説明

空間の調湿構造

【課題】建物の外壁部の開口部としての窓24が断熱構造である場合に、その窓24に連通する室内空間の湿度を自動的に調節して、高湿化を回避する。
【解決手段】断熱構造の窓24に連通する空間の湿度を調節するために、空間の壁部に調湿壁材26を施工する。又は天井部に調湿天井材を施工する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外壁部ないし屋根部に断熱開口部が形成された建物内において、その断熱開口部に連通する空間の湿度を調節する調湿構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、民生部門のCO削減において、既存住宅の断熱改修が極めて重要であり、エネルギー基本計画では、既存住宅の省エネリフォームを現在の2倍程度にまで増加させる目標を掲げている。
【0003】
しかし、大規模な断熱改修工事が一般に普及しているとはあまり言い難い。そして、現状では、最も普及している断熱性能向上の手段としては、既存の窓等の開口部を断熱構造に改修することであり、住宅エコポイントの実施状況(2010年8月末の時点)によると、リフォームのうちの98.5%が窓の断熱改修によるものとされている。
【0004】
この窓の断熱改修は、既に窓に施工されている1枚の窓ガラスを断熱用の2枚のペアガラスに交換したり、その1枚の窓ガラスの室内側に別の窓ガラス(内窓)を施工したりすることで行われる(特許文献1参照)。
【0005】
この窓等の開口部は、他の部位に比べて断熱性能が低い部位であり、断熱改修により熱的快適性の向上や暖房負荷の低減に大きく寄与することができることは周知となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−266557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、このように窓等の開口部の断熱改修を行った場合、その断熱性の向上に伴い、窓ガラス表面の結露を大幅に減少させることができるものの、その反面では、絶対湿度の上昇により、行き場を失った湿気が空間内において熱的に弱い部位や空間に集中してしまい、その部位や空間で高湿化して黴やダニの発生を招来するという別の新たな問題が生じるのは避けられない。
【0008】
本発明は斯かる点に鑑みてなされたもので、その目的は、上記のように断熱構造でない既存の開口部に断熱改修を行った場合に限らず、さらには建物の新築の段階から開口部を断熱構造にする場合においても、その断熱開口部に連通する建物内空間の周囲構造に工夫を加えることにより、空間の湿度を自動的に調節して高湿化を回避しようとすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成すべく、この発明では、上記断熱開口部に連通する空間の周囲建材として調湿建材を用いるようにした。
【0010】
具体的には、請求項1の発明では、外壁部ないし屋根部に断熱開口部が形成された建物内の空間の湿度を調節する調湿構造として、上記空間の壁部又は天井部の少なくとも一方に調湿建材が施工されている構造とする。
【0011】
この請求項1の発明では、開口部が断熱構造であることで該断熱開口部に連通する建物内空間の湿気が行き場を失って熱的に弱い部位や空間に集中しようとしても、その空間の壁部又は天井部の少なくとも一方に調湿建材が施工されているので、この調湿建材により上記湿気に対する吸湿又は放湿が行われて空間が調湿されることとなり、空間の特定部位が高湿化することはなく、黴やダニの発生を未然に防止することができる。
【0012】
請求項2の発明では、上記断熱開口部は、建物の施工と同時に断熱構造となっているものとする。
【0013】
この請求項2の発明では、例えば建物の新規施工の時点で開口部が例えばペアガラス等の断熱用の窓ガラスにより断熱構造となっている場合に、その空間の壁部又は天井部の少なくとも一方に施工された調湿建材により、空間の湿気が調湿されることとなり、空間の特定部位の高湿化を防止することができる。
【0014】
一方、請求項3の発明では、上記断熱開口部は、断熱構造でない既存の開口部を改修することで断熱構造となったものとする。
【0015】
この請求項3の発明では、既に建物が建てられていて、その時点で開口部が例えば1枚の窓ガラスにより断熱構造ではなく、その開口部が、窓ガラスのペアガラスへの交換や1枚の窓ガラスの室内側に別の窓ガラス(内窓)の施工等により断熱用の窓ガラスが施工されることによって断熱構造に改修された場合に、その空間の壁部又は天井部の少なくとも一方に施工された調湿建材により、空間の湿気が調湿され、空間の特定部位が高湿化することはない。
【0016】
請求項4の発明では、上記調湿建材の施工面積は断熱開口部の面積以上とする。
【0017】
