説明

積層体およびそれを用いた空気入りタイヤ

【課題】気体遮断性及び疲労耐久性に優れた積層体の提供。
【解決手段】少なくとも1層の第1の熱可塑性樹脂組成物から成る層と、少なくとも2層の第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層とを、最外層が第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層となるように交互に積層して成る積層体であって、第1の熱可塑性樹脂組成物はエチレンビニルアルコール共重合体および変性エチレンビニルアルコール共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種を含み、第2の熱可塑性樹脂組成物は第1の熱可塑性樹脂組成物と異なる組成を有し、任意の隣接する第1の熱可塑性樹脂組成物から成る層と第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層との対において、第1の熱可塑性樹脂組成物から成る層および第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層が特定の引張弾性率および厚さの比をとることを特徴とする積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体およびそれを用いた空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、気体透過防止性及び疲労耐久性に優れた積層体及びそれをインナーライナーに用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、気体の透過を防止することが求められる用途(例えば、空気入りタイヤ、気体もしくは流体輸送用ホースなど)に使用される気体透過防止構造体の軽量化を図ることが求められている。一般的に、熱可塑性樹脂組成物やゴム組成物から成る層を透過する気体(例えば空気)の量は、その層の厚さを厚くすればするほど減少する。しかし、層の厚さが増加するにつれてその層の質量も増加するため、例えば空気入りタイヤのように燃費向上のために軽量化が求められている用途では、気体遮断性の高い材料(すなわち気体透過係数が小さい材料)を用いて、気体透過防止構造体の軽量化を図ることが多数提案されている。例えば、空気入りタイヤの内圧を保持するためにタイヤ内面に配設されるインナーライナーとして、気体遮断性に優れることが知られているエチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)などの熱可塑性樹脂から構成される気体透過防止層とゴムまたは熱可塑性エラストマーなどから構成される弾性表面層または接着層とを含む積層体を使用することが、例えば特許文献1〜5に提案されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1〜5に提案されているようにEVOH含有層をゴム層などの弾性率の低い他の層との積層体としてタイヤ内面に適用した場合、あるいは、EVOH含有層をタイヤ内面に直接適用した場合に、EVOHは空気入りタイヤに通常用いられているゴムに比べて弾性率が高いためにタイヤ走行時に生じる繰り返しの屈曲や引張変形によってEVOH含有層に過剰な応力が加わり、その結果、EVOH含有層にクラックが発生するという懸念があった。EVOH含有層にクラックが発生しやすいほど、疲労耐久性がより低く、ひいては空気圧保持性能がより低いといえる。
従って、EVOH含有層を含む積層体において、EVOH含有層のクラックの発生を抑制することによって、気体透過防止性と疲労耐久性(ひいては空気圧保持性能)をバランス良く両立させることが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−314164号公報
【特許文献2】特開平6−40207号公報
【特許文献3】国際公開第2007/083785号
【特許文献4】国際公開第2007/100159号
【特許文献5】国際公開第2007/123220号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、気体透過防止構造体として有用な、EVOH含有層を含む積層体であって、EVOH含有層におけるクラックの発生を抑制することによって、気体遮断性と疲労耐久性(ひいては空気圧保持性能)をバランス良く両立することを可能にした積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく研究を重ねた結果、EVOH含有層(第1の熱可塑性樹脂組成物)と当該EVOH含有層と異なる組成を有する熱可塑性樹脂組成物(第2の熱可塑性樹脂組成物)から成る層とを交互に積層して成る積層体において、任意の隣接するEVOH含有層と第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層との対において、引張弾性率の比を1よりも大きくかつ10以下とし、なおかつ、第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層の厚さをそれに隣接するEVOH含有層の厚さ以上にすることで、EVOH含有層に加わる応力が緩和され、その結果、EVOH層におけるクラックの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明によれば、少なくとも1層の第1の熱可塑性樹脂組成物から成る層と、少なくとも2層の第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層とを、最外層が第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層となるように交互に積層して成る積層体であって、第1の熱可塑性樹脂組成物はエチレンビニルアルコール共重合体および変性エチレンビニルアルコール共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種を含み、第2の熱可塑性樹脂組成物は第1の熱可塑性樹脂組成物と異なる組成を有し、任意の隣接する第1の熱可塑性樹脂組成物から成る層と第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層との対において、第1の熱可塑性樹脂組成物から成る層の引張弾性率および厚さをそれぞれE1およびt1と表し、第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層の引張弾性率および厚さをそれぞれE2およびt2と表すと、比E1/E2は1よりも大きくかつ10以下であり、かつ、比t1/t2は0.1以上かつ1以下であることを特徴とする積層体が提供される。
