説明

積層型カラーセンサ

【課題】 色分離特性および感度の改善された積層型カラーセンサを提供する。
【解決手段】 積層型カラーセンサは、光吸収部の表面から順に積層配置された第1から第3までの光吸収層と、光吸収部の表面の一部に形成されたバイアス電極と、光吸収によって生成したキャリアを電気信号として検出するために光吸収層の各々へ電気的に接続された検出電極とを含み、互いに隣接する光吸収層は、互いに異なる波長帯域の光を吸収してキャリアを生成するように、互いに異なる比率でSiとGeを含むIV族系半導体のヘテロ積層構造を構成しており、第1から第3までの光吸収層において、それらの伝導帯の下限レベルが順次に不連続に低下もしくは上昇する階段状のレベル変化を示すか、またはそれらの価電子帯の上限レベルが順次に不連続に上昇もしくは低下する階段状のレベル変化を示すことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収部において積層配置された複数の光吸収層(光検知層)を含む積層型半導体カラーセンサに関し、特に積層型カラーセンサの色分離特性および感度の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的なカラー固体撮像装置は各画素ごとに平面的に並置されたR(赤)、G(緑)、およびB(青)の3種のカラーフィルタおよび各カラーフィルタに対応して配置されたフォトダイオードを含み、各カラーフィルタを通過した特定波長域の光信号がフォトダイオードによって検知される。したがって、フォトダイオードの光電変換部に到達する光は入射光のうちの一部となり、カラーフィルタを用いない場合に比べて信号出力が低下する。しかし、近年では、カラーフィルタを用いることなくR、G、およびBの各色成分の信号を各画素から検知するカラー撮像素子が、たとえば特許文献1の米国特許第5965875号(特表2002−513145号)に開示されている。
【0003】
図7は、特許文献1に開示されたカラー撮像素子を模式的な断面図で図解している。このカラー撮像素子は、p型シリコン基板100内において、その最も深い位置に形成されたn型の光吸収層101、その上部に形成されたp型の光吸収層102、さらにその上部に形成されたn型の光吸収層103を含んでいる。すなわち、特許文献1に開示されたカラー撮像素子では、極性が交互に反転させられた3つのpn接合ダイオードがSi基板100の深さ方向に重ねられて形成されている。
【0004】
図8のグラフにおいては、可視光の波長に対するSiの吸収係数とSi内の光吸収長さの関係が示されている。すなわち、このグラフの横軸は可視光の波長(μm)を表し、左の縦軸は光の吸収係数(/cm)を表し、そして右の縦軸は光の吸収深さまたは吸収距離(μm)を表している。横軸と左の縦軸との関係からわかるように、Siは波長の長い光に対して小さな吸収係数を有している。そして、横軸と右の縦軸との関係からわかるように、Si基板の表面から入射した光のうちで、波長の長い光ほどSi基板の深くまで到達する。したがって、図7において3段に重ねられるフォトダイオードが可視光の各波長領域(R、G、B)をカバーし得るようにpn接合の深さを設計し、それら3段のフォトダイオードの各々から電流計101a、102a、103aで別々に電流を検出することによって、異なる波長帯域の光信号を検出することができる。
【0005】
図9のエネルギバンド図は、図7に示した3段のフォトダイオードにおけるポテンシャル変化を模式的に図解している。このエネルギバンド図において、縦軸は電子エネルギを表し、横軸はフォトダイオードの深さを表わしている。そして、図9における深さ領域C、D、E、およびFは、図7における深さ領域C、D、E、およびFにそれぞれ対応している。すなわち、深さ領域CではB(青)成分の光吸収によって発生した電子が蓄積され、深さ領域DではG(緑)成分の光吸収によって発生した正孔が蓄積され、そして深さ領域EではR(赤)成分の光吸収によって発生した電子が蓄積される。
【0006】
また、特許文献2の米国特許第4613895号においても、積層された複数のフォトダイオードを含むカラー撮像素子が開示されている。図10のエネルギバンド図は、特許文献2に開示されたカラー撮像素子のノンバイアス時におけるポテンシャル変化を模式的に図解している。このエネルギバンド図においても、縦軸は電子エネルギを表し、横軸は撮像素子の深さ方向における距離を表わしている。
【0007】
