説明

積層型燃料電池

【課題】 積層型燃料電池におけるセルスタックに圧縮荷重を付加する加圧機構の構造の簡略化、小型化を図り、合わせて経済性、耐久性の向上を図る。
【解決手段】 タイロッド20により間隔が規定された一対の荷重受け板10H,10Lの間にセルスタックユニット30を配置する。セルスタックユニット30に積層方向の圧縮荷重を付加する加圧機構として、上側の荷重受け板10Hとセルスタックユニット30との間に、コイル状のセラミックスばね50を圧縮状態で分散配置する。セラミックスばね50は、コイルを構成する線材の断面形状が四角形である角ばねである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄板状の単セルを板厚方向に積層配置して構成された積層型燃料電池に関し、更に詳しくは、単セル積層体であるセルスタックに積層方向の圧縮荷重を負荷する加圧機構に工夫を講じた積層型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池型式の一つとして固体電解質型がある。これは、イットリア安定化ジルコニアなどからなる固体電解質板の一方の表面にアノード電極を形成し、他方の表面にカソード電極を形成した平板型の単セルをインターコネクタを介して積層した単セル積層体を主要構成部材としており、その単セル積層体は、押さえ板などと共に積層方向に加圧された状態に保持されてセルスタックユニットを構成している。
【0003】
固体電解質型燃料電池を例にとって積層型燃料電池の主要部の構造を図5A及び図5Bにより説明する。上下一対の荷重受け板10H,10Lの間にセルスタックユニット30が配置されている。上下一対の荷重受け板10H,10LはSUS310Sなどの耐熱合金からなる剛性体プレートであり、複数本のタイロッド20により連結され間隔が規定されている。
【0004】
セルスタックユニット30は、水平な単セルを垂直方向に積層したセルスタック本体としての単セル積層体31、その上に重ねられた押さえ板32などからなる。押さえ板32は、荷重受け板10H,10Lと同じくSUS310Sなどの耐熱合金からなる剛性体プレートである。単セル積層体31の正極側及び負極側はマイカ板などにより電気的に絶縁されている。
【0005】
セルスタックユニット30における押さえ板32と上側の荷重受け板10との間には、セルスタックユニット30内の特に単セル積層体31に積層方向の圧縮荷重を付加するために、ダイナミックベローズ40が加圧機構として配置されている。ダイナミックベローズ40は、上下方向に伸縮可能な金属製の密閉された蛇腹状容器であり、図示されないガス加圧機構、圧力調整機構等を介して加圧ガスが注入されることにより、セルスタックユニット30に積層方向の圧縮荷重を付加し、単セル積層体31における板材間の電気的接続及びシーリングを行う。この加圧に伴う反力を受けるのが、上側の荷重受け板10である。
【0006】
ダイナミックベローズ40による加圧機構は、任意の圧縮荷重を正確に付与することができるが、その反面、ガス加圧機構、ガス圧力調整機構等の付帯設備が大掛かりとなり、経済性の悪化及び設備の大型化を招く問題がある。また、固体電解質型燃料電池の場合、動作温度が800℃程度と非常に高く、ダイナミックベローズ40の材質としてNi基合金等の耐熱合金を用いるが、ダイナミックベローズ40の伸縮性を確保するために板厚が0.25〜0.3mmに制限される。このためダイナミックベローズ40の破損頻度が高いという問題もあった。
【0007】
ダイナミックベローズ以外の加圧機構としては、例えばセラミックスばねが特許文献1に記載されている。金属ばねだと、動作温度が800℃にもなると高温クリープによる機能喪失が問題になるのに対し、セラミックスばねだとそのような心配がない。また、ダイナミックベローズと比べて、耐久性に優れると共に、設備構成が簡単となり、経済性に優れる。セラミックスばねの材質としては、耐熱性等の点から窒化硅素が望ましいとされている。
