説明

積層体

【課題】基材からの印刷層の剥離が受容層により抑制され、かつ前記受容層を短時間で形成できる積層体の提供。
【解決手段】ポリ塩化ビニルからなる基材11上に、紫外線硬化型アクリル系インキ用受容層12、及び紫外線硬化型アクリル系インキから形成された印刷層13がこの順に積層され、加圧加熱処理されてなる積層体であって、受容層12が、紫外線硬化型ウレタンアクリレートを主成分とする水性エマルジョンと、ポリウレタンを主成分とする水性エマルジョンと、光重合開始剤と、が配合された組成物から形成されたものであることを特徴とする積層体1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ塩化ビニルからなる基材からの印刷層の剥離が抑制され、製造適性にも優れた積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂基材上に受容層を介して印刷層が設けられた各種積層体は、カードや化粧材等をはじめとして、種々の分野で利用されており、代表的なものとしては、樹脂基材としてポリ塩化ビニルを、受容層として紫外線硬化性樹脂をそれぞれ用いたものが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。受容層は、印刷層の基材への定着を強固にし、基材からの剥離を抑制するために必要となる。
【0003】
例えば、基材上に文字や意匠が印刷された従来の積層体(印刷カード)は、基材上にスクリーン印刷の手法で受容層を設け、この受容層上にオフセット印刷を行って印刷層を設ける方法で製造できる。そして、スクリーン印刷に適用する受容層用組成物としては、樹脂、シリカ及び溶剤を含有するものが例示でき、シリカは受容層上に目的外のものが接触した時に、これらの接着(ブロッキング)を防止するブロッキング抑制剤として機能する。ブロッキングは、例えば、枚葉印刷機を使用した印刷層形成時において、フィードトラブルの原因となるため、ブロッキング抑制剤の使用が必要となる。
また、受容層は、UVオフセット印刷の手法で設けることもできる。この場合に適用する受容層用組成物としては、顔料及びビヒクルを含有するものが例示できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−80596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、スクリーン印刷の手法では、印刷自体と乾燥に時間を要し、受容層を短時間で形成できないという問題点があった。
また、UVオフセット印刷の手法では、組成物が基材上に転写されて受容層が形成されるので、スクリーン印刷の場合よりも短時間で受容層を形成できる反面、組成物の定着性が劣り、受容層が基材から剥離し易く、印刷層の基材からの剥離を十分に抑制できないという問題点があった。
このように、従来は、基材からの印刷層の剥離が抑制され、かつ受容層を短時間で形成できる積層体は知られていない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、基材からの印刷層の剥離が受容層により抑制され、かつ前記受容層を短時間で形成できる積層体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、
本発明は、ポリ塩化ビニルからなる基材上に、紫外線硬化型アクリル系インキ用受容層、及び紫外線硬化型アクリル系インキから形成された印刷層がこの順に積層され、加圧加熱処理されてなる積層体であって、前記受容層が、紫外線硬化型ウレタンアクリレートを主成分とする水性エマルジョンと、ポリウレタンを主成分とする水性エマルジョンと、光重合開始剤と、が配合された組成物から形成されたものであることを特徴とする積層体を提供する。
本発明の積層体においては、前記ウレタンアクリレートが、脂肪族系イソシアネートモノマーを用いて得られたものである場合には、前記ウレタンアクリレートの配合量1質量部あたりの、前記ポリウレタンの配合量が0.1質量部以上であり、前記ウレタンアクリレートが、芳香族系イソシアネートモノマーを用いて得られたものである場合には、前記ウレタンアクリレートの配合量1質量部あたりの、前記ポリウレタンの配合量が0.8質量部以上であることが好ましい。
本発明の積層体においては、前記印刷層上に、さらに保護層が積層されて加圧加熱処理されてなり、カード状であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基材からの印刷層の剥離が受容層により抑制され、かつ前記受容層を短時間で形成できる積層体を提供できる。かかる積層体は、基材上に文字や意匠が印刷された印刷カードとして特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の積層体とする前の、加圧加熱処理前の段階における構造体を例示する概略断面図である。
【図2】図1に示す構造体を加圧加熱処理して得られた、本発明の積層体を例示する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<積層体>
