説明

移動通信装置及び移動通信システム

【課題】離陸後において、通信条件を自在に切り替えることにより、飛行中における飛行編隊の再編成を可能とすること。
【解決手段】飛行編隊に属する航空機の各々に搭載され、編隊内の航空機の各々に割り当てられた個別のタイムスロットを用いて時分割多重を行うTDMA制御部23と、異なる編隊の各々に割り当てられた個別の符合を用いてTDMA制御部23により時分割多重された信号に対して符号分割多重を行うSSDS制御部22とを有する移動通信装置において、出発後において、指令局から受信した変更情報に基づいて、SSDS制御部22が用いる符号を変更先の編隊に対応した符号に切り替える符号切替部224と、該変更情報に基づいて、TDMA制御部23が用いるタイムスロットを変更先の編隊に応じたタイムスロットに切り替えるタイムスロット切替部231とを具備する移動通信装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体間の無線通信、及び移動体と固定局の無線通信に関し、特に、航空機からなる飛行編隊用の無線通信に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飛行編隊用の無線通信方法として、例えば、TDMA方式とCDMA方式とを組み合わせたものが提案されている(例えば、特許文献1等。)。
このような従来の無線通信システムにおいては、例えば、編隊飛行を行う各航空機に搭載された各移動通信装置に対して、TDMA方式で用いるタイムスロットの情報、及び、CDMA方式で用いる符号情報を飛行前に設定し、飛行中においては、これらのタイムスロットの情報や符号情報を用いることにより、各移動通信装置間、或いは、移動通信装置と地上に設けられている地上局との間の通信を実現している。
【特許文献1】特開2005−192023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した従来の通信システムでは、飛行前において、各移動体がどの編隊に属して飛行するかを綿密に検討し、この検討結果に応じて各移動通信装置に対して手動でタイムスロットや符号の設定を行う必要があったため、飛行前における人的負担が大きいという問題があった。
また、飛行中において、事前に設定されたタイムスロットや符号を変更することは事実上不可能であったため、飛行中における通信条件を変更することができず、飛行編隊の再編成を行うことは、パイロットのワークロードが増大し、負荷が大きいため正常な運用ができないという問題があった。
【0004】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、出発後において、各移動通信装置の通信条件を自在に切り替えることにより、出発後における編隊の再編成を可能とする移動通信装置及び移動通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、少なくとも1つの移動体からなる編隊に属する前記移動体の各々に搭載され、前記編隊内における前記移動体の各々に割り当てられた個別のタイムスロットを用いて時分割多重を行う時分割制御手段と、前記編隊の各々に割り当てられたそれぞれ異なる符合を用いて前記時分割制御手段により時分割多重された信号に対して符号分割多重を行う符号分割制御手段とを有する移動通信装置において、出発後において、前記編隊の変更情報を指令局から受信する編隊情報受信手段と、前記編隊の変更情報に基づいて、前記符号分割制御手段が用いる符号を変更先の編隊に対応した符号に切り替える符号切替手段と、前記編隊の変更情報に基づいて、前記時分割制御手段が用いるタイムスロットを変更先の編隊に応じたタイムスロットに切り替えるタイムスロット切替手段とを具備する移動通信装置を提供する。
【0006】
上記構成によれば、編隊内の各移動体の各々に互いに異なるタイムスロットを割り当てて時分割多重を行い、異なる編隊の各々に互いに異なる符合を割り当てて符号分割を用い、時分割多重と符号分割多重を組み合わせて、編隊内の各移動体に搭載された移動通信装置間で相互に通信を行うので、編隊間における干渉を回避し、秘匿性の高い安定した通信を実現することができる。
この場合において、出発後において、編隊情報受信手段が指令局から編隊の変更情報を受け付けた場合には、符号切替手段が符号分割制御手段により用いられる符号を変更先の編隊に対応する符号に自動的に切り替えるとともに、タイムスロット切替手段が時間分割制御手段により用いられるタイムスロットを変更先の編隊に応じたものに切り替えるので、移動体の操作者に違和感を与えることなく、今まで属していた編隊における通信条件を変更先の編隊に対応する通信条件へ自動的に遷移させることが可能となる。
