空気入りタイヤ
【課題】カーカス層のカーカス強度係数の範囲を規定しつつ、乗り心地性能を改善すること。
【解決手段】ベルト層7のタイヤ幅方向端よりもタイヤ幅方向内側であって、ベルト層7のタイヤ幅方向最大寸法W1の5[%]以上95[%]以下となる範囲W2で、〔カーカス強度係数K[N/mm・kPa]〕=〔補強コード打ち込み本数[本/mm]〕×〔補強コード強力[N/本]〕×〔カーカス層の層数〕÷〔最大空気圧[kPa]〕の式で定義される前記カーカス層のカーカス強度係数Kを、0[N/mm・kPa]<K<0.35[N/mm・kPa]とし、かつ範囲W2の少なくとも一部に、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成された補強層9を配置する。
【解決手段】ベルト層7のタイヤ幅方向端よりもタイヤ幅方向内側であって、ベルト層7のタイヤ幅方向最大寸法W1の5[%]以上95[%]以下となる範囲W2で、〔カーカス強度係数K[N/mm・kPa]〕=〔補強コード打ち込み本数[本/mm]〕×〔補強コード強力[N/本]〕×〔カーカス層の層数〕÷〔最大空気圧[kPa]〕の式で定義される前記カーカス層のカーカス強度係数Kを、0[N/mm・kPa]<K<0.35[N/mm・kPa]とし、かつ範囲W2の少なくとも一部に、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成された補強層9を配置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、カーカス層のカーカス強度係数の範囲を規定した空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載の空気入りタイヤ(空気入りラジアルタイヤ)は、補強コードを配列したカーカス層の両端部を左右のビード部に配置したビードコアの周りにタイヤ内側から外側に折り返し、トレッド部のカーカス層外周側に少なくとも2層のベルト層を配置しており、カーカス強度係数[N/mm・kPa]=〔補強コード打ち込み本数[本/mm]〕×〔補強コード強力[N]〕×〔カーカス層の層数〕÷〔最大空気圧[kPa]〕で定義される前記カーカス層のカーカス強度係数を、2番目に幅が広いベルト層のエッジから内側にそのベルト幅の10%となる位置Pよりトレッド部センター側で0.15〜0.35[N/mm・kPa]、前記位置Pからビード部にかけて0.5[N/mm・kPa]以上にすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−207512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者等は、カーカス層のカーカス強度係数をさらに低下させた範囲としても実用化することができることを発見した。しかし、そのような空気入りタイヤは、面外曲げ剛性が低下することから段差乗り越し時の乗り心地は向上するものの、成型時でのリフトによってカーカスコード間隔にばらつきが生じやすくなり、ユニフォミティが低下する傾向となるため、平坦路走行時に振動が発生して乗り心地が悪化するおそれがある。
【0005】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、カーカス層のカーカス強度係数の範囲を規定しつつ、乗り心地性能を改善することのできる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の空気入りタイヤは、補強コードをタイヤ周方向に複数配列し、そのタイヤ幅方向両端部を両ビード部に配置したビードコアまで延在させたカーカス層と、トレッド部における前記カーカス層のタイヤ径方向外側に少なくとも1層設けられたベルト層とを備える空気入りタイヤにおいて、前記ベルト層のタイヤ幅方向端よりもタイヤ幅方向内側であって、前記ベルト層のタイヤ幅方向最大寸法W1の5[%]以上95[%]以下となる範囲W2で、〔カーカス強度係数K[N/mm・kPa]〕=〔補強コード打ち込み本数[本/mm]〕×〔補強コード強力[N/本]〕×〔カーカス層の層数〕÷〔最大空気圧[kPa]〕の式で定義される前記カーカス層のカーカス強度係数Kを、0[N/mm・kPa]<K<0.35[N/mm・kPa]とし、かつ前記範囲W2の少なくとも一部に、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成された補強層が配置されていることを特徴とする。
【0007】
この空気入りタイヤによれば、カーカス層のカーカス強度係数Kの範囲を規定することで、段差乗り越し時の乗り心地を向上することができる。しかも、補強層を設けたことで、成型時でのリフトによるカーカスコード間隔にばらつきが生じる事態を防いでユニフォミティの低下を抑制し、平坦路走行時での振動を防止して乗り心地を改善することができる。
【0008】
また、本発明の空気入りタイヤは、前記補強層を構成する熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物は、その貯蔵弾性率E1[MPa]および厚さt[mm]が、6.7t+E1−20≧0、200t+E1−600≦0、E1>0、t>0の関係にあることを特徴とする。
【0009】
補強層の貯蔵弾性率E1[MPa]および厚さt[mm]が範囲を超えると、補強層の重量が増してタイヤ重量が嵩む傾向となる。この点、本発明の空気入りタイヤによれば、貯蔵弾性率E1[MPa]および厚さt[mm]が、6.7t+E1−20≧0、200t+E1−600≦0、E1>0、t>0の関係にあることから、補強層の重量の増加を防いでタイヤ重量が嵩む事態を抑えることができ、かつ補強層の硬さが増すことを防いで補強層の成形性を維持することができる。
【0010】
また、本発明の空気入りタイヤは、前記補強層は、前記範囲W2の60[%]以上120[%]以下のタイヤ幅方向の範囲に配置されていることを特徴とする。
【0011】
この空気入りタイヤによれば、補強層のタイヤ幅方向の範囲を規定することで、補強層による上記効果を顕著に得ることができる。
【0012】
また、本発明の空気入りタイヤは、前記カーカス層のタイヤ径方向内側のタイヤ内周面にインナーライナーを備え、当該インナーライナーは、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成され、前記補強層を兼ねることを特徴とする。
【0013】
この空気入りタイヤによれば、インナーライナーが補強層を兼ねることで、補強層の機能を得つつ、タイヤ重量やタイヤ径方向の厚さが嵩む事態を抑制することができる。
【0014】
また、本発明の空気入りタイヤは、乗用車用空気入りタイヤに適用され、前記補強層の貯蔵弾性率E1が50[MPa]以上150[MPa]以下であり、前記補強層の厚さtが0.01[mm]以上0.3[mm]以下であることを特徴とする。
【0015】
この空気入りタイヤによれば、補強層の貯蔵弾性率E1を50[MPa]以上150[MPa]以下とし、補強層の厚さtを0.01[mm]以上0.3[mm]以下とすることが、乗用車用空気入りタイヤに適用される場合に、補強層による効果を顕著に得る上で好ましい。
【0016】
また、本発明の空気入りタイヤは、重荷重用空気入りタイヤに適用され、前記補強層の貯蔵弾性率E1が200[MPa]以上500[MPa]以下であり、前記補強層の厚さtが0.01[mm]以上0.2[mm]以下であることを特徴とする。
【0017】
この空気入りタイヤによれば、補強層の貯蔵弾性率E1を200[MPa]以上500[MPa]以下とし、補強層の厚さtを0.01[mm]以上0.2[mm]以下とすることが、重荷重用空気入りタイヤに適用される場合に、補強層による効果を顕著に得る上で好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る空気入りタイヤは、カーカス層のカーカス強度係数の範囲を規定しつつ、乗り心地性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る空気入りタイヤの子午断面概略図である。
