説明

積層体鉄心の締結力決定方法および積層体鉄心の製造方法

【課題】電磁鋼板を積層した積層体鉄心において、積層間のすべり摩擦による減衰効果を利用して低振動にするために、積層間に適切な滑り摩擦を発生させるような締結力を的確に決定することができる積層体鉄心の締結力決定方法およびそれによる積層体鉄心の製造方法を提供する。
【解決手段】電磁鋼板を用いて積層体鉄心を構成し、異なる締結力の下で、1N〜1000Nの範囲内の機械的加振力で加振し、積層体鉄心の1個所以上の振動レベルを計測し、その振動レベルの計測結果を元に、振動レベルと締結力との関係を求めることにより、積層体鉄心を励磁した後に騒音を低減する締結力を決定する、積層体鉄心の締結力決定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁鋼板を積層した積層体鉄心の締結力決定方法およびそれによる積層体鉄心の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁鋼板の中でも、Siを含有し、かつ結晶方位が(110)[001]方位に配向した方向性珪素鋼板は優れた軟磁気特性を有することから商用周波数域での各種鉄心材料として広く用いられている。
【0003】
しかし、そのような電磁鋼板には励磁に伴う磁歪があり、電磁鋼板を積層して製造した鉄心(積層体鉄心)を励磁すると、電磁鋼板の磁歪によって振動(面外曲げ振動)が生じ、騒音源となる。そこで、積層体鉄心を用いて変圧器(トランス)を製造する場合、騒音の発生を抑えるために、一般に磁歪の小さい電磁鋼板を鉄心材料として使用する。しかし、磁歪の小さい電磁鋼板を使用しているにもかかわらず、変圧器の騒音レベルが要求仕様を満たせない場合がある。
【0004】
その原因の多くは、変圧器の積層体鉄心の固有振動と電磁鋼板の磁歪振動の共振現象である。すなわち、積層体鉄心の励磁電力が外力となって強制振動が生じ、励磁周波数が積層体鉄心の固有振動数と一致した場合に共振して大きな振幅となる。このため、積層体鉄心の固有振動数に着目して変圧器を設計する方法が検討されてきた。
【0005】
もし、積層体鉄心の固有振動と電磁鋼板の磁歪振動が共振する場合には、その共振を回避するために、積層体鉄心の固有振動数が変化するように、積層体鉄心の剛性(ばね定数)に関するパラメータを変更することになる。例えば、積層体鉄心の固定条件を調整あるいは変更したり、電磁鋼板の積層枚数を変更したりする。
【0006】
なお、積層体鉄心の固有振動数を測定する方法については、例えば特許文献1に記載されている。これは励磁周波数を段階的に変化させて、その際に積層体鉄心が発生する騒音を測定することで、積層体鉄心の固有振動数を知るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−82778号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、電磁鋼板を積層した積層体鉄心は複雑な構造物であり、騒音の対象となりうる50Hz〜20kHzの周波数帯域に無数の固有振動数を有する。一般に、複数の固有振動数を有する構造物の特定の固有振動数のみを変化させることは困難であり、剛性を変化させると固有振動数全体がシフトする。このため、積層体鉄心の剛性を変更させる方法では、ある固有振動数成分の固有振動と磁歪振動との共振を回避させても、別の固有振動数成分の固有振動が磁歪振動とあらたに共振する可能性が極めて高い。そして、そもそも現実の変圧器の設計では、積層体鉄心の固有振動以外の要求仕様もあるため、積層体鉄心の剛性を変更するのは容易ではない。
【0009】
単純なモデルとして、図8に1自由度振動系の場合の周波数応答特性(縦軸:ゲイン、横軸:周波数)と、1質点系モデルにおける各パラメータとの関係を模式的に示す。一般に、共振を回避するためには、図8(a)に示すような剛性UP(ばね定数kを大きくする)や、図8(b)に示すような剛性DOWN(ばね定数kを小さくする)といった策がとられる。しかしながら、上述したように、積層体鉄心の場合は、剛性の変更によって使用周波数における共振を回避する方法は、現実には困難さが伴う。
【0010】
そこで、積層体鉄心における振動対策として、発明者は、図8(c)に示すような、減衰UP(減衰係数cを大きくする)という策を考えた。この方法では固有振動数は変化しないが、振動振幅を低下させることができる。さらに、発明者は、積層間(積層体鉄心を構成する電磁鋼板間)の滑り摩擦を利用して減衰係数を増大させることで、振動振幅を顕著に低減できることを見出した。
