説明

移動式クレーン

【課題】ブームの横たわみを効果的に防止でき、吊上げ能力を高くとれる移動式クレーンを提供する。
【解決手段】走行車体1に起伏自在に取付けた伸縮ブーム5を備え、伸縮ブーム5が、基端側の主ブーム5Aと、主ブーム5Aから伸縮する副ブームからなる移動式クレーンであって、主ブーム5Aに対し、その基部が枢支された左マスト10Lと右マスト10Rとからなる緊張マスト10と、緊張マスト10を介して、伸縮ブーム5の基端部と先端部との間に張設された緊張ロープ20と備えており、左マスト10Lは左斜めに延びる部材であり、右マスト10Rは右斜めに延びる部材であり、緊張ロープ20は、左マスト10Lを介して張設された左ロープ20Lと、右マスト10Rを介して張設された右ロープ20Rとかならなり、左マスト10Lと右マスト10Rとの間に、互いの間隔を保持する間隔保持ステー41を配設している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動式クレーンに関する。さらに詳しくは、ブームの縦たわみと横たわみを抑制して吊上げ能力を向上させた移動式クレーンに関する。
【0002】
本発明の対象となる移動式クレーンは、走行車体にクレーンを搭載したものであって、このような移動式クレーンには、装輪式車体を用いるトラッククレーンやホイールクレーン、クローラ式車体を用いるクローラ式クレーン等がある。
これらのうち大部分は、走行車体に旋回台を搭載し、その旋回台上にブームを起伏自在に取付けブームの旋回と起伏を可能とした構造であるが、旋回台を用いず、ブームを起伏自在に取付けた構造のものも含まれる。
ブームは多段式であり、油圧シリンダで自動伸縮させるものの外に、油圧シリンダを内蔵せずブームの継ぎ足しで長さを可変とするものも含まれる。さらに、ブームの先端に継ぎ足し専用のジブを装着してブーム長さを更に延長するものも含まれる。
【背景技術】
【0003】
移動式クレーンは、ブームを多段化して伸縮長さを長くし、そうすることによって揚程を大きくとって、高い所への荷揚げと高い所からの荷降ろしを可能としている。
このようなクレーンの高揚程化は、建築やその他の産業分野でクレーンの利用可能性を高めるものである。
しかるに、移動式クレーンにおけるブームの多段化と、その結果として得られる伸縮長さの長大化は、ブームの構造的強度の面からの限界が顕在化するに至っている。
【0004】
クレーン作業では、ブームを旋回させることにより、自機を中心とした周囲全方向での作業を可能とし、ブームを起立・倒伏させることにより、高所作業も遠方作業も可能とし、立体空間内での荷役を可能としている。
しかるに、ブームを倒伏すると、ブームを下向きに曲げようとする縦曲げモーメントが大きくなって、ブームが下向きに撓みやすくなる。
一方、ブームを起立させると、ブームにそれ自体を圧縮する力が大きくなって、これに風や偏荷重等の外力が作用すると、ブームを横に曲げようとする横曲げモーメントが大きくなり、横撓みが発生しやすくなる。
【0005】
上記の縦曲げモーメントや横曲げモーメントを抑制するため、特許文献1〜3の従来技術が提案されている。
特許文献1の従来技術は、ジブ(ブームともいうが技術的意味は同じである)の上面にガントリーを立設し、ジブ先端から吊下したフックと旋回台上のウインチとの間に掛け廻したロープを、ジブ先端からガントリー上端の滑車にも掛け廻している。このガントリーを介在させてジブ先端との間に張設したロープにより、ジブの縦曲げモーメントに対する抵抗を与え、ジブの縦曲げを抑制しようとするものである。
【0006】
特許文献2の従来技術は、ジブの上面に張設台(前記ガントリーに相当)を設けた点は特許文献1と同様の構成であるが、これに加え、ジブ先端に連結したロープを張設台上端の滑車を介して張設台の根元に設けたウインチに導いている。このロープは荷役用のロープとは別物であって、ウインチによって張力を加減することにより、ジブの縦曲げを効果的に抑制できるようになっている。
