説明

積層部品の製造方法

【課題】電気機械装置で用いられる積層構造を有する部品を短時間で製造する。
【解決手段】電気機械装置で用いられる積層部品の製造方法であって、金属板114と絶縁層115とを交互に積層して積層体113Xを形成する工程と、ワイヤーカットを用いて前記積層体を予め定められた形状に成形加工して成形積層体113を得る工程と、前記成形積層体を電解研磨することによって、前記成形加工時においてワイヤーカット面に生じた金属板間の短絡部114Xを溶解させる工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機械装置に用いられるコイルバックヨークのような積層構造を有する部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コイルバックヨークを有する電気機械装置(モーター、発電機)が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−93911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電気機械装置では、コイルバックヨークに流れる渦電流損により、コイルバックヨークが発熱し、電気機械装置の特性を劣化させる場合があった。この原因を検討したところ、金属板による積層構造を持つコイルバックヨークをワイヤーカットにより形成する際において、ワイヤーカット面に金属溶着部が生じ、これにより金属板間が短絡して渦電流が流れやすくなり、渦電流損が発生していることが分かってきた。しかしながら、この金属溶着部を、短時間で短絡を除去する技術については、十分に検討されていなかった。なお、この問題は、コイルバックヨークだけでなく他の積層部品においても同様であった。
【0005】
本発明は、上記課題の少なくとも1つを解決し、電気機械装置で用いられる積層構造を有する部品を短時間で製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
電気機械装置で用いられる積層部品の製造方法であって、金属板と絶縁層とを交互に積層して積層体を形成する工程と、ワイヤーカットを用いて前記積層体を予め定められた形状に成形加工して成形積層体を得る工程と、前記成形積層体を電解研磨することによって、前記成形加工時においてワイヤーカット面に生じた金属板間の短絡部を溶解させる工程と、を備える、積層部品の製造方法。
この適用例によれば、電解研磨により短絡部を溶解するので、酸による溶解するよりも短時間で短絡部を除去することが可能である。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載の積層部品の製造方法において、前記電解質溶液は、希硫酸溶液である、積層部品の製造方法。
この適用例によれば、電解質液の電気伝導度を向上することが可能となる。
【0009】
[適用例3]
適用例1又は適用例2に記載の積層部品の製造方法において、前記積層体と、前記陽極とは、起毛状電極により接触している、積層部品の製造方法。
この適用例によれば、金属板と絶縁層との間に段差が存在していても、起毛状電極により、陽極と金属板との接触の維持が可能となる。
【0010】
本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、積層部品の製造方法の他、コイルバックヨークの製造方法等様々な形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1の実施例のコアレスモーターの構成を模式的に示す説明図である。
【図2】コイルバックヨークと電磁コイルの位置の関係を模式的に示す説明図である。
【図3】コイルバックヨークの製造工程の一部を示す説明図である。
【図4】コイルバックヨークの製造工程の一部を示す説明図である。
【図5】コイルバックヨークの内側の溶着部を取る電解研磨装置を示す説明図である。
【図6】コイルバックヨークの内側の溶着部を除去する電解研磨装置の別の構成例を示す説明図である。
【図7】コイルバックヨークの外側の溶着部を除去する構成を示す説明図である。
【図8】コイルバックヨークと陽極との接触部を示す説明図である。
【図9】形成されたコイルバックヨークの構造を示す説明図である。
【図10】渦電流損の測定装置を示す説明図である。
【図11】溶着部を除去する処理の有無による渦電流損の違いを示す説明図である。
【図12】図11に示すデータをグラフ化したものである。
【図13】溶着部を除去する処理のステーター側スロットへの適用を示す説明図である。
【図14】溶着部を除去する処理のIPMモーターのローターへの適用を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施例]