【0011】
その詳細なメカニズムを図9に示す。ここで、図9の左側の各グラフは積層体鉄心からなる変圧器に掛かる外力(磁歪)のパターン(縦軸:磁歪、横軸:時間)を、また中央の各グラフは、締結力(後述)に応じた変圧器の周波数応答関数(縦軸:応答振幅(ゲイン)、横軸:周波数)を示す。さらに、図9の右側の各グラフは、前記外力が前記周波数応答関数を有する変圧器に作用した場合の、トランス振動(面外曲げ振動)のパターン(縦軸:鉄心振動の振幅、横軸:時間)を示す。
【0012】
積層体鉄心の場合、電磁鋼板を積層しただけでは形状を固定できないため、締結手段(鋼材によるクランプなど)によって固定する。締結手段による固定に際し積層方向に圧縮力が働くが、これを締結力と呼んでいる。
【0013】
図9(a)のように、締結力が弱い場合には、積層間の摩擦が小さいため、外力の作用によって各電磁鋼板が互いにズレる方向へ動き、全体として積層体としての剛性が低下する。しかし、この場合、固有振動数がシフトするだけで、その振動振幅そのものに大きな変化はない。しかも、複数の固有振動数がシフトするため、低剛性化によって、それまで問題でなかった別の共振が発生する場合もある。
【0014】
逆に、図9(c)のように、締結力が大きすぎる場合には、積層間の摩擦が大きくなり、積層体が一体物の剛体のように振舞うため、積層体としての剛性が高くなる。しかし、この場合も、固有振動数がシフトするだけで、その振動振幅そのものに大きな変化はない。低剛性化の場合と同じく、それまで問題でなかった別の共振が発生する場合もある。
【0015】
これに対して、図9(b)のように、適切な締結力が選択された場合、積層間に適度な滑り摩擦が発生する。滑り摩擦は減衰作用があるため、積層構造物の減衰要素が強化されたことになり、固有振動数に変化はなくとも、その振動振幅が大幅に低下する。
【0016】
以上のようなメカニズムにより、積層間に適切な滑り摩擦を発生させるような締結力を決定することで、低振動の積層体鉄心を製造することが可能となる。そして、その低振動の積層体鉄心を用いることによって、低騒音の変圧器を製造することが可能となる。ただし、実機や従来の実験設備において適正な締結力を的確に決定することは困難である。
【0017】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、電磁鋼板を積層した積層体鉄心において、積層間のすべり摩擦による減衰効果を利用して低振動にするために、積層間に適切な滑り摩擦を発生させるような締結力を的確に決定することができる積層体鉄心の締結力決定方法、およびそれによる積層体鉄心の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明は以下の特徴を有する。
【0019】
[1]電磁鋼板を用いて積層体鉄心を構成し、異なる締結力の下で、1N〜1000Nの範囲内の機械的加振力で加振し、積層体鉄心の1個所以上の振動レベルを計測し、その振動レベルの計測結果を元に、振動レベルと締結力との関係を求めることにより、積層体鉄心を励磁した後に騒音を低減する締結力を決定することを特徴とする積層体鉄心の締結力決定方法。
【0020】
なお、振動レベルとは振動の大きさを表す指標で、変位、速度、加速度の少なくともいずれの計測(計測結果に基づく演算処理も含む)により得るものとする。計測の方法は以下に例示されるが、これに限定されず、既知の振動解析手法を適用することができる。
【0021】
[2]前記振動レベルとして、測定箇所の時系列波形の振幅RMS値または振幅最大値を各々計算し、当該振幅RMS値または振幅最大値の代表値あるいは平均値を用いることを特徴とする前記[1]に記載の積層体鉄心の締結力決定方法。
【0022】
[3]前記振動レベルとして、測定箇所の時系列波形を周波数解析し、加振周波数のN倍の周波数成分の総和を各々計算し、その代表点の値あるいは平均値を用いることを特徴とする前記[1]に記載の積層体鉄心の締結力決定方法。
【0023】
[4]前記振動レベルとして、測定箇所の時系列波形を周波数解析し、加振周波数のN倍の周波数成分の総和を各々計算して、その代表点の値あるいは平均値をWoutとし、また加振力を周波数解析し、加振周波数のN倍の周波数成分の総和を計算してFinとして、その比であるWout/Finを用いることを特徴とする前記[1]に記載の積層体鉄心の締結力決定方法。
【0024】
