説明

積層フィルムの製造方法

【課題】連続的に走行する支持体にそれぞれ1つ以上のモノマーもしくはポリマーを含んだ塗布液を塗布する積層フィルムの塗布方法で、界面の乱れによる塗布ムラを抑える積層フィルムの製造方法を提供。
【解決手段】少なくとも2個の単層エクストルージョン型ダイ22,32によって連続的に走行する支持体Wに異なる組成の塗布液を塗布して積層を設ける積層フィルムの塗布方法で、前記それぞれの塗布液は、溶質の溶解性パラメータの差が0.1以上、下流側塗布液の粘度が上流側塗布液の粘度よりも低く、それぞれの塗布液のキャピラリ数CaがCa<1.7であり、上流側の塗布液の表面張力と下流側の塗布液の表面張力の差が>0.5(mN/m)であり、上層の塗布液の塗布厚みh(μm)と、該上層の支持体表面からの距離L(μm)の比がh/L<0.14であり、前記単層エクストルージョン型ダイの吐出口間距離Mを1mm以上700mm以下とする塗布方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムの製造方法に係り、特に、少なくとも2個の単層エクストルージョン型ダイによって連続的に走行する支持体にそれぞれ1つ以上のモノマーもしくはポリマーを含んだ塗布液を塗布して積層を設ける積層フィルムの塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
反射防止フィルムは、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)や陰極管表示装置(CRT)など様々な画像表示装置に使用されている。
【0003】
反射防止フィルムは塗布により形成する方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、耐擦傷性防眩フィルムにおいて、耐擦傷性を確保する手法として、支持体上に塗布された塗膜を指触乾燥又はハーフキュアして半硬化状態にし、該半硬化塗膜の上にさらに塗膜を積層した後に2層の塗膜を同時に硬化させるフィルムが提案されている。
【0005】
当該技術により耐擦傷性は、良化するものの未だ十分でなく、かつ指触乾燥又はハーフキュア状態の塗膜は膜硬度が柔らかく、ハンドリング中に傷が付きやすい。また、多層膜を形成するには、塗布工程を複数回行う必要があり、生産性が低下することがある。
【0006】
ここで、特許文献2には、支持体に対して塗布を行う速度である塗布速度Ucm/secと前記塗布液の粘度μPと該塗布液の表面張力σdyne/cmとによって定義される無次元数のキャピラリ数CaがCa=μ・U/σ≦0.3を満たすようにすることで、高速で安定した薄膜塗布が可能となることが開示されている。
【0007】
また、特許文献3には、塗布により形成される塗膜が少なくとも2層の多層同時塗布において、ウエブの走行方向における最上流側の先端リップ以外の少なくともひとつの先端リップの平坦部のウエブ走行方向における長さを30μm以上100μm以下とすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3314965号公報
【特許文献2】特開平8−168719号公報
【特許文献3】特開2003−260400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のように重層で塗布し積層を設けても、界面の乱れによる塗布ムラが発生する。界面の乱れによる塗布ムラとしては、分類すると、界面での塗布液の混合に起因する白化やスジムラや段ムラがある。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、連続的に走行する支持体にそれぞれ1つ以上のモノマーもしくはポリマーを含んだ塗布液を塗布して積層を設ける積層フィルムの塗布方法において、界面の乱れによる塗布ムラを抑えることができる積層フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、前記目的を達成するために、少なくとも2個の単層エクストルージョン型ダイによって連続的に走行する支持体にそれぞれ1つ以上のモノマーもしくはポリマーを含んだ塗布液を塗布して積層を設ける積層フィルムの塗布方法において、前記それぞれの塗布液は、前記積層の隣り合う層の溶質との溶解度パラメータの差が0.1以上であり、前記隣り合う層の下流側から吐出される塗布液の粘度が上流側から吐出される塗布液の粘度よりも低く、前記それぞれの塗布液のキャピラリ数CaがCa<1.7であり、前記隣り合う層の上流側の塗布液の表面張力σ1と下流側の塗布液の表面張力σ2との表面張力差|σ2−σ1|が、|σ2−σ1|>0.5(mN/m)であり、上層の塗布液の塗布厚みh1(μm)と、該上層の支持体表面からの距離L(μm)がh1/L<0.14とし、各隣り合う前記単層エクストルージョン型ダイの吐出口間距離Mを1mm以上700mm以下にして塗布することを特徴とする積層フィルムの塗布方法を提供する。
