説明

突板積層シートと印刷性良好な突板

【課題】OA機器とインクジェットプリンターとの組み合わせて任意の図柄や文字を、自然感溢れる天然木の極薄突板に鮮明で耐水性良好な印刷ができる技術を提供する。
【解決手段】天然木の極薄突板の表面に、樹脂固形分換算で、主剤として固形分20%、粘度4500mPa・s(at30℃)のPVAを100重量部に対し、水性インク吸収性改良剤としてのシリカ35±5重量部、インクジェットインクの耐水性付与剤としての固形分50%、粘度400±200mPa・s(at25℃)のアミン系樹脂を20±3重量部、PVA耐水性付与剤としての固形分25%、粘度50〜250mPa・s(at25℃)のポリアミド・エピクロロヒドリンを50+1,−0重量部を添加配合し、混練調整してなる樹脂組成物を8〜15g/m2(樹脂固形分換算)で天然木の極薄突板の表面に塗布したものである。必要ならばPVA耐水性付与剤としてポリエチレンイミンを、表面サイズ剤としてスチレン系樹脂を添加することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、突板積層シートと印刷性良好な天然木突板、とりわけインクジェットプリントにおいて、印刷性、耐水性、インクの乾燥性、天然木突板の自然感(以下、単に自然感という)、インクジェット印刷受容層(以下、単に受容層という)の主剤と添加剤との相溶性が優れて、鮮明で綺麗なインクジェットプリント可能な突板に関する。
【背景技術】
【0002】
突板積層シートと印刷性良好な天然木突板、とりわけインクジェットで鮮明なプリント可能な突板について、出願人が先行技術調査をしたところ、該当する先行技術は見あたらず、強いて言うならば「木質化粧板」として出願された下記先行技術がある。
【0003】
【特許文献1】特開2002−019025号(特許請求の範囲および図面)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献は、その特許請求の範囲に記載のとおり、「基材に天然木突板を貼りあわせた化粧材または天然木無垢材からなる化粧基板の表面に目止めシーラー剤を塗布して目止め層を形成した後、インクを吸収する透明ないし半透明のインク吸収層を設け、上記インク吸収層上に水性インクにより絵柄模様を印刷して乾燥させた後、イソシアネート基が過剰となるように配合された透明ウレタン塗料を塗布する」方法である。
【0005】
上記先行技術は、その特許請求の範囲に記載の通り、基材に天然木突板を貼りあわせた化粧材または天然木無垢材からなる化粧基板の表面に絵柄模様を印刷する技術であって、厚さが50μmから500μmの薄い突板にインクジェットによりプリントすることについては何らの技術的開示はしていない。
【0006】
本発明は、こうした状況のもとで、OA機器とインクジェットプリンターとを組み合わせて任意の図柄や文字を、自然感溢れる天然木の極薄突板に鮮明で耐水性良好な印刷ができる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためにこの発明は、天然木の極薄突板の表面に、インクジェット受容層としての主剤に、少なくとも主剤の耐水性付与剤、インクジェットインクの耐水性付与剤および水性インク吸収性改良剤を添加混練りした樹脂組成物を塗布してなるものであり、好ましくは表面サイズ剤を添加混練りした樹脂組成物を塗布してなる。
上記主剤としては、ポリビニルアルコール(以下、単にPVAという)、カルボキシポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ゼラチン、澱粉、寒天、アラビアゴムの中から採用できる。
主剤の耐水性付与剤としては、ポリアミド・エピクロロヒドリン、またはポリエチレンイミンを、インクジェットインクの耐水性付与剤としては、アミン系の樹脂を、水性インク吸収性改良剤としては、粉末シリカを挙げることができる。
より詳しくは樹脂固形分換算で、主剤として固形分20%、粘度4500mPa・s(at30℃)のPVA100重量部に対し、水性インク吸収性改良剤としてのシリカ35±5重量部、インクジェットインクの耐水性付与剤としての固形分50%、粘度400±200mPa・s(at25℃)のアミン系樹脂を20±3重量部、PVA耐水性付与剤としての固形分25%、粘度50±250mPa・s(at25℃)のポリアミド・エピクロロヒドリンを50+1,−0重量部を添加配合し、混練調整してなる樹脂組成物を8〜15g/m2で天然木の極薄突板の表面に塗布したものである。また、天然木の種類によってはサイズ剤として固形分25%、粘度100mPa・s(at25℃)、のスチレン系樹脂を1+0.1,−0重量部を添加することができる。さらにまた、PVAの耐水性付与効果を高めるためにポリエチレンイミンを20+1,−0重量部を添加することができる。
