説明

移動体運行シミュレート装置及びこれを用いた移動体運行予測システム

【課題】 シミュレート作業の体系化が可能であると共に、移動体の運行関連要素を総合的に評価したシミュレートが可能な移動体運行シミュレート装置及びこの移動体運行シミュレート装置を利用した移動体運行予測システムを提供する。
【解決手段】 列車の走行路を複数の区間に分割し、各区間の走行路形態に応じて予め用意した直線用、分岐用及び踏切用の各モジュールA,B,Cを各区間に対してそれぞれ割当て、各モジュールA,B,C間の通信経路を走行路の区間連結状態と同一に設定し、列車の走行条件を設定し、列車の模擬的な走行に伴って各モジュールA,B,C間で列車の制御情報を送受信して列車の走行状況をシミュレートする構成の移動体運行シミュレート装置及びこの移動体運行シミュレート装置を用いた移動体運行予測システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体の走行路線における運行関連要素を総合的に評価したシミュレートが可能な移動体運行シミュレート装置に関する。また、この移動体運行シミュレート装置を利用して移動体の運行予測を行う移動体運行予測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、移動体運行シミュレート装置としては、例えば列車の運行ダイヤを数理計画法に基づいて変更したり生成したりするものが種々提案されている。
【0003】
例えば、列車の計画ダイヤが乱れたときに現時点から以降の予測ダイヤを作成し、予測ダイヤと運行ダイヤから実行ダイヤを作成し、この実行ダイヤと乗務員の運用実績情報とから乗務員の未充当列車が発生した場合には、実行ダイヤを再作成するもの(例えば特許文献1参照)や、過去において列車の運行ダイヤが乱れたときに行った運転整理情報を記憶保存し、その後に発生した運行ダイヤの乱れに対して、記憶保存した過去の運転整理情報を参考にして運転整理を実行するもの(例えば特許文献2参照)がある。
【特許文献1】特開2000−177589号公報
【特許文献2】特開平6−247310号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来例は、数理計画法に基づいて列車の運行状況をシミュレートして列車の運行を予測するものであり、数理計画法に基づいて行う方法では移動体(例えば列車)の走行路の形状に応じて条件を設定する必要があり、形状の異なる走行路毎にモデリングしなければならない。また、例えばトラブル発生時に列車の運行を復旧させる場合において、作成する運行計画案の妥当性は、走行路全体における種々の列車運行関連要素を総合的に評価する必要があるが、特許文献1のように、個別の要素(乗務員の運用)に着目する方法では、列車運行に関連する考慮されていない他の要素にどのような影響を与えるかはわからない。例えば、列車の運行効率だけに着目すると踏切の開き時間を極端に短くしてしまう可能性がある。また、特許文献2のように過去の履歴に基づいて列車運行状況の予測を行う場合は、履歴にない事例が発生すると復旧処理の対応が遅れる虞れがある。
【0005】
本発明は上記問題点に着目してなされたもので、移動体の走行路線における運行関連要素を総合的に評価したシミュレートを容易に実行可能な移動体運行シミュレート装置を提供することを目的とする。また、この移動体運行シミュレート装置を利用して移動体の運行予測を行う移動体運行予測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このため、請求項1に係る本発明の移動体運行シミュレート装置は、移動体の走行路を複数の区間に分割し、各区間の走行路形態に応じて予め用意した走行路用モジュールを各区間に対してそれぞれ割当てると共に、各走行路用モジュール間の通信経路を前記走行路の区間連結状態と同一に設定し、予め設定した移動体の走行条件に従って各走行路用モジュール間で移動体の制御情報を送受信して移動体の走行状況をシミュレートする構成とした。
【0007】
かかる構成では、移動体走行路の各区間の連結状態と同一に接続した走行路用モジュールに、移動体の走行条件を設定する。各走行路用モジュールは、設定された走行条件に従って移動体の制御情報を隣接モジュールと送受信し、走行路上における移動体の走行制御を模擬的に実行し、移動体の走行状況をシミュレートする。
【0008】
