説明

積層塗膜形成方法

【課題】積層塗膜の形成において、良好な塗膜仕上がり性を得ながら、ベース塗料の溶剤使用量の増大を抑えつつ、省エネを図る。
【解決手段】被塗物1の電着塗膜2の上に、ポリオール樹脂及び硬化剤を含有する溶剤型ベース塗料を塗布し、その上にポリオール樹脂及びイソシアネートを含有する2液ウレタンクリヤ塗料をウェットオンウェットで塗布してベース塗膜3及びクリヤ塗膜4を形成し、ベース塗膜3及びクリヤ塗膜4を同時に焼付け硬化させる複層塗膜形成方法において、上記ベース塗膜3に塗着したときの上記2液ウレタンクリヤ塗料の溶剤量が20質量%以下になるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層塗膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体塗装では、従来より、下塗り塗装(電着塗装)、中塗り塗装、上塗り塗装(ベース塗装及びクリヤ塗装)の順で行なわれ、その中塗り塗装及びベース塗装には溶剤型塗料が採用されてきた。ベース塗装及びクリヤ塗装はウェットオンウエットで行なわれているが、電着、中塗り及び上塗りの各工程毎に塗膜の焼付け硬化を行なう必要がある。これに対して、特許文献1には、中塗り塗装、ベース塗装及びクリヤ塗装を順次ウェットオンウエットで行なうこと、つまり、中塗り後の焼付けを省略することにより、省エネを図ることが記載されている。
【0003】
また、上記ベース塗装に関しては、近年、環境への負荷軽減(有機溶剤の使用量削減)の観点から、溶剤型ベース塗料から水性ベース塗料への転換も行なわれている。例えば、特許文献2には、ベース塗装に水性塗料を採用すること、また、その水性ベース塗装を第1層及び第2層の二層とし、第1層の紫外線透過率を下げることにより、中塗り塗装を省略することが記載されている。しかし、水性ベース塗料の場合、ウェットオンウェットでのクリヤ塗装のために、ベース塗装後に水分を除去する予備乾燥工程や、ベース塗膜の乾燥状態を制御する空調設備が必要になる。そのため、中塗りを省略したとしても、省エネの観点からはそれほど効果的ではない。
【0004】
また、特許文献3には、自動車の上塗り塗装(ベース及びクリヤのウェットオンウェット塗装)に関し、クリヤ塗料に低分子量のポリオールを使用すると、ベース塗膜層とクリヤ塗膜層の混層により、仕上がり外観が不十分になること、その解決のために、特定の水酸基価及び数平均分子量のポリオールとポリイソシアネートとを含有するクリヤ塗料を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−75791号公報
【特許文献2】特表2008−529766号公報
【特許文献3】特開2009−149825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の積層塗膜の形成において、省エネの観点からは、中塗り塗装を省略できるようにすること、そして、ベース塗料を溶剤型として上記予備乾燥工程や空調設備を不要にすることが有効である。しかし、中塗り塗膜は外力に対する衝撃緩和の役割を有し、これを省くと、耐チッピング性(飛び石に対する塗膜の耐剥離性)が低下する。
【0007】
その対策として、本発明では、クリヤ塗装に衝撃吸収性が高い2液ウレタンクリヤ塗料を採用するようにした。その場合に問題になったのが、ウェットオンウェットで塗装されたクリヤ塗膜からベース塗膜へのイソシアネート(硬化剤)の移行である。すなわち、クリヤ塗膜からイソシアネートの一部がベース塗膜に移行してきた場合、加熱焼付け時に、ベース塗膜の硬化速度にバラツキを生じてしまう。つまり、ベース塗膜では、クリヤ塗膜から移行してくるイソシアネートによりベース塗膜表面側が内部よりも先に低い温度から硬化し始める。続いて内部の硬化が始まり、ポリオールと硬化剤(メラミン樹脂及びブロックイソシアネート樹脂の少なくとも一方)との反応で生じるアルコール及びブロック剤の少なくとも一方の脱離によってベース塗膜が収縮するため、ベース塗膜表面に微小な凹凸が生じて仕上がり性(特に塗膜表面の艶)が低下するという問題である。
【0008】
