説明

積層体

【課題】 本発明の目的は、積層体形成時に用いる接着剤等から発生するホルムアルデヒドなどの揮発性有害物質を遮断し、雰囲気中への揮発性有害物質の揮散行を防止し、且つ可塑剤を含む塩化ビニル樹脂からなる保護層からの可塑剤移行の防止、或いは滲出可塑剤による汚れ防止に優れ、特に壁紙用途に有用な積層体を提供することである。
【解決手段】 ポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)の混合物から形成されたフィルム(P1)又はポリカルボン酸系重合体(A)と金属化合物(C)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)を原料として形成されたフィルム(P2)を繊維基材層、揮発性有害物質を含有する接着剤から形成された接着剤層、可塑剤を含有した塩化ビニル樹脂の保護層からなる積層体の保護層の表面側に配置した積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカルボン酸系重合体を原料としてなるフィルムを用いた積層体に関し、更に詳しくは積層体形成時に用いる接着剤等から発生する揮発性有害物質を遮断し、且つ可塑剤を含む塩化ビニル樹脂からなる保護層からの可塑剤移行の防止、或いは可塑剤による汚れ防止に優れ、特に壁紙用途に有用な積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築内装用の壁紙や家具等の仕上げ用の化粧シート、事務用品、文房具、自動車用の内装用資材、農業用資材、日用雑貨などの広範囲に、資材の一部或いは全体としてプラスチックフィルムが使われている。これらのプラスチックフィルムは、物性の調整のために可塑剤が用いられ、他の材料と接着剤により貼り合わされている。これらの可塑剤及び接着剤に起因して、可塑剤の滲出、汚染、接着剤に含まれるホルムアルデヒドなどの揮発性有害物質の雰囲気中への逸散が近時問題視されている。特許文献1は、可塑剤を含有するポリ塩化ビニル系フィルムの片面にエチレン含量20〜60モル%、ケン化度95%以上のエチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物からなり、厚さ2〜50μの層を有する積層体により、可塑剤の表面への移行、滲出の実質的に無い可塑化ポリ塩化ビニル積層体を記載している。特許文献2は、熱可塑性樹脂(A)層とアセトアセチル基含有エチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物(B)層を積層してなる積層体を開示している。この積層体は、ホルムアルデヒドを効率良く低減させ、室内へのホルムアルデヒドの移行が防止でき、かつ塩化ビニル系樹脂フィルム等からの可塑剤移行防止性に優れていることを記載している。特許文献3は、合板表面を、ポリオレフィン系フィルム又はポリエステル系樹脂層からなる遮断層で表面仕上げをした揮発性物質の発生を遮断する合板を開示している。
これらの文献に見られるように接着剤、可塑剤を用いた場合の問題点を解決する種々の試みがなされている。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−224542号公報(請求項1)
【特許文献2】特開平11−300902号公報(請求項1及び[0006])
【特許文献3】特開2000−303573号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、積層体形成時に用いる接着剤等から発生するホルムアルデヒドなどの揮発性有害物質を遮断し、雰囲気中への揮発性有害物質の揮散を防止し、且つ可塑剤を含む塩化ビニル樹脂からなる保護層からの可塑剤移行の防止、或いは滲出可塑剤による汚れ防止に優れ、特に壁紙用途に有用な積層体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
積層体形成時に用いる接着剤及び塩化ビニル樹脂からなる保護層が含有する可塑剤による前記問題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、ポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)の混合物から形成されたフィルム(P1)又はポリカルボン酸系重合体(A)と金属化合物(C)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)を原料として形成されたフィルム(P2)が揮発性有害物質、特にホルムアルデヒドを遮断し、可塑剤の浸透を防ぐことを見い出し、本発明の積層体を完成するに至った。
即ち、本発明の第1は、ポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)の混合物から形成されたフィルム(P1)又はポリカルボン酸系重合体(A)と金属化合物(C)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)を原料として形成されたフィルム(P2)を繊維基材層、揮発性有害物質を含有する接着剤から形成された接着剤層、可塑剤を含有した塩化ビニル樹脂の保護層からなる積層体の保護層の表面側に配置した積層体を提供する。本発明の第2は、揮発性有害物質がホルムアルデヒドである前記第1の発明の積層体を提供する。本発明の第3は、フィルム(P1)又は(P2)が、30℃、相対湿度80%の条件で測定した酸素透過係数が1000cm3(STP)・μm/m2・day・MPa以下である前記第1又は第2の発明の積層体を提供する。本発明の第4は、フィルム(P2)が、ポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)及び金属化合物(C)の反応生成物から形成されたフィルムであり、分子内にエステル結合及びイオン結合を有する前記第1〜第3のいずれかの発明の積層体を提供する。
【0006】
本発明の第5は、フィルム(P2)がポリカルボン酸系重合体(A)から形成された層(a)と金属化合物(C)から形成された層(c)とが隣接した層構成を少なくとも1つ有する多層フィルムである前記第1〜第3のいずれかの発明の積層体を提供する。本発明の第6は、層(a)がポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)の混合物から形成された前記第5の発明の積層体を提供する。本発明の第7は、フィルム(P2)の赤外線吸収スペクトルのピーク比(A1560/A1700)が0.25以上である前記第1〜6のいずれかの発明の積層体を提供する。本発明の第8は、フィルム(P2)がポリカルボン酸系重合体(A)と金属化合物(C)の混合物から形成された単層フィルムである前記第1〜3又は7のいずれかの発明の積層体を提供する。本発明の第9は、金属化合物(C)が多価金属化合物である前記第1〜8のいずれかの発明の積層体を提供する。本発明の第10は、フィルム(P1)又はフィルム(P2)が基材の片側に接着剤層を介し、又は介することなく接着されており、基材の他の面が保護層の表面側に接着剤層を介し、又は介することなく接着している前記第1〜9のいずれかの発明の積層体を提供する。本発明の第11は、フィルム(P1)又はフィルム(P2)が保護層の表面側に接着剤層を介し、又は介することなく接着している前記第1〜9のいずれかの発明の積層体を提供する。本発明の第12は、繊維基材層が不織布、アスベスト、紙、ガラス繊維、繊維、布から選ばれる前記第1〜11のいずれかの発明の積層体を提供する。本発明の第13は、壁紙用途である前記第1〜12のいずれかの発明の積層体を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、揮発性有害物質、特にホルムアルデヒドの浸透・揮散を防止し、可塑剤の移行を抑え、積層体表面への可塑剤の滲出による汚れを防止した積層体を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の積層体に用いられるポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)の混合物から形成されたフィルム(P1)又はポリカルボン酸系重合体(A)と金属化合物(C)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)を原料として形成されたフィルム(P2)は、いずれも公知のフィルムである。