請求項2のように、移動体の前記走行条件を属性データとして備える移動体用モジュールを設け、該移動体用モジュールの走行条件を前記走行路用モジュールに対して設定して移動体の走行状況をシミュレートする構成とするとよい。
【0009】
請求項3のように、前記移動体用モジュールに、移動体の車両長、走行性能等の固有データを属性データとして設定する構成とするとよい。
【0010】
請求項4のように、前記走行路用モジュールに、割当て区間の区間長、勾配、曲率等の固有データを属性データとして設定する構成とするとよい。
【0011】
請求項5に係る本発明の移動体運行予測システムは、マスタが、請求項1〜4のいずれか1つに記載の移動体運行シミュレート装置の機能を備える複数のスレーブに対して、異なるシミュレート条件をそれぞれ並列に割当てる構成であって、前記各スレーブは、前記移動体運行シミュレート装置の機能を用いて前記マスタから割当てられたシミュレート条件に応じた移動体の走行状況をシミュレートし、移動体の運行状況を予測する構成とした。
【0012】
かかる構成では、本発明の移動体運行シミュレート装置の機能を備える複数のスレーブに対して、マスタから異なるシミュレート条件をそれぞれ並列に割当てる。各スレーブは、移動体運行シミュレート装置の機能を用いてマスタから割当てられたシミュレート条件に応じた移動体の走行状況をシミュレートして移動体の運行状況を予測する。これにより、各スレーブで移動体の運行状況に関して異なるシミュレート条件による複数の移動体運行予測を並列的に得ることが可能になる。
【0013】
請求項6のように、前記スレーブは、変更可能な特定演算用のハードウエア処理回路を備え、前記マスタは、前記ハードウエア処理回路の変更用データを複数予め備え、前記マスタは、各スレーブに前記シミュレート条件を割当てる際に、当該各スレーブのハードウエア処理回路を、割当てたシミュレート条件に適した演算処理回路に変更するための変更用データを各スレーブに設定する構成とするとよい。
【0014】
請求項7のように、前記マスタは、請求項1〜4のいずれか1つに記載の移動体運行シミュレート装置の機能を備え、移動体の実際の運行状況を監視する監視手段の監視情報に基づいて移動体の運行トラブルの発生を検出したときにトラブル継続時間を異ならせて移動体の走行状況をシミュレートする構成であり、マスタにより、各スレーブにトラブル継続時間の異なるシミュレート状況下でトラブルが解消した場合の運行回復状況をシミュレートさせて移動体の運行回復状況を予測提示する構成とするとよい。
【0015】
請求項7の構成において、請求項8のように、前記運行回復状況のシミュレートは、移動体の運行計画を変更しない場合と変更する場合の両方について行い、変更する場合は、マスタにより設定された変更条件に基づく移動体の運行回復状況を予測提示する構成とするとよい。
【0016】
請求項9のように、移動体の実際の運行状況が正常であるとき、各スリーブが、トラブル発生を想定した移動体の運行回復案、予め定めた移動体の臨時運転に対応する運行計画案、或いは、定期運行計画案等の演算処理を行う構成とするとよい。
【0017】
請求項10のように、踏切の開き時間を、予測する前記運行状況の評価要素として含む構成とするとよい。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように本発明の移動体運行シミュレート装置によれば、シミュレートする走行路の形状に応じて走行路用モジュールの通信経路の接続状態を変更するだけで種々の走行路について移動体の走行状況をシミュレートできるので、走行路毎にモデリングを行う必要がなく、移動体のシミュレートを体系化できる。また、運行関連要素の制御条件を対応する走行路用モジュールに設定することにより、種々の運行関連要素を考慮した走行状況のシミュレートができ、運行関連要素を総合的に評価したシミュレートができる。
【0019】
また、本発明の移動体運行予測システムによれば、複数のスレーブで異なるシミュレート条件による複数の移動体運行予測結果を並列的に得ることができ、多数の運行予測を短時間で行うことができる。従って、例えばトラブル発生後の移動体の運行回復を迅速にできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明に係る移動体運行シミュレート装置の一実施形態を示し、移動体として例えば列車の運行シミュレート装置の例を示す構成図である。
【0021】