【図2】図2は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図3】図3は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図4】図4は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図5】図5は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図6】図6は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図7】図7は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図8】図8は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図9】図9は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図10】図10は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図11】図11は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図12】図12は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図13】図13は、本発明の実施例に係る空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0021】
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤの回転軸(図示せず)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面Cに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面Cから離れる側をいう。タイヤ赤道面Cとは、空気入りタイヤの回転軸に直交すると共に、空気入りタイヤのタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ幅は、タイヤ幅方向の外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面Cから最も離れている部分間の距離である。また、タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面C上にあって空気入りタイヤの周方向に沿う線をいう。本実施の形態では、タイヤ赤道線にタイヤ赤道面と同じ符号「C」を付す。
【0022】
図1は、本実施の形態に係る空気入りタイヤの子午断面概略図である。本実施の形態にかかる空気入りタイヤは、図1に示すようにトレッド部2と、その両側のショルダー部3と、各ショルダー部3から順次連続するサイドウォール部4およびビード部5とを有している。この空気入りタイヤは、カーカス層6と、ベルト層7と、インナーライナー8とを含み構成されている。
【0023】
トレッド部2は、空気入りタイヤのタイヤ径方向最外側で外部に露出したものであり、その表面が空気入りタイヤの輪郭となる。トレッド部2の外周表面、つまり、走行時に路面と接触する踏面には、トレッド面21が形成されている。このトレッド面21には、タイヤ周方向に延在して形成された複数(本実施の形態では4つ)の周方向主溝22により区画された複数(本実施の形態では5つ)のリブ23が設けられている。また、図には明示しないが、リブ23は、タイヤ幅方向に延在しつつ周方向主溝22に一端または両端が開放するラグ溝が設けられていてもよい。
【0024】
ショルダー部3は、トレッド部2のタイヤ幅方向両外側の部位である。また、サイドウォール部4は、空気入りタイヤにおけるタイヤ幅方向の最も外側に露出したものである。また、ビード部5は、ビードコア51とビードフィラー52とを有する。ビードコア51は、スチールワイヤであるビードワイヤをリング状に巻くことにより形成されている。ビードフィラー52は、カーカス層6のタイヤ幅方向端部がビードコア51の位置で折り返されることにより形成された空間に配置される。
【0025】
カーカス層6は、各タイヤ幅方向端部が、一対のビードコア51でタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものである。このカーカス層6は、有機繊維(ナイロンやポリエステルなど)やスチールなどの補強コード(図示せず)が、複数併設され、カーカスコートゴムで被覆されたものである。カーカス層6は、少なくとも1層設けられている。1層のカーカス層6の場合、補強コードは、タイヤ周方向、つまりタイヤ赤道線Cに対する角度が、ほぼ90[deg]に設定されている。
【0026】
ベルト層7は、少なくとも1層で構成されている。ベルト層7は、トレッド部2においてカーカス層6の外周であるタイヤ径方向外側に配置され、カーカス層6をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト層7は、有機繊維(ナイロンやポリエステルなど)やスチールなどのコードがコートゴムで被覆されたものである。ベルト層7が1層の場合、該コードがタイヤ周方向、つまりタイヤ赤道線Cと平行に設けられている。なお、本実施の形態の空気入りタイヤは、図1に示すように、ベルト層7が、ベルト層71,72を積層した多層構造で構成されている。ベルト層71,72は、コードがタイヤ周方向、つまりタイヤ赤道線Cに対して、所定の角度をつけて設けられており、かつ相互にコードが交差して設けられている。
【0027】
インナーライナー8は、気体透過性の低いシート状またはフィルム状であり、カーカス層6のタイヤ径方向内側であって、空気入りタイヤのタイヤ内周面に配置される。
【0028】
このように、本実施の形態の空気入りタイヤは、補強コードをタイヤ周方向に複数配列し、そのタイヤ幅方向両端部を両ビード部5に配置したビードコア51まで延在させたカーカス層6と、トレッド部2におけるカーカス層6のタイヤ径方向外側に少なくとも1層設けられたベルト層7とを備える。
【0029】
そして、この空気入りタイヤにおいて、ベルト層7のタイヤ幅方向端よりもタイヤ幅方向内側であって、ベルト層7のタイヤ幅方向最大寸法W1の5[%]以上95[%]以下となる範囲W2のカーカス層6について、〔カーカス強度係数K[N/mm・kPa]〕=〔補強コード打ち込み本数[本/mm]〕×〔補強コード強力[N/本]〕×〔カーカス層の層数〕÷〔最大空気圧[kPa]〕の式で定義されるカーカス層6のカーカス強度係数Kを、0[N/mm・kPa]<K<0.35[N/mm・kPa]とする。
【0030】
ベルト層7のタイヤ幅方向最大寸法W1は、多層構造のベルト層7の場合には、タイヤ幅方向最大幅のベルト層におけるタイヤ幅方向寸法である。また、ベルト層7のタイヤ幅方向端からベルト層7のタイヤ幅方向最大寸法W1の5[%]以上95[%]以下となる位置Pは、ベルト層7のタイヤ幅方向最大寸法W1内で、その5[%]以上95[%]以下となる範囲の両端位置を示す。そして、ベルト層7のタイヤ幅方向一端を位置Pとし、このタイヤ幅方向一端よりもタイヤ幅方向内側の範囲がベルト層7のタイヤ幅方向最大寸法W1の5[%]以上95[%]以下であることも含む。
【0031】
カーカス強度係数K=0は、カーカス層6が分割された構成を意味し、この構成では成型時にカーカス層6の分割部分が膨径し、トレッド厚さが不均一になるおそれがある。よって、カーカス層6のカーカス強度係数Kを、0[N/mm・kPa]<Kとすれば、カーカス層6の膨径を防ぎ、トレッド厚さの均一性を向上する傾向となる。一方、カーカス強度係数K≧0.35の場合、補強コード打ち込み本数、補強コード強力またはカーカス層6の層数が多くなりタイヤ重量が増すと共に乗り心地性が低下する傾向となる。したがって、この空気入りタイヤによれば、ベルト層7によるタイヤ幅方向の所定範囲において、カーカス層6のカーカス強度係数Kを、0[N/mm・kPa]<K<0.35[N/mm・kPa]とすることで、カーカス層6を分割した形態と同等の乗り心地性を維持すると共に、トレッド厚さの均一性を向上することが可能になる。
【0032】
なお、カーカス層6のカーカス強度係数Kを、0.15[N/mm・kPa]≦K≦0.34[N/mm・kPa]とすれば、カーカス層6の膨径をより防ぎ、トレッド厚さの均一性をより向上する傾向となり、かつタイヤ重量の増加および乗り心地性の低下をより抑制する傾向となるため好ましい。
【0033】
ところで、カーカス層6のカーカス強度係数Kの上記範囲は、一般的な空気入りタイヤと比較して低く、面外曲げ剛性が低下することから、段差乗り越し時の乗り心地は向上するものの、成型時でのリフトによってカーカスコード間隔にばらつきが生じやすくなり、ユニフォミティが低下する傾向となるため、平坦路走行時に振動が発生して乗り心地が悪化するおそれがある。
【0034】
そこで、本実施の形態の空気入りタイヤは、前記範囲W2の少なくとも一部に、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成されてコードを有さない補強層9が配置されている。
【0035】
