説明

穀類種子の粉砕度を調整し、パンの膨化率を調節する方法

【課題】 本発明は、穀類を原料に使用するパンにおいて、任意の柔らかさ又は任意のふっくら感に調整することを可能にしたものであり、より具体的には、使用する穀類種子および穀類加工種子の粉砕度を調整し、パンの膨化率を任意に調節できるようにし、消費者の要求に応じて任意の食感を付与できるようした膨化率を調節する方法を提供し、さらに、その方法によって製造したパンを提供することを目的とする。
【解決手段】 機能性成分を豊富に含む穀類の種子および穀類加工種子の粉砕度を調整し、パン原料として使用することにより、例えば、大麦など穀類の有するギャバ等の機能性成分を豊富に含有し、かつ任意の膨化性を有するパンを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パンの膨化率を任意に調節することにより柔らかさ又はソフト感を任意に設定できるようにしたパン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からパンに対して消費者が求める特性の1つとして、ふっくらしたソフト感のある食感がある。実際に、そのような特性を特に狙った商品が少なからず販売されている。一方、消費者の健康志向に対応してパンの分野においても、小麦粉以外の健康に良いと言われている機能性成分を多く含む玄米、発芽玄米やライ麦などの穀類を原料に用いたパンが販売されているが、これらは小麦粉を使用したパンに比べてふっくらしたソフト感よりも、むしろ硬めで密度の高い食感のものが一般的である。また、同一種(食パン、フランスパン等)のパンであってもメーカーによってその食感は異なる。一方、消費者においても、パンはふっくらとしたソフト感のあるものという単一の評価で選択するのでなく、各自の好みで選択することが一般的である。従って、例えば、同一種のパンにおいてふっくら感の異なるパンを製造、販売することにより、より多くの消費者の嗜好に対応できる可能性があり、製造方法、製造設備を大幅に変更する事無く広く消費者の嗜好に対応したパンの開発が期待されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明は上述に鑑みてなされたものであり、パンにおいて、任意の柔らかさ又は任意のふっくら感に調整することを可能にしたものであり、より具体的には、穀類種子および穀類加工種子の粉砕度を調整して得た原料を、パンの原料の一部に使用し、パンの膨化率を任意に調節できるようにし、消費者の要求に応じて任意の食感を付与できるようした膨化率を調節する方法を提供し、その方法によって製造したパンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するために鋭意検討した結果、穀類の粉砕度を調整し、パンの原料の一部として使用することによって上記課題が解決できることを見出して、任意の膨化性を有するパンを製造する本件発明を完成させたものである。
【0005】
即ち、上記目的は、請求項1に記載されるが如く、穀類種子の粉砕度を調整して得た原料を、パンの原料の一部に使用し、パンの膨化率を調節する方法によって達成される。
【0006】
請求項1に記載の発明によれば、使用する穀類種子の粉砕度を調整し、パンの膨化率を任意に調節できる。
【0007】
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の発明において、前記穀類種子として大麦種子を原料とすることを特徴とする。
【0008】
請求項2に記載の発明によれば、原料に大麦種子を使用することによって、パンの膨化率を任意に調節できる。
【0009】
請求項3にかかる発明は、穀類加工種子の粉砕度を調整して得た原料を、パンの原料の一部に使用し、パンの膨化率を調節する方法によって達成される。
【0010】
請求項3に記載の発明によれば、使用する穀類加工種子の粉砕度を調整し、パンの膨化率を任意に調節できる。
【0011】
請求項4にかかる発明は、請求項3に記載の発明において、前記穀類加工種子は、前記穀類種子を水又は温水に所定時間浸漬したものであることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明によれば、水又は温水に所定時間浸漬した穀類種子を使用することによって、パンの膨化率を任意に調節できる。
【0013】
