説明

移植片拒絶におけるVAV阻害

本発明は、Vav阻害因子の使用を含む、細胞、組織または器官の同種または異種移植のレシピエントにおける急性または慢性移植片拒絶、炎症または自己免疫疾患または悪性増殖性疾患の予防または処置方法を提供する。さらに提供されるのは、Vav阻害因子、Vav阻害因子を含む用途、医薬組成物および治療的組合せ、およびそれらのスクリーニング方法である。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、移植に、そして移植された移植片の生存能力を助長することに、並びに炎症および自己免疫疾患および悪性増殖性疾患に関する。ある態様では、本発明は、移植片拒絶(例えば、急性または慢性移植片拒絶)の阻害方法に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、移植片拒絶(例えば、急性または慢性移植片拒絶)を、移植片のレシピエントに治療的有効量のVavタンパク質阻害因子を投与することにより阻害することに関する。
【0003】
Vavタンパク質には、Vav1、Vav2およびVav3が含まれる。Vav1は、ヒト腫瘍DNAによる線維芽細胞形質転換の間にその癌化形態で最初に同定された、95kDaのシグナル伝達タンパク質である(Katzav et al. 1989, EMBO J. 8: 2283-2290)。Vav1の配列は、GenBank受託番号X16316、Swiss Prot受託番号P15498およびRef.Seq番号NM_005428に見出され得る。Vav1は、専ら造血および栄養芽細胞で発現され、TCR、B細胞抗原受容体(BCR)および様々なサイトカイン受容体の刺激を含む様々な刺激に応答して、迅速にチロシンでリン酸化される(Romero & Fischer, 1996, Cell. Signaling 8: 545-553; Collins et al. 1997, Immnol. Today 18: 221-225)。Vav1はまた、タンパク質キナーゼAによりセリン440でもリン酸化され、それはVav1活性化を抑制する(WO99/62315)。Vav1は、低分子GTPアーゼのRHO/RACファミリーのグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)として機能し、カルシウム動員、アクチン重合、受容体のクラスター形成およびT細胞における免疫シナプス形成を調節する(Turner & Billadeau 2002, Nat. Rev. Immunol 2(7): 476-86)。この参考文献およびそこで引用されている参考文献は、Vav1−/−およびVav2−/−ノックアウトマウスも論じている。Vav2およびVav3もGEFであるが、より広い発現パターンを有する。
【0004】
Vav1は、Vav2およびVav3にも見出される数々のドメインからなる。DBL相同性(DH)ドメインは、RacおよびRho−GTPアーゼと物理的に相互作用し、GTPとGDPの交換を促進する。SRC相同2(SH2)ドメインは、受容体チロシンキナーゼおよびアダプタータンパク質中のリン酸化チロシン残基の認識に関連し、Vav1の活性化受容体への共役を導く。酸性モチーフ(Ac)は、VavのGEF活性の自己阻害に重要である。カルポニン相同(CH)ドメインは、マルチサブユニット免疫認識受容体(multi-subunit immune-recognition receptor)の下流のカルシウム動員におけるVavのGEF活性の調節に関与する。プレクストリン相同(PH)ドメインは、DHドメインとの細胞内相互作用を用いて、そしてホスファチジルイノシトールの結合により、GEF活性の調節に関与する。ジンクフィンガー(ZF)ドメインも、GEF活性の活性化に関与する。Vav1のプロリンリッチ(PR)領域は、SH3ドメインが成長因子受容体結合タンパク質2(GRB2)に結合できるように、Vav1中のSRC相同3(SH3)ドメインと相互作用する。Vav1のSH2ドメインによるリン酸化チロシン残基の認識は、Vav1のAcドメインのチロシンリン酸化を促進でき、DHドメインGEF活性の活性化を導くことができる。
【0005】
好ましくは、Vavタンパク質の阻害因子は、Vav1阻害因子である。「Vav1阻害因子」は、Vav1タンパク質のある(即ち、1またはそれ以上の)機能を阻害できる物質またはリガンド(例えば、分子、化合物)を意味する。例えば、阻害因子は、Vav−1がRacおよび/またはRho−GTPアーゼに結合するのを阻害し得、かつ/または、Vav−1のGEF活性を阻害し得る。あるいは、Vav1機能の阻害因子は、Vav1がVav−1機能の活性化因子に結合するのを阻害し得、かつ/または、Vav1に媒介されるシグナル伝達を阻害し得る。ある実施態様では、阻害因子は、Vav1中の1またはそれ以上のSH2ドメインと活性化受容体との相互作用を阻害し得、かつ/または、Vav1のチロシンリン酸化を阻害し得る。別の実施態様では、阻害因子は、Vav1のSH3ドメインのGRB2への結合を妨げ得る。Vav2およびVav3の阻害因子は、類似のメカニズムでVav2およびVav3の機能を阻害し得る。
【0006】
従って、Vav1に媒介される過程および細胞の応答(例えば、Tおよび/またはB細胞の活性化、カルシウム動員、アクチン重合、受容体のクラスター形成、T細胞における免疫シナプス形成)は、Vav1機能の阻害因子により阻害できる。本明細書で使用するとき、「Vav1」は、Vavまたはp95vavとしても知られる天然産生のVav1(例えば、哺乳動物、好ましくはヒト(ホモ・サピエンス)のVav1)を表し、Vav1の機能的活性を保持している対立遺伝子変異体およびスプライスバリアントなどの天然産生の変異体を包含する。
【0007】
好ましくは、Vav1機能の阻害因子は、例えば、有機低分子、タンパク質(例えば、抗体)、ペプチドまたはペプチド模倣物である化合物である。
【0008】
タンパク質の例には、例えば、抗体、例えば、ポリクローナル、モノクローナル、キメラ、ヒト化またはヒト抗体、およびそれらの抗原結合性フラグメント(例えば、Fab、Fab'、F(ab')、Fv)が含まれる。Vav1結合抗体の例は、Vav(C−14)、Vav(H−211)、Vav(D−7)、Vav(110−320)、Vav(E−4)、p−Vav(Tyr174)−Rであり、これらはVav1またはリン酸化Vav1に対して生成されたポリクローナルまたはモノクローナル抗体であり、Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA から入手可能である。抗原結合フラグメントは、酵素的切断により、または組換え技法により産生できる。例えば、パパインまたはペプシン切断は、各々FabまたはF(ab')フラグメントを生成できる。
【0009】
必要な基質特異性を有する他のプロテアーゼも、FabまたはF(ab')フラグメントの生成に使用できる。抗体は、1またはそれ以上の停止コドンが天然の停止部位の上流に導入された抗体の遺伝子を使用して、様々な切断形で産生することもできる。例えば、F(ab')重鎖部分をコードするキメラ遺伝子は、その重鎖のCHドメインおよびヒンジ領域をコードするDNA配列を含むように設計できる。一本鎖抗体、およびキメラ、ヒト、ヒト化または霊長類化(CDR移植)、またはベニヤ(veneered)抗体、並びに異なる種に由来する部分を含むキメラ、CDR移植またはベニヤ一本鎖抗体なども、本発明および用語「抗体」に包含される。これらの抗体の様々な部分を、常套の技法により化学的に一緒に繋ぎ合わせることができるか、または、遺伝子工学の技法を使用して連続的タンパク質として調製できる。例えば、キメラまたはヒト化の鎖をコードする核酸を発現させ、連続的タンパク質を産生できる。例えば、Cabilly et al., U.S. P. 4,816,567; Cabilly et al., EP 0,125,023 B1; Boss et al., U.S. P. 4,816,397; Boss et al., EP 0,120,694 B1; Neuberger, M.S. et al., WO86/01533; Neuberger, M.S. et al., EP 0,194,276 B1; Winter, U.S. P. 5,225,539; Winter, EP 0,239,400 B1; Queen et al., EP 0 451 216 B1; および Padlan, E.A. et al., EP 0 519 596 A1 参照。また、霊長類化抗体に関して、Newman, R. et al., BioTechnology, 10: 1455-1460 (1992)、そして、一本鎖抗体に関して、Ladner et al., U.S. P. 4,946,778 and Bird, R.E. et al., Science, 242:423-426 (1988) 参照。
