説明

空き缶製三味線とその製造方法

【課題】空き缶製の三味線とその製法に関し、音質と音量の改善を目的とする。
【解決手段】空き缶製の胴1の正面側は、底部又は蓋部の全部又は一部を開けて開口を設けると共に、動物の皮や合成繊維製の振動布2を被せて、テンションを付与した状態で、缶側壁12に接着して取付け固定してあるため、胴部が空き缶製というだけであって、弦の振動の増幅手段は、本皮や人工皮を張った実物の三味線と同様な構成となるので、演奏時の音質も音量も実物と劣ることはなく、演奏会などにも使用可能となる。また、棹4の先端に設けたヘッド部6には、ウクレレ用やギター用のペグ71、72、73を取付けて、各弦を巻き取り可能としたため、従来のテーパ部の摩擦力だけで保持される糸巻のように折角調弦した後の弦が狂ったりする問題を効果的に解消できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沖縄ではカンカラ三線とも呼ばれている空き缶製の三味線に関し、音質と音量の改善を目的とする。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に記載のように、沖縄特有のカンカラ三線は、直径20cm程度の空き缶を胴材に利用した三線で、戦前から玩具としては有ったが、特に終戦直後に盛んに作られた。米軍支給の缶詰の空き缶と野戦ベッドの支柱を棹材にした。荒廃と帰した沖縄の人々は、カンカラ三線で民謡を演唱し、元気を取り戻したという。
近年のカンカラ三線に関する技術としては、特許文献1に記載のように、胴部が空き缶製又は木製の三線の胴部の表面に、上質紙やアート紙、ミラコート紙、ホイル紙、和紙などの不透明な紙を材料としたシールを粘着し、このシールには予め所定の模様が付してある。
【非特許文献1】琉球新報社編の2005年12月5日発行「沖縄コンパクト辞典」の第127・128ページ
【特許文献1】実用新案登録第3088636号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1記載のようなシール粘着のカンカラ三線は、容易に安価に製造できるとう利点がある反面、空き缶製の胴部の正面側や裏面側の缶蓋に、上質紙やアート紙、ミラコート紙、ホイル紙、和紙などのシールを粘着してあるため、従来のカンカラ三線と同様に缶蓋自体が共鳴体として振動して振動音を発することになり、実物の三線に比べると音質が劣るという欠点は避けられない。
特に、缶蓋にさらにシールを粘着するので振動が阻害され、従来のカンカラ三線よりも音質が低下するという問題がある。
また、実物の三線のような張力の強い蛇皮や人工皮を張った場合に比べて、カンカラ三線の弦の振動増幅は、金属製の缶蓋自体の振動で行われるので、音質・音量ともに劣り、演奏会などのような本格的な演奏に使用することは殆ど不可能である。なお、蛇皮や人工皮を張る場合は、専用のジャッキなどを用いて強力なテンションを発生させた状態で強力な接着剤で接着し固定するので、高い音質を実現でき、音量も充分である。
本発明の技術的課題は、このような問題に着目し、空き缶製の三線や三味線においても、蛇皮や人工皮、猫皮などを張った実物の三味線と同様な良好な音質・音量を実現可能な三味線を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の技術的課題は次のような手段によって解決される。請求項1は、空き缶製の胴の正面側は、底部又は蓋部の全部又は一部を開けて開口を設けると共に、動物の皮又は合成繊維製の振動布を被せて、テンションを付与した状態で、缶側壁に接着して取付け固定してなることを特徴とする空き缶製三味線である。
三味線には、日本本土で多用されている三味線のほか、沖縄地方で多用されている三線も含まれるものとする。
このように、空き缶製の胴の正面側は、底部又は蓋部の全部又は一部を開けて開口を設けると共に、動物の皮や合成繊維製の振動布を被せて、テンションを付与した状態で、缶側壁に接着して取付け固定してあるため、胴部が空き缶製というだけであって、弦の振動の増幅手段は、本皮や人工皮を張った実物の三味線と同様な構成となるので、演奏時の音質も音量も実物と劣ることはなく、演奏会などにも使用可能となる。
なお、三味線用に適した動物の皮としては、猫や犬の皮、蛇皮が適している。合成繊維製の振動布は、人工皮の範疇に含まれるものとする。
【0005】
