説明

空調システムにおける高効率熱搬送装置

【課題】負荷側空調機の低負荷時でも所定の温度差を確保して熱源側に冷温熱媒が戻ってくることにより、搬送動力の低減だけでなく、熱供給設備のシステムCOPも向上する。
【解決手段】冷温熱源機1を有する熱源部2と複数の空調系統を並列接続した負荷部4とを熱交換器5を介して接続し、前記熱源部2から熱交換器5を介して負荷部4の各空調系統に冷温熱媒を供給し、各空調系統の空調機から再び熱交換器5を介して熱源部2側に冷温熱媒が戻ってくる空調システムにおいて、各空調系統の空調機コイルの冷温熱媒の出口温度特性で分けた複数の返り配管11、12を設け、これらの各配管11、12を負荷側の返り温度差の大きな順に配管し、各返り配管11、12に夫々設けた各熱交換器5a、5bを直列に接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空調システムにおいて冷温水の往き・返り温度差の問題を解決することにより低負荷時でも所定の温度差を確保して熱源側に戻ることにより、搬送動力の低減だけでなく熱供給設備のシステムCOPも向上する高効率熱搬送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地域冷暖房への社会的な期待は、初期には公害防止、都市景観の向上、供給の信頼性などであったものから省資源・省エネルギーの推進、都市の防災、地球環境の保全へとより高く広範囲な公益性のあるものへと拡大してきた。これらの社会的な要請に呼応した新たなシステムとして河川水、下水等を利用した未利用エネルギーシステム、環境調和型エネルギーのコージェネレイションシステム及び電力負荷の平準化に寄与する蓄熱システム等様々な地域冷暖房システムが採り入れられてきている。
【0003】
地域冷暖房とは、一か所又は数か所の熱供給設備(地域冷暖房プラント)で集中的に製造された冷水、温水、蒸気等の熱媒を地域導管を用いて複数の需要家建物へ供給するシステムである。図15はその概念図を示す。また、熱容量の決定は最大負荷に対応するばかりでなく、年間の圧倒的に多い部分負荷(図16参照)に、いかに効率よく対応して運転できるかを考慮した熱源の設計が現在の最大の課題の一つとなっている。
【0004】
熱媒体の種類や供給温度は、需要家ニーズとして要求される温度レベルとプラント側のシステム設計条件とのバランスによって冷・温熱媒は定められるべきである。
【0005】
冷熱媒としては、一般に冷水が用いられている。初期の頃の熱供給施設では、冷水の送り温度として4〜6°Cの水温が用いられていたが、特に需要家で低温度を要求される用途がない限り、建物の冷房用の熱媒としては7°Cでも十分であり、熱源機器のCOP(Coefficient of Performance)も冷水温度が高いほど良く、最近では7°Cが良く用いられている。冷水の往き返りの温度差は、地域導管や需要家設備の配管の口径をなるべく小さくするためと、水搬送動力を低減するために、温度差を冷水の場合は6〜7°Cに、温水の場合は10〜15°Cにとっている例が多い。しかし、実態は図17に示すように、所定の温度差を確保できない場合が多く、冷熱源機の負荷率が低下し、結果、熱供給設備のシステムCOPは大きく低下している。
【0006】
この様に冷水の往き・返り温度差が確保できない要因は、以下のものである。第1の要因は、給気温度設定変更にある。変風量空調システムでは、設定室温に達していないVAVユニットが存在すると、設定室温を満足するように設定給気温度を冷水の場合は下限値まで、温水の場合は上限値まで変更する。この給気温度下限値(温水の場合は上限値)が空調機設計条件給気温度以下(温水の場合は以上)で設定されていると、目標値に達成するためにバルブを全開にすることとなり、水量が過剰となり、水温差が設計値以下となる。例えば、給気温度設定値をSA=15°C→11°Cに変更すると、冷水往き・返り温度差はΔt=10°C→5°Cとなる(図18参照)。空調機の吹き出し温度差拡大により空調側搬送動力は減少するが、反面、水側搬送動力は増加し、冷温熱源機の効率も低下してしまう。
