移動機構
【課題】移動の負荷によって細毛が撓むことで細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供すること。
【解決手段】移動機構の接触面の表面に、複数の細毛が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された付着要素を備え、第1の角度をα、第1のピッチをp1、細毛の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとした時に、(3式)を満足することで、移動の負荷によって細毛が撓むことで細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【解決手段】移動機構の接触面の表面に、複数の細毛が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された付着要素を備え、第1の角度をα、第1のピッチをp1、細毛の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとした時に、(3式)を満足することで、移動の負荷によって細毛が撓むことで細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動機構に関し、特にファンデルワールス力を利用した付着要素を用いた移動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療用マイクロロボットが盛んに研究されている。ただ、現時点では、医療用マイクロロボットの活躍できる領域は、例えばカプセル型内視鏡のように、大腸や小腸に限られている。このため、胃の検査を含めて、ファイバスコープの牙城を崩すに至っていない。その要因の一つは、医療用マイクロロボットの移動が、大腸や小腸の蠕動運動に依存しているため、思い通りの検査が行えないためである。
【0003】
そのため、体内を自由に移動できる医療用マイクロロボットの開発が急務となっており、ロボットの移動機構として様々な方式が研究されている。従来からある移動機構の代表としては、摩擦によって推力を得る車輪がある。車輪は1つのアクチュエータで効率よく移動可能な優れた発明であるが、摩擦力が斜度のコサインで決まるため、斜度が大きくなると斜面を登りきれず、移動可能な範囲が限定される。
【0004】
そこで、近年研究されているロボットの移動機構は、摩擦に頼る欠点を補うために、付着要素を追加したものが多い。例えば尺取り虫タイプ、多脚昆虫タイプ等様々な方式が考えられている。
【0005】
しかし、従来からあるパッシブな付着要素は、例えば粘着テープ等のように、汚染に対して弱く、耐久性に問題があり、ロボットの付着要素としては採用が不可能であった。そのため、付着要素として、ポンプを用いた吸盤等のような制御性の良いもの、即ちアクティブな付着要素が選択される場合も多かった。
【0006】
ところが、近年になり、ヤモリの足毛の構造を真似て、ファンデルワールス力によって付着する耐久性の高い付着要素が開発されつつあり、ロボットへの応用が考えられつつある。
【0007】
ファンデルワールス力とは、電荷を持たない中性の原子、分子間などで主となって働く凝集力の総称で、そのポテンシャルエネルギーは距離の6乗に反比例する。すなわち力の到達距離は短く且つ非常に弱い。そして、ファンデルワールス力による吸着をファンデルワールス吸着と呼び、ヤモリが壁や天井等を場所や壁面の状態を問わずに歩けるのは、その四肢にある独特の細毛構造によって、四肢の細毛と壁面との間にファンデルワールス吸着を発生させているためではないかと言われている。
【0008】
例えば特許文献1には、嚢胞に蓄えた気体の浮力で浮揚し、脚先の付着要素によるファンデルワールス力によって天井や側壁面に取り付くロボットが開示されている。
【0009】
また、例えば特許文献2には、片持ち梁構造の長手の先端に電荷を蓄積することでダイポールを発生させ、ファンデルワールス力によって吸着面と吸着体との間に吸着力を発生させる方法と、それを用いたロボットとが開示されている。
【0010】
さらに、特許文献3には、規則的に配列された針状の突起を配置した複数の付着面を有するロボットで、付着面に異なる付着方向性を持たせて、付着方向での逃げを防止する方法が開示されている。
【0011】
また、特許文献4には、規則的に配列された突起をナノインプリント法で形成することで、面ファスナーを製造する方法が開示されている。
【0012】
さらに、非特許文献1では、ヤモリの足毛を真似て、カーボンナノチューブを細長い柱状に分割することで、ファンデルワールス力による付着力が大きくなることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−349517号公報
【特許文献2】特開2007−236174号公報
【特許文献3】国際公開第2007/0121450号
【特許文献4】特表2007−528765号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】PNAS(米国科学アカデミー紀要),JUNE 26,2007,vol.104,no.26,10792−10795
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1から4および非特許文献1で考慮されているのは、付着のみで、付着した状態から移動する場合の対応に関しては考慮されていない。
【0016】
そのため、移動のために、細毛が自重や外力等によって被接触面に強く押しつけられたり、被接触面に平行な力を受けたりすると、細毛が撓んだり、細毛同士が重なり合って干渉し合ったりすることで理想的な付着条件を逸脱し、付着力が低下して、滑って移動できなくなったり、壁面から落下したり、斜面を滑り落ちたりするという不具合が発生する。
【0017】
自重や外力等に負けないように、細毛を撓まない剛毛としたのでは、多様な壁面に対応できず、ファンデルワールス吸着そのものを発生させることができない。
【0018】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、自重や外力等による負荷によって細毛が撓むことで、細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し、付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の目的は、下記構成により達成することができる。
【0020】
1.被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
前記付着要素は、
複数の細毛が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、前記移動方向に対して前記第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
前記第1の角度をα、前記第1のピッチをp1、前記細毛の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとすると、
α≧2×sin−1((d/2)/p1)・・・(3式)
であることを特徴とする移動機構。
【0021】
2.前記細毛の長さをLとすると、
前記第1のピッチp1は、
p1≦L
であることを特徴とする前記1に記載の移動機構。
【0022】
3.前記第2のピッチをp2とすると、
p2≧2×d
であることを特徴とする前記1または2に記載の移動機構。
【0023】
4.被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された複数の付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
複数の前記付着要素は、それぞれ、
複数の細毛が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、前記移動方向に対して前記第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
複数の前記付着要素の前記第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、
第n(nは正の整数)の前記付着要素の前記第1の角度をαnとし、
第nの前記付着要素の前記第1のピッチをp1nとし、
第nの前記付着要素の前記細毛の前記移動方向に略垂直な方向の断面幅をdnとすると、
αn≧2×sin−1((dn/2)/p1n)・・・(3−n式)
であることを特徴とする移動機構。
【0024】
5.第nの前記付着要素の前記細毛の長さをLnとすると、
p1n≦Ln
であることを特徴とする前記4に記載の移動機構。
【0025】
6.第nの前記付着要素の前記第2のピッチをp2nとすると、
p2n≧2×dn
であることを特徴とする前記4または5に記載の移動機構。
【0026】
7.被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
前記付着要素は、
複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、前記移動方向に対して前記第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
前記第1の角度をα、前記第1のピッチをp1、前記毛束の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとすると、
α≧2×sin−1((d/2)/p1)・・・(3式)
であることを特徴とする移動機構。
【0027】
8.前記微細針状体の長さをLとすると、
前記第1のピッチp1は、
p1≦L
であることを特徴とする前記7に記載の移動機構。
【0028】
9.前記第2のピッチをp2とすると、
p2≧2×d
であることを特徴とする前記7または8に記載の移動機構。
【0029】
10.被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された複数の付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
複数の前記付着要素は、それぞれ、
複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、前記移動方向に対して前記第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
複数の前記付着要素の前記第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、
第n(nは正の整数)の前記付着要素の前記第1の角度をαnとし、
第nの前記付着要素の前記第1のピッチをp1nとし、
第nの前記付着要素の前記毛束の前記移動方向に略垂直な方向の断面幅をdnとすると、
αn≧2×sin−1((dn/2)/p1n)・・・(3−n式)
であることを特徴とする移動機構。
【0030】
11.第nの前記付着要素の前記微細針状体の長さをLnとすると、
p1n≦Ln
であることを特徴とする前記10に記載の移動機構。
【0031】
12.第nの前記付着要素の前記第2のピッチをp2nとすると、
p2n≧2×dn
であることを特徴とする前記10または11に記載の移動機構。
【0032】
13.被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
前記付着要素は、
複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
前記移動方向への移動によって前記毛束が撓んだ時に、前記毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、前記毛束同士が重なり合う領域の前記毛束が撓んだ方向側にできるように、前記第1の方向と前記移動方向とを異ならせたことを特徴とする移動機構。
【0033】
14.前記第1のピッチは、前記微細針状体の長さ以下であることを特徴とする前記13に記載の移動機構。
【0034】
15.被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された複数の付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
複数の前記付着要素は、それぞれ、
複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
複数の前記付着要素の前記第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、
前記移動方向への移動によって前記毛束が撓んだ時に、前記毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、前記毛束同士が重なり合う領域の前記毛束が撓んだ方向側にできるように、前記第1の方向と前記移動方向とを異ならせたことを特徴とする移動機構。
【0035】
16.複数の前記付着要素の前記第1のピッチは、それぞれの前記付着要素の前記微細針状体の長さ以下であることを特徴とする前記15に記載の移動機構。
【0036】
17.被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
前記付着要素は、
複数の微細針状体が配列された毛帯が、複数本、規則的に配列され、
複数の前記毛帯の長手方向および前記長手方向に直交する短手方向と、前記移動方向とを異ならせたことを特徴とする移動機構。
【0037】
18.前記毛帯の短手方向の幅は、前記微細針状体の長さ以下であることを特徴とする前記17に記載の移動機構。
【0038】
19.前記微細針状体の長さをLとし、
複数の前記毛帯の間隔をx2とすると、
L/2≦x2≦L
であることを特徴とする前記17または18に記載の移動機構。
【0039】
20.前記微細針状体は、カーボンナノチューブで構成されていることを特徴とする前記7から19の何れか1項に記載の移動機構。
【0040】
21.前記毛束の内部の前記微細針状体の密度が50%以下であることを特徴とする前記7から20の何れか1項に記載の移動機構。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、移動機構の接触面の表面に、複数の細毛あるいは複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された付着要素を備え、第1の角度をα、第1のピッチをp1、細毛あるいは毛束の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとした時に、(3式)を満足することで、移動の負荷によって細毛あるいは毛束が撓むことで細毛同士あるいは毛束同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0042】
また、移動機構の接触面の表面に、複数の細毛あるいは複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された複数の付着要素を備え、複数の付着要素の第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、第nの付着要素の第1の角度をαn、第1のピッチをp1n、細毛あるいは毛束の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdnとした時に、(3−n式)を満足することで、移動の負荷によって細毛あるいは毛束が撓むことで細毛同士あるいは毛束同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0043】
