、RSS方式などの既存の推定方法を用いた推定手段であり、算出された位置情報、及び、推定対象となった移動ICタグの識別子が、後述する合成手段S30に引き渡される。
【0055】
第二の推定手段S20は、受信手段s1、記録手段s2、検出手段s3、位置特定手段s4、算出手段s5を備える。これらの各手段は、上記実施の形態とほぼ同一であるため説明を省略する。第二の推定手段S20からは、算出手段s5により算出された移動ICタグの位置と、検出手段s3により検出された移動ICタグの識別子が合成手段S30に引き渡される。
【0056】
合成手段S30は、第一の推定手段S10の推定結果と第二の推定手段S20の推定結果を合成する機能を備える。詳細には、第一の推定手段S10から引き渡された移動ICタグの位置情報とその移動ICタグの識別子、及び、第二の推定手段S20から引き渡された移動ICタグの位置情報とその移動ICタグの識別子とから、識別子が同一である移動ICタグの各位置情報を合成し、その合成結果をその移動ICタグの位置として出力する。第二の推定手段S20の推定対象となった移動ICタグを識別子により特定できるため、第一の推定手段S10の推定結果と第二の推定手段S20の推定結果について推定対象の一致を図ることができ、両推定結果を合成することが可能となる。第一の推定手段S10としてRSS方式等の既存の推定方法を用いる場合でも、第二の推定手段S20を組み合わせることにより低コストにて推定精度を高めることが可能である。
【0057】
第一の推定手段S10の推定結果と第二の推定手段S20の推定結果の合成は、各推定手段S10,S20に応じて適切な方法を用いれば良い。たとえば、図9に示すように、第一の推定手段として、リーダR1〜R3に受信される移動ICタグB1からの電磁波を利用し、RSS方式等のLateration法による推定方法を実行する場合、推定結果として移動ICタグB1の位置t10(破線領域の重複範囲である点線で示される領域)が得られる。一方、第二の推定手段として、各リーダR1〜R3に受信される固定ICタグA1〜A3及び移動タグB1からの電磁波の強度の変化を利用し、移動ICタグB1の位置t20(円錐形状の領域)が得られる。合成手段S30は、各推定結果である移動ICタグB1の位置t10と位置t20との重複位置t30(太線で示される領域)を、移動体の位置とする。具体的には、第一の推定手段S10は下記式4を用いて移動ICタグB1の位置t10を数式として算出し、第二の推定手段は上記式1又は式2及び式3を用いて移動ICタグB1の位置t20を数式として算出し、合成手段S30は各推定手段S10,S20により得られた数式を連立させることにより各推定結果を合成し、移動ICタグB1の位置t30を算出する。また、他の合成方法として、例えば、第一の推定手段又は第二の推定手段のいずれか一方により位置の情報としてパーティクルフィルタのような確率分布が得られる場合は、もう一方の推定手段により算出された位置t10又は位置t20に、得られた確率分布を重ね合わせ、重み付けにより位置t30を算出する。
【式4】
【0058】



dr:リーダrと移動ICタグまでの距離
f(x):電磁波強度又は時間差から距離を求める関数
er:リーダrで受信した電磁波強度
xr、yr、xr:リーダrの位置
xb、yb、zb:移動ICタグの位置

【0059】
なお、各推定手段S10,S20の推定結果に重複領域がない場合は、両方の推定結果を出力するようにしても良いし、いずれか一方の推定結果を出力するようにしても良い。
【0060】
この移動体位置推定システムSys2は次の通り動作して、本発明の移動体位置推定方法を実現する。第一の推定手段S10及び第二の推定手段S20による第一の推定ステップと第二の推定ステップとが実行され(第一の推定ステップ、第二の推定ステップ)、合成手段30によりその推定結果を合成する(合成ステップ)。各ステップの詳細は上記各手段による処理となるため、詳細な説明は省略する。
【0061】
<実験>
第二の実施の形態について、実験により、その有効性を確認した。第一の推定手段S10として既存のRSS方式の推定を実行するものとし、第二の推定手段として上記第一の実施の形態の算出手段による位置の算出にパーティクルフィルタを採用し、これを本発明の移動体位置推定システムとした。その比較例として、RSS方式の推定のみを実行するシステムを用いた。図10に示すように、縦4m、横8mの二次元領域にリーダを一つ、固定ICタグを三つ配置した。そして、一つの移動体(本実験では一人の人)に移動ICタグを付し、この領域を移動させ、本発明の移動体位置推定システムと比較例により移動ICタグの位置の推定を行った。図11は、各々について、推定結果の誤差の平均値をグラフ化して示す図である。比較例による推定誤差は725.86mmであるのに対し、本発明の移動体位置推定システムによる推定誤差は602.92mmであった。本発明は比較例に比較して誤差が約122.94mm減、17%減の推定精度を示した。従来、RSS方式における精度向上は、リーダの数を増やす等により行われていた。これに対して、本発明によれば、リーダに比して低コストの固定ICタグを設けることで、精度向上が実現できた。固定ICタグの数を増やすことにより、さらなる精度の向上が図れるものと予想されるが、固定ICタグはリーダに比して低コストであるため負担も小さい。また、既存のRSS方式の機器構成に、固定ICタグを追加するのみで実現可能であるため、導入も容易である。したがって、非常に低コスト且つ容易に推定精度を向上できることが証明された。