【0008】
ところで、従来のセラミックスばねは、粉末焼結により製造された丸ばねを指す。丸ばねとは、線材の断面形状が円形のコイルばねである。セラミックス製の丸ばねは粉末焼結の際の成形性が優れるために、セラミックスばねと言えばコイル型の丸ばねを指すのが一般的である。
【0009】
積層型燃料電池における加圧機構としてセラミックス製の丸ばねを使用することの利点は前述したとおり少なくない。しかし、それらの利点の一方で、剪断応力による破壊が生じる危険性があるために、丸ばねの個数を多くして個々の丸ばねの負担を小さくする必要がある。そして、粉末焼結で製造される丸ばねの価格はとりわけ高価であるため、これを多く使用することは、セラミックスばねを用いた加圧機構の経済性を相殺する結果になる。
【0010】
加えて、単セルの体積の多くを占めるインターコネクタの材質としては、フェライト系耐熱合金が使用される。一方、上下の荷重受け板を連結するタイロッドの材質としては、フェライト系耐熱合金はもとよりオーステナイト系耐熱合金よりも更に耐熱性の優れたハステロイ(商品名)などのニッケル基合金が使用される。これは、タイロッドにSUS310Sの如きオーステナイト系耐熱合金を使用しても、高温クリープによる耐性がないため、タイロッドが伸びきるおそれがあること、及びニッケル基合金の線膨張係数がオーステナイト系耐熱合金のそれより小さく、フェライト系耐熱合金のそれに近いので、後述する常温時のばね圧縮量を軽減できることなどが理由である。
【0011】
しかしながら、タイロッドにニッケル基耐熱合金を用いてもなお、タイロッドの線膨張係数の方が、セルスタックユニットの積層方向における線膨張係数より大きくなり、800℃の動作温度雰囲気では、セルスタックユニットにおける押さえ板と上側の荷重受け板との間隔が広がり、ここに介装された丸ばねの圧縮量が減少するため、常温時と比べて圧縮荷重が減少する。
【0012】
これを回避するためには常温時における圧縮量を大きくする必要があり、これも個々の丸ばねの負担を増大させる原因になり、破損頻度の増大や丸ばねの使用個数の増加、これによるコストアップの原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2006−339035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、セルスタックに圧縮荷重を付加する加圧機構としてセラミックスばねを使用したときの利点を阻害することなく欠点を取り除くことにより、加圧機構の構造の簡略化、小型化を図り、合わせて経済性、耐久性の向上を図る積層型燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
ところで、本発明が対象とする積層型燃料電池に特有の現象として、動作時におけるセルスタック圧縮荷重の緩みがある。これは、前述したように、燃料電池における材質選択上の制約、すなわち、セルスタックが専らフェライト系耐熱合金からなるのに対し、タイロッドにはハステロイ(商品名)などのニッケル基合金が使用されることから、セルスタックの積層方向における線膨張係数より、セルスタックを積層方向に締め付けるタイロッドの線膨張係数の方が大きくなり、このために、800℃の動作温度雰囲気では、セルスタックユニットにおける押さえ板と上側の荷重受け板との間隔が広がり、ここに介装された丸ばねなどの圧縮が復元し、常温時と比べて圧縮荷重が減少する現象のことであり、積層型燃料電池に不可避である。
【0016】
このような状況下で、本発明者は積層型燃料電池の小型化のために、セルスタック加圧機構としてセラミックスばねの採用を企画し、セラミックスばねの特性を各方面から解析した。その結果、積層型燃料電池の動作条件下では、セラミックスばねが静荷重で使用される環境にあるため、丸ばねより角ばねの方が圧縮復元量に対する圧縮荷重の減少量が小さくなることを知見し、積層型燃料電池におけるセルスタック加圧機構として、セラミックスばねの中でも特にこの角ばねが好適であるとの結論に到達した。
