説明

窒化アルミニウム成形用樹脂組成物、および、該組成物の成形方法、および、該成形方法により成形された成形体

【課題】成形性が良好で、かつ、脱脂工程から焼結工程を経ても形状を保持でき、焼結後の窒化アルミニウム充填密度が実使用に耐えうる窒化アルミニウム成形用組成物、および、該樹脂組成物を成形、焼結することにより得られる成形品が求められていた。
【解決手段】(a)窒化アルミニウム粉体、(b) 焼結助剤、(c)熱可塑性樹脂、(d)分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物を必須成分として含むことを特徴とする窒化アルミニウム成形用樹脂組成物により上記課題を解決するに至った。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化アルミニウム粉体の焼結成形体に供する中間組成物であり、より詳細には、窒化アルミニウム粉体、焼結助剤、熱可塑性樹脂と分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物からなる樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
窒化アルミニウムは耐熱性や電気絶縁性が高く熱伝導性が良好であり、発熱性 電気電子部品の保護のための伝熱または放熱部材として期待されている。窒化アルミニウムをこれらの部材に加工するには、1600〜2000℃の高温で焼結成形する必要があるが、粉体である窒化アルミニウムをこの様な高温で成形することは事実上不可能であり、このため焼結に先立って予め窒化アルミニウム粉体、少量の焼結助剤、および有機バインダからなる組成物をつくり、これを予備成形工程で最終焼結体成形品に対応する予備成形体にしたのち、有機バインダをその熱分解揮散温度に加熱して除去する脱脂工程を経て、焼結工程で焼結体成形品とする方法が一般的に行われている。
【0003】
焼結助剤は焼結時窒化アルミニウム粒子間に介在して熱伝導性を高める働きをするものであり、例えば、特開2001−139379号、特開2001−322874号、特開2002−173373号、特開2003−146761号、特開2003−201179号、特開2003−267784号等において、焼結温度で溶融ないしは軟化する希土類酸化物やその他の金属酸化物あるいは特殊ガラスが使用可能であると開示されている。しかし、これらは予備成形工程でのバインダの役割は果たし難いことが同時に示されている。
【0004】
有機バインダとして、例えば、特開2003−267784号にはアクリル系樹脂が提案されている。すなわち、窒化アルミニウム粉体、希土類化合物である焼結助剤、および有機バインダとしてポリ(メタ)アクリレート類等のアクリル系樹脂を混合して予備成形体用組成物としたのち、該組成物を用いて予備成形体を作り、脱脂工程と焼結工程を経て窒化アルミニウム焼結成形品を製造する方法が開示されている。予備成形体用組成物の製造に当たって、有機バインダを有機溶剤溶液として用いると組成の均一化に便利であるし、組成物の流動性が良いために予備成形体への加工が円滑に行える利点がある。しかしながら、溶剤の利用は脱脂工程で成形体中に空隙を生じる原因となり、緻密で熱伝導性の高い強固な焼結品が得られ難いという問題がある。脱脂工程以前か脱脂工程の初期段階等の上記液体が加熱乾燥除去される過程の、溶剤の少ない状態において、予備成形体を突き固めるとか遠心力を作用させて押し込める等の手段で緻密化を図ることが考えられるが、アクリル系樹脂が本来の粘稠性を発揮して十分な緻密化は困難である。比較的低分子量で熱時粘稠性の低いアクリル系樹脂の使用が特開2002−3277号に提案されているが、それでも該樹脂の特性から十分な緻密化は困難であるし、焼結工程に至るまでに予備成形体が流動してしまい、形状を保持できないという問題もある。
【0005】
その他の有機バインダとして、例えば、特開2005−075695号、特開2005−067929号、特開2004−315340号、特開2003−267782号、特開2003−201179号、特開2002−220283号、特開2003−146760号、特開2001−139379号、特開2000−327430号、特開2000−264736号等においてポリブチラール、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリ塩化ビニル、ワックスやパラフィン等々の樹脂が提案されている。しかし、本発明者らの検討によると、予備成形体用組成物におけるこれら樹脂の使用割合が少ないとバインダ機能の不足で取扱性の良好な予備成形体が得られないし、使用割合が多いと樹脂の粘稠性のため流動性が悪くて賦形に困難をきたし、また賦形できる場合でも十分な充填密度が実現できないうえ、脱脂工程から焼結工程を経ても残留炭素分等の不純物が多く、満足すべき焼結成形品が得られないという欠点がある。
