説明

積層体

【構成】透明性合成樹脂からなる基材の少なくとも片面に、特定の帯電防止剤およびベンゾトリアゾール系および/またはトリアジン系紫外線吸収の特定量を必須成分として含有するポリカーボネート樹脂組成物からなる表層を積層してなる積層体。
【効果】本発明の積層体は、透明性、帯電防止性および耐候性に優れ、かつ黄変が抑制されていることから、埃の付着を嫌う屋外用途の成形品、例えば照明用カバーやエクステリヤ−、カーポート等の用途に好適に用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた帯電防止性、耐候性、透明性および熱安定性を有する積層体に関する。更に詳しくは、合成樹脂からなる基材の少なくとも片面に、特定構造の帯電防止剤および紫外線吸収剤を必須成分として含有するポリカーボネート樹脂組成物からなる表層を積層してなる積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、耐衝撃性、耐熱性、透明性に優れており、電気/電子、光学、建材、医療、食品、車両等の各分野において幅広く使用されている。しかし、ポリカーボネート樹脂から得られた製品は静電気が帯電しやすく、埃や異物の付着といった問題や静電気に伴う障害発生の可能性もあり、帯電防止性能の付与を求められていた。
【0003】
帯電防止性能を付与するために、導電性カーボンブラックやカーボンファイバーをポリカーボネート樹脂に配合することが行なわれている。しかし、これらは黒色を呈しているため、得られた帯電防止性ポリカーボネート樹脂の色調が黒色に限定されるので、他の色への着色が困難であるため、結局その使用範囲が極めて限られたものになってしまうといった問題点があった。
【0004】
また、黒色以外の用途には一般にアルカンスルホネートの金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等が帯電防止剤として使用されていたが、これらをポリカーボネート樹脂に配合すると色調が白色不透明になるため、透明用途には適用できなかった。
【0005】
ポリカーボネート樹脂の透明性を維持し、かつ帯電防止を図るための従来技術に関しては、スルホン酸ホスホニウム塩を配合する方法(特開昭62−230835)、スルホン酸ホスホニウム塩と亜リン酸エステルを配合する方法(特開平1−14267)が提案されている。しかしながら、これらの方法で得られるポリカーボネート樹脂は、表面固有抵抗値および半減期に代表される帯電防止性が今ひとつ充分ではなく、埃の付着に関して安定的に効果を発揮するものではなかった。また、帯電防止性能を向上するためにスルホン酸ホスホニウム塩を多量、配合するとポリカーボネート樹脂に対して加水分解をもたらし、熱安定性が低下し、黄色く着色(以下、黄変と記載することがある。)するという根本的な問題があった。
【0006】
【特許文献1】特開昭62−230835号公報
【特許文献2】特開平1−14267号公報
【0007】
一方、ポリカーボネート樹脂は、屋外用途、例えば建材、照明カバー、銘板等に用いられた際に紫外線に長期間暴露されることで樹脂表面の変色等の劣化が起こる場合があり、上記の優れた透明性および帯電防止性のみならず耐候性をも具備したものが求められている。また、帯電防止性および耐候性といった機能はポリカーボネート樹脂からなる成形品の表面もしくはその周辺において発現させることで十分であることから、優れた透明性、帯電防止性、耐候性および熱安定性を有するポリカーボネート樹脂を表層に使用した積層体が求められている。このように積層体の表層のみ改質することで、一般的に高価な紫外線吸収剤および帯電防止剤を必要とされる部位に局在させ、効果的に機能させるという利点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、透明性、帯電防止性および耐候性に優れ、かつ黄変を抑制した積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、従来の有機スルホン酸ホスホニウム塩と特定のふっ素含有ホスホニウム塩とを併用することにより、驚くべきことに帯電防止性能における相乗効果が得られること、さらに特定の紫外線吸収剤を配合することで耐候性をも具備したポリカーボネート樹脂組成物が得られること、また、これを積層体の表層材として用いることで優れた透明性、帯電防止性および耐候性を有し、かつ黄変を抑制した積層体を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、透明性合成樹脂からなる基材の少なくとも片面に、帯電防止剤および紫外線吸収剤を必須成分として含有するポリカーボネート樹脂組成物からなる表層を積層してなる積層体において、
・前記表層の帯電防止剤が、下記式(1)に表される化合物(A)および下記式(2)
に表される化合物(B)であり、かつ
・前記帯電防止剤の含有量が、表層に使用されるポリカーボネート樹脂100重量部あ
たり、前記化合物(A)が0.5〜10重量部および前記化合物(B)が
0.1〜5.0重量部であり、かつ
・前記紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系および/またはトリアジン系紫外線吸収
剤であり、かつ
・前記紫外線吸収剤の含有量が、表層に使用されるポリカーボネート樹脂100重量部
あたり、3〜10重量部である、
ことを特徴とする積層体を提供するものである。
式(1):
【0011】
【化1】


