説明

積層多孔質フィルム

【課題】より簡便な操作で、安価に製造することができ、しかも耐熱性が高く、耐候性に優れ、シャットダウン機能を有する積層多孔質フィルムを提供する。
【解決手段】耐熱樹脂を含有する耐熱多孔層と、熱可塑性樹脂を含有するシャットダウン層とが積層されてなり、遊離塩素含有量が1×102重量ppm以下である積層多孔質フィルム。耐熱樹脂が、液晶ポリエステルを含有する樹脂である前記の積層多孔質フィルム。耐熱多孔層が、さらにフィラーを含有する前記の積層多孔質フィルム。熱可塑性樹脂が、ポリエチレンである前記の積層多孔質フィルム。耐熱多孔層の厚みが、1μm以上10μm以下である前記の積層多孔質フィルム。耐熱多孔層が塗工された層である前記の積層多孔質フィルム。前記の積層多孔質フィルムからなるセパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層多孔質フィルムに関する。詳しくは、非水電解質二次電池に有用な積層多孔質フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
積層多孔質フィルムは、セパレータとして、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池などの非水電解質二次電池に用いられている。セパレータは、微細孔を有する多孔質フィルムからなる。非水電解質二次電池において、セパレータは、正極−負極間の短絡等が原因で電池内に異常電流が流れた際に、電流を遮断して、過大電流が流れることを阻止する機能(シャットダウン機能)を有することが重要であり、セパレータには、通常の使用温度を越えた場合に、できるだけ低温でシャットダウンする(多孔質フィルムの微細孔を閉塞する)こと、そしてシャットダウンした後、ある程度の高温まで電池内の温度が上昇しても、その温度により破膜することなく、シャットダウンした状態を維持すること、換言すれば、耐熱性が高いことが求められる。
【0003】
従来のセパレータとして、耐熱多孔層とポリオレフィン層とが積層されてなる積層多孔質フィルムからなるセパレータを挙げることができ、例えば、特許文献1には、パラアラミドをN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPということがある。)等の溶媒に溶解させ、さらにアルミナを分散させたドープを、ポリエチレン多孔質膜に塗工して得られる積層多孔質フィルムが記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2000−30686号公報(明細書段落[0114])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術においては、パラアラミドの溶媒への溶解を促進させるために、塩化カルシウムなどの塩化物が添加されている。しかしながら、当該添加により、後工程において、洗浄等、操作が複雑となり、また、溶媒を再利用し難くなるなど、課題がある。本発明の目的は、より簡便な操作で、安価に製造することができ、しかも耐熱性が高く、耐候性に優れ、シャットダウン機能を有する積層多孔質フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、本発明に至った。すなわち本発明は、以下の発明を提供する。
<1>耐熱樹脂を含有する耐熱多孔層と、熱可塑性樹脂を含有するシャットダウン層とが積層されてなり、遊離塩素含有量が1×102重量ppm以下である積層多孔質フィルム。
<2>耐熱樹脂が、液晶ポリエステルを含有する樹脂である前記<1>記載の積層多孔質フィルム。
<3>耐熱多孔層が、さらにフィラーを含有する前記<1>または<2>に記載の積層多孔質フィルム。
<4>熱可塑性樹脂が、ポリエチレンである前記<1>〜<3>のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
<5>耐熱多孔層の厚みが、1μm以上10μm以下である前記<1>〜<4>のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
<6>耐熱多孔層が塗工された層である前記<1>〜<5>のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
<7>前記<1>〜<6>のいずれかに記載の積層多孔質フィルムからなるセパレータ。
<8>前記<7>記載のセパレータを有する電池。
<9>前記<7>記載のセパレータを有するキャパシター。
【発明の効果】
【0007】
本発明の積層多孔質フィルムは、より簡便な操作で、安価に製造することができ、その製造の際には、NMPなどの使用溶媒を再利用し易いことから、環境負荷もより少ない。しかも、本発明によれば、耐熱性が高く、耐候性に優れ、シャットダウン機能を有する積層多孔質フィルムを提供することが可能であり、該フィルムは、非水電解質二次電池に極めて好適であり、また、キャパシターにも十分使用可能であり、本発明は工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、耐熱樹脂を含有する耐熱多孔層と、熱可塑性樹脂を含有するシャットダウン層とが積層されてなり、遊離塩素含有量が1×102重量ppm以下である積層多孔質フィルムを提供する。
【0009】
本発明の積層多孔質フィルムは、遊離塩素含有量が1×102重量ppm以下であり、遊離塩素含有量は、後述の測定方法により求める。遊離塩素含有量は、積層多孔質フィルムの耐候性をより良好にする意味で少なければ少ないほどよい。
【0010】
本発明において、シャットダウン層は、熱可塑性樹脂を含有する。シャットダウン層は、微細孔を有し、その孔のサイズ(直径)は通常3μm以下、好ましくは1μm以下である。シャットダウン層の空孔率は、通常30〜80体積%、好ましくは40〜70体積%である。非水電解質二次電池において、通常の使用温度を越えた場合には、シャットダウン層は、それを構成する熱可塑性樹脂の変形、軟化により、微細孔を閉塞する役割を果たす。
【0011】
本発明において、熱可塑性樹脂は、非水電解質二次電池において、その電解液に溶解しないものを選択すればよい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン、熱可塑性ポリウレタンを挙げることができ、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。より低温で軟化してシャットダウンさせる意味で、ポリエチレンが好ましい。ポリエチレンとして、具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状ポリエチレン等のポリエチレンを挙げることができ、超高分子量ポリエチレンを挙げることもできる。シャットダウン層の突刺し強度をより高める意味では、熱可塑性樹脂は、少なくとも超高分子量ポリエチレンを含有することが好ましい。また、シャットダウン層の製造面において、熱可塑性樹脂は、低分子量(重量平均分子量1万以下)のポリオレフィンからなるワックスを含有することが好ましい場合もある。
【0012】
本発明において、シャットダウン層の厚みは、通常、3μm以上30μm以下であり、さらに好ましくは5μm以上20μm以下である。本発明において、耐熱多孔層の厚みは、通常、1μm以上30μm以下であり、電池において、イオン透過性をより高める意味では、1μm以上10μm以下であることが好ましい。また、耐熱多孔層の厚みをTA(μm)、シャットダウン層の厚みをTB(μm)としたときには、TA/TBの値が、0.1以上1以下であることが好ましい。また、本発明において、積層多孔質フィルムの厚みとしては、耐熱多孔層およびシャットダウン層がそれぞれ1層ずつである場合には、5μm以上30μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以上20μm以下である。
【0013】
本発明において、シャットダウンする温度は、上述の熱可塑性樹脂の軟化する温度、シャットダウン層の厚み、シャットダウン層の孔のサイズに依存し、通常170℃以下であり、好ましくは140℃以下、より好ましくは135℃以下である。また、シャットダウンする温度の下限は、通常、100℃程度である。熱可塑性樹脂の軟化する温度が低いほど、シャットダウン層の厚みが厚いほど、シャットダウン層の孔のサイズが小さいほど、シャットダウンする温度は低くなる傾向にある。
【0014】
また、本発明における耐熱多孔層は、微細孔を有し、その孔のサイズ(直径)は通常3μm以下、好ましくは1μm以下である。耐熱多孔層の空孔率は、通常30〜80体積%、好ましくは40〜70体積%である。
【0015】
本発明において、耐熱多孔層は、耐熱樹脂を含有する。本発明において、耐熱樹脂は、シャットダウン層に含有される熱可塑性樹脂とは異なる樹脂であり、具体的には、芳香族ポリアミド(パラアラミド、メタアラミド)、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミドイミド、液晶ポリエステルを挙げることができるが、本発明の効果をより高める意味で好ましいのは、液晶ポリエステルである。