【0006】
以上に述べたように、窒化アルミニウムの熱伝導性の良さを活用するには、窒化アルミニウム粉体、焼結助剤、および有機バインダからなる組成物として、有機バインダの使用量ができるだけ少量で、しかも予備成形工程での成形加工性が優れ、高品質の最終焼結体成型品の製造が可能な有機バインダを含む窒化アルミニウム成形用組成物の出現が望まれているのである。
【特許文献1】特開2000−264736号公報
【特許文献2】特開2000−327430号公報
【特許文献3】特開2001−139379号公報
【特許文献4】特開2001−322874号公報
【特許文献5】特開2002−173373号公報
【特許文献6】特開2002−220283号公報
【特許文献7】特開2003−146760号公報
【特許文献8】特開2003−146761号公報
【特許文献9】特開2003−201179号公報
【特許文献10】特開2003−267782号公報
【特許文献11】特開2003−267784号公報
【特許文献12】特開2004−315340号公報
【特許文献13】特開2005−067929号公報
【特許文献14】特開2005−075695号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、成形性が良好で、かつ、脱脂工程から焼結工程を経ても形状を保持でき、焼結後の窒化アルミニウム充填密度が実使用に耐えうる窒化アルミニウム成形用組成物、および、該樹脂組成物を成形、焼結することにより得られる成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、(a)窒化アルミニウム粉体、(b) 焼結助剤、(c)熱可塑性樹脂、(d)分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物を必須成分として含むことを特徴とする窒化アルミニウム成形用樹脂組成物を提供するに至った。
【発明の効果】
【0009】
窒化アルミニウムの成形過程において、(a)窒化アルミニウム粉体、(b)
焼結助剤、(c)熱可塑性樹脂、(d)分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物を必須成分とすることを特徴とする窒化アルミニウム成形用樹脂組成物を用いることで予備成形体製造時の困難を解消し、高品質の窒化アルミニウム焼結体成形品の製造を可能にした。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
すなわち、本発明は、(a)窒化アルミニウム粉体、(b) 焼結助剤、(c)熱可塑性樹脂、(d)分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物を必須成分とすることを特徴とする窒化アルミニウム成形用樹脂組成物、および、該窒化アルミニウム成形用樹脂組成物を成形し、さらに焼結することを特徴とする窒化アルミニウム成形品の製造方法、および、該成形方法により成形した窒化アルミニウム成形品に関するものである。
【0011】
発明者らは窒化アルミニウム成形用組成物として、これまで、窒化アルミニウム粉体、焼結助剤、分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物からなるバインダーを必須成分とすることを特徴とする窒化アルミニウム成形用組成物について検討を行ってきた。しかし、これらの組み合わせによる組成物では、焼結前の成形性は良好であるものの、脱脂工程の昇温段階で、該バインダーが完全に溶融、流動体となってしまい、焼結工程時には形状を失ってしまうという問題があった。
【0012】
以上述べた様に、窒化アルミニウム成形用組成物には、1)低温時の良好な成形性、2)脱脂工程から焼結工程にかけての形状保持性、3)焼結工程におけるバインダーの完全な燃焼、という3条件を満足する必要がある。