【0012】
本発明では、連続的に走行する支持体にそれぞれ1つ以上のモノマーもしくはポリマーを含んだ塗布液を塗布して積層を設けるにあたり、同時重層するダイではなく、単層エクストルージョン型ダイでそれぞれの塗布液を塗布することとした(A)。そして、それぞれの塗布液を塗布する単層エクストルージョン型ダイの間隔は、各隣り合う単層エクストルージョン型ダイの吐出口間距離Mを1mm以上700mm以下にするようにした(B)。
【0013】
さらに、それぞれの塗布液は、(C)積層の隣り合う層の溶質との溶解度パラメータの差が0.1以上であり、(D)隣り合う層の下流側から吐出される塗布液の粘度が上流側から吐出される塗布液の粘度よりも低く、(E)それぞれの塗布液のキャピラリ数CaがCa<1.7であり、(F)隣り合う層の上流側の塗布液の表面張力σ1と下流側の塗布液の表面張力σ2との表面張力差|σ2−σ1|が、|σ2−σ1|>0.5(mN/m)であり、(G)上層の塗布液の塗布厚みh1(μm)と該上層の支持体表面からの距離L(μm)がh1/L<0.14となるようにする。
【0014】
本発明によれば、これらの条件を全て満たして積層を塗布することで、積層の界面の乱れによる塗布ムラを抑えることができる。
【0015】
ここで、本発明では、(F)の表面張力差|σ2−σ1|が、0.5(mN/m)<|σ2−σ1|<15 (mN/m)を満たすことがより好ましい。また、(B)の吐出口間距離Mが、2mm以上500mm以下を満たすことがより好ましい。
【0016】
本発明の積層フィルムの製造方法で製造された積層フィルムは、塗布ムラのない積層を得ることができるので、特に、光学フィルム又は反射防止フィルムに好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、連続的に走行する支持体にそれぞれ1つ以上のモノマーもしくはポリマーを含んだ塗布液を塗布して積層を設ける積層フィルムの塗布方法において、界面の乱れによる塗布ムラを抑えることができる積層フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る積層フィルムを模式的に示す概略断面図
【図2】本発明に係る積層フィルムの製造方法を示す説明図
【図3】実施例の結果を示す表図
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の積層フィルムの製造方法の好ましい実施の形態について説明する。
【0020】
本発明に係る積層フィルムについては、公知の層構成を使用することができる。たとえば、代表的な例としては以下のようなものがある。
【0021】
a.支持体/ハードコート層/低屈折率層(図1(a))
b.支持体/ハードコート層/高屈折率層/低屈折率層(図1(b))
c.支持体/ハードコート層/中屈折率層/高屈折率層/低屈折率層(図1(c))
本発明に係る積層フィルム10は、図1(a)のように、支持体W上にハードコート層12を塗布した上に、低屈折率層14を積層すると、反射防止フィルムとして好適に用いることができる。低屈折率層14はハードコート層12の上に低屈折率層14を光の波長の1/4前後の膜厚で形成することにより、薄膜干渉の原理により表面反射を低減することができる。
【0022】
また、図1(b)のように支持体W上にハードコート層12を塗布した上に、高屈折率層14、低屈折率層16を積層しても反射防止フィルムとして好適に用いることができる。
【0023】
さらに、図1(c)のように支持体W、ハードコート層12、中屈折率層14、高屈折率層16、そして低屈折率層18の順序の層構成を設置することにより、反射率を1%以下とすることができる。
【0024】
図2は、本発明における塗布方法を適用する単層エクストルージョン型ダイの塗布装置の一例を示す全体構成図であり、2個の単層エクストルージョン型ダイでウエブ(支持体)Wに2種類の塗布液を多層塗布する例である。
【0025】
図2に示すように、積層フィルムの塗布装置20は、主として、連続走行するウエブWと、ウエブWに塗布液を塗布する2個の単層エクストルージョン型ダイ22,32とで構成される。