これらは、特開平6−220221号公報、特開平7−102083号公報、特開平7−165942号公報、特開平8−39716号公報、特開平8−39717号公報、特開平8−41218号公報、特開平10−23718お号公報、特開2000−931号公報、WO 03/091317号公報に開示されたフィルムである。本発明の積層体は、これらの先行文献に記載又は示唆されていないフィルムの用途として開発されたものである。
【0009】
本発明で用いるポリカルボン酸系重合体(A)は、既存のポリカルボン酸系重合体を用いることができるが、既存のポリカルボン酸系重合体とは、分子内に2個以上のカルボキシ基を有する重合体及びポリカルボン酸系重合体の部分中和物を含めた総称である。具体的には、重合性単量体として、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸を用いた単独重合体、単量体成分として、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなり、それらの少なくとも2種の共重合体、またα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸と他のエチレン性不飽和単量体との共重合体、更にアルギン酸、カルボキシメチルセルロース、ペクチンなどの分子内にカルボキシ基を有する酸性多糖類を例示することができる。これらのポリカルボン酸系重合体(A)は、それぞれ単独で、又は少なくとも2種のポリカルボン酸系重合体(A)を混合して用いることができる。
【0010】
ここでα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸等が代表的なものである。またそれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル等の飽和カルボン酸ビニルエステル類、アルキルアクリレート類、アルキルメタクリレート類、アルキルイタコネート類、アクリロニトリル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、スチレン等が代表的なものである。ポリカルボン酸系重合体(A)がα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸と酢酸ビニル等の飽和カルボン酸ビニルエステル類との共重合体の場合には、更にケン化することにより、飽和カルボン酸ビニルエステル部分をビニルアルコールに変換して使用することができる。
【0011】
また、本発明で用いるポリカルボン酸系重合体(A)が、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸とその他のエチレン性不飽和単量体との共重合体である場合には、得られるフィルムのガスバリア性の観点から、その共重合組成は、α,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸単量体組成が60モル%以上であることが好ましい。より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、最も好ましくは100モル%、即ち、ポリカルボン酸系重合体(A)がα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなる重合体であることが好ましい。更にポリカルボン酸系重合体(A)がα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸のみからなる重合体の場合には、その好適な具体例は、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマール酸、クロトン酸からなる群から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体の重合によって得られる重合体、及びそれらの混合物が挙げられる。好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸から選ばれる少なくとも1種の重合性単量体の重合によって得られる重合体、共重合体、及び/又はそれらの混合物を用いることができる。より好ましくは、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸、及びそれらの混合物を用いることができる。ポリカルボン酸系重合体(A)がα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸単量体の重合体以外の例えば、酸性多糖類の場合には、アルギン酸を好ましく用いることができる。ガスバリア性能がある程度以上であるフィルム(P1)及びフィルム(P2)は、揮発性有害物質の揮散防止効果及び可塑剤の移行防止性能を有することが、本発明者らにより見出されている。明確な理由は不明であるが、本発明に係わるフィルム(P1)及びフィルム(P2)の有するエステル結合及び/又はイオン結合が複雑な架橋構造を与えていることに関係するものと考えられる。
従って、本発明においては、酸素ガスバリア性を揮発性有害物質の揮散防止効果及び可塑剤の移行防止性能の目安として記述する。
【0012】
ポリカルボン酸系重合体(A)の数平均分子量については、特に限定されないが、フィルム形成性の観点で2,000〜10,000,000の範囲であることが好ましく、更に5,000〜1,000,000であることが好ましい。
【0013】
本発明で用いるフィルム(P1)又は(P2)を構成する重合体として、ポリカルボン酸系重合体(A)以外にもフィルムのガスバリア性を損なわない範囲で他の重合体を混合して用いることが可能であるが、ポリカルボン酸系重合体(A)のみを単独で用いることが好ましい。
【0014】
本発明に用いるフィルムの原料となるポリカルボン酸系重合体(A)は、フィルムに成形したときのガスバリア性の観点から、それ単独のフィルム状成形物(乾燥皮膜)について、乾燥条件下(30℃、相対湿度0%)で測定した酸素透過係数が、好ましくは1000cm3(STP)・μm/(m2・day・MPa)以下、更に好ましくは500cm3(STP)・μm/(m2・day・MPa)以下であり、最も好ましくは100cm3(STP)・μm/(m2・day・MPa)以下のものを使用する。
【0015】
ポリカルボン酸系重合体の部分中和物は、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸のカルボキシル基をアルカリで部分的に中和する(即ち、カルボン酸塩とする)ことにより得ることができる。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、水酸化アンモニウムなどが挙げられる。部分中和物は、通常、ポリ(メタ)アクリル酸の水溶液にアルカリを添加し、反応させることにより得ることができる。この部分中和物は、アルカリ金属塩又はアンモニウム塩などである。このアルカリ金属塩は1価の金属又はアンモニウムイオンとして成形物層に含まれる。ポリ(メタ)アクリル酸の部分中和物を用いると、塗膜成形物である乾燥皮膜の熱による着色を抑えることがあり得るので、場合によりこれを用いることが望ましい。
【0016】
ポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)の混合物から形成されるフィルム(P1)の酸素ガスバリア性は、フィルム作成時の熱処理条件及び用いた両ポリマーの混合割合を一定にした場合、用いた(A)の中和度の影響を受けることが分かっている。(A)としてポリ(メタ)アクリル酸を用いた場合と比較して、用いるポリ(メタ)アクリル酸を部分中和することで、得られるフィルムの酸素ガスバリア性は向上する傾向にある。更に中和度を増加すると、フィルムの酸素ガスバリア性は極大値(酸素透過度の極小値)を経て低下する傾向にある。中和度が20%を越える場合には、未中和のポリ(メタ)アクリル酸を用いた場合よりもフィルムの酸素ガスバリア性は低下するとされている。従って、酸素ガスバリア性の観点から、本発明の積層体を構成するフィルム(P1)又は(P2)を形成するのに用いるポリ(メタ)アクリル酸は、通常未中和物か中和度20%以下の部分中和物を用いることが望ましい。更に好ましくは、未中和物か中和度15%以下、更に好ましくは中和度1〜13%の部分中和物を用いることが望ましい。
ポリ(メタ)アクリル酸とアルカリの量比を調節することにより、所望の中和度とすることができる。ポリ(メタ)アクリル酸の部分中和物の中和度は、得られるフィルムの酸素ガスバリア性の程度を基準として、選択することが好ましい。尚、中和度は、式:中和度(%)=(N/N0)×100と定義し、求めることができる。ここで、Nは部分中和されたポリ(メタ)アクリル酸1g中の中和されたカルボキシル基のモル数、N0は部分中和する前のポリ(メタ)アクリル酸1g中のカルボキシル基のモル数である。
【0017】
本発明で用いるポリアルコール類(B)は、分子内に2個以上の水酸基を有する低分子化合物からアルコール系重合体までを含み、ポリビニルアルコール(PVA)や糖類及び澱粉類を含むものである。前記分子内に2個以上の水酸基を有する低分子量化合物としては、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ペンタエリトリトール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを例示できる。また、PVAはケン化度が通常95%以上、好ましくは98%以上であり、平均重合度が通常300〜1500である。また、ポリ(メタ)アクリル酸系ポリマーとの相溶性の観点からビニルアルコールを主成分とするビニルアルコールとポリ(メタ)アクリル酸との共重合体を用いることもできる。糖類としては、単糖類、オリゴ糖類及び多糖類を使用する。これらの糖類には、特開平7−165942号公報に記載のソルビトール、マンニトール、ズルシトール、キシリトール、エリトリトール等の糖アルコールや各種置換体・誘導体なども含まれる。これらの糖類は、水及びアルコール、或いは水とアルコールの混合溶剤に溶解性のものが好ましい。
【0018】
澱粉類は、前記多糖類に含まれるが、本発明で使用される澱粉類としては、小麦澱粉、トウモロコシ澱粉、モチトウモロコシ澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、米澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉などの生澱粉(未変性澱粉)のほか、各種の加工澱粉がある。加工澱粉としては、物理的変性澱粉、酵素変性澱粉、化学分解変性澱粉、化学変性澱粉、澱粉類にモノマーをグラフト重合したグラフト澱粉などが挙げられる。これらの澱粉類の中でも、例えば、馬鈴薯澱粉を酸で加水分解した水に可溶性の加工澱粉が好ましい。更に好ましくは、澱粉の末端基(アルデヒド基)を水酸基に置換することにより得られる糖アルコールである。澱粉類は、含水物であってもよい。また、これらの澱粉類は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
ポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)の混合物から形成されるフィルム(P1)のポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)との混合比(重量比)は、高湿度条件下でも優れた酸素ガスバリア性を有する成形物を得るという観点から、好ましくは99:1〜20:80、更に好ましくは95:5〜40:60、最も好ましくは95:5〜50:50である。尚、ポリカルボン酸系重合体(A)としては、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸とポリ(メタ)アクリル酸の部分中和物の混合物、又はポリ(メタ)アクリル酸の部分中和物の各々をポリアルコール類(B)と混合して用いることができる。
【0020】
本発明の積層体は、大別すると保護層の表面層側に配置されるフィルムがポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)の混合物から形成されるフィルム(P1)である場合又はポリカルボン酸系重合体(A)と金属化合物(C)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)を原料として形成されたフィルム(P2)である場合とがある。ここで、「ポリカルボン酸系重合体(A)と金属化合物(C)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)を原料として形成されたフィルム(P2)」とは、ポリカルボン酸系重合体(A)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)からなる層(a)と金属化合物(C)からなる層(c)とが隣接した層構成を少なくとも1つ有する多層フィルムと、ポリカルボン酸系重合体(A)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)と金属化合物(C)の反応生成物から形成された単層フィルムを含めた意味で用いられる。
フィルム(P2)を構成する原料については、前記原料の説明に加えて、更に以下の原料が必要となる。
【0021】
金属化合物(C)は、ナトリウム、リチウム、カリウムなどの1価の金属イオンを与えるアルカリ金属、金属イオンの価数が2以上の多価金属原子単体、及びその化合物である。多価金属の具体例としては、ベリリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、チタン、ジルコニウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛などの遷移金属、アルミニウム等を挙げることができる。多価金属化合物の具体例としては、前記、多価金属の酸化物、水酸化物、炭酸塩、有機酸塩、無機酸塩、その他、多価金属のアンモニウム錯体や多価金属の2〜4級アミン錯体とそれら錯体の炭酸塩や有機酸塩等が挙げられる。有機酸塩としては、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、ステアリン酸塩、モノエチレン性不飽和カルボン酸塩等が挙げられる。無機酸塩としては、塩化物、硫酸塩、硝酸塩等を挙げることができる。それ以外には多価金属のアルキルアルコキシド等を挙げることができる。
【0022】
これらの金属化合物(C)はそれぞれ単独で、また少なくとも2種の金属化合物を混合して用いることができる。それらの中でも、本発明で用いる金属化合物(C)としては、積層体を構成するフィルム(P2)がポリカルボン酸系重合体(A)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)と金属化合物(C)の混合物からから形成された単層フィルムの場合は、フィルム(P2)のガスバリア性及び製造性の観点で2価の多価金属化合物が好ましく用いられる。更に好ましくは、アルカリ土類金属、及びコバルト、ニッケル、銅、亜鉛の酸化物、水酸化物、炭酸塩やコバルト、ニッケル、銅、亜鉛のアンモニウム錯体とその錯体の炭酸塩を用いることができる。最も好ましくは、マグネシウム、カルシウム、銅、亜鉛の各酸化物、水酸化物、炭酸塩、及び銅もしくは亜鉛のアンモニウム錯体とその錯体の炭酸塩を用いることができる。また、本発明を構成するフィルム(P2)のガスバリア性を損なわない範囲で、1価の金属からなる金属化合物、例えばポリカルボン酸系重合体の1価金属塩を混合して、又は含まれたまま用いることができる。1価の金属化合物の好ましい添加量は、前記フィルム(P1)又は(P2)のガスバリア性の観点で、ポリカルボン酸系重合体(A)のカルボキシ基に対して、0.2化学当量以下である。1価の金属化合物は、部分的にポリカルボン酸系重合体の多価金属塩の分子中に含まれていてもよい。