さらに、移動機構の接触面の表面に、複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された付着要素を備え、移動方向への移動によって毛束が撓んだ時に、毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、毛束同士が重なり合う領域の毛束が撓んだ方向側にできるように、第1の方向と移動方向とを異ならせることで、移動の負荷によって微細針状体を束ねた毛束が撓むことで微細針状体同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0044】
また、移動機構の接触面の表面に、複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された複数の付着要素を備え、複数の付着要素の第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、複数の付着要素はそれぞれ、移動方向への移動によって毛束が撓んだ時に、毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、毛束同士が重なり合う領域の毛束が撓んだ方向側にできるように、第1の方向と移動方向とを異ならせることで、移動の負荷によって微細針状体を束ねた毛束が撓むことで微細針状体同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0045】
さらに、移動機構の接触面の表面に、複数の微細針状体が配列された毛帯が、複数本、規則的に配列された付着要素を備え、複数の毛帯の長手方向および長手方向に直交する短手方向と、移動方向とを異ならせることで、移動の負荷によって微細針状体が配列された毛帯が撓むことで微細針状体同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】移動機構の第1の実施の形態を示す模式図である。
【図2】第1の実施の形態における車輪の移動方向と細毛の配置との関係を示す模式図である。
【図3】付着要素の詳細を示す模式図である。
【図4】移動機構の第2の実施の形態を示す模式図である。
【図5】移動機構の第3の実施の形態を示す模式図である。
【図6】移動機構の第4の実施の形態を示す模式図である。
【図7】移動機構の第5の実施の形態に用いられる付着要素を示す模式図である。
【図8】移動機構の第6の実施の形態に用いられる付着要素を示す模式図である。
【図9】移動機構の第7の実施の形態を示す模式図である。
【図10】ファインデルワールス吸着とその課題について説明するための模式図である。
【図11】細毛の密度と付着力との関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限らない。なお、図中、同一あるいは同等の部分には同一の番号を付与し、重複する説明は省略する。
【0048】
最初に、ファインデルワールス吸着とその課題について、図10および図11を用いて確認する。図10は、ファインデルワールス吸着とその課題について確認するための模式図で、図10(a)は自由状態を示す図、図10(b)は付着状態を示す図、図10(c)は移動状態を示す図である。
【0049】
図10(a)において、移動機構1の接触面2の表面には、細長くて柔軟な細毛4が規則的に配列された付着要素3が形成されている。一方、被接触物9の被接触面91には、ミクロに見ると大小の凹凸がある。通常は、被接触面91が一般的な平面の場合には100μm程度の凹凸が存在するし、研磨面であっても1μm程度の凹凸が残存している。
【0050】
そのため、図10(a)に破線で示すように、細毛4を有しない移動機構1の接触面2が、被接触面91に直接接触しても、実際の接触面積は非常に小さく、ファインデルワールス力によって付着することはできない。
【0051】
図10(b)において、移動機構1が図の下から上の方向に力を受けて、被接触物9に押しつけられると、細毛4の有する柔軟性によって、細毛4が被接触面91の大小の凹凸に追従して、細毛4と被接触面91との間にファインデルワールス力が発生し、付着力Faが働いて、移動機構1は被接触物9に付着することができる。
【0052】
しかしながら、図10(c)において、図10(b)の付着状態から、移動機構1が図の左方向に力を受けて移動を開始すると、付着するために重要な機能である細毛4の柔軟性のために、細毛4は同一方向(図の右方向)に大きく撓んで、図中に破線の楕円で示したように、細毛4同士が接触あるいは重なり合って干渉し合い、図10(b)のような理想的な付着条件を逸脱して付着力Faが低下し、移動機構1は、付着状態を維持できずに落下してしまう。
【0053】
この状態を、図11を用いて説明する。図11は、細毛4の配列の密度Dと付着力Faとの関係を示す模式図である。
【0054】
図11において、実線で示した図10(b)の付着時の状態では、細毛4の配列の密度Dが高くなればなるほど、付着力Faは大きくなる。一方、図10(c)の移動時の状態では、破線で示したように、細毛4の配列の密度Dが低い時には、密度Dが高くなれば付着力Faは大きくなるが、密度Dがある程度以上高くなると、逆に付着力Faが低下する。
【0055】
これは、上述したように、細毛4が同一方向に大きく撓んで、細毛4同士が接触あるいは重なり合って干渉し合い、理想的な付着条件を逸脱して付着力Faが低下してしまうためであり、これが本発明の課題である。
【0056】
次に、本発明における移動機構の第1の実施の形態について、図1から図3を用いて説明する。図1は、移動機構の第1の実施の形態を示す模式図であり、図1(a)は移動機構の構成を示す斜視模式図で、図1(b)は移動時の細毛の状態を示す断面模式図である。
【0057】
図1(a)において、車輪1は、走行路91に対向する接触面2の表面に、図10(a)に示したような細長くて柔軟な細毛4が規則的に配列された付着要素3が形成されている。車輪1は、回転軸1aを中心に図の反時計回りに回転して、走行路91上を図示した移動方向Aに移動する。走行路91は、移動方向Aに直交する方向Bに傾斜のない面である。従って、付着要素3は、移動方向Aに平行な力を受ける。ここに、車輪1は本発明における移動機構として機能し、走行路91は本発明における被接触物の被接触面として機能する。
【0058】
図1(b)において、車輪1は、図の反時計回りに回転することで、接触面2の表面に形成された細毛4の内の走行路91に対向する位置の細毛4が、図の左側で走行路91に付着して右側で離反する動作を順に繰り返しながら、移動方向Aに移動する。付着要素3は移動方向Aと逆向きの力を受けるので、細毛4は移動方向A側に撓む。
【0059】
細毛4は、先端の移動方向Aに垂直な方向の断面幅が100μm以下で、弾性率の低い材料で形成されることが好ましく、実験的には、例えばゴム等の低弾性率材料で形成された細毛であれば、全長Lと断面幅dとの比、つまりアスペクト比(=L/d))が2以上あれば、実用可能なファンデルワールス力を得ることができることが知られている。
【0060】
図2は、第1の実施の形態における車輪の移動方向と細毛の配置との関係を示す模式図で、図2(a)は本発明の課題が発生する場合を示し、図2(b)は本発明の課題を解決する方法を示す。なお、ここでは細毛4の断面を円形として説明するが、これに限るものではなく、例えば楕円形、三角形、矩形、多角形等であってもよい。
【0061】
図2(a)において、付着要素3の細毛4は、車輪1の接触面2の表面に、車輪1の移動方向Aに平行な第1の方向a1に第1のピッチp1で規則的に配列されているとともに、第1の方向a1に直交する第2の方向a2に第2のピッチp2で規則的に配列されている。図では、41、42、43および44の4本の細毛4を例示している。
【0062】
細毛4の密度Dを高くしてファンデルワールス力による付着力Faを大きくするためには、第1のピッチp1および第2のピッチp2は狭くする必要があり、細毛4の長さLに対して、
p1≦L、かつ、p2≦L・・・(1式)
であることが好ましい。
【0063】
さらに、
p1=p2
とすることで、細毛4の密度Dを最大にすることができる。
【0064】
上述したように、車輪1が移動方向Aに移動すると、細毛4は移動方向A側に撓む。つまり、細毛4の撓み方向=移動方向Aである。細毛41および43が撓んだ状況を、撓んだ細毛41aおよび43aとして一点鎖線で図示する。これから分かるように、移動方向Aに撓んだ細毛41aおよび43aは、第1の方向a1に隣接する細毛42および44に接触し、重なり合って干渉し合う。
【0065】
細毛42および44も、同様に、図示しない第1の方向a1に隣接する細毛4に接触し、重なり合って干渉し合う。このようにして、細毛4同士が接触あるいは重なり合って干渉し合い、理想的な付着条件を逸脱して付着力Faが低下してしまう。
【0066】
そこで、図2(b)においては、付着要素3の細毛4は、図2(a)と同様に、第1の方向a1に第1のピッチp1で規則的に配列されているとともに、第1の方向a1に直交する第2の方向a2に第2のピッチp2で規則的に配列されているが、第1の方向a1は、車輪1の移動方向Aと第1の角度αだけ傾けてある。
【0067】
このような配置にすることで、細毛41および43が移動方向A側に撓んでも、撓んだ細毛41aおよび43aが第1の方向a1に隣接する細毛42および44に接触することはなく、細毛41と422および細毛43と44とが干渉し合うことはない。なお、第1の角度αは、撓んだ細毛41aが第1の方向a1に隣接する細毛42と、細毛42の第2の方向a2に隣接する細毛44との間を通るように決定されればよい。
【0068】
この場合、第2の方向a2の第2のピッチp2は、細毛4の移動方向Aに略垂直な方向の断面幅dに対して、
p2≧2×d・・・(2式)
である必要がある。
【0069】
次に、移動機構の第1の実施の形態の付着要素の詳細について、図3を用いて説明する。図3は、付着要素の詳細を示す模式図で、図3(a)は付着要素における細毛の配置の一般形を示し、図3(b)は移動方向と細毛の配置との限界条件を示す。
【0070】
図3(a)において、細毛4の規則的な配置は、以下のように一般化して表すことができる。即ち、細毛4は、車輪1の移動方向Aに対して第1の角度αだけ傾いた第1の方向a1に第1のピッチp1で規則的に配列されているとともに、移動方向Aに対して第1の角度αよりも大きな第2の角度βだけ傾いた第2の方向a2に第2のピッチp2で規則的に配列されている。
【0071】
図3(a)では、第1の細毛41と、第1の細毛41から第1の方向a1に第1のピッチp1離れた位置にある第2の細毛42、第1の細毛41から第2の方向a2に第2のピッチp2離れた位置にある第3の細毛43、および第3の細毛43から第1の方向a1に第1のピッチp1離れた位置にある第4の細毛44を例示している。この時、第4の細毛44は、第2の細毛42から第2の方向a2に第2のピッチp2離れた位置にある。
【0072】
例えば、図2(a)に示したような矩形の格子の頂点への配置であれば、図3(a)の第1の方向a1と第2の方向a2とを直交(α+β=90°)させればよく、特に第1のピッチp1と第2のピッチp2とを等しくすれば、正方格子の頂点に細毛4を配置することができる。また、例えば第1の方向a1と第2の方向a2とのなす角度を60°(α+β=60°)にして第1のピッチp1と第2のピッチp2とを等しくすれば、正三角形の頂点に細毛4を配置することができる。
【0073】
図3(b)において、図3(a)に示した細毛の配置で、図2(b)のように撓んだ細毛41aが細毛42と干渉せずに、細毛42と細毛44の間を通る限界条件は、図示したように、撓んだ細毛41aが細毛42に接する条件、即ち、
sin(α/2)=(d/2)/p1
である。これから、
α≧2×sin−1((d/2)/p1)・・・(3式)
を満たせば、細毛4同士が干渉しないことが分かる。
【0074】
上述したように、移動機構の第1の実施の形態によれば、車輪の接触面の表面に、車輪の移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された複数の細毛を有する付着要素を備え、第1の角度をα、第1のピッチをp1、細毛の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとした時に、(3式)を満足することで、移動の負荷によって細毛が撓むことで細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる車輪を提供することができる。
【0075】
次に、本発明における移動機構の第2の実施の形態について、図4を用いて説明する。図4は、移動機構の第2の実施の形態を示す模式図であり、図4(a)は移動機構の構成を示す側面模式図であり、図4(b)は移動機構に設けられた付着要素の構成を示す模式図であり、図4(c)は付着要素が受ける力を示す模式図である。
【0076】
図4(a)において、車両等の自走装置10は、車体11に取り付けられた車輪1の接触面2の表面に付着要素3が設けられており、これによって、急角度の斜面91も走行可能となっている。斜面91は、移動方向Aに直交する方向Bに傾斜を有する面である。ここに、車輪1は本発明における移動機構として機能し、斜面91は本発明における被接触物の被接触面として機能する。
【0077】
図4(b)において、車輪1の接触面2の表面上には、上述した第1の実施の形態の付着要素3と同様の構成を持つ第1の付着要素31と第2の付着要素32との2つの付着要素3が設けられている。第1の付着要素31の第1の方向a11と、第2の付着要素32の第1の方向a12とは異なる方向である。
【0078】
2つの付着要素3のその他の条件、例えば第1のピッチp1や細毛4の移動方向Aに略垂直な方向の断面幅d等は、第1の実施の形態の付着要素3と同じであるとするが、異なっていてもよい。
【0079】
そして、第1の付着要素31の第1の方向a11と自走装置10の移動方向Aとのなす第1の角度α1が(3式)を満たす。即ち、
α1≧2×sin−1((d/2)/p1)・・・(3−1式)
であり、第2の付着要素32の第1の方向a12と自走装置10の移動方向Aとのなす第1の角度α2も(3式)を満たす。即ち、
α2≧2×sin−1((d/2)/p1)・・・(3−2式)
である。
【0080】
斜面91を走行する場合、図4(c)に示すように、車輪1は、移動方向Aの力Fxに加えて、移動方向Aに直交する方向Bに重力による力Gを受ける。従って、付着要素3は、力Fxと力Gとの合力Fを受ける。つまり、細毛4の撓み方向は合力Fの方向である。
【0081】
この場合に、例えば第1の付着要素31の第1の方向a11と合力Fの方向とが一致すると、第1の付着要素31の細毛4は、合力Fを受けて撓み、細毛4同士の干渉等によって付着力を失う。従って、もし車輪1が第1の付着要素しか備えていなければ、自走装置10は斜面91を滑り落ちてしまう。
【0082】
しかし、第2の実施の形態では、第1の付着要素31の第1の方向a11と合力Fの方向とが一致しても、第2の付着要素32の第1の方向a12と合力Fの方向とは一致しないので、付着要素32の付着力は変化なく、自走装置10が斜面91を滑り落ちてしまうことはない。これは、自走装置10が斜面91上で静止している場合でも同じである。
