説明

空洞形成剤

【課題】空洞形成剤を包餡した成形ベーカリー生地を焼成することにより得られるベーカリー食品において、空洞内にべたつきやネチャつきがなく、包餡した空洞形成剤がベーカリー食品から流れ出ることもなく、しかも新しい食感を有するベーカリー食品を提供すること。
【解決手段】油脂50〜80質量%と濃縮乳10〜45質量%を含有してなり、好ましくは乳化物である空洞形成剤、及び、ベーカリー生地で該空洞形成剤を包餡した成形ベーカリー生地を焼成してなるベーカリー食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー食品の内部に空洞を形成させるための空洞形成剤に関するものである。また、本発明は、該空洞形成剤を用いた成形ベーカリー生地、及び該成形ベーカリー生地を焼成してなるベーカリー食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クリームやフラワーペースト等のフィリングを、パン生地等のベーカリー生地で包餡し、焼成してなるベーカリー食品は広く知られている。このようなベーカリー食品においては、焼成後もクリームやフラワーペーストが流れ出たり、それらの保型性がなくなってしまわないように、焼き込み耐性、耐熱性を有するクリームやフラワーペーストが用いられてきた。
【0003】
特許文献1には、特定のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有し、液糖を5〜80重量%含有する油中水型乳化油脂組成物が記載されている。この特許文献1に記載の油中水型乳化油脂組成物は、耐熱保型性が良好なサンド・フィリングクリームであるが、この耐熱保型性は、焼成後の温かい食品にサンド・フィリング用として用いるのに適していることを意味している。この特許文献1に記載の油中水型乳化油脂組成物をベーカリー生地で包餡し、焼成した場合、得られるベーカリー食品は、油中水型乳化油脂組成物がベーカリー食品の底面部に浸透しすぎてしまい、ベーカリー生地で油中水型油脂組成物を包餡したときの閉口部分が焼成中に開いて、中身である油中水型乳化油脂組成物が流れ出てしまったり、焼成後に天板からベーカリー食品をはがす際に、天板にベーカリー食品が付着してしまう等の欠点を有するものであった。
【0004】
特許文献2には、澱粉、糖類、タマリンド種子ガムからなるペーストと油脂を混合、含気させてなることを特徴とする、空洞パンを製造する為のフィリングが開示されている。特許文献2に記載のフィリングは、焼成前に該フィリングをパン生地で包餡し、焼成することにより、フィリングがパン生地に染み込み、その結果、空洞を形成するものである。
また、特許文献3には、食用油脂10〜30重量%、多糖類2〜25重量%、食用乳化剤0.1〜5重量%、水40〜88重量%からなる組成物を用いることを特徴とする空洞形成剤が開示されている。特許文献3に記載の空洞形成剤をパン生地で包餡し、焼成することにより、空洞形成剤がパンの内部に被膜を形成した空洞パンを提供することができる。
【0005】
この特許文献2に記載のフィリングや特許文献3に記載の空洞形成剤は、澱粉やガム、多糖類を必須成分としているため、該フィリングや該空洞形成剤をパン生地で包餡し、焼成して得られたパンの空洞内には、澱粉やガム、多糖類が残り、パンがべたつきやネチャつきのある食感となってしまうという欠点があった。
また、これらのフィリングや空洞形成剤を用いると、澱粉やガム、多糖類といった特定の成分は空洞内に残るものの、それら以外の成分は焼成によりベーカリー生地に浸透するため、得られる空洞パンの空洞内部には、これらのフィリングや空洞形成剤は残存しない。つまり、得られる空洞パンは、パン生地に浸透せずに残存したフィリングや空洞形成剤の部分と、フィリングや空洞形成剤が浸透したパン底面部とを併せ持つものではなく、本発明のベーカリー食品のような新しい食感を有するものではない。
【0006】
【特許文献1】特開2004−121062号広報
【特許文献2】特許第3489097号公報
