説明

積層体、偏光板および液晶表示装置

【課題】湿熱耐久性が改良され、液晶表示装置に組み込んだ際にコントラスト低減を抑えることができる積層体の提供。
【解決手段】粘着剤層とセルロースアシレートフィルムとを積層した積層体であって、前記セルロースアシレートフィルムが総アシル置換度2.1〜2.85のセルロースアシレートと、グリコールユニットの平均炭素数が2.3〜3.0であるポリエステルポリオールを含む積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿熱耐久性を改良した積層体に関し、該積層体を用いた偏光板および液晶表示装置にも関する。詳しくは、湿熱耐久性を改良した、粘着剤層とセルロースアシレートフィルムとを含む積層体に関し、該積層体を用いた偏光板および液晶表示装置にも関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置として、光学補償フィルムを用いた楕円偏光板を組み込んだ液晶表示装置が知られている。このような光学用途のフィルムの中でも、総アシル置換度が低いセルロースアシレート系のフィルムは光学特性が良好であるため用いられてきている。このような総アシル置換度が低いセルロースアシレート系のフィルムを液晶表示装置用の偏光板保護フィルム等として用いるためには、所望の光学特性を発現させるために各種添加剤を加えることが一般的であった。例えば光漏れ、気泡発生および位置ずれを解消するために、偏光板保護フィルムとしてのセルロースエステルフィルムにグリコールエステル系の可塑剤を加えてもよいことが記載されている(特許文献1参照)。ここで、一般に偏光板保護フィルムとしてのセルロースエステルフィルム中にポリエステルポリオール類を添加することでRth制御剤としての効果を発現することから、ポリエステルポリオール類は添加剤として液晶表示装置用の偏光板保護フィルムに添加されることが多い。
【0003】
しかしながら、添加剤を加えたフィルムを用いた液晶表示装置は、湿熱環境下において長時間使用した場合に添加剤の析出(以下、泣き出し、またはブリードアウトとも言う)が発生しており、問題となっていた。そこで、環境変動やバックライトの熱によるコントラストの変動、カラーシフトおよび光漏れを低減させるために、セルロースエステルフィルムに特定の構造のグリコールエステル系の可塑剤を加えた位相差フィルムが開示されている(特許文献2参照)。また、さらに光学性能の湿度安定性を改善することのみに着目し、特定の構造のポリエステルポリオール系の可塑剤を加えることで、セルロースエステルフィルムからの添加剤のブリードアウトを低減させることが開示されている(特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、これらの光学補償フィルムを用いた液晶表示装置であっても、未だ湿熱耐久試験下におけるコントラスト低減の問題は満足いくレベルではなく、光学補償フィルムのさらなる湿熱耐久性の改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−3767号公報
【特許文献2】特開2007−086254号公報
【特許文献3】特開2006−64803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、これまで特許文献2および3等において湿熱条件下での光学補償フィルムのコントラスト低減の改良については議論されてきたが、液晶表示装置のコントラスト低減の原因を細分化して検討することは検討されていなかった。すなわち、従来は液晶表示装置の視野角特性を改善できる光学補償フィルムの開発方向として、フィルム単体からの添加剤のブリードアウトのみをより小さくしてゼロへ近づける方向でなされていたのが実情である。
【0007】
本発明者らは、液晶表示装置の湿熱環境下でのコントラスト低減問題のさらなる改善を求め、コントラスト低減の原因をより細分化して検討した。その結果、粘着剤層を介してガラス等の支持体、偏光板および透明電極等に貼り付けた際に、湿熱環境下では添加剤が粘着剤層へも移行し、粘着剤層内で結晶構造体が析出していることを見出すに至った。また、驚くべき事に、セルロースアシレートフィルム単体での湿熱耐久試験ではブリードアウトを発生しないような適当な相溶性を有する添加剤を用いたときも、粘着剤と貼り合わせた状態で湿熱耐久性試験を行うと粘着剤層中に添加剤が結晶構造を形成していることを見出すに至った。そこで、液晶表示装置に組み込んだ際、セルロースアシレートフィルム中においても粘着剤層中においても結晶構造体が析出せず、湿熱耐久性が改善されたフィルムを得ることを本発明の目的とした。
【0008】
すなわち、本発明の目的は、湿熱耐久性が改良され、液晶表示装置に組み込んだ際にコントラスト低減を抑えることができる積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべくフィルム単体でブリードアウトしないという条件に加え、粘着材層と貼り合わせた状態でもブリードアウトしないような条件を満たす添加剤を鋭意検討した結果、グリコールの炭素数の範囲を特定の範囲に制御することで、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、以下の構成によって上記課題が達成されることを見出した。
【0010】
[1] 粘着剤層とセルロースアシレートフィルムとを積層した積層体であって、前記セルロースアシレートフィルムが総アシル置換度2.1〜2.85のセルロースアシレートと、グリコールユニットの平均炭素数が2.3〜3.0であるポリエステルポリオールを含む積層体。
[2] 前記セルロースアシレートが総アシル置換度2.3〜2.6のセルロースアセテートであることを特徴とする[1]に記載の積層体。
[2−1] 前記ポリエステルポリオールの下記式(1)で表される両末端ヒドロキシル基封止率が70%以下であることを特徴とする[1]または[2]に記載の積層体。
式(1):
両末端ヒドロキシル基封止率(%)=100×(ポリエステルポリオールの両末端に存在する封止ヒドロキシル基の総数)/{(ポリエステルポリオールの両末端に存在する未封止ヒドロキシル基の総数)+(ポリエステルポリオールの両末端に存在する封止ヒドロキシル基の総数)}
[3] 前記セルロースアシレートの溶解度パラメータと前記ポリエステルポリオールの溶解度パラメータの差が下記式(2)を満たすことを特徴とする[1]、[2]および[2−1]のいずれか一項に記載の積層体。
式(2):
|SP値(PP)−SP値(CA)|≦1.5MPa1/2
(式(2)中、SP値(PP)はHoy法で測定した前記ポリエステルポリオールの溶解度パラメータを表し、SP値(CA)はHoy法で測定した前記セルロースアシレートの溶解度パラメータを表す。)
[4] 前記ポリエステルポリオールのジカルボン酸ユニットの平均炭素数が5.6以上であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一項に記載の積層体。
[5] 前記ポリエステルポリオールがエチレングリコールユニットおよびポリエチレングリコールユニットを含むことを特徴とする[1]〜[4]のいずれか一項に記載の積層体。
[6] 前記ポリエステルポリオールの80μm厚のヘイズが5%以下であることを特徴とする[1]〜[5]のいずれか一項に記載の積層体。
[7] 前記セルロースアシレートの溶解度パラメータと、前記粘着剤層に含まれる主成分物質の溶解度パラメータの差が、下記式(3)を満たすことを特徴とする[1]〜[6]のいずれか一項に記載の積層体。
式(3)
|SP値(粘着剤主成分)−SP値(PP)|≦2.0MPa1/2
(式(3)中、SP値(粘着剤主成分)はHoy法で測定した前記粘着剤層に含まれる主成分物質の溶解度パラメータを表し、SP値(PP)はHoy法で測定した前記ポリエステルポリオールの溶解度パラメータを表す。)
[8] ガラス上に前記粘着剤層が接するように[1]〜[7]のいずれか一項に記載の積層体を積層し、60℃、相対湿度90%で1000時間経過させたときに、偏光顕微鏡観察において針状の結晶構造または粒状(なお、本明細書中において、観察された泣き出しが「粒状の構造」というのは、結晶構造形成の有無にかかわらず、偏光顕微鏡観察にて観察された状態のことを示す。したがって、球晶状の結晶が生じた場合は、泣き出し「粒状」となる。一方、球晶上の結晶ができずに、油状(非晶性)の粒状の泣き出しが観察された場合も、泣き出し「粒状」に当てはまる)の構造が前記粘着剤層と前記セルロースアシレートフィルムとの界面にも前記粘着剤層と該ガラスとの界面にも見えず、かつヘイズが5%以下であることを特徴とする積層体。
[9] [1]〜[8]のいずれか一項に記載の積層体を少なくとも一枚有することを特徴とする偏光板。
[10] 60℃、相対湿度90%で1000時間経過させた前後のコントラスト低減率が10%以下であることを特徴とする[9]に記載の偏光板。
[11] [1]〜[8]のいずれか一項に記載の積層体、または、[9]もしくは[10]に記載の偏光板を、少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、湿熱耐久性が改良された本発明のセルロースアシレートフィルムを得ることができる。本発明の積層体によれば、湿熱環境下においても粘着剤層に結晶構造体が析出しない偏光板を得ることができる。そのため、本発明の積層体を用いると、該積層体を組み込んだ液晶表示装置のコントラスト低減を顕著に抑えることができる。このような積層体や、該積層体を用いた偏光板は、特にVA用液晶表示装置に好ましく用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、比較例1において、フィルムと粘着剤層を、60℃、相対湿度90%で1000時間経過させた後のフィルム側から観察した偏光顕微鏡写真であり、(A)はフィルムの粘着剤層とは反対側の表面にピントを合わせた写真であり、(B)は粘着剤層とフィルムの界面にピントを合わせた写真であり、(C)は粘着剤層とガラスの界面にピントを合わせた写真である。
【図2】図2は、実施例1において、フィルムと粘着剤層を、60℃、相対湿度90%で1000時間経過させた後のフィルム側から観察した偏光顕微鏡写真であり、(A’)はフィルムの粘着剤層とは反対側の表面にピントを合わせた写真であり、(B’)は粘着剤層とフィルムの界面にピントを合わせた写真であり、(C’)は粘着剤層とガラスの界面にピントを合わせた写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の積層体やその製造方法、それに用いる添加剤などについて詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。なお、本明細書中、ポリエステルポリオールとは、2価アルコールであるグリコールユニットと、2価カルボン酸であるジカルボン酸ユニットとが交互にエステル結合により重合している化合物を表す。
【0014】
[積層体]
本発明の積層体は、粘着剤層と本発明のセルロースアシレートフィルムとを積層した積層体であって、前記セルロースアシレートフィルムが総アシル置換度2.1〜2.85のセルロースアシレートと、グリコールユニットの平均炭素数が2.3〜3.0であるポリエステルポリオールを含むことを特徴とする。
【0015】
以下、本発明の積層体の好ましい態様を参照しつつ、本発明を具体的に説明する。
【0016】
本発明の積層体は、ガラス上に前記粘着剤層が接するように本発明の積層体を積層し、60℃、相対湿度90%で1000時間経過させたときに、偏光顕微鏡観察において針状の結晶構造または粒状の構造が前記粘着剤層と前記セルロースアシレートフィルムとの界面にも前記粘着剤層と該ガラスとの界面にも見えず、かつヘイズが5%以下であることが好ましい。本発明の積層体の好ましい態様では、このように湿熱環境試験を行った場合に針状または球晶状の結晶構造が見えないため、液晶表示装置に組み込んだ場合に湿熱環境下で長時間放置してもコントラストの低減が抑制される。
また、上記条件におけるヘイズが4%以下であることがより好ましく、3%以下であることが特に好ましい。
さらに、本発明の積層体は、ガラス上に前記粘着剤層が接するように本発明の積層体を積層し、60℃、相対湿度90%で1000時間経過させたときに、偏光顕微鏡観察において針状の結晶構造または粒状の構造が前記粘着剤層と前記セルロースアシレートフィルムとの界面または前記粘着剤層と該ガラスとの界面に見えないことがより好ましく、前記粘着剤層と前記セルロースアシレートフィルムとの界面および前記粘着剤層と該ガラスとの界面見えないことが特に好ましい。
なお、本発明の積層体は、粘着剤層とセルロースアシレートフィルムとを含むが、粘着剤層はセルロースアシレートフィルムの一方の面に積層されていても、両方の面に積層されていても構わない。また、本発明の積層体の製造方法は、特に制限はなく公知の製造方法で製造することができ、例えば固体の粘着剤層を自身の粘着力によりセルロースアシレートフィルムに直接貼り付けてもよく、液体の粘着剤層を塗布した後に硬化させてセルロースアシレートフィルム上に粘着剤層を形成してもよく、これらの具体例に限定されない。
【0017】
(セルロース系樹脂)
前記セルロースアシレートフィルムに用いられるセルロースアシレートは、全アシル基の置換度が2.1〜2.85であれば特に定めるものではない。セルロースアシレートのアシレート原料のセルロースとしては、綿花リンタや木材パルプ(広葉樹パルプ,針葉樹パルプ)などがあり、何れの原料セルロースから得られるセルロースアシレートでも使用でき、場合により混合して使用してもよい。これらの原料セルロースについての詳細な記載は、例えば、丸澤、宇田著、「プラスチック材料講座(17)繊維素系樹脂」日刊工業新聞社(1970年発行)や発明協会公開技報公技番号2001−1745号(7頁〜8頁)に記載のセルロースを用いることができる。
【0018】
(セルロースアシレート)
まず、本発明に好ましく用いられるセルロースアシレートについて詳細に記載する。セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位および6位に位置するセルロースの水酸基がエステル化している割合(各位において100%エステル化している場合は、合計して全アシル置換度3)を意味する。
全アシル置換度、即ち、DS2+DS3+DS6は2.3〜2.6が好ましく、より好ましくは2.35〜2.5であり、特に好ましくは2.35〜2.50である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.08〜0.66が好ましく、より好ましくは0.15〜0.60、さらに好ましくは0.20〜0.45である。ここで、DS2はグルコース単位の2位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「2位のアシル置換度」とも言う)であり、DS3は3位の水酸基のアシル基による置換度(以下、「3位のアシル置換度」とも言う)であり、DS6は6位の水酸基のアシル基による置換度である(以下、「6位のアシル置換度」とも言う)。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は全アシル置換度に対する6位のアシル置換度の割合であり、以下「6位のアシル置換率」とも言う。