本発明の積層体は、ポリ塩化ビニルからなる基材上に、紫外線硬化型アクリル系インキ用受容層(以下、単に「受容層」と略記する)、及び紫外線硬化型アクリル系インキから形成された印刷層がこの順に積層され、加圧加熱処理されてなる積層体であって、前記受容層が、紫外線硬化型ウレタンアクリレートを主成分とする水性エマルジョン(以下、ウレタンアクリレートエマルジョンと略記する)と、ポリウレタンを主成分とする水性エマルジョン(以下、ポリウレタンエマルジョンと略記する)と、光重合開始剤と、が配合された組成物(以下、受容層用組成物又は単に「組成物」と略記する)から形成されたものであることを特徴とする。
【0011】
[基材]
前記基材の材質であるポリ塩化ビニルは、周知のもので良く、可塑剤や安定剤が配合されたものでも良い。
前記基材は、単層からなるものでも良いし、複数層からなるものでも良い。複数層からなる場合、すべての層が同一でも異なっていても良く、一部の層が異なっていても良い。
基材の厚さは、積層体の用途に応じて適宜設定すれば良く、特に限定されない。例えば、印刷カードとする場合には、0.1〜1mm程度の厚さが好適である。
【0012】
[受容層用組成物]
前記受容層は、紫外線硬化型アクリル系インキから形成される印刷層を、基材に対して強固に定着させることで、印刷層の基材からの剥離を抑制する。
前記受容層は、前記ウレタンアクリレートエマルジョンと、前記ポリウレタンエマルジョンと、光重合開始剤と、が配合された受容層用組成物から形成され、前記ウレタンアクリレートが重合することにより形成されると考えられる。
【0013】
前記ウレタンアクリレートエマルジョンにおいて、「紫外線硬化型ウレタンアクリレートを主成分とする」とは、水性エマルジョンが、本発明の効果を奏するのに支障が無い量の紫外線硬化型ウレタンアクリレートを含有していることを意味し、具体的には、水以外の含有成分総量に占める前記ウレタンアクリレートの含有量が好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上であることを意味する。
前記ウレタンアクリレートエマルジョンは、固形分含量が10〜70質量%以上であることが好ましく、20〜60質量%以上であることがより好ましい。このような範囲であることで、エマルジョンの取り扱い性がより良好となる。そして、かかる固形分に占める前記ウレタンアクリレートの比率は、70質量%以上であることが好ましい。
【0014】
同様に、前記ポリウレタンエマルジョンにおいて、「ポリウレタンを主成分とする」とは、水性エマルジョンが、本発明の効果を奏するのに支障が無い量のポリウレタンを含有していることを意味し、具体的には、水以外の含有成分総量に占めるポリウレタンの含有量が好ましくは65質量%以上、より好ましくは70質量%以上であることを意味する。
前記ポリウレタンエマルジョンは、固形分含量が10〜70質量%以上であることが好ましく、20〜60質量%以上であることがより好ましい。このような範囲であることで、エマルジョンの取り扱い性がより良好となる。そして、かかる固形分に占める前記ポリウレタンの比率は、70質量%以上であることが好ましい。
【0015】
(紫外線硬化型ウレタンアクリレート)
前記ウレタンアクリレートはイソシアネートモノマーとアルコールモノマーとが重合してなるものであり、公知のもので良い。
前記ウレタンアクリレートにおいては、例えば、イソシアネートモノマーとして、脂肪族系イソシアネートモノマー及び芳香族系イソシアネートモノマーのいずれも用いることができる。ここで、脂肪族系イソシアネートモノマーとは、芳香族基を有さないイソシアネートモノマーを意味し、芳香族系イソシアネートモノマーとは、脂肪族基の有無によらず芳香族基を有するイソシアネートモノマーを意味する。
【0016】
前記ウレタンアクリレートにおいて、前記イソシアネートモノマー及びアルコールモノマーは、いずれも一種のみでも良いし、二種以上でも良い。前記イソシアネートモノマー及びアルコールモノマーのいずれか一方又は両方が二種以上である場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に調節できる。
【0017】
また、前記組成物中の前記ウレタンアクリレートは、一種のみでも良いし、二種以上でも良い。二種以上である場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に調節できる。
【0018】
前記受容層は、前記ウレタンアクリレートとして、脂肪族系イソシアネートモノマーを用いて得られたものを使用することにより、より優れた印刷層の剥離抑制効果が得られる傾向にある。
【0019】
(ポリウレタン)
前記ポリウレタンは公知のもので良く、特に限定されない。好ましいポリウレタンとしては、ポリカーボネート/ポリエーテル型ポリウレタン、ポリカーボネート型ポリウレタン、ポリエステル型ポリウレタン、ポリカーボネートジオール型ポリウレタンが例示できる。これらポリウレタンは、これらを構成するアルコールモノマー中に、カーボネート、エーテル、エステル、ジオール等の構造を有するものである。低分子のアルコールモノマーは、ポリウレタンを硬い構造(剛直)にすると考えられる。また、ポリカーボネート、ポリエーテル、ポリエステル等の構造を有する高分子のアルコールモノマーは、ポリウレタンを柔らかい構造(柔軟)にすると考えられる。
一方、ポリウレタンを構成するイソシアネートモノマーは、ポリウレタンを硬い構造にすると考えられるが、脂肪族系イソシアネートモノマーは、ポリウレタンに熱軟化性を付与すると考えられる。ここで、脂肪族系イソシアネートモノマーとは、前記ウレタンアクリレートの場合と同様に、芳香族基を有さないイソシアネートモノマーを意味する。
【0020】