図10に表されたカラー撮像素子は、n型の半導体基板130、その最も深い位置に形成されたp型半導体光吸収層131、その上方に形成されたp型半導体光吸収層132、さらにその上方に形成されたp型半導体光吸収層133を含んでいる。また、p型光吸収層131、132、133の各光電変換部を電気的に互いに分離するために、それらの間にn型半導体層134が設けられている。そして、3つのp型光吸収層131、132、133と2つのn型半導体層134およびn型半導体基板130とによって、3段に積層された同一極性のフォトダイオードが形成されている。p型光吸収層133に隣接して絶縁膜135と電極136とが順次に形成されており、電極136における斜線部には電子が存在している。その電極136中の電子の最上ポテンシャルに対応して示された水平の破線は、フェルミ・レベルを表している。そして、電極136と光吸収層133との間では、絶縁膜135のポテンシャルバリアによってキャリアの移動が抑制される。
【0008】
図11のエネルギバンド図は、図10に示したカラー撮像素子にバイアス電圧を印加した状態におけるキャリアの拡散を模式的に図解している。このエネルギバンド図の縦軸は電子エネルギを表し、横軸は3段のフォトダイオードの深さを表わしている。図11中の深さ領域H、I、J、K、LおよびMは、図10に示した深さ領域H、I、J、K、LおよびMにそれぞれ対応している。そして、深さ領域HではB(青)成分の光吸収によって発生した正孔が蓄積され、深さ領域JではG(緑)成分の光吸収によって発生した正孔が蓄積され、さらに深さ領域LではR(赤)成分の光吸収によって発生した正孔が蓄積される。
【特許文献1】米国特許第5965875号(特表2002−513145号)
【特許文献2】米国特許第4613895号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のカラー撮像素子では、図9に示されているように、深さ領域Dで発生した電子111が深さ領域CおよびEに拡散される。また、G成分の光によって発生した電子112とR成分の光によって発生した電子114とが、深さ領域Eで混合される。他方、深さ領域Eで発生した正孔123は深さ領域DおよびFに拡散され、B成分の光によって発生した正孔120とG成分の光によって発生した正孔122とは深さ領域Dで混合される。このように、複数のpn接合によるポテンシャル井戸において、異なる深さ領域で生成したキャリアの拡散による混合を防止して、R、G、Bの各色成分を分離して検出することは困難である。
【0010】
特許文献2のカラー撮像素子においても、特許文献1の場合と同様の課題を含んでいる。すなわち、図11に示されているように、深さ領域Kで発生した正孔140は深さ領域Jと深さ領域Lに拡散され、また深さ領域Iで発生した正孔141は深さ領域Hと深さ領域Jに拡散されるので、色分離性に課題が残る。
【0011】
以上のように、複数のpn接合によるポテンシャル井戸構造では、異なる深さ領域で生成したキャリアの拡散による混合が常に起こるので、色分離性をよくすることは困難であることがわかる。また、p型半導体光吸収層で正孔を検出して、n型半導体光吸収層で電子を検出することから、不純物濃度に応じて半導体内に存在しているキャリアも信号として検出されてしまう。また、特許文献2では6層の半導体積層構造を形成するので、撮像素子の作製プロセスが煩雑化する。
【0012】
上述のような先行技術における課題に鑑み、本発明は、色分離特性および感度の改善された積層型カラーセンサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による積層型カラーセンサは、光吸収部の表面から順に積層配置された第1から第3までの光吸収層と、光吸収部の表面の一部に形成されたバイアス電極と、光吸収によって生成したキャリアを電気信号として検出するために光吸収層の各々へ電気的に接続された検出電極とを含み、互いに隣接する光吸収層は、互いに異なる波長帯域の光を吸収して光電変換によるキャリアを生成するように、互いに異なる比率でSiとGeを含むIV族系半導体のヘテロ積層構造を構成し、第1から第3までの光吸収層において、それらの伝導帯の下限レベルが順次に不連続に低下もしくは上昇する階段状のレベル変化を示すか、またはそれらの価電子帯の上限レベルが順次に不連続に上昇もしくは低下する階段状のレベル変化を示すことを特徴としている。
【0014】
