説明

窒素含有酸化亜鉛粉体の製造方法

【課題】特殊な装置や厳しい反応条件を必要とせず、容易に入手できる原料を用いて、微細で比表面積が大きく、有色透明である窒素含有酸化亜鉛粉体を安全に且つ容易に製造する方法を提供する。
【解決手段】第1の方法として、塩基性炭酸亜鉛粉体を炭酸アンモニウム粉体と炭酸水素アンモニウム粉体から選ばれる少なくとも1種と混合し、これを250℃以上、500℃よりも低い温度で焼成する。また、第2の方法として、塩基性炭酸亜鉛粉体と尿素粉体を混合し、これを400〜700℃の範囲の温度で焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒素含有酸化亜鉛粉体とその製造方法に関し、詳しくは、例えば、化粧料における紫外線遮蔽剤として好適に用いることができる窒素含有酸化亜鉛粉体を特殊な装置や厳しい反応条件を必要とせず、容易に入手できる原料を用いて、比較的温和な反応条件下に、容易に安全に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地表に到達する紫外線には、290nmから320nmの範囲のB領域紫外線(UV−B)と、320nmから400nmの範囲のA領域紫外線(UV−A)がある。最近ではオゾン層の破壊により、B領域紫外線(UV−B)の地表到達量が増加しており、紫外線の防御に大きな関心がもたれている。
【0003】
そこで、従来、有機紫外線吸収剤がフィルム、塗料等や、サンスクリーン化粧料等に広く用いられている。例えば、食品や光に弱い医薬品、医薬部外品は、内容物の変質や変色を避けるため、包装フィルムに紫外線遮蔽剤を添加することがある。しかし、有機紫外線遮蔽剤をフィルムに添加すると、時間の経過と共に、配合した有機紫外線吸収剤がフィルムや塗膜の表層へ移行する現象、所謂ブリードアウトが起こる問題があり、また、紫外線吸収剤が光分解して、紫外線遮蔽効果が劣化する問題もある。
【0004】
更に、従来の有機紫外線吸収剤によっては、化粧品分野において、肌への刺激性に問題があり、しかも、有機紫外線吸収剤の紫外線吸収波長が特定の領域に限られていることもあって、近年、広い範囲の波長の紫外線を遮蔽することができる材料が強く要望されている。
【0005】
このような事情の下、近年、酸化亜鉛粉体からなる紫外線遮蔽剤は、サンスクリーンやファンデーション等、紫外線防御機能を有する化粧料に多く用いられている。酸化亜鉛は、物質由来のバンドギャップがA領域紫外線の可視光寄りである380nm付近であり、長波長紫外線領域も遮蔽することができる。そのうえ、酸化亜鉛は屈折率が2.0であって、種々の酸化物のなかでは、比較的小さいことから、例えば、粒子径が0.1μm以下の超微粒子の場合、樹脂に配合して、塗膜化すれば、殆ど透明な膜を得ることができることも、酸化亜鉛粉体からなる紫外線遮蔽剤の用途を一層、拡大する一因となっている。
【0006】
しかしながら、可視光の波長より1次粒子径が十分に小さい超微粒子酸化亜鉛は、可視光領域の光を吸収しないが、実用面においては完全な1次粒子状態で存在させることは困難であり、完全な透明性を得ることは技術的に容易ではなく、通常は2次凝集粒子として存在するものが多いことから、化粧料に配合して、肌に塗布したときや、また、樹脂に配合して、塗膜化したときに、青白い光を反射し、青白く白浮きするという問題がある。
【0007】
そこで、従来、このような問題を解決するために、酸化亜鉛粉体に黄色から赤味を持たせることによって、上述したような白浮きを緩和する試みがなされている。例えば、酸化亜鉛に少量の酸化マンガンを固溶すれば、酸化亜鉛は黄色を呈し、酸化亜鉛に酸化鉛を固溶化すれば、酸化亜鉛は桃色を呈し、そして、酸化亜鉛に酸化鉄を固溶化すれば、酸化亜鉛は茶色を呈するということが知られている。しかし、このように、酸化亜鉛に重金属を固溶させるには、高い焼成温度を必要とするので、通常、微細な粒子を得ることが困難である。また、酸化亜鉛と酸化鉄を混合することによっても、茶色の粉体を得ることができるが、高い透明性は得られ難い。更に、重金属は人体に有害となりうる。
【0008】
他方、酸化亜鉛をアンモニアガス雰囲気下で焼成することによって、桃色の粉体が得られることは、古くから知られており、このような酸化亜鉛の窒素化は、特に、触媒の分野等において、様々な研究がなされてきている。
【0009】
例えば、微細なシュウ酸亜鉛を特別な方法で調製し、これをアンモニアを含む水素ガス中で焼成することによって、比表面積が50m2/g程度の窒素含有酸化亜鉛粉体を得ることができることが知られている(特許文献1参照)。しかし、この方法によれば、焼成時の雰囲気をアンモニアに保持することが必要であり、装置や費用の点で工業的に採用し難い。
