説明

移動体

【課題】モジュール構造の大型化を回避しつつ、低温度起動時のマフラーの消音機能を迅速に回復する燃料電池車両を提供する。
【解決手段】燃料電池車両100は、燃料電池10と、燃料電池10から車両100の外部に排出されるガスが通過するマフラー36と、を有している。燃料電池10は、燃料電池10内を流れる冷却水が車両100の前方側から後方側に流れるような向きに設置される。マフラー36は、燃料電池10の後方側の側面に燃料電池10と平行に近接配置される。マフラー36の上流側のエアバルブ35などの補機類110は、燃料電池10の左右方向の側面に近接配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムを搭載した移動体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車両に搭載される燃料電池システムは、燃料ガスと酸化ガスを電気化学的に反応させて発電する燃料電池を有している。
【0003】
燃料電池には、反応後の排ガスを外部に排出するための排気管路が接続され、当該排気管路には、排ガスを制御するガスバルブや、消音器であるマフラーが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−066909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような車両では例えば低温度環境において起動した際に、マフラーが凍結しており、消音機能が長時間にわたり著しく低下することがある。
【0006】
特許文献1には、断熱性を向上するための、スタックモジュール内部と流体的に連通して備えられる一体化された凝縮器/消音器を設ける燃料電池システム用筺体が記載されているが、この場合車両内のモジュール構造が大型化してしまう。モジュール構造が大型化すると、車両内の各種装置の設置場所の自由度が低下し好ましくない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、モジュール構造の大型化を回避しつつ、低温度起動時のマフラーの消音機能を迅速に回復する車両などの移動体を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明は、燃料電池システムを搭載した移動体であって、燃料電池と、前記燃料電池から排出されるガスが通過するマフラーと、を有し、前記燃料電池は、当該燃料電池内を流れる冷媒が移動体の前後方向の一方側から他方側に流れるような向きに設置され、前記マフラーは、前記燃料電池の前記他方の側面に当該燃料電池と平行に近接配置されているものである。
【0009】
本発明によれば、燃料電池とマフラーが別々に配置されているので、移動体のモジュール構造の大型化を回避できる。また、マフラーが、燃料電池の冷媒の下流側となる他方の側面に平行に近接配置されているので、マフラー全体が燃料電池の高温側の部位に近くなり、低温度起動時のマフラーの消音機能を迅速に回復できる。
【0010】
上記移動体は、前記マフラーの上流側に設けられ、前記燃料電池から排出されるガスを移動体の外部に排出するための補機を、さらに有し、前記補機は、移動体の左右方向の前記燃料電池の側面に隣接されていてもよい。かかる場合、補機が燃料電池の側面に隣接されているので、補機とマフラーも近くなり、燃料電池、補機及びマフラーの構成をコンパクト化できる。また、騒音の発生源となり得る補機とマフラーとの間のガス流路の長さを短くできるので、消音効率を向上できる。
【0011】
前記補機は、前記燃料電池から排出されるガスの流れを制御するガスバルブを有していてもよい。
【0012】
前記冷媒が移動体の前方側から後方側に流れるように前記燃料電池が設置され、前記マフラーは、前記燃料電池の後方側に配置されていてもよい。
【0013】
前記燃料電池は、移動体の床下に搭載されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、移動体のモジュール構造の大型化を回避しつつ、低温度起動時のマフラーの消音機能を迅速に回復できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】燃料電池システムの構成を示す模式図である。
【図2】燃料電池内の冷却水の流路構成を示す模式図である。
【図3】燃料電池を床下に有する燃料電池車両を示す説明図である。
【図4】マフラーの配置を示す燃料電池車両の一部の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係る移動体としての燃料電池車両が備える燃料電池システム1の構成の概略を示す説明図である。
【0017】
燃料電池システム1は、図1に示すように反応ガス(酸化ガス及び燃料ガス)の供給を受けて電力を発生する燃料電池10と、燃料電池10に対し酸化ガスとしてのエアを給排気するエア配管系11と、燃料電池10に対し燃料ガスとしての水素ガスを給排気する水素ガス配管系12を備えている。
【0018】