本実施の形態で使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕、ポリエステル系樹脂〔例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンテレフタレート/テトラメチレングリコール共重合体、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂〔例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)〕、ポリビニル系樹脂〔例えば酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)〕、イミド系樹脂〔例えば芳香族ポリイミド(PI)〕などを挙げることができる。
【0036】
本実施の形態で使用されるエラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴム及びその水素添加物〔例えばNR、IR、エポキシ化天然ゴム、SBR、BR(高シスBR及び低シスBR)、NBR、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)〕、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー、含ハロゲンゴム〔例えばBr−IIR、Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHC,CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)〕、シリコーンゴム(例えばメチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム)、含イオウゴム(例えばポリスルフィドゴム)、フッ素ゴム(例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム)、熱可塑性エラストマー(例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー)などを挙げることができる。
【0037】
また、本実施の形態で使用される熱可塑性エラストマー組成物において、熱可塑性樹脂成分(A)とエラストマー成分(B)との組成比は、フィルムの厚さや柔軟性のバランスで適宜決めればよいが、好ましい範囲は10/90〜90/10、更に好ましくは20/80〜85/15(重量比)である。
【0038】
本実施の形態に係る熱可塑性エラストマー組成物には、上記必須成分(A)および(B)に加えて第三成分として、相溶化剤などの他のポリマー及び配合剤を混合することができる。他のポリマーを混合する目的は、熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分との相溶性を改良するため、材料のフィルム成形加工性を良くするため、耐熱性向上のため、コストダウンのため等であり、これに用いられる材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS、SBS、ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0039】
上記熱可塑性エラストマー組成物は、予め熱可塑性樹脂とエラストマー(ゴムの場合は未加硫物)とを2軸混練押出機等で溶融混練し、連続相を形成する熱可塑性樹脂中にエラストマー成分を分散させることにより得られる。エラストマー成分を加硫する場合には、混練下で加硫剤を添加し、エラストマーを動的に加硫させても良い。また、熱可塑性樹脂またはエラストマー成分への各種配合剤(加硫剤を除く)は、上記混練中に添加しても良いが、混練の前に予め混合しておくことが好ましい。熱可塑性樹脂とエラストマーの混練に使用する混練機としては、特に限定はなく、スクリュー押出機、ニーダ、バンバリミキサー、2軸混練押出機等が挙げられる。中でも樹脂成分とゴム成分の混練およびゴム成分の動的加硫には2軸混練押出機を使用するのが好ましい。さらに、2種類以上の混練機を使用し、順次混練してもよい。溶融混練の条件として、温度は熱可塑性樹脂が溶融する温度以上であれば良い。また、混練時の剪断速度は2500〜7500sec−1であるのが好ましい。混練全体の時間は30秒から10分、また加硫剤を添加した場合には、添加後の加硫時間は15秒から5分であるのが好ましい。上記方法で作製された熱可塑性エラストマー組成物は、樹脂用押出機による成形またはカレンダー成形によってフィルム化される。フィルム化の方法は、通常の熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーをフィルム化する方法によれば良い。
【0040】
このようにして得られる熱可塑性エラストマー組成物の薄膜は、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとる。かかる状態の分散構造を採ることにより、ヤング率を1〜500MPaの範囲に設定し、タイヤ構成部材として適度な剛性を付与することが可能になる。
【0041】
図2〜図12は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。図1および図2に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向内側であって、インナーライナー8との間に補強層9が設けられている。図3に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向内側であって、空気入りタイヤのタイヤ内周面のインナーライナー8として補強層9が設けられている。図4に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向外側であって、ベルト層7との間に補強層9が設けられている。
【0042】
また、図5〜図8に示す空気入りタイヤは、カーカス層6が、ビードコア51でタイヤ幅方向外側に折り返された端部をベルト層7のタイヤ径方向内側まで延在して設けられ、その端部の間を範囲W2としてある。そして、図5に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向内側であって、インナーライナー8との間に補強層9が設けられている。図6に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向内側であって、空気入りタイヤのタイヤ内周面のインナーライナー8として補強層9が設けられている。図7に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向外側であって、ベルト層7との間に補強層9が設けられている。図8に示す空気入りタイヤは、カーカス層6の端部間に補強層9が設けられている。
【0043】
また、図9〜図12に示す空気入りタイヤは、カーカス層6が、ビードコア51でタイヤ幅方向内側に折り返された端部をベルト層7のタイヤ径方向内側まで延在して設けられ、その端部の間を範囲W2としてある。そして、図9に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向内側であって、インナーライナー8との間に補強層9が設けられている。図10に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向内側であって、空気入りタイヤのタイヤ内周面のインナーライナー8として補強層9が設けられている。図11に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向外側であって、ベルト層7との間に補強層9が設けられている。図12に示す空気入りタイヤは、カーカス層6の端部間に補強層9が設けられている。
【0044】
このように、本実施の形態の空気入りタイヤは、補強コードをタイヤ周方向に複数配列し、そのタイヤ幅方向両端部を両ビード部5に配置したビードコア51まで延在させたカーカス層6と、トレッド部2における前記カーカス層6のタイヤ径方向外側に少なくとも1層設けられたベルト層7とを備える空気入りタイヤにおいて、ベルト層7のタイヤ幅方向端よりもタイヤ幅方向内側であって、ベルト層7のタイヤ幅方向最大寸法W1の5[%]以上95[%]以下となる範囲W2で、〔カーカス強度係数K[N/mm・kPa]〕=〔補強コード打ち込み本数[本/mm]〕×〔補強コード強力[N/本]〕×〔カーカス層の層数〕÷〔最大空気圧[kPa]〕の式で定義される前記カーカス層のカーカス強度係数Kを、0[N/mm・kPa]<K<0.35[N/mm・kPa]とし、かつ範囲W2の少なくとも一部に、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成された補強層9が配置されている。
【0045】