【0010】
酸化亜鉛と尿素をメカノケミカル処理して、焼成することによって、窒素含有酸化亜鉛粉体を得ることができることも知られている(特許文献2参照)。しかし、この方法においては、上記酸化亜鉛と尿素のメカノケミカル処理の装置や費用の点で難がある。
【0011】
アンモニア亜鉛錯体を出発原料とし、高温反応炉中に噴霧するという特殊な方法によって、窒素含有酸化亜鉛粉体を得ることができることも知られている(特許文献3参照)。この方法の場合には、高温反応炉を必要とし、そのうえ、原料を反応炉に送入するための噴霧器も必要である。
【特許文献1】特公昭60−33767号公報
【特許文献2】特開2007−54692号公報
【特許文献3】特開2003−171123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、窒素含有酸化亜鉛粉体の製造における上述した問題を解決するためになされたものであって、特殊な装置や厳しい反応条件を必要とせず、容易に入手できる原料を用いて、窒素含有酸化亜鉛粉体を安全に且つ容易に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、第1の方法として、塩基性炭酸亜鉛粉体を炭酸アンモニウム粉体と炭酸水素アンモニウム粉体から選ばれる少なくとも1種と混合し、これを250℃以上、500℃よりも低い温度で焼成することを特徴とする窒素含有酸化亜鉛粉体の製造方法が提供される。
【0014】
更に本発明によれば、第2の方法として、塩基性炭酸亜鉛粉体と尿素粉体を混合し、これを400〜700℃の範囲の温度で焼成することを特徴とする窒素含有酸化亜鉛粉体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、第1及び第2の方法のいずれによっても、特殊な装置や厳しい反応条件を必要とせず、容易に入手できる原料を用いて、比較的温和な反応条件下に、窒素を含有する窒素含有酸化亜鉛粉体を安全に且つ容易に得ることができる。
【0016】
しかも、このような本発明の方法によって得られる窒素含有酸化亜鉛粉体は、可視光域から光の吸収が始まり、酸化亜鉛本来の紫外線を遮蔽する能力を有している茶色の粉体であるので、これを化粧品に配合し、肌に塗布したときも、青白く白浮きせず、肌色を損なわない透明感のある自然な仕上がりになる。従って、本発明による窒素含有酸化亜鉛粉体は、化粧料における紫外線遮蔽剤として好適に用いることができ、また、塗料組成物やプラスチックス等における紫外線遮蔽剤としても好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明による窒素含有酸化亜鉛粉体の製造方法の第1は、塩基性炭酸亜鉛粉体を炭酸アンモニウム粉体と炭酸水素アンモニウム粉体から選ばれる少なくとも1種と混合し、これを250℃以上、500℃よりも低い温度で焼成するものである。
【0018】
このような本発明の第1の方法によれば、後述するように、炭酸アンモニウム粉体と炭酸水素アンモニウム粉体から選ばれる少なくとも1種(以下、これを炭酸(水素)アンモニウム粉体ということがある。)と塩基性炭酸亜鉛粉体は、炭酸(水素)アンモニウム粉体と塩基性炭酸亜鉛粉体との反応生成物を経て、窒素含有酸化亜鉛を生成するものとみられ、それ故に、出発原料としての塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体の比表面積は、得られる窒素含有酸化亜鉛の比表面積に影響を及ぼさない。従って、本発明においては、出発原料として用いる酸化亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体は、その比表面積において、何ら制約を受けるものではない。しかし、窒素含有酸化亜鉛を効率よく得る観点からは、両者の比表面積は小さいことが好ましい。
【0019】
第1の方法において、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体は、炭酸アンモニウム粉体を用いるときは、炭酸アンモニウム/塩基性炭酸亜鉛重量比で0.18〜1.5の範囲、好ましくは、0.2〜1.2の範囲で用いられる。炭酸水素アンモニウム粉体を用いるときは、炭酸水素アンモニウム中のアンモニア量に換算すれば、炭酸アンモニウム粉体を用いるときと同じであるが、炭酸水素アンモニウム/塩基性炭酸亜鉛重量比で0.3〜2.5の範囲、好ましくは、0.5から2.0の範囲で用いられる。そして、炭酸アンモニウム粉体と炭酸水素アンモニウム粉体の混合物を用いるときは、(炭酸アンモニウムと炭酸水素アンモニウムの混合物)/塩基性炭酸亜鉛重量比で0.18〜2.5の範囲、好ましくは、0.3〜2.0の範囲で用いられる。
