説明

窒化ケイ素系セラミックスの製造方法

【課題】焼結助剤の種類や量にかかわらず、相対密度の高い窒化ケイ素系セラミックスを容易に得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】金属Si粉末と焼結助剤との混合物の圧粉体を窒素雰囲気中で焼成することにより、圧粉体中の金属Siの少なくとも一部が窒化された反応焼結体を得る窒化工程S6と、反応焼結体を窒素雰囲気中で焼成することにより緻密化された最終焼結体を得る緻密化工程S7とを含む。そして、窒化工程S6において、金属Siの重量分率が0〜10wt%、α−Siの重量分率が50〜95wt%、β−Siの重量分率が5〜40wt%であり、かつ、相対密度が75%以下である反応焼結体を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポスト反応焼結法による窒化ケイ素(Si)系セラミックスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素(Si)系セラミックスは、耐熱性、耐摩耗性、靱性等に優れていることから、エンジン用部品材料、ベアリング材料、工具材料、溶融金属用部品等の各種構造用材料として開発が進められている。
【0003】
窒化ケイ素系セラミックスの製造方法には、主として二種の方法がある。第1の方法は、Si粉末を原料とし、これに焼結助剤を添加して焼結する常圧焼結法である。第2の方法は、金属Si粉末を原料とし、1500℃以下の温度で窒化させる反応焼結法である。
【0004】
常圧焼結法では、緻密な焼結体が得られやすいものの、高性能の焼結体を得るためには、微細で不純物の少ないSi粉末を用いる必要があり、高純度のSi粉末が非常に高価であるという問題がある。一方、反応焼結法では、金属Si粉末を用いるため比較的安価に製品を作ることができるものの、相対密度が70〜80%程度であり、緻密な焼結体を得ることができない。
【0005】
そこで、近年、安価な金属Si粉末を原料とし、かつ、焼結助剤を添加して、反応焼結と緻密化焼結を併用するポスト反応焼結法(2段焼結法ともいう)が提案されている。ポスト反応焼結法では、反応焼結の出発原料である金属Si粉末に焼結助剤を添加し、金属Siを窒化させる窒化工程を行った後、更に焼成温度を上げることで緻密化させる緻密化工程を行う。なお、ポスト反応焼結法により製造された窒化ケイ素系セラミックスについては、特許文献1〜12に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平02−24789号公報
【特許文献2】特許第2777051号公報
【特許文献3】特開2004−149328号公報
【特許文献4】特許3559382号公報
【特許文献5】特開平11−314969号公報
【特許文献6】特開平11−322438号公報
【特許文献7】特開2003−206180号公報
【特許文献8】特許3149827号公報
【特許文献9】特許3214729号公報
【特許文献10】特許3223205号公報
【特許文献11】特開2007−197226号公報
【特許文献12】特開2008−24579号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のような窒化ケイ素系セラミックスを各種の製品の材料として適用する場合、一般に、緻密なセラミックスが望まれる。しかしながら、ポスト反応焼結法では、窒化工程と緻密化工程との2段階の焼結過程を有し、窒化工程後の状態も緻密化工程後の最終焼結体の特性に影響するため、設定すべき製造条件のパラメータが多数存在し、緻密なセラミックスを得るための適切な製造条件を見出すことが困難であった。
【0008】
また、適用する製品に要求される特性によって、焼結助剤の種類や量を適宜選択する必要がある。例えば、高熱伝導性が要求される製品に適用する場合には、窒化ケイ素に固溶することにより窒化ケイ素の熱伝導性を低下させるような焼結助剤を用いることができない。そして、焼結助剤の種類や量は、焼結過程において重要な因子の一つである。そのため、焼結助剤の種類や量を変える場合、再度適切な製造条件を探索する必要があり、非常に手間がかかる。また、焼結助剤の種類や量によっては、ポスト反応焼結法により緻密な窒化ケイ素系セラミックスを得ることが困難であるという問題もある。
【0009】
また、ポスト反応焼結法では、2段階の焼結工程を行うため、1段階終了後の反応焼結体の特性が2段階目の焼結工程に影響することが予想されるが、特許文献1〜12には、この影響について具体的に開示されていない。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、焼結助剤の種類や量にかかわらず、緻密な窒化ケイ素系セラミックスを容易に得ることができる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討の結果、微細で均一な金属Si粉末を用いることにより、窒化工程において、均一に窒化されるとともに、粗大な粒子が成長されることを防止でき、粒径や空孔のサイズが均一な組織を有した反応焼結体が得られる知見を得た。そして、粒径や空孔のサイズが均一な組織を有した反応焼結体は、従来よりも相対密度が小さいことがわかった。このような相対密度の小さい反応焼結体(つまり、粒径や空孔のサイズが均一な反応焼結体)は、緻密化工程においても、均一に緻密化され、異常粒成長を抑制でき、より緻密な焼結体が得られることがわかった。本発明者は、このような知見に着目し、本発明を見出すに至った。