この請求項4の発明では、空間に断熱開口部の面積以上の調湿建材が施工されているので、その調湿建材による上記調湿効果を確実に発揮させることができる。
【0018】
請求項5の発明では、建物内の空間は複数の空間に区画されており、調湿建材は、該複数の空間のうち屋外に隣接する屋外隣接空間の壁部又は天井部の少なくとも一方に施工されているものとする。
【0019】
この請求項5の発明では、建物内において屋外隣接空間は、外気温度との温度差が大きくなる空間で、断熱開口部により高湿化し易い空間であり、この屋外隣接空間の壁部又は天井部の少なくとも一方に調湿建材が施工されているので、屋外隣接空間の高湿化を防止することができる。
【0020】
また、請求項6の発明では、建物内の空間は複数の空間に区画されており、調湿建材は、該複数の空間のうち収納空間の壁部又は天井部の少なくとも一方に施工されているものとする。この収納空間とは例えば物入、押入、クローゼット、収納庫等のことであり、その位置は、建物内の子供室や主寝室といった部屋から通じる位置にあったり、廊下から通じる位置にあったり等してもよく、特に限定はされない。
【0021】
この請求項6の発明では、建物内において収納空間は、常時は密閉されていて他の空間との空気の出入りが少なく湿気が溜まり易い空間で、断熱開口部により高湿化し易い空間であり、この収納空間の壁部又は天井部の少なくとも一方に調湿建材が施工されているので、収納空間の高湿化を防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、請求項1の発明によると、断熱開口部が形成された建物内の空間の壁部又は天井部の少なくとも一方に調湿建材を施工したことにより、断熱開口部によって建物内の空間の湿気が行き場を失って熱的に弱い部位や空間に集中しようとしても、その湿気を調湿建材によって調湿して、空間の特定部位の高湿化を防ぎ、黴やダニの発生を未然に防止することができる。
【0023】
請求項2の発明によると、断熱開口部は、建物の施工と同時に開口部に断熱構造となっているものとしたことにより、建物の施工により内部に空間が形成された時点で開口部が断熱構造となっている場合に、その空間の壁部又は天井部の少なくとも一方に施工された調湿建材により空間の湿気を調湿して、空間の特定部位の高湿化を防止することができる。
【0024】
請求項3の発明によると、断熱開口部は、断熱構造でない既存の開口部を改修することで断熱構造となったものとしたことにより、断熱構造でない開口部が断熱構造に改修された場合に、その空間の壁部又は天井部の少なくとも一方に施工された調湿建材により空間の湿気を調湿して、空間の特定部位の高湿化を防止することができる。
【0025】
請求項4の発明によると、調湿建材の施工面積を断熱開口部の面積以上としたことにより、調湿建材による調湿効果を確実に発揮させることができる。
【0026】
請求項5の発明によると、調湿建材を、建物内の複数の空間のうちの屋外隣接空間の壁部又は天井部の少なくとも一方に施工したことにより、外気温度との温度差が大きくて断熱開口部により高湿化し易い屋外隣接空間であっても、その屋外隣接空間の高湿化を防止することができる。
【0027】
請求項6の発明によると、調湿建材を、建物内の複数の空間のうちの収納空間の壁部又は天井部に施工したことにより、他の空間との空気の出入りが少なくて湿気が溜まり易く、断熱開口部により高湿化し易い収納空間であっても、その収納空間の高湿化を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る集合住宅における住戸の間取り及びその内部の空間に対する調湿壁材(調湿建材)の施工位置を示す平面図である。
【図2】図2は、調湿天井材及び調湿壁材の物性を示す図である。
【図3】図3は、調湿天井材及び調湿壁材の不飽和水分ポテンシャルに対する容積含水率の特性を示す図である。
【図4】図4は各室毎の発熱量を例示する図である。
【図5】図5は各室毎の発湿量を例示する図である。
【図6】図6は室の暖房スケジュールを示す図である。
【図7】図7は、実施例及び比較例についての施工例を示す表である。
【図8】図8は、実施例及び比較例において高湿度域の出限頻度を示す表である。
【図9】図9は、実施例及び比較例において高湿度域の出限頻度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る建物としての集合住宅のうちの1つの住戸Aを示す。尚、この住戸Aは、説明の都合上、図1上側が北側となるように建てられているものとする。
【0031】
上記住戸Aはドア1により開閉される玄関2を有する。住戸A内には、一端(北端)が玄関2に連続する廊下3と、この廊下3の他端(南端)からドア4を介して出入りする西側の居間5(リビング・ダイニング)と、この居間5の東側に隣接しかつ居間5からドア6を介して出入りする主寝室7とが区画されている。