【0016】
前記のパラアラミドは、パラ配向芳香族ジアミンとパラ配向芳香族ジカルボン酸ハライドの縮合重合により得られるものであり、アミド結合が芳香族環のパラ位またはそれに準じた配向位(例えば、4,4’−ビフェニレン、1,5−ナフタレン、2,6−ナフタレン等のような反対方向に同軸または平行に延びる配向位)で結合される繰り返し単位から実質的になるものである。具体的には、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロ−パラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体等のパラ配向型またはパラ配向型に準じた構造を有するパラアラミドが例示される。
【0017】
前記の芳香族ポリイミドとしては、芳香族の二酸無水物とジアミンの縮重合で製造される全芳香族ポリイミドが好ましい。該二酸無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’−ビス(3,4―ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物などがあげられる。該ジアミンの具体例としては、オキシジアニリン、パラフェニレンジアミン、ベンゾフェノンジアミン、3,3’−メチレンジアニリン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォン、1,5’−ナフタレンジアミンなどがあげられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。本発明においては、溶媒に可溶なポリイミドが好適に使用できる。このようなポリイミドとしては、例えば、3,3’,4,4’−ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物と、芳香族ジアミンとの重縮合物のポリイミドがあげられる。
【0018】
前記の芳香族ポリアミドイミドとしては、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるもの、芳香族二酸無水物および芳香族ジイソシアネートを用いてこれらの縮合重合から得られるものが挙げられる。芳香族ジカルボン酸の具体例としてはイソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられる。また芳香族二酸無水物の具体例としては無水トリメリット酸などが挙げられる。芳香族ジイソシアネートの具体例としては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、オルソトリランジイソシアネート、m−キシレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0019】
以下、本発明における液晶ポリエステルについて述べる。液晶ポリエステルとしては、例えば、
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、および芳香族ジオールを重合させて得られるもの、
(2)同種または異種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させて得られるもの、
(3)芳香族ジカルボン酸および芳香族ジオールを重合させて得られるもの、
(4)ポリエチレンテレフタレートなどの結晶性ポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させて得られるもの、
(5)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミンを重合させて得られるもの、
(6)芳香族ジカルボン酸およびフェノール性水酸基を有する芳香族アミンを重合させて得られるもの、
(7)芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、および芳香族ジアミンを重合させて得られるもの、
などが挙げられる。本発明においては、上記(5)、(6)または(7)の液晶ポリエステルを用いると、得られる積層多孔質フィルムが、より耐熱性に優れ、好ましい。
【0020】
なお、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールおよびフェノール性水酸基を有する芳香族アミンの代わりに、それらのエステル形成性誘導体もしくはアミド形成性誘導体を使用してもよい。
【0021】
ここで、カルボン酸のエステル形成性誘導体もしくはアミド形成性誘導体としては、例えば、カルボキシル基が、ポリエステル生成反応もしくはポリアミド生成反応を促進するような酸塩化物、酸無水物などの反応性が高い誘導体となっているもの、カルボキシル基が、エステル交換反応もしくはアミド交換反応によりポリエステルもしくはポリアミドを生成するようなアルコール類やエチレングリコール、アミンなどとエステルもしくはアミドを形成しているものなどが挙げられる。
【0022】
また、フェノール性水酸基のエステル形成性誘導体としては、例えば、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、フェノール性水酸基がカルボン酸類とエステルを形成しているものなどが挙げられる。
【0023】
さらに、アミノ基のアミド形成性誘導体としては、例えば、アミド交換反応によりポリアミドを生成するようなカルボン酸類とアミドを形成しているものなどが挙げられる。
【0024】
また、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールおよびフェノール性水酸基を有する芳香族アミン、芳香族ジアミンは、エステル形成性もしくはアミド形成性を阻害しない程度であれば、メチル基、エチル基などのアルキル基、フェニル基などのアリール基などで置換されていてもよい。
【0025】
上記(A)液晶ポリエステルの繰り返し構造単位としては、下記のものを例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰り返し構造単位:

【0027】
上記の繰り返し構造単位は、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【0028】
芳香族ジカルボン酸に由来する繰り返し構造単位:

【0029】
上記の繰り返し構造単位は、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【0030】
芳香族ジオールに由来する繰り返し構造単位:

【0031】
上記の繰り返し構造単位は、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【0032】
フェノール性水酸基を有する芳香族アミンに由来する繰り返し構造単位:

【0033】
上記の繰り返し構造単位は、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【0034】
芳香族ジアミンに由来する繰り返し構造単位:

【0035】

【0036】
上記の繰り返し構造単位は、アルキル基またはアリール基で置換されていてもよい。
【0037】
なお、繰り返し構造単位に置換されていてもよいアルキル基としては、例えば炭素数1〜10のアルキル基が通常用いられ、中でもメチル基、エチル基、プロピル基またはブチル基が好ましい。繰り返し構造単位に置換されていてもよいアリール基としては、例えば炭素数6〜20のアリール基が通常用いられ、中でもフェニル基が好ましい。
【0038】
本発明の積層多孔質フィルムの耐熱性をより高める意味で、(A)液晶ポリエステルは、前記(A1)、(A3)、(B1)、(B2)または(B3)式で表される繰り返し単位を含むことが好ましい。
【0039】
ここで前記繰り返し単位を含む構造単位の好ましい組み合わせとしては、例えば、下記(a)〜(d)が挙げられる。
(a):
前記繰り返し構造単位(A1)、(B2)および(D1)の組み合わせ、
前記繰り返し構造単位(A3)、(B2)および(D1)の組み合わせ、
前記繰り返し構造単位(A1)、(B1)、(B2)および(D1)の組み合わせ、
前記繰り返し構造単位(A3)、(B1)、(B2)および(D1)の組み合わせ、
前記繰り返し構造単位(A3)、(B3)および(D1)の組み合わせ、または、
前記繰り返し構造単位(B1)、(B2)または(B3)および(D1)の組み合わせ。
(b):前記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(D1)の一部または全部を(D2)に置換した組み合わせ。
(c):前記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(A1)の一部を(A3)に置換した組み合わせ。
