説明

積層型コモンモードフィルタ

【課題】コイル導体間の磁気結合を確保しつつ、クラックの発生を抑制できる積層型コモンモードフィルタを提供する。
【解決手段】積層型コモンモードフィルタ1では、第1コイル導体30及び第2コイル導体31の内側領域R1において磁性体37が積層方向に延在しているので、第1コイル導体30及び第2コイル導体31間の磁気結合を確保できる。また、磁性体37は、積層方向において凸凹状をなしているので、積層方向において体積が大きい部分と体積が小さい部分とが存在する。そのため、磁性体37においては、焼結時に素体2が収縮する際、応力が分散する。これにより、本発明の積層型コモンモードフィルタ1では、従来の角柱状の磁性体に比べて、非磁性体層10と磁性体37との収縮力の差が緩和され、その結果、クラックの発生を抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層型のコモンモードフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の積層型コモンモードフィルタとして、例えば特許文献1に記載のコモンモードフィルタがある。この従来のコモンモードフィルタは、3組の渦巻き状のコイル導体を形成した非磁性体層を一対の磁性体層で挟み込んだ素体を有しており、所定のコイル導体が積層方向において対向しないように配置されると共に、積層方向に延在する磁性体層がコイル導体の中心部分に貫通している。これにより、コイル導体間の磁気結合の低下を防止することでインピーダンスの低下を防止し、高周波帯域のコモンモードノイズを除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−227490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のコモンモードフィルタでは、磁性体層がコイル導体の中心部を角柱状に貫通している結果、磁性体の体積が大きくなる。そのため、素体を焼結する際、非磁性体層と磁性体層との収縮力の差による応力が界面に集中し、クラックが発生しやすいといった問題があった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、コイル導体間の磁気結合を確保しつつ、クラックの発生を抑制できる積層型コモンモードフィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る積層型コモンモードフィルタは、渦巻き状のコイル導体が表面に形成された一対の非磁性体層を含む複数の非磁性体層と、複数の非磁性体層を挟む一対の磁性体層とが積層された素体を備え、コイル導体の内側領域には、積層方向に延在し且つ一対の磁性体層に接触する磁性体が設けられており、磁性体は、積層方向において凹凸状をなしていることを特徴とする。
【0007】
この積層型コモンモードフィルタでは、コイル導体の内側領域において磁性体が積層方向に延在しているので、コイル導体間の磁気結合を確保できる。また、磁性体は、積層方向において凸凹状をなしているので、積層方向において体積が大きい部分と体積が小さい部分とが存在する。そのため、磁性体においては、焼結時に素体が収縮する際、応力が分散する。これにより、本発明の積層型コモンモードフィルタでは、従来の角柱状の磁性体に比べて、非磁性体層と磁性体との収縮力の差が緩和され、その結果、クラックの発生を抑制できる。
【0008】
また、磁性体は、積層方向において一定の間隔で凹凸状をなしていることが好ましい。このように、磁性体を一定の間隔で凹凸状とすることで、素体の焼結時における収縮力が均一に分散し、非磁性体層と磁性体との収縮力差による応力が界面に集中することを更に抑制できる。したがって、クラックの発生を更に抑制できる。
【0009】