【0013】
発明者らは、これらの課題を解決すべく、鋭意検討を行い、(a)窒化アルミニウム粉体、(b) 焼結助剤、(c)熱可塑性樹脂、(d)分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物を必須成分とすることを特徴とする窒化アルミニウム成形用樹脂組成物がこれらの条件を満足することを見出し、本発明を考案するに至った。
【0014】
以下に本発明を更に詳しく説明する。
本発明樹脂組成物(a)成分の窒化アルミニウム粉体とは、すでに工業製品として入手可能なもののなかで、純度97重量%以上、望ましくは99重量%以上の高純度のものが好ましく、アルミニウム以外の金属濃度が50ppm以下であり、且つ酸素濃度が1重量%以下、特に0.8重量%以下に低減されているものがより好ましい。
【0015】
さらに、本発明においては、特に焼結 体中の酸素濃度を低減させるため、不純物成分として炭素を含有する窒化アルミニウム粉末を用いることもできる。該炭素を含有する窒化アルミニウム
粉末中の炭素は、不純物として含まれている酸素と反応し、酸素を炭酸ガスとして除去することに有効である。但し、該炭素の含有量が不純物として含まれている酸素を除去することに消費される量より著しく多いと、炭素が焼結体中に不純物として残存してしまい、好ましくなく、窒化アルミニウム粉末中の炭素濃度は、450ppm以下の範囲とすることが好ましい。
【0016】
本発明樹脂組成物(a)成分の窒化アルミニウム粉体について、さらに説明する。本発明樹脂組成物(a)成分の窒化アルミニウム粉体の平均粒径は、0.5〜15μmのものが好ましく、1〜10μmのものがさらに好ましい。
【0017】
本発明樹脂組成物(b)成分の焼結助剤は、焼成に際して液相を形成し、これにより焼結性を高めるために使用される焼結時におけるバインダーであり、粉体等として市場で入手可能な公知の希土類、アルカリ土類、その他の金属酸化物、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩等のなかから1種、または、2種以上を併用することができるが、2種以上を組み合わせて使用することにより、融点降下により焼成時の液相形成を促進し、該助剤の揮散を促進させ、各不純物濃度をさらに低減させるという点でより好ましい。
【0018】
本発明樹脂組成物(b)成分の焼結助剤を具体的に説明すると、CaO、SrOなどのアルカリ土類酸化物や、Y、CeO、Ho、Yb、Gd、Nb、Sm、Dyなどの希土類酸化物等が挙げられ、このなかから、1種単独、または、2種以上を併用することができるが、特に好ましくはYである。Yについても、上記酸化物等のなかから選ばれたものと併用することが好ましい。
【0019】
本発明樹脂組成物(b)成分の焼結助剤を2種以上併用する場合は、2種、または、3種以上を等量使用するのではなく、主となる助剤1種100部に対し、他の従となる助剤を合計量で1〜50部とすることが好ましく、合計量で5〜30部とすることが、より好ましい。
【0020】
また、従となる助剤に関しては、主となる助剤の融点よりも低融点であるものを選択することが好ましい。
【0021】
本発明樹脂組成物(b)成分の焼結助剤の添加量は、1種使用の場合でも、2種以上を用いる場合でも、本発明樹脂組成物(a)成分の窒化アルミニウム粉体100部に対して、好ましくは0.1〜10.0部、より好ましくは、1.0〜7.0部である。本発明樹脂組成物(b)成分の焼結助剤の添加量が本発明樹脂組成物(a)成分の窒化アルミニウム粉体100部に対して0.1部以下の場合、焼結時に助剤がバインダーとして十分に機能しないため好ましくなく、添加量が10.0部以上の場合、助剤が不純物として機能し、良好な成形体を得ることを妨げるため、好ましくない。
【0022】
本発明樹脂組成物(c)成分の熱可塑性樹脂について説明する。本発明樹脂組成物(c)成分の熱可塑性樹脂と、(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物は、予備成形工程での成形加工性の確保と同時に脱脂工程から焼結工程を経ても形状を保持でき、焼結後の窒化アルミニウム充填密度が実使用に耐えうる成形品となるべく、成形性を確保し、かつ、形状保持性をも確保できるという、相反する性能を両立させるために組み合わせて用いる必要がある。
【0023】