そこで、本発明は、良好な塗膜仕上がり性を得ながら、ベース塗料の溶剤使用量の増大を抑えつつ、省エネを図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者の研究によれば、上記クリヤ塗膜のイソシアネートのベース塗膜への移行は、クリヤ塗料の溶剤がベース塗膜のポリオール樹脂を部分的に溶かすことによって進行していく現象であることがわかった。そして、2液ウレタンクリヤ塗料がベース塗膜に塗着したときの該2液ウレタンクリヤ塗料の溶剤量に応じてイソシアネートの上記移行の程度が異なることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、電着塗膜が形成された被塗物の該電着塗膜の上に、ポリオール樹脂及び該ポリオール樹脂の水酸基と反応する硬化剤を含有する溶剤型ベース塗料を塗布し、その上にポリオール樹脂及びイソシアネートを含有する2液ウレタンクリヤ塗料をウェットオンウェットで塗布することによりベース塗膜及びクリヤ塗膜を形成し、該ベース塗膜及びクリヤ塗膜を同時に焼付け硬化させる複層塗膜形成方法において、上記ベース塗膜に塗着したときの上記2液ウレタンクリヤ塗料の溶剤量が20質量%以下になるようにすることを特徴とする。
【0011】
すなわち、2液ウレタンクリヤ塗料の場合、一般には溶剤が50質量%前後添加されて塗装に適切な粘度になるように調整されている。そして、従来は、クリヤ塗料がベース塗膜に塗着した直後でも、その塗着したクリヤ塗料中に溶剤が30〜35質量%残っているのが通常である。
【0012】
これに対して、本発明は、ベース塗膜に塗着したときの2液ウレタンクリヤ塗料の溶剤量がさらに少なくなるようにした。具体的には20質量%以下になるようにしたものである。このため、本発明によれば、2液ウレタンクリヤ塗料中の溶剤によるベース塗膜のポリオール樹脂の溶解が軽度になり、上記クリヤ塗料の硬化剤であるイソシアネートのベース塗膜への移行が抑えられる。従って、ベース塗膜の硬化速度(タイミング)にバラツキを生ずることに起因する仕上がり性の低下が避けられる。また、2液ウレタンクリヤ塗料の採用により、中塗り塗装を省略することが可能になり(中塗りのための溶剤も不要になり)、さらに、ベース塗料を溶剤型としたから、水性ベース塗料とは違って、予備乾燥工程や空調設備は不要であり、省エネの点から有利になる。
【0013】
ここで「ベース塗膜に塗着したとき」のクリヤ塗料の溶剤量に関して述べれば、クリヤ塗料がベース塗膜に塗着してから1,2分程度の経過では通常は溶剤揮発量が極めて少ない。従って、室温においてベース塗膜への塗着から1分間を経過した時点での溶剤量が20質量%以下であれば、「ベース塗膜に塗着したとき」のクリヤ塗料の溶剤量が20質量%以下であるということができる。
【0014】
ベース塗膜に塗着したときの2液ウレタンクリヤ塗料の溶剤量を20質量%以下にするには、例えば、ガン距離(塗装ガンのノズルから被塗物表面までの距離)を調節すればよく、或いは回転霧化式塗装ガンにあっては円盤又はカップの回転数を調節する、蒸発速度が大きい溶剤を採用するなど、種々の手段を採用することができる。
【0015】
上記溶剤型ベース塗料中に含まれる樹脂成分のSP(溶解性パラメータ)値が9.5以上であり、上記ベース塗膜に塗着した2液ウレタンクリヤ塗料中の溶剤のSP値が9以下であることが好ましい。上記溶剤型ベース塗料中に複数の樹脂成分が含まれる場合は、その全ての樹脂成分のSP値が9.5以上であることが好ましい。また、2液ウレタンクリヤ塗料に混合溶剤が採用され、上記ベース塗膜に塗着したときのクリヤ塗膜に複数の溶剤が残っている場合は、その残っている全ての溶剤のSP値が9以下であることが好ましい。
【0016】
すなわち、溶媒のSP値と溶質のSP値との差が大きくなるほど溶質の溶解度が小さくなることが知られている。また、塗装においては、塗料側のSP値を被塗物側のSP値よりも低くすると塗料の濡れ性が良くなる。従って、ベース塗料中に含まれる樹脂成分のSP値とベース塗膜に塗着した2液ウレタンクリヤ塗料中の溶剤のSP値との関係を上述のようにすることにより、2液ウレタンクリヤ塗料の濡れ性を損なうことなく、ベース塗膜のポリオール樹脂の溶解を抑えることができる。
【0017】