(d):前記(a)の組み合わせのそれぞれにおいて、(D1)の一部または全部を(E1)または(E5)に置換した組み合わせ。
【0040】
さらに好ましい組み合わせとしては、p−ヒドロキシ安息香酸および2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し構造単位30〜80モル%、4−ヒドロキシアニリンおよび4,4’−ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し構造単位10〜35モル%、テレフタル酸およびイソフタル酸からなる群から選ばれた少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し構造単位10〜35モル%からなることがより好ましく、更には、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸に由来する繰り返し構造単位30〜80モル%、4−ヒドロキシアニリンに由来する繰り返し構造単位10〜35モル%、イソフタル酸に由来する繰り返し構造単位10〜35モル%からなることが特に好ましい。
【0041】
また、液晶ポリエステルの重量平均分子量は、特に限定されないが、通常5000〜500000程度、好ましくは100000〜500000程度である。
【0042】
本発明において、液晶ポリエステルの製造方法は、特に限定されないが、例えば、芳香族ヒドロキシカルボン酸や芳香族ジオール、フェノール性水酸基を有する芳香族アミン、芳香族ジアミンを過剰量の脂肪酸無水物によりアシル化して(アシル化反応)、アシル化物を得、得られたアシル化物と、芳香族ヒドロキシカルボン酸および/または芳香族ジカルボン酸とをエステル交換・アミド交換することにより重合する方法が挙げられる。
【0043】
アシル化反応においては、脂肪酸無水物の添加量がフェノール性水酸基とアミノ基の総計の1.0〜1.2倍当量であることが好ましく、より好ましくは1.05〜1.1倍当量である。脂肪酸無水物の添加量が少ないと、エステル交換・アミド交換による重合時にアシル化物や芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸などが昇華し、反応装置の配管等が閉塞し易い傾向があり、また、脂肪酸無水物の添加量が多すぎると、得られる液晶ポリエステルの着色が著しくなる可能性がある。
【0044】
アシル化反応は、130〜180℃で5分間〜10時間反応させることが好ましく、140〜160℃で10分間〜3時間反応させることがより好ましい。
【0045】
アシル化反応に使用される脂肪酸無水物は、特に限定されないが、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水イソ酪酸、無水吉草酸、無水ピバル酸、無水2エチルヘキサン酸、無水モノクロル酢酸、無水ジクロル酢酸、無水トリクロル酢酸、無水モノブロモ酢酸、無水ジブロモ酢酸、無水トリブロモ酢酸、無水モノフルオロ酢酸、無水ジフルオロ酢酸、無水トリフルオロ酢酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水β−ブロモプロピオン酸などが挙げられ、これらは2種類以上を混合して用いてもよい。価格と操作性の観点から、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、または無水イソ酪酸が好ましく、より好ましくは、無水酢酸である。
【0046】
エステル交換・アミド交換による重合においては、アシル化物のアシル基がカルボキシル基の0.8〜1.2倍当量であることが好ましい。また重合温度は、400℃以下で行うことが好ましく、さらに好ましくは350℃以下である。また、昇温時の昇温速度は、0.1〜50℃/分であることが好ましく、さらに好ましくは0.3〜5℃/分である。また、この際、平衡を移動させるため、副生する脂肪酸と未反応の脂肪酸無水物は、蒸発させるなどして系外へ留去することが好ましい。
【0047】
なお、アシル化反応、エステル交換・アミド交換による重合は、触媒の存在下に行ってもよい。前記触媒としては、従来からポリエステルの重合用触媒として公知のものを使用することができ、例えば、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属塩触媒、N,N−ジメチルアミノピリジン、N−メチルイミダゾールなどの有機化合物触媒などを挙げることができる。触媒は、通常、アシル化反応時に存在させ、アシル化反応後も除去することは必ずしも必要ではない。アシル化反応後に、前記触媒を除去しない場合にはそのまま次の処理(エステル交換・アミド交換による重合)を行うことができる。また当該処理を行うときに、前記のような触媒をさらに添加してもよい。
【0048】
エステル交換・アミド交換による重合は、通常、溶融重合により行われるが、溶融重合と固相重合とを併用してもよい。固相重合は、溶融重合工程からポリマーを抜き出し、固化後、粉砕してパウダー状もしくはフレーク状にした後、公知の固相重合方法により行うことができる。具体的には、例えば、窒素などの不活性雰囲気下、20〜350℃で、1〜30時間固相状態で熱処理する方法などが挙げられる。固相重合は、攪拌しながらでも、攪拌することなく静置した状態で行ってもよい。なお適当な攪拌機構を備えることにより溶融重合槽と固相重合槽とを同一の反応槽とすることもできる。固相重合後、得られた液晶ポリエステルは、公知の方法によりペレット化して使用してもよい。
【0049】
液晶ポリエステルの製造は、例えば、回分装置、連続装置等を用いて行うことができ、上記のようにして液晶ポリエステルを製造することができる。
【0050】
本発明において、耐熱多孔層は、さらにフィラーを含有することが好ましい。本発明において、フィラーは、その材質として、有機粉末、無機粉末またはこれらの混合物のいずれから選ばれるものであってもよい。
【0051】
上記有機粉末としては、例えば、スチレン、ビニルケトン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、アクリル酸メチル等の単独あるいは2種類以上の共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合体、4フッ化エチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド等のフッ素系樹脂;メラミン樹脂;尿素樹脂;ポリオレフィン;ポリメタクリレート等の有機物からなる粉末が挙げられる。該有機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの有機粉末の中でも、化学的安定性の点で、ポリテトラフルオロエチレン粉末が好ましい。
【0052】
上記の無機粉末としては、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、炭酸塩、硫酸塩等の無機物からなる粉末が挙げられ、具体的に例示すると、アルミナ、シリカ、二酸化チタン、または炭酸カルシウム等からなる粉末が挙げられる。該無機粉末は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いることもできる。これらの無機粉末の中でも、化学的安定性の点で、アルミナ粉末が好ましい。ここで、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子であることがより好ましく、さらにより好ましいのは、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子であり、その一部または全部が略球状のアルミナ粒子である実施形態である。尚、本発明において、略球状のアルミナ粒子は、真球状粒子を含むものである。
【0053】
本発明において、耐熱多孔層におけるフィラーの含有量としては、フィラーの材質の比重にもよるが、例えば、フィラーを構成する粒子のすべてがアルミナ粒子である場合には、耐熱多孔層の総重量を100としたとき、フィラーの重量は、通常20以上95以下、好ましくは30重量%以上90重量%以下である。これらの範囲は、フィラーの材質の比重により、適宜設定できる。
【0054】
本発明におけるフィラーの形状については、略球状、板状、柱状、針状、ウィスカー状、繊維状等が挙げられ、いずれの粒子も用いることができるが、均一な孔を形成しやすいことから、略球状粒子であることが好ましい。また、耐熱多孔層の強度特性および平滑性の観点から、フィラーを構成する粒子の平均粒子径としては、0.01μm以上1μm以下であることが好ましい。ここで、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡写真から測定される値を用いる。具体的には、該写真に撮影されている粒子から任意に50個抽出し、それぞれの粒子径を測定して、その平均値を用いる。
【0055】
