説明

積層防護服

【課題】染料に対する染色性に優れ、しかも、繊維の強度、および、熱収縮安定性をバランスよく兼備したメタ型全芳香族ポリアミド繊維を主成分として含む易染色性布帛を、少なくとも1層として含む積層防護服を提供すること。
【解決手段】特定倍率範囲での可塑延伸および水洗工程を経た後、乾熱処理前に水蒸気弛緩熱処理を行ったメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む易染色性布帛を、少なくとも1層として用いる。具体的には、原繊維の破断強度が2.5cN/dtex以上、染色前後の300℃乾熱収縮率の比が2.5以下であり、染色後の該メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛の明度指数L*値が、25以下であるメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を、少なくとも1層として含む積層布帛からなる防護服とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層布帛からなる防護服に関する。より詳しくは、染色性が良好であるとともに、繊維の強度、および、熱収縮安定性に優れた、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む易染色性布帛を含む積層防護服に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリメタフェニレンテレフタルアミド繊維等のメタ型全芳香族ポリアミド繊維は、分子骨格のほとんどが芳香族環から構成されているため、優れた耐熱性と寸法安定性を発現する。これらの特性を活かして、メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、消防士が消火作業中に着用する耐熱防護服を構成する繊維として、好適に使用されている。
【0003】
そして、防護服の分野においては、耐熱性や寸法安定性以外に、視覚性や審美性等の美的観点での特性も必要とされており、特に、着色した繊維が求められていた。さらに、安全性の観点からは、より優れた繊維強度や熱収縮安定性が求められていた。
【0004】
加えて、近年、耐熱性防護服に関しては遮熱性の評価方法について標準化がなされ、輻射熱はもとより、伝導熱にも注目した評価方法が確立された(試験法番号:ISO9151)。そして、この評価方法による基準をクリアするにあたり、すなわち、熱伝導を遅延させるにあたっては、防護服内に大量の空気層を作ることが効果的である。
【0005】
以上のように、耐熱性防護服の要求特性は、より高度なものに変化しており、このため、例えば、表地層、透湿防水性を有する中間層、および遮熱性を有する裏地層からなる3層構造の防護服や、表地層と裏地層との間に充分な量の空気を含有させることで中間層を簡略化した2層構造の防護服が提案されており、昨今では、2層または3層を重ねて縫製した耐熱性防護服が主流となっている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、従来の技術では、耐熱性等の機能的特性を満足させつつ、染色性、および、優れた機械的強度と熱寸法安定性とをバランスよく満足させた、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む易染色性布帛を、少なくとも1層として含む積層防護服は、未だ存在していなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−016709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、染料に対する染色性に優れ、しかも、繊維の強度、および、熱収縮安定性をバランスよく兼備したメタ型全芳香族ポリアミド繊維を主成分として含む易染色性布帛を、少なくとも1層として含む積層防護服を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討を重ねた。その結果、特定倍率範囲での可塑延伸および水洗工程を経た後、乾熱処理前に水蒸気弛緩熱処理を行ったメタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む易染色性布帛を、少なくとも1層として用いることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、積層布帛からなる防護服であって、該積層布帛は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を、少なくとも1層として含むものであり、該メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、原繊維の破断強度が2.5cN/dtex以上、染色前後の300℃乾熱収縮率の比が2.5以下であり、染色後の該メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛の明度指数L*値が、30以下である積層防護服である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の積層防護服は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維が本来有する、優れた耐熱性、耐炎性、防炎性を発現するとともに、染料に対する染色性が良好であり、かつ、優れた繊維強度、および、熱収縮安定性を兼ね備える。このため、これらの特性が必要とされる分野における工業的価値は極めて大きく、特に、消防士が消火作業中に着用する耐熱防護服として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の積層防護服は、以下に記載する易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む易染色性布帛を、少なくとも1層として含むものである。
【0013】
<易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維>