上記電着塗膜への上記溶剤型ベース塗料の塗装は、焼付け硬化後のベース塗膜表面の、BYK-Gardner社製WaveScan DOI(商品名)による測定値Wdが20以下となるようにすることが好ましい。上述の如く、ベース塗膜に塗着したときの2液ウレタンクリヤ塗料の溶剤量が少なくなる場合、それだけ、該クリヤ塗料の流動性(フロー性)が低下する。これに対して、ベース塗膜表面の上記測定値Wdを20以下とすれば、ベース塗膜表面のうねりを小さくなることにより、クリヤ塗料の流動性が多少低下しても、クリヤ塗膜表面の平滑性の低下が少なくなる。
【0018】
上記被塗物としては、例えば自動車の車体があり、その他の被塗物にも本発明は適用することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、被塗物の電着塗膜の上に、ポリオール樹脂及び硬化剤を含有する溶剤型ベース塗料を塗布し、その上にポリオール樹脂及びイソシアネートを含有する2液ウレタンクリヤ塗料をウェットオンウェットで塗布してベース塗膜及びクリヤ塗膜を形成し、該ベース塗膜及びクリヤ塗膜を同時に焼付け硬化させる複層塗膜形成方法において、ベース塗膜に塗着したときの2液ウレタンクリヤ塗料の溶剤量が20質量%以下になるようにしたから、溶剤使用量の増大を抑えつつ、クリヤ塗膜からベース塗膜へのイソシアネートの移行を抑制することができ、良好な塗膜仕上がり性を得ながら、省エネを図る上で有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る塗膜構成を示す断面図である。
【図2】クリヤ塗膜からベース塗膜へイソシアネートが移行する様子を示す比較例の説明図である。
【図3】クリヤ塗膜からベース塗膜へのイソシアネートの移行が抑制される状態を示す本発明例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0022】
図1は本発明に係る積層塗膜構成を示す。同図において、1は鋼製の被塗物であり、その上に電着塗膜2が形成され、その上にベース塗膜3が形成され、その上にクリヤ塗膜4が形成されている。ベース塗膜3は、ポリオール樹脂及び該ポリオール樹脂の水酸基と反応する硬化剤を含有する溶剤型ベース塗料の塗布によって形成されている。クリヤ塗膜4は、ポリオール樹脂及びイソシアネートを含有する2液ウレタンクリヤ塗料の塗布によって形成されている。ベース塗膜3及びクリヤ塗膜4は、ベース塗膜3の上にクリヤ塗料をウェットオンウェットで塗布し、同時に焼付け硬化させて形成されている。
【0023】
<積層塗膜形成方法>
本発明の積層塗膜形成方法では、まず、リン酸亜鉛処理した自動車車体などの被塗物1に電着塗装を行ない、焼付け乾燥処理を施して電着塗膜2を形成する。この電着塗膜2の上に溶剤型ベース塗料を塗装してベース塗膜3を形成する。次いで、ベース塗膜3の上にウェットオンウェットにて2液ウレタンクリヤ塗料を塗装してクリヤ塗膜4を形成する。このクリヤ塗装においては、ベース塗膜3に塗着したときの2液ウレタンクリヤ塗料の溶剤量が20質量%以下になるようにする。そして、ベース塗膜3及びクリヤ塗膜4を同時に焼付け硬化させる。
【0024】
−電着塗装について−
被塗物1をカチオン電着塗料に浸漬し、被塗物1を陰極、電着槽内の極板を陽極として、この間に直流電流を流すことで被塗物1に電着塗膜2を析出形成することができる。カチオン電着塗料は、カチオン性エポキシ樹脂、硬化剤及び顔料や添加剤を含んでいる。
【0025】
カチオン性エポキシ樹脂には、アミンで変性されたエポキシ樹脂が含まれる。エポキシ樹脂としては、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、及びアルキルフェノールのような樹脂で変性したもの、また、エポキシ樹脂の鎖長を延長したものを用いることができる。
【0026】
硬化剤としては、ポリイソシアネートをブロック剤でブロックして得られたブロックポリイソシアネートを用いることができる。ポリイソシアネートとしては、脂肪族系、脂環式系、芳香族−脂肪族系等のうちのいずれのものであってもよい。
【0027】
硬化剤の量は、一般にカチオン性エポキシ樹脂の硬化剤に対する固形分重量比で表して一般に80/20〜50/50の範囲が好ましく、カチオン性エポキシ樹脂と硬化剤の量は、一般に、電着塗料組成物の全固形分の30〜80重量%の範囲が好ましい。
【0028】