【0019】
前記セルロースアシレートのアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が使用されていてもよい。前記セルロースアシレートは、炭素数2〜4のアシル基を置換基として有することが好ましい。2種類以上のアシル基を用いるときは、そのひとつがアセチル基であることが好ましく、炭素数2〜4のアシル基としてはプロピオニル基またはブチリル基が好ましい。2位、3位および6位の水酸基のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位および6位の水酸基のプロピオニル基またはブチリル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は2.3〜2.6であることが好ましい。DSA+DSBの値は2.35〜2.55、かつDSBの値は0.10〜1.70であることがより好ましく、さらに好ましくはDSA+DSBの値は2.40〜2.50、かつDSBの値は0.5〜1.2である。DSAとDSBの値を上記の範囲にすることで環境湿度によるRe値、Rth値の変化の小さいフィルムが得ることができ好ましい。
さらにDSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であるが、より好ましくは30%以上が6位水酸基の置換基であり、31%以上が6位水酸基の置換基であることがさらに好ましく、特には32%以上が6位水酸基の置換基であることも好ましい。これらのフィルムにより溶解性の好ましい溶液が作製でき、特に非塩素系有機溶媒において、良好な溶液の作製が可能となる。さらに粘度が低くろ過性のよい溶液の作成が可能となる。
【0020】
本明細書におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリル基でもよく特に限定されない。それらは、例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどであり、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ヘプタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、イソブタノイル基、tert−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることができる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、tert−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくはプロピオニル基、ブタノイル基である。
【0021】
本明細書におけるセルロースアシレートのアシル基はアセチル基(セルロースアシレートが、セルロースアセテートである場合)であることが好ましい。
【0022】
セルロースのアシル化において、アシル化剤としては、酸無水物や酸クロライドを用いた場合、反応溶媒である有機溶媒としては、有機酸、例えば、酢酸、メチレンクロライド等が使用される。
【0023】
触媒としては、アシル化剤が酸無水物である場合には、硫酸のようなプロトン性触媒が好ましく用いられ、アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3CH2COCl)である場合には、塩基性化合物が用いられる。
【0024】
最も一般的なセルロ−スの混合脂肪酸エステルの工業的合成方法は、セルロ−スをアセチル基および他のアシル基に対応する脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、吉草酸等)またはそれらの酸無水物を含む混合有機酸成分でアシル化する方法である。
【0025】
本発明に用いるセルロースアシレートは、例えば、特開平10−45804号公報に記載されている方法により合成できる。
【0026】
本発明の好ましい態様では、アシル置換度が上記のように低いセルロースアシレートを含むセルロースアシレートフィルムの湿熱耐久性を改善することができ、該アシル置換度が低いセルロースアシレートと粘着剤層とを含む積層体を製造することができる。このようなアシル置換度が低いセルロースアシレートを含むセルロースアシレートフィルムを含む本発明の積層体は、アシル置換度が低いセルロースアシレートフィルム単体を湿熱条件下においた場合の添加剤のブリードアウトを改善できることに加え、粘着剤層とセルロースアシレートフィルムの積層体を湿熱条件下においた場合の添加剤の結晶析出の問題をも改善することができる。
【0027】
(ポリエステルポリオール)
本発明において、前記セルロースアシレートフィルムは、グリコールユニットの平均炭素数が2.3〜3.0であるポリエステルポリオールを含む。
ここで、偏光板保護フィルムの添加剤(特にRth制御剤)として用いられるポリエステルポリオール類としては、例えば、炭素数2〜20の脂肪族ジカルボン酸と炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸の混合物と、炭素数2〜12の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールおよび炭素数6〜20の芳香族ジオールから選ばれるジオール類との反応によって得られるものなどが挙げられる。
これに対し、本発明では上述の一般的なポリエステルポリオール類の中からグリコールユニットの平均炭素数が2.3〜3.0となるようにポリエステルポリオールを選択することで、セルロースアシレートフィルム内および粘着剤層内におけるポリエステルポリオール類の結晶性を制御して結晶析出を抑制し、湿熱耐久性試験後のコントラスト低減を抑制することができる。
【0028】
《グリコールユニット》
本発明に用いられるポリエステルポリオールのグリコールユニットは、平均炭素数が2.3〜3.0であり、2.4〜3.0であることが好ましく、2.5〜3.0であることがより好ましい。
【0029】
本発明に用いられるポリエステルポリオールのグリコールユニットとは、隣り合うエステル結合の間に存在するジオール残基のことを言う。この中でも、本発明に用いられるポリエステルポリオールのグリコールユニットは、脂肪族ジオール残基、アルキルエーテルジオール残基および芳香族環含有ジオール残基であることが好ましく、炭素数2〜20の脂肪族ジオール、炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールおよび炭素数6〜20の芳香族環含有ジオールから選ばれるグリコールを反応して得られるものであることがより好ましい。
【0030】
前記炭素数2〜20の脂肪族ジオールとしては、アルキルジオールおよび脂環式ジオール類を挙げることができ、例えば、エチレングリコール(1,2−エタンジオール)、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール)、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール(3,3−ジメチロ−ルペンタン)、2−n−ブチル−2−エチル−1,3プロパンジオール(3,3−ジメチロールヘプタン)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−オクタデカンジオール等があり、これらのグリコールは、1種または2種以上の混合物として使用される。
好ましい脂肪族ジオールとしては、エチレングリコール(1,2−エタンジオール)、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール)、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールであり、より好ましくはエチレングリコール(1,2−エタンジオール)、プロピレングリコール(1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール)、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールであり、特に好ましくはエチレングリコール(1,2−エタンジオール)およびプロピレングリコール(1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール)である。すなわち、前記ポリエステルポリオールがエチレングリコールユニットおよびポリエチレングリコールユニットを含むことがグリコールユニットの平均炭素数を2.3〜3.0に調整する観点やセルロースエステルとの相溶性、光学発現性の観点から特に好ましい。また、プロピレングリコールの中でも1,2−プロパンジオールのみを含むことが、エチレングリコールとプロピレングリコールを併用した際にジカルボン酸ユニット間の間隔をグリコールユニットの炭素鎖の長さを炭素数2と一定にでき、ジカルボン酸ユニットの結晶化を抑制し易くできる観点から好ましい。
【0031】
炭素数4〜20のアルキルエーテルジオールとしては、例えば、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリエチレンエーテルグリコールおよびポリプロピレンエーテルグリコールならびにこれらの組み合わせが挙げられる。その平均重合度は、特に限定されないが好ましくは2〜20であり、より好ましくは2〜10であり、さらには2〜5であり、特に好ましくは2〜4である。これらの例としては、典型的に有用な市販のポリエーテルグリコール類としては、カーボワックス(Carbowax)レジン、プルロニックス(Pluronics) レジンおよびニアックス(Niax)レジンが挙げられる。
炭素数6〜20の芳香族ジオールとしては、特に限定されないがハイドロキノン、レゾルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノール、1,2−ヒドロキシベンゼン、1,3−ヒドロキシベンゼン、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールが挙げられ、好ましくはビスフェノールA、1,4−ヒドロキシベンゼン、1,4−ベンゼンジメタノールである。
これらのアルキルエーテルジオールや芳香族ジオールは、本発明のポリエステルポリオールのグリコールユニットの平均炭素数の範囲を満たす限りにおいて、前記脂肪族ジオールとの混合物として用いることができる。この場合、例えばエチレングリコールとジエチレングリコールの混合物を用いることで本発明のポリエステルポリオールのグリコールユニットの平均炭素数の範囲を満たすようにしてもよい。
【0032】
《ジカルボン酸ユニット》
本発明に用いられるポリエステルポリオールのジカルボン酸ユニットとは、隣り合うエステル結合の間に存在するジカルボン酸残基のことを言う。この中でも、本発明に用いられるポリエステルポリオールのジカルボン酸ユニットは、脂肪族ジカルボン酸残基または芳香族ジカルボン酸残基であることが好ましく、炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸または炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸を反応して得られるものであることがより好ましい。
【0033】
本発明に用いられるポリエステルポリオールのジカルボン酸ユニットは、脂肪族ジカルボン酸ユニットでも、芳香族ジカルボン酸ユニットでも、両者を組み合わせてもよく、その組み合せは特に限定されるものではなく、それぞれの成分を数種類組み合わせても問題ない。本発明に用いられるポリエステルポリオールのジカルボン酸ユニットは、芳香族ジカルボン酸ユニットであることが光学発現性および偏光子耐久性の観点から好ましい。
本発明に用いられるポリエステルポリオールのグリコールユニットは、ジカルボン酸ユニットの平均炭素数が5.6以上であることが光学発現性の観点から好ましく、5.6〜8.0であることがより好ましく、5.8〜7.5であることが特に好ましい。
【0034】
本発明で好ましく用いられる炭素数4〜20の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸および1,4−シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。
また炭素数8〜20の芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,8−ナフタレンジカルボン酸、2,8−ナフタレンジカルボン酸および2,6−ナフタレンジカルボン酸等がある。
【0035】
これらの中でも好ましい脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸であり、芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸である。特に好ましくは、脂肪族ジカルボン酸成分としてはコハク酸、グルタル酸、アジピン酸であり、芳香族ジカルボン酸としてはフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、である。
【0036】
《封止》
また、前記ポリエステルポリオールの両末端は反応物のままでもよいが、さらにモノカルボン酸類やモノアルコール類またはフェノール類を反応させて、所謂末端の封止を実施してもよい。この末端封止は、特にフリーなカルボン酸類を含有させないために実施されることが、保存性などの点で有効である。
本発明における好ましい態様では、前記ポリエステルポリオールの下記式(1)で表される両末端ヒドロキシル基封止率が70%以下であることが好ましい。但し、ここでいう末端ヒドロキシル基には、末端カルボキシル基(−COOH)の一部である−OHは含まれない。
式(1):
両末端ヒドロキシル基封止率(%)=100×(ポリエステルポリオールの両末端に存在する封止ヒドロキシル基の総数)/{(ポリエステルポリオールの両末端に存在する未封止ヒドロキシル基の総数)+(ポリエステルポリオールの両末端に存在する封止ヒドロキシル基の総数)}
また、前記ポリエステルポリオールは式(1)で表される両末端ヒドロキシル基封止率が70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、50%以下であることが特に好ましい。このようにグリコールユニットの平均炭素数が2.3〜3.0であるポリエステルポリオールの中から、さらに特定の両末端ヒドロキシル基封止率を制御したポリエステルポリオールを選択することで親疎水性を改善することができる。
一方、前記ポリエステルポリオールの下記式(1’)で表される両末端カルボキシル基封止率は、70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、50%以下であることが特に好ましい。
式(1’):
両末端カルボキシル基封止率(%)=100×(ポリエステルポリオールの両末端に存在する封止カルボキシル基の総数)/{(ポリエステルポリオールの両末端に存在する未封止カルボキシル基の総数)+(ポリエステルポリオールの両末端に存在する封止カルボキシル基の総数)}