なお、ジブに対して横方向の安定性を得られるとの記述もあり、ジブの横安定性という課題も示されている。
【0007】
上記特許文献1,2は主としてブームの縦たわみを抑制するものであるが、特許文献3はブームの横たわみの防止も主たる課題としたものである。
すなわち、特許文献3の従来技術は、図10に示すように、ジブ101の上面に張線支持具102,102´を配置している。張線支持具102,102´は横方向に傾斜したり(角度α)、前後方向にも傾斜し(角度β)、かつ傾斜角α、βは調節可能となっている。この各張線支持具102,102´を介して、ロープ106,107と106´,107´がジブ101の自由端と基部との間に連結されている。このロープ106,107と106´,107´が、ジブ101の側面変形を抑制している。
【0008】
ところで、特許文献3では、張線支持具102,102´はそれぞれ主ジブ101の斜め上方に傾斜して延びているが、いずれも先端部は固定されておらず自由端である。そのため、吊荷による張力が作用したり、ジブの起伏動や旋回動の慣性によって不規則に撓むことがある。このように、張線支持具102,102´に撓みが発生すると、ロープ106,107にもロープ106´,107´にも張力のゆるみや張力の不均衡が発生して、ジブ101の側面変形を抑止する効果は低減する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭56−43995号公報
【特許文献2】特開昭57−184092号公報
【特許文献3】特開2001−58791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記事情に鑑み、ブームの横たわみを効果的に防止でき、吊上げ能力を高くとれる移動式クレーンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1発明の移動式クレーンは、走行車体と、該走行車体に起伏自在に取付けた伸縮ブームとを備え、該伸縮ブームが、基端側の主ブームと、該主ブームから先端に伸びた位置に配置される副ブームからなる移動式クレーンであって、前記主ブームに対し、その基部が枢支された左マストと右マストとからなる緊張マストと、該緊張マストを介して、前記伸縮ブームの基端部と先端部との間に張設された緊張ロープと備えており、前記左マストは、前記主ブームの長手方向に対して左斜めに延びる部材であり、前記右マストは、前記主ブームの長手方向に対して右斜めに延びる部材であり、前記緊張ロープは、前記左マストを介して張設された左ロープと、前記右マストを介して張設された右ロープとかならなり、前記左マストと前記右マストとの間に、互いの間隔を保持する間隔保持手段を配設したことを特徴とする。
第2発明の移動式クレーンは、第1発明において、前記間隔保持手段が、長さが不変な棒材で構成した間隔保持ステーであることを特徴とする。
第3発明の移動式クレーンは、第1発明において、前記間隔保持手段が、長さが可変な油圧シリンダで構成した間隔保持シリンダであることを特徴とする。
第4発明の移動式クレーンは、第1、2または第3発明において、前記左マストおよび前記右マストが、いずれも基部が旋回テーブルを介して前記主ブームに取付けられており、前記旋回テーブルが、前記主ブームの長軸線に対し直交する垂直線まわりに回動自在であることを特徴とする。
第5発明の移動式クレーンは、第3発明において、前記左マストおよび前記右マストが、いずれも傾斜角調整シリンダにより、前記主ブームの上方に向いた上位置と側方に向いた横位置との間で傾斜自在であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
第1発明によれば、左マストと右マストとの間に、互いの間隔を保持する間隔保持手段を配設したので、伸縮ブームに縦たわみや横たわみが生じたとしても、左右のマストが撓わまず、それらの先端同士の間隔が広くなったり狭くなったりしない。このため、伸縮ブームに対する左右マストの先端位置が変動せずに保持されるので、安定的かつ効果的に伸縮ブームの縦たわみも横たわみも抑制することができる。
