空調制御装置および方法
【課題】空調空間を目的の空調環境へ制御するための操作量を分布系流動解析手法で算出する場合でも良好な応答性を得る。
【解決手段】正規操作量算出部15Bで、空調空間50内の空調環境を分布系流動解析することにより、空調空間50を目的空調環境へ制御するための正規操作量を空調機器ごとに算出し、仮操作量算出部15Cで、空調空間50を目的空調環境へ近づけるための仮操作量を、正規操作量の算出処理と並行して、正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で空調機器ごとに算出し、空調指示部15Dで、仮操作量を用いた仮空調制御を開始し、この後に正規操作量が算出された時点で、正規操作量を用いた正規空調制御を開始する。
【解決手段】正規操作量算出部15Bで、空調空間50内の空調環境を分布系流動解析することにより、空調空間50を目的空調環境へ制御するための正規操作量を空調機器ごとに算出し、仮操作量算出部15Cで、空調空間50を目的空調環境へ近づけるための仮操作量を、正規操作量の算出処理と並行して、正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で空調機器ごとに算出し、空調指示部15Dで、仮操作量を用いた仮空調制御を開始し、この後に正規操作量が算出された時点で、正規操作量を用いた正規空調制御を開始する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調制御技術に関し、特に空間内の目的場所における空調環境を制御するための空調制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
空間内を所望の空調環境に維持する場合、空気調和すべき空調空間に空調機器を設けるとともに、当該空調エリアを代表する位置に温度センサや湿度センサなどを配置し、温度センサや湿度センサなどの出力に応じて空調機器から供給される調和空気の風量・風向・温度・湿度などの操作量を決定するものとなっている。
また、オフィスなどの大空間の場合、例えば大空間を区分して設けた空調エリアごとに、シングルループのフィードバック制御系を複数構成する形態が考えられる。
【0003】
しかしながら、例えばオフィスでは、熱源となる人・照明・電気機器などの配置や、空気の流れの障害となる机、椅子、間仕切りなどの配置については作業効率が優先されており、このような室内レイアウトが空調制御を優先して設計されることはない。このため、空調機器の吹出口と温度センサの位置関係は、いわゆる温度干渉が強くならざるを得なくなる。
【0004】
したがって、シングルループのフィードバック制御系を複数構成する形態では、このような温度干渉により操作量が安定しにくくなり、良好な制御が困難になる。例えば、所望の空調環境に移行させる際に温度変化幅が大きいと、制御状態にばらつきが生じ、全系的な安定状態を各フィードバック制御系が個別に探索するようなちぐはぐな動作になるため、操作量が安定しなくなる。
【0005】
これに対して、従来、分布系熱流動解析手法を用いて、空間内の目的場所における空調環境を制御する空調制御技術が提案されている(例えば、非特許文献1など参照)。この技術は、対象となる空調空間における初期の空調状況を順解析することにより、当該空調空間の温度および気流の分布を示す分布データを推定し、この分布データと目的場所における目標温度とを逆解析することにより、空調制御に関する新たな操作量を推定し、この新たな操作量に基づいて、空調空間に設置されている各空調機器の吹出口における吹出速度や吹出温度を算出するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4016066号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】原山和也・本田光弘・綛田長生原、「分布系シミュレーションを用いた室内任意空間の温熱環境制御技術の開発」、平成22年度大会、I−20、社団法人空気調和・衛生工学会、平成22年9月1日
【非特許文献2】加藤信介・小林光・村上周三、「不完全混合室内における換気効率・温熱環境形成効率評価指標に関する研究 第2報-CFDに基づく局所領域の温熱環境形成寄与率評価指標の開発」、東大生研:空気調和・衛生工学論文集No.69、pp.39-47、1998.4
【非特許文献3】安部恒平、桃瀬一成、木本日出夫、「随伴数値解析を利用した自然対流場の最適化」、日本機械学会論文集(B編)、70巻691号、pp.729-736、2004.3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来技術では、分布系熱流動解析手法の逆解析を用いているため、温度分布などの目的とする空調環境を得るための新たな操作量を算出するには、複雑な演算処理を繰り返す必要がある。一方、一般的な空調制御システムでは、既存の空調制御に要する処理負担が比較的小さいことから、コスト面を考慮して汎用的なCPUが用いられている。このため、このようなCPUで複雑な演算処理を繰り返した場合、新たな操作量を算出するのに要する処理時間が増大してしまい、結果として、空調制御において良好な応答性が得られないという問題点があった。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、空調空間を目的の空調環境へ制御するための操作量を分布系流動解析手法で算出する場合でも、良好な応答性が得られる空調制御技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明にかかる空調制御装置は、空調空間に設けられた空調機器を制御する空調システムに対して、空調機器での操作量を指示することにより、空調空間を任意の目的空調環境へ制御する空調制御装置であって、空調空間の構成および空調空間内の空調環境への影響を示す条件データと、目的空調環境下における空調空間内の目的場所での目標値を示す目的データとに基づいて、空調空間内の空調環境を分布系流動解析することにより、空調空間を目的空調環境へ制御するための正規操作量を、空調機器ごとに算出する正規操作量算出部と、空調空間を目的空調環境へ近づけるための仮操作量を、正規操作量の算出処理と並行して、正規操作量算出部での正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で、空調機器ごとに算出する仮操作量算出部と、仮操作量算出部で算出した仮操作量を空調システムへ指示することにより空調空間に対する仮空調制御を開始し、この後に正規操作量算出部で正規操作量が算出された時点で、正規操作量を空調システムへ指示することにより空調空間に対する正規空調制御を開始する空調指示部とを備えている。
【0011】
この際、仮操作量算出部で、予め設定された制御特性に基づいて、目的空調環境に応じて予め設定された設定値と空調空間で計測した計測値との偏差に応じた操作量を仮操作量として算出するようにしてもよい。
【0012】
また、仮操作量算出部で、空調空間における人の存在を確認する存在確認システムから取得した確認結果に基づいて、空調空間に設けたゾーンごとに人の存在有無を確認し、空調機器のうち人が存在しないゾーンと対応する空調機器の仮操作量として、予め設定した最低操作量を選択するようにしてもよい。
【0013】
また、空調空間における任意の空調環境を示す環境条件データと、分布系流動解析で予め算出した、当該空調環境から空調空間を目的空調環境へ導くための操作量とが組として複数登録されている操作量データベースをさらに備え、仮操作量算出部で、仮操作量の算出時における空調空間の空調環境を示す環境条件データに基づいて操作量データベースを類似検索し、得られた操作量を仮操作量として選択するようにしてもよい。
【0014】
また、仮操作量算出部で、正規操作量算出部における正規操作量の算出処理より低い算出精度で、条件データと目的データとに基づく分布系流動解析を行うことにより、仮操作量を算出するようにしてもよい。
【0015】
また、仮操作量算出部で、正規操作量算出部における正規操作量の算出処理の途中で得られる操作量を、仮操作量として算出するようにしてもよい。
【0016】
また、本発明にかかる空調制御方法は、空調空間に設けられた空調機器を制御する空調システムに対して、空調機器での操作量を指示することにより、空調空間を任意の目的空調環境へ制御する空調制御装置で用いる空調制御方法であって、正規操作量算出部が、空調空間の構成および空調空間内の空調環境への影響を示す条件データと、目的空調環境下における空調空間内の目的場所での目標値を示す目的データとに基づいて、空調空間内の空調環境を分布系流動解析することにより、空調空間を目的空調環境へ制御するための正規操作量を、空調機器ごとに算出する正規操作量算出ステップと、仮操作量算出部が、空調空間を目的空調環境へ近づけるための仮操作量を、正規操作量の算出処理と並行して、正規操作量算出部での正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で、空調機器ごとに算出する仮操作量算出ステップと、空調指示部が、仮操作量算出ステップで算出した仮操作量を空調システムへ指示することにより空調空間に対する仮空調制御を開始し、この後に正規操作量算出ステップで正規操作量が算出された時点で、正規操作量を空調システムへ指示することにより空調空間に対する正規空調制御を開始する空調指示ステップとを備えている。
【0017】
この際、仮操作量算出ステップで、予め設定された制御特性に基づいて、目的空調環境に応じて予め設定された設定値と空調空間で計測した計測値との偏差に応じた操作量を仮操作量として算出するようにしてもよい。
【0018】
また、仮操作量算出ステップで、空調空間における人の存在を確認する存在確認システムから取得した確認結果に基づいて、空調空間に設けたゾーンごとに人の存在有無を確認し、空調機器のうち人が存在しないゾーンと対応する空調機器の仮操作量として、予め設定した最低操作量を選択するようにしてもよい。
【0019】
また、空調空間における任意の空調環境を示す環境条件データと、分布系流動解析で予め算出した、当該空調環境から空調空間を目的空調環境へ導くための操作量とが組として複数登録されている操作量データベースをさらに備え、仮操作量算出ステップで、仮操作量の算出時における空調空間の空調環境を示す環境条件データに基づいて、操作量データベースを類似検索し、得られた操作量を仮操作量として選択するようにしてもよい。
【0020】
また、仮操作量算出ステップで、正規操作量算出ステップにおける正規操作量の算出処理より低い算出精度で、条件データと目的データとに基づく分布系流動解析を行うことにより、仮操作量を算出するようにしてもよい。
【0021】
また、仮操作量算出ステップで、正規操作量算出ステップにおける正規操作量の算出処理の途中で得られる操作量を、仮操作量として算出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、正規操作量が算出されて正規空調制御が開始される前に、仮操作量を用いた仮空調制御が開始されるため、正規空調制御が開始される時点で、空調空間を目的とする空調環境へ近づけることができ、正規空調制御の開始から空調空間が目的空調環境となるまでの所要時間が短縮される。
このため、空調制御開始から空調空間が目的空調環境となるまでの全体の到達時間を短縮することができる。したがって、空調空間を目的の空調環境へ制御するための操作量を分布系流動解析手法で算出する場合でも、良好な応答性を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施の形態にかかる空調制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施の形態にかかる空調空間の構成例を示す説明図である。
【図3】空調制御装置での空調制御動作を示すフロー図である
【図4】第1の実施の形態にかかる空調制御処理を示すフローチャートである。
【図5】第1の実施の形態にかかる空調制御装置での空調制御の推移を示す説明図である。
【図6】第2の実施の形態にかかる空調制御装置の構成を示すブロック図である。
【図7】第2の実施の形態にかかる空調空間の構成例を示す説明図である。
【図8】第2の実施の形態にかかる空調制御装置での空調制御動作を示すフロー図である。
【図9】第3の実施の形態にかかる空調制御装置の構成を示すブロック図である。
【図10】第3の実施の形態にかかる空調制御装置での空調制御動作を示すフロー図である。
【図11】操作量データベースの構成例である。
【図12】空調空間のゾーン分割例である。
【図13】操作量データベースを構成する環境条件データの構成例である。
【図14】操作量データベースを構成する操作量データの構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
まず、図1および図2を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかる空調制御装置について説明する。図1は、第1の実施の形態にかかる空調制御装置の構成を示すブロック図である。図2は、第1の実施の形態にかかる空調空間の構成例を示す説明図である。
【0025】
この空調制御装置10は、全体として、パーソナルコンピュータやサーバ装置などの情報処理装置からなり、空調システム20を制御することにより、空調空間50の目的場所Xにおける空調環境を制御する機能を有している。
【0026】
空調システム20には、主な構成として、空調処理装置21、空調機器22、および温度センサ23が設けられている。
空調処理装置21は、全体として、パーソナルコンピュータやサーバ装置などの情報処理装置からなり、通信回線Lを介して空調制御装置10から指示された操作量に基づいて、空調機器22により各吹出口から空調空間50へ吹き出す調和空気を制御することにより、空調空間50全体の空調環境を制御する機能と、温度センサ23により空調空間50内の温度を計測し、通信回線Lを介して空調制御装置10へ通知する機能とを有している。
【0027】
図2の例では、空調空間50がゾーンZ1〜Z4の4つのゾーンに区分されている。これらゾーンZ1〜Z4には、空調機器22としてVAV1〜VAV4がそれぞれのゾーンZ1〜Z4の天井に設けた吹出口F1〜F4にそれぞれ設置されているとともに、温度センサ23としてTH1〜TH4がそのゾーンの壁にそれぞれ設置されている。これらゾーンZ1〜Z4は、壁により空間として明確に区分されているわけではなく、それぞれのVAV1〜VAV4から吹き出された調和空気が互いに対流しうる状況にある。
【0028】
VAV1〜VAV4は、空調処理装置21を介して空調制御装置10から指示された、吹出風量Vm1〜Vm4などの操作量に基づいて、空調機(図示せず)から供給された調和空気を調整し、各吹出口F1〜F4からそれぞれに対応するゾーンZ1〜Z4へ吹き出す機能を有している。
TH1〜TH4は、それぞれに対応するゾーンZ1〜Z4内の室温Tp1〜Tp4を計測し、空調処理装置21へ通知する機能を有している。
【0029】
[発明の原理]
温度分布と空調空間50内の目的場所における目標温度とから新たに生成した設定温度分布をCFD逆解析すれば、空調機器22ごとに、空調空間50を目的の空調環境とするための操作量をそれぞれ推定できる。
ここで、空調空間50内の各ポイントにおいて、目的空調環境下における当該ポイントに関する設定値と、解析処理途中で得られた当該ポイントに関する算出設定値との偏差が最も小さくなるよう、操作量の選択および修正を繰り返し実行する。このため、空調空間50を目的空調環境へ導くための真の操作量との誤差が小さくて高い精度の操作量を算出するには、膨大な演算処理が必要となる。
【0030】