【0007】
また、第2の要因として、冬期の冷房が常態化している。室内発熱条件の変化により、大規模建物を中心として冬期の冷房が常態化しつつある。そのため、在来の夏期条件で冷房設計、冬期条件で暖房設計という設計手法では想定されないような不具合が運転現場で発生している。その代表的なものが、冷水の往き・返り温度差の縮小である。これに関して、冬期条件で冷房を設計すると夏期の条件によるより大きいコイル列数が要求されるという事例も報告されている。例えば、夏期 室内26°CDB、50%RH/吹き出し空気15°CDB、95%RHから冬期 室内22°CDB、40%RH/吹き出し空気11°CDB、80%RHに変更すると夏期で決定されたコイル列6が冬期では8列必要となる。また、6列のまま冬期運転を行うと冷水の往き・返り温度差は、4°C程度縮小されてしまう。
【0008】
第3の要因としてはコイルの返り温度特性にあった空調システムがないことである。外気の変化や室内発熱の変化等によって各空調機の負荷が小さくなるにつれて、空調機コイルの冷水(温水)出口温度の特性が、次の二つの特性に大別できる。言い換えれば、空調機コイルは空調システム(使い方)によって、冷水(温水)往き返り「温度差が付く特性」と「温度差が付かない特性」を持っていることである。従来は、この特性の違いを把握せず、全ての空調システムの返りを一本の返り配管に一緒くたにして返してきた。
【0009】
空調機システムグループ1
負荷が小さくなるにつれて冷水(温水)返り温度が空調機の入口空気温度に近づいていく特性(温度差が付く特性)をもつ空調システム(図19及び図20参照)。
空調機システムグループ2
負荷が小さくなるにつれて冷水(温水)返り温度が空調機の出口空気温度に近づいていく特性(温度差が付かない特性)をもつ空調システム(図19及び図20参照)。
【0010】
この様な冷温水の返り温度差に対して考慮した熱搬送システムは構築されていないのが現状である。
【0011】
【特許文献1】特開平9−243140号公報
【特許文献2】特開平6―159741号公報
【特許文献3】特開平6−002891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、冷温水の往き・返り温度差が確保できない場合は以下の弊害がある。まず、搬送動力の増加、熱供給設備のシステムのCOPの低下である。空調機の冷温水制御弁は、室内(還気)あるいは給気の温度を設定値に保つようコントロールしている。冷温水返り温度は一般的にコントロールの対象では無いから、冷温水往き・返り温度差は変動する。冷温水往き・返り温度差が設計値未満になると冷温水の搬送動力の無駄が発生するだけでなく、冷温熱源機は「熱量負荷」でなく、「流量負荷」による台数制御となり、冷温熱源機の負荷率が低下し、結果、熱供給設備のシステムCOPは大きく低下する。
【0013】
また、返り温度制御による送水温度が上昇する。地域熱供給設備の需要家設備において、冷温水の往き・返り温度差が確保できないと、熱供給設備の熱源機器の運転効率は悪化し、熱供給設備の能力低下を招く。よって、冷水の場合は返り温度が熱供給規定の契約温度以上、温水の場合は契約温度以下になるように、需要家設備側において対策をとっている。それでも返り温度が契約温度を確保されない場合には、供給熱媒の流量を絞り、熱量の有効活用を促す操作を行う。よって、需要家設備の送水温度が冷水の場合は上昇し、温水の場合は下降するので、負荷の大きな空調機では、能力が不足してしまうことがある。また、需要家設備側の送水量も増加し、その結果、水側搬送動力は勿論、さらに変風量空調システムの場合は空気側の搬送動力も大きく増加する。
【0014】
