説明

空洞充填材

【課題】混練が容易で自己充填性を有し、ブリーディング率が小さい空洞充填材を提供する。
【解決手段】(A)石炭灰と、(B)セメントと、(C)水と、
(D)下記一般式(1)
R1O(AO)nR2 (1)
(ただし、式中、R1は炭素数2〜5のアルケニル基、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で10〜100、R2は炭素数1〜8の炭化水素基を表す)で示されるポリオキシアルキレン誘導体と無水マレイン酸を必須成分とする共重合体を含有する減水剤、を含有する空洞充填材。
更に、鉱物質微粉末(石灰石粉末、珪石粉末、高炉スラグ粉末、ドロマイト粉末等)や、細骨材を含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤や構造物中の空洞を充填して、地盤や構造物の固定化・安定化を図るための空洞充填材に関し、特に、混練が容易で自己充填性を有し、ブリーディング率が小さい空洞充填材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空洞充填材は、地盤や構造物等の空洞部の充填補強を目的とする用途、例えば、上下水道管、ガス管、電路管等を土中に設置した後の固定や、廃坑後の空洞の多い鉱山地盤を安定化させるため坑道等の充填に用いられている。かかる空洞充填材には、ブリーディング水の増加により充填部の上部に空洞が生じることを防止するために、ブリーディング率を小さくすることが求められる。
【0003】
ブリーディング率の小さい空洞充填材としては、セメント、フライアッシュ等の無機質系粉末、シラス、水で構成され、骨材にはシラスのみを使用した低強度モルタル充填材(例えば、特許文献1)や、水と、セメント等の水硬性粉体と、フライアッシュ等の助材と、アルミナ等の刺激材とを含有する水硬性スラリーと、スルホン基を有する芳香族化合物および/またはその塩[化合物(α)]とアルキルトリメチルアンモニウム塩[化合物(β)]とからなるスラリー改質剤とを含有してなる空隙充填材(例えば、特許文献2)、が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−2203
【特許文献2】特開2004−67453
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の低強度モルタル充填材では、充填材の硬化前のモルタルフローが180〜220mmと流動性が小さく、複雑な形状の箇所を充填する場合には、振動を加えて充填するなどの作業が必要になるという問題がある。
上記特許文献2の空隙充填材では、水と、水硬性粉体と、助材と、刺激材とをミキサーに投入し、攪拌して得られる水硬性スラリーに、化合物(α)または化合物(β)の一方の化合物を添加、混練した後に、化合物(α)または化合物(β)の他方の化合物を添加、混練する必要がある、又、前記水硬性スラリーに、化合物(α)または化合物(β)の一方の化合物の水溶液を添加してなる混合物であるA流体と、化合物(α)または化合物(β)の他方の化合物の水溶液であるB流体とを異なる搬送経路で搬送し、打設前にA流体とB流体とを混合して製造した空隙充填材を使用する必要があるので、空隙充填材の混練や搬送に手間がかかるという問題がある。
【0006】
本発明は、上記従来技術の問題点、知見に鑑みなされたものであって、その目的は、混練が容易で自己充填性を有し、ブリーディング率が小さい空洞充填材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、石炭灰と、セメントと、特定のポリオキシアルキレン誘導体と無水マレイン酸を必須成分とする共重合体を含有する減水剤とを含有する空洞充填材が、混練が容易で自己充填性を有し、ブリーディング率を小さくできることを見いだし、本発明を完成させたものである。
【0008】
即ち、本発明は、(A)石炭灰と、(B)セメントと、(C)水と、
(D)下記一般式(1)
R1O(AO)nR2 (1)
(ただし、式中、R1は炭素数2〜5のアルケニル基、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で10〜100、R2は炭素数1〜8の炭化水素基を表す)で示されるポリオキシアルキレン誘導体と無水マレイン酸を必須成分とする共重合体を含有する減水剤、を含有することを特徴とする空洞充填材である(請求項1)。