図1において、本実施形態の列車運行シミュレート装置は、直線用モジュールAと、分岐用モジュールBと、踏切用モジュールCと、列車用モジュールDと、駅用モジュールEとを備えて構成される。走行路用モジュールとしての直線用モジュールA、分岐用モジュールB及び踏切用モジュールCは、列車制御区間における走行路を複数に分割した各区間の走行路形態に対応させて各区間にそれぞれ割当て、各モジュールA,B,Cの通信経路6を、区間の連結状態と同一に設定し、シミュレート対象の列車の走行条件に従って隣接するモジュール間で制御情報を送受信し、列車の走行状況をシミュレートする。
【0022】
図1に示すモジュールの通信経路6の接続状態は、図2の走行路と対応しており、走行路は軌道回路毎に複数の区間に分割されている。図2中、1は信号機、2は分岐装置、3は踏切、4は駅、5は列車を示す。尚、各通信経路6は信号の入出力数に応じた数あるが、図1では簡略化して1本の双方向矢印線で示してある。
【0023】
直線用モジュールA、分岐用モジュールB及び踏切用モジュールCが隣接するモジュールとの間で送受信する列車の制御情報は、進行する列車が存在しないことを示す信号で列車の進行方向に対して先側隣接区間に通報する進行列車不在確認信号と、進行を許可することを示す信号で列車の進行方向に対して手前側隣接区間に通報する進行許可信号である。また、区間に分岐・合流のない直線区間に割当てる直線用モジュールAは、信号機1の制御条件が設定され、区間に分岐装置2を含む分岐区間に割当てる分岐用モジュールBは分岐装置2の転てつ機の制御条件が設定され、踏切用モジュールCは遮断機の制御条件が設定される。そして、各モジュールA,B,Cの前記制御条件(信号機点灯許可、転てつ機転換許可、遮断機上昇許可等)は、自区間の列車有無の条件及び隣接するモジュールから受信する制御情報と関連付けて決定される。更に、直線用モジュールA、分岐用モジュールB及び踏切用モジュールCは、区間長、勾配、曲率等の割当てられた区間の固有データが属性データとしてそれぞれ設定される。
【0024】
移動体モジュールである前記列車用モジュールDは、列車の車両長、走行性能、運行計画が属性データとして設定される。前記運行計画としては、例えば行先、停車駅、駅の停車番線、予定の通過時刻、他の列車との待ち合わせ等のデータを設定する。また、駅用モジュールEは、例えば乗降客数、混雑状況、列車の待ち合わせ状況等を属性データとして設定する。そして、列車用モジュールDや駅用モジュールEの信号経路は、シミュレート時に自身と関連のある走行路用モジュールと接続して制御情報を送受信する。
【0025】
次に、本実施形態の列車運行シミュレート装置のシミュレート動作を説明する。
走行路用の各モジュールA,B,Cの区間長、勾配、曲率等の属性データ、列車用モジュールDの車両長、走行性能、運行計画等の属性データ及び列車の速度指令条件により、列車が各区間を通過する時間が計算できる。この区間通過時間から図2に示す踏切における鳴動開始点の通過時刻及び踏切通過後の鳴動終了点の通過時刻が計算でき、両通過時刻から踏切遮断時間が計算できる。尚、急行や普通等の運行状況が異なる場合、図示のように鳴動開始点を異ならせて設定しその通過時刻を計算する。また、列車用モジュールDの行先、停車駅、駅の停車番線、予定の通過時刻、他の列車との待ち合わせ等の運行計画データから転てつ機転換方向の指令や信号機の点灯指令が生成できる。
【0026】
これら各計算データや生成データに基づいて列車用モジュールDを模擬的に走行させる。この場合、例えば列車用モジュールDの位置が前方の区間へ進入した場合(シミュレート対象の列車が模擬的に前方区間に進入した場合)、列車用モジュールDが進入した区間を担当するモジュールの送信データ(模擬的な制御情報)が変化する。この送信データの変化は隣接するモジュールに伝達され、隣接モジュールは受信データに基づいて自身の送信データを加工して次の隣接モジュールに送信する。このようにして、各モジュールの送受信データが次々に更新されてモジュール全体に伝達される。この送信データの変化によるシミュレート装置全体のデータ更新の完了は、各モジュールの送信データが変化しなくなった時点とする。
【0027】
かかるデータ更新は、列車用モジュールDが区間を移動する毎に発生する。そして、このデータの更新によって各モジュールの前述した制御条件(信号機点灯許可、転てつ機転換許可、遮断機上昇許可等)が決定され、信号機1の点灯制御、分岐装置2の転てつ機の転換制御、或いは踏切の遮断機の上昇制御等が模擬的に行われ、列車用モジュールDに設定された運行計画に従った列車の走行状況がシミュレートされる。
【0028】
