説明

空気清浄用フィルター、空気清浄化フィルター用処理剤セット、空気清浄器及び空調装置

【課題】コンパクトな形状で殺菌・消毒、消臭、防虫効果を有し、かつ耐久性と持続性がありメンテナンスが容易な空気清浄用フィルターを提供することであり、またそれを装填した空気清浄装置及び空調装置を提供すること。
【解決手段】一般式(I)で表されるペルオキシカルボン酸を含浸させたフィルター素材を有することを特徴とする空気清浄用フィルター
【化1】


(式中、R1はC1−C10のアルキル基(但し置換基としてOH基を有する置換基は除く)、又はC6−C10のアリール基を示し、LはC2−C12の2価の連結基を示し、R1とLは結合して環を形成してもよい)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建物内空気環境又は室内空気環境の殺菌(滅菌)消毒、脱臭、除虫(防虫)などの空気清浄化に用いるフィルター及び該フィルターの長期継続使用に適した空気清浄化剤セット、並びに該フィルターを装填した空気清浄器及び空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現代の文明社会の都市域環境や生活環境においては、各種の化学物質、微生物類、菌類、匂い物質等による空気環境の汚染が顕在化しており、空気環境の浄化、汚染の軽減が課題となっている。とくに、コンビナート地域や交通量の多い道路付近の空気は、塵埃や化学臭といった人体に悪影響を及ぼす沢山の物質を含んでいるので、建物に外気を清浄化して室内に取り入れることができる空気清浄用フィルター装置の設置が望まれている。また、食品製造工場、地下室や病院などにおいても、清浄空気を取り入れることができる空気清浄用フィルター装置の設置が望まれている。空気清浄化の対象は、化学物質や微生物類に限られるものではなく、空気中の微小件濁物質の排除も重要であり、特に精密装置の製造・取扱い作業場では、肝要である。
【0003】
したがって、空気清浄用フィルターは、塵埃や浮遊懸濁物の除去と化学的、生物的汚染物質の除去の両方を満たすことが求められる。通常用いられる通気性シート状物を使用する空気清浄用フィルターは、集塵できる塵埃の粒子が比較的大きいので、集塵率が著しく低いことが多い。家庭用の冷暖房装置のフィルターは、スポンジ状のシートが使用され、集塵率が低い。また従来のフィルター材料は、化学臭の吸臭ができなかった。望ましい空気清浄用フィルターとしては、防塵、防毒、防菌、防臭の機能が備わっていることが必要であるが、さらに耐久性と効果の持続性が求められている。
大気環境や屋内・室内環境の清浄化は、汚染源各種の化学物質、微生物類、菌類、匂い物質等の多岐に亘り、人体への影響も汚染物質の種類や環境条件によって多様であり、普遍的に効果を有する手段が乏しいことが解決を困難にしている。
また、屋内環境も通風口、循環ダクトなどの存在が一様な清浄化効果を発揮しにくくしている。
とりわけ汚染源の化学物質の無害化と人体安全性との両立する手段が強く求められている。
【0004】
空気環境の化学的汚染の浄化の面では、特許文献1には、棕櫚繊維を充填して空気接触効率を高めて殺菌剤などの薬剤を吸蔵させた空気清浄化用フィルター装置が提案されている。特許文献2では、繊維質材料に薬剤を付着させた後、複数回の熱処理を施して効果の持続性を改善させた衛生フィルターが開示されている。消毒効果の持続性向上に関しては、さらに特許文献3に、それ自体が殺菌消毒製を有する極細銅繊維が組合わされた滅菌シートで構成した空気清浄化用殺菌フィルターが提示されている。無機金属化合物の殺菌効果を利用した手段としては銀化合物をフィルター素材に吸蔵させることも提案されている(特許文献4参照)。また、各種重金属イオンのオキシ多塩基酸塩と銅化合物とをフィルター素材に含有させた空気清浄化用殺菌フィルターが提示されている(特許文献5参照)。
上記特許文献4では不織布をフィルター素材として用いることによって微小繊維屑の発生を防止することが示されている。
【0005】
一方、上記の金属化合物由来の消毒剤の人体安全性に鑑みて、殺菌、消毒作用を有する有機化合物の適用も知られている。従来から用いられている殺菌、消毒剤には、グルタルアルデヒド、過酢酸及びそれらを主する主剤とする組成物などが知られている。前者は不快臭があり、後者は刺激臭がある点で好ましくなく、改善が望まれている。
【0006】
グルタルアルデヒド等のアルデヒドを有効成分とする殺菌用組成物が知られているが、グルタルアルデヒドについては、芽胞に対する殺菌作用が弱いことやアレルギーの原因となることも近年指摘されている。
【0007】
また、過酢酸を有効成分とする殺菌用組成物も知られているが、過酢酸は過酸由来の刺激臭があり、酢酸臭も強いため、実際に消毒薬として取扱う場合には作業者への負荷が大きいことに加え換気等の対応が必須である。さらに、ペルオキシプロピオン酸の様な脂肪族ペルオキシカルボン酸も有効な殺菌性を示すことが非特許文献1に報告されているが、これら脂肪族ペルオキシカルボン酸にも不快臭があるという問題がある。脂肪族ペルオキシカルボン酸の不快臭は炭素数が大きくなる程弱くなり、直鎖の場合、炭素数11以上で殆ど臭気はなくなるが、水に対し不溶性になるという別の問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平5−184828号公報
【特許文献2】特開平6−285313号公報
【特許文献3】特開昭63−136717号公報
【特許文献4】特開平9−173731号公報
【特許文献5】特開平3−213107号公報
【非特許文献1】J.Hyg.Epid.Microbiol.Immun.,9巻,220-226頁(1965)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述の背景に基いてなされたもので、その目的はコンパクトな形状で殺菌・消毒、消臭、防虫効果を有し、かつ耐久性と持続性がありメンテナンスが容易な空気清浄用フィルターを提供することであり、またそれを装填した空気清浄装置及び空調装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行う中で、特定のアルコキシペルオキシカルボン酸を適用すると不快臭がなく且つ空気環境においても優れた殺菌、防菌、消臭作用を示すことを見出した。本発明はこの知見を基に成されたものである。