第2発明によれば、間隔保持手段の長さが不変であるため左右マストの間隔を不変に保持でき、第1発明におけるブームの縦たわみと横たわみ抑制効果を承継する外、間隔保持手段が棒材なので軽量にでき、伸縮ブームの吊上能力を低下させることがない。
第3発明によれば、間隔保持手段が長さ可変の油圧シリンダであるため左右マストの間隔を可変に調整でき、間隔を小さくすることによって主ブームからの垂直高さを高くして縦たわみの抑制効果を高くしたり、間隔を広くすることによって主ブームに直交する幅を広くして横たわみの防止効果を高くできる。
第4発明によれば、旋回テーブルを介して左右のマストをブームの横たわみ方向に正対するよう回動させることができる。このため、左右のロープの張力をブームに対して均等に配分でき、ブームの縦たわみを効果的に防止することができる。
第5発明によれば、ブームに横たわみが発生したとき、左右のマストのうち、横たわみ方向と反対側のマストを更に横に傾斜させると、緊張ロープがブームの長軸線と交差する角度が大きくなって、横たわみを矯正したり防止する効果が高くなる。このため、伸縮ブームの横たわみを効果的に防止でき、クレーンの吊上げ能力が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態に係る移動式クレーンLの斜視図である。
【図2】図1に示された移動式クレーンLの背面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る移動式クレーンMの斜視図である。
【図4】図3に示された間隔保持シリンダ42の背面図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る移動式クレーンNの側面図である。
【図6】図5に示された移動式クレーンNの背面図である。
【図7】第3実施形態の移動式クレーンNの横たわみ防止動作の説明図である。
【図8】本発明の第4実施形態に係る移動式クレーンPの緊張マスト部分の背面図である。
【図9】第4実施形態の移動式クレーンPの横たわみ防止動作の説明図である。
【図10】特許文献3の従来技術の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
以下では、本発明をトラッククレーンに適用した第1〜第4実施形態の移動式クレーンに基づき説明する。
【0015】
(第1実施形態)
まず、トラッククレーンとしての移動式クレーンLの基本的構造を、図1に基づき説明する。1は公知の走行車体であり、この走行車体1には走行のための原動機や運転室、車輪の外、クレーン作業中の安定を確保するアウトリガ2が設けられている。走行車体1の上面には旋回台3が搭載され、油圧モータ等により水平面内で360°旋回できるようになっている。なお、旋回台3上にはカウンタウエイト4の外、図示しないクレーン運転室や、ウインチその他の設備が設けられている。
【0016】
前記旋回台3には伸縮ブーム5が起伏自在に取付けられている。伸縮ブーム5は、基端側の主ブーム5Aと、この主ブーム5Aにテレスコープ式に嵌挿した複数段の副ブーム5B,5C,5Dからなる。図示の例では、副ブーム5B〜5Dは3本であるが、2本以下でもよく4本以上でもよい。各副ブーム5B〜5Dの伸縮動作は油圧シリンダで行われる。
【0017】
前記主ブーム5Aの基端部はピン6で旋回台3に枢支され、主ブーム5Aと旋回台3との間には油圧シリンダで構成した起伏シリンダ7が取付けられている。この起伏シリンダ7を伸長させると伸縮ブーム5が起立し、起伏シリンダ7を収縮させると伸縮ブーム5が倒伏する。
【0018】
前記伸縮ブーム5の先端、つまり副ブーム5Dの先端に形成されているブームヘッド5Eからは、図示しないフックを備えたワイヤロープが吊り下げられ、そのワイヤロープは伸縮ブーム5に沿って旋回台3に導かれて図示しないウインチで巻き取られている。