また、磁性体は、複数の非磁性体層にそれぞれ形成された磁性体部が積層されてなり、磁性体部のそれぞれは、非磁性体層の表面に形成された第1磁性体層と、第1磁性体層の領域内において非磁性体層の厚み方向に貫通して形成された第2磁性体層とを有し、第1磁性体層の幅寸法は、第2磁性体層の幅寸法よりも大きいことが好ましい。このように、第1磁性体層の幅寸法に対して第2磁性体層の幅寸法を小さくすることにより、磁性体は、細い部分(体積が小さい部分)と太い部分(体積が大きい部分)とが規則性をもって交互に形成された形状となる。これにより、積層方向において一定の間隔で凹凸状となる磁性体を確実に形成することができる。その結果、素体の焼結時における収縮力が均一に分散するので、非磁性体層と磁性体との収縮力差による応力が界面に集中することを更に抑制できる。
【0010】
また、第2磁性体層は、非磁性体層における第1磁性体層の領域内において、複数形成されていることが好ましい。このような構成により、素体の焼結時における収縮力を、それぞれの第2磁性体層に分散することができるので、より分散効率が向上する。したがって、クラックの発生をより抑制することができる。
【0011】
また、積層方向の一端側の非磁性体層には、第1磁性体層と同形状の第3磁性体層が厚み方向に貫通して形成された磁性体部が設けられており、磁性体の一端側は、第3磁性体層が磁性体層に接触し、磁性体の他端側は、第1磁性体層が磁性体層に接触していることが好ましい。また、積層方向の一端側の非磁性体層には、第2磁性体層と同形状の第4磁性体層が厚み方向に貫通して形成された磁性体部が設けられており、磁性体の一端側は、第4磁性体層が磁性体層に接触し、磁性体の他端側は、第2磁性体層が磁性体層に接触していることが好ましい。このような構成により、磁性体は、素体の長手方向に沿った中心線に対して、線対称となる。そのため、素体の焼結時における収縮力がより均一に分散し、非磁性体層と磁性体との収縮力差による応力が界面に集中することを更に抑制できる。
【0012】
また、非磁性体層は、ガラスを含む組成からなることが好ましい。このように、非磁性体層を低誘電率の材料で形成することにより、積層型コモンモードフィルタでは、ディファレンシャルモードのカットオフ周波数を高周波に延ばし、より高速信号を実現することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、コイル導体間の磁気結合を確保しつつ、クラックの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1実施形態に係る積層型コモンモードフィルタを示す斜視図である。
【図2】図1に示した積層型コモンモードフィルタの素体の構成を示す分解斜視図である。
【図3】図2に示した積層型コモンモードフィルタの素体の断面図である。
【図4】第2実施形態に係る積層型コモンモードフィルタの素体の構成を示す分解斜視図である。
【図5】図4に示した積層型コモンモードフィルタの素体の断面図である。
【図6】第3実施形態に係る積層型コモンモードフィルタの素体の構成を示す分解斜視図である。
【図7】図6に示した積層型コモンモードフィルタの素体の断面図である。
【図8】第4実施形態に係る積層型コモンモードフィルタの素体の構成を示す分解斜視図である。
【図9】図8に示した積層型コモンモードフィルタの素体の断面図である。
【図10】変形例に係る積層型コモンモードフィルタの素体の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る積層型コモンモードフィルタの好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態に係る積層型コモンモードフィルタを示す斜視図である。また、図2は、素体の構成を示す分解斜視図であり、図3は、素体の断面図である。
【0017】
図1に示すように、積層型コモンモードフィルタ1は、略直方体形状の素体2と、素体2の長手方向の両端部に形成された外部電極3〜6とを備えている。
【0018】
外部電極3,5は、素体2の長手方向の一方の端面2aにおいて、所定の間隔をもって素体2の積層方向に延在しており、外部電極3,5の両端部は、素体2の上面2c及び底面2dに張り出した状態となっている。外部電極4,6は、素体2の長手方向の他方の端面2bにおいて、所定の間隔をもって素体2の積層方向に延在しており、外部電極4,6の両端部は、素体2の上面2c及び底面2dに張り出した状態となっている。
【0019】