【0011】
すなわち本発明は、特定のアルコキシペルオキシカルボン酸を適用した以下の空気清浄用フィルター、並びに該空気清浄用フィルターに用いる処理剤セット、空気清浄器及び空調装置によって達せられる。
1.一般式(I)で表されるペルオキシカルボン酸を含浸させたフィルター素材を有することを特徴とする空気清浄用フィルター。
一般式(I):
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、R1は置換もしくは無置換のC1−C10のアルキル基(但し置換基としてOH基を有する置換基は除く)、又は置換もしくは無置換のC6−C10のアリール基を示し、Lは置換もしくは無置換のC2−C12の2価の連結基を示し、R1とLは結合して環を形成してもよい)。
2.前記一般式(I)で表されるペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸と過酸化水素とを含浸させたフィルター素材を有することを特徴とする空気清浄用フィルター。
3.前記フィルター素材が不織布であることを特徴とする上記1又は2に記載の空気清浄用フィルター。
4.前記一般式(I)で表される化合物が一般式(II)又は(III)で表されるペルオキシカルボン酸であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の空気清浄用フィルター。
【0014】
【化2】

【0015】
(式中、R2、R3、R4、及びR5は各々独立に水素、C1−C4アルキル基、C1−C4のアルコキシ基又はC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基を示し、L2は単結合又はC1−C9の置換もしくは無置換のアルキレン基、又はC6−C9の置換もしくは無置換のアリーレン基を示し、L1は単結合又はC1−C10の置換もしくは無置換の2価の連結基を示す)
5.一般式(I)で表されるペルオキシカルボン酸を含む水性組成物をフィルター素材に噴霧、塗布又は浸漬処理により含浸させたことを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の空気清浄用フィルター。
6.前記一般式(I)で表されるペルオキシカルボン酸を含む水性組成物が、さらに腐食防止剤、pH調整剤、金属封鎖剤、安定化剤及び界面活性剤からなる群から選択される1種以上を含有することを特徴とする上記5に記載の空気清浄用フィルター。
7.一般式(I)で表されるペルオキシカルボン酸を含有する組成物がさらに過酸化水素水を含有することを特徴とする上記5又は6に記載の空気清浄用フィルター。
【0016】
8.上記5〜7のいずれかに記載のペルオキシカルボン酸含有組成物と過酸化水素水から少なくとも構成されたことを特徴とする空気清浄用フィルター用処理剤セット。
9.上記1〜7のいずれかに記載の空気清浄用フィルターを搭載したことを特徴とする空気清浄器。
10.上記8に記載の空気清浄用フィルター用処理剤セットを収納したことを特徴とする上記9に記載の空気清浄器。
11.空気清浄用フィルターがペルオキシカルボン酸含有組成物を含浸しており、過酸化水素水が該ペルオキシカルボン酸含有組成物に接触するように配されていることを特徴とする上記9又は10に記載の空気清浄器。
12.空気清浄用フィルターと、該フィルターの下端部がペルオキシカルボン酸含有組成物に浸漬するように設けられた該組成物収納容器と、該組成物収納容器に過酸化水素水を供給する過酸化水素容器と、該組成物収納容器の液面を管理しつつ該過酸化水素容器に過酸化水素水を組成物収納容器に供給する供給機構とを有することを特徴とする上記9〜11のいずれかに記載の空気清浄器。
13.上記9〜12のいずれかに記載の空気清浄器を搭載したことを特徴とする空調装置。
14.上記1〜7のいずれかに記載の空気清浄用フィルターを内臓したことを特徴とするルームエアコン。
【発明の効果】
【0017】
一般式(I)で表されるアルコキシペルオキシカルボン酸(以下、一般式(I)の化合物と呼ぶ)を利用する本発明の空気清浄フィルターにより、環境の殺菌、消毒、脱臭などの空気清浄化を行うことができる。また、本発明の空気清浄フィルターは、空気清浄化装置のほか、空調設備、ルームエアコンにも装填して上記効果を発揮させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明する。
本発明の空気清浄化フィルターは、一般式(I)の化合物すなわち、ω−アルコキシペルオキシカルボン酸を含浸していることを特徴としている。この化合物によって空気清浄化作用が強力に行われ、しかも通常の取扱いのもとでの健康安全性には影響がない。
また、一般式(I)の化合物は上記のようにその前駆体と平衡関係にあるので、本発明の空気清浄用フィルターは、一般式(I)で表されるペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸と過酸化水素とを含浸させたフィルター素材を有する空気清浄用フィルターであってもよく、ω−アルコキシペルオキシカルボン酸はその前駆体である対応するアルコキシカルボン酸と過酸化水素と水とを含む空気清浄用フィルターであってもよい。
本明細書において、「フィルターに含浸させる」とは、一般式(I)の化合物を水溶液の形態としてフィルター材料を浸漬して材料中に浸透させて含有させる場合、フィルター材料を浸漬したり、塗布したりしたのち乾燥させて材料表面に付着させる場合、一般式(I)の化合物を固形物としてフィルター材料のミクロ構造中に担持させる場合などを包含する。
【0019】
本発明に用いられる一般式(I)の化合物について述べる。