【0026】
図1(a)の積層フィルムを製造する場合について説明する。単層エクストルージョン型ダイ22,32には、その内部にウエブWの幅方向に平行なポケット部24、34が形成され、各ポケット部24,34と2種類の塗布液を貯留する各塗布液タンクとが定量送液ポンプを介して配管により接続される(不図示)。これにより、各塗布液タンクから塗布液12,14がそれぞれのポケット部24,34に供給されて塗布幅に対応する幅に拡流される。各ポケット部24,34で拡流された2つの塗布液12,14は、それぞれスリット26,36を介して、それぞれの吐出口28、38から吐出され、ウエブWに塗布される。
【0027】
なお、例えば、図1(c)の積層フィルムを製造する場合には、2つの塗布液12,14は、中屈折率層14及び高屈折率層16の塗布液14,16であっても良いし、高屈折率層16及び低屈折率層18の塗布液16,18であっても良い。
【0028】
すなわち、ウエブ走行方向の上流側の単層エクストルージョン型ダイ22からは下層液(下層となる塗布液)が吐出され、下流側の単層エクストルージョン型ダイ32からは上層液(上層となる塗布液)が吐出され、ウエブ12の面に上層と下層の2層から成る積層を形成する。
【0029】
そして、本発明では、それぞれの塗布液を塗布する単層エクストルージョン型ダイの間隔は、各隣り合う単層エクストルージョン型ダイの吐出口間距離Mを1mm以上700mm以下になるようにする。吐出口間距離Mは、2mm以上500mm以下を満たすことがより好ましい。
【0030】
さらに、本発明では、それぞれの塗布液は、積層の隣り合う層の溶質との溶解度パラメータの差が0.1以上のものを選択する。
【0031】
そして、隣り合う層の下流側から吐出される塗布液の粘度が上流側から吐出される塗布液の粘度よりも低いものを選択する。
【0032】
また、次式(1)で計算されるそれぞれの塗布液のキャピラリ数CaがCa<1.7を満足するように調整して塗布するように構成したものである。
【0033】
Ca=μ・U/σ ・・・(1)
ここで、μ:塗布液の平均ハイシェア粘度[Pa・秒]、U:ウエブの走行速度[m/秒]、σ:多層塗布された層のうちの最上層塗布液の表面張力[N/m]である。
【0034】
さらに、隣り合う層の上流側の塗布液の表面張力σ1と下流側の塗布液の表面張力σ2との表面張力差|σ2−σ1|を、|σ2−σ1|>0.5(mN/m)となるよう塗布液を選択する。表面張力差|σ2−σ1|が、0.5(mN/m)<|σ2−σ1|<15 (mN/m)を満たすことがより好ましい。
【0035】
上層の塗布液の塗布厚みh1(μm)と該上層の支持体表面からの距離L(μm)がh1/L<0.14となるように塗布する。
【0036】
これらの条件を満たして図2の塗布装置20で積層フィルムを製造することで、同時重層するときに発現しやすい積層の界面の乱れによる塗布ムラを抑えることができる。したがって、本発明の積層フィルムの製造方法で製造された積層フィルムは、塗布ムラのない積層を得ることができる。
【0037】
以下、本発明に係る光学フィルム又は反射防止フィルムについて説明する。なお、本発明の積層フィルムは以下の方法で形成することができるが、この方法に制限されない。
【0038】
(1)塗布液の調整
<処方>
一例を挙げて説明する。
【0039】
(上層(低屈折率層))
平均粒子径20nmの中空シリカ粒子の表面を、3,3,3-トリフロロプロピルメチルジクロロシランによって処理して粒子の表面を疎水化した。また、下記組成物を82質量部のメチルエチルケトンに溶解して塗布液を調製した。この系の臨界固形分濃度は71%である。
・アクリル樹脂 15質量部
・疎水性の粒子 0.2質量部
上記を3.5〜5cc/m2 で塗布した。
【0040】
(下層(防眩層))
[合成例1]{オルガノシラン化合物(OS)溶液の調製}
攪拌機、還流冷却器を備えた反応器に、メチルエチルケトン120質量部、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン“KBM−5103”{信越化学工業(株)製}100質量部、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート3質量部を加えて混合したのち、イオン交換水30質量部を加え、60℃で4時間反応させた。室温まで冷却し、オルガノシラン化合物(OS)の溶液を得た。質量平均分子量は1600であり、オリゴマー成分以上の成分のうち、分子量が1000〜20000の成分は100%であった。また、ガスクロマトグラフィーによって分析したところ、原料の3−アクリロキシプロピルトリメトキシシランは殆ど残存していなかった。