【0020】
塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体を混合するには、湿式、乾式のいずれによってもよく、特に限定されるものではないが、本発明の第1の方法においては、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体は、混合することによって、亜鉛と炭酸とアンモニアを含む化合物を生成するとみられ、そこで、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体の反応が起こりやすいように、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体は均一に混合されることが好ましく、通常、乾式混合が好ましい。例えば、ポリエチレン袋に塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体を入れて、手で振って揺するだけでもよいが、手で振って揺するのみでは反応を進めるためには長時間かかるため、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体をミキサー等の適宜の混合手段を用いて効果的に乾式混合して、上記反応を進行させることが好ましい。
【0021】
他方、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体を湿式混合する場合は、これらを水やアルコール等の溶媒中で攪拌し、混合し、その後、溶媒を除去して、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体の混合物を調製してもよい。
【0022】
第1の方法においては、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体を混合し、直ちに、焼成に供してもよいが、より好ましくは、上述したように、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体を混合し、反応を十分に進行させた後に、焼成に供するのがよい。塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体を混合し、直ちに、焼成に供しても、焼成時に両者が反応するので、問題なく、目的とする窒素含有酸化亜鉛粉体を得ることができるが、但し、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体を混合し、反応させた後に焼成に供することによって、焼成条件が同じであれば、窒素含有量の多い窒素含有酸化亜鉛粉体を得ることができる。
【0023】
第1の方法によれば、このようにして、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体を混合した後、これを磁器製又は金属製の焼成容器内にて焼成して、本発明による窒素含有酸化亜鉛を得る。ここに、本発明によれば、容器を密閉して焼成するか、又は容器内での焼成の結果、生成するガス雰囲気を保ちながら焼成することが好ましい。即ち、焼成容器内に外部から空気を侵入させないようにして焼成することが好ましい。しかし、焼成容器として、回転式焼成炉を用いる場合には、必要に応じて、空気、アンモニア、二酸化炭素、窒素、ヘリウム、アルゴンや水素等の雰囲気中、又はこれらを組み合わせた雰囲気中で焼成してもよい。
【0024】
第1の方法においては、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体を混合し、好ましくは、反応させた後、250℃以上、500℃よりも低い温度で焼成し、好ましくは、250〜480℃の範囲の温度で焼成する。第1の方法においては、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体を混合し、反応させて得られる反応生成物は、250℃にて窒素含有酸化亜鉛に転化し始める。実際、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体の混合物を250℃で焼成することによって窒素含有酸化亜鉛を得ることができる。しかし、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体の混合物を500℃を超える温度で焼成するときは、生成する酸化亜鉛に窒素が残留しないので、目的とする茶色を有する窒素含有酸化亜鉛を得ることができない。
