説明

積層バスバー及びその製造方法

【課題】樹脂成形を必要としない構成で、簡易な構造で所望の層同士を導通できる積層バスバー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】Pバス用導体71とNバス用導体73とは、小径スルーホール(81)と、小径スルーホール(81)よりも大径の大径スルーホール(82)とを備え、Pバス用導体71の小径スルーホール(81)とNバス用導体73の大径スルーホール(82)とが同軸に配置されるとともに、Pバス用導体71の大径スルーホール(82)とNバス用導体73の小径スルーホール(81)とが同軸に配置され、同軸に並ぶ小径スルーホール(81)と大径スルーホール(82)とには、小径スルーホール(81)を露出させつつ大径スルーホール(82)を絶縁材75で覆った状態で積層方向に連なる貫通孔81Aを設け、貫通孔81Aに導電性めっき87が施されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器の電源配線等に使用可能な積層バスバー及びその製造方法に関し、特に電源電圧をスイッチング制御する装置の電源配線に好適な積層バスバー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、インバーターやコンバーター等の電源電圧をスイッチング制御する装置では、電源配線にハーネスの代わりに平面バスバーを用いる場合がある。その理由は、スイッチングを行うため、電流変化率が大きく、電流変化と電源ラインのインダクタンス値の積で電圧が発生しノイズとなるが、平面バスバーにすることで面積が拡がって低インダクタンス化し、ノイズ軽減できるからである。
この種の平面バスバーには、電流が流れることで発生した磁界を打ち消して他のパターンへの影響を回避するため、+側(Pバス側)のラインと−側(Nバス側)のラインとを重ねた積層バスバーが知られている。この種の積層バスバーをモジュール化する際には、バスバーを樹脂で固める。そのため、バスバーを打ち抜くための金型と、樹脂成形するための金型とが必要となり、コストアップを招いてしまう。
また、積層バスバーには、打ち抜いたバスバーを絶縁材とエポキシ樹脂とで積層し、接続用ピンで所望の層間を導通させることで、樹脂成形するための金型が不要な構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−106001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の構成では、接続用ピンが所望の層同士を選択的に短絡させる導電部を有する構成であり、ピンの構造が複雑になるとともに、ピンを精度よく位置決めする必要があり、組み立て性に難がある。
また、従来、スイッチング回路のノイズ対策として、スナバ回路があり、このスナバ回路には、Cスナバ回路がある。このCスナバ回路は、積層バスバーにコンデンサモジュールを接続することによって構成することができ、コンデンサには、周波数特性の良いフィルムコンデンサ等が用いられる。
しかしながら、この構成では、コンデンサモジュールを別途用意する必要があり、部品点数が増えてしまい、また、コンデンサモジュールを樹脂で固めるための金型が必要となり、これによってもコストアップを招いてしまう。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、樹脂成形を必要としない構成で、簡易な構造で所望の層同士を導通できる積層バスバー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、Pバス用導体とNバス用導体とを絶縁材を介して積層し、Pバス用導体を互いに導通させ、Nバス用導体を互いに導通させた積層バスバーにおいて、各導体は、小径スルーホールと、小径スルーホールよりも大径の大径スルーホールとを備え、前記Pバス用導体の小径スルーホールと前記Nバス用導体の大径スルーホールとが同軸に配置されるとともに、前記Pバス用導体の大径スルーホールと前記Nバス用導体の小径スルーホールとが同軸に配置され、同軸に並ぶ前記小径スルーホールと前記大径スルーホールとには、前記小径スルーホールを露出させつつ前記大径スルーホールを前記絶縁材で覆った状態で積層方向に連なる貫通孔を設け、前記貫通孔に導電性めっきが施されていることを特徴とする。