【特許文献3】特許第2753867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、空洞形成剤を包餡した成形ベーカリー生地を焼成することにより得られるベーカリー食品において、空洞内にべたつきやネチャつきがなく、包餡した空洞形成剤がベーカリー食品から流れ出ることのないベーカリー食品を提供することにある。本発明のさらなる目的は、空洞形成剤の一部をベーカリー生地に浸透させずにフィリングとして残存させて、該フィリングの滑らかな食感と、空洞形成剤が浸透した底面部生地のしっとりとした食感とを併せ持つ、新しい食感のベーカリー食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、油脂50〜80質量%及び濃縮乳10〜45質量%を含有してなる空洞形成剤を提供することにより、上記目的を達成したものである。
また、本発明は、ベーカリー生地で上記空洞形成剤を包餡してなる成形ベーカリー生地を提供することにより、上記目的を達成したものである。
また、本発明は、上記成形ベーカリー生地を焼成してなるベーカリー食品を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、空洞内にべたつきやネチャつきがなく、焼成中や焼成後に、空洞形成剤が流れ出てしまうことがないベーカリー食品を提供することが可能である。また、本発明によれば、ベーカリー生地に浸透せずにフィリングとして残存させた空洞形成剤部分の滑らかな食感と、空洞形成剤が浸透した底面部生地のしっとりとした食感とを併せ持つ、新しい食感のベーカリー食品を提供することができる。また、本発明のベーカリー食品は、空洞を有するため、焼成後に空洞部分に、例えばクリームやフラワーペースト等のフィリングをさらに注入することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明について、その好ましい実施形態に基づいて詳述する。
先ず、本発明の空洞形成剤について以下に詳述する。
本発明の空洞形成剤は、ベーカリー食品に用いられるもので、本発明の空洞形成剤をベーカリー生地で包餡して成形ベーカリー生地を作製し、該成形ベーカリー生地を焼成すると、得られるベーカリー食品において、本発明の空洞形成剤がベーカリー生地に浸透し、本発明の空洞形成剤が占めていた空間に空洞を形成することができる。また、本発明の空洞形成剤は、その一部をベーカリー生地に浸透させずに残存させることにより、フィリングとして食することもできる。
【0011】
本発明の空洞形成剤は、油脂を50〜80質量%、好ましくは50〜70質量%、さらに好ましくは55〜65質量%、最も好ましくは55〜60質量%含有する。油脂の含有量が50質量%よりも少ないと、空洞形成剤が軟らかく、ベーカリー生地で包餡しにくい。油脂が80質量%よりも多いと、ベーカリー生地で空洞形成剤を包餡したときの閉口部分が焼成中に開いて、中身である空洞形成剤が流れ出てしまったり、焼成後に天板からベーカリー食品をはがす際に、天板にベーカリー食品が付着してしまったり、さらには、得られるベーカリー食品において、浸透せずに残る空洞形成剤が少ないため、フィリングとしての滑らかな食感が得られない。
【0012】
上記の油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、落花生油、カポック油、胡麻油、月見草油、カカオ脂、シア脂、サル脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂及び動物油脂、並びに、これらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明の空洞形成剤では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。尚、本発明の空洞形成剤において、濃縮乳中に含まれる油脂分や、後述するその他の成分として使用し得る例えば乳製品等の食品に含まれる油脂分も、上記の油脂の含有量の中に含める。
【0013】