そこで、この発明は、冷温熱源機から複数の空調系統に冷温熱媒を供給し、各空調系統の負荷側空調機から再び冷温熱源機に冷温熱媒が戻ってくる空調システムにおいて、負荷側空調機の低負荷時でも所定の温度差を確保して熱源側に冷温熱媒が戻ってくることにより、搬送動力の低減だけでなく熱供給設備のシステムCOPも向上する高効率熱搬送装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1の発明は、冷温熱源機を有する熱源部と複数の空調系統を並列接続した負荷部とを熱交換器を介して接続し、前記熱源部から熱交換器を介して負荷部の前記各空調系統に冷温熱媒を供給し、各空調系統の空調機から再び熱交換器を介して熱供給側に冷温熱媒が戻ってくる空調システムにおいて、各空調系統の空調機コイルの冷温熱媒の出口温度特性で分けた複数の返り配管を設け、これらの配管を負荷側の返り温度差の大きな順に配管し、これらの各返り配管に夫々設けた前記各熱交換器を直列に接続した高効率熱搬送装置とした。
【0016】
また、請求項2の発明は、前記請求項1の発明において、前記各空調系統の空調機コイルの冷温熱媒の出口温度を計測する温度計を設け、当該各温度計によって計測した出口温度特性によって、当該空調機の返り管の終端部を前記複数の返り配管に選択的に接続できる切り替手段を設けた、高効率熱搬送装置とした。
【0017】
また、請求項3の発明は、前記請求項1又は2の発明において、前記複数の空調系統に冷温水を送る配管を、各空調系統の求める温度によって複数に分けて設けた、高効率熱搬送装置とした。
【0018】
また、請求項4の発明は、前記請求項1、2又は3のいずれかの発明において、前記熱源部に、各空調系統の求める温度に対応する異なる温度の冷温水を供給できる複数の冷温熱源製造手段を、直列又は/及び並列に配置した、高効率熱搬送装置とした。
【発明の効果】
【0019】
請求項1の発明によれば、冷温熱媒の返り温度差を、低負荷時でも確保して熱源側に戻ってくる構成としたため、各空調システムの返り温度特性を把握することにより、より高効率な運転が可能である。また、複数の返り配管と、これらに対応する複数の熱交換器により、建物特性や運用特性の変化に対して、前記返り配管と熱交換器を増設することにより高効率を維持できる。また、年間を通じて所定の温度差以上を確保できることにより、冷温熱媒の搬送動力の無駄がなくなり、冷温熱源機は常に熱量負荷による台数制御となり、熱供給設備のシステムCOPが向上する。また、需要家設備側の返り温度制御による送水温度の、冷水の場合は上昇、温水の場合は、下降がないため、送水量の増加による水側搬送動力の増加や変風量空調システムの場合の空気側の搬送動力増加もない。
【0020】
また、大温度差高効率空調システムが可能となり、送水量は従来システムの1/2程度となり、配管サイズのダウン等のイニシャルコストの低減、空気側の搬送動力を増加させることもなく、水側の搬送動力を1/2〜1/8程度に削減することが可能となる。また、熱供給設備のシステムCOPの向上に大きく貢献する。また、冷温熱源機と空調機を持ったどのような施設でも有効なシステムである。特に、熱源棟を持ち、空調機までの配管が長い工場や、長い地域導管を備えた地域冷暖房施設に有効なシステムである。
【0021】
また、請求項2の発明によれば、建物用途の変更や負荷形態の変化により、「給気温度設定の変更」や「冬期の冷房が常態化」と同様の運転にせざるを得ない場合があるが、このような場合でも、切り替え手段によって、大温度差返り配管へでも小温度差返り配管へも切り替えることができる。
【0022】
また、請求項3の発明によれば、冷温水往き配管を低温と高温の2系統送水システムとしたので更なる熱供給設備のシステムCOPの向上を図ることができる。
【0023】
また、請求項4の発明によれば、例えば冷水の場合、高温側を処理する冷温熱源製造手段と低温側を処理する冷温熱源製造手段を直列又は/及び並列に配置することにより、大温度差(10°C以上)の冷熱供給システムが構築でき、冷温熱源製造手段の効率が大きく向上し(冷熱源機の特性:COPは冷水温度が高いほど良くなる)、搬送動力の低減だけでなく熱供給設備のシステムCOPも向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