【0025】
塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体の混合物を焼成する時間は、用いる塩基性炭酸亜鉛と炭酸(水素)アンモニウムの量や、焼成温度、得られる窒素含有酸化亜鉛に要求される比表面積等によって適宜に定められる。
【0026】
前述したように、焼成回数は必ずしも1回でなくてもよく、得られる窒素含有酸化亜鉛粉体の有する紫外線遮蔽性能を損なわない範囲において、必要に応じて、例えば、窒素含有量を増やす目的で、焼成物を再度、炭酸(水素)アンモニウム粉体と混合し、焼成することを繰り返し行ってもよい。
【0027】
本発明による窒素含有酸化亜鉛粉体の製造方法の第2は、塩基性炭酸亜鉛粉体と尿素粉体を混合し、これを400〜700℃の範囲の温度で焼成するものである。
【0028】
この第2の方法においては、塩基性炭酸亜鉛粉体を尿素粉体と室温において混合し、放置しても、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸(水素)アンモニウム粉体を室温において混合し、放置した場合と相違して、塩基性炭酸亜鉛粉体と尿素粉体と間に反応は起こらない。第2の方法においては、塩基性炭酸亜鉛粉体を尿素粉体と混合し、これを400〜700℃の範囲の温度で焼成することによって、目的とする窒素含有酸化亜鉛粉体を得ることができる。
【0029】
第2の方法において、塩基性炭酸亜鉛粉体と尿素は、尿素/塩基性炭酸亜鉛重量比で0.2〜1.2の範囲、好ましくは、0.25〜1.0の範囲で用いられる。
【0030】
本発明によれば、このような第2の方法において、粒径の小さい窒素含有酸化亜鉛を製造するときは、生成する窒素含有酸化亜鉛粒子が相互に焼結しないように、焼結防止剤と共に塩基性炭酸亜鉛粉体と尿素粉体を混合し、これを加熱することが好ましい。ここに、上記焼結防止剤としては、シリカゲルが好ましく用いられる。
【0031】
焼結防止剤としてのシリカゲルは、シリカゲル/塩基性炭酸亜鉛重量比で0.25以下の範囲、好ましくは、0.01〜0.20の範囲で用いられる。塩基性炭酸亜鉛に対して余りに多量を用いるときは、焼結防止剤としての効果には有害な影響はないが、得られる窒素含有酸化亜鉛粒子が相対的に多量のシリカゲルを含むこととなって、目的とする紫外線遮蔽効果が低減する。
【0032】
第2の方法において、塩基性炭酸亜鉛粉体と尿素を、場合によっては、シリカゲルと共に混合するには、湿式、乾式のいずれによってもよく、特に限定されるものではない。湿式混合によるときは、これらを水やアルコール等の溶媒中で攪拌、混合し、その後、溶媒を除去して、塩基性炭酸亜鉛と尿素の混合物を調製してもよい。
【0033】
第2の方法においては、このように、塩基性炭酸亜鉛粉体と尿素を、場合によっては、シリカゲルと共に混合し、これを400〜700℃の範囲、好ましくは、400〜650℃の範囲の温度で焼成する。尿素が完全に昇華する温度は400℃以上であり、尿素由来の分解物を除去するためには、焼成温度は400℃以上が必要である。しかし、700℃以上の温度においては、窒素が酸化亜鉛中に残留しないので、獲られる酸化亜鉛粉体は茶色を示さず、かくして、目的とする窒素含有酸化亜鉛粉体を得ることができない。
【0034】
塩基性炭酸亜鉛粉体と尿素を、場合によっては、シリカゲルの存在下に、焼成する時間は、用いる塩基性炭酸亜鉛と尿素の量や、焼成温度、得られる窒素含有酸化亜鉛に要求される比表面積等によって適宜に定められる。
【0035】
前述したように、焼成回数は必ずしも1回でなくてもよく、得られる窒素含有酸化亜鉛粉体の有する紫外線遮蔽性能を損なわない範囲において、必要に応じて、例えば、窒素含有量を増やす目的で、焼成物を再度、尿素と混合し、必要に応じて、シリカゲルの存在下で焼成することを繰り返し行ってもよい。
【0036】
以上に述べた本発明の第1又は第2の方法によって得られた窒素含有酸化亜鉛粉体は、必要に応じて、粉砕し、分級して、所要の粒度分布を有せしめてもよく、また、湿式または乾式で公知の無機、有機の表面処理等を施してもよい。
【0037】