本発明の空洞形成剤は、濃縮乳を10〜45質量%、好ましくは15〜50質量%、さらに好ましくは20〜45質量%、最も好ましくは35〜45質量%含有する。濃縮乳の含有量が10質量%よりも少ないと、ベーカリー生地で空洞形成剤を包餡したときの閉口部分が焼成中に開いて、中身である空洞形成剤が流れ出てしまったり、焼成後に天板からベーカリー食品をはがす際に、天板にベーカリー食品が付着してしまったり、さらには、得られるベーカリー食品において、浸透せずに残る空洞形成剤が少ないため、フィリングの滑らかな食感が得られない。また、濃縮乳の含有量が45質量%よりも多いと、空洞形成剤が軟らかすぎてしまい、ベーカリー生地で空洞形成剤を包餡しにくくなる。
【0014】
上記の濃縮乳としては、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、全脂練乳が挙げられ、本発明の空洞形成剤では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いる。本発明の空洞形成剤では、上記の濃縮乳として加糖練乳を用いること好ましい。また、本発明の空洞形成剤では、水分含量が30質量%以下である濃縮乳を用いることが好ましい。
【0015】
本発明の空洞形成剤は、乳化物であることが好ましい。乳化状態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わないが、ベーカリー生地で包餡する際の硬さを調整し易い点等から、油中水型であるのが好ましい。
【0016】
本発明の空洞形成剤は、必要により甘味料を含有してもよい。
上記の甘味料としては、上白糖、グラニュー糖、粉糖、ブドウ糖、果糖、蔗糖、麦芽糖、乳糖、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、還元乳糖、還元水飴、ソルビトール、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、ステビア、アスパルテーム、はちみつ、メープルシロップ等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。本発明の空洞形成剤では、これらのうち、酵素糖化水飴、還元澱粉糖化物、異性化液糖、蔗糖結合水飴、還元水飴、はちみつ、メープルシロップを用いるのが好ましい。
本発明の空洞形成剤は、上記の甘味料を好ましくは0〜20質量%、さらに好ましくは0〜15質量%、一層好ましくは0〜10質量%、最も好ましくは0〜5質量%含有する。上記の甘味料を使用する場合は、その含有量は少なくとも2質量%とすることが好ましい。
【0017】
本発明の空洞形成剤は、必要により乳化剤を含有してもよい。
上記の乳化剤としては、例えば、モノグリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の天然乳化剤が挙げられる。本発明の空洞形成剤では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0018】
本発明の空洞形成剤において、上記の乳化剤としては、大豆レシチン、卵黄レシチン、モノグリセリン脂肪酸エステル及びポリグリセリン脂肪酸エステルの中から選ばれた1種又は2種以上を用いるのが好ましく、大豆レシチン及び/又は卵黄レシチンと、モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルとを用いるのがさらに好ましく、大豆レシチン及び/又は卵黄レシチンと、モノグリセリン脂肪酸エステルとを用いるのが最も好ましい。大豆レシチン及び/又は卵黄レシチンと、モノグリセリン脂肪酸エステル及び/又はポリグリセリン脂肪酸エステルとの使用比率(質量基準)は、5:1〜1:2とすることが好ましい。
本発明の空洞形成剤は、上記の乳化剤を好ましくは0〜2質量%、さらに好ましくは0〜1.5質量%、一層好ましくは0〜1質量%、最も好ましくは0〜0.5質量%含有する。上記の乳化剤を使用する場合は、その含有量は少なくとも0.2質量%とすることが好ましい。
【0019】
本発明の空洞形成剤は、必要により水道水や天然水等の水を含有してもよい。
上記の水の含有量は、特に制限はないが、本発明の空洞形成剤中、好ましくは0〜10質量%、さらに好ましくは0〜5質量%、最も好ましくは0〜1質量%である。
【0020】
本発明の空洞形成剤は、さらに必要によりその他の成分を含有することができる。
