説明

空気入りタイヤ用インナーライナー及びそれを備えた空気入りタイヤ

【課題】ガスバリア性及び耐屈曲性に優れ、新品時及び走行後のタイヤの内圧保持性を向上させながらタイヤの重量を減少させることが可能な空気入りタイヤ用インナーライナーを提供する。
【解決手段】エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)からなるマトリックス中に、23℃におけるヤング率が前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)より小さい柔軟樹脂(C)を分散させた樹脂組成物(D)からなる層を少なくとも含むことを特徴とする空気入りタイヤ用インナーライナー6である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤ用インナーライナー及びそれを備えた空気入りタイヤに関し、特にガスバリア性及び耐屈曲性に優れ、新品時及び走行後のタイヤの内圧保持性を向上させながらタイヤの重量を減少させることが可能な空気入りタイヤ用インナーライナーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの内圧を保持するためにタイヤ内面に空気バリア層として配設されるインナーライナーには、ブチルゴムやハロゲン化ブチルゴム等を主原料とするゴム組成物が使用されている。しかしながら、これらブチル系ゴムを主原料とするゴム組成物は、空気バリア性が低いため、かかるゴム組成物をインナーライナーに使用した場合、インナーライナーの厚さを1mm前後とする必要があった。そのため、タイヤに占めるインナーライナーの重量が約5%となり、タイヤの重量を低減して自動車の燃費を向上させる上で障害となっている。
【0003】
一方、エチレン−ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略記することがある)は、ガスバリア性に優れることが知られている。該EVOHは、空気透過量が上記ブチル系のインナーライナー用ゴム組成物の100分の1以下であるため、100μm以下の厚さでも、タイヤの内圧保持性を大幅に向上させることができる上、タイヤの重量を低減することが可能である。
【0004】
上記ブチル系ゴムより空気透過性の低い樹脂は数多く存在するが、空気透過性がブチル系のインナーライナーの10分の1程度の場合、100μmを超える厚さでないと、内圧保持性の改良効果が小さく、また、100μmを超える厚さの場合、タイヤの重量を低減する効果が小さく、また、タイヤ屈曲時の変形からインナーライナーが破断したり、インナーライナーにクラックが発生してしまい、バリア性を保持することが困難となる。
【0005】
これに対し、上記EVOHを使用した場合、100μm以下の厚さでも使用可能であるため、タイヤ転動時の屈曲変形で破断し難く、また、クラックも生じ難くなる。そのため、空気入りタイヤの内圧保持性を改良するために、EVOHをタイヤのインナーライナーに用いることは有効であるといえる。例えば、特開平6−40207号公報(特許文献1)には、EVOHからなるインナーライナーを備えた空気入りタイヤが開示されている。
【0006】
しかしながら、通常のEVOHをインナーライナーとして用いた場合、タイヤの内圧保持性を改良する効果が大きいものの、通常のEVOHはタイヤに通常用いられているゴムに比べ弾性率が大幅に高いため、屈曲時の変形で破断したり、クラックが生じることがあった。そのため、EVOHからなるインナーライナーを用いた場合、タイヤ使用前の内圧保持性は大きく向上するものの、タイヤ転動時に屈曲変形を受けた使用後のタイヤでは、内圧保持性が使用前と比べて低下することがあった。この問題を解決する手段として、特開2002−52904号公報(特許文献2)には、エチレン含有量20〜70モル%、ケン化度85%以上のエチレン−ビニルアルコール共重合体60〜99重量%及び疎水性可塑剤1〜40重量%からなる樹脂組成物をインナーライナーに使用する技術が開示されている。
【0007】
更に、特開2004−176048号公報(特許文献3)には、エチレン含有量25〜50モル%のエチレン−ビニルアルコール共重合体100重量部に対してエポキシ化合物1〜50重量部を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体をインナーライナーに使用する技術が開示されており、該インナーライナーは、従来のEVOHからなるタイヤ用インナーライナーと比較して、ガスバリア性を保持したまま、より高度な耐屈曲性を有するとのことである。
【0008】
【特許文献1】特開平6−40207号公報
【特許文献2】特開2002−52904号公報
【特許文献3】特開2004−176048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特開2004−176048号公報に開示の技術をもってしても、依然としてインナーライナーの耐屈曲性には改善の余地がある。
【0010】
そこで、本発明の目的は、ガスバリア性及び耐屈曲性に優れ、タイヤの重量を減少させることが可能な空気入りタイヤ用インナーライナーを提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかるインナーライナーを備え、新品時及び走行後の内圧保持性が大幅に改良された空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、エチレン−ビニルアルコール共重合体を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなるマトリックス中に、23℃におけるヤング率が上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体より小さい柔軟樹脂を分散させた樹脂組成物からなる層を少なくとも含むインナーライナーが優れたガスバリア性及び耐屈曲性を有し、また、該インナーライナーをタイヤに配設することで、新品時及び走行後の内圧保持性に優れたタイヤが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーは、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)からなるマトリックス中に、23℃におけるヤング率が前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)より小さい柔軟樹脂(C)を分散させた樹脂組成物(D)からなる層を少なくとも含むことを特徴とする。ここで、本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーは、上記樹脂組成物(D)からなる層を少なくとも含むことを要し、更に他の層を有してもよいし、上記樹脂組成物(D)からなる層のみから構成されていてもよい。また、上記樹脂組成物(D)において、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)はマトリックスとして存在し、ここで、マトリックスとは連続相を意味する。