【0023】
金属化合物(C)の形態は、特別限定されない。しかし後述するように、本発明に係わるフィルム中では、多価金属化合物の一部、又は全部がポリカルボン酸系重合体(A)のカルボキシ基と塩を形成している。
従って、本発明に係わるフィルム中にカルボン酸塩形成に関与しない多価金属化合物が存在する場合、又は、フィルムがポリカルボン酸系重合体(A)からなる層(a)と多価金属化合物からなる金属化合物(C)の層(c)が隣接した少なくとも1つの層構成からなる多層フィルム、或いはポリカルボン酸系重合体(A)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)、金属化合物(C)を含む混合物からなる単層フィルム場合には、フィルムの透明性の観点で多価金属化合物は、粒状で、その粒径が小さい方が好ましい。また、後述する本発明に係わるフィルムを作成するためのコーティング混合物を調製する上でも、調製時の効率化、及びより均一なコーティング混合物を得る観点で多価金属化合物は粒状で、その粒径は小さい方が好ましい。多価金属化合物の平均粒径としては、好ましくは5μm以下、更に好ましくは1μm以下、最も好ましくは0.1μm以下である。
【0024】
揮発性塩基(D)は、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モルフォリン、エタノールアミンが挙げられる。ポリカルボン酸系重合体(A)と多価の金属化合物(C)は水溶液中では、容易に反応し、不均一な沈殿を形成することがあるため、ポリカルボン酸系重合体(A)と多価の金属化合物(C)と溶媒として水からなる、均一な混合物を得るために、揮発性塩基を混合する。均一な混合物の分散液、又は溶液を得るために必要な揮発性塩基(D)の量はポリカルボン酸系重合体(A)中のカルボキシ基に対して1化学当量以上が好ましい。しかし多価の金属化合物(C)がコバルト、ニッケル、銅、亜鉛の酸化物、水酸化物、炭酸塩であるような場合には、1化学当量以上の揮発性塩基(D)を加えることにより、それら金属が揮発性塩基(D)と錯体を形成し、ポリカルボン酸系重合体(A)と多価の金属化合物(C)と揮発性塩基(D)、及び溶媒として水からなる透明、均一な溶液が得られる。揮発性塩基(D)の好適な添加量は、ポリカルボン酸系重合体(A)中の全ての、カルボキシ基に対して、1.0化学当量以上、10化学当量以下であることが更に好ましい。揮発性塩基(D)としては、アンモニアが好ましく用いられる。
【0025】
本発明を構成するフィルム(P2)において、ポリカルボン酸系重合体(A)の量に対する金属化合物(C)の量は、フィルムのガスバリア性の観点で、フィルムがポリカルボン酸系重合体(A)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)からなる層(a)と金属化合物(C)からなる層(c)が隣接した層構成を少なくとも1つ有する場合は、互いに隣接する全ての層(a)及び層(c)の合計を基準として、それらの層中に含まれるカルボキシ基の合計(At)に対する金属化合物(C)の合計(Ct)が0.2化学当量以上であること、即ち、それらの層中に含まれるカルボキシ基の合計(At)に対する金属化合物(C)の合計(Ct)の化学当量が0.2以上であることが好ましい。金属化合物(C)として多価金属化合物含む混合物からなる場合も、ポリカルボン酸系重合体(A)の全てのカルボキシ基に対して、0.2化学当量以上の量の多価金属化合物を含むことが好ましい。金属化合物(C)の量は、上記の両方のフィルムについて、更に好ましくは0.5化学当量以上、上記観点に加え、フィルムの成形性や透明性の観点から、0.8化学当量以上、10化学当量以下、最も好ましくは、1化学当量以上5化学当量以下の範囲である。
【0026】
ここで、前記の層(a)と層(c)が隣接した層構成をとる場合の「カルボキシ基の合計」、或いは、ポリカルボン酸系重合体(A)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)、金属化合物(C)を含む混合物からなる単層フィルムの場合の「全てのカルボキシ基」とは、反応に関与しなかったポリカルボン酸のカルボキシ基、及びポリカルボン酸系重合体と金属化合物とが反応して生成するポリカルボン酸の金属塩となるカルボキシ基を含めた意味で用いられている。これらのポリカルボン酸塩は、互いに隣接する層(a)、層(c)を一体とした多層フィルム又はポリカルボン酸系重合体(A)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)、金属化合物(C)を含む混合物からなる単層フィルムの赤外線吸収スペクトルの測定により確認できる。
【0027】
本発明を構成するフィルム(P2)は好ましくは赤外線吸収スペクトルのピーク比(A1560/A1700)が0.25以上を有する。ここで、フィルムの赤外線吸収スペクトルのピーク比(A1560/A1700)は、ピーク高さの比(A1560/A1700)である。フィルム(P2)は、WO03/091317A1号公報により開示されており、A1560は、カルボキシ基の塩(-COO-)に帰属される1560cm-1のC=O伸縮振動の赤外線吸収スペクトルの吸収ピーク高さである。即ち、通常カルボン酸塩(-COO-)に帰属されるC=O伸縮振動は、1600cm-1〜1500cm-1の赤外光波数領域に1560cm-1付近に吸収極大を有する吸収ピークを与える。
【0028】
また、A1700は、前記A1560とは分離独立した赤外線吸収ピークであり、カルボキシ基(-COOH)に帰属される1700cm-1のC=O伸縮振動の赤外線吸収スペクトルのピーク高さである。即ち、通常、カルボキシ基(-COOH)に帰属されるC=O伸縮振動は、1800cm-1〜1600cm-1の赤外光波数領域に1700cm-1付近に吸収極大を有する吸収ピークを与える。フィルムの吸光度は、フィルム中に存在する赤外活性を持つ化学種の量と比例関係にある。従って、赤外線吸収スペクトルのピーク比(A1560/A1700)は、フィルム中で多価金属と塩を形成したカルボキシ基の塩(-COO-)と遊離カルボキシ基(-COOH)の量比を表す尺度として代用することができる。
【0029】
また、本発明を構成するフィルムを形成するとき用いるポリカルボン酸系重合体(A)がα,β-モノエチレン性不飽和カルボン酸とその他のアルキルアクリレートやアルキルメタクリレート等、不飽和カルボン酸エステルとの共重合体の場合には、そのエステル結合(−COO−R:Rはアルキル基)に帰属するC=O伸縮振動も、カルボキシ基同様、1800cm-1〜1600cm-1の赤外光波数領域に1730cm-1付近に吸収極大を有する吸収ピークを与える。従って、それら共重合体の赤外線吸収スペクトルのピークには、カルボン酸に由来するカルボキシ基、及びエステル結合に由来する二つのC=O伸縮振動が含まれる。ただしこの場合でも、ピーク高さの比(A1560/A1700)をとることで、エステル結合に由来する吸収の影響を除くことができる。
【0030】
更に本発明を構成するフィルムに、フィルムのガスバリア性を損なわない範囲で、1価の金属からなる金属化合物を混合して用いた場合には、カルボン酸の1価金属(-COO-)に帰属されるC=O伸縮振動は、1600cm-1〜1500cm-1の赤外光波数領域に1560cm-1付近に吸収極大を有する吸収ピークを与える。従って、この場合には、赤外線吸収ピーク中のカルボン酸の1価金属塩とカルボン酸多価金属塩に由来する二つのC=O伸縮振動が含まれる。このような場合にも、前記同様、ピーク比(A1560/A1700)は、カルボキシ基の多価金属塩(-COO-)と遊離カルボキシ基(-COOH)の量比を表す尺度としてそのまま用いる。