この構成によれば、各導体及び絶縁材を積層した状態で、孔加工とめっき処理とを行えば、Pバス用導体同士、及び、Nバス用導体同士を互いに導通させることができる。従って、樹脂成形を必要としない構成で、簡易な構造で所望の層同士を導通することができる。
【0007】
上記構成において、前記貫通孔には、導電性を有する締結部材がそれぞれ通され、これら締結部材を介して当該積層バスバーが、連結先の回路モジュールに連結されるとともに、当該バスバーのPバス用導体及びNバス用導体が各々前記回路モジュールに電気的に接続されるようにしてもよい。この構成によれば、連結・導通を行う部材を別々に設ける場合に比して、部品点数を低減でき、構成を簡易にできるとともに、積層バスバーの小型化を図ることができる。
【0008】
また、上記構成において、前記積層バーは、各導体を前記絶縁材を介して積層した後に、熱プレスして前記絶縁材を溶融させることによって、各導体及び前記絶縁材が互いに接合されるようにしてもよい。この構成によれば、接合作業が容易であり、大量生産に好適である。
また、上記構成において、前記導体はエッチング処理で形成されるようにしてもよい。この構成によれば、従来の配線基板のエッチング装置を利用して導体を形成することができ、これによっても、積層バスバーの大量生産に好適である。
【0009】
また、上記構成において、前記導体は、基板用プレートであり、最端の前記導体上に、前記Pバス用導体と前記Nバス用導体との間に設ける電気部品を実装してもよい。この構成によれば、電気部品を容易に追加することができ、例えば、簡単に容量や抵抗の調整が可能であり、また、基板搭載品であるセラミックコンデンサを容易に追加実装することができる。
また、上記構成において、前記絶縁材は、高誘電率の材料であり、積層方向で対向する前記Pバス用導体と前記Nバス用導体との間の対向距離と対向面積、及び、前記絶縁材の誘電率により、前記Pバス用導体と前記Nバス用導体との間の静電容量値を設定するようにしてもよい。この構成によれば、静電容量の設定が容易である。この場合、前記静電容量値は、当該積層バスバーをCスナバ回路として機能させる値に設定すれば、コンデンサを設けることなく、積層バスバーにCスナバ回路の機能を付加することができる。
【0010】
また、本発明は、Pバス用導体とNバス用導体とを絶縁材を介して積層し、Pバス用導体を互いに導通させ、Nバス用導体を互いに導通させた積層バスバーの製造方法において、各導体に、小径スルーホールと、小径スルーホールよりも大径の大径スルーホールとを設け、各導体を前記絶縁材を介して積層して、前記Pバス用導体の小径スルーホールと前記Nバス用導体の大径スルーホールとを同軸に並べるとともに、前記Pバス用導体の大径スルーホールと前記Nバス用導体の小径スルーホールとを同軸に並べ、熱プレスして前記絶縁材を溶融させ、各導体及び前記絶縁材を互いに接合させるとともに、各スルーホール内に前記絶縁材を入り込ませ、同軸に並ぶ前記小径スルーホールと前記大径スルーホールとには、前記小径スルーホールを露出させつつ前記大径スルーホールを前記絶縁材で覆った状態で積層方向に連なる貫通孔を設け、前記貫通孔に導電性めっきを施したことを特徴とする。
この構成によれば、樹脂成形を必要としない構成で、簡易な構造で所望の層同士を導通可能な積層バスバーを得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、樹脂成形を必要としない構成で、簡易な構造で所望の層同士を導通することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係る積層バスバーを使用したモーター駆動装置の電気的構成を示す図である。
【図2】積層バスバーを周辺構成とともに示す図である。
【図3】積層バスバーの断面構造を模式的に示す図である。
【図4】導体のエッチングの説明に供する図である。
【図5】各導体を積層して一体化する行程の概要を示す図である。
【図6】第2実施形態に係る積層バスバーを周辺構成とともに示す図である。
【図7】第3実施形態に係る積層バスバーを周辺構成とともに示す図である。
【図8】図7の積層バスバーを含むモーター駆動装置の電気的構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る積層バスバーを使用したモーター駆動装置の電気的構成を示す図である。