【0007】
上記の移動通信装置において、前記移動体は、出発時において、いずれの編隊にも属しておらず、前記編隊情報受信手段は、出発後において、これから属する編隊の新規加入情報を前記指令局から受信し、前記符号切替手段は、前記編隊の新規加入情報に基づいて、前記符号分割制御手段により用いられる符号に、これから属する前記編隊に対応する符号を設定し、前記タイムスロット切替手段は、前記編隊の新規加入情報に基づいて、前記時分割制御手段により用いられるタイムスロットを設定することが好ましい。
【0008】
上記構成によれば、出発後において、移動体がこれから属することとなる編隊の新規加入情報を受信し、この新規加入情報に基づいて符号やタイムスロットが設定される。これにより、出発時において移動体がいずれの編隊に属していなくても、出発後において移動体を編隊に加入させることが可能となる。この結果、出発前における各移動通信装置への編隊に関する設定操作等が不要となるので、人的な負担を軽減することができる。
【0009】
上記の移動通信装置において、前記編隊情報受信手段は、前記符号分割制御手段により用いられる符合を前記指令局からの情報を受信するための専用符号に切り替えることにより、前記指令局からの情報を受信し、更に、上記専用符号は、同一の前記指令局により管理される全ての前記移動体において同一に設定されていることが好ましい。
【0010】
上記構成によれば、編隊情報受信手段は、符号分割制御手段により用いられる符合を指令局からの情報を受信するための専用符号に切り替える操作を行うだけで、指令局からの情報を取得することが可能となるので、非常に容易な処理により指令局からの情報の受信を実現させることができる。更に、受信するための他の構成を必要としないため、構成を簡素化することが可能となる。
更に、専用符号は、同一の指令局により管理される全ての移動体において同一のものが使用されるので、指令局から送信される指令、つまり、編隊の新規加入情報や編隊の変更情報を全ての移動体が共有することが可能となる。これにより、各移動体の操作者は、他の移動体の編隊の変更などについても把握することができる。また、指令局は、各移動通信装置に対してブロードキャスト方式で編隊の新規加入情報や変更情報を指示することができるので、効率よくこれらの情報を通知することができる。
【0011】
本発明は、複数の移動体の各々が搭載する複数の移動通信装置と、前記移動体の編隊編成を決定する指令局からの情報を前記移動通信装置へ通知するための固定通信装置とを備える移動通信システムであって、前記移動通信装置は、同一の編隊に属する前記移動体の各々に割り当てられた個別のタイムスロットを用いて時分割多重を行う時分割制御手段と、前記編隊の各々に割り当てられたそれぞれ異なる符合を用いて、前記時分割制御手段により時分割多重された信号に対して符号分割多重を行う符号分割制御手段と、出発後において、前記編隊の変更情報を指令局から受信する編隊情報受信手段と、前記編隊の変更情報に基づいて、前記符号分割制御手段が用いる符号を変更先の編隊に対応した符号に切り替える符号切替手段と、前記編隊の前記変更情報に基づいて、前記時分割制御手段が用いるタイムスロットを変更先の編隊に応じたタイムスロットに切り替えるタイムスロット切替手段とを備える移動通信システムを提供する。
【0012】
上記構成によれば、移動通信システムは、複数の移動体の各々が搭載する複数の移動通信装置と、移動体のそれぞれに関する編隊の指示をするための指令局が備える固定通信装置とを備えている。上記移動通信装置は、編隊内において互いに異なるタイムスロットを用いて時分割多重を行い、更に、編隊の各々に割り当てられたそれぞれ異なる符合を用いて符号分割を用い、時分割多重と符号分割多重を組み合わせて、編隊内の各移動体に搭載された移動通信装置間で相互に通信を行うので、編隊間における干渉を回避し、秘匿性の高い安定した通信を実現することができる。
また、移動通信装置は、出発後において、編隊情報受信手段が指令局から編隊の変更情報を受け付けた場合、符号切替手段が符号分割制御手段により用いられる符号を変更先の編隊に対応する符号に自動的に切り替えるとともに、タイムスロット切替手段が時間分割制御手段により用いられるタイムスロットを変更先の編隊に応じたものに切り替えるので、移動体の操作者に違和感を与えることなく、今まで属していた編隊における通信条件を変更先の編隊に対応する通信条件へ自動的に遷移させることが可能となる。