【0010】
ヒト化抗体は、標準的方法を使用する合成または組換えDNA技法または他の適する技法を使用して産生できる。ヒト化可変領域をコードする核酸(例えば、cDNA)配列も、PCR突然変異導入法を使用して過去のヒト化可変領域に由来するDNA鋳型などのヒトまたはヒト化鎖をコードするDNA配列を変更し、構築できる。これらまたは他の適する方法を使用して、変異体も容易に産生できる。ある実施態様では、クローン化した可変領域に突然変異導入でき、所望の特異性を有する変異体をコードする配列を選択できる。
【0011】
哺乳動物(例えば、ヒト)Vav1に特異的な抗体は、単離された、かつ/または組換えのヒトVav1またはその部分(合成ペプチドなどの合成分子を含む)などの、適切な免疫原に対して生成できる。例えば、抗体は、SH2ドメインを含むVav1の部分に対して、または、DHドメインを含むVav1の部分に対して、または、リン酸化または非リン酸化Vav1に対して生成させ得る。抗体は、また、適する宿主(例えば、マウス、ラット)を、活性化T細胞などのVav1を発現する細胞で免役することにより生成させられる(例えば、U.S. P. 5,440,020 参照、その全技法を出典明示により本明細書の一部とする)。加えて、形質移入細胞などの組換えVav1を発現する細胞を、免疫原として、または、Vav1に結合する抗体のスクリーニングにおいて、使用できる(例えば、Chuntharapai et al., J. Immunol., 152; 1783-1789 (1994); U.S. P. 5,440,021 参照)。
【0012】
免役する抗原の調製並びにポリクローナルおよびモノクローナル抗体の産生は、任意の適する技法を使用して実施できる。モノクローナル抗体が望ましい場合、ハイブリドーマは一般的に、適する不死細胞株(例えば、SP2/0またはP3X63Ag8.653などの骨髄腫細胞株)を抗体産生細胞と融合することにより産生できる。抗体産生細胞、好ましくは、脾臓またはリンパ節から得たものを、関心のある抗原で免疫された動物から得ることができる。融合細胞(ハイブリドーマ)は、選択的培養条件を使用して単離でき、限界希釈によりクローン化できる。所望の特異性を有する抗体を産生する細胞は、適するアッセイ(例えば、ELISA)により選択できる。
【0013】
必要な特異性の抗体を産生または単離する他の適する方法を使用でき、これには、例えば、組換え抗体をライブラリー(例えば、ファージディスプレイライブラリー)から選択する方法が含まれる。ヒト抗体のレパートリーを産生できる遺伝子組換え動物(例えば、XenoMouse(商標)(Abgenix, Fremont, CA)) を、適する方法を使用して産生できる。
【0014】
用語「ペプチド」は、本明細書で使用するとき、約2個ないし約90個のアミノ酸残基からなり、あるアミノ酸のアミノ基が別のアミノ酸のカルボキシル基にペプチド結合により連結している化合物を表す。好ましいペプチド配列は、短く(例えば3個ないし20個のアミノ酸長)、十分な程度に細胞膜を横断できるように、親油性である。ペプチドは、例えば、酵素または化学的切断により天然タンパク質に由来するか、またはそれから取り出すことができ、あるいは、常套のペプチド合成技法(例えば、固相合成)または分子生物学の技法を使用して調製できる(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY (1989) 参照)。「ペプチド」は、任意の適するL−および/またはD−アミノ酸、例えば、一般的なα−アミノ酸(例えば、アラニン、グリシン、バリン)、非−α−アミノ酸(例えば、β−アラニン、4−アミノ酪酸、6−アミノカプロン酸、サルコシン、スタチン)、および普通ではないアミノ酸(例えば、シトルリン、ホモシトルリン、ホモセリン、ノルロイシン、ノルバリン、オルニチン)を含むことができる。ペプチド上のアミノ、カルボキシルおよび/または他の官能基は、遊離(例えば、修飾されていない)であることも、適する保護基で保護されていることもできる。アミノおよびカルボキシル基に適する保護基および保護基を付加または除去する手段は、当分野で知られており、例えば、Green and Wuts, "Protecting Groups in Organic Synthesis", John Wiley and Sons, 1991 に開示されている。ペプチドの官能基は、当分野で知られている方法を使用して、誘導体化(例えば、アルキル化)することもできる。
【0015】
阻害因子は、Vav1のRacおよび/またはRho−GTPアーゼへの結合を阻害し得、かつ/または、Vav1のGEF活性を阻害し得る。そのような阻害因子は、Vav1のGTPアーゼへの結合を妨げる抗体、Vav1のDHドメインに見出されるペプチド配列、またはRacもしくはRho−GTPアーゼ中のVav1への結合に関与する配列を含み得る。あるいは、阻害因子は、アロステリックな阻害因子であってもよく、それは、DHドメインから離れたVav1の部位に結合し、そして、GEF活性を阻害するように、DHドメインに対する効果を発揮するのを防止する。
【0016】
適する阻害性ペプチドには、Vav1のSH2ドメインに結合し、その結果Vav1の活性化受容体への共役を阻害することにより、Vav1のリン酸化を妨げるペプチドも含まれ得る。例えば、阻害性ペプチドは、Vav1のSH2ドメインに認識される配列を模倣するチロシンリン酸化ペプチド配列、例えば、配列pTyr−Xaa−Glu−Pro(ここで、Xaaは、Met、LeuまたはGluである)を含むペプチドであり得、但し、阻害性ペプチド自体はVav1チロシンリン酸化および/または活性化を導かない。そのような阻害性ペプチドには、Vav1が結合する受容体チロシンキナーゼおよびアダプタータンパク質に見出される配列、例えば、そのような受容体の細胞質ドメインに由来するチロシンリン酸化配列、例えば、T細胞受容体、FcεR受容体、IgM受容体、p145c−kit、Il−2受容体、IFNα受容体、SLP76(SH2ドメインを含有する白血球の76kDaタンパク質)、B細胞リンカー(BLNK;SLP65/BASH)またはCD19に見出されるSH2結合配列が含まれる。代替的実施態様では、阻害因子は、Vav1のSH2ドメインに存在する配列を含むペプチドであり得、例えば、配列pTyr−Xaa−Glu−Proおよび/または上記の受容体チロシンキナーゼ/アダプタータンパク質の1つにあるチロシンリン酸化配列と相互作用し、それによりVav1の活性化受容体/アダプタータンパク質への結合を阻止できる、Vav1中の配列である。例えば、阻害因子のペプチドは、ヒトVav1タンパク質の残基671−765に見出される配列を含み得る。
【0017】
あるいは、阻害因子は、Vav1のSH3ドメインがGRB2に結合するのを妨げるペプチド、例えば、WO95/26983に開示の通り、GRB2に見出されるSH3結合ドメインまたはVav1のSH3ドメインに見出されるGRB2結合ドメインを含むペプチドであり得る。
【0018】
さらなる実施態様では、阻害因子は、Vav1上のリン酸化部位、例えば、Tyr174リン酸化部位を模倣することにより、Vav1のリン酸化を妨げるか、または、リン酸化部位に会合するペプチドであり得る。あるいは、阻害因子は、例えばWO99/62315に記載の通り、例えばSer440でのVav1のセリンリン酸化の増強因子であり得る。