この発明は、冷温熱源機を有する熱源部と複数の空調系統を並列接続した負荷部とを熱交換器を介して接続し、前記熱源部から熱交換器を介して負荷部の前記各空調系統に冷温熱媒を供給し、各空調系統の空調機から再び熱交換器を介して熱供給側に冷温熱媒が戻ってくる空調システムにおいて、各空調系統の空調機コイルの冷温熱媒の出口温度特性で分けた複数の返り配管を設け、これらの配管を負荷側の返り温度差の大きな順に配管し、これらの各返り配管に夫々設けた前記各熱交換器を直列に接続した高効率熱搬送装置とした。
【0025】
これにより、冷温熱媒の返り温度差を、低負荷時でも確保して熱源側に戻ってくる構成としたためより高効率な運転が可能である。
【実施例1】
【0026】
以下、この発明の実施例1を図に基づいて説明する。まず、この発明の構成を説明する前に、返り温度特性と2つの空調システムグループについて説明する。空調システムは、外気の変化や室内発熱の変化等によって各空調機の負荷が小さくなるにつれて、空調機コイルの冷水(温水)出口温度の特性が次の2つの特性に大別できる。
【0027】
空調システムグループ1
これは負荷が小さくなるにつれて冷水(温水)返り温度が空調機の入口空気温度に近づいていく特性をもつ空調システムであり、図4に示す定風量循環空調機システム、図5に示す定風量外気混合循環空調機システム、図6に示す変風量循環空調機システムがある。
【0028】
この空調機システム1は、図4〜6に示すように、還気温度あるいは室内温度が一定になるように空調機コイルの熱出力を調整することで熱負荷を処理している。この負荷が小さくなるにつれて空調機の出口空気温度が図7に示すように入口空気温度に近づいていく特性をもっており、冷水(温水)の返り温度も、100%負荷時は、所定の設計温度差を取った温度(コイル列数の余裕により、設計温度差以上となる場合もある)となり、負荷が小さくなるにつれて図19及び20に示すように温度差は大きくなっていき、入口空気温度に近づいていく。図8に実例を示す。
【0029】
空調システムグループ2
これは負荷が小さくなるにつれて冷水(温水)返り温度が空調機の出口空気温度に近づいていく特性をもつ空調システムであり、図9に示す、定風量外気処理空調機システム、図10に示す変風量外気処理空調機システムがある。
【0030】
この空調機システム2は、図9〜10に示すように、給気温度が一定になるように空調機コイルの熱出力を調整することで熱負荷を処理している。空調機の入口空気温度が図11に示すように出口空気温度に近づいていくことで負荷が小さくなっていく特徴を持っており、冷水(温水)の返り温度も、100%負荷時は、所定の設計温度差を取った温度(コイル列数の余裕により、設計温度差以上となる場合もある)となり、負荷が小さくなるにつれてコイル列数に余裕ができ、図19及び20に示すように、一旦、温度差は大きくなり(その度合いは、コイル列数の余裕と出口空気温度で異なる)、その後、出口空気温度に近づいていく。図12及び13に実例を示す。
【0031】
この様な返り温度特性の異なる空調システムの返り冷温熱媒を、従来は図14に示すように、1系統の配管で熱供給システムへ返送していたため、返り温度差が小さくなった時に対応する方法しかなかった。
【0032】
そこで、この発明では、図1に示すように、返り温度特性の異なるごとに返り配管を設け、前記空調システムグループ1の冷水(温水)の返りは「冷水返り温度高配管(温水の場合は、温水返り温度低配管)」(以下、大温度差返り配管という)へ接続し、前記空調システムグループ2の冷水(温水)の返りは「冷水返り温度低配管(温水の場合は、温水返り温度高配管)」(以下、小温度差返り配管という)へ接続する。
【0033】