このモーター駆動装置100は、電気自動車或いはハイブリッド自動車に搭載される車載装置であり、制御装置(能動部)として機能する電子制御ユニット(Electronic Control Unit:ECU)10と、実際に、車両駆動用のモーター(駆動源)30を駆動する能動部(パワーモジュールとも称する)として機能するパワードライブユニット(Power Drive Unit:PDU)20とを備え、電子制御ユニット10とパワードライブユニット20との接続は、複数本(本構成では6本)のハーネス(配線)UH,UL,VH,VL,WH,WLで行われる。
【0014】
パワードライブユニット20は、電子制御ユニット10の制御の下、スイッチング素子(トランジスタ31H,31L)を用いた電流制御により駆動源であるモーター30を駆動する電力変換ユニットであり、入力側の高圧側入力端子13と低圧側入力端子14とに、車載バッテリーである外部電源12が接続され、出力側のU相出力端子15、V相出力端子16及びW相出力端子17に、三相交流式のモーター30が接続される。
このパワードライブユニット20は、高圧側入力端子13と低圧側入力端子14との間に設けられ、外部電源12から供給された直流電源の平滑化を行う平滑コンデンサ22と、外部電源12から供給される直流電流を、交流のモーター駆動電流に変換し、モーター30に出力するインバーター回路23と、インバーター回路23のトランジスタ31H,31Lを各々駆動するゲート駆動回路24を配置したゲート駆動基板25とを備えている。
【0015】
インバーター回路23は、パルス幅変調(PWM)によるPWMインバーターであり、U相、V相、W相の相毎に対をなす高電位側トランジスタ31Hと低電位側トランジスタ31Lとをブリッジ接続し、複数(本構成では6個)のトランジスタ31H,31Lを、ゲート駆動回路24によってオン/オフする。
各トランジスタ31H,31Lには、パワー半導体である絶縁ゲート型トランジスタ(IGBT)、MOSFETなどのスイッチングトランジスタ(スイッチング素子)が用いられる。
【0016】
各相の高電位側トランジスタ31Hは、高電位側に接続されてハイサイドアームを構成し、各相の低電位側トランジスタ31Lは、低電位側に接続されてローサイドアームを構成する。
各トランジスタ31H,31Lのコレクタ−エミッタ間には、転流ダイオード32Hが接続され、転流ダイオード32Hには、トランジスタ31H,31Lがオフの間にトランジスタ31H,31Lのエミッタ側からコレクタ側に電流が流れるように構成される。
【0017】
ゲート駆動回路24には、電子制御ユニット10からの制御信号が入力される。より具体的には、ゲート駆動回路24は、U相、V相、W相の相毎に対で設けられており、U相のゲート駆動回路24には、ハーネスUH,ULを介してU相の制御信号が入力され、V相のゲート駆動回路24には、ハーネスVH,VLを介してV相の制御信号が入力され、W相のゲート駆動回路24には、ハーネスWH,WLを介してW相の制御信号が入力される。
【0018】
各ゲート駆動回路24は、トランジスタ31H,31Lの各々にゲート電圧を供給可能であり、入力された制御信号により各トランジスタ31H,31Lのゲート電圧をオン(Hiレベル)/オフ(Lowレベル)に制御することで、各トランジスタ31H,31Lをスイッチングさせ、U相出力端子15からU相電流を出力させ、V相出力端子16からV相電流を出力させ、W相出力端子17からW相電流を出力させる。
つまり、パワードライブユニット20には、相毎に2本のハーネスUH〜WLが接続され、これらハーネスUH〜WLを介して、相毎に対の制御信号SBが入力されて各相の電流が生成出力されるようになっている。
【0019】
本実施形態では、モーター駆動装置100の電源配線PL、NL(図1参照)に積層バスバー50を使用している。積層バスバー50を使用することによって、電源配線PL、NLにハーネスを使用する場合に比して、電源配線PL、NLの面積を拡げて低インダクタンス化でき、スイッチングにより電流変化率が大きくてもノイズ軽減を図ることができる。
また、このモーター駆動装置100は、電源配線PL、NL間にスナバ回路(電源配線PL、NL間の静電容量(キャパシタ)C1に相当する)を備えている。このスナバ回路は、スイッチングのノイズ低減を図り、かつ、スイッチング時の電圧・電流サージがパワー半導体デバイス(トランジスタ31H,31L)のSOA(Safety Operation Area:安全動作領域)を超えないようにするCスナバ回路であり、U相、V相、W相の相毎の静電容量C1で構成されている。
【0020】
ここで、図2は、積層バスバー50を周辺構成とともに示す図である。