【0019】
さらなる実施態様では、阻害因子は、自己阻害性配列、例えば、Vav1のAcドメインに見出されるVav1の活性化を阻害する配列を含むペプチドであり得、但し、それは、チロシンリン酸化されない。
【0020】
これらの実施態様における使用に適するペプチド配列は、例えば、上記で明確に同定されるか、または、上記の議論の通りの方法により産生されるような、Vav1と抗Vav1抗体を有する他の分子成分との相互作用を探索することにより同定し得る。例えば、Vav1のRho−GTPアーゼへの結合を特異的に阻害する抗Vav1モノクローナル抗体は、Vav1機能の阻害因子として使用し得るVav1中の短いペプチド配列(例えば、DHドメイン中のもの)を同定するのに使用し得る。
【0021】
用語「ペプチド模倣物」は、本明細書で使用するとき、ポリペプチドではないが、それらの構造の様相を模倣する分子を表す。例えば、Vav1を阻害できるペプチドと同じ官能基を有するポリサッカライドを調製できる。ペプチド模倣物は、例えば、Vav1に結合するか、または結合するであろう実施態様のペプチド物質の三次元構造を確立することにより設計できる。ペプチド模倣物は、結合成分または成分群および主鎖または支持構造の少なくとも2つの成分を含む。
【0022】
結合成分は、Vav1と、例えば、リガンド結合部位のアミノ酸(群)またはそれに近いアミノ酸(群)と、反応または複合体形成するであろう(例えば、疎水性またはイオン性相互作用を介して)化学的原子または基である。例えば、ペプチド模倣物中の結合成分は、Vav1のペプチド阻害因子のものと同じであることができる。結合成分は、Vav1のペプチド阻害因子中の結合成分と同じかまたは類似のやり方でVav1と反応する原子または化学基であることができる。ペプチド中の塩基性アミノ酸のペプチド模倣物の設計で使用するのに適する結合成分の例は、アミン類、アンモニウム類、グアニジン類およびアミド類などの窒素含有基またはホスホニウム類である。酸性アミノ酸のペプチド模倣物の設計で使用するのに適する結合成分の例は、例えば、カルボキシル、低級アルキルカルボン酸エステル、スルホン酸、低級アルキルスルホン酸エステルまたは亜リン酸もしくはそのエステルである。
【0023】
支持構造は、結合成分または成分群に結合すると、ペプチド模倣物に3次元配置を与える化学成分である。支持構造は、有機でも無機でもよい。有機支持構造の例には、ポリサッカライド、有機合成ポリマーのポリマーまたはオリゴマー(ポリビニルアルコールまたはポリ乳酸など)が含まれる。支持構造がペプチド主鎖または支持構造と実質的に同じ大きさおよび容積(dimension)を有するのが好ましい。これは、ペプチドおよびペプチド模倣物の原子および結合の大きさを算出または測定することにより決定できる。ある実施態様では、ペプチド結合の窒素は、酸素または硫黄で置換でき、それによりポリエステル主鎖を形成できる。別の実施態様では、カルボニルは、スルホニル基またはスルフィニル基で置換でき、それによりポリアミドを形成できる(例えば、ポリスルホンアミド)。ペプチドの逆アミド(reverse amide)を作成できる(例えば、1またはそれ以上の−CONH−基を−NHCO−基に置換する)。また別の実施態様では、ペプチド主鎖は、ポリシラン主鎖で置換できる。
【0024】
これらの化合物は、既知方法により製造できる。例えば、ポリエステルのペプチド模倣物は、ヒドロキシル基をアミノ酸上の対応するα−アミノ基に置換し、それによりヒドロキシ酸を調製し、続いてそのヒドロキシ酸をエステル化し、場合により副反応を最小にするために塩基性および酸性の側鎖をブロックすることにより調製できる。適切な化学合成経路は、一般的に、ペプチド模倣物の所望の化学構造を決定する際に容易に同定できる。
【0025】
ペプチド模倣物を合成し、数個ないし多数の別個の分子種を含むライブラリーに集めることができる。そのようなライブラリーは、コンビナトリアル・ケミストリー(combinatorial chemistry)の周知方法を使用して調製でき、本明細書に記載の通りにスクリーニングしてライブラリーがVav1機能を阻害する1またはそれ以上のペプチド模倣物を含むか否かを判定できる。次いで、そのようなペプチド模倣物アンタゴニストを、適する方法により単離できる。
【0026】
Vav1の1またはそれ以上の機能を阻害できる有機低分子は、下記のスクリーニング方法を使用して、ライブラリーから有機化合物をスクリーニングすることにより同定し得る。適する有機低分子は、上記のいかなるメカニズムによっても、例えば、Vav1の受容体チロシンキナーゼへの結合を阻害することにより、Acドメインによる自己阻害を模倣することにより、自己阻害形態を安定化することにより、または、好ましくは、Vav1のRhoまたはRacGTPアーゼへの結合を阻害することにより、および/または、Vav1のGEF活性を阻害することにより、Vav1の機能を阻害し得る。
【0027】
ある物質(例えば、タンパク質、ペプチド、天然産物、有機低分子、ペプチド模倣物)のVav1機能を阻害する能力は、適するスクリーニング(例えば、高処理量アッセイ)を使用して判定できる。好ましくは、アッセイは、Vav1存在下でのグアニンヌクレオチド交換の速度、例えば、適するGTPアーゼ、例えばRhoAまたはRacGTPアーゼにおける(即ち、それに結合した)GTPとGDPの交換の速度に対する、試験しようとする物質の効果を判定する段階を含む。物質の存在下でのグアニンヌクレオチド交換速度の低下は、Vav1阻害因子を示すものである。好ましいVav1阻害因子は、グアニンヌクレオチド交換の速度を、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも90%低下させる物質として同定し得る。
【0028】
Vav1は、例えば、適切なキナーゼによるリン酸化により、または、自己阻害性Acドメインの切断により活性化され得る。あるいは、使用するVav1タンパク質は、別途の活性化段階なしでアッセイを行うのに十分な構成的活性を示し得る。例えば、本方法は、例えばDHドメイン(例えば、ヒトVav1の残基181−375)を含む、構成的に活性なVav1のフラグメント、または、構成的に活性なVav1の突然変異体、例えば、位置174のチロシン残基がフェニルアラニンに置き換えられたY174F突然変異体、を使用することを含み得る。任意のVav1のフラグメントまたは突然変異体を、それが活性である、即ち、活性化されて全長Vav1により示されるものと実質的に類似するGEF活性を示す能力がある、との条件で、使用し得る。
【0029】
例えば、Rac−1GTPアーゼは、蛍光標識化GDP(例えば、Molecular Probes から入手可能なBODIPY標識化GTP/GDP類似体)を充填されてもよい。次いで、GTPおよびVav1の存在下で、または、GTP、Vav1および試験しようとする物質の存在下で、蛍光消失速度を測定する。GTPのみを添加する場合、GTPがGTPアーゼ中で蛍光GDPと交換するに従い、蛍光はゆっくりと減少する。Vav1は、GTPとGDPの交換を促進することにより、蛍光消失速度を高める。Vav1の阻害因子は、Vav1およびGTPの存在下での速度と比較して、蛍光消失速度を低下させる。好ましいVav1阻害因子は、蛍光消失速度を少なくとも10%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも90%低下させる物質として同定し得る。
【0030】
あるいは、蛍光標識化GDPをGTPアーゼに添加するときに、Vav1存在下の蛍光増大速度を測定し、Vav1および試験しようとする物質の存在下の蛍光増大速度と比較し得る。Vav1は、蛍光増大速度を高める。Vav1の阻害因子は、蛍光増大速度を低下させる。好ましいVav1阻害因子は、蛍光増大速度を少なくとも10%、より好ましくは少なくとも50%、最も好ましくは少なくとも90%低下させる物質として同定し得る。
【0031】