【0017】
角ばねとは、線材の断面形状が四角形のコイルばねである。図3は図2Aに示す丸ばねと図2Bに示す角ばねのそれぞれについて圧縮復元量と荷重変化との関係を示したものである。図2Aの丸ばねと図2Bの角ばねは同等寸法であり、それぞれの詳細仕様については後で詳しく説明するが、主な違いは丸ばねの断面が直径3mmの円形であるのに対し、角ばねの断面は3mm角の正方形(線幅、線厚がともに3mm)であり、その結果として前者のばね定数が19.6N/mm、後者のばね定数が24.5N/mmとなることである。この点を除き両者の仕様は実質同一である。
【0018】
そして、図3は常温で各ばねの剪断応力が222MPaとなる圧縮状態(圧縮復元量=0mm)から圧縮復元量を増加させたときの荷重変化を示している。ばね定数の違いにより、丸ばねでは荷重90N、圧縮量4.6mmで剪断応力が222MPaとなるのに対し、角ばねでは荷重98N、圧縮量4.0mmで剪断応力が222MPaとなる。この状態では同一剪断応力下で大きな荷重が得られる角ばねの方が明らかに有利である。圧縮復元量が増加すると、丸ばね、角ばね共に荷重が減少するが、圧縮復元量が1.5mmとなるまでは角ばねの方が大きな荷重が得られる。
【0019】
積層型燃料電池における圧縮復元量は、電気的容量にもよるが、1mm程度以下が一般的であり、この領域では丸ばねより角ばねの方が大荷重が得られる。このため、セルスタック圧縮機構としてセラミックスばねを使用するにしても、角ばねを使用する方が大荷重が得られ、大変有利となるのである。
【0020】
本発明の積層型燃料電池は、かかる知見を基礎として完成されたものであり、間隔が規定された一対の荷重受け板の間にセルスタックユニットが配置されると共に、前記セルスタックユニットに積層方向の圧縮荷重を付加する加圧機構として、前記荷重受け板とセルスタックユニットとの間に、セラミックスからなる複数の角ばねが圧縮状態で分散配置されていることを技術的特徴点とする。
【0021】
角ばねとは、前述したとおり線材の断面形状が四角形のコイルばねである。セラミックスからなる角ばねは、円筒形状の粉末焼結体から切削加工により製造することができるので、個々に粉末成形を必要とする丸ばねと比べて製造単価が非常に安くなる。また、角ばねは丸ばねと比べてばね定数が大きくなるため、同等の荷重を得ようとする場合、丸ばねより角ばねの方が小型化できる。
【0022】
また、図3により説明したとおり、積層型燃料電池においてはセラミックスばねが静荷重で使用されるため、同等寸法の丸ばねと角ばねで同等荷重を得ようとする場合、線材の断面形状の違い、断面積の違い、これらによるばね定数の違いなどにより、剪断応力は丸ばねより角ばねの方が小さくなる。具体的には角ばねは丸ばねより1割程度、剪断応力が小さくなる。剪断応力が小さくなると、ばねの破壊頻度が低下し、ばね個数も少なくすることが可能となる。ちなみに、セラミックスの破壊頻度はワイブル・プロットから予測可能である。
【0023】
これらのため、本発明の積層型燃料電池においては、従来のセラミックスばね式の加圧機構を使用する燃料電池と比べてもなお、加圧機構に要するコストが下がる。また、加圧機構の小型化が可能となる。更には、加圧機構の耐久性も向上する。
【0024】
なお、角ばねと丸ばねが同等寸法ということは、それぞれのコイル平均径、巻き数、コイル長(自然長)、線径(角ばねでは線幅・線厚)が同じということであり、線材の断面積は相違する。
【0025】
本発明の積層型燃料電池においては、一対の荷重受け板を連結する複数本のタイロッドが一方の荷重受け板を貫通して突出し、その突出部に外嵌した状態で荷重受け板とタイロッド端部との間に、タイロッドよりも線膨張係数が大きい耐熱金属からなるスリーブが介装された構成を採用することができる。
【0026】
