説明

窒化物半導体素子の製造方法、窒化物半導体レーザ素子およびレーザ装置

【課題】歩留まりおよび特性を向上させることが可能な窒化物半導体素子の製造方法を提供する。
【解決手段】この窒化物半導体素子の製造方法は、非極性窒化物半導体基板10に加工領域20を設ける工程と、非極性窒化物半導体基板10上に窒化物半導体層構造110を形成する工程と、非極性窒化物半導体基板10を劈開する工程とを備えている。窒化物半導体層構造を形成する工程は加工領域20に垂直性の高い領域110bを形成する工程を含み、劈開を行う工程は垂直性の高い領域110bの部位120で劈開を行う工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は窒化物半導体素子の製造方法等に関し、特に、非極性窒化物半導体基板を用いた窒化物半導体素子の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
GaN、AlN、InNおよびそれらの混晶に代表される窒化物半導体材料により製作される窒化物半導体発光素子は、紫外から可視領域までの発光が得られる。そのため、窒化物半導体発光素子は、次世代大容量光ディスク用光源など幅広い利用用途が期待されるため、各機関で研究開発が進んでいる。窒化物半導体発光素子に用いられる窒化物半導体基板は、通常、極性面であるc面を主面(成長面)としている。これは基板のコストの問題と、基板上に成長する結晶層が高品質で得られるためである。
【0003】
しかし、緑色発光が得られるような長波長窒化物発光素子を形成するためには、高In組成のInGaN活性層が必要となる一方、c面窒化物半導体基板上に高In組成のInGaN活性層を成長すると、In偏析による凝集が発生する。このため、発光が得られない領域が出来てしまう結果、高品質な長波長窒化物発光素子は得られなくなる。
【0004】
そこで、m面窒化物半導体基板やc面から特定のオフ角度を設けた半極性窒化物半導体基板といった非極性面窒化物半導体基板が注目されている。それらの基板上に形成した窒化物半導体発光素子は高In組成のInGaNを高品質で形成できる。またピエゾ電界による発光波長のブルーシフトの影響が少ない。このため、このような基板は長波長窒化物半導体発光素子に向いている。しかし、窒化物半導体レーザ素子として導波路に劈開で端面を形成するにあたって、平坦で垂直性の高い端面を形成することが困難であるという不都合がある。このため、レーザ素子としての歩留まりが低下してしまうという問題点がある。
【0005】
劈開に関しては、出願人は過去において、特許文献1に示されているように窒化物半導体素子を形成した後に劈開導入溝を形成することで、平坦な端面を形成してきた。しかし上記のような非極性面窒化物半導体基板を用いる場合、より効果の高い劈開手法が望まれる。
【0006】
一方、従来、劈開工程をせずに端面を形成する方法も提案されている。たとえば、特許文献2に示されているように、c面やa面を主面とする無極性半導体基板を加工し、その上に半導体層を積層する方法が提案されている。この場合、基板の主面に(000−1)面を形成することにより、劈開工程をせずに端面を形成できる。しかしこの方法では実際には共振器端面としては片方しか形成されない。もう片方の端面は(0001)面を出すように劈開を行う必要があるため、その部分で損失が発生する。このため、特許文献2で提案された方法を用いても、やはりレーザ素子としての歩留まりは低下する。特に長波長窒化物半導体素子に有効な{20−21}面を主面に持つ非極性窒化物半導体基板を用いた場合、そのような工程ではレーザ素子としての歩留まりが大きく低下してしまう。さらに、劈開工程をせずに得られる端面も、エッジグロース(端面で層が厚く成長されてしまう現象)によりレーザ特性が悪くなるという不都合もある。
【0007】
その他に、特許文献3に示されているように、{20−21}面を主面に持つ非極性窒化物半導体基板を用いた窒化物半導体レーザ素子を形成する場合に、導波路方向をa軸に沿って形成する方法も知られている。この場合、a面を劈開面として端面が形成される。特許文献3では、a面を劈開面として端面を形成すると歩留まりが向上したとされている。しかしこのような導波路方向では、導波路を伝播する光の偏光特性上の関係で導波損失が大きくなるため、素子特性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−105466号公報
【特許文献2】特開2009−88103号公報
【特許文献3】特開2010−263176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、特許文献1〜3に記載の従来の方法では、歩留まりおよび特性の向上を図ることが困難であるという問題点がある。
【0010】
ここで、本願発明者らが、特許文献3とは異なり、c軸を主面に投影した軸方向に導波路を形成した場合について劈開性の確認を行ったところ、良好に劈開することが困難であった。具体的に説明すると、まず、m面無極性窒化物半導体基板および{20−21}面半極性窒化物半導体基板上にN型窒化物半導体層、活性層、P型窒化物半導体層を形成した。次に、c軸を主面に投影した軸方向に導波路となるリッジストライプを形成した。そしてN電極とP電極を形成して、導波路端面を劈開で形成した。しかしながら、この場合には、平坦で垂直な端面が形成できなかった。そのため、レーザ発振の歩留まりが低かった。
なお、以下の説明において、劈開とは、半導体基板を割って端面を形成するという意味合いで用いる。したがって、ある特定の平面に平行に割れることも含まれる。
【0011】
また、図21に示すように、窒化物半導体素子2011に対して劈開導入溝2012を形成して劈開を行ったところ、劈開面の形成予定部位2013は実際に割れた部位2014から大きくずれてしまう結果となった。したがって、このような方法では上記した問題は解決しなかった。
【0012】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、歩留まりおよび特性を向上させることが可能な窒化物半導体素子の製造方法を提供することである。
【0013】
この発明のもう1つの目的は、素子特性の優れた窒化物半導体レーザ素子およびその窒化物半導体レーザ素子が組み込まれたレーザ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本願発明者らが鋭意検討した結果、非極性窒化物半導体基板に加工領域を設け、その基板上に窒化物半導体層を形成することで垂直性の高い領域が形成され、その垂直性の高い領域で劈開することによって平坦で垂直な端面が効率よく形成されることを見出した。
【0015】
すなわち、この発明の第1の局面による窒化物半導体素子の製造方法は、非極性窒化物半導体基板に加工領域を設ける工程と、非極性窒化物半導体基板上に窒化物半導体層を積層する工程と、非極性窒化物半導体基板を劈開する工程とを備える。そして、窒化物半導体層を積層する工程は加工領域に垂直性の高い領域を形成する工程を含み、劈開を行う工程は垂直性の高い領域で劈開を行う工程を含む。
【0016】
