説明

窒化物結晶の製造方法

【課題】成長した結晶の損傷を抑えながら安全かつ簡便で低コストに結晶を取り出すことができ、なおかつ使用した反応容器の再利用を図りやすくした窒化物結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】反応容器に原料とアンモニア溶媒を充填して密閉した後、耐圧性容器内に前記反応容器を設置し、さらに前記耐圧性容器と前記反応容器の間の空隙に第二溶媒を充填して前記耐圧性容器を密閉した後、前記反応容器中で超臨界または亜臨界アンモニア雰囲気において結晶成長を行い、さらに前記耐圧性容器と前記反応容器の間の空隙に存在するガスを排出することによって反応容器を破裂させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アモノサーマル法により窒化物結晶を製造する方法であって、結晶を成長させる反応容器を耐圧性容器の中に入れた状態で窒化物結晶を成長させた後に反応容器を破裂させる工程を含むものである。
【背景技術】
【0002】
アモノサーマル法は、超臨界状態または亜臨界状態にあるアンモニア溶媒を用いて、原材料の溶解−析出反応を利用して所望の材料を製造する方法である。結晶成長へ適用するときは、アンモニア溶媒への原料溶解度の温度依存性を利用して温度差により過飽和状態を発生させて結晶を析出させる方法である。アモノサーマル法と類似のハイドロサーマル法は溶媒に超臨界または亜臨界状態の水を用いて結晶成長を行うが、主に水晶(SiO2)や酸化亜鉛(ZnO)などの酸化物結晶に適用される方法である。一方アモノサーマル法は窒化物結晶に適用することができ、窒化ガリウムなどの窒化物結晶の成長に利用されている。
【0003】
アモノサーマル法に用いられる結晶製造装置としては、例えば特許文献1および2に開示されるように、反応容器を耐圧性容器内に装填した状態で、反応容器内で種結晶上に目的とする単結晶を析出させるものが知られている。アモノサーマル法では、結晶成長を行うために反応容器内のアンモニア溶媒が超臨界または亜臨界状態となるまで昇温・昇圧する。このとき、特許文献1および2に記載されているような内筒方式の反応容器を使用する場合には、反応容器内と反応容器の外側との間で圧力が略等しくなるように調節する必要がある。これは、反応容器内外での圧力が異なると、反応容器が潰れたり、破裂したりして、破損する可能性が高いからである。反応容器の内圧が高くなることにより発生する反応容器の破裂を防止する手段として、特許文献2には外壁面全体が変形可能な材料で形成された反応容器を使用することが提案されている(特許文献2)。これは、反応容器の内圧が上昇すると反応容器が膨らんで破裂を防止するものである。従来は、これらの手段を適宜採用することにより反応容器の破損を防ぎながら結晶を成長させ、室温に戻した後に耐圧性容器から反応容器を取り出し、さらに反応容器から結晶を取り出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−263229号公報
【特許文献2】特表2006−514581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、結晶成長後の反応容器は、結晶とともにアンモニアや鉱化剤なども含んでいる。アンモニアを充填した反応容器を耐圧性容器から取り出すことは危険を伴う作業であるうえ、反応容器からアンモニア等を除去して結晶を取り出すための装置も必要であり、コストや手間もかかる。このため、結晶成長後に耐圧性容器から反応容器を取り出して移動させたり、取り出した反応容器からアンモニア等を除去したりせずに済む方法があれば望ましい。
【0006】
一方、耐圧性容器内に反応容器を入れた状態で結晶を成長させた後に、全体を冷却して温度を下げて行くと、反応容器の内外の圧力バランスが崩れて反応容器が内側へ向けて潰れやすいことが本発明者らの研究により明らかになっている。これは、冷却時に反応容器内の圧力よりも反応容器外の圧力(耐圧性容器と反応容器の間の空隙の圧力)が大きくなりやすい傾向があることを本発明者らが初めて見出したことにより明らかになったものである。反応容器が内側に向けて潰れると、成長した結晶が損傷したり、反応容器が大きく破損してしまったりするため、結晶の収量が低下するうえ反応容器の再利用もできない事態に至る。
【0007】
これらの従来法の課題に鑑みて、本発明者らは、成長した結晶の損傷を抑えながら安全かつ簡便で低コストに結晶を取り出すことができ、なおかつ使用した反応容器の再利用を図りやすくした窒化物結晶の製造方法を提供することを目的として鋭意検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
検討を進めた結果、本発明者らは、結晶成長後に、耐圧性容器と反応容器の間の空隙に存在するガスを排出して反応容器を内側から外側へ向けて破裂させることにより、結晶と反応容器の損傷を抑えることが可能になることを見出した。また、破損後に反応容器内にあったアンモニアや鉱化剤も排出させてから耐圧性容器を開放すれば、反応容器を取り出して別途アンモニア等を排出するなどの処理が不要になり、簡便で安価に結晶を取り出すことが可能になることも見出した。これらの知見に基づいて、本発明者らは、以下の窒化物結晶の製造方法を提供するに至った。
【0009】
[1] 反応容器に原料とアンモニア溶媒を充填して密閉した後、耐圧性容器内に前記反応容器を設置し、さらに前記耐圧性容器と前記反応容器の間の空隙に第二溶媒を充填して前記耐圧性容器を密閉した後、前記反応容器中で超臨界または亜臨界アンモニア雰囲気において結晶成長を行い、さらに前記耐圧性容器と前記反応容器の間の空隙に存在するガスを排出することによって反応容器を破裂させることを特徴とする、窒化物結晶の製造方法。