前記組成物中の前記ポリウレタンは、一種のみでも良いし、二種以上でも良い。二種以上である場合、その組み合わせ及び比率は、目的に応じて任意に調節できる。
【0021】
前記組成物における前記ポリウレタンの配合量は、特に限定されず、例えば、併用する前記ウレタンアクリレートの種類等に応じて適宜調節すれば良い。通常は、前記ウレタンアクリレートの配合量1質量部あたりの、前記ポリウレタンの配合量は0.1〜9質量部であることが好ましい。
そして、例えば、前記ウレタンアクリレートが、脂肪族系イソシアネートモノマーを用いて得られたものである場合には、前記ウレタンアクリレートの配合量1質量部あたりの、前記ポリウレタンの配合量は0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましい。前記ポリウレタンの配合量の上限値は特に限定されないが、前記ウレタンアクリレートの配合量1質量部あたりの、前記ポリウレタンの配合量が3質量部以下であることが好ましい。
また、前記ウレタンアクリレートが、芳香族系イソシアネートモノマーを用いて得られたものである場合には、前記ウレタンアクリレートの配合量1質量部あたりの、前記ポリウレタンの配合量は0.8質量部以上であることが好ましく、1.1質量部以上であることがより好ましい。前記ポリウレタンの配合量の上限値は特に限定されないが、前記ウレタンアクリレートの配合量1質量部あたりの、前記ポリウレタンの配合量が4質量部以下であることが好ましい。
ポリウレタンの配合量を上記範囲とすることで、基材からの印刷層の剥離がより抑制される。また、上限値以下とすることで、受容層におけるブロッキングがより抑制される。
なお、印刷層上に後述する接着層を設ける場合には、前記ポリウレタンの配合量が多いほど、保護層の剥離がより抑制される。
【0022】
(光重合開始剤)
前記光重合開始剤は、例えば、有機過酸化物、アゾ化合物等、公知のもので良く、特に限定されない。
前記組成物における前記光重合開始剤の配合量は、適宜調節すれば良いが、例えば、前記ウレタンアクリレートエマルジョンの固形分量に対して5〜20質量%とすることで、重合反応をより良好に進行させることができる。
【0023】
(その他の成分)
前記組成物は、前記ウレタンアクリレートエマルジョン、前記ポリウレタンエマルジョン、及び光重合開始剤以外に、その他の成分が配合されていても良い。前記その他の成分で好ましいものとしては、前記ウレタンアクリレート及びポリウレタンに該当しないその他の樹脂、架橋剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤、フィラー、pH調整剤等が例示できる。
【0024】
前記その他の樹脂は、目的に応じて適宜選択すれば良く、特に限定されないが、好ましいものとして塩化ビニル酢酸ビニル共重合体が例示できる。
前記その他の樹脂は、例えば、粉体状である場合には、予め水等に分散させたエマルジョンとして前記組成物に配合することが好ましく、使用量が微量である場合には、エマルジョンとすることなく前記組成物に直接配合しても良い。
前記その他の樹脂を配合することで、例えば、受容層の硬度を調節したり、受容層の表面をマット状にするなどして表面状態を調節して印刷層を形成し易くすることができる。
【0025】
前記架橋剤としては、前記ポリウレタンに対して架橋作用を有するものが好ましく、カルボジイミド系架橋剤、イソシアネート系架橋剤が例示できる。このような架橋剤を併用することで、ポリウレタンを架橋させ、受容層の硬さを調節できる。
また、前記増粘剤としては、前記ポリウレタンに対して増粘作用を有するものが好ましい。このような増粘剤を併用することで、前記組成物の粘度を調節できる。
【0026】
前記組成物におけるその他の成分の配合量は、その種類に応じて適宜調節すれば良い。
例えば、前記その他の樹脂の配合量は、前記ウレタンアクリレートエマルジョン及びポリウレタンエマルジョンの固形分総量に対して5〜60質量%であることが好ましく、10〜45質量%であることがより好ましい。
また、前記架橋剤の配合量は、前記ウレタンアクリレートエマルジョン及びポリウレタンエマルジョンの固形分総量に対して0.1〜5質量%であることが好ましく、0.3〜3.5質量%であることがより好ましい。
また、前記増粘剤の配合量は、前記ウレタンアクリレートエマルジョン及びポリウレタンエマルジョンの固形分総量に対して0.08〜4質量%であることが好ましく、0.1〜1.5質量%であることがより好ましい。
【0027】
前記組成物は、前記ウレタンアクリレートエマルジョン、前記ポリウレタンエマルジョン、光重合開始剤、及び必要に応じてその他の成分を配合して、これら配合成分を十分に撹拌することで調製できる。
【0028】
各成分は、一度にまとめて配合しても良いし、成分ごとに順次配合しても良く、一部の成分のみをまとめて配合しても良い。各成分の配合順序は特に限定されない。増粘剤を配合する場合であれば、増粘剤は溶媒成分に溶解し難いので、例えば、前記ウレタンアクリレートエマルジョン及びポリウレタンエマルジョンを混合した後、前記光重合開始剤、そして必要に応じて架橋剤を配合し、さらに必要に応じて前記その他の樹脂等のその他の成分(ただし、増粘剤を除く)を配合して、最後に、水に溶解させた増粘剤を配合する方法が好ましい。
【0029】
配合時の温度は特に限定されず、配合成分の種類等に応じて適宜調整すれば良いが、15〜30℃であることが好ましい。
