説明

積層型電子部品およびその製造方法

【課題】実質的にめっきにより形成される外部端子電極を備える積層型電子部品において、外部端子電極の下地となる銅めっき膜を形成した後、バリア層としてのニッケルめっき膜をその上に形成する必要があるが、このようなニッケルめっき膜の形成工程を省略できるようにする。
【解決手段】内部電極3,4の導電成分としてニッケルを用い、部品本体2における内部電極3,4の露出面上に、まず銅めっき膜10,11を形成し、次いで、600℃以上の温度で熱処理することにより、銅めっき膜10,11の表面にニッケルの酸化物を偏析させ、この偏析したニッケルの酸化物を還元することによって、ニッケルからなる金属層12,13を銅めっき膜10,11の表面に沿って形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、積層型電子部品およびその製造方法に関するもので、特に、外部端子電極が複数の内部導体と電気的に接続されるようにして直接めっきにより形成された積層型電子部品およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、デジタルカメラ、デジタルオーディオ機器等の小型携帯電子機器の市場が拡大している。これらの携帯電子機器では、小型化が進んでいる一方で、高性能化も同時に進んでいる。携帯電子機器には多数の積層セラミック電子部品のような積層型電子部品が搭載されているが、積層型電子部品についても、小型化・高性能化が要求されており、積層型電子部品の一例としての、たとえば積層セラミックコンデンサにおいては、小型化・大容量化が要求されている。
【0003】
積層セラミックコンデンサを小型化・大容量化する手段としては、誘電体セラミック層を薄層化することに加えて、内部電極の有効面積を広くすることが有効である。しかし、積層セラミックコンデンサを量産する際には、内部電極とセラミック素体側面とのサイドマージンや、内部電極とセラミック素体端面とのエンドマージンをある程度確保する必要があるため、内部電極の有効面積を広げることには制約がある。
【0004】
所定のマージンを確保しながら内部電極の有効面積を広げるためには、誘電体セラミック層の面積を広くする必要がある。しかし、決められた寸法規格内で誘電体セラミック層の面積を広げることには限界があり、その上、外部端子電極の厚みが妨げとなる。
【0005】
従来、積層セラミックコンデンサの外部端子電極は、典型的には、セラミック素体端部に導電性ペーストを塗布し、焼き付けることにより形成されてきた。導電性ペーストの塗布方法としては、ペースト槽にセラミック素体端部を浸漬して引き上げるというものが主流であるが、この方法では、導電性ペーストの粘性が影響して、セラミック素体端面中央部に導電性ペーストが厚く付着しやすい。このため、外部端子電極が部分的に厚くなる分、誘電体セラミック層の面積を小さくせざるを得なかった。
【0006】
これを受けて、外部端子電極を直接めっきにより形成する方法が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。この方法では、セラミック素体端面における内部電極の露出部を核としてめっき膜が析出し、このめっき膜が成長すること、すなわち、めっき膜のつきまわりにより、隣り合う内部電極の露出部同士が接続される。この方法によれば、従来の導電性ペーストによる方法に比べて、薄くフラットな電極膜を形成することが可能となる。
【0007】
上述したように、外部端子電極を直接めっきにより形成する場合、めっき膜を構成する金属としては、つきまわり性を考慮すると、銅を用いることが好ましい。
【0008】
他方、はんだを用いて積層セラミックコンデンサを実装するにあたっては、上述の銅めっき膜の上に、バリア層としてのニッケルめっき膜を形成し、さらに、はんだ濡れ性確保のための錫または金を主成分とするめっき膜を形成することが必要になるため、外部端子電極は合計3層以上のめっき膜から構成されることになり、その結果、厚みを増してしまうという不都合を招く。
【0009】
なお、上述した1層目を銅めっき膜に代えてニッケルめっき膜で構成すると、合計2層で済むが、以下の問題を招く。
【0010】