【0008】
本発明によれば、さらに、上記積層体をインナーライナーに用いた空気入りタイヤが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の積層体は、上記のとおり、少なくとも1層の第1の熱可塑性樹脂組成物から成る層(以下「第1組成物層」ともいう)と、少なくとも2層の第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層(以下「第2組成物層」ともいう)を、最外層が第2組成物層となるように交互に積層して成るものである。すなわち、本発明の積層体を構成する第1組成物層の数がn(nは1以上の整数)である場合には、当該積層体を構成する第2組成物層の数はn+1である。例えば、本発明の積層体を構成する第1組成物層の数が1である場合には、第1組成物層を挟むように第1組成物層の両面に各1層ずつ第2組成物層が積層され、第2組成物層の総数は2である。
【0010】
本発明の積層体は、かかる順序で積層した第1組成物層と第2組成物層において、任意の隣接する第1組成物層と第2組成物層との対において、第1組成物層の引張弾性率および厚さをそれぞれE1およびt1とし、第2組成物層の引張弾性率および厚さをそれぞれE2およびt2とすると、引張弾性率の比E1/E2は1よりも大きくかつ10以下であり、かつ、厚さの比t1/t2は0.1以上かつ1以下であることを特徴とする。すなわち、本発明の積層体がn層の第1組成物層とn+1層の第2組成物層とが交互に積層したものである場合に、一方の最外層を第1番目の第2組成物層とし、この第1番目の第2組成物層に隣接する第1組成物層を第1番目の第1組成物層とし、第1番目の第1組成物層から順に数えて第k番目(kは1〜nの整数)の第1組成物層の引張弾性率および厚さをそれぞれE1(k)およびt1(k)と表し、第1番目の第2組成物層から順に数えて第k番目の第2組成物層(第k番目の第1組成物層に隣接する)の引張弾性率および厚さをそれぞれE2(k)およびt2(k)と表した場合に、引張弾性率E1(k)とE2(k)の比E1(k)/E2(k)は1よりも大きくかつ10以下であり、かつ、厚さt1(k)とt2(k)の比t1(k)/t2(k)は0.1以上かつ1以下である。このような引張弾性率と厚さの関係は、第k番目の第1組成物層とそれに隣接するもう1つの第2組成物層(第k番目の第1組成物層の反対側の第2組成物層)との間、すなわち第k番目の第1組成物層と第k+1番目の第2組成物層との間でも成立し、第k+1番目の第2組成物層の引張弾性率および厚さをそれぞれE2(k+1)およびt2(k+1)と表した場合に、引張弾性率E1(k)とE2(k+1)の比E1(k)/E2(k+1)は1よりも大きくかつ10以下であり、かつ、厚さt1(k)とt2(k+1)の比t1(k)/t2(k+1)は0.1以上かつ1以下である。本発明の積層体がn層の第1組成物層とn+1層の第2組成物層から構成される場合において、n層の第1組成物層の全てが同じ引張弾性率および同じ厚さを有し、n+1層の第2組成物層の全てが同じ引張弾性率および同じ厚さを有していてもよいが、任意の隣接する第1組成物層と第2組成物層との対において、第1組成物層の引張弾性率と第2組成物層の引張弾性率との比および第1組成物層の厚さと第2組成物層の厚さの比が上記の条件を満たす限り、n層の第1組成物層は任意の引張弾性率および厚さを有することができ、n+1層の第2組成物層は任意の引張弾性率および厚さを有することができる。積層体の生産性の観点から、n層の第1組成物層の全てが同じ引張弾性率および同じ厚さを有し、n+1層の第2組成物層の全てが同じ引張弾性率および同じ厚さを有することが好ましい。第1組成物層の引張弾性率と第2組成物層の引張弾性率との比および第1組成物層の厚さと第2組成物層の厚さの比が上記の条件を満たすことによって、EVOH含有層に加わる応力が緩和され、その結果、EVOH層におけるクラックの発生を抑制でき、伸張や屈曲などの機械的応力に対する疲労耐久性の改善がもたらされる。
【0011】
本発明の積層体は、第1組成物層を構成する熱可塑性樹脂組成物、すなわち第1の熱可塑性樹脂組成物がエチレンビニルアルコール共重合体および変性エチレンビニルアルコール共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含み、当該積層体を構成する第1組成物層および第2組成物層が、上記のとおりの引張弾性率および厚さについての要件を満たす限り、それぞれ任意の熱可塑性樹脂組成物から成ることができる。
【0012】
第1の熱可塑性樹脂組成物を構成するエチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)および変性エチレンビニルアルコール共重合体(変性EVOH)からなる群から選ばれた少なくとも1種(以下「成分(1−a)」ともいう)としては、好ましくは、エチレン含有量が25〜50mol%であり、ケン化度が90%以上のEVOHおよび/または変性EVOHである。エチレン含有量が25mol%を下回ると疲労耐久性や成形性が劣る懸念があり、50mol%を上回る、もしくはケン化度が90%を下回ると空気透過防止層としてのバリア性が不足する懸念がある。EVOHは公知の方法により調製でき、例えばエチレンと酢酸ビニルとを重合してエチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)を調製し、得られたEVAを加水分解することによって調製できる。本発明において使用できる市販のEVOHの例としては、例えばソアノールH4815B、A4412、E3808、D2908、V2504(いずれも日本合成化学工業(株))、L171B、F171B、H171B、E171B(いずれも(株)クラレ)が挙げられる。変性EVOHも公知の方法により調製でき、例えば、特開2008−24217に記載されているようにEVOHとエポキシ化合物(例えば、グリシドール、エポキシプロパンなど)を溶剤中で触媒を用いて反応させることにより得ることができる。