上記の要求性能を満足させるため、本発明樹脂組成物の(c)成分の熱可塑性樹脂は、比較的低温で溶融して低粘度融液になるものである必要があり、この条件を満足するものとしては、ブチラール樹脂、熱可塑性のアクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ABS樹脂、AS樹脂等が挙げられ、融点、軟化点、ガラス転移点が、上記樹脂に類似するものであれば、特に限定されるものではない。溶融粘度、軟化点を考慮するとポリエチレン樹脂が好ましく、メルトインデックス(MI)が10以上である直鎖型低密度ポリエチレンが、より好ましい。ポリ塩化ビニル樹脂やポリ塩化ビニリデン樹脂は、ダイオキシン等の有毒物質を副成する危険性があり、好ましくない。
【0024】
また、該メルトインデックス(MI)が10以上である直鎖型低密度ポリエチレンには、例えばトーメンプラスチックス製A−C1702の様な、滴点が100℃以下のホモポリタイプポリエチエンワックスを相溶化剤兼流動性向上剤として、該メルトインデックス(MI)が10以上である直鎖型低密度ポリエチレンと同量またはそれ以下の量併用することで、成形時の流動性をよりよくすることができる。該滴点が100℃以下のホモポリタイプポリエチエンワックス量が、該メルトインデックス(MI)が10以上である直鎖型低密度ポリエチレン量を超えると、成形時の流動性は保持できるが、形状保持性が低下し、好ましくない。
【0025】
本発明樹脂組成物(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物について説明する。本発明樹脂組成物(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物とは、低融点の固体であり、本発明樹脂組成物の成形時に、窒化アルミニウム樹脂組成物の溶融粘度を低減させることを目的として添加されるものであり、室温では固体であり、本発明樹脂組成物の成形温度である120℃〜180℃の温度領域で完全溶融し、かつ、本発明樹脂組成物(c)成分の熱可塑性樹脂と相溶する必要がある。
【0026】
本発明樹脂組成物(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物をさらに詳しく説明する。本発明樹脂組成物(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物は、溶融状態での流動性確保のみならず、(a)成分の窒化アルミニウムと(c)成分の熱可塑性樹脂との界面活性剤としての機能も期待される。すなわち、(c)成分の熱可塑性樹脂として、ポリエチレン樹脂等の極性の低い樹脂を選択した場合、極性の高い(a)成分の窒化アルミニウムとの極性の差が大きく、両者の界面には何らかの物質が存在しないと、(a)成分の窒化アルミニウムは溶融した(c)成分の熱可塑性樹脂ポリエチレンで“濡れ”る事ができず、結果的に、本発明樹脂組成物は溶融状態にも関わらず、予備成形工程での成形加工性を確保できるだけの良好な流動性を持ち得ない。ここで、本発明(a)成分の窒化アルミニウムは溶融した(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物の存在により、(c)成分の熱可塑性樹脂で“濡れ”る事ができ、本発明樹脂組成物は予備成形工程での成形加工性を確保できる。
【0027】
本発明樹脂組成物(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物が上記溶融性を得る条件としては、高級脂肪族鎖の炭素数が好ましくは12以上、より好ましくは16以上である必要がある。また、極性基としては、カルボキシル基、カルボン酸無水物基、エポキシ基、水酸基等が挙げられ、分子末端にカルボキシル基を有する高級カルボン酸や、α−オレフィン/無水マレイン酸の共重合体、α−オレフィンの末端を酸化処理してエポキサイドとしたものや、このエポキサイドを水で開環させることにより得られる高級アルキル基置換1,2−ジオール、α−オレフィンの末端二重結合に無水マレイン酸を付加させた高級アルキル基置換無水コハク酸等が挙げられる。これらは2種類以上を組み合わせて用いることが好ましく、高級カルボン酸とα−オレフィン/無水マレイン酸との共重合体の組み合わせが特に好ましい。
【0028】