本発明の積層多孔質フィルムにおいては、イオン透過性との観点から、ガーレー法による透気度において、透気度が50〜1000秒/100ccであることが好ましく、50〜500秒/100ccであることがさらに好ましい。
【0056】
本発明の積層多孔質フィルムは、リチウムイオン二次電池、リチウムポリマー二次電池などの非水電解質二次電池用セパレータとして特に有用であるが、水系電解質二次電池用、非水電解質一次電池用、キャパシター用としても、十分使用可能である。
【0057】
次に、本発明の積層多孔質フィルムの製造方法について説明する。
まず、シャットダウン層の製造方法について説明する。本発明におけるシャットダウン層の製造方法は特に限定されるものではなく、例えば特開平7−29563号公報に記載されたように、熱可塑性樹脂に可塑剤を加えてフィルム成形した後、該可塑剤を適当な溶媒で除去する方法や、特開平7−304110号公報に記載されたように、公知の方法により製造した熱可塑性樹脂からなるフィルムを用い、該フィルムの構造的に弱い非晶部分を選択的に延伸して微細孔を形成する方法が挙げられる。本発明におけるシャットダウン層が、超高分子量ポリエチレンおよび重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィンを含むポリオレフィン系樹脂から形成されてなる場合には、製造コストの観点から、以下に示すような方法により製造することが好ましい。すなわち、
(1)超高分子量ポリエチレン100重量部と、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィン5〜200重量部と、無機充填剤100〜400重量部とを混練してポリオレフィン系樹脂組成物を得る工程
(2)前記ポリオレフィン系樹脂組成物を用いてシートを成形する工程
(3)工程(2)で得られたシート中から無機充填剤を除去する工程
(4)工程(3)で得られたシートを延伸してシャットダウン層とする工程
を含む方法、または
(1)超高分子量ポリエチレン100重量部と、重量平均分子量1万以下の低分子量ポリオレフィン5〜200重量部と、無機充填剤100〜400重量部とを混練してポリオレフィン系樹脂組成物を得る工程
(2)前記ポリオレフィン系樹脂組成物を用いてシートを成形する工程
(3)工程(2)で得られたシートを延伸する工程
(4)工程(3)で得られた延伸シート中から、無機充填剤(C)を除去してシャットダウン層とする工程
を含む方法である。得られるシャットダウン層と耐熱多孔層とを積層した本発明の積層多孔質フィルムのシャットダウン温度をより低くすることができる観点から、前者の方法、すなわちシート中の無機充填剤を除去した後延伸する方法が好ましい。
【0058】
シャットダウン層の強度およびイオン透過性の観点から、用いる無機充填剤は、平均粒子径(直径)が0.5μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることがさらに好ましい。ここで、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡写真から測定される値を用いる。具体的には、該写真に撮影されている無機充填剤粒子から任意に50個抽出し、それぞれの粒子径を測定して、その平均値を用いる。
【0059】
無機充填剤としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、酸化亜鉛、酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、硫酸カルシウム、珪酸、酸化亜鉛、硫酸マグネシウムなどが挙げられる。これらの無機充填剤は酸、あるいはアルカリ溶液によりシートまたはフィルム中から除去することができる。微細な粒子径のものが入手しやすいことから、本発明では炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
【0060】
上記ポリオレフィン系樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、ポリオレフィン系樹脂や無機充填剤等のポリオレフィン系樹脂組成物を構成する材料を混合装置、例えばロール、バンバリーミキサー、一軸押出機、二軸押出機などを用いて混合し、ポリオレフィン系樹脂組成物を得る。材料を混合する際に、必要に応じて脂肪酸エステルや安定化剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤等の添加剤を添加してもよい。
【0061】
上記ポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートの製造方法は特に限定されるものではなく、インフレーション加工、カレンダー加工、Tダイ押出加工、スカイフ法等のシート成形方法により製造することができる。より膜厚精度の高いシートが得られることから、下記の方法により製造することが好ましい。
【0062】
ポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートの好ましい製造方法とは、ポリオレフィン系樹脂組成物に含有されるポリオレフィン系樹脂の融点より高い表面温度に調整された一対の回転成形工具を用いて、ポリオレフィン系樹脂組成物を圧延成形する方法である。回転成形工具の表面温度は、(融点+5)℃以上であることが好ましい。また表面温度の上限は、(融点+30)℃以下であることが好ましく、(融点+20)℃以下であることがさらに好ましい。一対の回転成形工具としては、ロールやベルトが挙げられる。両回転成形工具の周速度は必ずしも厳密に同一周速度である必要はなく、それらの差異が±5%以内程度であればよい。このような方法により得られるシートを用いてシャットダウン層を製造することにより、強度やイオン透過、透気性などに優れるシャットダウン層を得ることができる。また、前記したような方法により得られる単層のシート同士を積層したものを、シャットダウン層の製造に使用してもよい。
【0063】
ポリオレフィン系樹脂組成物を一対の回転成形工具により圧延成形する際には、押出機よりストランド状に吐出したポリオレフィン系樹脂組成物を直接一対の回転成形工具間に導入してもよく、一旦ペレット化したポリオレフィン系樹脂組成物を用いてもよい。
【0064】
ポリオレフィン系樹脂組成物からなるシートまたは該シートから無機充填剤を除去したシートを延伸する際には、テンター、ロールあるいはオートグラフ等を用いることができる。透気性の面から延伸倍率は2〜12倍が好ましく、より好ましくは4〜10倍である。延伸温度は通常、ポリオレフィン系樹脂の軟化点以上融点以下の温度で行われ、80〜115℃で行うことが好ましい。延伸温度が低すぎると延伸時に破膜しやすくなり、高すぎると得られるフィルムの透気性やイオン透過性が低くなることがある。また延伸後はヒートセットを行うことが好ましい。ヒートセット温度はポリオレフィン系樹脂の融点未満の温度であることが好ましい。
【0065】
前記のようにして、熱可塑性樹脂を含有するシャットダウン層を得ることができる。本発明においては、熱可塑性樹脂を含有するシャットダウン層と、耐熱多孔層とを積層して、積層多孔質フィルムを得る。耐熱多孔層はシャットダウン層の片面に設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。
【0066】
シャットダウン層と耐熱多孔層とを積層する方法としては、耐熱多孔層とシャットダウン層とを別々に製造してそれぞれを積層する方法、シャットダウン層の少なくとも片面に、耐熱樹脂を含有する塗工液を塗工して耐熱多孔層を形成する方法等が挙げられる。本発明においては、その生産性から、耐熱多孔層は塗工された層であることが好ましく、すなわち後者の方法が好ましい。シャットダウン層の少なくとも片面に、耐熱樹脂を含有する塗工液を塗工して耐熱多孔層を形成する方法としては、以下の工程(a)〜(c)を含む方法が好ましい。
【0067】
(a)耐熱樹脂100重量部を溶媒に溶解させた溶液に、該耐熱樹脂100重量部に対しフィラーを1〜1500重量部分散したスラリー状塗工液を調製する。
(b)該塗工液をシャットダウン層の少なくとも片面に塗工し、塗工膜を形成する。
(c)該塗工膜において、溶媒の除去、耐熱樹脂を溶解しない溶媒への浸漬、乾燥、を順次行い、耐熱多孔層を得る。
【0068】
工程(a)において、溶媒としては、極性アミド系溶媒または極性尿素系溶媒を用いることが好ましく、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、テトラメチルウレアを挙げることができる。これらの溶媒への溶解度の観点から、耐熱樹脂としては、窒素原子を含む液晶ポリエステルであることが好ましい。この場合、耐熱樹脂の溶媒への溶解を促進させるために、塩化カルシウムなどの塩化物を添加することを必要とはしない。
【0069】