【0013】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーは、上記柔軟樹脂(C)の23℃におけるヤング率が500MPa以下であることが好ましい。
【0014】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーの好適例において、前記柔軟樹脂(C)は、水酸基と反応する官能基を有する。
【0015】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーの他の好適例において、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン含有量は25〜50モル%である。
【0016】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーの他の好適例において、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度は90%以上である。
【0017】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーの他の好適例において、前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)は、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対し、エポキシ化合物(E)1〜50質量部を反応させて得られる。ここで、前記エポキシ化合物(E)としては、グリシドール又はエポキシプロパンが好ましい。
【0018】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーの他の好適例において、前記樹脂組成物(D)の−20℃におけるヤング率は1500MPa以下である。
【0019】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーの他の好適例において、前記樹脂組成物(D)中の前記柔軟樹脂(C)の含有率は10〜30質量%の範囲である。
【0020】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーの他の好適例において、前記柔軟樹脂(C)の平均粒径は2μm以下である。
【0021】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーの他の好適例において、前記樹脂組成物(D)からなる層は架橋されている。
【0022】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーの他の好適例において、前記樹脂組成物(D)からなる層は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10-12cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下である。
【0023】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーの他の好適例において、前記樹脂組成物(D)からなる層の厚さは、100μm以下である。
【0024】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーの他の好適例においては、前記樹脂組成物(D)からなる層に隣接して、更にエラストマーからなる補助層(F)を一層以上備える。ここで、前記樹脂組成物(D)からなる層と補助層(F)との間及び前記補助層(F)と補助層(F)との間の少なくとも一箇所に、一層以上の接着剤層(G)を備えることが好ましい。また、前記補助層(F)は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10-9cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることが好ましい。
【0025】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーは、前記樹脂組成物(D)からなる層に隣接して補助層(F)を一層以上備える場合、前記補助層(F)がブチルゴム及び/又はハロゲン化ブチルゴム、ジエン系エラストマー或いは熱可塑性ウレタン系エラストマーを含むことが好ましい。
【0026】
また、本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーは、前記樹脂組成物(D)からなる層に隣接して補助層(F)を一層以上備える場合、前記補助層(F)の厚さの合計が50〜2000μmの範囲であることが好ましい。
【0027】
本発明の空気入りタイヤは、一対のビード部及び一対のサイドウォール部と、両サイドウォール部に連なるトレッド部とを有し、前記一対のビード部間にトロイド状に延在してこれら各部を補強するカーカスと、前記カーカスのクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置されたベルトとを備え、
前記カーカスの内側のタイヤ内面に上記空気入りタイヤ用インナーライナーを備えることを特徴とする。
【0028】
本発明の空気入りタイヤの好適例においては、前記カーカスの内側のタイヤ内面に、前記樹脂組成物(D)からなる層に隣接して、更に補助層(F)を一層以上備える空気入りタイヤ用インナーライナーを備え、
