穀物種子由来食品原料からのアレルゲン除去方法
【課題】穀物種子由来食品原料からのアレルゲン除去方法の提供。
【解決手段】穀物種子又はその破砕物を水性溶媒の存在下で加熱して糊化し、その糊化物をアミラーゼ及び/又はプロテアーゼを用いて液化し、60〜8,000 gで遠心分離して上清を回収することを含む、穀物種子由来食品原料からアレルゲン蛋白質を除去する方法。
【解決手段】穀物種子又はその破砕物を水性溶媒の存在下で加熱して糊化し、その糊化物をアミラーゼ及び/又はプロテアーゼを用いて液化し、60〜8,000 gで遠心分離して上清を回収することを含む、穀物種子由来食品原料からアレルゲン蛋白質を除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物種子由来食品原料からのアレルゲン除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米、小麦などの穀物種子は、人類にとって重要なエネルギー源として昔から主食として食されてきた。さらに穀物種子は、エネルギー源となるデンプンだけでなく、蛋白質やミネラル等の他の重要な成分も多く含んでいる。特に米は栄養バランスに優れており、多くの必須アミノ酸を含み、またカルシウム、ビタミンB、鉄、マグネシウム、亜鉛等も含む。最近では、穀物種子からの食品原料の製造や、その食品原料の機能性にも大変注目が集まっている。例えば、甘味料として使用可能な米糖化液の製造(特許文献1)や、その米糖化液の抗菌作用(特許文献2)等についても報告されている。
【0003】
一方で、近年、生活環境の変化からアレルギー性疾患や生活習慣病が特に社会問題化している。作物及び作物由来の食品に含まれるアレルゲンは、アレルギー患者にアトピー性皮膚炎やアナフィラキシー等の重篤な症状を引き起こすことがある。また腎臓病患者の栄養補給剤としては、低蛋白食品が必要である。特に米、小麦、大豆等の主要な穀物における低アレルゲン化・低蛋白化は重要な研究課題であり、簡便で安全な実用技術の開発が求められてきた。これまでに交配育種によってこれら穀物に含まれるアレルゲンを低減化する試みも行われているが、同じ穀物に対するアレルギーであっても、患者によって反応するアレルゲンの種類やアレルギーの程度が異なるため、育種によるアレルゲン低減化は容易ではない。また、各種アレルゲンを含む貯蔵蛋白質の多くは作物の生育に必須であるため、それらを栽培段階で排除するのは困難である。そのため、収穫後の加工処理により、穀物に含まれる蛋白質やアレルゲンを一低減するための効果的な技術の開発が期待されている。
【0004】
食品に含まれるアレルゲン蛋白質を低減させる技術はこれまでにいくつか報告されている。例えば、塩水や、界面活性剤、アルカリ処理により蛋白質を溶出させる手法がある(特許文献3−6)。しかしこれらの方法には、蛋白質によって溶出度合が異なること、食品に適用する上での安全性が疑われること、風味を損なう場合があること等の問題点が指摘されている。プロテアーゼやそれを含む酵母、麹菌等を食品原料に添加し、アレルゲンを含む蛋白質を消化する手法も報告されている(特許文献7−10)が、プロテアーゼの基質特異性により低減される蛋白質の種類が限られること、アレルゲン性が疑われる未消化の大きなペプチド断片が生じる場合があること等の問題点がある。また、交配や遺伝子組換え技術により、特定のアレルゲン蛋白質を低減させた作物品種や系統を開発した例もあるが、複数種のアレルゲンや蛋白質を排除することは技術的に容易ではない。
【0005】
このように従来の方法では、穀物種子から得られる食品原料において多くのアレルゲンや蛋白質を顕著に低減化することには成功していない。米、小麦、大豆、ソバ等多くの作物種に汎用でき、かつ穀物に含まれるアレルゲンや蛋白質を簡便かつ高効率に除去することができる加工処理技術はこれまでのところ開発されていない。
【0006】
【特許文献1】特開2003−250485号
【特許文献2】特開2006−169153号
【特許文献3】特開2003−259828号
【特許文献4】特開平11−9202号
【特許文献5】特開平7−203885号
【特許文献6】特開平7−115920号
【特許文献7】特開平11−75744号
【特許文献8】特開2005−34046号
【特許文献9】特開2005−198582号
【特許文献10】特開平7−236439号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、穀物種子由来食品原料からのアレルゲン除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、穀物種子又はその破砕物に加水し、(好ましくは糊化温度まで加温することにより)糊化させると、大部分の蛋白質が穀物種子中に含まれる何らかの不溶性成分と強固に相互作用すること;さらにその糊化物にアミラーゼ及び/又はプロテアーゼを作用させて液化させると、アレルゲンを含む蛋白質はその不溶性成分と強固に相互作用を維持したまま溶液中に浮遊すること;その溶液を遠心すると上清と白濁沈殿物とに分離され、蛋白質をほとんど含まないがブドウ糖、麦芽糖、アミノ酸等を豊富に含む上清を回収できること;溶液の遠心速度は、比較的低速でも、蛋白質をほぼ含まない上清と、蛋白質を含む沈殿物とにうまく分離することができること;を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 穀物種子又はその破砕物を水性溶媒の存在下で加熱して糊化し、その糊化物をアミラーゼ及び/又はプロテアーゼを用いて液化し、60〜8,000 gで遠心分離して上清を回収することを含む、穀物種子由来食品原料からアレルゲン蛋白質を除去する方法。
この方法では、遠心分離を3〜60分間行うことが好ましい。
この方法における穀物は、好ましくはイネ科植物、マメ科植物又はタデ科植物である。
本方法の1つの実施形態では、前記糊化物をアミラーゼで液化した後にプロテアーゼを加えることも好ましい。
[2] 上記[1]の方法によりアレルゲン蛋白質を除去して得た前記上清をアレルゲン低減化食品の製造に用いることを含む、食品の製造方法。
[3] 上記[1]の方法によりアレルゲン蛋白質を除去して得た前記上清を含む、アレルゲン低減化食品。
[4] 穀物種子又はその破砕物にアレルゲン蛋白質を含む非穀物性食品原料を添加し、それを水性溶媒の存在下で加熱して糊化し、その糊化物をアミラーゼ及び/又はプロテアーゼを用いて液化し、60〜8,000 gで遠心分離して上清を回収することを含む、食品原料からアレルゲン蛋白質を除去する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法を用いれば、蛋白質の大部分を除去し、その結果、アレルゲン蛋白質のほとんどを除去することによって顕著にアレルゲン含有量を低減させた穀物種子由来食品原料を、簡便な手法で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、穀物種子又はその破砕物を水性溶媒の存在下で加熱して糊化し、その糊化物をアミラーゼ及び/又はプロテアーゼの酵素的作用により液化し、その液を遠心して上清と沈殿とを分離させ、その上清を回収することにより、蛋白質がほとんど含まれない上清を取得できるという知見に基づく。このようにして得た上清には、穀物種子に含まれる各種成分(蛋白質を除く)の他、アミラーゼやプロテアーゼの酵素的作用により生成されるブドウ糖、麦芽糖、アミノ酸等が含まれることから、この上清は食品原料として有利に利用することができる。そしてこの上清は、穀物種子に通常多量に含まれるアレルゲン蛋白質をほとんど含まないことから、アレルゲン性を顕著に低下させた穀物種子由来食品原料として、食品加工分野で有利に利用することができる。本発明の方法の典型的な処理工程の概略図を図1に示す。
【0012】
本発明において「穀物」とは、広義の穀物、すなわち澱粉質を主体とする種子を食用とする植物をいう。具体的には、本発明の穀物には、イネ科植物の他、マメ科植物、タデ科植物等も含まれる。穀物の例としては、アズキ、アマランサス、アワ、イナゴマメ、イネ、インゲンマメ、エンドウマメ、エンバク、オオムギ、カラスムギ、キノア、キビ、キマメ、グアル、グラスビー、ケツルアズキ、コドラ、コムギ、ササゲ、シカクマメ、ゼオカルバマメ、ソバ、ソラマメ、ソルガム、ダイズ、タケアズキ、タチナタマメ、ダッタンソバ、タマリンド、テフ、テリバービーン、トウモロコシ、ナタマメ、ハッショウマメ、ハトムギ、バンバラマメ、ヒヨコマメ、フジマメ、フェニオ、ベニバナインゲン、ヘントウ、ホースグラム、マコモ、モスビーン、モロコシ、ライマイ、ライムギ、ラッカセイ、リョクトウ、ルビナス等が挙げられる。本発明において「穀物種子又はその破砕物」とは、それら穀物の1個以上の種子、又はその種子の破壊断片をいう。種子は、好ましくは生の(加熱されていない)ものである。穀物種子は、糠(bran)を除去したもの、すなわち精白した穀物(例えば、精白米)であることがより好ましい。破砕物には、限定するものではないが、例えば、破砕断片、顆粒、切片、粉末、磨砕物等が包含される。
【0013】
穀物種子又はその破砕物(以下、穀物種子等という)に加える水性溶媒は、蒸留水、イオン交換水、milli-Q、天然水、又は水道水等の様々な水であってもよいし、任意の緩衝液や生理食塩水であってもよい。
【0014】
水性溶媒は、穀物種子等:水性溶媒の体積比で好ましくは1:2〜1:10、より好ましくは1:3〜1:7となる量で穀物種子等に加えればよい。
【0015】
穀物種子等を水性溶媒中で加熱して糊化するためには、穀物種子等を含む水性溶媒を、糊化温度又はそれ以上に加熱すればよい。具体的には、穀物種子等を含む水性溶媒を、限定するものではないが、好ましくは100℃〜130℃、より好ましくは120〜125℃に加熱すればよい。糊化するためには、加熱は好ましくは2〜100分間、より好ましくは5〜70分間行えばよい。好適な実施形態としては、121℃で5〜15分間加熱することが挙げられる。
【0016】
あるいは、加熱等により水性溶媒を蒸気化し、それを穀物種子等に適用して蒸すことにより、穀物種子等に水性溶媒を加えつつ加熱してもよい。この場合の穀物種子等の加熱条件は上記と同様であり、加熱温度は好ましくは100℃〜130℃、より好ましくは120〜125℃、加熱時間は好ましくは2〜100分間、より好ましくは5〜70分間である。本発明の方法において「穀物種子又はその破砕物を水性溶媒の存在下で加熱する」とは、穀物種子等を水性溶媒中で加熱することだけでなく、このように穀物種子等を蒸して加熱する場合なども含むことを意図する。
【0017】
加熱は、大気圧下で行うことができるが、加圧下で行ってもよい。例えば、オートクレーブ又は多管式第一種圧力装置を用いることにより、加圧下で加熱することができる。例えば、種子の貯蔵器官(プロテインボディなど)内に蓄積され保護されている蛋白質の除去効率を上げるためには、加圧下でより高温にて加熱することも好ましい。糊化されたかどうかは、穀物種子又はその破砕物が膨潤し、透明性が増したことで判断することができる。本発明ではこの糊化工程において、穀物種子中に含まれる不溶性成分と蛋白質との間に強固な相互作用が生じると考えられる。但し、本発明はこのような原理に拘束されるものではない。
【0018】
以上のようにして得られた糊化物は、アミラーゼ及び/又はプロテアーゼを添加して反応させることにより、液化させることができる。液化により、後の工程で遠心をかけたときに分離を容易にすることができる。この酵素添加は、十分に糊化させた後に行うことが好ましい。これらの酵素を添加する前には、糊化物を酵素の至適温度付近まで冷却しておくことも好ましい。