本発明においては、更に、鉱物質微粉末(請求項2)や、細骨材(請求項3)を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明の空洞充填材では、混練が容易であり、自己充填性を有するので打設作業が容易である。また、ブリーディング率が小さいので、充填部の上部に空洞が生じることを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の空洞充填材は、(A)石炭灰と、(B)セメントと、(C)水と、
(D)下記一般式(1)
R1O(AO)nR2 (1)
(ただし、式中、R1は炭素数2〜5のアルケニル基、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で10〜100、R2は炭素数1〜8の炭化水素基を表す)で示されるポリオキシアルキレン誘導体と無水マレイン酸を必須成分とする共重合体を含有する減水剤、を含有するものである。
石炭灰は、石炭火力発電所等から発生する灰であって、微粉炭燃焼によって生成され、燃焼ボイラの燃焼ガスから空気余熱器、節炭器などを通過する際に落下採取された石炭灰、集塵機で採取された石炭灰、および燃焼ボイラの炉底に落下した石炭灰のいずれも使用できる。特に、電気集塵器等で採取された粒径が小さく、球状の粒子の含有率の高い石炭灰あるいは分級して得られた石炭灰微粉を使用した場合は、空洞充填材のブリーディング率が小さく強度特性が良好となる。
【0011】
セメントは、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント等のポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント等の混合セメントや、エコセメント等を使用することができる。また、前記ポルトランドセメントに、シリカフュームや石灰石粉末等の混和材を添加したセメントも使用することができる。さらに、水硬率(H.M.)が1.8〜2.3、ケイ酸率(S.M.)が1.3〜2.3、鉄率(I.M.)が1.3〜2.8である焼成物の粉砕物と石膏を含むセメントも使用することができる。
セメントの量は、石炭灰100質量部に対し、1〜30質量部であることが好ましく、2〜25質量部であることがより好ましい。セメントの量が1質量部未満では、空洞充填材の強度発現性が低下するうえ、ブリーディング率も大きくなるので好ましくない。セメントの量が30質量部を越えると、流動性を高めるために水量が多くなりブリーディング率も大きくなるので好ましくない。また、流動性の経時変化も大きくなるので好ましくない。
【0012】
水は、水道水等を使用することができる。
水量は、全固形分100質量部に対して、22〜35質量部が好ましく、24〜33質量部がより好ましい。水量が全固形分100質量部に対して22質量部未満では、流動性が低くなり自己充填性を有することが困難になるため好ましくない。水量が全固形分100質量部に対して35質量部を超えると、ブリーディング率が大きくなるので好ましくない。
【0013】
減水剤は、一般式(1)
R1O(AO)nR2 (1)
で示されるポリオキシアルキレン誘導体と無水マレイン酸を必須成分とする共重合体を含有する減水剤を使用する。
一般式(1)において、R1は炭素数2〜5のアルケニル基であり、このようなアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、メタリル基、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、3-メチル-3-ブテニル基等を挙げることができる。
一般式(1)において、R2は炭素数1〜8の炭化水素基であり、このような炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、アミル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基などの飽和炭化水素基;シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基、トリル基、フェネチル基などの環状炭化水素基等を挙げることができる。
【0014】