【0083】
付着要素の数は、3つ以上であってもよい。付着要素の数をm(mは2以上の正の整数)とすると、n番目の付着要素3n(nは2以上m以下の正の整数)の第1の角度αnは、付着要素3nの第1のピッチをp1n、細毛4の移動方向Aに略垂直な方向の断面幅をdnとすると、
αn≧2×sin−1((dn/2)/p1n)・・・(3−n式)
を満たす。
【0084】
上述したように、移動機構の第2の実施の形態によれば、車輪の接触面の表面に、第1の付着要素と第2の付着要素とを設ける。第1および第2の付着要素はそれぞれ、車輪の移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された細毛を有し、それぞれの付着要素の第1の方向が異なる。
【0085】
そして、それぞれの付着要素の第1の角度をαn、第1のピッチをp1n、細毛の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdnとした時に(3−n式)を満足する。これによって、移動の負荷によって細毛が撓むことで細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0086】
次に、本発明における移動機構の第3の実施の形態について、図5を用いて説明する。図5は、移動機構の第3の実施の形態を示す模式図であり、図5(a)は移動機構の構成を示す断面模式図であり、図5(b)および(c)はそれぞれ付着要素の構成の1例を示す模式図である。第1および第2の実施の形態は、移動機構自身が移動する例であったが、第3の実施の形態は、被接触物に付着して移動させる例である。
【0087】
図5(a)において、クラッチ装置5は、駆動円板1と従動円板9等とで構成される。駆動円板1の接触面2の表面には、第1の実施の形態と同様の付着要素3が設けられており、付着要素3で従動円板9の被接触面91に付着することで、図示しない駆動源によって駆動円板1の駆動軸1aに加えられる回転力が、従動円板9の従動軸9aに伝達される。ここに、駆動円板1は、本発明における移動機構として機能し、従動円板9は、本発明における被接触物として機能する。
【0088】
図5(b)において、駆動円板1の接触面2の表面の付着要素3は、第1の方向a1が接触面2の外周端から内周端に向かって大きな弧を描く方向となるように、細毛4が規則正しく配列されている。そして細毛4は、第1の方向a1と駆動円板1の回転方向Aとがなす第1の角度αが(3式)を満足するように配置されている。ここに、駆動円板1の回転方向Aは、本発明における移動方向として機能する。
【0089】
図5(c)において、駆動円板1の接触面2の表面の付着要素3は、第1の方向a1が接触面2の内周端から外周端に向かう方向となるように、細毛4が規則正しく配列されている。そして細毛4は、第1の方向a1と駆動円板1の回転方向A即ち移動方向Aとがなす第1の角度αが(3式)を満足するように配置されている。
【0090】
図5(b)あるいは図5(c)のような構成をとることによって、駆動円板1が回転方向Aの方向に回転しても、付着要素3の細毛4同士が干渉することがないので、付着要素3の付着力が低下することはなく、駆動円板1の回転を、効率よく従動円板9に伝達することができる。なお、第3の実施の形態での細毛4の撓み方向は、図10と同様に、移動方向Aとは逆の方向である。
【0091】
上述したように、第3の実施の形態によれば、駆動円板の接触面の表面に、第1の方向と駆動円板の回転方向とがなす第1の角度αが(3式)を満足するように配置された細毛で構成される付着要素を備えることで、駆動円板の回転によって細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱することがなく、駆動円板の回転を効率よく従動円板に伝達することができるクラッチ装置を提供することができる。
【0092】
次に、本発明における移動機構の第4の実施の形態について、図6を用いて説明する。図6は、移動機構の第4の実施の形態を示す模式図で、図6(a)は移動機構の構成を示す斜視模式図であり、図6(b)は付着要素が受ける力を示す模式図である。第4の実施の形態も、被接触物に付着して移動させる例である。
【0093】
図6(a)において、空港等で用いられる手荷物分配装置1は、回転軸1aの周りに回転方向Aの方向に回転する斜面2を有している。斜面2の表面には、第1の実施の形態と同様の付着要素3が形成されており、手荷物9が斜面2の上に載せられて、回転方向Aの方向に搬送されて分配される。付着要素3の細毛4は、第1の方向a1と手荷物分配装置1の回転方向A即ち移動方向Aとがなす第1の角度αが(3式)を満足するように配置されている。
【0094】
ここに、手荷物分配装置1は本発明における移動機構として機能し、同様に、回転方向Aは本発明における移動方向として、斜面2は本発明における接触面として、手荷物9は本発明における被接触物として機能する。
【0095】
手荷物分配装置1が一定速度で回転している場合、手荷物9は重力による力Gを受けながら回転方向Aに回転する。この場合、細毛4は回転方向Aに直交する力Gの方向に撓むが、撓み方向と第1の方向a1とが異なるために細毛4同士が干渉することがなく、手荷物9の被接触面91に対する付着要素3の付着力が保たれるので、手荷物9が斜面2から落下することはなく、手荷物9の破損を防止できる。
【0096】
また、手荷物分配装置1が回転方向Aの方に加速、減速した場合、図6(b)に示すように、手荷物9は重力による力Gと加速、減速による回転方向Aの力Fxとの合力Fを受ける。つまり、細毛4は力Fの方向に撓む。しかし、この場合でも撓み方向と第1の方向a1とが異なるために細毛4同士が干渉することがなく、手荷物9の被接触面91に対する付着要素3の付着力が保たれるので、手荷物9が斜面2から落下することはない。
【0097】
さらに、重力による力Gに対する付着力が安定しているので、斜面の下方に置かれた手荷物9であっても上方の手荷物9の負荷を受けることがなく、下方の手荷物9であっても簡単に取り上げることができる。
【0098】
上述したように、第4の実施の形態によれば、手荷物分配装置の斜面の表面に、第1の方向と手荷物分配装置の回転方向とがなす第1の角度αが(3式)を満足するように配置された細毛で構成される付着要素を備えることで、駆動円板の回転によって細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱することがなく、手荷物の落下を防止することができる手荷物分配装置を提供することができる。
【0099】
次に、本発明における移動機構の第5の実施の形態について、図7を用いて説明する。第1から第4の実施の形態では、細毛4が規則正しく配列された付着要素3を用いた移動機構1について述べたが、第5の実施の形態では、例えばカーボンナノチューブ(以下、CNTと言う)のような微細針状体7aを複数本束ねた毛束7が規則正しく配列された付着要素3を用いた移動機構について説明する。
【0100】
CNTの微細針状体7aは、シリコン基板等の金属触媒の上にアセチレンガスを通して加熱し、アセチレンを分解することで、シリコン基板上に長さと径とが揃ったCNTを垂直方向に成長させることで形成することができる。CNTの成長は、金属触媒の面状態等に影響されると考えられ、必ずしも規則的な配置で成長するものではない。
【0101】
CNTの合成方法の例については、例えば、独立行政法人産業技術総合研究所のプレスリリース(単層カーボンナノチューブの安価な大量合成法を開発:http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2007/pr20070207/pr20070207.html:2009年11月20日に検索)等に詳述されている。
【0102】
上述した方法で生成されたCNTの微細針状体7aは、1本の大きさが、例えば直径が10nm程度で長さが100μm程度である。そして、その密度Dは、概略50%以下である。それ以上に密度Dが高くなると、複数本のCNTがくっついて成長する。CNTの微細針状体7aは、1本でもファンデルワールス力を得ることができる。
【0103】
図7は、移動機構の第5の実施の形態に用いられる付着要素を示す模式図で、図7(a)は微細針状体を束ねた毛束の構成を示す模式図で、図7(b)は毛束を用いた付着要素の構成を示す模式図である。
【0104】
図7(a)において、上述したような方法で形成されたCNTの微細針状体7aを、予め毛束7のパターンが設けられたテープ等に転写することで、微細針状体7aを束ねた毛束7が規則的に配列された付着要素3を得ることができる。移動機構1の接触面2の表面に貼り付けられる。微細針状体7aを束ねた状態でもファンデルワールス力を得ることができるように、毛束7の径dは微細針状体7aの長さL以下(上述した例では、略100μm以下)が好ましい。
【0105】
図7(b)において、図3(a)および(b)に示したと同様に、付着要素3の毛束7は、移動方向Aに対して第1の角度αだけ傾いた第1の方向a1に第1のピッチp1で規則的に配列されているとともに、移動方向Aに対して第1の角度αよりも大きな第2の角度βだけ傾いた第2の方向a2に第2のピッチp2で規則的に配列されている。
【0106】
ここでは、第1の毛束71と、第1の毛束71から第1の方向a1に第1のピッチp1離れた位置にある第2の毛束72、第1の毛束71から第2の方向a2に第2のピッチp2離れた位置にある第3の毛束73、および第3の毛束73から第1の方向a1に第1のピッチp1離れた位置にある第4の毛束74を例示している。この時、第4の毛束74は、第2の毛束72から第2の方向a2に第2のピッチp2離れた位置にある。毛束7は、略円形をしており、毛束74に例示したように、毛束7の内部は、微細針状体7aが配列されている。
【0107】
第1の実施の形態の付着要素3と同様に、ファンデルワールス力による付着力Faを大きくするために、第1のピッチp1および第2のピッチp2は、毛束7の長さLに対して、
p1≦L、かつ、p2≦L・・・(1式)
であることが好ましい。さらに、
p2≧2×d・・・(2式)
であることが好ましい。
【0108】
また、付着要素3の第1の角度αは、
α≧2×sin−1((d/2)/p1)・・・(3式)
を満たす。
【0109】
上述した構成によって、第1の実施の形態の付着要素3と同様に、付着要素3が移動方向Aに移動した場合に、毛束同士が干渉することなく移動方向Aに撓むことができ、ファンデルワールス力による付着力が低下することなく、付着しながら移動することができる。
【0110】
上述した微細針状体7aを束ねた毛束7が規則的に配列された付着要素3を、移動機構の第1の実施の形態である車輪1に適用すると、車輪1の移動によって毛束7に移動方向Aの力が加わると、各微細針状体7aは、弾性変形を起こしながら移動方向Aに撓んでいく。撓みが大きくなると、毛束7内部での微細針状体7aの相互干渉が発生するが、微細針状体7aの密度Dが高くないので、干渉による付着力の低下はあまり大きくならない。
【0111】
さらに撓みが大きくなると、毛束7の中で微細針状体7aが逃げるスペースがなくなり、毛束7があたかも1本の細毛であるかのごとく振舞う。この場合でも、各微細針状体7aは各々独立しているために、毛束7を1本の細毛とみなした時のバネ定数は、CNT自身の弾性率(約106MPa)よりも3桁程度小さくなる。これによって、CNTの微細針状体7aを束ねた毛束7は、例えば同等の径および長さのゴム製の細毛に比べて、非常に強いファンデルワールス力を得ることができる。
【0112】
なお、第5の実施の形態の付着要素3は、移動機構の第1の実施の形態だけでなく、移動機構の第2から第4の実施の形態にも適用可能である。
【0113】
上述したように、第5の実施の形態によれば、微細針状体を束ねた毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された付着要素を備え、第1の角度をα、第1のピッチをp1、細毛の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとした時に、(3式)を満足することで、自重や外力等による負荷によって毛束が干渉して理想的な付着条件を逸脱し、付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0114】
次に、本発明における移動機構の第6の実施の形態について、図8を用いて説明する。図8は、移動機構の第6の実施の形態に用いられる付着要素を示す模式図である。
【0115】
図8において、第6の実施の形態の付着要素3は、図7(a)に示した第5の実施の形態の付着要素3と同様に、CNTの微細針状体7aを束ねた毛束7が規則的に配列されたもので、この例では、毛束7の形状は略正方形に形成されている。もちろん、第5の実施の形態の付着要素3の毛束7と同様に略円形でもよいし、その他の形状でもよい。第6の実施の形態の付着要素3は、第5の実施の形態の付着要素3に比べて上述した(2式)を満たさないところまで毛束7の間隔が狭くなっている。
【0116】
毛束7は、移動方向Aに対して第1の角度αだけ傾いた第1の方向a1に第1のピッチp1で規則的に配列されているとともに、移動方向Aに対して第1の角度αよりも大きな第2の角度βだけ傾いた第2の方向a2に第2のピッチp2で規則的に配列されている。
【0117】
ここでは、第1の毛束71と、第1の毛束71から第1の方向a1に第1のピッチp1離れた位置にある第2の毛束72および第1の毛束71から第2の方向a2に第2のピッチp2離れた位置にある第3の毛束73を例示している。毛束73に例示したように、毛束7の内部は、微細針状体7aが配列されている。
【0118】
第6の実施の形態の付着要素3では、付着要素3の移動方向Aへの移動によって毛束7が撓んだ時に、第1の毛束71と第2の毛束72とが重なり合う領域S2の面積よりも大きな面積を有するスペースS1が、領域S2の第1の毛束71と第2の毛束72とが撓んだ方向側にできるように、第1の方向a1と移動方向Aとを異ならせて、規則的に配置されている。
【0119】
上述したように、毛束7の間隔は上述した(2式)を満たさないところまで狭くなっているので、付着要素3が移動方向Aへ移動すれば毛束7同士は重なり合うが、毛束7の微細針状体7aの密度Dは50%以下とそれほど高くないので、第1の毛束71と第2の毛束72とが重なり合っても、相互干渉はあまり大きくならない。よって、付着力の低下は大きくなく、むしろ、毛束7同士の間隔を狭くすることによる付着力の増加の方が大きくなる。
【0120】
さらに撓みが大きくなって毛束7の中で微細針状体7aが逃げるスペースがなくなっても、第1の毛束71と第2の毛束72とが重なり合って倒れ込む方向に重なり合う領域S2の面積よりも大きな面積を有するスペースS1が保たれていれば、重なり合った微細針状体7a同士がスペースS1に倒れ込むことができるので、微細針状体7a同士が詰まって柔軟性を失うことがなく、付着力が低下することが余りない。
【0121】
なお、第6の実施の形態の付着要素3は、上述した移動機構の第1から第4の実施の形態の何れにも適用することができる。
【0122】