[5]前記[1]〜[4]のいずれかに記載の積層体鉄心の締結力決定方法を用いて締結力を決定し、その決定した締結力で締結して積層体鉄心を製造することを特徴とする積層体鉄心の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明においては、電磁鋼板を積層した積層体鉄心について、積層間のすべり摩擦による減衰効果を利用して低振動とするための、積層間に適切な滑り摩擦を発生させるような締結力を的確に決定することができる。これにより、低振動の積層体鉄心を製造することが可能となる。そして、その低振動の積層体鉄心を用いることによって、低騒音の変圧器を製造することが可能となる。
【0026】
加えて、積層体鉄心における積層間のすべり摩擦現象は部分モデルや小型モデルで確認できるため、実物規模の大型モデルを製作することなく、低コストで適正な締結力を決定することができる。
【0027】
従来は、図10(a)に示すように、積層体鉄心および変圧器を製造した後、振動・騒音が大きい場合には、試行錯誤で締結力を調整していた。これに対して、本発明では、図10(b)に示すように、事前に使用状態に応じた適正な締結力を求めておき、その適正な締結力で積層体鉄心および変圧器を製造できるので、低振動・低騒音となり、締結力の調整が不要である。
【0028】
また、従来の方法では締結力と振動との相関を得ることが困難であったが、本発明においては容易に詳細かつ正確な相関を得ることができる。このため、本発明では、現状の締結力からの、騒音の改善余地の有無や潜在的な改善幅が容易に把握でき、変圧器の設計に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態1を示す図である。
【図2】本発明の実施形態2を示す図である。
【図3】本発明の実施形態3を示す図である。
【図4】本発明の実施例1〜3における積層体鉄心を示す図である。
【図5】本発明の実施例1における締結力の評価・決定を示す図である。
【図6】本発明の実施例2における締結力の評価・決定を示す図である。
【図7】本発明の実施例3における締結力の評価・決定を示す図である。ここで、(a)は振動レベルを加速度で評価した結果を示し、(b)は振動レベルを速度で評価した結果を示し、(c)は振動レベルを変位で評価した結果を示す。
【図8】本発明の基本的考え方を説明するために、1自由度振動系における周波数応答特性への剛性および減衰係数の影響を示す図である。
【図9】本発明の基本メカニズムを示す図である。
【図10】本発明の基本コンセプトを説明するために、従来法との締結力決定手順の相違を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明では、電磁鋼板を積層した積層体鉄心において、積層間のすべり摩擦による減衰効果を利用して低振動にするために、積層間に適切な滑り摩擦を発生させるような適正な締結力を決定するようにしている。
【0031】
そして、そのようにして決定した締結力で、積層した電磁鋼板を締結して積層体鉄心を製造するようにしている。
【0032】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0033】
[実施形態1]
図1に示すように、ベークライト12を介してばね13によって締結力を調整できる積層体鉄心(小型モデルあるいは部分モデルが好ましい)11を用意する。そして、信号発生器21によって生成された波形で加振機22によって、所定の機械的加振力で加振する。ここで、前記所定の機械的加振力は、被測定対象の積層体鉄心11が実際の使用において問題となり得る振動条件等により決定されるものであり、一般的には1N〜1000Nの範囲から選択される。なお、加振力はロードセル23によって測定する。振動センサ24によって変位あるいは速度あるいは加速度を測定し(非加振時を零点とする)、時系列波形を得る。得られた時系列波形を解析し、RMS値(二乗平均平方根)、あるいは振幅における最大値を、振動の代表値あるいは平均値(複数の測定点または複数の測定回数の算術平均値)として得ることができる(これを振動レベルとする)。
【0034】
そして、締結力を変化させ、振動の代表値(RMS値あるいは振幅の最大値)を順次計測すれば、振動レベルと締結力との関係が明らかとなる。振動の平均値においても同様である。こうして、積層体鉄心の使用状況に応じた適正な締結力が決定される。
【0035】
[実施形態2]