また、建物用途の変更や負荷形態の変化により、「給気温度設定の変更」や「冬期の冷房が常態化」と同様の運転にせざるを得ない場合があるので、図1に示すように全ての空調システムの冷水(温水)の返りは、大温度差返り配管と小温度差返り配管の両方に接続しておき、夫々の配管に設置するバルブを切り替えて使用する。
【0034】
次に図1の構成について説明する。冷凍機1を有する熱源部2と複数の空調システムグループ3a、3bを並列接続した負荷部4とが熱交換器5で接続されている構成となっている。これにより、熱源部2と負荷部4は縁切りされている。
【0035】
前記熱源部2は2台の冷凍機1を直列に接続しており、1台は高温用冷凍機1a、他の1台は低温用冷凍機1bである。また、一次ポンプ6により冷凍機1からの冷水が前記熱交換器5を通り前記冷凍機1に戻るようになっている。また、この熱源部2には前記熱交換器5と並列に、バルブ7aを有するバイパス配管7が設けられ、さらに、熱交換器5bの手前にバルブ8が設けられている。
【0036】
また、負荷部4の各空調システムグループ3a、3bには、冷水供給管9を通して冷水が供給される。また、各空調システムグループ3a、3bを通過した冷水を戻す冷水返り管10が設けられている。なお、前記各空調システムグループ3a、3bの手前の各冷水供給管9にはバルブ9a、9bが夫々設けられている。
【0037】
また、各空調システムグループ3a又は3bは、前記空調シテムグループ1、2に相応し、空調システムグループ3aは、負荷が小さくなるにつれて冷水(温水)返り温度が空調機の入口空気温度に近づいていく特性をもつ空調機から構成されたもので、空調システムグループ3bは、負荷が小さくなるにつれて冷水(温水)返り温度が空調機の出口空気温度に近づいていく特性をもつ空調機から構成されたものである。
【0038】
また、前記各冷水返り管10の終端部には、各空調機コイルの冷水の出口温度特性で分けた複数の返り配管、すなわち、大温度差返り配管11、小温度差返り配管12が夫々接続されている。そしてこれらの大温度差返り配管11、小温度差返り配管12を返り温度差の大きな順に配管し、これらの各大温度差返り配管11、小温度差返り配管12の他端に設けた熱交換器5a、5bを直列に接続し、これらがさらに一次ヘッダ13に接続されている。また、前記冷水供給管9には、二次ポンプ14により、二次ヘッダ15を介して冷水が供給される。
【0039】
また、前述のように、2個の熱交換器5a、5bを用いて小温度差返り配管12は、大温度差用の熱交換器5aで熱交換された後の下流側配管に接続し、小温度差用の熱交換器5bの上流側配管に接続している。前記大温度差返り配管11は、最も上流の大温度差用の熱交換器5aの入口側に接続し、熱源部2側の返り温度を所定以上(温水の場合は所定以下)の温度とする。最も下流の小温度差用の熱交換器5bの出口側は、熱源部2側との熱交換により、所定温度に制御し、送水する。
図1のバルブ8は。熱源部2側との熱交換により、所定温度に制御する構成であるが、バルブ8をなくし、最も下流の小温度差用の熱交換器5bの出口側を一次ポンプ6のインバータで制御する場合もある。
【0040】
また、各冷水返り管10は、大温度差返り配管11及び小温度差返り管12の両方に接続されているが、各接続部手前の冷水返り管10各枝管にバルブ16を夫々設け、各冷水返り管10に設けた温度計によって計測した出口温度特性により、一方のバルブ16を閉めて、他方を開放し、大温度差返り配管11か又は小温度差返り配管12かに冷水を選択的に流す構成となっている。
【実施例2】
【0041】
この発明の実施例2は、図2に示すように、運用の特性等で、空調システムグループ3c及び中温度差返り配管17を設け、これに対応する熱交換器5cを設けたものである。他の構成は実施例1と同じである。この様に確実に温度差を確保するために、返り温度帯を綿密に計画し、数本乃至はそれ以上の数の返り配管を設けても良い。
【実施例3】
【0042】