このウインチによるフックの上げ下げと、伸縮ブーム5の起伏、旋回、そして伸縮を組合せることにより、立体空間内での荷揚げと荷降ろしが可能となっている。
【0019】
つぎに、第1実施形態に係る移動式クレーンLの特徴部分を説明する。
図1および図2に示すように、符号10は緊張マストであり、主ブーム5Aの上面であって、長手方向における中間部分に取付けられている。なお、本発明では緊張マスト10の取付位置は主ブーム5Aの長手方向における中間部分に限られることなく、その長手方向の基端から先端に至るどの部分であってもよい。
【0020】
この緊張マスト10は左右一対の左マスト10Lと右マスト10Rから構成されている。左右のマスト10L,10Rはいずれも主ブーム5Aの上面で起伏自在に適宜のヒンジを介して取付けられ、後述する起伏角調整シリンダで、起伏動作をするようになっている。この緊張マスト10は後述する緊張ロープ20を、伸縮ブーム5の横たわみと縦たわみを抑止するように張設するための設備である。
【0021】
緊張マスト10の左・右マスト10L,10Rの上端には滑車13が取付けられている。一方、伸縮ブーム5の先端部、たとえば副ブーム5Dの先端部かブームヘッド5E(以下、ブーム先端部という)には係止フック15が設けられている。
また、主ブーム5Aの基部には左右一対のウインチ14が取付けられている。なお、ウインチ14は各マスト10L,10Rに取付けてもよい。
【0022】
緊張ロープ20は左ロープ20Lと右ロープ20Rとからなる。各ロープ20L,20Rは、それぞれ左右のウインチ14から繰り出され、各マスト10L,10R上端の滑車13を介してブーム先端へ延ばされ、係止フック15に係止されている。
【0023】
前記主ブーム5Aとマスト10Rの間には油圧シリンダからなる起伏角調整シリンダ36が取付けられ、この起伏角調整シリンダ36によって、マスト10Rの主ブーム5Aに対する起伏角が可変に調整できるようになっている。すなわち、主ブーム5Aに対し上向きに起立した起立位置と主ブーム5Aに対し平行に近くなるように前方に倒伏した倒伏位置との間で姿勢変更することができる。
【0024】
前記左マスト10Lと右マスト10Rの間には、それぞれの上端付近には間隔保持手段である棒材で構成した間隔保持ステー41が取付けられている。この間隔保持ステー41は長さが不変であり、左右のマスト10L,10Rの上端間を開いたり狭まったりしないように保持している。
この棒材を用いた間隔保持ステー41は軽量で、マスト10L,10Rのたわみ防止効果が高く、伸縮ブーム5の吊上げ能力を低下させないという特徴もある。
【0025】
前記実施形態において、左右のウインチ14は左右のロープ20L,20Rの長さをブーム伸縮長さに合わせて調整すると共に、必要な張力が得られるように駆動される。すなわち、伸縮ブーム5の伸長動作時には、ウインチ14はロープ20L,20Rを繰り出しながら、ある程度の張力が作用した状態を保つように正転し、伸縮ブーム5の収縮動作時には、ウインチ14はロープ20L,20Rを巻き戻しつつ、ある程度の張力が残るように逆転する。このような制御は、ウインチ駆動用の油圧モータを常時低圧で巻上げ側に駆動しておき、ブーム伸長時には、前記駆動力に抗してロープを引き出し、ブーム収縮時には前記低駆動力でのロープの巻き取りを行わせることにより実現できる、なお、ロープ張力を検出して許容範囲に収めるようなフィードバック制御で実現してもよく、このような制御方式は任意である。
【0026】
ところで、クレーンのブームは倒伏状態では縦たわみが顕著になり、起立状態では横たわみが生じやすい。このため、伸縮ブーム5を倒伏させたクレーン作業では、左右のロープ20L,20Rの張力により、ブームの縦たわみを許容範囲に収めるように抑制し、伸縮ブーム5を起立させたクレーン作業では、ブームの横たわみが生じたとき、横たわみの反対側のロープの張力によって、横たわみ抵抗力を大きくして、ブームの横たわみの発生を防止することができる。