【0013】
上記の移動通信システムにおいて、前記移動体の各々は、出発時において、いずれの編隊にも属しておらず、前記編隊情報受信手段は、出発後において、これから属する編隊の新規加入情報を前記固定通信装置から受信し、前記符号切替手段は、前記編隊の新規加入情報に基づいて、前記符号分割制御手段により用いられる符号に、これから属する前記編隊に対応する符号を設定し、前記タイムスロット切替手段は、前記編隊の新規加入情報に基づいて、前記時分割制御手段により用いられる前記タイムスロットを設定することが好ましい。
【0014】
このような構成によれば、移動通信装置側では、出発後において、移動体がこれから属することとなる編隊の新規加入情報を受信し、この新規加入情報に基づいて符号やタイムスロットが設定される。これにより、出発時において移動体がいずれの編隊に属していなくても、出発後において移動体を編隊に加入させることが可能となる。この結果、出発前における各移動通信装置への編隊に関する設定操作等が不要となるので、人的な負担を軽減することができる。
【0015】
上記の移動通信システムにおいて、同一の前記指令局により管理される全ての前記移動体が備える前記編隊情報受信手段の各々は、互いに同期して、前記符号分割制御手段により用いられる符号を前記指令局からの情報受信のための同一の専用符号に切り替えることにより、前記指令局からの情報をそれぞれ受信することが好ましい。
【0016】
このような構成によれば、専用符号は、同一の指令局により管理される全ての移動体において同一のものが使用されるので、指令局から送信される指令、つまり、編隊の新規加入情報や編隊の変更情報を全ての移動体が共有することが可能となる。これにより、各移動体の操作者は、他の移動体の編隊の変更などについても把握することができる。更に、指令局は、各移動通信装置に対してブロードキャスト方式で編隊の新規加入情報や変更情報を指示することができるので、効率よくこれらの情報を通知することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、出発後において、各移動通信装置の通信条件を自在に切り替えることが可能となるので、出発後における編隊の再編成を自由に行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係る移動通信システムを航空機の飛行編隊に関する飛行編隊用通信システム(以下、単に「通信システム」という。)に適用した場合の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係る通信システムの概略構成を示したブロック図である。図1において、通信システムは、固定通信装置10と移動通信装置20とを備えている。固定通信装置10は、地上に設けられた複数の通信所の各々に設置されている。移動通信装置20は、編隊飛行を行う航空機30の各々に搭載されている。航空機の飛行編隊40の編成等は、地上の指令局(図示略)により決定される。指令局は、通信所に設置されている固定通信装置10を介して各航空機30に対して飛行編隊の編成や、再編成の指示を与える。指令局は航空機内にあってもよく、その場合、移動通信装置20を介して各航空機30に対して飛行編隊の編成や、再編成の指示を与える。なお、詳細は後述する。
【0019】
移動通信装置20は、同一の編隊に属する移動通信装置20間、並びに、固定通信装置10とも通信可能な構成を備えている。移動通信装置20は、小ゾーン方式を採用しており、小ゾーン50の直径は、同一の飛行編隊40の全ての航空機30間の飛行行動中の相対距離をカバーできる距離に制限されている。そのために航空機30に搭載される移動通信装置20の出力は小出力である。また、航空機30は飛行行動により相対位置が変化するので、無指向性のアンテナが用いられている。これらにより、同一の飛行編隊40の各航空機30は、飛行行動中、常に相互に通信が可能である。
【0020】
無線信号の多重方式としてはTDMA方式とCDMA方式を組み合わせた方式が採用されている。
各小ゾーン50内の多重方式としてTDMA方式を採用している。飛行編隊40内の各航空機30の移動通信装置20には、後述する新規加入時における設定等が行われることにより、それぞれ個別のタイムスロットが割り当てられる。各移動通信装置20は、自己に割り当てられたタイムスロットを用いて通信を行う。