【0032】
また、廊下3の西側(図1で左側)には、廊下3からドア9を介して出入りする西側子供室10と、この西側子供室10の南側に面して西側子供室10からクロークドア11を介して出入りする収納空間としてのクローゼット12と、廊下3からドア13を介して出入りする便所14と、居間5に連続して該居間5からドア15を介して出入りする台所16とがそれぞれ北側(玄関2側)から順に区画されている。
【0033】
一方、廊下3の東側(図1で右側)には、廊下3からドア17を介して出入りする東側子供室18と、廊下3からドア19を介して出入りする洗面所20と、その洗面所20の南側に隣接して洗面所20からドア21を介して出入りする浴室22とがそれぞれ北側(玄関2側)から順に区画されている。
【0034】
このことで、住戸A内に形成される空間は、上記複数の空間2,3,5,7,10,12,14,16,18,20,22に区画されている。Bは住戸Aの東側に隣接する他の住戸である。
【0035】
上記居間5、主寝室7、2つの子供室10,18、クローゼット12、便所14及び台所16は住戸Aの外壁部を介して屋外に隣接していて、これらはいずれも屋外隣接空間を構成している。そして、この住戸Aの外壁部において、居間5の南壁及び西壁、並びに西側子供室10の西壁及び北壁には、それぞれ開口部としての窓24が各室で2つとなるように開口され、主寝室7の南壁、台所16の西壁及び東側子供室18の北壁には、開口部としての1つの窓24がそれぞれ開口され、これらの窓24,24,…により各室が屋外に連通するようになっている。
【0036】
上記各窓24(開口部)は、図示しないが、いずれも例えば窓ガラスを断熱用の複数枚のガラスにしたり、1枚の窓ガラスの室内側に別の窓ガラス(内窓)を加えて施工したりすることで、それらガラス間に空気層や真空層が介在される断熱構造となっている。この断熱構造の窓24は、住戸A(集合住宅)の新築時に各窓24に上記のように断熱用の窓ガラスを施工することで断熱構造となっているもの、或いは、新築時には断熱構造でなかった既存の窓24を断熱用の窓ガラス等の施工という改修によって断熱構造となったもののいずれであってもよい。
【0037】
また、本発明の特徴として、図1に示すように、住戸A内の空間において上記各窓24に連通する室の壁部には調湿建材としての調湿壁材26(施工部位を図1で太い破線にて示す)が施工されている。具体的には、上記屋外隣接空間である居間5及び西側子供室10において、各々の空間の長手方向に沿う西壁の全体に調湿壁材26が施工されている。また、東側子供室18及び主寝室7において、各々の空間の長手方向に沿う東壁の全体に調湿壁材26が施工されている。さらに、クローゼット12の長手方向に沿う奥側の南壁、及び玄関2ないし廊下3においてその長手方向に沿う東壁にも全体に亘り調湿壁材26が施工されている。
【0038】
尚、上記調湿壁材26の施工位置は単なる1例であり、各空間の長手方向と直交する方向に沿う壁、又は空間の壁全体(長手方向に沿う壁と、長手方向と直交する方向に沿う壁との双方)に同様の調湿壁材26を施工してもよく、上記以外の室の壁部に施工することもできる。また、各室の壁部に調湿壁材26を施工するのに代え、天井部に調湿建材としての調湿天井材を天井の全体又は部分的に施工してもよく、或いは壁部に調湿壁材26を、また天井部に調湿天井材をそれぞれ同様に施工することもできる。つまり、断熱構造の窓(開口部)に連通する各室の空間の壁部又は天井部の少なくとも一方に調湿建材(調湿壁材26及び調湿天井材)が施工されていればよい。
【0039】
上記調湿壁材26及び調湿天井材は、いずれも壁材及び天井材として使用されかつ調湿機能を有する公知のものであり、空間の湿度が上昇すると吸湿する一方、湿度の低下に伴い、吸収した湿気を放湿するようになっている。この調湿建材(調湿壁材26及び調湿天井材)としては、例えば微細な孔を複数有する火山性ガラス質複層板(例えば大建工業(株)の商品名「さらりあーと」等)が挙げられるが、湿度を吸放湿する機能があればよく、その材質はロックウール板、石膏ボード、ケイ酸カルシウム、スラグ石膏板、ダイライト(大建工業(株)の商品名)、木質繊維板、ゼオライト建材の他、上記面材に粘土鉱物や多孔質材料を添加して調湿や呼吸性能を持たせたもの、粘土鉱物の焼成板、珪藻土、しっくい等、特に限定はされず、その表面に化粧シートや紙を貼る等の意匠性を持たせてもよい。
【0040】
この調湿壁材26及び調湿天井材についての物性の1例を図2に、また不飽和水分ポテンシャルに対する容積含水率の特性を図3にそれぞれ示す。
【0041】
そして、このような調湿壁材26(及び調湿天井材)の施工面積は、例えば住戸A内の全体において、断熱開口部である全ての窓24,24,…の総面積以上であることが望ましい。
【0042】