この構成によると、高温の動作雰囲気でスリーブが熱膨張する。この熱膨張はタイロッドの熱膨張を一部相殺する。その結果、荷重受け板とセルスタックユニットとの間の広がりが抑制され、この間に配置された角ばねの圧縮量の戻りが抑制される結果、角ばねの常温での圧縮量を小さくでき、ひいては剪断応力をより小さくすることができる。
【0027】
また、複数の角ばねを挟む荷重受け板とセルスタックユニットとの対向面に、複数の角ばねの端部が嵌合する凹部が設けられた構成を採用することができる。この構成によると、角ばねの位置決めが容易となる。また、凹部に角ばねの端部が挿入される分、荷重受け板とセルスタックユニットとの隙間を小さくすることができ、燃料電池の全高抑制が可能となる。この凹部は荷重受け板の側、又はセルスタックユニットの側の何れか一方にあってもよく、両方にあってもよい。
【0028】
角ばねの個数は3〜5個が好ましい。この個数が少なすぎると、荷重の均一性が低下すると共に、角ばね1個あたりの負担が増大してばねが大型化し、燃料電池の規模増大につながる。逆に多すぎる場合は、ばねコストの増大、組立て時の工数増加が問題になる。
【0029】
また、個々の角ばねの特性に関しては、負担する荷重で表して80〜120Nの範囲内が好ましく、ばね定数で表して15.7〜24.5N/mmの範囲内が好ましい。なぜなら、ばね定数が大きすぎると、ばねの圧縮量が小さくなり、温度上昇時の圧縮の復元による荷重減少の影響が大きくなる。反対に、ばね定数が小さすぎると、使用するばねの個数が増加し、コスト増加が問題になる。
【0030】
角ばねの配置位置に関しては、荷重の均一性の観点から、荷重受け板とセルスタックユニットとの対向面間の中心回りの等角位置、又は荷重受け板とセルスタックユニットとの対向面間の中心部及び中心回りの等角位置に配するのが好ましい。その他、角ばねの配置位置に関して考慮すべきことは、セルとインターコネクタの電気的接続を保持する観点からセルの中心部に配置すること、セルスタックの積層方向に形成されたガスマニホールド部のガスシール性を保持する観点からガスマニホールドの中心部に配置することなどである。
【0031】
セルスタックユニットに付加する積層方向の圧縮荷重については10〜18kPaが好ましい。これが小さすぎると、セルスタックユニットにおける板材間の電気的接続及びシーリングが不十分となり、反対に大きすぎるとタイロッドの高温クリープにより、ばねによる荷重が十分に得られなくなる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の積層型燃料電池は、間隔が規定された一対の荷重受け板の間に配置されたセルスタックユニットに積層方向の圧縮荷重を付加する加圧機構として、荷重受け板とセルスタックユニットとの間に複数のセラミックス製の角ばねを圧縮状態で分散配置したことにより、ダイナミックベローズ式の加圧機構と比べて加圧機構の小型化、設備コスト低減、及び耐久性向上を図ることができる。また、同じセラミックスばねである丸ばねを使用した加圧機構と比較しても、ばね定数の増加及び剪断応力の低下によりばねサイズの小型化、ばね個数の低減を可能にし、経済性向上、耐久性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1A】本発明の一実施形態を示す積層型燃料電池の主要部の構成図で平面図である。
【図1B】同積層型燃料電池の主要部の構成図で立面図である。
【図2A】丸ばねの形状を示す立面図である。
【図2B】角ばねの形状を示す立面図である。
【図3】丸ばねと角ばねの両方について、圧縮復元量と荷重変化との関係を示すグラフである。
【図4A】本発明の別の実施形態を示す積層型燃料電池の主要部の構成図で平面図である。
【図4B】同積層型燃料電池の主要部の構成図で立面図である。
【図5A】従来の積層型燃料電池の主要部の構成図で平面図である。
【図5B】同積層型燃料電池の主要部の構成図で立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0035】