【0021】
また、各編隊には、それぞれ異なる拡散符合が割り当てられている。各移動通信装置20は、時分割多重を行ったTDMA信号を、更に、自己が属する飛行編隊40に割り当てられている符号を用いてスペクトラム拡散(DS−SS)し、送信する。これにより、他の編隊40との混信を回避することができるとともに、秘匿性の高い通信を実現することができる。なお、上記移動通信装置20における符号の割り当ては、後述の新規加入時における設定処理等により自動的に行われるものである。
【0022】
固定通信装置10は、各小ゾーン50内の各移動通信装置20と通信可能である。指令局からの指示は、通信所の固定通信装置10から各航空機30の移動通信装置20に送られる。移動通信装置20の出力は飛行編隊40内において無指向性で通信可能な程度に抑えられているので、固定通信装置10は狭い範囲で高い利得の指向特性を示す指向性アンテナを用い、その指向性を飛行編隊40の方向に制御することにより、各航空機30の移動通信装置20と通信する。
更に、上述した固定通信装置10と全ての移動通信装置20は、ブロードキャスト用の符号(以下、「BC符号」という。)を保有している。各固定通信装置10及び移動通信装置20が同時にBC符号を用いて通信を行うことにより、ブロードキャスト方式による情報の授受を実現させることができる。
【0023】
図2は、移動通信装置20の構成を示すブロック図である。図2を参照すると、移動通信装置20は、送受信部21、SSDS(スペクトラム拡散−直接拡散)制御部(符号分割制御手段)22、TDMA制御部(時間分割制御手段)23、カプラ24、機体インタフェース25、および機体アンテナ端子26を有している。
送受信部21は、受信部211および送信部212を有している。SSDS制御部22はSSDS復調部221、SSDS変調部222、符号記憶部223、及び符号切替部(符号切替手段)224を有している。機体アンテナ端子26は機体アンテナ27に接続される。TDMA制御部23は、タイムスロット切替部(タイムスロット切替手段)231を備えている。
【0024】
受信部211は、機体アンテナ27で受信された無線信号をSSDS復調部221に送る。その際、受信部211は、LNA(低雑音増幅器)による増幅、無線周波数からベースバンドへの周波数変換、フィルタリングなどを行なう。
SSDS復調部221は、受信部211からの信号に対してSSDS復調処理をし、TDMA制御部23に送る。SSDS復調処理には、例えば、逆拡散、キャリア再生、データ復調などが含まれる。この逆拡散の処理には、後述する符号切替部224により設定された符号が用いられる。
SSDS変調部222は、TDMA制御部23からの信号に対してSSDS変調処理をし、送信部212に送る。SSDS変調処理には、例えばデータ変調や拡散などが含まれる。この拡散処理には、上記SSDS変調部222と同様、符号切替部224により設定された符号が用いられる。
【0025】
符号記憶部223は、同一の指令局にて管理される全ての飛行編隊40に割り当てられている符号情報、並びに、上述のBC符号を記憶している。符号切替部224は、後述する指令局から送られてくる編隊の新規加入情報や編隊の変更情報に基づいて、SSDS復調部221における復調処理で用いられる符号、並びに、SSDS変調部222における変調処理で用いられる符合を切り替える。なお、符号切替部224の制御の詳細については後述する。
【0026】
送信部212は、SSDS変調処理部222からの拡散信号を無線信号にして機体アンテナ28から送信する。
TDMA制御部23は、SSDS復調部221からの信号の所定のタイムスロットの信号を取り出し(メッセージデパッキング)、機体インタフェース25に送る。このタイムスロットは、後述のタイムスロット切替部231により設定されたタイムスロットである。また、TDMA制御部23は、機体インタフェース25からの信号を所定のタイムスロットに挿入し(メッセージパッキング)、SSDS復調部22に送る。
【0027】
タイムスロット切替部231は、後述する指令局から送られてくる編隊の新規加入情報や編隊の変更情報に基づいて、TDMA制御部23が用いるタイムスロットを設定する。ここで設定されるタイムスロットは、同一の飛行編隊40に属する航空機30に個別に割り当てられた固有のタイムスロットである。
また、TDMA制御部23では、全ての航空機30の移動通信装置20に共通のタイミングでTDMA同期管理が行なわれている。
【0028】