【0012】
具体的には、本発明の製造方法は、金属Si粉末と焼結助剤との混合物の圧粉体を窒素雰囲気中で焼成することにより、上記圧粉体中の金属Siの少なくとも一部が窒化された反応焼結体を得る反応焼結工程と、上記反応焼結工程における焼成温度よりも高い温度で上記反応焼結体を窒素雰囲気中で焼成することにより、反応焼結体よりも緻密化された最終焼結体を得る緻密化工程とを含む、窒化ケイ素系セラミックスの製造方法であって、上記金属Si粉末は、体積基準の累積粒度分布におけるd50が1.7μm以下であり、かつ、d90とd10との差が2.0μm以下であり、上記反応焼結工程において、金属Siの重量分率が0〜10wt%、α−Siの重量分率が50〜95wt%、β−Siの重量分率が5〜40wt%である上記反応焼結体を生成し、その後上記緻密化工程を経て最終焼結体を得ることを特徴とする。
【0013】
反応焼結体における金属Siの重量分率が10wt%を超える場合、緻密化工程において金属Siが溶融し、焼結体に欠陥が形成され、その結果亀裂が生じる可能性がある。しかしながら、上記の構成によれば、反応焼結体における金属Siの重量分率が10wt%以下であるため、緻密化工程において、金属Siによる悪影響は起こりにくい。
【0014】
また、緻密化工程では、低温型のα−Siがβ−Siに相転移し、結晶が粒成長することで緻密化が促進される。一方、β−Siは、緻密化工程において、結晶が粒成長する際の種結晶として作用する。上記の構成によれば、反応焼結体において、低温型のα−Siの重量分率を50〜95wt%、高温型のβ−Siの重量分率を5〜40wt%に設定しているため、緻密化工程において、種結晶として作用するβ−Siが過不足なく存在するとともに、α−Siからβ−Siへの相転移による粒成長も促進することができ、より確実に緻密化させることができる。
【0015】
また、体積基準の累積粒度分布におけるd50が1.7μm以下であり、かつ、d90とd10との差が2.0μm以下であるため、反応焼結体において粗大な粒子が形成されることなく、粒径および空孔のサイズが微細で均一な組織となる。そのため、緻密化工程においても、粗大な粒子が形成されることがなく、緻密な最終焼結体を容易に得ることができる。以上から、緻密な窒化ケイ素系セラミックスを容易に得ることができる。
【0016】
また、本発明の製造方法は、金属Si粉末と焼結助剤との混合物の圧粉体を窒素雰囲気中で焼成することにより、上記圧粉体中の金属Siの少なくとも一部が窒化された反応焼結体を得る反応焼結工程と、上記反応焼結工程における焼成温度よりも高い温度で上記反応焼結体を窒素雰囲気中で焼成することにより、反応焼結体よりも緻密化された最終焼結体を得る緻密化工程とを含む、窒化ケイ素系セラミックスの製造方法であって、上記反応焼結工程において、金属Siの重量分率が0〜10wt%、α−Siの重量分率が50〜95wt%、β−Siの重量分率が5〜40wt%であり、かつ、相対密度が75%以下である上記反応焼結体を生成し、その後上記緻密化工程を経て最終焼結体を得ることを特徴とする。
【0017】
上記の構成によっても、緻密化工程において、金属Siによる悪影響がなく、種結晶として作用するβ−Siが過不足なく存在するとともに、α−Siからβ−Siへの変態による粒成長も促進することができ、より確実に緻密化させることができる。
【0018】
また、窒化率が90%以上でありながら(すなわち、金属Siの重量分率が10wt%以下でありながら)、反応焼結体の相対密度が75%以下であることから、反応焼結体において粗大な粒子が形成されることなく、粒径および空孔のサイズが微細で均一な組織となっている。そのため、緻密化工程においても、粗大な粒子が形成されることがなく、緻密な最終焼結体を容易に得ることができる。以上から、緻密な窒化ケイ素系セラミックスを容易に得ることができる。
【0019】
なお、上記金属Si粉末は、体積基準の累積粒度分布におけるd50が1.7μm以下であり、d90とd10との差が2.0μm以下であることが好ましい。これにより、粗大な粒子が形成されることなく、粒径および空孔のサイズが微細で均一な組織を有する、相対密度75%以下の反応焼結体を容易に得ることができる。
【0020】
また、本発明の製造方法において、上記焼結助剤が、MgO、Al、周期表第3a族および第4a族の酸化物からなる群より選ばれた一種または二種以上の酸化物を含むことが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、例えば、高強度が望まれる窒化ケイ素系セラミックスを製造する場合には、高強度の効果が得られる焼結助剤(例えば、Y、MgO、ZrO、Alなど)を適宜選択することができる。また、高熱伝導が望まれる窒化ケイ素系セラミックスを製造する場合には、高熱伝導の効果が得られる焼結助剤(例えば、MgO、HfO、ZrOなど)を適宜選択することができる。
【0022】
また、本発明の製造方法は、金属Siをビーズミルを用いて粉砕することにより上記金属Si粉末を生成する粉砕工程を含むことが好ましい。
【0023】