その他の成分としては、例えば、食塩、塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、β−カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白といった植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、上記の濃縮乳以外の乳製品、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、ココアマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0021】
また、本発明の空洞形成剤は、油分が好ましくは50〜80質量%、さらに好ましくは55〜70質量%、最も好ましくは55〜65質量%であり、水分が好ましくは5〜20質量%、さらに好ましくは5〜15質量%、最も好ましくは8〜13質量%である。
【0022】
本発明の空洞形成剤の好ましい製造方法について、以下に説明する。
まず、油脂に必要によりその他の成分を添加し、油相とする。また、濃縮乳に必要によりその他の成分を添加し、水相とする。該油相を加熱溶解し、該水相を加え、混合し、乳化物とする。上記の油相と水相との割合は、質量比率で、好ましくは50:50〜80:20、さらに好ましくは55:45〜70:30、最も好ましくは55:45〜65:35とする。
【0023】
次いで、上記の乳化物を殺菌処理するのが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続方式でも構わない。殺菌温度は、好ましくは70〜95℃、さらに好ましくは75〜95℃、最も好ましくは80〜95℃とする。その後、必要により油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行なう。予備冷却の温度は、好ましくは35〜60℃、さらに好ましくは40〜60℃、最も好ましくは45〜60℃とする。
【0024】
次いで、例えば連続式冷却捏和装置を用いて、上記の乳化物を冷却し、可塑化する。
上記の連続式冷却捏和装置は、乳化物の冷却を行う掻き取り式チューブラー冷却機(Aユニット)と捏和装置(Bユニット)からなる。Aユニットとしては、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター、ケムテーター等がある。Bユニットとしては、ピンマシン等がある。
次いで、必要により包装、エージングを行い、本発明の空洞形成剤を得る。
【0025】
本発明の空洞形成剤を製造する際のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させてもよいが、空洞形成剤が含気したものであると、ベーカリー生地で空洞形成剤を包餡するときに、包餡できる空洞形成剤の量が少なくなってしまうため、本発明では含気させない方が好ましい。
【0026】
次に、本発明の成形ベーカリー生地及び本発明のベーカリー食品について説明する。
本発明の成形ベーカリー生地は、ベーカリー生地で本発明の空洞形成剤を包餡してなるものである。上記のベーカリー生地としては、食パン、菓子パン、デニッシュ・ペストリー、パイ、シュー、ケーキ、クッキー、ハードビスケット、ワッフル、スコーン等の生地が挙げられる。これらの生地は、常法により製造することができる。
本発明の空洞形成剤を上記のベーカリー生地で包餡する方法としては、手作業でもよいし、包餡機等の機械を用いてもよい。
【0027】
上記のベーカリー生地と本発明の空洞形成剤との使用比率は、特に制限はないが、上記のベーカリー生地100質量部に対して、本発明の空洞形成剤を好ましくは20〜60質量部、さらに好ましくは25〜45質量部、最も好ましくは30〜35質量部の割合で使用する。上記のベーカリー生地100質量部に対して本発明の空洞形成剤が20質量部よりも少ないと、浸透せずに残存する本発明の空洞形成剤の量が少ないため、フィリングの滑らかな食感が得られにくい。上記のベーカリー生地100質量部に対して本発明の空洞形成剤が60質量部よりも多いと、包餡作業が困難となりやすく、焼成中に成形ベーカリー生地の閉口部分が開いて、中身である空洞形成剤が流れ出やすくなったり、焼成後に天板からベーカリー食品をはがす際に、天板にベーカリー食品が付着やすくなる。