この第1の局面による窒化物半導体素子の製造方法では、上記のように、非極性窒化物半導体基板に加工領域を設けた後、その非極性窒化物半導体基板上に窒化物半導体層を積層する。加工領域での成長モードは他の領域の成長モードとは異なるため、加工領域上において、積層した窒化物半導体層に垂直性の高い領域を形成することができる。そして、形成された垂直性の高い領域を起点として劈開を行うことにより、垂直性および平坦性の高い端面を効率よく形成することができる。加えて、劈開面の形成予定部位で効果的に劈開を行うことができる。また、上記方法を用いてたとえば半導体レーザ素子を作製すれば、高い垂直性と平坦性を有する端面(共振器端面)を、レーザ素子の両端面に得ることができる。これにより、得られた窒化物半導体素子の特性を向上させることができる。したがって、このような方法を用いて窒化物半導体素子を製造すれば、素子特性の優れた窒化物半導体素子を歩留まりよく製造することができる。
【0017】
上記第1の局面による窒化物半導体素子の製造方法において、好ましくは、非極性窒化物半導体基板の主面は、m面からc軸方向に0度以上30度以内のオフ角度をもつ。このように構成すれば、容易に、積層した窒化物半導体層に垂直性の高い領域を形成することができるので、容易に、素子特性および歩留まりを向上させることができる。
【0018】
また、加工領域を設ける際に、加工領域をa軸方向に破線状に配置すると好ましい。このように構成すれば、隣り合う加工領域の間に加工がされていない領域が形成されるので、たとえば半導体レーザ素子において、この加工領域以外の領域に、窒化物半導体レーザ素子の導波路を形成することができる。このため、導波路が加工領域に形成されることに起因する素子特性の低下を抑制することができる。また、加工領域をa軸方向に破線状に配置することにより、たとえば半導体レーザ素子において導波路をc軸方向(c軸を主面に投影した軸方向)に延びるように形成することができる。これにより、導波損失が大きくなるのを抑制することができる。すなわち、偏光特性にとって導波損失の少ない共振器方向をもつことができる。その結果、素子特性を向上させることができる。なお、加工領域をa軸方向に沿って配置することにより、より容易に、積層した窒化物半導体層に垂直性の高い領域を形成することができる。
【0019】
また、非極性窒化物半導体基板は、無極性面からc軸方向に15度のオフ角度を有する{20−21}面窒化物半導体基板とされているとより好ましい。{20−21}面窒化物半導体基板は長波長窒化物半導体発光素子に有効であるため、このような構成とすることにより、素子特性の優れた長波長窒化物半導体発光素子を歩留まりよく製造することができる。
【0020】
上記加工領域は、平面的に見て、短辺と長辺とを有する形状とすることができる。この場合、加工領域はその短辺が1μm以上10μm以下となるように形成するのが好ましい。また、加工領域の長辺についても1μm以上10μm以下となるように形成するのが好ましい。
【0021】
上記加工領域は、たとえば凹形状(断面視において凹形状)とすることができる。このように構成すれば、より容易に、窒化物半導体層に垂直性の高い領域を形成することができる。この場合、凹形状である加工領域の深さは1μm以上とするのが好ましい。このように加工領域の深さを1μm以上とすることで、加工領域を窒化物半導体層で埋め込まれにくくすることができる。これにより、より確実に窒化物半導体層に垂直性の高い領域を形成することができる。
【0022】
また、加工領域を凹形状に構成する場合、凹形状の加工領域を形成する工程は非極性窒化物半導体基板にクラック防止溝を形成する工程を含んでいてもよい。このように構成すれば、凹形状の加工領域を形成する際に、同一工程でクラック防止溝を形成することができる。そのため、クラック防止溝を形成する場合でも、工程が増加するのを抑制することができる。その結果、製造工程が複雑になるのを抑制することができる。
【0023】
凹形状である加工領域とクラック防止溝とを同一工程で形成する場合は、凹形状である加工領域の深さとクラック防止溝の深さは3μm以上とするのが好ましい。このように構成すれば、加工領域およびクラック防止溝を窒化物半導体層で埋め込まれにくくすることができる。なお、加工領域とクラック防止溝とは異なる深さとすることもできる。
【0024】
上記加工領域は、凹形状以外にたとえば凸形状とすることもできる。そして、このように構成した場合でも、窒化物半導体層に垂直性の高い領域を容易に形成することができる。
【0025】
加工領域を凹形状または凸形状とする場合、加工領域内の側壁と平面(主面に平行な面)とがなす角度が90度以上120度以下となるように加工領域を形成するのが好ましい。加工領域内の側壁と平面(主面に平行な面)とがなす角度が90度以上100度以下であればより好ましい。
【0026】
上記第1の局面による窒化物半導体素子の製造方法において、加工領域を設ける工程は、非極性窒化物半導体基板上に成長抑制膜を形成する工程を含み、成長抑制膜の形成によって加工領域が設けられるように構成することもできる。このように構成した場合でも、窒化物半導体層に垂直性の高い領域を容易に形成することができる。
【0027】
この発明の第2の局面による窒化物半導体レーザ素子は、加工領域が設けられた非極性窒化物半導体基板と、非極性窒化物半導体基板上に形成された窒化物半導体層と、窒化物半導体層に形成され、c軸を主面に投影した軸方向に延びる導波路と、導波路の延び方向と交差する端面とを備える。そして、窒化物半導体層は、加工領域に起因して形成された垂直性の高い領域を含み、端面は、垂直性の高い領域で劈開されることによって形成されている。
【0028】
この第2の局面による窒化物半導体レーザ素子では、上記のように、加工領域に起因して形成された垂直性の高い領域で劈開することにより、垂直性および平坦性の高い端面をレーザ素子の両端面に得ることができる。このため、素子特性を向上させることができる。たとえば、有効にレーザ発振をさせることができる。また、c軸を主面に投影した軸方向に延びるように導波路を形成することによって、たとえばa軸方向に延びるように導波路を形成する場合に比べて、導波損失が大きくなるのを抑制することができる。さらに、レーザ素子の端面(共振器端面)を劈開により形成することで、たとえばエッジグロース等によるレーザ特性の悪化を抑制することができる。
【0029】
なお、このような窒化物半導体レーザ素子は、上記第1の局面による窒化物半導体素子の製造方法を用いることにより作製することができる。
【0030】
この発明の第3の局面によるレーザ装置は、上記第2の局面による窒化物半導体レーザ素子が組み込まれたレーザ装置である。
【発明の効果】
【0031】
以上のように、本発明によれば、歩留まりおよび特性を向上させることが可能な窒化物半導体素子の製造方法を容易に得ることができる。
【0032】
また、本発明によれば、素子特性の優れた窒化物半導体レーザ素子およびその窒化物半導体レーザ素子が組み込まれたレーザ装置を容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本実施形態による加工領域を説明するための断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態による窒化物半導体素子の製造方法を説明するための断面図(基板を示した図)である。