この空気入りタイヤによれば、カーカス層6のカーカス強度係数Kの範囲を規定することで、段差乗り越し時の乗り心地を向上することが可能になる。しかも、補強層9を設けたことで、成型時でのリフトによるカーカスコード間隔にばらつきが生じる事態を防いでユニフォミティの低下を抑制し、平坦路走行時での振動を防止して乗り心地を改善することが可能になる。
【0046】
また、本実施の形態の空気入りタイヤでは、補強層9を構成する熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物は、その貯蔵弾性率E1[MPa]が600[MPa]以下であり、厚さt[mm]が3[mm]以下であることが好ましい。補強層9の貯蔵弾性率E1[MPa]および厚さt[mm]が範囲を超えると、補強層9の重量が増してタイヤ重量が嵩む傾向となる。
【0047】
特に、本実施の形態の空気入りタイヤでは、補強層9を構成する熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物は、その貯蔵弾性率E1[MPa]および厚さt[mm]が、6.7t+E1−20≧0、200t+E1−600≦0、E1>0、t>0の関係にあることが好ましい。
【0048】
この範囲とすることで、補強層9の重量の増加を防いでタイヤ重量が嵩む事態を抑えることが可能になり、かつ補強層9の硬さが増すことを防いで補強層9の成形性を維持することが可能になる。
【0049】
また、本実施の形態の空気入りタイヤでは、補強層9は、範囲W2の60[%]以上120[%]以下のタイヤ幅方向の範囲W3に配置されていることが好ましい。
【0050】
範囲W2の60[%]以上120[%]以下のタイヤ幅方向の範囲W3に補強層9を配置することで、補強層9による効果を顕著に得ることが可能である。
【0051】
また、本実施の形態の空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向内側のタイヤ内周面にインナーライナー8を備え、当該インナーライナー8は、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成され、補強層9を兼ねることが好ましい。
【0052】
インナーライナー8が補強層9を兼ねることで、補強層9の機能を得つつタイヤ重量やタイヤ径方向の厚さが嵩む事態を抑制することが可能になる。
【0053】
また、本実施の形態の空気入りタイヤは、乗用車用空気入りタイヤに適用され、補強層9の貯蔵弾性率E1が50[MPa]以上150[MPa]以下であり、補強層9の厚さtが0.01[mm]以上0.3[mm]以下であることが好ましい。
【0054】
補強層9の貯蔵弾性率E1を50[MPa]以上150[MPa]以下とし、補強層9の厚さtを0.01[mm]以上0.3[mm]以下とすることが、乗用車用空気入りタイヤに適用される場合に、補強層9による効果を顕著に得る上で好ましい。
【0055】
また、本実施の形態の空気入りタイヤは、重荷重用空気入りタイヤに適用され、補強層9の貯蔵弾性率E1が200[MPa]以上500[MPa]以下であり、補強層9の厚さtが0.01[mm]以上0.2[mm]以下であることが好ましい。
【0056】
補強層9の貯蔵弾性率E1を200[MPa]以上500[MPa]以下とし、補強層9の厚さtを0.01[mm]以上0.2[mm]以下とすることが、重荷重用空気入りタイヤに適用される場合に、補強層9による効果を顕著に得る上で好ましい。
【実施例】
【0057】
本実施の形態では、条件が異なる複数種類の空気入りタイヤについて、乗り心地(段差乗り越え)、乗り心地(平坦路)および成形性に関する性能試験が行われた(図13参照)。
【0058】
この性能試験では、タイヤサイズ195/65R15の空気入りタイヤを、正規リムに組み付け、正規内圧(220[kPa])を充填し、試験車両(国産2.0リットルクラス乗用車)に装着した。なお、ここでいう正規リムとは、JATMAに規定される「標準リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、正規内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。
【0059】
乗り心地(段差乗り越え)の性能試験では、上記試験車両にて、段差10[mm]の凹凸を有する直線テストコースを60[km/h]で走行し、熟練のドライバー1名が5段階の官能評価を行った。この評価は、3回の平均を、従来例を基準(100)とした指数で示し、この指数が高いほど乗り心地性が優れている。
【0060】
また、乗り心地(平坦路)の性能試験では、上記試験車両にて、平坦なテストコースを60[km/h]で走行し、走行振動について、熟練のドライバー1名が5段階の官能評価を行った。この評価は、3回の平均を、従来例を基準(100)とした指数で示し、この指数が高いほど乗り心地性が優れている。
【0061】
なお、乗り心地の評価は、段差乗り越えの評価の指数、および平坦路の評価の指数を加えた指数を従来の200と対比し、指数が200を越えることで乗り心地性が優れているものとする。
【0062】
成形性の試験では、タイヤ成型時に成形ドラムの径が拡大するか否かを調べた。成形ドラムの径が拡大すれば成形性が好ましく○で示し、成形ドラムの径が拡大しなければ成形性が悪く×で示す。
【0063】
従来例の空気入りタイヤは、範囲W2でのカーカス強度係数Kを規定範囲としているが、補強層を備えていない。比較例の空気入りタイヤは、範囲W2でのカーカス強度係数Kを規定範囲外とし、補強層を備えている。これに対し、実施例1〜実施例6の空気入りタイヤは、範囲W2でのカーカス強度係数Kを規定範囲とし、かつ補強層を備えている。このうち、実施例2の空気入りタイヤは、補強層の厚さtを比較的大きく設定している。また、実施例3の空気入りタイヤは、補強層の貯蔵弾性率E1を比較的大きく設定している。また、実施例4の空気入りタイヤは、範囲W2でのカーカス強度係数Kを比較的小さく設定している。また、実施例5の空気入りタイヤは、補強層をインナーライナーとして構成している。また、実施例6の空気入りタイヤは、折返し端をベルト層まで延在したカーカス層の内側に補強層を設けている。
【0064】
図13の試験結果に示すように、実施例1〜実施例6の空気入りタイヤは、乗り心地性に優れ、成形性が維持されていることが分かる。
【符号の説明】
【0065】
2 トレッド部
5 ビード部
51 ビードコア
6 カーカス層
7 ベルト層
8 インナーライナー
9 補強層
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、カーカス層のカーカス強度係数の範囲を規定した空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載の空気入りタイヤ(空気入りラジアルタイヤ)は、補強コードを配列したカーカス層の両端部を左右のビード部に配置したビードコアの周りにタイヤ内側から外側に折り返し、トレッド部のカーカス層外周側に少なくとも2層のベルト層を配置しており、カーカス強度係数[N/mm・kPa]=〔補強コード打ち込み本数[本/mm]〕×〔補強コード強力[N]〕×〔カーカス層の層数〕÷〔最大空気圧[kPa]〕で定義される前記カーカス層のカーカス強度係数を、2番目に幅が広いベルト層のエッジから内側にそのベルト幅の10%となる位置Pよりトレッド部センター側で0.15〜0.35[N/mm・kPa]、前記位置Pからビード部にかけて0.5[N/mm・kPa]以上にすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−207512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者等は、カーカス層のカーカス強度係数をさらに低下させた範囲としても実用化することができることを発見した。しかし、そのような空気入りタイヤは、面外曲げ剛性が低下することから段差乗り越し時の乗り心地は向上するものの、成型時でのリフトによってカーカスコード間隔にばらつきが生じやすくなり、ユニフォミティが低下する傾向となるため、平坦路走行時に振動が発生して乗り心地が悪化するおそれがある。