[2] 前記耐圧性容器と前記反応容器の間の空隙に存在するガスの排出を、前記耐圧性容器の導管に接続されているバルブを通して行うことを特徴とする、[1]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[3] 前記バルブが2つ以上であって、少なくとも2つのバルブが直列に設置されていることを特徴とする、[2]に記載の窒化物結晶の製造方法。
[4] 前記ガスの排出を、下記(1)〜(4)の操作を繰り返すことにより行うことを特徴とする、[3]に記載の窒化物結晶の製造方法。
(1)耐圧性容器に遠い位置に設置されている第二バルブを閉じたまま、耐圧性容器に近
い位置に設置されている第一バルブを開くことにより、第一バルブと第二バルブの
間に耐圧性容器内のガスを導入し
(2)次いで、第一バルブを閉じ、
(3)さらに、第二バルブを開いて、第一バルブと第二バルブの間に充填されたガスを第
二バルブを通して排出し、
(4)第二バルブを閉じる。
[5] 前記耐圧性容器と前記反応容器の間の空隙に存在するガスの排出を、温度を低下させながら行うことを特徴とする、[1]〜[4]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【0010】
[6] 前記反応容器の破裂時の耐圧性容器内の温度が500℃以下であることを特徴とする、[1]〜[5]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[7] 前記反応容器の破裂時の耐圧性容器内の圧力が10MPa以上であることを特徴とする、[1]〜[6]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[8] 前記反応容器の破裂時の前記反応容器内外の圧力差が0.1〜50MPaであることを特徴とする、[1]〜[7]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[9] 前記反応容器を破裂させた後に、前記耐圧性容器内のアンモニアを排出してから前記耐圧性容器を開放することを特徴とする、[1]〜[8]のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[10] 前記反応容器が、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ta、TiおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属、または該金属を主成分とする合金からなることを特徴とする、[1]〜[9]のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[11] 前記反応容器の材料として、Pt(100-x)Ir(x)[ただしxは0〜30である]を含むことを特徴とする、[1]〜[9]のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[12] 前記耐圧性容器の内壁が少なくともNi又はCrを含む金属からなることを特徴とする、[1]〜[11]のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[13] 前記反応容器に酸性鉱化剤も充填して密閉することを特徴とする、[1]〜[12]のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
[14] 前記第二溶媒がアンモニア溶媒であることを特徴とする、[1]〜[13]のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、成長させた結晶の損傷を抑えることができる。また、反応容器の損傷も抑えることができるため、反応容器を再利用しやすい。さらに、結晶成長後に耐圧性容器から反応容器を取り出して、アンモニア等を排出してから結晶を取り出すといった煩雑な工程を必要としないため、安全かつ簡便で安価に結晶を取り出すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明で用いることができる結晶製造装置の模式図である。
【図2】本発明で用いることができる反応容器の模式図である。
【図3】本発明で用いることができる反応容器の模式図である。
【図4】本発明で用いることができるバブラーが設置されている結晶製造装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明の半導体結晶の製造方法、およびそれに用いる結晶製造装置や部材について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
本発明の窒化物結晶の製造方法は、反応容器に原料とアンモニア溶媒を充填して密閉した後、耐圧性容器内に前記反応容器を設置し、さらに前記耐圧性容器と前記反応容器の間の空隙に第二溶媒を充填して前記耐圧性容器を密閉した後、前記反応容器中で超臨界または亜臨界アンモニア雰囲気において結晶成長を行い、さらに前記耐圧性容器と前記反応容器の間の空隙に存在するガスを排出することによって反応容器を破裂させることを特徴とする。ここで、破裂とは反応容器内のアンモニア溶媒や鉱化剤が反応容器外に排出可能な程度に反応容器が破損されていればよい。
【0015】
本発明の製造方法で得られる結晶は窒化物結晶であれば特に限定されないが、例えばIII族窒化物結晶が好ましく、中でも窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化インジウムやこれらの混晶などがより好ましい。本明細書においては、典型的な窒化物結晶として窒化ガリウム(GaN)を例にとって本発明を説明するが、本発明の製造方法は窒化ガリウムの製造方法に限定されるものではない。
【0016】