上述したように、第6の実施の形態によれば、微細針状体を束ねた毛束が規則的に配列された付着要素を有する移動機構で、付着要素が移動方向へ移動することで毛束が撓んだ時に、毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、毛束同時が重なり合う領域の毛束が撓んだ方向側にできるように、第1の方向と移動方向とを異ならせることで、自重や外力等による負荷によって細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し、付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0123】
次に、本発明における移動機構の第7の実施の形態について、図9を用いて説明する。図9は、移動機構の第7の実施の形態を示す模式図である。
【0124】
微細針状体の集合体においては、第5および第6の実施の形態のように、微細針状体の撓み方向に平行な方向には隙間が必要である。しかし、微細針状体の撓み方向に平行でない方向は、微細針状体の密度が上がらない限り、隙間がなくても被接触面の凹凸への追従性は変わらない。むしろ、撓み方向に平行でない方向は隙間を設けずに繋がっていた方が、単位面積当たりの付着力が大きくなる。
【0125】
そこで、第7の実施の形態では、付着要素3を、複数の微細針状体7aが配列された、撓み方向に平行でない方向に隙間のない毛帯7を用いて構成している。
【0126】
図9において、移動機構の第7の実施の形態は、第1の実施の形態と同じ車輪1である。車輪1は、回転軸1aの周りに回転しながら、図の紙面奥から手前に移動するものとする。よって、車輪1の走行路91と接する接触面2は、図の矢印A方向に移動する。接触面2の表面には、付着要素3が形成されている。
【0127】
付着要素3は、複数の微細針状体7aが配列された幅x1の複数の毛帯7が、隙間x2を開けて平行に規則的に配列されている。
【0128】
ただし、毛帯7を車輪1と走行路91との接触位置に平行に配置すると、車輪1と走行路91との接触面積が小さいために、車輪1の回転によって、毛帯7が設けられた部分が接触している場合と隙間の部分が接触している場合とで付着力が大きく異なって、車輪1の駆動にムラが発生し、極端な場合はスリップしてしまう。
【0129】
そこで、第7の実施の形態では、毛帯7の長手方向a2および長手方向a2と直交する短手方向a1と、移動方向Aとを、角度θを持たせて異ならせてある。角度θの値は、実際の駆動条件等によって適宜決定されればよい。
【0130】
毛帯7の幅x1は、微細針状体7aの長さL以下であることが好ましい。また、毛帯7の隙間x2は、微細針状体7aの長さL以下で、かつ微細針状体7aの長さLの1/2以上であることが好ましい。これによって、車輪1の回転に対して常にほぼ一定の付着力が得られ、安定した駆動が行える。
【0131】
なお、第7の実施の形態の付着要素3は、移動機構の第1の実施の形態だけでなく、移動機構の第2から第4の実施の形態にも適用可能である。
【0132】
上述したように、第7の実施の形態によれば、微細針状体を束ねた複数の毛帯で構成される付着要素が規則的に配列された移動機構で、毛帯の長手方向および長手方向に直交する短手方向と、移動方向とを異ならせることで、自重や外力等による負荷によって細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し、付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0133】
以上に述べたように、本発明によれば、移動機構の接触面の表面に、複数の細毛あるいは複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された付着要素を備え、第1の角度をα、第1のピッチをp1、細毛あるいは毛束の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとした時に、(3式)を満足することで、移動の負荷によって細毛あるいは毛束が撓むことで細毛同士あるいは毛束同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0134】
また、移動機構の接触面の表面に、複数の細毛あるいは複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された複数の付着要素を備え、複数の付着要素の第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、第nの付着要素の第1の角度をαn、第1のピッチをp1n、細毛あるいは毛束の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdnとした時に、(3−n式)を満足することで、移動の負荷によって細毛あるいは毛束が撓むことで細毛同士あるいは毛束同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0135】
さらに、移動機構の接触面の表面に、複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された付着要素を備え、移動方向への移動によって毛束が撓んだ時に、毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、毛束同士が重なり合う領域の毛束が撓んだ方向側にできるように、第1の方向と移動方向とを異ならせることで、移動の負荷によって微細針状体を束ねた毛束が撓むことで微細針状体同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0136】
また、移動機構の接触面の表面に、複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された複数の付着要素を備え、複数の付着要素の第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、複数の付着要素はそれぞれ、移動方向への移動によって毛束が撓んだ時に、毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、毛束同士が重なり合う領域の毛束が撓んだ方向側にできるように、第1の方向と移動方向とを異ならせることで、移動の負荷によって微細針状体を束ねた毛束が撓むことで微細針状体同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0137】
さらに、移動機構の接触面の表面に、複数の微細針状体が配列された毛帯が、複数本、規則的に配列された付着要素を備え、複数の毛帯の長手方向および長手方向に直交する短手方向と、移動方向とを異ならせることで、移動の負荷によって微細針状体が配列された毛帯が撓むことで微細針状体同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0138】
なお、本発明に係る移動機構を構成する各構成の細部構成および細部動作に関しては、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0139】
1 移動機構、車輪、駆動円板、手荷物分配装置
1a 駆動軸、回転軸
10 自走装置
11 車体
2 (移動機構1の)接触面、斜面
3 付着要素
31 第1の付着要素
3b 第2の付着要素
4 細毛、毛束、毛帯
41 第1の細毛、第1の毛束
42 第2の細毛、第2の毛束
43 第3の細毛、第3の毛束
4a (カーボンナノチューブの)微細針状体
9 被接触物、従動円板、手荷物
9a 従動軸
91 被接触面、走行路、斜面
5 クラッチ装置
A 移動方向、回転方向
a1、a11、a12 第1の方向
a2 第2の方向
α (移動方向と第1の方向とのなす)第1の角度
β (移動方向と第2の方向とのなす)第2の角度
p1、p11、p12 第1のピッチ
p2 第2のピッチ
d、d1、d2 (細毛の移動方向に略垂直な)断面幅
L (細毛、または微細針状体の)全長
D (細毛、または微細針状体の)密度
S1 スペースの面積
S2 毛束と毛束とが重なり合う領域の面積
x1 (毛帯の)幅
x2 (毛帯の)隙間
θ 毛帯の短手方向と移動方向とがなす角度
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動機構に関し、特にファンデルワールス力を利用した付着要素を用いた移動機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療用マイクロロボットが盛んに研究されている。ただ、現時点では、医療用マイクロロボットの活躍できる領域は、例えばカプセル型内視鏡のように、大腸や小腸に限られている。このため、胃の検査を含めて、ファイバスコープの牙城を崩すに至っていない。その要因の一つは、医療用マイクロロボットの移動が、大腸や小腸の蠕動運動に依存しているため、思い通りの検査が行えないためである。
【0003】
そのため、体内を自由に移動できる医療用マイクロロボットの開発が急務となっており、ロボットの移動機構として様々な方式が研究されている。従来からある移動機構の代表としては、摩擦によって推力を得る車輪がある。車輪は1つのアクチュエータで効率よく移動可能な優れた発明であるが、摩擦力が斜度のコサインで決まるため、斜度が大きくなると斜面を登りきれず、移動可能な範囲が限定される。
【0004】
そこで、近年研究されているロボットの移動機構は、摩擦に頼る欠点を補うために、付着要素を追加したものが多い。例えば尺取り虫タイプ、多脚昆虫タイプ等様々な方式が考えられている。
【0005】
しかし、従来からあるパッシブな付着要素は、例えば粘着テープ等のように、汚染に対して弱く、耐久性に問題があり、ロボットの付着要素としては採用が不可能であった。そのため、付着要素として、ポンプを用いた吸盤等のような制御性の良いもの、即ちアクティブな付着要素が選択される場合も多かった。
【0006】
ところが、近年になり、ヤモリの足毛の構造を真似て、ファンデルワールス力によって付着する耐久性の高い付着要素が開発されつつあり、ロボットへの応用が考えられつつある。
【0007】
ファンデルワールス力とは、電荷を持たない中性の原子、分子間などで主となって働く凝集力の総称で、そのポテンシャルエネルギーは距離の6乗に反比例する。すなわち力の到達距離は短く且つ非常に弱い。そして、ファンデルワールス力による吸着をファンデルワールス吸着と呼び、ヤモリが壁や天井等を場所や壁面の状態を問わずに歩けるのは、その四肢にある独特の細毛構造によって、四肢の細毛と壁面との間にファンデルワールス吸着を発生させているためではないかと言われている。
【0008】
例えば特許文献1には、嚢胞に蓄えた気体の浮力で浮揚し、脚先の付着要素によるファンデルワールス力によって天井や側壁面に取り付くロボットが開示されている。
【0009】
また、例えば特許文献2には、片持ち梁構造の長手の先端に電荷を蓄積することでダイポールを発生させ、ファンデルワールス力によって吸着面と吸着体との間に吸着力を発生させる方法と、それを用いたロボットとが開示されている。
【0010】
さらに、特許文献3には、規則的に配列された針状の突起を配置した複数の付着面を有するロボットで、付着面に異なる付着方向性を持たせて、付着方向での逃げを防止する方法が開示されている。
【0011】
また、特許文献4には、規則的に配列された突起をナノインプリント法で形成することで、面ファスナーを製造する方法が開示されている。
【0012】
さらに、非特許文献1では、ヤモリの足毛を真似て、カーボンナノチューブを細長い柱状に分割することで、ファンデルワールス力による付着力が大きくなることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−349517号公報
【特許文献2】特開2007−236174号公報
【特許文献3】国際公開第2007/0121450号
【特許文献4】特表2007−528765号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】PNAS(米国科学アカデミー紀要),JUNE 26,2007,vol.104,no.26,10792−10795
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1から4および非特許文献1で考慮されているのは、付着のみで、付着した状態から移動する場合の対応に関しては考慮されていない。
【0016】
そのため、移動のために、細毛が自重や外力等によって被接触面に強く押しつけられたり、被接触面に平行な力を受けたりすると、細毛が撓んだり、細毛同士が重なり合って干渉し合ったりすることで理想的な付着条件を逸脱し、付着力が低下して、滑って移動できなくなったり、壁面から落下したり、斜面を滑り落ちたりするという不具合が発生する。
【0017】
自重や外力等に負けないように、細毛を撓まない剛毛としたのでは、多様な壁面に対応できず、ファンデルワールス吸着そのものを発生させることができない。
【0018】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、自重や外力等による負荷によって細毛が撓むことで、細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し、付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の目的は、下記構成により達成することができる。
【0020】
1.被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
前記付着要素は、
複数の細毛が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、前記移動方向に対して前記第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
前記第1の角度をα、前記第1のピッチをp1、前記細毛の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとすると、
α≧2×sin−1((d/2)/p1)・・・(3式)
であることを特徴とする移動機構。
【0021】
2.前記細毛の長さをLとすると、
前記第1のピッチp1は、
p1≦L
であることを特徴とする前記1に記載の移動機構。
【0022】
3.前記第2のピッチをp2とすると、
p2≧2×d
であることを特徴とする前記1または2に記載の移動機構。
【0023】
4.被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された複数の付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
複数の前記付着要素は、それぞれ、
複数の細毛が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、前記移動方向に対して前記第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
複数の前記付着要素の前記第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、
第n(nは正の整数)の前記付着要素の前記第1の角度をαnとし、
第nの前記付着要素の前記第1のピッチをp1nとし、
第nの前記付着要素の前記細毛の前記移動方向に略垂直な方向の断面幅をdnとすると、
αn≧2×sin−1((dn/2)/p1n)・・・(3−n式)
であることを特徴とする移動機構。