ニッケルは、つきまわり性に劣り、銅に比べて固着力が劣る。また、積層セラミックコンデンサの内部電極の導電成分としてニッケルがよく使われるが、この場合、熱処理を施しても、外部端子電極側のめっき膜を構成する金属と内部電極の導電成分とが同元素であるので、拡散現象がほとんど生じない。よって、外部端子電極と内部電極との界面での封止性に劣り、水分等の浸入を許容することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第2007/049456号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、この発明の目的は、上述した問題を解決し得る、積層型電子部品およびその製造方法を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、導電成分として第1の金属を含む複数の内部電極が内部に形成され、かつ内部電極の各一部が露出している、積層構造の部品本体を用意する工程と、内部電極と電気的に接続される外部端子電極を部品本体の外表面上に形成する工程とを備える、積層型電子部品の製造方法にまず向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、次のような構成を備えることを特徴としている。
【0014】
すなわち、外部端子電極を形成する工程は、部品本体における内部電極の露出面上に、第1の金属とは異なる第2の金属のめっきを施すことにより、めっき膜を形成する工程と、めっき膜が形成された部品本体を600℃以上の温度で熱処理することにより、めっき膜の表面に第1の金属の酸化物を偏析させる工程と、偏析した第1の金属の酸化物を還元することによって、第1の金属からなる金属層をめっき膜の表面に沿って形成する工程とを備える。
【0015】
この発明に係る積層型電子部品の製造方法において、第1の金属の主成分がニッケルであり、第2の金属の主成分が銅であることが好ましい。この場合、熱処理する工程において、1000〜1100℃の温度、および100〜200ppmの酸素濃度が適用されることが好ましい。
【0016】
この発明は、また、導電成分として第1の金属を含む複数の内部電極が内部に形成され、かつ内部電極の各一部が露出している、積層構造の部品本体と、内部電極と電気的に接続され、かつ部品本体の外表面上に形成される、外部端子電極とを備える、積層型電子部品にも向けられる。
【0017】
この発明に係る積層型電子部品において、外部端子電極は、部品本体における内部電極の露出面上に直接めっきにより形成された、第1の金属とは異なる第2の金属からなるめっき膜と、めっき膜の表面に沿って偏析した第1の金属からなる金属層とを備えることを特徴としている。
【0018】
この発明に係る積層型電子部品において、第1の金属の主成分がニッケルであり、第2の金属の主成分が銅であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、外部端子電極の1層目となる第2の金属からなるめっき膜の表面に沿って、内部電極の導電成分となる第1の金属からなる金属層を形成することができる。したがって、外部端子電極を、たとえば銅めっき膜、その上のニッケルめっき膜、およびその上の錫または金めっき膜から構成したい場合、内部電極の導電成分としてニッケルを用いると、中間のニッケルめっき膜を形成するための工程を省くことができ、また、外部端子電極全体としての厚みの低減にも寄与し得る。
【0020】
第1の金属の主成分がニッケルであり、第2の金属の主成分が銅である場合において、1000〜1100℃の温度、および100〜200ppmの酸素濃度を適用して熱処理を施せば、内部電極の導電成分としてのニッケルが外部端子電極を構成する銅めっき膜の表面に効果的に偏析するとともに、この銅めっき膜と内部電極との間で相互拡散が効果的に生じるようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の一実施形態による製造方法によって製造された積層型電子部品を示す断面図である。
【図2】図1に示した積層型電子部品の製造過程の途中であって、外部端子電極を形成するため、めっき膜を部品本体上に形成した後の状態を示す断面図である。
【図3】図1に示した積層型電子部品の製造過程の途中であって、外部端子電極を形成するため、上記めっき膜が形成された部品本体に熱処理を施した後の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1を参照して、この発明の一実施形態による製造方法によって製造された積層型電子部品1の構造について説明する。
【0023】
積層型電子部品1は、積層構造の部品本体2を備えている。部品本体2は、その内部に複数の内部電極3および4を形成している。より詳細には、部品本体2は、積層された複数の絶縁体層5と、絶縁体層5間の界面に沿って形成された複数の層状の内部電極3および4とを備えている。
【0024】