本発明に用いられる易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、以下の特定の物性を兼ね備える。本発明に用いられる易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性、構成、および、製造方法等について以下に説明する。
【0014】
[易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の物性]
〔原繊維の破断強度〕
本発明に用いられる易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の原繊維(染色前の繊維)の破断強度は、2.5cN/dtex以上である。2.5cN/dtex以上であることが必須であり、2.7cN/dtex以上であることが好ましく、2.9以上であることがさらに好ましい。破断強度が2.5cN/dtex未満である場合には、紡績・染色等の後加工工程の通過性が悪化するため好ましくない。
易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の原繊維(染色前の繊維)の破断強度は、後記する製造方法における可塑延伸工程において、延伸倍率を適正化することにより制御することができる。2.5cN/dtex以上とするためには、延伸倍率を2.5〜10.0倍の範囲とすればよい。
【0015】
なお、本発明における「破断強度」とは、JIS L 1015に基づき、以下の条件で測定して得られる値をいう。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0016】
〔染色前後の300℃乾熱収縮率の比〕
本発明に用いられる易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、染色前後の300℃乾熱収縮率(染色前300℃乾熱収縮率/染色後300℃乾熱収縮率)の比が2.5以下である。染色前後の300℃乾熱収縮率の比は、2.5以下であることが必須であり、2.3以下が好ましく、2.2以下がさらに好ましく、2.1以下が最も好ましい。一般に、収縮率の比が2.5を超えて変化する場合には、染色工程で繊維の収縮が起こることから、原繊維構造体の設計が困難となる。
易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の染色前後の300℃乾熱収縮率の比は、後記する製造方法における蒸気処理工程において、弛緩倍率を適正化することにより制御することができる。比を2.5以下とするためには、弛緩倍率を0.65〜1.0倍の範囲とすればよい。
【0017】
なお、本発明における「300℃乾熱収縮率」および「染色前後の300℃乾熱収縮率の比」とは、以下の方法で得られる値をいう。
(300℃乾熱収縮率)
約3300dtexのトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、互いに30cm離れた箇所に印をつける。荷重を除去後、トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後、印間の長さLを測定する。測定結果Lをもとに、下記式にて得られる値を300℃乾熱収縮率(%)とする。
300℃乾熱収縮率(%)=(30−L)/30×100
【0018】
(染色前後の300℃乾熱収縮率の比)
上記の測定・算出法により、原繊維の300℃乾熱収縮率と染色繊維の300℃乾熱収縮率とをそれぞれ求める。染色前後の300℃乾熱収縮率の比は、得られた結果を用いて、下記式にて得られる値とする。
染色前後の300℃乾熱収縮率比=原繊維の300℃乾熱収縮率/染色繊維の300℃乾熱収縮率
【0019】
なお、本発明における「染色」とは、特に指定されない場合には、以下の染色方法による染色を意味する。
(染色方法)
カチオン染料(日本化薬社製、商品名:Kayacryl Blue GSL−ED(B−54))6%owf、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリア剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意する。引き続き、繊維と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施する。
【0020】
〔原繊維の300℃乾熱収縮率〕
本発明に用いられる易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、原繊維(染色前の繊維)の300℃乾熱収縮率が3.0%以下であることが好ましい。原繊維の300℃乾熱収縮率は、3.0%以下であることが好ましく、2.9%以下がより好ましく、2.8%以下が特に好ましい。収縮率が3.0%を超える場合には、高温雰囲気下での使用時に製品寸法が変化し、製品の破損が生じる等の問題が発生するため好ましくない。
【0021】
本発明において、易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の原繊維の300℃乾熱収縮率は、後に記載する製造方法における水蒸気弛緩熱処理工程において、弛緩倍率を適正化することにより制御することができる。原繊維の300℃乾熱収縮率を3.0%以下とするためには、弛緩倍率を0.65〜1.0とすればよい。
【0022】
易染色性メタ全型芳香族ポリアミド繊維の原繊維の300℃乾熱収縮率は、後に記載する製造方法における水蒸気弛緩熱処理工程において、弛緩倍率を適正化することにより制御することができる。原繊維の300℃乾熱収縮率を3.0%以下とするためには、弛緩倍率を0.65〜1.0倍の範囲とすればよい。
なお、原繊維の300℃乾熱収縮率は、上記した300℃乾熱収縮率の測定方法によって測定する。
【0023】
<易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む易染色性布帛>
[布帛の構成成分]
本発明の積層防護服の少なくとも1層となる易染色性布帛は、上記の易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含むものである。布帛における易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の含有量は、染色性や風合いの観点から繊維の全質量に対して50質量%以上であり、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100%である。