【0024】
5.第nの前記付着要素の前記細毛の長さをLnとすると、
p1n≦Ln
であることを特徴とする前記4に記載の移動機構。
【0025】
6.第nの前記付着要素の前記第2のピッチをp2nとすると、
p2n≧2×dn
であることを特徴とする前記4または5に記載の移動機構。
【0026】
7.被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
前記付着要素は、
複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、前記移動方向に対して前記第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
前記第1の角度をα、前記第1のピッチをp1、前記毛束の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとすると、
α≧2×sin−1((d/2)/p1)・・・(3式)
であることを特徴とする移動機構。
【0027】
8.前記微細針状体の長さをLとすると、
前記第1のピッチp1は、
p1≦L
であることを特徴とする前記7に記載の移動機構。
【0028】
9.前記第2のピッチをp2とすると、
p2≧2×d
であることを特徴とする前記7または8に記載の移動機構。
【0029】
10.被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された複数の付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
複数の前記付着要素は、それぞれ、
複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、前記移動方向に対して前記第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
複数の前記付着要素の前記第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、
第n(nは正の整数)の前記付着要素の前記第1の角度をαnとし、
第nの前記付着要素の前記第1のピッチをp1nとし、
第nの前記付着要素の前記毛束の前記移動方向に略垂直な方向の断面幅をdnとすると、
αn≧2×sin−1((dn/2)/p1n)・・・(3−n式)
であることを特徴とする移動機構。
【0030】
11.第nの前記付着要素の前記微細針状体の長さをLnとすると、
p1n≦Ln
であることを特徴とする前記10に記載の移動機構。
【0031】
12.第nの前記付着要素の前記第2のピッチをp2nとすると、
p2n≧2×dn
であることを特徴とする前記10または11に記載の移動機構。
【0032】
13.被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
前記付着要素は、
複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
前記移動方向への移動によって前記毛束が撓んだ時に、前記毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、前記毛束同士が重なり合う領域の前記毛束が撓んだ方向側にできるように、前記第1の方向と前記移動方向とを異ならせたことを特徴とする移動機構。
【0033】
14.前記第1のピッチは、前記微細針状体の長さ以下であることを特徴とする前記13に記載の移動機構。
【0034】
15.被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された複数の付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
複数の前記付着要素は、それぞれ、
複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
複数の前記付着要素の前記第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、
前記移動方向への移動によって前記毛束が撓んだ時に、前記毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、前記毛束同士が重なり合う領域の前記毛束が撓んだ方向側にできるように、前記第1の方向と前記移動方向とを異ならせたことを特徴とする移動機構。
【0035】
16.複数の前記付着要素の前記第1のピッチは、それぞれの前記付着要素の前記微細針状体の長さ以下であることを特徴とする前記15に記載の移動機構。
【0036】
17.被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
前記付着要素は、
複数の微細針状体が配列された毛帯が、複数本、規則的に配列され、
複数の前記毛帯の長手方向および前記長手方向に直交する短手方向と、前記移動方向とを異ならせたことを特徴とする移動機構。
【0037】
18.前記毛帯の短手方向の幅は、前記微細針状体の長さ以下であることを特徴とする前記17に記載の移動機構。
【0038】
19.前記微細針状体の長さをLとし、
複数の前記毛帯の間隔をx2とすると、
L/2≦x2≦L
であることを特徴とする前記17または18に記載の移動機構。
【0039】
20.前記微細針状体は、カーボンナノチューブで構成されていることを特徴とする前記7から19の何れか1項に記載の移動機構。
【0040】
21.前記毛束の内部の前記微細針状体の密度が50%以下であることを特徴とする前記7から20の何れか1項に記載の移動機構。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、移動機構の接触面の表面に、複数の細毛あるいは複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された付着要素を備え、第1の角度をα、第1のピッチをp1、細毛あるいは毛束の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとした時に、(3式)を満足することで、移動の負荷によって細毛あるいは毛束が撓むことで細毛同士あるいは毛束同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0042】
また、移動機構の接触面の表面に、複数の細毛あるいは複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された複数の付着要素を備え、複数の付着要素の第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、第nの付着要素の第1の角度をαn、第1のピッチをp1n、細毛あるいは毛束の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdnとした時に、(3−n式)を満足することで、移動の負荷によって細毛あるいは毛束が撓むことで細毛同士あるいは毛束同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0043】
さらに、移動機構の接触面の表面に、複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された付着要素を備え、移動方向への移動によって毛束が撓んだ時に、毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、毛束同士が重なり合う領域の毛束が撓んだ方向側にできるように、第1の方向と移動方向とを異ならせることで、移動の負荷によって微細針状体を束ねた毛束が撓むことで微細針状体同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0044】
また、移動機構の接触面の表面に、複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された複数の付着要素を備え、複数の付着要素の第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、複数の付着要素はそれぞれ、移動方向への移動によって毛束が撓んだ時に、毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、毛束同士が重なり合う領域の毛束が撓んだ方向側にできるように、第1の方向と移動方向とを異ならせることで、移動の負荷によって微細針状体を束ねた毛束が撓むことで微細針状体同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0045】
さらに、移動機構の接触面の表面に、複数の微細針状体が配列された毛帯が、複数本、規則的に配列された付着要素を備え、複数の毛帯の長手方向および長手方向に直交する短手方向と、移動方向とを異ならせることで、移動の負荷によって微細針状体が配列された毛帯が撓むことで微細針状体同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】移動機構の第1の実施の形態を示す模式図である。
【図2】第1の実施の形態における車輪の移動方向と細毛の配置との関係を示す模式図である。
【図3】付着要素の詳細を示す模式図である。
【図4】移動機構の第2の実施の形態を示す模式図である。
【図5】移動機構の第3の実施の形態を示す模式図である。
【図6】移動機構の第4の実施の形態を示す模式図である。
【図7】移動機構の第5の実施の形態に用いられる付着要素を示す模式図である。
【図8】移動機構の第6の実施の形態に用いられる付着要素を示す模式図である。
【図9】移動機構の第7の実施の形態を示す模式図である。
【図10】ファインデルワールス吸着とその課題について説明するための模式図である。
【図11】細毛の密度と付着力との関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限らない。なお、図中、同一あるいは同等の部分には同一の番号を付与し、重複する説明は省略する。
【0048】
最初に、ファインデルワールス吸着とその課題について、図10および図11を用いて確認する。図10は、ファインデルワールス吸着とその課題について確認するための模式図で、図10(a)は自由状態を示す図、図10(b)は付着状態を示す図、図10(c)は移動状態を示す図である。
【0049】
図10(a)において、移動機構1の接触面2の表面には、細長くて柔軟な細毛4が規則的に配列された付着要素3が形成されている。一方、被接触物9の被接触面91には、ミクロに見ると大小の凹凸がある。通常は、被接触面91が一般的な平面の場合には100μm程度の凹凸が存在するし、研磨面であっても1μm程度の凹凸が残存している。
【0050】
そのため、図10(a)に破線で示すように、細毛4を有しない移動機構1の接触面2が、被接触面91に直接接触しても、実際の接触面積は非常に小さく、ファインデルワールス力によって付着することはできない。
【0051】
図10(b)において、移動機構1が図の下から上の方向に力を受けて、被接触物9に押しつけられると、細毛4の有する柔軟性によって、細毛4が被接触面91の大小の凹凸に追従して、細毛4と被接触面91との間にファインデルワールス力が発生し、付着力Faが働いて、移動機構1は被接触物9に付着することができる。
【0052】
しかしながら、図10(c)において、図10(b)の付着状態から、移動機構1が図の左方向に力を受けて移動を開始すると、付着するために重要な機能である細毛4の柔軟性のために、細毛4は同一方向(図の右方向)に大きく撓んで、図中に破線の楕円で示したように、細毛4同士が接触あるいは重なり合って干渉し合い、図10(b)のような理想的な付着条件を逸脱して付着力Faが低下し、移動機構1は、付着状態を維持できずに落下してしまう。
【0053】
この状態を、図11を用いて説明する。図11は、細毛4の配列の密度Dと付着力Faとの関係を示す模式図である。
【0054】
図11において、実線で示した図10(b)の付着時の状態では、細毛4の配列の密度Dが高くなればなるほど、付着力Faは大きくなる。一方、図10(c)の移動時の状態では、破線で示したように、細毛4の配列の密度Dが低い時には、密度Dが高くなれば付着力Faは大きくなるが、密度Dがある程度以上高くなると、逆に付着力Faが低下する。
【0055】
これは、上述したように、細毛4が同一方向に大きく撓んで、細毛4同士が接触あるいは重なり合って干渉し合い、理想的な付着条件を逸脱して付着力Faが低下してしまうためであり、これが本発明の課題である。
【0056】
次に、本発明における移動機構の第1の実施の形態について、図1から図3を用いて説明する。図1は、移動機構の第1の実施の形態を示す模式図であり、図1(a)は移動機構の構成を示す斜視模式図で、図1(b)は移動時の細毛の状態を示す断面模式図である。
【0057】
図1(a)において、車輪1は、走行路91に対向する接触面2の表面に、図10(a)に示したような細長くて柔軟な細毛4が規則的に配列された付着要素3が形成されている。車輪1は、回転軸1aを中心に図の反時計回りに回転して、走行路91上を図示した移動方向Aに移動する。走行路91は、移動方向Aに直交する方向Bに傾斜のない面である。従って、付着要素3は、移動方向Aに平行な力を受ける。ここに、車輪1は本発明における移動機構として機能し、走行路91は本発明における被接触物の被接触面として機能する。
【0058】
図1(b)において、車輪1は、図の反時計回りに回転することで、接触面2の表面に形成された細毛4の内の走行路91に対向する位置の細毛4が、図の左側で走行路91に付着して右側で離反する動作を順に繰り返しながら、移動方向Aに移動する。付着要素3は移動方向Aと逆向きの力を受けるので、細毛4は移動方向A側に撓む。
【0059】
細毛4は、先端の移動方向Aに垂直な方向の断面幅が100μm以下で、弾性率の低い材料で形成されることが好ましく、実験的には、例えばゴム等の低弾性率材料で形成された細毛であれば、全長Lと断面幅dとの比、つまりアスペクト比(=L/d))が2以上あれば、実用可能なファンデルワールス力を得ることができることが知られている。
【0060】
図2は、第1の実施の形態における車輪の移動方向と細毛の配置との関係を示す模式図で、図2(a)は本発明の課題が発生する場合を示し、図2(b)は本発明の課題を解決する方法を示す。なお、ここでは細毛4の断面を円形として説明するが、これに限るものではなく、例えば楕円形、三角形、矩形、多角形等であってもよい。
【0061】
図2(a)において、付着要素3の細毛4は、車輪1の接触面2の表面に、車輪1の移動方向Aに平行な第1の方向a1に第1のピッチp1で規則的に配列されているとともに、第1の方向a1に直交する第2の方向a2に第2のピッチp2で規則的に配列されている。図では、41、42、43および44の4本の細毛4を例示している。
【0062】
細毛4の密度Dを高くしてファンデルワールス力による付着力Faを大きくするためには、第1のピッチp1および第2のピッチp2は狭くする必要があり、細毛4の長さLに対して、
p1≦L、かつ、p2≦L・・・(1式)
であることが好ましい。
【0063】
さらに、
p1=p2
とすることで、細毛4の密度Dを最大にすることができる。
【0064】