【発明の効果】
【0008】
上記のごとく構成するこの発明によれば、インクジェットプリントの受容層を形成する樹脂組成物の混練り作業における添加剤の分散性と相溶性が良好で、天然木の極薄(50〜500μ)突板の表面に天然木の風合いを損なうことなく文字・図柄を滲みなくインクジェットプリントでき、印刷後の乾燥性(作業性)、印刷後の極薄突板耐水性、印刷面の耐水性良好で印刷性良好な極薄突板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次にこの発明の実施形態について説明する。ここで使用した主剤と添加剤は、次の通りである。
【0010】
主剤(A)PVA溶液、日本NSC社製
商品名:カネビノールSH−20
樹脂固形分:20%
粘度:4500mPa・s(at30℃)
PH:5
【0011】
水性インク吸収性改良剤(B)粉末シリカ、水沢化学工業社製
商品名:ミズカシル ゲルタイプ P−78F
平均粒径:18μm、加熱減量:3.5%、PH:7.0、見かけ比重:0.25、
比表面積:380、
【0012】
インクジェットインク耐水性付与剤(C)アミン系樹脂、星光PMC社製
商品名:DK6852、樹脂固形分:50%
粘度:400±200mPa・s(at25℃)
PH:3.5±1、イオン性:カチオン
【0013】
PVA耐水性付与剤(D)ポリアミド・エピクロロヒドリン、星光PMC社製
商品名:PC8970、樹脂固形分:25%
粘度50〜250mPa・s(at25℃)、イオン性:カチオン
【0014】
PVA耐水性付与剤(E)ポリエチレンイミン、星光PMC社製
商品名:PC8994、樹脂固形分:25%
粘度800±2000mPa・s(at25℃)、イオン性:カチオン
【0015】
表面サイズ剤(F)スチレン系樹脂、星光PMC社製
粘度:100mPa・s>(at25℃)
PH:5.5±1、イオン性:カチオン
【0016】
本発明の効果を確認するために、上記AからFの11種類の主剤と添加剤を表1に示す配合内容で、主剤と各種添加剤の分散性、相溶性を確認しながら混練り調整し、調整した樹脂組成物を、ロールコーターにより樹脂固形分換算で8〜15g/m2の割合で、檜の原木を250μにスライスした極薄突板の表面に塗布し、100℃の温度に調整した長さ6mの乾燥炉に毎分5mの速度で通過させて乾燥して表面処理済の天然木極薄突板を得た。
【0017】
上記表面処理済の天然木極薄突板を葉書サイズカットし、これをキャノン社製PIXUS6500i型インクジェットプリンターのオートシートフィーダーに供給して、5ポイントの文字を印刷して十分乾燥し、上水に24時間浸漬した後印刷文字の状態を観察し、印刷性(V)、耐水性(W)、インクの乾燥性(X)、天然木の風合い(Y)、樹脂組成物の分散・相溶性(Z)の各項目について考察した結果を表1の下欄に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
なお、図1に示すように、上記ジェットインク受容層を形成した反対面に酢酸ビニル系接着剤を介して補強紙を貼り合せ、さらに酢酸ビニル系接着剤を介してインクジェット対応和紙を積層した天然木極薄突板積層シートを製作することができ、このように製作したものは、片面で木質の風合いを楽しみ、他面で和紙の風合いを生かしたプリントを楽しむことができる。
【0020】
また、図2に示すように、上記インクジェット受容層を形成した反対面を互いに向き合わせて酢酸ビニル系接着材で貼り合わせた天然木極薄突板積層シートを製作することができ、このように製作したものは、両面を木質の風合いを生かしたプリントを楽しむことができる。
【0021】
さらに、図1および図2に示す天然木極薄突板の積層シートの中間製品として、図3に示すものを用意することができ、この中間製品の両面に上記樹脂組成物をコーティングすることにより、図2の製品が得られ、片面に上記樹脂組成物を、他面に酢酸ビニル系接着材を介してインクジェット対応和紙を貼り付けることにより図1の製品を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