【0024】
なお、本発明の積層防護服を構成する易染色性布帛において、該易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維と混合する繊維としては、例えば、ポリベンゾイミダゾール繊維、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリエーテルイミド繊維、ポリアリレート繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、ノボロイド繊維、難燃アクリル繊維、ポリクラール繊維、難燃ポリエステル繊維、難燃綿繊維、難燃ウール繊維、パラ型全芳香族ポリアミド繊維等を例示できる。これらのなかでは、繊維の強度や耐熱性の観点から、パラ型全芳香族ポリアミドが好ましい。
【0025】
[布帛の形態]
本発明の積層防護服を構成する易染色性布帛の形態は、特に限定されるものではなく、布帛に求められる目的、用途等により適宜選択すればよい。
易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維以外の繊維を含む場合には、例えば、メタ型全芳香族ポリアミド繊維と混合される繊維とを、常法により混合して紡績糸の形態とした後に、該紡績糸を用いて布帛を形成することが挙げられる。本発明において、易染色性布帛の形態は、織物、編物、不織布等、いずれの形態であってもよい。
【0026】
易染色性布帛の目付は、150〜350g/mの範囲にあることが好ましい。該目付が150g/m未満の場合には、充分な耐熱性能が得られないおそれがあり、一方で、該目付けが350g/mを越える場合には、防護服にした際に重くなり、着用感が阻害されるため好ましくない。
【0027】
[易染色性布帛の物性]
〔染色布帛の明度指数L*値〕
本発明に用いられる易染色性布帛は、上記の染色方法で染色した布帛の明度指数L*値が30以下である。明度指数L*値が30を超える場合には、十分な染色性が得られないため好ましくない。
【0028】
染色布帛の明度指数L*値は、後記するメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法における水蒸気弛緩熱処理工程において、弛緩倍率を適正化することにより制御することができる。布帛の明度指数L*値を30以下とするためには、弛緩倍率を0.65〜1.0倍の範囲とすればよい。
【0029】
なお、本発明における「明度指数L*値」とは、上記の染色方法で染色した繊維に対して、以下の測定法で測定した値をいう。なお、L*は、数値が小さいほど濃染化されていることを示す。
(測定方法)
カラー測色装置(マスベク社製、商品名:マクベスカラーアイ モデルCE−3100)を用いて、以下の測定条件で測定する。
{測定条件}
視野 :10度
光源 :D65
波長 :360〜740nm
【0030】
〔染色布帛の染着率〕
本発明の易染色性布帛は、上記の染色方法で染色した布帛の染着率が90%以上であることが好ましい。染色布帛の染着率は、90%以上であることが好ましく、92%以上であることがより好ましい。染色布帛の染着率が90%未満の場合には、染色工程における染料のロス量が増えることから、染色工程でのコストが増加するため好ましくない。
染色布帛の染着率は、後記するメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法における水蒸気弛緩熱処理工程において、弛緩倍率を適正化することにより制御することができる。染色繊維の染着率を90%以上とするためには、弛緩倍率を0.65〜1.0倍の範囲とすればよい。
【0031】
なお、本発明における「染着率」とは、以下の方法によって得られる値をいう。
(染着率)
布帛を染色した染色残液に、この染色残液と同容積のジクロロメタンを加え、残染料を抽出する。引き続き、抽出液について、波長670nm、540nm、530nmの吸光度をそれぞれ測定し、あらかじめ染料濃度が既知のジクロロメタン溶液から作成した上記3波長の検量線から抽出液の染料濃度をそれぞれ求め、上記3波長における濃度の平均値を抽出液の染料濃度(C)とする。染色前の染料濃度(Co)を用いて、以下の式にて得られる値を染着率(U)とする。
染着率(U)=(Co−C)/Co×100
【0032】
〔染色布帛の限界酸素指数(LOI)〕
本発明の易染色性布帛は、上記の染色方法で染色した染色布帛の限界酸素指数(LOI))が30以上であることが好ましい。染色布帛の限界酸素指数(LOI)は、30以上であることが好ましく、30.5以上がより好ましく、31.0以上が特に好ましい。限界酸素指数(LOI)が30未満の場合には、高温雰囲気下での使用時に、製品が高熱により着火する恐れがあるため好ましくない。
染色布帛の限界酸素指数(LOI)は、後に記載するメタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法において、残存溶媒量を低減することにより制御することができる。染色繊維の限界酸素指数(LOI))を30以上とするためには、残存溶媒量を0.1%以下とすればよい。
【0033】
なお、本発明における「限界酸素指数(LOI)」とは、JIS K7201−2のLOI測定法に基づき、以下の測定条件で測定して得られる値をいう。
(測定条件)
試験片の形 :V
寸法 :140mm×52mm
点火手順 :B(伝ぱ点火)
酸素濃度間隔:0.2%
【0034】
<メタ型全芳香族ポリアミドの製造方法>
本発明に用いられる易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の原料となるメタ型全芳香族ポリアミドの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、メタ型芳香族ジアミン成分とメタ型芳香族ジカルボン酸成分とを原料とした溶液重合や界面重合等により製造することができる。また、本発明の目的を損なわない範囲内で、パラ型等の他の共重合成分が共重合されていてもよい。
【0035】
〔メタ型全芳香族ポリアミドの原料〕
(メタ型芳香族ジアミン成分)