【0019】
アミラーゼとプロテアーゼは、いずれか一方のみを反応させてもよいし、それらを併用してもよい。アミラーゼで処理することにより、穀物種子等に由来するデンプンからブドウ糖や麦芽糖を生成させることもできる。一方、プロテアーゼで処理した場合は、アミノ酸を生成することができる。アミラーゼとプロテアーゼを併用することにより、ブドウ糖、麦芽糖とアミノ酸を生成できると思われる。アミラーゼとプロテアーゼを併用する場合、プロテアーゼはアミラーゼと同時に添加してもよいし、アミラーゼの後に添加してもよいが、好ましくはアミラーゼ処理により糊化物が十分に液化した後にプロテアーゼを添加する方がよい。アミラーゼとしては任意のものを使用することができるが、例えば、アミラーゼN-KT2(複合酵素剤:協和化成株式会社)、αアミラーゼスミチームA10(新日本化学工業株式会社)、アミラーゼAD「アマノ」1(天野エンザイム株式会社)、クライスターゼ T10S(天野エンザイム株式会社)、クライスターゼL1(天野エンザイム株式会社)、グルクザイムAF6(天野エンザイム株式会社)、プルラナーゼ「アマノ」3(天野エンザイム株式会社)、クライスターゼL1(大和化成株式会社)、スピターゼ HS(ナガセケムテックス株式会社)、リクィファーゼ L45(エイチビィーアイ株式会社)、ユニアーゼ BM-8(ヤクルト薬品工業株式会社)、オプチマルトBBA(ジェネンコア協和株式会社)、オプチマックス4060VHP(ジェネンコア協和株式会社)等が挙げられる。プロテアーゼとしては、任意のものを使用できるが、例えば、スミチームLP50D、スミチームFP(新日本化学工業株式会社製)、プロテアーゼN「アマノ」G(天野エンザイム株式会社)、ニューラーゼF3G(天野エンザイム株式会社)、プロレザーFG-F(天野エンザイム株式会社)、サモアーゼPC10F(大和化成株式会社)、プロチン SD-NY-10(大和化成株式会社)、オリエンターゼ 10NL(エイチビィーアイ株式会社)、アロアーゼ AP-10(ヤクルト薬品工業株式会社)等を使用できる。
【0020】
糊化物にアミラーゼ及び/又はプロテアーゼを添加し、好ましくは至適温度付近(アミラーゼN-KT2の場合は45℃程度)でインキュベートすることにより反応させることができる。インキュベート時間は、特に限定されないが、通常は5分〜1時間程度である。ここで液化を促進するために、ホモジナイザー処理等により、攪拌及び混合を行うことも好ましい。酵素反応が十分に進むと、糊化物は液状に変化する(液化)。本明細書では、ここで液化により得られた液を酵素処理液と称することがある。アミラーゼを用いて処理した場合には、デンプンが分解されてブドウ糖や麦芽糖が生成するため、得られる酵素処理液は「糖化液」とも称される。
【0021】
この酵素処理液は、加熱(通常90〜100℃、好適には95〜97℃)して酵素を失活させてもよい。
【0022】
次いで、得られた酵素処理液を遠心することにより上清相と沈殿相に分離させ、その上清を回収することにより、蛋白質がほとんど含まれない上清を取得することができる。通常、単に熱変性した蛋白質は通常はおよそ10,000 g以上の遠心力をかけないと沈殿させることができないが、本発明の方法では、比較的低速の遠心力を短時間かけるだけで、蛋白質の大部分を沈殿させ、除去した上清画分を取得することができる。
【0023】
遠心でうまく分離可能な条件は加水量や穀物の種類によっても多少変動するが、本発明の方法では、好適な遠心条件は、60 g以上、好ましくは60〜8,000 g、より好ましくは100〜5000 gで、5分間以上、好ましくは5〜60分間、より好ましくは10〜30分間で遠心することである。本発明の方法では、特に、100 gで10分間〜800 gで10分、例えば100 gで10分間〜300 gで10分間遠心することにより、蛋白質を不溶性成分と共に(例えば白濁沈殿物として)沈殿させ、上清から良好に除去することができる。なお本発明において「蛋白質を除去する」とは、含まれる蛋白質のかなりの割合、例えば蛋白質含量の50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、なお好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上99%以下が除去されることを意味するが、必ずしも100%の除去を意味するものではない。同様に「アレルゲン蛋白質を除去する」との表現も、含まれるアレルゲン蛋白質のかなりの割合、例えばアレルゲン蛋白質含量の50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、なお好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上99%以下が除去されることを意味するが、必ずしも100%の除去を意味するものではない。
【0024】
このようにして得られる上清には、蛋白質がほとんど含まれない。そしてこの上清は、穀物種子由来の成分をなお含むにもかかわらず、穀物種子に通常多量に含まれているアレルゲン蛋白質をもほとんど含まないため、低アレルゲン性を示す。従ってこの上清は、アレルゲン蛋白質を顕著に低減させた穀物種子由来食品原料として用いることができる。
【0025】
特に米糖化液には、抗ピロリ菌作用が報告されていることから(特許文献2)、本発明の方法で米から米糖化液を経て取得した上記のような上清は、低アレルゲン性に加えて抗ピロリ菌作用を有することから、例えば機能性食品原料としても有用と考えられる。
【0026】
従って本発明では、上記方法により穀物種子から糊化、アミラーゼ等の酵素での液化、遠心分離を経て上清を回収することにより、蛋白質を高効率で除去し、それにより穀物種子由来食品原料からアレルゲン蛋白質をも高効率で除去することができ、その結果、アレルゲン蛋白質を顕著に低減させた穀物種子由来食品原料を製造することができる。
【0027】
本発明において「穀物種子由来食品原料」とは、穀物種子を加工して得られる、食品の原料として使用されうる食品素材をいう。
【0028】
また本発明の方法においては、穀物種子を水性溶媒の存在下で加熱して糊化する際に、外来蛋白質、すなわち穀物種子由来でない蛋白質が共存していてもよい。その場合、外来蛋白質は、穀物種子中の他の蛋白質と共に不溶性成分と強固に相互作用することとなる。これにより、その後の酵素での液化、遠心分離を経て、外来蛋白質も他の蛋白質と共に沈殿し、上清から除去される。このことは後述の実施例でも証明されている。
【0029】
そこでさらなる実施形態では、本発明は、穀物種子又はその破砕物に、アレルゲン蛋白質を含む非穀物性食品原料を添加し、それを水性溶媒の存在下で加熱して糊化し、その糊化物をアミラーゼ及び/又はプロテアーゼを用いて液化し、60〜8,000 gで遠心分離して上清を回収することを含む、食品原料からアレルゲン蛋白質を除去する方法にも関する。ここで「非穀物性食品原料」とは、穀物以外の食材から調製される食品原料をいう。この場合も、非穀物性食品原料中のアレルゲン蛋白質は、外来蛋白質として穀物種子中の蛋白質と共に不溶性成分と強固に相互作用し、その後の酵素での液化、遠心分離を経て、他の蛋白質と共に沈殿し、上清から除去されることとなる。
【0030】
さらに本発明は、上記のようにしてアレルゲン蛋白質を除去した穀物種子由来食品原料、特に上記方法で得た遠心後上清を、アレルゲン低減化食品の製造に用いることを含む、食品の製造方法も提供する。さらに本発明は、上記方法により得られた、アレルゲン蛋白質を除去した穀物種子由来食品原料、特に上記方法で得た遠心後上清を含む、アレルゲン低減化食品も提供する。
【0031】
アレルゲン低減化食品とは、通常はアレルゲン(好ましくはアレルゲン蛋白質)を含有する食材を使用して製造される食品について、アレルゲン含量を通常よりも低減させた食品をいう。アレルゲン低減化食品は、通常は穀物種子、例えばイネ科植物の種子(米、小麦など)を使用して作製されるものであってもよい。アレルゲン低減化食品は、食品のアレルゲンに対しアレルギーを起こすリスクが高いヒトを対象としたものでありうる。
【0032】
本発明のアレルゲン蛋白質を低減させた穀物種子由来食品原料の食品への配合量は特に限定されないが、例えば一般的には、添加するその上清量が、0.001〜100重量%となる配合量を例示することができ、さらに添加剤としては前記上清を0.001〜1重量%、そのものを飲料やゼリー等に加工する場合は前記上清を50重量%〜100重量%で用いることも好ましい。実際の配合量は、飲食品の種類や求める味や食感を考慮して、当業者が適宜定めることができる。
【0033】
本発明のアレルゲン低減化食品の製造においては、飲食品に慣用的に使用される各種添加物を使用してもよいが、できるだけアレルゲン性を有しないものを用いることが好ましい。添加物としては、限定するものではないが、発色剤、着色料、香料、甘味料、保存料、乳化剤、酸化防止剤、pH調整剤、化学調味料、増粘剤、膨張剤、消泡剤等、結着剤等が挙げられる。さらに、オタネニンジンエキス、エゾウコギエキス、ユーカリエキス、杜仲茶エキス等の機能性素材を添加してもよい。
【0034】
本発明の食品の種類は、特に限定されない。本発明の食品は、生鮮食品であってもよいし、加工食品であってもよい。例えば、クッキー、ケーキ、煎餅などの焼き菓子、羊羹などの和菓子、プリン、ゼリー、アイスクリーム類などの冷菓、チューインガム、キャンディ等の菓子類、クラッカー、チップス等のスナック類、パスタ、うどん、そば等の麺類、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味料類、豆腐、こんにゃく、その他佃煮、餃子、コロッケ、サラダ、スープ、シチュー等の各種総菜、パン、飲料(例えば、栄養ドリンク、清涼飲料水、炭酸水、乳酸菌飲料を始めとする、上清を主たる原料とする飲料等)等を具体的に例示することができる。
【0035】
本発明において「アレルゲン蛋白質」とは、ヒトや動物に高頻度でアレルギー症状を引き起こす原因蛋白質をいう。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1] 米粒由来食品原料におけるアレルゲンを含む蛋白質の除去
精白米(長野県産コシヒカリ;Oryza sativa cv. Koshihikari)に3倍量の水を加え、多管式第一種圧力容器(有限会社アトラスエンジニアリング社製:型式BEM)中で121℃、6分間加熱し、糊化させた後、その糊化物を45℃まで冷却した。これにアミラーゼ(アミラーゼN-KT2、協和化成株式会社製;グルコアミラーゼ、α-アミラーゼ及びプロテアーゼ活性を有する複合酵素剤)を0.2%(w/w)添加し、45℃に保温したままホモジナイザー処理を10分間行って十分に撹拌・混合して液化した。液温を96℃に上昇させて酵素を失活させ、振動篩い(80メッシュ)で処理して米の糖化液を得た。この糖化液を5,000 g、10分間遠心分離し、上清を回収した。
【0038】
回収した糖化液上清を、遠心カラム(マイクロコンYM-10、ミリポア社製)を用いて脱塩した後、100 mM DTT、8M尿素、0.5% CHAPS、0.1% バイオライト(Bio-Lytes)を含む等電点電気泳動用のサンプルバッファーに溶解した。また糖化液を遠心分離して得た白濁沈殿物、原料の精白米を粉砕して得た米粉も、それぞれ等電点電気泳動用のサンプルバッファーに溶解した。
【0039】