前記補助層(F)は、ベルト端からビード部までの領域で、少なくとも30mmの半径方向幅に相当する該補助層(F)の部分が、ベルト下部に対応する該補助層(F)の部分より0.2mm以上厚い。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、エチレン−ビニルアルコール共重合体を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体からなるマトリックス中に、23℃におけるヤング率が上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体より小さい柔軟樹脂を分散させた樹脂組成物からなる層を用いることで、ガスバリア性及び耐屈曲性に優れ、タイヤの重量を減少させることが可能な空気入りタイヤ用インナーライナーを提供することができる。また、かかるインナーライナーを備え、新品時及び走行後の内圧保持性を大幅に向上させることが可能な空気入りタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーは、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)からなるマトリックス中に、23℃におけるヤング率が前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)より小さい柔軟樹脂(C)を分散させた樹脂組成物(D)からなる層を少なくとも含むことを特徴とする。上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)に、例えば、エポキシ化合物(E)を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)は、通常のEVOHに比べて弾性率が低い。また、上記物性を満たす柔軟樹脂(C)を分散させることで、弾性率を更に低下させることができる。そのため、上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)からなるマトリックス中に上記柔軟樹脂(C)を分散させてなる樹脂組成物(D)は、弾性率が大幅に低下しており、屈曲時の耐破断性が高く、またクラックも発生し難い。
【0031】
上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)は、エチレン含有量が25〜50モル%であることが好ましく、30〜48モル%であることが更に好ましく、35〜45モル%であることが一層好ましい。エチレン含有量が25モル%未満では、耐屈曲性、耐疲労性及び溶融成形性が悪化することがあり、一方、50モル%を超えると、ガスバリア性を十分に確保できないことがある。また、該エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)は、ケン化度が90%以上であることことが好ましく、95%以上であることが更に好ましく、99%以上であることが一層好ましい。ケン化度が90%未満では、ガスバリア性及び成形時の熱安定性が不十分となることがある。更に、該エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)は、メルトフローレート(MFR)が190℃、2160g荷重下で0.1〜30g/10分であることが好ましく、0.3〜25g/10分であることが更に好ましい。
【0032】
本発明において、上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の製造方法は、特に限定されないが、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)とエポキシ化合物(E)とを溶液中で反応させる製造方法が好適に挙げられる。より詳しくは、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の溶液に、酸触媒又はアルカリ触媒存在下、好ましくは酸触媒存在下、エポキシ化合物(E)を添加し、反応させることによって変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)を製造することができる。反応溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド及びN-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒が挙げられる。また、酸触媒としては、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、硫酸及び三フッ化ホウ素等が挙げられ、アルカリ触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ナトリウムメトキシド等が挙げられる。なお、触媒量は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対し、0.0001〜10質量部の範囲が好ましい。
【0033】
上記エポキシ化合物(E)としては、一価のエポキシ化合物が好ましい。二価以上のエポキシ化合物は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)と架橋反応し、ゲル、ブツ等を発生して、インナーライナーの品質を低下させることがある。なお、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の製造容易性、ガスバリア性、耐屈曲性及び耐疲労性の観点から、一価のエポキシ化合物の中でも、グリシドール及びエポキシプロパンが特に好ましい。また、上記エポキシ化合物(E)は、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対して1〜50質量部を反応させることが好ましく、2〜40質量部を反応させることが更に好ましく、5〜35質量部を反応させることが一層好ましい。
【0034】
上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)は、ガスバリア性、耐屈曲性及び耐疲労性を得る観点から、メルトフローレート(MFR)が190℃、2160g荷重下で0.1〜30g/10分であることが好ましく、0.3〜25g/10分であることが更に好ましく、0.5〜20g/分であることが一層好ましい。
【0035】
上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)からなるマトリックス中に分散させる柔軟樹脂(C)は、23℃におけるヤング率が上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)より小さいことを要し、500MPa以下であることが好ましい。上記柔軟樹脂(C)の23℃におけるヤング率が変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)より小さいと、樹脂組成物(D)の弾性率を低下させることができ、その結果、耐屈曲性を向上させることができる。また、上記柔軟樹脂(C)は、水酸基と反応する官能基を有することが好ましい。上記柔軟樹脂(C)が水酸基と反応する官能基を有することで、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)中に柔軟樹脂(C)が均一に分散するようになる。ここで、水酸基と反応する官能基としては、無水マレイン酸残基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。かかる水酸基と反応する官能基を有する柔軟樹脂(C)として、具体的には、無水マレイン酸変性水素添加スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、無水マレイン酸変性超低密度ポリエチレン等が挙げられる。