メタ型芳香族ポリアミドの原料となるメタ型芳香族ジアミン成分としては、メタフェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン等、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルキル基等の置換基を有する誘導体、例えば、2,4−トルイレンジアミン、2,6−トルイレンジアミン、2,4−ジアミノクロロベンゼン、2,6−ジアミノクロロベンゼン等を例示することができる。なかでも、メタフェニレンジアミンのみ、または、メタフェニレンジアミンを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合ジアミンであることが好ましい。
【0036】
(メタ型芳香族ジカルボン酸成分)
メタ型全芳香族ポリアミドの原料となるメタ型芳香族ジカルボン酸成分としては、例えば、メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドを挙げることができる。メタ型芳香族ジカルボン酸ハライドとしては、イソフタル酸クロライド、イソフタル酸ブロマイド等のイソフタル酸ハライド、および、これらの芳香環にハロゲン、炭素数1〜3のアルコキシ基等の置換基を有する誘導体、例えば3−クロロイソフタル酸クロライド等を例示することができる。なかでも、イソフタル酸クロライドそのもの、または、イソフタル酸クロライドを85モル%以上、好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上含有する混合カルボン酸ハライドであることが好ましい。
【0037】
<易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明に用いられる易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、上記の製造方法によって得られた芳香族ポリアミドを用いて、例えば、以下に説明する紡糸液調製工程、紡糸・凝固工程、可塑延伸浴延伸工程、洗浄工程、弛緩処理工程、熱処理工程を経て製造される。
【0038】
なお、本発明において特に好ましく使用されるのは、力学特性、耐熱性、難燃性の観点から、メタフェニレンイソフタルアミド単位を主成分とするメタ型全芳香族ポリアミドである。全繰り返し単位の好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上、特に好ましくは100モル%がメタフェニレンイソフタルアミド単位から構成されるメタ型全芳香族ポリアミドであることが望ましい。
【0039】
[紡糸液調製工程]
紡糸液調製工程においては、メタ型全芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解して、紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を調製する。紡糸液の調製にあたっては、通常、アミド系溶媒を用い、使用されるアミド系溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)等を例示することができる。これらのなかでは溶解性と取扱い安全性の観点から、NMPまたはDMAcを用いることが好ましい。
【0040】
溶液濃度としては、次工程である紡糸・凝固工程での凝固速度および重合体の溶解性の観点から、適当な濃度を適宜選択すればよく、例えば、ポリマーがポリメタフェニレンイソフタルアミドで溶媒がNMPの場合には、通常は10〜30質量%の範囲とすることが好ましい。
【0041】
[紡糸・凝固工程]
紡糸・凝固工程においては、上記で得られた紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)を紡出して凝固させる。
紡糸装置としては特に限定されるものではなく、従来公知の湿式紡糸装置を使用することができる。また、安定して湿式紡糸できるものであれば、紡糸口金の紡糸孔数、配列状態、孔形状等は特に制限する必要はなく、例えば、孔数が1000〜30000個、紡糸孔径が0.04〜0.2mmのスフ用の多ホール紡糸口金等を用いてもよい。
【0042】
また、紡糸口金から紡出する際の紡糸液(メタ型全芳香族ポリアミド重合体溶液)の温度は、20〜90℃の範囲が適当である。
凝固浴としても特に限定されるものではなく、従来公知の浴液を使用することができる。例えば、無機塩を含まない水性凝固浴を採用する場合には、NMP濃度40〜70質量%の水溶液を、浴液の温度20〜90℃の範囲として用いることができる。この場合の凝固浴中への繊維の浸漬時間は、0.1〜30秒の範囲が適当である。
本発明においては、凝固浴の成分あるいは条件を適宜調節することにより、繊維表面に形成されるスキンを薄くすることができ、その結果、染色性をより向上させることができる。
【0043】
[可塑延伸浴延伸工程]
可塑延伸浴延伸工程においては、凝固浴にて凝固して得られた繊維が可塑状態にあるうちに、可塑延伸浴中にて繊維を延伸処理する。
可塑延伸浴液としては特に限定されるものではなく、従来公知のものを採用することができる。
延伸倍率は2.5〜10.0倍の範囲が好ましく、さらに好ましくは2.5〜6.0倍である。本発明においては、可塑延伸浴での延伸により分子鎖配向を上げておくことが、最終的に得られる易染色性繊維の熱収縮安定性および強度のバランスを確保するのに重要である。
【0044】
可塑延伸浴中での延伸倍率が2.5倍未満である場合には、2.5cN/dtex以上の破断強度であって十分な熱収縮安定性を有する繊維を得ることが困難となる。一方で、延伸倍率が10.0倍を越える場合には、単糸切れが発生するため、生産安定性が悪くなる。
可塑延伸浴の温度は、20〜90℃の範囲が好ましい。温度が20〜90℃の範囲にあると、工程調子が良いため好ましい。
【0045】
[洗浄工程]
洗浄工程においては、可塑延伸浴にて延伸された繊維を、十分に洗浄する。洗浄は、得られる繊維の品質面に影響を及ぼすことから、多段にて実施することが好ましい。特に、洗浄工程における洗浄浴の温度および洗浄浴液中のアミド系溶媒の濃度は、繊維からのアミド系溶媒の抽出状態および洗浄浴からの水の繊維中への浸入状態に影響を与える。このため、これらを最適な状態とする目的においても、洗浄工程を多段として、温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件を制御することが好ましい。
【0046】