1で示される無置換のC1−C10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、へプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、2−エチルヘキシル基などを挙げることができる。R1で示されるC1−C10のアルキル基は置換基を有していてもよいが、置換基としてOH基を有する置換基(水酸基、カルボキシ基、ヒドロペルオキシ基、及びヒドロペルオキシカルボニル基など)は除く。R1で示されるC1−C10のアルできる。R1で示されるC6−C10の無置換のアリール基としてはフェニル基を挙げることができる。R1で示されるC6−C10の無置換のアリール基は置換基を有していてもよく、置換基としてはアルキル基、アルコキシ基、スルホニル基、水酸基、カルボキシル基などを挙げることができる。
なお、基名の前に記す「Cx」は、「炭素数10」の意味の簡略表記で、例えば「C10アルキル基」は「炭素数が10のアルキル基」の意味である。
【0020】
Rとしては、C1−C4の置換若しくは無置換のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、メトキシメチル基、クロロメチル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基がさらに好ましく、メチル基、2−メトキシエチル基、2−エトキシエチル基が特に好ましい。
【0021】
一般式(I)において、Lは置換もしくは無置換のC2−C12の2価の連結基を表す。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、アルコキシ置換アルキル基、カルボキシル基などを挙げる事ができる。また、連結基中に例えば酸素原子、窒素原子などの炭素以外の分子を含んでもよい。Lとしては、CHR11−L12(R11は水素原子又はC1〜C4の置換もしくは無置換のアルキル基を示し、L12は置換もしくは無置換のC1−C11の2価の連結基を示す)が好ましい例として挙げられる。このとき、L12としては置換または無置換のC1−C4の2価の連結基が好ましく、置換または無置換のメチレン基がより好ましく、メチレン基又はメチル基置換メチレン基(CH(CH3))がさらに好ましく、メチレン基が最も好ましい。一般式(II)又は(III)において、L1は、単結合、又は置換もしくは無置換のC1−C10の2価の連結基を表す。置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、水酸基、アルコキシ置換アルキル基、カルボキシル基などを挙げる事ができる。また、連結基中に例えば酸素原子、窒素原子などの炭素以外の分子を含んでもよい。L1としては、CHR12−L13(R12は水素原子又はC1〜C4の置換もしくは無置換のアルキル基を示し、L13は置換もしくは無置換のC1−C9の2価の連結基を示す)が好ましい例として挙げられる。このとき、L13としては置換または無置換のC1−C4の2価の連結基が好ましく、置換または無置換のメチレン基がより好ましく、メチレン基又はメチル基置換メチレン基(CH(CH))がさらに好ましく、メチレン基が最も好ましい。
【0022】
2、R3、R4、又はR5が示すC1−C4のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基などを挙げることができ、好ましくはメチル基を挙げることができるが、これらに限定されない。R2、R3、R4、又はR5が示すC1−C4アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、又はブトキシ基などを挙げることができ、好ましくはメトキシ基、エトキシ基を挙げることができるが、これらに限定されない。R2、R3、R4、又はR5が示すC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基としては、メトキシメチル基、エトキシメチル基、プロポキシメチル基、ブトキシメチル基、又はエトキシエチル基などを挙げることができ、好ましくはメトキシメチル基、エトキシメチル基を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0023】
本発明に用いるペルオキシカルボン酸は、置換基の種類により、1個又は2個の不斉炭素を有する場合がある。1個又は2個の不斉炭素に基づく光学的に純粋な任意の光学異性体、上記の光学異性体の任意の混合物、ラセミ体、2個の不斉炭素に基づくジアステレオ異性体、上記ジアステレオ異性体の任意の混合物などは、いずれも一般式(I)の化合物の範囲に包含される。更に、本発明に用いるペルオキシカルボン酸は、水和物又は溶媒和物として用いる場合もあるが、これらの単体や固体化合物あるいあ固体混合物として用いることもできる。
【0024】
本発明に用いるペルオキシカルボン酸の具体例を以下に示すが、本発明では下記に限定されることはない。
【0025】
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【0026】
特に好ましい化合物は、化合物1、化合物2、化合物3、化合物5、化合物23、である。中でも化合物1、化合物2が好ましい。
【0027】
本発明に用いるペルオキシカルボン酸は、Organic peroxides, I巻, 313-474頁(Daniel Swern, John Wiley & Sons, Inc., New York, 1970)などに記載されている公知のペルオキシカルボン酸の合成方法に準じて合成することができる。具体的には、例えばカルボン酸と過酸化水素との反応により合成することができる。また、カルボン酸と過酸化水素との反応においては、反応の触媒として強酸を用いることが効果的である。この強酸としては、硫酸、リン酸などを用いることができるが、スルホン酸基を有する強酸性イオン交換樹脂や、ナフィオンなどの固体酸触媒を用いることもできる。
【0028】