パワードライブユニット20は、矩形形状の単一の回路モジュールに形成されており、積層バスバー50は、パワードライブユニット20よりも小型の矩形形状に形成されている。積層バスバー50は、パワードライブユニット20上に載置され、複数の締結部材61(本構成では、符号61P,61Nで示す6本の金属ねじ)によって、パワードライブユニット20に締結固定されている。
また、パワードライブユニット20には、U相出力端子15、V相出力端子16及びW相出力端子17が間隔を空けて設けられており、これら端子15,16,17の各々にモーター30から延びる各相のモーター配線15L,16L,17Lが接続される。なお、図2中、符号65,66,67は、各相のモーター配線15L〜17Lに流れる電流を検出するための電流センサーである。
【0021】
図3は、積層バスバー50の断面構造を模式的に示す図である。
この積層バスバー50は、複数(本例では3枚)のPバス用導体71と、複数(本例では3枚)のNバス用導体73とを、絶縁層を構成する絶縁材75を介して積層し、一体構造とした積層ラミネートバスバーに構成されている。
各導体71,73は、矩形の平板形状を有し、互いに一定の間隔を空けて平行に配置され、導体71,73間の絶縁材75の厚さは一定とされている。
【0022】
これら導体71,73には、プリント配線基板の配線に用いられる銅プレート(基板用プレート)が使用される。この銅プレートの厚さ(導体厚)は、通電する電流に合わせて調整され、つまり、導体厚は、通電する電流を許容できる値に調整される。
例えば、定格電流が50Aだとすると、電源サイズで5sq相当が求められるため、この5sqを満足する断面積となるように導体厚が設定される。この場合、5sqの断面積は約5立方mmなので、導体厚が500μmで導体幅が40mmの導体を3枚使用すれば、0.5mm×3枚×40mm=6.0立方mmとなり、導体を流れる電流を許容できる。
本構成の導体71,73は、基板の配線に用いられる銅プレートであるため、その厚さ(導体厚)が数百μmまで存在し、通電する電流に合わせて適切な厚さの銅プレートを容易に選定することができ、厚さ調整が容易である。
【0023】
また、各導体71,73において、パワードライブユニット(連結先の回路モジュール)20側の端子15〜16、及び、Pバス用導体71とNバス用導体73との絶縁のための絶縁距離(沿面距離)を設ける箇所は、エッチング処理で不必要の銅が除去される。
また、絶縁材75には、高誘電率の材料(本実施形態ではチタン酸バリウム)が用いられる。この絶縁材75は、図3に示すように、Pバス用導体71間、Pバス用導体71とNバス用導体73との間、Nバス用導体73間に配置されるので、隣接する導体71,73間でのリーク電流の発生を確実に防止できるようになっている。
【0024】
上記各導体71,73は、積層方向に貫通する第1スルーホール(小径スルーホール)81と、この第1スルーホール81よりも大径の第2スルーホール(大径スルーホール)82とを各々有するパターンを有し、この導体パターンはエッチング処理で形成されている。なお、図2に示すように、第1スルーホール81及び第2スルーホール82は、U相、V相及びW相の相毎に一対ずつ形成され、合計3対形成されている。
すなわち、図4(A)に示すように、厚さが均一な平板状の銅プレート(図示の例では導体71に相当する銅プレート)を、上記絶縁材75となる基材(絶縁材75と同材料)に積層したものを原板とし、図4(B)に示すように、この原板上を、エッチング用のレジスト(フォトレジスト)85でマスクし、(C)紫外線露光を行い、露光されない部分(硬化していないレジスト85)を除去して現像(パターン形成)し、図4(D)に示すように、エッチング液を用いてレジストが残っていない部分の導体(銅プレート)を除去し、図4(E)に示すように、レジストの除去処理が可能な溶液を用いてレジストを除去する。
これによって、エッチングで不要な銅を除去し、各層の導体71,73を絶縁材75付きで形成することができる。なお、U相、V相及びW相の各相に対応する部分は同形状であるため、図4では1つの相に対応する部分だけを示している。
【0025】
図5は、各導体71,73を積層して一体化する行程の概要を示している。
まず、図5(A)(B)に示すように、6枚の導体71,73を積層した場合に、Pバス用導体71は、互いに同じ位置に第1スルーホール81及び第2スルーホール82を有する形状に形成されている。また、Nバス用導体73も、互いに同じ位置に第1スルーホール81及び第2スルーホール82を有する形状に形成されているが、Nバス用導体73は、Pバス用導体71の第1スルーホール81と同軸位置に第2スルーホール82を有し、Pバス用導体の第2スルーホール82と同軸位置に第1スルーホール81を有する形状となっている。
