説明

空気圧モータ

【課題】 回転精度の微調整を行う際に用いる負荷トルクをロータ円周方向に均一に負荷させる。
【解決手段】 ロータ回転速度の微調整は、ステータが有する環状溝7cとロータが有する環状突起8bとの間に介在する機能性流体13の粘性制御によって行われる。機能性流体13の粘性は、環状突起8bから円周方向全体にロータ2に伝わり、負荷トルクとなって作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型スピンドル等に用いる、空気圧モータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
空気圧モータは、圧縮空気のエネルギを回転エネルギに変換するもので、攪拌機,空気圧工具(グラインダ・ドリル),エアータービン(歯医者用)の駆動源として用いられている。特許文献1に開示されているものは、ロータの回転速度を速度センサを用いて検出し、その検出信号に応じて、圧縮空気の空気圧を調整して粗調整し、ロータを円周方向に囲むように設置された複数のコイルに電流を流し負荷トルクを発生させることで回転速度を微調整するものである。
【特許文献1】特開平7−110016号公報、段落0005〜0006、図1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来の空気圧モータでは、微調整を行う際に用いられるコイルがロータの円周方向に点在して設置されているため、負荷トルクが円周方向に不均一に発生し、高い回転精度を得ることができない。
【0004】
本発明は、このような点に鑑みてなされたもので、回転速度の微調整を行う際負荷されるトルクを円周方向に均一にし、回転精度が高い空気圧モータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に関わる空気圧モータは、ステータと、前記ステータに対して回転可能に取り付けられたロータと、前記ステータに前記ロータの回転軸と同軸的に形成された少なくとも1つの環状溝と、前記ロータに該ロータの回転軸と同軸的に形成された前記環状溝に嵌合する少なくとも1つの環状突起と、前記環状溝と前記環状突起との間に介在する機能性流体と、圧縮空気のエネルギを前記ロータの回転エネルギに変換する変換手段と、前記ロータの回転速度を検出する検出手段と、 前記検出手段からの検出信号に従って圧縮空気の空気圧を制御することで前記ロータの回転速度を粗調整する第1の制御手段と、前記検出手段からの検出信号に従って前記機能性流体の粘性を制御することで前記ロータの回転速度を微調整する第2の制御手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ロータ回転速度の微調整は、ステータが有する環状溝とロータが有する環状突起との間に介在する機能性流体の粘性制御によって行われる。機能性流体の粘性はロータの回転に負荷トルクとなって作用するが、この負荷トルクはロータの環状突起へ円周方向に均一に作用するため、回転精度の高い空気圧モータを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
【0008】
図1は、本発明の実施形態に係る空気圧モータを構成する空気圧モータ本体50の断面図である。
【0009】
この空気圧モータ本体50は、固定されたステータ1と、このステータ1の内側に回転可能に配置されたロータ2と、このロータ2を非接触で支持する空気軸受け3とを備えて構成されている。
【0010】
ステータ1は、円板状の圧縮空気導入板4と、圧縮空気導入板4の上面に同軸固定された第1調整板7とを備えている。圧縮空気導入板4は、外周側から内周側へ放射状に延びる1又は複数の圧縮空気通気孔4aを有すると共に、圧縮空気通気孔4aの内周側に下方に向けて周方向均一に圧縮空気を排出させるリング状の多孔質体4bを備えている。圧縮空気導入板4の上下面の外縁部には円筒体10a,10bがそれぞれ同軸固定されている。円筒体10aの上端には内周部が内側に僅かに張り出した環状のフランジ10cが同軸固定され、このフランジ10cの更に上端がロータ2の上端と共にケース10dによって覆われている。また、円筒体10bの下端には、空気軸受け3が固定され、側面には、圧縮エアー外部に排気するための複数の孔が形成されている。
【0011】