上述したように、車輪1が移動方向Aに移動すると、細毛4は移動方向A側に撓む。つまり、細毛4の撓み方向=移動方向Aである。細毛41および43が撓んだ状況を、撓んだ細毛41aおよび43aとして一点鎖線で図示する。これから分かるように、移動方向Aに撓んだ細毛41aおよび43aは、第1の方向a1に隣接する細毛42および44に接触し、重なり合って干渉し合う。
【0065】
細毛42および44も、同様に、図示しない第1の方向a1に隣接する細毛4に接触し、重なり合って干渉し合う。このようにして、細毛4同士が接触あるいは重なり合って干渉し合い、理想的な付着条件を逸脱して付着力Faが低下してしまう。
【0066】
そこで、図2(b)においては、付着要素3の細毛4は、図2(a)と同様に、第1の方向a1に第1のピッチp1で規則的に配列されているとともに、第1の方向a1に直交する第2の方向a2に第2のピッチp2で規則的に配列されているが、第1の方向a1は、車輪1の移動方向Aと第1の角度αだけ傾けてある。
【0067】
このような配置にすることで、細毛41および43が移動方向A側に撓んでも、撓んだ細毛41aおよび43aが第1の方向a1に隣接する細毛42および44に接触することはなく、細毛41と422および細毛43と44とが干渉し合うことはない。なお、第1の角度αは、撓んだ細毛41aが第1の方向a1に隣接する細毛42と、細毛42の第2の方向a2に隣接する細毛44との間を通るように決定されればよい。
【0068】
この場合、第2の方向a2の第2のピッチp2は、細毛4の移動方向Aに略垂直な方向の断面幅dに対して、
p2≧2×d・・・(2式)
である必要がある。
【0069】
次に、移動機構の第1の実施の形態の付着要素の詳細について、図3を用いて説明する。図3は、付着要素の詳細を示す模式図で、図3(a)は付着要素における細毛の配置の一般形を示し、図3(b)は移動方向と細毛の配置との限界条件を示す。
【0070】
図3(a)において、細毛4の規則的な配置は、以下のように一般化して表すことができる。即ち、細毛4は、車輪1の移動方向Aに対して第1の角度αだけ傾いた第1の方向a1に第1のピッチp1で規則的に配列されているとともに、移動方向Aに対して第1の角度αよりも大きな第2の角度βだけ傾いた第2の方向a2に第2のピッチp2で規則的に配列されている。
【0071】
図3(a)では、第1の細毛41と、第1の細毛41から第1の方向a1に第1のピッチp1離れた位置にある第2の細毛42、第1の細毛41から第2の方向a2に第2のピッチp2離れた位置にある第3の細毛43、および第3の細毛43から第1の方向a1に第1のピッチp1離れた位置にある第4の細毛44を例示している。この時、第4の細毛44は、第2の細毛42から第2の方向a2に第2のピッチp2離れた位置にある。
【0072】
例えば、図2(a)に示したような矩形の格子の頂点への配置であれば、図3(a)の第1の方向a1と第2の方向a2とを直交(α+β=90°)させればよく、特に第1のピッチp1と第2のピッチp2とを等しくすれば、正方格子の頂点に細毛4を配置することができる。また、例えば第1の方向a1と第2の方向a2とのなす角度を60°(α+β=60°)にして第1のピッチp1と第2のピッチp2とを等しくすれば、正三角形の頂点に細毛4を配置することができる。
【0073】
図3(b)において、図3(a)に示した細毛の配置で、図2(b)のように撓んだ細毛41aが細毛42と干渉せずに、細毛42と細毛44の間を通る限界条件は、図示したように、撓んだ細毛41aが細毛42に接する条件、即ち、
sin(α/2)=(d/2)/p1
である。これから、
α≧2×sin−1((d/2)/p1)・・・(3式)
を満たせば、細毛4同士が干渉しないことが分かる。
【0074】
上述したように、移動機構の第1の実施の形態によれば、車輪の接触面の表面に、車輪の移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された複数の細毛を有する付着要素を備え、第1の角度をα、第1のピッチをp1、細毛の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとした時に、(3式)を満足することで、移動の負荷によって細毛が撓むことで細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる車輪を提供することができる。
【0075】
次に、本発明における移動機構の第2の実施の形態について、図4を用いて説明する。図4は、移動機構の第2の実施の形態を示す模式図であり、図4(a)は移動機構の構成を示す側面模式図であり、図4(b)は移動機構に設けられた付着要素の構成を示す模式図であり、図4(c)は付着要素が受ける力を示す模式図である。
【0076】
図4(a)において、車両等の自走装置10は、車体11に取り付けられた車輪1の接触面2の表面に付着要素3が設けられており、これによって、急角度の斜面91も走行可能となっている。斜面91は、移動方向Aに直交する方向Bに傾斜を有する面である。ここに、車輪1は本発明における移動機構として機能し、斜面91は本発明における被接触物の被接触面として機能する。
【0077】
図4(b)において、車輪1の接触面2の表面上には、上述した第1の実施の形態の付着要素3と同様の構成を持つ第1の付着要素31と第2の付着要素32との2つの付着要素3が設けられている。第1の付着要素31の第1の方向a11と、第2の付着要素32の第1の方向a12とは異なる方向である。
【0078】
2つの付着要素3のその他の条件、例えば第1のピッチp1や細毛4の移動方向Aに略垂直な方向の断面幅d等は、第1の実施の形態の付着要素3と同じであるとするが、異なっていてもよい。
【0079】
そして、第1の付着要素31の第1の方向a11と自走装置10の移動方向Aとのなす第1の角度α1が(3式)を満たす。即ち、
α1≧2×sin−1((d/2)/p1)・・・(3−1式)
であり、第2の付着要素32の第1の方向a12と自走装置10の移動方向Aとのなす第1の角度α2も(3式)を満たす。即ち、
α2≧2×sin−1((d/2)/p1)・・・(3−2式)
である。
【0080】
斜面91を走行する場合、図4(c)に示すように、車輪1は、移動方向Aの力Fxに加えて、移動方向Aに直交する方向Bに重力による力Gを受ける。従って、付着要素3は、力Fxと力Gとの合力Fを受ける。つまり、細毛4の撓み方向は合力Fの方向である。
【0081】
この場合に、例えば第1の付着要素31の第1の方向a11と合力Fの方向とが一致すると、第1の付着要素31の細毛4は、合力Fを受けて撓み、細毛4同士の干渉等によって付着力を失う。従って、もし車輪1が第1の付着要素しか備えていなければ、自走装置10は斜面91を滑り落ちてしまう。
【0082】
しかし、第2の実施の形態では、第1の付着要素31の第1の方向a11と合力Fの方向とが一致しても、第2の付着要素32の第1の方向a12と合力Fの方向とは一致しないので、付着要素32の付着力は変化なく、自走装置10が斜面91を滑り落ちてしまうことはない。これは、自走装置10が斜面91上で静止している場合でも同じである。
【0083】
付着要素の数は、3つ以上であってもよい。付着要素の数をm(mは2以上の正の整数)とすると、n番目の付着要素3n(nは2以上m以下の正の整数)の第1の角度αnは、付着要素3nの第1のピッチをp1n、細毛4の移動方向Aに略垂直な方向の断面幅をdnとすると、
αn≧2×sin−1((dn/2)/p1n)・・・(3−n式)
を満たす。
【0084】
上述したように、移動機構の第2の実施の形態によれば、車輪の接触面の表面に、第1の付着要素と第2の付着要素とを設ける。第1および第2の付着要素はそれぞれ、車輪の移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された細毛を有し、それぞれの付着要素の第1の方向が異なる。
【0085】
そして、それぞれの付着要素の第1の角度をαn、第1のピッチをp1n、細毛の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdnとした時に(3−n式)を満足する。これによって、移動の負荷によって細毛が撓むことで細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0086】
次に、本発明における移動機構の第3の実施の形態について、図5を用いて説明する。図5は、移動機構の第3の実施の形態を示す模式図であり、図5(a)は移動機構の構成を示す断面模式図であり、図5(b)および(c)はそれぞれ付着要素の構成の1例を示す模式図である。第1および第2の実施の形態は、移動機構自身が移動する例であったが、第3の実施の形態は、被接触物に付着して移動させる例である。
【0087】
図5(a)において、クラッチ装置5は、駆動円板1と従動円板9等とで構成される。駆動円板1の接触面2の表面には、第1の実施の形態と同様の付着要素3が設けられており、付着要素3で従動円板9の被接触面91に付着することで、図示しない駆動源によって駆動円板1の駆動軸1aに加えられる回転力が、従動円板9の従動軸9aに伝達される。ここに、駆動円板1は、本発明における移動機構として機能し、従動円板9は、本発明における被接触物として機能する。
【0088】
図5(b)において、駆動円板1の接触面2の表面の付着要素3は、第1の方向a1が接触面2の外周端から内周端に向かって大きな弧を描く方向となるように、細毛4が規則正しく配列されている。そして細毛4は、第1の方向a1と駆動円板1の回転方向Aとがなす第1の角度αが(3式)を満足するように配置されている。ここに、駆動円板1の回転方向Aは、本発明における移動方向として機能する。
【0089】
図5(c)において、駆動円板1の接触面2の表面の付着要素3は、第1の方向a1が接触面2の内周端から外周端に向かう方向となるように、細毛4が規則正しく配列されている。そして細毛4は、第1の方向a1と駆動円板1の回転方向A即ち移動方向Aとがなす第1の角度αが(3式)を満足するように配置されている。
【0090】
図5(b)あるいは図5(c)のような構成をとることによって、駆動円板1が回転方向Aの方向に回転しても、付着要素3の細毛4同士が干渉することがないので、付着要素3の付着力が低下することはなく、駆動円板1の回転を、効率よく従動円板9に伝達することができる。なお、第3の実施の形態での細毛4の撓み方向は、図10と同様に、移動方向Aとは逆の方向である。
【0091】
上述したように、第3の実施の形態によれば、駆動円板の接触面の表面に、第1の方向と駆動円板の回転方向とがなす第1の角度αが(3式)を満足するように配置された細毛で構成される付着要素を備えることで、駆動円板の回転によって細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱することがなく、駆動円板の回転を効率よく従動円板に伝達することができるクラッチ装置を提供することができる。
【0092】
次に、本発明における移動機構の第4の実施の形態について、図6を用いて説明する。図6は、移動機構の第4の実施の形態を示す模式図で、図6(a)は移動機構の構成を示す斜視模式図であり、図6(b)は付着要素が受ける力を示す模式図である。第4の実施の形態も、被接触物に付着して移動させる例である。
【0093】
図6(a)において、空港等で用いられる手荷物分配装置1は、回転軸1aの周りに回転方向Aの方向に回転する斜面2を有している。斜面2の表面には、第1の実施の形態と同様の付着要素3が形成されており、手荷物9が斜面2の上に載せられて、回転方向Aの方向に搬送されて分配される。付着要素3の細毛4は、第1の方向a1と手荷物分配装置1の回転方向A即ち移動方向Aとがなす第1の角度αが(3式)を満足するように配置されている。
【0094】
ここに、手荷物分配装置1は本発明における移動機構として機能し、同様に、回転方向Aは本発明における移動方向として、斜面2は本発明における接触面として、手荷物9は本発明における被接触物として機能する。
【0095】
手荷物分配装置1が一定速度で回転している場合、手荷物9は重力による力Gを受けながら回転方向Aに回転する。この場合、細毛4は回転方向Aに直交する力Gの方向に撓むが、撓み方向と第1の方向a1とが異なるために細毛4同士が干渉することがなく、手荷物9の被接触面91に対する付着要素3の付着力が保たれるので、手荷物9が斜面2から落下することはなく、手荷物9の破損を防止できる。
【0096】
また、手荷物分配装置1が回転方向Aの方に加速、減速した場合、図6(b)に示すように、手荷物9は重力による力Gと加速、減速による回転方向Aの力Fxとの合力Fを受ける。つまり、細毛4は力Fの方向に撓む。しかし、この場合でも撓み方向と第1の方向a1とが異なるために細毛4同士が干渉することがなく、手荷物9の被接触面91に対する付着要素3の付着力が保たれるので、手荷物9が斜面2から落下することはない。
【0097】
さらに、重力による力Gに対する付着力が安定しているので、斜面の下方に置かれた手荷物9であっても上方の手荷物9の負荷を受けることがなく、下方の手荷物9であっても簡単に取り上げることができる。
【0098】
上述したように、第4の実施の形態によれば、手荷物分配装置の斜面の表面に、第1の方向と手荷物分配装置の回転方向とがなす第1の角度αが(3式)を満足するように配置された細毛で構成される付着要素を備えることで、駆動円板の回転によって細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱することがなく、手荷物の落下を防止することができる手荷物分配装置を提供することができる。
【0099】
次に、本発明における移動機構の第5の実施の形態について、図7を用いて説明する。第1から第4の実施の形態では、細毛4が規則正しく配列された付着要素3を用いた移動機構1について述べたが、第5の実施の形態では、例えばカーボンナノチューブ(以下、CNTと言う)のような微細針状体7aを複数本束ねた毛束7が規則正しく配列された付着要素3を用いた移動機構について説明する。
【0100】
CNTの微細針状体7aは、シリコン基板等の金属触媒の上にアセチレンガスを通して加熱し、アセチレンを分解することで、シリコン基板上に長さと径とが揃ったCNTを垂直方向に成長させることで形成することができる。CNTの成長は、金属触媒の面状態等に影響されると考えられ、必ずしも規則的な配置で成長するものではない。
【0101】
CNTの合成方法の例については、例えば、独立行政法人産業技術総合研究所のプレスリリース(単層カーボンナノチューブの安価な大量合成法を開発:http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2007/pr20070207/pr20070207.html:2009年11月20日に検索)等に詳述されている。
【0102】
上述した方法で生成されたCNTの微細針状体7aは、1本の大きさが、例えば直径が10nm程度で長さが100μm程度である。そして、その密度Dは、概略50%以下である。それ以上に密度Dが高くなると、複数本のCNTがくっついて成長する。CNTの微細針状体7aは、1本でもファンデルワールス力を得ることができる。
【0103】
図7は、移動機構の第5の実施の形態に用いられる付着要素を示す模式図で、図7(a)は微細針状体を束ねた毛束の構成を示す模式図で、図7(b)は毛束を用いた付着要素の構成を示す模式図である。
【0104】