図5(B)に示すように、複数(3枚)のPバス用導体71は、絶縁材75を介して連続してまとめて重ねられ、これらPバス用導体71の下方に、複数(3枚)のNバス用導体73が、絶縁材75を介してまとめて重ねられる(積層行程)。このとき、中間層を構成するPバス用導体71とNバス用導体73とは、各導体73の背面に設けられた絶縁材75が向かい合うように重ねられる。
【0026】
このように重ねた後、図5(C)に示すように、上下から熱プレスして各絶縁材75を溶融させ、導体71,73及び絶縁材75を接着により一体化させる(熱プレス行程)。つまり、絶縁材75に用いられるチタン酸バリウムは熱可塑性であるため、熱により溶融し、導体71,73及び絶縁材75を互いに接着させる。
この絶縁材75は、熱可塑性で、金属に密着する材料であり、給水性が低い材料であることが前提である。この条件を満たす絶縁材75の材料として、チタン酸バリウム以外に、熱可塑性ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン等を用いることができる。
【0027】
熱可塑性ポリイミドは、通常の高分子に比べて破格の高強度、耐熱性を有し、電気絶縁性にも優れており、電子回路の絶縁材料に用いられている。線膨張係数は、有機物としては非常に低く、金属に近いため、本構成の積層バスバー50に適用したときに導体71,73との熱膨張による歪みが生じにくく、高い精度で加工が可能である、といったメリットがある。
本実施形態では、図5(D)に示すように、熱プレスした後、外部に露出する導体71,73の露出面に対し、各導体71,73を保護する絶縁膜となるレジスト(ソルダーレジスト)86を塗布している(レジスト塗布行程)。このレジスト86には、例えば、熱可塑性ポリイミドが使用される。熱可塑性ポリイミドをコーティング剤として用いる場合には、ポリアミド酸の溶液をコーティング剤として用い、塗布乾燥後に熱処理でイミド化させて絶縁膜(絶縁層)とすることができる。
【0028】
また、エポキシ樹脂は、寸法安定性や耐水性・耐薬品性及び電気絶縁性が高く、電子回路の基板やICパターンの封入剤として汎用されている。エポキシ樹脂は、接着剤、塗料、積層剤としても利用されるため、本構成の積層バスバー50に適用したときには、導体71,73と絶縁材75との接合や、積層バスバー50の一体化にその特性が好適である。なお、接着剤、塗料及び積層剤の多くは2液型で混合して使用される。
また、ポリテトラフルオロエチレンは、高周波特性に優れるメリットがある。特にポリテトラフルオロエチレンは、フッ素樹脂で化学的に安定で耐熱性、耐薬品性に優れ、強い溶解性をもつフッ化水素酸にも溶けない特性を有している。
【0029】
ここで、図5(C)に示すように、絶縁材75は熱プレス時に溶解するため、各導体71,73に設けられた第1スルーホール81内及び第2スルーホール82内にも入り込む。その状態で導体71,73及び絶縁材75が一体化した後、図5(D)に示すように、積層バスバー50を積層方向に連なって貫通し、かつ、小径スルーホールである第1スルーホール81を開口させる貫通孔81Aをあける孔加工を行う(孔加工行程)。
この貫通孔81Aは、第1スルーホール81と略同径を有する一定径の孔とされ、各導体71,73の第1スルーホール81を塞ぐ絶縁材75(図5(C)参照)を除去する。これによって、各導体71,73の第1スルーホール81を露出させつつ、第2スルーホール82を絶縁材75で覆った状態にすることができる。
この場合、第2スルーホール82は所定厚さ(第2スルーホール82と第1スルーホール81の径の差に相当する厚さ)の絶縁材75で覆われるので、確実に外部に露出しないようにすることができる。
【0030】
続いて、図5(E)に示すように、各貫通孔81Aには、導電性めっきの一種である金属めっき87が内面全体に施され(めっき行程)、この金属めっき87により、各導体71,73の第1スルーホール81の部分が積層方向で電気的に接続される。これにより、Pバス用導体71が互いに導通し、かつ、Nバス用導体73が互いに導通し、積層バスバー50の製造が完了する。
【0031】