図1A及び図1Bは本発明の第1実施形態を示している。第1実施形態の積層型燃料電池は、上下一対の荷重受け板10H,10Lの間に円柱形状又は角柱形状(ここでは円柱形状)のセルスタックユニット30が配置されている。上下一対の荷重受け板10H,10Lは、SUS310Sなどのオーステナイト系耐熱合金からなる多角形の剛性体プレートであり、複数本のタイロッド20により連結されて間隔が規定されている。
【0036】
タイロッド20はここではハステロイ(商品名)などのニッケル基耐熱合金からなり、荷重受け板10H,10Lの外周部の周方向4箇所に等角配置されることにより、荷重受け板10H,10Lを連結している。より詳しくは、個々のタイロッド20の下端部は下側の荷重受け板10Lにねじ込み固定されている一方、上端部は上側の荷重受け板10Hに設けられた貫通孔を貫通して荷重受け板10Hの上方に突出し、その突出部を雄ねじ部としてこれにねじ込まれたナット21により荷重受け板10Hの上方への移動を阻止している。
【0037】
セルスタックユニット30は、水平な単セルを垂直方向に積層したセルスタック本体としての単セル積層体31、その上に重ねられた押さえ板32などからなる。単セル積層体31の具体的な構成は、周知のとおり、例えばイットリア安定化ジルコニアなどからなる円板状又は角板状(ここでは円板状)の固体電解質板の一方の表面にアノード電極を形成すると共に、他方の表面にカソード電極を形成し、その固体電解質板の両面側に電池反応空間が形成されるように、固体電解質板を挟んで円板状又は角板状(ここでは円板状)のインターコネクタを板厚方向に積層配置した円柱体又は角柱体(ここでは円柱体)である。
【0038】
押さえ板32は、荷重受け板10H,10Lと同じくSUS310Sなどのオーステナイト系耐熱合金からなる円形又は角形(ここでは円形)の剛性体プレートである。単セル積層体31の正極側及び負極側は押さえ板32と同形状のマイカ板などにより電気的に絶縁されている。
【0039】
セルスタックユニット30における押さえ板32と上側の荷重受け板10Hとの間には、セルスタックユニット30内の特に単セル積層体31に積層方向の圧縮荷重を付加するために、複数のセラミックスばね50が、中心線方向に圧縮された状態で分散配置されている。
【0040】
個々のセラミックスばね50は、図2Aに示す従来一般の丸ばねと異なり、図2Bに示す角ばねである。丸ばねと角ばねの違いは、前者が線材が断面円形のコイルばねであるのに対し、後者は線材が断面四角形(ここでは正方形)のコイルばねである。そして、前者は1個ずつ焼結原料粉末を成形し焼結することにより製造されるのに対し、後者は角ばねと内外径が同じ円筒形状の粉末焼結体を作製し、これから切削加工により切り出されることにより作製される。セラミックスばね50の材質は、ここでは窒化硅素を主成分とするものであり、機械的強度、熱衝撃性等に優れているが、他のセラミックスでもよい。
【0041】
他のセラミックスとしては、サイアロン(sialon)でもよい。サイアロン(sialon)は窒化硅素系のセラミックスではあるが、窒化硅素以外にアルミナ、シリカなどを主成分としている点が通常の窒化硅素とは異なる。このサイアロン(sialon)も機械的強度、熱衝撃性等に優れているので角ばねの材質として好適である。
【0042】
そして、ここにおいては、セラミックスばね50は、セルスタックユニット30における押さえ板32と荷重受け板10Hとの間に中心線方向に圧縮された状態で配置されており、より具体的には押さえ板32と荷重受け板10Hとの間の中心部、及び外周部の隣接するタイロッド20,20間に位置する4箇所の、合計5箇所に中心線方向に圧縮された状態で配置されている。
【0043】
セラミックスばね50の配置位置においては、押さえ板32と荷重受け板10Hと対向面に、セラミックスばね50の両端部が挿入される円形の凹部33、11がそれぞれ設けられている。円形の凹部33、11はセラミックスばね50の位置決め、燃料電池の全高抑制に寄与する。凹部33、11の深さは、押さえ板32及び荷重受け板10Hの機械的強度の低下が問題とならない範囲内に制限されている。