温度条件およびアミド系溶媒の濃度条件については、最終的に得られる繊維の品質を満足できるものであれば特に限定されるものではないが、最初の洗浄浴を60℃以上の高温とすると、水の繊維中への浸入が一気に起こり、繊維中に巨大なボイドが生成して品質の劣化を招く。このため、最初の洗浄浴は、30℃以下の低温とすることが好ましい。
繊維中に溶媒が残っている場合には、高温での物性低下や収縮、限界酸素指数(LOI)の低下等が生じる。このため、繊維に含まれる溶媒量は、1%以下とすることが好ましく、0.1%以下とすることがより好ましい。
【0047】
[水蒸気弛緩熱処理工程]
弛緩熱処理工程においては、洗浄工程において洗浄された繊維を、水蒸気中、好ましくは飽和水蒸気中で弛緩熱処理する。水蒸気中で弛緩熱処理することにより、繊維内部の非晶部分が著しく配向緩和し、染色性が向上するとともに、染色時等の熱による収縮を抑制することができる。
【0048】
水蒸気弛緩熱処理工程における水蒸気圧力は、196〜392kPaの範囲とすることが好ましく、225〜363kPaの範囲とすることがさらに好ましい。弛緩熱処理の水蒸気圧力が196kPa未満の場合には、繊維内部の非晶部分の十分な配向緩和が起きず、目的とする熱収縮安定性を付与することが困難となる。一方で、392kPaを越える場合には、熱収縮安定性は付与できるものの、繊維の易染性が大きく低下してしまうため好ましくない。
【0049】
また、水蒸気弛緩熱処理工程における弛緩倍率は、0.65〜1.0倍とすることが好ましく、0.65〜0.95倍の範囲とすることがさらに好ましい。弛緩倍率がこの範囲を超える場合には、繊維内部の非晶部分の十分な配向緩和が起こらず、目的とする熱収縮安定性を付与することが困難となる。さらに、繊維内部の非晶部分の配向緩和が不十分となるため、染色前後の300℃乾熱収縮率の比と、染色繊維の明度指数(L*値)が大きくなり、本発明の目的を達成することが困難となる。さらには、原繊維の300℃乾熱収縮率も大きくなり、その結果、染色繊維の染着率が低下する。このため、本発明においては、水蒸気弛緩熱処理工程における弛緩倍率の制御は、極めて重要である。
【0050】
[乾熱処理工程]
乾熱処理工程においては、水蒸気弛緩熱処理工程を経た繊維を、乾燥・熱処理する。乾熱処理の方法としては特に限定されるものではないが、例えば、熱ローラー、熱板等を用いる方法を挙げることができる。これにより、最終的に、本発明の易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。
【0051】
<積層防護服>
本発明の積層防護服は、上述の易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を、少なくとも1層として含むものである。
積層防護服の構成としては、特に限定されるものではないが、上記易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を、表地層とすることが好ましい。また、例えば、表地層と内層のみからなる二層構造とする場合には、上記の易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を表地層とし、内層を、全芳香族ポリアミド繊維を含む耐熱性布帛とすることが好ましい。
【0052】
特に、本発明の積層防護服としては、表地層と内層のみからなる二層構造であり、該表地層として、前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を用い、該内層として、透湿防水性フィルムの両面に全芳香族ポリアミド繊維からなる織編布が貼り合わされた複合体を用いる構成することが好ましい。
【0053】
なお、本発明の積層防護服は、表地層と内層等から構成される複合構造を有するが、各層は相互に接合されている必要はなく、重ね合わして縫合したものであってもよい。また、内層は、ファスナー等を使用して表地層から取り外し可能となるようにし、洗濯が簡単に出来るような構造を有するものとすることもできる。
【0054】
[表地層]
本発明の積層防護服の表地層は、上記の易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛であることが好ましい。易染色性メタ型全芳香族ポリアミド繊維の含有量は、染色性や風合いの観点から繊維の全質量に対して50質量%以上であり、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100%である。
【0055】
該表地層には、撥水性加工を施して、耐水性の高い布帛とすることが好ましい。撥水加工は、表地層の両面に施してもよいが、少なくとも、積層防護服の表側面に施されていることが好ましい。撥水性加工を施した布帛を用いてなる防護服は、消火作業の際に空隙部に水が浸入してくるのを防止することができるため、防護服の着用性能を向上させることができる。
該撥水加工としては特に限定されるものではなく、例えば、フッ素系の撥水性樹脂を用いて、公知の方法に従い、コーティング法、スプレー法、あるいは浸漬法等の加工方法によって加工を行うことができる。
【0056】
[内層]
内層としては、全芳香族ポリアミド繊維を含む耐熱性布帛を用いることが好ましい。より好ましくは、透湿防水性を有する薄膜フィルムの両面に全芳香族ポリアミド繊維からなる織編布が貼り合わされた複合体が用いられる。
ここで用いる透湿防水性を有する薄膜フィルムとしては、透湿防水性を有するものであればいずれも使用可能であるが、耐薬品性を兼ね備えたポリテトラフルオロエチレン製の薄膜フィルムを用いることが特に好ましい。
また、透湿防水性を有するフィルムに全芳香族ポリアミド繊維からなる織編布を貼り合わせる方法としては、ラミネート加工が最適に例示される。
【0057】
全芳香族ポリアミド繊維からなる織編布の目付としては、50〜200g/mの範囲とすることが好ましい。織編物の目付が50g/m未満の場合には、織編物の強度が低く、また所望の遮熱性が得られないおそれがあり、一方で、該目付が200g/mを超える場合には、防護服の重量を増加させ、着用者の動きを阻害するようになるため好ましくない。
【実施例】
【0058】
以下、実施例等を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例等によって限定されるものではない。
【0059】
<測定方法>