上記の構成によれば、容易に微細な金属Si粉末を得ることができる。反応焼結工程において、窒化を促進させることができる。その結果、反応焼結工程における焼成温度を従来よりも低く設定することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、反応焼結工程において、金属Siの重量分率が0〜10wt%、α−Siの重量分率が50〜95wt%、β−Siの重量分率が5〜40wt%である反応焼結体を生成し、その後緻密化工程を経て最終焼結体を得る。さらに、体積基準の累積粒度分布におけるd50が1.7μm以下であり、かつ、d90とd10との差が2.0μm以下である金属Si粉末を用いる。もしくは、相対密度が75%以下である反応焼結体を生成し、その後緻密化工程を経て最終焼結体を得る。これにより、緻密な窒化ケイ素系セラミックスを容易に得ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施の形態に係る窒化ケイ素系セラミックスの製造方法の工程の流れを示すフローチャートである。
【図2】ビーズミルの構造を示す模式図である。
【図3】金属Si粉末のSEM写真を示す図であり、(a)は粉砕前の金属Si粉末、(b)はビーズミル粉砕物A、(c)は比較例の混合工程後の金属Si粉末を示している。
【図4】粉砕前の金属Si粉末と、ビーズミル粉砕物Aと、比較例(混合工程後)の金属Si粉末との粒度分布を示す図である。
【図5】実施例4および比較例4における反応焼結体のX線回折ピークを示す図である。
【図6】実施例5および比較例5における反応焼結体のX線回折ピークを示す図である。
【図7】実施例8,9および比較例6〜9における反応焼結体のX線回折ピークを示す図である。
【図8】反応焼結体における金属Si、α−Si、β−Siの適正範囲を示す三角図である。
【図9】窒化工程後の反応焼結体のSEM写真を示す図であり、(a)は比較例7、(b)は実施例7を示す。
【図10】窒化工程後の反応焼結体を薄片透光法により観察した写真を示す図であり、(a)は、比較例4、(b)は実施例4を示す。
【図11】最終焼結体のSEM写真を示す図であり、(a)は比較例6、(b)は比較例7、(c)は比較例8、(d)は比較例9を示す。
【図12】図11の拡大写真を示す図であり、(a)は比較例6、(b)は比較例7、(c)は比較例8、(d)は比較例9を示す。
【図13】最終焼結体のSEM写真を示す図であり、(a)は実施例6、(b)は実施例7、(c)は実施例8、(d)は実施例9を示す。
【図14】最終焼結体の内部を観察するための薄片透過法を示す図である。
【図15】最終焼結体を薄片透光法により観察した写真を示す図であり、(a)は比較例4、(b)は実施例4を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態に係る窒化ケイ素系セラミックスの製造方法について、詳細に説明する。ここで、窒化ケイ素系セラミックスとは、窒化ケイ素を主成分とする多結晶体であり、YやMgO等の各種の焼結助剤を含ものである。また、窒化ケイ素のケイ素と窒素の一部をそれぞれ別の原子(例えばアルミニウムと酸素)で置換したセラミックス(例えばサイアロン)も窒化ケイ素系セラミックスに含まれる。
【0027】
焼結助剤は、窒化ケイ素系セラミックスの使用形態に応じて適宜選択すればよい。MgOやYは、緻密化工程において、Siの表面酸化物と反応して、SiO−MgO系液相やSiO−Y系液相となり、緻密化を促進させる。また、Yを焼結助剤として添加することにより、β−Siの柱状粒子が成長し高強度になることが知られている。そのため、高強度が求められる部品に対しては、MgOやYを焼結助剤として添加することが望まれる。なお、SiO−Y系液相からは冷却過程において高融点を持つ化合物が析出するので、高温強度が要求される部品に対してはYが焼結助剤として選択される。
【0028】
また、サイアロンは、耐食性、耐薬品性、耐摩耗性に優れているため、耐食・耐磨耗部材に適用する場合には、焼結助剤としてAlが選択される。ただし、AlのようにSiに固溶する場合、Siの熱伝導性を下げてしまう。そのため、高熱伝導性が要求される部品として窒化ケイ素系セラミックスを用いる場合には、Alは焼結助剤として望ましくない。
【0029】
以下に、本実施形態に係る窒化ケイ素系セラミックスの製造方法について説明する。図1は、当該製造方法の工程の流れを示す図である。
【0030】
(S1.原料準備工程)
まず、窒化ケイ素系セラミックスの原料となる金属Si粉末および各種の焼結助剤の粉末を準備する。
【0031】
主原料として使用される金属Si粉末としては、例えば、半導体用途で使用されるシリコンウェハー作製時の低純度原料もしくは低純度シリコンウェハーの粉砕粉で、いわゆる#200から#600相当の粉末が例示される。ただし、金属Si粉末の純度は例えば96.0〜98.5%のものを用いればよい。また、平均粒径として40μm以下のものを用いればよく、好ましくは10μm以下である。
【0032】
焼結助剤としては、例えば、MgO、Al、周期表第3a族の酸化物(例えばY)、および、第4a族の酸化物(例えばZrO、HfO)からなる群より選ばれた一種または二種以上を使用すればよい。これ以外の焼結助剤が含まれていてもよい。
【0033】
(S2.粉砕工程)
次に、金属Si粉末を湿式粉砕機により粉砕する。湿式粉砕機としては様々な機械があるが、細粒化が可能なビーズミルを用いることが好ましい。図2は、ビーズミルの構成を示す図である。図示されるように、ビーズミルとは、ベッセルと呼ばれる容器の中にビーズ(粉砕メディア、ビーズ径0.015〜2mm)を充填して回転させ、液体に原料粉末が混合されたスラリーを送り込み、ビーズと衝突させることで微粉砕する粉砕機である。なお、ビーズの材料としては、Siを用いることが好ましい。これにより、不純物の混入を防止することができる。また、スラリーに各種の分散剤を添加し、スラリー粘度を制御することが好ましい。