上記ペルオキシカルボン酸の合成で用いられるカルボン酸としては、市販のカルボン酸を用いることができるが、適宜公知の方法により合成したカルボン酸を用いることもできる。例えば3−アルコキシプロピオン酸は、J.Am.Chem.Soc., 70巻,1004頁(1948)に記載されている様にβ−プロピオラクトンとアルコールとの反応や、J.Am.Chem.Soc., 69巻,2967頁(1947),77巻,754頁(1955)に記載されている様に、アクリル酸エステルとアルコキサイドとの反応で得られる3−アルコキシプロピオン酸エステルの加水分解によって合成することが可能である。また、3位よりカルボニル基から遠い位置がアルコキシ置換されたカルボン酸はJ.Org.Chem., 59巻,2253頁(1994)に記載されている様にβ〜δ−ラクトンとアルコールとの反応により合成する事が可能である。
【0029】
次に、上記一般式(I)で表されるペルオキシカルボン酸を含浸させたフィルター素材及びそれを用いる本発明の空気清浄用フィルターについて説明する。
フィルター素材としては、通気性(繊維束間の空気通過性とシート状膜の空気透過性も含めて通気性と呼ぶ)と化学的安定性がある通常のフィルターであれば、適用することができる。特に繊維質の材料及び不織布が好ましく、繊維質材料の素材としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレートなどのポリエステル、セルロースアセテート、セルロースアシレートブチレートなどのセルロースアシレートエステル、ポリプロピレンなどのポリアルキレン、ポリスチレン、などから作られる繊維を中空円筒状のコアフィルターカートリッジに収納したものが好ましい。浄化対象の空気は、コア部に圧入され、筒壁を透過して円筒外方に送られる。また、その逆の送風方向であってよい。
【0030】
また、シート状に延伸成形したプラスチック薄膜を多孔化した不織布も好ましく。腐食布は、繊維くずなどの浮遊ごみの発生源とならない点で優れている。
その場合のプラスチック材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリアルキレンフィルム、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルフィルムを基材として多孔化などによって通気性を付与したものが好ましい。
例えば、ポリプロピレン不織布のスプリトップSP(日本不織布社製)を挙げることができる。
【0031】
空気清浄用フィルターは、一般式(I)で表されるペルオキシカルボン酸を含む水性組成物をフィルター素材に噴霧、塗布又は浸漬処理させて作製することができる。その場合に、水性組成物には、一般式(I)で表されるペルオキシカルボン酸を含むほか、さらに腐食防止剤、pH調整剤、安定化剤及び界面活性剤からなる群から選択される1種以上を含有することができる。また、これらの成分化合物のほかに、前記したペルオキシカルボン酸前駆体成分、とくに対応するカルボン酸と過酸も水性組成物に含有させることができる。その中でも、過酸化水素水を過剰に含有することも、効果の持続性や効果の補強の点で利用することができる。
【0032】
一般式(I)の化合物を含有する水性組成物は、上述のペルオキシカルボン酸の1種又は2種以上を含む。なお本明細書において、「水性組成物」とは水を含む溶液状態の組成物を意味する。本発明に用いる水性組成物中のペルオキシカルボン酸の濃度は0.1 mM以上2000 mM以下であり、好ましくは1mM以上200 mM以下であり、更に好ましくは40 mM以上120 mM以下であればよい。
【0033】
また、本発明に用いる水性組成物は、上述のペルオキシカルボン酸のほかに、該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸及び/又は過酸化水素を含んでいてもよい。本明細書において、ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸とは、該ペルオキシカルボン酸のペルオキシカルボキシル基がカルボキシル基である化合物を意味する。この場合、本発明に用いる水性組成物中のペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸の濃度は0.1mM以上 2000mM以下であり、好ましくは1mM以上 200mM以下であり、更に好ましくは 40mM以上200mM以下であればよい。また、過酸化水素の濃度は3mM以上 6000mM以下であり、好ましくは10mM以上 1000mM以下であり、更に好ましくは 30mM以上600mM以下であればよい。本発明に用いる水性組成物はペルオキシカルボン酸の濃度が1mM以上200 mM以下であり、過酸化水素の濃度が10mM以上1000 mM以下であることが好ましい。
【0034】
本発明に用いる水性組成物は、例えば殺菌剤として使用する際に、ペルオキシカルボン酸等の各成分が上述の濃度になるように調製すればよい。過酸化水素とカルボン酸よりペルオキシカルボン酸が生成することは、古くから知られている。この反応は、カルボン酸、過酸化水素、ペルオキシカルボン酸、および水との平衡反応として進行し、過酸化水素もしくはカルボン酸の濃度を高くするほど高濃度のペルオキシカルボン酸が生成する。例えば、90質量%の過酸化水素を、過酸化水素の1.5倍モルの酢酸と混合すると、過酢酸45質量%、酢酸35質量%、過酸化水素6質量%、水14質量%の平衡混合液が得られる(kirk-Othmer Encyclopedia of chem.Tech. Inst, Suppl. 662頁(1957))。
【0035】
本発明に用いる水性組成物は、上記の成分のほかに1又は2以上の添加剤を含んでいてもよい。添加剤の例としては、腐食防止剤、可溶化剤、pH調整剤、金属封鎖剤、安定化剤、界面活性剤、及び再付着防止剤等が挙げられる。
【0036】