代替的実施態様では、蛍光標識化GDP類似体を、蛍光標識化GTPで置き換えてもよい。蛍光標識化GTPは、GTPアーゼにより切断されて蛍光標識化GDPを産生する。次いで、その交換を、非標識化GTPを用いて測定し得る。さらなる代替的実施態様では、GTPアーゼを非標識化GDPで充填し、蛍光標識化GTPを添加し、蛍光の増大をVav1の存在下で測定する。阻害因子の存在下で、蛍光増大速度は低下する。
【0032】
ある実施態様では、アッセイは以下の段階を含む:
−蛍光標識化GDP(例えば、Molecular Probes から入手可能なBODIPY標識化GTP/GDP類似体、例えば、BODIPY−GDP)を、GTPアーゼRac1(下記の通りに産生する)と一緒にインキュベートする。ヌクレオチドのRac1への結合は、蛍光の増大を導く。なぜなら、蛍光標識のグアニン塩基による分子内クエンチングが、後者がGTPアーゼの結合ポケットに刺さると克服されるからである。この結合反応は、Vav1などの適切なグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)を反応混合物に含めることにより加速できる(図1参照)。
【0033】
−過剰の非標識化GTPの添加は、同時に蛍光の減少を伴うGTPアーゼからの蛍光GDPの置換をもたらす。この交換反応は、ヌクレオチド交換因子Vav1により加速される(図1参照)。
【0034】
−Vav1活性を、交換反応の時定数から、あるいは、適切に選択された時点でのサンプル中の蛍光強度をVav1の有無で比較することにより、判定できる。Vav1阻害因子は、ヌクレオチド交換因子の触媒効果を妨害するので、検出可能である。故に、阻害因子の存在下で、図1の曲線の形は、「+Vav1」について示されたものから、「−Vav1」について示されたものに移動する。
【0035】
上記方法で使用するためのRac1およびVav1は、クローニング、組換えタンパク質の発現および生成などの標準的技法により入手し得る。
【0036】
ある実施態様では、Rac1は以下の通りに調製する。全長(aa2−192)ヒトRac1(RefSeq Nr.NM_006908)をコードするインサートを、pETシリーズ (Novagen) に由来する、親和性精製用のチオレドキシン、GST、His−タグなどのN末端タグおよび PreScission Protease (APBiotech) の切断部位を有する標準的発現プラスミドにクローン化する。インサートのコード領域は、上記の全てのタグに対してC末端側に位置する。発現は、BL(21) DE3 Tuner (Novagen) などの様々な大腸菌の系統で実行する。そのDE3エレメントはT7 RNAポリメラーゼのDNAを含み、組換えタンパク質の高い発現レベルを可能にする。発現は、標準的条件下、LB培地中、IPTGによる誘導、そして様々なインキュベーション時間および温度で実行する。細菌は、2lエルレンマイヤーシェーカーフラスコ中で増殖させる。精製は、第1段階として親和性クロマトグラフィー(His−タグにはNi−NTA、GSTタグ付きタンパク質にはGSHセファロース)により実施する。さらなる精製は、サイズ除去、イオン交換、疎水性相互作用などの古典的クロマトグラフィー技法により行い得る。タンパク質は、そのタグがまだ付着したままで使用されるか、または、タグはタンパク質分解的切断および切り離されたタグのクロマトグラフィー的分離により除去される。
【0037】
ある実施態様では、上記方法で使用するためのVav1は、以下の通りに入手する。全長(aa2−845)ヒトVav1をコードするインサートを、FastBac シリーズ (Invitrogen) に由来する、親和性精製用のN末端タグのGSTおよびHis並びに PreScission Protease (APBiotech) の切断部位を有する標準的発現プラスミドにクローン化する。あるいは、MBPおよびNusAのN末端タグを使用してもよい。インサートは、上記の全てのタグに対してC末端側に位置する。バキュロウイルスの生成用のバクミド(bacmid)は、大腸菌中の組換えにより生成し、大量プラスミド精製キット (Qiagen) で精製する。タンパク質をバキュロウイルスに感染した昆虫細胞で発現させるので、第1段階として、Sf21単層昆虫細胞の感染により、十分量のバキュロウイルスを生成しなければならない。一度所望量のウイルスが得られたら、細胞をスピナーフラスコまたは Wave Bioreactor 中で増殖させることによりタンパク質をHi Five 懸濁昆虫細胞中で産生させる。精製は、第1段階として親和性クロマトグラフィー(HisタグにはNi−NTA、GSTタグ付きタンパク質にはGSHセファロース)により実施する。さらなる精製は、サイズ除去、イオン交換、疎水性相互作用などの古典的クロマトグラフィー技法により行い得る。タンパク質は、そのタグがまだ付着したままで使用されるか、または、タグはタンパク質分解的切断および切り離されたタグのクロマトグラフィー的分離により除去される。
【0038】
Vav1のDHドメインを含むポリペプチド、例えばヒトVav1の残基181−375は、同様の方法を使用して、大腸菌で産生してもよい。
【0039】
代替的アッセイとして、試験しようとする物質が、抗CD3および抗CD28抗体により誘導されるVav1含有細胞(例えば、胸腺細胞)のアポトーシスを阻害する能力を測定することにより、Vav1阻害因子を同定し得る。このアッセイは、Vav1−/+胸腺細胞は抗CD3および抗CD28抗体による刺激の後にアポトーシスするが、Vav1−/−胸腺細胞はアポトーシスし損ねるという観察に基づく。このアッセイは、非毒性で細胞透過性の物質のみが同定されるという利点を有する。試験しようとする化合物がアポトーシスを阻害する能力を、Vav1−/+およびVav1−/−細胞において比較し得る。
【0040】
Vav1阻害因子を同定するためのさらなるアッセイ方法には、Vav1活性化の下流の細胞内効果に基づく方法、例えば、カルシウム動員、CD69発現またはアクチン重合(EYFP−アクチンを使用して細胞骨格の再編成を測定する)のアッセイが含まれる。そのようなアッセイ方法は、その物質がVav1の阻害を介して作用するのか、または下流の事象に対して作用するのかを同定するために、上記の通りのグアニン交換のアッセイ方法と併せて使用してもよい。
【0041】
さらなる実施態様では、Vav1阻害因子のアッセイ方法は、標識を使用しない(label-free)液体クロマトグラフィー−質量分析をベースとする高処理量スクリーニング方法、例えば、SpeedScreen を含む。そのような方法は、親和性選択を利用して、続いてサイズ除去クロマトグラフィーおよび微小孔(microbore)−液体−クロマトグラフィー/エレクトロスプレー−イオン化質量分析により、Vav1に結合する物質の同定を可能にする。
かくして同定されたVav1阻害因子は、本発明の方法で使用するのに適する。
【0042】
本明細書で使用するとき、用語「移植片」は、第1の哺乳動物(またはドナー)から得られ、第2の哺乳動物(またはレシピエント)、好ましくはヒトに、移植できる器官および/または組織および/または細胞を表す。用語「移植片」は、例えば、皮膚、眼または眼の部分(例えば、角膜、網膜、レンズ)、筋肉、骨髄、または骨髄の細胞性成分(例えば、幹細胞、前駆細胞)、心臓、肺、心肺、肝臓、腎臓、膵臓(例えば、島細胞、β−細胞)、副甲状腺、腸(例えば、大腸、小腸、十二指腸)、神経組織、骨および脈管構造(例えば、動脈、静脈)を包含する。移植片は、適する哺乳動物(例えば、ヒトまたはブタ)から得ることができ、または、ある種の状況下では、細胞、例えば、胚性、皮膚または血液細胞および骨髄細胞をインビトロで培養することにより移植片を産生できる。移植片は、好ましくはヒトから得る。
【0043】
腎臓、心臓、肝臓および肺の器官移植は、末期の器官疾患の処置として、現在定例的に実施されている。同種移植片並びに異種移植片の移植が実施されてきた。しかしながら、長期の慢性拒絶の問題のために、器官移植は、まだ不可逆的な器官疾患に対する恒久的解決ではない。また、急性拒絶の処置用の改善された物質に対する要望もある。
【0044】