さらに、前記ポリエステルポリオールの両末端ヒドロキシル基封止率および両末端カルボキシル基封止率が、ともに70%以下であることが好ましく、60%以下であることがより好ましく、50%以下であることが特に好ましい。また、前記ポリエステルポリオールの両末端はカルボキシル基であるよりもヒドロキシル基であることが好ましい。
本発明においては、特に前記ポリエステルポリオールの両末端がアルキル基や芳香族基で封止されていないヒドロキシル基であるポリエステルポリオールであることが、相溶性および光学発現性の観点から好ましい。
【0037】
本発明のポリエステル添加剤の両末端がカルボキシル基やヒドロキシル基とならないように、モノアルコール残基やモノカルボン酸残基で保護することもできる。
この場合、モノアルコールとしては炭素数1〜30の置換、無置換のモノアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、オクタノール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、イソノニルアルコール、tert−ノニルアルコール、デカノール、ドデカノール、ドデカヘキサノール、ドデカオクタノール、アリルアルコール、オレイルアルコールなどの脂肪族アルコール、ベンジルアルコール、3−フェニルプロパノールなどの置換アルコールなどが挙げられる。
【0038】
好ましく使用され得る末端封止用アルコールは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、イソペンタノール、ヘキサノール、イソヘキサノール、シクロヘキシルアルコール、イソオクタノール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、オレイルアルコール、ベンジルアルコールであり、特にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソブタノール、シクロヘキシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、イソノニルアルコール、ベンジルアルコールである。
【0039】
また、モノカルボン酸残基で封止する場合は、モノカルボン酸残基として使用されるモノカルボン酸は、炭素数1〜30の置換、無置換のモノカルボン酸が好ましい。これらは、脂肪族モノカルボン酸でも芳香族環含有カルボン酸でもよい。好ましい脂肪族モノカルボン酸について記述すると、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、カプリル酸、カプロン酸、デカン酸、ドデカン酸、ステアリン酸、オレイン酸が挙げられ、芳香族環含有モノカルボン酸としては、例えば安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−tert−アミル安息香酸、オルソトルイル酸、メタトルイル酸、パラトルイル酸、ジメチル安息香酸、エチル安息香酸、ノルマルプロピル安息香酸、アミノ安息香酸、アセトキシ安息香酸等があり、これらはそれぞれ1種または2種以上を使用することができる。
【0040】
かかる本発明に用いることのできるポリエステルポリオールの合成は、常法により上記ジカルボン酸とグリコールおよび/または末端封止用のモノカルボン酸またはモノアルコール、とのポリエステル化反応またはエステル交換反応による熱溶融縮合法か、あるいはこれら酸の酸クロライドとグリコール類との界面縮合法のいずれかの方法によっても容易に合成し得るものである。これらのポリエステルポリオールの製造方法については、村井孝一編者「添加剤 その理論と応用」(株式会社幸書房、昭和48年3月1日初版第1版発行)に詳細な記載がある。また、特開平05−155809号、特開平05−155810号、特開平5−197073号、特開2006−259494号、特開平07−330670号、特開2006−342227号、特開2007−003679号各公報などに記載されている素材を利用することもできる。
以下、本発明に好ましく用いることのできるポリエステルポリオールの具体例を示すが、本発明で用いることができるポリエステルポリオールはこれらに限定されない。
【0041】
【表1】

【0042】
表1中、EGはエチレングリコールを、PGはプロピレングリコールを、BGはブチレングリコールを、TPAはテレフタル酸を、PAはフタル酸を、AAはアジピン酸を、SAはコハク酸を、をそれぞれ示している。
【0043】
前記ポリエステルポリオールの使用量(含有量でもよい)は、フィルムに対して3質量%〜30質量%の範囲が好ましく、さらに好ましくは、5質量%〜25質量%の範囲であり、特に好ましくは、5質量%〜20質量%の範囲である。
【0044】
前記ポリエステルポリオールの分子量は特に制限はないが、重量平均分子量で200〜100000であることが好ましく、200〜10000であることがより好ましく、200〜5000であることが特に好ましい。
【0045】
前記ポリエステルポリオールの80μm厚のヘイズは5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、3%以下であることが特に好ましい。なお、前記ポリエステルポリオールの80μm厚のヘイズとは、後述する方法で80μmギャップの2枚のガラス板に挟んで測定した時のヘイズを表す。
【0046】
(ΔSP値)
本発明では、前記セルロースアシレートの溶解度パラメータと前記ポリエステルポリオールの溶解度パラメータの差(以下、溶解度パラメータの差をΔSP値とも言う)が下記式(2)を満たすことが好ましい。
式(2):
|SP値(PP)−SP値(CA)|≦1.5MPa1/2
(式(2)中、SP値(PP)はHoy法で測定した前記ポリエステルポリオールの溶解度パラメータを表し、SP値(CA)はHoy法で測定した前記セルロースアシレートの溶解度パラメータを表す。)
前記セルロースアシレートと前記ポリエステルポリオールのΔSPが1.5以下であれば、セルロースアシレートと添加剤の相溶性が良化し、白化、泣き出しが生じにくくなる。ΔSPの値は、より好ましくは1.3以下であり、特に好ましくは1.3未満であり、より特に好ましくは1.0未満である。
前記セルロースアシレートフィルムに添加する添加剤が2種類以上の場合、前記ポリエステルポリオールの溶解度パラメータ以外の添加剤と前記セルロースアシレートとのΔSP値が、上記範囲を満たすことが好ましい。
また、前記セルロースアシレートフィルムに添加剤を2種類以上添加する場合、各添加剤とセルロースアシレート間に加え、添加剤同士のΔSP値も上記範囲を満たすことが好ましい。例えば、添加剤2種を添加する場合、前記ポリエステルポリオールのSP値とセルロースアシレートのSP値の差、2つ目の添加剤SP値とセルロースアシレートのSP値の差、および前記ポリエステルポリオールのSP値と2つ目の添加剤のSP値の差の3者が上記範囲を満たすことが好ましい。すなわち、Hoy法で測定した3者それぞれの溶解度のパラメーター(SP値)の最大値と最小値の差が下記式(2’)を満たすことが好ましい。
式(2’):|SP値(最大値)−SP値(最小値)|<1.5MPa1/2
さらに、前記式(2’)におけるΔSP値の好ましい範囲は、前記式(2)の好ましい範囲と同様である。
尚、本発明におけるSP値は、Hoy法によって算出した値であり、Hoy法は、POLYMER HANDBOOK FOURTH EDITIONに記載がある。
【0047】
(その他の添加剤)
前記セルロースアシレートフィルム中には、本発明の趣旨に反しない限りにおいてその他の添加剤、例えば前記ポリエステルポリオール以外の低分子のRth制御剤、Re制御剤、剥離防止剤、マット剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤などの添加剤を加えることもできる。ここで、本発明における添加剤とは、前記セルロースアシレートフィルムの諸機能の向上等を目的として添加される成分であり、セルロース樹脂に対し、1質量%以上の範囲で含まれている成分をいう。すなわち、不純物や残留溶媒等は、本発明における添加剤ではない。以下に本発明に含まれていてもよい添加剤について具体的に説明するが、本発明は以下の態様に限定されない。すなわち、本発明の趣旨に反しない限りにおいてさらにその他公知の添加剤を含んでいてもよく、例えば特開2006−64803号、特開2007−3767号、特開2007−86254号各公報に含まれる添加剤を用いることができる。
【0048】
前記ポリエステルポリオール以外の低分子のRth制御剤:
前記セルロースアシレートフィルム中には、前記ポリエステルポリオール以外の低分子のRth制御剤を含んでいてもよく、例えば、5〜25重量%の割合で含んでいてもよく、さらには、10〜20重量%の割合で含んでいてもよい。Rth制御剤を含めることにより、延伸時にReが高く、Rthの低いNzファクター(Nz=Rth/Re+0.5)の低いフィルムを作製することができる。Rth制御剤としては、本発明の趣旨を逸脱しない限り公知のものを採用できる。例えば、エステル系可塑剤が挙げられ、リン酸エステル系では、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート、ブチルフェニルジフェニルフォスフェート(BDP)等、フタル酸エステル系では、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等、グリコール酸エステル系では、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等のセルロースアシレートよりも疎水的なものを単独あるいは併用するのが好ましい。これらの可塑剤は必要に応じて、2種類以上を併用して用いてもよい。
【0049】
Re発現剤:
前記セルロースアシレートフィルム中には、レターデーション発現剤を含んでいてもよい。レターデーション発現剤は、例えば、0.5〜10重量%の割合で含めることができ、さらには、2〜6重量%の割合で含めることができる。レターデーション発現剤を採用することにより、低延伸倍率で高いRe発現性を得られる。レターデーション発現剤の種類としては、特に定めるものではないが、棒状または円盤状化合物からなるものを挙げることができる。上記棒状または円盤状化合物としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物をレターデーション発現剤として好ましく用いることができる。棒状化合物からなるレターデーション発現剤の添加量は、セルロースアシレートを含むポリマー成分100質量部に対して0.5〜10質量部であることが好ましく、2〜6質量部であることがさらに好ましい。
円盤状のレターデーション発現剤は、前記セルロースアシレートを含むポリマー成分100質量部に対して、0.5〜10質量部の範囲で使用することが好ましく、1〜8質量部の範囲で使用することがより好ましく、2〜6質量部の範囲で使用することがさらに好ましい。
二種類以上のレターデーション発現剤を併用してもよい。
レターデーション発現剤は、250〜400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましく、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0050】
円盤状化合物について説明する。円盤状化合物としては少なくとも二つの芳香族環を有する化合物を用いることができる。
本明細書において、「芳香族環」は、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。
芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。
芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。
芳香族環としては、ベンゼン環、縮合ベンゼン環、ビフェニール類が好ましい。特に1,3,5−トリアジン環が好ましく用いられる。具体的には例えば特開2001−166144号公報に開示の化合物が好ましく用いられる。
【0051】
レターデーション発現剤が有する芳香族環の炭素数は、2〜20であることが好ましく、2〜12であることがより好ましく、2〜8であることがさらに好ましく、2〜6であることが最も好ましい。
二つの芳香族環の結合関係は、(a)縮合環を形成する場合、(b)単結合で直結する場合および(c)連結基を介して結合する場合に分類できる(芳香族環のため、スピロ結合は形成できない)。結合関係は、(a)〜(c)のいずれでもよい。
【0052】
(a)の縮合環(二つ以上の芳香族環の縮合環)の例には、インデン環、ナフタレン環、アズレン環、フルオレン環、フェナントレン環、アントラセン環、アセナフチレン環、ビフェニレン環、ナフタセン環、ピレン環、インドール環、イソインドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドリジン環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環、プリン環、インダゾール環、クロメン環、キノリン環、イソキノリン環、キノリジン環、キナゾリン環、シンノリン環、キノキサリン環、フタラジン環、プテリジン環、カルバゾール環、アクリジン環、フェナントリジン環、キサンテン環、フェナジン環、フェノチアジン環、フェノキサチイン環、フェノキサジン環およびチアントレン環が含まれる。ナフタレン環、アズレン環、インドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾトリアゾール環およびキノリン環が好ましい。
【0053】
(b)の単結合は、二つの芳香族環の炭素原子間の結合であることが好ましい。二以上の単結合で二つの芳香族環を結合して、二つの芳香族環の間に脂肪族環または非芳香族性複素環を形成してもよい。
【0054】
(c)の連結基も、二つの芳香族環の炭素原子と結合することが好ましい。連結基は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、−CO−、−O−、−NH−、−S−またはそれらの組み合わせであることが好ましい。組み合わせからなる連結基の例を以下に示す。なお、以下の連結基の例の左右の関係は、逆になってもよい。
c1:−CO−O−
c2:−CO−NH−
c3:−アルキレン−O−
c4:−NH−CO−NH−
c5:−NH−CO−O−
c6:−O−CO−O−
c7:−O−アルキレン−O−
c8:−CO−アルケニレン−
c9:−CO−アルケニレン−NH−
c10:−CO−アルケニレン−O−
c11:−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−
c12:−O−アルキレン−CO−O−アルキレン−O−CO−アルキレン−O−
c13:−O−CO−アルキレン−CO−O−
c14:−NH−CO−アルケニレン−
c15:−O−CO−アルケニレン−
【0055】
芳香族環および連結基は、置換基を有していてもよい。