【0034】
また、粉砕後の金属Si粉末は、粒径が小さく、かつ、均一であることが好ましい。具体的には、粉砕後の金属Si粉末のメジアン径(体積基準の累積粒度分布における累積パーセントが50%であるときの粒径(d50))は、1.7μm以下であり、好ましくは1.1μm以下である。また、累積パーセントが90%のときの粒径(d90)と10%のときの粒径(d10)との差が2.0μm以下であり、好ましくは1.2μm以下である。なお、このメジアン径(d50)、d90およびd10は、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、SALD-7000、光源405nm、設定屈折率4.0-0.01i)により測定される値である。
【0035】
金属Si粉末のメジアン径(d50)を1.7μm以下とすることにより、表面積を大きくすることができ、窒化工程において、窒化が促進されるとともに、異常粒成長を防止することができる。また、d90とd10との差が2.0μm以下であることにより、金属Si粉末の粒径が均一化され、各粒子を均一に窒化させることができる。
【0036】
(S3.混合・造粒工程)
次に、粉砕後の金属Si粉末と焼結助剤とが所定の組成比になるように、ボールミルで湿式混合する(混合工程)。例えば、ボール径10mmのSiボールを用いて24h混合させればよい。その後、金属Si粉末と焼結助剤との混合物を乾燥させて造粒する(造粒工程)。この際、顆粒状にするために適宜バインダー樹脂等を添加してもよい。
【0037】
(S4.成形工程)
続いて、造粒物を所定形状の成形型に充填し、加圧成形することで圧粉体を形成する。加圧成形の方法としては、一軸プレス成形法、冷間静水等方圧プレス(CIP)法などを用いることができる。また、一軸プレス成形法により仮成形した後にCIPを用いて本成形してもよい。
【0038】
(S5.脱脂工程)
成形工程で得られた圧粉体の中には、粉砕工程で添加した分散剤や造粒工程で添加したバインダー樹脂などの有機物が含まれている。そこで、例えば250〜500℃の温度に上げることで、これらの有機物を除く脱脂処理を行う。
【0039】
(S6.窒化工程(反応焼結工程))
次に、脱脂された圧粉体を、窒素雰囲気中で1200〜1450℃の範囲で焼成することにより、金属Siの窒化を行う。なお、本明細書では、窒化工程により得られた焼結体を反応焼結体という。
【0040】
ここで、焼成温度およびその保持時間は、圧粉体の大きさ等により適宜設定すればよい。ただし、窒化工程後において、金属Si、α−Si、β−Siの重量分率が以下の適正範囲を満たすとともに、かつ、反応焼結体の相対密度が75%以下となるように焼成する。
【0041】
<適正範囲>
金属Si:0〜10wt%(より好ましくは、0〜3wt%)
α−Si:50〜95wt%
β−Si:5〜40wt%
上記適正範囲は、窒化率が90%以上であることを示している。そして、窒化率が90%以上でありながら、反応焼結体の相対密度が75%以下であることは、窒化工程において、粗大なSiの粒子が生成されておらず、粒径や空孔が均一な組織を有した反応焼結体であることを意味している。
【0042】
本実施形態では、金属Si粉末をビーズミルにより微粉砕している。そのため、窒素と接触する金属Siの表面積が大きくなり、窒素との反応がし易くなっている。その結果、窒化工程における焼成温度を従来よりも低く設定することができる。
【0043】
また、上述したように、金属Si粉末のd50を1.7μm以下とし、d90とd10との差を2.0μm以下とすることにより、窒化工程において、金属Si粒子が窒化されることにより生じたα−Siの粒径が小さい。そのため、粒成長により粗大な粒子が形成されることがないため、反応焼結体の相対密度を容易に75%以下にすることができる。
【0044】
さらに、生成された微細なα−Siの粒子は、窒化工程においてもβ相へ相転移しやすく、容易に高温型のβ−Siの重量分率を上記適正範囲内にすることができる。なお、上記のような適正範囲に設定する理由については後述する。
【0045】
さらに、上記のような適正範囲を満たす焼成温度および保持時間を設定する際には、製造工程として許容される範囲で保持時間を長く設定し、焼成温度を低く設定することが好ましい。金属Siの窒化反応は発熱反応であるため、焼成温度が高いと、金属Siの一部が溶融したり、不均一に窒化されるおそれがある。そこで、焼成温度を低く設定することにより、窒化工程時での金属Siの溶融を防止でき、均一に窒化することができる。
【0046】
なお、窒化工程後の金属Si:α−Si:β−Siの重量分率は、窒化工程後の反応焼結体を粉砕し、X線回折のピーク強度から求めることができる。
【0047】