腐食防止剤としては、例えば、1,2,3-ベンゾトリアゾールと、低級アルキルベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾール、低級アルキルヒドロキシベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、低級アルキルカルボキシベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、低級アルキルベンズイミダゾール、ヒドロキシベンズイミダゾール、低級アルキルヒドロキシベンズイミダゾール、カルボキシベンズイミダゾール、低級アルキルカルボキシベンズイミダゾール、メルカプトベンゾチアゾール、低級アルキルメルカプトベンゾチアゾール、ヒドロキシメルカプトベンゾチアゾール、低級アルキルヒドロキシメルカプトベンゾチアゾール、カルボキシメルカプトベンゾチアゾール、低級アルキルカルボキシメルカプトベンゾチアゾール、グルコン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、安息香酸ブチル、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ソルビトール、エリスリトール、リン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸テトラナトリウム、モリブデン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、クロム酸塩、及びホウ酸塩から選択される1種又は2種以上の化合物とを組み合わせた剤等が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書において、「低級アルキル」という用語は、1個から6個の炭素原子を有する直鎖又は分枝鎖の飽和又は不飽和の炭化水素基を意味する。
【0037】
本発明に用いる組成物又は空気清浄化フィルターが、銅、黄銅、青銅、又は多金属系を含む機器等に接触し易い条件で使用される場合には、1,2,3-ベンゾトリアゾール及び1種又はそれ以上の低級アルキルベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾール、低級アルキルヒドロキシベンゾトリアゾール、モリブデン酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、クロム酸塩、ホウ酸塩、及びこれらの混合物である腐食防止剤が好ましく用いられる。1,2,3-ベンゾトリアゾール、モリブデン酸ナトリウム、及び亜硝酸ナトリウムを含む腐食防止剤が特に好ましく用いられる。炭素鋼及びステンレス鋼を含む機器等を処理するために本発明に用いる組成物が使用される場合には、例えば、安息香酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、及びモリブデン酸ナトリウムなどを含む腐食防止剤が好ましく用いられる。炭素鋼及び/又はステンレス鋼を含む機器等を処理するために本発明に用いる組成物が使用される場合には、例えば、硝酸ナトリウム及び/又はモリブデン酸ナトリウムを含む腐食防止剤が好ましく用いられる。本発明に用いる水性組成物中に存在する腐食防止剤の総量は、組成物の総質量に対して、典型的には、0.1質量%から約30質量%である。1,2,3-ベンゾトリアゾールの量は、好ましくは0.1質量%から約3.0質量%であり、より好ましくは0.5質量%から約2.0質量%である。
【0038】
腐食防止剤がペルオキシカルボン酸を含む本発明に用いる水性組成物に難溶である場合には、本発明に用いる組成物はさらにアルキレングリコールのなどの可溶化剤を含んでもよい。本明細書において、「アルキレングリコール」という用語は、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジアルキレングリコール(例えば、ジエチレングリコール)、トリアルキレングリコール(例えば、トリエチレングリコール)、ならびに対応するそれらのモノ-及びジアルキルエーテルなどのグリコールをいう。ここでこのアルキルエーテルは、1個から6個の炭素原子を有する低級アルキルエーテル(例えば、メチル、エチル、又はプロピルエーテル)である。特に好ましくは、本発明組成物は可溶化剤としてプロピレングリコールを含み、またこのプロピレングリコールは本発明組成物に腐食防止剤の約3倍から10倍の濃度で含まれていることが好ましい。例えば、本発明に用いる水性組成物中に約1質量%で含まれる1,2,3-ベンゾトリアゾールに対してプロピレングリコールが本発明に用いる水性組成物中に約3.5質量%から6.5質量%で含まれていることが好ましい。
【0039】
pH調整剤としては、水性組成物に適合しかつ環境に適合するような酸、例えば、クエン酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、コハク酸、グルタル酸、又はアジピン酸等の有機酸及びその塩、リン酸、硫酸等の無機酸及びその塩、水酸化アンモニウム又は水酸化アルカリ金属等の塩基を用いることができる。もっとも本発明で用いることができるpH調整剤はこれらに限定されない。本発明組成物中のpH調整剤の濃度は組成物の総質量に対して、20質量%以下が好ましく、特に0.1質量%〜10質量%が好ましい。
【0040】
安定化剤としては公知の安定化剤を用いればよく、リン酸塩、8-ヒドロキシキノリン、スズ酸、スルホレン、スルホラン、スルホキシド、スルホン、スルホン酸などが挙げられる。本発明に用いる組成物において、リン酸塩が好ましい安定化剤である。好ましくは、本発明に用いる組成物は組成物の総質量に対して約0.001質量%から約0.5質量%のリン酸塩を含む。上記リン酸塩は、オルトリン酸ナトリウム塩、オルトリン酸カリウム塩、ピロリン酸ナトリウム塩、ピロリン酸カリウム塩、ポリリン酸ナトリウム塩、ポリリン酸カリウム塩、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0041】
また本発明に用いる組成物は任意に組成物の総質量に対して約30質量%までの界面活性剤を含んでいてもよい。界面活性剤としては、酸性水性媒体中でペルオキシカルボン酸、過酸化水素の存在下で酸化及び分解に対して安定な界面活性剤を使用することができ、好ましくは、酸化され易い界面活性剤は避ける。適切な界面活性剤は、非イオン性、アニオン性、両性、又はカチオン性の界面活性剤から選択することができる。本発明に用いる組成物に添加するのに好ましい界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤が挙げられ、具体的には、ポリエチレン/ポリプロピレンブロックポリマー型界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル型界面活性剤、ポリオキシエチレンエーテル型界面活性剤、及びポリオキシエチレンソルビタン型界面活性剤等が挙げられるが。本発明に用いる組成物に添加される界面活性剤はこれらに限定されない。