撹拌は、撹拌子又は撹拌翼等を回転させる方法、ミキサーを使用する方法、超音波を印加する方法等、分散物を調製する公知の方法で行えば良い。撹拌時間は、調製する組成物の量や撹拌方法等に応じて、適宜調整すれば良い。
【0030】
[受容層]
前記受容層は、前記組成物を基材上に塗布して紫外線硬化させることにより形成できる。塗布後の組成物は、乾燥させて水分を除去することが好ましい。
組成物の塗布方法は特に限定されず、液状物を塗布できる方法であれば、いずれでも良い。具体的には、スクリーン印刷;オフセット印刷;ディップ方式;インクジェット方式;ディスペンサー方式;エアーナイフコーター、カーテンコーター、ダイコーター、ブレードコーター、ロールコーター、ゲートロールコーター、バーコーター、ロッドコーター、グラビアコーター、スピンコーター等の各種コーターを使用する方法;ワイヤーバー等の装置を使用する公知の方法が例示できる。これらの中でも、塗布及び乾燥を速やかに行うことができる方法や、塗布、乾燥及び硬化を連続して行うことできる方法など、受容層を短時間で形成できる方法を選択することが好ましい。例えば、ロールコーターを使用する方法を適用すれば、塗布、乾燥及び硬化を連続して行うことできる。
【0031】
組成物の塗布量は、組成物の固形分濃度、受容層の所望の厚み等を考慮して、適宜調節すれば良い。
【0032】
受容層の厚さは、例えば、前記組成物の配合成分や、後述する印刷層の厚さ等を考慮して適宜調節すれば良いが、通常は、下限値が0.5μmであることが好ましい。上限値は特に限定されないが、7μmであることが好ましい。
一方、例えば、ブロッキング抑制剤としてシリカを含有する従来の組成物を使用する場合には、シリカの平均粒径(例えば、8μm程度)を考慮して、シリカのブロッキング抑制効果を発現させるために、シリカを除く受容層の厚さ(例えば、6〜7μm程度)を比較的厚くする必要があり、受容層の薄層化が難しく、積層体の用途が限定されてしまう。さらに、シリカの平均粒径が大きいことで、後述する加圧加熱処理時において、積層体を構成する各層の接着が阻害され、積層体の強度が低下してしまう。これに対して、本発明においては、シリカを使用しなくても受容層がブロッキング抑制効果を有するので、受容層の薄層化が容易であり、十分な強度を有する積層体となる。このように、十分な強度と、印刷層の剥離抑制効果とを有する薄型の積層体を得るという観点からは、受容層の厚さは0.5〜5μmであることが好ましい。そして、受容層を薄層化する場合には、塗布後の組成物の乾燥時間をさらに低減できるので、より短時間で受容層を形成できる。
【0033】
前記組成物は、基材上に塗布された段階では、前記ウレタンアクリレート及びポリウレタンが自由に混在した状態になっていると考えられる。そして、紫外線硬化によりウレタンアクリレートが重合して、ウレタンアクリレートポリマーの三次元骨格が形成されると、この骨格の空隙部にポリウレタンが存在する受容層が形成されると考えられる。そして、ウレタンアクリレートポリマーの骨格は、後述する印刷層を形成するための紫外線硬化型アクリル系インキとの親和性が高く、インキの転移に適していると考えられる。さらに、この受容層においては、ウレタンアクリレートポリマーの分子鎖が絡まりあって形成された粒状物が互いに連なったような三次元骨格を有していると考えられるが、この骨格の外側は強固で安定しているため、受容層上に積層物が存在しても、この骨格によりポリウレタンの積層物との接触が抑制されて、その結果、ブロッキングが抑制されると考えられる。一方、この骨格の内部は、加熱により柔軟性が増すので、後述する加圧加熱処理時にウレタンアクリレートポリマーの三次元骨格が受容層の厚さ方向において押し潰され、より平面的な骨格に変化すると考えられる。
【0034】
[印刷層]
前記印刷層は、紫外線硬化型アクリル系インキから形成されたものであり、かかるアクリルインキは、公知のものから適宜選択すれば良い。
印刷層の厚さは適宜調節すれば良いが、例えば、受容層の厚さが上記範囲内である場合には、0.5〜5μmであることが好ましく、2〜4μmであることがより好ましい。このような範囲とすることで、一層安定した基材からの剥離抑制効果が得られる。
印刷層は、例えば、スクリーン印刷、オフセット印刷、インクジェット方式等で形成すれば良く、オフセット印刷で形成することが好ましい。
【0035】
[その他の層]
本発明の積層体においては、加圧加熱処理前の前記基材上に、前記受容層及び印刷層以外に、さらにその他の層が積層されていても良い。
前記その他の層で好ましいものとしては、印刷層を保護するための保護層が例示できる。
【0036】
(保護層)
前記保護層は、前記印刷層上に設けられるものであり、その材質は印刷層の材質等に応じて適宜選択すれば良く、特に限定されないが、各種印刷物の保護フィルム等で使用されているものが例示できる。なかでも、熱可塑性樹脂が好ましく、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、非結晶性ポリエチレンテレフタレート(PET−G)がより好ましい。
保護層は、単層からなるものでも良いし、複数層からなるものでも良い。複数層からなる場合、すべての層が同一でも異なっていても良く、一部の層が異なっていても良い。
保護層の厚さは、積層体の用途に応じて適宜調節すれば良いが、25〜200μmであることが好ましく、50〜120μmであることがより好ましい。
保護層としては、フィルム状又はシート状であるものを積層して形成したものが好ましい。
【0037】
(接着層)