本発明における反応容器中で超臨界または亜臨界アンモニア雰囲気において結晶成長を行う場合の結晶成長の条件としては、例えばGaNであれば特開2009−263229号公報に開示されているような原料、鉱化剤、種結晶、溶媒、温度、圧力などの条件を好ましく用いることができる。また、本製造方法に用いる結晶製造装置、及び具体的な手順においても、特開2009−263229号公報に開示されている方法を好ましく用いることができる。該公開公報の開示全体を本明細書に引用して援用する。
【0017】
耐圧性容器は高温環境での強度に優れた材料からなることが必要であり、その内壁がNi又はCrを含む金属からなることが好ましい。
【0018】
反応容器はアンモニア溶媒や鉱化剤などに対する耐腐食性に優れた材料からなることが必要であり、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ta、TiおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属、または該金属を主成分とする合金からなることが好ましい。ここでいう該金属を主成分とする合金とは、合金におけるRh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ta、TiおよびWの合計含有量が合金の全重量の50%以上であることを意味し、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上である。反応容器は、上記金属群のうち、少なくともIr,PtまたはTaを含むことが好ましく、少なくともIrまたはPtを含むことがより好ましい。特に好ましいのは、Pt(100-x)Ir(x)[ただしxは0〜30である]である。
【0019】
本発明に用いる耐圧性容器には、耐圧性容器内のガスを排出するために導管が設置されていることが好ましく、その導管には少なくとも1つのバルブが設置されていることが好ましい。バルブの数は特に限定されないが、圧力調整工程を安全で効果的に実施するために2つ以上のバルブを有することが好ましい。また、バルブが配置される位置は特に限定されず、複数のバルブが直列に配置されてもよいし、並列に配置されていてもよい。圧力調整工程を安全で効果的に実施できることから、少なくとも2つのバルブが直列に配置されていることが好ましい。2つ以上のバルブが直列に配置されている場合、ガス排気側の2つ目以降の直列するバルブは初めから装着されている必要はなく、ガス排気作業前に装着しガス排気作業を行ってもよく、結晶育成中には接続されてなくてもよい。
【0020】
図1に、本発明の結晶製造装置の例を示す。耐圧性容器1に導管13、第一バルブ9a、第二バルブ9b、排気管14が順に接続され、バルブを開けることにより、耐圧製容器中のガスを結晶装置外に排気できる。排気管14の途中には、マスフローメーター15を設置してガス量をモニターしながらガスを排気してもよい。
また、図4に示したような、目視で簡易的にガス排出量を確認できるためバブラー25を設置してもよい。バブラーの中に使用する液体は、ガスが気泡となって目視ができるものであればよく、第二溶媒がアンモニアの場合は、窒素、水素、アンモニアが排気されるため、例えば水が使用できる。
また、排気したガスはスクラバー等の除害設備に接続してもよい。
【0021】
本発明で反応容器と耐圧性容器の間の空隙に充填される第二溶媒は、反応容器の内側と外側をほぼ等しい圧力にすることができる溶媒であればその種類は限定されない。そのような第二溶媒としては、例えば、アンモニア溶媒、水、アルコール、二酸化炭素などを用いることができる。反応容器の内側と外側の圧力差を小さくするためには、第二溶媒は、反応容器の溶媒として用いられるアンモニア溶媒と性質の近い(つまり内容積一定条件において充填率と温度−圧力の関係がアンモニアの温度−圧力変化に近い)溶媒であることが好ましく、アンモニア溶媒を用いることが特に好ましい。その理由は、性質の近い溶媒を用いると、原料の溶解析出によって結晶成長反応を行うために温度を上げたとき、特に昇温過程において、反応容器の内側と外側の圧力をほぼ同じに保つことが容易になるからである。通常、反応容器の内側と外側には同質の溶媒を用い、空隙に対する充填率をそれぞれほぼ同じにすることが好ましい。より厳密には加熱炉のデザイン、耐圧性容器内の反応容器の配置などにより、反応容器内と反応容器外のアンモニア溶媒の温度が異なることがあるため、それぞれの温度に合わせて充填率を変化させ反応容器内と反応容器外との圧力がほぼ同じになるようにすることがより好ましい。
【0022】
反応容器と耐圧性容器の間の空隙に充填される第二溶媒がアンモニア溶媒である場合、該アンモニア溶媒は原料等と直接触れることはないので、不純物等の物性に関しては特に問題とならないが、反応容器内のアンモニア溶媒と反応容器と耐圧性容器の間の空隙に充填されるアンモニア溶媒の物理的な物性をほぼ等しくするためには、アンモニア溶媒に含まれる水や酸素の量をできるだけ少なくすることが望ましい。水と酸素の合計含有量は、好ましくは1000ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下である。水や酸素量をできるだけ少なくすることは、耐圧性容器の腐食を抑制する観点からも有効である。
【0023】
本発明の製造方法では、反応容器中で超臨界または亜臨界アンモニア雰囲気において結晶成長を行った後に、耐圧性容器と反応容器の間の空隙に存在するガスを排出する。
耐圧性容器と反応容器の間の空隙に存在するガスの排出は、結晶成長を行った後に温度を下げる際に行うことが好ましい。ガスの排出は、温度を下げながら行ってもよいし、温度をいったん定温に保ったうえで行ってもよい。好ましいのは温度を下げながらガスの排出も並行して行う態様である。ガスの排出は、連続的に行ってもよいし、断続的に行ってもよい。連続的に行う場合は、時間によってガス排出量やガス排出速度を変化させてもよく、また断続的に行う場合は前後の排出工程のガス排出量やガス排出速度を変化させてもよい。また、断続的に行う場合は、排出時間と非排出時間の長さとタイミングをその都度調整してもよい。