積層型電子部品1が積層セラミックコンデンサを構成するとき、絶縁体層5は、誘電体セラミックから構成される。なお、積層型電子部品1は、その他、インダクタ、サーミスタ、圧電部品などを構成するものであってもよい。したがって、積層型電子部品1の機能に応じて、絶縁体層5は、誘電体セラミックの他、磁性体セラミック、半導体セラミック、圧電体セラミックなどから構成されても、さらには、樹脂を含む材料から構成されてもよい。
【0025】
部品本体2の一方および他方端面6および7には、それぞれ、複数の内部電極3および複数の内部電極4の各端部が露出していて、これら内部電極3の各端部および内部電極4の各端部を、それぞれ、互いに電気的に接続するように、外部端子電極8および9が形成されている。
【0026】
なお、図示した積層型電子部品1は、2個の外部端子電極8および9を備える2端子型のものであるが、この発明は多端子型の積層型電子部品にも適用することができる。
【0027】
外部端子電極8および9の各々は、部品本体2における内部電極3および4の露出面、すなわち端面6および7上に直接めっきにより形成されためっき膜10および11と、めっき膜10および11の表面に沿って偏析した金属層12および13とをそれぞれ備えている。
【0028】
内部電極3および4の導電成分となる金属、めっき膜10および11を構成する金属ならびに金属層12および13を構成する金属は、次のように選ばれる。すなわち、内部電極3および4の導電成分となる金属を第1の金属としたとき、めっき膜10および11を構成する金属は、第1の金属とは異なる第2の金属とされ、金属層12および13を構成する金属は第1の金属とされる。
【0029】
好ましくは、上述した第1の金属の主成分はニッケルとされ、第2の金属の主成分は銅とされる。めっき膜10および11の主成分を銅とすることにより、めっき膜10および11のつきまわり性を良好なものとすることができ、めっき膜10および11において十分な固着力を得ることができる。また、金属層12および13の主成分をニッケルとすることにより、はんだを用いた実装時に、金属層12および13をバリア層として機能させることができる。
【0030】
図1では図示されないが、めっき膜10および11ならびに金属層12および13とからなる外部端子電極8および9には、さらに、錫または金めっきが施され、外部端子電極8および9に対して良好なはんだ濡れ性が与えられることが好ましい。
【0031】
次に、図1に示した積層型電子部品1の製造方法、特に、外部端子電極8および9の形成方法について説明する。
【0032】
まず、周知の方法により、部品本体2が作製される。次に、外部端子電極8および9が、内部電極3および4と電気的に接続されるように、部品本体2の端面6および7上に形成される。
【0033】
この外部端子電極8および9の形成にあたっては、まず、図2に示すように、部品本体2の端面6および7上に、めっき膜10および11が形成される。めっき膜10および11の形成のためのめっきは、電解めっきおよび無電解めっきのいずれでもよい。
【0034】
次に、上記のようにめっき膜10および11が形成された部品本体2が、600℃以上の温度で熱処理される。これによって、めっき膜10および11の表面に、内部電極3および4の導電成分としての第1の金属の酸化物が偏析し、図3に示すように、第1の金属の酸化物からなる偏析層14および15が形成される。
【0035】
前述したように、第1の金属の主成分がニッケルであり、めっき膜10および11を構成する第2の金属の主成分が銅であるとき、上述の熱処理工程では、1000〜1100℃の温度および100〜200ppmの酸素濃度といった条件が適用されることが好ましい。このような条件を適用すれば、内部電極3および4に含まれるニッケルが銅を主成分とするめっき膜10および11の表面に効果的に偏析するとともに、めっき膜10および11と内部電極3および4との間で相互拡散が効果的に生じるようにすることができるからである。
【0036】
次に、偏析層14および15を構成する第1の金属の酸化物が還元される。これによって、図1に示すように、第1の金属からなる金属層12および13がめっき膜10および11の表面に沿って形成される。この還元処理は、たとえば、300〜450℃の温度で、1〜60分間程度、水素を含む還元性雰囲気(たとえばNとHとの混合雰囲気)中で実施されることが好ましい。
【0037】
次に、この発明による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0038】
まず、部品本体として、長さ1.9mm、幅1.05mmおよび高さ1.05mmであって、絶縁体層がチタン酸バリウム系誘電体セラミックからなり、内部電極の導電成分の主成分がニッケルであり、内部電極の積層数が416であり、絶縁体層の厚みが1.9μmのものを用意した。