燃料電池10は、反応ガスの供給を受けて発電する単セル20を複数積層してなるセル積層体21を有している。燃料電池10の両端部には、一対のエンドプレート22が設けられている。
【0019】
エアガス配管系11は、加湿器30と、加湿器30により加湿されたエアを燃料電池10に供給するエア供給流路31と、燃料電池10から排出された排気エアを加湿器30に送り、その後外部に排出するエア排出流路32を有している。エア供給流路31には、大気中のエアを取り込んで加湿器30に圧送するコンプレッサ34が設けられている。エア排出流路32には、例えば排気エアを制御するエアバルブ35や、消音のためのマフラー36が設けられている。その他、エア供給流路31やエア排出流路32には、例えば図示しない圧力センサや調圧バルブが設けられている。
【0020】
水素ガス配管系12は、高圧(例えば70MPa)の水素ガスを貯留した燃料供給源としての水素タンク40と、水素タンク40の水素ガスを燃料電池10に供給するための水素ガス供給流路41と、燃料電池10から排出された水素オフガスを水素ガス供給流路41に戻すための循環流路42を備えている。
【0021】
水素ガス供給流路41には、水素タンク40の元弁として機能し、水素タンク40から燃料電池10側への水素ガスの供給を遮断又は許容する遮断弁43と、水素ガスの圧力を予め設定した二次圧に減圧するレギュレータ44と、燃料電池10側に供給する水素ガスの流量やガス圧を高精度に調整するインジェクタ45が設けられている。
【0022】
循環流路42には、例えば水素オフガスから水や不純物を除去するイオン交換器46と、循環流路42内の水素オフガスを加圧して水素ガス供給流路41側へ圧送する水素ポンプ47が設けられている。イオン交換器46には、イオン交換器46により分離された水や一部の水素オフガスを外部に排出する排出流路48が接続されている。当該排出流路48には、イオン交換器46からの水や一部の水素オフガスの排出を制御する排出制御弁49が設けられている。
【0023】
燃料電池システム1は、燃料電池10を冷却する冷却システム60を有している。冷却システム60は、冷媒としての冷却水を所定の温度で循環させる冷却装置70と、冷却装置70から燃料電池10に冷却水を供給する冷却水供給流路71と、燃料電池10を通過した冷却水を冷却装置70に戻す冷却水帰還流路72を備えている。
【0024】
燃料電池10には、例えば図2に示すように冷却水供給流路71に通じ、燃料電池10の一の側面10a近傍を燃料電池10の長手方向(セル積層体21の積層方向)に向かって通る第1の流路80と、冷却水帰還流路72に通じ、燃料電池10の他の側面10b近傍を燃料電池10の長手方向に向かって通る第2の流路81と、例えばセル積層体21の単セル毎に燃料電池10の横方向(長手方向の直角方向)に向かって第1の流路80から第2の流路81に冷却水を通す第3の流路82が設けられている。よって、冷却システム60は、冷却水を、冷却装置70、冷却水供給流路71、第1の流路80、第3の流路82、第2の流路81、冷却水帰還流路72、冷却装置70の順で循環させることによって燃料電池10を冷却できる。
【0025】
燃料電池システム1が起動し、発電が行われる際には、図1に示す水素タンク40から水素ガス供給流路41を通じて燃料電池10に水素ガスが供給され、エア供給流路31を通じて燃料電池10にエアが供給される。燃料電池10では、水素ガスとエアの電気化学反応により発電される。燃料電池10から排出された水素オフガスは、循環流路42を通じて流され、イオン交換器46を通じて一部が水素ガス供給流路41に戻され、一部が排出流路48を通じて排出される。また、燃料電池10から排出された排気エアは、エア排出流路32を通じて流され、加湿器30を通過後にマフラー36を通って外部に排出される。
【0026】
次に、上記燃料電池システム1を搭載した燃料電池車両について説明する。図3に示すように燃料電池10は、燃料電池車両100の床Aの下に配置され、その後方に燃料電池10に隣接してマフラー36が配置されている。
【0027】
燃料電池10は、図4に示すように燃料電池10内を流れる冷却水が燃料電池車両100の前方側から後方側に流れるような向きに設置されている。つまり、冷却水の第1の流路80が前方側、第2の流路81が後方側で、第3の流路82が前方から後方に向くように燃料電池10が設置される。冷却水は下流に流れるに従って熱を取り込み温度が上がり冷却能力が下がるので、燃料電池10の起動時には燃料電池10の後方側が前方側に比べて高温部位となる。
【0028】
燃料電池車両100における燃料電池10の左右方向の側面には、補機類110が近接配置され、補機類110は、燃料電池10のエンドプレート22に接続されている。補機類110は、例えば燃料電池10からエアを排気するためのものであり、本実施の形態において、補機類110は、例えば燃料電池システム1の加湿器30やエアバルブ35の補機を備えている。
【0029】