【0024】
本発明にしたがって、耐圧性容器と反応容器の間の空隙に存在するガスの排出を行うことによって、耐圧性容器と反応容器の間の空隙に存在するガスの圧力を低下させ、反応容器の外圧を内圧よりも低くすることができる。それによって、反応容器の内外圧力差がガス排出に伴って大きくなるため、反応容器の強度が内外圧力差に耐えきれなくなった時点で反応容器は外側に向けて破裂する。このときの破裂のタイミングは、特定の機械的強度を有する反応容器を選択し、ガス排出の量と時間を制御し、耐圧性容器内の温度と圧力を制御することによって調整することができる。
【0025】
反応容器は、反応容器内外の圧力差が0.1MPa以上であるときに破裂する機械的強度を有するものを使用することが好ましく、0.2MPa以上であるときに破裂する機械的強度を有するものを使用することが好ましく、1MPa以上であるときに破裂する機械的強度を有するものを使用することがさらに好ましく、3MPa以上であるときに破裂する機械的強度を有するものを使用することがさらにより好ましい。また、反応容器は、反応容器内外の圧力差が50MPa以下であるときに破裂する機械的強度を有するものを使用することが好ましく、40MPa以下あるときに破裂する機械的強度を有するものを使用することが好ましく、30MPa以下であるときに破裂する機械的強度を有するものを使用することがさらに好ましく、20MPa以下であるときに破裂する機械的強度を有するものを使用することがさらにより好ましい。
【0026】
反応容器の破裂時の耐圧性容器内の温度は、500℃以下であることが好ましく、480℃以下であることがより好ましく、450℃以下であることがさらに好ましく、400℃以下であることがさらにより好ましい。また、反応容器の破裂時の耐圧性容器内の温度は、125℃以上であることが好ましく、145℃以上であることがより好ましく、170℃以上であることがさらに好ましく、210℃以上であることがさらにより好ましい。
【0027】
反応容器の破裂時の耐圧性容器内の圧力は、10MPa以上であることが好ましく、20MPa以上であることがより好ましく、30MPa以上であることがさらに好ましく、50MPa以上であることがさらにより好ましい。また、反応容器の破裂時の耐圧性容器内の圧力は、
170MPa以下であることが好ましく、160MPa以下であることがより好ましく、150MPa以下であることがさらに好ましく、125MPa以下であることがさらにより好ましい。
【0028】
耐圧性容器内の温度や圧力は、耐圧性容器に設置したセンサーで測定することができる。また、ガスの排出量や排出時間は、耐圧性容器内の温度や圧力を測定しながら決定し、制御することができる。このとき、排出するガスの総量をあらかじめ決定しておいて、排出のタイミングと速度を調整することもできる。
【0029】
ガスの排出は、耐圧性容器の温度や圧力がある程度低下してから開始することが好ましい。ガスの排出は、耐圧性容器の温度が500℃以下になってから開始することが好ましく、480℃以下になってから開始することがより好ましく、450℃以下になってから開始することがさらに好ましい。また、ガスの排出は、耐圧性容器の圧力が170MPa以下になってから開始することが好ましく、160MPa以下になってから開始することがより好ましく、150MPa以下になってから開始することがさらに好ましい。
【0030】
ガス排出中の耐圧性容器の平均冷却速度は、4℃/h以上であることが好ましく、8℃/h以上であることがより好ましく、12℃/h以上であることがさらに好ましく、16℃/h以上であることがさらにより好ましい。また、ガス排出中の耐圧性容器の平均冷却速度は、200℃/h以下であることが好ましく、180℃/h以下であることがより好ましく、160℃/h以下であることがさらに好ましく、140℃/h以下であることがさらにより好ましい。
【0031】
ガス排出中の耐圧性容器の平均圧力低下速度は、2MPa/h以上であることが好ましく、4MPa/h以上であることがより好ましく、6MPa/h以上であることがさらに好ましく、8MPa/h以上であることがさらにより好ましい。また。ガス排出中の耐圧性容器の平均圧力低下速度は、100MPa/h以下であることが好ましく、90MPa/h以下であることがより好ましく、80MPa/h以下であることがさらに好ましく、70MPa/h以下であることがさらにより好ましい。
【0032】
耐圧性容器と反応容器の間の空隙に存在するガスの排出は、耐圧性容器に設置された導管のバルブを操作することにより行うことが好ましい。導管にバルブが1つ取り付けられている場合は、バルブを開いてガスを排出することができる。導管に2つのバルブが直列に取り付けられている場合は、2つのバルブを同時に操作してガスを排出することも可能であるが、下記の(1)〜(4)の操作を繰り返して行うことも可能である。
【0033】
(1)耐圧性容器に遠い位置に設置されている第二バルブを閉じたまま、耐圧性容器に近
い位置に設置されている第一バルブを開くことにより、第一バルブと第二バルブの
間に耐圧性容器内のガスを導入し
(2)次いで、第一バルブを閉じ、
(3)さらに、第二バルブを開いて、第一バルブと第二バルブの間に充填されたガスを第
二バルブを通して排出し、
(4)第二バルブを閉じる。
【0034】