具体的には、まず、原料のSi、α相含有率の高いSi(宇部興産(株)製、E10、α率98%)、β相含有率の高いSi(電気化学工業(株)製、NP500、α率3%)を用いて所定の割合で混合し、Si、α−Si、β−Siの重量分率とXRDプロファイルの相対的積分強度に関する検量線を求める。ここで、CuKα線(波長1.54056Å)検量線を作製するために用いたピークは、2θが28.5°(Si(111))、34.5°(α−Si(102))、35.2°(α−Si(210))、36.1°(β−Si(210))のものである。α−Siについては、34.5°と35.2°の平均値を用いればよい。次に、窒化工程後の試料のX線回折ピークから28.5°(Si(111))、34.5°(α−Si(102))、35.2°(α−Si(210))、36.1°(β−Si(210))のピーク強度を測定し、相対的積分強度を求める。この相対的積分強度値と検量線から、Si、α−Siおよびβ−Siの重量分率を求めることができる。
【0048】
(S7.緻密化工程)
続いて、窒化工程後の反応焼結体を窒素雰囲気中で1700℃以上(好ましくは1850℃以上)で焼成することにより、緻密化させる。なお、本明細書では、緻密化工程により得られた焼結体を最終焼結体(ポスト反応焼結体)という。
【0049】
上述したように、反応焼結体における金属Siの重量分率が10wt%以下になるように窒化工程が行われている。金属Siの重量分率が10wt%を超える場合、緻密化工程において金属Siが溶融し、焼結体に欠陥が形成され、その結果亀裂が生じる可能性がある。しかしながら、金属Siの重量分率が10wt%以下になるように窒化工程が行われているため、緻密化工程において、金属Siによる悪影響は起こりにくい。なお、反応焼結体における金属Siの重量分率を0〜3wt%にすることで、より確実に亀裂の発生を抑制することができる。
【0050】
また、緻密化工程では、低温型のα−Siが高温型のβ−Siに相転移し、結晶が粒成長することで緻密化が促進される。一方、β−Siは、緻密化工程において、結晶が粒成長する際の種結晶として作用する。本実施形態では、上述したように、反応焼結体において、低温型のα−Siの重量分率を50〜95wt%、高温型のβ−Siの重量分率を5〜40wt%に設定しているため、緻密化工程において、種結晶として作用するβ−Siが過不足なく存在するとともに、α−Siからβ−Siへの相転移による粒成長も促進することができ、緻密化させることができる。
【0051】
また、反応焼結体の相対密度が75%以下である、つまり、反応焼結体の結晶粒径や空孔のサイズが微細で均一であることから、緻密化工程において粗大な粒子が形成されることがなく、より確実に緻密化させることができる。以上により、組成にかかわらず緻密な最終焼結体を容易に得ることができる。
【0052】
なお、混合・造粒工程において、Si粉末を少量添加してもよい。
【0053】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
<実施例1〜13>
(S1.原料準備工程)
出発原料である金属Si粉末および焼結助剤として、以下のものを用いた。
・金属Si粉末:山石金属(株)製の#600粉末。平均粒径12.7μm。
・焼結助剤
:信越化学工業(株)製「RU−P」。平均粒径1.1μm。
Al:住友化学工業(株)製「AKP−30」。平均粒径0.4μm。
MgO:宇部興産(株)製「500A」。平均粒径0.05μm。
HfO:(株)高純度化学研究所製。平均粒径0.2μm。
ZrO:東ソー(株)製「TZ−O」。平均粒径0.07μm。
【0056】
(S2.粉砕工程)
以下の粉砕条件Aおよび粉砕条件Bの何れかの粉砕条件により粉砕を行った。なお、粉砕条件Aにより得られた金属Si粉末をビーズミル粉砕物A、粉砕条件Bにより得られた金属Si粉末をビーズミル粉砕物Bとする。
【0057】
(粉砕条件A) ビーズミルとして、アシザワファインテック社製の「ミニツェア」を用い、粉砕メディアとしてビーズ径0.5mmのSiビーズを290g用いた。そして、金属Si粉末1200gとエタノール4000gを混合したスラリーをビーズミルに10パス通過させ、粉砕した。なお、ビーズミルの回転数は3000rpmである。
【0058】
(粉砕条件B) ビーズミルとして、アシザワファインテック社製の「スターミルLMZ2」を用い、粉砕メディアとしてビーズ径0.5mmのSi3N4ビーズを2420g用いた。そして、金属Si粉末8000gとエタノール20000gを混合したスラリーをビーズミルに21パス通過させ、粉砕した。なお、ビーズミルの回転数は2140rpmである。
【0059】
(S3.混合・造粒工程)
ビーズミル粉砕物Aおよびビーズミル粉砕物Bの何れかと各種の焼結助剤とを以下の表1に記載のような組成比になるようにボールミル湿式混合を行った。具体的には、ビーズミル粉砕物と添加物との混合粉末280gおよび分散剤(共栄社化学(株)製「フローレンG」)3.0gをエタノール400mlに加え、ボール径10mmのSiボールを用いて、ボールミル混合を24h行った。その後、各実施例の混合粉末100gに対して、パラフィンを4wt%、DOP(ジオクチルフタレート)を8wt%、シクロヘキサンを35mlを添加して造粒した。
【0060】
なお、実施例1〜9についてはビーズミル粉砕物Aを用いており、実施例10〜13についてはビーズミル粉砕物Bを用いている。
【0061】
【表1】

【0062】
(S4.成形工程)
その後、外径15mmの円柱状の中空部を有する金型を用いて、一軸プレス成形法により、50MPaの圧力を30秒間加えて成形した。さらに、冷間静水等方圧プレス(CIP)法により、200MPaの圧力を60秒間加えて成形した。これにより、圧粉された圧粉体を得た。
【0063】
(S5.脱脂工程)〜(S7.緻密化工程)