本発明樹脂組成物(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物のうち、極性基がカルボキシル基である高級カルボン酸を具体的に説明する。本発明樹脂組成物(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物のうち、分子末端の極性基がカルボキシル基である高級カルボン酸としては、ステアリン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸等の高級脂肪酸が挙げられる。
【0029】
本発明樹脂組成物(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物のうち、α−オレフィン/無水マレイン酸の共重合体を具体的に説明する。本発明樹脂組成物(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物のうち、α−オレフィン/無水マレイン酸の共重合体としては、三菱化学製ダイヤカルナ124M、ダイヤカルナ168、ダイヤカルナ208、ダイヤカルナ30、ダイヤカルナ30K、ダイヤカルナ30L、ダイヤカルナ30B等が挙げられる。
【0030】
本発明樹脂組成物(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物のうち、α−オレフィンの末端を酸化処理してエポキサイドとしたものと、このエポキサイドを水で開環させることにより得られる高級アルキル基置換1,2−ジオールを具体的に説明する。本発明樹脂組成物(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物のうち、α−オレフィンの末端を酸化処理してエポキサイドとしたものとしては、α−オレフィンの末端を酸化処理してエポキサイドとした高級アルキル基置エチレンオキサイドであり、具体的にはダイセル化学製AOEX68等が挙げられ、これらを水で開環させることにより、高級アルキル基置換1,2−ジオールを得ることができる。
【0031】
本発明樹脂組成物(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物のうち、α−オレフィンの末端二重結合に無水マレイン酸を付加させた高級アルキル基置換無水マレイン酸を具体的に説明する。本発明樹脂組成物(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物のうち、α−オレフィンの末端二重結合に無水マレイン酸を付加させた高級アルキル基置換無水コハク酸としては、具体的には三菱化学製ASA208等が挙げられる。
【0032】
本発明樹脂組成物(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物のうち、分子末端の極性基が水酸基であるものを具体的に説明する。本発明樹脂組成物(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物のうち、分子末端の極性基が水酸基であるものとしては、α−オレフィンの末端を酸化処理してエポキサイドとしたものを水で開環させることにより得られる高級アルキル基置換1,2−ジオールが挙げられる。
【0033】
本発明樹脂組成物には、ポリエチレンワックスの様な(c)成分の熱可塑性樹脂と(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物との相溶化剤、ジイソデシルフタレートの様な本発明樹脂組成物の成形性を向上させる可塑剤、メチルシクロヘキサンの様な本発明樹脂組成物作製時の粘度低減剤等を樹脂組成物の性能を損なわない範囲で用いることも可能である。
【0034】
本発明樹脂組成物における配合割合は、(a)成分の窒化アルミニウム粉体100重量部に対し、(b)成分の焼結助剤を0.1〜10.0部、(c)成分の熱可塑性樹脂と相溶化剤としてのポリエチレンワックスとの合計量で5.0〜10.0部、(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物を10〜20部である場合が好ましく、(c)成分の熱可塑性樹脂として具体的にはメルトインデックス50の直鎖型低密度ポリエチレン、相溶化剤兼流動性向上剤としてのホモポリタイプポリエチレンワックスとして具体的にはトーメンプラスチックス製A−C1702との合計量で5〜15部、(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物のうち、高級カルボン酸として具体的にはステアリン酸、α−オレフィン/無水マレイン酸との共重合体として具体的には三菱化学製ダイヤカルナPA30の合計量で10〜25部、可塑剤としてジイソデシルフタレート0.5〜5部、粘度低減剤として具体的にはメチルシクロヘキサン15〜30部の組み合わせが流動性、成形性、形状保持性と焼結体成型品の品質を総合的に評価してとくに好ましい。メチルシクロヘキサンは本発明樹脂組成物作製のための溶媒であり、最終的には大部分が蒸発除去され、本発明樹脂組成物中には基本的には残存しない。