(1)〜(4)の操作を行う場合は、第一バルブと第二バルブの間に充填可能な容積を調整することによって、1度のバルブ開閉による圧力調整の程度を制御することができる。第一バルブと第二バルブの間に充填可能な容積を大きくすれば、1度のバルブ開閉により調整される圧力の幅が大きくなるため、バルブ開閉の操作回数を少なくすることが可能である。第一バルブと第二バルブの間に充填可能な容積を小さくすれば、1度のバルブ開閉により調整される圧力の幅が小さくなるため、圧力変化による反応容器への衝撃を小さくすることが可能である。概して、第一バルブと第二バルブの間に充填可能な容積は、耐圧性容器と反応容器の間の空隙の容積の0.01〜0.5%とすることが好ましく、0.02〜0.4%とすることがより好ましく、0.03〜0.3%とすることがさらに好ましい。第一バルブと第二バルブの間に充填可能な容積を大きくしたい場合は、第一バルブと第二バルブの間に一時的にガスを溜めるためのチャンバーを設けてもよい。単位時間内に(1)〜(4)を繰り返す回数を調整すれば、圧力降下の速度を調整することが可能である。圧力降下の速度を速くしたい場合は、単位時間内に(1)〜(4)を繰り返す回数を多くし、圧力降下の速度を遅くしたい場合は、単位時間内に(1)〜(4)を繰り返す回数を減らすように調整する。
【0035】
本発明によれば、反応容器の内外圧力差を利用して膨張させながら反応容器を破裂させることになるため、通常は断面が真円である反応容器の大部分を真円に保ったまま破裂させることができる。このため、破裂した反応容器の一部分を修理することにより、反応容器を再利用することが可能である。また、破裂した箇所を除く部分を切り出して、さらに新たな反応容器を製造するために利用することも可能である。このため、本発明によれば、多量の窒化物結晶を製造する場合に、トータルの製造コストを大幅に抑えることができる。
【0036】
本発明では、形状や構造に特徴がある反応容器を用いることにより、反応容器の特定の部分を選択的に破裂させるようにすることが可能である。特に、内外圧力差により破裂することができる破裂可能領域をあらかじめ設けてある反応容器を用いることが可能である。破裂可能領域は、破裂可能領域以外の領域(非破裂可能領域)よりも形状が変化しやすいために反応容器にかかる圧力をより多く吸収して変形することができる領域である。本発明で用いる反応容器の具体的な構造は特に制限されないが、典型的な反応容器は結晶育成用の原料を入れる原料域と結晶を育成させる結晶育成域を備えている。結晶育成域には種結晶を設置することができ、結晶育成領域と原料域とはバッフル板で分けられているのが一般的である。
【0037】
破裂可能領域を圧力により変形可能な材料で形成する場合は、圧力変化に対して変形しやすい材料を破裂可能領域に用い、それ以外の領域には圧力変化に対して変形しにくい材料を用いることができる。例えば、Pt−Ir合金の場合には、Irの含有率を増加させると、圧力変化に対してより変形しにくくなることから、破裂可能領域をPt(100-x1)Ir(x1)、破裂可能領域以外の反応容器をPt(100-x2)Ir(x2)から形成する場合に、x1<x2(x1、x2ともに重量%)とすることが挙げられる。Irの含有率の差であるx2−x1は、圧力変化による変形のしやすさに十分な差を付けるために2%以上に設定することが好ましく、また、適度な強度を得るために30%以下に設定することが好ましい。材料を選択することにより形成した破裂可能領域の具体例を図2に示す。図中、破裂可能領域23はハッチで示されており、非破裂可能領域24は白抜きで示されている。図2(a)は、原料域8を画定する反応容器の側壁と底部を圧力により変形しやすい材料で構成して破裂可能領域23としたものである。図2(b)は、結晶育成域7の上端にのみ種結晶4を設置してその周りだけを非破裂可能領域24として、それ以外を破裂可能領域23としたものである。図2(c)は、結晶育成域7の下方にのみ種結晶4を設置してその周りの内壁だけを非破裂可能領域24として、それ以外を破裂可能領域23としたものである。図2(d)は、原料域8の下方壁面だけを圧力により変形しやすい材料で構成して破裂可能領域23としたものである。このように、破裂可能領域は任意の位置に形成することが可能である。
【0038】
また、反応容器全体を同じ材料で形成した後に、破裂可能領域とする部分を高温で焼きなます方法も採用することができる。焼きなましの条件は、変形可能な材料とすることができれば特に規定されないが、例えば500〜1200℃で1〜12時間、大気または窒素または不活性ガス雰囲気中で金属を加熱すればよい。さらに、破裂可能領域を溶接で形成する方法なども採用することができる。溶接することにより、圧力変化に対して変形しやすい領域とすることができる。溶接方法は特に問わないが、例えば、TIG溶接、ガス溶接等がある。
【0039】
厚みを調整することにより、反応容器に破裂可能領域を形成することも可能である。その場合は、破裂可能領域の厚みをT1、破裂可能領域以外における反応容器の厚みをT2としたときに、T1<T2となるようにする。T1は、強度や取り扱い易さのため、0.2mm以上にすることが好ましく、0.3mm以上にすることがより好ましい。また、T2はコストや取り扱い易さのため、2.0mm以下にすることが好ましく、1.0mm以下にすることがより好ましい。また、T1とT2の厚みの比(T1/T2)は、必要な強度の維持と変形しやすさのバランスを取りやすいという理由で、0.5以上にすることが好ましく、また、1未満にすることが好ましい。厚みを調整した破裂可能領域の具体例を図3に示す。図3(a)と(b)は、原料域8を画定する反応容器の側壁と底部の厚みを薄くしたものである。図3(a)では非破裂可能領域24を画定する反応容器の側壁が内側へ厚くなるように肉厚化して結晶育成域7の内容積が小さくなるように構成されている。図3(b)では非破裂可能領域24を画定する反応容器の側壁が外側へ厚くなるように肉厚化して結晶育成域7の内径が原料域8と変わらないように構成されている。図3(c)は原料域8の底部だけを薄くして破裂可能領域23としたものであり、図3(d)は原料域8を画定する側壁の下方だけを薄くして破裂可能領域23としたものである。図3(c)と(d)のように構成することにより、圧力調整により変形する箇所を任意の位置に限定することが可能である。
【0040】