図1は、第1の実施例のコアレスモーターの構成を模式的に示す説明図である。図1(A)は、コアレスモーター10を回転軸に平行な面で切った断面であり、図1(B)は、コアレスモーターを回転軸に垂直な面(1B−1B切断面)で切った断面である。
【0013】
コアレスモーター10は、略円筒状のステーター15が外側に配置され、略円筒状のローター20が内側に配置されたラジアルギャップ構造のインナーローター型モーターである。ステーター15は、ケーシング110の内周に沿って配列された複数の電磁コイル100A、100Bを有している。電磁コイル100A、100Bは、コアレス(空心)である。なお、電磁コイル100A、100Bを合わせて電磁コイル100とも呼ぶ。ステーター15には、さらに、ローター20の位相を検出する位置センサーとしての磁気センサー300が、電磁コイル100の各相に1つずつ配置されている(図1(A))。磁気センサー300は、回路基板310の上に固定されており、回路基板310は、ケーシング110に固定されている。
【0014】
ローター20は、中心に回転軸230を有し、外周に6つの永久磁石200を有している。各永久磁石200は、回転軸230の中心から外部に向かう径方向(放射方向)に沿って磁化されている。また、永久磁石200と電磁コイル100とは、ローター20とステーター15の対向する円筒面に対向して配置されている。
【0015】
回転軸230は、ケーシング110の軸受け240で支持されており、軸受け240は、ベアリングボール241を備えている。本実施例では、ケーシング110の内側に、コイルバネ260を備えている。このコイルバネ260は、永久磁石200を図の左方向に押すことによって、永久磁石200の位置決めを行っている。但し、コイルバネ260は省略可能である。
【0016】
ケーシング110は、回転軸230と平行な円筒形状部分(側面部)111と、円筒形状部分111の両端に配置された、回転軸230と垂直な円盤形状部分(端面部)112とで構成されている。円盤形状部分112は、樹脂で形成されている。円筒形状部分111は、磁性体部材で形成された中央部113と、樹脂で形成された残りの部分と、を有する。中央部113は、コイルバックヨークとして機能するので、「コイルバックヨーク113」とも呼ぶ。コイルバックヨーク113は、ケーシング110のうち、永久磁石200から電磁コイル100へ向かう方向に永久磁石200を投射したときのケーシング110を投射する領域に配置されている。コイルバックヨーク113は、磁束線201を集めるので、磁束線201は電磁コイル100の内部を通りやすくなり、コアレスモーター10の効率を良くすることが可能となる。しかし、磁束線201が通りやすいと、以下に説明するように、コイルバックヨーク113に渦電流が発生し易くなる。
【0017】
本実施例では、コイルバックヨーク113は、磁性体部材であると同時に、導電性部材でもある。上述のように、コイルバックヨーク113は、永久磁石200や電磁コイルからの磁束線を通しやすい。ここで、ローター20が回転すると、永久磁石200も回転する。これにより、コイルバックヨーク113を貫通する磁束が変化し、磁束の変化を妨げる方向に磁束を作る電流、すなわち渦電流が生じる。渦電流が流れると、電力損失(渦電流損)が生じ、熱として放出される。
【0018】
図2は、コイルバックヨークと電磁コイルの位置の関係を模式的に示す説明図である。コイルバックヨーク113は、円盤形状部分112のうち、2つのコイルエンド101A、101Bの間の領域と重なる位置に配置される。図1における説明では、コイルバックヨーク113を、永久磁石200を放射方向に投射した領域に配置したが、図2に示すように、2つのコイルエンド101A、101Bとの関係でコイルバックヨーク113の配置位置を定めてもよい。また、コイルバックヨーク113を、永久磁石200を放射方向に投射した領域と重なる位置に配置してもよい。
【0019】
図3は、コイルバックヨークの製造工程の一部を示す説明図である。先ず、導電性材料である金属板114と、非導電性材料である樹脂板115とを交互に重ね合わせる。本実施例では、金属板114として、鉄製の金属板を用いている。次いで、加熱しながら、金属板114と樹脂板115との積層方向に加圧する。これにより、金属板114と樹脂板115とを貼り合わせ、積層体113Xを形成する。図3(A)は、積層体113Xをz軸方向(積層方向)から見た図であり、図3(B)は、積層体113Xをy軸方向(積層方向と垂直な方向)から見た図である。図3(C)は、積層体113Xの側面を拡大して示す説明図である。金属板114と樹脂板115の大きさが同じであっても、貼り合わせ精度によっては、側面に凹凸が生じる。しかし、後の工程で、積層体113Xを円筒形状にカットするので、この段階で側面に凹凸が生じても問題はない。
【0020】