【0041】
[防眩層塗布組成物(H−1)の調製]
攪拌機を備えた容器に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート変性多官能アクリレートモノマー「カヤラッドDPCA−120」{日本化薬(株)製}31.0質量部を充填し、これに重合開始剤「イルガキュア184」{チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製}1.5質量部、下記フッ素系面状改良剤(F−12)0.04質量部、オルガノシラン化合物“KBM−5103”{信越化学工業(株)製}6.2質量部、メチルイソブチルケトン 31.0質量部を添加して撹拌した。この溶液を塗布したのち、紫外線硬化して得られた塗膜の屈折率は1.52であった。
フッ素系面状改良剤(F−12):
【0042】
【化1】

さらにこの混合液に、平均粒径3.5μmの架橋ポリ(アクリル−スチレン)粒子(共重合組成比=50/50、屈折率1.540)をポリトロン分散機にて10000rpmで20分間分散して30質量%シクロヘキサノン分散液としたもの10.0質量部を添加して撹拌した。孔径30μmのポリプロピレン製フィルターで濾過して防眩層塗布組成物(H−1)を調製した。
【0043】
上記を14〜30cc/m2 で塗布した。
【0044】
<調製>
まず、各層を形成するための成分を含有した塗布液が調製される。その際、溶剤の揮発量を最小限に抑制することにより、塗布液中の含水率の上昇を抑制できる。塗布液中の含水率は5%以下が好ましく、2%以下がより好ましい。溶剤の揮発量の抑制は、各素材をタンクに投入後の攪拌時の密閉性を向上すること、移液作業時の塗布液の空気接触面積を最小化すること等で達成される。また、塗布中、或いはその前後に塗布液中の含水率を低減する手段を設けてもよい。
【0045】
<濾過>
塗布に用いる塗布液は、塗布前に濾過することが好ましい。濾過のフィルタは、塗布液中の成分が除去されない範囲でできるだけ孔径の小さいものを使うことが好ましい。濾過には絶対濾過精度が0.1〜50μmのフィルタが用いられ、さらには絶対濾過精度が0.1〜40μmであるフィルタを用いることが好ましく用いられる。フィルタの厚さは、0.1〜10mmが好ましく、更には0.2〜2mmが好ましい。その場合、濾過圧力は1.5MPa以下、より好ましくは1.0MPa以下、更には0.2MPa以下で濾過することが好ましい。
【0046】
濾過フィルタ部材は、塗布液に影響を及ぼさなければ特に限定されない。具体的には、前記した無機化合物の湿式分散物の濾過部材と同様のものが挙げられる。また、濾過した塗布液を、塗布直前に超音波分散して、脱泡、分散物の分散保持を補助することも好ましい。
【0047】
(2)乾燥
本発明のフィルムは、支持体上に塗布された後、溶剤を乾燥するために加熱されたゾーンにウェブで搬送されることが好ましい。
【0048】
溶剤を乾燥する方法としては、各種の知見を利用することができる。具体的な知見としては特開2001−286817号、同2001−314798号、同2003−126768号、同2003−315505号、同2004−34002号などの各公報が挙げられる。
【0049】
乾燥ゾーンの温度は25℃〜140℃が好ましく、乾燥ゾーンの前半は比較的低温であり、後半は比較的高温であることが好ましい。但し、各層の塗布組成物に含有される溶剤以外の成分の揮発が始まる温度以下であることが好ましい。例えば、紫外線硬化樹脂と併用される市販の光ラジカル発生剤のなかには120℃の温風中で数分以内にその数10%前後が揮発してしまうものもあり、また、単官能、2官能のアクリレートモノマー等は100℃の温風中で揮発が進行するものもある。そのような場合には、前記のように各層の塗布組成物に含有される溶剤以外の成分の揮発が始まる温度以下であることが好ましい。
【0050】
また、各層の塗布組成物を支持体上に塗布した後の乾燥風は、前記塗布組成物の固形分濃度が1〜50%の間は塗膜表面の風速が0.1〜2m/秒の範囲にあることが、乾燥ムラを防止するために好ましい。
【0051】
また、各層の塗布組成物を支持体上に塗布した後、乾燥ゾーン内で支持体の塗布面とは反対の面に接触する搬送ロールと支持体との温度差が0℃〜20℃以内とすると、搬送ロール上での伝熱ムラによる乾燥ムラが防止でき、好ましい。