なお、第1から第3の光吸収層はp型の導電性を有することができ、その場合に、光電変換によって生成したキャリアのうちで電子のみが検出電極を介して電気信号として検出され得る。他方、第1から第3の光吸収層はn型の導電性を有することもでき、その場合には、光電変換によって生成したキャリアのうちで正孔のみが検出電極を介して電気信号として検出され得る。
【0015】
また、第1から第3の光吸収層における互いの相対的光吸収感度を調整するために、第1から第3の光吸収層におけるGeの濃度が調整され得る。たとえば、第1の光吸収層と第3の光吸収層は互いに等しいGe濃度を有するように調整し得る。また、第1から第3の光吸収層における互いの相対的光吸収感度を実質的に等しくするように、第1から第3の光吸収層におけるGe濃度が調整されてもよい。
【0016】
さらに、光吸収部の表面において、第1の光吸収層とともにヘテロ構造を構成するSi層または第1の光吸収層とは逆の導電型を有するSi層をさらに含むこともできる。
【発明の効果】
【0017】
以上のような本発明による積層型カラーセンサにおいては、複数の光吸収層にSiとGeのIV族系半導体の混晶材料を用いてヘテロ構造を形成することによって光吸収部の深さ方向に階段状のエネルギバンド構造を構成し、バイアス電圧制御とヘテロ構造による階段状のバンド構造を利用することよって、各光吸収層で発生したキャリアが光吸収層間で拡散することを抑制し、色分離特性を向上させることができる。また、Siに比べて小さいバンドギャップを有するGeを利用することによって、光吸収の感度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1は、本発明の一実施形態においてヘテロ構造を用いた積層型カラーセンサの光吸収部を模式的断面図で図解している。この積層型カラーセンサは、p型のSi基板1、その最も深い位置に形成されたp型Si1-xGexの光吸収層2、その上部に形成されたp型Si1-yGeyの光吸収層3、さらにその上部に形成されたp型Si1-zGezの光吸収層4を含んでいる。すなわち、複数の光吸収層2、3、4によるヘテロ構造によって、複数の光検知層が形成されている。
【0019】
最上の光吸収層4上にはp+型のSi層5が形成されており、これは表面で発生する暗電流の光吸収層4への寄与を抑制するために設けられている。そして、p+型Si層5上にはバイアス電極6が形成され、複数の光吸収層2、3、4はそれぞれ検知電極7、8、9に接続され、そしてp型Si基板1は接地電位に接続されている。
【0020】
ここで、SiとGeは共にIV族系の半導体であって、互いに全率固溶し得るので、任意の組成比において混合することができる。そして、SiとGeの組成比を制御することによって、格子定数の大きさおよびバンドギャップの大きさが、100%Siから100%Geの範囲内で任意に制御され得る。
【0021】
図1に示されているような積層型カラーセンサに光が入射すれば、光吸収層でフォトンが吸収されて電子・正孔対がキャリアとして発生する。光吸収部に入射する光はその波長に依存して光電変換される深さが異なるので、R、G、Bの光に対応した深さに配置された複数の光吸収層から検出される信号を読み出すことによって、入射光に含まれるR、G、Bの割合を算出することができる。
【0022】
図2は、図1の積層型カラーセンサの光吸収部におけるエネルギバンド構造を模式的に図解している。すなわち、図2中の縦軸は電子エネルギを表し、横軸は光吸収層の深さを表わしている。深さ方向の条件としては、たとえば半導体表面に形成されたp+型Si層5を0〜0.2μmの深さ範囲に形成し、B成分の光(波長450nm)を吸収するp型光吸収層4を0.2〜0.5μmの深さ範囲に形成し、G成分の光(波長550nm)を吸収するp型光吸収層3を0.5〜1.5μmの深さ範囲に形成し、そしてR成分の光(波長650nm)を吸収するp型光吸収層2を1.5〜2.7μmの深さ範囲に形成する。これらの深さ設定は、可視光の波長に対する吸収係数と吸収深さの関係から算出され得る。
【0023】
次の表1は、半導体基板1、p型の各光吸収層2、3、4、および半導体表面に形成されたp+型のSi層5におけるSiとGeの組成比、バンドギャップの大きさ、および不純物濃度を示している。
【0024】
【表1】

【0025】