【0005】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、カーカス層のカーカス強度係数の範囲を規定しつつ、乗り心地性能を改善することのできる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の空気入りタイヤは、補強コードをタイヤ周方向に複数配列し、そのタイヤ幅方向両端部を両ビード部に配置したビードコアまで延在させたカーカス層と、トレッド部における前記カーカス層のタイヤ径方向外側に少なくとも1層設けられたベルト層とを備える空気入りタイヤにおいて、前記ベルト層のタイヤ幅方向端よりもタイヤ幅方向内側であって、前記ベルト層のタイヤ幅方向最大寸法W1の5[%]以上95[%]以下となる範囲W2で、〔カーカス強度係数K[N/mm・kPa]〕=〔補強コード打ち込み本数[本/mm]〕×〔補強コード強力[N/本]〕×〔カーカス層の層数〕÷〔最大空気圧[kPa]〕の式で定義される前記カーカス層のカーカス強度係数Kを、0[N/mm・kPa]<K<0.35[N/mm・kPa]とし、かつ前記範囲W2の少なくとも一部に、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成された補強層が配置されていることを特徴とする。
【0007】
この空気入りタイヤによれば、カーカス層のカーカス強度係数Kの範囲を規定することで、段差乗り越し時の乗り心地を向上することができる。しかも、補強層を設けたことで、成型時でのリフトによるカーカスコード間隔にばらつきが生じる事態を防いでユニフォミティの低下を抑制し、平坦路走行時での振動を防止して乗り心地を改善することができる。
【0008】
また、本発明の空気入りタイヤは、前記補強層を構成する熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物は、その貯蔵弾性率E1[MPa]および厚さt[mm]が、6.7t+E1−20≧0、200t+E1−600≦0、E1>0、t>0の関係にあることを特徴とする。
【0009】
補強層の貯蔵弾性率E1[MPa]および厚さt[mm]が範囲を超えると、補強層の重量が増してタイヤ重量が嵩む傾向となる。この点、本発明の空気入りタイヤによれば、貯蔵弾性率E1[MPa]および厚さt[mm]が、6.7t+E1−20≧0、200t+E1−600≦0、E1>0、t>0の関係にあることから、補強層の重量の増加を防いでタイヤ重量が嵩む事態を抑えることができ、かつ補強層の硬さが増すことを防いで補強層の成形性を維持することができる。
【0010】
また、本発明の空気入りタイヤは、前記補強層は、前記範囲W2の60[%]以上120[%]以下のタイヤ幅方向の範囲に配置されていることを特徴とする。
【0011】
この空気入りタイヤによれば、補強層のタイヤ幅方向の範囲を規定することで、補強層による上記効果を顕著に得ることができる。
【0012】
また、本発明の空気入りタイヤは、前記カーカス層のタイヤ径方向内側のタイヤ内周面にインナーライナーを備え、当該インナーライナーは、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成され、前記補強層を兼ねることを特徴とする。
【0013】
この空気入りタイヤによれば、インナーライナーが補強層を兼ねることで、補強層の機能を得つつ、タイヤ重量やタイヤ径方向の厚さが嵩む事態を抑制することができる。
【0014】
また、本発明の空気入りタイヤは、乗用車用空気入りタイヤに適用され、前記補強層の貯蔵弾性率E1が50[MPa]以上150[MPa]以下であり、前記補強層の厚さtが0.01[mm]以上0.3[mm]以下であることを特徴とする。
【0015】
この空気入りタイヤによれば、補強層の貯蔵弾性率E1を50[MPa]以上150[MPa]以下とし、補強層の厚さtを0.01[mm]以上0.3[mm]以下とすることが、乗用車用空気入りタイヤに適用される場合に、補強層による効果を顕著に得る上で好ましい。
【0016】
また、本発明の空気入りタイヤは、重荷重用空気入りタイヤに適用され、前記補強層の貯蔵弾性率E1が200[MPa]以上500[MPa]以下であり、前記補強層の厚さtが0.01[mm]以上0.2[mm]以下であることを特徴とする。
【0017】
この空気入りタイヤによれば、補強層の貯蔵弾性率E1を200[MPa]以上500[MPa]以下とし、補強層の厚さtを0.01[mm]以上0.2[mm]以下とすることが、重荷重用空気入りタイヤに適用される場合に、補強層による効果を顕著に得る上で好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る空気入りタイヤは、カーカス層のカーカス強度係数の範囲を規定しつつ、乗り心地性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る空気入りタイヤの子午断面概略図である。
【図2】図2は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図3】図3は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図4】図4は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図5】図5は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図6】図6は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図7】図7は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図8】図8は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図9】図9は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図10】図10は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図11】図11は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図12】図12は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。
【図13】図13は、本発明の実施例に係る空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0021】
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤの回転軸(図示せず)と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面Cに向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面Cから離れる側をいう。タイヤ赤道面Cとは、空気入りタイヤの回転軸に直交すると共に、空気入りタイヤのタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ幅は、タイヤ幅方向の外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面Cから最も離れている部分間の距離である。また、タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面C上にあって空気入りタイヤの周方向に沿う線をいう。本実施の形態では、タイヤ赤道線にタイヤ赤道面と同じ符号「C」を付す。
【0022】
図1は、本実施の形態に係る空気入りタイヤの子午断面概略図である。本実施の形態にかかる空気入りタイヤは、図1に示すようにトレッド部2と、その両側のショルダー部3と、各ショルダー部3から順次連続するサイドウォール部4およびビード部5とを有している。この空気入りタイヤは、カーカス層6と、ベルト層7と、インナーライナー8とを含み構成されている。
【0023】
トレッド部2は、空気入りタイヤのタイヤ径方向最外側で外部に露出したものであり、その表面が空気入りタイヤの輪郭となる。トレッド部2の外周表面、つまり、走行時に路面と接触する踏面には、トレッド面21が形成されている。このトレッド面21には、タイヤ周方向に延在して形成された複数(本実施の形態では4つ)の周方向主溝22により区画された複数(本実施の形態では5つ)のリブ23が設けられている。また、図には明示しないが、リブ23は、タイヤ幅方向に延在しつつ周方向主溝22に一端または両端が開放するラグ溝が設けられていてもよい。
【0024】
ショルダー部3は、トレッド部2のタイヤ幅方向両外側の部位である。また、サイドウォール部4は、空気入りタイヤにおけるタイヤ幅方向の最も外側に露出したものである。また、ビード部5は、ビードコア51とビードフィラー52とを有する。ビードコア51は、スチールワイヤであるビードワイヤをリング状に巻くことにより形成されている。ビードフィラー52は、カーカス層6のタイヤ幅方向端部がビードコア51の位置で折り返されることにより形成された空間に配置される。
【0025】