【0036】
また、上記樹脂組成物(D)における柔軟樹脂(C)の含有率は、10〜30質量%の範囲であることが好ましい。柔軟樹脂(C)の含有率が10質量%未満では、耐屈曲性を向上させる効果が小さく、一方、30質量%を超えると、ガスバリア性が低下することがある。更に、上記柔軟樹脂(C)は、平均粒径が2μm以下であることが好ましい。平均粒径が2μmを超えると、樹脂組成物(D)からなる層の耐屈曲性を十分に改善できないおそれがあり、ガスバリア性の低下、延いてはタイヤの内圧保持性の悪化をもたらすことがある。なお、樹脂組成物(D)中の柔軟樹脂(C)の平均粒径は、例えば、サンプルを凍結し、該サンプルをミクロトームにより切片にして、透過電子顕微鏡(TEM)で観察する。
【0037】
上記樹脂組成物(D)は、−20℃におけるヤング率が1500MPa以下であることが好ましい。−20℃におけるヤング率が1500MPa以下であると、寒冷地で使用した際の耐久性を向上させることができる。
【0038】
上記樹脂組成物(D)は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)と柔軟樹脂(C)とを混練して調製することができる。また、上記樹脂組成物(D)は、インナーライナーの製造時にフィルム状であることが好ましく、該樹脂組成物(D)からなる層は、溶融成形、好ましくはTダイ法、インフレーション法等の押出成形により、好ましくは150〜270℃の溶融温度でフィルムやシート等に成形され、インナーライナーとして使用される。
【0039】
上記樹脂組成物(D)からなる層は、架橋されていることが好ましい。樹脂組成物(D)からなる層が架橋されていない場合、タイヤの加硫工程でインナーライナーが著しく変形して不均一となり、インナーライナーのガスバリア性、耐屈曲性、耐疲労性が悪化することがある。ここで、架橋方法としては、エネルギー線を照射する方法が好ましく、該エネルギー線としては、紫外線、電子線、X線、α線、γ線等の電離放射線が挙げられ、これらの中でも電子線が特に好ましい。電子線の照射は、樹脂組成物(D)をフィルムやシート等の成形体に加工した後に行うことが好ましい。ここで、電子線の線量は、10〜60Mradの範囲が好ましく、20〜50Mradの範囲が更に好ましい。電子線の線量が10Mrad未満では、架橋が進み難く、一方、60Mradを超えると、成形体の劣化が進み易くなる。
【0040】
また、上記樹脂組成物(D)からなる層は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10-12cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることが好ましく、1.0×10-12cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることが更に好ましく、5.0×10-13cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることが一層好ましい。20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10-12cm3・cm/cm2・sec・cmHgを超えると、インナーライナーとして用いる際に、タイヤの内圧保持性を高めるために、樹脂組成物(D)からなる層を厚くせざるを得ず、タイヤの重量を十分に低減できなくなる。
【0041】
更に、上記樹脂組成物(D)からなる層の厚さは、100μm以下であることが好ましく、より好ましくは下限が0.1μmであり、1〜40μmの範囲であることが更に好ましく、5〜30μmの範囲であることが一層好ましい。樹脂組成物(D)からなる層の厚さが100μmを超えると、インナーライナーとして用いる際に、従来のブチルゴム系のインナーライナーに対して重量の低減効果が小さくなる上、耐屈曲性及び耐疲労性が低下し、タイヤ転動時の屈曲変形により破断・亀裂が生じ易く、また、亀裂が伸展し易くなるため、タイヤの内圧保持性が使用前に比べて低下することがある。一方、0.1μm未満では、ガスバリア性が不十分で、タイヤの内圧保持性を十分に確保できないことがある。
【0042】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーは、上記樹脂組成物(D)からなる層に隣接して、更にエラストマーからなる補助層(F)を一層以上備えることが好ましい。ここで、上記補助層(F)は、エラストマーを用いるため、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の水酸基と接着性が高く、樹脂組成物(D)からなる層から剥離し難い。そのため、樹脂組成物(D)からなる層に破断・亀裂が生じても、亀裂が伸展し難いので、大きな破断及びクラックのような弊害を抑制し、タイヤの内圧保持性を十分に維持することができる。また、本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーは、上記樹脂組成物(D)からなる層と補助層(F)との間及び上記補助層(F)と補助層(F)との間の少なくとも一箇所に、一層以上の接着剤層(G)を備えることもできる。なお、上記接着剤層(G)に使用する接着剤としては、塩化ゴム・イソシアネート系の接着剤が挙げられる。
【0043】
本発明の空気入りタイヤ用インナーライナーは、上記樹脂組成物(D)からなる層の他、補助層(F)と、必要に応じて接着剤層(G)とを備える場合、積層体として形成される。ここで、積層体を製造する方法としては、例えば、樹脂組成物(D)からなる層と他の層とを共押出により積層させる方法、樹脂組成物(D)からなる層と補助層(F)とを必要に応じて接着剤層(G)を用いて貼り合わせる方法、更にはタイヤ成形時にドラム上で樹脂組成物(D)からなる層と補助層(F)とを必要に応じて接着剤層(G)を用いて貼り合わせる方法等が挙げられる。
【0044】
上記補助層(F)は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10-9cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることが好ましく、1.0×10-9cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることが更に好ましい。20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10-9cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であると、ガスバリア性の補強効果が十分に発揮され、タイヤの内圧保持性を高度に維持することが可能となる。