また、駅用モジュールEに設定する制御条件(乗降客数、混雑状況、列車の待ち合わせ状況等)によって、駅の発着時刻状況等をシミュレートできる。
【0029】
かかる本実施形態の運行シミュレート装置によれば、各モジュールA,B,C,D,Eに、制御条件を設定するだけで、列車の運行関連要素を総合的に評価したシミュレートが容易にできる。また、シミュレート対象の運行路線の走行路に応じて、直線用モジュールA、分岐用モジュールB及び踏切用モジュールCの接続状態を設定するだけで、その運行路線の列車運行状況のシミュレートが可能であり、シミュレート作業を容易に体系化できる。
【0030】
また、列車用モジュールDを設け、この列車用モジュールDの運行計画に関連する走行路用の各モジュールA,B,Cとの間でデータを送受信して列車の走行状況をシミュレートする構成とすることで、中央処理装置を設置してシミュレートする場合に比較してデータの送受信構成を簡素化できる。中央処理装置を設置してシミュレートする場合は、中央処理装置と全ての走行路用の各モジュールA,B,Cとを接続してデータを送受信する必要があるが、列車用モジュールDを設けた場合は、列車用モジュールDと当該列車用モジュールDの走行に関連するモジュールだけでデータを送受信すればよい。尚、列車用モジュールは複数個設定できるが、それぞれに設定した運行計画に従って互いに独立して走行状況のシミュレートが行われる。
【0031】
尚、図1に破線で示す乗務員用モジュールFを設け、乗務員の運用情報を属性データとして設定すれば、乗務員の運用情報も考慮したシミュレートを行うことも可能である。
上記実施形態では、列車の運行状況をシミュレートする場合について説明したが、本発明の移動体運行シミュレート装置は、列車に限らず、バスやその他の予め定められた走行経路を定期的に運行する移動体であれば、どのような移動体でもその運行状況のシミュレートに適用できることは言うまでもない。
【0032】
次に、上述した移動体運行シミュレート装置を用いた本発明に係る移動体運行予測システムについて説明する。
図3は、本発明に係る移動体運行予測システムの一実施形態を示すシステム構成図である。尚、本実施形態は、移動体として例えば列車の運行予測を行う場合の例を説明する。
【0033】
図3において、本実施形態の移動体運行予測システムは、マスタとしてのセンターサーバー11と、該センターサーバー11とそれぞれ接続されるスレーブとしてのn個のサブ計算機121〜12nと、を備えて構成される。
【0034】
前記センターサーバー11は、図1に示す移動体運行シミュレート装置の機能を備える。また、各サブ計算機121〜12nに備えられる変更可能な特定演算用のハードウエア処理回路(FPGA:Field Programmable Gate Array)を変更するための複数の変更用データが予め設定されている。更に、列車の実際の運行状況を監視する監視手段として例えば列車の運行管理を行う運行管理装置13と接続され、運行管理装置13が管理する列車の実際の運行状況データが入力し、この入力データを基に各サブ計算機121〜12nにそれぞれ異なるシミュレート条件を並列に割当てると共に、割当てたシミュレート条件に適した演算処理回路に変更するための前記変更データを送信し、各サブ計算機121〜12nから送信されるそれぞれの運行状況の予測結果を運行管理装置13に送信する。
【0035】
前記各サブ計算機121〜12nは、図1に示す移動体運行シミュレート装置の機能を備え、センターサーバー11から送信される変更用データにより特定演算用のハードウエア処理回路を割当てられたシミュレート条件に適した演算処理回路に変更して列車の走行状況をシミュレートし、シミュレート結果を基に運行状況を予測しその予測結果をセンターサーバー11に送信する。
【0036】
次に、本実施形態の移動体運行予測システムの動作を説明する。
センターサーバー11は、運行管理装置13から入力する実際の列車運行状況と予め記憶された運行ダイヤとを比較する。比較した結果、実際の運行状況が運行ダイヤから予め決められた値以上ずれている場合にトラブル発生と判断する。尚、運行管理装置13がトラブル発生を検出しセンターサーバー11に通報することにより、センターサーバー11がトラブル発生と判断する構成でもよい。
【0037】