以上説明したごとくこの発明により、ジェットプリントの受容層を形成する樹脂組成物の混練り作業における添加剤の分散性と相溶性が良好で、天然木の極薄(50〜500μm)突板の表面に天然木の風合いを損なうことなく文字・図柄を滲みなくジェットプリントでき、印刷後の乾燥性(作業性)、印刷後の極薄突板耐水性、印刷面の耐水性良好なものを得ることができ、突板製品の新しい活用分野が広がり産業上の利用価値は極めて高いものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係る天然木極薄突板積層シートの断面図(その1)
【図2】同(その2)
【図3】上記天然木極薄突板積層シートの中間製品の断面図
【符号の説明】
【0024】
1 インクジェット対応和紙
2 酢酸ビニル系接着剤層
3 補強紙層
4 酢酸ビニル系接着剤層
5 天然木突板
6 インクジェット受容層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然木の極薄突板の片面に、酢酸ビニル系接着材層を介して補強紙を貼り合わせてなる突板積層シート。
【請求項2】
天然木の極薄突板の表面に、インクジェット受容層としての主剤に、少なくとも主剤の耐水性付与剤、インクジェットインクの耐水性付与剤および水性インク吸収性改良剤を添加混練りした樹脂組成物を塗布してなるものであり、好ましくは表面サイズ剤を添加混練りした樹脂組成物を塗布してなる印刷性良好な突板。
【請求項3】
上記主剤として、ポリビニルアルコール、カルボキシポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸ナトリウム、ゼラチン、澱粉、寒天、アラビアゴムの中から選ばれた請求項2に記載の印刷性良好な突板。
【請求項4】
上記主剤の耐水性付与剤としてポリアミド・エピクロロヒドリンを採用、インクジェットインクの耐水性付与剤としてアミン系の樹脂を採用、水性インク吸収性改良剤として粉末シリカを採用してなる請求項2または3に記載の印刷性良好な突板。
【請求項5】
上記ポリビニルアルコールの耐水性付与効果を向上させるためにポリエチレンイミンを付加的に添加してなる請求項2乃至4のいずれかに記載の印刷性良好な突板。
【請求項6】
上記樹脂組成物の主剤として固形分20%、粘度4500mPa・s(at30℃)のポリビニルアルコールを100重量部に対し、水性インク吸収性改良剤としてのシリカ35±5重量部、インクジェットインクの耐水性付与剤としての固形分50%、粘度400±200mPa・s(at25℃)のアミン系樹脂を20±3重量部、ポリビニルアルコール耐水性付与剤としての固形分25%、粘度50〜250mPa・s(at25℃)のポリアミド・エピクロロヒドリンを50+5,−0重量部を添加混練りし、この樹脂組成物を8〜15g/m2(樹脂固形分相当量)で天然木の極薄突板の表面に塗布してなる請求項2乃至5のいずれかに記載の印刷性良好な突板。
【請求項7】
上記ポリビニルアルコールの耐水性付与効果を高めるためにポリエチレンイミンを20±2重量部を添加してなる請求項2乃至6のいずれかに記載の印刷性良好な突板。
【請求項8】
印刷の滲み防止効果を向上させるために、サイズ剤として固形分25%、粘度100mPa・s(at25℃)、のスチレン系樹脂を1+0.2,−0重量部を添加してなる請求項2乃至7のいずれかに記載の印刷性良好な突板。
【請求項9】
複数枚の天然木の極薄突板を酢酸ビニル系接着材で貼り合せ、該貼り合わせた天然木の極薄突板シートの少なくとも片面に、上記樹脂組成物からなるインクジェット受容層を形成したことを特徴とする請求項1乃至8記載の印刷性良好な突板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−187926(P2006−187926A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−885(P2005−885)
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【出願人】(505008899)
【出願人】(597074491)
【Fターム(参考)】