【図3】本発明の第1実施形態による窒化物半導体素子の製造方法を説明するための断面図(凹形状の加工領域の形成方法を説明するための図)である。
【図4】本発明の第1実施形態による窒化物半導体素子の製造方法を説明するための平面図(加工領域の配置を示した図)である。
【図5】本発明の第1実施形態による窒化物半導体素子の製造方法を説明するための平面図(加工領域の配置を示した図)である。
【図6】本発明の第1実施形態による窒化物半導体素子の製造方法を説明するための断面図(凹形状の加工領域が設けられた基板の断面を示した図)である。
【図7】本発明の第1実施形態による窒化物半導体素子の製造方法を説明するための断面図(窒化物半導体積層構造を示した図)である。
【図8】本発明の第1実施形態による窒化物半導体素子の製造方法を説明するための断面図(凹形状の加工領域における結晶成長を示した図)である。
【図9】本発明の第1実施形態による窒化物半導体素子の製造方法を説明するための断面図(凹形状の加工領域における結晶成長を示した図)である。
【図10】本発明の第1実施形態による窒化物半導体素子の製造方法を説明するための図(劈開の位置を示した図)である。
【図11】本発明の第1実施形態による窒化物半導体素子の製造方法を説明するための図(加工領域とリッジストライプとの配置関係を示した図)である。
【図12】本発明の第1実施形態による窒化物半導体レーザ素子の斜視図である。
【図13】実施例による窒化物半導体レーザ素子の製造方法を説明するための斜視図である。
【図14】実施例による窒化物半導体レーザ素子の製造方法を説明するための斜視図である。
【図15】実施例による凹加工領域上における結晶成長の様子を示した図である。
【図16】実施例によるへき開結果を示した図である。
【図17】本発明の第2実施形態による窒化物半導体素子の製造方法を説明するための断面図(凸形状の加工領域の形成方法を説明するための図)である。
【図18】本発明の第2実施形態による窒化物半導体素子の製造方法を説明するための断面図(凸形状の加工領域における結晶成長を示した図)である。
【図19】本発明の第3実施形態による窒化物半導体素子の製造方法を説明するための断面図(成長抑制膜加工領域の形成方法を説明するための図)である。
【図20】本発明の第3実施形態による窒化物半導体素子の製造方法を説明するための断面図(成長抑制膜加工領域における結晶成長を示した図)である。
【図21】{20−21}面半極性窒化物半導体基板上における窒化物半導体素子の劈開状態を示した図(従来方法を用いた場合の劈開状態を示した図)である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0035】
本実施形態による窒化物半導体素子の製造方法では、基板として窒化物半導体基板を用いる。「窒化物半導体基板」とは、AlxGayInzN(0≦x≦1;0≦y≦1;0≦z≦1;x+y+z=1)からなる基板を意味する。ただし、窒化物半導体基板の窒素元素のうちで、その約10%以下がAs、P、またはSbの元素で置換されてもよい(ただし、基板の六方晶系が維持されることが前提)。また、窒化物半導体基板中に、Si、O、Cl、S、C、Ge、Zn、Cd、Mg、またはBeがドーピングされてもよい。n型ドーパントとしては、Si、O、およびClが特に好ましい。
【0036】
本実施形態で用いる窒化物半導体基板は、無極性、および半極性窒化物半導体基板である。主面方位としてはm面({1−100}面)や、無極性面方位からc軸方向に30°以内のオフ角度を有する基板主面であるのが好ましい。特に無極性面からc軸方向に15°のオフ角度を有する{20−21}面半極性窒化物半導体基板が好ましい。{20−21}面半極性窒化物半導体基板は長波長窒化物半導体発光素子に有効である。そして、本実施形態による窒化物半導体素子の製造方法によれば、後述するように、このような主面を持つ窒化物半導体発光素子においても、偏光特性にとって損失の少ない共振器方向を持つことができる。なお、本実施形態では、これらの窒化物半導体基板を非極性窒化物半導体基板とする。
【0037】
また、本実施形態では、上記窒化物半導体基板に予め加工領域を設ける。「加工領域」とはたとえば図1に示されているように窒化物半導体基板10の主面に加工された凹加工領域21(20)、凸加工領域22(20)などを含む。もしくはSiO2膜、AlN膜などの成長抑制膜23aを積層させた成長抑制膜領域23を加工領域20とすることもできる。すなわち、加工領域20は形状と構造において、主として、図1に示すような凹加工領域21、凸加工領域22、成長抑制膜領域23などに区別することができる。前者二種類の加工領域の制作方法はエッチングなどで行われる。なお、上記加工領域はそれらが組み合わされてもよい。
【0038】
加工領域の断面形状は、矩形状であるのが好ましい。ただし、加工領域の断面形状は、必ずしも矩形状である必要はなく、台形などの他の形状で合ってもよい。加工領域とは、その上に窒化物半導体を積層した際に、基板主面に対して成長モードを変えるような領域であればよい。また、矩形形状のように領域に垂直性の高い面を形成することでより大きい効果が得られる。また、一つの基板上に異なる形状の加工領域が存在していてもよい。さらに加工領域を設けていない窒化物半導体基板に窒化物半導体層を一部積層し、その後に加工領域を設けてから、改めて窒化物半導体層を積層しても、同様の効果が得られる。本願においてはそのような再成長による加工領域の利用も同様の発明と考える。
【0039】
また、本実施形態の説明を考慮するとき、結晶学的に等価な面においても、本実施形態に記載された発明の効果が得られる。さらに、上記以外の主面を持つ窒化物半導体基板上に後述するような加工と同様の加工を設けた場合も、成長モードの違いによる面内に異なった極性を有する素子表面が形成可能であり、それらを応用することも可能である。
【0040】
なお、本実施形態の図面において、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜に変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表わしているわけではない。
【0041】
(第1実施形態)
図2〜11は、本発明の第1実施形態による窒化物半導体素子の製造方法を説明するための図である。図12は、第1実施形態による製造方法により形成された窒化物半導体レーザ素子の斜視図である。まず、図2〜図12を参照して、本発明の第1実施形態による窒化物半導体素子の製造方法およびその製造方法により得られた窒化物半導体レーザ素子について説明する。
【0042】