【0052】
(3)硬化
本発明のフィルムは溶剤の乾燥の後に、ウエブで電離放射線および/または熱により各塗膜を硬化させるゾーンを通過させ、塗膜を硬化することができる。
【0053】
本発明における電離放射線種は特に制限されるものではなく、皮膜を形成する硬化性組成物の種類に応じて、紫外線、電子線、近紫外線、可視光、近赤外線、赤外線、X線などから適宜選択することができるが、紫外線、電子線が好ましく、特に取り扱いが簡便で高エネルギーが容易に得られるという点で紫外線が好ましい。
【0054】
紫外線反応性化合物を光重合させる紫外線の光源としては、紫外線を発生する光源であれば何れも使用できる。例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を用いることができる。また、ArFエキシマレーザ、KrFエキシマレーザ、エキシマランプまたはシンクロトロン放射光等も用いることができる。このうち、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク、キセノンアーク、メタルハライドランプを好ましく利用できる。
【0055】
また、電子線も同様に使用できる。電子線としては、コックロフトワルトン型、バンデグラフ型、共振変圧型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器から放出される50〜1000keV、好ましくは100〜300keVのエネルギーを有する電子線を挙げることができる。
【0056】
照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、照射光量は10mJ/cm以上が好ましく、更に好ましくは、50mJ/cm〜10000mJ/cmであり、特に好ましくは、50mJ/cm〜2000mJ/cmである。その際、ウェブの幅方向の照射量分布は中央の最大照射量に対して両端まで含めて50〜100%の分布が好ましく、80〜100%の分布がより好ましい。
【0057】
酸素濃度は6体積%以下の雰囲気で電離放射線硬化性化合物の架橋反応、又は、重合反応により形成することが好ましく、更に好ましくは酸素濃度が4体積%以下、特に好ましくは酸素濃度が2体積%以下、最も好ましくは1体積%以下である。必要以上に酸素濃度を低減するためには、窒素などの不活性ガスの多量の使用量が必要であり、製造コストの観点から好ましくない。
【0058】
硬化の際、フィルム面が60℃以上170℃以下で加熱されることが好ましい。更にこの好ましい温度は60℃〜100℃である。フィルム面とは硬化しようとする層の膜面温度を指す。またフィルムが前記温度になる時間は、UV照射開始から0.1秒以上、300秒以下が好ましく、更に10秒以下が好ましい。
【0059】
加熱する方法に特に限定はないが、ロールを加熱してフィルムに接触させる方法、加熱した窒素を吹き付ける方法、遠赤外線あるいは赤外線の照射などが好ましい。特許2523574号に記載の回転金属ロールに温水や蒸気・オイルなどの媒体を流して加熱する方法も利用できる。加熱の手段としては誘電加熱ロールなどを使用しても良い。
【0060】
(4)ハンドリング
本発明のフィルムを連続的に製造するために、ロール状の支持体フィルムを連続的に送り出す工程、塗布液を塗布・乾燥する工程、塗膜を硬化する工程、硬化した層を有する支持体フィルムを巻き取る工程が行われる。
【0061】
ロール状のフィルム支持体からフィルム支持体がクリーン室に連続的に送り出され、クリーン室内で、フィルム支持体に帯電している静電気を静電除電装置により除電し、引き続きフィルム支持体上に付着している異物を、除塵装置により除去する。引き続きクリーン室内に設置されている塗布部で塗布液がフィルム支持体上に塗布され、塗布されたフィルム支持体は乾燥室に送られて乾燥される。
【0062】
乾燥した塗布層を有するフィルム支持体は乾燥室から硬化室へ送り出され、塗布層に含有されるモノマーが重合して硬化する。さらに、硬化した層を有するフィルム支持体は硬化部へ送られ硬化を完結させ、硬化が完結した層を有するフィルム支持体は巻き取られてロール状となる。
【0063】
