説明

空気清浄化機能を備えた蛍光灯

【課題】一般照明に使用される蛍光ランプをもって光触媒による空気清浄化機能を発揮し、しかもファン等を備えないことで安価で且つ騒音の問題の無い蛍光灯を得ること。
【解決手段】光触媒を担持したセル数5〜20cpiの三次元網目構造よりなるセラミック製の光触媒フィルター5を蛍光ランプ3背面の反射板4に取り付けた。これによって、蛍光ランプ3発光時に発する熱によって蛍光ランプ3周囲に生じる空気の熱対流と相まって、空気が光触媒フィルターの組織内を効率よく透過し、ファンを設けなくても光触媒反応による十分な空気清浄化機能を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気清浄化機能を備えた蛍光灯に関するものである。
【背景技術】
【0002】
居住空間あるいは作業空間における悪臭・排気ガス・有害ガスを除去する装置として、光触媒を用いた空気清浄化装置が知られている。近年、この装置はシックハウス症候群緩和としても注目されている。
【0003】
この空気清浄化装置はその設置によって室内空間が狭くなることから、特に一般家庭、学校等においては設置場所確保の問題がある。また、十分な効果を発揮させるためにはファン等の付設で構造が複雑化し、高価格となり、経済性においても好ましくない。
【0004】
一方、室内空間の照明器具として蛍光灯は必需品である。この蛍光灯に空気清浄化機能を備えれば、室内空間が狭くなることもない。そこで、光触媒を用いた空気清浄化機能を備えた蛍光灯が提案されている。例えば、蛍光ランプに酸化チタン等の光触媒を直接コーティングしたもの(特許文献1)、蛍光ランプの背面に光触媒膜を被着した活性炭を設けたもの(特許文献2)である。
【特許文献1】実開昭61−151739号公報
【特許文献2】特開2002−140927号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光触媒を設けた前記各特許文献の蛍光灯は、空気清浄化機能のうちでも特に脱臭を目的としたものであり、光触媒機能を補うためにファンを備えている。ファンは蛍光灯周辺の空気を強制流通させ、脱臭機能が向上する。
【0006】
しかし、ファンの付設は前述したように装置が複雑化し、コスト高となる。また、安価なファンを付設した場合は騒音が高くなり、特に一般家庭、学校および事務所の使用において好ましくない。
【0007】
本発明は、一般照明に使用される蛍光ランプをもって光触媒による空気清浄化機能を発揮し、しかもファン等を必要としないことで経済的で且つ騒音問題の無い蛍光灯を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一般照明に使用される蛍光ランプは波長380nm以下の紫外線が圧倒的に少ないことにより、これを光源とした場合は、紫外線ランプや太陽光を光源とする場合に比べて、光触媒による空気清浄化の速度が遅い。このため、前記各特許文献では上述のように、ファンの付設で光触媒機能を補っている。
【0009】
一方、光触媒フィルターとして、光触媒を担持した三次元網目構造よりなるセラミック製の光触媒フィルターが知られている。三次元網目構造は表面積が大きいことで、光触媒の担持量が多い。しかも、三次元網目構造によって光が組織内部まで照射され、しかもフィルターの内部組織を通過する空気は全て網目構造の柱部に担持された光触媒に衝突することによって、光触媒の反応効率に優れる。
【0010】
本発明者らは、三次元網目構造の光触媒フィルターを蛍光ランプ背面の反射板に取り付けると共に、この光触媒フィルターのセル数を特定の範囲に限定したところ、蛍光ランプ発光時に発する熱によって蛍光ランプ周囲に生じる空気の熱対流と相まって、空気が光触媒フィルターの組織内を効率よく透過し、ファンを設けなくても光触媒反応による十分な空気清浄化機能を得ることができることを知り、本発明を導き出すに至ったものである。
【0011】
すなわち、本発明の蛍光灯の特徴とするところは、空気清浄化機能を備えた蛍光灯において、光触媒を担持したセル数5〜20cpiの三次元網目構造よりなるセラミック製の光触媒フィルターを、蛍光ランプ背面の反射板に取り付けたことにある。