(式中、Rは炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であり、R〜Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であり、これらは同じであっても異なっていてもよい。)
【0012】
式(2):
[(RP]・(RSO)(RSO)N
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Rは炭素数8〜20のアルキル基を示し、RおよびRは同じであっても異なっていてもよく、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示す。)
【発明の効果】
【0013】
本発明の積層体は、透明性、帯電防止性および耐候性に優れ、かつ黄変が抑制されていることから、埃の付着を嫌う屋外用途の成形品、例えば照明用カバーやエクステリヤ−、カーポート等の用途に好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の基材として用いられる透明性合成樹脂としては、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂等の透明な熱可塑性樹脂が挙げられる。とりわけ、積層体のリサイクルを考慮すると、表層にはポリカーボネート樹脂が使用されることから、ポリカーボネート樹脂を基材に用いるのが好ましい。
【0015】
本発明の表層あるいは場合によっては基材に使用されるポリカーボネート樹脂とは、種々のジヒドロキシジアリール化合物とホスゲンとを反応させるホスゲン法、またはジヒドロキシジアリール化合物とジフェニルカーボネートなどの炭酸エステルとを反応させるエステル交換法によって得られる重合体であり、代表的なものとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)から製造されたポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0016】
上記ジヒドロキシジアリール化合物としては、ビスフェノールAの他に、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−3−第三ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3、5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジクロロフェニル)プロパンのようなビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンのようなビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルエーテルのようなジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドのようなジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンのようなジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。これらは、単独または2種類以上混合して使用される。これらの他に、ピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4′−ジヒドロキシジフェニル等を混合して使用してもよい。
【0017】
さらに、上記のジヒドロキシアリール化合物と以下に示すような3価以上のフェノール化合物を混合使用してもよい。3価以上のフェノールとしてはフロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプテン、2,4,6−ジメチル−2,4,6−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ヘプタン、1,3,5−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゾール、1,1,1−トリ−(4−ヒドロキシフェニル)−エタンおよび2,2−ビス−[4,4−(4,4′−ジヒドロキシジフェニル)−シクロヘキシル]−プロパンなどが挙げられる。
【0018】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、通常10000〜100000、好ましくは15000〜35000、さらに好ましくは17000〜28000である。かかるポリカーボネート樹脂を製造するに際し、分子量調節剤、触媒等を必要に応じて使用することができる。
【0019】
本発明にて使用される帯電防止剤としての化合物(A)は、下記式(1)で表される化学構造を有する有機スルホン酸ホスホニウム塩である。
式(1):
【0020】
【化2】

【0021】
(式中、Rは炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であり、R〜Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であり、これらは同じであっても異なっていてもよい。)
【0022】
上記式(1)で表わされる化合物(A)の中でも特に、下記式(3)で表わされる化学構造を有する有機スルホン酸ホスホニウム塩が好適に使用できる。
式(3):
【0023】
【化3】