電着塗料は着色剤として一般に顔料を含有する。着色顔料の例としては、酸化チタン、カーボンブラック及び酸化鉄、体質顔料の例としては、カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカ及びクレー、防錆顔料の例としては、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、酸化亜鉛、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アルミニウム、及びモリブデン酸カルシウム等が挙げられる。顔料の量は、電着塗料組成物の全固形分の10〜30重量%の範囲とすることができる。
【0029】
−ベース塗装について−
上記カチオン電着塗装・焼付け乾燥処理後、その電着塗膜2の上に、溶剤型ベース塗料をエアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、回転霧化塗装、カーテンコート塗装などにより塗装する。塗装の際、静電印加を行ってもよい。
【0030】
ベース塗料は、上記ポリオール樹脂及びこれと反応する硬化剤を含有する。ポリオール樹脂としては、アクリルポリオール樹脂(メタアクリル酸エステル類を重合させた側鎖にヒドロキシ基をもつポリマー)を好ましく採用することができるが、これに限られるものではなく、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオールなど他のポリオール樹脂を用いることができ、或いは種類の異なるポリオール樹脂を混合して用いることができる。また、ポリオール樹脂と他の塗膜形成樹脂とを混合して用いることができる。硬化剤としては、例えばメラミン樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート系硬化剤などが挙げられる。顔料分散性や作業性の点から、例えば、アクリルポリオール樹脂及び/又はポリエステルポリオール樹脂と、メラミン樹脂および/またはブロックイソシアネート樹脂とを組み合わせることが好ましい。
【0031】
有機溶剤の例としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、芳香族石油系溶剤等が挙げられる。
【0032】
ベース塗料には、必要に応じて、顔料類、非水分散樹脂、ポリマー微粒子、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、塗面調整剤、酸化防止剤、流動性調整剤、ワックス等を適宜含有することができる。
【0033】
ベース塗膜3の乾燥膜厚は、例えば10μm以上35μm以下に設定することができ、好ましくは15μm以上25μm以下である。ベース塗膜3の膜厚が厚くなると、鮮映性が低下したり、塗膜にムラまたは流れが生じることがあり、その膜厚が薄くなると、下地隠蔽性が不充分となり、膜切れ(塗膜が不連続な状態)が生じることがあるため、いずれも好ましくない。
【0034】
−クリヤ塗装−
2液ウレタンクリヤ塗料を、ベース塗膜3の上に、エアレススプレー、エアスプレー、回転霧化塗装機などにより塗装する。塗装の際、静電印加を行ってもよい。
【0035】
2液ウレタンクリヤ塗料は、ポリオール樹脂及び硬化剤としてのイソシアネートを含有する。例えば、水酸基含有アクリル樹脂及びポリイソシアネート化合物を含有する。水酸基含有アクリル樹脂の例としては、水酸基含有重合性不飽和モノマー、或いは他の重合性不飽和モノマーが挙げられ、水酸基含有重合性不飽和モノマーの例としては、多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物、該多価アルコールとアクリル酸又はメタクリル酸とのモノエステル化物にε−カプロラクトンを開環重合した化合物等が挙げられ、その他の重合性不飽和モノマーとしては、アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル、カルボキシル基含有重合性不飽和モノマー、アミノアルキルアクリレート、アミノアルキルメタアクリレート、アクリルアミド、メタアクリルアミド又はその誘導体、第4級アンモニウム塩基含有モノマー、多ビニル化合物、紫外線吸収性もしくは紫外線安定性重合性不飽和モノマーなどが挙げられる。