【0042】
本明細書において用いられる「殺菌」という用語には、「消毒」、及び「抗菌」などの意味が含まれる。
【0043】
本発明に用いる水性組成物は殺菌剤としてそのまま提供することもできるが、一般式(I)、(II)、又は(III)で表されるペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸を含む水性組成物と、過酸化水素を含む水性組成物とをキットとして提供し、使用に際し混合し使用することもでき、必要に応じて混合物を水で希釈後に使用することもできる。また、一般式(I)、(II)、又は(III)で表されるペルオキシカルボン酸及び前記添加物を乾燥形態で提供し、使用に際して水性溶媒に溶解することもできる。
【0044】
さらに、本発明に用いる水性組成物の一例は、一般式(I)、(II)、又は(III)で表されるペルオキシカルボン酸、該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸及び過酸化水素を含む第1の水性成分液と、腐食防止剤、pH調整剤、安定化剤、及び界面活性剤からなる群から選択される1種以上を含有する第2の水性成分液とを含むキットとして提供し、使用に際し混合し使用することもでき、必要に応じて混合物を水で希釈後に使用することもできる。また、必要に応じて他の試薬を混合してもよい。また、第3の水性成分液として過酸化水素水を上記組成物に混合した形態、又は上記成分液とは別個に適時添加する成分液として用いることが出来る。過酸化水素水の過酸化水素濃度は0.1〜29質量%、好ましくは1〜9質量%、より好ましくは1〜3質量%で用いられる。
【0045】
本発明に用いる水性組成物は、他の殺菌剤と組み合わせて使用することもできる。例えば、他の殺菌剤と混合して用いることが出来、必要に応じて混合物を水で希釈後に使用することもできる。又は水性組成物を用いた殺菌の前後に他の殺菌剤での処理を加えてもよい。本発明に係る殺菌用水性組成物と組み合わせる殺菌剤は特に限定されないが、既知のものであることが好ましく、例えば過酢酸、過酸化水素水、グルタルアルデヒド、オルトフタルアルデヒド、消毒用エタノールなどが好ましく、特に過酢酸と過酸化水素水が好ましい。
【0046】
上記第1の成分液は、1〜15質量%の本発明に係るペルオキシカルボン酸、10〜50質量%の該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸、及び1〜15質量%の過酸化水素水を含むことが好ましく、3〜13質量%の本発明に用いるペルオキシカルボン酸、20〜50質量%の該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸、3〜15質量%の過酸化水素を含むことがより好ましく、5〜11質量%の本発明のペルオキシカルボン酸、20〜40質量%の該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸、5〜15質量%の過酸化水素を含むことがさらに好ましい。
【0047】
さらに上記第1の成分液は、1〜15質量%のペルオキシカルボン酸、10〜50質量%の該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸、1〜15質量%の過酸化水素を含むが、そのペルオキシカルボン酸と過酸化水素の合計が25質量%以下であり、該ペルオキシカルボン酸と該カルボン酸の合計が50質量%以下であることが好ましく、3〜13質量%のペルオキシカルボン酸、20〜50質量%の該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸、3〜15質量%の過酸化水素を含み、かつ該ペルオキシカルボン酸と過酸化水素の合計が25質量%以下であり、該ペルオキシカルボン酸と該カルボン酸の合計が50質量%以下であることが好ましく、上記第1の試薬が、5〜11質量%のペルオキシカルボン酸、20〜40質量%の該ペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸、5〜15質量%の過酸化水素を含み、かつ該ペルオキシカルボン酸と過酸化水素の合計が25質量%以下であり、該ペルオキシカルボン酸と該カルボン酸の合計が45質量%以下であることがさらに好ましい。
【0048】
上記第1の成分液と第2の成分液を混合し水で希釈して使用する場合、pH2未満では、酸触媒によりペルオキシカルボン酸から対応するカルボン酸への平衡移動が加速されて過酸化水素の有効濃度を増大させることができるが、その結果、ペルオキシカルボン酸の濃度の減衰が著しくなり、連続して使用できる期間が短くなってしまう。また、カルボン酸の解離定数が通常4付近である為、pHが5以上になるとカルボン酸が解離しカルボン酸の塩となりカルボン酸濃度が低下する為、その結果、ペルオキシカルボン酸からカルボン酸への平衡移動を加速する懸念がある。従って、該第1の成分液と第2の成分液を混合し、水等の溶媒で希釈した後の水性組成物のpHは2〜4.5の範囲であることが好ましい。pHの調整には、前述の調整剤、具体的には本発明組成物に適合しかつ環境に適合するような酸、例えば、クエン酸、酢酸、酒石酸、リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、コハク酸、グルタル酸、又はアジピン酸等の有機酸およびその塩、リン酸、硫酸等の無機酸およびその塩、水酸化アンモニウム又は水酸化アルカリ金属等の塩基を用いることができる。
【0049】
本発明の殺菌剤を使用する際に、ペルオキシカルボン酸が所望の濃度以上含まれていることを検出するための方法は特に限定されないが、化学的、又は電気化学的原理に基づくインジケーターを用いることが好ましい。化学的原理に基づくものとしては酸化還元による発色やpHによる発色などが挙げられ、電気化学的原理に基づくものとしてはパルス電流測定や溶液の抵抗測定、電位差電流測定などが挙げられる。