一般式(1)において、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基であり、このようなオキシアルキレン基としては、例えば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基、オキシテトラメチレン基等を挙げることができる。本発明においては、オキシアルキレン基の50モル%以上がオキシエチレン基であることが好ましい。
一般式(1)において、nの値は10〜100であり、10〜50であることが好ましい。
【0015】
一般式(1)で示されるポリオキシアルキレン誘導体と無水マレイン酸との共重合体は、一般式(1)のポリオキシアルキレン誘導体と無水マレイン酸とを、過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤等を用いて、公知の方法によって共重合することにより得ることができる。その際、ベンゼン、トルエン、キシレン等の溶剤を用いることができる。本発明においては、共重合の際、スチレン、酢酸ビニル等の他の共重合可能な単量体を添加して得た共重合体も使用することができる。一般式(1)で示されるポリオキシアルキレン誘導体と無水マレイン酸との共重合のモル比は、3:7〜7:3が好ましく、特に約1:1であることが好ましい。
【0016】
減水剤量は、全固形分100質量部に対して、固形分換算で0.01〜0.5質量部が好ましく、0.02〜0.4質量部がより好ましい。減水剤量が全固形分100質量部に対して固形分換算で0.01質量部未満では、流動性を高めるために水量が多くなりブリーディング率も大きくなるので好ましくない。また、流動性の経時変化も大きくなるので好ましくない。減水剤量が全固形分100質量部に対して固形分換算で0.5質量部を越えても、配合量の増加に見合った効果の向上が得られないうえ、空洞充填材のコストが高くなるで好ましくない。
【0017】
本発明の空洞充填材は、更に、鉱物質微粉末や、細骨材を含有することが好ましい。鉱物質微粉末としては、例えば、石灰石粉末、珪石粉末、高炉スラグ粉末、ドロマイト粉末等が挙げられる。本発明の空洞充填材では、これらを含むことにより、ブリーディング率をさらに小さくすることができる。また、高炉スラグ粉末やドロマイト粉末を含むことにより、強度発現性を向上させることができる。
【0018】
本発明において、空洞充填材中の鉱物質微粉末や、細骨材の配合量は、該材料の種類により異なる。例えば、石灰石粉末や珪石粉末であれば、流動性やブリーディング率、強度発現性等から、石炭灰100質量部に対して、10〜300質量部であることが好ましく、20〜250質量部であることがより好ましい。高炉スラグ粉末やドロマイト粉末であれば、流動性やブリーディング率、強度発現性等から、石炭灰100質量部に対して、10〜150質量部であることが好ましく、20〜100質量部であることがより好ましい。細骨材であれは、流動性やブリーディング率、強度発現性等から、石炭灰100質量部に対して、10〜200質量部であることが好ましく、20〜150質量部であることがより好ましい。
【0019】
鉱物質微粉末の比表面積は、流動性やブリーディング率、強度発現性等から、ブレーン比表面積が2500〜10000cm2/gが好ましく、3000〜8000cm2/gがより好ましい。
細骨材としては、モルタル・コンクリート用の細骨材を使用することができる。
【0020】
空洞充填材の混練方法は、特に限定されるものではなく、原位置もしくは既設の混合プラントにて各材料を各々個別にミキサに投入し混練する方法、等を採用することができる。
混練に用いるミキサは、例えば、ホバートミキサ、パンタイプミキサ、二軸練りミキサ等が用いられる。既設の混合プラントにて混練する場合、打設場所へはアジテータ車により運搬すればよい。
空洞充填材の打設方法も特に限定されるものではなく、ピストン式やスクイズ式等のコンクリートポンプを用いる打設方法、アジテータ車より直接打設する方法等を採用することができる。
【0021】
本発明の空洞充填材では、日本道路公団規格JHS A 313「エアモルタル及びエアミルクの試験方法」において規定するシリンダー法によるフロー値(以下、単に「フロー値」という。)が250〜400mmであることが好ましい。該フロー値が250mm未満では流動性が低く、自己充填性を有することが困難となる。該フロー値が400mmを超えると、材料分離が生じることがあるため好ましくない。
また、本発明の空洞充填材では、ブリーディング率が2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましい。ブリーディング率が2.0%を越えると、充填部の上部に空洞が生じるおそれがある。なお、本発明において、ブリーディング率は、下記の方法により算出される値である。