一方、一般的な空調制御システムでは、既存の空調制御に要する処理負担が比較的小さいことから、空調制御用のコントローラにおいては、コスト面を考慮して汎用的なCPUが用いられている。このため、このようなCPUで複雑な演算処理を繰り返した場合、新たな操作量を算出するのに要する処理時間が増大してしまい、結果として、空調制御において良好な応答性が得られないという問題点が生じる。
【0031】
ここで、空調制御では、空調空間50を目標の設定温度分布に導くための空調制御を開始してからしばらくの期間においては、設定温度分布と実際の温度分布との間の乖離が大きく、また空調空間50自体の熱容量も大きい。このため、空調制御に用いる操作量に誤差が含まれていても、実際の温度分布の推移にはあまり影響しない。
また、空調空間50を設定温度分布へ導くための真の操作量に対して、ある程度の誤差が許容される場合には、CFD逆解析による正規操作量の算出所要時間より短い時間で、空調空間50を設定温度分布へ近づけるための仮操作量を算出することも可能である。
【0032】
本発明では、このような、空調制御の開始当初においては操作量に対する許容誤差が大きいことに着目し、空調制御の開始当初は、CFD逆解析による正規操作量の算出所要時間より短い時間で仮操作量を算出して、この仮操作量を用いた仮空調制御を開始し、CFD逆解析により誤差の小さい正規操作量が算出された時点で、この正規操作量を用いた正規空調制御へ切り替えるようにしたものである。
【0033】
すなわち、本実施の形態にかかる空調制御装置10は、空調空間50の空調環境をCFD逆解析することにより、空調空間50を目的空調環境へ制御するための正規操作量を空調機器ごとに算出し、空調空間50を目的空調環境へ近づけるための仮操作量を、正規操作量の算出処理と並行して、正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で空調機器ごとに算出し、仮操作量を空調システム20へ指示することにより空調空間50に対する仮空調制御を開始し、この後に正規操作量が算出された時点で、正規操作量を空調システム20へ指示することにより空調空間50に対する正規空調制御を開始するようにしたものである。
【0034】
[空調制御装置]
次に、図1および図3を参照して、本実施の形態にかかる空調制御装置10の構成について詳細に説明する。図3は、空調制御装置での空調制御動作を示すフロー図である。
この空調制御装置10には、主な機能部として、通信インターフェース部(以下、通信I/F部という)11、操作入力部12、画面表示部13、記憶部14、および演算処理部15が設けられている。
【0035】
通信I/F部11は、専用のデータ通信回路からなり、通信回線Lを介して接続された空調システムなどの外部装置との間でデータ通信を行う機能を有している。
操作入力部12は、キーボードやマウスなどの操作入力装置からなり、オペレータの操作を検出して演算処理部15へ出力する機能を有している。
画面表示部13は、LCDやPDPなどの画面表示装置からなり、演算処理部15からの指示に応じて、操作メニューや入出力データなどの各種情報を画面表示する機能を有している。
【0036】
記憶部14は、ハードディスクや半導体メモリなどの記憶装置からなり、演算処理部15で用いる各種処理情報やプログラム14Pを記憶する機能を有している。
プログラム14Pは、演算処理部15に読み出されて実行されるプログラムであり、予め外部装置や記録媒体から通信I/F部11を介して記憶部14へ格納される。
【0037】
演算処理部15は、CPUなどのマイクロプロセッサとその周辺回路を有し、記憶部14からプログラム14Pを読み込んで実行することにより、各種処理部を実現する機能を有している。
演算処理部15で実現される主な処理部として、データ入力部15A、正規操作量算出部15B、仮操作量算出部15C、および空調指示部15Dがある。
【0038】
データ入力部15Aは、空調システム20などの外部装置や記録媒体から通信I/F部11を介して入力された、演算処理部15で用いる各種処理情報を、記憶部14へ予め格納する機能を有している。
【0039】
正規操作量算出部15Bは、データ入力部15Aで取得した境界条件データ14Aと設定条件データ14BとをCFD順解析することにより、空調空間50全体の温度分布などの空調環境を推定する機能と、CFD順解析で得られた空調環境とデータ入力部15Aで取得した目的データ14CとをCFD逆解析することにより、空調空間50を目的空調環境へ制御するための正規操作量を空調機器ごとに算出し、正規操作量データ14Dとして出力する機能とを有している。
【0040】
分布系流動解析手法とは、CFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)を基本として、境界条件から空間の温度や気流等の分布を数値計算によって求める技術である。一般的なCFDでは、対象空間を網目状の小空間に分割し、隣接する小空間間における熱流を解析する。
【0041】
正規操作量算出部15BにおけるCFD順解析は、この分布系流動解析手法を用いて、空調空間50に関する境界条件データ14Aおよび設定条件データ14Bから、空調空間50内の温度分布や気流分布などの空調環境を算出する技術であり、具体的には非特許文献2などの公知技術を用いればよい。
一方、正規操作量算出部15BにおけるCFD逆解析は、CFD順解析を行うことにより、所望の空調環境を実現したい場所に対する設備の感度(または寄与)を求め、この感度の大きさによって操作量を調整することにより、目的の空調環境を実現するための最終的な操作量を算出する技術であり、具体的には非特許文献2や非特許文献3などの公知技術を用いればよい。
【0042】
境界条件データ14Aは、空調空間50の空調環境に対する影響度を示すデータであり、空調空間50の空調環境に与える影響が変化する構成要素ごとに、当該時点における境界条件として、風速、風向・温度で示される影響度が登録されている。この境界条件データ14Aには、データ入力部15Aにより空調システム20から取得した、各空調機器22から吹き出す調和空気の吹出風量や吹出温度など、空調システム20における調和空気の制御状況を示すデータも含まれている。
【0043】
設定条件データ14Bは、空調空間50に関する位置および形状や、空調システム20で生成された調和空気の吹出口など、空調空間50の空調環境に影響を与える構成要素に関する位置および形状を示す空間条件データ、空調空間50に配置された各発熱体に関する配置位置および発熱量、さらには形状を示す発熱体データなど、熱流動解析処理を行う際の設定条件となる各種データが含まれている。
【0044】
目的データ14Cは、空調空間50内の目的場所Xにおける目標温度Txsを示すデータである。
正規操作量データ14Dは、空調空間50を目的空調環境へ制御するための、空調機器ごとの正規操作量を示すデータである。
【0045】
仮操作量算出部15Cは、空調空間50を目的とする空調環境へ近づけるための仮操作量を、正規操作量算出部15Bでの正規操作量の推定処理と並行して、正規操作量算出部15Bでの正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で空調機器ごとに算出し、仮操作量データ14Gとして出力する機能を有しいてる。
【0046】
本実施の形態では、仮操作量算出部15Cは、空調機器ごとに仮操作量を算出する際の具体的方法として、予め設定された制御特性に基づいて、データ入力部15Aで取得した設定温度データ14Eとデータ入力部15Aにより空調システム20から取得した計測温度データ14Fとの偏差に応じた操作量を算出する場合について説明する。
【0047】
設定温度データ14Eは、空調空間50を目的空調環境へ制御するための設定温度である。
計測温度データ14Fは、空調空間50内の各温度計で計測した室温を示すデータである。
仮操作量データ14Gは、空調空間50を目的空調環境へ制御するための、空調機器ごとの仮操作量を示すデータである。
【0048】
空調指示部15Dは、仮操作量算出部15Cで推定した仮操作量を、通信I/F部11を介して空調システム20へ指示することにより、空調空間50に対する仮空調制御を開始する機能と、仮空調制御を開始した後に正規操作量算出部15Bで正規操作量が得られた時点で、仮操作量に代えて正規操作量を、通信I/F部11を介して空調システム20へ指示することにより、空調空間50に対する正規空調制御を開始する機能とを有している。
【0049】
[第1の実施の形態の動作]
次に、図4を参照して、本実施の形態にかかる空調制御装置10の動作について説明する。図4は、第1の実施の形態にかかる空調制御処理を示すフローチャートである。
空調制御装置10の演算処理部15は、起動時あるいはオペレータ操作に応じて、図4の空調制御処理を開始する。なお、空調制御処理の実行開始に先立って、境界条件データ14Aや設定条件データ14Bが予め記憶部14に格納されているものとする。
【0050】
まず、正規操作量算出部15Bは、データ入力部15Aで取得した境界条件データ14Aと設定条件データ14Bとを記憶部14から読み出してCFD順解析することにより、空調空間50全体の空調環境を推定する(ステップ100)。
【0051】
次に、正規操作量算出部15Bは、CFD順解析で推定した空調環境と、空調空間50内の目的場所Xにおける目標温度Txsを示す目的データ14CとをCFD逆解析することにより、各空調機器に関する、空調空間50を目的空調環境へ制御するための正規操作量Vssの算出処理を開始する(ステップ101)。
【0052】
また、仮操作量算出部15Cは、正規操作量算出部15Bでの正規操作量Vssの算出処理と並行して、正規操作量の精度より低い精度で、空調空間50を目的空調環境とするための仮操作量Vstを、空調機器ごとに算出する(ステップ102)。
【0053】
一般に、設定値までの到達時間を短縮する場合、フィードバック制御が用いられる。フィードバック制御は、予め設定された制御特性に基づいて、設定値と計測値との偏差に対応する、前回の操作量に対する差分、すなわち操作量差分を求め、この操作量差分に基づき対象を制御する制御方法である。
【0054】
例えば、フィードバック制御のうち最も一般的なPID制御では、偏差に対する、比例成分(P:Proportinal)、積分成分(I:Integral)、微分成分(D:Differential)の3つの成分の組み合わせで操作量差分を求める制御特性を用いる。比例成分に対する係数をKp、積分成分に対する係数をKi、微分成分に対する係数をKdとした場合、偏差に対する操作量差分は、次の式(1)で求められる。
操作量差分=Kp×偏差+Ki×偏差の累積値+Kd×前回偏差との差 …(1)
【0055】
したがって、仮操作量算出部15Cで仮操作量を求める場合、例えば前述の図2に示したように、ゾーンZ1〜Z4ごとに、データ入力部15Aにより空調システム20から取得した計測温度データ14Fと、データ入力部15Aで取得した設定温度データ14Eで指定された設定温度との偏差に応じた操作量を、前述した式(1)などからなる制御特性に基づいて算出すればよい。なお、このような制御特性に基づく操作量の算出は、例えば式(1)などの算出式を実行するだけなので、CFD逆解析に比較して、極めて短い処理時間で操作量を算出することが可能である。
【0056】
このようにして算出した仮操作量は、空調制御開始時の空調空間50を目的空調環境へ制御するための設定温度データ14Eから算出したものであるから、この仮操作量を用いて仮空調制御を行うことにより、空調空間50は、CFD逆解析で算出する正規操作量と同様の空調環境へ導かれることになる。
【0057】
続いて、空調指示部15Dは、仮操作量算出部15Cで算出した仮操作量を、通信I/F部11を介して空調システム20へ指示することにより、空調空間50に対する仮空調制御を開始する(ステップ103)。
この後、空調指示部15Dは、仮操作量算出部15Cで正規操作量が算出されるまで仮空調制御を継続する(ステップ104:NO)。
【0058】
一方、仮空調制御を開始した後に正規操作量算出部15Bで正規設定温度が得られた場合(ステップ104:YES)、空調指示部15Dは、仮操作量に代えて正規操作量を、通信I/F部11を介して空調システム20へ指示することにより、空調空間50に対する正規空調制御を開始し(ステップ105)、一連の空調制御処理を終了する。
【0059】
図5は、第1の実施の形態にかかる空調制御装置での空調制御の推移を示す説明図であり、横軸は時間を示し、縦軸は空調空間50内の任意の位置における室温を示している。
時刻T0において、空調空間50を目的空調環境とするための空調制御が開始され、まもなく仮操作量が算出されて仮空調制御が開始される。この後、時刻T1に、正規操作量が算出されて正規空調制御が開始される。
【0060】
したがって、仮空調制御を行った場合、特性51に示すように、室温は時刻T1の時点で設定温度に近づいており、時刻T1からの正規空調制御により、その後の時刻T2に設定温度へ到達している。一方、仮空調制御を行わない場合、時刻T1になって初めて正規空調制御が開始されるため、特性52に示すように、室温は時刻T0から時刻T1まであまり変化せず、時刻T2以降の時刻T3になって設定温度に到達している。
このため、仮空調制御を行ったほうが、空調制御を開始した時刻T1から設定温度へ到達するまでの到達時間が短縮されており、空調制御において良好な応答性が得られることが分かる。
【0061】
[第1の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、正規操作量算出部15Bで、空調空間50の空調環境をCFD逆解析することにより、空調空間50を目的空調環境へ制御するための正規操作量を空調機器ごとに算出し、仮操作量算出部15Cで、空調空間50を目的空調環境へ近づけるための仮操作量を、正規操作量の算出処理と並行して、正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で空調機器ごとに算出し、空調指示部15Dで、仮操作量を空調システム20へ指示することにより空調空間50に対する仮空調制御を開始し、この後に正規操作量が算出された時点で、正規操作量を空調システム20へ指示することにより空調空間50に対する正規空調制御を開始するようにしたものである。
【0062】
これにより、正規操作量が算出されて正規空調制御が開始される前に、仮操作量を用いた仮空調制御が開始されるため、正規空調制御が開始される時点で、空調空間50を目的とする空調環境へ近づけることができ、正規空調制御の開始から空調空間50が目的空調環境となるまでの所要時間が短縮される。
このため、空調制御開始から空調空間50が目的空調環境となるまでの全体の到達時間を短縮することができる。したがって、空調空間50を目的の空調環境へ制御するための操作量を分布系流動解析手法で算出する場合でも、良好な応答性を得ることが可能となる。
【0063】
また、本実施の形態では、仮操作量算出部15Cは、空調機器ごとに仮操作量を算出する際の具体的方法として、予め設定された制御特性に基づいて、データ入力部15Aで取得した設定温度データ14Eと、データ入力部15Aにより空調システム20から取得した計測温度データ14Fに含まれる空調空間50で計測した計測温度との偏差に応じた操作量を仮操作量として算出するようにしたので、極めて簡素な構成で、正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で、空調機器22ごとに仮操作量を算出することができる。
【0064】
また、本実施の形態では、仮空調制御を開始してから正規空調制御が開始されるまでの間、仮空調制御の開始時に算出した仮操作量を固定的に用いる場合について説明したが、仮空調制御の途中で仮操作量を再計算し、得られた新たな仮操作量を用いて仮空調制御を継続するようにしてもよい。これにより、例えば空調空間50内の任意のゾーンにおいて計測温度が変化した場合には、その計測温度と設定温度との新たな偏差に応じたより適切な仮操作量を用いて仮空調制御を行うことができ、仮空調制御において、空調空間50の空調環境を目的とする空調環境へ効率よく近づけることができる。