上記金属めっき87が施された貫通孔81Aは、図3に示すように、積層バスバー50をパワードライブユニット20に連結するための締結部材61P,61N(図2参照)の通し孔に利用される。すなわち、各貫通孔81Aに締結部材61P,61Nを各々通し、その先端を、パワードライブユニット20に締結することによって、積層バスバー50をパワードライブユニット20に容易に連結することができる。
【0032】
また、この締結部材61P,61Nは、導電性を有する金属ねじであり、パワードライブユニット20に締結された場合に、パワードライブユニット20に形成された回路に電気的に接続される。
この場合、締結部材61P,61Nは、金属製めっき87を介してPバス用導体71、Nバス用導体73の各々に導通しているため、パワードライブユニット20の回路に電気的に接続されることで、各導体71,73の各々を、パワードライブユニット20の回路に電気的に接続する。
すなわち、締結部材61P,61Nは、積層バスバー50とパワードライブユニット20との間の連結及び導通を行う部材として機能する。このため、連結・導通を行う部材を別々に設ける場合に比して、部品点数を低減でき、構成を簡易にできるとともに、積層バスバー50の小型化を図ることができる。
【0033】
さらに、この積層バスバー50では、図3に示すように、中間層を構成するPバス用導体71とNバス用導体73とが絶縁材75を介して向かい合うように配置され、これによって、Pバス用導体71とNバス用導体73との間に静電容量が得られる。
この場合、隣接する一対の締結部材61P,61N間に各々静電容量が得られるので、電源配線PL、NL間であって、U相、V相、W相の相毎に静電容量が得られる。
上記静電容量は、Pバス用導体71とNバス用導体73との間の対向距離L、対向面積S、及び、絶縁材75の誘電率εsとを調整することによって、図1に示す静電容量C1に設定されている。
【0034】
具体的には、静電容量Cは、以下の式(1)によって求められるので、この式(1)を用いて、Cスナバ回路に必要な静電容量C1が得られるように値L、S、εs(絶縁材75の材料)を設定している。
C=ε0×εs×S/L・・・・式(1)
ここで、ε0は、真空の誘電率である。
この場合、対向距離Lの調整は、その間の絶縁材75の厚さ調整で可能であり、対向面積Sの調整は、導体71,73やスルーホール81,82の形状や孔径の調整で可能であり、誘電率の調整は、絶縁材75の材料選定で可能である。これによって、この積層バスバー50は、コンデンサ部品を別途配置しなくても、Cスナバ回路としても機能することができ、コンデンサモジュールを別途容易する場合に比して大幅に小型化が可能である。
【0035】
以上説明したように、本実施の形態の積層バスバー50は、図5に示すように、Pバス用導体71とNバス用導体73とに、第1スルーホール(小径スルーホール)81と、この第1スルーホール81より大径の第2スルーホール82とを設け(図5(A))、各導体71,73を絶縁材75を介して積層し、Pバス用導体71の第1スルーホール81とNバス用導体73の第2スルーホール82とを同軸に並べるとともに、Pバス用導体71の第2スルーホール82とNバス用導体73の第1スルーホール81とを同軸に並べ(図5(B))、熱プレスして絶縁材75を溶融させ、各導体71,73及び絶縁材75を互いに接合させるとともに、各スルーホール81,82内に絶縁材75を入り込ませ(図5(C)、同軸に並ぶ第1スルーホール81と第2スルーホール82とには、第1スルーホール81を露出させつつ第2スルーホール82を絶縁材75で覆った状態で積層方向に連なる貫通孔81Aを設け、各貫通孔81Aに金属めっき78を施して製造される。
このため、本構成では、樹脂成形を必要とせず、各導体71,73及び絶縁材75を積層した状態で、孔加工とめっき処理とを行えば、Pバス用導体71同士、及び、Nバス用導体73同士を互いに導通させることができる。
【0036】
このめっき処理を行う際、第2スルーホール82が絶縁材75で覆われているので、積層方向に並ぶ導体71,73のうち、積層方向で第1スルーホール81を設けた導体だけを、つまり、Pバス用導体71又はNバス用導体73のいずれか一方だけを金属めっき78で容易に導通させることが可能である。
従って、本構成では、従来のような、所望の導体同士を選択的に短絡させる接続ピンといった特殊部品を用いる必要がなく、所望の導体同士を容易に短絡させることができる。これにより、積層バスバー50の部品点数の低減、構造の簡易化、組み立て容易化が可能である。
【0037】