置換基の例には、ハロゲン原子(F、Cl、Br、I)、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、スルホ基、カルバモイル基、スルファモイル基、ウレイド基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、脂肪族アシル基、脂肪族アシルオキシ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルコキシカルボニルアミノ基、アルキルチオ基、アルキルスルホニル基、脂肪族アミド基、脂肪族スルホンアミド基、脂肪族置換アミノ基、脂肪族置換カルバモイル基、脂肪族置換スルファモイル基、脂肪族置換ウレイド基および非芳香族性複素環基が含まれる。
【0056】
アルキル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。環状アルキル基よりも鎖状アルキル基の方が好ましく、直鎖状アルキル基が特に好ましい。アルキル基は、さらに置換基(例えば、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アルキル置換アミノ基)を有していてもよい。アルキル基の(置換アルキル基を含む)例には、メチル基、エチル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、2−ヒドロキシエチル基、4−カルボキシブチル基、2−メトキシエチル基および2−ジエチルアミノエチル基の各基が含まれる。
アルケニル基の炭素原子数は、2〜8であることが好ましい。環状アルケニル基よりも鎖状アルケニル基の方が好ましく、直鎖状アルケニル基が特に好ましい。アルケニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルケニル基の例には、ビニル基、アリル基および1−ヘキセニル基が含まれる。
アルキニル基の炭素原子数は、2〜8であることが好ましい。環状アルキニル基よりも鎖状アルキニル基の方が好ましく、直鎖状アルキニル基が特に好ましい。アルキニル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキニル基の例には、エチニル基、1−ブチニル基および1−ヘキシニル基が含まれる。
【0057】
脂肪族アシル基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アシル基の例には、アセチル基、プロパノイル基およびブタノイル基が含まれる。
脂肪族アシルオキシ基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アシルオキシ基の例には、アセトキシ基が含まれる。
アルコキシ基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。アルコキシ基は、さらに置換基(例えば、アルコキシ基)を有していてもよい。アルコキシ基の(置換アルコキシ基を含む)例には、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基およびメトキシエトキシ基が含まれる。
アルコキシカルボニル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。アルコキシカルボニル基の例には、メトキシカルボニル基およびエトキシカルボニル基が含まれる。
アルコキシカルボニルアミノ基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。アルコキシカルボニルアミノ基の例には、メトキシカルボニルアミノ基およびエトキシカルボニルアミノ基が含まれる。
【0058】
アルキルチオ基の炭素原子数は、1〜12であることが好ましい。アルキルチオ基の例には、メチルチオ基、エチルチオ基およびオクチルチオ基が含まれる。
アルキルスルホニル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。アルキルスルホニル基の例には、メタンスルホニル基およびエタンスルホニル基が含まれる。
脂肪族アミド基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族アミド基の例には、アセトアミドが含まれる。
脂肪族スルホンアミド基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。脂肪族スルホンアミド基の例には、メタンスルホンアミド基、ブタンスルホンアミド基およびn−オクタンスルホンアミド基が含まれる。
脂肪族置換アミノ基の炭素原子数は、1〜10であることが好ましい。脂肪族置換アミノ基の例には、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基および2−カルボキシエチルアミノ基が含まれる。
脂肪族置換カルバモイル基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。脂肪族置換カルバモイル基の例には、メチルカルバモイル基およびジエチルカルバモイル基が含まれる。
脂肪族置換スルファモイル基の炭素原子数は、1〜8であることが好ましい。脂肪族置換スルファモイル基の例には、メチルスルファモイル基およびジエチルスルファモイル基が含まれる。
脂肪族置換ウレイド基の炭素原子数は、2〜10であることが好ましい。脂肪族置換ウレイド基の例には、メチルウレイド基が含まれる。
非芳香族性複素環基の例には、ピペリジノ基およびモルホリノ基が含まれる。
レターデーション発現剤の分子量は、300〜800であることが好ましい。
【0059】
円盤状化合物として下記一般式(I)で表されるトリアジン化合物を用いることが好ましい。
【0060】
【化1】

【0061】
上記一般式(I)中:
12は、各々独立に、オルト位、メタ位およびパラ位の少なくともいずれかに置換基を有する芳香族環または複素環を表す。
11は、各々独立に、単結合または−NR13−を表す。ここで、R13は、各々独立に、水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基、アルケニル基、アリール基または複素環基を表す。
【0062】
12が表す芳香族環は、フェニルまたはナフチルであることが好ましく、フェニルであることが特に好ましい。R12が表す芳香族環はいずれかの置換位置に少なくとも一つの置換基を有してもよい。前記置換基の例には、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシル基、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アルコキシ基、アルケニルオキシ基、アリールオキシ基、アシルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アルケニルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、アルキル置換スルファモイル基、アルケニル置換スルファモイル基、アリール置換スルファモイル基、スルオンアミド基、カルバモイル、アルキル置換カルバモイル基、アルケニル置換カルバモイル基、アリール置換カルバモイル基、アミド基、アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基およびアシル基が含まれる。
【0063】
12が表す複素環基は、芳香族性を有することが好ましい。芳香族性を有する複素環は、一般に不飽和複素環であり、好ましくは最多の二重結合を有する複素環である。複素環は5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましく、6員環であることが最も好ましい。複素環のヘテロ原子は、窒素原子、硫黄原子または酸素原子であることが好ましく、窒素原子であることが特に好ましい。芳香族性を有する複素環としては、ピリジン環(複素環基としては、2−ピリジルまたは4−ピリジル)が特に好ましい。複素環基は、置換基を有していてもよい。複素環基の置換基の例は、上記アリール部分の置換基の例と同様である。
11が単結合である場合の複素環基は、窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基であることが好ましい。窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましく、5員環であることが最も好ましい。複素環基は、複数の窒素原子を有していてもよい。また、複素環基は、窒素原子以外のヘテロ原子(例えば、O、S)を有していてもよい。以下に、窒素原子に遊離原子価をもつ複素環基の例を示す。
【0064】
【化2】

【0065】
13が表すアルキル基は、環状アルキル基であっても鎖状アルキル基であってもよいが、鎖状アルキル基が好ましく、分岐を有する鎖状アルキル基よりも、直鎖状アルキル基がより好ましい。アルキル基の炭素原子数は、1〜30であることが好ましく、1〜20であることがより好ましく、1〜10であることがさらに好ましく、1〜8がさらにまた好ましく、1〜6であることが最も好ましい。アルキル基は、置換基を有していてもよい。置換基の例には、ハロゲン原子、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基)およびアシルオキシ基(例えば、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基)が含まれる。
【0066】
13が表すアルケニル基は、環状アルケニル基であっても鎖状アルケニル基であってもよいが、鎖状アルケニル基を表すのが好ましく、分岐を有する鎖状アルケニル基よりも、直鎖状アルケニル基を表すのがより好ましい。アルケニル基の炭素原子数は、2〜30であることが好ましく、2〜20であることがより好ましく、2〜10であることがさらに好ましく、2〜8であることがさらにまた好ましく、2〜6であることが最も好ましい。アルケニル基は置換基を有していてもよい。置換基の例には、前述のアルキル基の置換基と同様である。
13が表す芳香族環基および複素環基は、R12が表す芳香族環および複素環と同様であり、好ましい範囲も同様である。芳香族環基および複素環基はさらに置換基を有していてもよく、置換基の例にはR12の芳香族環および複素環の置換基と同様である。
【0067】
円盤状化合物としては、例えば特開2008−150592号公報[0097]〜[0108]に記載されるトリフェニレン化合物も好ましく用いることもできる。
【0068】
一般式(I)で表される化合物は、例えば特開2003−344655号公報に記載の方法、その他の化合物は、例えば特開2005−134884号公報に記載の方法等、公知の方法により合成することができる。
【0069】
前述の円盤状化合物の他に直線的な分子構造を有する棒状化合物も好ましく用いることができ、例えば特開2008−150592号公報[0110]〜[0127]に記載される棒状化合物を好ましく用いることができる。
【0070】
溶液の紫外線吸収スペクトルにおいて最大吸収波長(λmax)が250nmより長波長である棒状化合物を、二種類以上併用してもよい。
棒状化合物は、文献記載の方法を参照して合成できる。文献としては、Mol. Cryst. Liq. Cryst., 53巻、229ページ(1979年)、同89巻、93ページ(1982年)、同145巻、111ページ(1987年)、同170巻、43ページ(1989年)、J. Am. Chem. Soc.,113巻、1349ページ(1991年)、同118巻、5346ページ(1996年)、同92巻、1582ページ(1970年)、J. Org. Chem., 40巻、420ページ(1975年)、Tetrahedron、48巻16号、3437ページ(1992年)を挙げることができる。
【0071】
剥離促進剤:
前記セルロースアシレートフィルムには、剥離促進剤を加えることが好ましい。剥離促進剤は、例えば、0.001〜1重量%の割合で含めることができる。剥離促進剤としては、特開2006−45497号公報の段落番号0048〜0069に記載の化合物を好ましく用いることができる。
【0072】
マット剤:
前記セルロースアシレートフィルムには、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用されてもよい微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムを挙げることができる。微粒子はケイ素を含むものが、濁度が低くなる点で好ましく、特に二酸化珪素が好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができより好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0073】
これらの微粒子は、通常平均粒子径が0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子径は0.2μm〜1.5μmが好ましく、0.4μm〜1.2μmがさらに好ましく、0.6μm〜1.1μmが最も好ましい。1次、2次粒子径はフィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒子サイズとした。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子径とした。
【0074】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976およびR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
これらの中でアエロジル200V、アエロジルR972Vが、1次平均粒子径が20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数をさげる効果が大きいため特に好ましい。
【0075】
2次平均粒子径の小さな粒子を有するフィルムを得るために、微粒子の分散液を調製する際にいくつかの手法が考えられる。例えば、溶剤と微粒子を撹拌混合した微粒子分散液をあらかじめ作成し、この微粒子分散液を別途用意した少量のセルロースアシレート溶液に加えて撹拌溶解し、さらにメインのセルロースアシレートドープ液と混合する方法がある。この方法は二酸化珪素微粒子の分散性がよく、二酸化珪素微粒子がさらに再凝集しにくい点で好ましい調製方法である。ほかにも、溶剤に少量のセルロースエステルを加え、撹拌溶解した後、これに微粒子を加えて分散機で分散を行い、これを微粒子添加液とし、この微粒子添加液をインラインミキサーでドープ液と十分混合する方法もある。本発明はこれらの方法に限定されないが、二酸化珪素微粒子を溶剤などと混合して分散するときの二酸化珪素の濃度は5〜30質量%が好ましく、10〜25質量%がさらに好ましく、15〜20質量%が最も好ましい。分散濃度が高い方が添加量に対する液濁度は低くなり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。最終的なセルロースアシレートのドープ溶液中でのマット剤の添加量は1m2あたり0.01〜1.0gが好ましく、0.03〜0.3gがさらに好ましく、0.08〜0.16gが最も好ましい。
【0076】
使用される溶剤は低級アルコール類としては、好ましくはメチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール等が挙げられる。低級アルコール以外の溶媒としては特に限定されないが、セルロースエステルの製膜時に用いられる溶剤を用いることが好ましい。