【0027】
そして、本実施形態の移動式クレーンLでは、左マスト10Lと右マスト10Rとの間に、互いの間隔を保持する間隔保持ステー41を配設したので、ブームに縦たわみや横たわみが生じて、左右ロープ20L,20Rの張力により左右のマスト10L,10Rが力を受けて、左右のマスト10L,10Rにおける先端同士の間が広くなったり狭くなったりしない。このため、伸縮ブーム5に対する左右マスト10L,10Rの先端位置が変動せずに保持されるので、伸縮ブーム5に対する左右ロープ20L,20Rの位置も変動しないように保持でき、安定的かつ効果的にブームの縦たわみも横たわみも抑制することができる。
【0028】
(第2実施形態)
第2実施形態の移動式クレーンMを図3および図4に基づき説明する。
本実施形態は、緊張マスト10を構成する左右マスト10L,10Rの間隔保持手段として、油圧シリンダで間隔保持シリンダ42を構成したものである。この間隔保持シリンダ42は長さの調整が可能という特徴をもつ点が第1実施形態の間隔保持ステー41と異なっている。
【0029】
前記左右のマスト10L,10Rは継手30を介して主ブーム5Aに取付けられ、伸縮ブーム5の長手方向への起立倒伏と左右マスト10L,10R間の間隔調整が可能となっている。前記継手30は、起伏用継手と傾斜用継手とからなり、起伏用継手は、主ブーム5Aの上部に固定された固定ブラケット31と、これにピン32を介して回動自在に連結されている回動ブラケット33からなり、傾斜用継手は回動ブラッケット33にピン34を介してマスト10Rの基部を枢支した構造である。なお、この構成の継手30に限らず、左右マスト10L,10Rが前後方向傾斜と横方向傾斜が可能なら、どのような構造の継手を用いてもよい。
その余の構成は第1実施形態と実質同一であるため、同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0030】
本実施形態では、間隔保持手段が長さ可変の油圧シリンダであるため左右マスト10L,10Rの間隔を可変に調整でき、間隔を小さくすることによって主ブーム5Aからの垂直高さを高くしたり、間隔を広くすることによって主ブーム5Aに直交する幅を広くすることができる。このため、伸縮ブーム5が倒伏状態のときは左右マスト10L,10Rの間隔を小さくして縦たわみの抑制降下を高くしたり、伸縮ブーム5が起立状態のときは左右マスト10L,10Rの間隔を大きくして横たわみの防止効果を大きくするような使い方が可能となる。
【0031】
(第3実施形態)
第3実施形態の移動式クレーンNを図5および図6に基づき説明する。
本実施形態では、緊張マスト10を構成する左マスト10Lおよび右マスト10Rは、いずれも基部が旋回テーブル51を介して主ブーム5Aに取付けられており、旋回テーブル51は、主ブーム5Aの長軸線に対し直交する垂直線まわりに回動自在となっている。
間隔保持手段は図示の間隔保持ステー41を用いてもよく、図示しない間隔保持シリンダ42を用いてもよい。
【0032】
前記旋回テーブル51は、主ブーム5A上で一定範囲の角度で左右に向きを変えるよう回動すればよく、全旋回させる必要はない。
また、旋回構造は、旋回ベアリング等で支持し油圧モータで正逆転させる等の公知の技術手段を任意に採用しうる。
その余の構成は第1実施形態と実質同一であるため、同一部材に同一符号を付して説明を省略する。
【0033】
本実施形態では、伸縮ブーム5に横たわみが生じた場合、その横たわみしているブーム先端部に対し、左右マスト10L,10Rを正対させることができる。
すなわち、図7に示すように、伸縮ブーム5に左方の横たわみを生じた場合は、旋回テーブル51を介して左右のマスト10L,10Rを反時計方向に回動させると、ブームの横たわみ方向に正対させることができる。また、伸縮ブーム5に右向きの横たわみが生じたときは、旋回テーブル51を時計回りに回動させると、やはりブームの横たわみ方向に左右のマスト10L,10Rを正対させることができる。