【0045】
上記補助層(F)に用いるエラストマーとしては、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ジエン系エラストマー、熱可塑性ウレタン系エラストマーを好適に挙げることができる。ここで、ガスバリア性の観点からは、ブチルゴム及びハロゲン化ブチルゴムが好ましく、ハロゲン化ブチルゴムが更に好ましい。また、樹脂組成物(D)からなる層に亀裂が生じた際の伸展を抑制するには、ブチルゴム及びジエン系エラストマーが好ましい。更に、補助層(F)を薄層化しつつ、亀裂の発生や伸展を抑制するには、熱可塑性ウレタン系エラストマーが好ましい。その上、補助層(F)は、積層することが可能であり、種々の特性を持つエラストマーからなる補助層を多層化することが特に好ましい。なお、これらエラストマーは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
上記ジエン系エラストマーとして、具体的には、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)等が挙げられ、これらの中でも天然ゴム、ブタジエンゴムが好ましい。これらジエン系エラストマーは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
上記熱可塑性ウレタン系エラストマーは、ポリオールと、イソシアネート化合物と、短鎖ジオールとの反応によって得られる。ポリオール及び短鎖ジオールは、イソシアネート化合物との付加反応により、直鎖状ポリウレタンを形成する。ここで、ポリオールは、熱可塑性ウレタン系エラストマーにおいて柔軟な部分となり、イソシアネート化合物及び短鎖ジオールは硬い部分となる。なお、熱可塑性ウレタン系エラストマーは、原料の種類、配合量、重合条件等を変えることで、広範囲に性質を変えることができる。
【0048】
上記補助層(F)の厚さの合計は、50〜2000μmの範囲であることが好ましく、100〜1000μmの範囲であることが更に好ましく、300〜800μmの範囲であることが一層好ましい。補助層(F)の厚さの合計が50μm未満では、補強効果が十分に発揮されず、樹脂組成物(D)からなる層に破断・亀裂が生じた際の弊害を抑制することが困難となり、タイヤの内圧保持性を十分に維持できないことがある。一方、補助層(F)の厚さの合計が2000μmを超えると、タイヤの重量の低減効果が小さくなる。
【0049】
上記補助層(F)は、300%伸び時における引張応力が10MPa以下であることが好ましく、8MPa以下であることが更に好ましく、7MPa以下であることが一層好ましい。該引張応力が10MPaを超えると、補助層(F)をインナーライナーに用いた際の耐屈曲性及び耐疲労性が低下することがある。
【0050】
本発明の空気入りタイヤは、上述した空気入りタイヤ用インナーライナーを用いたことを特徴とする。以下に、図を参照しながら本発明の空気入りタイヤを詳細に説明する。図1は、本発明の空気入りタイヤの一実施態様の部分断面図である。図1に示すタイヤは、一対のビード部1及び一対のサイドウォール部2と、両サイドウォール部2に連なるトレッド部3とを有し、上記一対のビード部1間にトロイド状に延在して、これら各部1,2,3を補強するカーカス4と、該カーカス4のクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置された2枚のベルト層からなるベルト5とを備え、更に、該カーカス4の内側のタイヤ内面にはインナーライナー6が配置されている。
【0051】
図示例のタイヤにおいて、カーカス4は、上記ビード部1内に夫々埋設した一対のビードコア7間にトロイド状に延在する本体部と、各ビードコア7の周りでタイヤ幅方向の内側から外側に向けて半径方向外方に巻上げた折り返し部とからなるが、本発明の空気入りタイヤにおいて、カーカス4のプライ数及び構造は、これに限られるものではない。
【0052】
また、図示例のタイヤにおいて、ベルト5は、2枚のベルト層からなるが、本発明の空気入りタイヤにおいては、ベルト5を構成するベルト層の枚数はこれに限られるものではない。ここで、ベルト層は、通常、タイヤ赤道面に対して傾斜して延びるコードのゴム引き層からなり、2枚のベルト層は、該ベルト層を構成するコードが互いに赤道面を挟んで交差するように積層されてベルト5を構成する。更に、図示例のタイヤは、上記ベルト5のタイヤ半径方向外側でベルト5の全体を覆うように配置されたベルト補強層8を備えるが、本発明の空気入りタイヤは、ベルト補強層8を有していなくてもよいし、他の構造のベルト補強層を備えることもできる。ここで、ベルト補強層8は、通常、タイヤ周方向に対し実質的に平行に配列したコードのゴム引き層からなる。
【0053】
なお、図示例のタイヤにおいて、インナーライナー6は、樹脂組成物(D)からなる層を一層のみ有するが、本発明の空気入りタイヤは、樹脂組成物(D)からなる層の耐屈曲性を改良するため、図2、図3に示すように補助層(F)を一層以上有することもできる。
【0054】
図2及び図3は、図1の枠で囲んだ部分IIに相当する、本発明の空気入りタイヤの他の実施態様の拡大部分断面図である。図2に示すタイヤは、図1に示すインナーライナー6に代えて、樹脂組成物(D)からなる層9と、該樹脂組成物(D)からなる層9に隣接して配置された二層の補助層(F)10,11と、該補助層(F)11の外側に配置された接着剤層(G)12とからなるインナーライナー13を備える。また、図3に示すタイヤは、上記図2に示す接着剤層(G)12の外側に、更に補助層(F)14を有するインナーライナー15を備える。なお、本発明のタイヤにおいて、インナーライナーを構成する補助層(F)の層数はこれに限られるものではない。また、補助層(F)に用いるエラストマーとしては、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、ジエン系エラストマー、熱可塑性ウレタン系エラストマー等が挙げられ、これらを目的に応じて適宜選択することができる。更に、図2及び図3に示すタイヤは、補助層(F)11の外側に接着剤層(G)12を一層備えるが、本発明の空気入りタイヤは、接着剤層(G)12を有しなくてもよいし、他の層の間に一層以上備えることもできる。
【0055】
更に、図示例のタイヤにおいて、補助層(F)の厚さの合計は、ベルト5の端からビード部1までの領域で、少なくとも30mmの半径方向幅に相当する該補助層(F)の部分が、ベルト5の下部に対応する該補助層(F)の部分より0.2mm以上厚いことが好ましい。これは、ベルト端からビード部までの領域が最も歪が厳しくクラックが発生し易い領域であり、かかる領域の耐久性を向上させるためには、上記特定領域における補助層(F)を厚くするのが効果的であるからである。