【0013】
第1の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、成分(1−a)に加えて、1種以上の他の熱可塑性樹脂(以下「成分(1−b)」ともいう)を含んでもよい。かかる熱可塑性樹脂の例としては、ポリアミド系樹脂(例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/12(N6/12)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体)、ポリエステル系樹脂(例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリブチレンテレフタレート/テトラエチレングリコール共重合体、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル)、ポリニトリル系樹脂(例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体)、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂(例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル)、EVOH以外のポリビニル系樹脂(例えば酢酸ビニル、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体)、セルロース系樹脂(例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース)、フッ素系樹脂(例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロロフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)、イミド系樹脂(例えば芳香族ポリイミド)が挙げられる。気体バリア性や機械的物性などの観点から、熱可塑性樹脂としては、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコールおよびエチレン−ビニルアルコール共重合体が好ましい。さらにポリアミド系樹脂としては、気体バリア性と機械的物性のバランスから、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体、ナイロンMXD6およびこれらの組み合わせが好ましい。第1の熱可塑性樹脂組成物が成分(1−b)を含む場合に、成分(1−b)の量は、成分(1−a)100質量部に対して好ましくは5〜50質量部、より好ましくは25〜45質量部である。
【0014】
第1の熱可塑性樹脂組成物は、さらに疲労耐久性向上の観点から、酸無水物変性エチレン−α−オレフィン共重合体(以下、「成分(1−c)ともいう」)、例えばエチレン−プロピレン共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、エチレン−オクテン共重合体などのエチレン−α−オレフィン共重合体を無水マレイン酸などの酸無水物により変性させることにより得られた生成物を含むことが好ましい。本発明に使用出来る市販の酸無水物変性エチレン−α−オレフィン共重合体の例としては、タフマーMP0620、MP0610(いずれも無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体)、MH7020、MH7010(無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体)が挙げられる。第1の熱可塑性樹脂組成物が成分(1−c)を含む場合に、成分(1−c)の量は、成分(1−a)100質量部に対して好ましくは50〜300質量部、より好ましくは80〜250質量部である。
【0015】
好ましくは、第2組成物層を構成する熱可塑性樹脂組成物、すなわち第2の熱可塑性樹脂組成物は、第1の熱可塑性樹脂組成物との親和性や所望の引張弾性率比を構成するため、さらに疲労耐久性、耐熱性、加工性などの観点から、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体および変性エチレンビニルアルコール共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂(以下、「成分(2−a)」ともいう)を含む。第2の熱可塑性樹脂組成物に含めることのできるポリアミド系樹脂の例としては、成分(1−b)について例示したものが挙げられる。成分(2−a)として第2の熱可塑性樹脂組成物に含めることのできるポリアミド系樹脂としては、第1の熱可塑性樹脂組成物との親和性や所望の引張弾性率比を構成するため、さらに疲労耐久性、耐熱性、加工性などの観点から、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体およびナイロンMXD6がより好ましい。成分(2−a)として第2の熱可塑性樹脂組成物に含めることのできるポリビニルアルコールは好ましくはケン化度80%以上、好ましくは90%以上のものである。ケン化度が80%を下回る場合は成形時の熱安定性が悪くなり酢酸臭を発生したり、成形品にブツやゲルが発生する懸念がある。成分(2−a)として第2の熱可塑性樹脂組成物に含めることのできるエチレンビニルアルコール共重合体および変性エチレンビニルアルコール共重合体としては、成分(1−a)について先に記載したものを使用できる。
【0016】