【0065】
また、本実施の形態では、空調制御装置10において、空調空間50の空調環境のうち温度分布を制御する場合を例として説明したが、これに限定されるものではなく、風速、湿度、CO2濃度、温度・湿度・風速・放射温度などから計算される体感温度など、空調空間50における温度以外の空調環境についても、前述と同様に制御することができ、同様の作用効果を奏することができる。
【0066】
[第2の実施の形態]
次に、図6〜図8を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかる空調制御装置について説明する。図6は、第2の実施の形態にかかる空調制御装置の構成を示すブロック図である。図7は、第2の実施の形態にかかる空調空間の構成例を示す説明図である。図8は、第2の実施の形態にかかる空調制御装置での空調制御動作を示すフロー図である。
【0067】
第1の実施の形態では、仮操作量算出部15Cは、空調機器22ごとに仮操作量を算出する際の具体的方法として、予め設定された制御特性に基づいて仮操作量として算出する場合について説明した。本実施の形態では、過去に得られた経験則に基づいて、仮操作量を決定する場合について説明する。
【0068】
例えば、省エネルギーを考慮して空調制御を行う場合、人が存在しないゾーンについては風量を最低風量とすることにより、省エネルギー効果が得られるという経験則がある。
本実施の形態にかかる仮操作量算出部15Cは、任意のゾーンに人が存在しないことが確認された場合、当該ゾーンに関する仮操作量として、最低風量を示す操作量、すなわち最低操作量を選択する機能を有している。
【0069】
なお、空調機には最低限維持すべき風量条件が設定されているものがあり、このような場合には、空調機に接続されている空調機器のいずれかで風量をゼロとし、他の空調機器で風量条件を満足していればよい。
したがって、人が存在しないゾーンにおける最低風量は常にゼロではなく、例えば、空調機の風量条件分の風量から人が存在する各ゾーンの合計風量を減算した残り風量を、人が存在しないゾーンで按分するなど、他のゾーンでの風量との兼ね合いで決定される。この例では、残り風量がゼロの場合、人が存在しないゾーンの風量もゼロとなる。
【0070】
本実施の形態において、空調空間50には、ゾーンZ1〜Z4内に在圏する人の人数や位置を確認し、通信回線Lを介して空調制御装置10へ通知する存在確認システム30が設置されている。HS1〜HS4は、ゾーンZ1〜Z4の天井にそれぞれ1つまたは複数個設置された位置検知センサからなる。存在確認システム30は、これらHS1〜HS4で確認した、人の位置や人数などの確認結果を、確認結果データ14Hとして空調制御装置10へ通知する機能を有している。この確認結果データ14Hについては、正規操作量算出部15BでCFD逆解析を行う際に用いる、空調空間50内の発熱体に関する数や位置などの情報として用いてもよい。
なお、本実施の形態にかかるこのほかの構成については、前述した図1と同様であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0071】
[第2の実施の形態の動作]
次に、前述した図4を参照して、本実施の形態にかかる空調制御装置10の動作について説明する。
本実施の形態にかかる空調制御装置10は、図4のステップ102において、仮操作量算出部15Cにより、正規操作量算出部15Bでの正規操作量Vssの算出処理と並行して、正規操作量の精度より低い精度で、空調空間50を目的空調環境とするための仮操作量Vstを、空調機器22ごとに算出する。
【0072】
この際、仮操作量算出部15Cは、データ入力部15Aにより存在確認システム30から取得した確認結果データ14Hに基づいて、ゾーンZ1〜Z4ごとに、人の存在有無を確認する。
ここで、人が存在するゾーンが確認された場合、仮操作量算出部15Cは、第1の実施の形態と同様にして、空調システム20から取得した計測温度データ14Fと設定温度データ14Eとの偏差に応じた操作量を、前述した式(1)などからなる制御特性に基づいて算出し、当該ゾーンに対応する空調機器22の仮操作量とする。
【0073】
一方、人が存在しないゾーンが確認された場合、仮操作量算出部15Cは、当該ゾーンに対応する空調機器22の仮操作量として、風量ゼロを示す操作量を選択する。
なお、図4におけるこの他のステップについては、第1の実施の形態と同様であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0074】
[第2の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態では、仮操作量算出部15Cにより、空調空間50に対して設置されている存在確認システム30から取得した確認結果データ14Hに基づいて、空調空間50に設けたゾーンZ1〜Z4ごとに人の存在有無を確認し、吹出口F1〜F4のうち人が存在しないゾーンと対応する空調機器22の仮操作量として、風量ゼロを示す操作量を選択するようにしたものである。
これにより、極めて簡素な構成で、正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で、空調機器22ごとに、省エネルギーを考慮した仮操作量を算出することができる。
【0075】
また、本実施の形態では、人が存在するゾーンについては、第1の実施の形態で説明したように、空調システム20から取得した計測温度データ14Fとデータ入力部15Aで取得した設定温度データ14Eとの偏差に応じた操作量を、予め設定されている制御特性に基づいて算出する場合を例として説明したが、この際の仮操作量の算出方法については、これに限定されるものではなく、後述する他の実施の形態で説明する算出方法など、他の算出方法を適用してもよい。
【0076】
また、本実施の形態では、空調機器22ごとに仮操作量を算出するため、各空調機器22から吹き出す調和空気が直接影響を与えるエリアごとに、人の存在有無が確認できればよい。このため、存在確認システム30により人の正確な位置を検知する必要なく、例えば、図7に示すように、各ゾーンZ1〜Z4に対応して吹出口F1〜F4がそれぞれ1つずつ設置されている場合には、ゾーンごとに人の存在有無が確認できればよい。したがって、存在確認システム30としては、RFIDなど用いて人の位置を正確に検知できる一般的な位置検知システムのほか、既存の入退室管理システムなど、ゾーンに存在している人数を管理する機能を持つ他のシステムを存在確認システム30として用いてもよい。
【0077】
[第3の実施の形態]
次に、図9および図10を参照して、本発明の第3の実施の形態にかかる空調制御装置について説明する。図9は、第3の実施の形態にかかる空調制御装置の構成を示すブロック図である。図10は、第3の実施の形態にかかる空調制御装置での空調制御動作を示すフロー図である。
【0078】
第1の実施の形態では、空調機器22ごとに仮操作量を算出する際の具体的方法として、予め設定された制御特性に基づいて、データ入力部15Aで取得した設定温度データ14Eとデータ入力部15Aにより空調システム20から取得した計測温度データ14Fに含まれる空調空間50で計測した計測温度との偏差に応じた操作量を仮操作量として算出する場合を例として説明した。
【0079】
本実施の形態では、空調空間50で用いる空調機器22ごとの操作量を予めデータベース化しておき、空調空間50を目的空調環境とする空調制御を開始する際、当該空調制御の開始時における空調空間50の空調環境を示す環境条件データに基づいて、データベースから当該環境条件データと類似する環境条件データの操作量を検索することにより、仮操作量を算出する場合について説明する。
【0080】
図9に示すように、本実施の形態では、空調制御装置10の記憶部14に、操作量データベース(以下、操作量DB)14Iが設けられている。図11は、操作量データベースの構成例である。操作量DB14Iには、空調空間50における任意の空調環境を示す各種環境条件データと、分布系流動解析で予め算出した、空調空間50を当該空調環境から目標空調環境へ導くための操作量とが組として登録されている。
【0081】
図11の例では、環境条件データとして、温度センサで計測した空調空間50を取り巻く外気の外気温のほか、空調空間50内で変化する発熱体の位置や発熱量を示す発熱体データとが登録されており、これら環境条件データの組合せごとに、各VAV1〜VAV4における風量が操作量として登録されている。これら操作量については、過去にCFD逆解析で算出した正規操作量を用い、その算出時における各種環境条件データとともに、操作量DB14Iへ登録するようにしてもよい。
【0082】
また、操作量DB14Iに登録する環境条件データについては、空調空間50の空調環境を示す環境条件データのうちから、空調環境の変化への影響度の大きいものを取捨選択して用いるようにしてもよい。例えば、人の発熱量、空調空間50内に設置されたOA機器の位置や発熱量など、発熱体データのうちほぼ一定のものについては、操作量DB14Iの前提条件として組み込むことにより、環境条件データから除外することができる。
【0083】
したがって、発熱体データの具体例としては、空調空間50内に存在する人の位置が環境条件データとして有用となる。本実施の形態において、空調空間50には、第2の実施の形態と同様に、ゾーンZ1〜Z4内に在圏する人の人数や位置を検知し、通信回線Lを介して空調制御装置10へ通知する存在確認システム30が設置されている。HS1〜HS4は、ゾーンZ1〜Z4の天井にそれぞれ1つまたは複数個設置された位置検知センサからなる。存在確認システム30は、これらHS1〜HS4で検知された、人の位置や人数などの検知結果を、確認結果データ14Hとして空調制御装置10へ通知する機能を有している。
【0084】
また、外気温は、予め設定されている設定温度分布と比較することにより、空調による温度制御の方向性、すなわち温度の上げ下げや、その制御幅に大きな影響を持つ。したがって、発熱体データの具体例としては、外気温が環境条件データとして有用となる。外気温については、例えば、空調システム20に設けた外気温センサ24で検出して、空調処理装置21から通知されたものを、データ入力部15Aで取得すればよい。
【0085】
空調空間50で発生しうる空調環境は無限に近いため、実際には、これらすべての空調環境と対応する操作量を操作量DB14Iに登録しておくことはできない。したがって、本実施の形態では、CFD逆解析で推定したいくつかの空調環境と対応する操作量を予め操作量DB14Iに登録しておき、仮操作量算出部15Cにおいて、任意の空調環境と対応する操作量を検索する場合には、当該空調環境の環境条件データと類似する環境条件データの操作量を検索する、いわゆる類似検索を行う。
【0086】
類似検索の具体例について説明する。図12は、空調空間のゾーン分割例である。操作量DB14Iの環境条件データとして発熱体の位置とその熱量を用いる場合、空調空間50を空調制御単位であるゾーンZ1〜Z4より小さい小ゾーンに分割し、これら小ゾーンに存在する発熱体からの発熱量を環境条件データとして用いればよい。図12の例では、ゾーンZ1〜Z4が、それぞれ20個の小ゾーンに分割されている。
【0087】
図13は、操作量データベースを構成する環境条件データの構成例である。ここでは、仮操作量を識別するためのIDごとに、外気温と各小ゾーンに存在する発熱体からの発熱量とが組として登録されている。また、発熱量は、人と人以外とに区別して登録されている。
図14は、操作量データベースを構成する操作量データの構成例である。ここでは、仮操作量を識別するためのIDごとに、各VAV1〜VAV4へ供給する調和空気の給気温度と各VAV1〜VAV4から調和空気を送風する際の風量とが組として登録されている。
【0088】
これら環境条件データと操作量データとが、それぞれのIDで1つのエントリとして対応付けられて、操作量DB14Iを構成する。なお、操作量DB14Iに登録されている各操作量は、例えば空調空間50の全エリアで室温を26℃とするというような、予め特定した目的空調環境と対応したものであり、任意の空調環境に対応する操作量を検索するものではない。なお、任意の目的空調環境と対応した操作量を検索したい場合には、それぞれの目的空調環境ごとに用意した操作量DB14Iを切り替えて用いればよい。
【0089】
一般的には、小ゾーンの大きさを細かくするほど、より正確な仮操作量を操作量DB14Iから検索できる。例えば、存在確認システム30としてRFIDなど用いた一般的な位置検知システムを適用した場合、50cm〜数m程度の精度で人の存在を検知できる。
なお、後述するような類似検索では、複数の小ゾーンからなる類似検索ゾーンを新たに定義するため、この類似検索ゾーンごとに人の位置を検知できればよい。したがって、RFIDなど用いた一般的な位置検知システムのほか、既存の入退室管理システムなど、類似検索ゾーンに存在している人数を管理する機能を持つ他のシステムを存在確認システム30として用いてもよい。
【0090】
仮操作量算出部15Cは、データ入力部15Aで取得した存在確認システム30からの確認結果データ14Hに含まれる、人の位置情報を含む検索条件で、記憶部14の操作量DB14Iを検索して、空調空間50を目的とする空調環境に近づけるための仮操作量を算出する機能を有している。
【0091】
一般的な検索方法によれば、図13に示したように、すべての小ゾーンにおける発熱量を検索キーとして操作量DB14Iを検索することになる。しかしながら、小ゾーンと発熱量との組合せは膨大な数となるため、指定された検索キーと一致する操作量が見つかる可能性は、極めて低い。
本実施の形態にかかる類似検索では、空調制御単位であるゾーンZ1〜Z4、あるいはゾーンZ1〜Z4よりも小さく複数の小ゾーンからなる中ゾーンを、類似検索ゾーンと定義し、これら類似検索ゾーンを単位とした環境条件データおよび検索キーに基づいて検索を行う。
【0092】
例えば、ゾーンZ1〜Z4を類似検索ゾーンとした場合、ゾーンZ1に属する20個の小ゾーンZ101〜Z120における人の発熱量は、例えばこれら発熱量の平均値や中央値など、これら発熱量を統計処理することにより得られる、これら発熱量の代表値に集約される。これにより、すべての小ゾーンに関する発熱量は、人および人以外の両方について、類似検索ゾーンに対応してそれぞれ4つ、合計8つの環境条件データに集約される。このため、類似検索ゾーンと集約された発熱量との組合せを、大幅に削減することができ、指定された検索キーと一致する操作量が見つかる可能性が大きくなる。
【0093】
本実施の形態にかかる仮操作量算出部15Cは、このような類似検索を行うための機能として、存在確認システム30から通知された確認結果データ14Hに含まれる、各小ゾーンに存在する人の人数と、予め設定されている1人当たりの発熱量とから、小ゾーンごとの人の発熱量を計算する機能と、これら小ゾーンごとの人の発熱量を集約して類似検索ゾーンごとの人の検索用発熱量を計算する機能と、データ入力部15Aで入力された小ゾーンごとの人以外の発熱量を集約して類似検索ゾーンごとの人以外の検索用発熱量を計算する機能とを有している。
【0094】
さらに、仮操作量算出部15Cは、操作量DB14Iに登録されている各エントリについて、当該環境条件データとして登録されている小ゾーンごとの人および人以外の発熱量を集約して類似検索ゾーンごとの人および人以外の被検索用発熱量を計算する機能と、データ入力部15Aで入力された検索用外気温と、前述した類似検索ゾーンごとの人および人以外の検索用発熱量とを検索キーとして、操作量DB14Iに登録されている各エントリのうちから、環境条件データとして登録されている被検索用外気温と類似検索ゾーンごとの人および人以外の被検索用発熱量とが一致するエントリを検索する機能と、検索により得られた一致エントリに登録されている操作量を操作量DB14Iから読み出し、仮操作量データ14Gとして出力する機能とを有している。