表1の条件でヘテロ構造を構成すれば、基板1と光吸収層2の伝導帯接合部10および価電子帯接合部20におけるそれぞれのエネルギレベル差が0.08eVおよび0.15eVになり、光吸収層2と光吸収層3の伝導帯接合部11および価電子帯接合部21におけるそれぞれのエネルギレベル差が0.08eVおよび0.06eVになり、光吸収層3と光吸収層4の伝導帯接合部12および価電子帯接合部22におけるそれぞれのエネルギレベル差が0.11eVおよび0.08eVになり、そして光吸収層4と半導体表面に形成されたp+型Si層5の伝導帯接合部13および価電子帯接合部23におけるそれぞれのエネルギレベル差が0.09eVおよび0.07eVになる。また、光吸収層2、3、4としてのSiGe層の形成時において、それらの層は歪みを緩和するのに十分な厚さを有することから、急峻な階段状のエネルギバンド構造を形成することが可能である。
【0026】
なお、基板1をn型とし、光吸収層2、3および4をn型にして、半導体表面にn+型Si層を形成したヘテロ構造を用いた積層型カラーセンサの構成としてもよいことが理解されよう。
【0027】
図3は、図2に類似しているが、バイアス電極6に電圧を印加した状態における模式的エネルギバンド図を示している。図3に示されているように、バイアス電極6に正の電圧を印加すれば、光吸収によって発生した電子はバイアス電極6側ヘ移動しようとし、正孔は基板側に移動しようとする。移動するキャリアは、バイアス電圧制御とヘテロ構造とによって、階段状のバンド構造のヘテロ接合部10、11、12および13、さらに20、21、22および23に蓄積される。このとき、不純物濃度に比べて伝導帯における電子の数が少ないことから、キャリアの移動によるバンド構造の変化は無視することができる。また、ヘテロ接合部でキャリアが蓄積され得るか否かは、その接合部におけるキャリアのトンネル確率に依存する。
【0028】
図4は、ポテンシャル障壁とトンネル確率の関係を示す模式的グラフである。すなわち、このグラフの縦軸は電子エネルギを表し、横軸は半導体中の距離を表している。図4に示されているように、ピークポテンシャルE1を有するポテンシャル障壁30が存在する場合、この障壁の右側でエネルギE0をもつキャリア31は、波動の性質を持っているので、次式(1)で与えられる確率Tでこの障壁を通り抜けることができる。この際の透過領域の長さは、x=x1からx=x2までである。
【0029】
【数1】

【0030】
式(1)中で、mは透過物質中におけるキャリアの有効質量を表し、hはプランク定数(6.6×10-27erg・sec)を表している。すなわち、トンネル確率は、キャリアのエネルギ、透過領域の長さ、および障壁高さに基づいて、計算によって求めることができる。表2は、図3中のヘテロ接合部10、11、12および13、さらに20、21、22および23に関して、式(1)を利用して求められたトンネル確率を示している。
【0031】
【表2】

【0032】
ここで、表2に示されたキャリア蓄積に必要な透過領域の長さの算出方法について、MOS(金属・酸化物・半導体)トランジスタの現状技術を基に説明する。周知のように、LSI(大規模集積回路)を構成するMOSトランジスタの性能を向上させるために微細化が年々進められており、その技術動向を表す技術ノードは、国際半導体技術ロードマップ(ITRS : International Technology Roadmap for Semiconductors)でも示されているように、主要パラメータの最小値である配線ピッチの1/2(ハーフピッチ)が指針となっている。現在の技術ノードは90nmプロセスであり、インテル社が90nmプロセスで使用しているトランジスタのゲート絶縁膜(厚さ:1.2nm)におけるトンネル確率を参考にして、図3中のヘテロ接合部10、11、12および13、さらに20、21、22および23におけるトンネル現象を防ぐのに必要な透過領域の長さを算出することができる。
【0033】
他方、エネルギバンド形状から、蓄積キャリアのエネルギに関する透過領域の長さを算出することができる。この蓄積キャリアのエネルギに関する透過領域の長さは、不純物濃度の設定に依存して変化する電気力線の量に寄与したエネルギバンドの傾きによって決まる。
【0034】
表2中の算出結果に示されているように、トンネル現象を防ぐのに必要な透過領域の長さに比べて、エネルギバンド形状から算出した蓄積キャリアのエネルギに関する透過領域の長さの方が大きくなっている。このことは、それぞれの接合部においてトンネル現象を防ぐエネルギバンド構造が形成されていることを表している。
【0035】