また、本構成では、貫通孔81Aには、導電性を有する締結部材61(61P,61N)がそれぞれ通され、これら締結部材61を介して当該積層バスバー50が、パワードライブユニット(連結先の回路モジュール)20に連結されるとともに、パワードライブユニット20に電気的に接続されるので、連結・導通を行う部材を別々に設ける場合に比して、部品点数を低減でき、構成を簡易にできるとともに、積層バスバー50の小型化を図ることができる。
【0038】
また、本構成では、熱プレスで各導体71,73及び絶縁材75を互いに接合するので、接合作業が容易であり、大量生産に好適である。しかも、この熱プレスで第2スルーホール82を絶縁材75で覆った状態にすることができる。
さらに、本構成では、各導体71,73をエッチング処理で形成するので、従来の配線基板のエッチング装置を利用して導体71,73を形成することができ、これによっても、積層バスバー50の大量生産に好適である。
【0039】
しかも、本構成では、絶縁材75が、高誘電率の材料であり、積層方向で対向するPバス用導体71とNバス用導体73との間の対向距離Lと対向面積S、及び、絶縁材75の誘電率により、Pバス用導体71とNバス用導体73との間の静電容量値を設定しているので、静電容量の設定が容易である。この場合、絶縁材75にチタン酸バリウムを用いることで、所望の静電容量を得やすくなり、Cスナバ回路として十分な静電容量C1を確保することができる。
これらにより、本構成では、樹脂成形を必要とせず、コンデンサモジュールを別途用意する必要がなく、積層バスバー50を薄くでき、小型化できる。しかも、各導体71,73を配線基板と同様に生産できるので、大きな原板に各導体71,73を同時に多数作ることもでき、積層バスバー50の大量生産に好適である。
【0040】
<第2実施形態>
図6は第2実施形態を示している。第2実施形態では、積層バスバー50の最短(最上層)に位置する導体であるPバス用導体71上に、3つのコンデンサC2を実装している。このコンデンサC2は、隣接する一対の締結部材61P,61N間に各々設けられる電気部品であり、つまり、電源配線PL、NL間におけるU相、V相、W相の相毎の静電容量を構成している。なお、それ以外の構成については、第1実施形態と略同一である。
本構成では、各導体71,73にプリント配線基板の配線に用いられる銅プレート(基板用プレート)を用い、エッチング処理で形成するので、コンデンサC2等の電気部品を実装することが容易である。従って、簡単にスナバ回路としての容量調整が可能である。
なお、図7中、符号91は、スルーホールであり、このスルーホールを介してコンデンサC2と内部のNバス用導体73とがリード線などで導通される。但し、コンデンサC2と各導体71,73とを電気的に接続する構造は、プリント配線基板で用いられる公知の構造を適用可能である。
【0041】
従来、コンデンサには、様々なタイプが存在し、電解コンデンサ<フィルムコンデンサ<セラミックコンデンサ、といった順で周波数特性が良好となる。周波数特性に優れたセラミックコンデンサは、一般に基板搭載品しか存在しないが、本構成の積層バスバー50であれば、基板搭載品であるセラミックコンデンサを容易に追加実装することが可能である。
つまり、第2実施形態では、周波数特性が良好なセラミックコンデンサをコンデンサC2として実装し、このコンデンサC2の静電容量と、積層バスバー50自体の静電容量Cとの合成容量が、Cスナバ回路として十分な静電容量C1となるように構成されており、これによって、周波数特性が良好で、かつ、適切な静電容量を有するスナバ回路を容易に構成することができる。
【0042】
<第3実施形態>
図7及び図8は第3実施形態を示している。第3実施形態では、積層バスバー50にRCスナバ回路を構成しており、図7は、積層バスバー50を周辺構成とともに示す図であり、図8は、この積層バスバー50を含むモーター駆動装置100の電気的構成を示す図である。なお、それ以外の構成については、第1実施形態と略同一である。
図7及び図8に示すように、積層バスバー50の最上層の導体71上には、3つのトランジスタ31Hのコレクタ−エミッタ間に直列に接続されるコンデンサ(電気部品)CH及び抵抗(電気部品)RHが各々実装されるとともに、3つのトランジスタ31Lのコレクタ−エミッタ間に直列に接続されるコンデンサ(電気部品)CL及び抵抗(電気部品)RLが各々実装される。