第2の熱可塑性樹脂組成物は、連続相として上記の熱可塑性樹脂(2−a)を含み、分散相(不連続相)として連続相中に分散されたエラストマー成分(以下、「成分(2−b)」ともいう)を含むものであることが好ましい。かかる組成物は当該技術分野で熱可塑性エラストマーとして知られている。分散相を構成するエラストマー成分としては、熱可塑性樹脂(2−a)との親和性、疲労耐久性、加工時の熱安定性の観点から、ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムが好ましい。ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムは、例えばイソオレフィンとパラアルキルスチレンの共重合体をハロゲン化することにより製造することができる。イソオレフィンとパラアルキルスチレンの混合比、重合度、平均分子量、重合形態(ブロック共重合体、ランダム共重合体等)、粘度、置換ハロゲン原子の種類等は、特に限定されず、第2の熱可塑性樹脂組成物に要求される物性等に応じて当業者が選択することができる。成分(2−b)を構成するイソオレフィンの例としては、イソブチレン、イソペンテン、イソヘキセンなどが挙げられ、イソオレフィンとしてはイソブチレンが好ましい。成分(2−b)を構成するパラアルキルスチレンの例としては、パラメチルスチレン、パラエチルスチレン、パラプロピルスチレン、パラブチルスチレンなどが挙げられ、パラアルキルスチレンとしてはパラメチルスチレンが好ましい。成分(2−b)を構成するハロゲンの例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられ、ハロゲンとしては臭素が好ましい。特に好ましいハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムは臭素化イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体ゴムである。臭素化イソブチレン−パラメチルスチレン共重合体ゴムは、エクソンモービル・ケミカル社(ExxonMobil Chemical Company)からExxpro(登録商標)の商品名で入手することができる。第2の熱可塑性樹脂組成物が成分(2−b)を含む場合に、成分(2−b)の量は、成分(2−a)100質量部に対して好ましくは50〜250質量部、より好ましくは100〜200質量部である。成分(2−a)に対して成分(2−b)の量が少なすぎると、第2組成物層の疲労耐久性が不十分となり、逆に多すぎると、溶融時の流動性が低下することにより加工性が不十分となる。
【0017】
ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(成分(2−b))は、動的架橋されたものであることが好ましい。動的架橋により、連続相をなす熱可塑性樹脂中にエラストマー成分が分散した相構造を固定し疲労耐久性や加工性を向上することができる。動的架橋は、成分(2−a)と、成分(2−b)を、ポリアミド系樹脂(2−a)の融点以上の温度で、好ましくは架橋剤の存在下で、溶融混練することにより行うことができる。
【0018】
第2の熱可塑性樹脂組成物に使用できる架橋剤の種類および配合量は、動的架橋条件に応じて、当業者が適宜選択することができる。架橋剤の例としては、酸化亜鉛、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、酸化マグネシウム、m−フェニレンビスマレイミド、アルキルフェノール樹脂およびそのハロゲン化物、第二級アミン、例えばN−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンなどが挙げられる。なかでも酸化亜鉛、ステアリン酸、ステアリン酸亜鉛、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンが動的架橋のための架橋剤として好ましく使用できる。架橋剤が酸化亜鉛を含むことがより好ましい。架橋剤の量は、典型的には、ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体(2−b)100質量部に対して0.1〜12質量部が好ましく、より好ましくは1〜9質量部である。架橋剤の量が少なすぎると、動的架橋が不足し、ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体(2−b)の微分散を維持できず、疲労耐久性が低下する。逆に、架橋剤の量が多すぎると、混練または加工中にスコーチが起こる原因や、層状に加工した場合にフィッシュアイなどの外観不良が生じる原因となる。
【0019】
ポリアミド系樹脂(2−a)に対するハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(2−b)の相溶性を高めるために、相溶化剤として、例えば、酸無水物により変性されたオレフィン共重合体(例えば無水マレイン酸変性エチレン−エチルアクリレート共重合体などの無水マレイン酸変性エチレン−不飽和カルボン酸共重合体;例えば無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−ブテン−1共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−ヘキセン−1共重合体、無水マレイン酸変性エチレン−オクテン−1共重合体などの無水マレイン酸変性エチレン−α−オレフィン共重合体など)および酸無水物により変性されたスチレン−オレフィン共重合体(例えば無水マレイン酸変性スチレン−エチレン−ブチレン共重合体など)を、ポリアミド系樹脂(2−a)とハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(2−b)の溶融混練前にポリアミド系樹脂(2−a)および/またはハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(2−b)と予め混合または混練しても、あるいはこれらの成分(2−a)および(2−b)の溶融混練中に添加してもよい。かかる相溶化剤の配合量には、特に制限はないが、ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(2−b)の総質量を基準として典型的には5〜50質量%である。
【0020】
第1組成物層を構成する第1の熱可塑性樹脂組成物および第2組成物層を構成する第2の熱可塑性樹脂組成物には、上記の成分に加えて、可塑剤、加工助剤、酸化防止剤、老化防止剤、着色剤などの熱可塑性樹脂に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができる。これらの添加剤は、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量で使用できる。第2組成物層を構成する第2の熱可塑性樹脂組成物が、ハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴム(2−b)を含む場合には、補強剤(フィラー)、加硫剤または架橋剤、加硫促進剤または架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などの、タイヤ用、その他の用途に用いられるゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができる。ゴム用添加剤の量は、添加剤は、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量で使用できる。