【0056】
本発明の空気入りタイヤは、インナーライナーに上述した樹脂組成物(D)と、状況に応じて補助層(F)及び接着剤層(G)とを適用し、常法により製造することができる。なお、本発明の空気入りタイヤにおいて、タイヤ内に充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を変えた空気、又は窒素等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0058】
(変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の合成例1)
加圧反応槽に、エチレン含量44モル%、ケン化度99.9%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)(190℃、2160g荷重下でのMFR:5.5g/10分)2質量部及びN-メチル-2-ピロリドン8質量部を仕込み、120℃で2時間加熱撹拌して、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を完全に溶解させた。これにエポキシ化合物(E)としてエポキシプロパン0.4質量部を添加後、160℃で4時間加熱した。加熱終了後、蒸留水100質量部に析出させ、多量の蒸留水で充分にN-メチル-2-ピロリドン及び未反応のエポキシプロパンを洗浄し、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)を得た。更に、得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)を粉砕機で粒子径2mm程度に細かくした後、再度多量の蒸留水で十分に洗浄した。洗浄後の粒子を8時間室温で真空乾燥した後、二軸押出機を用いて200℃で溶融し、ペレット化した。なお、得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の23℃におけるヤング率は、下記の方法で測定した結果、1300MPaであった。
【0059】
(1)23℃におけるヤング率の測定
東洋精機社製二軸押出機によって、下記押出条件で製膜し、厚さ20μmの単層フィルムを作製した。次に該フィルムを用いて、幅15mmの短冊状の試験片を作製し、23℃、50%RHの条件下で恒温室内に1週間放置した後、株式会社島津製作所製オートグラフ[AG−A500型]を用いて、チャック間隔50mm、引張速度50mm/分の条件で、23℃、50%RHにおけるS−Sカーブ(応力−歪み曲線)を測定し、S−Sカーブの初期傾きからヤング率を求めた。
【0060】
スクリュー:20mmφ、フルフライト
シリンダー、ダイ温度設定:C1/C2/C3/ダイ=200/200/200/200(℃)
【0061】
また、上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン含有量及びケン化度は、重水素化ジメチルスルホキシドを溶媒とした1H-NMR測定[日本電子社製「JNM−GX−500型」を使用]で得られたスペクトルから算出した値である。更に、上記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のメルトフローレート(MFR)は、メルトインデクサーL244[宝工業株式会社製]の内径9.55mm、長さ162mmのシリンダーにサンプルを充填し、190℃で溶融した後、重さ2160g、直径9.48mmのプランジャーを使用して均等に荷重をかけ、シリンダーの中央に設けた径2.1mmのオリフィスより単位時間あたりに押出される樹脂量(g/10分)から求めた。但し、エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)の融点が190℃付近あるいは190℃を超える場合は、2160g荷重下、融点以上の複数の温度で測定し、片対数グラフで絶対温度の逆数を横軸、MFRの対数を縦軸にプロットし、190℃に外挿して算出した値をメルトフローレート(MFR)とした。
【0062】
(変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)の合成例2)
エチレン含量44モル%、ケン化度99.9%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)(190℃、2160g荷重下でのMFR:5.5g/10分)に代えて、エチレン含量32モル%、ケン化度99.9%のエチレン−ビニルアルコール共重合体(A)(190℃、2160g荷重下でのMFR:7.0g/10分)を用いる以外は、上記合成例1と同様にして変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)を合成し、ペレット化した。なお、得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)は、23℃におけるヤング率が、1700MPaであった。
【0063】
(柔軟樹脂(C)の合成例3)
無水マレイン酸変性水素添加スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体を公知の方法により合成し、ペレット化した。得られた無水マレイン酸変性水素添加スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体は、23℃におけるヤング率が3MPa、スチレン含量が20%、無水マレイン酸量が0.3meq/gであった。なお、23℃におけるヤング率は、上記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)と同様の方法で測定した。
【0064】
(柔軟樹脂(C)の合成例4)
無水マレイン酸変性超低密度ポリエチレンを公知の方法により合成し、ペレット化した。得られた無水マレイン酸変性超低密度ポリエチレンは、23℃におけるヤング率が40MPa、無水マレイン酸量が0.04meq/gであった。
【0065】
(フィルム1〜8の作製)
合成例1,2で得られた変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)と、合成例3,4で得られた柔軟樹脂(C)とを二軸押出機で混練し、表1に示す配合処方の樹脂組成物(D)を得た。ここで、樹脂組成物(D)中の柔軟樹脂(C)の平均粒径は、得られた樹脂組成物(D)の試料を凍結した後、該試料をミクロトームにより切片にして、透過電子顕微鏡で測定した。また、設定温度を−20℃に変更する以外は、上記ヤング率の測定方法と同様にして、樹脂組成物(D)の−20℃におけるヤング率を測定した。結果を表1に示す。次に、得られた樹脂組成物(D)と、熱可塑性ポリウレタン(TPU)[(株)クラレ製クラミロン3190]とを使用し、2種3層共押出装置を用いて、下記共押出成形条件で3層フィルム1〜8(熱可塑性ポリウレタン層/樹脂組成物(D)層/熱可塑性ポリウレタン層)を作製した。各フィルムに使用した各層の厚みを表1に示す。なお、フィルム7,8では、樹脂組成物(D)の代わりに変性EVOH(B)のみを使用した。