次に、積層体113Xを、ワイヤ放電加工機を用いて円筒形に加工し、コイルバックヨーク113を形成する。図3(D)は、コイルバックヨーク113をz軸方向から見た図であり、図3(E)は、コイルバックヨーク113をy軸(積層方向と垂直な方向)から見た図である。図3(F)は、コイルバックヨーク113の内側の側面を拡大して示す説明図である。ワイヤ放電加工機は、電気の力で放電現象を起こし、そのとき発生する熱で、金属を溶かして切断する。したがって、金属板114が溶けて、樹脂板115を挟んで隣の金属板と接触あるいは、溶着部114Xが生じる場合がある。かかる場合、溶着部114Xを介して2枚の金属板114が短絡し、渦電流が流れ易くなり、渦電流損が発生しやすくなる。なお、樹脂板115が溶けて金属板114を挟んだ複数の樹脂板115が接触しても、樹脂板115には電流が流れないので、渦電流損への影響は生じ得ない。
【0021】
図4は、コイルバックヨークの製造工程の一部を示す説明図である。この図に示す工程では、コイルバックヨーク113の複数枚の金属板114を短絡する溶着部114Xを溶解する。図4(A)は、溶着部114Xの溶解前のコイルバックヨーク113をz軸方向から見た図である。図4(B)は、溶着部114Xの溶解前のコイルバックヨーク113をy軸方向から見た図である。図4(C)は、図4(B)の端部を拡大した図である。図4(D)は、溶着部114Xの溶解後のコイルバックヨーク113をz軸方向から見た図である。図4(E)は、溶着部114Xの溶解後のコイルバックヨーク113をy軸方向から見た図である。図4(F)は、図4(E)の端部を拡大した図である。図4(C)と(F)を比較すればわかるように、図4(F)では、溶着部114Xが消失しており、隣接する金属板114は、樹脂板115を間に挟んで電気的に導通しない状態である。
【0022】
図5は、コイルバックヨークの内側の溶着部を取る電解研磨装置を示す説明図である。電解研磨装置400は、直流電源410と、陽極420と、陰極425と、容器430と、電解質液440と、を備える。陽極420は、例えば白金などの貴金属で構成されており、コイルバックヨーク113の外側の円筒側面に接続されている。陰極425は、例えば白金などの貴金属で構成されており、コイルバックヨーク113の内側の円筒側面と離間し、コイルバックヨーク113の中心軸上に配置されている。陽極420と陰極425は、直流電源410に接続されている。コイルバックヨーク113と、陽極420と、陰極425は、電解質液440の中に浸される。電解質液は、酸性が好ましく、本実施例では、電解質液440として、希硫酸を用いている。希硫酸は、電解質液の電気伝導度を高める働きをする。希硫酸は不揮発性を有しているため、揮発性を有している塩酸や硝酸よりも電解質液440として好ましい。また、濃硝酸や、濃硫酸を用いた場合には、濃硝酸や、濃硫酸の持つ酸化力により金属板114の表面が酸化され不動態が生じ、電解研磨出来なくなる恐れがある。したがって、希硫酸を用いることが好ましい。
【0023】
陽極420−陰極425間に電流を流すと、電解研磨により、金属板114の鉄が、鉄イオン(Fe3+)と電子に分解し、鉄イオンは電解質液に溶解する。
Fe → Fe3+ + 3e
【0024】
すなわち、金属板114の表面の鉄は、鉄イオンとして電解質液440に溶ける。このとき、鉄のとがった部分が存在していると、とがった部分には、電流が集中しやすい。そのため、とがった部分は、とがっていない部分に電解研磨され易く溶けやすい。すなわち、金属板114の表面は、電解研磨後、なだらかになりやすい。
【0025】
従来は、シュウ酸溶液などの酸の溶液にコイルバックヨーク113を浸して溶着部114X(図4)の溶解を行っていた。この場合、溶着部114Xを溶解するのに有る程度の時間を要していた。本実施例の方法では、流す電流の量に応じて溶着部114X(図4)の除去速度を上げることが可能である。
【0026】
図6は、コイルバックヨークの内側の溶着部を除去する電解研磨装置の別の構成例を示す説明図である。図5に示した例では、陰極425をコイルバックヨーク113の中心軸に配置しているが、この構成例では、陰極425をコイルバックヨーク113の中心軸を中心とする同心円上に配置している。なお、陰極425は、コイルバックヨーク113とは接触していない。このように陰極425を配置すると、陰極425と、コイルバックヨーク113の内側の側面との距離を小さくでき、電気抵抗を下げることができる。そのため、溶着部114Xを溶解するときのエネルギーの損失を少なくすることが出来る。なお、陰極425として、円筒形の電極を用いてもよい。この場合、円筒形の陰極425の中心軸と、コイルバックヨーク113の中心軸はほぼ一致する。また、溶着部114Xが大きい場合には、溶着部114Xに陰極425を近づけ、溶着部114Xが小さい場合には、溶着部114Xから陰極425を遠ざけるように、陰極425を配置することにより、選択的に溶着部114Xを除去することができる。
