説明

移動体識別装置

【課題】 通信範囲やICタグの配置方法に対する適応範囲を拡大するためにアンテナを複数化する場合、アンテナ切替えスイッチとこれにかかる制御機能、制御ソフトを新たに用意する必要がなく、簡単な構成で上記の範囲の拡大の効果が得られる移動体識別装置を提供すること。
【解決手段】 リーダライタ20は無線信号を送受信する送受信部を構成する送信部2および受信部7と、アンテナ5、アンテナ6と、アンテナ5および6と送受信部との間に挿入された分波器40とを有している。送信と受信を分離結合するサーキュレータ3を有し、サーキュレータ3は分波器40に接続されている。制御部1には無線搬送波周波数を制御するホッピング制御部13が設置され、ICタグとの間で周波数ホッピング通信方式を用いて無線通信を行う。分波器40により、搬送波周波数に応じてアンテナ5または6が選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICタグ等の移動情報通信体からなる応答器との間で無線通信を行う移動体識別装置に関し、特に周波数ホッピング通信方式を用いて無線通信を行う移動体識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ICチップ及びアンテナを有するICタグ(応答器)とリーダライタ(質問器)間の無線通信を用いた移動体識別装置やこれを用いたシステムは、流通、交通、医療等のさまざまな分野で実用化がはかられている。
【0003】
このようなICタグを用いたシステムにはさまざまな利用形態があるため、それぞれの目的に応じて異なった仕様が要求される。例えばベルトコンベア上を移送される製品にICタグを添付し、ベルトコンベア側に固定したリーダライタのアンテナを用いてICタグにデータを書き込んだり、データを読み出したりする場合には、これらICタグの向きや、位置による読み取りエラーを回避するために、リーダライタに複数のアンテナを設置することにより、ICタグの向きや、位置によるリーダライタとICタグ間の通信機能の低下をカバーしている。
【0004】
このように、複数アンテナを持つリーダライタでは、ICタグの向きや位置に応じてアンテナをスイッチで切り替える必要があるが、このアンテナをスイッチで切替える方式を有するリーダライタについては数多く提案がなされている。
【0005】
アンテナを複数持ち、これらを選択スイッチで切替えるリーダライタの代表的な例としては、特許文献1に記載の構成がある。アンテナ切替え方式として、最大受信レベルが得られるアンテナを選択するため、データ通信前にそれぞれのアンテナを切替えながら受信レベルを検出し、最大受信レベルを得たアンテナをアンテナ制御器からの信号により選択して接続し、また、受信レベルに閾値を儲け、受信レベルがその定めた閾値以下の場合に他のアンテナへ切替えを行うなどの方法が示されている。この方式では、アンテナを切替えるスイッチのほかに、受信レベルの検出器と、検出レベル、閾値の記憶部、それらのレベルの比較手段、スイッチ切替えタイミングの制御手段などの追加機能が必要になる。
【0006】
一方、RFIDシステムでは周波数ホッピング方式の使用が義務付けられている場合があり、これは広い周波数帯域の中の搬送波の周波数チャネルを一定の規則に従いながら一定の時間ごとに切り替えて使用する方式である。この方式では、特定の周波数チャネルで干渉(狭帯域干渉)が発生しても、別の周波数チャネルに切り替えることにより、狭帯域干渉を避けることができる利点がある。
【0007】
図4は、従来のアンテナ切替方式を用いた周波数ホッピング通信方式を用いて無線通信を行う移動体識別装置のリーダライタと応答器であるICタグの一例のブロック構成図である。図4において、リーダライタ21は無線信号を送受信する送信部2および受信部7、送信と受信を分離制御するサーキュレータ3、サーキュレータ3に接続されたアンテナ5とアンテナ6およびそれらを切り替えるアンテナ切替えスイッチ4、無線信号の発生やアンテナ切替えの制御などをおこなう制御部1、受信レベルを検出する受信レベル検出部8からなり、制御部1には、アンテナの受信レベルを記憶し比較する受信レベル記憶部9と受信レベル比較部10、それに基づいてアンテナ切替えスイッチ4を制御するスイッチ制御部11とタイミング制御部12、無線搬送波周波数を制御するホッピング制御部13からなっている。一方、ICタグ22は情報が記録された記憶部16、受信データの復調、送信データの変調を行う変復調部15、アンテナ14からなる。
【0008】
リーダライタ21の送信部2は、ホッピング制御部13で決定され送出された周波数の搬送波を制御部1から受けた質問データにより変調し送信信号として出力する。
【0009】
上記送信信号はサーキュレータ3を通り、アンテナ切替えスイッチ4でアンテナ5かアンテナ6を選択されて出力され、質問データを載せた質問電波としてICタグ22へ放射される。この質問電波はICタグ22のアンテナ14で受信され、変復調器15で復調された後、質問データに応じ、記憶部16のデータ読み出しや書き込みなどの処理を行い、変復調器15から再びアンテナ14を介して応答データを載せた応答電波として送信される。
【0010】
