説明

空気入りタイヤ及びその製造方法

【課題】グリップ性能を保持しつつ摩耗初期に生じやすい偏摩耗を抑制可能な空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】リブ溝4により区画されたブロック部5を有するトレッド部材3を具備する空気入りタイヤ1において、リブ溝4の表面層の100℃100%モジュラスをブロック部5内部の100℃100%モジュラスの1.10倍以上2.0倍以下の大きさにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗用車用タイヤ,スタッドレスタイヤ,競技用タイヤ,バス・トラック用タイヤ,オフロードタイヤ,二輪車用タイヤ等に適用して好適な、空気入りタイヤ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、物性が異なる表面層と内面層から成る2層構造によりトレッド部材を形成することによりタイヤ性能の向上を図る技術が提案されている。具体的には、表面層の硬度が内面層の硬度よりも高い2層構造によりトレッド部材を形成することにより、摩耗初期の偏摩耗量を低減すると共に氷雪路走行時のグリップ性能を向上させる技術が提案されている(特許文献1参照)。また、トレッド部材表面に形成した溝の底部に短繊維を配合した強化ゴム材を配置することにより、タイヤの耐摩耗性を向上させる技術が提案されている(特許文献2参照)。また、トレッド部材表面に形成したタイヤの幅方向に伸びる溝の少なくとも一方の壁面に硬度がトレッドゴムの硬度より5%以上大きいゴムを配置することにより、ヒール・アンド・トウ摩耗の発生を抑制する技術が提案されている(特許文献3参照)。また、300%伸張時における内面層を構成するゴム組成物の応力に対する表面層を構成するゴム組成物の応力の比が70[%]以下となるように、すなわち内面層よりも表面層が軟らかい2層構造によってトレッド部材を形成することにより、走行初期のグリップ性能を向上させる技術が提案されている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開平7−117411号公報
【特許文献2】特開平1−153305号公報
【特許文献3】特開平11−78414号公報
【特許文献4】特開2002−079808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
トレッド部材を2層構造により形成する場合、厚さ1.5[mm]以下の部材を均一に配置,挿入する必要があるが、厚さ1.5[mm]以下の部材を均一に配置,挿入することは製造プロセス上非常に困難であるために、生産性よくタイヤトレッド部材を製造することができない。また、トレッド部材を2層構造により形成した場合には、表面層と内面層間の剛性が異なるために、走行末期に硬いゴムだけが選択的に残る別のタイプの偏摩耗が生じやすくなる。さらには、トレッド部材の表面層を硬度が高い部材により形成した場合には、走行初期における偏摩耗性は改良されるが、逆にタイヤのグリップ性能が著しく低下することがある。
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、グリップ性能を保持しつつ摩耗初期に生じやすい偏摩耗を抑制可能な生産性に優れた空気入りタイヤ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願発明の発明者らは、鋭意研究を重ねてきた結果、リブ溝の表面層の100℃100%モジュラスをブロック部内部の100℃100%モジュラスの1.10倍以上2.0倍以下の大きさにすることにより、グリップ性能を保持しつつ摩耗初期に生じやすい偏摩耗を抑制可能な空気入りタイヤを実現できることを知見した。このような空気入りタイヤによれば、トレッド部材を2層構造により形成する必要がないので、生産性よく空気入りタイヤを製造することができる。「100℃100%モジュラス」とは、温度100℃の雰囲気下において部材に100%の歪みを与えた時の部材の応力を意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態となる空気入りタイヤの内部構成について説明する。
【0007】
〔空気入りタイヤの内部構成〕