【0021】
例えば、第1および第2の熱可塑性樹脂組成物には、加工性(混練性、成形性など)を高めるために、可塑剤を添加することができる。第1の熱可塑性樹脂組成物に添加することのできる可塑剤の種類および量は、成分(1−a)並びに存在する場合には成分(1−b)および(1−c)の種類および量に応じて当業者が適宜選択できる。同様に、第2の熱可塑性樹脂組成物に添加することのできる可塑剤の種類および量は、成分(2−a)および存在する場合には成分(2−b)の種類および量に応じて当業者が適宜選択できる。第1および第2の熱可塑性樹脂組成物に含めることのできる可塑剤の好ましい例としては、多価アルコール(エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ヘキサンジオール、ペンタエリスリトール、キシロール、ソルビトール等)、多価アルコールのエステル類(グリセリントリアセテート等)、アミド化合物(N−ブチルベンゼンスルホンアミド、N−メチルピロリドン等)、アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等)、安息香酸エステル類(パラオキシ安息香酸オクチル、パラオキシ安息香酸2−エチルヘキシル等)、フタル酸エステル類(フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル等)、リン酸エステル類(リン酸トリフェニル等)、および変性ウレタンプレポリマー(質量平均分子量400〜2000程度のもの)が挙げられる。第1の熱可塑性樹脂組成物には、その総質量を基準として典型的には0.5〜50質量%、好ましくは1〜10質量%の可塑剤を含めることができる。第2の熱可塑性樹脂組成物には、その総質量を基準として典型的には0.5〜50質量%、好ましくは5〜20質量%の可塑剤を含めることができる。
【0022】
第1および第2の熱可塑性樹脂組成物は、それぞれ、上記必須成分および任意の添加剤を、例えばニーダー、バンバリーミキサー、一軸混練押出機、二軸混練押出機等の熱可塑性樹脂組成物の調製に一般的に使用されている混練機を使用して溶融混練することによって調製できる。溶融混練は、その生産性の高さから二軸混練押出機を使用して行うことが好ましい。混練条件は、使用される必須成分および任意の添加剤のタイプおよび配合量などに応じるが、溶融混練温度の下限は、第1の熱可塑性樹脂組成物の場合には、成分(1−a)並びに使用される場合には成分(1−b)および(1−c)の溶融温度以上であればよく、溶融温度より20℃以上高い温度であることが好ましい。溶融混練温度は典型的には約180℃〜約300℃、好ましくは約190℃〜約260℃である。溶融混練時間(滞留時間)は、典型的には約30秒〜約10分、好ましくは約1分〜約5分である。
【0023】
本発明の積層体は、熱可塑性樹脂組成物から多層積層体を形成する方法として当該技術分野で周知の方法を使用して、第1および第2の熱可塑性樹脂組成物を成形することにより形成できる。例えば、第1の熱可塑性樹脂組成物の必須成分および任意成分を溶融混練することにより得られた溶融混練物と第2の熱可塑性樹脂組成物の必須成分および任意成分を溶融混練することにより得られた溶融混練物とを、次に、例えば二軸混練押出機の吐出口に取り付けられた共押出ダイから通常の共押出方法によりそれぞれ所望の厚さに共押出しすることにより本発明の積層体を得ることができる。あるいは、第1の熱可塑性樹脂組成物および第2の熱可塑性樹脂組成物をそれぞれ別々にストランド状に押出し、樹脂用ペレタイザーで一旦ペレット化した後、得られたペレットを、多層インフレーション成形法などの多層成形法により、それぞれ所望の厚さを有する複数の層から成る多層のフィルム状、チューブ状などの所望の形状および厚さを有する積層体に成形することができる。第1の熱可塑性樹脂組成物と、第2の熱可塑性樹脂組成物とを、共押出、インフレーション成形、ブロー成形などの公知の成形法により積層することによって、本発明の積層体を得ることもできる。必要に応じて、第1の熱可塑性樹脂組成物から成る層と第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層とから構成される積層体を、例えばタイヤ部材などの被着体に接着させるために、積層体の最外層(第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層)の接着面に接着剤層またはゴム層を適用してもよい。
【0024】
本発明の積層体を被着体に接着させるために使用できる接着剤としては、例えば、変性スチレン共重合体、例えば、エポキシ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、酸無水物基等の官能基を有する、スチレン−エチレン−プロピレン共重合体(SEP)、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SEBS)、スチレン−エチレン−ブタジエン共重合体(SEB)、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)と、加硫促進剤、加硫剤、粘着付与剤(タッキファイヤー)などから構成される、従来より熱可塑性組成物に使用されている任意の接着剤(例えば特開2005−68173号公報、特開2005−212452号公報に記載のもの)を挙げることができ、その適用方法及び量も従来通りとすることができる。接着剤層は、例えば、第1の熱可塑性樹脂組成物と、第2の熱可塑性樹脂組成物と、接着剤層を構成する接着剤とを、共押出、インフレーション成形、ブロー成形などの公知の成形法により積層することによって、積層体の最外層の接着面上に設けることができる。あるいは、接着剤の溶剤溶液を本発明の積層体の接着面に適用してもよい。
【0025】