素体2は、図2及び図3に示すように、渦巻き状の第1コイル導体30及び第2コイル導体31が表面に形成された一対の非磁性シート22,26を含む複数の非磁性体層10と、非磁性体層10を挟む一対の磁性体層11とが積層された積層体である。素体2は、導体パターンを形成したグリーンシートの焼成によって形成されており、実際の積層型コモンモードフィルタ1では、非磁性体層10及び磁性体層11を構成する各層同士は、視認できない程度に一体化されている。
【0020】
磁性体層11,11は、それぞれ複数(本実施形態では4枚)の磁性シート21の積層体である。焼成後の各磁性シート21の厚さは、例えば20μm〜40μm程度となっている。磁性体層11,11は、非磁性体層10を積層方向の上下から挟むように配置されており、上述した素体2の上面2c及び底面2dを構成している。
【0021】
非磁性体層10は、複数層(本実施形態では6層)の非磁性シートの積層体である。より具体的には、非磁性体層10は、第1コイル導体30が形成された非磁性シート22、第1引出導体32が形成された非磁性シート23、第1余白非磁性シート24、第2引出導体33が形成された非磁性シート25、第2コイル導体31が形成された非磁性シート26、及び第2余白非磁性シート27がこの順に積層されて構成されている。各非磁性シート22〜27には、磁性体部34が形成されている。焼成後の各磁性シート22〜27の厚さは、例えば5μm〜20μm程度となっている。
【0022】
焼成後の渦巻き状の第1コイル導体30は、非磁性シート22の表面において、例えば5μm〜20μm程度の厚さで形成されている。第1コイル導体30の外側端部30aは、素体2の端面2bまで引き出され、外部電極4に接続されている。また、第1コイル導体30の内側端部30bは、非磁性シート22の中央側に伸びている。非磁性シート22において、第1コイル導体30の内側端部30bに対応する位置には、非磁性シート22を厚み方向に貫通するスルーホール導体(図示しない)が形成されている。
【0023】
焼成後の第1引出導体32は、非磁性シート23の表面において、第1コイル導体30と同様に、例えば5μm〜20μm程度の厚さで形成されている。第1引出導体32の外側端部32aは、素体2の端面2aまで引き出され、外部電極3に接続されている。また、第1引出導体32の内側端部32bは、非磁性シート22のスルーホール導体に対応する位置に伸びている。これにより、第1コイル導体30は、第1引出導体32を介して外部電極3に接続されている。
【0024】
焼成後の渦巻き状の第2コイル導体31は、非磁性シート26の表面において、例えば5μm〜20μm程度の厚さで形成されている。第2コイル導体31の外側端部31aは、素体2の端面2bまで引き出され、外部電極6に接続されている。また、第2コイル導体31の内側端部31bは、非磁性シート26の中央側に伸びている。非磁性シート26において、第2コイル導体31の内側端部31bに対応する位置には、非磁性シート26を厚み方向に貫通するスルーホール導体(図示しない)が形成されている。
【0025】
焼成後の第2引出導体33は、非磁性シート25の表面において、第2コイル導体31と同様に、例えば5μm〜20μm程度の厚さで形成されている。第2引出導体33の外側端部33aは、素体2の端面2aまで引き出され、外部電極5に接続されている。また、第2引出導体33の内側端部33bは、非磁性シート26のスルーホール導体に対応する位置まで伸びている。これにより、第2コイル導体31は、第2引出導体33を介して外部電極5に接続されている。
【0026】
さらに、各非磁性シート22〜27には、第1コイル導体30及び第2コイル導体31の内側領域R1に位置する磁性体部34がそれぞれ設けられている。磁性体部34は、第1磁性体層35と、この第1磁性体層35の領域内に設けられた第2磁性体層36とを有している。第1磁性体層35は、各非磁性シート22〜27の表面に設けられ、例えば印刷によって矩形にパターン形成されている。焼成後の第1磁性体層35の厚さは、例えば3μm〜15μm程度となっており、第1磁性体層35の素体2の長手方向に沿った幅寸法L1は、例えば、50μm〜400μm程度となっている。第1コイル導体30が形成された非磁性体シート22、及び第2コイル導体31が形成された非磁性体シート26においては、第1磁性体層35と第1コイル導体30及び第2コイル導体31との間には所定の間隔が設けられており、これらが互いに接触しないようになっている。