したがって、この実施形態においては、例えば住戸A(集合住宅)が建てられた時点で外壁部の開口部としての各窓24が例えばペアガラス等の断熱用の窓ガラスにより断熱構造となっている場合、或いは、住戸Aが建てられた時点では窓24が例えば1枚の窓ガラスであって断熱構造ではなかったが、その窓24が、窓ガラスのペアガラスへの交換や1枚の窓ガラスの室内側に別の窓ガラス(内窓)の施工等により断熱構造に改修された場合のいずれにおいても、各窓24が断熱構造とされているので、その断熱構造となった窓24により各室内の空間の湿気が行き場を失って熱的に弱い部位や空間に集中しようとする。しかし、その空間の壁部(又は天井部)に調湿壁材26(又は調湿天井材)が施工されているので、その調湿壁材26(又は調湿天井材)によって湿気に対する吸湿又は放湿がコントロールされて空間が調湿されることとなり、空間の特定部位が高湿化することはなく、黴やダニの発生を未然に防止することができる。
【0043】
また、上記調湿壁材26(又は調湿天井材)の施工面積を断熱構造の窓24,24,…の面積以上とすることで、その調湿壁材26(又は調湿天井材)による上記調湿効果を確実に発揮させることができる。
【0044】
さらに、上記調湿壁材26(又は調湿天井材)は、住戸A内の複数の室のうち、屋外に隣接する屋外隣接空間の一部である居間5及び西側子供室10の壁部(又は天井部)に施工されているので、これら屋外隣接空間が外気温度との温度差が大きくなる空間で、断熱構造の窓24により高湿化し易い空間であったとしても、この屋外隣接空間の壁部(又は天井部)に施工された調湿壁材26(又は調湿天井材)により屋外隣接空間の高湿化を防止することができる。
【0045】
また、上記調湿壁材26(又は調湿天井材)は、クローゼット12の壁部(又は天井部)に施工されているので、そのクローゼット12が、常時は密閉されていて他の室との空気の出入りが少なく湿気が溜まり易い空間で、やはり断熱構造の窓24により高湿化し易い空間であるとしても、このクローゼット12の壁部(又は天井部)に施工された調湿壁材26(又は調湿天井材)により、クローゼット12の高湿化を防止することができる。
【0046】
(その他の実施形態)
尚、上記実施形態は、各空間毎に調湿建材(調湿壁材26や調湿天井材)を施工している例であるが、このように各空間に調湿建材を施工する必要はなく、例えば温度差の激しい北側に面した子供室10,18だけ、或いは湿気の溜まり易いクローゼット12だけというように、高湿化し易い空間のみに施したり、長時間に亘り人が居る場所である子供室10,18、居間5、主寝室7といった空間の湿度改善を図る等、目的に応じた空間のみに調湿建材を施工してもよい。
【0047】
また、上記実施形態では、住戸Aの外壁部に窓24が開口されている場合について説明したが、開口部を開閉するドアや戸が断熱構造とされている場合であってもよく、さらには屋根部に形成された開口部が断熱構造となっていてもよい。
【0048】
また、上記実施形態は、集合住宅における住戸A内の空間について本発明を適用したものであるが、本発明は、その他、戸建て住宅やその他の建物において、断熱開口部に連通する空間を調湿する場合にも適用することができる。
【実施例】
【0049】
上記実施形態に係る空間の調湿構造についての作用効果を数値計算により検証した。この数値計算には、多数の室を対象とする室内温湿度計算プログラムTHERB for HAMを使用した。このプログラムに適用された熱・水分複合移動モデル(P-model)は、エネルギーと水分の保存則からなる非平衡熱力学モデルであり、水分流の駆動力として応力の影響を考慮した熱力学エネルギー(水分ポテンシャル)を用いることに特徴がある。水分容量については、容積含水率φと不飽和水分ポテンシャルμとから算出した。
【0050】
図1に示す実施形態に係る住戸Aを数値計算に使用する建物のモデルとし、「住宅の省エネルギー基準の解説」((財)住宅環境・省エネルギー機構 発行)に示されているRC造り共同住宅をもとに作成した。北、西及び南の各面が外気に面している中間階を想定し、外壁部は無断熱とし、窓はシングルガラス(無断熱構造)、又はそのシングルガラスから改修された断熱用のペアガラス(改修断熱構造)とし、ドアの熱貫流率は6.5[W/mK]とした。換気は常時0.5回/hとし、各室に給気した後に廊下3を経由して洗面所20から排出する換気経路とした。外界条件は、金沢市の拡張アメダス気象データ標準年を使用した。
【0051】
また、生活スケジュールとしては、「住宅事業建築主の判断基準におけるエネルギー消費量計算方法の解説」((財)住宅環境・省エネルギー機構 発行)に示されている暖冷房負荷計算用の生活スケジュールを使用し、各室毎に発熱量及び発湿量を計算して与えた。この各室別の発熱量を図4に、また各室別の発湿量を図5にそれぞれ示している。また、暖房スケジュールは図6に示すとおりであり、20℃の設定で部分間欠暖房である。