第1実施形態による窒化物半導体素子の製造方法では、図2に示すように、まず、窒化物半導体基板10を準備する。窒化物半導体基板10は、上記したように、無極性、および半極性窒化物半導体基板(非極性窒化物半導体基板)とする。窒化物半導体基板10の主面方位は、m面({1−100}面)や、無極性面方位からc軸方向に30°以内のオフ角度を有しているのが好ましい。また、長波長窒化物半導体発光素子を形成する場合には、窒化物半導体基板10として、無極性面からc軸方向に15°のオフ角度を有する{20−21}面半極性窒化物半導体基板を用いるのが好ましい。窒化物半導体基板10としては、たとえば、GaN基板を用いることができる。
【0043】
次に、窒化物半導体基板10の主面に加工領域を設ける。第1実施形態では、加工領域として、凹加工領域を形成する。すなわち、窒化物半導体基板10に凹形状の加工領域を形成する。
【0044】
具体的には、図3(a)に示すように、まず、スパッタ法などを用いて窒化物半導体基板10の全面にSiO2等からなる絶縁膜30を形成する。絶縁膜30の成膜方法は、スパッタ法以外にたとえばEB(Electron Beam)蒸着法、プラズマCVD法などであってもよい。次に、図3(b)に示すように、フォトリソグラフィー技術を用いて、絶縁膜30上にレジスト31を形成するとともに、このレジスト31でウィンドウ31aを形成する。そして、図3(c)に示すように、RIE(Reactive Ion Etching)法などを用いて、レジスト31をマスクとして絶縁膜30をエッチングする。
【0045】
続いて、図3(d)に示すように、ICP(Inductively Coupled Plasma:誘導結合型プラズマ)法、もしくはRIE法により、レジスト31と絶縁膜30をマスクとして窒化物半導体基板10をエッチングする。その後、レジスト31および絶縁膜30を除去する。これにより、図3(e)に示すように、窒化物半導体基板10の主面(表面)に凹形状の加工領域21(20)が形成される。
【0046】
ここで、図4(a)に示すように、加工領域21は窒化物半導体素子の機能部位が形成される部分を除いて形成する。また、加工領域21はa軸[11−20]方向に沿って延びるように配置する。なお、図4では、一例として、窒化物半導体基板10の主面をm’面(m面{1−100}面からc軸[0001]方向にオフ角度を設けた面)、その主面にc軸[0001]を投影した軸をc’軸としている。
【0047】
加工領域20(21)の配置は、形成する窒化物半導体素子の用途によって自由に変えることが可能である。たとえば、加工領域20を破線状に配置してもよいし、加工領域20を連続的に配置してもよい。連続的に配置されている加工領域21(21a)では、本実施形態による効果が高い。ただし、窒化物半導体素子として窒化物半導体レーザ素子を作製する場合には、導波路ストライプ部には加工しないように破線状に配置した加工領域21(21b)にするのが好ましい。
【0048】
また窒化物半導体基板10上に窒化物半導体素子を形成する際、その層構造に応じて蓄積された結晶歪みによって特にa軸[11−20]に沿ってクラックが発生する場合がある。この場合、素子の歩留まりを低下させることとなる。そのため、このような場合には、図4(b)に示すように、主面に対してm’軸方向(c軸[0001]方向を主面に対して投影した軸方向)に掘り込み領域(クラック防止溝)40を設けておくのが好ましい。これにより、その上に窒化物半導体薄膜を積層する際に応力が緩和されてクラックの発生が防止される。
【0049】
このようなクラック防止溝40に関しては、凹形状の加工領域21を形成する際に、同時に凹加工をすることができるため、工程を簡略化させることができる。もちろん、クラック防止溝40は、凹形状の加工領域21とは別に形成してもかまわない。
【0050】
凹形状の加工領域21に関してはクラック防止溝40と同時に形成する場合、窒化物半導体素子を基板10上に成長するにあたって、クラック防止溝40が埋まってしまう可能性がある。クラック防止溝40が窒化物半導体層で埋まらないようにするためには、クラック防止溝40の深さを3μm以上とするのが好ましい。それに伴って、凹形状の加工領域21の深さも同様の深さで規定される。
【0051】
クラック防止溝40を形成しない場合、凹形状の加工領域21において溝が埋まることを防ぐために、加工領域21を1μm以上の深さで形成するのが好ましい。c’軸方向の掘り込み内部と、a軸方向の掘り込み内部で窒化物半導体の成長モードが異なるため、c’軸方向のクラック防止溝40の方が埋まる速度が速いため、クラック防止溝40に比べて、加工領域21の深さを小さくすることが可能である。
【0052】
また、基板上に形成する窒化物半導体層の層厚が3.5μm以上の場合はそのような深さの溝でも埋まってしまう可能性がある。このような場合は、上記した深さ以上の深さとするのが好ましい。
【0053】
図4(a)のAとBに示す幅を凹形状の加工領域21における開口幅とする。また破線状に凹形状の加工領域21(21b)を配置した場合にCに示す幅を領域間のピッチとする。この場合、まず開口幅A(加工領域の短辺)は1μm以上10μm以下が好ましい。開口幅Aが1μm未満であると、後述するGa極性面の成長によって溝が埋まる可能性がある。一方、開口幅Aが10μmより大きくなると、素子表面に配置する電極などの機能部位に影響を与えてしまうおそれがある。
【0054】
次に破線状に凹形状の加工領域21を設ける場合、図5に示すように、開口幅Bと領域間ピッチCの合計長さ(B+C)は、窒化物半導体素子の機能部位45(たとえば電極など)の配置されたピッチDと等しくなるように構成するのが好ましい。なお、開口幅B(加工領域の長辺)についても1μm以上10μm以下が好ましい。窒化物半導体素子として窒化物半導体レーザ素子を形成するならば、通常、ピッチDは200μm〜400μmである。これは一枚の基板から多くのチップを確保しつつ、プロセスにおいて問題がないスケールである。この条件に従って、幅Bと幅Cを決定する。特に幅Bは幅C以上の幅であれば、後述する垂直性の高い面が多く現れるため、劈開に効果がある。また幅Cは、特に窒化物半導体レーザ素子である場合、10μm以上とするのが好ましい。これは領域間(ピッチC間)でリッジストライプ(導波路)が形成されるため、ピッチCが10μm未満であると、層構造を形成する際に端面になる部位でエッジグロース(領域端面で層厚が他表面に比べて厚くなってしまう現象)が発生してしまい、所望のレーザ特性が得られなくなるおそれがあるためである。
【0055】
加工領域21の加工形状においては、図6に示すように、その側壁21c(20a)は90°以上120°以下の傾きα(側壁21cと平面(主面に平行な面)とがなす角度α)を持っていることが好ましい。これは側壁21cの傾きαが120°より大きい場合、Ga極性面の成長レートが早くなり、溝が埋まりやすくなるためである。そのため、加工領域21の側壁21cの傾きαは90°以上100°以下がより好ましい。
【0056】
続いて、このように加工領域21(20)を設けた加工基板(窒化物半導体基板10)に対して、窒化物半導体薄膜をMOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法などで成長させて窒化物半導体ウエハーを作製する。一例として、窒化物半導体レーザ素子を作製する場合の窒化物半導体層構造について説明する。
