説明

積層体

【課題】アルミニウム箔などの金属箔基材の上にアンカーコート層、接着層、シーラント層がこの順序で少なくとも設けられてなる積層体であって、優れたラミネート強度を有し、たとえ揮発性成分を含む強浸透性物質が作用しても金属箔基材とシーラント層間のラミネート強度が低下せず、初期の優れたバリア性が維持できるようにした積層体の提供を課題とする。
【解決手段】金属箔基材の表面に、シランカップリング剤からなるアンカーコート層とイソシアネート化合物からなる接着層とシーラント層がこの順序で少なくとも設けられていることを特徴とする積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
アルミニウム箔などの金属箔基材の上にアンカーコート層、接着層、シーラント層がこの順序で少なくとも設けられてなる積層体であって、優れたラミネート強度を有し、たとえ揮発性成分を含む強浸透性物質が作用しても金属箔基材とシーラント層間のラミネート強度が低下せず、初期の優れたバリア性が維持できるようにした積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
包装材料によって包装する内容物が食酢・オイルなどの液体調味料や、浴用剤(アルコール含有)、湿布薬などである場合、これらの内容物には香料や酸などの強い浸透性を示す揮発性物質が含まれているので、従来から使用されている積層タイプの包装材料を使用してこれらの内容物を包装した場合、揮発性物質の強い浸透力によって、基材とシーラント層との間のラミネート強度が経時的に低下し、その結果デラミネーション(剥離)を引き起こすという問題があった。
【0003】
上記したような積層タイプの包装材料を構成する接着層の接着剤としては二液硬化型ポリウレタン系の接着剤が多く使用されているが、このようなタイプの接着剤のポリエステルポリオールなどのポリオールとイソシアネート化合物からなる硬化剤の通常の配合割合は、例えば95:5や90:10であり、ポリオールの方が多くなっている。しかし、このような配合割合の二液硬化型ポリウレタン系の接着剤からなる接着層は上記したような強浸透性内容物に影響され、ポリオール成分の膨潤や分子量低下を招き、凝集力が低下するため、基材とシーラント層間のラミネート強度が経時的に低下していた。
【0004】
また、一液性のイソシアネート化合物からなる接着層は、その硬化に際してバラツキが出やすく、しかも金属表面との接着性が弱いため、バリア性の高いアルミニウム箔などの金属箔を用いた積層構成の包装体を製造する場合、金属箔と接着層との間に接着性の良好なプラスチックフィルムを介して積層を行わなければならなかった。
【0005】
このような状況に対応するため、例えば、特許文献1においては、ラミネート加工時に使用される接着剤として、NH基およびNH基を有するポリウレタン樹脂と過剰量の有機イソシアネート化合物とを反応させたものを使用した酸・アルカリ耐性に優れる包装材料の製造法を提案している。
また、特許文献2においては、積層構成の包装材料の基材とシーラント間の強密着性と強浸透性材料に対する耐性を付与する方法を提案している。
【0006】
しかしながら、基材として金属箔を使用し、その表面に接着層などを介してシーラント層を積層するタイプの積層体は、バリア性に優れているので内容物保存性のよい包装材料として多く使用されているものの、金属箔基材とその上の構成層との接着性が弱く、香料や酸などの強い浸透性を示す揮発性物質が作用すると、金属箔基材とシーラント層間のラミネート強度が低下し、デラミネーションを起こすことがある。
そして、このような問題点は、上述したような提案などでは解決することができないでいた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−130615号公報
【特許文献2】特開2004−249656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は以上のような状況に鑑みなされたものであって、金属箔基材を一部に具備する積層構成の積層体に、香料や酸などの強い浸透性を示す揮発性物質に対する耐性を付与し、揮発性物質などが作用しても初期の優れたバリア性などを維持できるようにした、包装材料として好適に用いられるようにした積層体を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上のような課題を解決すべくなされ、請求項1記載の発明は、金属箔基材の表面に、シランカップリング剤からなるアンカーコート層とイソシアネート化合物からなる接着層とシーラント層がこの順序で少なくとも設けられていることを特徴とする積層体である。
【0010】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の積層体において、前記シーラント層がポリエチレン系樹脂あるいはポリプロピレン系樹脂あるいはエチレン−プロピレン共重合体のいずれかからなることを特徴とする。
【0011】
さらにまた、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の積層体において、上記接着層の構成材料が、2官能のイソシアネートモノマー、またはアダクト、ビウレット、イソシアヌレートタイプの3官能化させたモノマーの誘導体から合成されてなるものであることを特徴とする。
【0012】
さらにまた、請求項4記載の発明は、請求項1〜3のいずれかに記載の積層体において、前記接着層の厚みが0.01μm以上1μm以下であることを特徴とする。
【0013】