請求項5にかかる発明は、請求項3に記載の発明において、前記穀類加工種子は、前記穀類種子を水又は温水に所定時間浸漬後、発芽日数に応じて発芽処理を行なったものであることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明によれば、水又は温水に所定時間浸漬後、発芽処理を行なった穀類種子を使用することによって、パンの膨化率を任意に調節できる。
【0015】
請求項6にかかる発明は、請求項3に記載の発明において、前記穀類加工種子は、前記穀類種子を水又は温水に所定時間浸漬後、所定温度で乾燥処理を行なったものであることを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載の発明によれば、水又は温水に所定時間浸漬後、所定温度で乾燥処理を行なった穀類種子を使用することによって、パンの膨化率を任意に調節できる。
【0017】
請求項7にかかる発明は、大麦加工種子の粉砕度を調整して得た原料を、パンの原料の一部に使用し、パンの膨化率を調節する方法によって達成される。
【0018】
請求項7に記載の発明によれば、使用する大麦加工種子の粉砕度を調整し、パンの膨化率を任意に調節できる。
【0019】
請求項8にかかる発明は、請求項7に記載の発明において、前記大麦加工種子は、前記大麦種子を水又は温水に所定時間浸漬したものであることを特徴とする。
【0020】
請求項8に記載の発明によれば、水又は温水に所定時間浸漬した大麦種子を使用することによって、パンの膨化率を任意に調節できる。
【0021】
請求項9にかかる発明は、請求項7に記載の発明において、前記大麦加工種子は、前記大麦種子を水又は温水に所定時間浸漬後、発芽日数に応じて発芽処理を行なったものであることを特徴とする。
【0022】
請求項9に記載の発明によれば、水又は温水に所定時間浸漬後、発芽処理を行なった大麦種子を使用することによって、パンの膨化率を任意に調節できる。
【0023】
請求項10にかかる発明は、請求項7に記載の発明において、前記大麦加工種子は、前記大麦種子を水又は温水に所定時間浸漬後、所定温度で乾燥処理を行なったものであることを特徴とする。
【0024】
請求項10に記載の発明によれば、水又は温水に所定時間浸漬後、所定温度で乾燥処理を行なった大麦種子を使用することによって、パンの膨化率を任意に調節できる。
【0025】
請求項11にかかる発明は、穀類種子、穀類加工種子、又は大麦加工種子を原料の一部として使用するパンであって、請求項1乃至10のいずれかに記載の方法によって製造したパンによって達成される。
【0026】
請求項11に記載の発明によれば、穀類の有するギャバなどの機能性成分を含有し、かつ任意の膨化性を有する雑穀パンが提供できる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の効果は、穀類種子及び穀類加工種子の粉砕度を調整し、パンの原料に配合することにより任意の膨化性を有するパンが提供でき、さらに、その製造方法を提供できる。また、特に大麦種子及び大麦加工種子については、任意のふっくら感に調整できると共にギャバ等の機能性成分に富んだパンを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明者らは、穀類種子あるいは穀類加工種子の粉砕度を調整後、これらを原料の一部に含むパンを製造し、パンの膨化性を調査した。その結果、粉砕度の異なる原料に由来するパンは膨化性が異なるため、粉砕度を調整した原料を使用することにより、かつ任意の膨らみを有するパンの製造が可能なことを、以下の実験により明らかにした。
【0029】
種子として大麦種子を用いて、異なる粉砕度の大麦粉を製造した。その際、まず粉砕機で粗挽きにし、1mm以上2mm以下の画分のみを収集後、更に得られた画分をサイクロンミルで再粉砕した。その後、篩工程により異なる粒径の画分を収集し、パンの原料に配合した。
【0030】
また、穀類加工種子は、穀類種子を水若しくは温水に所定時間浸漬した浸水処理を行ったもの、穀類種子を水若しくは温水に所定時間浸漬した後、穀類種子を発芽日数に応じて発芽させた発芽処理を行ったもの、あるいは穀類種子を水若しくは温水に所定時間浸漬した後、所定時間で乾燥若しくは焙燥処理を行ったもののいずれか一である。
【0031】
なお、本発明において、穀類加工種子は、麦類加工種子である発芽大麦種子を用い、上記同様の方法で粒径の異なる画分を収集し、パンの原料に配合した。