列車の運行ダイヤを変更せずに復旧させる場合、センターサーバー11は、トラブルの発生を検出すると、トラブルがm×ΔT時間(m=1,2,・・・)継続した場合の運行状況をシミュレート装置を用いてシミュレートし、シミュレートした結果を各サブ計算機121〜12nに送信する。この場合、例えばトラブルがΔT時間(m=1)継続した場合のシミュレート結果をサブ計算機121に送信し、トラブルが2ΔT時間(m=2)継続した場合のシミュレート結果をサブ計算機122に送信するようにする。即ち、各サブ計算機121〜12nに対してトラブル継続時間が異なるシミュレート状況をそれぞれ送信する。また、特定演算用のハードウエア処理回路を変更するための変更用データを送信する。
【0038】
シミュレート状況を受信した各サブ計算機121〜12nは、送信された状況でトラブルが修復した場合のその後の回復状況をシミュレートし、例えば正常ダイヤに回復するまでの時間を算出したり、好ましくない状況(踏切が開かない状況、折返し運転ができない状況)が発生するか否かを調べたりしてトラブル解消後の運行状況を予測し、その予測結果をセンターサーバー11に送信する。
【0039】
センターサーバー11は、予測結果を送信してきたサブ計算機に対しては別のトラブル継続時間でのシミュレート状況を順次送信する。そして、各サブ計算機121〜12nに割当てたシミュレート条件に関する運行状況の予測結果を受信すると、その受信結果を運行管理装置13へ送信して提示する。運行管理装置13の設置される指令所等では、受信結果を基に最適な運行回復案を自動的或いは人的に選択すればよい。
【0040】
列車の運行ダイヤを変更して復旧させる場合は、センターサーバー11は、トラブルの発生を検出すると、トラブルがk1×ΔT時間継続した場合の運行状況をシミュレートし、シミュレートした結果と共に、変更案(運休、折返し運転等)を各サブ計算機121〜12nに送信する。この場合、サブ計算機121には第1変更案を送信し、サブ計算機122には第2変更案を送信するようにする。即ち、各サブ計算機121〜12nに対して異なる変更案を送信する。
【0041】
シミュレート状況を受信した各サブ計算機121〜12nは、送信された状況でその変更案を実行した場合のその後の回復状況をシミュレートする。そして、前述した列車の運行ダイヤを変更せずに復旧させる場合と同様にして、正常ダイヤに回復するまでの時間を算出したり、好ましくない状況(踏切が開かない状況、折返し運転ができない状況)が発生するか否かを調べたりして運行状況を予測し、その予測結果をセンターサーバー11に送信する。
【0042】
センターサーバー11は、トラブルがk1×ΔT時間継続した場合の運行状況のシミュレートが終了すると、トラブルがk2×ΔT(k2>k1)時間継続した場合の運行状況をシミュレートし、運行状況の予測が終了して予測結果を送信してきたサブ計算機に対して、トラブルがk2×ΔT(k2>k1)時間継続した場合のシミュレート結果と共に変更案を順次送信する。そして、各サブ計算機121〜12nに割当てたシミュレート条件に関する運行状況の予測結果を受信すると、その受信結果を運行管理装置13へ送信して提示する。
【0043】
また、センターサーバー11は、トラブル継続時間に応じたシミュレート状況に関してサブ計算機121〜12nに対し最適解(最も良い回復案)を見つける処理を行わせるようにしてもよい。この場合の方法として、シミュレーティッド・アニーリング法(SA法)や遺伝的アルゴリズム(GA:Genetic Algorithm)があり、センターサーバー11は、サブ計算機121〜12nに対し、ハードウエア処理回路を最適解用の演算処理回路に変更するための変更用データを送信すればよい。
【0044】
また、トラブルがなく列車の運行が正常なときは、センターサーバー11は、各サブ計算機121〜12nに対して、例えば、トラブル発生を想定した運行回復案、予定されている臨時運転に対応する運行計画案、或いは、次のダイヤ改正時の運行計画案(定期運行計画案)等、適当なシミュレート処理を割当てる。
【0045】
かかる本実施形態の移動体運行予測システムによれば、列車の運行に関連する複数の運行関連要素を総合的に評価した運行予測をすることができると共に、複数のサブ計算機121〜12nで異なるシミュレート条件の運行予測を並列的に行うので、例えばトラブル発生による運行ダイヤの乱れ等を迅速且つ適確に復旧させることが可能になる。これにより、列車の円滑な運行管理ができる。
【0046】
また、列車の運行が正常なときに、各サブ計算機121〜12nに対して適当なシミュレート処理を割当てるので、資源(サブ計算機)の無駄がなく、稼動効率の高いシステムを提供できる。
【0047】