本発明の実施形態となる空気入りタイヤ1は、図1に示すように、ラジアルカーカス(図示せず)と、このラジアルカーカスのクラウン部を覆うように配置された剛性の高いベルト2と、このベルト2の外周面に一周にわたって配置される、ゴム組成物により形成されたトレッド部材3とを主な構成要素として備える。また、トレッド部材3の外表面は円弧状であるクラウン形状に形成され、このトレッ部材3が空気入りタイヤ1の路面と接する外皮となっている。また、トレッド部材3の表面には、空気入りタイヤ1の円周方向に延びるリブ溝4によりブロック部5を区画することによってトレッドパターンが形成されている。
【0008】
トレッド部材3を形成するゴム組成物は、特に限定されることはないが、少なくとも1種以上のジエンゴム成分を少なくとも90[%]以上含有するものであることが望ましい。また、このゴム組成物には、補強性充填剤,プロセスオイル,老化防止剤,加硫促進剤,ステアリン酸や亜鉛華等の加硫促進助剤,硫黄等の加硫剤等、ゴム工業において通常使用される配合剤を適宜配合することができる。補強性充填剤としては、カーボンブラック,シリカ,炭酸カルシウム,酸化チタン等を例示することができるが、原料となるゴム成分100重量部に対して20〜150重量部のHAF,ISAF,SAF級カーボンブラックであることが望ましい。また、プロセスオイルとしては、パラフィン系,ナフテン系,アロマチック系等を例示することができる。
【0009】
加硫促進剤としては、特に制限されることはないが、メルカプトベンゾチアゾールやジベンゾチアジルジスルファイド等のチアゾール系、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド,N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド,N’−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド等のスルフェンアミド系、ジフェニルグアニジン系等を例示することができる。また、加硫促進剤の配合量は、ゴム成分100重量部に対して0.1〜5重量部であることが好ましい。また、加硫剤の配合量は、ゴム成分100重量部に対して0.5〜5.0重量部であることが好ましい。
【0010】
本実施形態において、リブ溝4の表面層の100℃100%モジュラスは、ブロック部5内部の100℃100%モジュラスの1.10倍以上、好ましくは1.3倍〜1.5倍以上の大きさに形成されている。なお、本明細書中において、リブ溝4の表面層とは、図2(a)〜(j)に示すように、トレッド部材3の表層のうち、路面と直接接触する部分を除いた表層の一部又は全て含む表面領域3aを示すが、作業性の観点からは図2(a)に示す表面領域3aであることが望ましく、好ましくは図2(b)〜(e)に示す表面領域3a、より好ましくは図2(b),(d)に示す表面領域3aである。また、ヒール・アンド・トウ摩耗の方向が予め判っている場合には図2(g)〜(i)に示す表面領域3aであってもよい。また、100℃100%モジュラスとは、温度100℃の雰囲気下において空気入りタイヤ1の円周方向に沿って約1[mm]スライスしたサンプルに対して100%の歪みを与えた時の応力を示す。また、表面層とは、タイヤ表面より車軸方向に1[mm]スライスした層を示す。また、内部とは、トレッド層の最下層から車軸方向に0.5〜1.5[mm]の位置をスライスした層を示す(但し、壁面は含まない)。
【0011】
リブ溝4の表面層の100℃100%モジュラスは、リブ溝4の表面層に硫黄や加硫促進剤等のゴム硬化材料を塗布することにより、ブロック部5内部の100℃100%モジュラスの1.10倍以上の大きさに形成することができる。ゴム硬化材料の塗布方法は、特に制限されることはないが、フィルムによりコーティングしたり、ゴム硬化材料を溶媒に溶かして刷毛で表面層に塗りつけたり、スプレーを表面層に吹き付けたりする等、種々の方法を適用することができる。また、加硫工程において表面層を硬化させる場合、表面層にゴム硬化材料を塗布するタイミングはトレッド部材5を押出成形した後から空気入りタイヤ1が加硫釜に入るまでの間のいずれかの工程になるが、加硫工程以外の工程で表面層を硬化させる場合には、表面層にゴム硬化材料を塗布するタイミングはどの工程において行ってもよい。
【0012】
本実施形態では、リブ溝4の表面層のみ、100℃100%モジュラスがブロック部5内部の100℃100%モジュラスの1.10倍以上の大きさに形成されていることとしたが、製造プロセスを簡易にするために、トレッド部材5の表面層全体の100℃100%モジュラスがブロック部5内部の100℃100%モジュラスの1.10倍以上の大きさになるようにしてもよい。但し、トレッド部材3の表面層のうち、路面と接触する部分が硬くなり過ぎると走行初期のグリップ性能が低下するので、トレッド部材3の表面層の100℃100%モジュラスの上限値は3.0[MPa]以下であることが望ましい。また、リブ溝4の表面層の100℃100%モジュラスが、空気入りタイヤ1の内部方向に向かって連続的に変化するように空気入りタイヤを形成してもよい。