【0035】
次に、本発明樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明組成物の製造は(a)成分の窒化アルミニウム粉体と(b)成分の焼結助剤を除く全ての原材料を加熱融解したもののなかに、(a)成分の窒化アルミニウム粉体と(b)成分の焼結助剤を投入後、混練を行い、均一なコンパウンドとした後、室温まで冷却し、一般的な粉砕装置で粒径0.5mm以下程度まで粉砕し、粉体を101〜105℃に昇温して粘度低減剤であるメチルシクロヘキサン等の溶剤を蒸発除去することにより得られる。溶剤除去前の本発明樹脂組成物は、室温では固体状態となるが、一般的な粉砕装置で容易に粉砕可能であり、粒径0.5mm以下程度まで粉砕された該組成物は、101〜105℃で粘度低減剤であるメチルシクロヘキサンを除去することが可能である。また、粘度低減剤であるメチルシクロヘキサンを除去された粉体は120℃程度まで加熱すると容易に融解し、成形性に優れた流動性の良好な流動体とすることができる。
【0036】
次に、本発明樹脂組成物の成形方法について説明する。本発明樹脂組成物は、バインダの融点または軟化点以上熱分解温度以下の温度に加熱して流動性が増した状態で予備成形体用の型に充填あるいは支持板上に拡げられ、圧縮あるいは突き固め等の手段で密度を高めたのち冷却して予備成形体となる。予備成形体用の型への充填は射出成形も可能である。成形時の加熱温度は120〜200℃の範囲が好ましい。加熱温度が120℃未満では該組成物が成形できるに十分な流動性となりえなく、200℃を超えると粘度が低くなり過ぎ、形状保持が困難となり好ましくない。予備成形体は型の中か型から取り出して、あるいは支持板上で500〜800℃に加熱され、有機物を熱分解反応で揮散除去する脱脂工程に供される。型崩れせずしかも内部に空隙をあらたに発生させることなく予備成形体を脱脂するにはその保持や昇温速度さらに排気方法等に配慮する必要があるが、それらは当該技術分野ですでに公知の技術に基づいて行われる。成形体は脱脂工程についで1600〜2000℃の高温で焼結工程にかけられる。窒化アルミニウムが焼結により緻密で熱伝導率の高い成型品に仕上がるのである。焼結工程もすでに公知の技術に基づいて行われる。
【実施例】
【0037】
以下本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また文章中「部」とあるのは、重量部を示すもので「%」は特に断わりのない限り重量基準である。
【0038】
( 実施例1) α−オレフィン/無水マレイン酸の共重合体(三菱化学製:ダイヤカルナ PA30)10部、ジイソデシルフタレート(大八化学製)4部、ステアリン酸5部、直鎖タイプ低密度ポリエチレン樹脂(ヘキサケミカル社製:MI値50)5部、ホモポリタイプポリエチレンワックス(トーメンプラスチックス製:A−C1702)5部、メチルシクロヘキサン23.3部を100℃に加熱し、直鎖タイプ低密度ポリエチレン樹脂が十分に膨潤したのを確認後、窒化アルミニウム粉体100部とYを主成分とする焼結助剤5部を添加、120℃まで昇温し、均一になるまで混練を行った後、室温まで冷却、粉砕し、100℃で10分加熱を行いメチルシクロヘキサンを蒸発除去し、樹脂組成物1を得た。
【0039】
(実施例2) α−オレフィン/無水マレイン酸の共重合体(三菱化学製:ダイヤカルナ
PA30)10部、ジイソデシルフタレート(大八化学製)4部、ステアリン酸6部、直鎖タイプ低密度ポリエチレン樹脂(ヘキサケミカル社製:MI値50)5部、メチルシクロヘキサン23.3部を100℃に加熱し、直鎖タイプ低密度ポリエチレン樹脂が十分に膨潤したのを確認後、窒化アルミニウム粉体100部とYを主成分とする焼結助剤5部を添加、120℃まで昇温し、均一になるまで混練を行った後、室温まで冷却、粉砕し、100℃で10分加熱を行いメチルシクロヘキサンを蒸発除去し、樹脂組成物2を得た。
