説明

空気入りラジアルタイヤ

【課題】ゴム侵入性と耐フレッチング性を改善しベルト耐久性を向上すると同時に良好な轍ワンダリング性を得ることができる空気入りラジアルタイヤを提供する。
【解決手段】スチールコード10により補強された2層以上のベルトを有す空気入りラジアルタイヤにおいて、スチールコード10が、螺旋状の型付けを施した1本の素線からなるコア11を有する1+6+n構造であり、前記螺旋状の型付けは、螺旋の振幅(H)とコア素線径(dc)とが1.05≦H/dc≦1.2、螺旋ピッチ(Pc)とインナーシース13の撚りピッチ(Pi)とがPi>Pcであり、インナーシース素線14の該スチールコード軸に対する撚り角度θ1と、アウターシース素線16の該スチールコード軸に対する撚り角度θ2とのなす角度θが10°以下であり、かつ、コード強力が1800N以上、コード曲げ荷重が11N以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りラジアルタイヤに関し、さらに詳しくはベルトプライに用いられるスチールコードの耐疲労性を改善しベルト耐久性を向上させると同時に、良好な轍ワンダリング性を得るようにした大型車両用タイヤに好適な空気入りラジアルタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、トラック・バス用など大型車両用の空気入りラジアルタイヤのベルトには、タイヤ強度やトレッド剛性を確保し、高いコーナリングパワーや良好な操縦安定性を得るために、スチールコードよりなる2層以上の交差ベルトがメインベルトに使用されている。
【0003】
近年、車台の低床化に伴い扁平率を小さくした扁平タイヤが大型車両用タイヤにも普及するようになり、タイヤ高さに対してトレッド幅が広くなることによりトレッド剛性が増加して接地面の変形量が小さくなり、轍などの路面の段差を乗り越える際のワンダリング性が低下し、操縦安定性を損ねるという問題が生じている。
【0004】
この轍ワンダリング性を改善するための手段としては、例えば、ベルトコードを細くしてベルトコードに柔軟性を付与したり、コード打ち込み密度を減じてベルト剛性を低下させる手段、トレッド面の曲率半径を小さくする手段などがあるが、前者ではベルト剛性の低下につれてタイヤ強度も低下し耐久性を損ねることになり、また後者ではトレッド接地圧が不均一になったり負荷が一部の接地部に偏り増大し、ベルト耐久性の低下や早期に偏摩耗を生じやすいという問題がある。
【0005】
一方、従来よりベルトコードとして使用されている図9に示す3+9+15×0.23+1構造のスチールコードは、コード強力と柔軟性とを合わせ持ち轍ワンダリング性は良好であるが、タイヤ使用中に素線同士及びラッピングワイヤWと外層シース素線との摩擦によるフレッチング摩耗によって素線断面積が減少して除々にコード強力の低下を進行させる問題や、コード内部へのゴム侵入性が劣ることからトレッドの外傷や溝底クラックから浸入する水分により耐腐食性が劣り、またコードコストが高価であるという欠点を持っている。
【0006】
そこで、素線径を太くして、コード強力とゴム侵入性、コストの問題を解消しようとした、図6に示す3×0.20+6×0.35などの2層構造スチールコードの使用が考えられるが、素線径が太いためにコード剛性が大きくなり、轍ワンダリング性に必要なコード柔軟性が損なわれるという欠点がある。
【0007】
また、上記3層構造スチールコードの問題点を解決するものとして、1本のコア素線の周囲に2層のシースを配置し、このシース層を同一方向、同一ピッチで撚り合わせて素線相互間のラインコンタクト化を図るコンパクト撚りの1+18構造(図7参照)のスチールコード(特許文献1)や、シース素線の細径化やその本数を間引いてゴムの浸透性を改善し、さらにラッピングワイヤを除去した1+6+(10〜11)構造(図8参照)のスチールコード(特許文献2、3)が開示され、フレッチング摩耗の低減と撚線工数を減じた低コストのスチールコードが提案されている。
【0008】