請求項2は、前記胴の動物皮や振動布を張らない裏側は、缶の蓋部若しくは底部を残した状態、又は木製や厚紙製、合成樹脂製、布製、動物の皮から成る裏蓋を固定し若しくは着脱可能としてあることを特徴とする請求項1に記載の空き缶製三味線である。
このように、胴の動物皮や振動布を張らない裏側は、缶自体の蓋部や底部を残した状態にしたり、木製や厚紙製、合成樹脂製、布製、動物の本皮などの裏蓋を固定し若しくは着脱可能としてあるため、裏蓋の全く無い、開口状態のままとするよりも、反響音による音響効果が高まり、音質・音量ともに向上する。
【0006】
請求項3は、棹の先端に設けたヘッド部には、ウクレレ用又はギター用のペグを取付けて、各弦を巻き取り可能としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空き缶製三味線である。
このように、棹の先端に設けたヘッド部には、ウクレレ用やギター用のペグを取付けて、各弦を巻き取り可能としたため、従来のテーパ部の摩擦力だけで保持される糸巻のように折角調弦した後の弦が狂ったりする問題を効果的に解消できる。
【0007】
請求項4は、空き缶製の胴の正面側は、底部又は蓋部の全部又は一部を開けて開口を設けると共に、動物の皮又は合成繊維製の振動布を被せて、テンションを付与した状態で、その振動領域以外の部分を缶側壁の外面に接着し、取付け固定することを特徴とする空き缶製三味線の製造方法である。
このように、空き缶製の胴の正面側は、底部又は蓋部の全部又は一部を開けて開口を設けると共に、動物の皮又は合成繊維製の振動布を被せて、テンションを付与した状態で、その振動領域以外の部分を缶側壁の外面に接着し、取付け固定するので、空き缶を胴部として使用するにも関わらず、実物の三味線と同様に音質・音量に優れた空き缶製三味線を容易に製造できる。その結果、簡易型の空き缶製三味線を安価に供給可能となり、児童生徒の三味線教育にも寄与できる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1のように、空き缶製の胴の正面側は、底部又は蓋部の全部又は一部を開けて開口を設けると共に、動物の皮又は合成繊維製の振動布を被せて、テンションを付与した状態で、缶側壁に接着して取付け固定してあるため、胴部が空き缶製というだけであって、弦の振動の増幅手段は、本皮や人工皮を張った実物の三味線と同様な構成となるので、演奏時の音質も音量も実物に劣ることはなく、演奏会等にも使用可能となる。
【0009】
請求項2のように、胴の動物皮や振動布を張らない裏側は、缶自体の蓋部や底部を残した状態にしたり、木製や厚紙製、合成樹脂製、布製、動物の本皮などの裏蓋を固定し若しくは着脱可能としてあるため、裏蓋の全く無い、開口状態のままとするよりも、反響音による音響効果が高まり、音質・音量ともに向上する。
【0010】
請求項3のように、棹の先端に設けたヘッド部には、ウクレレ用やギター用のペグを取付けて、各弦を巻き取り可能としたため、従来の三線のテーパ部の摩擦力だけで保持される糸巻のように、折角調弦した後の弦が狂ったりする問題を、効果的に解消できる。
【0011】
請求項4のように、空き缶製の胴の正面側は、底部又は蓋部の全部又は一部を開けて開口を設けると共に、動物の皮又は合成繊維製の振動布を被せて、テンションを付与した状態で、その振動領域以外の部分を缶側壁の外面に接着し、取付け固定するので、空き缶を胴部として使用するにも関わらず、実物の三味線と同様に音質・音量に優れた空き缶製三味線を容易に製造できる。その結果、簡易型の空き缶製三味線を安価に供給可能となり、児童生徒の三味線教育にも寄与できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
次に本発明による空き缶製三味線が実際上どのように具体化されるか実施形態を説明する。図1は本発明による空き缶製三味線の全容を示す図で、(1)は正面図、(2)は底面図である。1は空き缶製の胴で、表面側の缶蓋(缶底でも可)を全部又は部分的に除去して開口を形成し、開口を動物の皮や合成繊維製の布2で塞ぐと共に、充分なテンション(張力)を付けた状態で、缶製の胴1の外面に貼り付けてある。
なお、缶製胴1の裏面側の蓋(底でも可)は除去して、開口3が開いた状態になっているが、表面側と同様に動物の皮や合成繊維製の布2で塞いでもよい。あるいは、板材などで塞いだり、着脱式の裏蓋を設けてもよい。空き缶の蓋板や底板をそのまま残しておいてもよい。缶と別体の裏蓋は、厚紙や合成樹脂製、布製、動物の本皮でも可能である。