一方、ロータ2は、ステータ1の中央に配置される回転軸2aと、この回転軸2aの軸方向中央に設けられた回転駆動板6と、回転軸2aの上端に設けられた第2調整板8と、回転軸2aの下端に設けられた圧縮空気排出板5とを備えている。回転駆動板6は、ステータ1の圧縮空気導入板4の下面と、空気軸受け3の上面との間に所定の空隙を介して対向配置されている。圧縮空気導入板4の上面には、図2に示すように、内周側から外周側に延びる複数の螺旋溝6aが形成されている。この螺旋溝6aには、圧縮空気導入板4の内周部に設けられた多孔質体4bから排出された圧縮空気が導入され、この圧縮空気が螺旋溝6aを内周側から外周側へ移動する過程で回転駆動板6に回転駆動力を付与する。回転駆動板6には、空気軸受け3からの圧縮空気を内周側から導入して外周側から円筒体10bの側面の孔に向けて排出するための圧縮空気通気孔6bが形成されている。また、圧縮空気排出板5にも、回転駆動板5と同様に、空気軸受け3からの圧縮空気を内周側から導入して外周側から排出するための圧縮空気通気孔5aが形成されている。
【0012】
空気軸受け3は、外部から圧縮空気を導入し、ラジアル方向に延びる圧縮空気通気孔3a及びスラスト方向の圧縮空が通気孔3bを介してロータ2の回転軸2a外周面、回転駆動板6の下面及び圧縮空気排出板5の上面に圧縮空気を供給し、ロータ2を非接触で支持する。
【0013】
ステータ1の第1調整板7とロータ2の第2調整板8とはロータ2の回転付加トルクを調整するためのもので、互いに対向配置されている。これらの詳細を図3に示す。第1調整板7は、環状板7aの上面に複数の同軸配置された環状突起7bを一体に形成してなる。環状突起7bの間に形成される複数の環状溝7cには、機能性流体13が充填されている。第2調整板8は、回転軸2aの上端部のボルト2bに円筒スリーブ9bを介して装着され、ボルト2bにナット9aを締結することにより、回転軸2aに固定されている。この第2調整板8は、環状板8aの下面に複数の同軸配置された環状突起8bを一体に形成してなる。第2調整板8の複数の環状突起8bは、第1調整板7の複数の環状溝7cに所定ギャップを介して嵌合し、機能性流体13に対する抵抗体として機能性流体13に浸漬されている。環状溝7cの外周側の側面には、環状の第1の電極11が配置され、内周側の側面には、環状の第2の電極12が配置されている。機能性流体は、これら電極11,12への印加電圧の大きさによってその粘性を変化させる。
【0014】
更に、ロータ2の回転軸2aの上端には、回折格子が形成されたスケール円板32aが装着され、このスケール円板32aと対向するように発光素子及びフォトトランジスタが所定の位置を伴って配置された回転検出ヘッド32bがフランジ10cに固定されている。これらスケール円板23aと回転検出ヘッド32bとでエンコーダ32が構成されている。エンコーダ32から出力されるパルス信号は、PV変換機33によってロータ2の回転速度に変換される。
【0015】
図4は、同空気圧モータにおける制御例を示す制御ブロック図である。本制御例は、主に2つの制御ループからなる。第1の制御ループ100は、圧縮空気の圧力を制御し、ロータ2の回転速度の粗調整を行うものである。また、第2の制御ループ200は、機能性流体13の粘性を変化させるために用いる印加電界を制御し、ロータ2の回転速度の微調整を行うものである。
【0016】
第1の制御ループ100について説明する。圧力制御回路22は、指令速度値aと、速度飽和回路35から入力される検出値bの差分を制御値cとして入力し、これに応じた制御信号を電磁弁ドライバ23へ出力する。制御信号を入力した電磁弁ドライバ23は、電磁弁24を駆動し、圧縮空気の圧力を調節する。調整された圧縮空気はステータ1が有する圧縮空気導入板4に供給され、ロータ2の回転駆動力となる。圧縮空気圧が高い場合には、ロータ2の回転速度は上がり、圧縮空気圧が低い場合には、ロータ2の回転速度は下がる。これにより、電磁弁24の開閉を制御しロータ2の回転速度の粗調整を行う。
【0017】
第2の制御ループ200について説明する。粘性制御回路29は、制御値fを入力し、機能性流体ドライバ30に制御信号を出力する。ここで、制御値fは、ロータ2の回転速度をエンコーダ32で検知し、PV変換機33を用いて得られた検出値eと、圧力制御回路22から入力される制御値dの差分である。粘性制御回路29から制御信号を入力した機能性流体ドライバ30は、ステータ1が有する第1の電極11又は第2の電極12に電圧を供給し、機能性流体13の粘性を調整する。印加電界を調整することで、粘性流体の粘度を変化させ、ロータ2に加わる負荷トルクを調整し、ロータ2の回転速度の微調整を行う。
【0018】
また、2つの制御ループ100,200は、速度飽和回路35によって連動されている。速度飽和回路35は、制御ループ200が有する粘性制御回路29からの制御信号を入力し、制御ループ100が有する圧力制御回路22の制御値bを出力する。
【0019】