すなわち、図1に示されているように、複数の光吸収層においてSiとGeのIV族系半導体の混晶材料を用いてヘテロ構造を形成することによって光吸収部の深さ方向に階段状のエネルギバンド構造を構成し、さらにバイアス電圧制御を利用することによって、各光吸収層で発生したキャリアが光吸収層間で拡散することを抑制し、これによってカラー撮像素子の色分離特性を向上させることができる。また、最上の光吸収層4の表面に不純物濃度の大きいSi層5を形成することによって、表面で発生する暗電流による最上の光吸収層4への影響を抑制することができる。また、最上の光吸収層4からのトンネル効果を防止できるので、最上の光吸収層4で発生したキャリアが表面準位にトラップされることを抑制することができる。
【0036】
図1におけるように光吸収層2、3および4がp型半導体で形成されている場合に、検出電極7、8および9に正の電圧を印加すれば、各光吸収層において光吸収で発生した電子のみを検出することができ、不純物濃度によって光吸収層内に存在しているキャリア(正孔)を検出することはない。なお、光吸収層2、3および4をn型半導体で形成して、検出電極7、8および9に負の電圧を印加してもよい。この場合には、各光吸収層2、3および4において光吸収で発生した正孔のみを検出することができ、不純物濃度によって光吸収層内に存在しているキャリア(電子)を検出することはない。また、上述のように各光吸収層に印加される電圧の正負符号を統一することができるので、信号抽出を行なう際に検出電極7、8および9を駆動させるトランジスタの共有化などが可能となり、トランジスタ数を削減することができる。
【0037】
なお、最上と最下の光吸収層4、2におけるGe濃度を等しく設定した場合には、SiとGeのIV族系半導体材料を用いたヘテロ構造形成時において光吸収層4、2のGe濃度を変える必要がないので、カラー撮像素子の作製プロセスを簡略化することができる。
【0038】
ここで、SiとGeの光吸収特性を説明する。光吸収によるキャリアの発生は伝導帯と価電子帯とのバンドギャップ間における電子の遷移によって起こり、価電子帯の電子が伝導帯へ励起されることによって生じる。すなわち、電子の遷移が起こるか否かは、バンドギャップの大きさに依存する。光の波長、振動数、および速度をそれぞれλ、ν、およびcで表せば、ある吸収領域において吸収される光のエネルギをhν(=Eg:バンドギャップ)として、バンドギャップEgと光の波長λは次式(2)のような関係を有する。
【0039】
λ=hc/Eg≒1.24/Eg ・・・(2)
また、SiやGeのような間接遷移型の半導体では、価電子帯の上端と伝導帯の下端の波数ベクトルkの値が異なることから、遷移過程ではフォノンの吸収または放出の過程を伴う。よって、光吸収の際に、電子が価電子帯から伝導帯の底に励起されるEgに相当するエネルギのみでなく、格子振動に対応するフォノンエネルギが必要となる。このような間接遷移過程において、光吸収係数αは近似的に次式(3)のように表わされる。
【0040】
α∝(hν−Eg)2 ・・・(3)
図5のグラフは、SiとGeの光吸収係数の波長依存性を示している。すなわち、このグラフの横軸は可視光の波長(μm)を表し、左の縦軸は吸収係数α(cm-1)を表し、そして右の縦軸は吸収深に対応する吸収長1/α(μm)を表している。このグラフ中のSiとGeの光吸収係数αのいずれにおいても、光の波長(λ=c/ν)が式(2)中のバンドギャップに対応する波長から短くなる(νが大きくなる)にしたがって増大していることがわかる。また、光吸収係数αは、式(3)からもわかるように、Siに比べてバンドギャップの小さいGeにおいて大きい値となっている。このことから、光吸収層に従来のSiからGeまたはSiGeへ材料を変えることによって、光吸収層において吸収感度を上げることができる。また、SiGeにおけるGeの組成比を変えることにより、各吸収層における感度比を制御することができるので、光吸収領域が深くなるほど減少する傾向にある光吸収の感度をGeの濃度制御によって補うことができ、各吸収光に関する吸収感度分布を制御するための信号処理が不要となる。
【0041】
また、複数の光吸収層間で所望の感度比を得るためにGeの濃度制御を行なう場合に、本発明では電子または正孔の一方のみのキャリアを検出できればよいので、たとえば図6のエネルギバンド図に示されているような階段状のエネルギバンド構造を形成してもよい。なお、図6において、図1中の参照符合と同一の参照符合は、相当部分を表している。