【0012】
ここで、セル数の単位cpiは、平面で1インチ当りのセル(空孔)の個数である。本発明で使用する三次元網目構造の光触媒フィルターは、セル数が5cpi未満ではセルのサイズが大きいことで熱対流による空気の流通は促されるが、三次元網目構造を構成する柱部の数が減り、空気と光触媒との衝突回数が少なくなるためか空気清浄化の効果が低下する。また、三次元網目構造を構成する柱部の数が減り、光触媒フィルターとしての十分な強度を確保することができない。
【0013】
逆にセル数が20cpiを超えると柱部の数が増え、空気と光触媒との接触面積が多くなる。しかし、セルのサイズが小さくなって熱対流に伴う空気の流通量が少なくなるためか、この場合も空気清浄化の効果に劣る。
【発明の効果】
【0014】
以上の空気清浄化の効果は、三次元網目構造の光触媒フィルターの使用、そのセル数の限定、さらにこの光触媒フィルターの反射板への取り付けたことで得られる本発明特有のものである。
【0015】
従来の、例えば蛍光ランプに光触媒を直接コーティングしたもの、あるいは光触媒膜を被着した活性炭を蛍光ランプの背面に設けたものは、蛍光ランプ周囲の空気の熱対流が生じるとしても、熱対流の空気の接触は光触媒担持体の表面である。蛍光ランプ周囲の空気の熱対流を積極的に利用して三次元網目構造の光触媒担持体の内部に空気を通過させることで光触媒の反応効率を格段に向上させ、ファン等の補助装置を設けることなく十分な空気清浄化を図る本発明の効果を得ることができない。
【0016】
また、本発明は、照明器具としての蛍光灯自体が空気清浄化の機能を備えたことで、その設置によっても室内が狭くなることもない。しかも、ファンを必要としないことで経済的で、しかも騒音の問題も無い。したがって、一般家庭、学校、事務所等での使用において特に好ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
光触媒フィルターの取り付け対象となる蛍光灯において、蛍光ランプは一般照明としての機能を得るために白色または昼光の発光色とし、波長380nm以下の近紫外線を発するものが好ましい。蛍光ランプの形状は、直管の他に、サークル管、U字管、電球型等が挙げられる。本発明においては蛍光ランプ中でも、蛍光ランプの背面に光触媒フィルターを設置しやすい直管が好ましい。
【0018】
三次元網目構造の光触媒フィルターの製造は、例えば以下の通りである。先ず、アルミナ、シリカあるいはシリカ−アルミナ質の無機質微粉末に有機質系または無機系の結合剤を添加し、これに外掛けで30〜35質量%程度の水を添加し、スラリーとする。寸法・形状が本発明に使用する光触媒フィルターに相当する有機質の三次元網目構造の多孔体に前記のスラリーを浸透させ付着させる。この有機質多孔体の材質は、例えばポリウレタンフォームとする。
【0019】
次いで、余剰のスラリーを除去した有機質多孔体を乾燥後、焼成する。この焼成で有機質多孔体が消失し、セラミック質の三次元網目構造を得ることができる。焼成温度はセラミック材質に合わせて例えば1000〜1300℃とする。
【0020】
セラミック質の三次元網目構造のセルは、有機質多孔体組織の柱部に前記のスラリーが付着することで形成されることから、本発明で限定したセル数の三次元網目構造を得るには、このセル数に見合う組織の有機質多孔体を使用する。図5は、セラミック質の三次元網目構造例の一部拡大図である。
【0021】
このセラミック質の三次元網目構造体に担持される光触媒としては、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化鉄、酸化銅、チタン酸鉄、酸化ニッケル、酸化ビスマスおよび酸化ケイ素が挙げられる。中でも可視光応答性に優れた酸化チタンが特に好ましい。
【0022】
この酸化チタン等の光触媒は水等の溶媒をもって分散させ、前記三次元網目構造体を浸し、光触媒を三次元網目構造体の網目を構成する柱体表面に付着させる。次いで、例えば400〜600℃の温度で加熱し、光触媒粉末を焼結固着させる。酸化チタンにはアナターゼ型、ルチル型及びブルッカイト型の結晶型がある。前記400〜600℃の加熱温度は、光触媒フィルターとして有効な光触媒機能を示すアナターゼ型の確保のためである。