【0095】
なお、図13に示した、操作量DB14Iの環境条件データとして、小ゾーンごとの発熱量に代えて、これら小ゾーンごとの発熱量から算出した、類似検索ゾーンごとの検索用発熱量を登録しておいてもよい。
また、本実施の形態にかかるこのほかの構成については、前述した図1と同様であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0096】
[第3の実施の形態の動作]
次に、前述した図4を参照して、本実施の形態にかかる空調制御装置10の動作について説明する。
本実施の形態にかかる空調制御装置10は、図4のステップ102において、仮操作量算出部15Cにより、正規操作量算出部15Bでの正規操作量Vssの算出処理と並行して、正規操作量の精度より低い精度で、空調空間50を目的空調環境とするための仮操作量Vstを、空調機器22ごとに算出する。
【0097】
この際、仮操作量算出部15Cは、データ入力部15Aにより存在確認システム30から取得した確認結果データ14Hに基づいて、類似検索ゾーンごとに、人の位置を確認し、当該類似検索ゾーンにおける人の位置や人数を含む発熱体データを検索キーとする。
また、仮操作量算出部15Cは、データ入力部15Aにより空調システム20から外気温を取得して検索キーに含めるとともに、データ入力部15Aにより取得した設定条件データ14Bから空調空間50に配置された電気機器などの各発熱体に関する発熱体データを検索キーに含める。
【0098】
この後、仮操作量算出部15Cは、このようにして生成した検索キーに基づいて、記憶部14の操作量DB14Iについて、前述した類似検索を実行し、当該検索キーと対応する操作量を、それぞれのゾーンの仮操作量として選択する。
なお、図4におけるこの他のステップについては、第1の実施の形態と同様であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0099】
[第3の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、空調空間50における任意の空調環境を示す各種環境条件データからなる環境条件データと、当該空調環境において空調空間50を目的空調環境へ導くための操作量データとが組として登録されている操作量DB14Iを設け、仮操作量算出部15Cで、仮操作量の算出時における空調空間50の空調環境を示す環境条件データを含む検索キーに基づき、操作量DB14Iを類似検索することにより仮操作量を選択するようにしたものである。
これにより、極めて簡素な構成で、正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で、空調機器22ごとに、空調空間50を目的空調環境へ導くために最適な仮操作量を特定することができる。
【0100】
また、本実施の形態では、発熱量をその発生位置について集約して類似検索する方法、具体的には、小ゾーンごとの発熱量を類似検索ゾーンに集約した発熱量に基づき、操作量DB14Iを類似検索するようにしたので、仮操作量の算出時における空調空間50の空調環境に応じた仮操作量を、操作量DB14Iから高い確率で検索することが可能となる。
なお、本実施の形態にかかる類似検索は、前述した類似検索方法に限定されるものではなく、他の方法を用いてもよい。
【0101】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態にかかる空調制御装置10について説明する。
第1および第3の実施の形態では、CFD逆解析以外の処理方法で仮操作量を算出する場合を例として説明した。本実施の形態では、CFD逆解析を用いて仮操作量を算出する場合について説明する。なお、本実施の形態にかかる空調制御装置10の構成は、前述した図1と同様であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0102】
前述したように、CFD逆解析では、空調空間50内の各ポイントにおいて、目的空調環境下における当該ポイントに関する設定値と、解析処理途中で得られた当該ポイントに関する算出設定値との偏差が最も小さくなるよう、操作量の選択および修正を繰り返し実行する。このため、空調空間50を目的空調環境へ導くための真の操作量との誤差が小さくて高い精度の操作量を算出するには、膨大な演算処理が必要となる。
【0103】
ここで、CFD逆解析では、操作量の算出処理条件として、真の操作量との誤差にかかわるいくつかの条件を設定することができる。したがって、このような算出処理条件を緩和して、真の操作量との誤差が大きくて低い精度の操作量を仮操作量として算出すれば、CFD逆解析を用いた場合でも、短い所要時間で仮操作量を算出することができる。
【0104】
例えば、CFD逆解析では、空調空間50を網目状の小空間からなるメッシュに分割して、隣接するメッシュ間における熱流を解析している。したがって、算出処理条件で決定されるメッシュのサイズを大きくして全体のメッシュ数を削減すれば、メッシュごとに繰り返す反復処理数を削減でき、結果として操作量の算出に要する所要時間を短縮することができる。
【0105】
また、算出処理条件には、操作量の算出終了を判定するための収束判定条件が含まれており、この収束判定条件を緩和することにより算出処理の反復回数を抑制し、早期に操作量の算出を終了させることができ、結果として操作量の算出に要する所要時間を短縮することができる。このほか、算出処理条件として設定する、算出処理の発散を抑制するための緩和係数や、算出処理の収束性を制御するためのクーラン数を緩和してもよい。
【0106】
また、設定条件データ14Bに含まれる発熱体データについて、空調空間50内に配置されている発熱体からの発熱を、固体表面の発熱から空間の発熱にモデル化してもよく、あるいは複数の発熱体を1つの発熱体にまとめてモデル化してもよい。さらには、発熱体の形状を長方形などのシンプルな形状に簡略化してもよく、いわゆるbox法を利用して吹出口(アネモスタットやパッケージ型)のモデルを簡略化してもよい。
【0107】
[第4の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、仮操作量算出部15Cにおいて、正規操作量算出部15Bにおける正規操作量の算出処理より低い算出精度でCFD逆解析することにより、仮操作量を算出するようにしたので、正規操作量より短い時間で仮操作量を算出することができる。また、このことにより、空調システム20からの計測温度データ14Fや、人の存在を確認する存在確認システム30からの確認結果データ14Hを必要とすることなく、仮操作量を算出することができる。
【0108】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態にかかる空調制御装置10について説明する。
第4の実施の形態では、正規操作量算出部15Bにおける正規操作量の算出処理より低い算出精度でCFD逆解析することにより、仮操作量を算出する場合を例として説明した。本実施の形態では、正規操作量算出部15Bにおける正規操作量の算出処理の途中で得られる操作量を、仮操作量として算出する場合について説明する。なお、本実施の形態にかかる空調制御装置10の構成は、前述した図1と同様であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0109】
前述したように、CFD逆解析では、空調空間50内の各ポイントにおいて、目的空調環境下における当該ポイントに関する設定値と、解析処理途中で得られた当該ポイントに関する算出設定値との偏差が最も小さくなるよう、操作量の選択および修正を繰り返し実行する。このため、正規操作量算出部15Bにおける正規操作量の算出処理の途中において、正規操作量と比較して、真の操作量との誤差が大きく、精度の低い操作量が算出されている。したがって、このような正規操作量の算出処理の途中で得られる操作量を、仮操作量として利用することができる。
【0110】
[第5の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、仮操作量算出部15Cにおいて、正規操作量算出部15Bにおける正規操作量の算出処理の途中で得られる操作量を仮操作量として算出するようにしたので、正規操作量より短い時間で仮操作量を算出することができる。また、このことにより、空調システム20からの計測温度データ14Fや、人の存在を確認する存在確認システム30からの確認結果データ14Hを必要とすることなく、仮操作量を算出することができる。
【0111】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0112】
10…空調制御装置、11…通信I/F部、12…操作入力部、13…画面表示部、14…記憶部、14A…境界条件データ、14B…設定条件データ、14C…目的データ、14D…正規操作量データ、14E…設定温度データ、14F…計測温度データ、14G…仮操作量データ、14H…確認結果データ、14I…操作量DB、15…演算処理部、15A…データ入力部、15B…正規操作量算出部、15C…仮操作量算出部、15D…空調指示部、20…空調システム、21…空調処理装置、22…空調機器、23…温度センサ、24…外気温センサ、30…存在確認システム、50…空調空間、Z1〜Z4…ゾーン、VAV1〜VAV4…空調機器、F1〜F4…吹出口、TH1〜TH4…温度センサ、HS1〜HS4…位置検知センサ、Vss…正規操作量、Vst…仮操作量。
【技術分野】
【0001】
本発明は、空調制御技術に関し、特に空間内の目的場所における空調環境を制御するための空調制御技術に関する。
【背景技術】
【0002】
空間内を所望の空調環境に維持する場合、空気調和すべき空調空間に空調機器を設けるとともに、当該空調エリアを代表する位置に温度センサや湿度センサなどを配置し、温度センサや湿度センサなどの出力に応じて空調機器から供給される調和空気の風量・風向・温度・湿度などの操作量を決定するものとなっている。
また、オフィスなどの大空間の場合、例えば大空間を区分して設けた空調エリアごとに、シングルループのフィードバック制御系を複数構成する形態が考えられる。
【0003】
しかしながら、例えばオフィスでは、熱源となる人・照明・電気機器などの配置や、空気の流れの障害となる机、椅子、間仕切りなどの配置については作業効率が優先されており、このような室内レイアウトが空調制御を優先して設計されることはない。このため、空調機器の吹出口と温度センサの位置関係は、いわゆる温度干渉が強くならざるを得なくなる。
【0004】
したがって、シングルループのフィードバック制御系を複数構成する形態では、このような温度干渉により操作量が安定しにくくなり、良好な制御が困難になる。例えば、所望の空調環境に移行させる際に温度変化幅が大きいと、制御状態にばらつきが生じ、全系的な安定状態を各フィードバック制御系が個別に探索するようなちぐはぐな動作になるため、操作量が安定しなくなる。
【0005】
これに対して、従来、分布系熱流動解析手法を用いて、空間内の目的場所における空調環境を制御する空調制御技術が提案されている(例えば、非特許文献1など参照)。この技術は、対象となる空調空間における初期の空調状況を順解析することにより、当該空調空間の温度および気流の分布を示す分布データを推定し、この分布データと目的場所における目標温度とを逆解析することにより、空調制御に関する新たな操作量を推定し、この新たな操作量に基づいて、空調空間に設置されている各空調機器の吹出口における吹出速度や吹出温度を算出するようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4016066号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】原山和也・本田光弘・綛田長生原、「分布系シミュレーションを用いた室内任意空間の温熱環境制御技術の開発」、平成22年度大会、I−20、社団法人空気調和・衛生工学会、平成22年9月1日
【非特許文献2】加藤信介・小林光・村上周三、「不完全混合室内における換気効率・温熱環境形成効率評価指標に関する研究 第2報-CFDに基づく局所領域の温熱環境形成寄与率評価指標の開発」、東大生研:空気調和・衛生工学論文集No.69、pp.39-47、1998.4
【非特許文献3】安部恒平、桃瀬一成、木本日出夫、「随伴数値解析を利用した自然対流場の最適化」、日本機械学会論文集(B編)、70巻691号、pp.729-736、2004.3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような従来技術では、分布系熱流動解析手法の逆解析を用いているため、温度分布などの目的とする空調環境を得るための新たな操作量を算出するには、複雑な演算処理を繰り返す必要がある。一方、一般的な空調制御システムでは、既存の空調制御に要する処理負担が比較的小さいことから、コスト面を考慮して汎用的なCPUが用いられている。このため、このようなCPUで複雑な演算処理を繰り返した場合、新たな操作量を算出するのに要する処理時間が増大してしまい、結果として、空調制御において良好な応答性が得られないという問題点があった。
【0009】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、空調空間を目的の空調環境へ制御するための操作量を分布系流動解析手法で算出する場合でも、良好な応答性が得られる空調制御技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような目的を達成するために、本発明にかかる空調制御装置は、空調空間に設けられた空調機器を制御する空調システムに対して、空調機器での操作量を指示することにより、空調空間を任意の目的空調環境へ制御する空調制御装置であって、空調空間の構成および空調空間内の空調環境への影響を示す条件データと、目的空調環境下における空調空間内の目的場所での目標値を示す目的データとに基づいて、空調空間内の空調環境を分布系流動解析することにより、空調空間を目的空調環境へ制御するための正規操作量を、空調機器ごとに算出する正規操作量算出部と、空調空間を目的空調環境へ近づけるための仮操作量を、正規操作量の算出処理と並行して、正規操作量算出部での正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で、空調機器ごとに算出する仮操作量算出部と、仮操作量算出部で算出した仮操作量を空調システムへ指示することにより空調空間に対する仮空調制御を開始し、この後に正規操作量算出部で正規操作量が算出された時点で、正規操作量を空調システムへ指示することにより空調空間に対する正規空調制御を開始する空調指示部とを備えている。
【0011】
この際、仮操作量算出部で、予め設定された制御特性に基づいて、目的空調環境に応じて予め設定された設定値と空調空間で計測した計測値との偏差に応じた操作量を仮操作量として算出するようにしてもよい。
【0012】
また、仮操作量算出部で、空調空間における人の存在を確認する存在確認システムから取得した確認結果に基づいて、空調空間に設けたゾーンごとに人の存在有無を確認し、空調機器のうち人が存在しないゾーンと対応する空調機器の仮操作量として、予め設定した最低操作量を選択するようにしてもよい。
【0013】
また、空調空間における任意の空調環境を示す環境条件データと、分布系流動解析で予め算出した、当該空調環境から空調空間を目的空調環境へ導くための操作量とが組として複数登録されている操作量データベースをさらに備え、仮操作量算出部で、仮操作量の算出時における空調空間の空調環境を示す環境条件データに基づいて操作量データベースを類似検索し、得られた操作量を仮操作量として選択するようにしてもよい。