【0013】
4は棹であり、その根元側の取付け軸41を缶製の胴1に開けた貫通穴に挿通して、先端42を缶製胴1の外側に突出させ、弦51、52、53を取付けた糸掛け5を取付け固定している。なお、棹4の根元側に鳩胸43を形成してもよい。
棹4の先端には、ヘッド部6を一体に形成したり、別体のヘッド部6を接着などの手法で取付け固定してある。
ヘッド部6には、通常の三線の糸巻き機構部と同様に糸巻き棒のテーパ部を挿入して摩擦力で保持させてもよいが、図例の場合は、ヘッド部6に例えばウクレレ用のペグ71、72、73を取付けて、各弦51、52、53を巻き付けてあり、ペグつまみ71’、72’、73’を回転操作することによって、調弦可能となっている。
従って、糸巻き棒状の棒81、82、83は各弦51、52、53と全く関係無く、実物の三線状に見せるための単なる装飾であって、見せ掛けの糸巻き棒である。
【0014】
図2は、合成繊維製布2の取付け方を工程順に示すための缶製胴1の縦断面図である。
(1)は缶製胴となる空き缶であって、缶詰の空き缶を有効利用する場合は、缶底11が残っている側が、缶製胴の正面側で、缶蓋を除去後の開口3側が、缶製胴の背部すなわち裏側となる。
残っている缶底11は、完全に全部を除去することも不可能ではないが、強度保持のために、(2)のように、缶の側壁12寄りの1〜4cm程度をリング状に残して、補強底11cとして残しておくのが良い。すなわち、中央部寄りを切除して、小径の開口11oを形成しておく。
【0015】
次いで(3)のように、小径開口11oの上から、破線で示す合成繊維製布2を被せて、充分なテンションを加えた状態で、缶側壁12の外面に接着剤で貼り付け固定する。
この場合、合成繊維製布2を取付け接着する際に充分なテンションを加えておかないと、音質や音量を確保できないのて、ジャッキなどの専用の道具を用いて、充分なテンションを加えた状態で張り付けて、外周側21すなわち振動部以外を接着剤で強固に接着固定する。
このようにして合成繊維製布2を接着固定し、接着剤が乾燥した状態の側面図を(4)に示す。なお、合成繊維製の振動布2は、缶側と判別し易いように破線で表現してある。合成繊維製の人工皮2に代えて、動物の本皮を使用することも可能である。
【0016】
(4)の缶製胴の側壁12に前記のように貫通穴を開けて、棹4の根元側の取付け軸41を貫通穴に挿通し、先端42を缶製胴1の側壁12から突出させ、弦51、52、53の基端を連結した糸掛け5を取付け固定すると完成である。
弦支持用の馬9を立てて、各弦51、52、53を乗せた状態で、各ペグつまみ71’、72’、73’を回転操作することによって、各弦51、52、53の張力を調節し、調弦する。ウクレレ用のペグ71、72、73を使用しているので、通常の三線のようにテーパの摩擦力だけで糸巻き棒を固定する場合と違って、調弦が狂うことも少ない。
【0017】
以上のように、本発明の場合、三味線の胴部は空き缶製であるにも関わらず、その開口側に充分なテンションを付けて動物の本皮や合成繊維製の布2を張って取付け固定してあるので、実物の蛇皮線と同様に音質は良質で音量も充分である。
図示例では、補強底11cが側壁12寄りに残るように、小さな開口11oを開けてあるので、合成繊維製の布2を張る際にテンションを加えても、缶製胴1の振動布2側が変形したり、押し潰されたりする恐れはない。
従って、テンションを弱めにしたり、直径方向の補強バーを複数本、缶製胴1の内部に挿入したり、ドーナツ状のリング板を開口近くに挿入しておくなどの補強処理をしてある場合は、補強底11cを残さないで、裏側の開口3と同様に、正面側の缶底を全部除去することも可能である。
【0018】
缶製胴1の裏側の開口3は、そのまま開口した状態でも差し支え無いが、木製や厚紙、合成樹脂製などの手段を用いて裏蓋を設け、閉じることもできる。この裏蓋は、容易に着脱可能な構成でもよい。なお、動物の本皮や合成繊維製の布を裏蓋にしてもよい。
缶製胴1の裏側の開口3は、缶の巻き締め部13が残っている方が、強度保持の上で有効である。従って、空き缶の丈が高過ぎる場合は、適当な高さでカットするので、巻き締め部13が残らない状態となるが、可能な限り、補強の目的で、巻き締め部13は残しておくのが良い。