【0023】
三次元網目構造体のセル数は、5〜20cpiとする。5cpi未満では光触媒との接触面積が減り空気清浄化の効果に劣る。20cpiを超えると熱対流による空気の透過が不十分となって、この場合も空気清浄化の効果に劣る。さらに好ましいセル数は、5〜15cpiである。
【0024】
図1は、直管の蛍光ランプを備えた蛍光灯において、本発明の適用例を示す要部斜視図、図2は一部破砕断面の側面図である。蛍光灯本体1の下方両端部にはランプソケット2が備えられ、このランプソケット2に蛍光ランプ3が装着されている。反射板4は蛍光ランプ3の笠を兼ねている。以上の構造は蛍光灯として一般的なものである。
【0025】
本発明は、蛍光ランプ3背面の反射板4に、本発明で限定した前記構成の光触媒フィルター5を取り付ける。光触媒フィルター5の形状は図のとおり例えば平板状とし、蛍光灯の長さ方向にわたって取り付ける。図示の例では2個の光触媒フィルター5を使用したが、全長を1個としてもよいし、さらに例えば3〜5個に分割してもよい。
【0026】
光触媒フィルター5の反射板4に対する取り付け構造は特に限定されない。図示の例では、基端を反射板4に固着し且つ内側に屈曲した爪部を有する係止金具6により、光触媒フィルター5を吊着している。光触媒フィルター5に透孔を設け、ボルト等をもって反射板4に取り付ける、磁石や面ファスナーを利用して反射板4に取り付ける等の手段でもよい。
【0027】
図示の蛍光灯は、室内の天井に直接取り付けるタイプである。図には示していないが、吊具によって天井から垂下したものでもよい。また、蛍光ランプを複数本備えた蛍光灯でもよい。蛍光ランプを複数本備えた蛍光灯において、光触媒フィルターの設置は、例えば光触媒フィルターの横幅を拡張してもよいし、図3に示すように蛍光ランプ3,3間に設けてもよい。
【0028】
さらに、蛍光灯には、蛍光ランプとしてサークル管を使用したものがある。この場合、図には示していないが、光触媒フィルター5はサークル管の形状に合わせて例えば円盤状あるいはドーナツ状としてもよい。
【0029】
図4(a)〜(c)は、蛍光灯の長さ方向に対する直角断面図であって、同時に空気の熱対流を模式的に示したものである。図4(a)は、光触媒フィルター5の上面が反射板4に接するように光触媒フィルター5を取り付けたものであって、蛍光ランプ3の発熱によって空気の熱対流が生じ、蛍光ランプ3付近の空気が光触媒フィルター5の網目を透過し、空気清浄化が促進される。
【0030】
図4(b)は光触媒フィルター5の背面を反射板4から例えば5〜15mm程度離して反射板4に取り付けた例である。前記図4(a)の例では空気が下面から侵入し、側面へ透過するのに対し、図4(b)の例では空気が下面から上面に透過することで、光触媒フィルター5に対する空気の透過速度が高くなり、その分、室内空気の清浄化処理が速くなる。
【0031】
光触媒フィルターの少なくとも蛍光ランプとの対向面を凹曲面にした場合、光触媒フィルターの幅方向の端部下面が、蛍光ランプとの距離が短くなって蛍光ランプの照射による光触媒反応が促進される。図4(c)は光触媒フィルター5全体を同一厚みとして蛍光ランプ3との対向面を凹曲面にした例である。これに限らず、蛍光ランプとの対向面のみを凹曲面とし、背面を水平面とした光触媒フィルターを使用しても同様の効果が得られる。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例とその比較例を示す。併せて、これらの空気清浄化機能を試験した結果を示す。
【0033】
実施例に使用した光触媒フィルターの製造方法は次の通りである。すなわち、シリカ−アルミナ質スラリー中に三次元網目構造の形成に見合う多孔質ウレタンフォームを浸漬し、シリカ−アルミナ質スラリーを十分に浸透させた後、乾燥する。ウレタンフォーム表面の余剰の乾燥セラミック付着物を除去した後、1200℃で焼成し、ウレタンフォームの消失で三次元網目構造のセラミック焼結体を得た。