本発明によれば、予め、例えば、カリウム、ナトリウム、銅、銀、金、鉄、白金、パラジウム、ルテニウム、アルミニウム、ガリウム、チタニウム、硼素、硫黄、リン、珪素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素や炭素、ランタノイド元素、アクチノイド元素等を塩基性炭酸亜鉛に添加または固溶させ、それを上述したように処理して、窒素含有酸化亜鉛粉体を得ることもできる。
【0038】
本発明による窒素含有酸化亜鉛は、酸化亜鉛本来の紫外線を遮蔽する能力を有する茶色の粉体である。従って、このような窒素含有酸化亜鉛粉体を化粧料に配合し、これを肌に塗布したときにも、青白く白浮きせず、肌色を損なわない透明感のある自然な仕上がりになる。かくして、本発明による窒素含有酸化亜鉛粉体は、化粧料のほか、塗料組成物やプラスチックス等の分野においても、紫外線遮蔽剤として好適に用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0040】
第1の方法の実施例
実施例1
塩基性炭酸亜鉛粉体(堺化学工業(株)製NANOFINE MH)100gと炭酸アンモニウム粉体(和光純薬工業(株)製1級試薬)75gをポリエチレン袋に入れ、手で振って混合し、これをポリエチレン袋内を密閉にした状態で室温で48時間放置した後、磁器製坩堝に仕込み、蓋をして、マッフル炉中、30分で250℃まで昇温させた後、この温度に5時間保持して焼成した。その後、室温まで放冷して、窒素含有酸化亜鉛粉体Aを得た。
【0041】
上述したようにして、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸アンモニウム粉体をポリエチレン袋に入れ、手で振って混合した直後の混合物(a)の粉体X線回折パターンを第1図に示し、併せて、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸アンモニウム粉体を上述したようにして混合した後、ポリエチレン袋内を密閉にした状態で室温で48時間放置したときの混合物(b)の粉末X線回折パターンを第1図に示す。これら2つの粉末X線回折パターンは相互に相違しており、かくして、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸アンモニウム粉体は、前述したように、混合することによって反応したものとみられる。
【0042】
上述したように、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸アンモニウム粉体をポリエチレン袋内で手で振って混合し、室温でポリエチレン袋内を密閉にした状態で48時間放置し、反応させて得られた反応生成物を熱重量分析装置(セイコーインスツルメンツ(株)製SSC/5200)を用いて、TG−DTA測定した。TG曲線を第2図に示し、DTA曲線を第3図に示す。これらの測定結果から、上記反応生成物の分解温度は250℃であることが確認された。更に、上記反応生成物を250℃で焼成して得られる粉体の粉末X線回折パターンを第4図に示すように、酸化亜鉛であることが確認された。
【0043】
実施例2
実施例1と同じ塩基性炭酸亜鉛粉体100gと炭酸アンモニウム粉体75gをミキサーを用いて3分間乾式混合した後、磁器製坩堝に仕込み、蓋をして、マッフル炉中、30分で450℃まで昇温させた後、この温度に1時間保持して焼成した。その後、室温まで放冷して、窒素含有酸化亜鉛粉体Bを得た。この紛体も、第4図に示す粉末X線回折パターンから酸化亜鉛であることが確認された。
【0044】
上述したように、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸アンモニウム粉体を3分間ミキサーで乾式混合したときのX線回折パターンは、実施例1において、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸アンモニウム粉体を混合し、48時間放置したときの混合物の粉末X線回折パターンと同じであって、前述したように、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸アンモニウム粉体は混合することによって反応したものとみられる。
【0045】
実施例3
実施例2において、炭酸アンモニウム粉体75gに代えて、炭酸水素アンモニウム粉体(和光純薬工業(株)製1級試薬)150gを用いると共に、30分で350℃まで昇温させた後、この温度に1.5時間保持して焼成した以外は、同様にして窒素含有酸化亜鉛粉体Cを得た。
【0046】
実施例4
実施例2において、炭酸アンモニウム粉体75gに代えて、炭酸アンモニウム粉体100gを用いると供に、30分で250℃まで昇温させた後、この温度に5時間保持して焼成した以外は、同様にして窒素含有酸化亜鉛粉体Dを得た。