マフラー36は、燃料電池10の後方に近接配置され、燃料電池10と平行に配置されている。これにより、マフラー36は、燃料電池10の高温部近傍に配置される。マフラー36は、例えば円筒状のステンレス製或いは樹脂製の管路内に、筒状に成型された不織布を備えた構造を有している。なお、燃料電池10とマフラー36の距離は、10cm以下が好ましい。
【0030】
マフラー36と補機110とは、エア排出流路32の一部を構成する接続管路120により接続されている。マフラー36の下流側には、エア排出流路32の一部を構成し、車両外部に通じる管路121が接続されている。
【0031】
本実施の形態によれば、燃料電池10とマフラー36が別々に配置されているので、車両内のモジュール構造の大型化を回避できる。また、マフラー36が燃料電池10の後方の側面に平行に近接配置されているので、マフラー36全体が燃料電池10の高温側の部位に近くなり、低温度起動時に燃料電池10の熱によってマフラー36が解凍される。よって、低温度起動時のマフラー36の消音機能を迅速に回復できる。
【0032】
燃料電池車両100は、マフラー36の上流側に設けられ、燃料電池10から排出されるガスを外部に排出するための補機類110(加湿器30、エアバルブ35)を有し、補機類110は、燃料電池10の左右方向の側面に近接配置されている。かかる場合、燃料電池10、補機類110及びマフラー36が互いに近くなり、燃料電池10、補機類110及びマフラー36の構成をコンパクト化できる。また、騒音の発生源となり得る補機類110とマフラー36との間のガス流路の長さを短くできるので、消音効率を向上できる。
【0033】
燃料電池10が燃料電池車両100の床下に搭載されているので、上記燃料電池10、マフラー36及び補機類110の配置を好適に実現できる。また、衝突安全性能を向上し、車両の低重心化による操安性を向上できる。
【0034】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0035】
例えば以上の実施の形態では、冷却水が燃料電池車両100の前方側から後方側に流れるように燃料電池10が設置され、マフラー36が燃料電池10の後方側に配置されたが、その逆の、冷却水が燃料電池車両100の後方側から前方側に流れるように燃料電池10が設置され、マフラー36が燃料電池10の前方側に配置されてもよい。この場合もマフラー36が燃料電池10の高温側の部位に近くなり、低温度起動時のマフラー36の消音機能を迅速に回復できる。
【0036】
また、例えば以上の実施の形態における燃料電池10内の冷却水の流路構成は他の構成を有するものであってもよい。また、燃料電池10の側面に配置される補機類110は、エアバルブ35、加湿器30以外の他の装置であってもよく、また、エアバルブ35、加湿器30以外の他の装置を含むものであってもよい。さらに、本発明は、燃料電池自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車などの車両のほか、各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボットなど)にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、燃料電池システムを備えた移動体において、モジュール構造の大型化を回避しつつ、低温度起動時のマフラーの消音機能を迅速に回復する際に有用である。
【符号の説明】
【0038】
1 燃料電池システム
10 燃料電池
35 エアバルブ
36 マフラー
100 燃料電池車両
110 補機類

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムを搭載した移動体であって、
燃料電池と、
前記燃料電池から排出されるガスが通過するマフラーと、を有し、
前記燃料電池は、当該燃料電池内を流れる冷媒が移動体の前後方向の一方側から他方側に流れるような向きに設置され、
前記マフラーは、前記燃料電池の前記他方の側面に当該燃料電池と平行に近接配置されている、移動体。
【請求項2】
前記マフラーの上流側に設けられ、前記燃料電池から排出されるガスを移動体の外部に排出するための補機を、さらに有し、
前記補機は、前記移動体の左右方向の前記燃料電池の側面に隣接されている、請求項1に記載の移動体。
【請求項3】
前記補機は、前記燃料電池から排出されるガスの流れを制御するガスバルブを有している、請求項2に記載の移動体。
【請求項4】
前記冷媒が移動体の前方側から後方側に流れるように前記燃料電池が設置され、
前記マフラーは、前記燃料電池の後方側に配置されている、請求項1〜3のいずれかに記載の移動体。
【請求項5】
前記燃料電池は、移動体の床下に搭載されている、請求項1〜4のいずれかに記載の移動体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−91426(P2013−91426A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234848(P2011−234848)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】