尚、本発明の移動体運行予測システムも、列車だけでなくバスやその他の予め定められた走行経路を定期的に運行する移動体の運行状況予測に適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明に係る移動体運行シミュレート装置の一実施形態の構成図
【図2】同上実施形態でシミュレートする走行路の構成図
【図3】本発明に係る移動体運行予測システムの一実施形態の構成図
【符号の説明】
【0049】
A 直線用モジュール
B 分岐用モジュール
C 踏切用モジュール
D 列車用モジュール
6 通信経路
11 センターサーバー
121〜12n サブ計算機
13 運行管理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の走行路を複数の区間に分割し、各区間の走行路形態に応じて予め用意した走行路用モジュールを各区間に対してそれぞれ割当てると共に、各走行路用モジュール間の通信経路を前記走行路の区間連結状態と同一に設定し、予め設定した移動体の走行条件に従って各走行路用モジュール間で移動体の制御情報を送受信して移動体の走行状況をシミュレートする構成としたことを特徴とする移動体運行シミュレート装置。
【請求項2】
移動体の前記走行条件を属性データとして備える移動体用モジュールを設け、該移動体用モジュールの走行条件を前記走行路用モジュールに対して設定して移動体の走行状況をシミュレートする構成とした請求項1に記載の移動体運行シミュレート装置。
【請求項3】
前記移動体用モジュールに、移動体の車両長、走行性能等の固有データを属性データとして設定する構成である請求項2に記載の移動体運行シミュレート装置。
【請求項4】
前記走行路用モジュールに、割当て区間の区間長、勾配、曲率等の固有データを属性データとして設定する構成である請求項1〜3のいずれか1つに記載の移動体運行シミュレート装置。
【請求項5】
マスタが、請求項1〜4のいずれか1つに記載の移動体運行シミュレート装置の機能を備える複数のスレーブに対して、異なるシミュレート条件をそれぞれ並列に割当てる構成であって、前記各スレーブは、前記移動体運行シミュレート装置の機能を用いて前記マスタから割当てられたシミュレート条件に応じた移動体の走行状況をシミュレートし、移動体の運行状況を予測する構成としたことを特徴とする移動体運行予測システム。
【請求項6】
前記スレーブは、変更可能な特定演算用のハードウエア処理回路を備え、前記マスタは、前記ハードウエア処理回路の変更用データを複数予め備え、前記マスタは、各スレーブに前記シミュレート条件を割当てる際に、当該各スレーブのハードウエア処理回路を、割当てたシミュレート条件に適した演算処理回路に変更するための変更用データを各スレーブに設定する構成である請求項5に記載の移動体運行予測システム。
【請求項7】
前記マスタは、請求項1〜4のいずれか1つに記載の移動体運行シミュレート装置の機能を備え、移動体の実際の運行状況を監視する監視手段の監視情報に基づいて移動体の運行トラブルの発生を検出したときにトラブル継続時間を異ならせて移動体の走行状況をシミュレートする構成であり、マスタにより、各スレーブにトラブル継続時間の異なるシミュレート状況下でトラブルが解消した場合の運行回復状況をシミュレートさせて移動体の運行回復状況を予測提示する構成とした請求項5又は6に記載の移動体運行予測システム。
【請求項8】
前記運行回復状況のシミュレートは、移動体の運行計画を変更しない場合と変更する場合の両方について行い、変更する場合は、マスタにより設定された変更条件に基づく移動体の運行回復状況を予測提示する構成とした請求項7に記載の移動体運行予測システム。
【請求項9】
移動体の実際の運行状況が正常であるとき、各スリーブが、トラブル発生を想定した移動体の運行回復案、予め定めた移動体の臨時運転に対応する運行計画案、或いは、定期運行計画案等の演算処理を行う構成とした請求項5〜8のいずれか1つに記載の移動体運行予測システム。
【請求項10】
踏切の開き時間を、予測する前記運行状況の評価要素として含む構成である請求項5〜9のいずれか1つに記載の移動体運行予測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−15867(P2006−15867A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−195623(P2004−195623)
【出願日】平成16年7月1日(2004.7.1)
【出願人】(000004651)日本信号株式会社 (720)
【Fターム(参考)】