前記保護層は、例えば、加圧加熱処理を行っても印刷層から剥離し易いなど、接着性が十分でない場合には、印刷層上に接着層を介して積層しても良い。
前記接着層を形成する接着剤の材質は、前記保護層及び印刷層の材質を考慮して、適宜選択すれば良い。公知のものとしては、アクリレート樹脂、ポリイミド、エポキシ樹脂、ポリウレタン、ポリオレフィン等が例示できる。また、例えば、保護層の材質がポリ塩化ビニルである場合には、前記接着剤として、前記受容層を形成するための組成物を使用しても良い。ただしこの場合には、例えば、前記架橋剤の配合量を低減したり、未配合とすることで、形成する接着層が硬くなり過ぎない(適度の柔軟性を有する)ようにすることが好ましい。このようにすることで、印刷層のひび割れを抑制するより高い効果が得られる。通常は、同時に形成する受容層よりも柔軟性が向上するように、組成物の配合成分を調節することが好ましい。
【0038】
接着層の厚さは2〜8μmであることが好ましい。
前記接着剤は、例えば、前記組成物と同様の方法で塗布すれば良い。
【0039】
[加圧加熱処理]
本発明の積層体は、前記基材上に、前記受容層及び印刷層、並びに必要に応じて前記その他の層を順次積層し、得られた構造体(以下、単に「構造体」と略記する)を加圧加熱処理することで製造できる。加圧加熱処理により、十分な強度を有する積層体となる。
【0040】
図1は、前記構造体を例示する概略断面図である。ここに示す構造体1’は、基材11’上に、受容層12’、印刷層13’、接着層14’及び保護層15’がこの順に積層されたものである。上記のように、接着層14’及び保護層15’は、任意の層構成であり、目的に応じて設けなくても良いし、これら二層に代わりその他の層が積層されていても良く、これら二層に加えてさらにその他の層が積層されていても良い。
【0041】
加圧加熱処理の条件は、前記構造体の構成に応じて適宜調節すれば良く、特に限定されないが、強固な積層体が得られる点から、圧力は0.1〜1.0kg/cmであることが好ましく、温度は100〜200℃であることが好ましい。また、加圧加熱処理した後に、加圧した状態のまま温度を下げて、10〜30℃の低温を所定時間維持(加圧冷却処理)しても良い。加圧加熱処理及び加圧冷却処理の時間は、温度等を考慮して適宜設定すれば良いが、5〜60分であることが好ましい。
加圧加熱処理は、公知の熱プレス機を使用して行えば良い。
【0042】
得られた積層体は、必要に応じて加圧加熱処理後に、カッターや打ち抜き機等の周知の装置を使用して、その大きさを適宜調節しても良い。
【0043】
前記構造体においては、上記のように、強固なウレタンアクリレートポリマーの三次元骨格の空隙部にポリウレタンが存在していると考えられるが、加圧加熱処理により、ウレタンアクリレートポリマーの三次元骨格が受容層の厚さ方向において押し潰され、より平面的な骨格に変化すると共に、空隙部に存在していた一部のポリウレタンが、ウレタンアクリレートポリマーの骨格外に押し出されると考えられる。そして、押し出されたポリウレタンが接着剤として機能し、印刷層の受容層からの剥離と、受容層の基材からの剥離を抑制するのではないかと考えられる。
また、前記組成物中に、ポリウレタンに対して架橋作用を有する架橋剤が配合されている場合には、加圧加熱処理によってポリウレタンの架橋が進行するので、受容層の硬さを向上(柔軟性を低減)させることもできる。
このように、本発明においては、受容層が、加圧加熱処理前の段階ではブロッキング抑制効果(接着抑制効果)を有するのに対し、加圧加熱処理後においては接着効果を有することで、印刷層の剥離が抑制され、製造時の取り扱い性に優れた積層体となる。
また、本発明においては、前記組成物が水性であることによっても、積層体製造時の取り扱い性に優れる。
さらに、一般的には、受容層上の全面に印刷層が形成された場合など、受容層上の端部にまで印刷層が形成された場合には、積層体の端部が物体に繰り返し接触したり、強く接触したりすることで、印刷層上に形成された保護層が剥離することがある。しかし、本発明の積層体は十分な強度を有するので、保護層の印刷層からの剥離や、保護層と印刷層が一体となっての受容層からの剥離が抑制される。
【0044】
図2は、図1に示す構造体を加圧加熱処理して得られた、本発明の積層体を例示する概略断面図である。ここに示す積層体1において、基材11、受容層12、印刷層13、接着層14及び保護層15はそれぞれ、基材11’、受容層12’、印刷層13’、接着層14’及び保護層15’が加圧加熱処理されたものである。なお、本発明においては、必ずしも基材11’〜保護層15’のすべてが、加圧加熱処理によってその特性が変化することを意味しない。
【0045】
本発明の積層体は、特に、シート状又はカード状等の薄型のものとするのに好適であり、基材上に、受容層、印刷層及び保護層が積層されたものは、各種印刷カードとして特に好適である。
【0046】
本発明の積層体は、受容層用組成物として特定の成分が配合されたものを使用することで、印刷層の基材からの剥離が顕著に抑制されたものである。また、このような前記組成物を選択することで、受容層形成時の前記組成物の塗布において、ロールコーターを使用する方法等、受容層を短時間で形成できる方法を選択できる。さらに、シリカを使用しなくても、ブロッキング抑制効果を有するので、受容層の薄層化、すなわち積層体の薄型化が容易である。この場合、組成物の乾燥時間をさらに低減できるので、より短時間で受容層を形成できる。