【0047】
第2の方法の実施例
実施例5
塩基性炭酸亜鉛粉体100gと尿素粉体(和光純薬工業(株)製1級試薬)50gと焼結防止剤としてのシリカゲル10gをミキサーで混合した。得られた混合物を磁器製坩堝に仕込み、蓋をして、マッフル炉中、30分で500℃まで昇温させた後、この温度に1時間保持して焼成した。その後、室温まで放冷して、窒素含有酸化亜鉛粉体Eを得た。
【0048】
実施例6
実施例5において、尿素50gに代えて、尿素25gを用いた以外は、同様にして、窒素含有酸化亜鉛粉体Fを得た。
【0049】
実施例7
実施例5において、尿素粉体50gに代えて、尿素粉体100gを用いた以外は、同様にして、窒素含有酸化亜鉛粉体Gを得た。
【0050】
実施例8
実施例5において、30分で400℃まで昇温させた後、この温度に2時間保持して焼成した以外は、同様にして、窒素含有酸化亜鉛粉体Hを得た。
【0051】
実施例9
実施例5において、シリカゲル10gに代えて、シリカゲル20gを用いると共に、マッフル炉中、30分で650℃まで昇温させた後、この温度に1時間保持して焼成した以外は、同様にして、窒素含有酸化亜鉛粉体Iを得た。
【0052】
実施例10
実施例5において、シリカゲルを用いなかった以外は、同様にして、窒素含有酸化亜鉛粉体Jを得た。
【0053】
比較例1
塩基性炭酸亜鉛粉体(堺化学工業(株)NANOFINE MH)を磁器製坩堝に仕込み、蓋をして、マッフル炉中、400℃まで昇温させ、この温度に1時間保持して焼成した。その後、室温まで放冷して、酸化亜鉛粉体Kを得た。この粉体Kが酸化亜鉛であることは、その粉末X線回折パターンから確認された。
【0054】
比較例2
酸化亜鉛粉体100gと尿素粉体(和光純薬工業(株)製1級試薬)50gと焼結防止剤としてのシリカゲル10gをミキサーで混合した。得られた混合物を磁器製坩堝に仕込み、蓋をして、マッフル炉中、30分で500℃まで昇温させた後、この温度に1時間保持して焼成した。その後、室温まで放冷して、窒素含有酸化亜鉛粉体Lを得た。
【0055】
以下に本発明によって得られた窒素含有酸化亜鉛粉体の特性を比較例による酸化亜鉛粉体と窒素含有酸化亜鉛粉体と対比しながら説明する。
【0056】
比表面積、一次粒子径及び窒素含有量
第1表に示す。比表面積は湯浅アイオニクス(株)製4−ソーブU−2を用いて測定し、平均1次粒子径は透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製JEM−1200EX)による画像に基づいて求めた。また、窒素含有量はケルダール法にて測定した。
【0057】
平均1次粒子径の測定
透過型電子顕微鏡画像中の粒子50個を無作為に選び出して、それら粒子の一定方向の長さをノギスにて測定し、その平均値を平均1次粒子径とした。
【0058】
ケルダール法による窒素の定量
実施例1〜10で得られた窒素含有酸化亜鉛粉体A〜Jと比較例1で得られた酸化亜鉛粉体Kをそれぞれ希硫酸に溶解し、これに硝酸態窒素をアンモニア態窒素に還元するために還元剤を加えた。これに十分な量の水酸化ナトリウムを加えて塩基性とした後、水蒸気蒸留を行って、留出したアンモニアを濃度既知の硫酸溶液に吸収させ、このアンモニアを吸収した硫酸溶液を濃度既知の水酸化ナトリウムで滴定して、窒素量を求めた。
【0059】
Lab値
実施例1〜10で得られた窒素含有酸化亜鉛粉体A〜Jと比較例1で得られた酸化亜鉛粉体Kをそれぞれガラス板上に置き、その上からガラス板を重ねて、カラーメーター(日本電色工業(株)製SE2000)を用いて、その粉体色(Lab値)を測定した。結果を第1表に示す。
【0060】
Lab値は、国際照明委員会(CIS)が定めた色空間におけるその色の座標を示し、JIS Z 8729においても採用されている。L* 値は明度を表し、a* 値とb* 値とによって色相と彩度を表す色度を示す。aは赤方向、−aは緑方向、bは黄方向、−bは青方向示す。窒素含有酸化亜鉛粉体における窒素量が増えるに従って、粉体色が赤味、黄味の方向に変化していることが理解される。本発明によれば、酸化亜鉛粉体に導入する窒素量を変えることによって、Lab値(70.6、6.7、13.8)からLab値(49.2、19.8、22.7)まで、窒素含有酸化亜鉛の粉体色を調節することができる。
【0061】
【表1】

【0062】
拡散反射スペクトル