得られた各溶液を二次元電気泳動(コンプリートセルシステム、バイオラッド社製)に供した。電気泳動に供する溶液の量は、精白米の由来量が同じになるように調整した。一次元目の等電点電気泳動はプロティアンIEFセルシステム(バイオラッド社製)を用い、製造者のマニュアルに従って実施した。上限電圧8,000 V、電圧時間積算35,000 VHの条件下で6時間泳動した。泳動後、ゲルを62.5 mMのトリス/塩酸バッファー、100 mM DTT、2% SDS、5% グリセリンを含む緩衝液に10分間浸漬し、その後DTTをヨードアセトアミドに置換した同緩衝液に10分間浸漬し、二次元目の電気泳動に供した。二次元目の電気泳動はLaemmliの手法(Laemmli, UK, Nature, 227, 680-685, 1970)に従って行った。泳動ゲルとして、375 mMのトリス/グリシンバッファーを含み10〜20%の濃度勾配を有するアクリルアミドゲルを用いた。泳動バッファーには、0.1% SDSを含む25 mM トリス/グリシンバッファーを用いた。150 Vの電圧一定条件下で2時間泳動を行った。泳動後のゲルを30%メタノール、5%酢酸を含む0.1%CBB溶液中で一晩染色し、30%メタノール、5%酢酸溶液中で鮮明な蛋白質染色像が得られるまで脱色した。その結果を図2に示す。米粉を溶解したバッファー中には、多くのタンパク質が検出された(図2C)。検出した各スポットを切り出して蛋白質を抽出し、エドマン分解法を利用した内部アミノ酸配列分析を行った(Rosenfeld et al., Anal. Biochem., (1992) 203, 173-179)。決定したアミノ酸配列に対してデータベース上でのホモロジー検索を行い、既知蛋白質とのアミノ酸配列を比較したところ(株式会社アプロサイエンスによる受託分析)、2S種子貯蔵アルブミンファミリーに属する19KDaグロブリン、α-アミラーゼ・トリプシンインヒビターファミリーに属するRAG1や他のアレルゲン蛋白質等を初めとする多くの既知アレルゲン蛋白質が確認された。また、オオムギ等の他の生物種でアレルゲン性が確認されているヒートショック蛋白質70や、ラクトイルグルタチオンリアーゼ、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)、トリオースフォスフェートイソメラーゼ、マレートデヒドロゲナーゼ、エノラーゼ等も確認された。検出されたアレルゲン蛋白質を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
一方、糖化液を遠心分離して得た糖化液上清中には蛋白質はほとんど検出されず(図2B)、表1に示すようなアレルゲン蛋白質もほぼ検出されなかった。これに対し、糖化液から遠心分離により生成した白濁沈殿物中には、これらアレルゲン蛋白質を含む大部分の蛋白質が濃縮されていた(図2D)。このことから、アレルゲン蛋白質を始めとする蛋白質の大部分が、糖化液上清において除去されていることが示された。
【0042】
さらに、この米糖化液の遠心後上清について、水抽出と高速液体クロマトグラフ法による標準物質との比較により成分分析を行った(食品分析センターによる依頼分析)。その結果、糖化液上清中には、白米100グラムあたりからブドウ糖として64.8%、麦芽糖として14.2%が回収されたことが確認された。このことから、この糖化液は、甘味料や栄養補助剤等の機能を有し、かつ米由来でありながらアレルゲン蛋白質を顕著に低減させた食品原料として使用できることが示された。
【0043】
[実施例2] 米以外の穀物種子由来の食品原料における蛋白質の除去
ソバ(Fagopyrum esculentum)種子を粉砕したソバ粉、小麦(Triticum aestivum)種子を粉砕した小麦粉、大豆(Glycine max)種子を粉砕した大豆粉に、それぞれ7倍量で加水し、多管式第一種圧力容器により121℃、11分間加熱して糊化させた後(糊化物)、45℃まで冷却した。これにアミラーゼ(アミラーゼN-KT2)、又はプロテアーゼ(スミチームLP50D、又はスミチームFP)を0.1%添加し、ホモジナイザー処理を10分間行い、撹拌・混合して液化した。液温を96℃に上昇させて酵素を失活させ、振動篩い(80メッシュ)処理してアミラーゼ処理液(糖化液)又はプロテアーゼ処理液を得た。それらの酵素処理液を5,000 g、10分間遠心分離し、上清を回収した。
【0044】
アミラーゼ又はプロテアーゼ処理前の糊化物、遠心分離前の酵素処理液、遠心分離後の酵素処理液上清からそれぞれ一部を採取したサンプルを、各々等量の100 mMのDTT、6 M尿素を含む2倍濃縮SDSサンプルバッファー(125 mMトリス/塩酸バッファー、4%SDS、20%グリセロールを含む)を添加した。よく混合し、実施例1と同様のSDS-PAGEに供し、アクリルアミドゲルを染色し脱色して、蛋白質染色像を得た。
【0045】
この結果を図3に示す。図中、Ctrは、121℃で11分加熱して得た、アミラーゼ又はプロテアーゼ処理前の糊化物、NはアミラーゼN-KT2処理液、L-スミチームLP50D処理液、FはスミチームFP処理液を示す。各パネルの左側の4レーンは遠心分離前の糊化物又はその酵素処理液の全液、右側の4レーンは糊化物又はその酵素処理液の遠心分離後の上清を示す。
【0046】
図3に示されるように、ソバ(図3A)、小麦(図3B)、大豆(図3C)のいずれについても、糊化物及びその酵素処理液には蛋白質が多く含まれていたが、遠心分離後の上清(酵素処理液上清)には、蛋白質はほとんど検出されなかった。プロテアーゼ処理した糊化物においても分解されずに残存していた蛋白質も、この遠心分離後にはほぼ完全に除去された。上清に含まれるアミノ酸を高速クロマトグラフ上での標準物質との比較により定量したところ(日本分析センターによる分析)、アルギニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、バリン、アラニン、グリシン、プロリン、グルタミン酸、セリン、スレオニン、アスパラギン酸、トリプトファン等がそれぞれ1mg〜25mgの範囲で検出された。微量のためこの方法では検出されなかったが、システイン、グルタミン、アスパラギンも生成されていると考えられた。
【0047】
[実施例3] アレルゲン蛋白質の除去の確認(大豆)
実施例2で大豆をサンプルとして得たSDS-PAGEゲルについて、アレルゲン蛋白質の同定を行った。その結果を図4に示す。遠心前の糊化物とその酵素処理液には、大豆の主要なアレルゲンである7Sグロブリン及び11Sグロブリンが含まれていた。一方、遠心後の上清(遠心後上清)では、蛋白質はほとんど検出されず、アレルゲン蛋白質である7Sグロブリンや11Sグロブリンもほとんど検出されなかった。従って、大豆を本発明の方法で処理することにより、遠心後上清においてアレルゲン蛋白質が高い割合で除去されることが示された。
【0048】
[実施例4] アレルゲン蛋白質の除去の確認(ソバ)
実施例2において、アミラーゼN-KT2を用いて得たソバ粉糖化液の遠心後上清について、アレルゲン蛋白質の除去を確認する試験を行った。
【0049】
ソバ粉に含まれるアレルゲン蛋白質は希酢酸画分に抽出されることが知られている(Yano et al., Cereal Chem., (2006) 83, 132-135)。そこでまず、得られたソバ粉糖化液の遠心後上清(ソバ粉糖化液上清)に最終濃度が0.1 Mになるよう酢酸を添加し、遠心して上清を回収した。回収した上清をスピンカラムYM-10(ミリポア社)で脱塩し、二次元電気泳動用のサンプルバッファーに溶解した。対照として、試料としたソバ粉を含むバッファーに酢酸を添加し、同様に希酢酸抽出画分を取得し、二次元電気泳動用サンプルバッファーに溶解した。それらのソバ粉糖化液上清の希酢酸抽出物サンプルとソバ粉希酢酸抽出物サンプル(対照)のそれぞれを、実施例1と同様にして二次元電気泳動に供した。
【0050】
その結果を図5に示す。ソバ粉希酢酸抽出物サンプル中には、多くのタンパク質が検出され、そこにはビシリン、キュピン、トリシティン、主要アレルゲン蛋白質(酸性・塩基性鎖)等のアレルゲン蛋白質も含まれていた(図5A)。検出されたアレルゲン蛋白質を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
一方、糖化液上清の希酢酸抽出物サンプルでは、蛋白質はほとんど検出されず、アレルゲン蛋白質も検出されなかった(図5B)。従って、このソバ粉糖化液上清においては、アレルゲン蛋白質を含む蛋白質のほとんどが除去されていることが示された。
【0053】
[実施例5] アレルゲン蛋白質の除去の確認(小麦)
実施例2において、アミラーゼN-KT2を用いて得た小麦粉糖化液の遠心後上清(小麦粉糖化液上清)について、アレルゲン蛋白質の除去を確認する試験を行った。
【0054】
得られた小麦粉糖化液上清をスピンカラムYM-10(ミリポア社)で脱塩し、二次元電気泳動用のサンプルバッファーに溶解した。対照としては、遠心分離前の小麦粉糖化液を同様に脱塩し、二次元電気泳動用サンプルバッファーに溶解した。両者を実施例1と同様に二次元電気泳動に供した(小麦粉糖化液上清:図6A、遠心分離前の小麦粉糖化液:図6B)。
【0055】
糖化液上清についての二次元電気泳動像(図6A)には蛋白質がほとんど検出されなかった。これを既報の文献(Nakamura H, Cereal Chem., (2001) 78, 79-83)と比較すると、糖化液上清中では、グルテニン(Nakamura H (2001)の図1内のスポット番号9、10)、グリアジン(同スポット番号5〜8)等のアレルゲン蛋白質が大幅に除去されていることが確認された。
【0056】
[実施例6] 遠心分離条件の検討
米に適用する遠心分離条件の検討を行った。実施例1で調製した米糖化液を、20〜5,000 g、5〜30分の各種条件下で遠心して、アレルゲンを含む蛋白質を除去できる条件を検討した。
【0057】
遠心前の米糖化液、及び各遠心後の米糖化液又はその上清から一部をサンプルとして採取し、等量の100 mMのDTT、6 M尿素を含む2倍濃縮SDSサンプルバッファー(125 mMトリス/塩酸バッファー、4%SDS、20%グリセロールを含む)に溶解した。それらのサンプルについて実施例1と同様にSDS-PAGEを行い、泳動後のゲルをCBBで染色し、脱色し、泳動像を得た。その結果を図7に示す。
【0058】
図7Aに示す通り、米糖化液を100 gで10分又は30分、800 gで10分又は30分、5000 gで30分遠心した場合には、米糖化液は上清と白濁沈殿物に分離し、その上清からは蛋白質がほとんど除去された。
【0059】
一方、20 gで5分又は20分、40 gで5分又は20分遠心した場合には、米糖化液は上清と白濁画分とに分離しなかった。遠心後の米糖化液の一部をサンプルとして行ったSDS-PAGEでは、遠心前の米糖化液とほぼ同様の蛋白質検出結果が得られた(図7B)。
【0060】
これに対し、60 gで5分又は20分遠心した場合には、上清と白濁画分の界面が現れた。界面のすぐ上(上清)、すぐ下(白濁画分)からサンプリングしてSDS-PAGEに供したところ、白濁画分について遠心前の米糖化液とほぼ同様の蛋白質検出結果が得られたのに対し、上清中には蛋白質はほとんど検出されなかった(図7B)。このように界面の上下で蛋白質含量が全く異なっていたことから、大部分の蛋白質は遠心分離の際に白濁成分(精白米中の不溶性成分)と挙動を共にしたと考えられた。
【0061】
以上の結果から、米糖化液を60 g以上、かつ5分以上で遠心することにより、溶液中の蛋白質の大部分が沈殿物として良好に除去されることが示された。
【0062】