このように、左右のマスト10L,10Rを伸縮ブーム5の横たわみ方向に正対させると、左右のロープ10L,10Rの張力をブームに対して均等に配分できるので、ブームの縦たわみを効果的に防止することができる。
【0034】
(第4実施形態)
第4実施形態の移動式クレーンPを、図8および図9に基づき説明する。
本実施形態の移動式クレーンPは、図8に示すように、緊張マスト10を構成する左右のマスト10L,10Rに傾斜角調整シリンダ37を取付けたものである。傾斜角調整シリンダ37は、公知の一軸の取付ブラケットを介して、各マスト10L,10Rと主ブーム5Aとの間に取付けられている。図示の実施形態では、左右のマスト10L,10Rは主ブーム5Aの前後方向にては起伏しないものであるが、起伏角調整シリンダ36を取付けて起伏させる構造とした場合は、傾斜角調整シリンダ37は球面軸受等を介して取付ければよい。
【0035】
左右のマスト10L,10Rの上端同士の間には、油圧シリンダで構成した間隔保持シリンダ42が取付けられている。この間隔保持シリンダ42は左右のマスト10L,10Rの傾斜角変動に追随する外、あらゆる傾斜角に開いた左右マスト10L,10Rの先端部同士を連結して撓みを防止する役割を負っている。
ウインチ14は図示のごとく、各マスト10L,10Rに取付けてもよく、主ブーム5Aの後端部に設置してもよい。
また、図示していないが、ウインチ14を左右マスト10L,10Rに取付ける場合は、左右マスト10L,10Rを伸縮ブーム5の前方へ倒れないように控えておく控えロープあるいは控えステーも適宜取付けられる。
左右のマスト10L,10Rの基端部は、共通のピン35で共通のブラケット33に取付けられているが、この取付構造は、各マスト10L,10Rの横方向の傾斜を許容するなら、どのような構造を採用するものも任意であり、図4に示すような継手30の採用も可能である。
【0036】
つぎに、本実施形態によるブームの横たわみ防止方法を説明する。
図9に示すように、伸縮ブーム5が左側への横たわみを生じた場合は、横たわみの反対側である右マスト10Rを横に倒伏するように傾斜させる。この傾斜動作は左マスト10Lの傾斜角調整シリンダ37を伸長させ、右マスト10Rの傾斜角調整シリンダ37を収縮させることで行うが、左マスト10Lと右マスト10Rの交差角は、傾斜動作の前後で一定とする。
【0037】
上記のように右マスト10Rが横向きに傾斜した場合、図9に示すように、横たわみした状態のブーム先端と緊張マスト10の中心を結ぶ線に対し、左ロープ20Lの交差する交差角δLと右ロープ20Rの交差する交差角δRは異なり、右側の交差角δRが大きくなり、左側の交差角δLは小さくなる。
この場合、右ロープ20Rによる伸縮ブーム5の左方への横たわみを引き戻す力が大きくなるので、伸縮ブーム5の横たわみを矯正し、あるいは防止しやすくなる。
なお、伸縮ブーム5が右方へ横たわみしたときは左マスト10Lを側方に傾斜させればよく、この場合の横たわみ補正原理は上述と同様である。
このように、本実施形態においては、伸縮ブーム5の横たわみ防止効果が高いので、クレーンの吊上げ能力を向上することができる。
【0038】
(他の実施形態)
つぎに、本発明の他の実施形態を説明する。
前記第1実施形態では、間隔保持手段として棒材で構成した間隔保持ステー41が用いられたが、棒材の代りにロープを用いてもよく、その場合でも、左右のマスト10L,10Rの上端同士が開くのを防止することができる。このため、左右マスト10L,10Rのたわみを防止して、伸縮ブーム5の吊上げ能力を低下させないようにすることができる。
【0039】
前記各実施形態では、多段式の伸縮ブーム5のみを図示して説明したが、この伸縮ブーム5のブームヘッド5Eに、継ぎ足し専用のジブを装着したクレーンにも、本発明を適用できる。