【0042】
図6(a)の場合は、バイアス電極に正の電圧を印加し、光の吸収により発生した正孔を各光吸収層内で基板側に移動させて検出する。図6(a)では、光吸収層4におけるGe濃度が高く(バンドギャップが小さく)、B成分の光に対する吸収感度が高い。この場合、光吸収層2、3および4はn型半導体であり、半導体表面に形成されたSi層5はp型またはn型であり得る。
【0043】
図6(b)の場合は、バイアス電極に負の電圧を印加し、光の吸収により発生した正孔を、各光吸収層内で表面側に移動させ検出する。図6(b)では、光吸収層3におけるGe濃度が高く、G成分の光に対する吸収感度が高い。この場合、光吸収層2、3および4はn型半導体であり、半導体表面に形成されたSi層5はn型またはp型であり得る。
【0044】
図6(c)の場合は、バイアス電極に正の電圧を印加し、光の吸収により発生した電子を各光吸収層内で表面側に移動させ検出を行なう。図6(c)では、光吸収層2におけるGe濃度が高く、R成分の光に対する吸収感度が高い。この場合、光吸収層2、3および4はp型半導体であり、半導体表面に形成されたSi層5はp型またはn型であり得る。
【0045】
図6(d)の場合は、バイアス電極に負の電圧を印加し、光の吸収により発生した電子を各光吸収層内で基板側に移動させ検出を行なう。図6(d)では、光吸収層3におけるGe濃度が高く、G成分の光に対する吸収感度が高い。この場合、光吸収層2、3および4はp型半導体であり、半導体表面に形成されたSi層5はn型またはp型であり得る。
【0046】
すなわち、図6からわかるように、光吸収層2、3および4からなるヘテロ構造において、伝導帯の下限レベルまたは価電子帯の上限レベルの少なくとも片方が順次の階段状のレベル変化を形成しておればよく、バンドギャップの幅は必ずしも順次の大きさで変化していなくてもよい。したがって、特定の光吸収層の感度を高めるために、その光吸収層のGe濃度を高めることができる。なお、伝導帯の下限レベルまたは価電子帯の上限レベルにおける順次の階段状のレベル変化は、各光吸収層に含まれる不純物濃度を調整することによって、バンドギャップの大小とは関係なしに形成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
以上のように、本発明によれば、複数の光吸収層にSiとGeのIV族系半導体の混晶材料を用いてヘテロ構造を形成することによって光吸収部の深さ方向に階段状のバンド構造を構成し、その階段状のバンド構造とバイアス電圧制御とを利用することよって、各光吸収層で発生したキャリアが光吸収層間で拡散することを抑制し、色分離特性を向上させた積層型カラーセンサを作製することができる。また、Siに比べて小さいバンドギャップを有するGeを利用することによって、光吸収の感度を向上させた積層型カラーセンサを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態における積層型カラーセンサの要部の模式的断面図である。
【図2】図1の積層型カラーセンサに対応するエネルギバンド構造の一例を模式的に示すグラフである。
【図3】図1の積層型カラーセンサのバイアス電極に電圧を印加したときのエネルギバンド構造の一例を模式的に示すグラフである。
【図4】ポテンシャル障壁とトンネル確率の関係を説明するためのグラフである。
【図5】SiとGeの光吸収係数における光波長依存性を示すグラフである。
【図6】図1の積層型カラーセンサに対応するエネルギバンド構造の他の例を模式的に示すグラフである。
【図7】先行技術によるカラー撮像素子の一例を示す模式的断面図である。
【図8】可視光の波長とSiの吸収係数およびSi内の吸収深さとの関係を示すグラフである。
【図9】図7のカラー撮像素子に対応するエネルギバンド構造を模式的に示すグラフである。
【図10】先行技術によるカラー撮像素子の他の例におけるエネルギバンド構造を模式的に示すグラフである。。
【図11】図10の撮像素子においてバイアス電圧印加時におけるキャリアの拡散を図解する模式的エネルギバンド図である。
【符号の説明】
【0049】