以上のように、本発明の積層体は、基材からの印刷層の剥離抑制効果に優れると共に、その製造過程において、受容層を短時間で形成でき、受容層がブロッキング抑制効果等の基本的な特性を損なうことがないなど、製造適性にも優れたものである。
【実施例】
【0047】
以下、具体的実施例により、本発明についてより詳細に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に、何ら限定されるものではない。
【0048】
<使用原料>
使用した原料を以下に示す。
[ウレタンアクリレートエマルジョン]
Radiation curing Laromer regins LR8949(BASF社製、水60質量%、脂肪族系イソシアネートモノマーを用いて得られたウレタンアクリレートのエマルジョン)
Radiation curing Laromer regins LR8983(BASF社製、水60質量%、芳香族系イソシアネートモノマーを用いて得られたウレタンアクリレートのエマルジョン)
[ポリウレタンエマルジョン]
レザミンD−4080(大日精化工業社製、不揮発分35質量%、ポリカーボネート/ポリエーテル型ポリウレタンディスパージョン)
レザミンD−6030(大日精化工業社製、不揮発分30質量%、ポリカーボネート/ポリエーテル型ポリウレタンディスパージョン)
レザミンD−6031(大日精化工業社製、不揮発分30質量%、ポリカーボネート型ポリウレタンディスパージョン)
レザミンD−6300(大日精化工業社製、不揮発分30質量%、ポリカーボネート型ポリウレタンディスパージョン)
UW−3100−E(宇部興産社製、不揮発分30質量%、ポリカーボネートジオール型ポリウレタンディスパージョン)
UW−5034−E(宇部興産社製、不揮発分30質量%、ポリカーボネートジオール型ポリウレタンディスパージョン)
UW−5101−E(宇部興産社製、不揮発分30質量%、ポリカーボネートジオール型ポリウレタンディスパージョン)
ハイドランHW−311(DIC社製、不揮発分45質量%、ポリエステル型ポリウレタンディスパージョン)
ハイドランHW−337(DIC社製、不揮発分38質量%、ポリエステル型ポリウレタンディスパージョン)
スーパーフレックス(第一工業製薬社製、40質量%、水溶性ウレタン樹脂水分散体)
[光重合開始剤]
イルガキュア500(Chiba社製)
[ポリ塩化ビニル/酢酸ビニル系エマルジョン]
ビニブラン603SA(日信化学社製、塩化ビニル/酢酸ビニル構成比(モル比):70/30、固形分50質量%、)
ビニブラン603(日信化学社製、塩化ビニル/酢酸ビニル構成比(モル比):70/30、固形分50質量%、)
[ポリ塩化ビニルエマルジョン]
ビニブラン271(日信化学社製、固形分43質量%、塩化ビニル/アクリル系:50/50)
[架橋剤]
レザミンD−52(大日精化工業社製、固形分濃度40質量%、ポリカルボジイミド系架橋剤)
CR−60N(DIC社製、ポリイソシアネート系架橋剤)
[増粘剤(粘弾性調製剤)]
レザミンD−28(大日精化工業社製、固形分濃度17.5質量%)
SNシックナー612(サンノプコ社製、固形分濃度40質量%)
【0049】
<印刷カードの製造>
[実施例1]
(受容層用組成物の調製)
200mLのビーカーに光重合開始剤(イルガキュア500、Chiba社製)2.5g、架橋剤(レザミンD−52、大日精化工業社製)2.5g、紫外線硬化型脂肪族ウレタンアクリレートエマルジョン(LR8949、BASF社製)50g、ポリウレタンエマルジョン(レザミンD−4080、大日精化工業社製)50g、増粘剤(レザミンD−28、大日精化工業社製)1gを上皿電子天秤(TOLED PL3000、METTLER社製)で計りとり、これらの混合物を、スリーワンモーター攪拌機(スリーワンモーター社製)を使用して、300rpmで室温にて10分間攪拌し、受容層用組成物(塗工剤)とした。得られた組成物の配合成分と、その実効成分の配合量(例えば、エマルジョンの場合には、分散媒を除いた固形分の配合量に該当する)を表1に示す。
【0050】
(基材上への受容層用組成物の塗工)
塗工機((マイクロローラーコーターMRC−450、速度2m/分、サーマトロニクス貿易社)、(グラビアロールNA1223、パイロット精工社製))の所定箇所に、前記組成物を投入し、硬質ポリ塩化ビニル製シート(三菱樹脂社製、サイズ:330mm×580mm×0.56mm)を搬送ベルトよりグラビアロールに流して、このシート上に前記組成物で塗工した。なお、この時のグラビアロールのブレード押し圧は1.5目盛り、シート押し圧は0.1mmに設定した。
【0051】
(受容層の形成)
ヘアードライヤー(National TURRBO DRY1200)を使用して、塗工した前記シートを水分が無くなるまで数分間乾燥させ、ベルトコンベア搬送型紫外線硬化装置(アイ紫外線硬化用電源装置UB041−5(ランプ出力80W/cm、コンベア速度15m/分、高圧水銀灯ランプ出力4kw)、アイグラフィックス社製)を使用して、ウレタンアクリレートを重合させ、受容層を形成した。受容層の厚さは1〜2μmであった。
【0052】
(印刷層の形成)
枚葉印刷機(水無インキ:T&K TOKA社製)を使用して、ランプ出力:「200W/cm×3灯」+「160W/cm×4灯」、運転スピード:6400枚/時、メタルハライドランプ:「15kW×3」+「12kW×4の」の印刷条件で、受容層を形成した前記シートに対してプロセスインキ(CMYK)でオフセット印刷を行い、受容層上に厚さ4