【0052】
数値計算は、図7にも示すように以下の水準で実施した。計算間隔は1200s、助走計算期間は7日、出力は1月1日〜1月31日とした。
【0053】
(比較例1)
窓24はシングルガラスで断熱構造ではなく(Brank)、調湿壁材26及び調湿天井材は全く施工されていない。
【0054】
(比較例2)
窓24が断熱改修されているが、調湿壁材26及び調湿天井材は施工されていない。この窓24の断熱改修としては、シングルガラスに内付けのLow−E複層ガラス(空気層12mm)を想定した。
【0055】
(実施例1)
上記比較例2と同様の窓24の断熱改修に加え、玄関2ないし廊下3のみの東壁に調湿壁材26を、またその天井に調湿天井材をそれぞれ施工した。他の室に調湿建材は施工されていない。
【0056】
(実施例2)
比較例2と同様の窓24の断熱改修に加え、クローゼット12のみの南壁に調湿壁材26を、またその天井に調湿天井材をそれぞれ施工した。他の室に調湿建材は施工されていない。
【0057】
(実施例3)
比較例2と同様の窓24の断熱改修に加え、居間5及び西側子供室10の各西壁、東側子供室18及び主寝室7の各東壁に調湿壁材26を、またその各室の天井に調湿天井材をそれぞれ施工した。他の室に調湿建材は施工されていない。
【0058】
(実施例4)
比較例2と同様の窓24の断熱改修に加え、居間5及び西側子供室10の各西壁、東側子供室18及び主寝室7の各東壁、クローゼット12の南壁、玄関2ないし廊下3の東壁に調湿壁材26を、またその各室の天井に調湿天井材をそれぞれ施工した。他の室に調湿建材は施工されていない。
【0059】
上記実施例1〜4において、調湿壁材26の施工位置は、図1で太い破線にて示す部位である。また、これら調湿壁材26及び調湿天井材の物性については図2及び図3に示すとおりである。
【0060】
そして、居間5、クローゼット12及び西側子供室10について、相対湿度が80%以上となる高湿度域の出現頻度を求めたところ、図8及び図9に示す計算結果が得られた。この結果を考察すると、窓24の断熱構造(比較例2)だけでは、各室で高湿度域の頻度が増加している。しかし、それに加えて調湿建材を使用すれば(実施例1〜4)、高湿度域の出現頻度は無断熱構造の窓(比較例1)における高湿度域の頻度以下にすることが可能となり、特に居間5やクローゼット12では顕著に低下している。これらのことから、本発明の効果が有効であることが裏付けられた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、建物の断熱開口部に通じる空間の高湿化を防止できるので、極めて有用であり、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0062】
A 住戸
2 玄関
3 廊下
5 居間
7 主寝室
10 西側子供室
12 クローゼット
14 便所
16 台所
18 東側子供室
20 洗面所
22 浴室
24 窓(開口部)
26 調湿壁材(調湿建材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外壁部ないし屋根部に断熱開口部が形成された建物内の空間の湿度を調節する調湿構造であって、
上記空間の壁部又は天井部の少なくとも一方に調湿建材が施工されていることを特徴とする空間の調湿構造。
【請求項2】
請求項1において、
断熱開口部は、建物の施工と同時に断熱構造となっているものであることを特徴とする空間の調湿構造。
【請求項3】
請求項1において、
断熱開口部は、断熱構造でない既存の開口部を改修することで断熱構造となったものであることを特徴とする空間の調湿構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つにおいて、
調湿建材の施工面積は断熱開口部の面積以上であることを特徴とする空間の調湿構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つにおいて、
建物内の空間は複数の空間に区画されており、
調湿建材は、上記複数の空間のうち屋外に隣接する屋外隣接空間の壁部又は天井部の少なくとも一方に施工されていることを特徴とする空間の調湿構造。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1つにおいて、
建物内の空間は複数の空間に区画されており、
調湿建材は、上記複数の空間のうち収納空間の壁部又は天井部の少なくとも一方に施工されていることを特徴とする空間の調湿構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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