工程(a)において、耐熱樹脂が窒素原子を含む液晶ポリエステルである場合、溶媒の液晶ポリエステルに対する使用量としては、適宜選択することができるが、通常、溶媒100重量部に対して液晶ポリエステル0.01〜100重量部を使用する。液晶ポリエステルが0.01重量部未満であると、得られる耐熱多孔層の厚みが均一とならない傾向がある。また、液晶ポリエステルが100重量部を超えると、溶解し難くなることがある。操作性や経済性の観点から、溶媒100重量部に対して、液晶ポリエステルが0.5〜50重量部であることが好ましく、1〜20重量部であることがより好ましい。
【0070】
工程(a)において、フィラーとしては、上述のものを挙げることができる。フィラーを分散させてスラリー状塗工液を得る方法としては、その装置として、圧力式分散機(ゴーリンホモジナイザー、ナノマイザー)等を用いればよい。
【0071】
工程(b)において、スラリー状塗工液を塗工する方法としては、例えばナイフ、ブレード、バー、グラビア、ダイ等の塗工方法があげられ、バー、ナイフ等の塗工が簡便であるが、工業的には、溶液が外気と接触しない構造のダイ塗工が好ましい。また、塗工は2回以上行う場合もある。塗工は、特開2001−316006号公報に記載の塗工装置および特開2001−23602号公報に記載の方法により連続的に行うことが好ましい。
【0072】
工程(c)において、溶媒を除去する方法としては、通常、溶媒を蒸発させる方法により行う。溶媒を蒸発させる方法としては、加熱、減圧、通風などの方法が挙げられるが、中でも生産効率、操作性の点から加熱して蒸発させることが好ましく、通風しつつ加熱して蒸発させることがより好ましい。
【0073】
工程(c)において、耐熱樹脂を溶解しない溶媒としては、水、アルコールを挙げることができる。この浸漬は、得られる耐熱多孔層の洗浄も兼ねる。また、この浸漬後、加熱、減圧、通風などの方法により、乾燥を行い、耐熱多孔層を得る。
【0074】
また、前記の耐熱多孔層とシャットダウン層とを別々に製造してそれぞれを積層する場合においては、熱融着による方法を挙げることができる。耐熱多孔層を単独で製造するには、例えば、特開2001−342282号公報の記載の手法によればよい。
【0075】
次に、本発明の積層多孔質フィルムをセパレータとして有する電池について、該電池の例として、非水電解質二次電池の代表例であるリチウムイオン二次電池を挙げて説明する。
【0076】
リチウムイオン二次電池の製造には、公知の技術を使用でき、例えば、正極集電体に正極用電極合剤が塗布されてなる正極シート、負極集電体に負極用電極合剤が塗布されてなる負極シートおよびセパレータを積層して巻回することにより得られる電極群を、電池缶などの容器内に収納した後、電解質が有機溶媒に溶解されてなる電解液を含浸させて製造することができる。ここで、本発明の積層多孔質フィルムにおける耐熱多孔層は、正極シート、負極シートのいずれに接していてもよい。耐熱多孔層が、シャットダウン層の両面に設けられている場合には、2つの耐熱多孔層は、正極シートおよび負極シートのそれぞれに接することができる。
【0077】
前記の電極群の形状としては、例えば、該電極群を巻回の軸と垂直方向に切断したときの断面が、円、楕円、長方形、角がとれたような長方形等となるような形状を挙げることができる。また、電池の形状としては、例えば、ペーパー型、コイン型、円筒型、角型などの形状を挙げることができる。
【0078】
前記の正極シートとしては、通常、正極活物質、導電剤および結着剤を含む正極用電極合剤を正極集電体に塗布したものを用いる。正極用電極合剤としては、正極活物質としてリチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料を含み、導電剤として炭素材料を含み、結着剤として熱可塑性樹脂を含むものが好ましい。
【0079】
前記正極活物質としては、具体的にはV、Mn、Fe、Co、Ni、CrおよびTiから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素と、Li、Naなどのアルカリ金属元素とを含有する金属複合酸化物が挙げられ、好ましくはα−NaFeO2型構造を母体とする複合酸化物が挙げられ、平均放電電位が高いという点で、より好ましくはコバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、ニッケル酸リチウムのニッケルの一部をMn、Co等の他元素と置換されてなる複合酸化物を挙げることができる。また、リチウムマンガンスピネルなどのスピネル型構造を母体とする複合酸化物を挙げることもできる。
【0080】
前記結着剤としては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、ポリビニリデンフロライド、ビニリデンフロライドの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフロロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、ビニリデンフロライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを挙げることができる。
【0081】
前記導電剤としては、炭素材料を挙げることができ、具体的には天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラックなどを挙げることができ、これらの2種以上を混合して用いてもよい。
【0082】
前記正極集電体としては、Al、ステンレスなどを挙げることができ、軽量、安価、加工の容易性の観点でAlが好ましい。
正極集電体に前記の正極用電極合剤を塗布する方法としては、加圧成型による方法、溶媒などを用いて正極用電極合剤をペースト化し正極集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法等が挙げられる。
【0083】
前記の負極シートとしては、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料を含む負極用電極合剤を集電体に塗布したもの、リチウム金属、またはリチウム合金などを用いることができ、リチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料としては、具体的には、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維、有機高分子化合物焼成体などの炭素材料が挙げられ、正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行うことができる酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物を用いることもできる。炭素材料としては、電位平坦性が高い点、平均放電電位が低い点などから、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛を主成分とする炭素材料が好ましい。炭素材料の形状としては、例えば天然黒鉛のような薄片状、メソカーボンマイクロビーズのような球状、黒鉛化炭素繊維のような繊維状、または微粉末の凝集体などのいずれでもよい。
前記の電解液が後述のエチレンカーボネートを含有しない場合において、ポリエチレンカーボネートを含有した負極用電極合剤を用いると、得られる電池のサイクル特性と大電流放電特性が向上することがあり好ましい。
【0084】
上記の負極用電極合剤は、必要に応じて、結着剤を含有してもよい。結着剤としては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、ポリビニリデンフロライド、ポリビニリデンフロライドの共重合体、ビニリデンフロライド−ヘキサフロロプロピレン−テロラフロロエチレンの共重合体、熱可塑性ポリイミド、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレンなどを挙げることができる。
【0085】
負極用電極合剤に含有されるリチウムイオンをドープ・脱ドープ可能な材料として用いられる酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物としては、周期率表の13、14、15族の元素を主体とした結晶質または非晶質の酸化物、硫化物等のカルコゲン化合物が挙げられ、具体的には、スズ酸化物を主体とした非晶質化合物等が挙げられる。これらについても必要に応じて導電剤としての炭素材料、結着剤としての熱可塑性樹脂を添加することができる。
【0086】
前記負極シートに用いる負極集電体としては、Cu、Ni、ステンレスなどを挙げることができ、リチウムと合金を作り難い点、薄膜に加工しやすいという点で、Cuが好ましい。該負極集電体に負極用電極合剤を塗布する方法としては、正極の場合と同様であり、加圧成型による方法、溶媒などを用いてペースト化し集電体上に塗布、乾燥後プレスし圧着する方法等が挙げられる。
【0087】