【0024】
本発明にて使用される帯電防止剤としての化合物(A)の配合量は、表層に使用されるポリカーボネート樹脂100重量部あたり、0.5〜10重量部である。配合量が0.5重量部未満では帯電防止性に劣り、また10重量部を超えると熱安定性が低下することによって黄変度が高くなるので好ましくない。より好ましくは、0.5〜7.0重量部、更に好ましくは0.6〜1.5重量部の範囲である。
【0025】
本発明にて使用される帯電防止剤としての化合物(B)は、下記式(2)で表される化学構造を有するふっ素含有有機ホスホニウム塩である。
式(2):
[(RP]・(RSO)(RSO)N
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Rは炭素数8〜20のアルキル基を示し、RおよびRは同じであっても異なっていてもよく、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示す。)
【0026】
上記式(2)で表される化合物(C)の中でも、特に下記式(4)に示される1,1,1−トリブチル−1−ドデシルホスホニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドが好適に使用できる。
式(4):
【0027】
【化4】

【0028】
本発明にて使用される帯電防止剤としての化合物(B)の配合量は、表層に使用されるポリカーボネート樹脂100重量部あたり、0.1〜5重量部である。配合量が0.1重量部未満では帯電防止性に劣り、また5重量部を超えると透明性が低下するので好ましくない。より好ましくは、0.2〜3.0重量部、さらに好ましくは0.3〜1.0重量部の範囲である。
【0029】
とりわけ、表層に使用されるポリカーボネート樹脂100重量部に対して、化合物(A)0.6〜1.5重量部と化合物(B)0.3〜1.0重量部とを併用して配合すると、帯電防止性能において顕著な相乗効果が発揮され、なおかつ優れた熱安定性と透明性を発揮することができることから好ましい。
【0030】
本発明にて使用される紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系および/またはトリアジン系の紫外線吸収剤であり、それぞれ下記式(5)および/または下記式(6)で示される化合物が挙げられる。また、これらは併用して配合してもよい。
式(5):
【0031】
【化5】