ここで、本発明を構成するフィルムにおける、赤外線吸収スペクトルのピーク比(A1560/A1700)は、0.25以上であるが、フィルムのガスバリア性の観点から、ピーク比は1.0以上であることが好ましく、4.0以上であることが、更に好ましい。
【0031】
赤外線吸収スペクトルのピーク比(A1560/A1700)から、下記の式(1)で定義したイオン化度を計算することができる。このイオン化度は、ポリカルボン酸系重合体(A)中の全ての、遊離カルボキシ基とカルボキシ基の塩の総数に対する、カルボン酸塩の数の割合であり、ピーク比(A1560/A1700)と比較して、より厳密な化学種の量比として求めることができる。
(イオン化度) = Y/X 式(1)
式中Xは、フィルム1g中のポリカルボン酸系重合体に含まれる全てのカルボニル炭素(カルボキシ基、及びカルボキシ基の塩に帰属する)のモル数、Yはフィルム1g中のポリカルボン酸系重合体に含まれるカルボキシ基の塩に帰属するカルボニル炭素のモル数
本発明に係るフィルムのイオン化度は、0.2以上の範囲が好ましい。イオン化度の定義上その上限値は1である。
本発明のフィルムのガスバリア性の観点でイオン化度は、0.5以上であることが更に好ましく、より好ましくは、0.8以上である。
【0032】
フィルムの赤外線吸収スペクトルのピーク比(A1560/A1700)を測定することにより、予め作成した検量線を用いてフィルムのイオン化度を計算することができる。検量線は、ポリカルボン酸系重合体を予め既知量の水酸化ナトリウムで中和し、例えば基材上に塗工することにより、コーティングフィルム状の標準サンプルを作成する。標準サンプル中のカルボキシ基(−COOH)及びカルボキシ基の塩(−COO−Na+)に帰属するカルボニル炭素のC=O伸縮振動は、赤外吸収スペクトルを測定することにより分離検出することができる。両吸収ピークの極大吸収波数における吸光度比(ピークの高さの比)を求める。ポリカルボン酸系重合体を予め既知量の水酸化ナトリウムで中和しているため、重合体中のカルボキシ基(−COOH)及びカルボキシ基の塩(−COO−Na+)のモル比(数の比)は既知である。従って、先ず水酸化ナトリウムの量を変えて数種の標準サンプルを調製し、赤外線吸収スペクトルを測定する。次に前記の吸光度比と既知のモル比との関係を回帰分析することにより検量線を作成することができる。その検量線を用いることにより、未知試料の赤外吸収スペクトル測定結果から、試料中のカルボキシ基(−COOH)及びカルボキシ基の塩(−COO-)のモル比が求まる。その結果から、全てのカルボキシ基のカルボニル炭素(カルボキシ基、及びカルボキシ基の塩に帰属する)の総数に対する、カルボキシ基の塩に帰属するカルボニル炭素数の比(イオン化度)を求めることができる。尚、赤外線吸収スペクトルは、カルボキシ基の化学構造に由来し、塩の金属種による影響は殆ど受けない。
【0033】
赤外線吸収スペクトルの測定は、例えばPERKIN−ELMER社製FT−IR2000を用いて行うことができる。具体的には、試料フィルムの赤外線吸収スペクトルを透過法、ATR法(減衰全反射法)、KBrペレット法、拡散反射法、光音響法(PAS法)等で測定し、前記両吸収スペクトルのピーク高さ(極大吸収波数における)又はピーク面積を計測し、両者の比を求めることができる。赤外線吸収スペクトルの測定は、簡便性の観点から透過法、及びATR法が好ましい。
【0034】
特開平10−237180号公報では、ポリ(メタ)アクリル酸(A)とポリアルコール系ポリマー(B)及び金属(C)を原料とした反応生成物からなり、分子内に遊離カルボン酸構造とエステル構造及びカルボン酸の金属塩の構造を有する樹脂組成物からなるガスバリア性フィルムを記載している。このガスバリア性フィルムは、本発明を構成するポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)及び金属化合物(C)の反応生成物から形成されたフィルムであり、分子内にエステル結合及びイオン結合を有するフィルム(P2)として用いることができる。このガスバリア性フィルムは、該公報の請求項12によれば30℃、相対湿度80%の条件で測定した酸素透過係数が3.40×10-13cm3(STP)・cm/m2・s・Pa以下(293.8cm3(STP)・μm/m2・day・MPa以下)であるとされている。因みに本発明に用いるフィルム(P1)又は(P2)は、30℃、相対湿度80%の条件で測定した酸素透過係数が好ましくは、1000cm3(STP)・μm/m2・day・MPa以下である。
【0035】
前記文献によれば、分子内にエステル結合が存在することは、該ガスバリア性フィルム中に、含まれるポリ(メタ)アクリル酸(A)由来のカルボキシル基の炭素・酸素二重結合及びエステル結合を形成した炭素・酸素二重結合のC=O伸縮振動が重なり合った1800cm-1〜1600cm-1の範囲で、1705cm-1付近に極大吸収波数を持つ吸収スペクトルを与えること、赤外線スペクトルを加工して、エステル結合を形成している炭素・酸素二重結合のC=O伸縮振動のみを単離し、これと単離前のエステル結合を形成したC=O伸縮振動及び遊離カルボキシル基のC=O伸縮振動の両者を含む吸収スペクトルとを比較することにより定量することができることを記載している。方法としては、スペクトルの波形を解析することによるピーク分離法又は得られたフィルムの赤外線吸収スペクトルから、カルボキシル基由来の炭素・酸素二重結合のみを含む化合物であるポリ(メタ)アクリル酸の吸収スペクトルを差し引く差スペクトル法により測定できることが具体的に記載されている。
また、フィルム中に含まれるポリ(メタ)アクリル酸由来のカルボン酸陰イオン(−COO-)の炭素・酸素二重結合は、1600cm-1〜1500cm-1の範囲で1560cm-1付近で極大吸収波数を持つ吸収スペクトルを与えることが記されている。しかしながら、本発明に係わるフィルム(P2)については、赤外線吸収スペクトルのピーク比(A1560/A1700)は、0.25以上であれば好ましい。
【0036】
本発明において用いられる基材(支持体)は、フィルムを被膜状に成形する成形性の確保、被膜状に成形されたフィルムの支持を目的としている。支持体の材料としては特に制限はなく、金属類、ガラス類、紙類、プラスチック類等が使用可能である。本来ガスが透過しない金属、ガラス等においてもその欠陥部分のガスバリア性を補償する目的で支持体としての使用が可能である。支持体の形態については、特に限定はないが、フィルム状、シート状の形態が挙げられる。
【0037】
基材がプラスチック類である場合、その種類は特に限定されないが、具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチルペンテン、環状ポリオレフィン等のポリオレフィン系重合体やそれらの共重合体、及びその酸変性物、ポリ酢酸ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物、ポリビニルアルコール等の酢酸ビニル系共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの芳香族ポリエステル系重合体やその共重合体、ポリε−カプロラクトン、ポリヒドロキシブチレート、ポリヒドロキシバリレートなどの脂肪族ポリエステル系重合体やその共重合体、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12、ナイロン6,66共重合体、ナイロン6,12共重合体、メタキシレンアジパミド・ナイロン6共重合体などのポリアミド系重合体やその共重合体、ポリエチレングリコール、ポリエーテルスルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイドなどのポリエーテル系重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等の塩素系、及びフッ素系重合体やその共重合体、ポリメチルアクリレート、ポリエチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系重合体やその共重合体、ポリイミド系重合体やその共重合体、その他塗料用に用いるアルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、硝化綿、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂などの樹脂、更に、セルロース、澱粉、プルラン、キチン、キトサン、グルコマンナン、アガロース、ゼラチンなどの天然高分子化合物などを用いることができる。それらプラスチック類からなる、未延伸シート、延伸シート、未延伸フィルム、延伸フィルムを支持体として用いることができる。尚、フィルム(P1)又は(P2)が基材の片側に接着層を介し、又は介することなく接着されて、基材の他の面が保護層の表面に接着層を介し、又は介することなく接着され、保護層の他の面は揮発性有害物質を含有する接着剤から形成された接着剤層を介し繊維基材層に接着した本発明の積層体を形成することもある。