本発明のフィルムを作成するためには、前記したように塗布液の精密濾過操作と同時に、塗布部における塗布工程および乾燥室で行われる乾燥工程が高い清浄度の空気雰囲気下で行われ、かつ塗布が行われる前に、フィルム上のゴミ、ほこりが充分に除かれていることが好ましい。塗布工程および乾燥工程の空気清浄度は、米国連邦規格209Eにおける空気清浄度の規格に基づき、クラス10(0.5μm以上の粒子が353個/(立方メートル)以下)以上であることが望ましく、更に好ましくはクラス1(0.5μm以上の粒子が35.5個/(立方メートル)以下)以上であることが望ましい。また、空気清浄度は、塗布−乾燥工程以外の送り出し、巻き取り部等においても高いことがより好ましい。
【0064】
(5)鹸化処理
本発明のフィルムを2枚の偏光膜の表面保護フィルムの内の一方として用いて偏光板を作成する際には、偏光膜と貼り合わせる側の表面を親水化することで、接着面における接着性を改良することが好ましい。
【0065】
a.アルカリ液に浸漬する法
アルカリ液の中にフィルムを適切な条件で浸漬して、フィルム全表面のアルカリと反応性を有する全ての面を鹸化処理する手法であり、特別な設備を必要としないため、コストの観点で好ましい。アルカリ液は、水酸化ナトリウム水溶液であることが好ましい。好ましい濃度は0.5〜3mol/Lであり、特に好ましくは1〜2mol/Lである。好ましいアルカリ液の液温は30〜75℃、特に好ましくは40〜60℃である。
【0066】
前記の鹸化条件の組合せは比較的穏和な条件同士の組合せであることが好ましいが、フィルムの素材や構成、目標とする接触角によって設定することができる。
【0067】
アルカリ液に浸漬した後は、フィルムの中にアルカリ成分が残留しないように、水で十分に水洗したり、希薄な酸に浸漬してアルカリ成分を中和することが好ましい。
【0068】
鹸化処理することにより、塗布層を有する表面と反対の表面が親水化される。偏光板用保護フィルムは、透明支持体の親水化された表面を偏光膜と接着させて使用する。
親水化された表面は、ポリビニルアルコールを主成分とする接着層との接着性を改良するのに有効である。
【0069】
鹸化処理は、塗布層を有する側とは反対側の透明支持体の表面の水に対する接触角が低いほど、偏光膜との接着性の観点では好ましいが、一方、浸漬法では同時に塗布層を有する表面から内部までアルカリによるダメージを受ける為、必要最小限の反応条件とすることが重要となる。アルカリによる各層の受けるダメージの指標として、反対側の表面の透明支持体の水に対する接触角を用いた場合、特に透明支持体がトリアセチルセルロースであれば、好ましくは10度〜50度、より好ましくは30度〜50度、さらに好ましくは40度〜50度となる。50度以上では、偏光膜との接着性に問題が生じる為、好ましくない。一方、10度未満では、フィルムが受けるダメージが大きすぎる為、物理強度を損ない、好ましくない。
【0070】
b.アルカリ液を塗布する方法
上述の浸漬法における各膜へのダメージを回避する手段として、適切な条件でアルカリ液を塗布層を有する表面と反対側の表面のみに塗布、加熱、水洗、乾燥するアルカリ液塗布法が好ましく用いられる。なお、この場合の塗布とは、鹸化を行う面に対してのみアルカリ液などを接触させることを意味し、塗布以外にも噴霧、液を含んだベルト等に接触させる、などによって行われることも含む。これらの方法を採ることにより、別途、アルカリ液を塗布する設備、工程が必要となるため、コストの観点では(a)の浸漬法に劣る。一方で、鹸化処理を施す面にのみアルカリ液が接触するため、反対側の面にはアルカリ液に弱い素材を用いた層を有することができる。例えば、蒸着膜やゾル−ゲル膜では、アルカリ液によって、腐食、溶解、剥離など様々な影響が起こるため、浸漬法では設けることが望ましくないが、この塗布法では液と接触しないため問題なく使用することが可能である。
【0071】
前記(a)、(b)のどちらの鹸化方法においても、ロール状の支持体から巻き出して各層を形成後に行うことができるため、フィルム製造工程の後に加えて一連の操作で行っても良い。さらに、同様に巻き出した支持体からなる偏光板との張り合わせ工程もあわせて連続で行うことにより、枚葉で同様の操作をするよりもより効率良く偏光板を作成することができる。
【0072】
c.ラミネートフィルムで保護して鹸化する方法
前記(b)と同様に、塗布層がアルカリ液に対する耐性が不足している場合に、最終層まで形成した後に該最終層を形成した面にラミネートフィルムを貼り合せてからアルカリ液に浸漬することで最終層を形成した面とは反対側のトリアセチルセルロース面だけを親水化し、然る後にラミネートフィルムを剥離することができる。この方法でも、塗布層へのダメージなしに偏光板保護フィルムとして必要なだけの親水化処理をトリアセチルセルロースフィルムの最終層を形成した面とは反対の面だけに施すことができる。前記(b)の方法と比較して、ラミネートフィルムが廃棄物として発生する半面、特別なアルカリ液を塗布する装置が不要である利点がある。