【0039】
次に、上記部品本体に対して電解めっきを施し、内部電極と電気的に接続される外部端子電極の下地となる厚み7μmの銅めっき膜を形成した。ここで、めっき浴としては、上村工業社製「ピロブライトプロセス」を用い、浴温を55℃、pHを8.8に調整した。また、めっき処理において、バレル容積が300mlの水平回転バレルを用い、バレル回転数を12rpmとし、直径1.8mmの導電性メディアを用い、0.30A/dmの電流密度で60分間処理した。
【0040】
次に、上記のように銅めっき膜が形成された部品本体を、表1に示す温度および酸素濃度とした熱処理条件にて熱処理した。
【0041】
次に、部品本体を還元処理した。この還元処理は、400℃の温度で、10分間、NとHの混合雰囲気中で実施した。
【0042】
次に、錫めっき処理を施し、外部端子電極の表面層を形成する厚み4μmの錫めっき膜を形成した。この錫めっきでは、めっき浴として、ディップソール社製「Sn‐235」を用い、浴温を30℃とし、pHを5.0に調整した。また、バレル容積が300mlの水平回転バレルを用い、バレル回転数を12rpmとし、直径1.8mmの導電性メディアを用い、0.10A/dmの電流密度で60分間処理した。
【0043】
このようにして得られた各試料に係る積層型電子部品を樹脂に埋め、研磨して断面を露出させた。そして、露出面に対し5度の角度でFIB加工し、加工断面の銅/ニッケル拡散状態をEDXでマッピング分析した。なお、この拡散状態の解析については、特にニッケル成分の拡散挙動に着目した。その結果が表1の「銅/ニッケル拡散状態」の欄に示されている。
【0044】
【表1】

【0045】
表1からわかるように、熱処理条件として、温度が1000〜1100℃という条件と酸素濃度が100〜200ppmという条件との双方を満たす試料1および2によれば、銅めっき膜の表面近傍にニッケル成分を偏析させることができ、還元処理を行なうことにより、ニッケルからなる金属層を銅めっき膜の表面に沿って形成することができた。
【0046】
他方、試料3〜5では、銅めっき膜に均一にニッケル成分が拡散しており、還元処理を行なっても、ニッケルからなる金属層を銅めっき膜の表面に沿って十分に形成することができなかった。
【符号の説明】
【0047】
1 積層型電子部品
2 部品本体
3,4 内部電極
8,9 外部端子電極
10,11 めっき膜
12,13 金属層
14,15 偏析層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電成分として第1の金属を含む複数の内部電極が内部に形成され、かつ前記内部電極の各一部が露出している、積層構造の部品本体を用意する工程と、
前記内部電極と電気的に接続される外部端子電極を前記部品本体の外表面上に形成する工程と
を備え、
前記外部端子電極を形成する工程は、
前記部品本体における前記内部電極の露出面上に、前記第1の金属とは異なる第2の金属のめっきを施すことにより、めっき膜を形成する工程と、
前記めっき膜が形成された前記部品本体を600℃以上の温度で熱処理することにより、前記めっき膜の表面に前記第1の金属の酸化物を偏析させる工程と、
偏析した前記第1の金属の酸化物を還元することによって、第1の金属からなる金属層を前記めっき膜の表面に沿って形成する工程と
を備える、積層型電子部品の製造方法。
【請求項2】
前記第1の金属の主成分がニッケルであり、前記第2の金属の主成分が銅である、請求項1に記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項3】
前記熱処理する工程において、1000〜1100℃の温度、および100〜200ppmの酸素濃度が適用される、請求項2に記載の積層型電子部品の製造方法。
【請求項4】
導電成分として第1の金属を含む複数の内部電極が内部に形成され、かつ前記内部電極の各一部が露出している、積層構造の部品本体と、
前記内部電極と電気的に接続され、かつ前記部品本体の外表面上に形成される、外部端子電極と
を備え、
前記外部端子電極は、前記部品本体における前記内部電極の露出面上に直接めっきにより形成された、前記第1の金属とは異なる第2の金属からなるめっき膜と、前記めっき膜の表面に沿って偏析した前記第1の金属からなる金属層とを備える、
積層型電子部品。
【請求項5】
前記第1の金属の主成分がニッケルであり、前記第2の金属の主成分が銅である、請求項1に記載の積層型電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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