進行性かつ不可逆的な移植片の機能不全として現れる慢性拒絶は、術後一年目で既に見られる場合もある器官移植物の消失の主原因である。慢性拒絶の臨床的問題は、移植物の生存時間から明らかである;腎臓同種移植片の約半分が移植後10年前後で失われ、同様の値が心臓同種移植片を有する患者で観察される。
【0045】
慢性拒絶は、移植片に対する免疫反応のみならず、移植された器官の血管壁の損傷に対する応答(「損傷応答」反応)も役割を果たす、多要因の過程と考えられる。最悪の予後を伴う慢性拒絶の変形は、移植脈管障害とも呼ばれる動脈硬化症様の変化、移植片血管疾患、移植片アテローム性動脈硬化症、移植冠疾患などである。この血管の病変は、なかんずく内皮により合成される成長因子の影響下での平滑筋細胞の遊走および増殖を特徴とする。血液由来の幹細胞の新生内膜組織の前駆体としての寄与が最近立証された。また、なかんずく宿主の抗体または抗原抗体複合体により誘導される反復性内皮損傷を介して、内膜の増殖および肥厚、平滑筋細胞肥大の修復を介して、最終的に漸進的な管腔の閉塞に進むように見える。高血圧症、高脂血症、高コレステロール血症などのいわゆる非免疫学的要因も役割を果たす。
【0046】
慢性拒絶は、知られている効果的な治療または予防様式がないので、無情かつ制御不可能であるように見える。故に、慢性移植片血管疾患の顕在化を予防、制御または逆転するのに効果的な処置への要望が存在し続けている。
【0047】
自己免疫および炎症疾患には、例えば、リウマチ性関節炎、全身性エリテマトーデス、橋本甲状腺炎、多発性硬化症、重症筋無力症、I型またはII型糖尿病およびそれらに伴う疾患、血管炎、悪性貧血、シェーグレン症候群、ブドウ膜炎、乾癬、グレーブス甲状腺眼症、円形脱毛症など、アレルギー性疾患、例えば、アレルギー性喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎/結膜炎、アレルギー性接触性皮膚炎、潜在的異常反応を伴うこともある炎症性疾患、例えば、炎症性腸疾患、クローン病または潰瘍性大腸炎、内因性喘息、炎症性肺損傷、炎症性肝損傷、炎症性糸球体損傷、アテローム性動脈硬化症、骨関節炎、刺激物接触性皮膚炎、およびさらなる湿疹性皮膚炎、脂漏性皮膚炎、免疫介在性障害の皮膚的顕在化、炎症性眼疾患、乾性角結膜炎、心筋炎または肝炎が含まれる。
【0048】
悪性増殖性疾患には、例えば、非固形腫瘍、特に、白血病およびリンパ腫、よりことさらに、T細胞白血病およびT細胞リンパ腫が含まれる。T細胞白血病およびリンパ腫には、T細胞前リンパ球性(prolymphotic)白血病、T細胞顆粒リンパ球性白血病、攻撃型NK細胞白血病、有毛細胞白血病、鼻および鼻型NK/T細胞リンパ腫、菌状息肉腫およびセザリー(Sezary)症候群、血管免疫芽細胞性T細胞リンパ腫、末梢性T細胞リンパ腫非特異型、成人T細胞白血病/リンパ腫(HTLV1+)、未分化大細胞リンパ腫、原発性皮膚CD30陽性T細胞リンパ球増殖性障害、皮膚T細胞リンパ腫、皮下脂肪組織炎様T細胞リンパ腫、腸管症型T細胞リンパ腫(+腸疾患)、および肝脾ガンマ/デルタT細胞リンパ腫が含まれるがこれらに限定されるわけではない。
【0049】
本発明の独特な知見に従い、以下のものが提供される:
1.1 細胞、組織または器官同種移植のレシピエントにおける急性移植片拒絶の予防または処置方法であって、該レシピエントに治療的有効量の哺乳動物(例えばヒト)Vavタンパク質阻害因子を投与する段階を含む方法;
【0050】
1.2 組織または器官同種移植のレシピエントにおける、例えば慢性拒絶を回避、低減または制限するための、慢性拒絶の予防または処置方法であって、該レシピエントに治療的有効量の哺乳動物(例えばヒト)Vavタンパク質阻害因子を投与する段階を含む方法;
【0051】
1.3 組織または器官同種移植のレシピエントにおける、例えば移植脈管障害、動脈硬化症またはアテローム性動脈硬化症などの移植片血管疾患を予防または処置する方法であって、該レシピエントに治療的有効量の哺乳動物(例えばヒト)Vavタンパク質阻害因子を投与する段階を含む方法;
【0052】
1.4 例えば経皮経管的血管形成術などのカテーテル術(catherization procedure)または血管剥離術(vascular scraping procedure)に起因する血管損傷後の血管移植片狭窄、再狭窄および/または血管閉塞を、それを必要としている対象において予防または処置する方法であって、該対象に治療的有効量の哺乳動物(例えばヒト)Vavタンパク質阻害因子を投与することを含む方法;
【0053】
1.5 炎症または自己免疫疾患を、それを必要としている対象において予防または処置する方法であって、該対象に治療的有効量のVavタンパク質阻害因子を投与する段階を含む方法;
【0054】
1.6 悪性増殖性疾患を、それを必要としている対象において予防または処置する方法であって、該対象に治療的有効量のVavタンパク質阻害因子を投与する段階を含む方法;
【0055】
1.7 (a)細胞、組織または器官同種移植のレシピエントにおける急性または慢性移植片拒絶、(b)血管損傷に続く血管移植片狭窄、再狭窄および/または血管閉塞、または(c)炎症、自己免疫または悪性増殖性疾患を、予防、処置または阻害するための、Vavタンパク質阻害因子の使用;
【0056】
1.8 (a)細胞、組織または器官同種移植のレシピエントにおける急性または慢性移植片拒絶、(b)血管損傷に続く血管移植片狭窄、再狭窄および/または血管閉塞、または(c)炎症、自己免疫または悪性増殖性疾患を、予防、処置または阻害するための医薬の製造のための、Vavタンパク質阻害因子の使用;
【0057】
1.9 上記1.1ないし1.6で定義されるいずれかの方法において使用するための、哺乳動物(例えばヒト)Vavタンパク質阻害因子(例えばVav1阻害因子)を、そのための1またはそれ以上の医薬的に許容し得る希釈剤または担体と一緒に含む、医薬組成物。
【0058】
移植拒絶の予防または処置における阻害の標的としてのVav−1の有用性は、遺伝子組換えVav−1不全マウスでの研究において立証される。例えばVav−2不全マウスを使用して、以下の方法を繰り返し得る。
【0059】
A.1 異所性血管心臓同種移植
Corry et al. 1973, Transplanation 16 (4), 343-350 に記載の通りに、Balb/c (H-2d, Charles River, Wiga) マウスをドナーとして、そして全体的MHCおよびmHミスマッチを含むVav−1 koマウスおよび野生型マウスをレシピエントとして使用して、異所性心臓移植を実施する。Vav−1 koノックアウトマウスを Fischer et al. 1998, Curr. Biol. 8, 554-562 に記載の通りに生成させる。簡単に述べると、イソフルランを使用して動物を麻酔する。ドナーマウスの腹部下大静脈を介するヘパリン処理および同時の大動脈を介する脱血に続き、胸部を切開し、心臓を急速に冷却する。大動脈を結紮し、第一分岐部の遠位で切離し、右腕頭動脈を最初の分岐で切離する。左肺動脈を結紮切離し、右側を切離する。他の全ての血管を遊離させ、結紮切離し、ドナーの心臓を氷冷塩水に移す。腎下方腹部大動脈および静脈の遊離および相互結紮(cross-clamping)により、レシピエントを準備する。11/0単一繊維縫合糸を使用して、ドナーの右腕頭動脈とレシピエントの大動脈との間、および、ドナーの右肺動脈からレシピエントの大静脈へ、移植片を端側吻合で移植する。鉗子を除去し、移植片を後腹部に繋ぎ止め、腹部内容物を温かい塩水で洗浄し、動物を閉じ、温めながら回復させる。
【0060】
移植片を毎日の腹部触診によりモニターし、触診可能な心室性収縮がなくなったら、拒絶されたとみなす。
【0061】
A.3 処置群
以下の処置群のいずれかに動物をランダムに割り振る(群当たりn=5):
(a)Balb/c−to−Vav−1ノックアウト;
(b)Balb/c−to−Vav−1野生型(C57BL/6)。
【0062】
A.4 心臓同種移植片の生存−表1
【表1】

心臓同種移植片の生存は、Vav−1不全マウスで野生型対照と比較して顕著に増大する(表1に示す)。