得られた圧粉体を500℃で3時間保持し、脱脂を行った。その後、各実施例について、表2に記載の焼成条件で窒化工程および緻密化工程を行った。表2において、実施例6〜13の緻密化工程の温度「1850 or 1900」は、焼成温度1850℃で緻密化を行った試料と焼成温度1900℃で緻密化を行った試料との2つの試料を作成したことを示している。なお、窒化工程は、窒素雰囲気中で焼成した。また、緻密化工程では、0.9MPaの窒素を4l/minの速度で流しながら焼成した。
【0064】
【表2】

【0065】
<比較例1〜13>
ビーズミルによる粉砕工程を省略し、それ以外の工程については実施例と同様にして比較例1〜13の各試料を作成した。すなわち、比較例1〜13では、上記のビーズミルによる粉砕工程を省略し、混合工程において、原料準備工程で準備された原料Si粉末と焼結助剤とを合わせた粉末をボールミルを用いて混合を行った。具体的には、Siと焼結助剤を合わせた粉末280gおよび分散剤(共栄社化学(株)製「フローレンG」)3.0gをエタノール400mlに加え、ボール径10mmのSiボールを用いて、ボールミル混合を24h行った。各比較例の組成、焼成条件を表3に示す。表1〜表3に示されるように、比較例nは、実施例nと同一組成、同一焼成条件である。
【0066】
【表3】

【0067】
<評価>
(粉砕後の金属Si粉末の粒度分布)
図3は、粉砕前の金属Si粉末、ビーズミル粉砕物A(実施例1〜9の粉砕工程後の金属Si粉末)、比較例の混合工程後の金属Si粉末のSEM写真を示す図である。図示されるように、ビーズミル粉砕物Aでは均一な粒径に微細化されていることがわかる。一方、比較例では、粗大な粒子が残存していることがわかる。
【0068】
次に、粉砕工程後の金属Si粉末の粒度分布を測定した。測定器として、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所製、SALD-7000、光源405nm、設定屈折率4.0-0.01i)を用いた。
【0069】
図4は、粉砕前の金属Si粉末、ビーズミル粉砕物A、比較例の混合工程後の金属Si粉末の粒度分布の結果を示す図である。図4では、体積基準の頻度分布と累積分布の両方を示している。図4において、「50.0%D」は、粒径の小さい側をゼロとしたときの、累積パーセントが50%であるときの粒径(d50)である。同様に、「10.0%D」は、累積パーセントが10%であるときの粒径(d10)を示し、「90.0%D」は、累積パーセントが90%であるときの粒径(d90)を示している。
【0070】
図示されるように、粉砕前では、メジアン径(d50)12.7μmであった粉末が、ビーズミル粉砕を行うことにより、メジアン径1.1μmに微細化されることが確認できた。さらに、ビーズミル粉砕では、d90の粒径とd10の粒径との差が1.2μmと小さくなっており、粒径のばらつきが小さくなっている。
【0071】
一方、比較例では、メジアン径1.8μm、d90の粒径とd10の粒径との差2.2μmと、十分に微細化がされておらず、粒径のばらつきも大きい。このことは、粗大な粒子が残存していることを示している。
【0072】
(窒化工程後の反応焼結体、および、緻密化工程後の最終焼結体の評価)
次に、窒化工程後の反応焼結体について、金属Si、α−Si、β−Siの重量分率をX線回折により測定した。図5は、実施例4および比較例4における反応焼結体のX線回折結果を示す図である。また、図6は、実施例5および比較例5における反応焼結体のX線回折結果を示す図である。さらに、図7は、実施例8,9および比較例6〜9における反応焼結体のX線回折結果を示す図である。このようにして測定されたX線回折ピークから、金属Si、α−Si、β−Siの重量分率を求めた。
【0073】
また、反応焼結体の窒化率を、α−Siおよびβ−Siの重量分率を合計することで求めた。
【0074】
さらに、反応焼結体および緻密化工程後の最終焼結体について、相対密度を測定した。相対密度は、理論密度に対するアルキメデス法による実測密度の比率を算出することで求めている。
【0075】
【表4】

【0076】
表4は、各実施例および比較例における重量分率、窒化率、および、相対密度を示している。なお、表中の相対密度において、「成形体」が成形工程後の相対密度を示し、「窒化後」が窒化工程後の相対密度を示し、「1850」が1850℃での緻密化工程後の相対密度を示し、「1900」が1900℃での緻密化工程後の相対密度を示している。
【0077】
図8は、表4に示される各実施例および比較例における、反応焼結体の金属Si、α−Si(α相)、β−Si(β相)の重量分率をプロットした三角図である。図8において、黒丸は焼結助剤としてAlを含む実施例3〜5に対応し、黒三角は残りの実施例に対応し、白丸は焼結助剤としてAlを含む比較例3〜5に対応し、白三角は残りの比較例に対応している。図8に示されるように、全ての実施例において、金属Si:α−Si:β−Siの重量分率が上記の適正範囲内にあることがわかる。
【0078】
また、表4に示されるように、全ての実施例において、窒化率が90%以上でありながら、窒化工程後の反応焼結体の相対密度が75%以下であった。これは、成形工程時の金属Si粉末の粒径が小さく、かつ粒度分布が狭いことにより、窒化工程において、粗大な結晶粒子の成長が抑制されているためである。
【0079】