【実施例】
【0013】
以下、本発明に係る空気入りタイヤを実施例に基づきより具体的に説明する。
【0014】
〔実施例1〕
実施例1では、コントロールゴムを用意し、アセトンに溶かした2−メルカプトベンゾチアゾール10%溶液をゴム硬化材料としてコントロールゴムの表層に吹き付けることにより、ブロック部内部の100℃100%モジュラスを100とした時、表層の100℃100%モジュラスを105に調製した。なお、ゴム硬化材料は図2(a)に示す形態になるようにコントロールゴムの表層に塗布した。そして、調製したゴム組成物を用いて競技用タイヤのトレッド部材を形成し、実施例1の競技用タイヤ(サイズ:225/40 R18)を得た。なお、
〔実施例2〕
実施例2では、ブロック部内部の100℃100%モジュラスを100とした時、表層の100℃100%モジュラスを110に調製した以外は実施例1と同じ処理を行うことにより実施例2の競技用タイヤを得た。
【0015】
〔実施例3〕
実施例3では、ブロック部内部の100℃100%モジュラスを100とした時、表層の100℃100%モジュラスを130に調製した以外は実施例1と同じ処理を行うことにより実施例3の競技用タイヤを得た。
【0016】
〔実施例4〕
実施例4では、ブロック部内部の100℃100%モジュラスを100とした時、表層の100℃100%モジュラスを150に調製した以外は実施例1と同じ処理を行うことにより実施例4の競技用タイヤを得た。
【0017】
〔実施例5〕
実施例5では、ブロック部内部の100℃100%モジュラスを100とした時、表層の100℃100%モジュラスを300に調製した以外は実施例1と同じ処理を行うことにより実施例5の競技用タイヤを得た。
【0018】
〔実施例6〕
実施例6では、ゴム硬化材料を図2(b)に示す形態になるようにコントロールゴムの表層に塗布した以外は実施例1と同じ処理を行うことにより実施例6の競技用タイヤを得た。
【0019】
〔実施例7〕
実施例7では、ブロック部内部の100℃100%モジュラスを100とした時、表層の100℃100%モジュラスを110に調製した以外は実施例6と同じ処理を行うことにより実施例7の競技用タイヤを得た。
【0020】
〔実施例8〕
実施例8では、ブロック部内部の100℃100%モジュラスを100とした時、表層の100℃100%モジュラスを130に調製した以外は実施例6と同じ処理を行うことにより実施例8の競技用タイヤを得た。
【0021】
〔実施例9〕
実施例9では、ブロック部内部の100℃100%モジュラスを100とした時、表層の100℃100%モジュラスを150に調製した以外は実施例6と同じ処理を行うことにより実施例9の競技用タイヤを得た。
【0022】
〔実施例10〕
実施例10では、ブロック部内部の100℃100%モジュラスを100とした時、表層の100℃100%モジュラスを300に調製した以外は実施例6と同じ処理を行うことにより実施例10の競技用タイヤを得た。
【0023】
〔実施例11〕
実施例11では、ゴム硬化材料を図2(g)に示す形態になるようにコントロールゴムの表層に塗布した以外は実施例4と同じ処理を行うことにより実施例11の競技用タイヤを得た。
【0024】
〔実施例12〕
実施例12では、ゴム硬化材料を図2(e)に示す形態になるようにコントロールゴムの表層に塗布した以外は実施例4と同じ処理を行うことにより実施例12の競技用タイヤを得た。
【0025】
〔比較例1,2,3〕
100℃100%モジュラスの値が異なる3種類のゴム組成物を用いて競技用タイヤのトレッド部材を形成し、比較例1,2,3の競技用タイヤ(サイズ:225/40 R18)を得た。
【0026】
〔グリップ性能の評価〕
上記実施例1〜12及び比較例1〜3の各タイヤを競技用車両に装備し、サーキット走行させ、走行時におけるテストドライバーのフィーリングを比較例1の結果を基準として相対評価することにより、各タイヤのドライ(DRY)グリップ性能を評価した。評価結果を以下の表1〜3に示す。なお、以下に示す評価値は、正の値で大きい程、ドライグリップ性能に優れることを示す。
【0027】
「+3」…運転頻度の低い一般ドライバーが明確に差を認識できる程度
「+2」…運転頻度の高い一般ドライバーが明確に差を認識できる程度