【0050】
本発明では、実施の便宜上、上記の第1と第2の成分液、更には第1と第2及び/又は第3の成分液から構成される空気清浄用フィルター用処理剤セット、とくにペルオキシカルボン酸含有組成物と過酸化水素水から少なくとも構成される空気清浄用フィルター用処理剤セットが用いられる。これらを使用可能濃度の水性組成物に混合調製し、空気清浄用フィルターをこの組成物に浸漬、塗布、噴霧などの含浸処理を行うのが、実際的である。
また、各成分液を必要に応じて単独に空気清浄用フィルターに適用することもできる。とくに好ましい態様は、第1と第2の成分液を空気清浄用フィルターに含浸させて使用し、使用中に随時第3の成分液を追加添加する形態が長期にわたって効果を持続させる点で有利である。
【0051】
前記した組成の水性組成物をそのまま、又はペルオキシカルボン酸含有パートと過酸化水素含有パートどの複数パートに分けて使用する。前者の場合は、水性組成物を浸漬、塗布、スプレー処理など前記の方法に加えて空気清浄化フィルターフレームの下端部に水性組成物トレーを設けて浸透圧によってフィルターに水性組成物が願浸される態様も好ましい。後者の場合には、ペルオキシカルボン酸含有パートを水性組成物トレーに収納して上記のように含浸させ、過酸化水素含有パートを間歇噴霧する方法、ペルオキシカルボン酸含有パートを予め含浸させておき、過酸化水素含有パートを水性組成物トレーに収納して表面張力によってフィルター材料面に供給する方法などが選択される。本発明の空気清浄用フィルターは、空気環境の清浄化に関する種々の態様で用いられるが、特に空気清浄器に搭載して用いるのに適している。
繊維状フィルター材料は、界面張力によって繊維束に沿って組成物を上昇させる方式を容易に採ることができる。不織布の場合は、重ね合わせることにより、重畳した布の隙間を界面張力によって広がらせる態様がこのましい。
したがって、空気清浄用フィルターと、該フィルターの下端部がペルオキシカルボン酸含有組成物に浸漬するように設けられた該組成物収納容器と、該組成物収納容器に過酸化水素水を供給する過酸化水素容器と、該組成物収納容器の液面を管理しつつ該過酸化水素容器に過酸化水素水を組成物収納容器に供給する供給機構とを有する空気清浄器、さらにこのような空気清浄器を搭載した空調装置は、本発明の空気清浄用フィルターを利用するこのましい態様である。
また、本発明に係る空気清浄用フィルターをルームエアコンに内臓させることもできる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
1.一般式(I)の化合物の合成
例1:3−メトキシペルオキシプロピオン酸(化合物1)の合成
3−メトキシプロピオン酸2.82 mL(30 mmol)に50%過酸化水素水2.58 mL(45 mmol)を加え、室温で3日間放置した。B.Dudleyらの方法(Analyst,87,653-657(1962))に従ってヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定を実施し、3日後の3−メトキシペルオキシプロピオン酸及び過酸化水素濃度を決定した。
結果
3−メトキシペルオキシプロピオン酸; 157 mM
過酸化水素濃度;7872 mM
【0054】
例2:3−エトキシペルオキシプロピオン酸(化合物2)の合成
3−エトキシプロピオン酸3.38 mL(30 mmol)に50%過酸化水素水2.58 mL(45 mmol)を加え、室温で3日間放置した。例1と同様の方法で3日後の3−エトキシペルオキシプロピオン酸及び過酸化水素濃度を決定した。
結果
3−エトキシペルオキシプロピオン酸; 162 mM
過酸化水素濃度;7787 mM
【0055】
例3:化合物3の合成
3−プロポキシプロピオン酸25.0g(189 mmol)、50%過酸化水素水16.4 mL(284 mmol)、濃硫酸0.5 mL(9.4 mmol)を加え、室温で4日間放置した。例1と同様のヨウ化カリウム/チオ硫酸ナトリウム滴定を実施し、4日後のペルオキシカルボン酸3(化合物3)濃度を決定した。
結果
ペルオキシカルボン酸3(化合物3); 1.6M
【0056】
2.空気清浄化フィルター試験
以下のように、フィルター材質や組成物の構成を変えた空気清浄化用組成物1〜8を作製した。
(1)空気清浄化用組成物1
例示化合物1の50mM水溶液を調製してこれを空気清浄化用組成物1とした。温湯循環式室内暖房装置(日立ファンコンベクターFU30FEA−T、日立製作所製)のエアーフィルターを取り外し、フィルター素材を剥がし、代わりに次の調製不織布を貼付した後、再び暖房装置内に装填した。すなわち、ポリプロピレン不織布(スプリトップ(SP1070E)、日本不織布社製)を、空気清浄化用組成物1を満たしたトレーに室温で5分間浸漬した後、水分を切って調製した。
【0057】
(2)空気清浄化用組成物2
上記空気清浄化用組成物1において、エチレンジアミン4酢酸濃度が1mMとなるようにエチレンジアミン4酢酸を溶かし込んだ水溶液を空気清浄化用組成物2とした。(1)と同様にして別の暖房装置に装填した。
(3)空気清浄化用組成物3
上記空気清浄化用組成物1おいて、過酸化水素濃度が10%高くなるように調製した水溶液を空気清浄化用組成物3とした。(1)と同様にして別の暖房装置に装填した。
(4)空気清浄化用組成物4
上記空気清浄化用組成物1において、例示化合物1に代えて例示化合物2を用いた空気清浄化用組成物4を調製し、(1)と同様にして別の暖房装置に装填した。
(5)空気清浄化用組成物5
上記空気清浄化用組成物1において、例示化合物2に代えて例示化合物3を用いた空気清浄化用組成物5を調製し、(1)と同様にして別の暖房装置に装填した。
【0058】
<比較用組成物>
比較例として汎用のグルタルアルデヒド及びo-フェニルアルデヒドを用いた比較用組成物6,7を調製して使用した。
【0059】
空気の清浄度を試験する無菌室として床面積15m2高さ3mのブースを8室準備した。この中に上記で調製したフィルターを装填した暖房機を設置した。ブース内の汚染の調製は以下のように行なった。