【0028】
本発明の成形ベーカリー生地を焼成することにより、本発明のベーカリー食品を得ることができる。焼成は、ベーカリー食品の種類に応じて、常法により行なえばよいが、好ましくは包餡したときの閉口部分を下にして、ホイロをとり、オーブン等で焼成する。
【0029】
本発明のベーカリー食品は、焼成により、本発明の空洞形成剤が、ベーカリー食品の底面部を形成するベーカリー生地に浸透するため、内部に空洞を有している。本発明のベーカリー食品の空洞率は、好ましくは5〜50%、さらに好ましくは10〜40%、最も好ましくは15〜25%である。空洞部分には、ジャム、餡、チョコレート、チーズ、マヨネーズ、生クリーム、カスタードクリーム、ホイップクリーム、各種クリーム類、惣菜、ハム、ソーセージ、コロッケ、サラダ等を充填することが可能である。
【0030】
上記のベーカリー食品の空洞率の測定方法は、以下の通りである。
予め1リットルの菜種種子を準備し、ベーカリー食品を1リットルの升に入れて、その空隙に菜種種子を充填する。その際、残った菜種種子の体積を測定し、ベーカリー食品の体積とする。次に、ベーカリー食品の中央を切断し、空洞部分に菜種種子を充填し、充填された菜種種子の体積を測定して、空洞の容積とする。そして、空洞率(%)=(空洞の容積/ベーカリー食品の体積)×100の式にて、空洞率を求める。
【0031】
本発明のベーカリー食品は、ベーカリー生地に浸透せずにフィリングとして残存させた本発明の空洞形成剤の部分と、本発明の空洞形成剤が浸透した、ベーカリー食品底面部を形成するベーカリー生地部分とを有することが好ましい。
本発明のベーカリー食品において、浸透せずに残存した本発明の空洞形成剤の量は、焼成前の本発明の空洞形成剤のうちの10〜50質量%であることが好ましく、さらに好ましくは20〜50質量%、最も好ましくは30〜50質量%である。尚、残存した本発明の空洞形成剤の量は、焼成後12時間以降に測定した値とする。
【0032】
本発明のベーカリー食品において、本発明の空洞形成剤が浸透した、ベーカリー食品底面部を形成するベーカリー生地部分は、ベーカリー食品における底面部全体の好ましくは5〜60体積%、より好ましくは10〜50体積%、さらに好ましくは15〜40体積%、最も好ましくは20〜30体積%である。上記の「ベーカリー食品における底面部全体」は、ベーカリー食品内に形成された空洞部分に接している底面部分を指す。また、本発明の空洞形成剤が浸透した、ベーカリー食品底面部を形成するベーカリー生地部分の体積は、焼成後12時間以降に測定した値とする。
【実施例】
【0033】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例等によって制限されるものではない。
【0034】
(実施例1)
パーム硬部油12質量%、パーム油29質量%及び液状油18質量%を加熱溶解し、これにモノグリセリン脂肪酸エステル0.5質量%及びレシチン0.5質量%を加え、油相とした。この油相に、水相として加糖練乳30質量%及び還元水飴10質量%を加え、混合して、乳化物とした。得られた乳化物を90℃で殺菌し、50℃まで予備冷却をした。次いで、連続式冷却捏和装置を用いて乳化物を冷却、可塑化し、エージングをして、油中水型の空洞形成剤1を得た。得られた空洞形成剤1の油分は63質量%、水分は9質量%であった。
【0035】
(実施例2)
パーム硬部油12質量%、パーム油29質量%及び液状油18質量%を加熱溶解し、これにモノグリセリン脂肪酸エステル0.5質量%及びレシチン0.5質量%を加え、油相とした。この油相に、水相として加糖練乳35質量%及び還元水飴5質量%を加え、混合して、乳化物とした。得られた乳化物を90℃で殺菌し、50℃まで予備冷却をした。次いで、連続式冷却捏和装置を用いて乳化物を冷却、可塑化し、エージングをして、油中水型の空洞形成剤2を得た。得られた空洞形成剤2の油分は63質量%、水分は10質量%であった。
【0036】
(実施例3)