【0036】
ポリイソシアネート化合物の例としては、脂肪族ジイソシアネート類、環状脂肪族ジイソシアネート類、芳香族ジイソシアネート類、有機ポリイソシアネートそれ自体、有機ポリイソシアネート同士の環化重合体、イソシアネート・ビウレット体等が挙げられる。
【0037】
このクリヤ塗装においては、ベース塗膜3に塗着したときの2液ウレタンクリヤ塗料の溶剤量が20質量%以下になるようにする。すなわち、本発明の課題の一つは、クリヤ塗膜4からイソシアネート(硬化剤)がベース塗膜3に移行することを抑制し、塗膜仕上がり性を良くすることにあり、その移行は、クリヤ塗膜4の有機溶剤がベース塗膜3のポリオール樹脂を溶かすことによって生ずる。上記移行を防止するために、2液ウレタンクリヤ塗料の溶剤量を上述の如く少なくし、該溶剤によるベース塗膜のポリオール樹脂の溶解を軽度にするものである。
【0038】
有機溶剤の例としては、炭化水素系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、芳香族石油系溶剤等が挙げられる。
【0039】
クリヤ塗料には、必要に応じて、顔料類、非水分散樹脂、ポリマー微粒子、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、塗面調整剤、酸化防止剤、流動性調整剤、ワックス等を適宜含有することができる。
【0040】
上記ベース塗膜3及びクリヤ塗膜の同時焼付け硬化に関し、その焼付け温度は例えば60℃〜140℃、焼付け時間は例えば10分〜40分とすればよい。
【0041】
<実施例及び比較例>
−ベース塗料用アクリル樹脂Aの調製−
攪拌装置、温度計、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた四つ口フラスコに、キシレン85部及びn−ブタノール15部を仕込み(なお、「部」は「質量部」を意味する。以下、同じ。)、125℃に昇温し、同温度にてモノマーと重合開始剤とを含むモノマー混合物(スチレン5部、エチルアクリレート10部、n−ブチルメタクリレート53部、2−エチルヘキシルメタクリレート30部、アクリル酸2部及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.5部)を4時間かけて滴下した。その滴下が終了した後、125℃の温度に約1時間保持した。次いで、追加触媒(t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)0.5部とキシレン10部との混合溶液を1時間かけて滴下した。その滴下が終了した後、125℃の温度に約2時間保持して、質量平均分子量30000、固形分48質量%のアクリル樹脂Aを得た。アクリル樹脂Aはエバポレータで脱溶剤した。
【0042】
−クリヤ塗料用アクリル樹脂Bの調製−
攪拌装置、温度計、冷却管及び窒素ガス導入口を備えた四つ口フラスコに、キシレン60部及び酢酸ブチル10部を仕込み、125℃に昇温し、同温度にてモノマーと重合開始剤とを含むモノマー混合物(スチレン30部、2−エチルヘキシルメタクリレート10部、n−ブチルメタクリレート8.4部、イソボルニルアクリレート20部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート30.9部、無水コハク酸0.7部及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート6部)を4時間かけて滴下した。その滴下が終了した後、125℃の温度に約1時間保持した。次いで、追加触媒(t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート)0.5部と酢酸ブチル10部との混合溶液を1時間かけて滴下した。その滴下が終了した後、125℃の温度に約2時間保持して、質量平均分子量9000、水酸基価131、酸価5,固形分60質量%のアクリル樹脂Bを得た。アクリル樹脂Bはエバポレータで脱溶剤した。
【0043】
−ベース塗料の調製−