【0057】
図7に示すように、MOCVD法などの結晶成長法を用いて、窒化物半導体基板10上に、約2.2μmの厚みを有するn型Al0.050Ga0.950Nからなるn型クラッド層101、約0.1μmの厚みを有するn型GaNガイド層102、量子井戸構造を有する活性層103、約20nmの厚みを有するp型Al0.15Ga0.85Nからなる蒸発防止層104、約0.05μmの厚みを有するp型GaNガイド層105、約0.5μmの厚みを有するp型Al0.050Ga0.950Nからなるp型クラッド層106、約0.1μmの厚みを有するp型GaNコンタクト層107を順次成長させる。活性層103を成長させる際には、約4nmの厚みを有するInGaN井戸層と約8nmの厚みを有するInGaN障壁層とを交互に積層することにより、InGaN/InGaN―2QW活性層103(InGaN/InGaN=4nm/8nm)とする。これにより、窒化物半導体基板10上に窒化物半導体層101〜107からなる窒化物半導体積層造110が形成される。なお、窒化物半導体層構造110(窒化物半導体層101〜107)は、本発明の「窒化物半導体層」の一例である。
【0058】
ここで、窒化物半導体薄膜(窒化物半導体層構造110)を加工基板(加工領域21が設けられた窒化物半導体基板10)に成長させたときに、加工領域21において、その形状に応じて、c軸を主面に投射した方向に成長モードの違いが発生し、成長されやすい面とされにくい面とが現れる。
【0059】
この点について、図8を参照してより詳細に説明する。
【0060】
図8(a)に示すように、まず、窒化物半導体基板10に凹形状の加工領域21を設ける。凹形状の加工領域21は、上記した方法と同様にして形成することができる。次に、図8(b)に示すように、窒化物半導体基板10上に窒化物半導体層構造110を形成する。このとき、[0001]方向側には斜面の成長層(傾斜面)110aが形成される。一方で反対方向側には垂直性の高い側壁110bが形成される。窒化ガリウムを含む結晶においては、窒素極性面(−c面)とガリウム極性面(+c面)のうちガリウム極性面(+c面)が選択的に成長される。垂直性の高い側壁110bが形成されたのは、そのような極性面が加工領域21を形成したことにより現れたためである。そのため、成長されにくい面(窒素極性面(−c面))は加工領域21の形状に応じて、垂直性の高い面110bとして形成される。垂直性の高い面110bが現れるためには用いる基板はm面からc軸にオフした角度θを±30度以内とするのが好ましい。それよりオフさせた基板の場合、成長モードが変わってしまい、垂直性の高い面が得られにくくなる。
【0061】
また、窒化物半導体層構造110が薄い場合は図8(b)のような形状になり、厚い場合は図9のような形状になる。どちらの形状の場合も垂直性の高い面110bが現れ、後述するように、そこを起点に劈開を行うことが可能である。そのため、図8(b)に示した形状および図9に示した形状のどちらの形状でも特に問題はない。
【0062】
その後、図10に示すように、垂直性の高い面110bが得られた状態で、その部分を基点に、垂直性の高い面110bの部位120にて劈開を行う。これにより、実際に劈開面を出す部分に関しても平坦性と垂直性の高い端面(劈開面)が形成される。なお、図10(a)は加工領域21を破線状に配置した状態の平面図を示している。また、図10(b)は窒化物半導体層構造110が図8(b)の形状の場合を示しており、図10(c)は窒化物半導体層構造110が図9の形状の場合を示している。
【0063】
また、窒化物半導体素子として窒化物半導体レーザ素子を作製する場合には、劈開を行う前に、導波路となるリッジストライプを形成する。図11に示すように、リッジストライプ(リッジ部)108は、c軸を主面に投影した軸方向(c’軸方向)に延びるように形成するのが好ましい。この場合、破線状に配置した加工領域21の間にリッジストライプ108が位置するように構成すれば、加工領域21にリッジストライプ108が形成されるのを抑制することができる。これにより、垂直性の高い面11bの部位120(図8〜図10参照)にて劈開を行うことで、リッジ部108と交差(直交)する端面(共振器端面)が得られる。
【0064】
また、第1実施形態による窒化物半導体素子の製造方法を用いて作製された窒化物半導体レーザ素子が図12に示されている。窒化物半導体レーザ素子200では、基板10に加工領域20(21)が設けられており、c軸を主面に投影した軸方向(c’軸方向)に延びるようにリッジ部108が形成されている。リッジ部108の延び方向と交差(直交)する端面(共振器端面)130は、加工領域21に起因して形成された垂直性の高い領域110b(垂直性の高い面の部位)で劈開された劈開面である。
【0065】
さらに、このようにして製造された窒化物半導体レーザ素子200は、たとえば、キャンパッケージなどに搭載されて(組み込まれて)、レーザ装置に組立てられる。
【0066】
第1実施形態による窒化物半導体素子の製造方法では、上記のように、非極性窒化物半導体基板10に加工領域21を設けた後、その非極性窒化物半導体基板10上に窒化物半導体層(窒化物半導体層構造110)を積層する。加工領域21での成長モードは他の領域の成長モードとは異なるため、加工領域21上において、積層した窒化物半導体層構造110に垂直性の高い面110bを形成することができる。そして、形成された垂直性の高い面110bの部位120を起点として劈開を行うことにより、垂直性および平坦性の高い端面(劈開面)を効率よく形成することができる。加えて、劈開面の形成予定部位で効果的に劈開を行うことができる。
【0067】
また、第1実施形態による製造方法を用いてたとえば窒化物半導体レーザ素子を作製すれば、高い垂直性と平坦性を有する端面(共振器端面130)を、レーザ素子の両端面に得ることができる。これにより、得られた窒化物半導体素子(窒化物半導体レーザ素子)の特性を向上させることができる。したがって、このような方法を用いて窒化物半導体素子を製造すれば、素子特性の優れた窒化物半導体素子を歩留まりよく製造することができる。
【0068】
また、第1実施形態では、非極性窒化物半導体基板10の主面が、m面からc軸方向に0度以上30度以内のオフ角度をもつように構成すれば、容易に、積層した窒化物半導体層構造110に垂直性の高い面110bを形成することができるので、容易に、素子特性および歩留まりを向上させることができる。
【0069】
また、加工領域21を設ける際に、加工領域21をa軸方向に破線状に配置することによって、隣り合う加工領域21の間に加工がされていない領域が形成されるので、たとえば半導体レーザ素子において、この加工領域以外の領域に、窒化物半導体レーザ素子の導波路(リッジストライプ108)を形成することができる。このため、リッジストライプ108が加工領域21に形成されることに起因する素子特性の低下を抑制することができる。また、加工領域21をa軸方向に破線状に配置することにより、たとえば半導体レーザ素子200においてリッジストライプ108をc’軸方向(c軸を主面に投影した軸方向)に延びるように形成することができる。これにより、導波損失が大きくなるのを抑制することができる。すなわち、偏光特性にとって導波損失の少ない共振器方向をもつことができる。その結果、素子特性を向上させることができる。なお、加工領域21をa軸方向に沿って配置することにより、より容易に、積層した窒化物半導体層に垂直性の高い面110bを形成することができる。