【0073】
d.中途層まで形成後にアルカリ液に浸漬する方法
下層層まではアルカリ液に対する耐性があるが、上層のアルカリ液に対する耐性不足である場合には、下層まで形成後にアルカリ液に浸漬して両面を親水化処理し、然る後に上層を形成することもできる。製造工程が煩雑になるが、たとえば防眩層とフッ素含有ゾルーゲル膜の低屈折率層とからなるフィルムにおいて、親水基を有する場合には防眩層と低屈折率層との層間密着性が向上する利点がある。
【0074】
e.予め鹸化済のトリアセチルセルロースフィルムに塗布層層を形成する方法
トリアセチルセルロースフィルムを予めアルカリ液に浸漬するなどして鹸化し、何れか一方の面に直接または他の層を介して塗布層を形成してもよい。アルカリ液に浸漬して鹸化する場合には、鹸化により親水化されたトリアセチルセルロース面との層間密着性が悪化することがある。そのような場合には、鹸化後、塗布層を形成する面だけにコロナ放電、グロー放電等の処理をすることで親水化面を除去してから塗布層を形成することで対処できる。また、塗布層が親水性基を有する場合には層間密着が良好なこともある。
【0075】
(6)偏光板の作製
本発明のフィルムは、偏光膜およびその片側ないし両側に配置された保護フィルムとして使用し、偏光板を作製することができる。
【0076】
一方の保護フィルムとして、本発明のフィルムを用いる、他方の保護フィルムは、通常のセルロースアセテートフィルムを用いてもよいが、上述の溶液製膜法で製造され、且つ10〜100%の延伸倍率でロールフィルム形態における巾方向に延伸したセルロースアセテートフィルムを用いることが好ましい。
【0077】
更には、本発明の偏光板において、片面が反射防止フィルムであるのに対して他方の保護フィルムが液晶性化合物からなる光学異方性層を有する光学補償フィルムであることが好ましい。
【0078】
偏光膜には、ヨウ素系偏光膜、二色性染料を用いる染料系偏光膜やポリエン系偏光膜がある。ヨウ素系偏光膜および染料系偏光膜は、一般にポリビニルアルコール系フィルムを用いて製造する。
【0079】
反射防止フィルムの透明支持体やセルロースアセテートフィルムの遅相軸と偏光膜の透過軸とは、実質的に平行になるように配置する。
【0080】
(7)本発明の使用形態
本発明の積層フィルムは、液晶表示装置(LCD)、プラズマディスプレイパネル(PDP)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)や陰極管表示装置(CRT)のような画像表示装置に用いられる。本発明に従う光学フィルムは、プラズマディスプレイパネル(PDP)または陰極管表示装置(CRT)など公知のディスプレイ上に用いることができる。
【0081】
(8)支持体
本発明のフィルムの支持体(ウエブ)としては、透明樹脂フィルム、透明樹脂板、透明樹脂シートや透明ガラスなど、特に限定は無い。透明樹脂フィルムとしては、セルロースアシレートフィルム(例えば、セルローストリアセテートフィルム(屈折率1.48)、セルロースジアセテートフィルム、セルロースアセテートブチレートフィルム、セルロースアセテートプロピオネートフィルム)、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、ポリアクリル系樹脂フィルム、ポリウレタン系樹脂フィルム、ポリエステルフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリスルホンフィルム、ポリエーテルフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリエーテルケトンフィルム、(メタ)アクリルニトリルフィルム等が使用できる。
【0082】
支持体の厚さは通常25μm〜1000μm程度のものを用いることができるが、好ましくは25μm〜250μmであり、30μm〜90μmであることがより好ましい。
【0083】
支持体の巾は任意のものを使うことができるが、ハンドリング、得率、生産性の点から通常は100〜5000mmのものが用いられ、800〜3000mmであることが好ましく、1000〜2000mmであることがさらに好ましい。
【0084】
支持体の表面は平滑であることが好ましく、平均粗さRaの値が1μm以下であることが好ましく、0.0001〜0.5μmであることが好ましく、0.001〜0.1μmであることがさらに好ましい。