上記文献1に開示の1+18構造等のコンパクト撚りスチールコードは、素線のラインコンタクト化によりフレッチング摩耗が低減し耐疲労性の向上とコードコストの点で有利となるが、反面で構成素線がコード内部に充填配置されるためコード断面輪郭が非円形の多角形状になるという特徴を持ち、ゴムの侵入性不足のためベルトにかかる衝撃やせん断歪みによりコードがばらけたり、一部の素線が先行破断することがあり、また外傷からの水分浸入による腐食疲労性やゴムとの接着性低下により耐久性を低下させるという問題を抱えている。
【特許文献1】実公平3−29355号公報
【特許文献2】特開平8−232179号公報
【特許文献3】特表2003−519299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑み、ゴム侵入性と耐フレッチング性を改善しベルト耐久性を向上すると同時に良好な轍ワンダリング性を得ることができ、かつ安価に供給することができるスチールコードを主ベルトに用いた大型車両用タイヤに好適な空気入りラジアルタイヤを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、ベルトプライに使用するスチールコードにおいて、1+m+n構造のコア及びシースを構成する素線、及びインナーシースとアウターシースの撚り構成を特定することで、スチールコードのゴム侵入性と耐フレッチング性を向上しベルト耐久性を向上するとともに、適度の柔軟性をベルトコードに付与することでベルト剛性を最適にし轍ワンダリング性を改善できることを見出したものである。
【0011】
すなわち、本発明の空気入りラジアルタイヤは、スチールコードにより補強された2層以上のベルトを有す空気入りラジアルタイヤにおいて、前記スチールコードが、螺旋状の型付けを施した1本の素線からなるコアと、該コアの周囲に配した6本のインナーシース素線からなるインナーシースと、該インナーシースの周囲に配したn本(nは10または11本)のアウターシース素線とからなるアウターシースとを備え、前記インナーシースとアウターシースが同一方向に撚り合わされた1+6+n構造であり、前記螺旋状の型付けは、螺旋の振幅(H)と前記コア素線径(dc)とが1.05≦H/dc≦1.2、螺旋ピッチ(Pc)とインナーシースの撚りピッチ(Pi)とがPi>Pcであり、前記インナーシース素線の該スチールコード軸に対する撚り角度θ1と、前記アウターシース素線の該スチールコード軸に対する撚り角度θ2とのなす角度θが10°以下であり、かつ、該スチールコードのコード強力が1800N以上、コード曲げ荷重が11N以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、前記インナーシース及びアウターシースを構成する素線径(ds)が0.25mm以下であって、前記コア素線径(dc)とdsとが1.05≦dc/ds≦1.2であることが好ましい。また、前記インナーシース及びアウターシースを構成する素線径(ds)が、全て同一径であることが好ましい。
【0013】
そして、前記ベルトが2層以上の交差ベルト層からなる該タイヤの主ベルトであることが好ましく、さらに、タイヤ断面幅が300mm以上であり、タイヤ断面の扁平率が80%以下の大型車両用タイヤに好適である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の空気入りラジアルタイヤによれば、螺旋状の型付けを施したコア素線を有す1+6+n構造スチールコードを用いることで、ゴム侵入性と耐フレッチングをバランス良く両立しベルト耐久性を向上するとともに、適度な柔軟性を主ベルトに付与することで轍乗り越し時に轍の段差にトレッド部が追従し良好な轍ワンダリング性を得ることができ、しかもスチールコードの生産性を向上しその低価格化を図ることがきる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明の実施形態にかかる空気入りラジアルタイヤ及びそのベルトプライに用いられるスチールコードについて図面を参照し説明する。
【0016】
図1は、本発明の1実施形態のトラック・バス用の空気入りラジアルタイヤの1例を示すタイヤTの半断面図であり、符号3はトレッド部、5はサイドウォール部、4はビード部、CLはタイヤセンターである。
【0017】