カーカス層6は、各タイヤ幅方向端部が、一対のビードコア51でタイヤ幅方向内側からタイヤ幅方向外側に折り返され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものである。このカーカス層6は、有機繊維(ナイロンやポリエステルなど)やスチールなどの補強コード(図示せず)が、複数併設され、カーカスコートゴムで被覆されたものである。カーカス層6は、少なくとも1層設けられている。1層のカーカス層6の場合、補強コードは、タイヤ周方向、つまりタイヤ赤道線Cに対する角度が、ほぼ90[deg]に設定されている。
【0026】
ベルト層7は、少なくとも1層で構成されている。ベルト層7は、トレッド部2においてカーカス層6の外周であるタイヤ径方向外側に配置され、カーカス層6をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト層7は、有機繊維(ナイロンやポリエステルなど)やスチールなどのコードがコートゴムで被覆されたものである。ベルト層7が1層の場合、該コードがタイヤ周方向、つまりタイヤ赤道線Cと平行に設けられている。なお、本実施の形態の空気入りタイヤは、図1に示すように、ベルト層7が、ベルト層71,72を積層した多層構造で構成されている。ベルト層71,72は、コードがタイヤ周方向、つまりタイヤ赤道線Cに対して、所定の角度をつけて設けられており、かつ相互にコードが交差して設けられている。
【0027】
インナーライナー8は、気体透過性の低いシート状またはフィルム状であり、カーカス層6のタイヤ径方向内側であって、空気入りタイヤのタイヤ内周面に配置される。
【0028】
このように、本実施の形態の空気入りタイヤは、補強コードをタイヤ周方向に複数配列し、そのタイヤ幅方向両端部を両ビード部5に配置したビードコア51まで延在させたカーカス層6と、トレッド部2におけるカーカス層6のタイヤ径方向外側に少なくとも1層設けられたベルト層7とを備える。
【0029】
そして、この空気入りタイヤにおいて、ベルト層7のタイヤ幅方向端よりもタイヤ幅方向内側であって、ベルト層7のタイヤ幅方向最大寸法W1の5[%]以上95[%]以下となる範囲W2のカーカス層6について、〔カーカス強度係数K[N/mm・kPa]〕=〔補強コード打ち込み本数[本/mm]〕×〔補強コード強力[N/本]〕×〔カーカス層の層数〕÷〔最大空気圧[kPa]〕の式で定義されるカーカス層6のカーカス強度係数Kを、0[N/mm・kPa]<K<0.35[N/mm・kPa]とする。
【0030】
ベルト層7のタイヤ幅方向最大寸法W1は、多層構造のベルト層7の場合には、タイヤ幅方向最大幅のベルト層におけるタイヤ幅方向寸法である。また、ベルト層7のタイヤ幅方向端からベルト層7のタイヤ幅方向最大寸法W1の5[%]以上95[%]以下となる位置Pは、ベルト層7のタイヤ幅方向最大寸法W1内で、その5[%]以上95[%]以下となる範囲の両端位置を示す。そして、ベルト層7のタイヤ幅方向一端を位置Pとし、このタイヤ幅方向一端よりもタイヤ幅方向内側の範囲がベルト層7のタイヤ幅方向最大寸法W1の5[%]以上95[%]以下であることも含む。
【0031】
カーカス強度係数K=0は、カーカス層6が分割された構成を意味し、この構成では成型時にカーカス層6の分割部分が膨径し、トレッド厚さが不均一になるおそれがある。よって、カーカス層6のカーカス強度係数Kを、0[N/mm・kPa]<Kとすれば、カーカス層6の膨径を防ぎ、トレッド厚さの均一性を向上する傾向となる。一方、カーカス強度係数K≧0.35の場合、補強コード打ち込み本数、補強コード強力またはカーカス層6の層数が多くなりタイヤ重量が増すと共に乗り心地性が低下する傾向となる。したがって、この空気入りタイヤによれば、ベルト層7によるタイヤ幅方向の所定範囲において、カーカス層6のカーカス強度係数Kを、0[N/mm・kPa]<K<0.35[N/mm・kPa]とすることで、カーカス層6を分割した形態と同等の乗り心地性を維持すると共に、トレッド厚さの均一性を向上することが可能になる。
【0032】
なお、カーカス層6のカーカス強度係数Kを、0.15[N/mm・kPa]≦K≦0.34[N/mm・kPa]とすれば、カーカス層6の膨径をより防ぎ、トレッド厚さの均一性をより向上する傾向となり、かつタイヤ重量の増加および乗り心地性の低下をより抑制する傾向となるため好ましい。
【0033】
ところで、カーカス層6のカーカス強度係数Kの上記範囲は、一般的な空気入りタイヤと比較して低く、面外曲げ剛性が低下することから、段差乗り越し時の乗り心地は向上するものの、成型時でのリフトによってカーカスコード間隔にばらつきが生じやすくなり、ユニフォミティが低下する傾向となるため、平坦路走行時に振動が発生して乗り心地が悪化するおそれがある。
【0034】
そこで、本実施の形態の空気入りタイヤは、前記範囲W2の少なくとも一部に、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成されてコードを有さない補強層9が配置されている。
【0035】
本実施の形態で使用される熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕、ポリエステル系樹脂〔例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンテレフタレート/テトラメチレングリコール共重合体、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂〔例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)〕、ポリビニル系樹脂〔例えば酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)〕、イミド系樹脂〔例えば芳香族ポリイミド(PI)〕などを挙げることができる。
【0036】
本実施の形態で使用されるエラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴム及びその水素添加物〔例えばNR、IR、エポキシ化天然ゴム、SBR、BR(高シスBR及び低シスBR)、NBR、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)〕、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニル又はジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー、含ハロゲンゴム〔例えばBr−IIR、Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHC,CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)〕、シリコーンゴム(例えばメチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム)、含イオウゴム(例えばポリスルフィドゴム)、フッ素ゴム(例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム)、熱可塑性エラストマー(例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー)などを挙げることができる。
【0037】
また、本実施の形態で使用される熱可塑性エラストマー組成物において、熱可塑性樹脂成分(A)とエラストマー成分(B)との組成比は、フィルムの厚さや柔軟性のバランスで適宜決めればよいが、好ましい範囲は10/90〜90/10、更に好ましくは20/80〜85/15(重量比)である。
【0038】
本実施の形態に係る熱可塑性エラストマー組成物には、上記必須成分(A)および(B)に加えて第三成分として、相溶化剤などの他のポリマー及び配合剤を混合することができる。他のポリマーを混合する目的は、熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分との相溶性を改良するため、材料のフィルム成形加工性を良くするため、耐熱性向上のため、コストダウンのため等であり、これに用いられる材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS、SBS、ポリカーボネートなどが挙げられる。
【0039】