【0027】
また、第2磁性体層36は、第1磁性体層35の領域内において、各非磁性シート22〜27を厚み方向に貫通して設けられている。この第2磁性体層36は、第1磁性体層35よりも外形寸法が小さく、各非磁性シート22〜27に円柱状に形成されたスルーホール(図示しない)に例えば印刷によって導体ペーストが充填されることにより第1磁性体層35と一体形成されている。図3に示すように、第2磁性体層36の厚さは、非磁性シート22〜27の厚さと同等(例えば5μm〜20μm)となっており、第2磁性体層36の素体2の長手方向に沿った幅寸法L2は、例えば第1磁性体層35の幅寸法の約1/3程度(L1>L2)となっている。
【0028】
素体2においては、以上の非磁性シート22〜27が積層されることにより、図3に示すように、磁性体37が積層方向に延在して形成される。具体的には、磁性体37には、幅寸法が大きい部分(体積が大きい部分)と、幅寸法が小さい部分(体積が小さい部分)とが一定の間隔で交互に形成される。そして、磁性体37は、積層方向の上端及び下端に位置する磁性体部34の第1磁性体層35と第2磁性体層36とが一対の磁性体層11,11にそれぞれ接触している。また、本実施形態では、非磁性シート22〜27の厚さと第1磁性体層35の厚さとが等しくなっている。したがって、第1磁性体層35は、第1コイル導体30及び第2コイル導体31と同一段に配置されることとなる。
【0029】
続いて、上述した積層型コモンモードフィルタ1の作製方法について説明する。
【0030】
まず、磁性シート21を構成する磁性グリーンシート、及び非磁性シート22〜27を構成する非磁性グリーンシートをそれぞれ用意する。非磁性グリーンシートは、Znの酸化物単独ならびにMgの酸化物及びZnの酸化物から選ばれる一つと、Cuの酸化物と、Siの酸化物とを主成分(MgSiO及びZnSiOを含む複合酸化物にCuを含有)とし、これに副成分としてガラス成分を含有したスラリーを、ドクターブレード法によってフィルム上に塗布して形成する。
【0031】
上記ガラス成分は、ガラス軟化点が750℃以下の低融点ガラスであり、Siの酸化物、Znの酸化物、Baの酸化物、Caの酸化物、Srの酸化物及びLiの酸化物から選ばれる少なくとも一つと、Bの酸化物とを含むものである。具体的には、ガラス成分としては、B−SiO−BaO−CaO系ガラス、B−SiO−BaO系ガラス、B−SiO−CaO系ガラス、B−SiO−SrO系ガラス、B−SiO−LiO系ガラス、B−ZnO−BaO系ガラス、B−ZnO−LiO系ガラス、B−SiO−ZnO−BaO系ガラス、B−SiO−ZnO−BaO−CaO系ガラス等が挙げられる。
【0032】
また、磁性グリーンシートは、例えばフェライト(例えば、Ni−Cu−Zn系フェライト、Ni−Cu−Zn−Mg系フェライト、Cu−Zn系フェライト、又は、Ni−Cu系フェライト等)粉末を原料としたスラリーを、ドクターブレード法によってフィルム上に塗布して形成する。
【0033】
次に、所定の非磁性グリーンシートおけるスルーホール導体の形成予定位置に、レーザ加工によってスルーホールを形成する。また、各磁性体グリーンシートにおける第2磁性体層36の形成予定位置に、レーザ加工によってスルーホールを形成する。そして、スルーホールの形成後、非磁性グリーンシートに、第1コイル導体30、第1引出導体32、第2コイル導体31、及び第2引出導体33に対応する導体パターンを形成する。各導体パターンは、例えば銀もしくはニッケルを主成分とする導体ペーストをスクリーン印刷した後、乾燥することによって形成される。スルーホール導体に対応するスルーホールには、各導体パターンの形成の際に導体ペーストが充填される。
【0034】