【0063】
A.5.1 組織病理学および免疫組織化学
冠血管の再構築をスコア付けすることにより、移植片生存>100日間の心臓同種移植片について、血管再構築の程度を評価する。
【0064】
4%緩衝化ホルマリン中で組織を固定し、パラフィンに包埋する;3−4μm厚の移植片切片を、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色し、Van Gieson 染色して内弾性板を可視化する。間質細胞性の拒絶を、拒絶なし、穏やかな、中度の、または激しい拒絶とスコア付けする。血管内膜の厚さを、なし、穏やか、中度、激しいとスコア付けする。
【0065】
免疫組織化学的分析をパラフィン切片で実施する。平滑筋アクチンに対する一次抗体(SMA,クローン1A4, DakoCytomation, Denmark, 1:25希釈)、ラット抗ヒトCD3(T細胞、クローンCD3−12, Serotec, UK, 1:200希釈)およびラット抗マウスF4/80(マクロファージ、クローンCI:A3−1, Serotec, UK, 1:100希釈)およびラット抗マウスCD45R(B細胞、クローンRA3−6B2, Serotec, 1:10000希釈)を使用して、ストレプトアビジン/ペルオキシダーゼ反応を実施する。平滑筋細胞および浸潤したCD3+、F4/80+およびCD45+細胞の準定量的分析を、Leica DMR 顕微鏡を使用して実施する。
【0066】
個々のNI値を平均し、平均±SEMとして報告する。処置群の平均に対して試験する仮説は、一元配置分散分析を使用して実施し、確率値を報告する。統計的有意は、p<0.05とする。
【0067】
A.5.2 心臓同種移植片の組織学
Vav−1+/+レシピエントは、僅か7−8日後に激しい急性細胞性拒絶を示す。Vav−1−/−の移植片の分析は、生存>100日間の穏やかな間質性拒絶のみを示す。
【0068】
A.6 移植マウス由来の血液のFACS分析および血液学
死体解剖中に、FACS分析のために全血をヘパリン被覆チューブに試料採取する。さらに、250μlの全血を、Ca2+/Mg2+を含まないPBS250μlを含有するEDTA被覆チューブに試料採取し、混合後、Nucleic Acid Purification Lysis Solution (Applied Biosystems #4305895)500μlを添加し、0.5分間ボルテックスし、−20℃で凍結する。3分の1の血液試料は、H血液学のために取る。
【0069】
脾細胞および末梢血を、B6 WTマウスおよびVav1ノックアウトマウスから、標準的操作を使用して調製し、200000細胞/ウェルおよび様々な刺激(表2に示す)を使用して、16時間のエクスビボ刺激に付す。細胞を免疫表現型に分け、3または4色の流動細胞計測法を使用してCD69発現の観点から刺激の程度を判定する。
【0070】
WTおよびVav1不全マウスの脾細胞または末梢血リンパ球を様々な刺激に付すと、Vav1不全T細胞(CD4+、CD8+)およびVav1不全B細胞(B220+)は、FACSで測定される活性化マーカーCD69の顕著に低い発現を示す。同様の結果が脾臓および末梢血由来のTおよびB細胞について得られる。Vav1不全は、T細胞活性化およびT依存性B細胞活性化を阻止することが立証される。
【0071】
表2−CD69発現TおよびB細胞
【表2】

【0072】
急性または慢性拒絶における哺乳動物(例えばヒト)Vavタンパク質阻害因子の有用性、並びに本明細書の上記で特定される疾患および症状の処置における有用性は、例えば、本明細書の下記の方法に従う動物試験で、そして、例えば、移植された器官または組織が、定例的な生検制御に付され得、心臓移植の場合はさらに超音波スキャンに付され得る病院で、立証され得る。
【0073】
B.1 急性拒絶
例えば、Balb/c(H−2d)マウスをドナー動物として、そして例えばCBA(H−2k)マウスをレシピエントとして使用する。既知操作に従い心臓をドナーから取り出し、冷却塩水(4℃)中で保存する。レシピエント動物をイソフルランで麻酔する。腎下方腹大動脈および下大静脈を露出させる。血管を筋膜から3−5mmの長さにわたり剥離し、結紮し、いかなる小さい分岐も切離する。血管を最初に近位で、次いで遠位で閉鎖する。動脈切開および静脈切開を実施し、管腔にヘパリン処理生理塩水を流し込む。端側大動脈吻合、次いで、ドナーの右肺静脈からレシピエントの下大静脈への端側吻合を実施する。遠位の結紮、次いで近位の結紮を取り除く。縫合線を漏出について確認する。次いで、移植片を後腹部に繋ぎ止める。腹部を温かい塩水(37℃)で洗い流し、傷を閉じる。移植片の機能を腹部触診により毎日モニターする。移植片が鼓動を停止したら、拒絶を結論づける。
【0074】
動物を以下の処置の1つに付す:Vav1阻害因子単独、または、Vav1およびVav2の阻害因子の組合せ。このアッセイにおいて、Vav1阻害因子または組み合わせたVav1/Vav2阻害因子で処置した動物で、移植片機能の改善が達成される。
【0075】
B.2 慢性拒絶
ドナーマウス(例えばC3H)を、イソフルランで麻酔し、左右の頸動脈を単離し、剥離する。動物を脱血し、ヘパリン処理塩水100I.U./mlを流し込み、いかなる残存する血液も除去する。次いで、各頸動脈を遠位と近位の分岐に出来るだけ近いところで取り出し、ヘパリン処理塩水で再度すすぎ、4℃で保存する。レシピエントマウス(例えばB6)を上記の通りに麻酔し、気管の側方にある左内頚動脈を単離する。近位の微小血管のクリップおよび遠位のクリップを施す。クリップ間の中程で適切な長さを摘除し、移植片を代わりに置き、長さに合わせて整形する。端々吻合を実施する。遠位のクリップを最初に、次いで近位のものを除き、止血を確実にし、皮膚を閉じる。完全に回復するまで、動物を遠赤外線下に置く。
【0076】
動物を以下の処置の1つに付す:Vav1阻害因子単独、または、Vav1およびVav2の阻害因子の組合せ。
【0077】
5ないし8週で動物を犠牲にし、頸動脈を、2mlの冷却リン酸緩衝塩水(PBS)で、次いで2mlの冷却灌流固定液(PBS0.01M中、2.5%グルタルアルデヒド、2%ホルマリン)で灌流する。次いで、頸動脈を切り取り、組織学的評価のために染色する。形態計測的分析は、中膜および内膜の厚さの測定を含む。形態学的変化の定性的分析は、単核細胞の外膜浸潤および壊死(空胞変性、細胞の肥大)、中膜中の平滑筋細胞(SMC)核の数、SMCの壊死および単核細胞の内膜浸潤をスコア付けすることを含む。このアッセイにおいて、Vav1阻害因子または組み合わせたVav1/Vav2阻害因子で処置した動物で、移植片機能の改善が達成される。
【0078】
B.3 血管形成
バルーンカテーテル損傷のラットモデルで、血管形成の研究を行う。本質的に Powell et al. (1989) により記載された通りに、バルーンカテーテル処置を0日目に実施する。イソフルラン麻酔下で、Fogarty 2F カテーテルを左総頚動脈に導入し、均一な内皮剥離(de-endothelialization)を達成する。次いでカテーテルを取り除き、結紮を外頸動脈の周りに設置して出血を防止し、動物を回復させる。例えば12匹の RoRo ラット(400g、約24週齢)の2群を研究に使用する:1つの対照群とVav1阻害因子を受容する1つの群であり、ラットは完全にランダム化する。バルーン損傷の2日前(−3日目)に開始して、研究終了、即ちバルーン損傷の14日後まで、Vav1阻害因子を点滴により投与する。次いで、ラットをイソフルランで麻酔し、0.1Mリン酸緩衝塩水(PBS、pH7.4)で、次いで15分間リン酸緩衝液(pH7.4)中の2.5%グルタルアルデヒドで灌流する。頸動脈を切り取り、周りの組織から分離し、7%ショ糖を含有する0.1Mカコジル酸緩衝液(pH7.4)に浸し、終夜4℃でインキュベートする。次いで、翌日、製造業者の推奨に従い、頸動脈を Technovit 7100 に包埋する。中膜、新生内膜および管腔の横断面の面積を、画像分析システム (MCID, Toronto, Canada) を利用して形態計測学的に評価する。