本発明の積層体を被着体に接着させるために使用できるゴム層は、ジエン系ゴム、例えば天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、ハロゲン化ブチルゴム(例えば臭素化ブチルゴム(Br−IIR)、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)、エチレン−プロピレン共重合体ゴム(EPDM)及びスチレン系エラストマー(例えばスチレン−ブタジエンゴム(SBR)、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体(SIS)などから選ばれた少なくとも1種のゴム成分を含むゴム組成物から構成することができる。ゴム層を構成するゴム組成物には、前記ゴム成分に加えて、カーボンブラックやシリカなどのその他の補強剤(フィラー)、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用、その他のゴム組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とし、加硫又は架橋するのに使用することができる。これらの添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。
【0026】
本発明の積層体を構成する第1組成物層および第2組成物層は、上記のとおりの引張弾性率および厚さについての要件を満たす限り、任意の厚さを有することができるが、第1組成物層の厚さは典型的には1〜100μm、好ましくは5〜50μmであり、第2組成物層の厚さは典型的には5μm以上500μm未満、好ましくは10〜300μmである。第1および第2組成物層がかかる範囲の厚さを有する場合には、優れた気体透過防止性および耐久性を両立することができる。第1組成物層および第2組成物層の厚さが薄すぎると、十分な気体透過防止性を得ることができず、逆に第1組成物層および第2組成物層の厚さが厚すぎると、耐伸張疲労性および耐屈曲疲労性が低下し、総質量が増加するので好ましくない。
【0027】
好ましくは、本発明の積層体を構成する層のうち少なくとも1層は、温度30℃でJIS K7126−1(差圧法)に準拠して測定した場合に2.0×10-12cc・cm/cm2・sec・cmHg以下の空気透過係数を有する。かかる空気透過係数を有する層の存在によって、積層体は十分な空気圧保持性能を示すことができる。
【0028】
第1の熱可塑性樹脂組成物から成る層の少なくとも1つ、好ましくは全てが、温度25℃でJIS K6251に準拠して測定した場合に2000MPa以下の引張弾性率を有し、より好ましくは200MPa〜2000MPaの引張弾性率を有する。引張弾性率が2000MPaを超えると、耐伸張疲労性および耐屈曲疲労性が低下する懸念がるので好ましくない。
【0029】
本発明の積層体は、様々な用途に使用でき、例えば、空気入りタイヤ、ホース、防舷材、ゴム袋、燃料タンク等の、気体透過防止性および耐久性が必要とされる用途に使用できる。本発明の積層体は、優れた気体透過防止性に加えて優れた耐久性を示すため、空気入りタイヤのインナーライナー、ホースなどの用途に特に好適である。
【0030】
本発明の積層体をインナーライナーに用いた空気入りタイヤの製造方法としては、慣用の方法を用いることができる。例えば、所定の幅と厚さを有する本発明の積層体を得た後、それをタイヤ成型用ドラム上に円筒状に貼り着け、その上にカーカス層、ベルト層、トレッド層等のタイヤ部材を順次貼り重ね、タイヤ成型用ドラムからグリーンタイヤを取り外す。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加硫することにより、本発明の積層体をインナーライナーに用いた所望の空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0031】
以下に示す実施例及び比較例を参照して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【0032】
熱可塑性樹脂組成物A1〜A3の調製:
表1に示す原料を2軸混練押出機(日本製鋼所製のTEX44)に投入し、温度230℃および滞留時間3分間で混練した。混練物を押出機から連続的にストランド状に押出し、ストランド状押出物を水冷カッターで切断することにより、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物A1〜A3を得た。
【0033】
熱可塑性樹脂組成物B1およびB2の調製:
表2に示す原料のうちゴムおよび架橋剤(酸化亜鉛、ステアリン酸およびステアリン酸亜鉛)を密閉型バンバリーミキサー(神戸製鋼所製)にて100℃で2分間混合してゴムコンパウンドを作製し、ゴムペレタイザー(森山製作所製)によりペレット状に加工した。一方、樹脂(ナイロン6/66共重合体またはナイロン6/12共重合体)と可塑剤を2軸混練押出機(日本製鋼所製)にて250℃で3分間混練し、ペレット化し、得られた樹脂組成物と前記ゴムコンパウンドのペレットと変性ポリオレフィンを2軸混練押出機(日本製鋼所製)にて250℃で3分間混練した。混練物を押出機から連続的にストランド状に押出し、水冷カッターで切断することにより、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物のB1およびB2を得た。
【0034】
接着剤組成物Cの調製:
表3に示す各原料のペレットを2軸混練押出機(日本製鋼所製のTEX44)に投入し、120℃で3分間混練した。混練物を押出機から連続的にストランド状に押出し、ストランド状押出物を水冷カッターで切断することにより、ペレット状の接着剤組成物Cを得た。
【0035】
ゴム組成物の調製:
表4に示す原料を密閉型バンバリーミキサー(神戸製鋼所製)に投入し、60℃で3分間混合した。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【表3】

【0039】
【表4】

【0040】
熱可塑性樹脂積層体の作製
実施例1
上記の熱可塑性樹脂組成物A1、熱可塑性樹脂組成物B1および接着剤組成物を、組成物B1/組成物A1/組成物B1/接着剤組成物の順で積層(接着剤組成物層が外側)するように、インフレーション成形装置(プラコー製)を使用して230℃でチューブ状に押出し、空気を吹き込んで膨張させ、ピンチロールで折りたたみ、巻き取ることにより、チューブ状の積層体を得た。得られた積層体における熱可塑性樹脂組成物A1層の厚さは30μmであり、熱可塑性樹脂組成物B1層の厚さは100μmであり、接着剤組成物層の厚さは30μmであった。この積層体において、熱可塑性樹脂組成物A1層の厚さtA1と熱可塑性樹脂組成物B1層の厚さtB1の比tA1/tB1は0.30である。