【0044】
第1実施形態の積層型燃料電池の組立方法及び機能は以下のとおりである。
【0045】
組立ではまず、下側の荷重受け板10Lの上にセルスタックユニット30を構成すると共に、セルスタックユニット30を包囲するように4本のタイロッド20を立設する。次いで、セルスタックユニット30における押さえ板32の上面に設けられた5つの凹部33にセラミックスばね50の下部をそれぞれ挿入する。この状態で5つのセラミックスばね50の上に上側の荷重受け板10Hを載せる。このとき、荷重受け板10Hの対応位置に設けられた貫通孔に4本のタイロッド20の上端部を貫通させる。また、荷重受け板10Hの下面に設けられた5つの凹部11にセラミックスばね50の上部を挿入する。
【0046】
最後に、荷重受け板10Hの上に突出した4本のタイロッド20の上端雄ねじ部にナット21をそれぞれねじ込む。これにより下側の荷重受け板10Lに対して上側の荷重受け板10Hが下がり、荷重受け板10Hと押さえ板32との隙間が小さくなることにより、5つのセラミックスばね50が均等に圧縮される。その結果、セルスタックユニット30及びセルスタックユニット30内の単セル積層体31に所定の大きさの積層方向の圧縮荷重が付加される。
【0047】
動作中は、図示されない炉内において、セルスタックユニット30における単セル積層体31に燃料ガスとしての水素ガス及び酸化ガスとしての空気を供給することにより、単セル積層体31で発電が行われる。具体的には、固体電解質板のアノード側の電池反応空間に燃料ガスを供給し、カソード側の電池反応空間に酸化ガスを供給することにより単セル毎に発電が行われる。そして単セル積層体31では、この単セルが積層され直列接続状態となっていることにより、セルスタックの定格発電電圧が正極側と負極側との間に生じる。
【0048】
ちなみに、単セルの発電電圧が1Vでその積層数が50である単セル積層体31の場合、その定格発電電圧は50Vである。
【0049】
動作温度は約800℃である。この高温雰囲気により、セルスタックユニット30は積層方向に熱膨張するが、4本のタイロッド20は材質の違いにより、それよりも大きく長手方向に熱膨張する。その結果、荷重受け板10Hと押さえ板32との隙間が組立時(常温時)より大きくなり、5つのセラミックスばね50の圧縮量が小さくなる。すなわち、セラミックスばね50が緩んで、セルスタックユニット30に付加される圧縮荷重が小さくなる。このため、組立時には、この動作温度でのセラミックスばね50の緩みによる圧縮荷重の減少を見込んで、目標量より多めにセラミックスばね50を圧縮させ、圧縮荷重を大きくしておく。これにより、動作中にセルスタックユニット30における単セル積層体31に所定の大きさの積層方向の圧縮荷重が付加される。
【0050】
5個のセラミックスばね50が水平面内に配置されて構成された加圧機構は、図5A及び図5Bに示す従来の積層型燃料電池に組み込まれたダイナミックベローズ40使用の加圧機構と比べて、構造が簡単で小型かつ安価であり、耐久性にも優れることは明らかである。これに加えて、セラミックスばね50は通常の丸ばねではなく角ばねであるので、丸ばねを使用する場合よりも剪断応力を小さくすることができる。これを以下に具体的に説明する。
【0051】
使用する丸ばね及び角ばねの基本仕様は図2A及び図2Bに示すとおり同じとする。具体的に説明すると、材質は共に窒化硅素、コイル平均径は共に22mm、巻き数は共に5.4である。一方、図2Aに示す丸ばねのばね定数は19.6N/mm、図2Bに示す角ばねのばね定数は24.5N/mmである。製造コストは図2Aに示す丸ばねを100とした場合、図2Bに示す角ばねは約10となる。
【0052】