【0077】
紫外線吸収剤:
前記セルロースアシレートフィルムには、紫外線吸収剤を含有させることが好ましく、紫外線吸収剤としては、液晶の劣化防止の点より波長370nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ良好な液晶表示性の点より波長400nm以上の可視光の吸収が可及的に少ないものが好ましく用いられる。特に、波長370nmでの透過率が、10質量%以下であることが望ましく、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。用いられるものとしては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾ−ル系化合物、サリチル酸エステル系化合物、トリアジン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレ−ト系化合物、ニッケル錯塩系化合物などがあげられるが、これらに限定されない。紫外線吸収剤は2種以上用いてもよい。紫外線吸収剤のド−プ(本発明では溶液流延に用いられるセルロースエステル溶液をドープということもある。)への添加方法は、アルコ−ルやメチレンクロライド、ジオキソランなどの有機溶媒に溶解してから添加するか、または直接ド−プ組成中に添加してもよい。無機粉体のように有機溶剤に溶解しないものは、有機溶剤とセルロ−スエステル中にデゾルバやサンドミルを使用し、分散してからド−プに添加する。本発明において、紫外線吸収剤の使用量はセルロ−スエステルに対し、好ましくは0.1〜5.0質量%、より好ましくは、0.5〜2.0質量%、よりさらに好ましくは0.8〜2.0質量%である。
【0078】
(ヘイズ)
前記セルロースアシレートフィルムのヘイズは、1%以下であることが好ましく、0.8%以下であることがより好ましい。このようにヘイズの差を小さくすることにより、不均一構造の少ないフィルムを得られ光漏れの少ないフィルムを作製することができる。
【0079】
(含水率)
前記セルロースアシレートフィルムにおいては、含水率が3%以下であることが好ましく、2.5%以下であることがより好ましい。含水率を3%以下とすることにより、フィルムの湿熱安定性をより向上させることができる。
含水率の測定法は、実施例および比較例のフィルム試料7mm×35mmを水分測定器、試料乾燥装置(CA−03、VA−05、共に三菱化学(株))にてカールフィッシャー法で測定する。水分量(g)を試料質量(g)で除して算出する。
【0080】
(膜厚)
前記セルロースアシレートフィルムの厚さは、用いる偏光板の種類等によって適宜定めることができるが、好ましくは30〜100μmであり、より好ましくは40〜80μmである。フィルムの厚さを60μm以下とすることにより、コストを下げることができ好ましい。
【0081】
(光学特性)
Reは、35≦Re≦80であることが好ましく、40≦Re≦60であることがより好ましい。
また、Rthは、50≦Rth≦300を満たすことが好ましく、80≦Rth≦150を満たすことがより好ましい。さらに前記セルロースアシレートフィルムは、前記Reの値と前記Rthの値との比Re/Rthが0.2〜0.6であることが液晶表示装置を用途とするときに好ましい。このようなRe/Rthとすることにより、よりカラーシフトの少ないVA用位相差膜を作製できる。
【0082】
ここで、Re(λ)、Rth(λ)は各々、波長λにおける面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。本願明細書においては、特に記載がないときは、波長λは、590nmとする。Re(λ)はKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)において波長λnmの光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rth(λ)は前記Re(λ)を、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)のフィルム法線方向に対して法線方向から片側50度まで10度ステップで各々その傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて全部で6点測定し、その測定されたレターデーション値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基にKOBRA 21ADHが算出する。尚、遅相軸を傾斜軸(回転軸)として(遅相軸がない場合にはフィルム面内の任意の方向を回転軸とする)、任意の2方向からレターデーション値を測定し、その値と平均屈折率の仮定値及び入力された膜厚値を基に、以下の式(1)及び式(2)よりRthを算出することもできる。ここで平均屈折率の仮定値はポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フィルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについてはアッベ屈折計で測定することができる。主な光学フィルムの平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHはnx、ny、nzを算出する。この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0083】
【数1】

【0084】
ここで、上記のRe(θ)は法線方向から角度θ傾斜した方向におけるレターデーション値を表す。dはフィルム厚を表す。
Rth=((nx+ny)/2−nz)×d −−− 式(2)
なおこの際、パラメータとして平均屈折率nが必要になるが、これはアッベ屈折計((株)アタゴ社製の「アッベ屈折計2−T」)により測定した値を用いた。
【0085】
前記セルロースアシレートフィルムは、延伸されてなることが好ましいが、延伸は、インライン(一貫)で製膜することが好ましい。また、必要に応じて、一旦巻き取ってから別工程で延伸してもよい。さらに、インラインで延伸した後、一旦巻き取り、さらに別工程で延伸してもよい。このような手段によって延伸することにより、ヘイズの低いフィルムを作製することができ、Re/Rthの値が低いフィルムを作製することができる。
【0086】
<セルロースアシレートフィルムの製造>
本発明の積層体に用いられるセルロースアシレートフィルムは、公知のセルロースエステルフィルムを作製する方法等を広く採用でき、ソルベントキャスト法により製造することが好ましい。ソルベントキャスト法では、セルロースアシレートを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフィルムを製造することができる。
有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルおよび炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。エーテル、ケトンおよびエステルは、環状構造を有していてもよい。エーテル、ケトンおよびエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、有機溶媒として用いることができる。有機溶媒は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する有機溶媒の場合、その炭素原子数は、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。
【0087】
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。
炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。
炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。
2種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。
ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。
2種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0088】
一般的な方法でセルロースアシレート溶液を調製できる。一般的な方法とは、0℃以上の温度(常温または高温)で、処理することを意味する。溶液の調製は、通常のソルベントキャスト法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。なお、一般的な方法の場合は、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特に、メチレンクロリド)を用いることが好ましい。
セルロースアシレートの量は、得られる溶液中に10〜40質量%含まれるように調整する。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
溶液は、常温(0〜40℃)でセルロースアシレートと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。具体的には、セルロースアシレートと有機溶媒とを加圧容器に入れて密閉し、加圧下で溶媒の常温における沸点以上、かつ溶媒が沸騰しない範囲の温度に加熱しながら攪拌する。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0089】
各成分は予め粗混合してから容器に入れてもよい。また、順次容器に投入してもよい。容器は攪拌できるように構成されている必要がある。窒素ガス等の不活性気体を注入して容器を加圧することができる。また、加熱による溶媒の蒸気圧の上昇を利用してもよい。あるいは、容器を密閉後、各成分を圧力下で添加してもよい。
加熱する場合、容器の外部より加熱することが好ましい。例えば、ジャケットタイプの加熱装置を用いることができる。また、容器の外部にプレートヒーターを設け、配管して液体を循環させることにより容器全体を加熱することもできる。
容器内部に攪拌翼を設けて、これを用いて攪拌することが好ましい。攪拌翼は、容器の壁付近に達する長さのものが好ましい。攪拌翼の末端には、容器の壁の液膜を更新するため、掻取翼を設けることが好ましい。
容器には、圧力計、温度計等の計器類を設置してもよい。容器内で各成分を溶媒中に溶解する。調製したドープは冷却後容器から取り出すか、あるいは、取り出した後、熱交換器等を用いて冷却する。
【0090】
冷却溶解法により、溶液を調製することもできる。冷却溶解法では、通常の溶解方法では溶解させることが困難な有機溶媒中にもセルロースアシレートを溶解させることができる。なお、通常の溶解方法でセルロースアシレートを溶解できる溶媒であっても、冷却溶解法によると迅速に均一な溶液が得られるとの効果がある。
冷却溶解法では最初に、室温で有機溶媒中にセルロースアシレートを撹拌しながら徐々に添加する。セルロースアシレートの量は、この混合物中に10〜40質量%含まれるように調整することが好ましい。セルロースアシレートの量は、10〜30質量%であることがさらに好ましい。さらに、混合物中には後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。
次に、混合物を−100〜−10℃(好ましくは−80〜−10℃、さらに好ましくは−50〜−20℃、最も好ましくは−50〜−30℃)に冷却する。冷却は、例えば、ドライアイス・メタノール浴(−75℃)や冷却したジエチレングリコール溶液(−30〜−20℃)中で実施できる。このように冷却すると、セルロースアシレートと有機溶媒の混合物は固化する。
【0091】
冷却速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。冷却速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、冷却速度は、冷却を開始する時の温度と最終的な冷却温度との差を、冷却を開始してから最終的な冷却温度に達するまでの時間で割った値である。
さらに、これを0〜200℃(好ましくは0〜150℃、さらに好ましくは0〜120℃、最も好ましくは0〜50℃)に加温すると、有機溶媒中にセルロースアシレートが溶解する。昇温は、室温中に放置するだけでもよし、温浴中で加温してもよい。加温速度は、4℃/分以上であることが好ましく、8℃/分以上であることがさらに好ましく、12℃/分以上であることが最も好ましい。加温速度は、速いほど好ましいが、10000℃/秒が理論的な上限であり、1000℃/秒が技術的な上限であり、そして100℃/秒が実用的な上限である。なお、加温速度は、加温を開始する時の温度と最終的な加温温度との差を、加温を開始してから最終的な加温温度に達するまでの時間で割った値である。
【0092】
以上のようにして、均一な溶液が得られる。なお、溶解が不充分である場合は冷却、加温の操作を繰り返してもよい。溶解が充分であるかどうかは、目視により溶液の外観を観察するだけで判断することができる。
冷却溶解法においては、冷却時の結露による水分混入を避けるため、密閉容器を用いることが望ましい。また、冷却加温操作において、冷却時に加圧し、加温時に減圧すると、溶解時間を短縮することができる。加圧および減圧を実施するためには、耐圧性容器を用いることが望ましい。
なお、セルロースアシレート(全アセチル置換度:60.9%、粘度平均重合度:299)を冷却溶解法によりメチルアセテート中に溶解した20質量%の溶液は、示差走査熱量測定(DSC)によると、33℃近傍にゾル状態とゲル状態との疑似相転移点が存在し、この温度以下では均一なゲル状態となる。従って、この溶液は疑似相転移温度以上、好ましくはゲル相転移温度プラス10℃程度の温度で保存する必要がある。ただし、この疑似相転移温度は、セルロースアシレートの全アセチル置換度、粘度平均重合度、溶液濃度や使用する有機溶媒により異なる。
【0093】
調製したセルロースアシレート溶液(ドープ)から、ソルベントキャスト法によりセルロースアシレートフィルムを製造することができる。
ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフィルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35質量%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。ソルベントキャスト法における流延および乾燥方法については、米国特許2336310号、同2367603号、同2492078号、同2492977号、同2492978号、同2607704号、同2739069号、同2739070号、英国特許640731号、同736892号の各明細書、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。
【0094】
ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延してから2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフィルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100℃から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶媒を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。
セルロースエステルフィルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルホスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびO−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。可塑剤の添加量は、セルロースアシレートの量の0.1〜25質量%であることが好ましく、1〜20質量%であることがさらに好ましく、3〜15質量%であることが最も好ましい。
【0095】
セルロースアシレートフィルムには、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)を添加してもよい。劣化防止剤については、特開平3−199201号、同5−197073号、同5−194789号、同5−271471号、同6−107854号の各公報に記載がある。劣化防止剤の添加量は、劣化防止剤添加による効果が発現し、フィルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)を抑制する観点から、調製する溶液(ドープ)の0.01〜1質量%であることが好ましく、0.01〜0.2質量%であることがさらに好ましい。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
【0096】
ドラムやベルト上で乾燥され、剥離されたウェブの乾燥方法について述べる。ドラムやベルトが1周する直前の剥離位置で剥離されたウェブは、千鳥状に配置されたロール群に交互に通して搬送する方法や剥離されたウェブの両端をクリップ等で把持させて非接触的に搬送する方法などにより搬送される。乾燥は、搬送中のウェブ(フィルム)両面に所定の温度の風を当てる方法やマイクロウエーブなどの加熱手段などを用いる方法によって行われる。急速な乾燥は、形成されるフィルムの平面性を損なう恐れがあるので、乾燥の初期段階では、溶媒が発泡しない程度の温度で乾燥し、乾燥が進んでから高温で乾燥を行うのが好ましい。支持体から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってフィルムは長手方向あるいは幅方向に収縮しようとする。収縮は、高温度で乾燥するほど大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、でき上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているように、乾燥の全工程あるいは一部の工程を幅方向にクリップあるいはピンでウェブの幅両端を幅保持しつつ行う方法(テンタ−方式)が好ましい。上記乾燥工程における乾燥温度は、100〜145℃であることが好ましい。使用する溶媒によって乾燥温度、乾燥風量および乾燥時間が異なるが、使用溶媒の種類、組合せに応じて適宜選べばよい。前記セルロースアシレートフィルムの製造では、支持体から剥離したウェブ(フィルム)を、ウェブ中の残留溶媒量が120質量%未満の時に延伸することが好ましい。
【0097】
なお、残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMを測定したウェブを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。ウェブ中の残留溶媒量が多すぎると延伸の効果が得られず、また、少なすぎると延伸が著しく困難となり、ウェブの破断が発生してしまう場合がある。ウェブ中の残留溶媒量のさらに好ましい範囲は70質量%以下であり、より好ましくは10質量%〜50質量%、特に好ましくは12質量%〜35質量%である。また、延伸倍率が小さすぎると十分な位相差が得られず、大きすぎると延伸が困難となり破断が発生してしまう場合がある。
延伸倍率は、1.1〜1.5であることが好ましく、1.15〜1.4であることがより好ましい。また、延伸は縦方向に行っても横方向に行っても両方向に行ってもよく、好ましくは少なくとも縦方向に行う。延伸倍率を10%以上とすることにより、より適切にReを発現させることができ、ボーイングを良好なものとすることができる。また、延伸倍率を50%以下とすることにより、ヘイズを低下させることができる。
溶液流延製膜したものは、特定の範囲の残留溶媒量であれば高温に加熱しなくても延伸可能であるが、乾燥と延伸を兼ねると、工程が短くてすむので好ましい。しかし、ウェブの温度が高すぎると、可塑剤が揮散するので、室温(15℃)〜145℃以下の範囲が好ましい。また、互いに直交する2軸方向に延伸することは、フィルムの屈折率Nx、Ny、Nzを本発明の好ましい光学特性の態様の範囲に入れるために有効な方法である。例えば流延方向に延伸した場合、幅方向の収縮が大きすぎると、Nzの値が大きくなりすぎてしまう。この場合、フィルムの幅収縮を抑制あるいは、幅方向にも延伸することで改善できる。幅方向に延伸する場合、幅手で屈折率に分布が生じる場合がある。これは、例えばテンター法を用いた場合にみられることがあるが、幅方向に延伸したことで、フィルム中央部に収縮力が発生し、端部は固定されていることにより生じる現象で、いわゆるボ−イング現象と呼ばれるものと考えられる。この場合でも、流延方向に延伸することで、ボ−イング現象を抑制でき、幅手の位相差の分布を少なく改善できるのである。さらに、互いに直交する2軸方向に延伸することにより得られるフィルムの膜厚変動が減少できる。光学フィルムの膜厚変動が大き過ぎると位相差のムラとなる。光学フィルムの膜厚変動は、±3%、さらに±1%の範囲とすることが好ましい。以上の様な目的において、互いに直交する2軸方向に延伸する方法は有効であり、互いに直交する2軸方向の延伸倍率は、それぞれ1.2〜2.0倍、0.7〜1.0倍の範囲とすることが好ましい。ここで、一方の方向に対して1.2〜2.0倍に延伸し、直交するもう一方を0.7〜1.0倍にするとは、フィルムを支持しているクリップやピンの間隔を延伸前の間隔に対して0.7〜1.0倍の範囲にすることを意味している。
【0098】
一般に、2軸延伸テンターを用いて幅手方向に1.2〜2.0倍の間隔となるように延伸する場合、その直角方向である長手方向には縮まる力が働く。
したがって、一方向のみに力を与えて続けて延伸すると直角方向の幅は縮まってしまうが、これを幅規制せずに縮まる量に対して、縮まり量を抑制していることを意味しており、その幅規制するクリップやピンの間隔を延伸前に対して0.7〜1.0倍の範囲に規制していることを意味している。このとき、長手方向には、幅手方向への延伸によってフィルムが縮まろうとする力が働いている。長手方向のクリップあるいはピンの間隔をとることによって、長手方向に必要以上の張力がかからないようにしているのである。ウェブを延伸する方法には特に限定はない。例えば、複数のロールに周速差をつけ、その間でロール周速差を利用して縦方向に延伸する方法、ウェブの両端をクリップやピンで固定し、クリップやピンの間隔を進行方向に広げて縦方向に延伸する方法、同様に横方向に広げて横方向に延伸する方法、あるいは縦横同時に広げて縦横両方向に延伸する方法などが挙げられる。もちろんこれ等の方法は、組み合わせて用いてもよい。また、いわゆるテンター法の場合、リニアドライブ方式でクリップ部分を駆動すると滑らかな延伸が行うことができ、破断等の危険性が減少できるので好ましい。
【0099】
得られたフィルムを巻き取る巻き取り機には、一般的に使用されている巻き取り機が使用でき、定テンション法、定トルク法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロ−ル法などの巻き取り方法で巻き取ることができる。以上の様にして得られた光学フィルムロールは、フィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲であることが好ましい。または、巻き取り方向に対して直角方向(フィルムの幅方向)に対して、±2度であることが好ましく、さらに±1度の範囲にあることが好ましい。特にフィルムの遅相軸方向が、巻き取り方向(フィルムの長手方向)に対して、±0.1度以内であることが好ましい。あるいはフィルムの幅手方向に対して±0.1度以内であることが好ましい。
【0100】
<粘着剤層>
本発明の積層体は、他の光学フィルムや液晶セル等の他部材と接着するための粘着剤層を有する。前記粘着剤層は、少なくとも粘着剤を有する。
【0101】
一般的に、粘着剤層の形成には、適宜な粘着剤を用いることができる。粘着剤としては、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ビニルアルキルエーテル系粘着剤、ポリビニルアルコール系粘着剤、ポリビニルピロリドン系粘着剤、ポリアクリルアミド系粘着剤、セルロース系粘着剤などがあげられる。
【0102】
これら粘着剤のなかでも、光学的透明性に優れ、適宜な濡れ性と凝集性と接着性の粘着特性を示して、耐候性や耐熱性などに優れるものが好ましく使用される。このような特徴を示すものとしてアクリル系粘着剤が好ましく使用される。特に、アクリル系ポリマーおよび架橋剤を含む粘着剤により形成されているものを好適に用いることができる。
【0103】
アクリル系粘着剤は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルのモノマーユニットを主骨格とするアクリル系ポリマーをベースポリマーとする。なお、(メタ)アクリル酸アルキルエステルはアクリル酸アルキルエステルおよび/またはメタクリル酸アルキルエステルをいい、本明細書中の(メタ)とは同様の意味である。アクリル系ポリマーの主骨格を構成する、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基の炭素数1〜20のものを例示できる。例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸イソミリスチル、(メタ)アクリル酸ラウリル等を例示できる。これらは単独であるいは組み合わせて使用することができる。これらアルキル基の平均炭素数は3〜9であるのが好ましい。
【0104】
前記アクリル系ポリマーのなかでも、平衡水分率を低く制御する観点から、疎水性の高い(メタ)アクリル酸アルキルエステルのモノマーユニットを主骨格とするアクリルポリマーをベースポリマーとすることが好ましい。一般に(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、前記の光学透明性、適度な濡れ性と凝集力、接着力、耐候性や耐熱性などの点から、直鎖状または分岐鎖状のアルキル基の炭素数3〜9のもの、好ましくは4〜8のものが実用上好ましく用いられる。これらアルキル基のなかでも、アルキル基の炭素数が大きい程、疎水性が高くなり、当該平衡水分率を低くするうえで好ましい。かかる(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソオクチルがあげられる。これらの中でも本発明ではブチルアクリレートを採用することが粘着剤の堅さが適していることと、耐久性試験時のムラ発生を抑える観点から好ましい。
【0105】
前記アクリル系ポリマー中には、接着性や耐熱性の改善を目的に、1種類以上の共重合モノマーを共重合により導入することができる。そのような共重合モノマーの具体例としては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリルや(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)−メチルアクリレートなどのヒドロキシル基含有モノマー;(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸などのカルボキシル基含有モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸などの酸無水物基含有モノマー;アクリル酸のカプロラクトン付加物;スチレンスルホン酸やアリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸などのスルホン酸基含有モノマー;2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェートなどの燐酸基含有モノマーなどがあげられる。
【0106】
また、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミドやN−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミドなどの(N−置換)アミド系モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチルアミノエチルなどの(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキル系モノマー;(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチルなどの(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル系モノマー;N−(メタ)アクリロイルオキシメチレンスクシンイミドやN−(メタ)アクリロイル−6−オキシヘキサメチレンスクシンイミド、N−(メタ)アクリロイル−8−オキシオクタメチレンスクシンイミド、N−アクリロイルモルホリンなどのスクシンイミド系モノマー;N−シクロヘキシルマレイミドやN−イソプロピルマレイミド、N−ラウリルマレイミドやN−フェニルマレイミドなどのマレイミド系モノマー;N−メチルイタコンイミド、N−エチルイタコンイミド、N−ブチルイタコンイミド、N−オクチルイタコンイミド、N−2−エチルヘキシルイタコンイミド、N−シクロヘキシルイタコンイミド、N−ラウリルイタコンイミドなどのイタコンイミド系モノマー、なども改質目的のモノマー例としてあげられる。
【0107】
さらに改質モノマーとして、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、N−ビニルピロリドン、メチルビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルピペリドン、ビニルピリミジン、ビニルピペラジン、ビニルピラジン、ビニルピロール、ビニルイミダゾール、ビニルオキサゾール、ビニルモルホリン、N−ビニルカルボン酸アミド類、スチレン、α−メチルスチレン、N−ビニルカプロラクタムなどのビニル系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアノアクリレート系モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジルなどのエポキシ基含有アクリル系モノマー;(メタ)アクリル酸ポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸ポリプロピレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリプロピレングリコールなどのグリコール系アクリルエステルモノマー;(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、フッ素(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレートや2−メトキシエチルアクリレートなどのアクリル酸エステル系モノマーなども使用することができる。