1 基板、2 最も深い位置に形成されたSi1-xGex光吸収層、3 光吸収層2の上部に形成されたSi1-yGey光吸収層、4 光吸収層3の上部に形成されたSi1-zGez光吸収層、5 基板1の表面に形成されたp+型Si層、6 バイアス電極、7 光吸収層2に接続した検出電極、8 光吸収層3に接続した検出電極、9 光吸収層4に接続した検出電極、10 基板1と光吸収層2との伝導帯接合部、11 光吸収層2と光吸収層3との伝導帯接合部、12 光吸収層3と光吸収層4との伝導帯接合部、13 光吸収層4とp+型Si層5との伝導帯接合部、20 基板1と光吸収層2との価電子帯接合部、21 光吸収層2と光吸収層3との価電子帯接合部、22 光吸収層3と光吸収層4との価電子帯接合部、23 光吸収層4とp+型Si層5との価電子帯接合部、30 ポテンシャル障壁、31 エネルギE0を有するキャリア、100 p型Si基板、101 最も深い位置に形成されたn型Si光吸収層、102 光吸収層101の上部に形成されたp型Si光吸収層、103 光吸収層102の上部に形成されたn型Si光吸収層、110 B(青)成分の光によって発生した電子、111 深さ領域Dで発生した電子、112 G(緑)成分の光によって発生した電子、113 深さ領域Eで発生した電子、114 R(赤)成分の光によって発生した電子、120 B成分の光によって発生した正孔、121 深さ領域Dで発生した正孔、122 G成分の光によって発生した正孔、123 深さ領域Eで発生した正孔、124 R成分の光によって発生した正孔、130 n型半導体基板、131 最も深い位置に形成されたp型半導体光吸収層、132 光吸収層111の上部に形成されたp型半導体光吸収層、133 光吸収層112の上部に形成されたp型半導体光吸収層、134 光吸収層111、112、113を互いに電気的に分離するためのn型半導体層、135 絶縁膜、136 電極、140 深さ領域Kで発生した正孔、141 深さ領域Iで発生した正孔。なお、本願の各図において、同一の参照符合は同一部分または相当部分を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光吸収部の表面から順に積層配置された第1から第3までの光吸収層と、
前記光吸収部の表面の一部に形成されたバイアス電極と、
光吸収によって生成したキャリアを電気信号として検出するために前記光吸収層の各々へ電気的に接続された検出電極とを含み、
互いに隣接する前記光吸収層は、互いに異なる波長帯域の光を吸収してキャリアを生成するように、互いに異なる比率でSiとGeを含むIV族系半導体のヘテロ積層構造を構成しており、
前記第1から第3までの光吸収層において、それらの伝導帯の下限レベルが順次に不連続に低下もしくは上昇する階段状のレベル変化を示すか、またはそれらの価電子帯の上限レベルが順次に不連続に上昇もしくは低下する階段状のレベル変化を示すことを特徴とする積層型カラーセンサ。
【請求項2】
前記第1から第3の光吸収層はp型の導電性を有し、前記光吸収によって生成したキャリアのうちで電子のみが前記検出電極を介して電気信号として検出されることを特徴とする請求項1に記載の積層型カラーセンサ。
【請求項3】
前記第1から第3の光吸収層はn型の導電性を有し、前記光吸収によって生成したキャリアのうちで正孔のみが前記検出電極を介して電気信号として検出されることを特徴とする請求項1に記載の積層型カラーセンサ。
【請求項4】
前記第1から第3の光吸収層における互いの相対的光吸収感度を調整するために、前記第1から第3の光吸収層におけるGeの濃度が調整されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の積層型カラーセンサ。
【請求項5】
前記第1の光吸収層と前記第3の光吸収層とは互いに等しいGe濃度を有することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の積層型カラーセンサ。
【請求項6】
前記第1から第3の光吸収層における互いの相対的光吸収感度を実質的に等しくするように、前記第1から第3の光吸収層におけるGe濃度が調整されていることを特徴とする請求項4に記載の積層型カラーセンサ。
【請求項7】
前記光吸収部の表面において、前記第1の光吸収層とともにヘテロ構造を構成するSi層または前記第1の光吸収層とは逆の導電型を有するSi層をさらに含むことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の積層型カラーセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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