【0014】
また、仮操作量算出部で、正規操作量算出部における正規操作量の算出処理より低い算出精度で、条件データと目的データとに基づく分布系流動解析を行うことにより、仮操作量を算出するようにしてもよい。
【0015】
また、仮操作量算出部で、正規操作量算出部における正規操作量の算出処理の途中で得られる操作量を、仮操作量として算出するようにしてもよい。
【0016】
また、本発明にかかる空調制御方法は、空調空間に設けられた空調機器を制御する空調システムに対して、空調機器での操作量を指示することにより、空調空間を任意の目的空調環境へ制御する空調制御装置で用いる空調制御方法であって、正規操作量算出部が、空調空間の構成および空調空間内の空調環境への影響を示す条件データと、目的空調環境下における空調空間内の目的場所での目標値を示す目的データとに基づいて、空調空間内の空調環境を分布系流動解析することにより、空調空間を目的空調環境へ制御するための正規操作量を、空調機器ごとに算出する正規操作量算出ステップと、仮操作量算出部が、空調空間を目的空調環境へ近づけるための仮操作量を、正規操作量の算出処理と並行して、正規操作量算出部での正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で、空調機器ごとに算出する仮操作量算出ステップと、空調指示部が、仮操作量算出ステップで算出した仮操作量を空調システムへ指示することにより空調空間に対する仮空調制御を開始し、この後に正規操作量算出ステップで正規操作量が算出された時点で、正規操作量を空調システムへ指示することにより空調空間に対する正規空調制御を開始する空調指示ステップとを備えている。
【0017】
この際、仮操作量算出ステップで、予め設定された制御特性に基づいて、目的空調環境に応じて予め設定された設定値と空調空間で計測した計測値との偏差に応じた操作量を仮操作量として算出するようにしてもよい。
【0018】
また、仮操作量算出ステップで、空調空間における人の存在を確認する存在確認システムから取得した確認結果に基づいて、空調空間に設けたゾーンごとに人の存在有無を確認し、空調機器のうち人が存在しないゾーンと対応する空調機器の仮操作量として、予め設定した最低操作量を選択するようにしてもよい。
【0019】
また、空調空間における任意の空調環境を示す環境条件データと、分布系流動解析で予め算出した、当該空調環境から空調空間を目的空調環境へ導くための操作量とが組として複数登録されている操作量データベースをさらに備え、仮操作量算出ステップで、仮操作量の算出時における空調空間の空調環境を示す環境条件データに基づいて、操作量データベースを類似検索し、得られた操作量を仮操作量として選択するようにしてもよい。
【0020】
また、仮操作量算出ステップで、正規操作量算出ステップにおける正規操作量の算出処理より低い算出精度で、条件データと目的データとに基づく分布系流動解析を行うことにより、仮操作量を算出するようにしてもよい。
【0021】
また、仮操作量算出ステップで、正規操作量算出ステップにおける正規操作量の算出処理の途中で得られる操作量を、仮操作量として算出するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、正規操作量が算出されて正規空調制御が開始される前に、仮操作量を用いた仮空調制御が開始されるため、正規空調制御が開始される時点で、空調空間を目的とする空調環境へ近づけることができ、正規空調制御の開始から空調空間が目的空調環境となるまでの所要時間が短縮される。
このため、空調制御開始から空調空間が目的空調環境となるまでの全体の到達時間を短縮することができる。したがって、空調空間を目的の空調環境へ制御するための操作量を分布系流動解析手法で算出する場合でも、良好な応答性を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1の実施の形態にかかる空調制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施の形態にかかる空調空間の構成例を示す説明図である。
【図3】空調制御装置での空調制御動作を示すフロー図である
【図4】第1の実施の形態にかかる空調制御処理を示すフローチャートである。
【図5】第1の実施の形態にかかる空調制御装置での空調制御の推移を示す説明図である。
【図6】第2の実施の形態にかかる空調制御装置の構成を示すブロック図である。
【図7】第2の実施の形態にかかる空調空間の構成例を示す説明図である。
【図8】第2の実施の形態にかかる空調制御装置での空調制御動作を示すフロー図である。
【図9】第3の実施の形態にかかる空調制御装置の構成を示すブロック図である。
【図10】第3の実施の形態にかかる空調制御装置での空調制御動作を示すフロー図である。
【図11】操作量データベースの構成例である。
【図12】空調空間のゾーン分割例である。
【図13】操作量データベースを構成する環境条件データの構成例である。
【図14】操作量データベースを構成する操作量データの構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[第1の実施の形態]
まず、図1および図2を参照して、本発明の第1の実施の形態にかかる空調制御装置について説明する。図1は、第1の実施の形態にかかる空調制御装置の構成を示すブロック図である。図2は、第1の実施の形態にかかる空調空間の構成例を示す説明図である。
【0025】
この空調制御装置10は、全体として、パーソナルコンピュータやサーバ装置などの情報処理装置からなり、空調システム20を制御することにより、空調空間50の目的場所Xにおける空調環境を制御する機能を有している。
【0026】
空調システム20には、主な構成として、空調処理装置21、空調機器22、および温度センサ23が設けられている。
空調処理装置21は、全体として、パーソナルコンピュータやサーバ装置などの情報処理装置からなり、通信回線Lを介して空調制御装置10から指示された操作量に基づいて、空調機器22により各吹出口から空調空間50へ吹き出す調和空気を制御することにより、空調空間50全体の空調環境を制御する機能と、温度センサ23により空調空間50内の温度を計測し、通信回線Lを介して空調制御装置10へ通知する機能とを有している。
【0027】
図2の例では、空調空間50がゾーンZ1〜Z4の4つのゾーンに区分されている。これらゾーンZ1〜Z4には、空調機器22としてVAV1〜VAV4がそれぞれのゾーンZ1〜Z4の天井に設けた吹出口F1〜F4にそれぞれ設置されているとともに、温度センサ23としてTH1〜TH4がそのゾーンの壁にそれぞれ設置されている。これらゾーンZ1〜Z4は、壁により空間として明確に区分されているわけではなく、それぞれのVAV1〜VAV4から吹き出された調和空気が互いに対流しうる状況にある。
【0028】
VAV1〜VAV4は、空調処理装置21を介して空調制御装置10から指示された、吹出風量Vm1〜Vm4などの操作量に基づいて、空調機(図示せず)から供給された調和空気を調整し、各吹出口F1〜F4からそれぞれに対応するゾーンZ1〜Z4へ吹き出す機能を有している。
TH1〜TH4は、それぞれに対応するゾーンZ1〜Z4内の室温Tp1〜Tp4を計測し、空調処理装置21へ通知する機能を有している。
【0029】
[発明の原理]
温度分布と空調空間50内の目的場所における目標温度とから新たに生成した設定温度分布をCFD逆解析すれば、空調機器22ごとに、空調空間50を目的の空調環境とするための操作量をそれぞれ推定できる。
ここで、空調空間50内の各ポイントにおいて、目的空調環境下における当該ポイントに関する設定値と、解析処理途中で得られた当該ポイントに関する算出設定値との偏差が最も小さくなるよう、操作量の選択および修正を繰り返し実行する。このため、空調空間50を目的空調環境へ導くための真の操作量との誤差が小さくて高い精度の操作量を算出するには、膨大な演算処理が必要となる。
【0030】
一方、一般的な空調制御システムでは、既存の空調制御に要する処理負担が比較的小さいことから、空調制御用のコントローラにおいては、コスト面を考慮して汎用的なCPUが用いられている。このため、このようなCPUで複雑な演算処理を繰り返した場合、新たな操作量を算出するのに要する処理時間が増大してしまい、結果として、空調制御において良好な応答性が得られないという問題点が生じる。
【0031】
ここで、空調制御では、空調空間50を目標の設定温度分布に導くための空調制御を開始してからしばらくの期間においては、設定温度分布と実際の温度分布との間の乖離が大きく、また空調空間50自体の熱容量も大きい。このため、空調制御に用いる操作量に誤差が含まれていても、実際の温度分布の推移にはあまり影響しない。
また、空調空間50を設定温度分布へ導くための真の操作量に対して、ある程度の誤差が許容される場合には、CFD逆解析による正規操作量の算出所要時間より短い時間で、空調空間50を設定温度分布へ近づけるための仮操作量を算出することも可能である。
【0032】
本発明では、このような、空調制御の開始当初においては操作量に対する許容誤差が大きいことに着目し、空調制御の開始当初は、CFD逆解析による正規操作量の算出所要時間より短い時間で仮操作量を算出して、この仮操作量を用いた仮空調制御を開始し、CFD逆解析により誤差の小さい正規操作量が算出された時点で、この正規操作量を用いた正規空調制御へ切り替えるようにしたものである。
【0033】
すなわち、本実施の形態にかかる空調制御装置10は、空調空間50の空調環境をCFD逆解析することにより、空調空間50を目的空調環境へ制御するための正規操作量を空調機器ごとに算出し、空調空間50を目的空調環境へ近づけるための仮操作量を、正規操作量の算出処理と並行して、正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で空調機器ごとに算出し、仮操作量を空調システム20へ指示することにより空調空間50に対する仮空調制御を開始し、この後に正規操作量が算出された時点で、正規操作量を空調システム20へ指示することにより空調空間50に対する正規空調制御を開始するようにしたものである。
【0034】
[空調制御装置]
次に、図1および図3を参照して、本実施の形態にかかる空調制御装置10の構成について詳細に説明する。図3は、空調制御装置での空調制御動作を示すフロー図である。
この空調制御装置10には、主な機能部として、通信インターフェース部(以下、通信I/F部という)11、操作入力部12、画面表示部13、記憶部14、および演算処理部15が設けられている。
【0035】
通信I/F部11は、専用のデータ通信回路からなり、通信回線Lを介して接続された空調システムなどの外部装置との間でデータ通信を行う機能を有している。
操作入力部12は、キーボードやマウスなどの操作入力装置からなり、オペレータの操作を検出して演算処理部15へ出力する機能を有している。
画面表示部13は、LCDやPDPなどの画面表示装置からなり、演算処理部15からの指示に応じて、操作メニューや入出力データなどの各種情報を画面表示する機能を有している。
【0036】
記憶部14は、ハードディスクや半導体メモリなどの記憶装置からなり、演算処理部15で用いる各種処理情報やプログラム14Pを記憶する機能を有している。
プログラム14Pは、演算処理部15に読み出されて実行されるプログラムであり、予め外部装置や記録媒体から通信I/F部11を介して記憶部14へ格納される。
【0037】
演算処理部15は、CPUなどのマイクロプロセッサとその周辺回路を有し、記憶部14からプログラム14Pを読み込んで実行することにより、各種処理部を実現する機能を有している。
演算処理部15で実現される主な処理部として、データ入力部15A、正規操作量算出部15B、仮操作量算出部15C、および空調指示部15Dがある。
【0038】
データ入力部15Aは、空調システム20などの外部装置や記録媒体から通信I/F部11を介して入力された、演算処理部15で用いる各種処理情報を、記憶部14へ予め格納する機能を有している。
【0039】
正規操作量算出部15Bは、データ入力部15Aで取得した境界条件データ14Aと設定条件データ14BとをCFD順解析することにより、空調空間50全体の温度分布などの空調環境を推定する機能と、CFD順解析で得られた空調環境とデータ入力部15Aで取得した目的データ14CとをCFD逆解析することにより、空調空間50を目的空調環境へ制御するための正規操作量を空調機器ごとに算出し、正規操作量データ14Dとして出力する機能とを有している。
【0040】
分布系流動解析手法とは、CFD(Computational Fluid Dynamics:数値流体力学)を基本として、境界条件から空間の温度や気流等の分布を数値計算によって求める技術である。一般的なCFDでは、対象空間を網目状の小空間に分割し、隣接する小空間間における熱流を解析する。
【0041】
正規操作量算出部15BにおけるCFD順解析は、この分布系流動解析手法を用いて、空調空間50に関する境界条件データ14Aおよび設定条件データ14Bから、空調空間50内の温度分布や気流分布などの空調環境を算出する技術であり、具体的には非特許文献2などの公知技術を用いればよい。
一方、正規操作量算出部15BにおけるCFD逆解析は、CFD順解析を行うことにより、所望の空調環境を実現したい場所に対する設備の感度(または寄与)を求め、この感度の大きさによって操作量を調整することにより、目的の空調環境を実現するための最終的な操作量を算出する技術であり、具体的には非特許文献2や非特許文献3などの公知技術を用いればよい。
【0042】
境界条件データ14Aは、空調空間50の空調環境に対する影響度を示すデータであり、空調空間50の空調環境に与える影響が変化する構成要素ごとに、当該時点における境界条件として、風速、風向・温度で示される影響度が登録されている。この境界条件データ14Aには、データ入力部15Aにより空調システム20から取得した、各空調機器22から吹き出す調和空気の吹出風量や吹出温度など、空調システム20における調和空気の制御状況を示すデータも含まれている。
【0043】
設定条件データ14Bは、空調空間50に関する位置および形状や、空調システム20で生成された調和空気の吹出口など、空調空間50の空調環境に影響を与える構成要素に関する位置および形状を示す空間条件データ、空調空間50に配置された各発熱体に関する配置位置および発熱量、さらには形状を示す発熱体データなど、熱流動解析処理を行う際の設定条件となる各種データが含まれている。
【0044】
目的データ14Cは、空調空間50内の目的場所Xにおける目標温度Txsを示すデータである。
正規操作量データ14Dは、空調空間50を目的空調環境へ制御するための、空調機器ごとの正規操作量を示すデータである。
【0045】
仮操作量算出部15Cは、空調空間50を目的とする空調環境へ近づけるための仮操作量を、正規操作量算出部15Bでの正規操作量の推定処理と並行して、正規操作量算出部15Bでの正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で空調機器ごとに算出し、仮操作量データ14Gとして出力する機能を有しいてる。
【0046】
本実施の形態では、仮操作量算出部15Cは、空調機器ごとに仮操作量を算出する際の具体的方法として、予め設定された制御特性に基づいて、データ入力部15Aで取得した設定温度データ14Eとデータ入力部15Aにより空調システム20から取得した計測温度データ14Fとの偏差に応じた操作量を算出する場合について説明する。
【0047】
設定温度データ14Eは、空調空間50を目的空調環境へ制御するための設定温度である。
計測温度データ14Fは、空調空間50内の各温度計で計測した室温を示すデータである。