上記熱可塑性エラストマー組成物は、予め熱可塑性樹脂とエラストマー(ゴムの場合は未加硫物)とを2軸混練押出機等で溶融混練し、連続相を形成する熱可塑性樹脂中にエラストマー成分を分散させることにより得られる。エラストマー成分を加硫する場合には、混練下で加硫剤を添加し、エラストマーを動的に加硫させても良い。また、熱可塑性樹脂またはエラストマー成分への各種配合剤(加硫剤を除く)は、上記混練中に添加しても良いが、混練の前に予め混合しておくことが好ましい。熱可塑性樹脂とエラストマーの混練に使用する混練機としては、特に限定はなく、スクリュー押出機、ニーダ、バンバリミキサー、2軸混練押出機等が挙げられる。中でも樹脂成分とゴム成分の混練およびゴム成分の動的加硫には2軸混練押出機を使用するのが好ましい。さらに、2種類以上の混練機を使用し、順次混練してもよい。溶融混練の条件として、温度は熱可塑性樹脂が溶融する温度以上であれば良い。また、混練時の剪断速度は2500〜7500sec−1であるのが好ましい。混練全体の時間は30秒から10分、また加硫剤を添加した場合には、添加後の加硫時間は15秒から5分であるのが好ましい。上記方法で作製された熱可塑性エラストマー組成物は、樹脂用押出機による成形またはカレンダー成形によってフィルム化される。フィルム化の方法は、通常の熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマーをフィルム化する方法によれば良い。
【0040】
このようにして得られる熱可塑性エラストマー組成物の薄膜は、熱可塑性樹脂のマトリクス中にエラストマーが不連続相として分散した構造をとる。かかる状態の分散構造を採ることにより、ヤング率を1〜500MPaの範囲に設定し、タイヤ構成部材として適度な剛性を付与することが可能になる。
【0041】
図2〜図12は、カーカス層および補強層の配置を例示する子午断面概略図である。図1および図2に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向内側であって、インナーライナー8との間に補強層9が設けられている。図3に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向内側であって、空気入りタイヤのタイヤ内周面のインナーライナー8として補強層9が設けられている。図4に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向外側であって、ベルト層7との間に補強層9が設けられている。
【0042】
また、図5〜図8に示す空気入りタイヤは、カーカス層6が、ビードコア51でタイヤ幅方向外側に折り返された端部をベルト層7のタイヤ径方向内側まで延在して設けられ、その端部の間を範囲W2としてある。そして、図5に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向内側であって、インナーライナー8との間に補強層9が設けられている。図6に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向内側であって、空気入りタイヤのタイヤ内周面のインナーライナー8として補強層9が設けられている。図7に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向外側であって、ベルト層7との間に補強層9が設けられている。図8に示す空気入りタイヤは、カーカス層6の端部間に補強層9が設けられている。
【0043】
また、図9〜図12に示す空気入りタイヤは、カーカス層6が、ビードコア51でタイヤ幅方向内側に折り返された端部をベルト層7のタイヤ径方向内側まで延在して設けられ、その端部の間を範囲W2としてある。そして、図9に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向内側であって、インナーライナー8との間に補強層9が設けられている。図10に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向内側であって、空気入りタイヤのタイヤ内周面のインナーライナー8として補強層9が設けられている。図11に示す空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向外側であって、ベルト層7との間に補強層9が設けられている。図12に示す空気入りタイヤは、カーカス層6の端部間に補強層9が設けられている。
【0044】
このように、本実施の形態の空気入りタイヤは、補強コードをタイヤ周方向に複数配列し、そのタイヤ幅方向両端部を両ビード部5に配置したビードコア51まで延在させたカーカス層6と、トレッド部2における前記カーカス層6のタイヤ径方向外側に少なくとも1層設けられたベルト層7とを備える空気入りタイヤにおいて、ベルト層7のタイヤ幅方向端よりもタイヤ幅方向内側であって、ベルト層7のタイヤ幅方向最大寸法W1の5[%]以上95[%]以下となる範囲W2で、〔カーカス強度係数K[N/mm・kPa]〕=〔補強コード打ち込み本数[本/mm]〕×〔補強コード強力[N/本]〕×〔カーカス層の層数〕÷〔最大空気圧[kPa]〕の式で定義される前記カーカス層のカーカス強度係数Kを、0[N/mm・kPa]<K<0.35[N/mm・kPa]とし、かつ範囲W2の少なくとも一部に、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成された補強層9が配置されている。
【0045】
この空気入りタイヤによれば、カーカス層6のカーカス強度係数Kの範囲を規定することで、段差乗り越し時の乗り心地を向上することが可能になる。しかも、補強層9を設けたことで、成型時でのリフトによるカーカスコード間隔にばらつきが生じる事態を防いでユニフォミティの低下を抑制し、平坦路走行時での振動を防止して乗り心地を改善することが可能になる。
【0046】
また、本実施の形態の空気入りタイヤでは、補強層9を構成する熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物は、その貯蔵弾性率E1[MPa]が600[MPa]以下であり、厚さt[mm]が3[mm]以下であることが好ましい。補強層9の貯蔵弾性率E1[MPa]および厚さt[mm]が範囲を超えると、補強層9の重量が増してタイヤ重量が嵩む傾向となる。
【0047】
特に、本実施の形態の空気入りタイヤでは、補強層9を構成する熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物は、その貯蔵弾性率E1[MPa]および厚さt[mm]が、6.7t+E1−20≧0、200t+E1−600≦0、E1>0、t>0の関係にあることが好ましい。
【0048】
この範囲とすることで、補強層9の重量の増加を防いでタイヤ重量が嵩む事態を抑えることが可能になり、かつ補強層9の硬さが増すことを防いで補強層9の成形性を維持することが可能になる。
【0049】
また、本実施の形態の空気入りタイヤでは、補強層9は、範囲W2の60[%]以上120[%]以下のタイヤ幅方向の範囲W3に配置されていることが好ましい。
【0050】
範囲W2の60[%]以上120[%]以下のタイヤ幅方向の範囲W3に補強層9を配置することで、補強層9による効果を顕著に得ることが可能である。
【0051】
また、本実施の形態の空気入りタイヤは、カーカス層6のタイヤ径方向内側のタイヤ内周面にインナーライナー8を備え、当該インナーライナー8は、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成され、補強層9を兼ねることが好ましい。
【0052】
インナーライナー8が補強層9を兼ねることで、補強層9の機能を得つつタイヤ重量やタイヤ径方向の厚さが嵩む事態を抑制することが可能になる。
【0053】
また、本実施の形態の空気入りタイヤは、乗用車用空気入りタイヤに適用され、補強層9の貯蔵弾性率E1が50[MPa]以上150[MPa]以下であり、補強層9の厚さtが0.01[mm]以上0.3[mm]以下であることが好ましい。
【0054】
補強層9の貯蔵弾性率E1を50[MPa]以上150[MPa]以下とし、補強層9の厚さtを0.01[mm]以上0.3[mm]以下とすることが、乗用車用空気入りタイヤに適用される場合に、補強層9による効果を顕著に得る上で好ましい。
【0055】
また、本実施の形態の空気入りタイヤは、重荷重用空気入りタイヤに適用され、補強層9の貯蔵弾性率E1が200[MPa]以上500[MPa]以下であり、補強層9の厚さtが0.01[mm]以上0.2[mm]以下であることが好ましい。
【0056】
補強層9の貯蔵弾性率E1を200[MPa]以上500[MPa]以下とし、補強層9の厚さtを0.01[mm]以上0.2[mm]以下とすることが、重荷重用空気入りタイヤに適用される場合に、補強層9による効果を顕著に得る上で好ましい。
【実施例】
【0057】
本実施の形態では、条件が異なる複数種類の空気入りタイヤについて、乗り心地(段差乗り越え)、乗り心地(平坦路)および成形性に関する性能試験が行われた(図13参照)。
【0058】