【0032】
式(6):
【0033】
【化6】

【0034】
とりわけ、トリアジン系紫外線吸収剤は本発明の帯電防止剤としての化合物(A)および化合物(B)と組み合わせて使用すると、さらに帯電防止性能が向上することから好ましい。
【0035】
また、ポリカーボネート樹脂に帯電防止剤を配合すると、配合・造粒加工時あるいは成形加工時等の熱履歴により金型やロールを汚染することがあるので、ベンゾトリアゾール系およびトリアジン系の紫外線吸収剤の分子量は、400以上のものが好ましい。これらは、それぞれADEKA社製LA31、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製TINUVIN1577FFとして入手可能である。
【0036】
紫外線吸収剤の配合量は、表層に使用されるポリカーボネート樹脂100重量部あたり、3〜10重量部である。配合量が3重量部未満では耐候性に劣り、また10重量部を超えると熱安定性が低下するので好ましくない。より好ましくは、4〜9重量部、さらに好ましくは5〜8重量部の範囲である。
【0037】
本発明の表層に使用されるポリカーボネート樹脂組成物において、実用上、帯電防止性以外に要求される性能により、公知の各種添加剤、ポリマーなどを必要に応じて添加することができる。例えば、鮮やかな色調を得るために、ベンゾオキサゾール系の蛍光増白剤およびこれらを併用して添加してもよい。
【0038】
本発明の表層に使用されるポリカーボネート樹脂組成物には、上記以外の公知の添加剤、例えばフェノール系またはリン系熱安定剤[2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−(1−メチルシクロヘキシル)−4,6−ジメチルフェノール、4,4′−チオビス−(6−t−ブチル−3−メチルフェノール)、2,2−メチレンビス−(4−エチル−6−t−メチルフェノール)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、4,4′−ビフェニレンジホスフィン酸テトラキス−(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)等]、滑剤[パラフィンワックス、n−ブチルステアレート、合成蜜蝋、天然蜜蝋、グリセリンモノエステル、モンタン酸ワックス、ポリエチレンワックス、ペンタエリスリトールテトラステアレート等]、着色剤[例えば酸化チタン、カーボンブラック、染料]、充填剤[炭酸カルシウム、クレー、シリカ、ガラス繊維、ガラス球、ガラスフレーク、カーボン繊維、タルク、マイカ、各種ウィスカー類等]、流動性改良剤、展着剤[エポキシ化大豆油、流動パラフィン等]、さらには他の熱可塑性樹脂や各種耐衝撃改良剤(ポリブタジエン、ポリアクリル酸エステル、エチレン・プロピレン系ゴム等のゴムに、メタアクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル等の化合物をグラフト重合してなるゴム強化樹脂等が例示される。)を必要に応じて添加することができる。
【0039】
本発明の表層に使用されるポリカーボネート樹脂の実施の形態および順序には何ら制限はない。例えば、ポリカーボネート樹脂、化合物(A)、化合物(B)および紫外線吸収剤を任意の配合量で計量し、タンブラー、リボブレンダー、高速ミキサー等により一括混合した後、混合物を通常の単軸押出機または2軸押出機を用いて溶融混練し、ペレット化させる方法、あるいは、個々の成分を一部または全てを別々に計量し、複数の供給装置から押出機内へ投入し、溶融混合する方法、さらには、ポリカーボネート樹脂と(A)、(B)および/または紫外線吸収剤とを高濃度に配合し、一旦溶融混合してペレット化し、マスターバッチとした後、当該マスターバッチとポリカーボネート樹脂を所望の比率により混合することもできる。そして、これらの成分を溶融混合する際の、押出機へ投入する位置、押出温度、スクリュウ回転数、供給量など、状況に応じて任意の条件が選択され、ペレット化することができる。
【0040】
本発明の積層体の製造方法としては、基材および表層に使用される樹脂組成物をそれぞれ別の単軸または二軸押出機を用いて溶融混錬し、それぞれの溶融物を共押出用ダイの基材フィードブロックおよび表層フィードブロックにそれぞれ供給し積層させる、いわゆる共押出法、あるいは基材および表層の板状成形品を熱プレスにより積層する方法、表層をフィルム化してラミネーションする方法等が挙げられる。なかでも共押出法が製造効率の面で優れるため好適に用いられる。
【0041】
前記表層および基材の厚みは、特に制限されるものでは無いが、得られた積層体の剛性および耐候性や帯電防止性能の発揮等を考慮すれば、基材として1〜7mm、表層材として10〜500μmが好ましく、更に好ましくは基材として1.5〜5.0mm、表層材として20〜200μmの範囲である。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、実施例中の「%」、「部」はそれぞれ重量基準に基づく。
【0043】
使用した原材料は以下のとおりである。
基材に使用したポリカーボネート樹脂:
住友ダウ社製 カリバー200−13
(粘度平均分子量:21500)
表層に使用したポリカーボネート樹脂:
住友ダウ社製 カリバー200−3
(粘度平均分子量:28000、以下PCと略記)
化合物(A):
竹本油脂社製 S−418
アルキルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩(以下、帯電防止剤Aと略記)
化合物(B):
1,1,1−トリブチル−1−ドデシルホスホニウム=ビス(トリフルオロメタン
スルホニル)イミド(以下、帯電防止剤Bと略記)
【0044】
尚、帯電防止剤Cは以下に示す方法にて製造した。
1,1,1−トリブチル−1−ドデシルホスホニウム=ブロミド24.07g(0.0533モル、東京化成工業株式会社試薬)、塩化メチレン34.2g及びイオン交換水34.2g混合した後、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸リチウム16.07g(0.0560モル)を添加し、室温で4時間攪拌した。反応終了後、得られた有機層を分液操作により分離し、イオン交換水34.2gで3回洗浄した。有機層を濃縮して塩化メチレンを除去後、残渣を減圧下で乾燥し、1,1,1−トリブチル−1−ドデシルホスホニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド32.0gを得た(収率92.2%)。
【0045】
紫外線吸収剤:
チバスペシャリティケミカルズ社製 TINUVIN1577
トリアジン系紫外線吸収剤 (以下、UVA−1と略記)
ADEKA社製 LA−31