導体パターンの形成の後、各非磁性体グリーンシートの中央領域、すなわち、第1コイル導体30及び第2コイル導体31の内側領域R1となる領域において、第1磁性体層35に対応する磁性体部34を印刷によってパターン形成する。このとき、スルーホールに導体ペーストが充填され、第2磁性体層36も同時に形成される。磁性体部34としては、例えばフェライト(Ni−Cu−Zn系フェライト)粉末を原料したスラリーが用いられる。なお、このフェライト粉末には、例えばFeが48.00mol%〜49.00mol%、NiOが15.92mol%〜27.85mol%、CuOが8.28mol%〜11.18mol%、ZnOが12.93mol%〜27.00mol%含有されている。
【0035】
磁性体部34を形成した後、乾燥工程を経て各グリーンシートを順次積層して圧着し、チップ単位に切断する。その後、例えば800℃〜900℃の温度で所定時間の焼成を行い、素体2を得る。その後、素体2の端面2a,2bに外部電極3〜6を形成する。これにより、図1〜図3に示した積層型コモンモードフィルタ1が完成する。
【0036】
外部電極3〜6は、素体2の端面2a,2bに銀、ニッケルもしくは銅を主成分とする電極ペーストを転写した後、例えば700℃程度にて焼き付けを行い、更に電気めっきを施すことによって形成される。電気めっきには、Cu/Ni/Sn、Ni/Sn、Ni/Au、Ni/Pd/Au、Ni/Pd/Ag、又は、Ni/Ag等を用いることができる。
【0037】
以上説明したように、積層型コモンモードフィルタ1では、第1コイル導体30及び第2コイル導体31の内側領域R1において磁性体37が積層方向に延在しているので、第1コイル導体30及び第2コイル導体31間の磁気結合を確保できる。また、磁性体37は、積層方向において凸凹状をなしているので、積層方向において体積が大きい部分と体積が小さい部分とが存在する。そのため、磁性体37においては、焼結時に素体2が収縮する際、応力が分散する。これにより、本発明の積層型コモンモードフィルタ1では、従来の角柱状の磁性体に比べて、非磁性体層10と磁性体37との収縮力の差が緩和され、その結果、クラックの発生を抑制できる。
【0038】
また、磁性体37は、積層方向において一定の間隔で凹凸状となっているので、素体2の焼結時における収縮力が均一に分散し、非磁性体層10と磁性体37との収縮力差による応力が界面に集中することを更に抑制できる。したがって、クラックの発生を更に抑制できる。
【0039】
また、磁性体37は、複数の非磁性体層10にそれぞれ形成された磁性体部34が積層されてなり、磁性体部34のそれぞれは、非磁性体シート22〜27の表面に形成された第1磁性体層35と、第1磁性体層35の領域内において非磁性体シート22〜27の厚み方向に貫通して形成された第2磁性体層36とを有し、第1磁性体層35の幅寸法は、第2磁性体層36の幅寸法よりも大きい。このように、第1磁性体層35の幅寸法に対して第2磁性体層36の幅寸法を小さくすることにより、磁性体37は、細い部分(体積が小さい部分)と太い部分(体積が大きい部分)とが規則性をもって交互に形成された形状となる。これにより、積層方向において一定の間隔で凹凸状となる磁性体37を確実に形成することができる。その結果、素体2の焼結時における収縮力が均一に分散するので、非磁性体層10と磁性体37との収縮力差による応力が界面に集中することを更に抑制できる。
【0040】
また、非磁性体層10(非磁性シート22〜27)は、ガラスを含む組成からなる。このように、非磁性体層10を低誘電率の材料で形成することにより、積層型コモンモードフィルタ1では、ディファレンシャルモードのカットオフ周波数を高周波に延ばし、より高速信号を実現することができる。
【0041】
ここで、ガラス成分を含有する低誘電率の材料を非磁性体層11に用いた場合、磁性体部34のNiが拡散しにくいため、磁性体と非磁性体とが交互に積層されているような構造では、磁路を形成することが困難である。これに対し、積層型コモンモードフィルタ1では、磁性体37が積層方向に延在して(連続して)設けられているので、確実に磁路を形成することができ、磁気特性の向上を図ることができる。
【0042】
[第2実施形態]
続いて、第2実施形態について説明する。図4は、第2実施形態に係る積層型コモンモードフィルタの素体の構成を示す分解斜視図である。また、図5は、素体の断面図である。
【0043】