【0027】
図7は、コイルバックヨークの外側の溶着部を除去する構成を示す説明図である。この構成例では、陽極420を、陰極425をコイルバックヨーク113の内側の側面に接触するように配置し、陰極425をコイルバックヨーク113外側の側面の外であって、コイルバックヨーク113の中心軸を中心とする同心円上に配置している。なお、陰極425は、コイルバックヨーク113とは接触していない。この構成によれば、コイルバックヨーク113の外側の側面の溶着部114Xを溶解することができる。なお、陰極425として、コイルバックヨーク113の周りを囲う円筒形の電極を用いてもよい。また、容器430を陰極としてもよい。
【0028】
以上説明したように、本実施例では、溶着部114Xを溶解したい場合、溶着部114Xと反対側の側面に陽極420を配置し、溶着部114X側に、溶着部114Xと離間するように陰極425を配置し、陽極420−陰極425間に電流を流すことにより、溶着部114Xを電解研磨することができる。その結果、短時間で溶着部114Xを除去し、渦電流損が発生しにくいコイルバックヨーク113を短時間で製造することが可能となる。
【0029】
図8は、コイルバックヨークと陽極との接触部を示す説明図である。図8(A)は、本実施例を示す。図8(B)は、図8(A)の拡大図である。陽極420は、起毛電極421を有する、陽極420と、コイルバックヨーク113の金属板114とは、起毛電極421を介して接触している。コイルバックヨーク113において、金属板114が、樹脂板115よりも凹んでいる場合であっても、陽極420は、起毛電極421を有するので、起毛電極421を介して金属板114との電気的導通を維持することが出来る。例えば図8(A)(B)に示す場合、金属板114a、114bは、樹脂板115よりも凹んでいるが、起毛電極421を介して、陽極420と接触し、電気的導通を維持することが出来る。したがって、金属板114a、114bの間をつないでいる溶着部114Xを溶解することができる。一方、図8(C)は、陽極420が起毛電極を有さない場合を示す説明図である。図8(D)は、図8(C)の拡大図である。この場合、金属板114cは、樹脂板115から凹んでいないので、金属板114cと陽極420とは接触することができるが、金属板114a、114bは、樹脂板115よりも凹んでいるため、陽極420と接触することができない。そのため、金属板114a、114bには電流が流れない。その結果、金属板114a、114bの間をつないでいる溶着部114Xの溶解は、電解質液440による溶解によってのみ実行されるので、時間が掛かる。このように、陽極420に起毛電極421を用いることにより、金属板114に凹みがあっても、コイルバックヨーク113の金属板114と、陽極420との接触を維持し、電解研磨を実行することが可能となる。
【0030】
図9は、形成されたコイルバックヨークの構造を示す説明図である。コイルバックヨーク113は、穴あき円盤形状をした金属板114と、穴あき円盤形状をした樹脂板115と、が交互に積層した形状を有している。
【0031】
図10は、渦電流損の測定装置を示す説明図である。測定装置は、標準モーター駆動回路30と、標準モーター40と、カップリング50と、非測定モーター設置部60と、を備える。標準モーター40と、非測定モーター設置部60とは、カップリング50により接続されている。非測定モーター設置部60には、モーター10(図1)あるいは、モーター10のローター20が配置される。モーター10あるいはローター20の回転軸230は、カップリング50を介して、標準モーター40と接続される。標準モーター駆動回路30は、標準モーター40を予め定められた回転数で回転させるための駆動回路である。渦電流損の測定は以下のようにして行う。
【0032】
まず、非測定モーター設置部60に、ローター20のみを配置する。そして、予め定められた回転数で標準モーター40を回し、標準モーター40の消費電力Pdを測定する。この場合、電磁コイル100(図1)を有するステーター15(図1)は接続されないので、逆起電力や渦電流は発生しない。
【0033】
次に、非測定モーター設置部60に、モーター10を配置し、モーター10の電磁コイル100のコイル端を開放した状態で予め定められた回転数で標準モーター40を回し、標準モーター40の消費電力Pnを測定する。この場合、逆起電力は生じても、電磁コイル100が開放されているため、電磁コイル100には電流は流れない。したがって、単に回転エネルギーだけを考えれば、モーター10を駆動するエネルギーはローター20だけ駆動するエネルギーと変わらない。しかし、モーター10を駆動する場合には、渦電流損が発生する。したがって、渦電流損分だけ、標準モーター40の消費電力が増加する。すなわち、消費電力Pnと消費電力Pdの差が渦電流損となる。
【0034】