また、この発明の実施例3は、実施例1に代えて、図3に示すように、前記冷水供給管9を低温用、中温用に分けたものである。そして、前記熱交換器5bと低水供給管9bを接続し、熱交換器5cと中温水供給管9cを接続し、夫々の空調システムグループ3a又は空調システムグループ3bに冷温熱媒を供給し、各出口温度によって大温度差返り配管11又は小温度差返り配管12に戻すように構成されている。他の構成は実施例1と同じである。この様に、冷水往き配管を低温(例えば6°C)と中温(例えば12°C)の2系統送水システムとすれば、更なる熱供給設備のシステムCOPの向上を図ることができる。
【0043】
前記実施例において、空調機のコイルの列数は、空気側の入口・出口温度と水側の入口・出口温度及び交換熱量によって算出される。冷水の場合、冷水入口温度は空気側出口温度より低温度が必要であり、冷水出口は、空気側入口温度以下となる。温水の場合は、温水入口温度は空気側出口温度より高温度が必要であり、温水出口は、空気側入口温度以上となる。この水側と空気側のそれぞれの温度差が大きい方がコイル列数は小さくなり、温度差が小さくなればなるほど、コイル列数は大きくなっていき、水側と空気側の夫々の温度が等しくなると無限大の列数が必要となる。
【0044】
また、コイル列数が大きくなると、空調機の空気側、水側の抵抗が増加し、空気・水搬送動力が増加してしまう。よって、往き温度と返り温度の設計は、建物の負荷特性や空調機システムの特性及び熱供給システムの特性を考慮し、十分な総合的検討が必要である。例えば、表1は、一般的仕様条件における冷水の温度差ごとの必要なコイル列数を算出したものである。表1より、冷水温度差が12〜13°C差のところでコイル列数は大きくなるので、最適温度差の一つの目安としては、12〜13°C差と言える。
【0045】
【表1】







【0046】
また、この発明のシステムを採用すると、従来システムの水側往き・返り温度差(5〜6°C差)の2倍程度(10〜13°C差)となり、配管サイズの減少等のイニシャルコストが削減されるだけでなく、空気側の搬送動力を増加させることもなく、水側の搬送動力を1/2〜1/8程度に削減することが可能となる。また、熱供給設備のシステムCOPの向上に大きく貢献する。
【0047】
一般的な冷熱供給システムにおいて、従来は低負荷時の温度差縮小の懸念もあったため、往き・返り温度差をあまり大きく出来なく(せいぜい7〜8°C差程度)、図14に示すような並列配置として、全ての冷凍機の冷水出口温度を低い温度にせざるを得なかった。しかし、冷水往き・返り温度差が年間を通じて確実に10°C以上取れれば、冷凍機の直列配置も可能となる。図1に示すように冷水の高温側(例えば17°C→11°C)を処理する冷凍機(高)1aと低温側(例えば11°C→5°C)を処理する冷凍機(低)1bを直列配置することにより、大温度差(10°C以上)冷熱供給システムが構築できる。冷凍機効率が大きく向上し(冷熱源機の特性:COPは冷水温度が高いほど良くなる)、搬送動力の低減だけでなく熱供給設備のシステムCOPも向上する。また、ポンプ台数の削減や配管サイズの縮小等によりイニシャルコストも削減される。
【0048】
なお、前記各実施例では冷水の高温側(例えば17°C→11°C)を処理する冷凍機(高)1aと低温側(例えば11°C→5°C)を処理する冷凍機(低)1bを直列配置しているが、この様に単純に冷凍機1aと冷凍機1bとを直列接続するものに限らず、1台の冷凍機に2台分の冷凍機能を具備するものや、その他、実質的に複数の冷温熱源製造手段を備えているものが含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】この発明の実施例1の概略構成図である。
【図2】この発明の実施例2の概略構成図である。
【図3】この発明の実施例3の概略構成図である。
【図4】この発明の実施例1〜3の空調システムグループ1の定風量循環空調機システムの概略構成図である。