次に、米以外の穀物種子について適用する遠心分離条件を検討した。実施例2でアミラーゼを用いて調製した大豆糖化液、ソバ粉糖化液を、それぞれ800 gで10分又は30分、5,000 gで10又は30分間遠心した。また実施例2でアミラーゼを用いて調製した小麦粉糖化液を、100 gで10又は30分間、800 gで10分又は30分、5,000 gで10又は30分間遠心した。糖化液、及び遠心後の各上清の一部をサンプルとして採取し、それを等量の100 mMのDTT、6 M尿素を含む2倍濃縮SDSサンプルバッファー(125 mMトリス/塩酸バッファー、4%SDS、20%グリセロールを含む)に溶解した。各サンプルを、実施例1と同様にして、SDS-PAGEを行い、泳動後のゲルをCBBで染色後、酢酸及びメタノール溶液で脱色して泳動像を得た。
【0063】
その結果、そのいずれの遠心条件でも糖化液は上清と白濁沈殿物に分離した。採取した上清においては、米糖化液と同様に、蛋白質が高い割合で除去されたことが示された。
【0064】
[実施例7] 蛋白質と不溶性成分の相互作用における糊化の役割の検討
大豆粉、ソバ粉にそれぞれ0〜9倍量(1:0、1:1、1:3、1:9)の水を添加し、試験管中で37℃で1時間インキュベートした。続いて100℃で1時間インキュベートし、糊化物を得た。各加水比で、37℃でインキュベートした溶液、及び100℃でさらにインキュベートして得た糊化物から各々一部をサンプリングし、等量のDTTを含まない2倍濃縮SDSサンプルバッファー(0.125 Mトリス/塩酸バッファー、4%SDS、20%グリセロールを含む)を添加してよく混合した。これを5,000 gで10分間遠心して夾雑物を取り除いた後、上清をSDS-PAGEに供した。泳動後CBBで染色し、脱色して泳動像を得た(図8A、B)。
【0065】
37℃でインキュベートしたサンプルからは、大豆粉又はソバ粉に加水しただけの対照サンプル(図8中、CTR)と同程度の量の蛋白質が、SDSにより抽出されたことが示された。一方、100℃で糊化させた場合、糊化物からのSDSによる蛋白質抽出量は著しく低減した。
SDSは蛋白質の可溶化剤として使用されていることから、本発明の方法では、糊化の際に何らかの不溶性成分と蛋白質とが相互作用し、SDSでも可溶化されない凝集体を形成する結果、遠心により蛋白質がその不溶性成分と共に白濁沈殿物として高効率に除去されるものと考えられた。
【0066】
また、実施例1で調製した米の糊化物、米糖化液、対照として米粉に1:3で加水したものの一部をサンプリングし、DTTを含まない2倍濃縮SDSサンプルバッファー(0.125 Mトリス/塩酸バッファー、4%SDS、20%グリセロールを含む)を等量添加し、混合した。それぞれを10,000 gで10分間遠心後、上清をSDS-PAGEで分析した(図8C)。
【0067】
米粉に加水したサンプルからは、SDS存在下で蛋白質が抽出されたが、糊化物や糖化液(図8Cのレーンa、b)からは蛋白質がほとんど抽出されなかった。このことから、糊化が蛋白質と不溶性成分の強力な相互作用に重要であることが示唆された。
【0068】
[実施例8] 蛋白質の熱変性による沈殿の可能性の検討
本発明の方法による蛋白質の効率的除去が、蛋白質の熱変性に起因する沈殿によるものである可能性を検討するため、以下の実験を行った。
【0069】
米のアレルゲン蛋白質は1M食塩水中に抽出させることができることが報告されている(Urisu A et al., 1991, Int. Arch. Allergy Appl. Immunol. 96, 244-52.)。そこで、米粉を1M食塩水中に一晩浸漬した後、5,000 gで10分間遠心し、上清を回収した。この上清を遠心カラムCL4(5μm以上の粒子を排除:ミリポア社)の上部カラムに入れて5,000 g、10分間遠心し、下部カラムからアレルゲン抽出液を得た。
【0070】
このアレルゲン抽出液をオートクレーブで121℃、15分間加熱した。これを遠心カラムCL4(5μm以上の粒子を排除:ミリポア社)の上部カラムに添加し、添加した液が上部カラムから下部カラムに移行するまで遠心した。ここで添加液に沈殿が含まれれば、このカラムに捕捉されることとなる。
【0071】
次いでその下部カラムから溶液を回収して遠心カラムYM-100(排除限界分子量10万、ミリポア社)の上部カラムに添加し、添加した液が上部カラムから下部カラムに移行するまで遠心した。この添加液中で複数の分子が結合して高分子化していれば、この段階でカラムに捕捉される。
【0072】
さらにこの下部カラムから溶液を回収してYM-10(排除限界分子量1万、ミリポア社)の上部カラムに添加し、添加した液が上部カラムから下部カラムに移行するまで遠心した。添加液中に、加熱前のアレルゲン抽出液に含まれるものから分子量が変化していないアレルゲン蛋白質が含まれる場合には、この段階でカラムに捕捉されるはずである。
【0073】
それぞれの上部カラムから100 mMのDTT、6M尿素を含むSDSサンプルバッファー(62.5 mMトリス/塩酸バッファー、2%SDS、20%グリセロールを含む)で蛋白質を抽出した。抽出液を10,000 gで10分間遠心して夾雑物を取り除き、上清をSDS-PAGEで分析した。
【0074】
その結果、加熱前のアレルゲン抽出液、オートクレーブで加熱後のアレルゲン抽出液については、いずれも5μmの分子ふるい(図9A)、分子量10万の分子ふるい(図9B)では蛋白質はほぼ捕捉されず、大部分は分子量1万の分子ふるいで捕捉されていた。この結果から、アレルゲン蛋白質自体は熱処理では沈殿や高分子化することはなく、熱凝固しないことが示された。従って本発明の方法での蛋白質の効率的な除去は、熱変性による沈殿ではなく、糊化の際の蛋白質と不溶性成分の強力な相互作用による沈殿に起因して達成されると考えられた。
【0075】
[実施例9] 外来蛋白質の同時除去
9種類の蛋白質を含むIEF standards(Bio-rad:161-0310)に等量の水を添加し、米粉を添加した。100℃、30分間加熱して糊化させた後、耐熱性αアミラーゼを1%添加してさらに90℃で30分間インキュベートし、米糖化液を得た。さらに、この糖化液を5,000 gで10分間遠心し、上清を回収した。その米糖化液(全液)、又は遠心後の上清から一部の液をサンプリングし、これに等量の100 mMのDTT、6 M尿素を含む2倍濃縮SDSサンプルバッファー(125 mMトリス/塩酸バッファー、4%SDS、20%グリセロールを含む)を加え、よく撹拌した。5,000 gで10分間遠心して夾雑物を取り除いた後、上清をSDS-PAGEで分析した。
【0076】
米粉の遠心前の糖化液(全液)中に検出された蛋白質は、遠心後の上清においてはほぼ検出されなかった。また、外部から加えたIEF standardsのいずれの蛋白質も遠心後上清中には回収されなかった(図10)。この実験結果から、穀物種子中の蛋白質以外の外部から加える蛋白質も、糊化時に共存させることにより不溶性成分と共に沈殿させることができ、容易に除去することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の方法を用いれば、アレルゲン蛋白質の含量を低減させた穀物種子由来食品原料を製造することができる。穀物種子は一般的にアレルゲン蛋白質を多く含むが、本発明の方法で製造される穀物種子由来食品原料は、アレルゲン蛋白質を含む大部分の蛋白質が除去されているため、低アレルギー性である。またその穀物由来食品原料はアミラーゼやペプチダーゼによる液化の際に生じる糖やアミノ酸を含んでおり、さらに穀物種子に元々含まれる水溶性の非蛋白成分(水溶性ビタミン等)の有用成分も含みうる。従って、本発明の方法で製造される穀物種子由来食品原料は、アレルゲン低減化食品や低蛋白食品を製造する上で甘味料や栄養補給剤として有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、アレルゲンを含む蛋白質を除去した穀物種子由来食品原料を製造するための穀物種子の典型的な加工処理工程を示す概略図である。
【図2】図2は、米糖化液の遠心分離後上清においてアレルゲンを含む蛋白質を検出した二次元電気泳動の結果を示す写真である。Aは遠心分離直後の米糖化液を含むチューブの写真である。Bは遠心分離によって得た米糖化液上清、Cは米粉溶解バッファー、Dは米糖化液の遠心分離後の白濁沈殿物において検出された蛋白質を示す。C中には、検出されたアレルゲン蛋白質を、表1に対応した番号で示す。
【図3】図3は、ソバ、小麦、大豆の糖化液の遠心分離後上清において蛋白質を検出したSDS-PAGEの結果を示す写真である。
【図4】図4は、大豆糖化液の遠心分離後上清においてアレルゲン蛋白質が顕著に低減されていることを示すSDS-PAGEの結果を示す写真である。
【図5】図5は、ソバ糖化液の遠心分離後上清においてアレルゲン蛋白質が顕著に低減されていることを示す二次元電気泳動の結果を示す写真である。
【図6】図6は、小麦糖化液の遠心分離後上清においてアレルゲン蛋白質が顕著に低減されていることを示す二次元電気泳動の結果を示す写真である。
【図7】図7は、米糖化液を遠心力(g)及び遠心時間(分)の各種組み合わせ条件下で遠心し、米糖化液上清中の蛋白質を検出した写真である。
【図8】図8は、大豆及びソバ種子の非糊化物(37℃)及び糊化物(37℃の後100℃)についてSDS存在下での蛋白質の抽出結果を示す写真である。
【図9】図9は、熱処理したアレルゲン蛋白質のカラム上での捕捉サイズを調べたSDS-PAGEの結果を示す写真である。
【図10】図10は、米粉に外来蛋白質(マーカー蛋白質)を加えて調製した糖化液の遠心分離後上清中の蛋白質を検出した写真である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物種子由来食品原料からのアレルゲン除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
米、小麦などの穀物種子は、人類にとって重要なエネルギー源として昔から主食として食されてきた。さらに穀物種子は、エネルギー源となるデンプンだけでなく、蛋白質やミネラル等の他の重要な成分も多く含んでいる。特に米は栄養バランスに優れており、多くの必須アミノ酸を含み、またカルシウム、ビタミンB、鉄、マグネシウム、亜鉛等も含む。最近では、穀物種子からの食品原料の製造や、その食品原料の機能性にも大変注目が集まっている。例えば、甘味料として使用可能な米糖化液の製造(特許文献1)や、その米糖化液の抗菌作用(特許文献2)等についても報告されている。
【0003】
一方で、近年、生活環境の変化からアレルギー性疾患や生活習慣病が特に社会問題化している。作物及び作物由来の食品に含まれるアレルゲンは、アレルギー患者にアトピー性皮膚炎やアナフィラキシー等の重篤な症状を引き起こすことがある。また腎臓病患者の栄養補給剤としては、低蛋白食品が必要である。特に米、小麦、大豆等の主要な穀物における低アレルゲン化・低蛋白化は重要な研究課題であり、簡便で安全な実用技術の開発が求められてきた。これまでに交配育種によってこれら穀物に含まれるアレルゲンを低減化する試みも行われているが、同じ穀物に対するアレルギーであっても、患者によって反応するアレルゲンの種類やアレルギーの程度が異なるため、育種によるアレルゲン低減化は容易ではない。また、各種アレルゲンを含む貯蔵蛋白質の多くは作物の生育に必須であるため、それらを栽培段階で排除するのは困難である。そのため、収穫後の加工処理により、穀物に含まれる蛋白質やアレルゲンを一低減するための効果的な技術の開発が期待されている。
【0004】