タイヤTは、トレッド部3と、該トレッド部3の両ショルダー部で連なる一対のサイドウォール部5と該サイドウォール部5に続くビード部4とを備え、ラジアル配列されたスチールコードの端部を左右一対のビードコア6で折り返して係止したカーカスプライ2と、スチールコードをタイヤ周方向に対して傾斜し配列した4層のベルトプライからなるベルト1をカーカスプライ2のタイヤ径方向外側のトレッド部3に配している。
【0018】
カーカスプライ2には3+9+15×0.175、3+9+15×0.22、3+9×0.22、3+8×0.22などのスチールコードが1プライで使用される。また、スチールコードの代わりに、ポリエステル、アラミドなどの有機繊維タイヤコードを使用してもよい。
【0019】
前記ベルト1は、カーカスプライ2のタイヤ径方向外側のカーカス側から、タイヤ周方向に対して60°程度の角度で配列された、例えば3×0.20+6×0.35構造のスチールコードからなる1番ベルト1Aと、タイヤ周方向に対して15〜30°程度の角度で相互にベルトコードを交差して配された本発明にかかる1+6+n構造スチールコードからなる2番、3番ベルト1B、タイヤ周方向に対して15〜30°程度の角度で配された、例えば3×0.20+6×0.35や1×5×0.38構造スチールコードからなる4番ベルト1Cで構成され、2番、3番ベルト1Bがトレッド部3を主に補強する主ベルトを構成している。もちろん、1+6+n構造スチールコードを1番〜4番の全てのベルト層に使用してもよい。
【0020】
上記2番、3番ベルト1Bに用いられるのスチールコードは、中心に配した1本の素線からなるコアと、該コアの周囲に配した6本のインナーシース素線からなるインナーシースと、該インナーシースの周囲に配したn本(nは10または11本)のアウターシース素線とからなるアウターシースとで構成された1+6+n構造のスチールコードである。
【0021】
図2は、本発明にかかる1+6+n構造スチールコードの1例を示すコード断面図であり、中心に配したコア11を構成する素線径dcの1本のコア素線12と、該コア11の周囲に配置したインナーシース13を構成する素線径d1の6本のインナーシース素線14と、該インナーシース13の周囲に配置したアウターシース15を構成する素線径d2の11本のアウターシース素線16とからなり、インナーシース13とアウターシース15とを同一方向に撚り合わせた1+6+11構造のスチールコード10である。
【0022】
また、図3は、本発明にかかる1+6+10構造スチールコード20の断面図であり、中心に配したコア21を構成する素線径dcの1本のコア素線22と、該コア21の周囲に配置したインナーシース23を構成する素線径d1の6本のインナーシース素線24と、該インナーシース23の周囲に配置したアウターシース25を構成する素線径d2の10本のアウターシース素線16とから構成されている。
【0023】
以下、本発明に係るスチールコードについて、主に図2に示す1+6+11構造のスチールコード10に基づき説明する。
【0024】
本発明において、コア11を1本の素線12とするのは、コア11が2本撚りではコード断面形状が扁平化することで応力歪みのかかり方がコード断面の縦横方向で偏り耐疲労性に劣るものとなり、3本撚り以上ではコア内に連続する空隙が形成されるので外傷等からの水分浸入による耐食性能が低下することと、またコア11を2本以上とするとその撚り線工程を必要とするが、1本とすることでインナーシース13と同時に撚ることができ撚り線工程を簡略化できるからである。また、シースが3層以上になると撚り構造が複雑化し、特に同方向撚りではコードの真直性や残留トーションが調整し難くなり製造上困難となる。
【0025】
インナーシース13の素線数を6本に限定するのは、5本以下であるとインナーシース素線14の間隔が大きくなり安定した撚り形状が得られ難くなり、耐疲労性、ゴム侵入性を低下させ、インナーシースの素線数が4本以下では、コアの周囲でインナーシース素線同士の隙間S1が広がり素線が偏りやすくなりゴム侵入性が悪化し、7本以上の素線を配置するにはコアとインナーシース素線の径差を大きくする必要がありコアにかかる歪みが大きくなり耐疲労性が低下し、また、インナーシース素線14の拡張効果が得られずゴム侵入性が悪化する。
【0026】