仮操作量データ14Gは、空調空間50を目的空調環境へ制御するための、空調機器ごとの仮操作量を示すデータである。
【0048】
空調指示部15Dは、仮操作量算出部15Cで推定した仮操作量を、通信I/F部11を介して空調システム20へ指示することにより、空調空間50に対する仮空調制御を開始する機能と、仮空調制御を開始した後に正規操作量算出部15Bで正規操作量が得られた時点で、仮操作量に代えて正規操作量を、通信I/F部11を介して空調システム20へ指示することにより、空調空間50に対する正規空調制御を開始する機能とを有している。
【0049】
[第1の実施の形態の動作]
次に、図4を参照して、本実施の形態にかかる空調制御装置10の動作について説明する。図4は、第1の実施の形態にかかる空調制御処理を示すフローチャートである。
空調制御装置10の演算処理部15は、起動時あるいはオペレータ操作に応じて、図4の空調制御処理を開始する。なお、空調制御処理の実行開始に先立って、境界条件データ14Aや設定条件データ14Bが予め記憶部14に格納されているものとする。
【0050】
まず、正規操作量算出部15Bは、データ入力部15Aで取得した境界条件データ14Aと設定条件データ14Bとを記憶部14から読み出してCFD順解析することにより、空調空間50全体の空調環境を推定する(ステップ100)。
【0051】
次に、正規操作量算出部15Bは、CFD順解析で推定した空調環境と、空調空間50内の目的場所Xにおける目標温度Txsを示す目的データ14CとをCFD逆解析することにより、各空調機器に関する、空調空間50を目的空調環境へ制御するための正規操作量Vssの算出処理を開始する(ステップ101)。
【0052】
また、仮操作量算出部15Cは、正規操作量算出部15Bでの正規操作量Vssの算出処理と並行して、正規操作量の精度より低い精度で、空調空間50を目的空調環境とするための仮操作量Vstを、空調機器ごとに算出する(ステップ102)。
【0053】
一般に、設定値までの到達時間を短縮する場合、フィードバック制御が用いられる。フィードバック制御は、予め設定された制御特性に基づいて、設定値と計測値との偏差に対応する、前回の操作量に対する差分、すなわち操作量差分を求め、この操作量差分に基づき対象を制御する制御方法である。
【0054】
例えば、フィードバック制御のうち最も一般的なPID制御では、偏差に対する、比例成分(P:Proportinal)、積分成分(I:Integral)、微分成分(D:Differential)の3つの成分の組み合わせで操作量差分を求める制御特性を用いる。比例成分に対する係数をKp、積分成分に対する係数をKi、微分成分に対する係数をKdとした場合、偏差に対する操作量差分は、次の式(1)で求められる。
操作量差分=Kp×偏差+Ki×偏差の累積値+Kd×前回偏差との差 …(1)
【0055】
したがって、仮操作量算出部15Cで仮操作量を求める場合、例えば前述の図2に示したように、ゾーンZ1〜Z4ごとに、データ入力部15Aにより空調システム20から取得した計測温度データ14Fと、データ入力部15Aで取得した設定温度データ14Eで指定された設定温度との偏差に応じた操作量を、前述した式(1)などからなる制御特性に基づいて算出すればよい。なお、このような制御特性に基づく操作量の算出は、例えば式(1)などの算出式を実行するだけなので、CFD逆解析に比較して、極めて短い処理時間で操作量を算出することが可能である。
【0056】
このようにして算出した仮操作量は、空調制御開始時の空調空間50を目的空調環境へ制御するための設定温度データ14Eから算出したものであるから、この仮操作量を用いて仮空調制御を行うことにより、空調空間50は、CFD逆解析で算出する正規操作量と同様の空調環境へ導かれることになる。
【0057】
続いて、空調指示部15Dは、仮操作量算出部15Cで算出した仮操作量を、通信I/F部11を介して空調システム20へ指示することにより、空調空間50に対する仮空調制御を開始する(ステップ103)。
この後、空調指示部15Dは、仮操作量算出部15Cで正規操作量が算出されるまで仮空調制御を継続する(ステップ104:NO)。
【0058】
一方、仮空調制御を開始した後に正規操作量算出部15Bで正規設定温度が得られた場合(ステップ104:YES)、空調指示部15Dは、仮操作量に代えて正規操作量を、通信I/F部11を介して空調システム20へ指示することにより、空調空間50に対する正規空調制御を開始し(ステップ105)、一連の空調制御処理を終了する。
【0059】
図5は、第1の実施の形態にかかる空調制御装置での空調制御の推移を示す説明図であり、横軸は時間を示し、縦軸は空調空間50内の任意の位置における室温を示している。
時刻T0において、空調空間50を目的空調環境とするための空調制御が開始され、まもなく仮操作量が算出されて仮空調制御が開始される。この後、時刻T1に、正規操作量が算出されて正規空調制御が開始される。
【0060】
したがって、仮空調制御を行った場合、特性51に示すように、室温は時刻T1の時点で設定温度に近づいており、時刻T1からの正規空調制御により、その後の時刻T2に設定温度へ到達している。一方、仮空調制御を行わない場合、時刻T1になって初めて正規空調制御が開始されるため、特性52に示すように、室温は時刻T0から時刻T1まであまり変化せず、時刻T2以降の時刻T3になって設定温度に到達している。
このため、仮空調制御を行ったほうが、空調制御を開始した時刻T1から設定温度へ到達するまでの到達時間が短縮されており、空調制御において良好な応答性が得られることが分かる。
【0061】
[第1の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、正規操作量算出部15Bで、空調空間50の空調環境をCFD逆解析することにより、空調空間50を目的空調環境へ制御するための正規操作量を空調機器ごとに算出し、仮操作量算出部15Cで、空調空間50を目的空調環境へ近づけるための仮操作量を、正規操作量の算出処理と並行して、正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で空調機器ごとに算出し、空調指示部15Dで、仮操作量を空調システム20へ指示することにより空調空間50に対する仮空調制御を開始し、この後に正規操作量が算出された時点で、正規操作量を空調システム20へ指示することにより空調空間50に対する正規空調制御を開始するようにしたものである。
【0062】
これにより、正規操作量が算出されて正規空調制御が開始される前に、仮操作量を用いた仮空調制御が開始されるため、正規空調制御が開始される時点で、空調空間50を目的とする空調環境へ近づけることができ、正規空調制御の開始から空調空間50が目的空調環境となるまでの所要時間が短縮される。
このため、空調制御開始から空調空間50が目的空調環境となるまでの全体の到達時間を短縮することができる。したがって、空調空間50を目的の空調環境へ制御するための操作量を分布系流動解析手法で算出する場合でも、良好な応答性を得ることが可能となる。
【0063】
また、本実施の形態では、仮操作量算出部15Cは、空調機器ごとに仮操作量を算出する際の具体的方法として、予め設定された制御特性に基づいて、データ入力部15Aで取得した設定温度データ14Eと、データ入力部15Aにより空調システム20から取得した計測温度データ14Fに含まれる空調空間50で計測した計測温度との偏差に応じた操作量を仮操作量として算出するようにしたので、極めて簡素な構成で、正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で、空調機器22ごとに仮操作量を算出することができる。
【0064】
また、本実施の形態では、仮空調制御を開始してから正規空調制御が開始されるまでの間、仮空調制御の開始時に算出した仮操作量を固定的に用いる場合について説明したが、仮空調制御の途中で仮操作量を再計算し、得られた新たな仮操作量を用いて仮空調制御を継続するようにしてもよい。これにより、例えば空調空間50内の任意のゾーンにおいて計測温度が変化した場合には、その計測温度と設定温度との新たな偏差に応じたより適切な仮操作量を用いて仮空調制御を行うことができ、仮空調制御において、空調空間50の空調環境を目的とする空調環境へ効率よく近づけることができる。
【0065】
また、本実施の形態では、空調制御装置10において、空調空間50の空調環境のうち温度分布を制御する場合を例として説明したが、これに限定されるものではなく、風速、湿度、CO2濃度、温度・湿度・風速・放射温度などから計算される体感温度など、空調空間50における温度以外の空調環境についても、前述と同様に制御することができ、同様の作用効果を奏することができる。
【0066】
[第2の実施の形態]
次に、図6〜図8を参照して、本発明の第2の実施の形態にかかる空調制御装置について説明する。図6は、第2の実施の形態にかかる空調制御装置の構成を示すブロック図である。図7は、第2の実施の形態にかかる空調空間の構成例を示す説明図である。図8は、第2の実施の形態にかかる空調制御装置での空調制御動作を示すフロー図である。
【0067】
第1の実施の形態では、仮操作量算出部15Cは、空調機器22ごとに仮操作量を算出する際の具体的方法として、予め設定された制御特性に基づいて仮操作量として算出する場合について説明した。本実施の形態では、過去に得られた経験則に基づいて、仮操作量を決定する場合について説明する。
【0068】
例えば、省エネルギーを考慮して空調制御を行う場合、人が存在しないゾーンについては風量を最低風量とすることにより、省エネルギー効果が得られるという経験則がある。
本実施の形態にかかる仮操作量算出部15Cは、任意のゾーンに人が存在しないことが確認された場合、当該ゾーンに関する仮操作量として、最低風量を示す操作量、すなわち最低操作量を選択する機能を有している。
【0069】
なお、空調機には最低限維持すべき風量条件が設定されているものがあり、このような場合には、空調機に接続されている空調機器のいずれかで風量をゼロとし、他の空調機器で風量条件を満足していればよい。
したがって、人が存在しないゾーンにおける最低風量は常にゼロではなく、例えば、空調機の風量条件分の風量から人が存在する各ゾーンの合計風量を減算した残り風量を、人が存在しないゾーンで按分するなど、他のゾーンでの風量との兼ね合いで決定される。この例では、残り風量がゼロの場合、人が存在しないゾーンの風量もゼロとなる。
【0070】
本実施の形態において、空調空間50には、ゾーンZ1〜Z4内に在圏する人の人数や位置を確認し、通信回線Lを介して空調制御装置10へ通知する存在確認システム30が設置されている。HS1〜HS4は、ゾーンZ1〜Z4の天井にそれぞれ1つまたは複数個設置された位置検知センサからなる。存在確認システム30は、これらHS1〜HS4で確認した、人の位置や人数などの確認結果を、確認結果データ14Hとして空調制御装置10へ通知する機能を有している。この確認結果データ14Hについては、正規操作量算出部15BでCFD逆解析を行う際に用いる、空調空間50内の発熱体に関する数や位置などの情報として用いてもよい。
なお、本実施の形態にかかるこのほかの構成については、前述した図1と同様であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0071】
[第2の実施の形態の動作]
次に、前述した図4を参照して、本実施の形態にかかる空調制御装置10の動作について説明する。
本実施の形態にかかる空調制御装置10は、図4のステップ102において、仮操作量算出部15Cにより、正規操作量算出部15Bでの正規操作量Vssの算出処理と並行して、正規操作量の精度より低い精度で、空調空間50を目的空調環境とするための仮操作量Vstを、空調機器22ごとに算出する。
【0072】
この際、仮操作量算出部15Cは、データ入力部15Aにより存在確認システム30から取得した確認結果データ14Hに基づいて、ゾーンZ1〜Z4ごとに、人の存在有無を確認する。
ここで、人が存在するゾーンが確認された場合、仮操作量算出部15Cは、第1の実施の形態と同様にして、空調システム20から取得した計測温度データ14Fと設定温度データ14Eとの偏差に応じた操作量を、前述した式(1)などからなる制御特性に基づいて算出し、当該ゾーンに対応する空調機器22の仮操作量とする。
【0073】
一方、人が存在しないゾーンが確認された場合、仮操作量算出部15Cは、当該ゾーンに対応する空調機器22の仮操作量として、風量ゼロを示す操作量を選択する。
なお、図4におけるこの他のステップについては、第1の実施の形態と同様であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0074】
[第2の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態では、仮操作量算出部15Cにより、空調空間50に対して設置されている存在確認システム30から取得した確認結果データ14Hに基づいて、空調空間50に設けたゾーンZ1〜Z4ごとに人の存在有無を確認し、吹出口F1〜F4のうち人が存在しないゾーンと対応する空調機器22の仮操作量として、風量ゼロを示す操作量を選択するようにしたものである。
これにより、極めて簡素な構成で、正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で、空調機器22ごとに、省エネルギーを考慮した仮操作量を算出することができる。
【0075】
また、本実施の形態では、人が存在するゾーンについては、第1の実施の形態で説明したように、空調システム20から取得した計測温度データ14Fとデータ入力部15Aで取得した設定温度データ14Eとの偏差に応じた操作量を、予め設定されている制御特性に基づいて算出する場合を例として説明したが、この際の仮操作量の算出方法については、これに限定されるものではなく、後述する他の実施の形態で説明する算出方法など、他の算出方法を適用してもよい。
【0076】
また、本実施の形態では、空調機器22ごとに仮操作量を算出するため、各空調機器22から吹き出す調和空気が直接影響を与えるエリアごとに、人の存在有無が確認できればよい。このため、存在確認システム30により人の正確な位置を検知する必要なく、例えば、図7に示すように、各ゾーンZ1〜Z4に対応して吹出口F1〜F4がそれぞれ1つずつ設置されている場合には、ゾーンごとに人の存在有無が確認できればよい。したがって、存在確認システム30としては、RFIDなど用いて人の位置を正確に検知できる一般的な位置検知システムのほか、既存の入退室管理システムなど、ゾーンに存在している人数を管理する機能を持つ他のシステムを存在確認システム30として用いてもよい。
【0077】
[第3の実施の形態]
次に、図9および図10を参照して、本発明の第3の実施の形態にかかる空調制御装置について説明する。図9は、第3の実施の形態にかかる空調制御装置の構成を示すブロック図である。図10は、第3の実施の形態にかかる空調制御装置での空調制御動作を示すフロー図である。
【0078】
第1の実施の形態では、空調機器22ごとに仮操作量を算出する際の具体的方法として、予め設定された制御特性に基づいて、データ入力部15Aで取得した設定温度データ14Eとデータ入力部15Aにより空調システム20から取得した計測温度データ14Fに含まれる空調空間50で計測した計測温度との偏差に応じた操作量を仮操作量として算出する場合を例として説明した。
【0079】
本実施の形態では、空調空間50で用いる空調機器22ごとの操作量を予めデータベース化しておき、空調空間50を目的空調環境とする空調制御を開始する際、当該空調制御の開始時における空調空間50の空調環境を示す環境条件データに基づいて、データベースから当該環境条件データと類似する環境条件データの操作量を検索することにより、仮操作量を算出する場合について説明する。
【0080】