振動布2側の巻き締め部13は、缶製胴1としての強度保持と、振動布2を安定良く支持する上でも、残しておくことが必要である。
【0019】
缶製胴1用の空き缶は、缶詰の中身を使用後の空き缶を有効利用してもよいが、菓子などの食品や化粧品などの収納用の缶を使用することも可能である。
缶詰の空き缶を使用する場合は、蓋を開けて開口3となった部分が、缶製胴1の裏側となり、底として残っている部分の中央を切除して、リング状の補強底11cを残しておくことになる。
菓子類や化粧品などの収納用の缶のように、着脱式の蓋が付いている場合は、この蓋の中央に小径開口を開けて、補強底11cを残し、裏側は缶底で密閉する構造も可能となる。
逆に、着脱式の蓋が付いている方を裏側とし、底部の中央に小径開口を開けて補強底11cを残し、振動布2を張ることもできる。この場合は、付属の蓋を着脱することで、裏側の開口を開閉できる。
なお、缶詰として中身を収納する前の缶を入手して、流用することもできる。
缶製胴1の形状は、真円に限らず、楕円や多角形状など、種々の形状を採用できる。
【0020】
振動布2は、従来から使用されている人工皮をそのまま使用してもよいが、各種の合成繊維製の布を使用することもできる。合成繊維製の布の場合の材質は、ポリエチレン系やナイロン系、ポリエステル、塩化ビニールなどの合成繊維で織った人工皮が適しており、強度も充分である。
織り方は、サテン織りなど、種々の織り方を採用できる。
これらの布の場合は、空気が通過すると振動音が不十分となるので、接着剤や樹脂などを塗布したり含浸して、空気が漏れないような工夫を要する。
なお、このような合成繊維製の布も「人工皮」や「合成皮」の範疇に含まれる場合もある。
【産業上の利用可能性】
【0021】
以上のように、本発明によると、空き缶製の三味線においても、缶製の胴に動物皮や合成繊維製の振動布をテンションを付与した状態で接着し取付け固定してあるので、実物の三味線と同様な音質・音量を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による空き缶製三味線の全容を示す図で、(1)は正面図、(2)は底面図である。
【図2】動物の本皮や合成繊維製の振動布の取付け方を工程順に示すための缶製胴の縦断面図である。なお、(4)は側面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 空き缶製の胴
11 缶の底部
11o 小径開口
11c 補強底
12 缶の側壁
2 動物皮や合成繊維製の振動布
21 振動布の接着部
3 裏側の開口
4 棹
51、52、53 弦
6 ヘッド部
71、72、73 ペグ
81、82、83 糸巻き棒状の棒
9 弦支持用の馬

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空き缶製の胴の正面側は、底部又は蓋部の全部又は一部を開けて開口を設けると共に、動物の皮又は合成繊維製の振動布を被せて、テンションを付与した状態で、缶側壁に接着して取付け固定してなることを特徴とする空き缶製三味線。
【請求項2】
前記胴の動物皮や振動布を張らない裏側は、缶の蓋部若しくは底部を残した状態、又は木製や厚紙製、合成樹脂製、布製、動物の皮から成る裏蓋を固定し若しくは着脱可能としてあることを特徴とする請求項1に記載の空き缶製三味線。
【請求項3】
棹の先端に設けたヘッド部には、ウクレレ用又はギター用のペグを取付けて、各弦を巻き取り可能としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の空き缶製三味線。
【請求項4】
空き缶製の胴の正面側は、底部又は蓋部の全部又は一部を開けて開口を設けると共に、動物の皮又は合成繊維製の振動布を被せて、テンションを付与した状態で、その振動領域以外の部分を缶側壁の外面に接着し、取付け固定することを特徴とする空き缶製三味線の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−156876(P2010−156876A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335571(P2008−335571)
【出願日】平成20年12月27日(2008.12.27)
【出願人】(509006163)
【Fターム(参考)】