【0038】
また、前記、基材の高分子フィルムからなるシート、フィルムの表面上に酸化珪素、酸化アルミニウム、アルミニウム、窒化珪素などの無機化合物、金属化合物からなる薄膜を蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーディング法により形成した支持体として用いることができる。一般的にこれら、無機化合物、金属化合物からなる薄膜は、ガスバリア性の付与を目的に用いられる。しかしその使用環境、例えば、高温水蒸気の影響や熱水の影響などによっては、薄膜中にピンホールやクラックが発生し、ガスバリア性が損なわれることがある。そこでフィルム(P1)をこれら無機蒸着層上に積層し、例えば、高分子フィルム(基材)/無機蒸着膜/フィルム(P1)/塩化ビニル樹脂シート/接着剤層/繊維基材層の様な層構成の積層体として用いることもできる。
【0039】
本発明に用いられる可塑剤を含有する塩化ビニル樹脂の保護層は、建築内装用の壁紙や家具等を保護する意味とそれらの化粧シートとしての役割を有するものである。特に壁紙は、不織布、アスベスト、紙、ガラス繊維、繊維、布から選ばれる繊維基材層の表面を保護すると共に、美観の観点から、繊維基材層の表面に可塑剤を含有する塩化ビニル樹脂の保護層が接着剤を介して積層される。この保護層は、透明性、難燃性、コストの点で、塩化ビニル樹脂からなっている。
【0040】
塩化ビニル樹脂に添加される可塑剤は、常温(20℃)で液状を示す、フタール酸ジブチル、フタール酸ジ−2−エチルヘキシル、フタール酸ジイソオクチル、フタール酸ジイソデシル、フタール酸ジデシル、フタール酸ジノニル、フタール酸ジラウリル、フタール酸ブチルラウリル、フタール酸ブチルベンジルなどのフタール酸エステル系可塑剤、リン酸トリクレジル、リン酸トリブチル、リン酸トリ−2−エチルヘキシルなどのリン酸エステル系可塑剤、塩素化パラフィンなどの含塩素系可塑剤を挙げることができる。可塑剤の添加量は、樹脂の全重量に対し20〜70重量%が好ましい。
【0041】
壁紙の繊維基材層と塩化ビニル樹脂の保護層とは、接着剤を介して接着する。また、保護層の表面側に配置されるフィルム(P1)又はフィルム(P2)は、直接に保護層と接着するか又はフィルム(P1)又は(P2)を基材上に形成し、基材と保護層とを接着層を介して接着する。用いる接着剤としては、ドライラミネート用、アンカーコート用、プライマー用として用いられている溶媒に可溶な、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、硝化綿、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、レゾール樹脂等を挙げることができる。これらの樹脂は接着剤として調製するときに、酢酸エチル、ベンゼン、トルエン等の有機溶媒、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール溶媒、アンモニア等の極性溶媒等の揮発性物質を含む溶剤が用いられる。これらの溶剤を含有する接着剤として用いられると、長期間のうちには揮発性物質を揮散する。また、特に保護層として塩化ビニル樹脂シートを用いたときには、塩化ビニルとの接着性の観点からメラニン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、レゾール樹脂等が好ましく用いられる。特に、これらの樹脂は原料の一部としてホルムアルデヒドを用いているので、残留ホルムアルデヒドの揮散、接着面への浸透が起こり易い。
上記揮発性物質やホルムアルデヒドなどは有害な物質であり、本発明の積層体は、これら揮発性有害物質の遮断効果に特徴があり、中でもホルムアルデヒドに対する遮断効果に優れている。
尚、壁紙を建築物の壁に圧着する糊材は一般に用いられる水系澱粉糊などの公知の接着剤を繊維基材層の積層されていない面に塗布し、壁面に圧着する。
【0042】
本発明を構成するフィルム(P1)の調製と製膜法について述べる。ポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)との混合物は、各成分を水に溶解させる方法、各成分の水溶液を混合する方法、ポリアルコール類水溶液中でアクリル酸モノマーを重合させる方法、その場合、所望により重合後アルカリで中和する方法などが採用される。ポリアクリル酸と、例えば、糖類とは水溶液にした場合、均一な混合溶液が得られる。水以外に、アルコールなどの溶剤、或いは水とアルコールなどとの混合溶剤を用いてもよい。
【0043】
また、フィルム(P1)にガスバリア性を付与する目的で熱処理する場合はその条件を緩和するために両ポリマーの混合溶液調製の際に、水に可溶な無機酸又は有機酸の金属塩を適宜添加することができる。金属としてはリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属を挙げることができる。無機酸又は有機酸の金属塩の具体的な例としては、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、ホスフィン酸ナトリウム(次亜リン酸ナトリウム)、亜リン酸水素二ナトリウム、リン酸二ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。好ましくは、ホスフィン酸ナトリウム(次亜リン酸ナトリウム)、ホスフィン酸カルシウム(次亜リン酸カルシウム)等のホスフィン酸金属塩(次亜リン酸金属塩)の少なくとも1種から選ばれるホスフィン酸金属塩(次亜リン酸金属塩)である。無機酸及び有機酸の金属塩の添加量は、両ポリマーの混合溶液中の固形分量に対して、好ましくは0.1〜40質量部、更に好ましくは1〜30質量部である。
【0044】
これらの原料組成物からフィルム(P1)を形成する方法は、特に限定されないが、例えば、混合物の水溶液を金属板、ガラス板又はプラスチックフィルム等の支持体(基材)上、或いは可塑剤を含有した塩化ビニル樹脂の保護層に流延し、塩化ビニル樹脂の融点未満の温度で乾燥して皮膜を形成させる溶液流延法、或いは混合物の高濃度の水溶解液をエキストルーダーにより吐出圧力をかけながら細隙から膜状に流延し、含水フィルムを回転ドラム又はベルト上で乾燥する押出法、プラスチックフィルムに該水溶液を塗工した後、塗工したフィルムを加熱下で延伸する方法などがある。或いは、複雑な形状をした基材の場合には、基材を原料組成物の溶液の中へ浸すことにより基材表面をコートする方法等がある。このようにして得られた乾燥皮膜を前駆体と称する。これらの製膜法の中でも、特に、溶液流延法(キャスト法、コーティング法)は、透明性に優れたフィルム層(乾燥皮膜)を容易に得ることができるため好ましく用いられる。
【0045】
溶液流延法を採用する場合には、固形分濃度は、好ましくは1〜30質量%程度とする。水溶液を調製する場合、所望によりアルコールなど水以外の溶剤や柔軟剤等を適宜添加してもよい。また、予め、可塑剤(但し、分子内に2個以上の水酸基を有する低分子化合物は除く)や熱安定剤、スメクタイト系鉱物等無機層状化合物等を少なくとも一方の成分に配合しておくこともできる。成形物(乾燥皮膜)の厚みは、使用目的に応じて適宜定めることができ、特に限定されないが、好ましく0.01〜100μm、更に好ましくは0.1〜50μm程度である。