ICタグ22から送信された応答電波は、リーダライタ21において、アンテナ切替えスイッチ4で選択されたアンテナ5かアンテナ6で受信され、この受信信号はサーキュレータ3を通り、受信部7で復調され、制御部1にその受信データが送られる。また、受信部7に接続された受信レベル検出部8では受信信号の受信レベルを検出し、それを記憶部9へ一時保管すると同時に、あらかじめ決められたアンテナ切替えを行うべき受信レベルの閾値と今回受信した受信レベルを受信レベル比較部10にて比較を行い、アンテナを切替える必要があるかどうか判断し、切替える必要がある場合にはスイッチ制御部11からアンテナ切替えスイッチ4へ切替え信号が送られ、アンテナを切替える。
【0011】
また、上記構成でリーダライタ21とICタグ22の通信を行う以前に最大受信感度のアンテナを選択しておく必要がある場合には、送受信の同期を得るためのプリアンブル信号を利用するなどの細かな制御や、通信プロトコルを考慮した切替えのアルゴリズムの導入が必要である。
【0012】
上記従来例は、受信信号レベルに依存してアンテナ切替えスイッチを制御するため非常に回路が複雑となるが、受信信号レベルに依存せず、任意のタイミングで、ある時間内にすべてのアンテナを切替えて読取り領域をカバーすることにより、アンテナ切替えのアルゴリズムを簡易化している例もある。
【0013】
【特許文献1】特開平5−75506号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来の方式では、上述のように、受信レベルによりアンテナを切替える場合にはアンテナ切替え動作のために受信レベルを監視、比較する手段などが必要であり、また、受信レベルを監視せず、アンテナ切替え動作を行う移動体識別装置においても、周波数ホッピングとアンテナ切替えのタイミングを測りながら切替え制御信号を送出する手段が必要で有り、ハードウェア面、ソフトウェア面のコスト増加は避けられない。
【0015】
そこで、本発明の課題は、通信範囲やICタグの配置方法に対する適応範囲を拡大するためにアンテナを複数化する場合、アンテナ切替えスイッチとこれにかかる制御機能、制御ソフトを新たに用意する必要がなく、簡単な構成で上記の範囲の拡大の効果が得られる移動体識別装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を達成するため、本発明の移動体識別装置は、応答器との間で周波数ホッピング通信方式を用いて無線通信を行う質問器を有する移動体識別装置において、前記質問器は無線信号を送受信する送受信部と、複数のアンテナと、該複数のアンテナと前記送受信部との間に挿入された分波器とを有し、該分波器により前記無線信号の周波数に応じて前記送受信部に接続されるアンテナを切り替えることを特徴とする。
【0017】
本発明は応答器との間で周波数ホッピング通信方式を用いて無線通信を行う複数アンテナを有する質問器において、周波数ホッピングを行う全周波数帯域を上記アンテナの数に応じた周波数帯域に分波する分波器を備え、その分波された周波数帯域に応じてそれぞれ異なるアンテナを動作させることにより前記課題を解決した。すなわち、質問器の送信信号はその周波数によって分波器により電気的に接続されるアンテナが選択されて質問電波が放射され、アンテナから受信された受信信号はその周波数によって受信部に電気的に接続されるアンテナが選択される。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明の移動体識別装置では、通信範囲やICタグの配置方法に対する適応範囲を拡大するためにアンテナを複数化する場合、アンテナ切替えスイッチとこれにかかる制御機能、制御ソフトを新たに用意する必要がなく、簡単な構成で上記の範囲の拡大の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
図1は、本発明による移動体識別装置のリーダライタ(質問器)の一実施の形態を示すブロック構成図である。図1において、リーダライタ20は無線信号を送受信する送受信部を構成する送信部2および受信部7と、アンテナ5、アンテナ6と、アンテナ5および6と送受信部との間に挿入された分波器40とを有している。
【0021】
また、従来のリーダライタと同様に送信と受信を分離制御するサーキュレータ3を有し、サーキュレータ3は分波器40に接続されている。制御部1には無線搬送波周波数を制御するホッピング制御部13が設置されている。本リーダライタ20も図4に示したICタグ22との間で周波数ホッピング通信方式を用いて無線通信を行う。
【0022】
また、本リーダライタ20の分波器40の特性例を図2に示す。縦軸が減衰量、横軸が周波数であり、分波器40は周波数ホッピングを行う全周波数帯域43をアンテナ5と6に応じた2つの周波数帯域であるA帯域44とB帯域45に分波する。分波特性41はサーキュレータ3側の端子とアンテナ5側の端子間の減衰特性を示し、分波特性42はサーキュレータ3側の端子とアンテナ6側の端子間の減衰特性を示す。本例では図2に示すようにA帯域44の信号はアンテナ6側の経路は減衰が大きいためアンテナ5へ接続され、B帯域45の信号はアンテナ5側の経路は減衰が大きいためアンテナ6へ接続されることになる。
【0023】
したがって、本発明の移動体識別装置の本実施の形態のリーダライタの動作は以下の通りである。
【0024】