高分子型ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(以下、UVA−2と略記)
【0046】
使用した押出機は以下のとおりである。
表層の樹脂組成物用の溶融混錬用押出機:
日本製鋼所社製TEX30α 二軸押出機
(L/D=42、Φ=30mm)
共押出用の押出機:
基材用押出機:田辺プラスチック社製VS40単軸押出機
(L/D=32、40Φ)
表層用押出機:プラ技研社製PEX-25-24型単軸押出機
(L/D=24、25Φ)
【0047】
(表層用樹脂組成物ペレットの作成)
前述の各種原料を表1〜2に示す配合比率にて、それぞれタンブラーに投入し、10分間乾式混合した後、二軸押出機(日本製鋼所社製TEX30α)を用いて、溶融温度260℃にて溶融混錬しペレットを得た。
【0048】
(共押出法による加工)
得られた表層用樹脂組成物のペレットを125℃×2時間の乾燥条件にて、熱風循環式乾燥機(タバイ社製PERFECT OVEN PV−330)を用いて事前乾燥を行った。併せて、基材用のポリカーボネート樹脂も同じ条件にて事前乾燥を行った。
事前乾燥を行なった基材用ポリカーボネート樹脂のペレットを、基材用押出機(田辺プラスチック社製VS40単軸押出機)を用いて、260℃の条件下で溶融混錬し、共押出用ダイの基材フィードブロックに供給した。また、同時に、事前乾燥した表層用樹脂組成物のペレットを、表層用押出機(プラ技研社PEX-25-24型単軸押出機)を用いて260℃の条件下で溶融混錬して表層フィードに供給し、共押出による積層体を得た。尚、表層および基材の厚みは、それぞれ 100μm、1.9mmに設定した。
【0049】
本発明における各種評価項目及び測定方法について説明する。
1.表面固有抵抗(Rs):
得られた積層体を3cm×3cm厚み2.0mmに切り出し、試験片を作成した。
得られた試験片を23℃、50%相対湿度の条件で24時間状態調節した後、超絶縁計(シシド静電気社製SME−8311)を使用し、測定電圧500V、サンプリング時間60秒の条件で表面固有抵抗を測定した。表面固有抵抗Rsが1x1014未満の場合を合格とした。
2.半減期:
得られた試験片を用いて、シシド社製のスタティックオネストメーター H−0110にて、半減期を測定した。まず、10KVの電荷を、試験片の耐電圧が一定になるまで印加し続ける。その後、チャージを止め帯電圧の減衰を観察し、初期の帯電圧が半減するまでの時間を測定して半減期とした。半減期が10秒以下を合格とした。
3.全光線透過率:
得られた試験片を用いて、JIS K7361に準拠して全光線透過率を測定した。70%以上を合格とした。
4.イエローネスインデックス(YI):
得られた試験片を用いて、ASTM D−1925に準拠してイエローネスインデックス(YI)を測定した。10以下を合格とした。
5.耐候性:
得られた試験片を促進耐候試験機サンシャインスーパーロングライフウェザーメーター(スガ試験機社製WELSUNHCH−B型)の中に設置し、600時間照射を行った。その後、照射前後の試験片をスペクトロフォトメータ(村上色彩技術研究所製CMS−35SP)により、イエローネスインデックス(YI)を測定した。△YI(YIの差)とは照射前後の黄身の程度を表し、△YIが小さい程、変色は小さく耐光性に優れている。△YIの評価基準としては、△YIの値が3.0未満であるものを合格(○)、3.0以上であるものを不合格(×)とした。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
表1および表2で示したとおり、表層用のポリカーボネート樹脂組成物が本発明の要件を満足する場合(実施例1〜9)は表面固有抵抗をはじめとする必要な性能は全て要求されるレベルを満足していた。実施例1〜3、実施例5および実施例7〜9に示すとおり、帯電防止剤(A)および(B)の合計配合量が比較的少ない領域でのポリカーボネート樹脂組成物においても優れた帯電防止効果を示した。
【0055】
実施例4は帯電防止剤(A)1.5部および帯電防止剤(B)0.5部を併用した例であり、その表面固有抵抗は1012Ωのオーダーを示した。一方、帯電防止剤(A)1.5部のみ単独配合した例(比較例1)および帯電防止剤(B)0.5部のみ単独配合した例(比較例2)では、表面固有抵抗が何れも1015Ω以上を示した。この例からも分かるとおり、帯電防止剤(A)と帯電防止剤(B)とを併用することで、帯電防止性能における相乗効果が得られた。
【0056】
また、実施例3は帯電防止剤(A)0.6部と帯電防止剤(B)0.5部およびUVA−1を5.0部添加した例であり、その表面固有抵抗は1012Ωのオーダーを示した。一方、同様の処方にて紫外線吸収剤をUVA−2に変更した例(実施例8)では表面固有抵抗は1013Ωレベルであった。この例からも分かるとおり、帯電防止剤(A)と帯電防止剤(B)及びUVA−1を併用することで、帯電防止性能における相乗効果が得られた。
【0057】
一方、表3および表4に示すとおり、本発明の構成を満足しない場合には、いずれの場合も何らかの欠点を有していた。
比較例1は、帯電防止剤(B)を配合しない場合であり、表面固有抵抗と半減期が劣る結果となった。
比較例2は、帯電防止剤(A)を配合しない場合であり、表面固有抵抗と半減期が劣る結果となった。
比較例3は、帯電防止剤(A)の配合量が規定量より少ない場合であり、表面固有抵抗と半減期が劣る結果となった。
比較例4は、帯電防止剤(A)の配合量が規定量より多い場合であり、YIが劣る結果となった。
比較例5は、帯電防止剤(B)の配合量が規定量より少ない場合であり、表面固有抵抗と半減期が劣る結果となった。
比較例6は、帯電防止剤(B)の配合量が規定量より多い場合であり、透過率とYIが劣る結果となった。
比較例7は、紫外線吸収剤の配合量が規定量より少ない場合であり、耐候性が劣る結果となった。
比較例8は、紫外線吸収剤の配合量が規定量より多い場合であり、YIが劣る結果となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明性合成樹脂からなる基材の少なくとも片面に、帯電防止剤および紫外線吸収剤を必須成分として含有するポリカーボネート樹脂組成物からなる表層を積層してなる積層体において、
・前記表層の帯電防止剤が、下記式(1)に表される化合物(A)および下記式(2)
に表される化合物(B)であり、かつ
・前記帯電防止剤の含有量が、表層に使用されるポリカーボネート樹脂100重量部あ
たり、前記化合物(A)が0.5〜10重量部および前記化合物(B)が
0.1〜5.0重量部であり、かつ
・前記紫外線吸収剤が、ベンゾトリアゾール系および/またはトリアジン系紫外線吸収
剤であり、かつ
・前記紫外線吸収剤の含有量が、表層に使用されるポリカーボネート樹脂100重量部
あたり、3〜10重量部である、
ことを特徴とする積層体。
式(1):
【化1】