機体インタフェース25は、機体に設置された各機器(図示略)と接続され、各機器特有の機器信号を送受信する。例えば、音声通信用の機器であれば音声信号が送受信される。各種センサ機器であれば、各部の状態を示すセンサ信号が送受信される。各機器との間で物理的、電気的インタフェースが規定される。
【0029】
図3は、固定通信装置10の構成を示すブロック図である。図3を参照すると、固定通信装置10は、TDMA制御部31、SSDS制御部32、送受信部33、カプラ34、指向性アンテナ35、および指向制御部36を有している。
指向性アンテナ35は、指向方向を制御可能な指向性アンテナである。小ゾーン50内で飛行編隊40に属する航空機30同士で通信している移動通信装置20と、小ゾーン50外の固定通信装置10で通信を行なうために、固定通信装置10では指向方向に高い利得を示す指向性アンテナ35が用いられている。指向性アンテナ35は例えばアダプティブアレーアンテナであればよい。
【0030】
指向制御部36は、指向性アンテナ35の指向方向を通信相手である飛行編隊40の方向に適応的に制御する。飛行編隊40の方向は、例えばレーダ(図示略)から指向制御部36に与えられることとすればよい。
受信部331は、指向性アンテナ35で受信された無線信号をSSDS復調部321に送る。その際、受信部331は、LNAによる増幅、無線周波数からベースバンドへの周波数変換、フィルタリングなどを行なう。
【0031】
SSDS復調部321は、受信部331からの拡散信号に対してSSDS復調処理をし、TDMA制御部31に送る。SSDS復調処理には、例えば、逆拡散、キャリア再生、データ復調などが含まれる。この逆拡散の処理には、後述の符号切替部324にて設定された符号が用いられる。
SSDS変調部322は、TDMA制御部31からの信号に対してSSDS変調処理をし、送信部332に送る。SSDS変調処理には、例えばデータ変調や拡散などが含まれる。この拡散処理には、通信相手の飛行編隊40に割り当てられた符号が用いられる。
【0032】
符号記憶部323は、同一の指令部により管理される全ての編隊40に割り当てられた固有の符号の情報及びBC符号が記憶されている。
符号切替部324は、信号の送信元の航空機30に応じてSSDS復調部321により用いられる符号を切り替えるとともに、指令部からの指令を送信する相手に応じて、SSDS変調部322により用いられる符号を切り替える。これにより、BC符号を設定した場合には、全ての航空機30が搭載する移動通信装置20に対して一斉に情報を送信することができ、また、各通信相手に応じた符号を設定することにより、秘匿性の高い通信を実現することができる。
【0033】
送信部332は、SSDS変調処理部322からの信号を指向性アンテナ35から送信する。
TDMA制御部31は、SSDS復調部321からの所定のタイムスロットの信号を取り出し、指令局に対して出力する。このタイムスロットは、通信相手の移動通信装置20に割り当てられた、飛行編隊30内で特有のタイムスロットであってもよく、あるいは、全ての航空機30の移動通信装置20が受信するマルチキャスト用のタイムスロットであってもよい。
また、TDMA制御部31は、指令局から入力された信号を所定のタイムスロットに挿入し(メッセージパッキング)、SSDS変調部322に送る。このタイムスロットも、通信相手の移動通信装置20に割り当てられた、飛行編隊30内で特有のタイムスロットであってもよく、あるいはマルチキャスト用のタイムスロットであってもよい。
【0034】
なお、TDMA制御部31では、全ての航空機30の移動通信装置20と共通のタイミングでTDMA同期管理が行なわれている。
【0035】
次に、上述したような構成を備える移動通信システムの作用について図4乃至図6を参照して説明する。なお、説明の便宜上、ここでは、図4に示すように、同一の指令局(図示略)により8機の航空機30が管理され、且つ、離陸後において、これらの航空機30が2つの編隊40A、40Bに編成される場合を一例として説明する。
【0036】
まず、図4に示すように、各航空機30には、各航空機30を識別するための機体番号F1乃至F8が予め付与されている。この機体番号F1乃至F8はユニークな番号であるため、指令局は航空機1台1台を識別することが可能となる。また、航空機30は、離陸時において、編隊飛行に関する情報を保有していない。従って、離陸直後においては、各航空機30は編隊飛行を行わず、互いに接触を避ける範囲でばらばらに飛行を行うこととなる。
【0037】