図9の(a)は、比較例7の反応焼結体のSEM(走査型電子顕微鏡)写真であり、図9の(b)は、実施例7の反応焼結体のSEM写真である。図9に示されるように、比較例では、粗大な粒子および空孔が存在し、不均一な構造となっている。一方、実施例では、粗大な粒子や空孔が確認されず、粒径が均一である微細な粒子および空孔が均一に分散している構造となっている。
【0080】
これは、比較例では、金属Si粉末の粒度分布が広いことにより、窒化工程において不均一に窒化されたためである。すなわち、窒化工程において、発熱反応である窒化により焼結が促進され、粗大な粒子が成長する領域が不均一に存在することにより、粒子サイズおよび空孔サイズが不均一になっている。
【0081】
これに対し、実施例では、金属Si粉末の粒径が小さく、かつ、粒度分布が狭いため、窒化工程において均一に窒化されるため、粒子サイズおよび空孔のサイズが均一となり、粗大な空孔や粒子が存在しない。
【0082】
図10は、窒化工程後の反応焼結体を薄片透光法により観察した写真を示す図である。薄片透光法とは、研磨機を用いて試験片を100μm程度の厚みに薄片加工し、当該薄片を光学顕微鏡の透過モードで観察する方法である。この場合、金属Si粒子は不透明粒子であるため黒い点として観察される。図10において、(a)は比較例4における窒化工程後の反応焼結体を示す図であり、(b)は実施例4における窒化工程後の反応焼結体を示す図である。図示されるように、薄片透光法によっても、実施例5では窒化が均一であるのに対し、比較例では窒化が不均一であることが確認された。
【0083】
そして、このように均一な組織を持つ反応焼結体を有するため、全ての実施例において、1850℃あるいは1900℃の緻密化工程により相対密度が97%以上となることが確認された。すなわち、焼結助剤の種類や量にかかわらず、容易に緻密な最終焼結体を得ることができる。これに対し、比較例のほとんどが1850℃あるいは1900℃の緻密化工程の何れにおいても相対密度が97%未満であることが確認された。
【0084】
このように全ての実施例において最終焼結体の相対密度が97%以上になったのは、上述したように、窒化工程後の反応焼結体の重量分率を適正範囲内とし、かつ、反応焼結体の相対密度を75%以下に設定したことに起因する。
【0085】
すなわち、反応焼結体の重量分率を適正範囲内とすることにより、緻密化工程において粒成長のための種結晶として作用するβ−Siを過不足なく存在させるとともに、β−Siに相転移することで緻密化に寄与するα−Siも適量存在させている。また、緻密化に影響がない範囲に、金属Siの残存量を抑えている。
【0086】
さらに、ビーズミルで微細化された金属Si粉末を窒化させることにより、反応焼結体において粗大な粒子が成長されることを防止し、反応焼結体の相対密度を75%以下にしているため、緻密化工程においても粗大な粒子が形成されるのを防止でき、より確実に均一に緻密化できるためである。
【0087】
なお、全ての実施例および比較例において、最終焼結体のSiはβ相であることがX線回折により確認されている。
【0088】
図11〜13は、1850℃で緻密化工程が行われた最終焼結体のSEM写真を示す図である。図11および図12は、比較例のSEM写真であり、図12は図11を拡大した図である。なお、図11および図12において、(a)は比較例6、(b)は比較例7、(c)は比較例8、(d)は比較例9を示すものである。また、図13において、(a)は実施例6、(b)は実施例7、(c)は実施例8、(d)は実施例9を示すものである。
【0089】
図11に示されるように、比較例では、粗大な空孔が存在している。そのため、相対密度が低くなっている。これは、図12に示されるように、柱状のβ−Siが異常粒成長することにより、空孔が焼結体内に残存してしまうためである。
【0090】
これに対し、図13に示されるように、実施例では、β−Siの異常粒成長が見られず、均一に焼結されていることがわかる。これにより、相対密度が高く緻密化されている。
【0091】
また、緻密化工程後の最終焼結体を薄片透光法により観察した場合、図14に示されるように、粗大空孔などの屈折率が異なる領域も光が反射することにより透過しないため、黒い点として観察される。図15は、最終焼結体を薄片透光法により観察した写真を示す図である。図15において、(a)は比較例4における窒化工程後の反応焼結体を示す図であり、(b)は実施例4における窒化工程後の反応焼結体を示す図である。図示されるように、比較例は実施例に比べて黒い点の数とサイズが大きいことが確認された。これは、比較例では、空孔の数およびサイズが大きいことを意味している。
【0092】
(硬度、強度の評価)
次に、実施例1〜5および比較例1〜5についてビッカース硬度を評価した。表5は、ビッカース硬度の評価結果を示す。表5に示されるように、同一組成の実施例と比較例とを比較した場合、全ての実施例において比較例よりも硬度が高いことが確認された。これは、実施例が比較例よりも相対密度が高く緻密化されているためである。
【0093】
【表5】

【0094】
また、実施例1,2,4,5および比較例1,2,4,5について、JISR1601に準拠した3×4×35mmの矩形状試験片を用いてスパン30mmの3点曲げ試験により3点曲げ強度を測定した。表6は3点曲げ強度の測定結果を示す。
【0095】
【表6】

【0096】