アウターシース15の素線数を10又は11本に限定するのは、インナーシース素線14とアウターシース素線16の径が類似する場合、12本の素線を配置するとアウターシース素線16間にゴムを侵入させるための隙間S2が形成されず、素線数を9本以下とすると隙間S2が大きくなりすぎるため、アウターシース撚り線時に素線が偏ってしまい均等に配されず耐疲労性、ゴム侵入性が悪化してしまう。
【0027】
本発明において、インナーシース及びアウターシースの素線14、16の素線径dsは0.25mm以下であることが好ましい。dsが0.25mmを超えるとコードの剛性が大きくなり主ベルトの柔軟性が失われ轍ワンダリング性が損なわれる。dsの下限は特に限定されないが、0.20mm未満では、コード強力が低くなるのでベルト強度を確保するためにコード使用量を増す必要がありコードコストが増大し、タイヤ重量増にもなる。
【0028】
また、前記コア素線径dcと、インナーシース素線14及びアウターシース素線16を構成する素線径dsとの関係は、1.05≦dc/ds≦1.2であることが好ましい。
【0029】
コア素線径dcをインナーシース及びアウターシース素線径dsより若干太くすることにより、コードの真直性を良好にし、インナーシース素線14相互の隣接間及びアウターシース素線16相互の隣接間に、コード10内部にゴムが侵入する隙間S1とS2を形成することができる。dc/dsが1.05未満であると、前記H/dcが1.2であってもインナーシース素線14の拡張効果が十分に得られなくなることがある。
【0030】
また、コア素線径dcをdsより若干太くすることで、コア素線12とインナーシース素線14間の接触圧を下げて疲労性の低下を防ぐことができる。しかし、コア素線径dcとインナーシース素線径d1の差を1.2倍よりも大きくすると、両者の疲労性の差が大きくなり、またインナーシース素線14がコア素線12の周りで動きやすくなり、素線14が偏ってゴム侵入性の低下やコア素線12のフレッチング摩耗が激しくなり耐疲労性が低下するので好ましくない。
【0031】
この時、前記インナーシース素線14の径diとアウターシース素線16の径doは、全て同一の素線径dsであってもよく、diとdoが異なるものでもよいが、diとdoは全て同一径であることが、コード生産性、コストの点で好ましい。
【0032】
また、同一シース13及び15内で異径素線を組み合わせることも考えられるが、素線部材数の増加、撚り線工程が煩雑となるなどコード生産性に影響するので、コード製造コストを抑える観点からは、少なくとも同一シース内には同一径の素線径を用いることが好ましい。
【0033】
図2に示すように、コア素線12は螺旋状Rの型付けが施されている。ここで、螺旋状とは、3次元的波形の型付けであるヘリカル状、いわゆる朝顔のつる巻状を言う。
【0034】
コア素線12を螺旋状Rとすることで、インナーシース13の素線14を直線状コアよりもコード径方向に拡張することができ、素線14同士の間に隙間を作りやすくし、コア素線12までゴムを侵入させることができ、またコア素線12にコード軸方向に対し角度を持たせることでコア素線12への応力集中を緩和し、耐疲労性を向上することができる。
【0035】
前記螺旋状Rの型付けは、図4に示すように、螺旋の振幅Hとコア素線径dcとが1.05≦H/dc≦1.2の関係にあり、かつ螺旋ピッチPcとインナーシースの撚りピッチPiとがPi>Pcの関係を満たしている。
【0036】
H/dcが1.2を超えると、螺旋の振幅形状が不安定となってインナーシース素線14をコア素線12の周囲に均等配置することが困難となり、素線14の偏り発生によりコア11までゴムが侵入しない部分が発生し、耐疲労性も悪化する。H/dcが1.05未満では、螺旋形状によりインナーシース素線14の拡張効果が得られず、コア11までゴムが十分侵入しなくなる。
【0037】
また、PcがPiよりも長くなると、インナーシース素線14がコア素線12の螺旋状の型付けの中に埋もれてしまい、螺旋形状によるインナーシース素線14の拡張効果が十分に活かされなくなる。さらに、コア素線12が直線状に近くなり耐疲労性が低下する傾向を示す。
【0038】
なお、螺旋の断面形状は、その螺旋が描く外接円が通常は円形であるが、外接円が楕円形のもの、トラック形状のものであってもよい。
【0039】