離陸後、各移動通信装置20及び固定通信装置10は、図5に示したタイムテーブルに従って、情報の送受信を行う。まず、図5における時刻t0からt1の期間では、以下に示す手順により、編隊の編成或いは再編成に関する情報の授受が行われる。
まず、各航空機30に搭載された各移動通信装置20が備える符号切替部224(図2参照)は、それぞれSSDS復調部221の復号に用いる符号をBC符号に切り替える。また、これと同期して、固定通信装置10の符号切替部324(図3参照)は、SSDS変調部322の変調に用いる符号をBC符号に切り替える。
これにより、各移動通信装置20は、指令局から通知され、固定通信装置10を介して放送される情報を互いに共有することができる。
【0038】
この受信状態において、指令局からは、各航空機30に対して、これから属する編隊の新規加入情報が通知される。この新規加入情報には、例えば、各航空機30が、これから属することとなる編隊の識別番号と、該編隊内に属した場合に利用するタイムスロットの割り当て情報が少なくとも含まれている。各移動通信装置20が、編隊の新規加入情報を受信すると、装置内の符号切替部224(図2参照)は、この新規加入情報に基づいて、これから属する編隊に対応する符号を符号記憶部223から取得し、この符号を保持する。なお、この保持した符号は、図5の時刻t2以降乃至t6の期間において行われるTDMA方式とCDMA方式とを組み合わせた通信を行う場合に利用される。
【0039】
また、同様に、タイムスロット切替部231は、自己に割り当てられたタイムスロットを保持する。なお、この保持したタイムスロットは、図5の時刻t2以降乃至t6の期間において行われるTDMA方式とCDMA方式とを組み合わせた通信を行う場合に利用される。
【0040】
更に、移動通信装置20は、このようにしてこれから属する編隊に関する符号及びタイムスロットの取得が完了すると、機体インタフェース25(図2参照)を介して、航空機内のパイロット席の前方に設置された表示装置に、自機がこれから属する編隊の情報を表示させる。これにより、パイロットは、表示装置に表示された編隊情報を確認して操縦を行うことにより編隊飛行を実現させる。
なお、上述した編隊の編成が一旦行われた後は、図5に示した時刻t0乃至t1の期間は、編隊の再編成に関する情報を授受するための期間として使用される。
【0041】
上述のように各編隊40A、40Bの編成が行われると、続いて、図5の時刻t1乃至t2の期間において、各移動通信装置20が他の移動通信装置20に対して、自己が属している編隊の情報等をそれぞれ通知する。この通知は、上述の時刻t0乃至t1と同様、ブロードキャスト方式により行われる。
ここで、上述の時刻t0乃至t1において編隊の編成が行われると、異なる編隊に属する移動通信装置20間では変調、復調に用いる符号が異なることから、情報の授受が不可能となる。このため、全ての移動通信装置20がブロードキャスト方式により、自己が属している編隊の情報等を通知することにより、図4に示した全ての航空機30(機体番号F1乃至F8)がそれぞれの編隊情報を把握することが可能となる。
【0042】
次に、図5における時刻t2乃至t6の期間では、上述したブロードキャスト方式による通信ではなく、TDMA方式とCDMA方式とを組み合わせた通信方式により、同一の編隊に属した各移動通信装置20間、また、各移動通信装置20と指令局との間で、飛行に必要な情報が授受される。
【0043】
具体的には、各移動通信装置20が備える各符号切替部224が、先ほど時刻t0乃至t1において保持した符号を、SSDS復調部221及びSSDS変調部222に設定するとともに、タイムスロット切替部231が、先ほど時刻t0乃至t1において保持したタイムスロットをTDMA制御部23に設定する。これにより、異なる編隊に属する航空機30に搭載された移動通信装置20間での通信が困難な状態となり、秘匿性の高い安定した通信を実現することができる。
【0044】
このようなTDMA方式とCDMA方式とを組み合わせた通信方式による通信では、例えば、図5の時刻t2乃至t3の期間では、同一の編隊に属した各移動通信装置20間の通信が行われる。時刻t3乃至t4の期間では、指令局から各移動通信装置20に対して所定の情報(例えば、指揮統制/誘導命令,他航空機の位置/速度/機種情報等)が通知され、時刻t4乃至t5の期間では、各移動通信装置20から固定通信装置10を介して指令局に対して所定の情報(例えば、指揮統制/誘導命令に対する受領応答等)が通知される。
【0045】