【0108】
アクリル系ポリマー中の前記共重合モノマーの割合は、特に制限されないが、全構成モノマーの重量比率において、0〜30%程度、さらには0.1〜15%程度であるのが好ましい。
【0109】
これら共重合モノマーの中でも、光学フィルム用途として液晶セルへの接着性、耐久性の点から、ヒドロキシル基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー、酸無水物基含有モノマーが好ましく用いられる。これらモノマーは、架橋剤との反応点になる。ヒドロキシル基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー、酸無水物モノマーなどは分子間架橋剤との反応性に富むため、得られる粘着剤層の凝集性や耐熱性の向上のために好ましく用いられる。例えば、ヒドロキシル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルを用いるよりも、好ましくは(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、さらに好ましくは(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシルのように、ヒドロキシアルキル基のアルキル基の大きいものを用いるのが好ましい。共重合モノマーとしてヒドロキシル基含有モノマーを用いる場合、その割合は全構成モノマーの重量比率において、0.01〜5%、さらには0.01〜3%であるのが好ましい。また、共重合モノマーとしてカルボキシル基含有モノマーを用いる場合、その割合は全構成モノマーの重量比率において、0.01〜10%、さらには0.01〜7%であるのが好ましい。
【0110】
アクリル系ポリマーの平均分子量は特に制限されないが、重量平均分子量は、10万〜250万程度であるのが好ましい。前記アクリル系ポリマーの製造は、各種公知の手法により製造でき、例えば、バルク重合法、溶液重合法、懸濁重合法等のラジカル重合法を適宜選択できる。ラジカル重合開始剤としては、アゾ系、過酸化物系の各種公知のものを使用できる。反応温度は通常50〜80℃程度、反応時間は1〜8時間とされる。また、前記製造法の中でも溶液重合法が好ましく、アクリル系ポリマーの溶媒としては一般に酢酸エチル、トルエン等が用いられる。溶液濃度は通常20〜80重量%程度とされる。
【0111】
また前記粘着剤は、架橋剤を含有する粘着剤組成物とするのが好ましい。粘着剤に配合できる多官能化合物としては、有機系架橋剤や多官能性金属キレートがあげられる。有機系架橋剤としては、エポキシ系架橋剤、イソシアネート系架橋剤、イミン系架橋剤、過酸化物系架橋剤、などがあげられる。これら架橋剤は1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。有機系架橋剤としてはイソシアネート系架橋剤が好ましい。また、イソシアネート系架橋剤は過酸化物系架橋剤と組み合わせて好適に用いられる。多官能性金属キレートは、多価金属が有機化合物と共有結合または配位結合しているものである。多価金属原子としては、Al、Cr、Zr、Co、Cu、Fe、Ni、V、Zn、In、Ca、Mg、Mn、Y、Ce、Sr、Ba、Mo、La、Sn、Ti等があげられる。共有結合または配位結合する有機化合物中の原子としては酸素原子等があげられ、有機化合物としてはアルキルエステル、アルコール化合物、カルボン酸化合物、エーテル化合物、ケトン化合物等があげられる。
【0112】
アクリル系ポリマー等のベースポリマーと架橋剤の配合割合は特に限定されないが、通常、ベースポリマー(固形分)100重量部に対して、架橋剤(固形分)0.001〜20重量部程度が好ましく、さらには0.01〜15重量部程度が好ましい。前記架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、過酸化物系架橋剤が好ましい。過酸化物系架橋剤は、ベースポリマー(固形分)100重量部に対して、0.01〜3重量部程度が好ましく、0.02〜2.5重量部程度が好ましく、さらには0.05〜2.0重量部程度が好ましい。イソシアネート系架橋剤は、ベースポリマー(固形分)100重量部に対して、0.001〜2重量部程度が好ましく、さらには0.01〜1.5重量部程度が好ましい。また、イソシアネート系架橋剤および過酸化物系架橋剤は、前記範囲で用いることができる他、これらを併用して好ましく用いることができる。
【0113】
さらに粘着剤には、必要に応じて、シランカップリング剤、粘着付与剤、可塑剤、ガラス繊維、ガラスビーズ、酸化防止剤、紫外線吸収剤、透明微粒子等を、また本発明の目的を逸脱しない範囲で各種の添加剤を適宜に使用することもできる。
【0114】
添加剤としては、シランカップリング剤が好適であり、ベースポリマー(固形分)100重量部に対して、シランカップリング剤(固形分)0.001〜10重量部程度が好ましく、さらには0.005〜5重量部程度を配合するのが好ましい。シランカップリング剤としては、従来から知られているものを特に制限なく使用できる。例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどのエポキシ基含有シランカップリング剤、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチルブチリデン)プロピルアミンなどのアミノ基含有シランカップリング剤、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランなどの(メタ)アクリル基含有シランカップリング剤、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基含有シランカップリング剤を例示できる。
【0115】
ゴム系粘着剤のベースポリマーとしては、たとえば、天然ゴム、イソプレン系ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム、再生ゴム、ポリイソブチレン系ゴム、さらにはスチレン−イソプレン−スチレン系ゴム、スチレン−ブタジエン−スチレン系ゴム等があげられる。シリコーン系粘着剤のベースポリマーとしては、たとえば、ジメチルポリシロキサン、ジフェニルポリシロキサン等があげられ、これらベースポリマーもカルボキシル基等の官能基が導入されたものを使用することができる。
【0116】
本発明の積層体は、前記セルロースアシレートの溶解度パラメータと、前記粘着剤層に含まれる主成分物質の溶解度パラメータの差が、下記式(3)を満たすことが好ましい。
式(3)
|SP値(粘着剤主成分)−SP値(PP)|≦2.0MPa1/2
(式(3)中、SP値(粘着剤主成分)はHoy法で測定した前記粘着剤層に含まれる主成分物質の溶解度パラメータを表し、SP値(PP)はHoy法で測定した前記ポリエステルポリオールの溶解度パラメータを表す。)
なお、ここでいう粘着剤層に含まれる主成分物質とは、粘着剤層中における質量%の割合が最も高い物質のことを言い、粘着剤であっても、バインダーであってもよい。
【0117】
本発明の好ましい態様では、ブチルアクリレートが粘着剤層に含まれる主成分物質であることが好ましい。
前記ブチルアクリレートが主成分である粘着剤としては、特開2008−144126号公報に記載の粘着剤を挙げることができる。その中でも、同公報表1に記載の粘着剤が好ましく、同公報表1の粘着剤A6以外の粘着剤がより好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様の一例では、ブチルアクリレートのみをアクリル系ポリマーの原料モノマーとして用いた粘着剤以外の粘着剤を用いることが好ましく、この粘着剤を含む粘着剤層と本発明のセルロースアシレートフィルムと組み合わせて積層した積層体は、特に顕著に添加剤の粘着剤層における泣き出しを抑制することができる。
【0118】
本発明の積層体は、前記セルロースアシレートフィルムの一方の面のみに粘着剤層を有していても、両方の面に粘着剤層を有していてもよい。
粘着剤層の厚みは積層体の厚みの10%〜50%であることが好ましく、より好ましくは20%〜40%である。
【0119】
[偏光板]
本発明の積層体は、湿熱耐久性があるので、偏光板用保護フィルムに用いられる。すなわち、本発明の偏光板は、本発明の積層体を少なくとも1枚含む。また、本発明の偏光板は、本発明の積層体の粘着剤層が偏光子と隣接して積層していても、隣接して積層していなくてもよい。一方、本発明の偏光板を液晶表示装置に組み込んだ際に、本発明の積層体の粘着剤層が該液晶表示装置の液晶セルと隣接できるような態様であることが好ましい。
偏光板は偏光子の少なくとも一方の面に保護フィルムを貼り合わせ積層することによって形成される。偏光子は従来から公知のものを用いることができ、例えば、ポリビニルアルコールフィルムのような親水性ポリマーフィルムを、沃素のような二色性染料で処理して延伸したものである。セルロ−スエステルフィルムと偏光子との貼り合わせは、特に限定はないが、水溶性ポリマーの水溶液からなる接着剤により行うことができる。この水溶性ポリマー接着剤は完全鹸化型のポリビニルアルコ−ル水溶液が好ましく用いられる。
【0120】
本発明の積層体はその粘着剤層が液晶セルと隣接していることが好ましいため、本発明の積層体は、偏光板用保護フィルム/偏光子/偏光板用保護フィルム/液晶セル/本発明の積層体/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成、もしくは偏光板用保護フィルム/偏光子/本発明の積層体/液晶セル/本発明の積層体/偏光子/偏光板用保護フィルムの構成で好ましく用いることができる。特に、TN型、VA型、OCB型などの液晶セルに貼り合わせて用いることによって、さらに視野角に優れ、着色が少ない視認性に優れた表示装置を提供することができる。特に前記偏光板用保護フィルムを用いた偏光板は高温高湿条件下での劣化が少なく、長期間安定した性能を維持することができる。
【0121】
本発明の偏光板は、60℃、相対湿度90%で1000時間経過させた前後のコントラスト低減率が10%以下であることが好ましい。
【0122】
[液晶表示装置]
本発明の積層体および本発明の偏光板は、液晶表示装置に好ましく用いることができる。特に、TN型、VA型、OCB型などの液晶セルに貼り合わせて用いることによって、さらに視野角に優れ、着色が少ない視認性に優れた液晶表示装置を提供することができる。特に本発明の積層体を用いた偏光板を組み込んだ液晶表示装置は高温高湿条件下でのコントラスト低減が顕著に改善されており、劣化が少なく、長期間安定した性能を維持することができる。
【実施例】
【0123】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0124】
[測定方法]
本発明では、下記の測定方法により測定を行った。
(SP値)
Hoy法によって算出した溶解度パラメータをSP値とした。
【0125】
(グリコールユニットの平均炭素数、ジカルボン酸ユニットの平均炭素数)
グリコールユニットの平均炭素数は、ポリエステルポリオール中に含まれる各種グリコール残基の組成比(本発明の実施例ではエチレングリコールとプロピレングリコールの組成比)から算出した。また、ジカルボン酸ユニットの平均炭素数は、ポリエステルポリオール中に含まれる各種ジカルボン酸残基の組成比から算出した。
【0126】
(セルロースアシレートフィルム単体の試験前ヘイズ)
湿熱耐久性試験前のセルロースアシレートフィルム試料40mm×80mmを、25℃、相対湿度60%で、ヘイズメーター(HGM−2DP、スガ試験機)で、JIS K−6714に従って測定した。
【0127】
(80μm厚のヘイズ(80μmギャップヘイズ))
ガラス板上の縁に80μmのフィルムをスペーサーとしてのせ、ガラス板中央部分にポリエステルポリオールを滴下し、上部をガラス板で挟む。この状態で、上下をガラスにて挟み込まれた80μmギャップの添加剤ガラス挟みサンプルを作製する。上記ガラス挟みサンプルを一旦120℃にて10分間加熱した後。25℃条件下に3日間放置する。その後セルロースアシレートフィルムのヘイズを測定した際と同様のヘイズメータにて調製後のサンプルのヘイズを測定する。この時のヘイズ値を80μm厚のヘイズとする。
【0128】
(フィルムヘイズ)
セルロースアシレートフィルム単体を60℃、相対湿度90%調湿雰囲気下に1000時間投入する。取り出したセルロースアシレートフィルムを25℃、相対湿度60%条件に1日間放置した後に、測定したヘイズ値をフィルムヘイズとする。
【0129】
(フィルム観察)
セルロースアシレートフィルム単体を60℃、相対湿度90%、または、80℃、相対湿度90%調湿雰囲気下に1000時間投入する。取り出したセルロースアシレートフィルムを25℃、相対湿度60%条件に1日間放置する。これを、鋭敏色検板有り、透過型の偏光顕微鏡を用いてクロスニコル状態にて500倍(対物50倍、接眼10倍)でピントをセルロースアシレートフィルム表面に合わせて、添加剤の泣き出し状態を観察する。細長い線状の結晶構造が見えたものを「針状構造」、粒状の結晶構造が見えたものを「泣出粒状」、粒状の結晶構造がわずかに見えたものを「泣出少量粒状」、いずれの結晶構造も観察されなかったものを「泣出無し」と評価する。
【0130】
(積層体のヘイズ)
セルロースアシレートフィルム単体に対して、作製した粘着剤を貼り合わせた後、粘着剤の逆側をキレイに拭いたガラスに貼り合わせる。これをサンプルとして60℃、相対湿度90%調湿雰囲気下に1000時間投入する。取り出した積層体を25℃、相対湿度60%条件に1日間放置した後に測定したヘイズ値を積層体(フィルム+粘着剤層)のヘイズとする。
【0131】
(積層体の形態観察)
セルロースアシレートフィルム単体に対して、作製した粘着剤を貼り合わせた後、粘着剤の逆側をキレイに拭いたガラスに貼り合わせる。これをサンプルとして、60℃、相対湿度90%または、80℃、相対湿度90%条件に1000時間投入する。取り出した積層体を25℃、相対湿度60%条件に1日間放置する。これを、鋭敏色検板有り、透過型の偏光顕微鏡を用いてクロスニコル状態にて500倍(対物50倍、接眼10倍)でピントを積層体のフィルム表面側から段階的にフィルム−粘着剤界面、粘着剤−ガラス界面とずらしながら観察する。この際の後半2箇所における添加剤の泣き出し状態を観察し、上記フィルム観察と同様の方法で評価する。
【0132】
<実施例1〜21、比較例1〜16>
[実施例:セルロースアシレートフィルムの製膜]
(1)セルロースアシレート