なお、継ぎ足し専用のジブにも、油圧シリンダを用いた伸縮式のものや、ラチス式ジブを連結して長さを可変とするものが含まれる。
また、伸縮ブーム5自体も、油圧シリンダを用いた自動伸縮式の外、ラチス構造のブームを多段に連結する非自動伸縮式のものであってもよい。特許請求の範囲にいう「主ブームから先端に延びた位置に配置される副ブーム」の意味は、自動伸縮式の外、非自動で連結されるものも含む意味である。
【0040】
前記各実施形態の移動式クレーンでは、いずれも旋回台3を有しており、伸縮ブーム5自体の伸縮・起伏に加え旋回動作をさせることによって、全方位の荷役作業ができるものであったが、本発明の対象としては旋回台を有しないものも含まれる。
要は、伸縮・起伏するクレーンブームであれば、本発明の各実施形態に係る緊張マスト10や緊張ロープ20を任意に適用して、その吊上げ能力を向上させることができる。
【0041】
前記各実施形態は、走行車体1としてトラックシャーシを用いたトラッククレーンであり、クレーン運転室(図示していないが旋回台に搭載される)と走行用運転室が別々に設けられているが、同一走行車体上にクレーン操縦と走行運転を兼ねて行う一個の運転室を備えたホイルークレーンにも、本発明は当然適用できる。なお、これらは装輪式の移動クレーンである。
装輪式とは異なる型式のクローラ式走行車体を用いたクレーンは、クローラクレーンと云われるが、このクローラクレーンの伸縮ブームにも、本発明の緊張マスト10や緊張ロープ20を適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 走行車体
5 伸縮ブーム
10 緊張マスト
10L 左マスト
10R 右マスト
20 緊張ロープ
20L 左ロープ
20R 右ロープ
37 傾斜角調整シリンダ
41 間隔保持ステー
42 間隔保持シリンダ
51 旋回テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行車体と、
該走行車体に起伏自在に取付けた伸縮ブームとを備え、
該伸縮ブームが、基端側の主ブームと、該主ブームから先端に伸びた位置に配置される副ブームからなる移動式クレーンであって、
前記主ブームに対し、その基部が枢支された左マストと右マストとからなる緊張マストと、
該緊張マストを介して、前記伸縮ブームの基端部と先端部との間に張設された緊張ロープと備えており、
前記左マストは、前記主ブームの長手方向に対して左斜めに延びる部材であり、前記右マストは、前記主ブームの長手方向に対して右斜めに延びる部材であり、
前記緊張ロープは、前記左マストを介して張設された左ロープと、前記右マストを介して張設された右ロープとかならなり、
前記左マストと前記右マストとの間に、互いの間隔を保持する間隔保持手段を配設した
ことを特徴とする移動式クレーン。
【請求項2】
前記間隔保持手段が、長さが不変な棒材で構成した間隔保持ステーである
ことを特徴とする請求項1記載の移動式クレーン。
【請求項3】
前記間隔保持手段が、長さが可変な油圧シリンダで構成した間隔保持シリンダである
ことを特徴とする請求項1記載の移動式クレーン。
【請求項4】
前記左マストおよび前記右マストが、いずれも基部が旋回テーブルを介して前記主ブームに取付けられており、
前記旋回テーブルが、前記主ブームの長軸線に対し直交する垂直線まわりに回動自在である
ことを特徴とする請求項1、2または3記載の移動式クレーン。
【請求項5】
前記左マストおよび前記右マストが、いずれも傾斜角調整シリンダにより、前記主ブームの上方に向いた上位置と側方に向いた横位置との間で傾斜自在である
ことを特徴とする請求項3記載の移動式クレーン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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