また、本発明にかかるスチールコード10は、前記インナーシース13とアウターシース15の撚り方向が同一方向である。これにより、層撚りコードのコード強力低下の主原因である異方向撚りによるインナーシース13とアウターシース15の素線14、16の点接触によるフレッチング摩耗の問題を軽減し、素線間の接触面積を大きくすることで単位面積当たりの接触圧を小さくし耐フレッチング性を改善することができる。
【0040】
また、図5に示すように、スチールコード10は、インナーシース素線14の該コード軸Oに対する撚り角度θ1と、アウターシース素線16の該コード軸Oに対する撚り角度θ2とのなす角度θが10°以下である。
【0041】
これにより、インナーシース素線14間にアウターシース素線16が落ち込むのを防いで、スチールコード10の断面形状を円に近づけることで上記の隙間S1、S2の形成をを安定して確保しゴム侵入性を確実にするとともに、断面多角形状コードの特定素線への応力集中の問題を解消することができる。
【0042】
θ1とθ2とのなす角度θ(|θ1−θ2|)が10°を超えると、インナーシース素線14とアウターシース素線16とが点接触化し、両者の接触圧が大きくなってフレッチング摩耗が大きくなり、コード強力が低下しやすくなる。また、フレッティング部は、素線表面のメッキが削られ、素線が腐蝕しやすくなり、コードの腐蝕疲労性にも悪影響を与える。なお、通常θ1とθ2とはθ1≧θ2の関係にあり、すなわちアウターシース15がインナーシース13よりも長いピッチP2>P1で撚られ、コード生産性の低下やコード単位質量の増加を抑えるようにしている。
【0043】
また、本発明においては、前記インナーシース素線14の撚り角度θ1が12〜20°であることが好ましい。
【0044】
インナーシース素線の撚り角度θ1が、12°未満であるとコード軸Oに対して素線軸が平行に近づくことになり、すなわち撚りピッチP1が長くなって耐疲労性が低下し、20°を超えると撚りピッチP1が短くなりすぎ撚り効率が低下するので好ましくない。
【0045】
上記構成による1+6+n構造スチールコードのコード強力は、1800N以上であることを必要とする。コード強力が1800N未満であると、大型タイヤのベルトプライに使用する際に、単位幅当たりの打ち込み本数が多くなってセパレーションを生じやすくし、タイヤ耐久性の低下原因となるからである。コード強力の上限は、特に制限されないが、強力を高くするには太い素線を必要とし、コード剛性の上昇に伴い轍ワンダリング性が悪化し、耐疲労性も低下するようになる。
【0046】
また、上記1+6+n構造スチールコードは、コード1本当たりの曲げ硬さが11N以下であり、好ましくは7〜10Nである。これにより、適度な柔軟性をベルトに付与することで轍乗り越し時に轍の段差にトレッド部が追従し良好な轍ワンダリング性を得ることができる。
【0047】
コード1本当たりの曲げ硬さが11Nを超えると、コードが剛直になって轍ワンダリング性を良好にすることが困難となり、そのためにコード打ち込み数を減少するとコード間隔が大になるためトレッド部の耐外傷性、特に釘などの鋭利な金属による耐カット性が低下する。また、曲げ硬さが低下するとコードが柔軟になりベルト剛性が確保できすコーナリング性能や操縦安定性が低下し、ベルト剛性を確保するためにコード打ち込み数を増加するとタイヤ重量増や接着性低下の問題が生じてくるので、轍ワンダリング性とを両立させるために曲げ硬さは7N程度以上が好ましい。
【0048】
なお、コード1本当たりの曲げ硬さとは、スチールコード1本を支点間距離25mmにて、その中央部を曲げた時の最大荷重(N)で定義される値である。
【0049】
本発明にかかるスチールコードを構成する各素線は、炭素含有量が0.70〜0.95重量%程度にある高炭素鋼(例えば、JIS G3502に規定のピアノ線材)からなり、2500〜3500N/mm程度の抗張力を有し、さらに軽量化の観点から抗張力は2700N/mm以上が好ましく、さらに2900N/mm以上にある高抗張力素線であることがより好ましい。しかし、抗張力が3500N/mmを超えると伸線加工性の悪化や鋼の脆化により耐疲労性が低下するので好ましくない。
【0050】