同一組成の実施例と比較例とを比較した場合、いずれも、実施例が比較例よりも高い強度を示した。ただし、組成によって、実施例と比較例との差がある。特に、焼結助剤として、ZrOまたはHfOを含む実施例1・2では800MPa以上と非常に高い値を示しているが、同一組成の比較例1・2では約500MPaである。これは、緻密化されることにより、焼結助剤であるZrOやHfOの強度に対する効果が顕著に生じたことによるものと考えられる。
【0097】
また、窒化工程の温度が1400℃である実施例4および比較例4の3点曲げ強度は、窒化工程の焼成温度が1450℃である実施例5および比較例5よりも高い。これは、窒化工程の焼成温度が1450℃である場合、窒化工程において一部の金属Siが溶融し、微細な欠陥が生じたためと考えられる。そのため、高強度の要求の高い部品に適用する場合には、窒化工程の焼成温度をなるべく低くすることが好ましい。
【0098】
(熱伝導率の評価)
次に、窒化ケイ素に固溶するAlを焼結助剤として含まない実施例6〜13について、レーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定した。測定器として、(株)リガク製「LF/TCM−FA8510B」を用いた。表7は、熱伝導率の測定結果である。なお、表7において、1850℃の欄は焼成温度1850℃で緻密化工程を行った試料の測定結果であり、1900℃の欄は焼成温度1900℃で緻密化工程を行った試料の測定結果である。
【0099】
【表7】

【0100】
表7に示されるように、何れの実施例も50W/mK以上と比較的高い熱伝導性を有することが確認された。なお、同一組成の比較例6〜13は、最終焼結体の相対密度が低く、緻密化されていないため、レーザーフラッシュ法では測定不能であった。
【0101】
従来の常圧焼結法で作成され、焼結助剤としてYおよびMgOを添加して作成された焼結体の熱伝導率も50〜60W/mK程度である。すなわち、実施例6−13では、安価な金属Siを用いながら、常圧焼結法と同レベルの熱伝導性が得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、エンジン用部品材料、ベアリング材料、工具材料、溶融金属用の部品等の各種構造用材料に用いられる窒化ケイ素系セラミックスに利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属Si粉末と焼結助剤との混合物の圧粉体を窒素雰囲気中で焼成することにより、上記圧粉体中の金属Siの少なくとも一部が窒化された反応焼結体を得る反応焼結工程と、
上記反応焼結工程における焼成温度よりも高い温度で上記反応焼結体を窒素雰囲気中で焼成することにより、反応焼結体よりも緻密化された最終焼結体を得る緻密化工程とを含む、窒化ケイ素系セラミックスの製造方法であって、
上記金属Si粉末は、体積基準の累積粒度分布におけるd50が1.7μm以下であり、かつ、d90とd10との差が2.0μm以下であり、
上記反応焼結工程において、金属Siの重量分率が0〜10wt%、α−Siの重量分率が50〜95wt%、β−Siの重量分率が5〜40wt%である上記反応焼結体を生成し、その後上記緻密化工程を経て最終焼結体を得ることを特徴とする窒化ケイ素系セラミックスの製造方法。
【請求項2】
金属Si粉末と焼結助剤との混合物の圧粉体を窒素雰囲気中で焼成することにより、上記圧粉体中の金属Siの少なくとも一部が窒化された反応焼結体を得る反応焼結工程と、
上記反応焼結工程における焼成温度よりも高い温度で上記反応焼結体を窒素雰囲気中で焼成することにより、反応焼結体よりも緻密化された最終焼結体を得る緻密化工程とを含む、窒化ケイ素系セラミックスの製造方法であって、
上記反応焼結工程において、金属Siの重量分率が0〜10wt%、α−Siの重量分率が50〜95wt%、β−Siの重量分率が5〜40wt%であり、かつ、相対密度が75%以下である上記反応焼結体を生成し、その後上記緻密化工程を経て最終焼結体を得ることを特徴とする窒化ケイ素系セラミックスの製造方法。
【請求項3】
上記金属Si粉末は、体積基準の累積粒度分布におけるd50が1.7μm以下であり、d90とd10との差が2.0μm以下であることを特徴とする請求項2に記載の窒化ケイ素系セラミックスの製造方法。
【請求項4】
上記焼結助剤が、MgO、Al、周期表第3a族の酸化物および第4a族の酸化物からなる群より選ばれた一種または二種以上の酸化物を含むことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の窒化ケイ素系セラミックスの製造方法。
【請求項5】
金属Siをビーズミルを用いて粉砕することにより上記金属Si粉末を生成する粉砕工程を含むことを特徴とする請求項1から4の何れか1項に記載の窒化ケイ素系セラミックスの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図7】
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【図8】
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【図14】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−195395(P2011−195395A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65151(P2010−65151)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】