<芽胞原液調製>
厚生労働省通知 衛乳第10号(平成8年1月29日)の芽胞原液調製法を参考にBacillus subtilis IFO3134の芽胞を調製した。具体的にはBacillus subtilis IFO3134をNutient Agar(Difco)上で1週間、37℃で培養し、約90 %の芽胞形成率を確認した。この菌を滅菌水3 mLに懸濁し、振とうしながら(160 rpm)、65℃で30分間加熱処理し栄養型を死滅させた。これを遠心分離(3000 rpm)した後、上清を捨て滅菌水3 mLを加え芽胞原液とした。この芽胞原液を1.1×109 cfu/mLになる様に調整し、以下の抗微生物活性評価に供した。
【0060】
上記調製芽胞液2 mLを、先に準備した各ブース内に暖房機を運転開始5分後に噴霧した。噴霧終了50分後にブース床面中央部にSCDLP寒天培地(日水製薬、25 mL/シャーレ)を置き、大気に暴露した。1時間後に回収し、37℃で48時間培養後にコロニーの形成を目視で観察した。更にこの操作を連続して毎日1回行なった。但し、試験開始前にフィルターの湿潤を保つために、約30mLの純水をフィルターに噴霧した。フィルターの殺菌効果が無くなり、コロニー発生が認められるようになるまでの期間(有効期間)を記録した。
【0061】
また、臭気の評価は、各空気清浄化用組成物試料を清浄な嗅覚の評価者5人がいずれも不快臭を認めない場合に「なし」と判定し、一人以上が不快臭を認めた場合に「不快臭あり」と判定した。
【0062】
試験結果
結果を表1に合わせて示した。
【表1】

【0063】
表1から明らかなように、組成物1〜5をそれぞれ使用した本発明の空気清浄用フィルターは、いずれも不快臭がなく、有効期間も4日以上と長く通常のマスク使用に支障がない。この点で、比較例である組成物6又は7を用いたマスクに対して顕著に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表されるペルオキシカルボン酸を含浸させたフィルター素材を有することを特徴とする空気清浄用フィルター。
一般式(I):
【化1】

(式中、R1は置換もしくは無置換のC1−C10のアルキル基(但し置換基としてOH基を有する置換基は除く)、又は置換もしくは無置換のC6−C10のアリール基を示し、Lは置換もしくは無置換のC2−C12の2価の連結基を示し、R1とLは結合して環を形成してもよい)。
【請求項2】
前記一般式(I)で表されるペルオキシカルボン酸に対応するカルボン酸と過酸化水素とを含浸させたフィルター素材を有することを特徴とする空気清浄用フィルター。
【請求項3】
前記フィルター素材が不織布であることを特徴とする上記1又は2に記載の空気清浄用フィルター。
【請求項4】
前記一般式(I)で表される化合物が一般式(II)又は(III)で表されるペルオキシカルボン酸であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の空気清浄用フィルター。
【化2】

(式中、R2、R3、R4、及びR5は各々独立に水素、C1−C4アルキル基、C1−C4のアルコキシ基又はC1−C4アルコキシ置換C1−C4アルキル基を示し、L2は単結合又はC1−C9の置換もしくは無置換のアルキレン基、又はC6−C9の置換もしくは無置換のアリーレン基を示し、L1は単結合又はC1−C10の置換もしくは無置換の2価の連結基を示す)
【請求項5】
一般式(I)で表されるペルオキシカルボン酸を含む水性組成物をフィルター素材に噴霧、塗布又は浸漬処理により含浸させたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の空気清浄用フィルター。
【請求項6】
前記一般式(I)で表されるペルオキシカルボン酸を含む水性組成物が、さらに腐食防止剤、pH調整剤、金属封鎖剤、安定化剤及び界面活性剤からなる群から選択される1種以上を含有することを特徴とする請求項5に記載の空気清浄用フィルター。
【請求項7】
一般式(I)で表されるペルオキシカルボン酸を含有する組成物がさらに過酸化水素水を含有することを特徴とする請求項5又は6に記載の空気清浄用フィルター。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載のペルオキシカルボン酸含有組成物と過酸化水素水から少なくとも構成されたことを特徴とする空気清浄用フィルター用処理剤セット。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれかに記載の空気清浄用フィルターを搭載したことを特徴とする空気清浄器。
【請求項10】
請求項8に記載の空気清浄用フィルター用処理剤セットを収納したことを特徴とする請求項9に記載の空気清浄器。
【請求項11】
空気清浄用フィルターがペルオキシカルボン酸含有組成物を含浸しており、過酸化水素水が該ペルオキシカルボン酸含有組成物に接触するように配されていることを特徴とする請求項9又は10に記載空気清浄器。
【請求項12】
空気清浄用フィルターと、該フィルターの下端部がペルオキシカルボン酸含有組成物に浸漬するように設けられた該組成物収納容器と、該組成物収納容器に過酸化水素水を供給する過酸化水素容器と、該組成物収納容器の液面を管理しつつ該過酸化水素容器に過酸化水素水を組成物収納容器に供給する供給機構とを有することを特徴とする請求項9〜11のいずれかに記載の空気清浄器。
【請求項13】
請求項9〜12のいずれかに記載の空気清浄器を搭載したことを特徴とする空調装置。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれかに記載の空気清浄用フィルターを内臓したことを特徴とするルームエアコン。

【公開番号】特開2007−260132(P2007−260132A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−88930(P2006−88930)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】