この性能試験では、タイヤサイズ195/65R15の空気入りタイヤを、正規リムに組み付け、正規内圧(220[kPa])を充填し、試験車両(国産2.0リットルクラス乗用車)に装着した。なお、ここでいう正規リムとは、JATMAに規定される「標準リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、正規内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。
【0059】
乗り心地(段差乗り越え)の性能試験では、上記試験車両にて、段差10[mm]の凹凸を有する直線テストコースを60[km/h]で走行し、熟練のドライバー1名が5段階の官能評価を行った。この評価は、3回の平均を、従来例を基準(100)とした指数で示し、この指数が高いほど乗り心地性が優れている。
【0060】
また、乗り心地(平坦路)の性能試験では、上記試験車両にて、平坦なテストコースを60[km/h]で走行し、走行振動について、熟練のドライバー1名が5段階の官能評価を行った。この評価は、3回の平均を、従来例を基準(100)とした指数で示し、この指数が高いほど乗り心地性が優れている。
【0061】
なお、乗り心地の評価は、段差乗り越えの評価の指数、および平坦路の評価の指数を加えた指数を従来の200と対比し、指数が200を越えることで乗り心地性が優れているものとする。
【0062】
成形性の試験では、タイヤ成型時に成形ドラムの径が拡大するか否かを調べた。成形ドラムの径が拡大すれば成形性が好ましく○で示し、成形ドラムの径が拡大しなければ成形性が悪く×で示す。
【0063】
従来例の空気入りタイヤは、範囲W2でのカーカス強度係数Kを規定範囲としているが、補強層を備えていない。比較例の空気入りタイヤは、範囲W2でのカーカス強度係数Kを規定範囲外とし、補強層を備えている。これに対し、実施例1〜実施例6の空気入りタイヤは、範囲W2でのカーカス強度係数Kを規定範囲とし、かつ補強層を備えている。このうち、実施例2の空気入りタイヤは、補強層の厚さtを比較的大きく設定している。また、実施例3の空気入りタイヤは、補強層の貯蔵弾性率E1を比較的大きく設定している。また、実施例4の空気入りタイヤは、範囲W2でのカーカス強度係数Kを比較的小さく設定している。また、実施例5の空気入りタイヤは、補強層をインナーライナーとして構成している。また、実施例6の空気入りタイヤは、折返し端をベルト層まで延在したカーカス層の内側に補強層を設けている。
【0064】
図13の試験結果に示すように、実施例1〜実施例6の空気入りタイヤは、乗り心地性に優れ、成形性が維持されていることが分かる。
【符号の説明】
【0065】
2 トレッド部
5 ビード部
51 ビードコア
6 カーカス層
7 ベルト層
8 インナーライナー
9 補強層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強コードをタイヤ周方向に複数配列し、そのタイヤ幅方向両端部を両ビード部に配置したビードコアまで延在させたカーカス層と、トレッド部における前記カーカス層のタイヤ径方向外側に少なくとも1層設けられたベルト層とを備える空気入りタイヤにおいて、
前記ベルト層のタイヤ幅方向端よりもタイヤ幅方向内側であって、前記ベルト層のタイヤ幅方向最大寸法W1の5[%]以上95[%]以下となる範囲W2で、〔カーカス強度係数K[N/mm・kPa]〕=〔補強コード打ち込み本数[本/mm]〕×〔補強コード強力[N/本]〕×〔カーカス層の層数〕÷〔最大空気圧[kPa]〕の式で定義される前記カーカス層のカーカス強度係数Kを、0[N/mm・kPa]<K<0.35[N/mm・kPa]とし、
かつ前記範囲W2の少なくとも一部に、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成された補強層が配置されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記補強層を構成する熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物は、その貯蔵弾性率E1[MPa]および厚さt[mm]が、6.7t+E1−20≧0、200t+E1−600≦0、E1>0、t>0の関係にあることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記補強層は、前記範囲W2の60[%]以上120[%]以下のタイヤ幅方向の範囲に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記カーカス層のタイヤ径方向内側のタイヤ内周面にインナーライナーを備え、当該インナーライナーは、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成され、前記補強層を兼ねることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
乗用車用空気入りタイヤに適用され、前記補強層の貯蔵弾性率E1が50[MPa]以上150[MPa]以下であり、前記補強層の厚さtが0.01[mm]以上0.3[mm]以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
重荷重用空気入りタイヤに適用され、前記補強層の貯蔵弾性率E1が200[MPa]以上500[MPa]以下であり、前記補強層の厚さtが0.01[mm]以上0.2[mm]以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項1】
補強コードをタイヤ周方向に複数配列し、そのタイヤ幅方向両端部を両ビード部に配置したビードコアまで延在させたカーカス層と、トレッド部における前記カーカス層のタイヤ径方向外側に少なくとも1層設けられたベルト層とを備える空気入りタイヤにおいて、
前記ベルト層のタイヤ幅方向端よりもタイヤ幅方向内側であって、前記ベルト層のタイヤ幅方向最大寸法W1の5[%]以上95[%]以下となる範囲W2で、〔カーカス強度係数K[N/mm・kPa]〕=〔補強コード打ち込み本数[本/mm]〕×〔補強コード強力[N/本]〕×〔カーカス層の層数〕÷〔最大空気圧[kPa]〕の式で定義される前記カーカス層のカーカス強度係数Kを、0[N/mm・kPa]<K<0.35[N/mm・kPa]とし、
かつ前記範囲W2の少なくとも一部に、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成された補強層が配置されていることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記補強層を構成する熱可塑性樹脂または熱可塑性エラストマー組成物は、その貯蔵弾性率E1[MPa]および厚さt[mm]が、6.7t+E1−20≧0、200t+E1−600≦0、E1>0、t>0の関係にあることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記補強層は、前記範囲W2の60[%]以上120[%]以下のタイヤ幅方向の範囲に配置されていることを特徴とする請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記カーカス層のタイヤ径方向内側のタイヤ内周面にインナーライナーを備え、当該インナーライナーは、熱可塑性樹脂、または熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物で構成され、前記補強層を兼ねることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
乗用車用空気入りタイヤに適用され、前記補強層の貯蔵弾性率E1が50[MPa]以上150[MPa]以下であり、前記補強層の厚さtが0.01[mm]以上0.3[mm]以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
重荷重用空気入りタイヤに適用され、前記補強層の貯蔵弾性率E1が200[MPa]以上500[MPa]以下であり、前記補強層の厚さtが0.01[mm]以上0.2[mm]以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の空気入りタイヤ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−39898(P2013−39898A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179809(P2011−179809)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
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