800℃の動作温度雰囲気中で5個のセラミックスばね50により490Nの圧縮荷重をセルスタックに付加する場合、ばね1個あたりの負担荷重は98Nとなる。また、タイロッド20とセルスタックユニット30との線膨張係数の相違により、常温から800℃に加熱されることにより、荷重受け板10Hと押さえ板32との隙間は0.9mm大きくなる。すなわち、セラミックスばね50の圧縮復元量は0.9mmである。
【0053】
図2Aに示す丸ばねの場合、800℃で98Nの荷重を確保するためには35.5mmのばね長(自然長)が30.5mmに圧縮されている必要がある。この状態での剪断応力は245MPaである。この動作時の荷重確保のために、常温ではばね長を0.9mm小さい29.6mmにしておく必要がある。この状態での圧縮荷重は115N/本に増え、剪断応力は289MPaに増える。
【0054】
これに対し、図2Bに示す角ばねの場合、800℃で98Nの荷重を確保するためには35.5mmのばね長(自然長)が31.5mmに圧縮されている必要がある。この状態での剪断応力は228MPaである。この動作時の荷重確保のために、常温ではばね長を0.9mm小さい30.6mmにしておく必要がある。この状態での圧縮荷重は120N/本、剪断応力は278MPaである。
【0055】
丸ばねの場合と比べて、全体的にばね長が大きい(圧縮量が小さい)のは、ばね定数が大きいからである。そして線材の断面形状の違い、断面積の違いに加えて、ばね長が大きい(圧縮量が小さい)こともあって剪断応力は小さい。その結果、ばねが破損する頻度は低下する。
【0056】
図4A及び図4Bは本発明の第2実施形態を示す。第2実施形態の積層型燃料電池は、図1A及び図1Bに示した第1実施形態の積層型燃料電池と比べて、4本のタイロッド20にスリーブ60をそれぞれ付加した点が相違する。スリーブ60を使用すること以外は、第1実施形態の積層型燃料電池と実質的に同一であるので、同一部分については同一番号を付して詳しい説明を省略する。
【0057】
上側の荷重受け板10Hと下側の荷重受け板10Lを連結する4本のタイロッド20は、その上端部が上側の荷重受け板10Hを貫通して上方へ長く突出している。4本のタイロッド20の各突出部分には、タイロッド20を構成する材料より線膨張率が大きい材料、例えば荷重受け板10H,10Lなどと同じSUS310Sからなるスリーブ60が外嵌している。4本のタイロッド20の上側の先端部はスリーブ60より更に上方に突出しており、その突出雄ねじ部にナット21をねじ込むことにより、上側の荷重受け板10は4本のスリーブ60を介して下方に押圧され、5個のセラミックスばね50をセルスタックユニット30における押さえ板32との間で中心線方向に圧縮する。
【0058】
5個のセラミックスばね50の両端部が荷重受け板10Hと押さえ板32の対向面に設けられた凹部11,33に挿入されていることなどは、第1実施形態の積層型燃料電池の場合と同じである。
【0059】
第2実施形態の積層型燃料電池における特徴点は、4本のタイロッド20のそれぞれにスリーブ60を組み合わせたことにより、動作時においてタイロッド20が熱膨張することにより伴う荷重受け板10Hと押さえ板32と隙間の増大を抑制できることである。
【0060】
すなわち、第1実施形態の積層型燃料電池の動作でも述べたように、800℃というよな動作温度環境では、セルスタックユニット30の熱膨張よりも、Ni基合金からなるタイロッド20の長手方向の伸びの方が大となり、荷重受け板10Hと押さえ板32との隙間が大きくなるが、スリーブ60を構成する材料であるSUS310Sの線膨張率が、タイロッド20を構成するNi基合金の線膨張率より大きいために、荷重受け板10Hが下方に押し返される。その結果、荷重受け板10Hと押さえ板32との隙間の増大、すなわちセラミックスばね50の圧縮復元量が、スリーブ60を組合せない場合と比べて小さくなり、それに伴って、常温でのセラミックスばね50の圧縮量も小さくなる。
【0061】