【0046】
コーティング法では、ポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)例えば、PVA、糖類の混合物溶液を、エアーナイフコーター、キスロールコーター、メタリングバーコーター、グラビアロールコーター、リバースロールコーター、デイップコーター、ダイコーター等の装置、或いは、それらを組み合わせた装置を用いて、基材となる金属板、ガラス板、プラスチック等の支持体(基材)上に所望の厚さにコーティングし、次いでアーチドライヤー、ストレートバスドライヤー、タワードライヤー、フローティングドライヤー、ドラムドライヤーなどの装置、或いは、それらを組み合わせた装置を用いて、熱風の吹き付けや赤外線照射などにより水分を蒸発させて乾燥させ、乾燥皮膜(前駆体)を形成させる。
【0047】
フィルム(P2)は、ポリカルボン酸系重合体(A)からなる塗液(この混合物には、ポリアルコール類(B)を加えることもできる)を基材に塗布、乾燥し、次いで、金属化合物(C)として金属化合物単独又は金属化合物と樹脂との混合物からなる塗液を塗布、乾燥して基材上に固定されたポリカルボン酸系重合体(A)からなる層(a)の乾燥皮膜及びその上に金属化合物(C)からなる層(c)の乾燥被膜が積層された多層乾燥被膜(前駆体)を得る。或いはポリカルボン酸系重合体(A)と金属化合物(C)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)の混合物の塗液を基材上に塗布、乾燥して得た単層乾燥被膜(前駆体)を得る。
【0048】
フィルム(P1)又は(P2)を得るには、各々予め調製した原料塗液を前記のように塗布、乾燥して得た乾燥皮膜(前駆体)を以下のように、熱処理或いは養生して安定したガスバリア性を有するフィルム(P1)又は(P2)を得ることができる。フィルム(P1)は、乾熱雰囲気下での熱処理、及び熱ロールを用いる熱処理のいずれの場合でも、熱処理温度が高すぎると、フィルムの分解や変色のおそれが生じる。好ましい熱処理温度は、160〜250℃である。乾熱雰囲気下で、好ましくは160〜250゜で、1分間〜4時間、より好ましくは180〜250℃で、1分間〜2時間、最も好ましくは1分間〜30分間である。熱ロールなどの加熱体との接触下における熱処理条件は、好ましくは160〜250℃で、180〜3秒間、より好ましくは180〜250℃で、120〜3秒間、最も好ましくは200〜250℃で、60〜3秒間である。また、塩化ビニル樹脂の保護層上に形成された(P1)の熱処理を行う場合は、乾熱雰囲気下で、好ましくは160〜180℃、1分間〜3週間、より好ましくは1分間〜2週間、最も好ましくは1分間〜1週間である。このような熱処理を行うことによって、ガスバリア性に優れたフィルム(P1)を得ることができる。
【0049】
フィルム(P2)は、ポリカルボン酸系重合体(A)と金属化合物(C)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)を混合し調製した塗布液を基材、又は可塑剤を含有する塩化ビニル樹脂の保護層上に塗布、乾燥した単層乾燥被膜(前駆体)を、水蒸気(相対湿度20%以上)雰囲気下で養生することにより、前駆体に含まれるポリカルボン酸系重合体(A)と金属化合物(C)(多価金属化合物を含む)とを固相で反応せしめ、ポリカルボン酸系重合体(A)の金属塩を形成させ、赤外線吸収スペクトルのピーク比(A1560/A1700)を0.25以上とする。又は、ポリカルボン酸系重合体(A)又はポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)の混合物からなる塗布液を基材に塗布、乾燥し層(a)を形成し、次いで、その上に金属化合物(C)(多価金属化合物を含む)からなる塗布液を塗布、乾燥し層(c)を形成した層構成を少なくとも1つ有する多層乾燥皮膜(前駆体)を前記の条件、即ち水蒸気(相対湿度20%以上)雰囲気下で養生し、層(a)と層(c)の層間でポリカルボン酸系重合体(A)と金属化合物(C)(多価金属化合物を含む)とを固相で反応せしめ、ポリカルボン酸系重合体(A)の金属塩を形成させ、赤外線吸収スペクトルのピーク比(A1560/A1700)を0.25以上とすることが好ましい。フィルムのガスバリア性の観点から、該ピーク比は、更に好ましくは、1.0以上、最も好ましくは4.0以上である。
【0050】
尚、金属化合物(C)を形成する際、塗布される相手の面へより均一に塗工させるため、或いは塗布された金属が塗布面へより強固に接着させるために、樹脂との混合物とすることが好ましい。用いられる樹脂としては、アルキッド樹脂、メラミン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ニトロセルロース、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、アミノ樹脂、フッ素樹脂、イソシアネートの群から選ばれる少なくとも1種の樹脂が用いられる。金属化合物と樹脂との重量割合(金属化合物/樹脂)は、0.01〜1000、更に0.01〜100であることが好ましい。金属化合物と樹脂との混合物は、樹脂の有機溶媒に溶かすか、或いは分散させて分散液、懸濁液として塗布、噴霧することができる。金属化合物と樹脂との混合物の層の場合の塗工量は金属化合物分として好ましくは0.03〜20g/m2、更に好ましくは0.06〜10g/m2、最も好ましくは0.06〜5g/m2、になるように樹脂との混合物の量を決めればよい。
【0051】
以上のようにして得られたフィルム(P1)又は(P2)は、基材に固定されたまま、基材のフィルム(P1)又は(P2)が固定された面の反対側の面に、別に準備された繊維基材上に接着剤を介して貼り合わされた、可塑剤を含有する塩化ビニル樹脂層の表面に接着剤を介し貼り合わされる。このようにして得られる本発明の積層体は、フィルム(P1)又は(P2)が積層体全体のバリア性を支配する。フィルム(P1)又は(P2)の30℃、相対湿度80%の条件で測定した酸素透過係数は好ましくは1000cm3(STP)・μm/m2・day・MPa以下、更に好ましくは、500cm3(STP)・μm/m2・day・MPa以下、最も好ましくは100cm3(STP)・μm/m2・day・MPa以下である。
【0052】
積層体全体の厚さは、好ましくは10μm〜100mm、更に好ましくは10μm〜50mm、最も好ましくは10μm〜10mmである。フィルム(P1)の厚さは好ましくは0.001μm〜500μm、更に好ましくは0.1μm〜500μm、最も好ましくは0.1μm〜100μmである。フィルム(P2)の厚さ、即ちポリカルボン酸系重合体(A)と金属化合物(C)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)の混合物からなる単層フィルム又はポリカルボン酸系重合体(A)又はポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)の混合物からなる層(a)と金属化合物(C)(多価金属化合物を含む)からなる層(c)が隣接した層構成を1つ有する多層フィルムの対を含めたフィルム(P2)の厚さは、形成時の成形性、フィルムのハンドリング性の観点で、好ましくは0.001μm〜500μm、更に好ましくは0.1μm〜500μm、最も好ましくは0.1μm〜100μmの範囲である。塩化ビニル樹脂の保護層の厚さは、好ましくは1μm〜200μm、更に好ましくは1μm〜100μm、最も好ましくは5μm〜100μmである。繊維基材層の厚さは、好ましくは10μm〜100mm、更に好ましくは10μm〜50mm、最も好ましくは10μm〜10mmである。
【0053】
本発明の積層体は、建築内装用の壁紙や化粧シート等の内装材に有用であり、特に耐汚染性や可塑剤移行防止に優れ、かつ近年問題視されている揮発性有害物質、特にホルムアルデヒドの遮断効果に優れた壁紙として有用である。
【0054】
(実施例)