これらの変形可能な材料や構造は、単独で採用してもよく、または複数を組み合わせて採用して破裂可能領域としてもよい。加工のしやすさ、扱いやすさ、単純な構造を維持できる等の理由から、破裂可能領域の材質がPt(100-x1)Ir(x1)、破裂可能領域以外の反応容器の材質がPt(100-x2)Ir(x2)からなる場合にx1<x2とすること、破裂可能領域を焼きなましで形成すること、破裂可能領域の厚み(T1)を力調整容器以外の反応容器の厚み(T2)より薄くする(T1<T2)とすることが好ましい。
【0041】
破裂可能領域は、反応容器のいずれの部分に形成してもよいが、破裂によって結晶を損傷しない部分に形成することが好ましい。また、破裂可能領域は、一箇所に形成してもよいし、図2(c)に示すように複数箇所に形成してもよい。
【0042】
本発明者らの検討によって、耐圧性容器及び反応容器に用いる材料として特定のものを用いた場合に、特に反応容器の外側の圧力が上昇しやくなることが明らかになっている。一般的に、反応容器としては、Ptなどの貴金属といった耐腐食性に優れた材料を用いるのに対して、耐圧性容器としてはNi,Crなどを含む高温環境での強度に優れた材料を用いる。つまり、反応容器の内側のアンモニア溶媒は貴金属しか接していないが、反応容器の外側のアンモニア溶媒は貴金属以外にNi,Cr等のアンモニア分解を促進させ得る金属に接している。よって、結晶成長反応を行うために温度を上げると、反応容器の外側のアンモニア溶媒の分解が促進して窒素と水素になることにより、圧力が上昇してしまうものと考えられる。このため、このような耐圧性容器を用いて従来法を実施すると、耐圧性容器内で反応容器が内側に向けて潰れやすくなる傾向が強まる。よって、NiまたはCrを含む金属からなる耐圧性容器を用いた場合に、本発明の利点をより効果的に享受することができる。
【0043】
本発明にしたがって、反応容器を外側に向けて破裂させた後は、さらに温度を室温まで下げて、耐圧性容器内のガスを排出する。このとき、ガスの排出は温度を下げながら行ってもよいし、温度を下げてから行ってもよい。反応容器の破裂によって、反応容器内に内包されていた鉱化剤やアンモニアも耐圧性容器に取り付けられた導管を通して排出することが可能になる。本発明では、これらの鉱化剤やアンモニアも排出した後に耐圧性容器を開放して結晶を取り出すことが特に好ましい。このような手順を実施することによって、アンモニアを内包している破裂前の反応容器を耐圧性容器から取り出すという危険な工程を実施して、さらに別途アンモニアや鉱化剤の除去を行う手間を省くことができる。また、別途アンモニアや鉱化剤の除去を行うには、それを可能にする設備が必要であるが、本発明によればそのような設備を使わずに安価に処理することができる。特に、工業化などを目的として装置を大型化した場合は、より安全に実施することができる点で本発明の利点は大きい。
【実施例】
【0044】
以下に実施例と比較例と試験例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0045】
<実施例1>
図1に示す結晶製造装置を用いてアモノサーマル法にてGaN結晶の製造を行った。ここでは、内寸が直径70mm、長さが1050mmのオートレーブ1を耐圧性容器として使用し、内寸が直径59mm、長さが950mm、壁面厚が0.5mmのPt−Ir合金製のカプセル(内筒)2を反応容器として使用した。カプセル2をオートクレーブ1内に挿入してオートクレーブ蓋3をした状態で、オートクレーブ1とカプセル2との間には第二溶媒を充填することができる空隙(オートクレーブ内容積−カプセル容積)が約1100cm3存在していた。
【0046】
十分に乾燥した窒素雰囲気グローブボックス内にて多結晶GaN粒子1500gを秤量し、カプセルの下部領域(原料溶解領域)内に原料5として設置した。さらに下部の原料溶解領域と上部の結晶成長領域の間に白金製のバッフル板6(開口率20%)を設置した。種結晶4としてHVPE法により成長した六方晶系GaN単結晶を用いた。これら種結晶4を直径0.2mmの白金ワイヤーにより白金製種子結晶支持枠に吊るし、カプセル上部の結晶成長領域に設置した。真空ポンプを用いてカプセル内を真空脱気して、カプセル内を窒素ガスにて5回パージした後、鉱化剤としてHClガスをアンモニアに対する濃度が3mol%になるように液体窒素温度にて充填した。次にNH3をカプセルの有効容積の約56%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)した後、カプセルを密封した。
【0047】
カプセル2をオートクレーブ1内に挿入してオートクレーブ蓋3を閉じた。オートクレーブ内を真空脱気して窒素ガスパージを複数回行った後、第二溶媒としてNH3をオートクレーブ内に充填した。このとき、NH3をオートクレーブとカプセルの空隙の約60%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)した。
【0048】
続いてオートクレーブ1を上下に2分割されたヒーター11,12で構成された電気炉内に収納した。オートクレーブ外壁から19mmの深さに差し込んだ熱電対16で測定したオートクレーブの結晶成長領域の温度が595℃、同じく19mmの深さに差し込んだ熱電対17で測定した原料溶解領域の温度が625℃(温度差30℃:平均温度610℃)になるように9時間かけて昇温し、設定温度に達した後、その温度にて4日間保持した。オートクレーブ内の圧力は216MPaであった。
【0049】