μmの印刷層を形成した。
【0053】
(接着層の形成)
枚葉シルク印刷機を使用して、300メッシュ、スキージ硬度80°、乾燥条件:「45℃×25分、常温(25℃)×25分」の印刷条件で、印刷層を形成した前記シートに対して、粘着剤(溶剤インキ、東洋インキ社製)を印刷し、印刷層上に厚さ7μmの接着層を形成した。
【0054】
(保護層の形成)
接着層を形成した前記シートに対し、透明なポリ塩化ビニル製シート(厚さ0.1mm、三菱樹脂社)を接着層上に重ね、ラミネート機を使用して、圧力0.5kg/cmで、ホット150℃×22分、クール15℃×22分の条件で熱プレスを行い、接着層上に厚さ100μmの保護層を形成した。
【0055】
(カード化)
受容層、印刷層、接着層及び保護層がこの順に積層された前記シートを、85mm×54mmのカードサイズに裁断し、印刷カードとした。
【0056】
[実施例2〜6]
受容層用組成物調製時の配合成分とその実効成分の配合量を、表1に示す通りとしたこと以外は、実施例1と同様の方法で、印刷カードを製造した。
【0057】
[実施例7]
200mLのビーカーに光重合開始剤(イルガキュア500、Chiba社製)1.9g、ウレタンアクリレートエマルジョン(LR8949、BASF社製)26.5g、ポリウレタンエマルジョン(ハイドランHW−311、DIC社製)15.6g、ポリ塩化ビニル/酢酸ビニル系エマルジョン(ビニブラン603SA、日信化学社製)10.6gを上皿電子天秤(TOLED PL3000、METTLER社製)で計りとり、これらの混合物を、スリーワンモーター攪拌機(スリーワンモーター社製)を使用して、300rpmで室温にて10分間攪拌し、混合液を得た。
次いで、100mLのビーカーでイオン交換水32gに粘弾性調製剤(SNシックナー612、サンノプコ社製)0.3gを溶解させ、その全量を上記混合液と合わせて粘度調製し、受容層用組成物とした。得られた組成物の配合成分と、その実効成分の配合量(例えば、エマルジョンの場合には、分散媒を除いた固形分の配合量に該当する)を表1に示す。
以下、実施例1と同様の方法で、印刷カードを製造した。
【0058】
[実施例8〜12]
受容層用組成物調製時の配合成分とその実効成分の配合量、受容層の厚さを、それぞれ表1に示す通りとしたこと以外は、実施例7と同様の方法で、印刷カードを製造した。受容層の厚さは、前記組成物の一回あたりの塗工量を同じとして塗工回数を変えることで調節した。すなわち、実施例1〜7では、塗工回数一回で受容層の厚さが1〜2μmとなるようにしていたのに対し、塗工回数を二回とすることで受容層の厚さを3〜4μmとし、塗工回数を三回とすることで受容層の厚さを5〜6μmとした。
【0059】
[実施例13〜46]
受容層用組成物調製時の配合成分とその実効成分の配合量、受容層の厚さを、それぞれ表2〜3に示す通りとしたこと以外は、実施例7と同様の方法で、印刷カードを製造した。受容層の厚さは、実施例7〜12の場合と同様の方法で調節した。
【0060】
[比較例1〜8]
受容層用組成物調製時の配合成分とその実効成分の配合量、受容層の厚さを、それぞれ表4に示す通りとしたこと以外は、実施例7と同様の方法で、印刷カードを製造した。
【0061】
【表1】

【0062】
【表2】

【0063】
【表3】

【0064】
【表4】

【0065】
<印刷カードにおける印刷層の剥離抑制効果の評価>
実施例1〜46及び比較例1〜8で製造した印刷カードについて、下記手順により、印刷層の基材からの剥離抑制効果を評価した。
まず、印刷カードの保護層側の表面において、対角線を描くようにカッターで切れ目を入れた。すなわち、形成された切れ目は、カード表面のほぼ中心において交差する状態とした。なお、この時カッターの刃を、印刷カードの表面に対して垂直ではなく、やや傾けて切れ目を入れ、少なくとも保護層が厚さ方向全域に渡って切断されるようにした。
次いで、切れ目の前記交差部位を起点として、保護層を印刷カード本体から引き剥がした。
そして、印刷カード本体における印刷層の状態を目視で確認し、保護層を引き剥がした時に感じた抵抗の程度と合わせて、印刷層の剥離抑制効果を評価した。評価基準は以下の通りである。「◎」及び「○」は、印刷層の剥離抑制効果が高く、合格レベルであることを示し、「△」、「×」及び「××」は、印刷層の剥離抑制効果が低く、不合格レベルであることを示す。評価結果を表5に示す。
【0066】
(評価基準)
◎・・・大きな抵抗を感じ、保護層のみがカード本体から剥離し、印刷層はカード本体に完全に残っていた。
○・・・大きな抵抗を感じ、ほぼ保護層のみがカード本体から剥離し、印刷層はカード本体にほぼ完全に残っていた。
△・・・中程度の抵抗を感じるが、保護層が少なくとも印刷層の一部と共に、カード本体から剥離した。
×・・・大きな抵抗を感じることなく、保護層が少なくとも印刷層の一部と共に、カード本体から容易に剥離した。
××・・・ほとんど抵抗を感じることなく、保護層が少なくとも印刷層の一部と共に、カード本体から容易に剥離した。
【0067】
【表5】

【0068】
表1〜5から明らかなように、本発明により、印刷層の基材からの剥離が十分に抑制できることを確認できた。
そして、例えば、ポリウレタンがポリカーボネート/ポリエーテル型(レザミンD−4080)及びポリカーボネート型(レザミンD−6031、レザミンD−6300)の場合には、ウレタンアクリレートに対する配合量が少ない方が、印刷層の剥離抑制効果により優れる傾向が見られた(例えば、実施例41及び43、実施例13及び15、実施例17及び19等)。