【0062】
なお、本発明の移動体位置推定システムは、例えば、次のように用いられる。百貨店などの店舗において、商品陳列棚に固定ICタグを配置し、固定ICタグに応じた位置にリーダーを配置し、移動ICタグを買物客に携帯させる。これにより、どの買物客がどの商品の前に位置しているか把握することができ、位置に応じて商品情報を流したり、マーケティングに役立つ情報として位置情報を収集することも可能である。また、美術館等の施設内に設置して、施設内の案内に用いることもできる。さらに、移動ICタグを鍵や携帯電話等の物品に付し、自宅内等の対象空間に固定ICタグとリーダとを配置すれば、物品の位置が把握できるため、所望の物品の探索が可能となる。商品の流通過程において、施設内に固定ICタグとリーダを配置し、商品に移動ICタグを付し、商品の位置を把握可能とすれば、商品を識別可能であるため商品管理に有効である。
【0063】
以上、本実施の形態について説明したが、上記実施の形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の基本原理を説明する説明図である。
【図2】第一の実施の形態の移動体位置推定システムの全体を説明する説明図である。
【図3】上記実施の形態のコンピュータシステムの機能ブロック図である。
【図4】上記実施の形態の電磁波変化情報を概念的に説明する説明図である。
【図5】上記実施の形態の検出手段を概念的に説明する説明図である
【図6】上記実施の形態の検出手段の動作を説明する説明図である。
【図7】上記実施の形態の算出手段を概念的に説明する説明図である。
【図8】第2の実施の形態のコンピュータシステムの機能ブロック図である。
【図9】上記実施の形態の第一の推定手段と第二の推定手段との組み合わせによる位置の算出を説明する説明図である。
【図10】上記実施の形態の移動体位置推定システムを用いた実験について説明する説明図である。
【図11】上記実験結果をグラフ化して示す図である。
【符号の説明】
【0065】
Sys1,Sys2 移動体位置推定システム
A1〜A6 固定ICタグ
B1,B2 移動ICタグ
R1,R2 リーダ
PC コンピュータシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空間に配置される一つ以上の固定ICタグと、各移動体に付される移動ICタグと、空間に配置されて前記固定ICタグ及び移動ICタグと電磁波により通信可能なリーダと、当該リーダと通信可能なコンピュータシステムとを備え、
前記各固定ICタグと移動ICタグは少なくとも自己の識別子を送信する手段を有し、
前記各リーダは前記各固定ICタグ及び移動ICタグから前記識別子を受信する手段と、当該識別子及びそれに対応するICタグからの電磁波の強度を示す電磁波強度情報を自己の識別子とともに出力する手段を有し、
前記コンピュータシステムは、
前記各リーダから出力された前記リーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信した前記リーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を関連付けて電磁波変化情報として記録する記録手段と、
前記記録手段により記録された電磁波変化情報を参照し、同一リーダにより電磁波が受信される固定ICタグと移動ICタグのなかで、当該リーダにより受信される電磁波の強度が所定のタイミングで変化する固定ICタグと移動ICタグを当該リーダとともに検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された固定ICタグの位置とリーダの位置を特定する特定手段と、
前記特定手段により特定された固定ICタグの位置と当該リーダの位置から所定の規則に基づいて前記移動ICタグの位置を算出する算出手段と、
前記算出手段により算出された位置を前記検出手段により検出された移動ICタグの位置として出力する出力手段とを備えることを特徴とする移動体位置推定システム。
【請求項2】
空間に配置される一つ以上の固定ICタグと、各移動体に付される移動ICタグと、空間に配置されて前記固定ICタグ及び移動ICタグと電磁波により通信可能なリーダと、当該リーダと通信可能なコンピュータシステムとを備え、
前記各固定ICタグと移動ICタグは少なくとも自己の識別子を送信する手段を有し、
前記各リーダは前記各固定ICタグ及び移動ICタグから前記識別子を受信する手段と、当該識別子及びそれに対応するICタグからの電磁波の強度を示す電磁波強度情報を自己の識別子とともに出力する手段を有し、
前記コンピュータシステムは、
互いに異なる推定方法により前記移動ICタグの位置を推定する第一の推定手段と第二の推定手段と、当該第一の推定手段の推定結果と当該第二の推定手段の推定結果を合成する合成手段を備え、
前記第二の推定手段として、
前記各リーダから出力された前記リーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を受信する受信手段と、
前記受信手段により受信した前記リーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を関連付けて電磁波変化情報として記録する記録手段と、