【0070】
また、非極性窒化物半導体基板10を、無極性面からc軸方向に15度のオフ角度を有する{20−21}面窒化物半導体基板とすれば、素子特性の優れた長波長窒化物半導体発光素子(長波長窒化物半導体レーザ素子)を歩留まりよく製造することができる。
【0071】
なお、上記製造方法を用いて製造された窒化物半導体レーザ素子200では、加工領域21に起因して形成された垂直性の高い面110bで劈開することにより、垂直性および平坦性の高い端面130をレーザ素子の両端面に得ることができる。このため、素子特性を向上させることができる。たとえば、有効にレーザ発振をさせることができる。また、c軸を主面に投影した軸方向(c’軸方向)に延びるようにリッジ部108を形成することによって、たとえばa軸方向に延びるようにリッジ部108を形成する場合に比べて、導波損失が大きくなるのを抑制することができる。さらに、レーザ素子の端面(共振器端面130)を劈開により形成することで、たとえばエッジグロース等によるレーザ特性の悪化を抑制することができる。
【実施例】
【0072】
実施例として、窒化物半導体レーザ素子について説明する。この実施例では、{20−21}面を主面とする半極性窒化物半導体基板を用いた。
【0073】
具体的には、図13(a)に示すように、まず{20−21}面を主面とする半極性窒化物半導体基板1010(10)上に凹加工領域21(20)を[11−20]軸に沿って破線ストライプ状に形成した。凹加工領域21の形成は、上記第1実施形態で示した方法と同様の方法を用いた。具体的には、気相エッチングにより凹加工領域21を形成した。その際に、リッジストライプを形成する予定である領域には凹加工領域21が重ならないように破線状に構成した。このとき、クラック防止溝40も同じ工程で形成した。リッジストライプの間隔は200μmとなるように設定した。また、第1実施形態で規定した加工領域の開口幅A、B、およびピッチ幅C(図4参照)はそれぞれ3μm、150μm、50μmとした。凹加工領域21の深さは3μmとした。
【0074】
また凹加工領域21の縦方向の間隔は後にリッジストライプを600μm長とするために、600μm間隔で配置した。そして、図13(b)に示すように、そのように加工した基板1010上にMOCVD装置にて図7に示した層構造と同様の窒化物半導体層構造110を形成した。
【0075】
具体的には、{20−21}面窒化物半導体基板1010上に、約2.2μmの厚みを有するn型Al0.050Ga0.950Nからなるn型クラッド層101、約0.1μmの厚みを有するn型GaNガイド層102、量子井戸構造を有する活性層103、約20nmの厚みを有するp型Al0.15Ga0.85Nからなる蒸発防止層104、約0.05μmの厚みを有するp型GaNガイド層105、約0.5μmの厚みを有するp型Al0.050Ga0.950Nからなるp型クラッド層106、約0.1μmの厚みを有するp型GaNコンタクト層107を順次成長させた。窒化物半導体層を積層すると、{20−21}面窒化物半導体基板1010上の窒化物半導体層構造110において、凹加工領域21上の成長構造110において垂直性の高い面110bが現れた。図15に、このときの表面写真を示す。図15より、表面110cにおける凹加工領域21において、その領域21の脇にコントラストのついた、つまり傾斜面110aが現れており、逆の面は凹加工のまま急峻な面110bができあがっていることがわかる。
【0076】
続いて、図13(c)に示すように、電流狭窄構造であるリッジ構造(リッジ部)108をレジストプロセスによって作製した。そして、図14(a)に示すように、p型窒化物半導体層上に約15nmの厚みを有するPdからなるp側電極115とSiO2膜116を形成した。さらに、Pt/Au(15nm/200nm)のパッド電極117をパターニングにより形成した。
【0077】
その後、基板裏面(窒化物半導体薄膜が成長していない面)の研削研磨を行った。そして、図14(b)に示すように、基板裏面上にn側電極118(Hf/Al/Mo/Pt/Au=5nm/150nm/36nm/18nm/200nm)を形成した。
【0078】
次に、図14(c)に示すように、このウエハーを600μm間隔でバー状に劈開で分割を行った。この際、垂直性の高い面110bの部位を起点に劈開を行った。その結果、図16に示すように、凹加工領域21(20)の垂直性の高い面110bの部分を基点に劈開面130が垂直に形成された。このようにして得られた複数の窒化物半導体レーザ素子に対して測定を行った結果、いずれの素子からもレーザ発振が得られた。つまり、端面の損失が低減して発振の歩留まりが向上した。なお、本実施形態の方法を用いずに劈開を行った場合は、端面の平坦性が悪いために損失が大きく、レーザ発振はほとんど得られなかった。
【0079】
(第2実施形態)
図17および図18は、本発明の第2実施形態による窒化物半導体発光素子の製造方法を説明するための図である。次に、図1、図17および図18を参照して、本発明の第2実施形態による窒化物半導体素子の製造方法について説明する。なお、各図において、対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明は適宜省略する。
【0080】
この第2実施形態では、図1に示したように、加工領域20として凸加工領域22を形成している。すなわち、第2実施形態では、窒化物半導体基板10に凸形状の加工領域22(20)を形成する。
【0081】
凸形状の加工領域22の具体的な形成方法について説明する。まず、図17(a)に示すように、スパッタ法などを用いて窒化物半導体基板10の全面にSiO2等からなる絶縁膜30を形成する。絶縁膜30の成膜方法は、スパッタ法以外にたとえばEB蒸着法、プラズマCVD法などであってもよい。次に、図17(b)に示すように、フォトリソグラフィー技術を用いて、絶縁膜30上にレジスト31を形成する。そして、図17(c)に示すように、RIE法などを用いて、レジスト31をマスクとして絶縁膜30をエッチングする。
【0082】
続いて、図17(d)に示すように、ICP法、もしくはRIE(法により、レジスト31と絶縁膜30をマスクとして窒化物半導体基板10をエッチングする。その後、レジスト31および絶縁膜30を除去する。これにより、図17(e)に示すように、窒化物半導体基板10の主面(表面)に凸形状の加工領域22が形成される。
【0083】
凸形状の加工領域22に関しても上記第1実施形態と同様のスケールおよび配置等とすることができる。この場合、第1実施形態で示した凹形状の加工領域の深さは、凸形状の加工領域22の高さとして定義される。
【0084】
その後の工程は、上記第1実施形態と同様である。
【0085】