一方、ポリウレタンがポリカーボネートジオール型(特に、UW−5034−E、UW−5101−E)及びポリエステル型(特に、ハイドランHW−311)の場合には、ウレタンアクリレートに対する配合量が多い方が、印刷層の剥離抑制効果により優れる傾向が見られた(例えば、実施例24及び26、実施例28及び29、実施例31及び33等)。
また、例えば、ポリウレタンがポリカーボネート型(レザミンD−6031)の場合には、前記組成物において架橋剤を併用することで、印刷層の剥離抑制効果により優れる傾向が見られた(例えば、実施例13及び36等)。
しかし、ウレタンアクリレート及びポリウレタンを併用していない比較例1〜8では、印刷層の基材からの剥離を抑制できなかった。
【0069】
<受容層の形成>
[製造例1〜10]
受容層用組成物調製時の配合成分とその実効成分の配合量、受容層の厚さを、それぞれ表6に示す通りとし、印刷層、接着層及び保護層を形成せず、加圧加熱処理を行わなかったこと以外は、実施例7と同様の方法で、基材上に受容層を形成した。受容層の厚さは、実施例7〜12の場合と同様の方法で調節した。
【0070】
【表6】

【0071】
[製造例11〜16]
印刷層、接着層及び保護層を形成せず、加圧加熱処理を行わなかったこと以外は、上記実施例1〜6と同様の方法で、基材上に受容層を形成した。すなわち、製造例11、12、13、14、15、16における、基材上に受容層が形成された積層構造は、それぞれ上記実施例1、2、3、4、5、6の印刷カード製造時におけるものと同じである。
【0072】
<受容層のブロッキング抑制効果の評価>
上記各製造例の受容層について、下記手順によりブロッキング抑制効果を評価した。
まず、各受容層の表面に、前記組成物を塗工しなかった硬質ポリ塩化ビニル製シート(三菱樹脂社製、厚さ:0.56mm)を重ね、これらを、ブランケットが表面に貼付された鏡面板で挟み込んで平面上に載置した。さらに、鏡面板上に4kgの錘を3個載せて、受容層と未塗工の硬質ポリ塩化ビニル製シートに圧力を印加し、この状態を維持して室温で12時間静置した。
次いで、鏡面板をそのまま傾けて、未塗工の硬質ポリ塩化ビニル製シートのスライド(滑り落ち)の有無を確認し、下記評価基準に従って、受容層のブロッキング抑制効果を評価した。「◎」及び「○」はいずれも合格レベルであることを示し、「×」は不合格レベルであることを示す。評価結果を表7に示す。
(評価基準)
◎・・・高いブロッキング抑制効果が認められ、実用上全く問題が無い。
○・・・ブロッキング抑制効果が認められ、実用上問題が無い。
×・・・ブロッキング抑制効果が低いか全く認められず、実用上問題がある。
【0073】
【表7】

【0074】
表7から明らかなように、前記ウレタンアクリレート及びポリウレタンを併用したものは、ブロッキング抑制効果が認められ、さらに製造例11〜16の結果から、本発明の印刷カードは、その製造過程において、ブロッキング抑制効果という基本的な特性を損なっていないことを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、ポリ塩化ビニルからなる基材上に印刷層が設けられたカードや化粧材等の各種積層体として利用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1・・・積層体、1’・・・構造体、11,11’・・・基材、12,12’・・・受容層、13,13’・・・印刷層、14,14’・・・接着層、15,15’・・・保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニルからなる基材上に、紫外線硬化型アクリル系インキ用受容層、及び紫外線硬化型アクリル系インキから形成された印刷層がこの順に積層され、加圧加熱処理されてなる積層体であって、
前記受容層が、紫外線硬化型ウレタンアクリレートを主成分とする水性エマルジョンと、ポリウレタンを主成分とする水性エマルジョンと、光重合開始剤と、が配合された組成物から形成されたものであることを特徴とする積層体。
【請求項2】
前記ウレタンアクリレートが、脂肪族系イソシアネートモノマーを用いて得られたものである場合には、前記ウレタンアクリレートの配合量1質量部あたりの、前記ポリウレタンの配合量が0.1質量部以上であり、
前記ウレタンアクリレートが、芳香族系イソシアネートモノマーを用いて得られたものである場合には、前記ウレタンアクリレートの配合量1質量部あたりの、前記ポリウレタンの配合量が0.8質量部以上であることを特徴とする請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記印刷層上に、さらに保護層が積層されて加圧加熱処理されてなり、カード状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の積層体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−101478(P2012−101478A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252886(P2010−252886)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(000110217)トッパン・フォームズ株式会社 (989)
【Fターム(参考)】