さらに、素線表面には、ゴムとの接着性を良好にするために銅比率が63〜67%のブラスめっきが、4〜6g/Kg程度の付着量で被覆されている。また、ブラスにコバルトやニッケルなどの第3金属を少量含む3元合金めっきでもよい。
【0051】
このスチールコード10の製造は、特に限定されることはないが、例えば、予め所定の螺旋状に型付けされたコア素線12の周囲にインナーシース13の6本の素線14が集束され、通常のバンチャー式撚線機やチューブラー式撚線機に導入されて所定ピッチで撚り合わされ1+6構造が形成される。次に、一旦ボビンに巻き取った前記1+6構造を引き出しその周囲にアウターシース15の11本の素線16を集束し、通常のバンチャー式撚線機やチューブラー式撚線機に導入されて、1+6構造と同一方向に所定ピッチで撚り合わすことで、1+6+11構造のスチールコード10が2回の撚り線工程により製造することができる。撚り線加工時にコア素線12に捻れが入らないチューブラー式撚線機を使用することが好ましい。
【0052】
ここで、コア素線12の螺旋状の捻れ方向は、シース13、15の撚り方向と同一方向であっても、逆方向であってもよい。同一方向の場合は耐フレッチング性が有利となり、逆方向の場合はゴム侵入性に有利に働くようになる。
【0053】
また、コア素線12への螺旋状の型付け方法も、特に限定されず、例えば、所定の振幅で偏心しながら回転する鏡板に素線12を所定速度で通過させることで、所定の螺旋振幅とピッチを備えた素線を得ることができる。
【0054】
そして、本発明の空気入りラジアルタイヤは、上記スチールコードを補強材としてベルトに用いることで、ゴム侵入性と耐フレッチング性をバランス良く向上し、ベルト耐久性に優れたロングライフ化が図られる空気入りラジアルタイヤとすることができ、特にトラックやバス用などの大型車両に使用されるタイヤ断面幅が300mm以上であり、その扁平率が80%以下のタイヤに用いられ、特に主ベルトに適用することで轍ワンダリング性を向上することができる。しかも、コード生産性を従来の3+9+15構造スチールコードより高めてコストダウンにも貢献することができる。
【実施例】
【0055】
次に本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0056】
表1、表2に記載のコード仕様に従い、実施例、比較例の1+m+n構造(mは5〜7、nは9〜12)の各スチールコードを通常のチューブラー式撚線機を用いて2回の撚り線工程により製造した。
【0057】
これらのスチールコードに用いた各素線は、JIS G3502に規定のピアノ線材SWRS82A材の5.5mmロッドから、パテンティング、伸線加工を繰り返し所定径の中間線に乾式伸線し、この中間線の表面にブラスめっき(銅比率64%、めっき付着量4.5g/Kg)を施した後、通常の湿式伸線機を用いて最終伸線加工して得たものである。
【0058】
従来例1、2、3のスチールコードは上記と同様にして得た素線を用いて、常法によりチューブラー式撚線機を使用し製造したものである。
【0059】
これらのスチールコードについて、ベルト疲労試験による耐フレッチング性、ゴム侵入性、主ベルトに該スチールコードを使用したタイヤの耐久性及び轍ワンダリング性を、下記の試験法により評価した。結果を表1、表2に示す。
【0060】
[耐フレッチング性(ベルト疲労試験)]
コード打ち込み本数を12本/25.4mm(比較例11は14本/25.4mm)としてゴム中に埋設したベルトストリップ状の加硫サンプル(幅3×長さ45cm)を作製した。ファイアストーン型ベルト疲労試験機にて、2インチプーリー(負荷荷重40kg)を用いて50000サイクル屈曲疲労させた後、ベルト疲労試験後のサンプルからコードを取り出し、インナーシースとアウターシースのフレッチング摩耗レベルを、顕微鏡で素線を20倍に拡大し観察した。ほとんどフレッチングが認められないものを「◎」、素線径減少率が最大で直径の1/8まで達したものを「○」、素線径減少率が最大で直径の1/6まで達したものを「△」、素線径減少率が最大で直径の1/4まで達したものを「×」、素線径減少率が最大で直径の1/2まで達したものを「××」、として評価し、表に示す。
【0061】
[ゴム侵入性]