このように構成した場合でも、窒化物半導体薄膜(窒化物半導体層構造)を加工基板(加工領域22(20)が設けられた窒化物半導体基板10)に成長させたときに、凸形状の加工領域22において、その形状に応じて、c軸を主面に投射した方向に成長モードの違いが発生し、成長されやすい面とされにくい面とが現れる。
【0086】
そのため、図18(a)および図18(b)に示すように、凸形状の加工領域22が設けられた窒化物半導体基板10上に窒化物半導体層構造110を形成すると、上記第1実施形態と同様、[0001]方向側には斜面の成長層110aが形成される。一方で反対方向側には垂直性の高い側壁110b(垂直性の高い面110b)が形成される。
【0087】
このように、第2実施形態においても、窒素極性面による成長されにくい状態が現れて垂直性の高い面が得られる。
【0088】
そして、垂直性の高い面110bが得られた状態で、その部分を基点に、垂直性の高い面110bの部位120にて劈開を行う。これにより、実際に劈開面を出す部分に関しても平坦性と垂直性の高い端面(劈開面)が形成される。
【0089】
なお、凸形状の加工領域22を設ける場合においても、クラック防止溝を設けることができる。この場合、加工領域22とクラック防止溝とを同一工程で形成することが困難であるため、加工領域22とクラック防止溝とを別々に形成すればよい。
【0090】
第2実施形態の効果は、上記第1実施形態と同様である。
【0091】
また、第2実施形態による製造方法によっても、上記第1実施形態と同様、素子特性の優れた窒化物半導体素子(たとえば窒化物半導体レーザ素子)を歩留まりよく製造することができる。
【0092】
(第3実施形態)
図19および図20は、本発明の第3実施形態による窒化物半導体発光素子の製造方法を説明するための図である。次に、図1、図4、図19および図20を参照して、本発明の第3実施形態による窒化物半導体素子の製造方法について説明する。なお、各図において、対応する構成要素には同一の符号を付すことにより、重複する説明は適宜省略する。
【0093】
この第3実施形態では、図1に示したように、窒化物半導体基板10上に成長抑制膜23aを積層させた成長抑制膜領域23が加工領域20とされている。
【0094】
成長抑制膜領域23(加工領域20)の具体的な形成方法(成長抑制膜23aの形成方法)について説明する。まず、図19(a)に示すように、まず、フォトリソグラフィー技術を用いて、窒化物半導体基板10の全面にレジスト300を形成する。次に、図19(b)に示すように、レジスト300の一部を選択的に除去することにより、レジスト300にウィンドウ300aを形成する。その後、図19(c)に示すように、スパッタ法などを用いて窒化物半導体基板10の全面にSiO2等からなる絶縁膜23b(成長抑制膜)を形成する。最後に、図19(d)に示すように、レジスト300を剥離する。これにより、窒化物半導体基板10上に成長抑制膜23aが形成されて、この領域が加工領域20(成長抑制膜領域23)とされる。
【0095】
成長抑制膜領域23の形状についても、上記第1実施形態と同様、その幅A,B,C(図4参照)に関しては同様のスケールとすることができる。また、成長抑制膜23a(成長抑制膜領域23)の配置等についても、上記第1および第2実施形態と同様とすることができる。ただし、成長抑制膜23aの厚みに関しては表面上に成長を抑制する状態があればよいため、その膜厚は特に制限されない。なお、プロセス加工の点や製膜上の問題等を考慮すると、成長抑制膜23aの厚みは2μm以下であるのが好ましい。
【0096】
その後の工程は、上記第1または第2実施形態と同様である。
【0097】
このように構成した場合でも、窒化物半導体薄膜(窒化物半導体層構造)を加工基板(加工領域20(23)が設けられた窒化物半導体基板10)に成長させたときに、成長抑制膜23aが形成された加工領域20(23)において、その形状に応じて、c軸を主面に投射した方向に成長モードの違いが発生し、成長されやすい面とされにくい面とが現れる。
【0098】
そのため、図20(a)および図20(b)に示すように、成長抑制膜領域23(加工領域20)が設けられた窒化物半導体基板10上に窒化物半導体層構造110を形成すると、上記第1および第2実施形態と同様、[0001]方向側には斜面の成長層110aが形成される。一方で反対方向側には垂直性の高い側壁110b(垂直性の高い面110b)が形成される。
【0099】
このように、第3実施形態においても、窒素極性面による成長されにくい状態が現れて垂直性の高い面が得られる。
【0100】
そして、垂直性の高い面110bが得られた状態で、その部分を基点に、垂直性の高い面110b部位120にて劈開を行う。これにより、実際に劈開面を出す部分に関しても平坦性と垂直性の高い端面(劈開面)が形成される。
【0101】
なお、成長抑制膜領域23(加工領域20)を設ける場合においても、クラック防止溝を設けることができる。この場合、加工領域20とクラック防止溝とを同一工程で形成することが困難であるため、加工領域20とクラック防止溝とを別々に形成すればよい。
【0102】
第3実施形態の効果は、上記第1および第2実施形態と同様である。
【0103】
また、第3実施形態による製造方法によっても、上記第1および第2実施形態と同様、素子特性の優れた窒化物半導体素子(たとえば窒化物半導体レーザ素子)を歩留まりよく製造することができる。
【0104】
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0105】
たとえば、上記第1〜第3実施形態では、窒化物半導体基板の一例としてGaN基板を用いたが、本発明はこれに限らず、GaN基板以外の窒化物半導体基板を用いてもよい。たとえば、InGaN、AlGaN、および、AlGaInNなどからなる窒化物半導体基板を用いてもよい。また、基板上に結晶成長される窒化物半導体各層については、その厚みや組成等は、所望の特性に合うものに適宜組み合わせたり、変更したりすることが可能である。たとえば、半導体層を追加または削除したり、半導体層の順序を一部入れ替えたりしてもよい。また、導電型を一部の半導体層について変更してもよい。すなわち、窒化物半導体レーザ素子としての基本特性が得られる限り自由に変更可能である。
【0106】
また、上記第1〜第3実施形態では、結晶成長法としてMOCVD法を用いた例を示したが、本発明はこれに限らず、結晶成長法は、MOCVD法以外のたとえばMBE法やCBE法などであってもよい。
【0107】
また、上記第1〜第3実施形態では、加工領域として凹加工領域、凸加工領域、成長抑制膜領域を示したが、本発明はこれに限らず、上記加工領域は、これら以外の加工領域であってもよい。加工領域とは、その上に窒化物半導体を積層した際に、基板主面に対して成長モードを変えるような領域であればよい。
【0108】
また、上記第1〜第3実施形態では、窒化物半導体基板にクラック防止溝を設けた例を示したが、本発明はこれに限らず、クラック防止溝を設けない構成としてもよい。
【0109】
さらに、上記実施形態において、加工領域の寸法や形状等は適宜変更することができる。
【0110】