結晶成長終了後、12時間かけて平均温度を400℃へ冷却したところ、温度低下に伴いオートクレーブ内の圧力も132MPaまで低下した。その後、オートクレーブ導管に接続されたバルブを手動により二つのバルブを同時に操作し、連続してガスを放出するようにした。ガス放出の目安として、図4に示すように結晶製造装置に接続されたバブラー25の気泡を観察しながらバルブの開度を調節した。さらに平均温度と圧力をモニターしながらバルブの開度を微調整した。これにより、オートクレーブとカプセルの空隙に存在しているガス(水素、窒素、アンモニアを含む)を放出しながら、さらに温度を下げた。このときの、平均冷却速度は21℃/hであり、平均圧力低下速度は13MPa/hであった。平均温度が329℃、圧力が93.7MPaに到達したときに、圧力が96.1MPaに瞬時に上昇した。オートクレーブとカプセルの空隙に存在しているガスが抜くことにより、カプセル外圧力がカプセル内圧力よりも低下し、その圧力差によりカプセル壁面に応力がかかり、カプセルが破裂したものと考えられる。
【0050】
カプセルが破裂した後は、カプセル内部から外部に漏れた鉱化剤によるオートクレーブ内面の腐食を最小限に抑えるために、送風により強制的に冷却し、平均温度が約80℃、圧力が大気圧になるまで冷却した。この間の平均冷却速度は61℃/hであり、平均圧力降下速度は25MPa/hであった。バルブを全開にして、内部のアンモニアが全て放出されたことを確認した。
【0051】
オートクレーブが室温近傍温度になってから、オートクレーブの蓋を開けてカプセルを取り出した。カプセルには、縦方向に長さ約100mm、幅5〜10mmの裂け目が生じていることが確認された。裂け目以外の部分はほとんど変形が確認されず、健全性が保たれていた。したがって、破損部分のみを切除し、チューブを溶接により接続することにより他の部分は繰り返し使用可能であった。
【0052】
<比較例1>
結晶成長終了後に、バルブを調整してオートクレーブとカプセルの空隙に存在しているガスを放出する工程を行わずに、自然冷却により室温まで冷却した点を変更して、それ以外は実施例1と同様にして比較例1を行った。オートクレーブが室温近傍温度になってから、バルブを介してオートクレーブとカプセルの空隙に存在しているアンモニアおよびガスを排出してから、オートクレーブの蓋を開けてカプセルを取り出した。その後、排気設備付きの装置内において、カプセル内のアンモニアを排出した。カプセルは育成域、原料域全体にわたり内側へ向けて潰れ、断面が真円のままである部分が残っていなかったため、カプセルの再利用は困難な状況であった。
【0053】
<試験例1>
オートクレーブ内にNH3をオートクレーブの内の有効容積の約58%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)し、カプセルを用いずにアンモニアの熱分解による残存圧力の確認を行った。600℃、247MPaにて24時間維持した後、自然冷却により室温まで冷却したところ、残存圧力が14.5MPaあることが確認された。オートクレーブ内の残存圧を抜くためにバブラーを通してガスを放出したところ、水に溶解しないガス成分が大量にバブルを発生させたことから、オートクレーブ内のガスはアンモニアが熱分解されて生成した窒素および水素であると考えられる。
【0054】
<実施例2>
図1に示す結晶製造装置を用いてアモノサーマル法にてGaN結晶の製造を行った。ここでは、内寸が直径150mm、長さが1800mmのオートレーブ1を耐圧性容器として使用し、内寸が直径130mm、長さが1700mm、壁面厚が1mmのPt−Ir合金製のカプセル(内筒)2を反応容器として使用した。カプセル2をオートクレーブ1内に挿入してオートクレーブ蓋3をした状態で、オートクレーブ1とカプセル2との間には第二溶媒を充填することができる空隙(オートクレーブ内容積−カプセル容積)が約8600cm3存在していた。
【0055】
十分に乾燥した窒素雰囲気グローブボックス内にて多結晶GaN粒子9600gを秤量し、カプセルの下部領域(原料溶解領域)内に原料5として設置した。さらに下部の原料溶解領域と上部の結晶成長領域の間に白金製のバッフル板6を設置した。種結晶4としてHVPE法により成長した六方晶系GaN単結晶を用いた。これら種結晶4を直径0.2mmの白金ワイヤーにより白金製種子結晶支持枠に吊るし、カプセル上部の結晶成長領域に設置した。カプセル内に鉱化剤を入れた後、真空ポンプを用いてカプセル内を真空脱気して、カプセル内を窒素ガスにて5回パージした後、NH3をカプセルの有効容積の約53%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)した後、カプセルを密封した。
【0056】
カプセル2をオートクレーブ1内に挿入してオートクレーブ蓋3を閉じた。オートクレーブ内を真空脱気して窒素ガスパージを複数回行った後、第二溶媒としてNH3をオートクレーブ内に充填した。このとき、NH3をオートクレーブとカプセルの空隙の約54%に相当する液体として充填(−33℃のNH3密度で換算)した。
【0057】
続いてオートクレーブ1を上下に2分割されたヒーター11,12で構成された電気炉内に収納した。オートクレーブ外壁から20mmの深さに差し込んだ6本の熱電対16で測定したオートクレーブの平均温度が608℃にて12日間保持した。オートクレーブ内の圧力は213MPaであった。結晶成長終了後23時間かけて平均温度を400℃、圧力138MPaへ冷却した。温度はオートクレーブ外壁から20mmの深さに差し込んだ6本の熱電対にて測定した。
【0058】
その後、オートクレーブ導管に接続されたバルブを調整し、カプセル外のガス(水素、窒素、アンモニア)を放出しながらさらに温度を下げた。平均冷却速度は8℃/h、平均圧力低下速度は16MPa/hであった。
【0059】
平均温度390℃、圧力117MPaに到達したときに、圧力が120MPaに瞬時に上昇した。カプセル外のガスを抜くことにより、カプセル外圧力がカプセル内圧力よりも低下し、その圧力差により発生したカプセル内の圧力によってカプセルが破裂したものと推察される。
【0060】
カプセルが破裂した後は、カプセル内部から外部に漏れた鉱化剤によるオートクレーブ内面の腐食を最小限に抑えるために送風により強制的に冷却し、平均温度が168℃、圧力が大気圧になるまで冷却を行なった。この間の平均冷却速度は33℃/h、平均圧力降下速度は18MPa/hであった。バルブを全開にし内部のアンモニアが全て放出されたことを確認した。