ベルト疲労試験用サンプルから取り出したコードを、そのアウターシースとインナーシースを25cmにわたり丁寧に取り除きコア素線の周囲のゴム付着長さを測定した。コア素線の外周が25cm全長にわたりゴム付着している場合をゴム付着率100%として評価した。コード5本の平均値で表に示す。数値が大きいほどゴム侵入性は良好である。
【0062】
[タイヤ耐久性]
コード打ち込み本数を12本/25.4mmとしてゴム被覆した各トッピングシートを作製し、所定幅、角度にて裁断したものを2番、3番の交差ベルト層(主ベルト)に適用した、図1に示すサイズ315/70R22.5のラジアルタイヤを試作した。タイヤ耐久性を下記条件のドラム試験にて評価した。なお、カーカスは3+9+15×0.175スチールコード(打ち込み数15本/25.4mm)の1プライ、1番ベルトは3×0.20+6×0.35スチールコード(打ち込み数8本/25.4mm)、4番ベルトは1×5×0.38スチールコード(打ち込み数11本/25.4mm)とし、その他の各部位には全て共通の部材を使用した。
【0063】
〈ドラム試験条件〉
表面が平滑な鋼製の直径1700mmの回転ドラムを有するドラム試験機により、周辺温度38±3℃、タイヤ内圧900kPa、負荷荷重4500kgで一定とし、速度56km/hから12時間ごとに8km/hずつ速度を増加させ、タイヤ故障が発生するまで走行させた。故障発生までの走行距離を、従来例1を100とする指数で表に示す。指数が大きいほど耐久性に優れる。
【0064】
[轍ワンダリング性]
各試作タイヤの内圧を900kPaとし、大型トレーラートラックの前輪に装着し、轍(幅40cm、深さ5cm、轍斜面傾斜角35°の断面略逆台形状)を設けた試験路面を走行し、轍から脱出する時の乗り越し性をテストドライバー3名によるフィーリングテストにより評価した。轍をスムーズに乗り越し、乗り越し後のハンドル操作にふらつきを感じないものを「○」、やや轍を乗り越しにくく、乗り越し後のハンドル操作にふらつき感が感じられるものを「△」、轍の乗り越しが困難で、乗り越し後のハンドル操作にふらつきが大きいものを「×」、と評価し、表に示した。
【0065】
【表1】

【0066】
【表2】

【0067】
従来例1は、ゴム侵入性が不十分であり、インナーシースとアウターシースの撚り方向が異方向であり耐フレッチング性が劣りタイヤ耐久性が劣るが、コードの曲げ硬さが適度でベルト剛性に柔軟さあり轍ワンダリング性は良好である。従来例2は、コード曲げ硬さを従来例1並みに維持し、轍ワンダリング性を良好にするが、コンパクト撚りでゴム侵入性が非常に悪く、コードのばらけや腐食疲労による耐久性低下が見込まれる。従来例3は、素線径が太くコード曲げ硬さが大きくなり、ベルト剛性の上昇により轍ワンダリング性が悪化した。
【0068】
実施例1〜2は、コード曲げ硬さを従来例1並みに維持し、轍ワンダリング性を良好にするとともに、ゴム侵入性と耐フレッチング性を両立し、タイヤ耐久性に優れることがわかる。
【0069】
一方、比較例1はコア素線が直線状のためゴム侵入性が劣り、タイヤ耐久性が実施例に及ばない。比較例2はPc>Psため、インナーシース素線がコア素線に埋もれてゴム侵入性が改善されない。比較例3はH/dcが1.2より大のためインナーシースの撚り形状が不安定となり、ベルト疲労性、タイヤ耐久性が劣る。比較例4はコア素線が太いため歪みがコア集中しやすくベルト疲労性、タイヤ耐久性が低下傾向にある。比較例5はdc/dsが1.05未満のためコアの螺旋振幅を大きくしてもゴム侵入性が不足し、比較例6はインナーシースの素線数が5本のためインナーシース、アウターシース共に撚り形状が安定せずベルト疲労性、タイヤ耐久性の向上が得られず、比較例7はインナーシースが7本の素線からなりゴム侵入性が劣り、比較例8はアウターシース素線が9本のためゴム侵入性は良いが素線の偏り均等配置できずベルト疲労性、タイヤ耐久性が低下し、比較例9はアウターシース素線が12本でありゴム侵入性が悪く、コアに螺旋状素線を用いた効果が得られない。比較例10はθが10°以上のためインナーシースとアウターシースとが点接触化し、耐フレッチング性が低下しベルト疲労性、タイヤ耐久性が劣る。比較例11はコード強力が1800N未満のため、コード打ち込み本数が増しベルトエッジセパによりタイヤ耐久性が低下し、比較例12はコード曲げ荷重が11Nを超え、轍ワンダリング性が劣り、タイヤ耐久性も低下し、比較例13はシース素線径dsが0.25を超え、コード曲げ荷重が上昇し轍ワンダリング性が悪化する結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0070】