さらにまた、請求項5記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の積層体において、前記上記金属箔基材の表面にはアルカリによる洗浄処理が施されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の積層体は、金属箔基材とシーラント層との間において高いラミネート強度を有し、高浸透性材料に対する優れた耐性を有する。
また、接着層がイソシアネート化合物で構成されていることにより、高浸透性材料に対してラミネート強度が劣化しにくい。
さらにまた、基材表面にシランカップリング剤よりなるアンカーコート層が設けられていることにより、金属箔基材とシーラント層との間の密着性が高く、初期の優れたバリア性などを維持することができる。
さらにまた、接着層の厚みを0.01μm以上1μm以下の薄い層とすることにより、接着層の硬化のバラツキによる強度劣化が起き難く、高い密着性を維持できる。
そして、金属箔基材の表面をアルカリ処理することにより表面が適度に荒らされてシランカップリング剤の塗膜がつきやすくなるとともに、強固な密着性を維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の積層体の概略の断面構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の積層体は、図面にも示すように、金属箔基材1の表面に、シランカップリング剤からなるアンカーコート層2とイソシアネート化合物からなる接着層3とシーラント層4がこの順序で設けられてなるものである。
【0017】
金属箔基材1としては、アルミニウムや銅、銀などからなる金属箔が挙げられる。この
ような金属箔基材1の上にシランカップリング剤からなるアンカーコート層2が設けられているが、この層を構成するシランカップリング剤としては以下のようなものが挙げられる。
【0018】
すなわち、イソシアネート基を有するγ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、エポキシ環を有するβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、もしくはアミノ基を有するγ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシランなどである。
【0019】
そして、このような構成のアンカーコート層2の上に設けられているのが、イソシアネート化合物からなる接着層3である。この接着層3は、例えば、2官能のイソシアネートモノマー、またはアダクト、ビウレット、イソシアヌレートタイプの3官能化させたモノマーの誘導体から合成されてなる構成材料からなる層である。
【0020】
本発明の積層体は、上記したように、金属箔基材1の表面にアンカーコート層2と接着層3とが順次積層され、さらに接着層3の上にシーラント層4が積層されている。
このシーラント層4は、例えば、ポリエチレン系樹脂あるいはポリプロピレン系樹脂あるいはエチレン−プロピレン共重合体などからなる薄膜層である。
【0021】
本発明の積層体は、以上のような構成であるので、金属箔基材1とシーラント層4との間のラミネート強度に優れ、高浸透性材料に対する優れた耐性を示す。
また、接着層3がイソシアネート化合物で構成されていることにより高浸透性材料が作用してもラミネート強度が劣化しにくい。
さらに、金属箔基材1の表面にシランカップリング剤よりなるアンカーコート層2が設けられていることにより、金属箔基材1とシーラント層2との間の密着性が高く、初期の優れたバリア性などが香料・薬効成分を含む強浸透性内容物が作用しても損なわれることがない。
そして、接着層3の厚みを0.01μm以上1μm以下の薄い層とすることにより、接着層3の硬化のバラツキによる強度劣化が起き難く、高い密着性が維持できる。
さらに金属箔基材1の表面をアルカリ処理することにより表面が適度に荒らされてシランカップリング剤の塗膜がつきやすくなるとともに、強固な密着性が維持できる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例について述べる。
【0023】
<実施例1>
金属箔基材として7μm厚のアルミニウム箔を使用した。そして、この金属箔基材の表面に1%NaCO溶液によりアルカリ洗浄処理を施した。
次に、そのアルカリ洗浄処理面上に、固形分を5wt%としたイソシアネート型シランカップリング剤の酢酸エチル溶液の薄膜を乾燥後の塗布量が0.5g/m以下になるように塗布し、さらにポリオールを含有せず、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレットタイプを固形分割合が2.5wt%になるようにした塗工液の薄膜を乾燥後の塗布量が0.5g/m以下になるように塗布し、アンカーコート層と接着層を順次設けた。
そして、接着層の上に、直鎖低密度ポリエチレンフィルム(厚み40μm)を貼り合わせてシーラント層を設けた後、エージング処理を施し、実施例1に係る積層体を得た。なお、接着層の乾燥後の厚みは0.05μmであった。
【0024】
<実施例2>
押し出し機から低密度ポリエチレンを溶融状態で押し出して接着層上に積層し、さらにその押し出し樹脂層の上に、直鎖低密度ポリエチレンフィルム(厚み40μm)を貼り合わせてシーラント層を設けた以外、実施例1と同様の方法で実施例2に係る積層体を得た。
【0025】
<実施例3>
接着層の上にエチレン−プロピレン共重合体からなるシーラント層を貼り合わせた以外、実施例1と同様の方法で実施例3に係る積層体を得た。
【0026】
<比較例1>
金属箔基材として7μm厚のアルミニウム箔を使用した。そして、この金属箔基材の表面を1%NaCO溶液によりアルカリ洗浄処理を施した。