【0079】
Vavタンパク質阻害因子(例えばVav1阻害因子)を、例えば、同種移植片の急性または慢性拒絶、炎症または自己免疫障害または悪性増殖生疾患の処置または予防のために、単独の有効成分として、または、他の免疫調整措置の薬物または他の抗炎症剤と一緒に投与し得る。例えば、それらを、カルシニュリン阻害因子、例えば、シクロスポリンA、シクロスポリンG、FK−506、ABT−281、ASM981;mTOR阻害因子、例えば、ラパマイシン、40−O−(2−ヒドロキシ)エチル−ラパマイシン、CCI779、ABT578、AP23573、AP23464、AP23675、AP23841またはTAFA−93;コルチコステロイド類;シクロホスファミド;アザチオプリン;メトトレキセート;EDG受容体アゴニスト、例えばFTY720またはその類似体;レフルノミド(leflunomide)またはその受容体;ミゾリビン;ミコフェノール酸;ミコフェノール酸モフェチル;15−デオキシスペルグアリン(deoxyspergualine)またはその類似体;免疫抑制性モノクローナル抗体、例えば、白血球受容体、例えば、MHC、CD2、CD3、CD4、CD11a/CD18、CD7、CD25、CD27、B7、CD40、CD45、CD58、CD137、ICOS、CD150(SLAM)、OX40、4−1BB、またはそれらのリガンド、例えばCD154、に対するモノクローナル抗体;または他の免疫調整化合物、例えば、CTLA4またはその突然変異体の細胞外ドメインの少なくとも一部を有する組換え結合分子、例えば、非CTLA4タンパク質配列(例えばCTLA4Ig(例えば、ATCC68629)またはその突然変異体、例えばLEA29Y)に連結したCTLA4またはその突然変異体の細胞外部分の少なくとも一部、または他の接着分子阻害因子、例えばLFA−1アンタゴニスト、セレクチンアンタゴニストおよびVLA−4アンタゴニストを含むmAbまたは低分子量阻害因子;化学療法剤、例えば抗悪性腫瘍剤、または癌治療の佐剤として使用される物質、例えばアロマターゼ阻害因子、抗エストロゲン剤、トポイソメラーゼI阻害因子、トポイソメラーゼII阻害因子、微小管活性剤、アルキル化剤、抗悪性腫瘍的抗代謝剤、白金(platin)化合物、タンパク質キナーゼ、特に非受容体チロシンキナーゼの活性を低減させる化合物、およびさらなる抗血管形成化合物、ゴナドレリンアゴニスト、抗アンドロゲン剤、ビスフォスフォネート化合物、トラスツズマブ、および種々の抗癌剤、例えば6−チオグアニジン、ヒドロキシ尿素、プロカルバジンまたはブレオマイシン;または、ジフテリアまたはシュードモナス毒素部分およびその融合タンパク質をT細胞に標的化するのに適する標的化部分(例えば抗CD3抗体)を含む抗T細胞免疫毒素融合タンパク質、例えばDT389−sFv(UCHT1)、scFv(UCHT1)−PE38および(Ala)dmDT390−bisFv(UCHT1*)(これらはWO01/87982、WO00/41474またはUS特許出願番号09/573,797に記載の通りに製造および投与でき、これらの内容を出典明示により本明細書の一部とする)、またはEP517829に開示され、商標ONTAKで市販されているキメラジフテリア免疫毒素と組み合わせて使用してよい。
【0080】
さらなる態様では、阻害因子は、Vav2阻害因子である。「Vav2阻害因子」は、Vav2のある(即ち、1またはそれ以上の)機能を阻害できる物質またはリガンド(例えば、分子、化合物)を意味する。従って、阻害因子は、Vav2のGEF活性を、またはVav1と同様に、Vav2の他のいかなる機能も、阻害し得る。好ましくは、Vav2機能の阻害因子は、例えば、有機低分子、タンパク質(例えば、抗体)、ペプチドまたはペプチド模倣物である化合物である。Vav2結合抗体の例は、Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA から入手可能なVav2(D−7)およびVav2(P−18)である。他の抗Vav2抗体は、抗Vav1抗体のために上記した方法と同様に産生し得る。ペプチド、ペプチド模倣物および有機低分子のVav2阻害因子も、Vav1阻害因子のために上記したものと同様のプロセスにより産生し得る。Vav2阻害因子は、Vav1に関して上記した通りの方法で使用し得る。
【0081】
Vav2阻害因子は、Vav1の代わりにVav2を使用する以外は上記の通りのグアニンヌクレオチド交換アッセイにより同定し得る。さらなる態様では、本発明は、1つのVav1阻害因子および1つのVav2阻害因子を含む治療的組合せを提供する。Vav1とVav2の両方を阻害することができる物質を同定するために、そのようなアッセイでVav1阻害因子をVav2阻害活性についてさらにスクリーニングしてもよい。従って、ある態様では、阻害因子は組み合わされたVav1およびVav2阻害因子であり、これは、Vav1とVav2の両方を阻害することができる単一の物質を意味する。1つの組み合わされたVav1/Vav2阻害因子の使用、または1つのVav1阻害因子および1つのVav2阻害因子の組み合わされた投与は、TおよびB細胞の両方の機能、活性および/または増殖の阻害が望ましい症状を処置する場合に好ましい。
【0082】
個体に投与するVavタンパク質阻害因子またはさらなる薬物の量は、全般的健康状態、年齢、性別、体重、用いる化合物、投与様式、処置しようとする症状の重篤さなどの、個体の特徴によって決まる。当業者は、これらおよび他の要因に応じて適切な投与量を決定できる。典型的には、有効量は、成人で1日当たり約0.1mgないし1日当たり約100mgの範囲にあり得る。抗体およびその抗原結合フラグメント、特にヒト、ヒト化およびキメラ抗体および抗原結合フラグメントは、しばしば、他のタイプの治療剤よりも低頻度で投与できる。例えば、そのような抗体の有効量は、約0.01ないし5または10mg/kgの範囲で、日毎に、週毎に、2週毎に、月毎に、またはそれより低い頻度であり得る。
【0083】
Vavタンパク質阻害因子(例えばVav1阻害因子)は、いかなる常套の経路でも、特に、経腸、例えば経口、例えば飲用液剤、錠剤またはカプセル剤の形態で、または非経腸、例えば、注射可能液剤または懸濁剤の形態で、または局所で、投与し得る。Vav阻害因子は、中性の化合物として、または、医薬的に許容し得る塩、例えば、適する酸または塩基を用いて得られる塩として、投与し得る。
【0084】
前記に従い、本発明は、なおさらなる態様を提供する:
5. 治療的有効量のVavタンパク質阻害因子(例えばVav1阻害因子)および少なくとも1つの第2の薬物物質を、例えば同時または連続的に、共に投与することを含み、該第2の薬物物質が、例えば上記に示した通りの免疫抑制剤、免疫調整剤または抗炎症剤または化学療法剤である、上記の通りの方法。
【0085】
6. a)Vavタンパク質阻害因子(例えばVav1阻害因子)およびb)免疫抑制剤、免疫調整剤または抗炎症剤または化学療法剤から選択される少なくとも1つの第2の物質、を含む治療的組合せ、例えばキット。成分a)および成分b)は、同時または連続的に使用し得る。キットは、その投与のための指示書を含んでもよい。
【0086】
7. 治療的有効量のVav1阻害因子およびVav2阻害因子を、例えば同時または連続的に、共に投与することを含む、上記の通りの方法。
【0087】
8. a)Vav1阻害因子およびb)Vav2阻害因子、を含む治療的組合せ、例えばキット。成分a)および成分b)は、同時または連続的に使用し得る。キットは、その投与のための指示書を含んでもよい。
【0088】
9. 物質をVav1阻害因子として同定するためのスクリーニング方法であって、RhoまたはRacGTPアーゼのグアニンヌクレオチド交換の速度を、(a)その物質、および(b)Vav1またはその活性なフラグメントもしくは突然変異体の存在下で判定することを含み、その物質の存在下でのグアニンヌクレオチド交換の速度の低下は、その物質がVav1阻害因子であることを示すものである、方法。
【0089】