本構成では、各導体71,73にプリント配線基板の配線に用いられる銅プレート(基板用プレート)を用い、エッチング処理で形成するので、上記導体71上に、コンデンサCH及び抵抗RHの直列回路部分や、コンデンサCL及び抵抗RLの直列回路部分の配線パターンの形成が容易である。従って、簡単に容量や抵抗の調整が可能であり、積層バスバー50にRCスナバ回路を容易に構成することができる。
【0043】
なお、上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形可能である。例えば、上記実施形態では、各導体71,73を矩形形状に形成する場合について説明したが、これに限らない。また、上記実施形態では、電気自動車或いはハイブリッド自動車に搭載される積層バスバー50に本発明を適用する場合を説明したが、これに限らず、電動アシスト自転車や電動バイク等の他の車両に搭載される積層バスバー、或いは、車両に限定されず、モーター等の駆動源を駆動する装置(産業設備を含む)の積層バスバー等に本発明を広く適用してもよい。
【符号の説明】
【0044】
20 パワードライブユニット(連結先の回路モジュール)
50 積層バスバー
61,61P,61N 締結部材
71 Pバス用導体
73 Nバス用導体
75 絶縁材
81 第1スルーホール(小径スルーホール)
81A 貫通孔
82 第2スルーホール(大径スルーホール)
87 金属めっき(導電性めっき)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pバス用導体とNバス用導体とを絶縁材を介して積層し、Pバス用導体を互いに導通させ、Nバス用導体を互いに導通させた積層バスバーにおいて、
各導体は、小径スルーホールと、小径スルーホールよりも大径の大径スルーホールとを備え、前記Pバス用導体の小径スルーホールと前記Nバス用導体の大径スルーホールとが同軸に配置されるとともに、前記Pバス用導体の大径スルーホールと前記Nバス用導体の小径スルーホールとが同軸に配置され、
同軸に並ぶ前記小径スルーホールと前記大径スルーホールとには、前記小径スルーホールを露出させつつ前記大径スルーホールを前記絶縁材で覆った状態で積層方向に連なる貫通孔を設け、前記貫通孔に導電性めっきが施されていることを特徴とする積層バスバー。
【請求項2】
前記貫通孔には、導電性を有する締結部材がそれぞれ通され、これら締結部材を介して当該積層バスバーが、連結先の回路モジュールに連結されるとともに、当該バスバーのPバス用導体及びNバス用導体が各々前記回路モジュールに電気的に接続されることを特徴とする請求項1に記載の積層バスバー。
【請求項3】
前記導体は、基板用プレートであり、
最端の前記導体上に、前記Pバス用導体と前記Nバス用導体との間に設ける電気部品を実装したことを特徴とする請求項1又は2に記載の積層バスバー。
【請求項4】
前記絶縁材は、高誘電率の材料であり、
積層方向で対向する前記Pバス用導体と前記Nバス用導体との間の対向距離と対向面積、及び、前記絶縁材の誘電率により、前記Pバス用導体と前記Nバス用導体との間の静電容量値を設定していることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の積層バスバー。
【請求項5】
Pバス用導体とNバス用導体とを絶縁材を介して積層し、Pバス用導体を互いに導通させ、Nバス用導体を互いに導通させた積層バスバーの製造方法において、
各導体に、小径スルーホールと、小径スルーホールよりも大径の大径スルーホールとを設け、各導体を前記絶縁材を介して積層して、前記Pバス用導体の小径スルーホールと前記Nバス用導体の大径スルーホールとを同軸に並べるとともに、前記Pバス用導体の大径スルーホールと前記Nバス用導体の小径スルーホールとを同軸に並べ、
熱プレスして前記絶縁材を溶融させ、各導体及び前記絶縁材を互いに接合させるとともに、各スルーホール内に前記絶縁材を入り込ませ、
同軸に並ぶ前記小径スルーホールと前記大径スルーホールとには、前記小径スルーホールを露出させつつ前記大径スルーホールを前記絶縁材で覆った状態で積層方向に連なる貫通孔を設け、前記貫通孔に導電性めっきを施したことを特徴とする積層バスバーの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−43686(P2012−43686A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−184814(P2010−184814)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】