【0032】
大麦種子及び発芽大麦種子は、任意の膨化性を有すると共にギャバ等の機能性成分に富んだパンを得ることができる。
【0033】
粉砕度の異なる画分を配合しパンを製造した結果、粉砕度がパンの膨化性に大きな影響を与えることが明らかとなった。即ち特定の画分を用いるとパンの膨らみは増加し、中間の画分を用いるとパンの膨らみが抑制されることが確認された。従って、粉砕度を調整した穀類種子を原料の一部として配合することにより、パン製造工程における膨化率を調節することが可能であり、膨化率を高めたソフトタイプのパン、あるいは膨化率を抑えたハードタイプのパンなど、任意の特性を有するパンの製造が可能となる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明の製法にしたがって実施した具体例を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
大麦品種、Gairdnerの種子を用いて、異なる粉砕度の大麦粉を製造した。まず粉砕機で大麦種子を粗挽きにし、1mm以上2mm以下の画分のみを収集後、更に得られた画分をサイクロンミルで再粉砕した。篩工程により75μm未満、75μm以上150μm未満、150μm以上300μm未満、300μm以上600μm未満、600μm以上1mm未満,1mm以上2mm未満の大麦粉を製造し、各画分をパンの原料に配合した。
【0035】
パンの製造はホームベーカリー(TWINBIRD製)食パンコースを使用し、原料はホームベーカリー推奨の配合量としたが、強力粉に大麦粉の各画分を20%、40%配合し、パンを製造した。
【0036】
その結果、20%配合区では各画分でパンの膨らみに明確な差異が認められなかったが、40%配合区では差異がみられた(表1、図1参照)。40%配合区では微粉にするほど膨化率が高くなる傾向が認められた。
【0037】
表1は、40%配合時における各画分ごとのパン膨化率評価(Gairdner大麦粉)を示す。
【0038】
【表1】

パン膨化率を5段階評価とし、値が大きくなるほど膨化率が高いとした。
【0039】
図1は、大麦品種、Gairdnerの種子の各画分を40%配合したパンの図であり、左から75μm未満、150μm以上300μm未満、1mm以上2mm未満の大麦粉配合区を示す。
(実施例2)
大麦品種、Harringtonの発芽大麦種子(浸麦のみ)を用いて、異なる粉砕度の発芽大麦粉を製造した。粉砕に用いた発芽大麦種子は、27時間の浸麦工程後に29時間の焙燥処理を行ない製造した。実施例1と同様、まず粉砕機で発芽大麦種子を粗挽きにし、1mm以上2mm以下の画分のみを収集後、更に得られた画分をサイクロンミルで再粉砕した。篩工程により75μm未満、75μm以上150μm未満、150μm以上300μm未満、300μm以上600μm未満、600μm以上1mm未満、1mm以上2mm未満の発芽大麦粉を製造し、各画分をパンの原料に配合した。
【0040】
パンの製造はホームベーカリー(TWINBIRD製)食パンコースを使用し、原料はホームベーカリー推奨の配合としたが、強力粉に発芽大麦粉の各画分を20%、40%配合し、パンを製造した。
【0041】
その結果、発芽大麦粉の粉砕度が75μm未満でいずれの配合区も膨化率は最大となった(表2、図2参照)。また20%配合時と40%配合時では若干傾向が異なり、600μm以上1mm未満の発芽大麦粉配合区においては、20%配合時では膨化率は低くなったが、40%配合時には膨化率は高くなる傾向が認められた。
【0042】
表2は、20%及び40%配合時における各画分ごとのパン膨化率評価(Harrington発芽大麦粉)を示す。
【0043】
【表2】

20%配合時を3段階評価、40%配合時を5段階評価とし、値が大きくなるほど膨化率が高いとした。
【0044】
図2は、大麦品種、Harringtonを浸麦処理した発芽大麦種子の各画分を40%配合したパンの図であり、左から75μm未満、150μm以上300μm未満、600μm以上1mm未満の発芽大麦粉配合区を示す。
(実施例3)
大麦品種、イチバンボシの発芽大麦種子(発芽日数6日)を用いて、異なる粉砕度の発芽大麦粉を製造した。粉砕に用いた発芽大麦種子は、48時間の浸麦工程後に6日間の発芽処理を行ない、その後29時間の焙燥処理により製造した。まず粉砕機で発芽大麦種子を粗挽きにし、1mm以上2mm以下の画分のみを収集後、更に得られた画分をサイクロンミルで再粉砕した。300μm未満、300μm以上600μm未満,1mm以上2mm未満の発芽大麦粉を製造し、各画分をパンの原料に20%配合した。