上記アクリル樹脂A80部、メラミン樹脂(三井東圧化学社製ユーバン28−60)20部、及びアルミペースト(東洋アルミニウム社製#1260MS)10部を混合溶剤(キシレン:酢酸エチル=1:1(質量比))に混合分散させて、固形分25質量%のメタリック塗料を得た。この塗料中の樹脂組成物のSP値は9.5であった。このSP値は、簡便な実測方法である濁点滴定法により、K.W.SUH、J.M.CORBETTの式(Journal of Applied PolymerScience,12.2359,1968)に準じて計算した。使用した溶剤のSP値はアセトン;9.75、n−ヘキサン;7.24、脱イオン水;23.43である。
【0044】
−クリヤ塗料の調製−
上記アクリル樹脂B60部、デスモジュールN−3300(住友バイエルウレタン社製のヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート体,NCO;21.5質量%)27.4部及びジブチルチンジラウレート0.01部を、No.4フォードカップで20秒/20℃の粘度になるように溶剤で希釈調整してクリヤ塗料を得た。溶剤は、表1の実施例1〜7及び比較例1〜6に示すように、酢酸エチルと他の溶剤との混合溶剤とした。すなわち、実施例1〜7及び比較例1〜6はクリヤ塗料の溶剤が相違する。表1に示す溶剤SPは、酢酸エチル以外の各溶剤単独のSP値である。酢酸エチルは揮発温度が低く、クリヤ塗料がベース塗膜に塗着した段階ではクリヤ塗膜には残存しない。
【0045】
−試験片の作製−
ダル鋼板にカチオン電着塗料PN−1020(日本ペイント社製)を乾燥膜厚が20μmとなるように塗装し、その電着塗膜を160℃で30分間焼付けて硬化させた。次いで上記ベース塗料を上記電着塗膜の上に、ABB社製G1コーペスV3(ベル径;70mmφ)を用いて、下記条件により2ステージでレシプロ塗装することにより、ベース塗膜を形成した。乾燥膜厚は15μmとなるように線速で調整し、ベース塗膜表面の平滑性はベル回転数で調整した。
【0046】
[条件]
・ベル回転数;20000〜30000rpm(調整)
・シェーピングエア流速;450NL/min
・印加電圧;−70kV
・ガン距離;250mm
・パスピッチ;70mm
・塗料流速;200cc/min
【0047】
ベース塗装後、室温に5分間放置し、しかる後、上記クリヤ塗料を上記ベース塗膜の上に、ABB社製μμベル(ベル径;50mmφ)を用いて、下記条件により1ステージでレシプロ塗装することにより、クリヤ塗膜を形成した(ウェットオンウェット)。乾燥膜厚は30μmとなるように線速で調整した。
【0048】
[条件]
・ベル回転数;30000rpm
・シェーピングエア流速;150NL/min
・印加電圧;−90kV
・ガン距離;250mm
・パスピッチ;120mm
・塗料流速;200cc/min
【0049】
そうして、10分間の室温放置後、ベース塗膜及びクリヤ塗膜を140℃で30分間焼付けて硬化させた。
【0050】
【表1】

【0051】
−塗膜評価−
実施例1〜7及び比較例1〜6各々について、クリヤ塗料がベース塗膜に塗着したときの該クリヤ塗料の溶剤量を調べた。すなわち、室温において、クリヤ塗料のみをアルミニウム箔に上記条件で塗布し、該クリヤ塗料の塗着から1分間を経過するまでに、そのクリヤ塗料が塗着したアルミニウム箔の重さを測定した。次いで、そのアルミニウム箔上のクリヤ塗料を加熱硬化させて(全溶剤を揮発させて)重さを測定した。そして、この加熱前と加熱後の重さの差に基いてクリヤ塗料中に含まれていた溶剤量を求め、これをベース塗膜に塗着したときのクリヤ塗料の溶剤量とした。
【0052】
実施例1〜7及び比較例1〜6各々のベース塗膜・クリヤ塗膜焼付け硬化後の塗膜仕上がり性を調べた。すなわち、BYK-Gardner社製WaveScan DOI(商品名)を用い、試験片を垂直にして塗装したときの塗膜表面のうねりの程度を構造スペクトルWa(0.1〜0.3mm)及びWd(3.0〜10.0mm)で測定した。その結果を表2に示す。測定値Waは塗膜の艶感を表している。Wdは塗膜の平滑性を表している。測定値Wa,Wdは共に数値が小さいほど仕上がり性が良好であるということができる。
【0053】
また、別に上記ダル鋼板の電着塗膜の上に上記条件でベース塗装のみを行ない、得られたベース塗膜の上記Wd値を測定した。
【0054】