10. 物質をVav2阻害因子として同定するためのスクリーニング方法であって、RhoまたはRacGTPアーゼのグアニンヌクレオチド交換の速度を、(a)その物質、および(b)Vav2またはその活性なフラグメントもしくは突然変異体の存在下で判定することを含み、その物質の存在下でのグアニンヌクレオチド交換の速度の低下は、その物質がVav2阻害因子であることを示すものである、方法。
【0090】
11. 上記の方法により得られるVav1またはVav2阻害因子。
【0091】
図1は、RacGTPアーゼおよびBODIPY−GDPを使用する、Vav1の存在下または非存在下のVav1阻害因子のグアニンヌクレオチド交換アッセイにおける、蛍光の経時的変化を示す。
【0092】
ここで、以下の非限定的実施例を参照して、本発明をより正確に記載する。
実施例1
Bodipy−GDP/Rac−1会合アッセイ
1536ウェルのマイクロタイタープレートの各ウェルに、0.1Mリン酸緩衝液pH7.0中の、
【表3】

を添加する。0.4pmol(最終濃度200nM)組換えヒトRac−1を各ウェルに反応開始と同時に添加し、最終体積を各ウェル2μlとする。様々な試験化合物を各ウェルに添加する。対照のウェルは、上記の成分の各々を含有するが、(a)試験化合物を含まない、または(b)試験化合物もVav−1も含まない。
【0093】
プレートを30分間25℃でインキュベートする。次いで、励起波長488nmおよび530nmでの測定を使用して、蛍光プレートリーダー中で、各ウェルについて同時に蛍光を測定する。
【0094】
測定される蛍光は、対照のウェル(a)Vav−1を含有し、阻害因子を含有しない、で最高である。より低い(ベースライン)蛍光は、対照ウェル(b)Vav−1を含まない、で記録される。試験化合物として有効なVav−1阻害因子を含有するウェルは、対照ウェル(a)より低い蛍光を示すので同定し得る。
【0095】
実施例2
Bodipy−GDP/Rac−1解離アッセイ
組換えヒトRac1を蛍光標識化グアニンヌクレオチドで充填するために、50mMTris−HCl pH7.5中の32μMの組換えヒトRac1、1000μlの50mMTris−HCl pH7.5、60mM NaCl、6mM MgCl、8mM DTTおよび500μlの480nM BODIPY−FL−GDPを合わせ、3時間室温でインキュベートする。次いで、この混合物600nlを、2080ウェルマイクロタイタープレートの各ウェルに添加する。その中では、600nlの50mM Tris−HCl pH7.5中の3μM vav1、400μM GTPが、試験しようとする化合物と既に予めインキュベートされている。対照のウェルは、(a)試験化合物を含まない、または(b)試験化合物もVav−1も含まない。
【0096】
次いで、プレートを25℃でインキュベートする。反応開始30分後に各ウェルで共焦点または非共焦点蛍光リーダーを使用して、反応を開始したのと同じ順番で各ウェルの蛍光読み出しを得ることにより、蛍光を判定する。励起/検出の波長は、実施例1の通りである。
【0097】
測定される蛍光は、対照のウェル(a)Vav−1を含有し、阻害因子を含有しない、で最低である。より高い蛍光は、対照ウェル(b)Vav−1を含有しない、で記録される。試験化合物として有効なVav−1阻害因子を含有するウェルは、対照ウェル(a)と比較して上昇した蛍光に基づいて同定できる。
【0098】
さらなる実施例では、会合または解離の変化幅(dynamic range)(測定時の対照ウェル(a)と(b)との間の蛍光の差異)を最大にするために、異なる試験化合物濃度(例えば10μM、50μM)、異なる温度(例えば37℃)および異なるインキュベーション時間(例えば15分間、120分間)で、実施例1および2の方法を繰り返してもよい。他のプレート形式を使用してもよく、会合および解離アッセイの両方とも、同時または連続的蛍光検出のいずれを使用して実施してもよい。Vav−1の代わりに組換えヒトVav−2を用いる同様のアッセイを使用して、Vav−2阻害因子を同定し得る。
【0099】
さらなる実施態様では、上記の実施例を、全長Vav−1の代わりに、(a)DHドメインを含むVav−1の切断型突然変異体、または、(b)Y174F突然変異体を使用して繰り返してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】図1は、RacGTPアーゼおよびBODIPY−GDPを使用する、Vav1の存在下または非存在下のVav1阻害因子のグアニンヌクレオチド交換アッセイにおける、蛍光の経時的変化を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)細胞、組織または器官の同種または異種移植のレシピエントにおける急性または慢性移植片拒絶、(ii)それを必要としている対象における炎症または自己免疫疾患、(iii)血管損傷後の血管移植片狭窄、再狭窄および/または血管閉塞、または、(iv)それを必要としている対象における悪性増殖性疾患の予防または処置方法であって、レシピエントに治療的有効量のVavタンパク質阻害因子を投与する段階を含む方法。
【請求項2】
細胞、組織または器官の同種移植のレシピエントにおける急性または慢性移植片拒絶の予防、処置または阻害用、または、炎症または自己免疫疾患または悪性増殖性疾患の処置用の医薬を製造するための、Vavタンパク質阻害因子の使用。
【請求項3】
Vavタンパク質がVav−1である、請求項1または請求項2に記載の方法または使用。
【請求項4】
Vavタンパク質阻害因子、および、免疫抑制剤、免疫調整剤または抗炎症剤または化学療法剤から選択される少なくとも1つの第2の物質を含む治療的組合せ。
【請求項5】
物質をVav1またはVav2阻害因子として同定するためのスクリーニング方法であって、RhoまたはRacGTPアーゼのグアニンヌクレオチド交換の速度を、(a)その物質、および(b)Vav1またはVav2、またはそれらの活性なフラグメントもしくは突然変異体の存在下で判定する段階を含み、その物質の存在下でのグアニンヌクレオチド交換の速度の低下は、その物質がVav1またはVav2阻害因子であることを示すものである、方法。
【請求項6】
(a)その物質、および(b)Vav1またはVav2、またはそれらの活性なフラグメントもしくは突然変異体の存在下で、GTPアーゼにおける蛍光標識化グアニンヌクレオチドと非標識化グアニンヌクレオチドの交換速度を測定する段階を含む、請求項5に記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
(i)GTPアーゼを蛍光標識化グアニンヌクレオチドとインキュベートすること、および、
(ii)
(a)その物質
(b)Vav1またはVav2、またはそれらの活性なフラグメントもしくは突然変異体、および
(c)非標識化グアニンヌクレオチド
の存在下で、蛍光の変化を測定すること、
を含む、請求項6に記載のスクリーニング方法。
【請求項8】
高処理量スクリーニングに適する、請求項6または請求項7に記載のスクリーニング方法。
【請求項9】
請求項6ないし請求項8のいずれかに記載のスクリーニング方法により得ることができるVav1またはVav2阻害因子。
【請求項10】
Vavタンパク質阻害因子およびそのための1またはそれ以上の医薬的に許容し得る希釈剤または担体を含む、請求項1に記載の方法において使用するための医薬組成物。

【図1】
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【公表番号】特表2006−525248(P2006−525248A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505133(P2006−505133)
【出願日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003982
【国際公開番号】WO2004/091654
【国際公開日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(597011463)ノバルティス アクチエンゲゼルシャフト (942)
【Fターム(参考)】