特開平10−45804号、同08−231761号公報に記載の方法でセルロースアシレートを合成し、表3に記載のアシル置換度のセルロースアシレートを調製した。触媒として硫酸(セルロース100質量部に対し7.8質量部)を添加し、カルボン酸を添加し40℃でアシル化反応を行った。その後、硫酸触媒量、水分量および熟成時間を調整することで全置換度と6位置換度を調整した。熟成温度は40℃で行った。さらにこのセルロースアシレートの低分子量成分をアセトンで洗浄し除去した。
【0133】
(2)ドープ調製
<1−1> セルロースアシレート溶液
下記組成物をミキシングタンクに投入し、攪拌して各成分を溶解し、さらに90℃に約10分間加熱した後、平均孔径34μmのろ紙および平均孔径10μmの焼結金属フィルターでろ過した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
セルロースアシレート溶液
――――――――――――――――――――――――――――――――――
表3に記載のセルロースアシレート 100.0質量部
トリフェニルホスフェート 8.0質量部
ビフェニルジフェニルホスフェート 4.0質量部
メチレンクロライド 403.0質量部
メタノール 60.2質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0134】
<1−2> マット剤分散液
次に上記方法で作成したセルロースアシレート溶液を含む下記組成物を分散機に投入し、マット剤分散液を調製した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
マット剤分散液
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平均粒子径16nmのシリカ粒子
(aerosil R972 日本アエロジル(株)製) 2.0質量部
メチレンクロライド 72.4質量部
メタノール 10.8質量部
セルロースアシレート溶液 10.3質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0135】
<1−3> ポリエステルポリオール溶液
次に上記方法で作成したセルロースアシレート溶液を含む下記組成物をミキシングタンクに投入し、加熱しながら攪拌して溶解し、レターデーション発現剤溶液を調製した。ここで、ポリエステルポリオールの添加量は、表3に示したとおりであり、セルロースアシレートに対する質量%で示している。さらに、実施例20および21では添加剤として、下記構造のRe発現剤AA(SP値=22.2、実施例および21で用いたセルロースアシレートに対するΔSP値=−0.9)を2質量部添加した。
【0136】
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
ポリエステルポリオール溶液
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
表1に示すA〜Pのポリエステルポリオール 18.5質量部
メチレンクロライド 58.3質量部
メタノール 8.7質量部
セルロースアシレート溶液 12.8質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0137】
【化3】

【0138】
上記セルロースアシレート溶液を100質量部、マット剤分散液を1.35質量部、ポリエステルポリオール溶液をセルロースアシレート樹脂に対してポリエステルポリオールが18.5質量部となる量を混合し、製膜用ドープを調製した。前記ポリエステルポリオールやその他の添加剤の添加割合はセルロースアシレート量を100質量部とした時の質量部である。
【0139】
(流延)
上述のドープを、バンド流延機を用いて流延した。バンド上の給気温度80℃〜130℃(排気温度は75℃〜120℃)で乾燥させた後、残留溶剤量が25〜35質量%でバンドから剥ぎ取ったフィルムを、給気温度140℃(排気温度は90℃〜125℃の範囲)のテンターゾーンで、10%〜50%の延伸倍率で幅方向に延伸して、光学特性Re/Rth=50/115となるようにセルロースアシレートフィルムを製造した。このとき、延伸後の膜厚が58μmになるように、流延膜厚を調整した。表3に示した組成のセルロースアシレートフィルムを作製し、その製造適性を判断する目的で、ロール幅1280mm、ロール長2600mmのロールを上記条件で最低24ロール作製した。連続で製造した24ロールの中の1ロールについて100m間隔で長手1mのサンプル(幅1280mm)を切り出して各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルムとし、各測定を行った。
【0140】
(粘着剤の作成)
以下の手順に従い、粘着剤に用いるアクリレート系ポリマーを調整した。
冷却管、窒素導入管、温度計及び撹拌装置を備えた反応容器に、アクリル酸ブチル100部、アクリル酸3部、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル0.3部を酢酸エチルと共に加えて固形分濃度30%とし窒素ガス気流下、60℃で4時間反応させ、アクリレート系ポリマー(A1)を得た。また、A1と同様の操作にて、下記表2に示すアクリレート系ポリマー(A2〜A8)を調製した。
【0141】
【表2】

【0142】
次に得られたアクリレート系ポリマーを、以下の手順に従い、本発明に用いるアクリレート系粘着剤を作製した。
アクリレート系ポリマー固形分100部あたり2部のトリメチロールプロパントリレンジイソシアネート(日本ポリウレタン社製、コロネートL)、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.1部、を加えシリコーン系剥離剤で表面処理したセパレートフィルムにダイコーターを用いて塗布し150℃で3時間乾燥させ、アクリレート系粘着剤を得た。アクリレート系粘着剤の組成を上記表2に示す。また、架橋剤であるコロネートL(日本ポリウレタン)は、二つ以上の芳香環を持つ架橋剤であり、ALCH−TR(川研)はアルミキレートであり、コロネート1130(日本ポリウレタン)は高分子系架橋剤である。
【0143】
コロネートL
【0144】
【化4】

【0145】
上記の方法にしたがって湿熱耐久性試験を行った結果として、図1に比較例1のフィルムを用いた積層体の偏光顕微鏡写真を示し、図2に実施例1のセルロースアシレートフィルムを用いた積層体の偏光顕微鏡写真を示した。図1の(B)および(C)より、セルロースアシレートフィルム単体での湿熱耐久試験後には針状構造の結晶が析出していることが分かった。また、同じポリエステルポリオールAを用いた比較例15および16のセルロースアシレートフィルムを用いた場合も同様の傾向であった。一方、図2の(A’)〜(C’)ではガラスのよごれが観察されたのみであり、実施例1のセルロースアシレートフィルムを用いた積層体は湿熱耐久試験後に何ら結晶が観察されないことが分かった。
【0146】
[実施例:偏光板の作成]
延伸したポリビニルアルコールフィルムにヨウ素を吸着させて偏光子を作製した。実施例:セルロースアシレートフィルムの製膜、で作製した各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルムを、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の片側に貼り付けた。なお、ケン化処理は以下のような条件で行った。
1.5mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を調製し、55℃に保温した。0.005mol/Lの希硫酸水溶液を調製し、35℃に保温した。実施例Aで作製したセルロースアシレートフィルムを上記の水酸化ナトリウム水溶液に2分間浸漬した後、水に浸漬し水酸化ナトリウム水溶液を十分に洗い流した。次いで、上記の希硫酸水溶液に1分間浸漬した後、水に浸漬し希硫酸水溶液を十分に洗い流した。 最後に試料を120℃で十分に乾燥させた。
市販のセルローストリアシレートフィルム(フジタックTD80UF、富士フィルム(株)製)にケン化処理を行い、ポリビニルアルコール系接着剤を用いて、偏光子の反対側に貼り付け、70℃で10分以上乾燥した。
偏光子の透過軸と実施例:セルロースアシレートフィルムの製膜、で作製した各実施例および比較例のセルロースアシレートフィルムの遅相軸とは平行になるように配置した。偏光子の透過軸と市販のセルローストリアシレートフィルムの遅相軸とは直交するように配置した。
【0147】
[実施例:液晶表示装置の作成]
(60℃試験後のコントラスト低減率評価)
BRAVIA−KDL40V5(商品名、SONY(株)社製)の液晶セルから偏光板を剥がした。実施例:偏光板の作成で得られた偏光板に、各実施例および比較例のフィルムの偏光子とは逆側に下記表3に記載の粘着剤を貼り付け、各実施例または比較例のフィルム/粘着剤/液晶セルの順になるようにこの液晶セルに対して貼り合わせた。この液晶表示装置に対して、コントラストを測定し、これを初期コントラストとした。なお、初期コントラストは約6000であった。
その後、液晶表示パネルの液晶セルを60℃、相対湿度90%調湿雰囲気下に1000時間投入して取り出したフィルムを25℃、相対湿度60%条件に1日間放置した後、再び液晶表示装置に組み込んでコントラストを測定した。測定したコントラスト低減率を以下の基準にしたがって評価し、結果を下記表3に記載した。
○:初期コントラストに対してコントラスト低減率が10%以内であった。
△:初期コントラストに対してコントラスト低減率が15%以内であった。
×:初期コントラストに対してコントラスト低減率が20%以内であった。
××:初期コントラストに対してコントラスト低減率が25%以上であった。
【0148】
【表3】

【0149】
表3より、本発明の積層体は湿熱耐久性が良好であり、粘着剤層とセルロースアシレートフィルムと貼り合わせた場合も添加剤のブリードアウトが非常に少ないことが分かった。また、本発明の積層体を組み込んだ液晶表示装置は、湿熱環境下に放置した場合もコントラスト低減率が顕著に改善されることが分かった。
一方、比較例1、2、8〜12および14〜16のフィルムはポリエステルポリオールのグリコールユニットの平均炭素数が本発明で規定する下限値以下である比較例であり、湿熱環境下に放置すると粘着剤層と貼り合わせた場合は粘着剤層に針状構造の結晶体が析出し、液晶表示装置に組み込んだ場合はコントラスト低減率が大きかった。比較例6および7のフィルムはそれぞれセルロースアシレートの置換度が本発明の範囲から外れるものであり、湿熱環境下に放置すると粘着剤層と貼り合わせた場合は粘着剤層から粒状結晶の泣き出しが生じ、液晶表示装置に組み込んだ場合はコントラスト低減率が大きかった。比較例3〜5および13のフィルムはポリエステルポリオールのグリコールユニットの平均炭素数が本発明で規定する上限値以上である比較例であり、湿熱環境下に放置すると粘着剤層と貼り合わせた場合は粘着剤層から粒状結晶の泣き出しが生じ、液晶表示装置に組み込んだ場合はコントラスト低減率が大きかった。さらに、比較例10〜14では、粘着剤層と貼り合わせて湿熱耐久試験を行ったときにヘイズが非常に大きくなることが分かった。また、粘着剤としてA6を用いた以外は同様の条件で製造した各比較例では、結晶化が更に進行していた。
また、別の実施例より、セルロースアシレートとポリエステルポリオールの溶解度パラメータの差の絶対値が1.5を超えると、湿熱耐久性試験後に粒状の泣き出しが見られ易くなる傾向にあることがわかった。
【符号の説明】
【0150】
1 セルロースアシレートフィルム
2 粘着剤層
3 ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤層とセルロースアシレートフィルムとを積層した積層体であって、
前記セルロースアシレートフィルムが総アシル置換度2.1〜2.85のセルロースアシレートと、グリコールユニットの平均炭素数が2.3〜3.0であるポリエステルポリオールを含む積層体。
【請求項2】
前記セルロースアシレートが総アシル置換度2.3〜2.6のセルロースアセテートであることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記セルロースアシレートの溶解度パラメータと前記ポリエステルポリオールの溶解度パラメータの差が下記式(2)を満たすことを特徴とする請求項1または2に記載の積層体。
式(2):
|SP値(PP)−SP値(CA)|≦1.5MPa1/2
(式(2)中、SP値(PP)はHoy法で測定した前記ポリエステルポリオールの溶解度パラメータを表し、SP値(CA)はHoy法で測定した前記セルロースアシレートの溶解度パラメータを表す。)
【請求項4】
前記ポリエステルポリオールのジカルボン酸ユニットの平均炭素数が5.6以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
前記ポリエステルポリオールがエチレングリコールユニットおよびポリエチレングリコールユニットを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項6】
前記ポリエステルポリオールの80μm厚のヘイズが5%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
前記セルロースアシレートの溶解度パラメータと、前記粘着剤層に含まれる主成分物質の溶解度パラメータの差が、下記式(3)を満たすことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の積層体。
式(3)
|SP値(粘着剤主成分)−SP値(PP)|≦2.0MPa1/2
(式(3)中、SP値(粘着剤主成分)はHoy法で測定した前記粘着剤層に含まれる主成分物質の溶解度パラメータを表し、SP値(PP)はHoy法で測定した前記ポリエステルポリオールの溶解度パラメータを表す。)
【請求項8】
ガラス上に前記粘着剤層が接するように請求項1〜7のいずれか一項に記載の積層体を積層し、60℃、相対湿度90%で1000時間経過させたときに、偏光顕微鏡観察において針状の結晶構造または粒状の構造が前記粘着剤層と前記セルロースアシレートフィルムとの界面にも前記粘着剤層と該ガラスとの界面にも見えず、かつヘイズが5%以下であることを特徴とする積層体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の積層体を少なくとも一枚有することを特徴とする偏光板。
【請求項10】
60℃、相対湿度90%で1000時間経過させた前後のコントラスト低減率が10%以下であることを特徴とする請求項9に記載の偏光板。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の積層体、または、請求項9もしくは10に記載の偏光板を、少なくとも1枚有することを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−37140(P2011−37140A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186801(P2009−186801)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】