【0041】
実施例2
熱可塑性樹脂組成物A1およびB1の代わりに熱可塑性樹脂組成物A2およびB2を使用したことを除いて実施例1と同様にインフレーション成形を行うことによって、組成物B2/組成物A2/組成物B2/接着剤組成物の順で積層(接着剤組成物層が外側)したチューブ状の積層体を得た。得られた積層体における熱可塑性樹脂組成物A2層および熱可塑性樹脂組成物B2層の厚さはいずれも50μmであり、接着剤組成物層の厚さは30μmであった。この積層体において、熱可塑性樹脂組成物A2層の厚さtA2と熱可塑性樹脂組成物B2層の厚さtB2の比tA2/tB2は1.0である。
【0042】
実施例3
熱可塑性樹脂組成物A1、熱可塑性樹脂組成物B1および接着剤組成物を組成物B1/組成物A1/組成物B1/組成物A1/組成物B1/接着剤組成物の順で積層(接着剤組成物層が外側)させたことを除いて実施例1と同様にインフレーション成形を行うことによって、チューブ状の積層体を得た。得られた積層体における熱可塑性樹脂組成物A1層の厚さは10μmであり、熱可塑性樹脂組成物B1層の厚さは50μmであり、接着剤組成物層の厚さは30μmであった。この積層体において、熱可塑性樹脂組成物A1層の厚さtA1と熱可塑性樹脂組成物B1層の厚さtB1の比tA1/tB1は0.20である。
【0043】
実施例4
熱可塑性樹脂組成物A2、熱可塑性樹脂組成物B2および接着剤組成物を組成物B2/組成物A2/組成物B2/組成物A2/組成物B2/組成物A2/組成物B2/接着剤組成物の順で積層(接着剤組成物層が外側)させたことを除いて実施例2と同様にインフレーション成形を行うことによって、チューブ状の積層体を得た。得られた積層体における熱可塑性樹脂組成物A2層の厚さは10μmであり、熱可塑性樹脂組成物B2層の厚さは25μmであり、接着剤組成物層の厚さは30μmであった。この積層体において、熱可塑性樹脂組成物A1層の厚さtA2と熱可塑性樹脂組成物B1層の厚さtB2の比tA2/tB2は0.40である。
【0044】
実施例5
熱可塑性樹脂組成物A1およびB1の代わりに熱可塑性樹脂組成物A3およびB2を使用したことを除いて実施例1と同様にインフレーション成形を行うことにより、組成物B2/組成物A3/組成物B2/接着剤組成物の順で積層(接着剤組成物層が外側)したチューブ状の積層体を得た。得られた積層体における熱可塑性樹脂組成物A3層の厚さは5μmであり、熱可塑性樹脂組成物B2層の厚さは50μmであり、接着剤組成物層の厚さは30μmであった。この積層体において、熱可塑性樹脂組成物A3層の厚さtA3と熱可塑性樹脂組成物B2層の厚さtB2の比tA3/tB2は0.10である。
【0045】
実施例6
熱可塑性樹脂組成物A1および熱可塑性樹脂組成物B1を、組成物B1/組成物A1/組成物B1の順で積層するように、インフレーション成形装置(プラコー製)を使用して230℃でチューブ状に押出し、空気を吹き込んで膨張させ、ピンチロールで折りたたみ、巻き取ることにより、チューブ状の積層体を得た。得られた積層体における熱可塑性樹脂組成物A1層の厚さは30μmであり、熱可塑性樹脂組成物B1層の厚さは200μmであった。次に、上記接着剤組成物の10質量%トルエン溶液を調製し、組成物B1/組成物A1/組成物B1の積層体の片面(すなわち2つの組成物B1層のうちの片方の表面)に刷毛塗り(乾燥塗布厚15μm)、片面に接着剤組成物層を有する積層体を得た。この積層体において、熱可塑性樹脂組成物A1層の厚さtA1と熱可塑性樹脂組成物B1層の厚さtB1の比tA1/tB1は0.15である。
【0046】
実施例7
熱可塑性樹脂組成物A1および熱可塑性樹脂組成物B1を、実施例6と同様にインフレーション成形することによって、チューブ状の積層体を得た。得られた積層体における熱可塑性樹脂組成物A1層の厚さは30μmであり、熱可塑性樹脂組成物B1層の厚さは100μmであった。次に、上記ゴム組成物を厚さ1mmのシート状に成形し、得られたシートを積層体の片面に貼り付けて、片面にゴム組成物層を有する積層体を得た。この積層体において、熱可塑性樹脂組成物A1層の厚さtA1と熱可塑性樹脂組成物B1層の厚さtB1の比tA1/tB1は0.30である。
【0047】
比較例1
熱可塑性樹脂組成物A1および熱可塑性樹脂組成物B1層の厚さを変えたことを除いて実施例1と同様にインフレーション成形を行うことによって、チューブ状の積層体を得た。得られた積層体における熱可塑性樹脂組成物A1層の厚さは50μmであり、熱可塑性樹脂組成物B1層の厚さは10μmであり、接着剤組成物層の厚さは30μmであった。この積層体において、熱可塑性樹脂組成物A1層の厚さtA1と熱可塑性樹脂組成物B1層の厚さtB1の比tA1/tB1は5.0である。
【0048】
比較例2
熱可塑性樹脂組成物A1および熱可塑性樹脂組成物B1層の厚さを変えたことを除いて実施例1と同様にインフレーション成形を行うことによって、チューブ状の積層体を得た。得られた積層体における熱可塑性樹脂組成物A1層の厚さは30μmであり、熱可塑性樹脂組成物B1層の厚さは500μmであり、接着剤組成物層の厚さは30μmであった。この積層体において、熱可塑性樹脂組成物A1層の厚さtA1と熱可塑性樹脂組成物B1層の厚さtB1の比tA1/tB1は0.06である。
上記のように得られた実施例1〜7および比較例1〜2の積層体を下記の試験により評価した。
試験法
(1)引張弾性率
熱可塑性樹脂組成物A1〜A3およびB1〜B2をそれぞれ厚さ1.0mmのシート状に成形し、JIS K6251に準拠して、JIS3号ダンベル形試験片を作製し、温度25℃、引張り速度500mm/minの条件で測定した応力−歪曲線の初期直線部分の傾きから引張弾性率(MPa)を求めた。さらに、実施例1〜7および比較例1〜2の積層体について、各積層体を構成する熱可塑性樹脂組成物A1、A2またはA3の引張弾性率(EA1、EA2またはEA3)と熱可塑性樹脂組成物B1またはB2の引張弾性率(EB1またはEB2)との比を求めた(例えば、実施例1の積層体の場合には、熱可塑性樹脂組成物A1の引張弾性率EA1と熱可塑性樹脂組成物B1の引張弾性率EB1の比EA1/EB1を求めた)。
(2)空気透過性