前記の電解液としては、例えばリチウム塩を有機溶媒に溶解させた電解液を用いることができる。リチウム塩としては、LiClO4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LIBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiC(SO2CF33、Li210Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム塩、LiAlCl4などが挙げられ、これらの2種以上の混合物を使用してもよい。リチウム塩として、これらの中でもフッ素を含むLiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32およびLiC(SO2CF33からなる群から選ばれた少なくとも1種を含むものを用いることが好ましい。
【0088】
前記の電解液において、有機溶媒としては、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オン、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカーバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物、または上記の有機溶媒にさらにフッ素置換基を導入したものを用いることができるが、通常はこれらのうちの二種以上を混合して用いる。中でもカーボネート類を含む混合溶媒が好ましく、環状カーボネートと非環状カーボネート、または環状カーボネートとエーテル類の混合溶媒がさらに好ましい。環状カーボネートと非環状カーボネートの混合溶媒としては、動作温度範囲が広く、負荷特性に優れ、かつ負極の活物質として天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛材料を用いた場合でも難分解性であるという点で、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネートおよびエチルメチルカーボネートを含む混合溶媒が好ましい。また、特に優れた安全性向上効果が得られる点で、LiPF6等のフッ素を含むリチウム塩およびフッ素置換基を有する有機溶媒を含む電解液を用いることが好ましい。ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル等のフッ素置換基を有するエーテル類とジメチルカーボネートとを含む混合溶媒は、大電流放電特性にも優れており、さらに好ましい。
【0089】
上記の電解液の代わりに固体電解質を用いれば、リチウムポリマー二次電池となる。固体電解質としては、例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖もしくはポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物などの高分子電解質を用いることができる。また、高分子に非水電解質溶液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものを用いることもできる。またLi2S−SiS2、Li2S−GeS2、Li2S−P25、Li2S−B23などの硫化物電解質、またはLi2S−SiS2−Li3PO4、Li2S−SiS2−Li2SO4などの硫化物を含む無機化合物電解質を用いると、安全性をより高めることができることがある。
【0090】
次に、本発明の積層多孔質フィルムをセパレータとして有するキャパシターについて説明する。キャパシターは、例えば、特開2000−106327号公報に開示されているような公知の技術を使用することにより、製造することができる。
【0091】
キャパシターとしては電気二重層キャパシターを挙げることができ、該キャパシターは電極、セパレータ、及び電解液から構成され、電解液に溶解している電解質が電極に吸着され、電解質と電極との間に形成される界面(電気二重層)に電気エネルギーを貯蔵するキャパシターである。
【0092】
キャパシター用の電極には、炭素材料が用いられ、活性炭、カーボンブラック、ポリアセン等が使用でき、一般的にはヤシ殻などの原料を炭化、賦活することにより得られるミクロ孔(細孔直径は通常20Å以下)主体の細孔を有する活性炭が用いられる。活性炭の全細孔容積は、通常、0.95ml/g未満であり、好ましくは、0.5ml/g以上0.93ml/g以下である。全細孔容積が0.95ml/g未満であると単位体積あたりの静電容量が向上することから好ましい。また、活性炭は通常、50μm以下、好ましくは30μm以下、とりわけ好ましくは10μm以下の平均粒径に粉砕される。活性炭を微細に粉砕することにより電極の嵩密度が向上し、内部抵抗を低減させることができる。
また、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の金属分がほとんど含まれていない、すなわち、該金属分の含有量100ppm以下であるような活性炭は、該金属分による分極がなく、多くの電気二重層を与えることから、電極として好適に用いられる。通常、電極として成形しやすいように、電極には、さらに結合剤、導電剤などが含有される。なお、炭素材料は、導電剤としても作用することがある。
【0093】
電極の製造方法としては、通常、集電体の上に活性炭、結合剤、導電剤等を含む混合物を成形する。具体的には、例えば、活性炭、結合剤、導電剤等に溶剤を添加した混合スラリーを集電体に、ドクターブレード法などで塗布または浸漬し乾燥する方法、例えば、活性炭、結合剤、導電剤等に溶剤を添加して混練、成形し、乾燥して得たシートを集電体表面に導電性接着剤等を介して接合した後にプレスおよび熱処理乾燥する方法、例えば、活性炭、結合剤、導電剤及び液状潤滑剤等からなる混合物を集電体上に成形した後、液状潤滑剤を除去し、次いで、得られたシート状の成形物を一軸又は多軸方向に延伸処理する方法などが挙げられる。電極をシート状とする場合、その厚みは、50〜1000μm程度である。
【0094】
キャパシター用の電極に用いる前記の集電体の材料としては、例えば、ニッケル、アルミニウム、チタン、銅、金、銀、白金、アルミニウム合金、ステンレス等の金属、例えば、炭素材料、活性炭繊維にニッケル、アルミニウム、亜鉛、銅、スズ、鉛またはこれらの合金をプラズマ溶射、アーク溶射することによって形成されたもの、例えば、ゴム、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体(SEBS)など樹脂に導電剤を分散させた導電性フィルムなどが挙げられる。特に軽量で導電性に優れ、電気化学的に安定なアルミニウムが好ましい。
【0095】
キャパシター用の電極に用いる前記の導電剤としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、活性炭等の導電性カーボン;天然黒鉛、熱膨張黒鉛、鱗状黒鉛、膨張黒鉛等の黒鉛系導電剤;気相成長炭素繊維等の炭素繊維;アルミニウム、ニッケル、銅、銀、金、白金等の金属微粒子あるいは金属繊維;酸化ルテニウムあるいは酸化チタン等の導電性金属酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリアセン等の導電性高分子が挙げられる。少量で効果的に導電性が向上する点で、カーボンブラック、アセチレンブラック及びケッチェンブラックが特に好ましい。電極における導電剤の配合量は、活性炭100重量部に対し、通常、5〜50重量部程度、好ましくは、10〜30重量部程度である。
【0096】
キャパシター用の電極に用いる前記の結合剤としては、例えば、フッ素化合物の重合体が挙げられ、フッ素化合物としては、例えば、フッ素化アルキル(炭素数1〜18)(メタ)アクリレート、パーフルオロアルキル(メタ)アクリレート、パーフルオロアルキル置換アルキル(メタ)アクリレート、パーフルオロオキシアルキル(メタ)アクリレート、フッ素化アルキル(炭素数1〜18)クロトネート、フッ素化アルキル(炭素数1〜18)マレートおよびフマレート、フッ素化アルキル(炭素数1〜18)イタコネート、フッ素化アルキル置換オレフィン(炭素数2〜10程度、フッ素原子数1〜17程度)、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンなどが挙げられる。またそれ以外に、フッ素原子を含まないエチレン性二重結合を含む単量体の付加重合体、デンプン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロースなどの多糖類及びその誘導体;フェノール樹脂;メラミン樹脂;ポリウレタン樹脂;尿素樹脂:ポリイミド樹脂;ポリアミドイミド樹脂;石油ピッチ;石炭ピッチなどが挙げられる。結合剤としては、中でも、フッ素化合物の重合体が好ましく、とりわけ、テトラフルオロエチレンの重合体であるポリテトラフルオロエチレンが好ましい。結合剤として、複数種の結合剤を使用してもよい。電極における結合剤の配合量としては、活性炭100重量部に対し、通常、0.5〜30重量部程度、好ましくは2〜30重量部程度である。
【0097】