図2に示すように、ベークライト12を介してばね13によって締結力を調整できる積層体鉄心(小型モデルあるいは部分モデル)11を用い、信号発生器21によって生成された正弦波fHzで加振機22によって所定の機械的加振力で加振する。ここで、前記所定の機械的加振力は、被測定対象の積層体鉄心(小型モデルあるいは部分モデル)11が実際の使用において問題となり得る振動条件等により決定されるものであり、一般的には1N〜1000Nの範囲から選択される機械的加振力となる。なお、加振力はロードセル23によって測定する。
【0036】
そして、振動センサ24によって変位あるいは速度あるいは加速度を測定し、時系列波形を得る(非加振時を零点とする)。得られた時系列波形を周波数解析器25で周波数解析し、周波数成分のうちfHzのN倍成分(N=1,2,3,・・・)の総和Woutを振動の代表値として得る(これを振動レベルとする)。なお、複数点計算する場合または複数回測定する場合は平均をとればよい。
【0037】
そして、締結力を変化させ、振動の代表値(Wout)を順次計測すれば、振動レベルと締結力との関係が明らかとなる。こうして、積層体鉄心の使用状況に応じた適正な締結力が決定される。
【0038】
実施形態2の方法は実施形態1の方法に比べ、選定される加振力に依存して生じる、振幅レベルのばらつきを解消することができる。
【0039】
[実施形態3]
図3に示すように、ベークライト12を介してばね13によって締結力を調整できる積層体鉄心(小型モデルあるいは部分モデル)11を用い、信号発生器21によって生成された正弦波fHzで加振機22によって上記実施形態2と同様に所定の機械的加振力で加振する。
【0040】
そして、振動センサ24によって変位あるいは速度あるいは加速度を測定し、時系列波形を得る(非加振時を零点とする)。得られた時系列波形を周波数解析器25で周波数解析し、周波数成分のうちfHzのN倍成分(N=1,2,3,・・・)の総和Woutを得る。なお、複数点計算する場合または複数回測定する場合は平均をとればよい。Woutを計算すると同時に、加振力をロードセル23で測定し、加振力の時系列波形を得る。得られた時系列波形を周波数解析器26で周波数解析し、周波数成分のうちfHzのN倍成分(N=1,2,3,・・・)の総和Finを得る。そして、Wout/Finを振動の代表値(振動レベル)とする。
【0041】
そして、締結力を変化させ、振動の代表値(Wout/Fin)を順次計測すれば、振動レベルと締結力との関係が明らかとなる。こうして、積層体鉄心の使用状況に応じた適正な締結力が決定される。
【0042】
実施形態3の方法は実施形態2の方法と同様の利点を有し、さらに実施形態2の方法に比べ、加振機22の加振力の変動(ゆらぎや経時変化)による振動レベルへの影響を相殺することができる。
【実施例1】
【0043】
本発明の実施例1を示す。この実施例1では、上記の本発明の実施形態1によって適正な締結力を求めた。
【0044】
図4は、この実施例1で用いた小型の積層体鉄心11を示すものである。この積層体鉄心は図示の通り、4辺を構成する各小片と、中央部を構成する小片の、合計5個の小片を突き合せ、ステップラップ積み方式で積層したものである。ここで、L1=500mm、L2=500mm、L3=100mm、L4=100mmであり、厚さ0.2mmの電磁鋼板を70枚積層している。電磁鋼板は一般的な方向性電磁鋼板を用いている。なお、Siの含有量は2.0〜4.5質量%である。
【0045】
加振位置はL1の側の辺の中点とし、振動レベルの測定位置は各辺と中央部小片上で等間隔で3点ずつ、合計15点選択した。
【0046】
図5は、締結力を変化させた場合の振動平均値のグラフである。振動平均値としては、30Nの加振力(周波数f=100Hzの正弦波)により振動センサで測定した加速度のRMS値の15点平均値とした。
【0047】
図5に示すように、締結力が6N/cmの場合が低振動であるため、適正な締結力は6N/cmと決定された。
【0048】
なお、締結力を変化させた場合の振動平均値としてRMS値の代わりに振動の最大値を求めて平均し、その値が最も小さくなる締結力を採用することもできる。
【実施例2】
【0049】
本発明の実施例2を示す。この実施例2では、上記の実施形態2によって適正な締結力を求めた。
【0050】
この実施例2でも、実施例1と同寸法の積層体鉄心11を用い、電磁鋼板も一般的な方向性電磁鋼板を用いている。また加振位置、加振周波数および振動レベルの測定位置も実施例1と同様とした。なお、Siの含有量は2.0〜4.5質量%である。