前記記録手段により記録された電磁波変化情報を参照し、同一リーダにより電磁波が受信される固定ICタグと移動ICタグのなかで、当該リーダにより受信される電磁波の強度が所定のタイミングで変化する固定ICタグと移動ICタグを当該リーダとともに検出する検出手段と、
前記検出手段により検出された固定ICタグの位置とリーダの位置を特定する特定手段と、
前記検出手段により検出された移動ICタグの位置として、前記特定手段により特定された固定ICタグの位置と当該リーダの位置から所定の規則に基づいて前記移動ICタグの位置を算出する算出手段とを備えることを特徴とする移動体位置推定システム。
【請求項3】
前記算出手段は、前記所定の規則として、前記検出手段により検出された固定ICタグとリーダの各位置を結ぶ直線を含む所定領域を移動体の位置とすることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の移動体位置推定システム。
【請求項4】
前記算出手段は、前記所定の規則として、前記検出手段により検出された固定タグとリーダの組が複数の場合は、各組ごとに前記移動ICタグの位置を算出し、当該算出された各位置の重複領域を移動体の位置とすることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の移動体位置システム。
【請求項5】
空間に配置される一つ以上の固定ICタグと、各移動体に付される移動ICタグと、空間に配置されて前記固定ICタグ及び移動ICタグと電磁波により通信可能なリーダと、当該リーダと通信可能なコンピュータシステムを用いる移動体位置推定方法であり、
前記各固定ICタグと移動ICタグは少なくとも自己の識別子を送信する手段を有するものであり、
前記各リーダは前記各固定ICタグ及び移動ICタグから前記識別子を受信する手段と、当該識別子及びそれに対応するICタグからの電磁波の強度を示す電磁波強度情報を自己の識別子とともに出力する手段を有するものであり、
前記コンピュータシステムにより、
前記各リーダから出力された前記リーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を受信する受信ステップと、
前記受信ステップにより受信した前記リーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を関連付けて電磁波変化情報として記録する記録ステップと、
前記記録ステップにより記録された電磁波変化情報を参照し、同一リーダにより電磁波が受信される固定ICタグと移動ICタグのなかで、当該リーダにより受信される電磁波の強度が所定のタイミングで変化する固定ICタグと移動ICタグを当該リーダとともに検出する検出ステップと、
前記検出ステップにより検出された固定ICタグの位置とリーダの位置を特定する特定ステップと、
前記特定ステップにより特定された固定ICタグの位置と当該リーダの位置から所定の規則に基づいて前記移動ICタグの位置を算出する算出ステップと、
前記算出手段により算出された位置を前記検出手段により検出された移動ICタグの位置として出力する出力ステップとを実行することを特徴とする移動体位置推定方法。
【請求項6】
空間に配置される一つ以上の固定ICタグと、各移動体に付される移動ICタグと、空間に配置されて前記固定ICタグ及び移動ICタグと電磁波により通信可能なリーダと、当該リーダと通信可能なコンピュータシステムを用いる移動体位置推定方法であり、
前記各固定ICタグ及び移動ICタグは少なくとも自己の識別子を送信する手段を有するものであり、
前記各リーダにより前記各固定ICタグ及び移動ICタグから前記識別子を受信する手段と、当該識別子及びそれに対応するICタグからの電磁波の強度を示す電磁波強度情報を自己の識別子とともに出力する手段を有するものであり、
前記コンピュータシステムにより、
互いに異なる推定方法により前記移動ICタグの位置を推定する第一の推定ステップと第二の推定ステップと、当該第一の推定ステップと第二の推定ステップによる推定結果を合成する合成ステップを実行し、
前記第二の推定ステップは、
前記各リーダから出力された前記リーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を受信する受信ステップと、
前記受信ステップにより受信した前記リーダの識別子とICタグの識別子と電磁波強度情報を関連付けて電磁波変化情報として記録する記録ステップと、
前記記録ステップにより記録された電磁波変化情報を参照し、同一リーダにより電磁波が受信される固定ICタグと移動ICタグのなかで、当該リーダにより受信される電磁波の強度が所定のタイミングで変化する固定ICタグと移動ICタグを当該リーダとともに検出する検出ステップと、
前記検出ステップにより検出された固定ICタグの位置とリーダの位置を特定する特定ステップと、
前記検出ステップにより検出された移動ICタグの位置として、前記特定ステップにより特定された固定ICタグの位置と当該リーダの位置から所定の規則に基づいて前記移動ICタグの位置を算出する算出ステップとを備えることを特徴とする移動体位置推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−192381(P2009−192381A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33466(P2008−33466)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【Fターム(参考)】