「+1」…プロのドライバーが差を認識できる程度
「0」…コントロール
「−1」…プロのドライバーが差を認識できる程度
「−2」…運転頻度の高い一般ドライバーが明確に差を認識できる程度
「−3」…運転頻度の低い一般ドライバーが明確に差を認識できる程度
【表1】

【表2】

【表3】

【0028】
〔偏摩耗性能の評価〕
上記実施例1〜12及び比較例1〜3の各タイヤを競技用車両に装備し、サーキット走行させ、走行後のヒール・アンド・トウ摩耗の出方を比較例1の結果を基準として相対評価することにより、各タイヤのグリップ性能を評価した。評価結果を上記表1〜3に示す。なお、以下に示す評価値は、正の値で大きい程、偏摩耗性能に優れることを示す。
【0029】
「+3」…走行後ヒール・アンド・トウ摩耗の形跡が見られない
「+2」…ヒール・アンド・トウ摩耗がコントロールより明らかに少ないと認識できる程度
「+1」…ヒール・アンド・トウ摩耗がコントロールより若干少ないと認識できる程度
「0」…コントロール
「−1」…ヒール・アンド・トウ摩耗がコントロールより若干多いと認識できる程度
「−2」…ヒール・アンド・トウ摩耗がコントロールより明らかに多いと認識できる程度
「−3」…ドライバーが走行中感じとれるほどの激しい偏摩耗
〔考察〕
表1〜3から明らかなように、表層の100℃100%モジュラスがブロック内部の100℃100%モジュラスの1.5倍以上である実施例4,5,10の競技用タイヤのグリップ性能は比較例1の競技用タイヤのグリップ性能より劣るが、それ以外の実施例の競技用タイヤのグリップ性能は比較例1の競技用タイヤのグリップ性能と同じ値を示した。また、表層の100℃100%モジュラスがブロック部内部の100℃100%モジュラスの1.1倍以下である実施例1,6の競技用タイヤの偏摩耗性能は比較例1の競技用タイヤのグリップ性能と同じであったが、実施例2〜5,7〜12の競技用タイヤの偏摩耗性能は比較例1,2の競技用タイヤの偏摩耗性能よりも高い値を示した。以上のことから、リブ溝の表面層の100℃100%モジュラスをブロック部内部の100℃100%モジュラスの1.10倍以上1.5倍以下の大きさにすることにより、グリップ性能を保持しつつ摩耗初期に生じやすい偏摩耗を抑制可能な空気入りタイヤを実現できることを知見した。
【0030】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施の形態について説明したが、この実施の形態による本発明の開示の一部をなす論述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、上記実施の形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれることは勿論であることを付け加えておく。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態となる空気入りタイヤの内部構成を示す断面図である。
【図2】図1に示すリブ溝の表面層を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1:空気入りタイヤ
2:ベルト
3:トレッド部材
4:リブ溝
5:ブロック部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リブ溝により区画されたブロック部を有するトレッド部材を具備する空気入りタイヤであって、前記リブ溝の表面層の100℃100%モジュラスが前記ブロック部内部の100℃100%モジュラスの1.10倍以上2.0倍以下の大きさを有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
リブ溝により区画されたブロック部を有するトレッド部材を具備する空気入りタイヤの製造方法であって、前記リブ溝の表面層に硬化剤を塗布することにより、前記リブ溝の表面層の100℃100%モジュラスを前記ブロック部内部の100℃100%モジュラスの1.10倍以上2.0倍以下の大きさにすることを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−49741(P2008−49741A)
【公開日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−225485(P2006−225485)
【出願日】平成18年8月22日(2006.8.22)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】