次に、このように構成された本実施形態に係る空気圧モータの動作について説明する。圧縮空気導入板4の供給口より供給された圧縮空気は、圧縮空気通気孔4aを通過し、リング状の多孔質体4bからリング円周方向に均等に流出する。多孔質体4bから流出した圧縮空気は、回転駆動板6が有する螺旋溝6aに沿って空気圧モータ外部に排出する。この圧縮空気排出の反作用により、ロータ2は回転する。例えば、圧縮空気の排出方向が螺旋溝6aに沿って時計回りであれば、ロータ2は反時計回りに回転する。
【0020】
ここで、ロータ2の回転速度が指令速度に未達で回転速度が大きいときは以下の動作を行う。はじめに、制御ループ100が有する圧力制御回路22は、電磁弁ドライバ23を駆動して、電磁弁24を閉じる方向に調整し、ロータ2の回転速度をある速度になるように下げる。次に、制御ループ200が有する粘性制御回路29は、機能性流体ドライバ30を駆動して、第1の電極11及び第2の電極12のいずれか一方に電圧を供給し、ロータ2が指令速度になるように微調整を行う。ここで、粘性制御回路29によって加えることのできる最大負荷トルクを加えても、ロータ2の回転速度が指令速度に達しないときは、粘性制御回路29から、速度飽和回路35に信号を出力する。粘性制御回路29は速度飽和回路35からの信号を入力し、制御値bを出力する。圧力制御回路22は、指令速度値aと速度飽和回路35からの制御値bの差分である制御値cを入力し、さらに圧縮空気の圧力を下げ、ロータ2の回転速度をある所定の速度にする。その後、さらに粘性制御回路29を用いて微調整を行う。この動作を繰り返し行い、ロータ2の回転速度が指令速度となるように制御する。
【0021】
このように構成された本実施形態に係る空気圧モータの効果について説明する。
【0022】
ステータ1からロータ2へ圧縮空気が移動する過程において、ステータ1が有するリング状の多孔質体4bからリング円周方向に均等に圧縮空気を排出し、ロータ2が有する螺旋溝6aを空気が通過してロータ2が回転する。このため、円周方向に常に均等に空気が流れるため、ロータ2の低速回転時にも回転むらがなく、高精度な回転精度と、等速回転運動を得ることが可能である。また、機能性流体の粘性による負荷トルクは、円板状である第2調整板8が有する環状突起8bより円周方向に均等にロータ2に加えることができるため、微調整時においても常に高い回転精度を得ることができる。更に、ステータ1とロータ2の間には、機能性流体を介しているのみであるため、ステータ1とロータ2の接触による摩擦がなく、機能性流体がダンパの役目を果たし、ヒステリシスのない極めて高精度な回転精度及び回転制御を得ることができる。
【0023】
更に、制御手段において、粗動調整を圧縮空気の圧力を制御することで行い、微動調整を粘性流体の粘性を制御することで行うため、大きな外乱が生じても圧縮空気の圧力を制御し瞬時に指令速度に近づけ、更に、機能性流体の粘性を制御して指令速度に達するまで微調整を行う。これにより、ロータ2の高度な等速回転運動と回転制御を実現することができる。また、機能性流体の温度変動による粘性変化が生じても、ロータ2の回転速度は粘性制御回路29にフィードバックされているため、再度、圧縮空気の圧力調整と機能性流体の粘性制御を行い、ロータ2の回転速度を指令速度に設定することができる。
【0024】
更に、本実施形態では、第1の電極11,第2の電極12は固定されたステータ1側に設置されているため、ロータ2の回転は、第1の電極11及び第2の電極12に接続する配線によって、影響や制約を受けない。
【0025】
本発明の第2の実施形態における、制御ブロック線図を図5に示す。本制御方法は、第1の制御ループ100’と第2の制御ループ200’を有し、指令分配回路36によって制御ループ100’,200’が連動している。
【0026】
次に、本実施例における空気圧モータの動作について説明する。
【0027】
指令分配回路36は、指令速度値aと温度計38で検出した温度検出値gを入力し、第1の制御ループ100’が有する圧力制御回路22に制御値hを出力し、第2制御ループ200’が有する粘性制御回路29に制御値iを出力する。ここで、指令分配回路36が圧力制御を行う第1の制御ループ100’に出力する制御値hは、図6に示す指令速度値aと、温度検出値gの関係によって得られる。例えば、図6に示す表において指令速度値aが速度範囲2内にあり、温度検出値gが温度範囲Cにあるとき、指令分配回路36は圧力が3bになるように、制御値hを第1の制御ループ100’へ出力する。次に、第2の制御ループ200’が有する粘性制御回路29が微調整を行いロータ2の回転速度を指令速度に制御する。
【0028】
次に、このように構成された本実施例の効果について説明する。
【0029】