図9に示すように、本実施の形態では、空調制御装置10の記憶部14に、操作量データベース(以下、操作量DB)14Iが設けられている。図11は、操作量データベースの構成例である。操作量DB14Iには、空調空間50における任意の空調環境を示す各種環境条件データと、分布系流動解析で予め算出した、空調空間50を当該空調環境から目標空調環境へ導くための操作量とが組として登録されている。
【0081】
図11の例では、環境条件データとして、温度センサで計測した空調空間50を取り巻く外気の外気温のほか、空調空間50内で変化する発熱体の位置や発熱量を示す発熱体データとが登録されており、これら環境条件データの組合せごとに、各VAV1〜VAV4における風量が操作量として登録されている。これら操作量については、過去にCFD逆解析で算出した正規操作量を用い、その算出時における各種環境条件データとともに、操作量DB14Iへ登録するようにしてもよい。
【0082】
また、操作量DB14Iに登録する環境条件データについては、空調空間50の空調環境を示す環境条件データのうちから、空調環境の変化への影響度の大きいものを取捨選択して用いるようにしてもよい。例えば、人の発熱量、空調空間50内に設置されたOA機器の位置や発熱量など、発熱体データのうちほぼ一定のものについては、操作量DB14Iの前提条件として組み込むことにより、環境条件データから除外することができる。
【0083】
したがって、発熱体データの具体例としては、空調空間50内に存在する人の位置が環境条件データとして有用となる。本実施の形態において、空調空間50には、第2の実施の形態と同様に、ゾーンZ1〜Z4内に在圏する人の人数や位置を検知し、通信回線Lを介して空調制御装置10へ通知する存在確認システム30が設置されている。HS1〜HS4は、ゾーンZ1〜Z4の天井にそれぞれ1つまたは複数個設置された位置検知センサからなる。存在確認システム30は、これらHS1〜HS4で検知された、人の位置や人数などの検知結果を、確認結果データ14Hとして空調制御装置10へ通知する機能を有している。
【0084】
また、外気温は、予め設定されている設定温度分布と比較することにより、空調による温度制御の方向性、すなわち温度の上げ下げや、その制御幅に大きな影響を持つ。したがって、発熱体データの具体例としては、外気温が環境条件データとして有用となる。外気温については、例えば、空調システム20に設けた外気温センサ24で検出して、空調処理装置21から通知されたものを、データ入力部15Aで取得すればよい。
【0085】
空調空間50で発生しうる空調環境は無限に近いため、実際には、これらすべての空調環境と対応する操作量を操作量DB14Iに登録しておくことはできない。したがって、本実施の形態では、CFD逆解析で推定したいくつかの空調環境と対応する操作量を予め操作量DB14Iに登録しておき、仮操作量算出部15Cにおいて、任意の空調環境と対応する操作量を検索する場合には、当該空調環境の環境条件データと類似する環境条件データの操作量を検索する、いわゆる類似検索を行う。
【0086】
類似検索の具体例について説明する。図12は、空調空間のゾーン分割例である。操作量DB14Iの環境条件データとして発熱体の位置とその熱量を用いる場合、空調空間50を空調制御単位であるゾーンZ1〜Z4より小さい小ゾーンに分割し、これら小ゾーンに存在する発熱体からの発熱量を環境条件データとして用いればよい。図12の例では、ゾーンZ1〜Z4が、それぞれ20個の小ゾーンに分割されている。
【0087】
図13は、操作量データベースを構成する環境条件データの構成例である。ここでは、仮操作量を識別するためのIDごとに、外気温と各小ゾーンに存在する発熱体からの発熱量とが組として登録されている。また、発熱量は、人と人以外とに区別して登録されている。
図14は、操作量データベースを構成する操作量データの構成例である。ここでは、仮操作量を識別するためのIDごとに、各VAV1〜VAV4へ供給する調和空気の給気温度と各VAV1〜VAV4から調和空気を送風する際の風量とが組として登録されている。
【0088】
これら環境条件データと操作量データとが、それぞれのIDで1つのエントリとして対応付けられて、操作量DB14Iを構成する。なお、操作量DB14Iに登録されている各操作量は、例えば空調空間50の全エリアで室温を26℃とするというような、予め特定した目的空調環境と対応したものであり、任意の空調環境に対応する操作量を検索するものではない。なお、任意の目的空調環境と対応した操作量を検索したい場合には、それぞれの目的空調環境ごとに用意した操作量DB14Iを切り替えて用いればよい。
【0089】
一般的には、小ゾーンの大きさを細かくするほど、より正確な仮操作量を操作量DB14Iから検索できる。例えば、存在確認システム30としてRFIDなど用いた一般的な位置検知システムを適用した場合、50cm〜数m程度の精度で人の存在を検知できる。
なお、後述するような類似検索では、複数の小ゾーンからなる類似検索ゾーンを新たに定義するため、この類似検索ゾーンごとに人の位置を検知できればよい。したがって、RFIDなど用いた一般的な位置検知システムのほか、既存の入退室管理システムなど、類似検索ゾーンに存在している人数を管理する機能を持つ他のシステムを存在確認システム30として用いてもよい。
【0090】
仮操作量算出部15Cは、データ入力部15Aで取得した存在確認システム30からの確認結果データ14Hに含まれる、人の位置情報を含む検索条件で、記憶部14の操作量DB14Iを検索して、空調空間50を目的とする空調環境に近づけるための仮操作量を算出する機能を有している。
【0091】
一般的な検索方法によれば、図13に示したように、すべての小ゾーンにおける発熱量を検索キーとして操作量DB14Iを検索することになる。しかしながら、小ゾーンと発熱量との組合せは膨大な数となるため、指定された検索キーと一致する操作量が見つかる可能性は、極めて低い。
本実施の形態にかかる類似検索では、空調制御単位であるゾーンZ1〜Z4、あるいはゾーンZ1〜Z4よりも小さく複数の小ゾーンからなる中ゾーンを、類似検索ゾーンと定義し、これら類似検索ゾーンを単位とした環境条件データおよび検索キーに基づいて検索を行う。
【0092】
例えば、ゾーンZ1〜Z4を類似検索ゾーンとした場合、ゾーンZ1に属する20個の小ゾーンZ101〜Z120における人の発熱量は、例えばこれら発熱量の平均値や中央値など、これら発熱量を統計処理することにより得られる、これら発熱量の代表値に集約される。これにより、すべての小ゾーンに関する発熱量は、人および人以外の両方について、類似検索ゾーンに対応してそれぞれ4つ、合計8つの環境条件データに集約される。このため、類似検索ゾーンと集約された発熱量との組合せを、大幅に削減することができ、指定された検索キーと一致する操作量が見つかる可能性が大きくなる。
【0093】
本実施の形態にかかる仮操作量算出部15Cは、このような類似検索を行うための機能として、存在確認システム30から通知された確認結果データ14Hに含まれる、各小ゾーンに存在する人の人数と、予め設定されている1人当たりの発熱量とから、小ゾーンごとの人の発熱量を計算する機能と、これら小ゾーンごとの人の発熱量を集約して類似検索ゾーンごとの人の検索用発熱量を計算する機能と、データ入力部15Aで入力された小ゾーンごとの人以外の発熱量を集約して類似検索ゾーンごとの人以外の検索用発熱量を計算する機能とを有している。
【0094】
さらに、仮操作量算出部15Cは、操作量DB14Iに登録されている各エントリについて、当該環境条件データとして登録されている小ゾーンごとの人および人以外の発熱量を集約して類似検索ゾーンごとの人および人以外の被検索用発熱量を計算する機能と、データ入力部15Aで入力された検索用外気温と、前述した類似検索ゾーンごとの人および人以外の検索用発熱量とを検索キーとして、操作量DB14Iに登録されている各エントリのうちから、環境条件データとして登録されている被検索用外気温と類似検索ゾーンごとの人および人以外の被検索用発熱量とが一致するエントリを検索する機能と、検索により得られた一致エントリに登録されている操作量を操作量DB14Iから読み出し、仮操作量データ14Gとして出力する機能とを有している。
【0095】
なお、図13に示した、操作量DB14Iの環境条件データとして、小ゾーンごとの発熱量に代えて、これら小ゾーンごとの発熱量から算出した、類似検索ゾーンごとの検索用発熱量を登録しておいてもよい。
また、本実施の形態にかかるこのほかの構成については、前述した図1と同様であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0096】
[第3の実施の形態の動作]
次に、前述した図4を参照して、本実施の形態にかかる空調制御装置10の動作について説明する。
本実施の形態にかかる空調制御装置10は、図4のステップ102において、仮操作量算出部15Cにより、正規操作量算出部15Bでの正規操作量Vssの算出処理と並行して、正規操作量の精度より低い精度で、空調空間50を目的空調環境とするための仮操作量Vstを、空調機器22ごとに算出する。
【0097】
この際、仮操作量算出部15Cは、データ入力部15Aにより存在確認システム30から取得した確認結果データ14Hに基づいて、類似検索ゾーンごとに、人の位置を確認し、当該類似検索ゾーンにおける人の位置や人数を含む発熱体データを検索キーとする。
また、仮操作量算出部15Cは、データ入力部15Aにより空調システム20から外気温を取得して検索キーに含めるとともに、データ入力部15Aにより取得した設定条件データ14Bから空調空間50に配置された電気機器などの各発熱体に関する発熱体データを検索キーに含める。
【0098】
この後、仮操作量算出部15Cは、このようにして生成した検索キーに基づいて、記憶部14の操作量DB14Iについて、前述した類似検索を実行し、当該検索キーと対応する操作量を、それぞれのゾーンの仮操作量として選択する。
なお、図4におけるこの他のステップについては、第1の実施の形態と同様であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0099】
[第3の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、空調空間50における任意の空調環境を示す各種環境条件データからなる環境条件データと、当該空調環境において空調空間50を目的空調環境へ導くための操作量データとが組として登録されている操作量DB14Iを設け、仮操作量算出部15Cで、仮操作量の算出時における空調空間50の空調環境を示す環境条件データを含む検索キーに基づき、操作量DB14Iを類似検索することにより仮操作量を選択するようにしたものである。
これにより、極めて簡素な構成で、正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で、空調機器22ごとに、空調空間50を目的空調環境へ導くために最適な仮操作量を特定することができる。
【0100】
また、本実施の形態では、発熱量をその発生位置について集約して類似検索する方法、具体的には、小ゾーンごとの発熱量を類似検索ゾーンに集約した発熱量に基づき、操作量DB14Iを類似検索するようにしたので、仮操作量の算出時における空調空間50の空調環境に応じた仮操作量を、操作量DB14Iから高い確率で検索することが可能となる。
なお、本実施の形態にかかる類似検索は、前述した類似検索方法に限定されるものではなく、他の方法を用いてもよい。
【0101】
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態にかかる空調制御装置10について説明する。
第1および第3の実施の形態では、CFD逆解析以外の処理方法で仮操作量を算出する場合を例として説明した。本実施の形態では、CFD逆解析を用いて仮操作量を算出する場合について説明する。なお、本実施の形態にかかる空調制御装置10の構成は、前述した図1と同様であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0102】
前述したように、CFD逆解析では、空調空間50内の各ポイントにおいて、目的空調環境下における当該ポイントに関する設定値と、解析処理途中で得られた当該ポイントに関する算出設定値との偏差が最も小さくなるよう、操作量の選択および修正を繰り返し実行する。このため、空調空間50を目的空調環境へ導くための真の操作量との誤差が小さくて高い精度の操作量を算出するには、膨大な演算処理が必要となる。
【0103】
ここで、CFD逆解析では、操作量の算出処理条件として、真の操作量との誤差にかかわるいくつかの条件を設定することができる。したがって、このような算出処理条件を緩和して、真の操作量との誤差が大きくて低い精度の操作量を仮操作量として算出すれば、CFD逆解析を用いた場合でも、短い所要時間で仮操作量を算出することができる。
【0104】
例えば、CFD逆解析では、空調空間50を網目状の小空間からなるメッシュに分割して、隣接するメッシュ間における熱流を解析している。したがって、算出処理条件で決定されるメッシュのサイズを大きくして全体のメッシュ数を削減すれば、メッシュごとに繰り返す反復処理数を削減でき、結果として操作量の算出に要する所要時間を短縮することができる。
【0105】
また、算出処理条件には、操作量の算出終了を判定するための収束判定条件が含まれており、この収束判定条件を緩和することにより算出処理の反復回数を抑制し、早期に操作量の算出を終了させることができ、結果として操作量の算出に要する所要時間を短縮することができる。このほか、算出処理条件として設定する、算出処理の発散を抑制するための緩和係数や、算出処理の収束性を制御するためのクーラン数を緩和してもよい。
【0106】
また、設定条件データ14Bに含まれる発熱体データについて、空調空間50内に配置されている発熱体からの発熱を、固体表面の発熱から空間の発熱にモデル化してもよく、あるいは複数の発熱体を1つの発熱体にまとめてモデル化してもよい。さらには、発熱体の形状を長方形などのシンプルな形状に簡略化してもよく、いわゆるbox法を利用して吹出口(アネモスタットやパッケージ型)のモデルを簡略化してもよい。
【0107】
[第4の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、仮操作量算出部15Cにおいて、正規操作量算出部15Bにおける正規操作量の算出処理より低い算出精度でCFD逆解析することにより、仮操作量を算出するようにしたので、正規操作量より短い時間で仮操作量を算出することができる。また、このことにより、空調システム20からの計測温度データ14Fや、人の存在を確認する存在確認システム30からの確認結果データ14Hを必要とすることなく、仮操作量を算出することができる。
【0108】
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態にかかる空調制御装置10について説明する。
第4の実施の形態では、正規操作量算出部15Bにおける正規操作量の算出処理より低い算出精度でCFD逆解析することにより、仮操作量を算出する場合を例として説明した。本実施の形態では、正規操作量算出部15Bにおける正規操作量の算出処理の途中で得られる操作量を、仮操作量として算出する場合について説明する。なお、本実施の形態にかかる空調制御装置10の構成は、前述した図1と同様であり、ここでの詳細な説明は省略する。
【0109】
前述したように、CFD逆解析では、空調空間50内の各ポイントにおいて、目的空調環境下における当該ポイントに関する設定値と、解析処理途中で得られた当該ポイントに関する算出設定値との偏差が最も小さくなるよう、操作量の選択および修正を繰り返し実行する。このため、正規操作量算出部15Bにおける正規操作量の算出処理の途中において、正規操作量と比較して、真の操作量との誤差が大きく、精度の低い操作量が算出されている。したがって、このような正規操作量の算出処理の途中で得られる操作量を、仮操作量として利用することができる。