定量的に説明すると、第1実施形態の積層型燃料電池における4本のタイロッド20に長さが35mm(タイロッド20の長さの1/10)のスリーブ60を組み合わせた場合、常温から800℃に加熱されることにより、荷重受け板10Hと押さえ板32との隙間の増加量、すなわちセラミックスばね50の圧縮復元量は0.1mm小さい0.8mmとなる。
【0062】
一方、800℃で98Nの荷重を確保するためには、前述したとおり35.5mmのばね長(自然長)が31.5mmに圧縮されている必要がある。この状態での剪断応力は228MPaである。この動作時の荷重確保のために、常温ではばね長を0.8mm小さい30.7mmにしておく必要がある。この状態での圧縮荷重は118N/本、剪断応力は273MPaである。スリーブ60を組み合わせない場合の圧縮荷重(120N/本)、剪断応力(278MPa)と比べて小さくなっている。
【0063】
ちなみに、セルスタックユニット30の主構成材料であるフェライト系ステンレス鋼の線膨張係数は12.2×10-6/℃、タイロッドを構成するハステロイ(商品名)の線膨張係数は14.5×10-6/℃、スリーブ60を構成するオーステナイト系ステンレス鋼の線膨張係数は20.0×10-6/℃である。フェライト系ステンレス鋼の線膨張係数と比べて、ハステロイ(商品名)などのニッケル基合金の線膨張係数が大きいものの、その差は小さい。これらに比べて、オーステナイト系ステンレス鋼の線膨張係数は想到に大きい。
【0064】
第1実施形態及び第2実施形態の積層型燃料電池では、荷重受け板10H,10Lを多角形、セルスタックユニット30を円柱体としたが、これに限るものではなく、角柱状でもよいことは前述したとおりである。また、タイロッド20の本数、セラミックスばね50の個数及び配置箇所も実施形態のもに限定されないことも言うまでもない。
【0065】
個々のセラミックスばね50については、線材の断面形状は前記実施形態では線幅、線厚が同じ正方形としたが、線幅、線厚が異なる長方形としてもよい。同じ断面積で、線幅に比して線厚が大きい縦長の長方形、線幅に比して線厚が小さい横長の長方形、及び正方形とを比較した場合、長方形の断面に比べて正方形の断面の方がばね定数が大きく、剪断応力も小さいので、正方形断面に近い形状が好ましい。
【符号の説明】
【0066】
10H,10L 荷重受け板
20 タイロッド
21 ナット
30 セルスタックユニット
31 単セル積層体
32 押さえ板
40 ダイナミックベローズ
50 セラミックスばね(角ばね)
60 スリーブ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
間隔が規定された一対の荷重受け板の間にセルスタックユニットが配置されると共に、前記セルスタックユニットに積層方向の圧縮荷重を付加する加圧機構として、前記荷重受け板とセルスタックユニットとの間に、セラミックスからなる複数の角ばねが圧縮状態で分散配置されていることを特徴とする積層型燃料電池。
【請求項2】
請求項1に記載の積層型燃料電池において、一対の荷重受け板を連結する複数本のタイロッドが一方の荷重受け板を貫通して突出し、その突出部に外嵌した状態で荷重受け板とタイロッド端部との間に、タイロッドよりも線膨張係数が大きい耐熱金属からなるスリーブが介装されている積層型燃料電池。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の積層型燃料電池において、複数の角ばねを挟む荷重受け板とセルスタックユニットとの対向面に、複数の角ばねの端部が嵌合する凹部が設けられている積層型燃料電池。





【図1A】
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【図1B】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5A】
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【図5B】
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