また、時刻t5乃至t6の期間では、1つの編隊を更に擬似的に複数の編隊に分割する、あるいは複数の編隊を1つの編隊にまとめるために必要となる情報が指令局から固定通信装置10を介して各移動通信装置20に対して送信されるネットコントロールが行われる。
【0046】
以下、この時刻t5から時刻t6において行われるネットコントロールについて詳しく説明する。
例えば、上述した時刻t0乃至t1の期間における編隊40A、40Bの編成により、図6に示すように、機体番号F1乃至F4の航空機30が編隊40Aに属することとなった場合、更に、この編隊40Aを、小編隊40a、40bに分割したい場合がある。このような場合、指令局は、編隊40Aに属する各移動通信装置20に対して、小編隊40a,40bに属するそれぞれの航空機30の機体番号を通知する。
【0047】
例えば、この小編成の情報として、小編隊40aとして機体番号F1、F2が、小編隊40bとして機体番号F3、F4の航空機30が属する旨の情報が機体番号F1乃至F4の航空機30が搭載する各移動通信装置20に通知された場合、各移動通信装置20は、自己と同一の小編隊に属することとなる機体番号の情報を保持する。
【0048】
そして、以降の通信、つまり、時刻t2乃至t3において行われる情報の授受に関しては、自己と同一の編隊40a又は40bに属する移動通信装置20からの情報のみを抽出して、抽出した情報のみを機体インタフェース25を介して航空機30内の表示装置に表示させるようにする。なお、情報の抽出は、例えば、以下の手法により行うことが可能である。例えば、各移動通信装置20は、同一の小編隊に属している航空機30の移動体通信装置20が用いるタイムスロットの情報を保持しているため、受信した情報のうち、同一の小編隊に属する移動体通信装置20が用いるタイムスロットの情報のみを抽出することで実現できる。
【0049】
これにより、パイロットは、自己と同一の小編隊に属する航空機30の情報のみを確認することができる。このような処理を編隊40Aに属する各移動通信装置20がそれぞれ実施することにより、編隊40Aを見かけ上、2つの編隊40a、40bに再編成することが可能となる。
【0050】
そして、移動通信装置20及び固定通信装置10は、上述のような通信処理を図5に示したタイムテーブルに従って繰り返し行うことにより、飛行編隊の編成を自在に変化させることが可能となる。なお、一旦、編隊の編成がなされた後における図5の時刻t0乃至t1においては、編隊の編成を変更するために行われ、例えば、編隊の再編成の対象となる航空機30に搭載された移動通信装置20に対して変更情報が通知されることとなる。この変更情報には、変更先となる編隊の符号、及び、変更先となる編隊において自機に割り当てられるタイムスロットの情報が含まれている。なお、この変更情報に基づく符号の切替、タイムスロットの切替については、上述の新規加入時における手順と同様に行われる。
【0051】
以上説明してきたように、本実施形態に係る通信システムによれば、移動通信装置20が、編成の変更に応じて、通信条件を自動的に切り替えるので、パイロットの手を煩わせることなく、また、パイロットに対して編隊の変更に伴う通信の違和感を与えることなく、スムーズに通信状態を遷移させることができる。これにより、離陸後においても自由に編隊の編成、再編成を行うことが可能となる。
【0052】
更に、離陸後において、航空機30に対して編隊の編成を指示することが可能となるので、出発前における各移動通信装置20への編隊に関する設定操作等が不要となり、人的な負担を軽減することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、一実施形態として、移動体として航空機を例としたが、移動体は航空機に限られず、編隊により行動するものであれば本発明を適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係る飛行編隊用通信システムの構成を示す図である。
【図2】図1の移動通信装置の概略構成を示すブロック図である。
【図3】図1の固定通信装置の構成を示すブロック図である。
【図4】離陸時における編隊の編成について説明するための図である。
【図5】各移動通信装置間、並びに、各移動通信装置と指令局との間で行われる通信のタイムテーブルを示した図である。
【図6】同一の編隊内における小編隊の編成について説明するための図である。
【符号の説明】
【0055】
10 固定通信装置
20 移動通信装置
21 送受信部