キャパシター用の電解液に溶解している電解質は、無機系電解質及び有機系電解質に大別される。無機系電解質としては、例えば、硫酸、塩酸、過塩素酸などの酸や、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化テトラアルキルアンモニウムなどの塩基、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどの塩などが挙げられる。無機系電解質としては、中でも、硫酸水溶液が、安定性に優れ、電気二重層キャパシターを構成する材料に対する腐食性が低いことから好ましい。無機系電解質の濃度は、通常、0.2〜5mol(電解質)/L(電解液)程度であり、好ましくは、1〜2mol(電解質)/L(電解液)程度である。濃度が0.2〜5mol/Lであると、電解液中のイオン伝導性を確保することができる。無機系電解質は、通常、水と混合して電解液として用いる。
【0098】
有機系電解質としては、例えば、BO33-、F-、PF6-、BF4-、AsF6-、SbF6-、ClO4-、AlF4-、AlCl4-、TaF6-、NbF6-、SiF62-、CN-、F(HF)n-(当該式中、nは1以上4以下の数値を表す)などの無機アニオンと後述する有機カチオンとの組み合わせ、後述する有機アニオンと有機カチオンとの組み合わせ、有機アニオンとリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、水素イオンなどの無機カチオンとの組み合わせが挙げられる。
【0099】
有機カチオンとは、カチオン性有機化合物であり、例えば、有機4級アンモニウムカチオン、有機4級ホスホニウムカチオンなどが挙げられる。有機4級アンモニウムカチオンとは、アルキル基(炭素数1〜20)、シクロアルキル基(炭素数6〜20)、アリール基(炭素数6〜20)及びアラルキル基(炭素数7〜20)からなる群から選ばれる炭化水素基を有している4級のアンモニウムカチオンであり、有機第4級ホスホニウムカチオンとは前記と同様の炭化水素基を有している4級のホスホニウムカチオンである。前記炭化水素基は、水酸基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシル基、エーテル基、アルデヒド基などを有していてもよい。有機カチオンとしては、中でも、有機4級アンモニウムカチオンが好ましく、中でも、イミダゾリウムカチオンが好ましく、とりわけ、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(EMI+)であると、単位体積あたりの静電容量が増加する傾向があることから好ましい。
【0100】
有機アニオンとは、置換基を有していてもよい炭化水素基を含むアニオンであり、例えば、N(SO2f2-、C(SO2f3-、RfCOO-、およびRfSO3-(Rfは炭素数1〜12のパーフルオロアルキル基を表す)からなる群より選ばれたアニオン、及び、次に示す有機酸(カルボン酸、有機スルホン酸、有機リン酸)又はフェノールから活性水素原子を除いたアニオンなどが挙げられる。アニオンとしては、無機アニオンが好ましく、とりわけ、BF4-、AsF6-、SbF6-が好ましく、中でもとりわけ、BF4-が、静電容量が向上する傾向があることから好ましい。
【0101】
電解液に含まれる有機極性溶媒としては、カーボネート類、ラクトン類およびスルホキシド類からなる群より選ばれた少なくとも1種を主成分とする溶媒であり、好ましくは、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、スルホラン、3−メチルスルホラン、アセトニトリル、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、エチレングリコールおよびジエチルカーボネートからなる群より選ばれた少なくとも1種を主成分とする溶媒である。とりわけ好ましくは、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、スルホランからなる群より選ばれた少なくとも1種を主成分とする溶媒である。ここで「主成分とする」とは、溶媒のうち、50重量%以上、好ましくは70重量%以上、当該化合物が占めることをいい、このように有機極性溶媒の含有量が高いほどキャパシターの長期耐久性や作動電圧を向上させることができる。電解質を溶解する有機極性溶媒としては、異なる2種類以上の溶媒の混合物であってもよい。
【0102】
上記のキャパシター用の電極、電解液、およびセパレータを用いてキャパシターを製造する方法としては、例えば、一対のシート状電極についてセパレータを介して巻回して電極群を作製し、該電極群に電解液を含浸させて有底円筒型ケースに収容して製造する方法、矩形の電極および矩形のセパレータを交互に積層して電極群を作製し、該電極群に電解液を含浸させて有底角型ケースに収容して製造する方法、を挙げることができる。
【実施例】
【0103】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。尚、積層多孔質フィルムの評価、非水電解質二次電池の製造および評価は、次のようにして行った。
【0104】
積層多孔質フィルムの評価
(1)厚み測定
積層多孔質フィルムの厚み、シャットダウン層の厚みは、JIS規格(K7130−1992)に従い、測定した。また、耐熱多孔層の厚みとしては、セパレータの厚みからシャットダウン層の厚みを差し引いた値を用いた。
(2)ガーレー法による透気度の測定
積層多孔質フィルムの透気度は、JIS P8117に基づいて、株式会社安田精機製作所製のデジタルタイマー式ガーレー式デンソメータで測定した。
(3)空孔率
得られた多孔質フィルムのサンプルを一辺の長さ10cmの正方形に切り取り、重量W(g)と厚みD(cm)を測定した。サンプル中のそれぞれの層の重量(Wi(g))を求め、Wiとそれぞれの層の材質の真比重(真比重i(g/cm3))とから、それぞれの層の体積を求めて、次式より空孔率(体積%)を求めた。
空孔率(体積%)=100×{1−(W1/真比重1+W2/真比重2+・・+Wn/真比重n)/(10×10×D)}
(4)遊離塩素含有量の測定方法
イオン交換水の入った容器内に、積層多孔質フィルムをイオン交換水に浸漬するようにして入れた容器を、プレッシャークッカー装置内に設置し、120℃、飽和水蒸気圧下に24時間静置することで、積層多孔質フィルム中の塩素をイオン交換水に抽出し、該イオン交換水について、イオンクロマト法により、塩素量を測定し、積層多孔質フィルムにおける遊離塩素含有量(重量ppm)を求めた。本発明において、遊離塩素含有量とは、前記の測定方法により求められる塩素含有量のことを意味する。
(5)積層多孔質フィルムのシャットダウン温度測定
図1に示すようなシャットダウン測定用セル(以降セルと呼称)にてシャットダウン温度を測定した。
6cm角の正方形のセパレータ(8)を一方のSUS板電極(10)上に配置し、電解液(9)を真空含浸した後、スプリング(12)付きの電極(13)を、該スプリングが上になるようにセパレータ(8)にのせた。前記電極(10)上に配置されたスペーサ(11)上に、もう一つのSUS板電極(10)を置き、前記スプリング(12)および電極(13)を介してセパレータ(8)に面圧1kgf/cm2が作用するように両電極(10)、(10)を締めて、セルを組み立てた。電解液(9)には、エチレンカーボネート30vol%:ジメチルカーボネート35vol%:エチルメチルカーボネート35vol%の混合溶液に、1mol/LのLiPF6を溶解させたものを用いた。組み立てたセルの両極(10)、(10)に、インピーダンスアナライザー(7)の端子を接続し、1kHzでの抵抗値を測定した。また、セパレータ直下に熱電対(14)を設置して温度も同時に測定できるようにし、昇温速度の2℃/分の条件で昇温しながら、インピーダンスおよび温度の測定を実施した。1kHzでのインピーダンスが1000Ωに到達した時の温度をシャットダウン温度(SD温度)とした。また、シャットダウン後、さらに温度を上昇させ、積層多孔質フィルムが破れ、測定上、内部抵抗が低下し始めるときの温度を熱破膜温度とした。
【0105】
非水電解質二次電池の作製および評価
(1)正極シートの作製
カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、アセチレンブラック、正極活物質であるコバルト酸リチウム粉末および水を分散混練し、正極用電極合剤のペーストを得た。このペーストに含有される各成分の重量比としては、カルボキシメチルセルロース:ポリテトラフルオロエチレン:アセチレンブラック:コバルト酸リチウム粉末:水の重量比で0.75:4.55:2.7:92:45であった。該ペーストを正極集電体である厚さ20μmAl箔の両面の所定部分に塗布し、乾燥、ロールプレス、スリットし、正極シートを得た。正極用電極合剤が塗布されていない部分のAl箔の長さは1.5cmであり、その塗布されていない部分にアルミリードを抵抗溶接した。
(2)負極シートの作製