食品に含まれるアレルゲン蛋白質を低減させる技術はこれまでにいくつか報告されている。例えば、塩水や、界面活性剤、アルカリ処理により蛋白質を溶出させる手法がある(特許文献3−6)。しかしこれらの方法には、蛋白質によって溶出度合が異なること、食品に適用する上での安全性が疑われること、風味を損なう場合があること等の問題点が指摘されている。プロテアーゼやそれを含む酵母、麹菌等を食品原料に添加し、アレルゲンを含む蛋白質を消化する手法も報告されている(特許文献7−10)が、プロテアーゼの基質特異性により低減される蛋白質の種類が限られること、アレルゲン性が疑われる未消化の大きなペプチド断片が生じる場合があること等の問題点がある。また、交配や遺伝子組換え技術により、特定のアレルゲン蛋白質を低減させた作物品種や系統を開発した例もあるが、複数種のアレルゲンや蛋白質を排除することは技術的に容易ではない。
【0005】
このように従来の方法では、穀物種子から得られる食品原料において多くのアレルゲンや蛋白質を顕著に低減化することには成功していない。米、小麦、大豆、ソバ等多くの作物種に汎用でき、かつ穀物に含まれるアレルゲンや蛋白質を簡便かつ高効率に除去することができる加工処理技術はこれまでのところ開発されていない。
【0006】
【特許文献1】特開2003−250485号
【特許文献2】特開2006−169153号
【特許文献3】特開2003−259828号
【特許文献4】特開平11−9202号
【特許文献5】特開平7−203885号
【特許文献6】特開平7−115920号
【特許文献7】特開平11−75744号
【特許文献8】特開2005−34046号
【特許文献9】特開2005−198582号
【特許文献10】特開平7−236439号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、穀物種子由来食品原料からのアレルゲン除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、穀物種子又はその破砕物に加水し、(好ましくは糊化温度まで加温することにより)糊化させると、大部分の蛋白質が穀物種子中に含まれる何らかの不溶性成分と強固に相互作用すること;さらにその糊化物にアミラーゼ及び/又はプロテアーゼを作用させて液化させると、アレルゲンを含む蛋白質はその不溶性成分と強固に相互作用を維持したまま溶液中に浮遊すること;その溶液を遠心すると上清と白濁沈殿物とに分離され、蛋白質をほとんど含まないがブドウ糖、麦芽糖、アミノ酸等を豊富に含む上清を回収できること;溶液の遠心速度は、比較的低速でも、蛋白質をほぼ含まない上清と、蛋白質を含む沈殿物とにうまく分離することができること;を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下を包含する。
[1] 穀物種子又はその破砕物を水性溶媒の存在下で加熱して糊化し、その糊化物をアミラーゼ及び/又はプロテアーゼを用いて液化し、60〜8,000 gで遠心分離して上清を回収することを含む、穀物種子由来食品原料からアレルゲン蛋白質を除去する方法。
この方法では、遠心分離を3〜60分間行うことが好ましい。
この方法における穀物は、好ましくはイネ科植物、マメ科植物又はタデ科植物である。
本方法の1つの実施形態では、前記糊化物をアミラーゼで液化した後にプロテアーゼを加えることも好ましい。
[2] 上記[1]の方法によりアレルゲン蛋白質を除去して得た前記上清をアレルゲン低減化食品の製造に用いることを含む、食品の製造方法。
[3] 上記[1]の方法によりアレルゲン蛋白質を除去して得た前記上清を含む、アレルゲン低減化食品。
[4] 穀物種子又はその破砕物にアレルゲン蛋白質を含む非穀物性食品原料を添加し、それを水性溶媒の存在下で加熱して糊化し、その糊化物をアミラーゼ及び/又はプロテアーゼを用いて液化し、60〜8,000 gで遠心分離して上清を回収することを含む、食品原料からアレルゲン蛋白質を除去する方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法を用いれば、蛋白質の大部分を除去し、その結果、アレルゲン蛋白質のほとんどを除去することによって顕著にアレルゲン含有量を低減させた穀物種子由来食品原料を、簡便な手法で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、穀物種子又はその破砕物を水性溶媒の存在下で加熱して糊化し、その糊化物をアミラーゼ及び/又はプロテアーゼの酵素的作用により液化し、その液を遠心して上清と沈殿とを分離させ、その上清を回収することにより、蛋白質がほとんど含まれない上清を取得できるという知見に基づく。このようにして得た上清には、穀物種子に含まれる各種成分(蛋白質を除く)の他、アミラーゼやプロテアーゼの酵素的作用により生成されるブドウ糖、麦芽糖、アミノ酸等が含まれることから、この上清は食品原料として有利に利用することができる。そしてこの上清は、穀物種子に通常多量に含まれるアレルゲン蛋白質をほとんど含まないことから、アレルゲン性を顕著に低下させた穀物種子由来食品原料として、食品加工分野で有利に利用することができる。本発明の方法の典型的な処理工程の概略図を図1に示す。
【0012】
本発明において「穀物」とは、広義の穀物、すなわち澱粉質を主体とする種子を食用とする植物をいう。具体的には、本発明の穀物には、イネ科植物の他、マメ科植物、タデ科植物等も含まれる。穀物の例としては、アズキ、アマランサス、アワ、イナゴマメ、イネ、インゲンマメ、エンドウマメ、エンバク、オオムギ、カラスムギ、キノア、キビ、キマメ、グアル、グラスビー、ケツルアズキ、コドラ、コムギ、ササゲ、シカクマメ、ゼオカルバマメ、ソバ、ソラマメ、ソルガム、ダイズ、タケアズキ、タチナタマメ、ダッタンソバ、タマリンド、テフ、テリバービーン、トウモロコシ、ナタマメ、ハッショウマメ、ハトムギ、バンバラマメ、ヒヨコマメ、フジマメ、フェニオ、ベニバナインゲン、ヘントウ、ホースグラム、マコモ、モスビーン、モロコシ、ライマイ、ライムギ、ラッカセイ、リョクトウ、ルビナス等が挙げられる。本発明において「穀物種子又はその破砕物」とは、それら穀物の1個以上の種子、又はその種子の破壊断片をいう。種子は、好ましくは生の(加熱されていない)ものである。穀物種子は、糠(bran)を除去したもの、すなわち精白した穀物(例えば、精白米)であることがより好ましい。破砕物には、限定するものではないが、例えば、破砕断片、顆粒、切片、粉末、磨砕物等が包含される。
【0013】
穀物種子又はその破砕物(以下、穀物種子等という)に加える水性溶媒は、蒸留水、イオン交換水、milli-Q、天然水、又は水道水等の様々な水であってもよいし、任意の緩衝液や生理食塩水であってもよい。
【0014】
水性溶媒は、穀物種子等:水性溶媒の体積比で好ましくは1:2〜1:10、より好ましくは1:3〜1:7となる量で穀物種子等に加えればよい。
【0015】
穀物種子等を水性溶媒中で加熱して糊化するためには、穀物種子等を含む水性溶媒を、糊化温度又はそれ以上に加熱すればよい。具体的には、穀物種子等を含む水性溶媒を、限定するものではないが、好ましくは100℃〜130℃、より好ましくは120〜125℃に加熱すればよい。糊化するためには、加熱は好ましくは2〜100分間、より好ましくは5〜70分間行えばよい。好適な実施形態としては、121℃で5〜15分間加熱することが挙げられる。
【0016】
あるいは、加熱等により水性溶媒を蒸気化し、それを穀物種子等に適用して蒸すことにより、穀物種子等に水性溶媒を加えつつ加熱してもよい。この場合の穀物種子等の加熱条件は上記と同様であり、加熱温度は好ましくは100℃〜130℃、より好ましくは120〜125℃、加熱時間は好ましくは2〜100分間、より好ましくは5〜70分間である。本発明の方法において「穀物種子又はその破砕物を水性溶媒の存在下で加熱する」とは、穀物種子等を水性溶媒中で加熱することだけでなく、このように穀物種子等を蒸して加熱する場合なども含むことを意図する。
【0017】
加熱は、大気圧下で行うことができるが、加圧下で行ってもよい。例えば、オートクレーブ又は多管式第一種圧力装置を用いることにより、加圧下で加熱することができる。例えば、種子の貯蔵器官(プロテインボディなど)内に蓄積され保護されている蛋白質の除去効率を上げるためには、加圧下でより高温にて加熱することも好ましい。糊化されたかどうかは、穀物種子又はその破砕物が膨潤し、透明性が増したことで判断することができる。本発明ではこの糊化工程において、穀物種子中に含まれる不溶性成分と蛋白質との間に強固な相互作用が生じると考えられる。但し、本発明はこのような原理に拘束されるものではない。
【0018】
以上のようにして得られた糊化物は、アミラーゼ及び/又はプロテアーゼを添加して反応させることにより、液化させることができる。液化により、後の工程で遠心をかけたときに分離を容易にすることができる。この酵素添加は、十分に糊化させた後に行うことが好ましい。これらの酵素を添加する前には、糊化物を酵素の至適温度付近まで冷却しておくことも好ましい。
【0019】
アミラーゼとプロテアーゼは、いずれか一方のみを反応させてもよいし、それらを併用してもよい。アミラーゼで処理することにより、穀物種子等に由来するデンプンからブドウ糖や麦芽糖を生成させることもできる。一方、プロテアーゼで処理した場合は、アミノ酸を生成することができる。アミラーゼとプロテアーゼを併用することにより、ブドウ糖、麦芽糖とアミノ酸を生成できると思われる。アミラーゼとプロテアーゼを併用する場合、プロテアーゼはアミラーゼと同時に添加してもよいし、アミラーゼの後に添加してもよいが、好ましくはアミラーゼ処理により糊化物が十分に液化した後にプロテアーゼを添加する方がよい。アミラーゼとしては任意のものを使用することができるが、例えば、アミラーゼN-KT2(複合酵素剤:協和化成株式会社)、αアミラーゼスミチームA10(新日本化学工業株式会社)、アミラーゼAD「アマノ」1(天野エンザイム株式会社)、クライスターゼ T10S(天野エンザイム株式会社)、クライスターゼL1(天野エンザイム株式会社)、グルクザイムAF6(天野エンザイム株式会社)、プルラナーゼ「アマノ」3(天野エンザイム株式会社)、クライスターゼL1(大和化成株式会社)、スピターゼ HS(ナガセケムテックス株式会社)、リクィファーゼ L45(エイチビィーアイ株式会社)、ユニアーゼ BM-8(ヤクルト薬品工業株式会社)、オプチマルトBBA(ジェネンコア協和株式会社)、オプチマックス4060VHP(ジェネンコア協和株式会社)等が挙げられる。プロテアーゼとしては、任意のものを使用できるが、例えば、スミチームLP50D、スミチームFP(新日本化学工業株式会社製)、プロテアーゼN「アマノ」G(天野エンザイム株式会社)、ニューラーゼF3G(天野エンザイム株式会社)、プロレザーFG-F(天野エンザイム株式会社)、サモアーゼPC10F(大和化成株式会社)、プロチン SD-NY-10(大和化成株式会社)、オリエンターゼ 10NL(エイチビィーアイ株式会社)、アロアーゼ AP-10(ヤクルト薬品工業株式会社)等を使用できる。
【0020】
糊化物にアミラーゼ及び/又はプロテアーゼを添加し、好ましくは至適温度付近(アミラーゼN-KT2の場合は45℃程度)でインキュベートすることにより反応させることができる。インキュベート時間は、特に限定されないが、通常は5分〜1時間程度である。ここで液化を促進するために、ホモジナイザー処理等により、攪拌及び混合を行うことも好ましい。酵素反応が十分に進むと、糊化物は液状に変化する(液化)。本明細書では、ここで液化により得られた液を酵素処理液と称することがある。アミラーゼを用いて処理した場合には、デンプンが分解されてブドウ糖や麦芽糖が生成するため、得られる酵素処理液は「糖化液」とも称される。