【0034】
次いで、酸化チタン水溶液に前記のセラミック焼結体を浸漬し、三次元構造の網目表面に酸化チタンを塗布後、乾燥し、600℃以下で加熱することで、アナターゼ型酸化チタンからなる光触媒を担持した光触媒フィルターを得た。三次元網目構造におけるセル数は、多孔質ウレタンフォームのセル数によって調整した。セル数と空気清浄化との関係を試験するために、セル数が異なる4種の光触媒フィルターを製造し、用意した。
【0035】
蛍光灯としては 日立ライティング(株)のFB211P(直管20W形・1灯)を使用した。蛍光ランプ背面の反射板に前記の光触媒フィルターを係止金具をもって反射板に固着した。光触媒フィルターの形状・寸法は、平板形状(200×60×15mm)のものを2枚、蛍光灯の長さ方向に直列させた。光触媒フィルターは反射板との間に空気の循環を良くするためにスペーサーを置きその上に乗せた。さらには蛍光ランプの光の効率化のために反射板の表面に反射薄膜としてアルミニウム薄膜を貼り付け光触媒フィルターから通過した光を反射させた。
【0036】
1mの密閉室内に光触媒フィルターを備えた前記の蛍光灯を天井に取り付けると共に、密閉室内をアセトアルデヒド試薬をもって50ppmのアセトアルデヒド濃度にした後、蛍光灯を点灯し、アセトアルデヒド濃度の経時変化を検知管によって測定し、空気清浄化の効果を調べた。
【0037】
図6のグラフは、前記の試験において、光触媒フィルターのセル数と空気清浄化との関係を示したものである。本発明の範囲内のセル数を有する光触媒フィルターを使用した蛍光灯では、空気清浄化の効果が顕著であることが確認できる。
【0038】
図7は、ファンを備えた光触媒フィルター内蔵のA社製家庭用空気清浄機(サイズ: 幅40×奥行き20×高さ60cm)及び活性炭を主成分とした市販の大型冷蔵庫用脱臭剤(エステー化学株式会社製・商品名「抗菌脱臭炭」)との脱臭比較テストを実施した結果を示す。図7に示すように本発明品は、簡単な構造ながら家庭用空気清浄機とほぼ同レベルの機能であることが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の適用例を示す要部斜視図である。
【図2】図1に示す適用例の一部破砕断面の側面図である。
【図3】光触媒フィルターの他の配置例を示す断面図である。
【図4】本発明の蛍光灯において空気の熱対流を模式的に示す断面図である。
【図5】セラミック質の三次元網目構造例の一部拡大図である。
【図6】光触媒フィルターのセル数と空気清浄化との関係を試験した結果を示すグラフである。
【図7】本発明の蛍光灯と家庭用空気清浄機及び大型冷蔵庫用脱臭剤との脱臭比較テスト結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0040】
1 蛍光灯本体
2 ランプソケット
3 蛍光ランプ
4 反射板
5 光触媒フィルター
6 係止金具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を担持したセル数5〜20cpiの三次元網目構造よりなるセラミック製の光触媒フィルターを蛍光ランプ背面の反射板に取り付けた、空気清浄化機能を備えた蛍光灯。
【請求項2】
セラミック製の光触媒フィルターと反射板との間にスペースを設けた請求項1記載の空気清浄化機能を備えた蛍光灯。
【請求項3】
セラミック製の光触媒フィルターの少なくとも蛍光ランプとの対向面が凹曲面である請求項1または2記載の空気清浄化機能を備えた蛍光灯。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−165255(P2007−165255A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−363653(P2005−363653)
【出願日】平成17年12月16日(2005.12.16)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】