熱可塑性樹脂組成物A1〜A3およびB1〜B2をそれぞれ厚さ0.1mmのシート状に成形し、JIS K7126−1(差圧法)に準拠して、温度30℃で空気透過係数(cc・cm/cm2・sec・cmHg)を求めた。
(3)タイヤでの積層体の耐久性
インナーライナーとして、上記の積層体を、接着剤組成物層もしくはゴム組成物が外側(ドラムの反対側)になるようにタイヤ成形用ドラム上に配置する。その上に未加硫ゴムからなるカーカス層、ベルト層、トレッド層等の通常のタイヤ製造に用いられる部材を順次貼り重ね、ドラムを抜き去ってグリーンタイヤとする。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加熱加硫することにより195/65 R 15サイズのタイヤを作成した。得られたタイヤをリム15×6JJ、内圧200kPaとして、排気量1800ccのFF乗用車に装着し、実路上を30,000km走行した。その後、タイヤをリムから外し、タイヤの内面に配置された積層体を観察し、クラックの有無を調べ、下記の基準で積層体の耐久性を評価した。
良:クラックがない。
可:クラックが10個未満存在する。
不可:クラックが10個以上存在する。(タイヤ実用上は問題はない)
試験結果を下記表5に示す。
【0049】
【表5】

【0050】
表5に示した試験結果から、異なる組成を有する熱可塑性樹脂組成物を交互に積層して積層体を形成した場合に、積層体が本発明の範囲内の層厚比および引張弾性率比を有する場合に、優れた疲労耐久性を示すことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の積層体は、気体透過防止性および疲労耐久性に優れているので、例えば、空気入りタイヤのインナーライナーの薄膜化が可能になり、その結果、タイヤの軽量化と高い空気圧保持性能の両立を実現することができる。また、本発明の積層体は、空気入りタイヤのほか、ホース、防舷材、ゴム袋、燃料タンク等の、気体透過防止性および疲労耐久性を必要とするゴム積層体のバリア材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の第1の熱可塑性樹脂組成物から成る層と、少なくとも2層の第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層とを、最外層が第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層となるように交互に積層して成る積層体であって、第1の熱可塑性樹脂組成物はエチレンビニルアルコール共重合体および変性エチレンビニルアルコール共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種を含み、第2の熱可塑性樹脂組成物は第1の熱可塑性樹脂組成物と異なる組成を有し、任意の隣接する第1の熱可塑性樹脂組成物から成る層と第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層との対において、第1の熱可塑性樹脂組成物から成る層の引張弾性率および厚さをそれぞれE1およびt1と表し、第2の熱可塑性樹脂組成物から成る層の引張弾性率および厚さをそれぞれE2およびt2と表すと、比E1/E2は1よりも大きくかつ10以下であり、かつ、比t1/t2は0.1以上かつ1以下であることを特徴とする積層体。
【請求項2】
第1の熱可塑性樹脂組成物が、さらに、ポリアミド系樹脂およびポリビニルアルコールからなる群から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
ポリアミド系樹脂が、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体、ナイロンMXD6およびこれらの組み合わせから成る群から選ばれる請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
第2の熱可塑性樹脂組成物が、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体および変性エチレンビニルアルコール共重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性樹脂を含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
ポリアミド系樹脂が、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン6/66共重合体、ナイロン6/12共重合体、ナイロンMXD6およびこれらの組み合わせから成る群から選ばれる請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
第1の熱可塑性樹脂組成物が酸無水物変性エチレン−α−オレフィン共重合体を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項7】
第2の熱可塑性樹脂組成物がハロゲン化イソオレフィン−パラアルキルスチレン共重合体ゴムを含む請求項1〜6のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
前記積層体を構成する層のうち少なくとも1層が、温度30℃でJIS K7126−1に準拠して測定した場合に2.0×10-12cc・cm/cm2・sec・cmHg以下の空気透過係数を有する、請求項1〜7に記載の積層体。
【請求項9】
第1の熱可塑性樹脂組成物から成る層の全てが、温度25℃でJIS K6251に準拠して測定した場合に2000MPa以下の引張弾性率を有する、請求項1〜8に記載の積層体。
【請求項10】
第2の熱可塑性樹脂組成物の層の全てが500μm未満の厚さを有する、請求項1〜9に記載の積層体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の積層体をインナーライナーに用いた空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−20509(P2012−20509A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160521(P2010−160521)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】