図4及び図5に示すように、第2実施形態に係る積層型コモンモードフィルタ40は、積層方向における磁性体部34の位置が第1実施形態と異なっており、他の部分は第1実施形態と共通している。この積層型コモンモードフィルタ40では、図4に示すように、内側領域R2に対応して非磁性シート22〜27の表面に矩形の窪み部42がそれぞれ形成されており、第1コイル導体30及び第2コイル導体31の内側領域R2の磁性体部34における第1磁性体層35は、これらの窪み部42に設けられている。
【0044】
窪み部42は、例えば非磁性グリーンシートをレーザトリミングすることによって焼成前に予め形成されている。そして、窪み部42の形成後、第2磁性体層36に対応するスルーホールが非磁性グリーンシートの中央領域に形成される。このような、非磁性グリーンシート22〜27が形成されることにより、図5に示すように、素体2では、第1磁性体層35が第1コイル導体30及び第2コイル導体31と段互いに配置されることとなる。
【0045】
このような積層型コモンモードフィルタ40においても、第1実施形態と同様に、第1コイル導体30及び第2コイル導体31の内側領域R2において磁性体37が積層方向に延在しているので、第1コイル導体30及び第2コイル導体31間の磁気結合を確保できる。また、磁性体37は、積層方向において凸凹状をなしているので、積層方向において体積が大きい部分と体積が小さい部分とが存在する。そのため、磁性体37においては、焼結時に素体2が収縮する際、応力が分散する。これにより、本発明の積層型コモンモードフィルタ40では、従来の角柱状の磁性体に比べて、非磁性体層10と磁性体37との収縮力の差が緩和され、その結果、クラックの発生を抑制できる。
【0046】
また、積層型コモンモードフィルタ40では、複数の非磁性シート22〜27のそれぞれの表面に、内側領域R2に対応して窪み部42が設けられており、第1磁性体層35が窪み部42に設けられていることにより、第1磁性体層35が第1コイル導体30及び第2コイル導体31に対して段互いになっている。このような構成により、磁気結合を十分に確保しつつ、積層型コモンモードフィルタ40の高さ寸法を小さくすることができる。
【0047】
[第3実施形態]
続いて、第3実施形態について説明する。図6は、第3実施形態に係る積層型コモンモードフィルタの素体の構成を示す分解斜視図である。また、図7は、素体の断面図である。
【0048】
図6及び図7に示すように、第3実施形態に係る積層型コモンモードフィルタ50は、磁性体37の形状が第1実施形態と異なっており、他の部分は第1実施形態と共通している。この積層型コモンモードフィルタ50では、図4に示すように、磁性シート21と非磁性シート22との間に非磁性シート20が積層されており、内部領域R1に対応して、第1磁性体層(第3磁性体層)35Aが非磁性シート20の厚さ方向に貫通して形成された磁性体部34Aが設けられている。
【0049】
磁性体部34Aにおける第1磁性体層35Aは、第1磁性体層35と同形状をなしている。この第1磁性体層35Aは、例えば非磁性グリーンシートをレーザトリミングして厚さ方向に貫通させ、そこに導体ペーストを充填することにより形成されており、第1磁性体層35Aの厚さは、非磁性シート20の厚さと同等(例えば5μm〜20μm)となっている。このような非磁性シート20,22〜27が積層させることにより、図7に示すように、素体2では、磁性体37において上端(他端側)及び下端(一端側)に位置する第1磁性体層35,35Aが磁性体層11,11に接触している。このように、磁性体37では、領域の大きい第1磁性体層35,35Aが上端及び下端に位置しているので、積層型コモンモードフィルタ50の製造時においては、積層方向にあまり加圧しなくとも磁性体層11,11と磁性体37とを確実に接触させることができる。そして、このように形成された磁性体37は、素体2の長手方向に沿った中心線C1に対して線対称をなしている。
【0050】