例えば、機能性流体の温度変化等により、機能性流体の粘性が急激に変わったときも、指令分配回路36は、入力する指令速度値aと温度検出値gの関係から、瞬時に圧力制御を行う第1の制御ループ100’に制御値hを出力し、粗調整を行うことができ、更に機能性流体の粘性制御を行う第2の制御ループ200’によって微調整を行う。これにより、応答速度の速い高精度なロータ2の回転制御を実現することができる。
【0030】
なお、図6に示した機能性流体13の温度とロータ2の回転速度の関係は、あらかじめ実験等を行うことにより求めることができる。
【0031】
本実施形態において、ラジアル軸受け及びスラスト軸受けは、空気軸受けを用いているが、転がり軸受けを用いても、本発明を実施することができる。
【0032】
本実施形態において、第1の電極11及び第2の電極12は、ステータ1が有する環状溝7cの内周側側面に設置されているが、第1の電極11を環状溝の内周側側面または外周側側面のうち少なくとも一方に設置し、これと対向する第2調整板8の環状突起8bに第2の電極12を設置することでも本発明を実施することができる。
【0033】
本実施形態において、機能性流体には、磁性流体やER(電気粘性)流体,液晶ER流体等を用いることで本発明を実施することが可能である。
【0034】
本実施形態において、制御値の決定には、圧力計26より検出される圧力検出値を用いているが、流量計を用いて圧縮空気の流量を検出し、この流量検出値を用いて制御値を決定することでも本発明を実施することができる。
【0035】
本実施形態において、ロータ2の回転速度は、エンコーダ32及びPV変換機33を用いて検出しているが、速度計を用いることでロータ2の回転速度を検出することでも、本発明を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る空気圧モータ本体の断面図である。
【図2】図1のA−A’矢視図である。
【図3】同空気圧モータの電極部の構造を示す断面図である。
【図4】同空気圧モータの制御方法を示すブロック図である。
【図5】温度−速度マトリクスである。
【図6】第2の実施形態に係る制御方法を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0037】
1…ステータ、2…ロータ、3…空気軸受け,4…圧縮空気導入板、6…回転駆動板,7…第1調整板,8…第2調整板、11,12…電極、13…機能性流体、22…圧力制御回路、23…電磁弁ドライバ、24…電磁弁、26…圧力計、29…粘性制御回路、32…エンコーダ、33…PV変換機、35…速度飽和回路、36…指令分配回路、38…温度計、50…空気圧モータ本体、100,200…制御ループ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、
前記ステータに対して回転可能に取り付けられたロータと、
前記ステータに前記ロータの回転軸と同軸的に形成された少なくとも1つの環状溝と、
前記ロータに該ロータの回転軸と同軸的に形成された前記環状溝に嵌合する少なくとも1つの環状突起と、
前記環状溝と前記環状突起との間に介在する機能性流体と、
圧縮空気のエネルギを前記ロータの回転エネルギに変換する変換手段と、
前記ロータの回転速度を検出する検出手段と、
前記検出手段からの検出信号に従って圧縮空気の空気圧を制御することで前記ロータの回転速度を粗調整する第1の制御手段と、
前記検出手段からの検出信号に従って前記機能性流体の粘性を制御することで前記ロータの回転速度を微調整する第2の制御手段と
を有することを特徴とする空気圧モータ。
【請求項2】
前記ステータは、圧縮空気通気孔と該圧縮空気通気孔排出部にリング状に形成された多孔質体を有し、前記ロータは、前記多孔質体と空隙を介して対向する面に螺旋溝を有することを特徴とする請求項1記載の空気圧モータ。
【請求項3】
前記ステータは、前記環状溝の内周側側面に環状の第1の電極を形成し、前記環状溝の外周側側面に第2の電極を有していることを特徴とする請求項1記載の空気圧モータ。
【請求項4】
前記ステータは、前記環状溝の内周側側面および外周側側面の少なくとも一方に環状の第1の電極を有し、前記ロータは、前記環状突起の前記第1の電極と対向する側面に環状の第2の電極を有していることを特徴とする請求項1記載の空気圧モータ。
【請求項5】
前記機能性流体は、電圧を印加されることにより粘性が変化することを特徴とする請求項1記載の空気圧モータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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