図1において、従来と同様に、リーダライタ20の送信部2は、ホッピング制御部13で決定され送出された周波数の搬送波を制御部1から受けた質問データにより変調し送信信号として出力する。
【0025】
上記送信信号はサーキュレータ3を通り、分波器40に入射する。ここで、上記の搬送周波数がA帯域44内にあれば送信信号はアンテナ5に送信され、搬送周波数がB帯域45内にあれば送信信号はアンテナ6に送信され出力され、質問データを載せた質問電波としてICタグへ放射される。この質問電波はICタグで受信された後、質問データに応じ、データ読み出しや書き込みなどの処理を行った後、応答データを載せた応答電波としてICタグからリーダライタ20のアンテナ5および6に向けて送信される。
【0026】
ICタグから送信された応答電波はリーダライタ20において、分波器40に入射し、その周波数がA帯域44にあればアンテナ5からの受信信号が、B帯域45にあればアンテナ6からの受信信号がサーキュレータ3に入射し、受信部7で復調され、制御部1にその受信データが送られ処理される。
【0027】
上述のように、アンテナ5またはアンテナ6のどちらを使用して応答器と通信を行うかは、その時の通信に使用する搬送波周波数によって決まり、図2のように搬送波周波数がA帯域44(f1〜f2間)ではアンテナ5、B帯域45(f2〜f3)間ではアンテナ6で通信することになる。
【0028】
分波器40は、厳密にはA帯域44とB帯域45の境目付近(図2においてf2m〜f2p間)では通過特性の減衰または2つのアンテナでの送受信号の干渉が生じるため、送受信電力が十分でない場合も有りうるが、周波数ホッピング通信方式では、特定の周波数での一時的な送受信の障害があっても周波数が周期的に切り替わることによりその状態は回避されることから問題は生じない。また、1組の質問データ、応答データの送受を複数の周波数を切り替えて行うことにより、リーダライタとICタグ間の通信環境が最適なアンテナが選択され得るので読み取りエラーが回避される。
【0029】
また、上記実施の形態では、アンテナの数および分波器の分割周波数帯域が2つの場合の例を示したが、分波器を図3に示すように3つの周波数帯域に分波する分波器とすることも可能であり、またアンテナの数に応じて4つ以上に分波することも可能である。
【0030】
また、上記実施の形態のリーダライタの構成はあくまで一例であって、リーダライタの構成を限定するものではなく、例えば、送受信の分離制御部であるサーキュレータを用いず、送信、受信それぞれの専用アンテナを別に持つ場合であっても、送信アンテナと送信部間および受信アンテナと受信部間にそれぞれ分波器を設置し、送信アンテナおよび受信アンテナを複数化することができる。また、送信アンテナか受信アンテナのどちらか一方の経路に分波器を設置してその一方のアンテナのみを複数化することも可能である。
【0031】
以上のように、本発明によれば、通信範囲やICタグの配置方法に対する適応範囲を拡大するためにアンテナを複数化する場合、従来から用いられているスイッチ切替えによる移動体識別装置に比較し、アンテナ切替えスイッチとこれにかかる制御機能、制御ソフトを新たに用意する必要がなく、簡単な構成で上記の範囲の拡大の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明による移動体識別装置のリーダライタ(質問器)の一実施の形態を示すブロック構成図。
【図2】本実施の形態のリーダライタに使用する分波器の特性例を示す図。
【図3】3つの周波数帯域に分波する分波器の特性例を示す図。
【図4】従来のアンテナ切替方式を用いた周波数ホッピング通信方式を用いて無線通信を行う移動体識別装置のリーダライタと応答器であるICタグの一例のブロック構成図。
【符号の説明】
【0033】
1 制御部
2 送信部
3 サーキュレータ
4 アンテナ切替えスイッチ
5、6、14 アンテナ
7 受信部
8 受信レベル検出部
9 受信レベル記憶部
10 受信レベル比較部
11 スイッチ制御部
12 タイミング制御部
13 ホッピング制御部
15 変復調部
16 記憶部
20、21 リーダライタ
22 ICタグ
40 分波器
41、42、47 分波特性
43 全周波数帯域
44 A帯域
45 B帯域
46 C帯域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
応答器との間で周波数ホッピング通信方式を用いて無線通信を行う質問器を有する移動体識別装置において、前記質問器は無線信号を送受信する送受信部と、複数のアンテナと、該複数のアンテナと前記送受信部との間に挿入された分波器とを有し、該分波器により前記無線信号の周波数に応じて前記送受信部に接続されるアンテナを切り替えることを特徴とする移動体識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−131221(P2008−131221A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−312460(P2006−312460)
【出願日】平成18年11月20日(2006.11.20)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】