【0045】
パンの製造はストレート法を用いた。発酵温度は40℃とし、オーブンレンジにて山型パンを製造した。
【0046】
その結果、発芽大麦粉の粉砕度を粗粉にするほど膨化率は上昇した。1mm以上2mm未満の発芽大麦粉で膨化率は最大となった。実施例2の発芽大麦粉と比較すると粉砕度と膨化率の傾向が異なるが、発芽日数6日の発芽大麦粉は各種酵素活性が高いために異なる傾向がみられたものと考えられた。またパン生地の色度も粉砕度によって大きく異なり、粗粉になるほど白色度が高くなった。
【0047】
表3は、20%配合時における各画分ごとのパン膨化率評価(イチバンボシ発芽大麦粉)を示す。
【0048】
【表3】

3段階評価とし、値が大きくなるほど膨化率が高いとした。
【0049】
図3は、大麦品種、イチバンボシを発芽処理した発芽大麦種子の各画分を40%配合したパンの図であり、左から300μm未満、300μm以上600μm未満、1mm以上2mm未満の発芽大麦粉配合区を示す。
【0050】
したがって、上記実施例から明らかなように、穀類種子及び穀類加工種子の粉砕度を調整し、パンの原料に配合することにより、任意の膨化性を有するパンが提供でき、さらに、その製造方法を提供できる。
【0051】
以上本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の趣旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1において、大麦品種、Gairdnerの種子の各画分を40%配合したパンの図である。
【図2】実施例2において、大麦品種、Harringtonを浸麦処理した発芽大麦種子の各画分を40%配合したパンの図である。
【図3】実施例3において、大麦品種、イチバンボシを発芽処理した発芽大麦種子の各画分を40%配合したパンの図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀類種子の粉砕度を調整して得た原料を、パンの原料の一部に使用し、パンの膨化率を調節する方法。
【請求項2】
前記穀類種子として大麦種子を原料とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
穀類加工種子の粉砕度を調整して得た原料を、パンの原料の一部に使用し、パンの膨化率を調節する方法。
【請求項4】
前記穀類加工種子は、前記穀類種子を水又は温水に所定時間浸漬したものであることを特徴とするとする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記穀類加工種子は、前記穀類種子を水又は温水に所定時間浸漬後、発芽日数に応じて発芽処理を行なったものであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記穀類加工種子は、前記穀類種子を水又は温水に所定時間浸漬後、所定温度で乾燥処理を行なったものであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項7】
大麦加工種子の粉砕度を調整して得た原料を、パンの原料の一部に使用し、バンの膨化率を調節する方法。
【請求項8】
前記大麦加工種子は、前記大麦種子を水又は温水に所定時間浸漬したものであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記大麦加工種子は、前記大麦種子を水又は温水に所定時間浸漬後、発芽処理を行なったものであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記大麦加工種子は、前記大麦種子を水又は温水に所定時間浸漬後、所定温度で乾燥処理を行なったものであることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項11】
穀類種子、穀類加工種子、又は大麦加工種子を原料の一部として使用するパンであって、請求項1乃至10のいずれかに記載の方法によって製造したパン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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