実施例1、4及び5においてそれぞれ得られた窒素含有酸化亜鉛粉体A、D及びEと比較例1で得られた酸化亜鉛粉体Kについて、350〜750nmにわたる拡散反射スペクトルを測定した。結果を第5図に示す。本発明による窒素含有酸化亜鉛粉体A、D及びEは、比較例による酸化亜鉛粉体Kに比べて、可視光域にてより大きい吸収を示す。
【0063】
光透過率
実施例1、4及び5においてそれぞれ得られた窒素含有酸化亜鉛A、D及びEと比較例1において得られた酸化亜鉛粉体Kを塗膜化し、300〜800nmにわたって全光透過率を測定した。
【0064】
即ち、それぞれの粉体2gと樹脂(大日本インキ化学工業(株)製アクリディックA−801P)10gと酢酸ブチル5gとキシレン5gを容量50mLの瓶に入れ、これに直径1.5mmのガラスビーズを入れて、ペイントシェーカーで90分間分散した。得られた分散塗料をスライドガラス上に#16バーコーターを用いて、厚み37μmに塗布し、常温で乾燥させた。乾燥後の塗膜の顔料濃度は29重量%であった。得られた塗膜を分光光度計(日本分光(株)製V−570)で全光透過率を測定した。結果を第6図に示す。
【0065】
窒素含有酸化亜鉛粉体A及びDは酸化亜鉛粉体Kと比較して、透明性が高い。また、窒素含有酸化亜鉛粉体Eは、酸化亜鉛粉体Kと比較して、可視光域の光をより多く吸収している。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸アンモニウム粉体を重量比100/75にてポリエチレン袋に入れ、手で振って、混合した直後の混合物(a)と、併せて、上述したようにして、塩基性炭酸亜鉛粉体と炭酸アンモニウム粉体を混合した後、ポリエチレン袋を密封して室温で48時間放置したときの混合物(b)のそれぞれの粉末X線回折パターンである。
【図2】上記混合物(b)のTG曲線である。
【図3】上記混合物(b)のDTA曲線である。
【図4】本発明による窒素含有酸化亜鉛粉体A及びEの粉末X線回折パターンと比較例による酸化亜鉛Kの粉末X線回折パターンである。
【図5】本発明による窒素含有酸化亜鉛粉体A、D及びEの350〜750nmにわたる拡散反射スペクトルと比較例による酸化亜鉛Kの350〜750nmにわたる拡散反射スペクトルである。
【図6】本発明による窒素含有酸化亜鉛粉体A、D及びEをそれぞれ含む塗膜の300〜800nmにわたる全光透過率を示すグラフと比較例による酸化亜鉛Kを含む塗膜の300〜800nmにわたる全光透過率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性炭酸亜鉛粉体を炭酸アンモニウム粉体と炭酸水素アンモニウム粉体から選ばれる少なくとも1種と混合し、これを250℃以上、500℃よりも低い温度で焼成することを特徴とする窒素含有酸化亜鉛粉体の製造方法。
【請求項2】
炭酸アンモニウム粉体を用いるときは、炭酸アンモニウム/塩基性炭酸亜鉛重量比で0.18〜1.5の範囲で炭酸アンモニウム粉体と塩基性炭酸亜鉛粉体を用い、炭酸水素アンモニウム粉体を用いるときは、炭酸水素アンモニウム/塩基性炭酸亜鉛重量比で0.3〜2.5の範囲で炭酸水素アンモニウム粉体と塩基性炭酸亜鉛粉体を用い、炭酸アンモニウム粉体と炭酸水素アンモニウム粉体の混合物を用いるときは、(炭酸アンモニウムと炭酸水素アンモニウムの混合物)/塩基性炭酸亜鉛重量比で0.18〜2.5の範囲で炭酸アンモニウム粉体と炭酸水素アンモニウム粉体の混合物と塩基性炭酸亜鉛粉体を用いる請求項1に記載の窒素含有酸化亜鉛粉体の製造方法。
【請求項3】
塩基性炭酸亜鉛粉体と尿素を混合し、これを400〜700℃の範囲の温度で焼成することを特徴とする窒素含有酸化亜鉛粉体の製造方法。
【請求項4】
尿素粉体と塩基性炭酸亜鉛粉体を尿素/塩基性炭酸亜鉛重量比で0.2〜1.2の範囲で用いる請求項3に記載の窒素含有酸化亜鉛粉体の製造方法。
【請求項5】
尿素粉体と塩基性炭酸亜鉛粉体と共にシリカゲルを混合する請求項3に記載の窒素含有酸化亜鉛粉体の製造方法。
【請求項6】
尿素粉体と塩基性炭酸亜鉛粉体を尿素/塩基性炭酸亜鉛重量比で0.2〜1.2の範囲で用いると共に、シリカゲルをシリカゲル/塩基性炭酸亜鉛重量比で0.25以下の範囲で用いる請求項3に記載の窒素含有酸化亜鉛粉体の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−30819(P2010−30819A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193507(P2008−193507)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000174541)堺化学工業株式会社 (96)
【Fターム(参考)】