【0051】
図6は、締結力を変化させた場合の振動代表値のグラフである。振動代表値としては、20Nの加振力により振動センサで測定して得られた加速度の時系列波形における周波数成分のうちのfHzのN倍成分の総和Woutとした。なお、Woutは15点の加速度周波数成分から計算後、平均化したものを採用した。
【0052】
図6に示すように、締結力が6N/cmの場合が低振動であるため、適正な締結力は6N/cmと決定された。ここで、加振力を30N、40Nと変化させて同様に測定を行ったところ、グラフは上下にシフトするが、図6に示した場合と同様に締結力が6N/cmの場合が低振動であった。
【実施例3】
【0053】
本発明の実施例3を示す。この実施例3では、上記の実施形態3によって適正な締結力を求めた。
【0054】
この実施例3でも、実施例1、2と同寸法の積層体鉄心11を用いたが、電磁鋼板には実施例1、2よりも低鉄損のものを使用した。なお、Siの含有量は2.0〜4.5質量%である。加振位置、加振周波数および振動レベルの測定位置については実施例1および2と同様とした。
【0055】
図7(a)は、締結力を変化させた場合の振動代表値のグラフである。20Nの加振力で15点の加速度(m/s)と加振力(N)を周波数解析して得られたWout/Fin((m/s)/N)を振動代表値とした。なお、Woutは15点の加速度周波数成分から計算後、平均化したものを採用した。
【0056】
図7(a)に示すように、締結力が8N/cmの場合が低振動であるため、適正な締結力は8N/cmと決定された。ここで、加振力を30N、40Nと変化させて同様に測定を行ったところ、グラフは上下にシフトするが、図7(a)に示した場合と同様に締結力が8N/cmの場合が低振動であった。
【0057】
図7(b)、図7(c)は、同様に、速度(m/s)、変位(m)を周波数解析して得られたWout/Fin(((m/s)/N)または(m/N))を振動代表値としたものである。なお、Woutは15点の速度または変位の周波数成分から計算後、平均化したものを採用した。速度、変位で評価した場合も図7(b)、図7(c)に示すように、締結力が8N/cmの場合が低振動であるため、適正な締結力は8N/cmと決定された。
【0058】
以下、上記各実施形態を含む、本発明に共通の事項を補足する。
【0059】
積層体鉄心に用いられる代表的な電磁鋼板は質量%でSi:2.0〜4.5%を含むことを特徴とする。ただし、本発明は電磁鋼板の仕様(被覆の仕様も含む)に影響されることはほとんどないので、この組成に限定されることはなく、また種類(例えば方向性電磁鋼板、無方向性電磁鋼板)も限定されない。例えば、鉄心への要求特性を満足するなら、一般冷延鋼板を電磁鋼板として流用することも可能である。電磁鋼板の寸法や形状、積層体鉄心の寸法や形状、積層方法(積層枚数や電磁鋼板の組合せ方など)も本発明の適用にとくに影響するものではない。
【0060】
加振の周波数は所定の値に固定することが好ましい。所定の値としては、対象となる積層体鉄心の使用周波数が好ましく、使用周波数に幅がある場合は代表周波数を少なくとも1つ選定して用いることが好ましい。例えば、商用周波数である50Hzおよび60Hzの少なくとも1方に固定することが考えられる。ただし、使用周波数に限定されることはなく、例えば他の積層体鉄心との比較のために、統一された周波数を選定してもよい。実現できる周波数である限り(例えば前述の50Hz〜20kHz)、周波数の絶対値にとくに制限は無い。加振の波形は正弦波が好適であるが、三角波、矩形波など他の周期的波形の適用を排除するものではない。
【0061】
積層体鉄心上の加振位置および振動レベル計測位置は任意に設定でき、原則としてどの位置でも結果を得ることができる。
【0062】
得られた振動レベルと締結力との関係から積層体鉄心を励磁(磁化)した後に(すなわち当該鉄心の通電使用時に)騒音を低減する締結力を決定する際には、例えば振動レベルが最低となる締結力を測定点の中から選択すればよい。ただし、図5〜7から分かるように、滑り摩擦による振動低減効果が表れる領域では、締結力の変化に対して振動レベルの変化が凹型となり、この領域内(例えば図5や図6では5〜7N/cm程度、図7(a)〜(c)では6〜8N/cm程度の領域内)では、本発明で見出した騒音低減効果が十分発現しているものと考えられる。したがって、振動レベルの最低値に拘らず、得られた振動レベルと締結力との関係から、滑り摩擦による振動・騒音低減効果が発現する締結力領域を特定し、諸要件を考慮して当該領域から適宜締結力を選択することもできる。