【0066】
各樹脂の押出温度:C1/C2/C3/ダイ=170/170/200/200℃
各樹脂の押出機仕様:
熱可塑性ポリウレタン:25mmφ押出機P25−18AC[大阪精機工作株式会社製]
樹脂組成物(D)又は変性EVOH(B):20mmφ押出機ラボ機ME型CO−EXT[株式会社東洋精機製]
Tダイ仕様:500mm幅2種3層用[株式会社プラスチック工学研究所製]
冷却ロールの温度:50℃
引き取り速度:4m/分
【0067】
上記のようにして得られたフィルムの酸素透過量及び耐屈曲性を下記の方法で評価した。結果を表1に示す。
【0068】
(2)フィルムの酸素透過量の測定
上記フィルムを、20℃、65%RHで5日間調湿した。得られた調湿済みのフィルム2枚を使用して、モダンコントロール社製MOCON OX−TRAN2/20型を用い、20℃、65%RHの条件下でJIS K7126(等圧法)に準拠して、酸素透過量を測定し、その平均値を求めた。また、フィルムを形成する各層単独での酸素透過量を、同様にして求めた(結果を表1に示す)。
【0069】
(3)耐屈曲性の評価
21cm×30cmにカットされたフィルムを50枚作製し、それぞれのフィルムを0℃で7日間調湿した後、ASTM F 392−74に準拠して、理学工業(株)製ゲルボフレックステスターを使用し、屈曲回数50回、75回、100回、125回、150回、175回、200回、225回、250回、300回、400回、500回、600回、700回、800回、1000回、1500回屈曲させた後、ピンホールの数を測定した。それぞれの屈曲回数において、測定を5回行い、その平均値をピンホール個数とした。屈曲回数(P)を横軸に、ピンホール数(N)を縦軸に取り、上記測定結果をプロットし、ピンホール数が1個の時の屈曲回数(Np1)を外挿により求め、有効数字2桁とした。但し、1500回の屈曲でピンホールが観察されないフィルムについては、以降500回おきに屈曲回数を増やし、ピンホールが見られた屈曲回数をNp1とした。
【0070】
【表1】

【0071】
*1 TPU層/樹脂組成物(D)層/TPU層.
【0072】
表1から明らかなように、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)からなるマトリックス中に、柔軟樹脂(C)を分散させた樹脂組成物(D)からなる層を用いたフィルム(フィルム1〜6)は、変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)からなる層を用いたフィルム(フィルム7〜8)に比べて、耐屈曲性が非常に優れていることが分かる。
【0073】
(実施例1,3〜7及び比較例2〜3)
日新ハイボルテージ株式会社製電子線照射装置「生産用キュアトロンEBC200-100」を使用して、加速電圧200kV、照射エネルギー30Mradの条件でフィルム1〜6に電子線照射して架橋処理を施した。得られた架橋フィルムの片面に接着剤層(G)として東洋化学研究所製メタロックR30Mを塗布し、補助層(F)として厚さが500μmであるゴム組成物層の内面に貼り付けて、インナーライナーを作製した。得られたインナーライナーを用いて、図3に示す構造でサイズ:195/65R15の乗用車用空気入りタイヤを常法に従って作製した。使用したフィルムの種類を表2に示す。なお、厚さが500μmであるゴム組成物層は、天然ゴム30質量部及び臭素化ブチルゴム[JSR(株)製,Bromobutyl 2244]70質量部に対して、GPFカーボンブラック[旭カーボン(株)製,#55]60質量部、SUNPAR2280[日本サン石油(株)製]7質量部、ステアリン酸[旭電化工業(株)製]1質量部、NOCCELER DM[大内新興化学工業(株)製]1.3質量部、酸化亜鉛[白水化学工業(株)製]3質量部及び硫黄[軽井沢精錬所製]0.5質量部を配合して調製したゴム組成物を用いた。また、ゴム組成物層は、300%伸び時における引張応力が6.5MPa、酸素透過量が6.0×10-10cm3・cm/cm2・sec・cmHgであった。ここで、300%伸び時における引張応力は、JIS K6251−1993に準拠して測定し、酸素透過量は上記の方法と同様にして測定した。
【0074】
(実施例2)
ゴム組成物層の厚さを1000μmに変更する以外は、実施例1と同様にして、乗用車用空気入りタイヤを作製した。また、ゴム組成物層は、酸素透過量が9.0×10-10cm3・cm/cm2・sec・cmHgであった。
【0075】
(実施例8)
ゴム組成物層を使用しないこと以外は、実施例1と同様にして、図2に示す構造の乗用車用空気入りタイヤを作製した。
【0076】
(比較例1)
臭素化ブチルゴム[JSR(株)製,Bromobutyl 2244]100質量部に対して、GPFカーボンブラック[旭カーボン(株)製,#55]60質量部、SUNPAR2280[日本サン石油(株)製]7質量部、ステアリン酸[旭電化工業(株)製]1質量部、NOCCELER DM[大内新興化学工業(株)製]1.3質量部、酸化亜鉛[白水化学工業(株)製]3質量部及び硫黄[軽井沢精錬所製]0.5質量部を配合してゴム組成物を調製し、該ゴム組成物を用いて厚さ1500μmのインナーライナーを作製し、該インナーライナーを用いて、上記実施例と同様にして乗用車用空気入りタイヤを作製した。また、該インナーライナーは、300%伸び時における引張応力が6.0MPa、酸素透過量が3.0×10-10cm3・cm/cm2・sec・cmHgであった。
【0077】
上記のようにして得られたタイヤを、空気圧140kPaで80km/hの速度に相当する回転数のドラム上に荷重6kNで押し付けて、10,000km走行を実施した。未走行タイヤと、走行後のタイヤとを用い、内圧保持性を下記のようにして評価した。内圧保持性は、試験タイヤを6JJ×15のリムに装着した後、内圧を240kPa充填し、3ヶ月後の内圧を測定することで評価し、下記式にて指数化した。
内圧保持性=[(240−b)/(240−a)]×100 (指数)
式中、aは試験タイヤの3ヶ月後の内圧(kPa)で、bは比較例1記載の未走行タイヤの3ヶ月後の内圧(kPa)を表す。
【0078】
また、ドラム走行後のタイヤのインナーライナー外観を目視観察して、亀裂の有無を評価した。これらの結果を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
*2 比較例1は、インナーライナーの厚さを示す.