実施例および比較例における各物性値は、下記の方法で測定した。
[固有粘度(IV)]
ポリマーを97%濃硫酸に溶解し、オストワルド粘度計を用い30℃で測定した。
【0060】
[繊度]
JIS L 1015に基づき、正量繊度のA法に準拠した測定を実施し、見掛繊度にて表記した。
【0061】
[原繊維の破断強度、破断伸度]
JIS L 1015に基づき、インストロン社製、型番5565を用いて、以下の条件で測定した。
(測定条件)
つかみ間隔 :20mm
初荷重 :0.044cN(1/20g)/dtex
引張速度 :20mm/分
【0062】
[300℃乾熱収縮率]
約3300dtexのトウに98cN(100g)の荷重を吊るし、互いに30cm離れた箇所に印をつける。荷重を除去後、トウを300℃雰囲気下に15分間置いた後、印間の長さLを測定した。測定結果Lをもとに、下記式にて得られる値を300℃乾熱収縮率(%)とした。
300℃乾熱収縮率(%)=(30−L)/30×100
【0063】
[染色前後の300℃乾熱収縮率の比]
上記の測定・算出法により、織物の300℃乾熱収縮率と染色繊維の300℃乾熱収縮率とをそれぞれ求めた。得られた結果を用いて、下記式にて得られる値を染色前後の300℃乾熱収縮率の比とした。
染色前後の300℃乾熱収縮率比=織物の300℃乾熱収縮率/染色織物の300℃乾熱収縮率
【0064】
[染着率]
布帛を染色した染色残液に、この染色残液と同容積のジクロロメタンを加え、残染料を抽出する。引き続き、抽出液について、波長670nm、540nm、530nmの吸光度をそれぞれ測定し、あらかじめ染料濃度が既知のジクロロメタン溶液から作成した上記3波長の検量線から抽出液の染料濃度をそれぞれ求め、上記3波長における濃度の平均値を抽出液の染料濃度(C)とした。染色前の染料濃度(Co)を用いて、以下の式にて得られる値を染着率(U)とした。
染着率(U)=(Co−C)/Co×100
【0065】
[染色布帛の明度指数L*値]
カラー測色装置(マスベク社製、商品名:マクベスカラーアイ モデルCE−3100)を用いて、以下の測定条件で測定を実施した。なお、L*は、数値が小さいほど濃染化されていることを示す。
(測定条件)
視野 :10度
光源 :D65
波長 :360〜740nm
【0066】
[染色布帛の限界酸素指数(LOI)]
JIS K7201−2のLOI測定法に基づき、得られた染色布帛について、以下の測定条件で測定を実施した。
(測定条件)
試験片の形 :V
寸法 :140mm×52mm
点火手順 :B(伝ぱ点火)
酸素濃度間隔:0.2%
【0067】
[布帛の引張強度]
JIS L1096の引張強さA法(ストリップ法:ラベルドストリップ法)に基づき、インストロン社製、型番1122を用いて、染色前の布帛について以下の測定条件で測定を実施した。
(測定条件)
切断採取時の試験片の大きさ :幅5.5cm×長さ30cm
試験片の幅 :5.0cm
試験片の枚数 :3枚
測定回数 :各試験片につき、たて方向およびよこ方向それぞれ3回
つかみ間隔 :20cm
初荷重 :50g
引張速度 :20mm/分
【0068】
[布帛の染色時収縮率]
布帛のタテ、ヨコのサイズにつき、染色前後にそれぞれ測定し(n=5)、染色前後の収縮率の平均値を求めた。
【0069】
[炎に対する遮熱性]
ISO 9151に準拠した方法により、24℃温度上昇試験を行った。具体的には、試験用積層防護服を規定の火炎に暴露し、該積層防護服内の温度上昇が24℃に達するまでの時間を測定し、炎に対する遮熱性の評価とした。
【0070】
[放射熱に対する遮熱性]
ISO 6942;1992に準拠した方法により、測定を実施した。具体的には、試験用積層防護服を規定の火炎に暴露し、該積層防護服内の温度上昇が二度火傷に達するまでの時間を測定し、放射熱に対する遮熱性の評価とした。
【0071】
<実施例1>
[紡糸液調製工程]
特公昭47−10863号公報記載の方法に準じた界面重合法により製造した、固有粘度が1.9のポリメタフェニレンイソフタルアミド粉末20.0質量部を、−10℃に冷却したN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す)80.0質量部中に懸濁させ、スラリー状にした。引き続き、懸濁液を60℃まで昇温して溶解させ、透明なポリマー溶液を得た。
【0072】
[紡糸・凝固工程]
得られたポリマー溶液を紡糸原液として、孔径0.07mm、孔数1500の紡糸口金から、40℃の凝固浴中に吐出して紡糸した。凝固浴の組成は、NMPが55質量%、水が45質量%であり、凝固浴中に糸速7m/分で吐出して紡糸した。
【0073】
[可塑延伸浴延伸工程]
引き続き、温度40℃の水/NMP=40/60(質量%)の組成の可塑延伸浴中にて、5.2倍の延伸倍率で延伸を行った。
【0074】
[洗浄工程]
延伸後、20℃の水/NMP=70/30浴(浸漬長1.8m)、20℃の水浴(浸漬長3.6m)、さらに60℃の温水浴(浸漬長5.4m)に順次通して、十分に洗浄を行った。
【0075】
[水蒸気弛緩熱処理工程]
洗浄した繊維に対して、飽和水蒸気圧力294kPa下、弛緩倍率0.80倍にて、約1.0秒間の水蒸気弛緩熱処理を実施した。
【0076】
[乾熱処理工程]
弛緩熱処理実施後、表面温度350℃の熱ローラーにて延伸倍率1.0倍(定長)にて乾熱処理を施し、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
【0077】
[原繊維の物性]
得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維の物性は、繊度2.22dtex、破断強度3.20cN/dtex、破断伸度35.2%、であった。また、300℃乾熱収縮率は2.5%であり、優れた熱収縮安定性を示した。原繊維の物性を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
[布帛の作製]
得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維のトウに、押込捲縮を付与した後、2インチにカットした。引き続き、通常の紡績工程を通して紡績糸(番手:30/2)を作製し、当該紡績糸から2/1の綾織に織成した織物(目付:240g/m、厚み:0.8mm)を作製した。公知の方法で精練処理し、布帛表面にある糊剤、油剤を除去した。