【0021】
この酵素処理液は、加熱(通常90〜100℃、好適には95〜97℃)して酵素を失活させてもよい。
【0022】
次いで、得られた酵素処理液を遠心することにより上清相と沈殿相に分離させ、その上清を回収することにより、蛋白質がほとんど含まれない上清を取得することができる。通常、単に熱変性した蛋白質は通常はおよそ10,000 g以上の遠心力をかけないと沈殿させることができないが、本発明の方法では、比較的低速の遠心力を短時間かけるだけで、蛋白質の大部分を沈殿させ、除去した上清画分を取得することができる。
【0023】
遠心でうまく分離可能な条件は加水量や穀物の種類によっても多少変動するが、本発明の方法では、好適な遠心条件は、60 g以上、好ましくは60〜8,000 g、より好ましくは100〜5000 gで、5分間以上、好ましくは5〜60分間、より好ましくは10〜30分間で遠心することである。本発明の方法では、特に、100 gで10分間〜800 gで10分、例えば100 gで10分間〜300 gで10分間遠心することにより、蛋白質を不溶性成分と共に(例えば白濁沈殿物として)沈殿させ、上清から良好に除去することができる。なお本発明において「蛋白質を除去する」とは、含まれる蛋白質のかなりの割合、例えば蛋白質含量の50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、なお好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上99%以下が除去されることを意味するが、必ずしも100%の除去を意味するものではない。同様に「アレルゲン蛋白質を除去する」との表現も、含まれるアレルゲン蛋白質のかなりの割合、例えばアレルゲン蛋白質含量の50%以上、より好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、なお好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上99%以下が除去されることを意味するが、必ずしも100%の除去を意味するものではない。
【0024】
このようにして得られる上清には、蛋白質がほとんど含まれない。そしてこの上清は、穀物種子由来の成分をなお含むにもかかわらず、穀物種子に通常多量に含まれているアレルゲン蛋白質をもほとんど含まないため、低アレルゲン性を示す。従ってこの上清は、アレルゲン蛋白質を顕著に低減させた穀物種子由来食品原料として用いることができる。
【0025】
特に米糖化液には、抗ピロリ菌作用が報告されていることから(特許文献2)、本発明の方法で米から米糖化液を経て取得した上記のような上清は、低アレルゲン性に加えて抗ピロリ菌作用を有することから、例えば機能性食品原料としても有用と考えられる。
【0026】
従って本発明では、上記方法により穀物種子から糊化、アミラーゼ等の酵素での液化、遠心分離を経て上清を回収することにより、蛋白質を高効率で除去し、それにより穀物種子由来食品原料からアレルゲン蛋白質をも高効率で除去することができ、その結果、アレルゲン蛋白質を顕著に低減させた穀物種子由来食品原料を製造することができる。
【0027】
本発明において「穀物種子由来食品原料」とは、穀物種子を加工して得られる、食品の原料として使用されうる食品素材をいう。
【0028】
また本発明の方法においては、穀物種子を水性溶媒の存在下で加熱して糊化する際に、外来蛋白質、すなわち穀物種子由来でない蛋白質が共存していてもよい。その場合、外来蛋白質は、穀物種子中の他の蛋白質と共に不溶性成分と強固に相互作用することとなる。これにより、その後の酵素での液化、遠心分離を経て、外来蛋白質も他の蛋白質と共に沈殿し、上清から除去される。このことは後述の実施例でも証明されている。
【0029】
そこでさらなる実施形態では、本発明は、穀物種子又はその破砕物に、アレルゲン蛋白質を含む非穀物性食品原料を添加し、それを水性溶媒の存在下で加熱して糊化し、その糊化物をアミラーゼ及び/又はプロテアーゼを用いて液化し、60〜8,000 gで遠心分離して上清を回収することを含む、食品原料からアレルゲン蛋白質を除去する方法にも関する。ここで「非穀物性食品原料」とは、穀物以外の食材から調製される食品原料をいう。この場合も、非穀物性食品原料中のアレルゲン蛋白質は、外来蛋白質として穀物種子中の蛋白質と共に不溶性成分と強固に相互作用し、その後の酵素での液化、遠心分離を経て、他の蛋白質と共に沈殿し、上清から除去されることとなる。
【0030】
さらに本発明は、上記のようにしてアレルゲン蛋白質を除去した穀物種子由来食品原料、特に上記方法で得た遠心後上清を、アレルゲン低減化食品の製造に用いることを含む、食品の製造方法も提供する。さらに本発明は、上記方法により得られた、アレルゲン蛋白質を除去した穀物種子由来食品原料、特に上記方法で得た遠心後上清を含む、アレルゲン低減化食品も提供する。
【0031】
アレルゲン低減化食品とは、通常はアレルゲン(好ましくはアレルゲン蛋白質)を含有する食材を使用して製造される食品について、アレルゲン含量を通常よりも低減させた食品をいう。アレルゲン低減化食品は、通常は穀物種子、例えばイネ科植物の種子(米、小麦など)を使用して作製されるものであってもよい。アレルゲン低減化食品は、食品のアレルゲンに対しアレルギーを起こすリスクが高いヒトを対象としたものでありうる。
【0032】
本発明のアレルゲン蛋白質を低減させた穀物種子由来食品原料の食品への配合量は特に限定されないが、例えば一般的には、添加するその上清量が、0.001〜100重量%となる配合量を例示することができ、さらに添加剤としては前記上清を0.001〜1重量%、そのものを飲料やゼリー等に加工する場合は前記上清を50重量%〜100重量%で用いることも好ましい。実際の配合量は、飲食品の種類や求める味や食感を考慮して、当業者が適宜定めることができる。
【0033】
本発明のアレルゲン低減化食品の製造においては、飲食品に慣用的に使用される各種添加物を使用してもよいが、できるだけアレルゲン性を有しないものを用いることが好ましい。添加物としては、限定するものではないが、発色剤、着色料、香料、甘味料、保存料、乳化剤、酸化防止剤、pH調整剤、化学調味料、増粘剤、膨張剤、消泡剤等、結着剤等が挙げられる。さらに、オタネニンジンエキス、エゾウコギエキス、ユーカリエキス、杜仲茶エキス等の機能性素材を添加してもよい。
【0034】
本発明の食品の種類は、特に限定されない。本発明の食品は、生鮮食品であってもよいし、加工食品であってもよい。例えば、クッキー、ケーキ、煎餅などの焼き菓子、羊羹などの和菓子、プリン、ゼリー、アイスクリーム類などの冷菓、チューインガム、キャンディ等の菓子類、クラッカー、チップス等のスナック類、パスタ、うどん、そば等の麺類、かまぼこ、ハム、魚肉ソーセージ等の魚肉練り製品、みそ、しょう油、ドレッシング、マヨネーズ、甘味料等の調味料類、豆腐、こんにゃく、その他佃煮、餃子、コロッケ、サラダ、スープ、シチュー等の各種総菜、パン、飲料(例えば、栄養ドリンク、清涼飲料水、炭酸水、乳酸菌飲料を始めとする、上清を主たる原料とする飲料等)等を具体的に例示することができる。
【0035】
本発明において「アレルゲン蛋白質」とは、ヒトや動物に高頻度でアレルギー症状を引き起こす原因蛋白質をいう。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0037】
[実施例1] 米粒由来食品原料におけるアレルゲンを含む蛋白質の除去
精白米(長野県産コシヒカリ;Oryza sativa cv. Koshihikari)に3倍量の水を加え、多管式第一種圧力容器(有限会社アトラスエンジニアリング社製:型式BEM)中で121℃、6分間加熱し、糊化させた後、その糊化物を45℃まで冷却した。これにアミラーゼ(アミラーゼN-KT2、協和化成株式会社製;グルコアミラーゼ、α-アミラーゼ及びプロテアーゼ活性を有する複合酵素剤)を0.2%(w/w)添加し、45℃に保温したままホモジナイザー処理を10分間行って十分に撹拌・混合して液化した。液温を96℃に上昇させて酵素を失活させ、振動篩い(80メッシュ)で処理して米の糖化液を得た。この糖化液を5,000 g、10分間遠心分離し、上清を回収した。
【0038】
回収した糖化液上清を、遠心カラム(マイクロコンYM-10、ミリポア社製)を用いて脱塩した後、100 mM DTT、8M尿素、0.5% CHAPS、0.1% バイオライト(Bio-Lytes)を含む等電点電気泳動用のサンプルバッファーに溶解した。また糖化液を遠心分離して得た白濁沈殿物、原料の精白米を粉砕して得た米粉も、それぞれ等電点電気泳動用のサンプルバッファーに溶解した。
【0039】
得られた各溶液を二次元電気泳動(コンプリートセルシステム、バイオラッド社製)に供した。電気泳動に供する溶液の量は、精白米の由来量が同じになるように調整した。一次元目の等電点電気泳動はプロティアンIEFセルシステム(バイオラッド社製)を用い、製造者のマニュアルに従って実施した。上限電圧8,000 V、電圧時間積算35,000 VHの条件下で6時間泳動した。泳動後、ゲルを62.5 mMのトリス/塩酸バッファー、100 mM DTT、2% SDS、5% グリセリンを含む緩衝液に10分間浸漬し、その後DTTをヨードアセトアミドに置換した同緩衝液に10分間浸漬し、二次元目の電気泳動に供した。二次元目の電気泳動はLaemmliの手法(Laemmli, UK, Nature, 227, 680-685, 1970)に従って行った。泳動ゲルとして、375 mMのトリス/グリシンバッファーを含み10〜20%の濃度勾配を有するアクリルアミドゲルを用いた。泳動バッファーには、0.1% SDSを含む25 mM トリス/グリシンバッファーを用いた。150 Vの電圧一定条件下で2時間泳動を行った。泳動後のゲルを30%メタノール、5%酢酸を含む0.1%CBB溶液中で一晩染色し、30%メタノール、5%酢酸溶液中で鮮明な蛋白質染色像が得られるまで脱色した。その結果を図2に示す。米粉を溶解したバッファー中には、多くのタンパク質が検出された(図2C)。検出した各スポットを切り出して蛋白質を抽出し、エドマン分解法を利用した内部アミノ酸配列分析を行った(Rosenfeld et al., Anal. Biochem., (1992) 203, 173-179)。決定したアミノ酸配列に対してデータベース上でのホモロジー検索を行い、既知蛋白質とのアミノ酸配列を比較したところ(株式会社アプロサイエンスによる受託分析)、2S種子貯蔵アルブミンファミリーに属する19KDaグロブリン、α-アミラーゼ・トリプシンインヒビターファミリーに属するRAG1や他のアレルゲン蛋白質等を初めとする多くの既知アレルゲン蛋白質が確認された。また、オオムギ等の他の生物種でアレルゲン性が確認されているヒートショック蛋白質70や、ラクトイルグルタチオンリアーゼ、プロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDI)、トリオースフォスフェートイソメラーゼ、マレートデヒドロゲナーゼ、エノラーゼ等も確認された。検出されたアレルゲン蛋白質を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