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
尚、本明細書に記載した各種評価方法を説明する。
ホルムアルデヒド遮断性
放出ホルムアルデヒド量が10.0mg/h・m2の合板に、試料積層体をバリア層面が表側になるようにポリウレタン系接着剤を介して貼り合わせ、放出するホルムアルデヒドの量を、チップモード試験法(DIN 52368)によるホルムアルデヒド測定法で測定した。
可塑剤移行防止性
試料積層体(100mm×100mm)のバリア層表面に、直径50mm、厚さ3mmのポリスチレン円板を接触させ、その上から10kg/m2の荷重をかけ、40℃、65%相対湿度(RH)の条件下で10日間放置後の可塑剤移行量を重量変化で測定した。また、同様に40℃、90%(RH)の条件下で10日間放置後の可塑剤移行量を重量変化により測定した。評価基準は以下の通りである。
○・・・重量変化が1g/m2未満
×・・・重量変化が1g/m2以上
汚染除去性
試料積層体のバリア層表面に約70℃のホットコーヒーを直径2cm程度の大きさに塗布或いは滴下し、20℃で24時間放置し、水を含ませたさらし木綿で拭き取った後の積層体の表面状態を目視により以下の基準で評価した。
○・・・完全に拭き取れて汚染の痕跡が認められない。
×・・・汚染の痕跡が認められる。
【0055】
(実施例1)
ポリビニルアルコール(PVA)(クラレ(株)製、ポバール105TM、ケン化度98.5%、平均重合度500)及びポリアクリル酸(PAA)(和光純薬工業(株)社製、30℃、8,000〜12,000cp、平均分子量150000、ポリアクリル酸25重量%水溶液)の10重量%水溶液を、各々調製し、それらを混合してPVA:PAA=60:40(重量比)の混合水溶液を得た。
この混合水溶液を延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ15μmの延伸PETフィルム)上にメイヤーバーを用いてコーティングし、次いで、ドライヤーを用いて水を蒸発させて、厚み3μmの乾燥被膜を得た。この乾燥被膜が形成された延伸PETフィルムをオーブン中で温度200℃で15分間熱処理した。こうして得られたバリアフィルムを、バリア層が外側となり、延伸PETフィルムの面がポリウレタン系接着剤(東洋モートン社製、TM250HV)を介して発泡塩化ビニル系樹脂シート(厚さ1mm)に貼り合わされるようにドライラミネートした。
【0056】
(実施例2)
実施例1で用いたと同様のPAAの10重量%水溶液を調製し、この水溶液に、PAAのカルボキシル基のモル数に対して、計算量の水酸化ナトリウムを添加し、溶解せしめることによって、中和度(DN)が10%の部分中和物(PAANa)水溶液を調製した。一方、可溶性澱粉(和光純薬工業(株)製、可溶性澱粉(馬鈴薯澱粉を酸により加水分解処理し、水溶性にしたもの))を用い、10重量%水溶液を調製した。
このPAANa水溶液と可溶性澱粉水溶液を、重量比で80:20になるように混合し、混合物の水溶液(濃度10重量%)を調製した。この混合水溶液を実施例1と同じ延伸PETフィルム(厚さ15μm)上にメイヤーバーを用いてコーティングし、次いで、ドライヤーを用いて水を蒸発させて、厚さ3μmの乾燥皮膜を得た。この乾燥皮膜が形成された延伸PETフィルムをオーブン中で200℃で15分間熱処理した。こうして得られたバリアフィルムを、バリア層が外側となり、延伸PETフィルムの面がポリウレタン系接着剤を介して実施例1と同じ発泡塩化ビニル系樹脂シート(厚さ1mm)に貼り合わされるようにドライラミネートした。
【0057】
(実施例3)
PAA(東亞合成(株)製、ポリアクリル酸、アロンTMA−10H、数平均分子量200,000、25重量%水溶液)を、蒸留水で希釈し、10重量%水溶液を調製した。このPAA水溶液を実施例1と同じ発泡塩化ビニル系樹脂シート(厚さ1mm)上にメイヤーバーを用いて塗工し、ドライヤーにより乾燥させた。得られた乾燥皮膜の厚さは1.0μmであった。
更に、得られた乾燥皮膜上に、前記メイヤーバーを用いて、市販の微粒子酸化亜鉛サスペンジョン(住友大阪セメント(株)製、ZS303,平均粒径0.02μm、固形分30重量%、分散溶液トルエン)を塗工し、乾燥させて、塩化ビニル系樹脂シート/PAA/酸化亜鉛(ZnO)からなる積層体を調製した。ここで酸化亜鉛微粒子の乾燥塗工量は、1g/m2であった。該積層体を温度30℃、相対湿度80%の雰囲気にコントロールした恒温恒湿槽中に24時間静置し、ZnイオンをPAA層中に移行せしめ、固相反応でPAAの亜鉛塩を形成させることにより、積層体を得た。
【0058】
(比較例1)
実施例1と同じ発泡塩化ビニル系樹脂シート(厚さ1mm)上に、エチレン含有量45モル%、ケン化度99.6モル%、メルトインデックス(MI)12g/10分(荷重2160g)のEVOHをバーコーターにより塗工し、ドライヤーにて80℃で3分間乾燥し、5μmの被覆層を形成した積層体を用いた。
【0059】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)の混合物から形成されたフィルム(P1)又はポリカルボン酸系重合体(A)と金属化合物(C)及び随意に用いられるポリアルコール類(B)を原料として形成されたフィルム(P2)を繊維基材層、揮発性有害物質を含有する接着剤から形成された接着剤層、可塑剤を含有した塩化ビニル樹脂の保護層からなる積層体の保護層の表面側に配置した積層体。
【請求項2】
揮発性有害物質がホルムアルデヒドである請求項1記載の積層体。
【請求項3】
フィルム(P1)又は(P2)が、30℃、相対湿度80%の条件で測定した酸素透過係数が1000cm3(STP)・μm/m2・day・MPa以下である請求項1又は2記載の積層体。
【請求項4】
フィルム(P2)が、ポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)及び金属化合物(C)の反応生成物から形成されたフィルムであり、分子内にエステル結合及びイオン結合を有する請求項1〜3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
フィルム(P2)がポリカルボン酸系重合体(A)から形成された層(a)と金属化合物(C)から形成された層(c)とが隣接した層構成を少なくとも1つ有する多層フィルムである請求項1〜3のいずれかに記載の積層体。
【請求項6】
層(a)がポリカルボン酸系重合体(A)とポリアルコール類(B)の混合物から形成された請求項5記載の積層体。
【請求項7】
フィルム(P2)の赤外線吸収スペクトルのピーク比(A1560/A1700)が0.25以上である請求項1〜6のいずれかに記載の積層体。
【請求項8】
フィルム(P2)がポリカルボン酸系重合体(A)と金属化合物(C)の混合物から形成された単層フィルムである請求項1〜3又は7のいずれかに記載の積層体。
【請求項9】
金属化合物(C)が多価金属化合物である請求項1〜8のいずれかに記載の積層体。
【請求項10】
フィルム(P1)又はフィルム(P2)が基材の片側に接着剤層を介し、又は介することなく接着されており、基材の他の面が保護層の表面側に接着剤層を介し、又は介することなく接着している請求項1〜9のいずれかに記載の積層体。
【請求項11】
フィルム(P1)又はフィルム(P2)が保護層の表面側に接着剤層を介し、又は介することなく接着している請求項1〜9のいずれかに記載の積層体。
【請求項12】
繊維基材層が不織布、アスベスト、紙、ガラス繊維、繊維、布から選ばれる請求項1〜11のいずれかに記載の積層体。
【請求項13】
壁紙用途である請求項1〜12のいずれかに記載の積層体。

【公開番号】特開2006−167993(P2006−167993A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360435(P2004−360435)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【出願人】(000001100)株式会社クレハ (477)
【Fターム(参考)】