図7(a)において、上述したような方法で形成されたCNTの微細針状体7aを、予め毛束7のパターンが設けられたテープ等に転写することで、微細針状体7aを束ねた毛束7が規則的に配列された付着要素3を得ることができる。移動機構1の接触面2の表面に貼り付けられる。微細針状体7aを束ねた状態でもファンデルワールス力を得ることができるように、毛束7の径dは微細針状体7aの長さL以下(上述した例では、略100μm以下)が好ましい。
【0105】
図7(b)において、図3(a)および(b)に示したと同様に、付着要素3の毛束7は、移動方向Aに対して第1の角度αだけ傾いた第1の方向a1に第1のピッチp1で規則的に配列されているとともに、移動方向Aに対して第1の角度αよりも大きな第2の角度βだけ傾いた第2の方向a2に第2のピッチp2で規則的に配列されている。
【0106】
ここでは、第1の毛束71と、第1の毛束71から第1の方向a1に第1のピッチp1離れた位置にある第2の毛束72、第1の毛束71から第2の方向a2に第2のピッチp2離れた位置にある第3の毛束73、および第3の毛束73から第1の方向a1に第1のピッチp1離れた位置にある第4の毛束74を例示している。この時、第4の毛束74は、第2の毛束72から第2の方向a2に第2のピッチp2離れた位置にある。毛束7は、略円形をしており、毛束74に例示したように、毛束7の内部は、微細針状体7aが配列されている。
【0107】
第1の実施の形態の付着要素3と同様に、ファンデルワールス力による付着力Faを大きくするために、第1のピッチp1および第2のピッチp2は、毛束7の長さLに対して、
p1≦L、かつ、p2≦L・・・(1式)
であることが好ましい。さらに、
p2≧2×d・・・(2式)
であることが好ましい。
【0108】
また、付着要素3の第1の角度αは、
α≧2×sin−1((d/2)/p1)・・・(3式)
を満たす。
【0109】
上述した構成によって、第1の実施の形態の付着要素3と同様に、付着要素3が移動方向Aに移動した場合に、毛束同士が干渉することなく移動方向Aに撓むことができ、ファンデルワールス力による付着力が低下することなく、付着しながら移動することができる。
【0110】
上述した微細針状体7aを束ねた毛束7が規則的に配列された付着要素3を、移動機構の第1の実施の形態である車輪1に適用すると、車輪1の移動によって毛束7に移動方向Aの力が加わると、各微細針状体7aは、弾性変形を起こしながら移動方向Aに撓んでいく。撓みが大きくなると、毛束7内部での微細針状体7aの相互干渉が発生するが、微細針状体7aの密度Dが高くないので、干渉による付着力の低下はあまり大きくならない。
【0111】
さらに撓みが大きくなると、毛束7の中で微細針状体7aが逃げるスペースがなくなり、毛束7があたかも1本の細毛であるかのごとく振舞う。この場合でも、各微細針状体7aは各々独立しているために、毛束7を1本の細毛とみなした時のバネ定数は、CNT自身の弾性率(約106MPa)よりも3桁程度小さくなる。これによって、CNTの微細針状体7aを束ねた毛束7は、例えば同等の径および長さのゴム製の細毛に比べて、非常に強いファンデルワールス力を得ることができる。
【0112】
なお、第5の実施の形態の付着要素3は、移動機構の第1の実施の形態だけでなく、移動機構の第2から第4の実施の形態にも適用可能である。
【0113】
上述したように、第5の実施の形態によれば、微細針状体を束ねた毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された付着要素を備え、第1の角度をα、第1のピッチをp1、細毛の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとした時に、(3式)を満足することで、自重や外力等による負荷によって毛束が干渉して理想的な付着条件を逸脱し、付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0114】
次に、本発明における移動機構の第6の実施の形態について、図8を用いて説明する。図8は、移動機構の第6の実施の形態に用いられる付着要素を示す模式図である。
【0115】
図8において、第6の実施の形態の付着要素3は、図7(a)に示した第5の実施の形態の付着要素3と同様に、CNTの微細針状体7aを束ねた毛束7が規則的に配列されたもので、この例では、毛束7の形状は略正方形に形成されている。もちろん、第5の実施の形態の付着要素3の毛束7と同様に略円形でもよいし、その他の形状でもよい。第6の実施の形態の付着要素3は、第5の実施の形態の付着要素3に比べて上述した(2式)を満たさないところまで毛束7の間隔が狭くなっている。
【0116】
毛束7は、移動方向Aに対して第1の角度αだけ傾いた第1の方向a1に第1のピッチp1で規則的に配列されているとともに、移動方向Aに対して第1の角度αよりも大きな第2の角度βだけ傾いた第2の方向a2に第2のピッチp2で規則的に配列されている。
【0117】
ここでは、第1の毛束71と、第1の毛束71から第1の方向a1に第1のピッチp1離れた位置にある第2の毛束72および第1の毛束71から第2の方向a2に第2のピッチp2離れた位置にある第3の毛束73を例示している。毛束73に例示したように、毛束7の内部は、微細針状体7aが配列されている。
【0118】
第6の実施の形態の付着要素3では、付着要素3の移動方向Aへの移動によって毛束7が撓んだ時に、第1の毛束71と第2の毛束72とが重なり合う領域S2の面積よりも大きな面積を有するスペースS1が、領域S2の第1の毛束71と第2の毛束72とが撓んだ方向側にできるように、第1の方向a1と移動方向Aとを異ならせて、規則的に配置されている。
【0119】
上述したように、毛束7の間隔は上述した(2式)を満たさないところまで狭くなっているので、付着要素3が移動方向Aへ移動すれば毛束7同士は重なり合うが、毛束7の微細針状体7aの密度Dは50%以下とそれほど高くないので、第1の毛束71と第2の毛束72とが重なり合っても、相互干渉はあまり大きくならない。よって、付着力の低下は大きくなく、むしろ、毛束7同士の間隔を狭くすることによる付着力の増加の方が大きくなる。
【0120】
さらに撓みが大きくなって毛束7の中で微細針状体7aが逃げるスペースがなくなっても、第1の毛束71と第2の毛束72とが重なり合って倒れ込む方向に重なり合う領域S2の面積よりも大きな面積を有するスペースS1が保たれていれば、重なり合った微細針状体7a同士がスペースS1に倒れ込むことができるので、微細針状体7a同士が詰まって柔軟性を失うことがなく、付着力が低下することが余りない。
【0121】
なお、第6の実施の形態の付着要素3は、上述した移動機構の第1から第4の実施の形態の何れにも適用することができる。
【0122】
上述したように、第6の実施の形態によれば、微細針状体を束ねた毛束が規則的に配列された付着要素を有する移動機構で、付着要素が移動方向へ移動することで毛束が撓んだ時に、毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、毛束同時が重なり合う領域の毛束が撓んだ方向側にできるように、第1の方向と移動方向とを異ならせることで、自重や外力等による負荷によって細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し、付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0123】
次に、本発明における移動機構の第7の実施の形態について、図9を用いて説明する。図9は、移動機構の第7の実施の形態を示す模式図である。
【0124】
微細針状体の集合体においては、第5および第6の実施の形態のように、微細針状体の撓み方向に平行な方向には隙間が必要である。しかし、微細針状体の撓み方向に平行でない方向は、微細針状体の密度が上がらない限り、隙間がなくても被接触面の凹凸への追従性は変わらない。むしろ、撓み方向に平行でない方向は隙間を設けずに繋がっていた方が、単位面積当たりの付着力が大きくなる。
【0125】
そこで、第7の実施の形態では、付着要素3を、複数の微細針状体7aが配列された、撓み方向に平行でない方向に隙間のない毛帯7を用いて構成している。
【0126】
図9において、移動機構の第7の実施の形態は、第1の実施の形態と同じ車輪1である。車輪1は、回転軸1aの周りに回転しながら、図の紙面奥から手前に移動するものとする。よって、車輪1の走行路91と接する接触面2は、図の矢印A方向に移動する。接触面2の表面には、付着要素3が形成されている。
【0127】
付着要素3は、複数の微細針状体7aが配列された幅x1の複数の毛帯7が、隙間x2を開けて平行に規則的に配列されている。
【0128】
ただし、毛帯7を車輪1と走行路91との接触位置に平行に配置すると、車輪1と走行路91との接触面積が小さいために、車輪1の回転によって、毛帯7が設けられた部分が接触している場合と隙間の部分が接触している場合とで付着力が大きく異なって、車輪1の駆動にムラが発生し、極端な場合はスリップしてしまう。
【0129】
そこで、第7の実施の形態では、毛帯7の長手方向a2および長手方向a2と直交する短手方向a1と、移動方向Aとを、角度θを持たせて異ならせてある。角度θの値は、実際の駆動条件等によって適宜決定されればよい。
【0130】
毛帯7の幅x1は、微細針状体7aの長さL以下であることが好ましい。また、毛帯7の隙間x2は、微細針状体7aの長さL以下で、かつ微細針状体7aの長さLの1/2以上であることが好ましい。これによって、車輪1の回転に対して常にほぼ一定の付着力が得られ、安定した駆動が行える。
【0131】
なお、第7の実施の形態の付着要素3は、移動機構の第1の実施の形態だけでなく、移動機構の第2から第4の実施の形態にも適用可能である。
【0132】
上述したように、第7の実施の形態によれば、微細針状体を束ねた複数の毛帯で構成される付着要素が規則的に配列された移動機構で、毛帯の長手方向および長手方向に直交する短手方向と、移動方向とを異ならせることで、自重や外力等による負荷によって細毛同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し、付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0133】
以上に述べたように、本発明によれば、移動機構の接触面の表面に、複数の細毛あるいは複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された付着要素を備え、第1の角度をα、第1のピッチをp1、細毛あるいは毛束の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとした時に、(3式)を満足することで、移動の負荷によって細毛あるいは毛束が撓むことで細毛同士あるいは毛束同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0134】
また、移動機構の接触面の表面に、複数の細毛あるいは複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された複数の付着要素を備え、複数の付着要素の第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、第nの付着要素の第1の角度をαn、第1のピッチをp1n、細毛あるいは毛束の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdnとした時に、(3−n式)を満足することで、移動の負荷によって細毛あるいは毛束が撓むことで細毛同士あるいは毛束同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0135】
さらに、移動機構の接触面の表面に、複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された付着要素を備え、移動方向への移動によって毛束が撓んだ時に、毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、毛束同士が重なり合う領域の毛束が撓んだ方向側にできるように、第1の方向と移動方向とを異ならせることで、移動の負荷によって微細針状体を束ねた毛束が撓むことで微細針状体同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0136】
また、移動機構の接触面の表面に、複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列された複数の付着要素を備え、複数の付着要素の第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、複数の付着要素はそれぞれ、移動方向への移動によって毛束が撓んだ時に、毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、毛束同士が重なり合う領域の毛束が撓んだ方向側にできるように、第1の方向と移動方向とを異ならせることで、移動の負荷によって微細針状体を束ねた毛束が撓むことで微細針状体同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0137】
さらに、移動機構の接触面の表面に、複数の微細針状体が配列された毛帯が、複数本、規則的に配列された付着要素を備え、複数の毛帯の長手方向および長手方向に直交する短手方向と、移動方向とを異ならせることで、移動の負荷によって微細針状体が配列された毛帯が撓むことで微細針状体同士が干渉して理想的な付着条件を逸脱し付着力が低下することを防止でき、移動能力を保持することができる移動機構を提供することができる。
【0138】
なお、本発明に係る移動機構を構成する各構成の細部構成および細部動作に関しては、本発明の趣旨を逸脱することのない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0139】
1 移動機構、車輪、駆動円板、手荷物分配装置
1a 駆動軸、回転軸
10 自走装置
11 車体
2 (移動機構1の)接触面、斜面
3 付着要素
31 第1の付着要素
3b 第2の付着要素
4 細毛、毛束、毛帯
41 第1の細毛、第1の毛束
42 第2の細毛、第2の毛束
43 第3の細毛、第3の毛束
4a (カーボンナノチューブの)微細針状体
9 被接触物、従動円板、手荷物
9a 従動軸
91 被接触面、走行路、斜面
5 クラッチ装置
A 移動方向、回転方向
a1、a11、a12 第1の方向
a2 第2の方向
α (移動方向と第1の方向とのなす)第1の角度
β (移動方向と第2の方向とのなす)第2の角度
p1、p11、p12 第1のピッチ
p2 第2のピッチ
d、d1、d2 (細毛の移動方向に略垂直な)断面幅
L (細毛、または微細針状体の)全長
D (細毛、または微細針状体の)密度
S1 スペースの面積
S2 毛束と毛束とが重なり合う領域の面積
x1 (毛帯の)幅
x2 (毛帯の)隙間
θ 毛帯の短手方向と移動方向とがなす角度
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
前記付着要素は、
複数の細毛が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、前記移動方向に対して前記第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