パーム硬部油12質量%、パーム油29質量%及び液状油18質量%を加熱溶解し、これにモノグリセリン脂肪酸エステル0.5質量%及びレシチン0.5質量%を加え、油相とした。この油相に、水相として加糖練乳40質量%を加え、混合して、乳化物とした。得られた乳化物を90℃で殺菌し、50℃まで予備冷却をした。次いで、連続式冷却捏和装置を用いて乳化物を冷却、可塑化し、エージングをして、油中水型の空洞形成剤3を得た。得られた空洞形成剤3の油分は63質量%、水分は10質量%であった。
【0037】
(比較例1)
パーム硬部油12質量%、パーム油29質量%及び液状油18質量%を加熱溶解し、これにモノグリセリン脂肪酸エステル0.5質量%及びレシチン0.5質量%を加え、油相とした。この油相に、水相として水飴40質量%を加え、混合して、乳化物とした。得られた乳化物を90℃で殺菌し、50℃まで予備冷却をした。次いで、連続式冷却捏和装置を用いて乳化物を冷却、可塑化し、エージングをして、油中水型の空洞形成剤4を得た。得られた空洞形成剤4の油分は60質量%、水分は6質量%であった。
【0038】
(比較例2)
比較例1で得られた空洞形成剤4をホイップし、比重0.7まで含気させて、油中水型の空洞形成剤5を得た。
【0039】
実施例1〜3及び比較例1〜2で得られた空洞形成剤をそれぞれ用い、以下の実施例4〜6及び比較例4〜5において、下記<ベーカリー生地(パン生地)の配合と製法>に従って、成形ベーカリー生地を製造し、ベーカリー食品を得た。
<ベーカリー生地(パン生地)の配合と製法>
(中種配合)
強力粉 70 質量部
イースト 3 質量部
イーストフード 0.1 質量部
上白糖 3 質量部
全卵 6 質量部
水 34 質量部
(中種工程)
ミキシング 低速2分、中速3分
捏上温度 26℃
発酵条件 28℃、2時間
【0040】
(本捏配合)
強力粉 30 質量部
食塩 1.2 質量部
上白糖 20 質量部
脱脂粉乳 2 質量部
全卵 6 質量部
練り込み用油脂 15 質量部
水 12 質量部
(本捏工程)
ミキシング 低速3分、中速4分、高速1分のミキシングを行い、練り込み用油脂を添加し、さらに低速2分、中速3分、高速1分のミキシングを行う。
捏上温度 28℃
フロアータイム 30分
分割 60g
ベンチタイム 30分
成形 包餡(空洞形成剤20g)
ホイロ条件 36℃、相対湿度75%、60分
焼成条件 190℃、15分
【0041】
(実施例4)
上記の配合と製法にて本捏工程のベンチタイムまで行った。その後、ベンチタイムを終えたベーカリー生地で空洞形成剤1を包餡し、成形ベーカリー生地1を得た。ベーカリー生地で空洞形成剤1を包餡するときの作業性は良好であった。次いで、成形ベーカリー生地1のホイロ、焼成を行い、ベーカリー食品1を得た。
得られたベーカリー食品1において、ベーカリー生地に浸透せずに残存した空洞形成剤1は7gであり、ベーカリー食品1の底面部全体において、空洞形成剤が浸透していたのは40体積%であった。
また、得られたベーカリー食品1は、浸透せずに残存した空洞形成剤部分の滑らかな食感と空洞形成剤が浸透した底面部のしっとり軟らかい食感とを有していた。また、得られたベーカリー食品1の空洞率は30%であった。
【0042】
(実施例5)
上記の配合と製法にて本捏工程のベンチタイムまで行った。その後、ベンチタイムを終えたベーカリー生地で空洞形成剤2を包餡し、成形ベーカリー生地2を得た。ベーカリー生地で空洞形成剤2を包餡するときの作業性は良好であった。次いで、成形ベーカリー生地2のホイロ、焼成を行い、ベーカリー食品2を得た。
得られたベーカリー食品2において、ベーカリー生地に浸透せずに残存した空洞形成剤2は9gであり、ベーカリー食品2の底面部全体において、空洞形成剤が浸透していたのは30体積%であった。
また、得られたベーカリー食品2は、浸透せずに残存した空洞形成剤部分の滑らかな食感と空洞形成剤が浸透した底面部のしっとり軟らかい食感とを有していた。また、得られたベーカリー食品2の空洞率は25%であった。
【0043】
(実施例6)
上記の配合と製法にて本捏工程のベンチタイムまで行った。その後、ベンチタイムを終えたベーカリー生地で空洞形成剤3を包餡し、成形ベーカリー生地3を得た。ベーカリー生地で空洞形成剤3を包餡するときの作業性は良好であった。次いで、成形ベーカリー生地3のホイロ、焼成を行い、ベーカリー食品3を得た。