以上説明したように、本発明は、トラックやバスなどの大型車両用の空気入りラジアルタイヤに適用しタイヤ耐久性、轍ワンダリング性を共に向上することができ、特にタイヤ断面幅が300mm以上、その扁平率が80%以下の空気入りラジアルタイヤに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施形態の空気入りラジアルタイヤの半断面図である。
【図2】実施形態の1+6+11構造スチールコードの断面図である。
【図3】実施形態の1+6+10構造スチールコードの断面図である。
【図4】コアの螺旋状の型付けを説明する素線の側面図である。
【図5】シース素線の撚り角度を説明するシース側面図である。
【図6】3+6構造スチールコードの断面図である。
【図7】1+18構造スチールコードの断面図である。
【図8】従来例の1+6+11構造スチールコードの断面図である。
【図9】3+9+15構造スチールコードの断面図である。
【符号の説明】
【0072】
10……スチールコード
11……コア
12……コア素線
13……インナーシース
14……インナーシース素線
15……アウターシース
16……アウターシース素線
S1、S2……素線間の隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチールコードにより補強された2層以上のベルトを有す空気入りラジアルタイヤにおいて、
前記スチールコードが、螺旋状の型付けを施した1本の素線からなるコアと、該コアの周囲に配した6本のインナーシース素線からなるインナーシースと、該インナーシースの周囲に配したn本(nは10または11本)のアウターシース素線とからなるアウターシースとを備え、前記インナーシースとアウターシースが同一方向に撚り合わされた1+6+n構造であり、
前記螺旋状の型付けは、螺旋の振幅(H)と前記コア素線径(dc)とが1.05≦H/dc≦1.2、螺旋ピッチ(Pc)とインナーシースの撚りピッチ(Pi)とがPi>Pcであり、
前記インナーシース素線の該スチールコード軸に対する撚り角度θ1と、前記アウターシース素線の該スチールコード軸に対する撚り角度θ2とのなす角度θが10°以下であり、かつ、
該スチールコードのコード強力が1800N以上、コード曲げ荷重が11N以下である
ことを特徴とする空気入りラジアルタイヤ。
【請求項2】
前記インナーシース及びアウターシースを構成する素線径(ds)が0.25mm以下であって、前記コア素線径(dc)とdsとが1.05≦dc/ds≦1.2である
ことを特徴とする請求項1に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項3】
前記インナーシース及びアウターシースを構成する素線径(ds)が、全て同一径である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項4】
前記ベルトが2層以上の交差ベルト層からなる該タイヤの主ベルトである
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の空気入りラジアルタイヤ。
【請求項5】
タイヤ断面幅が300mm以上であり、タイヤ断面の扁平率が80%以下の大型車両用タイヤである
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の空気入りラジアルタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−208726(P2009−208726A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56420(P2008−56420)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】