また、上記第3実施形態では、成長抑制膜をSiO2から構成した例を示したが、本発明はこれに限らず、SiO2以外のたとえばAlNから成長抑制膜を構成してもよい。また、AlNまたはSiO2からなる成長抑制膜を凹部内に形成した例を示したが、本発明はこれに限らず、窒化物半導体の結晶成長を抑制することが可能な材料であれば、AlNおよびSiO2以外の材料からなる成長抑制膜を形成してもよい。なお、成長抑制膜としては、アルミニウム(Al)の窒化物膜、アルミニウム(Al)の酸窒化物膜、アルミニウム(Al)とガリウム(Ga)の窒化物膜が好ましい。また、成長抑制膜の材料として、シリコン(Si)の酸化物、窒化物および酸窒化物、アルミニウム(Al)の酸化物、チタン(Ti)の酸化物、ジルコニア(Zr)の酸化物、イットリア(Y)の酸化物、ニオビウム(Nb)の酸化物、ハフニウム(Hf)の酸化物、タンタル(Ta)の酸化物、および上記材料の酸窒化物、もしくは窒化物を用いてもよい。また、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、タンタル(Ta)などの高融点金属を用いることもできる。
【0111】
なお、上記で開示された技術(構成)を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0112】
10 窒化物半導体基板(非極性窒化物半導体基板)
20 加工領域
21、21a、21b 凹加工領域、凹形状の加工領域
21c 側壁
22 凸加工領域、凸形状の加工領域
23 成長抑制膜領域
23a 成長抑制膜
30 絶縁膜
40 クラック防止溝
45 機能部位
101 n型クラッド層
102 n型GaNガイド層
103 活性層
104 蒸発防止層
105 p型GaNガイド層
106 p型クラッド層
107 p型GaNコンタクト層
108 リッジストライプ、リッジ部(導波路)
110 窒化物半導体層構造、成長構造(窒化物半導体層)
110a 傾斜面
110b 垂直性の高い面(垂直性の高い領域)
110c 窒化物半導体層構造の表面
115 p側電極
116 SiO2
117 パッド電極
118 n側電極
120 垂直性の高い面の部位
130 共振器端面、端面、劈開面
200 窒化物半導体レーザ素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非極性窒化物半導体基板に加工領域を設ける工程と、
前記非極性窒化物半導体基板上に窒化物半導体層を積層する工程と、
前記非極性窒化物半導体基板を劈開する工程とを備え、
前記窒化物半導体層を積層する工程は前記加工領域に垂直性の高い領域を形成する工程を含み、
前記劈開を行う工程は前記垂直性の高い領域で劈開を行う工程を含むことを特徴とする、窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記非極性窒化物半導体基板の主面は、m面からc軸方向に0度以上30度以内のオフ角度をもつことを特徴とする、請求項1に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記加工領域を設ける工程は、
前記加工領域をa軸方向に破線状に配置する工程を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記非極性窒化物半導体基板が{20−21}面窒化物半導体基板であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項5】
前記加工領域を設ける工程は、
前記加工領域の短辺が1μm以上10μm以下となるように前記加工領域を構成する工程を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項6】
前記加工領域を設ける工程は、
前記加工領域の長辺が1μm以上10μm以下となるように前記加工領域を構成する工程を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項7】
前記加工領域を設ける工程は、
前記加工領域を凹形状に形成する工程を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項8】
前記加工領域を設ける工程は、
凹形状である前記加工領域の深さが1μm以上となるように前記加工領域を構成する工程を有することを特徴とする、請求項7に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項9】
前記加工領域を設ける工程は、
前記非極性窒化物半導体基板にクラック防止溝を形成する工程をさらに含むことを特徴とする、請求項7または8に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項10】
凹形状である前記加工領域の深さと前記クラック防止溝の深さが3μm以上であることを特徴とする、請求項9に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項11】
前記加工領域を設ける工程は、
前記加工領域を凸形状に形成する工程を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項12】
前記加工領域内の側壁と平面がなす角度が90度以上120度以下であることを特徴とする、請求項7〜11のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項13】
前記加工領域内の側壁と平面がなす角度が90度以上100度以下であることを特徴とする、請求項7〜12のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項14】
前記加工領域を設ける工程は、
非極性窒化物半導体基板上に成長抑制膜を形成する工程を含み、
前記成長抑制膜の形成によって前記加工領域が設けられることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の窒化物半導体素子の製造方法。
【請求項15】
加工領域が設けられた非極性窒化物半導体基板と、
前記非極性窒化物半導体基板上に形成された窒化物半導体層と、
前記窒化物半導体層に形成され、c軸を主面に投影した軸方向に延びる導波路と、
前記導波路の延び方向と交差する端面とを備え、
前記窒化物半導体層は、前記加工領域に起因して形成された垂直性の高い領域を含み、
前記端面は、前記垂直性の高い領域で劈開されることによって形成されていることを特徴とする、窒化物半導体レーザ素子。
【請求項16】
請求項15に記載の窒化物半導体レーザ素子が組み込まれたことを特徴とする、レーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図15】
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【図16】
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【図21】
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