ブリーディング率の算出方法:空洞充填材400cm3を、土木学会コンクリート標準示方書[規準編]JSCE-F 522に規定するポリエチレン袋に充填し、つるした状態で24時間静置後、浮水の容量を測定し、最初に充填した空洞充填材の容積に対する割合を算出してブリーディング率とする。
【実施例】
【0022】
以下、実施例により本発明を説明する。
1.使用材料
使用材料を以下に示す。
石炭灰A:石炭灰(比重2.10)
石炭灰B:石炭灰(比重2.20)
セメント:太平洋セメント(株)製普通ポルトランドセメント
水 :水道水
減水剤A:ポリオキシアルキレン誘導体(CH2=CHCH2O(C2H4O)33CH3)と無水マレイン酸と のモル比1:1の共重合体の水溶液
減水剤B:ポリオキシアルキレン誘導体(CH2=CHCH2O(C2H4O)33CH3)と無水マレイン酸と スチレンのモル比0.9:1.0:0.1の共重合体の水溶液
減水剤C:市販高性能AE減水剤(ポリカルボン酸エーテル化合物を主成分とする)
減水剤D:市販高性能AE減水剤(ポリカルボン酸系グラフトコポリマーを主成分とする)
減水剤E:市販高性能AE減水剤(末端スルホン基を有するポリカルボン酸基含有多元ポリ マーを主成分とする)
石灰石粉末:ブレーン比表面積4730cm2/gの石灰石粉末
高炉スラグ粉末:ブレーン比表面積4400cm2/gの高炉スラグ粉末
【0023】
2.配合および混練
上記各材料を表1に示す割合でホバートミキサに投入し、120秒間混練して空洞充填材を調製した。
【0024】
【表1】

【0025】
3.評価
以下の測定を行い、空洞充填材の性状を評価した。
(1)フロー値
日本道路公団規格JHS A 313「エアモルタル及びエアミルクの試験方法」に規定するコンシステンシー試験方法のうちのシリンダー法によって行った。すなわち、平板上に高さ80mm、内径80mmのシリンダーを置き、これに空洞充填材を充填後、シリンダーをゆっくり引き上げ、スラリーの広がりを測定してフロー値とした。
なお、測定は、混練直後と混練から1時間経過後に行った。
(2)ブリーディング率
空洞充填材400cm3を、土木学会コンクリート標準示方書[規準編]JSCE-F 522に規定するポリエチレン袋に充填し、つるした状態で24時間静置後、浮水の容量を測定し、最初に充填した空洞充填材の容積に対する割合を算出してブリーディング率とした。
(3)一軸圧縮強さ
高さ11cm、内径5cmの型枠に空洞充填材を入れ、型枠ごとビニール袋で封緘し、20℃で3日間養生した後、型枠から取り外し、高さ10cm、直径5cmの供試体を作成した。これを再びビニール袋で封緘し、20℃で7日および28日間養生して一軸圧縮強さを測定した。一軸圧縮試験は日本工業規格JIS A 1218「土の一軸圧縮試験方法」に準じて行った。
その結果を表2に併記する。
【0026】
【表2】

【0027】
表2より、本発明の空洞充填材では、流動性が高く、ブリーディング率が小さいことが分かる。
一方、本発明で規定する減水剤以外の減水剤を使用した空洞充填材では、流動性が低く、ブリーディング率も大きかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)石炭灰と、(B)セメントと、(C)水と、
(D)下記一般式(1)
R1O(AO)nR2 (1)
(ただし、式中、R1は炭素数2〜5のアルケニル基、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基、nはオキシアルキレン基の平均付加モル数で10〜100、R2は炭素数1〜8の炭化水素基を表す)で示されるポリオキシアルキレン誘導体と無水マレイン酸を必須成分とする共重合体を含有する減水剤、
を含有することを特徴とする空洞充填材。
【請求項2】
更に、鉱物質微粉末を含有する請求項1記載の空洞充填材。
【請求項3】
更に、細骨材を含有する請求項1又は2記載の空洞充填材。

【公開番号】特開2006−69855(P2006−69855A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−256394(P2004−256394)
【出願日】平成16年9月3日(2004.9.3)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】