結果を表1に示す。ベース塗膜に塗着したときのクリヤ塗料の溶剤量は、実施例1〜7ではいずれもが20質量%以下であるが、比較例1〜6では25質量%以上になっている。そして、仕上がり性のWa値をみると、実施例1〜7はいずれも比較例1〜6よりも小さく、Wd値も比較例1〜6と同等若しくはそれよりも小さくなっており、仕上がり性が良好であることがわかる。
【0055】
図2は比較例の説明図であり、ベース塗膜3に塗着したクリヤ塗膜4中に溶剤11が比較的多く存在する。そのため、ベース塗膜3の樹脂が溶解・軟化してクリヤ塗膜4のイソシアネート12がベース塗膜3に移行し、その結果、加熱焼付け時にベース塗膜3の硬化タイミングにバラツキを生じ、つまり、ベース塗膜3の表面側が先に硬化していき、仕上がり性が悪化していると認められる。
【0056】
図3は実施例の説明図であり、上述の如くベース塗膜3に塗着したクリヤ塗膜4中に溶剤11が少ない。そのため、ベース塗膜3の樹脂の溶解・軟化がそれほど進まず、クリヤ塗膜4のイソシアネート12のベース塗膜3側への移行が抑制され、ベース塗膜3全体が一様に硬化していき、仕上がり性が良好になっているものと認められる。
【0057】
また、実施例1〜7はいずれもクリヤ塗料の溶剤のSP値は9以下であり、このSP値が小さいことも、上記良好な仕上がり性に寄与していると推測される。この点は、比較例1,3,4から理解できる。すなわち、比較例2,3は、当該SP値が大きくなっている点で比較例1と相違するが、仕上がり性のWa値が比較例1よりも少し大きくなっている。これは、SP値の影響と認められる。
【0058】
また、実施例1〜7はいずれもベース塗膜のWd値が20以下であり、このWd値が小さいことにより、上述の如く溶剤量が少ないにも拘わらず、クリヤ塗料のフロー性が良くなって、良好な仕上がり性が得られていると認められる。すなわち、実施例6,7は、実施例1〜5に比べてベース塗膜のWd値が小さく、そのため、仕上がり性のWd値が実施例1〜5よりも小さくなっている。このベース塗膜のWd値の効果は、比較例3,5,6からも理解できる。すなわち、比較例5,6は、ベース塗膜のWd値が大きくなっている点で比較例3と相違するが、仕上がり性のWd値が比較例3よりもかなり大きくなっている。
【符号の説明】
【0059】
1 被塗物
2 電着塗膜
3 ベース塗膜
4 クリヤ塗膜
11 クリヤ塗膜の溶剤
12 クリヤ塗膜のイソシアネート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着塗膜が形成された被塗物の該電着塗膜の上に、ポリオール樹脂及び該ポリオール樹脂の水酸基と反応する硬化剤を含有する溶剤型ベース塗料を塗布し、その上にポリオール樹脂及びイソシアネートを含有する2液ウレタンクリヤ塗料をウェットオンウェットで塗布することによりベース塗膜及びクリヤ塗膜を形成し、該ベース塗膜及びクリヤ塗膜を同時に焼付け硬化させる複層塗膜形成方法において、
上記ベース塗膜に塗着したときの上記2液ウレタンクリヤ塗料の溶剤量が20質量%以下になるようにすることを特徴とする積層塗膜形成方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記溶剤型ベース塗料中に含まれる樹脂成分のSP値が9.5以上であり、上記ベース塗膜に塗着した2液ウレタンクリヤ塗料中の溶剤のSP値が9以下であることを特徴とする積層塗膜形成方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
上記電着塗膜への上記溶剤型ベース塗料の塗装は、焼付け硬化後のベース塗膜表面の、BYK-Gardner社製WaveScan DOI(商品名)による測定値Wdが20以下となるようにすることを特徴とする積層塗膜形成方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記被塗物は自動車の車体であることを特徴とする積層塗膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−200790(P2011−200790A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70166(P2010−70166)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】