211 受信部
212 送信部
22 SSDS制御部
221 SSDS復調部
222 SSDS変調部
223 符号記憶部
224 符号切替部
23 TDMA制御部
231 タイムスロット切替部
24 カプラ
25 機体インタフェース
26 機体アンテナ端子
27 機体アンテナ
30 航空機
31 TDMA制御部
32 SSDS制御部
321 SSDS復調部
322 SSDS変調部
323 符号記憶部
324 符号切替部
33 送受信部
331 受信部
332 送信部
34 カプラ
35 指向性アンテナ
36 指向制御部
40 飛行編隊
50、501〜503 小ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの移動体からなる編隊に属する前記移動体の各々に搭載され、前記編隊内における前記移動体の各々に割り当てられた個別のタイムスロットを用いて時分割多重を行う時分割制御手段と、前記編隊の各々に割り当てられたそれぞれ異なる符合を用いて前記時分割制御手段により時分割多重された信号に対して符号分割多重を行う符号分割制御手段とを有する移動通信装置において、
出発後において、前記編隊の変更情報を指令局から受信する編隊情報受信手段と、
前記編隊の変更情報に基づいて、前記符号分割制御手段が用いる符号を変更先の編隊に対応した符号に切り替える符号切替手段と、
前記編隊の変更情報に基づいて、前記時分割制御手段が用いるタイムスロットを変更先の編隊に応じたタイムスロットに切り替えるタイムスロット切替手段と
を具備する移動通信装置。
【請求項2】
前記移動体は、出発時において、いずれの編隊にも属しておらず、
前記編隊情報受信手段は、出発後において、これから属する編隊の新規加入情報を前記指令局から受信し、
前記符号切替手段は、前記編隊の新規加入情報に基づいて、前記符号分割制御手段により用いられる符号に、これから属する前記編隊に対応する符号を設定し、
前記タイムスロット切替手段は、前記編隊の新規加入情報に基づいて、前記時分割制御手段により用いられるタイムスロットを設定する請求項1に記載の移動通信装置。
【請求項3】
複数の移動体の各々が搭載する複数の移動通信装置と、前記移動体の編隊編成を決定する指令局からの情報を前記移動通信装置へ通知するための固定通信装置とを備える移動通信システムであって、
前記移動通信装置は、
同一の編隊に属する前記移動体の各々に割り当てられた個別のタイムスロットを用いて時分割多重を行う時分割制御手段と、
前記編隊の各々に割り当てられたそれぞれ異なる符合を用いて、前記時分割制御手段により時分割多重された信号に対して符号分割多重を行う符号分割制御手段と、
出発後において、前記編隊の変更情報を指令局から受信する編隊情報受信手段と、
前記編隊の変更情報に基づいて、前記符号分割制御手段が用いる符号を変更先の編隊に対応した符号に切り替える符号切替手段と、
前記編隊の前記変更情報に基づいて、前記時分割制御手段が用いるタイムスロットを変更先の編隊に応じたタイムスロットに切り替えるタイムスロット切替手段と
を備える移動通信システム。
【請求項4】
前記移動体の各々は、出発時において、いずれの編隊にも属しておらず、
前記編隊情報受信手段は、出発後において、これから属する編隊の新規加入情報を前記固定通信装置から受信し、
前記符号切替手段は、前記編隊の新規加入情報に基づいて、前記符号分割制御手段により用いられる符号に、これから属する前記編隊に対応する符号を設定し、
前記タイムスロット切替手段は、前記編隊の新規加入情報に基づいて、前記時分割制御手段により用いられる前記タイムスロットを設定する請求項3に記載の移動通信システム。
【請求項5】
同一の前記指令局により管理される全ての前記移動体が備える前記編隊情報受信手段の各々は、互いに同期して、前記符号分割制御手段により用いられる符号を前記指令局からの情報受信のための同一の専用符号に切り替えることにより、前記指令局からの情報をそれぞれ受信する請求項3又は請求項4に記載の移動通信システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−195027(P2007−195027A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−12445(P2006−12445)
【出願日】平成18年1月20日(2006.1.20)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】