【0040】
(実施例3) α−オレフィン/無水マレイン酸の共重合体(三菱化学製:ダイヤカルナ
PA30)10部、ジイソデシルフタレート(大八化学製)4部、直鎖タイプ低密度ポリエチレン樹脂(ヘキサケミカル社製:MI値50)10部、メチルシクロヘキサン33.3部を100℃に加熱し、直鎖タイプ低密度ポリエチレン樹脂が十分に膨潤したのを確認後、窒化アルミニウム粉体100部とYを主成分とする焼結助剤5部を添加、120℃まで昇温し、均一になるまで混練を行った後、室温まで冷却、粉砕し、100℃で10分加熱を行いメチルシクロヘキサンを蒸発除去し、樹脂組成物3を得た。
【0041】
(比較例1) α−オレフィン/無水マレイン酸の共重合体(三菱化学製:ダイヤカルナ PA30)15.8部、ステアリン酸4.2部を100℃に加熱し、窒化アルミニウム粉体100部とYを主成分とする焼結助剤5部を添加、120℃まで昇温し、均一になるまで混練を行った後、室温まで冷却、粉砕し、樹脂組成物4を得た。
【0042】
( 比較例2) ジイソデシルフタレート(大八化学製)4部、直鎖タイプ低密度ポリエチレン樹脂(ヘキサケミカル社製:MI値50)5部、ホモポリタイプポリエチレンワックス(トーメンプラスチックス製:A−C1702)15部、メチルシクロヘキサン33.3部を100℃に加熱し、直鎖タイプ低密度ポリエチレン樹脂が十分に膨潤したのを確認後、窒化アルミニウム粉体100部とYを主成分とする焼結助剤5部を添加、120℃まで昇温し、均一になるまで混練を行った後、室温まで冷却、粉砕し、100℃で10分加熱を行いメチルシクロヘキサンを蒸発除去し、樹脂組成物5を得た。
【0043】
成形性、焼結前工程での形状保持性、焼結後の形状保持性。
アルミニウム板に樹脂組成物1〜5の粉体各2gを秤量し、ホットプレート上で加熱しながら金属ヘラで薄く延ばし、成形性の確認を、さらに薄く延ばしたコンパウンドをそのままホットプレート上で10分加熱し、成形時の形状保持性を、さらにこれを500℃の電気炉中で3時間加熱し、焼結前段階での形状保持性を確認した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)窒化アルミニウム粉体、(b) 焼結助剤、(c)熱可塑性樹脂、(d)分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物を必須成分とすることを特徴とする窒化アルミニウム成形用樹脂組成物。
【請求項2】
(a)成分の窒化アルミニウム粉体100重量部に対して、(b)成分の焼結助剤が1〜10重量部、かつ、(c)成分の熱可塑性樹脂が5.0〜15.0重量部、かつ、(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物が10.0〜25.0重量部であり、さらに(c)成分の熱可塑性樹脂と、(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物の合計が、15〜35重量部であることを特徴とする請求項1記載の窒化アルミニウム成形用樹脂組成物。
【請求項3】
(c)成分の熱可塑性樹脂が、MIが10以上であるポリエチレン樹脂であることを特徴とする請求項1〜2記載の窒化アルミニウム成形用樹脂組成物。
【請求項4】
(d)成分の分子内に極性基と高級脂肪族基を持つ化合物が高級脂肪酸、かつ/または、α-オレフィンの末端に極性基をもつ化合物を付加させた物質であることを特徴とする請求項1〜3記載の窒化アルミニウム成形用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4記載の窒化アルミニウム成形用樹脂組成物を加熱溶融させた後、予備成形し、さらに該予備成形品を焼成することを特徴とする窒化アルミニウムの成形方法。
【請求項6】
請求項5記載の成形方法で成形された窒化アルミニウム成形体。

【公開番号】特開2007−106633(P2007−106633A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−299819(P2005−299819)
【出願日】平成17年10月14日(2005.10.14)
【出願人】(591075467)冨士色素株式会社 (24)
【Fターム(参考)】