一方、糖化液を遠心分離して得た糖化液上清中には蛋白質はほとんど検出されず(図2B)、表1に示すようなアレルゲン蛋白質もほぼ検出されなかった。これに対し、糖化液から遠心分離により生成した白濁沈殿物中には、これらアレルゲン蛋白質を含む大部分の蛋白質が濃縮されていた(図2D)。このことから、アレルゲン蛋白質を始めとする蛋白質の大部分が、糖化液上清において除去されていることが示された。
【0042】
さらに、この米糖化液の遠心後上清について、水抽出と高速液体クロマトグラフ法による標準物質との比較により成分分析を行った(食品分析センターによる依頼分析)。その結果、糖化液上清中には、白米100グラムあたりからブドウ糖として64.8%、麦芽糖として14.2%が回収されたことが確認された。このことから、この糖化液は、甘味料や栄養補助剤等の機能を有し、かつ米由来でありながらアレルゲン蛋白質を顕著に低減させた食品原料として使用できることが示された。
【0043】
[実施例2] 米以外の穀物種子由来の食品原料における蛋白質の除去
ソバ(Fagopyrum esculentum)種子を粉砕したソバ粉、小麦(Triticum aestivum)種子を粉砕した小麦粉、大豆(Glycine max)種子を粉砕した大豆粉に、それぞれ7倍量で加水し、多管式第一種圧力容器により121℃、11分間加熱して糊化させた後(糊化物)、45℃まで冷却した。これにアミラーゼ(アミラーゼN-KT2)、又はプロテアーゼ(スミチームLP50D、又はスミチームFP)を0.1%添加し、ホモジナイザー処理を10分間行い、撹拌・混合して液化した。液温を96℃に上昇させて酵素を失活させ、振動篩い(80メッシュ)処理してアミラーゼ処理液(糖化液)又はプロテアーゼ処理液を得た。それらの酵素処理液を5,000 g、10分間遠心分離し、上清を回収した。
【0044】
アミラーゼ又はプロテアーゼ処理前の糊化物、遠心分離前の酵素処理液、遠心分離後の酵素処理液上清からそれぞれ一部を採取したサンプルを、各々等量の100 mMのDTT、6 M尿素を含む2倍濃縮SDSサンプルバッファー(125 mMトリス/塩酸バッファー、4%SDS、20%グリセロールを含む)を添加した。よく混合し、実施例1と同様のSDS-PAGEに供し、アクリルアミドゲルを染色し脱色して、蛋白質染色像を得た。
【0045】
この結果を図3に示す。図中、Ctrは、121℃で11分加熱して得た、アミラーゼ又はプロテアーゼ処理前の糊化物、NはアミラーゼN-KT2処理液、L-スミチームLP50D処理液、FはスミチームFP処理液を示す。各パネルの左側の4レーンは遠心分離前の糊化物又はその酵素処理液の全液、右側の4レーンは糊化物又はその酵素処理液の遠心分離後の上清を示す。
【0046】
図3に示されるように、ソバ(図3A)、小麦(図3B)、大豆(図3C)のいずれについても、糊化物及びその酵素処理液には蛋白質が多く含まれていたが、遠心分離後の上清(酵素処理液上清)には、蛋白質はほとんど検出されなかった。プロテアーゼ処理した糊化物においても分解されずに残存していた蛋白質も、この遠心分離後にはほぼ完全に除去された。上清に含まれるアミノ酸を高速クロマトグラフ上での標準物質との比較により定量したところ(日本分析センターによる分析)、アルギニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、バリン、アラニン、グリシン、プロリン、グルタミン酸、セリン、スレオニン、アスパラギン酸、トリプトファン等がそれぞれ1mg〜25mgの範囲で検出された。微量のためこの方法では検出されなかったが、システイン、グルタミン、アスパラギンも生成されていると考えられた。
【0047】
[実施例3] アレルゲン蛋白質の除去の確認(大豆)
実施例2で大豆をサンプルとして得たSDS-PAGEゲルについて、アレルゲン蛋白質の同定を行った。その結果を図4に示す。遠心前の糊化物とその酵素処理液には、大豆の主要なアレルゲンである7Sグロブリン及び11Sグロブリンが含まれていた。一方、遠心後の上清(遠心後上清)では、蛋白質はほとんど検出されず、アレルゲン蛋白質である7Sグロブリンや11Sグロブリンもほとんど検出されなかった。従って、大豆を本発明の方法で処理することにより、遠心後上清においてアレルゲン蛋白質が高い割合で除去されることが示された。
【0048】
[実施例4] アレルゲン蛋白質の除去の確認(ソバ)
実施例2において、アミラーゼN-KT2を用いて得たソバ粉糖化液の遠心後上清について、アレルゲン蛋白質の除去を確認する試験を行った。
【0049】
ソバ粉に含まれるアレルゲン蛋白質は希酢酸画分に抽出されることが知られている(Yano et al., Cereal Chem., (2006) 83, 132-135)。そこでまず、得られたソバ粉糖化液の遠心後上清(ソバ粉糖化液上清)に最終濃度が0.1 Mになるよう酢酸を添加し、遠心して上清を回収した。回収した上清をスピンカラムYM-10(ミリポア社)で脱塩し、二次元電気泳動用のサンプルバッファーに溶解した。対照として、試料としたソバ粉を含むバッファーに酢酸を添加し、同様に希酢酸抽出画分を取得し、二次元電気泳動用サンプルバッファーに溶解した。それらのソバ粉糖化液上清の希酢酸抽出物サンプルとソバ粉希酢酸抽出物サンプル(対照)のそれぞれを、実施例1と同様にして二次元電気泳動に供した。
【0050】
その結果を図5に示す。ソバ粉希酢酸抽出物サンプル中には、多くのタンパク質が検出され、そこにはビシリン、キュピン、トリシティン、主要アレルゲン蛋白質(酸性・塩基性鎖)等のアレルゲン蛋白質も含まれていた(図5A)。検出されたアレルゲン蛋白質を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
一方、糖化液上清の希酢酸抽出物サンプルでは、蛋白質はほとんど検出されず、アレルゲン蛋白質も検出されなかった(図5B)。従って、このソバ粉糖化液上清においては、アレルゲン蛋白質を含む蛋白質のほとんどが除去されていることが示された。
【0053】
[実施例5] アレルゲン蛋白質の除去の確認(小麦)
実施例2において、アミラーゼN-KT2を用いて得た小麦粉糖化液の遠心後上清(小麦粉糖化液上清)について、アレルゲン蛋白質の除去を確認する試験を行った。
【0054】
得られた小麦粉糖化液上清をスピンカラムYM-10(ミリポア社)で脱塩し、二次元電気泳動用のサンプルバッファーに溶解した。対照としては、遠心分離前の小麦粉糖化液を同様に脱塩し、二次元電気泳動用サンプルバッファーに溶解した。両者を実施例1と同様に二次元電気泳動に供した(小麦粉糖化液上清:図6A、遠心分離前の小麦粉糖化液:図6B)。
【0055】
糖化液上清についての二次元電気泳動像(図6A)には蛋白質がほとんど検出されなかった。これを既報の文献(Nakamura H, Cereal Chem., (2001) 78, 79-83)と比較すると、糖化液上清中では、グルテニン(Nakamura H (2001)の図1内のスポット番号9、10)、グリアジン(同スポット番号5〜8)等のアレルゲン蛋白質が大幅に除去されていることが確認された。
【0056】
[実施例6] 遠心分離条件の検討
米に適用する遠心分離条件の検討を行った。実施例1で調製した米糖化液を、20〜5,000 g、5〜30分の各種条件下で遠心して、アレルゲンを含む蛋白質を除去できる条件を検討した。
【0057】
遠心前の米糖化液、及び各遠心後の米糖化液又はその上清から一部をサンプルとして採取し、等量の100 mMのDTT、6 M尿素を含む2倍濃縮SDSサンプルバッファー(125 mMトリス/塩酸バッファー、4%SDS、20%グリセロールを含む)に溶解した。それらのサンプルについて実施例1と同様にSDS-PAGEを行い、泳動後のゲルをCBBで染色し、脱色し、泳動像を得た。その結果を図7に示す。
【0058】
図7Aに示す通り、米糖化液を100 gで10分又は30分、800 gで10分又は30分、5000 gで30分遠心した場合には、米糖化液は上清と白濁沈殿物に分離し、その上清からは蛋白質がほとんど除去された。
【0059】
一方、20 gで5分又は20分、40 gで5分又は20分遠心した場合には、米糖化液は上清と白濁画分とに分離しなかった。遠心後の米糖化液の一部をサンプルとして行ったSDS-PAGEでは、遠心前の米糖化液とほぼ同様の蛋白質検出結果が得られた(図7B)。
【0060】
これに対し、60 gで5分又は20分遠心した場合には、上清と白濁画分の界面が現れた。界面のすぐ上(上清)、すぐ下(白濁画分)からサンプリングしてSDS-PAGEに供したところ、白濁画分について遠心前の米糖化液とほぼ同様の蛋白質検出結果が得られたのに対し、上清中には蛋白質はほとんど検出されなかった(図7B)。このように界面の上下で蛋白質含量が全く異なっていたことから、大部分の蛋白質は遠心分離の際に白濁成分(精白米中の不溶性成分)と挙動を共にしたと考えられた。
【0061】
以上の結果から、米糖化液を60 g以上、かつ5分以上で遠心することにより、溶液中の蛋白質の大部分が沈殿物として良好に除去されることが示された。
【0062】
次に、米以外の穀物種子について適用する遠心分離条件を検討した。実施例2でアミラーゼを用いて調製した大豆糖化液、ソバ粉糖化液を、それぞれ800 gで10分又は30分、5,000 gで10又は30分間遠心した。また実施例2でアミラーゼを用いて調製した小麦粉糖化液を、100 gで10又は30分間、800 gで10分又は30分、5,000 gで10又は30分間遠心した。糖化液、及び遠心後の各上清の一部をサンプルとして採取し、それを等量の100 mMのDTT、6 M尿素を含む2倍濃縮SDSサンプルバッファー(125 mMトリス/塩酸バッファー、4%SDS、20%グリセロールを含む)に溶解した。各サンプルを、実施例1と同様にして、SDS-PAGEを行い、泳動後のゲルをCBBで染色後、酢酸及びメタノール溶液で脱色して泳動像を得た。
【0063】
その結果、そのいずれの遠心条件でも糖化液は上清と白濁沈殿物に分離した。採取した上清においては、米糖化液と同様に、蛋白質が高い割合で除去されたことが示された。
【0064】
[実施例7] 蛋白質と不溶性成分の相互作用における糊化の役割の検討
大豆粉、ソバ粉にそれぞれ0〜9倍量(1:0、1:1、1:3、1:9)の水を添加し、試験管中で37℃で1時間インキュベートした。続いて100℃で1時間インキュベートし、糊化物を得た。各加水比で、37℃でインキュベートした溶液、及び100℃でさらにインキュベートして得た糊化物から各々一部をサンプリングし、等量のDTTを含まない2倍濃縮SDSサンプルバッファー(0.125 Mトリス/塩酸バッファー、4%SDS、20%グリセロールを含む)を添加してよく混合した。これを5,000 gで10分間遠心して夾雑物を取り除いた後、上清をSDS-PAGEに供した。泳動後CBBで染色し、脱色して泳動像を得た(図8A、B)。
【0065】
37℃でインキュベートしたサンプルからは、大豆粉又はソバ粉に加水しただけの対照サンプル(図8中、CTR)と同程度の量の蛋白質が、SDSにより抽出されたことが示された。一方、100℃で糊化させた場合、糊化物からのSDSによる蛋白質抽出量は著しく低減した。
SDSは蛋白質の可溶化剤として使用されていることから、本発明の方法では、糊化の際に何らかの不溶性成分と蛋白質とが相互作用し、SDSでも可溶化されない凝集体を形成する結果、遠心により蛋白質がその不溶性成分と共に白濁沈殿物として高効率に除去されるものと考えられた。
【0066】