【0081】
表2から明らかなように、実施例のタイヤは、比較例1のタイヤに比べて、走行前及び走行後の内圧保持性が大幅に向上している上、走行後のタイヤに亀裂が発生していないことが分かる。一方、比較例2,3のタイヤは、走行前の内圧保持性は高いものの、走行後のタイヤに亀裂が発生し、内圧保持性を維持できないことが分かる。また、比較例1のインナーライナーの厚さに比べて、実施例のタイヤのゴム組成物層は薄いので、タイヤの重量を軽量化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の空気入りタイヤの一実施態様の部分断面図である。
【図2】本発明の空気入りタイヤの他の実施態様の拡大部分断面図である。
【図3】本発明の空気入りタイヤの他の実施態様の拡大部分断面図である。
【符号の説明】
【0083】
1 ビード部
2 サイドウォール部
3 トレッド部
4 カーカス
5 ベルト
6 インナーライナー
7 ビードコア
8 ベルト補強層
9 樹脂組成物(D)からなる層
10 補助層(F)
11 補助層(F)
12 接着剤層(G)
13 インナーライナー
14 補助層(F)
15 インナーライナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)を反応させて得られる変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)からなるマトリックス中に、23℃におけるヤング率が前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)より小さい柔軟樹脂(C)を分散させた樹脂組成物(D)からなる層を少なくとも含むことを特徴とする空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項2】
前記柔軟樹脂(C)の23℃におけるヤング率が500MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項3】
前記柔軟樹脂(C)が、水酸基と反応する官能基を有することを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項4】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン含有量が25〜50モル%であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項5】
前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)のケン化度が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項6】
前記変性エチレン−ビニルアルコール共重合体(B)が、前記エチレン−ビニルアルコール共重合体(A)100質量部に対し、エポキシ化合物(E)1〜50質量部を反応させて得られることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項7】
前記エポキシ化合物(E)がグリシドール又はエポキシプロパンであることを特徴とする請求項6に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項8】
前記樹脂組成物(D)の−20℃におけるヤング率が1500MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項9】
前記樹脂組成物(D)における前記柔軟樹脂(C)の含有率が10〜30質量%の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項10】
前記柔軟樹脂(C)の平均粒径が2μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項11】
前記樹脂組成物(D)からなる層が架橋されていることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項12】
前記樹脂組成物(D)からなる層は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10-12cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項13】
前記樹脂組成物(D)からなる層の厚さが100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項14】
前記樹脂組成物(D)からなる層に隣接して、更にエラストマーからなる補助層(F)を一層以上備えることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項15】
前記樹脂組成物(D)からなる層と補助層(F)との間及び前記補助層(F)と補助層(F)との間の少なくとも一箇所に、一層以上の接着剤層(G)を備えることを特徴とする請求項14に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項16】
前記補助層(F)は、20℃、65%RHにおける酸素透過量が3.0×10-9cm3・cm/cm2・sec・cmHg以下であることを特徴とする請求項14に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項17】
前記補助層(F)がブチルゴム及び/又はハロゲン化ブチルゴムを含むことを特徴とする請求項14に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項18】
前記補助層(F)がジエン系エラストマーを含むことを特徴とする請求項14に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項19】
前記補助層(F)が熱可塑性ウレタン系エラストマーを含むことを特徴とする請求項14に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項20】
前記補助層(F)の厚さの合計が50〜2000μmの範囲であることを特徴とする請求項14に記載の空気入りタイヤ用インナーライナー。
【請求項21】
一対のビード部及び一対のサイドウォール部と、両サイドウォール部に連なるトレッド部とを有し、前記一対のビード部間にトロイド状に延在してこれら各部を補強するカーカスと、前記カーカスのクラウン部のタイヤ半径方向外側に配置されたベルトとを備えた空気入りタイヤにおいて、
前記カーカスの内側のタイヤ内面に請求項1〜20のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナーを備えることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項22】
前記カーカスの内側のタイヤ内面に請求項14〜20のいずれかに記載の空気入りタイヤ用インナーライナーを備える空気入りタイヤであって、
前記補助層(F)は、ベルト端からビード部までの領域で、少なくとも30mmの半径方向幅に相当する該補助層(F)の部分が、ベルト下部に対応する該補助層(F)の部分より0.2mm以上厚いことを特徴とする請求項21に記載の空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−24217(P2008−24217A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−200762(P2006−200762)
【出願日】平成18年7月24日(2006.7.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】