(式中、Rは炭素数1〜40のアルキル基又はアリール基であり、R〜Rは水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアリール基であり、これらは同じであっても異なっていてもよい。)
式(2):
[(RP]・(RSO)(RSO)N
(式中、Rは炭素数1〜4のアルキル基を示し、Rは炭素数8〜20のアルキル基を示し、RおよびRは同じであっても異なっていてもよく、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を示す。)
【請求項2】
前記化合物(A)が、下記式(3)に示されるアルキルベンゼンスルホン酸ホスホニウム塩である請求項1に記載の積層体。
式(3):
【化2】

【請求項3】
前記化合物(B)が、下記式(4)に示される1,1,1−トリブチル−1−ドデシルホスホニウム=ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである請求項1に記載の積層体。
式(4):
【化3】

【請求項4】
前記化合物(A)の配合量が0.6〜1.5重量部であり、かつ前記化合物(B)の配合量が0.3〜1.0重量部(それぞれ、表層に使用されるポリカーボネート樹脂100重量部あたり)である請求項1に記載の積層体。
【請求項5】
前記ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が、下記式(5)に示される化合物である請求項1に記載の積層体。
式(5):
【化4】

【請求項6】
前記トリアジン系紫外線吸収剤が、下記式(6)に示される化合物である請求項1に記載の積層体。
式(6):
【化5】

【請求項7】
前記基材の透明性合成樹脂が、ポリカーボネート樹脂である請求項1に記載の積層体。

【公開番号】特開2011−56678(P2011−56678A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205773(P2009−205773)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(396001175)住友ダウ株式会社 (215)
【Fターム(参考)】