次に、そのアルカリ洗浄処理上に、固形分を5wt%としたイソシアネート型シランカップリング剤の酢酸エチル溶液の薄膜を乾燥後の塗布量が0.5g/m以下になるように塗布し、さらにポリオールとしてポリエステルポリオール、イソシアネート化合物としてトリレンジイソシアネートのアダクトタイプを、重量比でポリオール:イソシアネート化合物=75:25となるよう混合した塗工液の薄膜を塗布し、アンカーコート層と接着層を順次設けた。
そして、接着層の上に、直鎖低密度ポリエチレンフィルム(厚み40μm)からなるシーラント層を積層して、比較例1に係る積層体を得た。
【0027】
<比較例2>
アンカーコート層を設けず、表面を1%NaCO溶液によりアルカリ洗浄処理を施した7μm厚のアルミニウム箔基材の上に直接ポリイソシアネート化合物からなる接着層を設けた以外、実施例1と同様の方法で比較例2に係る積層体を得た。
【0028】
<比較例3>
金属箔基材として7μm厚のアルミニウム箔を用い、表面処理をせずにその表面にアイソシアネート型シランカップリング剤の酢酸エチル溶液の薄膜を塗布した後、ポリオールを含有せず、ヘキサメチレンジイソシアネートのビウレットタイプを固形分割合が2.5wt%になるようにした塗工液の薄膜を塗布して、アンカーコート層と接着層を順次設けたこと以外、実施例1と同様の方法で比較例3に係る積層体を得た。
【0029】
以上のようにして得られた実施例1〜3、比較例1〜3のそれぞれの積層体に50℃で5日間のエージングを行った後、それぞれの積層体を用いてパウチを作製した。そして、内容物としてリモネン液(揮発性の強浸透性物質)と、浴用剤(揮発性の強浸透性物質として香料成分とアルコールを含有)をそれぞれのパウチに150gずつ充填し、密封した後、40℃の恒温室内に放置した。
【0030】
3カ月経過後にこれらのパウチを恒温室から取り出し、それぞれのパウチのアルミニウム箔基材とシーラント層間のラミネート強度[N/15mm]を測定し、恒温室に入れる前のパウチにおけるラミネート強度と比較した。このときのラミネート強度の測定条件は、試料幅15mmのT型剥離で、剥離速度300mm/minとした。また、浴用剤の内容物重量変化を測定した。恒温室投入前と後における測定結果をまとめて表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例1から3に係る積層体は、優れたラミネート強度を有し、揮発性成分を含む強浸透性物質が作用しても金属箔基材とシーラント層間のラミネート強度が低下しないことが分かった。
【0033】
また、本発明の積層体は、金属箔基材と、シランカップリング剤よりなるアンカーコート層と、イソシアネート化合物からなる接着層と、ポリエチレン系樹脂あるいはポリプロピレン系樹脂あるいはエチレン−プロピレン共重合体のいずれかから成るシーラント層の少なくとも4層により構成され、しかもそのアンカーコート層がアルカリ処理された金属箔基材の表面と強固に密着し、さらに接着層が強浸透性内容物の影響を受けず、非常に薄くて緻密な層からなるため、金属箔基材に対して優れたラミネート強度を示した。
【0034】
また、接着層がイソシアネート化合物で構成されていることにより高浸透性材料に対して劣化しにくく、高耐性を有するものであった。
さらにまた、接着層が0.01μm以上の厚みを持たせるとにより、積層体自身の強度が増し、コシが出ることで易カット性に優れるものとすることができた。
【0035】
さらに、接着層を構成するポリウレタン系の接着剤を、2官能のイソシアネートモノマー、またはアダクト、ビウレット、イソシアヌレートタイプの3官能化させたモノマーの誘導体から合成されたものとすることにより、イソシアネート化合物が内容物耐性の高い尿素結合を有する構造を持つものとすることができ、延いては揮発性成分を含む強浸透性物質によりラミネート強度が低下しない積層体とすることができた。
【符号の説明】
【0036】
1・・・金属箔基材
2・・・アンカーコート層
3・・・接着層
4・・・シーラント層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔基材の表面に、シランカップリング剤からなるアンカーコート層とイソシアネート化合物からなる接着層とシーラント層がこの順序で少なくとも設けられていることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記シーラント層がポリエチレン系樹脂あるいはポリプロピレン系樹脂あるいはエチレン−プロピレン共重合体のいずれかからなることを特徴とする請求項1記載の積層体。
【請求項3】
上記接着層の構成材料が、2官能のイソシアネートモノマー、またはアダクト、ビウレット、イソシアヌレートタイプの3官能化させたモノマーの誘導体から合成さたものであることを特徴とする請求項1または2記載の積層体。
【請求項4】
前記接着層の厚みが0.01μm以上1μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記上記金属箔基材の表面にはアルカリによる洗浄処理が施されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の積層体。

【図1】
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【公開番号】特開2011−46058(P2011−46058A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−195551(P2009−195551)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】