図11は、溶着部を除去する処理の有無による渦電流損の違いを示す説明図である。図12は、図11に示すデータをグラフ化したものである。図11、12から明らかなように、溶着部114Xを除去する処理を行うと、渦電流損が減少しているのがわかる。これは、溶着部114Xを除去することにより、溶着部114Xを介した渦電流の流れが抑制される。渦電流をI、金属板114の抵抗をRとすると、渦電流と抵抗は反比例する。一方、渦電流損はIRであるので、溶着部114Xを除去し、隣接する金属板間の抵抗を大きくして電流を少なくした方が、渦電流損が少なくなる。
【0035】
上記実施例で説明した技術は、コイルバックヨーク113だけではなく、電気機械装置で用いられる積層構造を有する部品の製造において、適用することが可能である。図13は、溶着部を除去する処理の、ステーター側スロットへの適用を示す説明図である。図13(A)は、カットしたスロット130をx、y、zの3方向から見た説明図である。この実施例において、ステーター15は、スロット130と、電磁コイル100とを備える。スロット130は、積層構造を有する積層体を、ワイヤ放電加工機を用いてカットすることにより形成することができる。スロット130の内側の面130aは、曲面形状を為しており、この面130aには、金属板と樹脂板が交互に現れている。したがって、ワイヤ放電加工機による成形の際に、金属板間の溶着部が生じ、金属板が短絡する恐れがある。上記説明した技術は、スロット130の面130aに生じた溶着部を除去する場合にも採用することが可能である。
【0036】
図14は、溶着部を除去する処理の、IPMモーターのローターへの適用を示す説明図である。IPMモーターは、Interior Permanent Magnetモーターの略であり、積層鋼材140の中に、永久磁石142が埋め込まれている。積層鋼材140は、円盤状の金属板と樹脂板とを交互に積層した構成を備えている。したがって、ワイヤ放電加工機による加工時において、たとえば、積層鋼材140の外側の側面140aに、溶着部が生じる場合がある。このような積層鋼材140の側面に生じる溶着部を除去する工程において、上記技術を適用することが可能である。
【0037】
本実施例では、2枚の金属板114の間に樹脂板115を配置しているが、樹脂板ではなく、樹脂以外で形成された絶縁板を用いてもよい。また、2枚の金属板114の間に、板ではなく、絶縁層や接着層として機能する流体、液体を塗布してもよい。
【0038】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【符号の説明】
【0039】
10…モーター(コアレスモーター)
15…ステーター
20…ローター
30…標準モーター駆動回路
40…標準モーター
50…カップリング
60…非測定モーター設置部
100、100A…電磁コイル
101A…コイルエンド
110…ケーシング
111…円筒形状部分
112…円盤形状部分
113…コイルバックヨーク(中央部)
113X…積層体
114…金属板
114X…溶着部
114a〜114c…金属板
115…樹脂板
130…スロット
130a…面
140…積層鋼材
140a…側面
142…永久磁石
200…永久磁石
201…磁束線
230…回転軸
241…ベアリングボール
260…コイルバネ
300…磁気センサー
310…回路基板
400…電解研磨装置
410…直流電源
420…陽極
421…起毛電極
425…陰極
430…容器
440…電解質液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械装置で用いられる積層部品の製造方法であって、
金属板と絶縁層とを交互に積層して積層体を形成する工程と、
ワイヤーカットを用いて前記積層体を予め定められた形状に成形加工して成形積層体を得る工程と、
前記成形積層体を電解研磨することによって、前記成形加工時においてワイヤーカット面に生じた金属板間の短絡部を溶解させる工程と、
を備える、積層部品の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の積層部品の製造方法において、
前記電解質溶液は、希硫酸溶液である、積層部品の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の積層部品の製造方法において、
前記成形積層体と、電解研磨で用いられる陽極とは、起毛状電極により接触している、積層部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−5157(P2012−5157A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134732(P2010−134732)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】