【0080】
[布帛の染色工程]
カチオン染料(日本化薬社製、商品名:Kayacryl Blue GSL−ED(B−54))6%owf、酢酸0.3mL/L、硝酸ナトリウム20g/L、キャリア剤としてベンジルアルコール70g/L、分散剤として染色助剤(明成化学工業社製、商品名:ディスパーTL)0.5g/Lを含む染色液を用意した。上記で得られた布帛と当該染色液の浴比を1:40として、120℃下60分間の染色処理を実施した。
染色処理後、ハイドロサルファイト2.0g/L、アミラジンD(第一工業製薬社製、商品名:アミラジンD)2.0g/L、水酸化ナトリウム1.0g/Lの割合で含有する処理液を用いて、浴比1:20で80℃下20分間の還元洗浄を実施し、水洗後に乾燥することにより染色布帛を得た。
【0081】
[染色布帛等の物性]
染色前後の布帛および染色液を用いて、上記測定方法により、限界酸素指数(LOI値)、布帛の引張強度、布帛の染色時収縮率、布帛の明度指数L*値、および染着率を評価した。また、染色繊維を引き抜き、染色前後の300℃乾熱収縮率の比を評価した。
その結果、限界酸素指数(LOI値)は30.5、布帛の引張強度は1254N/5cm、布帛の染色時収縮率は0.5%、明度指数L*は28.9と良好な布帛物性を示した。また、染着率は90.5%、染色前後の300℃乾熱収縮率の比は1.98であった。結果を表2に示す。
【0082】
【表2】

【0083】
[積層防護服の作製]
(表地層)
上記で得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維のトウに、押込捲縮を付与した後、2インチにカットした。引き続き、コポリパラフェニレン・3、4‘オキシジフェニレンテレフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ(株)製、商標名:テクノーラ)と、混合比率が90:10となる割合で混紡した紡績糸(番手:20/2)を作製した。得られた紡績糸を用いて、2/1の綾織に織成した織物(目付:280g/m、厚み:0.8mm)作製し、これを表地層とした。
【0084】
(内層)
透湿防水性のポリテトラフルオロエチレン製フィルム(ジャパンゴアテックス(株)製、目付:35g/m)の片面に、上記で得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維からなる織布(目付:75g/m)を貼り合わせた。フィルムのもう一方の面には、遮熱性を持たせるために、上記で得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維の丸編物(目付:180g/m、ハニカムメッシュ構造)を貼り合せ、内層となる複合体を得た。
【0085】
(積層工程)
上記で得られた表地層、および内層の2層を重ねて縫合することにより、本発明の積層防護服を得た。得られた積層防護服の評価結果を、表3に示す。
【0086】
【表3】

【0087】
<実施例2>
[紡糸液調製工程]
撹拌装置および原料投入口を備えた反応容器に、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略す)854.8部を入れ、このNMP中にメタフェニレンジアミン(以下、MPDAと略す)83.4部を溶解した。さらに、該溶液にイソフタル酸クロライド(以下、IPCと略す)156.9部を徐々に撹拌しながら添加し、反応を実施した。
反応開始から40分間攪拌を継続した後、水酸化カルシウム粉末を57.1部添加し、さらに40分間撹拌した後に反応を終了させた。反応容器から重合溶液を取り出したところ、重合溶液は透明であり、ポリマー濃度は16%であった。
【0088】
[紡糸・凝固工程、可塑延伸浴延伸工程、洗浄工程、水蒸気弛緩熱処理工程、乾熱処理工程]
得られた重合溶液を紡糸原液とし、可塑延伸浴中延伸倍率を5.3倍、水蒸気弛緩倍率を0.77倍とした以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
【0089】
[原繊維の物性]
得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維の物性は、繊度2.20dtex、破断強度3.11cN/dtex、破断伸度36.9%、300℃乾熱収縮率2.7%であった。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0090】
[布帛の製造・染色]
引き続き、実施例1と同様に、当該繊維から織物を作製し、その後に染色を実施した。
【0091】
[染色布帛等の物性]
得られた染色織物の物性を、表2に示す。
【0092】
[積層防護服の作製]
(表地層)
上記で得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を用いて、実施例1と同様に、表地層となる織物を作製した。
(積層工程)
実施例1と同一の方法で内層となる複合体を作製し、実施例1と同一の方法により積層防護服を得た。得られた積層防護服の評価結果を、表3に示す。
【0093】
<実施例3>
[原繊維の製造]
可塑延伸浴中延伸倍率を5.5倍、水蒸気弛緩倍率を0.69倍とした以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
【0094】
[原繊維の物性]
得られた繊維の物性は、繊度2.00dtex、破断強度3.35cN/dtex、破断伸度33.1%、300℃乾熱収縮率2.6%であった。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0095】
[布帛の製造・染色]
引き続き、実施例1と同様に、当該繊維から織物を作製し、その後に染色を実施した。
【0096】
[染色布帛等の物性]
得られた染色織物の物性を、表2に示す。
【0097】
[積層防護服の作製]
(表地層)
上記で得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を用いて、実施例1と同様に、表地層となる織物を作製した。
(積層工程)
実施例1と同一の方法で内層となる複合体を作製し、実施例1と同一の方法により積層防護服を得た。得られた積層防護服の評価結果を、表3に示す。
【0098】
<比較例1>
[原繊維の製造]