カルボキシメチルセルロース、天然黒鉛、人造黒鉛および水を分散混錬し、負極用電極合剤のペーストを得た。このペーストに含有される各成分の重量比としては、カルボキシメチルセルロース:天然黒鉛:人造黒鉛:水の重量比で2.0:58.8:39.2:122.8であった。該ペーストを負極集電体である厚さ12μmCu箔の両面の所定部分に塗布し、乾燥、ロールプレス、スリットを行って負極シートを得た。負極用電極合剤が塗布されていない部分のCu箔の長さは1.5cmであり、塗布されていない部分にニッケルリードを抵抗溶接した。
(3)非水電解質二次電池の作製
セパレータ、正極シート、負極シート(負極用電極合剤未塗布部30cm)を、正極シート、セパレータ、負極シートの順になるように、また負極の合剤未塗布部が最外周になるように積層し、一端より巻き取って電極群とした。前記の電極群を電池缶に挿入し、電解液として、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートの体積比16:10:74混合液にLiPF6を1モル/リットルとなるように溶解した電解液を含浸し、正極端子を兼ねる電池蓋を用いて、ガスケットを介して、蓋をして、シールし、18650サイズの円筒電池(非水電解質二次電池)を得た。尚、セパレータにおける耐熱多孔層は正極シートと接するように、かつセパレータにおけるシャットダウン層は負極シートと接するようにして積層した。
(4)評価
上記のようにして得た円筒電池を、専用の架台に固定し、油圧プレス式の釘刺し試験機に取り付けたφ2.5mmの釘を、5mm/secの速度で下ろして、電池の円筒部の中心に釘を貫通させたときの熱的挙動を観察した。
【0106】
実施例1
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却器を備えた反応器に、2−ヒドロキシ−6−ナフトエ酸 941g(5.0モル)、4−アミノフェノール 273g(2.5モル)、イソフタル酸 415.3g(2.5モル)および無水酢酸 1123g(11モル)を仕込んだ。反応器内を十分に窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下で15分かけて150℃まで昇温し、温度を保持して3時間還流させた。
【0107】
その後、留出する副生酢酸および未反応の無水酢酸を留去しながら170分かけて320℃まで昇温し、トルクの上昇が認められる時点を反応終了とみなし、内容物を取り出した。得られた固形分は室温まで冷却し、粗粉砕機で粉砕後、窒素雰囲気下250℃で3時間保持し、固相で重合反応を進めた。得られた粉末は350℃で偏光顕微鏡により液晶相に特有のシュリーレン模様が観察された。また前記粉末(液晶ポリエステル)8gをNMP92gに加え、120℃に加熱すると完全に溶解し、液晶ポリエステル濃度が8重量%の透明な溶液が得られた。
【0108】
前記溶液に、さらにNMPを加え、攪拌し、液晶ポリエステル濃度3重量%とした溶液100gに、アルミナ粉末(日本アエロジル社製、アルミナC,平均粒子径0.02μm)を9g添加した後、6000rpmの高速攪拌によりアルミナを溶液中に分散させてスラリー状塗工液(A)を得た。
【0109】
A4サイズのガラス板を用意し、その上に長方形に切り取ったポリエチレン多孔質フィルム(三井化学株式会社製、膜厚16μm、透気度121秒/100cc、平均孔径0.06μm、空孔率49体積%)を置き、短辺部の片側をテープでガラス板に固定した。ついで該多孔質フィルムの上に、直径20mmのステンレス製塗工バーを、多孔質フィルムとのクリアランスが0.04mmになるように平行に配置した。塗工バー手前の多孔質フィルム上にスラリー状塗工液(A)を供給した後、両手でバーの両端を持ち、バーを手前に動かして多孔質フィルム全体にスラリー状塗工液(A)を塗工して、多孔質フィルム上に塗工膜を塗工した。ついで、ガラス板ごと、70℃のオーブン内に30分間静置し、溶媒を蒸発させた後、フィルムをガラス板から外して、樹脂製バットを用いて、通水下5分間水洗し、A4サイズの金枠に固定して、金枠ごと70℃のオーブン内で10分間乾燥させ、積層多孔質フィルム(A)を得た。このプロセスにおいては、前記蒸発において、蒸発したNMPの回収、再利用が容易であり、また、前記水洗においても、回収した廃水は塩化物を実質的に含有しておらず、NMPの再利用が容易である。
【0110】
積層多孔質フィルム(A)は、厚み20μm、空孔率45%、透気度450秒/100cc、遊離塩素含有量が60重量ppmであった。また、積層多孔質フィルム(A)のシャットダウン温度は134℃であり、200℃においても熱破膜は見られなかった。
【0111】
積層多孔質フィルム(A)につき、耐候性を調べるために、25℃、80%相対湿度下に12時間静置させた後、セパレータとして用いて、非水電解質二次電池を作製し、該電池に釘を貫通させたときの熱的挙動を観察したところ、温度上昇が緩やかであったことから、高湿度下における絶縁性、すなわち耐候性に優れることがわかった。
【0112】
比較例1
NMP4200gに塩化カルシウム272.7gを溶解した後、パラフェニレンジアミン132.9gを添加して完全に溶解させた。得られた溶液に、テレフタル酸ジクロライド(以下、TPCと略す)243.3gを徐々に添加して重合し、パラアラミドを得て、さらにNMPで希釈して、濃度2.0重量%のパラアラミド溶液を得た。得られたパラアラミド溶液100gに、アルミナ粉末(日本アエロジル社製、アルミナC,平均粒子径0.02μm)を4g添加した後、6000rpmの高速攪拌によりアルミナを溶液中に分散させてスラリー状塗工液(B)を得た。
【0113】
A4サイズのガラス板を用意し、その上に長方形に切り取ったポリエチレン多孔質フィルム(三井化学株式会社製、膜厚16μm、透気度121秒/100cc、平均孔径0.06μm、空孔率49体積%)を置き、短辺部の片側をテープでガラス板に固定した。ついで該多孔質フィルムの上に、直径20mmのステンレス製塗工バーを、多孔質フィルムとのクリアランスが0.04mmになるように平行に配置した。塗工バー手前の多孔質フィルム上に、スラリー状塗工液(B)を供給した後、両手でバーの両端を持ち、バーを手前に動かして多孔質フィルム全体にスラリー状塗工液(B)を塗工して、多孔質フィルム上に塗工膜を塗工した。ついで、ガラス板ごと、水中に浸漬させ、パラアラミドを析出させた後、フィルムをガラス板から外して、樹脂製バットを用いて、通水下5分間水洗し、A4サイズの金枠に固定して、金枠ごと70℃のオーブン内で10分間乾燥させ、積層多孔質フィルム(B)を得た。このプロセスにおいては、前記浸漬および水洗において、回収した廃水は塩化物を含有しており、塩化物、NMPを再利用し難い。
【0114】
積層多孔質フィルム(B)の遊離塩素含有量は2×102重量ppmであった。また、積層多孔質フィルム(B)のシャットダウン温度は134℃であり、200℃においても、熱破膜は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】シャットダウン温度の測定装置の概略図
【符号の説明】
【0116】
7:インピーダンスアナライザー
8:セパレータ
9:電解液
10:SUS板
11:テフロン(登録商標)製スペーサ
12:スプリング
13:電極
14:熱電対
15:データ処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱樹脂を含有する耐熱多孔層と、熱可塑性樹脂を含有するシャットダウン層とが積層されてなり、遊離塩素含有量が1×102重量ppm以下である積層多孔質フィルム。
【請求項2】
耐熱樹脂が、液晶ポリエステルを含有する樹脂である請求項1記載の積層多孔質フィルム。
【請求項3】
耐熱多孔層が、さらにフィラーを含有する請求項1または2に記載の積層多孔質フィルム。
【請求項4】
熱可塑性樹脂が、ポリエチレンである請求項1〜3のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
【請求項5】
耐熱多孔層の厚みが、1μm以上10μm以下である請求項1〜4のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
【請求項6】
耐熱多孔層が塗工された層である請求項1〜5のいずれかに記載の積層多孔質フィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の積層多孔質フィルムからなるセパレータ。
【請求項8】
請求項7記載のセパレータを有する電池。
【請求項9】
請求項7記載のセパレータを有するキャパシター。

【図1】
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【公開番号】特開2008−311221(P2008−311221A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122022(P2008−122022)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】