また、実施例1で調製した米の糊化物、米糖化液、対照として米粉に1:3で加水したものの一部をサンプリングし、DTTを含まない2倍濃縮SDSサンプルバッファー(0.125 Mトリス/塩酸バッファー、4%SDS、20%グリセロールを含む)を等量添加し、混合した。それぞれを10,000 gで10分間遠心後、上清をSDS-PAGEで分析した(図8C)。
【0067】
米粉に加水したサンプルからは、SDS存在下で蛋白質が抽出されたが、糊化物や糖化液(図8Cのレーンa、b)からは蛋白質がほとんど抽出されなかった。このことから、糊化が蛋白質と不溶性成分の強力な相互作用に重要であることが示唆された。
【0068】
[実施例8] 蛋白質の熱変性による沈殿の可能性の検討
本発明の方法による蛋白質の効率的除去が、蛋白質の熱変性に起因する沈殿によるものである可能性を検討するため、以下の実験を行った。
【0069】
米のアレルゲン蛋白質は1M食塩水中に抽出させることができることが報告されている(Urisu A et al., 1991, Int. Arch. Allergy Appl. Immunol. 96, 244-52.)。そこで、米粉を1M食塩水中に一晩浸漬した後、5,000 gで10分間遠心し、上清を回収した。この上清を遠心カラムCL4(5μm以上の粒子を排除:ミリポア社)の上部カラムに入れて5,000 g、10分間遠心し、下部カラムからアレルゲン抽出液を得た。
【0070】
このアレルゲン抽出液をオートクレーブで121℃、15分間加熱した。これを遠心カラムCL4(5μm以上の粒子を排除:ミリポア社)の上部カラムに添加し、添加した液が上部カラムから下部カラムに移行するまで遠心した。ここで添加液に沈殿が含まれれば、このカラムに捕捉されることとなる。
【0071】
次いでその下部カラムから溶液を回収して遠心カラムYM-100(排除限界分子量10万、ミリポア社)の上部カラムに添加し、添加した液が上部カラムから下部カラムに移行するまで遠心した。この添加液中で複数の分子が結合して高分子化していれば、この段階でカラムに捕捉される。
【0072】
さらにこの下部カラムから溶液を回収してYM-10(排除限界分子量1万、ミリポア社)の上部カラムに添加し、添加した液が上部カラムから下部カラムに移行するまで遠心した。添加液中に、加熱前のアレルゲン抽出液に含まれるものから分子量が変化していないアレルゲン蛋白質が含まれる場合には、この段階でカラムに捕捉されるはずである。
【0073】
それぞれの上部カラムから100 mMのDTT、6M尿素を含むSDSサンプルバッファー(62.5 mMトリス/塩酸バッファー、2%SDS、20%グリセロールを含む)で蛋白質を抽出した。抽出液を10,000 gで10分間遠心して夾雑物を取り除き、上清をSDS-PAGEで分析した。
【0074】
その結果、加熱前のアレルゲン抽出液、オートクレーブで加熱後のアレルゲン抽出液については、いずれも5μmの分子ふるい(図9A)、分子量10万の分子ふるい(図9B)では蛋白質はほぼ捕捉されず、大部分は分子量1万の分子ふるいで捕捉されていた。この結果から、アレルゲン蛋白質自体は熱処理では沈殿や高分子化することはなく、熱凝固しないことが示された。従って本発明の方法での蛋白質の効率的な除去は、熱変性による沈殿ではなく、糊化の際の蛋白質と不溶性成分の強力な相互作用による沈殿に起因して達成されると考えられた。
【0075】
[実施例9] 外来蛋白質の同時除去
9種類の蛋白質を含むIEF standards(Bio-rad:161-0310)に等量の水を添加し、米粉を添加した。100℃、30分間加熱して糊化させた後、耐熱性αアミラーゼを1%添加してさらに90℃で30分間インキュベートし、米糖化液を得た。さらに、この糖化液を5,000 gで10分間遠心し、上清を回収した。その米糖化液(全液)、又は遠心後の上清から一部の液をサンプリングし、これに等量の100 mMのDTT、6 M尿素を含む2倍濃縮SDSサンプルバッファー(125 mMトリス/塩酸バッファー、4%SDS、20%グリセロールを含む)を加え、よく撹拌した。5,000 gで10分間遠心して夾雑物を取り除いた後、上清をSDS-PAGEで分析した。
【0076】
米粉の遠心前の糖化液(全液)中に検出された蛋白質は、遠心後の上清においてはほぼ検出されなかった。また、外部から加えたIEF standardsのいずれの蛋白質も遠心後上清中には回収されなかった(図10)。この実験結果から、穀物種子中の蛋白質以外の外部から加える蛋白質も、糊化時に共存させることにより不溶性成分と共に沈殿させることができ、容易に除去することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の方法を用いれば、アレルゲン蛋白質の含量を低減させた穀物種子由来食品原料を製造することができる。穀物種子は一般的にアレルゲン蛋白質を多く含むが、本発明の方法で製造される穀物種子由来食品原料は、アレルゲン蛋白質を含む大部分の蛋白質が除去されているため、低アレルギー性である。またその穀物由来食品原料はアミラーゼやペプチダーゼによる液化の際に生じる糖やアミノ酸を含んでおり、さらに穀物種子に元々含まれる水溶性の非蛋白成分(水溶性ビタミン等)の有用成分も含みうる。従って、本発明の方法で製造される穀物種子由来食品原料は、アレルゲン低減化食品や低蛋白食品を製造する上で甘味料や栄養補給剤として有用に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】図1は、アレルゲンを含む蛋白質を除去した穀物種子由来食品原料を製造するための穀物種子の典型的な加工処理工程を示す概略図である。
【図2】図2は、米糖化液の遠心分離後上清においてアレルゲンを含む蛋白質を検出した二次元電気泳動の結果を示す写真である。Aは遠心分離直後の米糖化液を含むチューブの写真である。Bは遠心分離によって得た米糖化液上清、Cは米粉溶解バッファー、Dは米糖化液の遠心分離後の白濁沈殿物において検出された蛋白質を示す。C中には、検出されたアレルゲン蛋白質を、表1に対応した番号で示す。
【図3】図3は、ソバ、小麦、大豆の糖化液の遠心分離後上清において蛋白質を検出したSDS-PAGEの結果を示す写真である。
【図4】図4は、大豆糖化液の遠心分離後上清においてアレルゲン蛋白質が顕著に低減されていることを示すSDS-PAGEの結果を示す写真である。
【図5】図5は、ソバ糖化液の遠心分離後上清においてアレルゲン蛋白質が顕著に低減されていることを示す二次元電気泳動の結果を示す写真である。
【図6】図6は、小麦糖化液の遠心分離後上清においてアレルゲン蛋白質が顕著に低減されていることを示す二次元電気泳動の結果を示す写真である。
【図7】図7は、米糖化液を遠心力(g)及び遠心時間(分)の各種組み合わせ条件下で遠心し、米糖化液上清中の蛋白質を検出した写真である。
【図8】図8は、大豆及びソバ種子の非糊化物(37℃)及び糊化物(37℃の後100℃)についてSDS存在下での蛋白質の抽出結果を示す写真である。
【図9】図9は、熱処理したアレルゲン蛋白質のカラム上での捕捉サイズを調べたSDS-PAGEの結果を示す写真である。
【図10】図10は、米粉に外来蛋白質(マーカー蛋白質)を加えて調製した糖化液の遠心分離後上清中の蛋白質を検出した写真である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物種子又はその破砕物を水性溶媒の存在下で加熱して糊化し、その糊化物をアミラーゼ及び/又はプロテアーゼを用いて液化し、60〜8,000 gで遠心分離して上清を回収することを含む、穀物種子由来食品原料からアレルゲン蛋白質を除去する方法。
【請求項2】
遠心分離を3〜60分間行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
穀物が、イネ科植物、マメ科植物又はタデ科植物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記糊化物をアミラーゼで液化した後にプロテアーゼを加える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法によりアレルゲン蛋白質を除去して得た前記上清をアレルゲン低減化食品の製造に用いることを含む、食品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法によりアレルゲン蛋白質を除去して得た前記上清を含む、アレルゲン低減化食品。
【請求項7】
穀物種子又はその破砕物にアレルゲン蛋白質を含む非穀物性食品原料を添加し、それを水性溶媒の存在下で加熱して糊化し、その糊化物をアミラーゼ及び/又はプロテアーゼを用いて液化し、60〜8,000 gで遠心分離して上清を回収することを含む、食品原料からアレルゲン蛋白質を除去する方法。
【請求項1】
穀物種子又はその破砕物を水性溶媒の存在下で加熱して糊化し、その糊化物をアミラーゼ及び/又はプロテアーゼを用いて液化し、60〜8,000 gで遠心分離して上清を回収することを含む、穀物種子由来食品原料からアレルゲン蛋白質を除去する方法。
【請求項2】
遠心分離を3〜60分間行う、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
穀物が、イネ科植物、マメ科植物又はタデ科植物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記糊化物をアミラーゼで液化した後にプロテアーゼを加える、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法によりアレルゲン蛋白質を除去して得た前記上清をアレルゲン低減化食品の製造に用いることを含む、食品の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法によりアレルゲン蛋白質を除去して得た前記上清を含む、アレルゲン低減化食品。
【請求項7】
穀物種子又はその破砕物にアレルゲン蛋白質を含む非穀物性食品原料を添加し、それを水性溶媒の存在下で加熱して糊化し、その糊化物をアミラーゼ及び/又はプロテアーゼを用いて液化し、60〜8,000 gで遠心分離して上清を回収することを含む、食品原料からアレルゲン蛋白質を除去する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2009−219437(P2009−219437A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−67734(P2008−67734)
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、農林水産省、アグリバイオ実用化・産業化研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(591062146)社団法人長野県農村工業研究所 (12)
【出願人】(594126045)長野興農株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月17日(2008.3.17)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、農林水産省、アグリバイオ実用化・産業化研究委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(591062146)社団法人長野県農村工業研究所 (12)
【出願人】(594126045)長野興農株式会社 (2)
【Fターム(参考)】
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