このような積層型コモンモードフィルタ50においても、第1実施形態と同様に、第1コイル導体30及び第2コイル導体31の内側領域R1において磁性体37が積層方向に延在しているので、第1コイル導体30及び第2コイル導体31間の磁気結合を確保できる。また、磁性体37は、積層方向において凸凹状をなしているので、積層方向において体積が大きい部分と体積が小さい部分とが存在する。そのため、磁性体37においては、焼結時に素体2が収縮する際、応力が分散する。これにより、本発明の積層型コモンモードフィルタ50では、従来の角柱状の磁性体に比べて、非磁性体層10と磁性体37との収縮力の差が緩和され、その結果、クラックの発生を抑制できる。
【0051】
また、積層型コモンモードフィルタ50では、磁性体37の上端及び下端に第1磁性体層35,35Aが形成されており、磁性体37が中心線C1に対して線対称となっているので、素体2の焼結時における収縮力がより均一に分散する。これにより、非磁性体層10と磁性体37との収縮力差による応力が界面に集中することを更に抑制できる。
【0052】
[第4実施形態]
続いて、第4実施形態について説明する。図8は、第4実施形態に係る積層型コモンモードフィルタの素体の構成を示す分解斜視図である。また、図9は、素体の断面図である。
【0053】
図8及び図9に示すように、第4実施形態に係る積層型コモンモードフィルタ60は、磁性体37の形状が第1実施形態と異なっており、他の部分は第1実施形態と共通している。この積層型コモンモードフィルタ60では、図8に示すように、非磁性シート27において、第2磁性体層(第4磁性体層)36Aが厚み方向に貫通して形成された磁性体部34Bが設けられている。
【0054】
磁性体部34Bにおける第2磁性体層36Aは、第2磁性体層36と同形状をなしている。すなわち、非磁性シート27は、第1磁性体層35が形成されていない点で、非磁性シート22〜26と異なっている。このような非磁性シート22〜27が積層されることにより、図9に示すように、素体2では、磁性体37の上端(他端側)及び下端(一端側)に位置する第2磁性体層36,36Aが磁性体層11,11に接触している。ここで、磁性体37では、領域の小さい第2磁性体層36,36Aが上端及び下端に位置しているので、積層型コモンモードフィルタ60の製造時においては、積層方向に加圧することにより磁性体層11,11と磁性体37とを確実に接触させることができる。そして、このように形成された磁性体37は、素体2の長手方向に沿った中心線C1に対して線対称をなしている。
【0055】
このような積層型コモンモードフィルタ60においても、第1実施形態と同様に、第1コイル導体30及び第2コイル導体31の内側領域R1において磁性体37が積層方向に延在しているので、第1コイル導体30及び第2コイル導体31間の磁気結合を確保できる。また、磁性体37は、積層方向において凸凹状をなしているので、積層方向において体積が大きい部分と体積が小さい部分とが存在する。そのため、磁性体37においては、焼結時に素体2が収縮する際、応力が分散する。これにより、本発明の積層型コモンモードフィルタ60では、従来の角柱状の磁性体に比べて、非磁性体層10と磁性体37との収縮力の差が緩和され、その結果、クラックの発生を抑制できる。
【0056】
また、積層型コモンモードフィルタ60では、磁性体37の上端及び下端に第2磁性体層36が形成されており、磁性体37が中心線C1に対して線対称となっているので、素体2の焼結時における収縮力がより均一に分散する。これにより、非磁性体層10と磁性体37との収縮力差による応力が界面に集中することを更に抑制できる。
【0057】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、第2磁性体層36が各非磁性シート22〜27の中央領域において1つ形成されているが、第2磁性体層36は、複数形成されてもよい。図10は、変形例に係る積層型コモンモードフィルタの素体の断面図である。図10に示すように、積層型コモンモードフィルタ70の磁性体部34Cは、第1磁性体層35と、複数(ここでは2つ)の第2磁性体層36a,36bとを有している。この第2磁性体層36a、36bは、所定の間隔を有して並設されている。
【0058】