【0063】
締結力を変化させる範囲は、対象となる積層体鉄心において可能な範囲、通常の範囲、あるいはこれらから適宜抽出した範囲が例示される。締結力を変化させる範囲および変化の刻み量は、得られた振動レベルと締結力との関係から、上記のように滑り摩擦による振動・騒音低減効果が発現する締結力領域を有る程度特定できるよう選択すればよい。一般には5〜20N/cm程度の範囲から適宜選択することが好ましい。
【0064】
振動レベルとして例えば変位、速度および加速度の2つ以上を採用してもよい。もし振動レベルと締結力との関係が振動レベルの選択により異なる場合、実際に積層体鉄心を製造した結果に基づき最も適正な関係を判定すればよい。
【0065】
なお、締結力を変更したことによる共振ピークの移動の影響(例えばピーク位置が測定周波数に近接することによる振動レベルの増大)は、発明者の調査した限りでは明確には観察されなかった。すなわち、もともと複雑に重なり合っている共振ピークの位置が移動する影響より、本発明の滑り摩擦による振動レベルの減衰効果の方が支配的に現れるものと考えられるが、このような知見も従来得られなかったものである。
【0066】
言うまでも無いが、本発明は上記の実施形態や実施例に限定されるものではない。例えば、締結力を付与する機構は図1〜3のばね等に限定されず自由である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明により、積層体鉄心の振動・騒音を低減する、比較的簡便でありながら精度が高く、かつ汎用性の高い方法が提供される。
【符号の説明】
【0068】
11 積層体鉄心(モデル)
12 ベークライト
13 ばね
21 信号発生器
22 加振機
23 ロードセル
24 振動センサ
25 周波数解析器
26 周波数解析器
k 1自由度振動系におけるばね係数(1質点系モデルによる)
c 1自由度振動系における減衰係数(1質点系モデルによる)
m 1自由度振動系における質点の質量(1質点系モデルによる)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼板を用いて積層体鉄心を構成し、異なる締結力の下で、1N〜1000Nの範囲内の機械的加振力で加振し、積層体鉄心の1個所以上の振動レベルを計測し、その振動レベルの計測結果を元に、振動レベルと締結力との関係を求めることにより、積層体鉄心を励磁した後に騒音を低減する締結力を決定することを特徴とする積層体鉄心の締結力決定方法。
【請求項2】
前記振動レベルとして、測定箇所の時系列波形の振幅RMS値または振幅最大値を各々計算し、当該振幅RMS値または振幅最大値の代表値あるいは平均値を用いることを特徴とする請求項1に記載の積層体鉄心の締結力決定方法。
【請求項3】
前記振動レベルとして、測定箇所の時系列波形を周波数解析し、加振周波数のN倍の周波数成分の総和を各々計算し、その代表点の値あるいは平均値を用いることを特徴とする請求項1に記載の積層体鉄心の締結力決定方法。
【請求項4】
前記振動レベルとして、測定箇所の時系列波形を周波数解析し、加振周波数のN倍の周波数成分の総和を各々計算して、その代表点の値あるいは平均値をWoutとし、また加振力を周波数解析し、加振周波数のN倍の周波数成分の総和を計算してFinとして、その比であるWout/Finを用いることを特徴とする請求項1に記載の積層体鉄心の締結力決定方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の積層体鉄心の締結力決定方法を用いて締結力を決定し、その決定した締結力で締結して積層体鉄心を製造することを特徴とする積層体鉄心の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−93333(P2012−93333A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32827(P2011−32827)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【特許番号】特許第4840535号(P4840535)
【特許公報発行日】平成23年12月21日(2011.12.21)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】