【0085】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0086】
以下に示す塗布液を調整し、厚さ80μmのトリアセチルセルロース(フジタック、富士フイルム(株)製)上に、図2に示した積層フィルムの塗布装置20を用いて塗布を行った。但し、比較例1では、同時重層の塗布装置を用いて塗布を行った。
【0087】
そして、上層と下層は、図3の表に示す物性の塗布液を用いた。
【0088】
即ち、実施例1では、図3の表に示すように、上層と下層の溶質の溶解度パラメータの差が0.15であり、上流側から吐出される塗布液の粘度(上層)が下流側から吐出される塗布液(下層)の粘度の1.2倍であり、上層と下層の塗布液のキャピラリ数Caがそれぞれ1.3、1.5であり、上層と下層の表面張力差が0.6(mN/m)である塗布液を用いた。また、実施例1では、塗布条件を、上層の塗布液の塗布厚みとウエブ表面からの距離の比を0.13、各隣り合うダイの吐出口間距離を10(mm)とした。
【0089】
同様に、実施例2〜12、及び比較例1〜16において、塗布液と塗布条件を図3の表に示したようにし、実験を行った。
【0090】
実施例1〜12、比較例1〜16で製造された積層フィルムの白化状態、スジムラ、段ムラの発現状況を調べた。総合評価として、白化、スジムラ、段ムラの全てが発現しなかったものを○とした。結果を図3の表に示す。
【0091】
図3の表から分かるように、本発明の条件を全て満たした実施例1〜12は、白化やスジムラや段ムラ、すなわち塗布ムラの発現は認められなかった。
【0092】
したがって、本発明によれば、連続的に走行する支持体にそれぞれ1つ以上のモノマーもしくはポリマーを含んだ塗布液を塗布して積層を設ける積層フィルムの塗布方法において、界面の乱れによる塗布ムラを抑えることができる積層フィルムの製造方法を提供することができることが分かる。
【符号の説明】
【0093】
10…積層フィルム、12,14,16,18…塗布液(層)、20…塗布装置、22…単層エクストルージョン型ダイ(上流側)、28…吐出口、32…単層エクストルージョン型ダイ(下流側)、38…吐出口、W…ウエブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2個の単層エクストルージョン型ダイによって連続的に走行する支持体にそれぞれ1つ以上のモノマーもしくはポリマーを含んだ塗布液を塗布して積層を設ける積層フィルムの塗布方法において、
前記それぞれの塗布液は、前記積層の隣り合う層の溶質との溶解度パラメータの差が0.1以上であり、
前記隣り合う層の下流側から吐出される塗布液の粘度が上流側から吐出される塗布液の粘度よりも低く、
前記それぞれの塗布液のキャピラリ数CaがCa<1.7であり、
前記隣り合う層の上流側の塗布液の表面張力σ1と下流側の塗布液の表面張力σ2との表面張力差|σ2−σ1|が、|σ2−σ1|>0.5(mN/m)であり、
上層の塗布液の塗布厚みh1(μm)と、該上層の支持体表面からの距離L(μm)がh1/L<0.14とし、
各隣り合う前記単層エクストルージョン型ダイの吐出口間距離Mを1mm以上700mm以下にして塗布することを特徴とする積層フィルムの塗布方法。
【請求項2】
前記表面張力差|σ2−σ1|が0.5(mN/m)<|σ2−σ1|<15 (mN/m)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の積層フィルムの塗布方法。
【請求項3】
前記吐出口間距離Mを2mm以上500mm以下にすることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層フィルムの塗布方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1に記載の積層フィルムは光学フィルム又は反射防止フィルムであることを特徴とする積層フィルムの塗布方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−173093(P2011−173093A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−40635(P2010−40635)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】