【図5】この発明の実施例1〜3の空調システムグループ1の定風量外気混合循環空調機システムの概略構成図である。
【図6】この発明の実施例1〜3の空調システムグループ1の変風量循環空調機システムの概略構成図である。
【図7】この発明の実施例1〜3の空調システムグループ1の空気出口の動きを示すグラフ図である。
【図8】この発明の実施例1〜3の空調システムグループ1の冷水出口温度例を示すグラフ図である。
【図9】この発明の実施例1〜3の空調システムグループ2の定風量外気処理空調機システムの概略構成図である。
【図10】この発明の実施例1〜3の空調システムグループ2の変風量外気処理空調機システムの概略構成図である。
【図11】この発明の実施例1〜3の空調システムグループ2の空気出口の動きを示すグラフ図である。
【図12】この発明の実施例1〜3の空調システムグループ2の冷水出口温度例1を示すグラフ図である。
【図13】この発明の実施例1〜3の空調システムグループ2の冷水出口温度例2を示すグラフ図である。
【図14】従来例を示す概略構成図である。
【図15】地域冷暖房システムの概念図である。
【図16】年間における冷暖房の累積負荷曲線(関東地区の例)グラフ図である。
【図17】冷熱負荷率と冷水温度差を示すグラフ図である。
【図18】給気温度設定と冷水出口温度を示すグラフ図である。
【図19】空調機システムと冷水返り温度の特性を示すグラフ図である。
【図20】空調機システムと温水返り温度の特性を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0050】
1 冷凍機 2 熱源部
3a 空調システムグループ 3b 空調システムグループ
4 負荷部 5 熱交換器
6 一次ポンプ 7 バイパス配管
8 バルブ 9 冷温水供給管
10 冷温水返り管 11 大温度差返り配管
12 小温度差返り配管 13 一次ヘッダ
14 二次ポンプ 15 二次ヘッダ
16 バルブ 17 中温度差返り配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷温熱源機を有する熱源部と複数の空調系統を並列接続した負荷部とを熱交換器を介して接続し、前記熱源部から熱交換器を介して負荷部の前記各空調系統に冷温熱媒を供給し、各空調系統の空調機から再び熱交換器を介して熱供給側に冷温熱媒が戻ってくる空調システムにおいて、
各空調系統の空調機コイルの冷温熱媒の出口温度特性で分けた複数の返り配管を設け、これらの配管を負荷側の返り温度差の大きな順に配管し、これらの各返り配管に夫々設けた前記各熱交換器を直列に接続したことを特徴とする、高効率熱搬送装置。
【請求項2】
前記各空調系統の空調機コイルの冷温熱媒の出口温度を計測する温度計を設け、当該各温度計によって計測した出口温度特性によって、当該空調機の返り管の終端部を前記複数の返り配管に選択的に接続できる切り替手段を設けたことを特徴とする、請求項1に記載の高効率熱搬送装置。
【請求項3】
前記複数の空調系統に冷温水を送る配管を、各空調系統の求める温度によって複数に分けて設けたことを特徴とする、請求項1又は2に記載の高効率熱搬送装置。
【請求項4】
前記熱源部に、各空調系統の求める温度に対応する異なる温度の冷温水を供給できる複数の冷温熱源製造手段を、直列又は/及び並列に配置したことを特徴とする、請求項1、2又は3のいずれかに記載の高効率熱搬送装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate


【公開番号】特開2012−42162(P2012−42162A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−185606(P2010−185606)
【出願日】平成22年8月20日(2010.8.20)
【出願人】(000222956)東洋熱工業株式会社 (35)
【Fターム(参考)】