【0110】
[第5の実施の形態の効果]
このように、本実施の形態は、仮操作量算出部15Cにおいて、正規操作量算出部15Bにおける正規操作量の算出処理の途中で得られる操作量を仮操作量として算出するようにしたので、正規操作量より短い時間で仮操作量を算出することができる。また、このことにより、空調システム20からの計測温度データ14Fや、人の存在を確認する存在確認システム30からの確認結果データ14Hを必要とすることなく、仮操作量を算出することができる。
【0111】
[実施の形態の拡張]
以上、実施形態を参照して本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0112】
10…空調制御装置、11…通信I/F部、12…操作入力部、13…画面表示部、14…記憶部、14A…境界条件データ、14B…設定条件データ、14C…目的データ、14D…正規操作量データ、14E…設定温度データ、14F…計測温度データ、14G…仮操作量データ、14H…確認結果データ、14I…操作量DB、15…演算処理部、15A…データ入力部、15B…正規操作量算出部、15C…仮操作量算出部、15D…空調指示部、20…空調システム、21…空調処理装置、22…空調機器、23…温度センサ、24…外気温センサ、30…存在確認システム、50…空調空間、Z1〜Z4…ゾーン、VAV1〜VAV4…空調機器、F1〜F4…吹出口、TH1〜TH4…温度センサ、HS1〜HS4…位置検知センサ、Vss…正規操作量、Vst…仮操作量。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空調空間に設けられた空調機器を制御する空調システムに対して、前記空調機器での操作量を指示することにより、前記空調空間を任意の目的空調環境へ制御する空調制御装置であって、
前記空調空間の構成および前記空調空間内の空調環境への影響を示す条件データと、前記目的空調環境下における前記空調空間内の目的場所での目標値を示す目的データとに基づいて、前記空調空間内の空調環境を分布系流動解析することにより、前記空調空間を前記目的空調環境へ制御するための正規操作量を、前記空調機器ごとに算出する正規操作量算出部と、
前記空調空間を前記目的空調環境へ近づけるための仮操作量を、前記正規操作量の算出処理と並行して、前記正規操作量算出部での前記正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で、前記空調機器ごとに算出する仮操作量算出部と、
前記仮操作量算出部で算出した前記仮操作量を前記空調システムへ指示することにより前記空調空間に対する仮空調制御を開始し、この後に前記正規操作量算出部で前記正規操作量が算出された時点で、前記正規操作量を前記空調システムへ指示することにより前記空調空間に対する正規空調制御を開始する空調指示部と
を備えることを特徴とする空調制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の空調制御装置において、
前記仮操作量算出部は、予め設定された制御特性に基づいて、前記目的空調環境に応じて予め設定された設定値と前記空調空間で計測した計測値との偏差に応じた操作量を前記仮操作量として算出することを特徴とする空調制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の空調制御装置において、
前記仮操作量算出部は、前記空調空間における人の存在を確認する存在確認システムから取得した確認結果に基づいて、前記空調空間に設けたゾーンごとに人の存在有無を確認し、前記空調機器のうち人が存在しないゾーンと対応する前記空調機器の仮操作量として、予め設定した最低操作量を選択することを特徴とする空調制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の空調制御装置において、
前記空調空間における任意の空調環境を示す環境条件データと、分布系流動解析で予め算出した、前記空調空間を当該空調環境から前記目的空調環境へ導くための操作量とが組として複数登録されている操作量データベースをさらに備え、
前記仮操作量算出部は、前記仮操作量の算出時における前記空調空間の空調環境を示す環境条件データに基づいて前記操作量データベースを類似検索し、得られた前記操作量を前記仮操作量として選択する
ことを特徴とする空調制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の空調制御装置において、
前記仮操作量算出部は、前記正規操作量算出部における前記正規操作量の算出処理より低い算出精度で、前記条件データと前記目的データとに基づく前記分布系流動解析を行うことにより、前記仮操作量を算出することを特徴とする空調制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の空調制御装置において、
前記仮操作量算出部は、前記正規操作量算出部における前記正規操作量の算出処理の途中で得られる操作量を、前記仮操作量として算出することを特徴とする空調制御装置。
【請求項7】
空調空間に設けられた空調機器を制御する空調システムに対して、前記空調機器での操作量を指示することにより、前記空調空間を任意の目的空調環境へ制御する空調制御装置で用いる空調制御方法であって、
正規操作量算出部が、前記空調空間の構成および前記空調空間内の空調環境への影響を示す条件データと、前記目的空調環境下における前記空調空間内の目的場所での目標値を示す目的データとに基づいて、前記空調空間内の空調環境を分布系流動解析することにより、前記空調空間を前記目的空調環境へ制御するための正規操作量を、前記空調機器ごとに算出する正規操作量算出ステップと、
仮操作量算出部が、前記空調空間を前記目的空調環境へ近づけるための仮操作量を、前記正規操作量の算出処理と並行して、前記正規操作量算出部での前記正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で、前記空調機器ごとに算出する仮操作量算出ステップと、
空調指示部が、前記仮操作量算出ステップで算出した前記仮操作量を前記空調システムへ指示することにより前記空調空間に対する仮空調制御を開始し、この後に前記正規操作量算出ステップで前記正規操作量が算出された時点で、前記正規操作量を前記空調システムへ指示することにより前記空調空間に対する正規空調制御を開始する空調指示ステップと
を備えることを特徴とする空調制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の空調制御方法において、
前記仮操作量算出ステップは、予め設定された制御特性に基づいて、前記目的空調環境に応じて予め設定された設定値と前記空調空間で計測した計測値との偏差に応じた操作量を前記仮操作量として算出することを特徴とする空調制御方法。
【請求項9】
請求項7に記載の空調制御方法において、
前記仮操作量算出ステップは、前記空調空間における人の存在を確認する存在確認システムから取得した確認結果に基づいて、前記空調空間に設けたゾーンごとに人の存在有無を確認し、前記空調機器のうち人が存在しないゾーンと対応する前記空調機器の仮操作量として、予め設定した最低操作量を選択することを特徴とする空調制御方法。
【請求項10】
請求項7に記載の空調制御方法において、
前記空調空間における任意の空調環境を示す環境条件データと、分布系流動解析で予め算出した、当該空調環境から前記空調空間を前記目的空調環境へ導くための操作量とが組として複数登録されている操作量データベースをさらに備え、
前記仮操作量算出ステップは、前記仮操作量の算出時における前記空調空間の空調環境を示す環境条件データに基づいて、前記操作量データベースを類似検索し、得られた前記操作量を前記仮操作量として選択する
ことを特徴とする空調制御方法。
【請求項11】
請求項7に記載の空調制御方法において、
前記仮操作量算出ステップは、前記正規操作量算出ステップにおける前記正規操作量の算出処理より低い算出精度で、前記条件データと前記目的データとに基づく前記分布系流動解析を行うことにより、前記仮操作量を算出することを特徴とする空調制御方法。
【請求項12】
請求項7に記載の空調制御方法において、
前記仮操作量算出ステップは、前記正規操作量算出ステップにおける前記正規操作量の算出処理の途中で得られる操作量を、前記仮操作量として算出することを特徴とする空調制御方法。
【請求項1】
空調空間に設けられた空調機器を制御する空調システムに対して、前記空調機器での操作量を指示することにより、前記空調空間を任意の目的空調環境へ制御する空調制御装置であって、
前記空調空間の構成および前記空調空間内の空調環境への影響を示す条件データと、前記目的空調環境下における前記空調空間内の目的場所での目標値を示す目的データとに基づいて、前記空調空間内の空調環境を分布系流動解析することにより、前記空調空間を前記目的空調環境へ制御するための正規操作量を、前記空調機器ごとに算出する正規操作量算出部と、
前記空調空間を前記目的空調環境へ近づけるための仮操作量を、前記正規操作量の算出処理と並行して、前記正規操作量算出部での前記正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で、前記空調機器ごとに算出する仮操作量算出部と、
前記仮操作量算出部で算出した前記仮操作量を前記空調システムへ指示することにより前記空調空間に対する仮空調制御を開始し、この後に前記正規操作量算出部で前記正規操作量が算出された時点で、前記正規操作量を前記空調システムへ指示することにより前記空調空間に対する正規空調制御を開始する空調指示部と
を備えることを特徴とする空調制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の空調制御装置において、
前記仮操作量算出部は、予め設定された制御特性に基づいて、前記目的空調環境に応じて予め設定された設定値と前記空調空間で計測した計測値との偏差に応じた操作量を前記仮操作量として算出することを特徴とする空調制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の空調制御装置において、
前記仮操作量算出部は、前記空調空間における人の存在を確認する存在確認システムから取得した確認結果に基づいて、前記空調空間に設けたゾーンごとに人の存在有無を確認し、前記空調機器のうち人が存在しないゾーンと対応する前記空調機器の仮操作量として、予め設定した最低操作量を選択することを特徴とする空調制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の空調制御装置において、
前記空調空間における任意の空調環境を示す環境条件データと、分布系流動解析で予め算出した、前記空調空間を当該空調環境から前記目的空調環境へ導くための操作量とが組として複数登録されている操作量データベースをさらに備え、
前記仮操作量算出部は、前記仮操作量の算出時における前記空調空間の空調環境を示す環境条件データに基づいて前記操作量データベースを類似検索し、得られた前記操作量を前記仮操作量として選択する
ことを特徴とする空調制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の空調制御装置において、
前記仮操作量算出部は、前記正規操作量算出部における前記正規操作量の算出処理より低い算出精度で、前記条件データと前記目的データとに基づく前記分布系流動解析を行うことにより、前記仮操作量を算出することを特徴とする空調制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の空調制御装置において、
前記仮操作量算出部は、前記正規操作量算出部における前記正規操作量の算出処理の途中で得られる操作量を、前記仮操作量として算出することを特徴とする空調制御装置。
【請求項7】
空調空間に設けられた空調機器を制御する空調システムに対して、前記空調機器での操作量を指示することにより、前記空調空間を任意の目的空調環境へ制御する空調制御装置で用いる空調制御方法であって、
正規操作量算出部が、前記空調空間の構成および前記空調空間内の空調環境への影響を示す条件データと、前記目的空調環境下における前記空調空間内の目的場所での目標値を示す目的データとに基づいて、前記空調空間内の空調環境を分布系流動解析することにより、前記空調空間を前記目的空調環境へ制御するための正規操作量を、前記空調機器ごとに算出する正規操作量算出ステップと、
仮操作量算出部が、前記空調空間を前記目的空調環境へ近づけるための仮操作量を、前記正規操作量の算出処理と並行して、前記正規操作量算出部での前記正規操作量の算出所要時間より短い処理時間で、前記空調機器ごとに算出する仮操作量算出ステップと、
空調指示部が、前記仮操作量算出ステップで算出した前記仮操作量を前記空調システムへ指示することにより前記空調空間に対する仮空調制御を開始し、この後に前記正規操作量算出ステップで前記正規操作量が算出された時点で、前記正規操作量を前記空調システムへ指示することにより前記空調空間に対する正規空調制御を開始する空調指示ステップと
を備えることを特徴とする空調制御方法。
【請求項8】
請求項7に記載の空調制御方法において、
前記仮操作量算出ステップは、予め設定された制御特性に基づいて、前記目的空調環境に応じて予め設定された設定値と前記空調空間で計測した計測値との偏差に応じた操作量を前記仮操作量として算出することを特徴とする空調制御方法。
【請求項9】
請求項7に記載の空調制御方法において、
前記仮操作量算出ステップは、前記空調空間における人の存在を確認する存在確認システムから取得した確認結果に基づいて、前記空調空間に設けたゾーンごとに人の存在有無を確認し、前記空調機器のうち人が存在しないゾーンと対応する前記空調機器の仮操作量として、予め設定した最低操作量を選択することを特徴とする空調制御方法。
【請求項10】
請求項7に記載の空調制御方法において、
前記空調空間における任意の空調環境を示す環境条件データと、分布系流動解析で予め算出した、当該空調環境から前記空調空間を前記目的空調環境へ導くための操作量とが組として複数登録されている操作量データベースをさらに備え、
前記仮操作量算出ステップは、前記仮操作量の算出時における前記空調空間の空調環境を示す環境条件データに基づいて、前記操作量データベースを類似検索し、得られた前記操作量を前記仮操作量として選択する
ことを特徴とする空調制御方法。
【請求項11】
請求項7に記載の空調制御方法において、
前記仮操作量算出ステップは、前記正規操作量算出ステップにおける前記正規操作量の算出処理より低い算出精度で、前記条件データと前記目的データとに基づく前記分布系流動解析を行うことにより、前記仮操作量を算出することを特徴とする空調制御方法。
【請求項12】
請求項7に記載の空調制御方法において、
前記仮操作量算出ステップは、前記正規操作量算出ステップにおける前記正規操作量の算出処理の途中で得られる操作量を、前記仮操作量として算出することを特徴とする空調制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−237484(P2012−237484A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105990(P2011−105990)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000006666)アズビル株式会社 (1,808)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]