【0061】
オートクレーブが室温近傍温度になってから、オートクレーブの蓋をあけカプセルを取り出した。カプセルは縦方向に長さ約120mm、幅5〜10mmの裂け目が生じていることが確認された。裂け目以外の部分はほとんど変形が確認されず、健全性が保たれていた。染色浸透探傷検査によりミクロな亀裂が無いことを確認した。従って、破損部分のみを切除し、チューブを溶接により接続することにより他の部分は繰り返し使用可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、発光デバイスや電子デバイス用の半導体結晶等として有用なGaNを始めとする窒化物結晶の育成に効果的に適用することができる。本発明の製造方法によれば、成長させた結晶の損傷を抑えることができる。また、反応容器の損傷も抑えることができるため、反応容器を再利用しやすい。さらに、結晶成長後に耐圧性容器から反応容器を取り出して、アンモニア等を排出してから結晶を取り出すといった煩雑な工程を実施せずに済む。このため、本発明によれば、時間とコストの両面において大幅な改善が期待できる。よって、本発明は産業上の利用可能性が極めて高い。
【符号の説明】
【0063】
1 耐圧性容器(オートクレーブ)
2 反応容器(カプセル)
3 オートクレーブ蓋
4 種結晶
5 原料
6 バッフル板
7 結晶育成域
8 原料域
9a 第一バルブ
9b 第二バルブ
10 保温材
11 成長域ヒーター
12 原料域ヒーター
13 導管
14 排気管
15 マスフローメーター
16 熱電対1
17 熱電対2
18 破裂板
19 圧力センサー
23 圧力調整領域
24 非圧力調整領域
25 バブラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応容器に原料とアンモニア溶媒を充填して密閉した後、耐圧性容器内に前記反応容器を設置し、さらに前記耐圧性容器と前記反応容器の間の空隙に第二溶媒を充填して前記耐圧性容器を密閉した後、前記反応容器中で超臨界または亜臨界アンモニア雰囲気において結晶成長を行い、さらに前記耐圧性容器と前記反応容器の間の空隙に存在するガスを排出することによって反応容器を破裂させることを特徴とする、窒化物結晶の製造方法。
【請求項2】
前記耐圧性容器と前記反応容器の間の空隙に存在するガスの排出を、前記耐圧性容器の導管に接続されているバルブを通して行うことを特徴とする、請求項1に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項3】
前記バルブが2つ以上であって、少なくとも2つのバルブが直列に設置されていることを特徴とする、請求項2に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項4】
前記ガスの排出を、下記(1)〜(4)の操作を繰り返すことにより行うことを特徴とする、請求項3に記載の窒化物結晶の製造方法。
(1)耐圧性容器に遠い位置に設置されている第二バルブを閉じたまま、耐圧性容器に近
い位置に設置されている第一バルブを開くことにより、第一バルブと第二バルブの
間に耐圧性容器内のガスを導入し
(2)次いで、第一バルブを閉じ、
(3)さらに、第二バルブを開いて、第一バルブと第二バルブの間に充填されたガスを第
二バルブを通して排出し、
(4)第二バルブを閉じる。
【請求項5】
前記耐圧性容器と前記反応容器の間の空隙に存在するガスの排出を、温度を低下させながら行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項6】
前記反応容器の破裂時の耐圧性容器内の温度が500℃以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項7】
前記反応容器の破裂時の耐圧性容器内の圧力が10MPa以上であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項8】
前記反応容器の破裂時の前記反応容器内外の圧力差が0.1〜50MPaであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項9】
前記反応容器を破裂させた後に、前記耐圧性容器内のアンモニアを排出してから前記耐圧性容器を開放することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項10】
前記反応容器が、Rh、Pd、Ag、Ir、Pt、Au、Ta、TiおよびWからなる群から選ばれる少なくとも1種類の金属、または該金属を主成分とする合金からなることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項11】
前記反応容器の材料として、Pt(100-x)Ir(x)[ただしxは0〜30である]を含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項12】
前記耐圧性容器の内壁が少なくともNi又はCrを含む金属からなることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項13】
前記反応容器に酸性鉱化剤も充填して密閉することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。
【請求項14】
前記第二溶媒がアンモニア溶媒であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の窒化物結晶の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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