前記第1の角度をα、前記第1のピッチをp1、前記細毛の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとすると、
α≧2×sin−1((d/2)/p1)・・・(3式)
であることを特徴とする移動機構。
【請求項2】
前記細毛の長さをLとすると、
前記第1のピッチp1は、
p1≦L
であることを特徴とする請求項1に記載の移動機構。
【請求項3】
前記第2のピッチをp2とすると、
p2≧2×d
であることを特徴とする請求項1または2に記載の移動機構。
【請求項4】
被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された複数の付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
複数の前記付着要素は、それぞれ、
複数の細毛が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、前記移動方向に対して前記第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
複数の前記付着要素の前記第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、
第n(nは正の整数)の前記付着要素の前記第1の角度をαnとし、
第nの前記付着要素の前記第1のピッチをp1nとし、
第nの前記付着要素の前記細毛の前記移動方向に略垂直な方向の断面幅をdnとすると、
αn≧2×sin−1((dn/2)/p1n)・・・(3−n式)
であることを特徴とする移動機構。
【請求項5】
第nの前記付着要素の前記細毛の長さをLnとすると、
p1n≦Ln
であることを特徴とする請求項4に記載の移動機構。
【請求項6】
第nの前記付着要素の前記第2のピッチをp2nとすると、
p2n≧2×dn
であることを特徴とする請求項4または5に記載の移動機構。
【請求項7】
被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
前記付着要素は、
複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、前記移動方向に対して前記第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
前記第1の角度をα、前記第1のピッチをp1、前記毛束の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとすると、
α≧2×sin−1((d/2)/p1)・・・(3式)
であることを特徴とする移動機構。
【請求項8】
前記微細針状体の長さをLとすると、
前記第1のピッチp1は、
p1≦L
であることを特徴とする請求項7に記載の移動機構。
【請求項9】
前記第2のピッチをp2とすると、
p2≧2×d
であることを特徴とする請求項7または8に記載の移動機構。
【請求項10】
被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された複数の付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
複数の前記付着要素は、それぞれ、
複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、前記移動方向に対して前記第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
複数の前記付着要素の前記第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、
第n(nは正の整数)の前記付着要素の前記第1の角度をαnとし、
第nの前記付着要素の前記第1のピッチをp1nとし、
第nの前記付着要素の前記毛束の前記移動方向に略垂直な方向の断面幅をdnとすると、
αn≧2×sin−1((dn/2)/p1n)・・・(3−n式)
であることを特徴とする移動機構。
【請求項11】
第nの前記付着要素の前記微細針状体の長さをLnとすると、
p1n≦Ln
であることを特徴とする請求項10に記載の移動機構。
【請求項12】
第nの前記付着要素の前記第2のピッチをp2nとすると、
p2n≧2×dn
であることを特徴とする請求項10または11に記載の移動機構。
【請求項13】
被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
前記付着要素は、
複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
前記移動方向への移動によって前記毛束が撓んだ時に、前記毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、前記毛束同士が重なり合う領域の前記毛束が撓んだ方向側にできるように、前記第1の方向と前記移動方向とを異ならせたことを特徴とする移動機構。
【請求項14】
前記第1のピッチは、前記微細針状体の長さ以下であることを特徴とする請求項13に記載の移動機構。
【請求項15】
被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された複数の付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
複数の前記付着要素は、それぞれ、
複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
複数の前記付着要素の前記第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、
前記移動方向への移動によって前記毛束が撓んだ時に、前記毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、前記毛束同士が重なり合う領域の前記毛束が撓んだ方向側にできるように、前記第1の方向と前記移動方向とを異ならせたことを特徴とする移動機構。
【請求項16】
複数の前記付着要素の前記第1のピッチは、それぞれの前記付着要素の前記微細針状体の長さ以下であることを特徴とする請求項15に記載の移動機構。
【請求項17】
被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
前記付着要素は、
複数の微細針状体が配列された毛帯が、複数本、規則的に配列され、
複数の前記毛帯の長手方向および前記長手方向に直交する短手方向と、前記移動方向とを異ならせたことを特徴とする移動機構。
【請求項18】
前記毛帯の短手方向の幅は、前記微細針状体の長さ以下であることを特徴とする請求項17に記載の移動機構。
【請求項19】
前記微細針状体の長さをLとし、
複数の前記毛帯の間隔をx2とすると、
L/2≦x2≦L
であることを特徴とする請求項17または18に記載の移動機構。
【請求項20】
前記微細針状体は、カーボンナノチューブで構成されていることを特徴とする請求項7から19の何れか1項に記載の移動機構。
【請求項21】
前記毛束の内部の前記微細針状体の密度が50%以下であることを特徴とする請求項7から20の何れか1項に記載の移動機構。
【請求項1】
被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
前記付着要素は、
複数の細毛が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、前記移動方向に対して前記第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
前記第1の角度をα、前記第1のピッチをp1、前記細毛の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとすると、
α≧2×sin−1((d/2)/p1)・・・(3式)
であることを特徴とする移動機構。
【請求項2】
前記細毛の長さをLとすると、
前記第1のピッチp1は、
p1≦L
であることを特徴とする請求項1に記載の移動機構。
【請求項3】
前記第2のピッチをp2とすると、
p2≧2×d
であることを特徴とする請求項1または2に記載の移動機構。
【請求項4】
被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された複数の付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
複数の前記付着要素は、それぞれ、
複数の細毛が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、前記移動方向に対して前記第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
複数の前記付着要素の前記第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、
第n(nは正の整数)の前記付着要素の前記第1の角度をαnとし、
第nの前記付着要素の前記第1のピッチをp1nとし、
第nの前記付着要素の前記細毛の前記移動方向に略垂直な方向の断面幅をdnとすると、
αn≧2×sin−1((dn/2)/p1n)・・・(3−n式)
であることを特徴とする移動機構。
【請求項5】
第nの前記付着要素の前記細毛の長さをLnとすると、
p1n≦Ln
であることを特徴とする請求項4に記載の移動機構。
【請求項6】
第nの前記付着要素の前記第2のピッチをp2nとすると、
p2n≧2×dn
であることを特徴とする請求項4または5に記載の移動機構。
【請求項7】
被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
前記付着要素は、
複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、前記移動方向に対して前記第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
前記第1の角度をα、前記第1のピッチをp1、前記毛束の撓み方向に略垂直な方向の断面幅をdとすると、
α≧2×sin−1((d/2)/p1)・・・(3式)
であることを特徴とする移動機構。
【請求項8】
前記微細針状体の長さをLとすると、
前記第1のピッチp1は、
p1≦L
であることを特徴とする請求項7に記載の移動機構。
【請求項9】
前記第2のピッチをp2とすると、
p2≧2×d
であることを特徴とする請求項7または8に記載の移動機構。
【請求項10】
被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された複数の付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
複数の前記付着要素は、それぞれ、
複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、前記移動方向に対して前記第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
複数の前記付着要素の前記第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、
第n(nは正の整数)の前記付着要素の前記第1の角度をαnとし、
第nの前記付着要素の前記第1のピッチをp1nとし、
第nの前記付着要素の前記毛束の前記移動方向に略垂直な方向の断面幅をdnとすると、
αn≧2×sin−1((dn/2)/p1n)・・・(3−n式)
であることを特徴とする移動機構。
【請求項11】
第nの前記付着要素の前記微細針状体の長さをLnとすると、
p1n≦Ln
であることを特徴とする請求項10に記載の移動機構。
【請求項12】
第nの前記付着要素の前記第2のピッチをp2nとすると、
p2n≧2×dn
であることを特徴とする請求項10または11に記載の移動機構。
【請求項13】
被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
前記付着要素は、
複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
前記移動方向への移動によって前記毛束が撓んだ時に、前記毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、前記毛束同士が重なり合う領域の前記毛束が撓んだ方向側にできるように、前記第1の方向と前記移動方向とを異ならせたことを特徴とする移動機構。
【請求項14】
前記第1のピッチは、前記微細針状体の長さ以下であることを特徴とする請求項13に記載の移動機構。
【請求項15】
被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された複数の付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
複数の前記付着要素は、それぞれ、
複数の微細針状体を束ねた複数の毛束が、前記移動方向に対して第1の角度だけ傾いた第1の方向に第1のピッチで規則的に配列されているとともに、移動方向に対して第1の角度よりも大きな第2の角度だけ傾いた第2の方向に第2のピッチで規則的に配列され、
複数の前記付着要素の前記第1の方向は、それぞれ異なった方向であり、
前記移動方向への移動によって前記毛束が撓んだ時に、前記毛束同士が重なり合う領域の面積よりも大きな面積を有するスペースが、前記毛束同士が重なり合う領域の前記毛束が撓んだ方向側にできるように、前記第1の方向と前記移動方向とを異ならせたことを特徴とする移動機構。
【請求項16】
複数の前記付着要素の前記第1のピッチは、それぞれの前記付着要素の前記微細針状体の長さ以下であることを特徴とする請求項15に記載の移動機構。
【請求項17】
被接触物の被接触面に対向する接触面を備え、
前記接触面の上に形成された付着要素で、前記被接触面に付着して、移動方向に移動する、あるいは前記被接触物を移動方向に移動させる移動機構であって、
前記付着要素は、
複数の微細針状体が配列された毛帯が、複数本、規則的に配列され、
複数の前記毛帯の長手方向および前記長手方向に直交する短手方向と、前記移動方向とを異ならせたことを特徴とする移動機構。
【請求項18】
前記毛帯の短手方向の幅は、前記微細針状体の長さ以下であることを特徴とする請求項17に記載の移動機構。
【請求項19】
前記微細針状体の長さをLとし、
複数の前記毛帯の間隔をx2とすると、
L/2≦x2≦L
であることを特徴とする請求項17または18に記載の移動機構。
【請求項20】
前記微細針状体は、カーボンナノチューブで構成されていることを特徴とする請求項7から19の何れか1項に記載の移動機構。
【請求項21】
前記毛束の内部の前記微細針状体の密度が50%以下であることを特徴とする請求項7から20の何れか1項に記載の移動機構。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−173220(P2011−173220A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39813(P2010−39813)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】
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