得られたベーカリー食品3において、ベーカリー生地に浸透せずに残存した空洞形成剤3は10gであり、ベーカリー食品3の底面部全体において、空洞形成剤が浸透していたのは25体積%であった。
また、得られたベーカリー食品3は、浸透せずに残存した空洞形成剤部分の滑らかな食感と空洞形成剤が浸透した底面部のしっとり軟らかい食感とを有していた。また、得られたベーカリー食品3の空洞率は25%であった。
【0044】
(比較例3)
上記の配合と製法にて本捏工程のベンチタイムまで行った。その後、ベンチタイムを終えたベーカリー生地で空洞形成剤4を包餡し、成形ベーカリー生地4を得た。ベーカリー生地で空洞形成剤4を包餡するときの作業性は良好であった。次いで、成形ベーカリー生地4のホイロ、焼成を行い、ベーカリー食品4を得た。
得られたベーカリー食品4において、ベーカリー生地に浸透せずに残存した空洞形成剤4は3gであり、ベーカリー食品4の底面部全体において、空洞形成剤が浸透していたのは75体積%であった。ベーカリー食品4は、空洞形成剤が底面部に過度に浸透してしまったため、天板からはがす際に、天板に底面部の一部がくっついてしまい、底面部の一部がないベーカリー食品となってしまった。さらに、このベーカリー食品4は、ベタついており、手に持って食べる際に食べにくいものであった。また、得られたベーカリー食品4の空洞率は50%であった。
【0045】
(比較例4)
上記の配合と製法にて本捏工程のベンチタイムまで行った。その後、ベンチタイムを終えたベーカリー生地で空洞形成剤5を包餡し、成形ベーカリー生地5を得た。ベーカリー生地で空洞形成剤5を包餡する際、実施例1に比べて、ベーカリー生地に対する空洞形成剤の容積が大きいため、作業性が悪く、得られた成形ベーカリー生地5においては、ベーカリー生地の閉口部分から空洞形成剤がもれてしまっていた。次いで、成形ベーカリー生地5のホイロ、焼成を行い、ベーカリー食品5を得た。
得られたベーカリー食品5は、空洞形成剤5のほとんどが流れ出てしまい、商品価値がないものであった。
【0046】
本発明の空洞形成剤を用いたベーカリー食品1〜3(実施例4〜6)は、ベーカリー生地に浸透せずに残存した空洞形成剤部分のフィリングとしての滑らかな食感と、空洞形成剤が浸透した底面部のしっとりとした食感とを有し、今までにない新規な食感を有するベーカリー食品であった。また、実施例4〜6で得られたベーカリー食品1〜3は、適度な空洞部分を有するので、さらにクリームやフィリング等を注入することが可能であった。
一方、濃縮乳を含有しない空洞形成剤を用いたベーカリー食品4(比較例3)は、ベーカリー生地に浸透せずに残存した空洞形成剤部分が少ないため、フィリングとしての滑らかな食感が得られなかった。また、ベーカリー食品4は、底面部に浸透した空洞形成剤の量が多すぎるため、底面部の一部が天板についてしまい、底面部の一部がなく、しかもべたついて食べにくかった。また、濃縮乳を含有せず、含気させた空洞形成剤5を用いたベーカリー食品5(比較例4)は、空洞形成剤5のほとんどが流れ出てしまい、商品価値の無いものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂50〜80質量%及び濃縮乳10〜45質量%を含有してなる空洞形成剤。
【請求項2】
乳化物である請求項1記載の空洞形成剤。
【請求項3】
ベーカリー生地で請求項1又は2記載の空洞形成剤を包餡してなる成形ベーカリー生地。
【請求項4】
請求項3記載の成形ベーカリー生地を焼成してなるベーカリー食品。
【請求項5】
ベーカリー生地に浸透せずに残存した空洞形成剤部分と、空洞形成剤が浸透したベーカリー生地部分とを有する請求項4記載のベーカリー食品。

【公開番号】特開2009−17845(P2009−17845A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−184233(P2007−184233)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】