可塑延伸浴中延伸倍率を5.0倍、水蒸気弛緩倍率を1.05倍(延伸)とした以外は、実施例3と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
【0099】
[原繊維の物性]
得られた繊維の物性は、繊度2.12dtex、破断強度3.42cN/dtex、破断伸度29.1%、300℃乾熱収縮率6.7%であった。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0100】
[布帛の製造・染色]
引き続き、実施例1と同様に、当該繊維から織物を作製し、その後に染色を実施した。
【0101】
[染色織物等の物性]
得られた染色織物の物性を、表2に示す。
【0102】
[積層防護服の作製]
(表地層)
上記で得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を用いて、実施例1と同様に、表地層となる織物を作製した。
(積層工程)
実施例1と同一の方法で内層となる複合体を作製し、実施例1と同一の方法により積層防護服を得た。得られた積層防護服の評価結果を、表3に示す。
【0103】
<比較例2>
[原繊維の製造]
可塑延伸浴中延伸倍率を5.5倍、水蒸気弛緩処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
【0104】
[原繊維の物性]
得られた繊維の物性は、繊度2.04dtex、破断強度3.20cN/dtex、破断伸度33.1%、300℃乾熱収縮率5.9%であった。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0105】
[布帛の製造・染色]
引き続き、実施例1と同様に、当該繊維から織物を作製し、その後に染色を実施した。
【0106】
[染色織物等の物性]
得られた染色織物の物性を、表2に示す。
【0107】
[積層防護服の作製]
(表地層)
上記で得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を用いて、実施例1と同様に、表地層となる織物を作製した。
(積層工程)
実施例1と同一の方法で内層となる複合体を作製し、実施例1と同一の方法により積層防護服を得た。得られた積層防護服の評価結果を、表3に示す。
【0108】
<比較例3>
[原繊維の製造]
紡糸液調製工程における溶媒を、NMPからジメチルアセトアミド(以下、DMAcと略す)に変更した以外は、実施例2と同様にして得た重合溶液を紡糸原液とし、特公昭62−184127号公報記載の方法に準じて乾式紡糸を行った。乾燥塔を出た繊維をDMAc30質量%の90℃浴にて4.0倍に延伸し、水蒸気弛緩工程を経ずに80℃でクリンプ加工を行うことにより、ポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を得た。
【0109】
[原繊維の物性]
得られた繊維の物性は、繊度1.65dtex、破断強度3.30cN/dtex、破断伸度55.5%、300℃乾熱収縮率14.9%であった。得られた繊維の物性を表1に示す。
【0110】
[布帛の製造・染色]
引き続き、実施例1と同様に、当該繊維から織物を作製し、その後に染色を実施した。
【0111】
[染色織物等の物性]
得られた染色織物の物性を、表2に示す。
【0112】
[積層防護服の作製]
(表地層)
上記で得られたポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維を用いて、実施例1と同様に、表地層となる織物を作製した。
(積層工程)
実施例1と同一の方法で内層となる複合体を作製し、実施例1と同一の方法により積層防護服を得た。得られた積層防護服の評価結果を、表3に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層布帛からなる防護服であって、
該積層布帛は、メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛を、少なくとも1層として含むものであり、
該メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、原繊維の破断強度が2.5cN/dtex以上、染色前後の300℃乾熱収縮率の比が2.5以下であり、
染色後の該メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛の明度指数L*値が、30以下である積層防護服。
【請求項2】
前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維は、原繊維の300℃乾熱収縮率が3.0%以下である請求項1記載の積層防護服。
【請求項3】
染色後の前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛の染着率が、90%以上である請求項1または2記載の積層防護服。
【請求項4】
染色後の前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛の限界酸素指数(LOI)が、30以上である請求項1から3いずれか記載の積層防護服。
【請求項5】
前記積層防護服は、表地層と内層のみからなる二層構造であり、
該表地層は、前記メタ型全芳香族ポリアミド繊維を含む布帛であり、
該内層は、透湿防水性フィルムの両面に全芳香族ポリアミド繊維からなる織編布が貼り合わされた複合体である請求項1から4いずれか記載の積層防護服。
【請求項6】
前記表地層は、撥水加工されている請求項1〜5いずれか記載の積層防護服。
【請求項7】
前記透湿防水性フィルムは、ポリテトラフルオロエチレンからなるフィルムである請求項1〜6いずれか記載の積層防護服。
【請求項8】
前記全芳香族ポリアミド繊維からなる織編布の目付が、50〜200g/mである請求項1〜7いずれか記載の積層防護服。

【公開番号】特開2010−261133(P2010−261133A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−114784(P2009−114784)
【出願日】平成21年5月11日(2009.5.11)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】