この積層型コモンモードフィルタ70では、体積の小さい第2磁性体層36a,36bが複数形成されているので、素体2の焼結時における収縮力を、それぞれの第2磁性体層36a,36にバランスよく分散することができ、分散効率の向上を図ることができる。これにより、クラックの発生を更に抑制することができる。なお、第1磁性体層35の領域内であれば第2磁性体層36a,36bは2つに限定されず、第2磁性体層が更に設けられてももちろんよい。
【0059】
また、上記実施形態では、第2磁性体層36(第2磁性体層36A,36a,36b)を円柱状としているが、第2磁性体層36の形状はこれに限定されず、例えば角柱状、積層方向から見て断面コ字状又は断面L字状等であってもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、非磁性シート20,22〜27が非磁性グリーンシートにガラス成分を含有したスラリーを塗布して形成されているが、非磁性シート20,22〜27は、磁化し難い(Niが拡散し難い)組成のものであればよく、ガラスを含む組成以外の組成であってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1…積層型コモンモードフィルタ、10…非磁性体層、11…磁性体層、30…第1コイル導体、31…第2コイル導体、34,34A,34B,34C…磁性体部、35,35A…第1磁性体層(第3磁性体層)、36,36A…第2磁性体層(第4磁性体層)、37…磁性体、R1,R2…内側領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
渦巻き状のコイル導体が表面に形成された一対の非磁性体層を含む複数の非磁性体層と、前記複数の非磁性体層を挟む一対の磁性体層とが積層された素体を備え、
前記コイル導体の内側領域には、積層方向に延在し且つ前記一対の磁性体層に接触する磁性体が設けられており、
前記磁性体は、前記積層方向において凹凸状をなしていることを特徴とする積層型コモンモードフィルタ。
【請求項2】
前記磁性体は、前記積層方向において一定の間隔で凹凸状をなしていることを特徴とする請求項1記載の積層型コモンモードフィルタ。
【請求項3】
前記磁性体は、前記複数の非磁性体層にそれぞれ形成された磁性体部が積層されてなり、
前記磁性体部のそれぞれは、前記非磁性体層の表面に形成された第1磁性体層と、当該第1磁性体層の領域内において前記非磁性体層の厚み方向に貫通して形成された第2磁性体層とを有し、
前記第1磁性体層の幅寸法は、前記第2磁性体層の幅寸法よりも大きいことを特徴とする請求項1又は2記載の積層型コモンモードフィルタ。
【請求項4】
前記第2磁性体層は、前記非磁性体層における前記第1磁性体層の領域内において、複数形成されていることを特徴とする請求項3記載の積層型コモンモードフィルタ。
【請求項5】
前記積層方向の一端側の前記非磁性体層には、前記第1磁性体層と同形状の第3磁性体層が厚み方向に貫通して形成された磁性体部が設けられており、
前記磁性体の前記一端側は、前記第3磁性体層が前記磁性体層に接触し、前記磁性体の他端側は、前記第1磁性体層が前記磁性体層に接触していることを特徴とする請求項3又は4記載の積層型コモンモードフィルタ。
【請求項6】
前記積層方向の一端側の前記非磁性体層には、前記第2磁性体層と同形状の第4磁性体層が厚み方向に貫通して形成された磁性体部が設けられており、
前記磁性体の前記一端側は、前記第4磁性体層が前記磁性体層に接触し、前記磁性体の他端側は、前記第2磁性体層が前記磁性体層に接触していることを特徴とする請求項3又は4記載の積層型コモンモードフィルタ。
【請求項7】
前記非磁性体層は、ガラスを含む組成からなることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項記載の積層型コモンモードフィルタ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−124420(P2011−124420A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−281506(P2009−281506)
【出願日】平成21年12月11日(2009.12.11)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】