説明

立体印刷画像の制作方法

【課題】インクジェットヘッドを用いて、印刷媒体の表面に立体印刷画像を形成することのできる立体印刷画像の制作装置を提案すること。
【解決手段】立体印刷画像の制作装置1のヘッドキャリッジ10には加熱ランプユニット40が搭載されており、インクジェットヘッド11と共に移動する。インクジェットヘッド11から吐出したレジンインクの液滴が印刷媒体30に着弾すると、印刷媒体の当該部分が加熱ランプユニット40によるスポット状の照射熱によって走査され、当該部分が熱溶融しながら当該部分に付着したインク液滴が熱硬化する。インクの濃淡、インクの色に応じて熱吸収率が異なるので、熱吸収率に応じて印刷媒体表面の熱溶融量が変化する。この結果、印刷媒体表面には、印刷の濃淡あるいは印刷色に応じて深さが変化した立体印刷画像が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットヘッドを用いて凹凸のある立体的な印刷画像を制作することのできる立体印刷画像の制作方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタを用いて凹凸のある立体的な印刷画像を制作する方法は特許文献1に開示されている。ここに開示の方法では、基材の表面にインクジェットプリンタを用いて印刷画像を形成し、印刷画像の表面に下地材を付けて立体状の印刷面を形成し、この立体状の印刷面に再度、インクジェットプリンタにより印刷画像を形成するようにしている。
【特許文献1】WO2003/080344のパンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、インクジェット式のプリンタでは、インクジェットヘッドから吐出したインク液滴が記録媒体の表面に着弾し、そこに吸収されると共に硬化して、当該表面に定着する。効率良く着弾したインク液滴を定着させるためには記録媒体表面を加熱すればよい。特に、水性インクあるいはソルベントインクなどが定着し難い素材からなる記録媒体に印字を行う場合には加熱することが有効である。また、レジンインクなどのような熱硬化形インクを用いて印字を行う場合には記録媒体に着弾したインク液滴を加熱して硬化させる必要があるので、加熱は必須である。
【0004】
一般的な加熱方法は、インクジェットヘッドの印字位置を規定しているプラテンを加熱しておき、インク液滴が着弾した記録媒体の部分を加熱するというものである。しかしながら、この加熱方法は、紙のような薄い記録媒体には有効であるが、厚い記録媒体の場合にはインクの硬化に適した温度に記録媒体を加熱するために要する時間が長くなるので、有効な方法ではない。
【0005】
また、インクジェットヘッドはプラテンに対して僅かのギャップで対峙した状態に配置されており、プラテンに沿って移動しながら印字を行う。したがって、プラテンを加熱する方法では、ここに対峙しているインクジェットヘッドも加熱され、そのインクノズル内のインクが増粘・凝固してインクの目詰まりが発生してしまう。場合によっては、インクジェットヘッドが熱破壊する可能性もある。
【0006】
さらに、プラテンを通過する記録媒体の部分を均一な加熱状態とすることが困難である。このため、印字品質にバラツキができ、印字品質が劣化するおそれもある。
【0007】
これに加えて、従来では加熱手段としてニクロム線などが使用されているが、従来の加熱手段は常時通電しておく必要があり、電力消費が多く、ランニングコストが高いという問題点もある。
【0008】
本願出願人は、このような点に鑑みて、特願2006−162377(2006年6月12日出願)において、ガラス板、金属板、樹脂板、木質板などの各種素材の記録媒体に、定着性良く印字を行うことのできるインクジェットプリンタを提案している。
【0009】
このインクジェットプリンタは、インクジェットヘッドと、このインクジェットヘッドによる印字位置を規定しているプラテンと、このインクジェットヘッドを担持しているヘッドキャリッジと、このヘッドキャリッジに搭載されており、前記インクジェットヘッドから吐出されて前記プラテン上の記録媒体に着弾したインク液滴を加熱する加熱器と、この加熱器における放熱用開口以外の外周面部分を冷却するための冷却機構とを有し、この冷却機構は、前記加熱器の外側および/または内側において当該加熱器の構成部品に接触状態で配置されたヒートパイプを備えていることを特徴としている。
【0010】
この構成のインクジェットプリンタでは、ヘッドキャリッジに加熱器が搭載され、インクジェットヘッドと共に移動する。加熱器が、インクジェットヘッドから吐出されて記録媒体に着弾するインク液滴の直近に位置しており、インク液滴を直接に加熱硬化させることができる。よって、効率良くインク液滴を記録媒体に定着させることができる。
【0011】
また、インクジェットヘッドの直近に加熱器を配置した場合には、加熱器からの放熱によってインクジェットヘッドのノズルの目詰まり、インクジェットヘッド自体の熱破損が発生するおそれがある。しかし、本発明では、冷却機構によって、加熱器を冷却するようにしているのでインクジェットヘッドの加熱を抑制あるいは防止できる。特に、本発明では、冷却機構として熱伝導効率の良いヒートパイプを用いているので、加熱器からの放熱を効率良く外部に放出できる。
【0012】
本発明は、かかる構成のインクジェットプリンタを用いて各種の素材への印刷を試行している過程において考え出されたものであり、本発明の課題は、インクジェットヘッドを用いて立体的な印刷画像を簡単に制作することのできる立体印刷画像の制作方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の立体印刷画像の制作方法は、
熱溶融性の素材からなる印刷媒体の表面に沿ってインクジェットヘッドを相対的に走査すると共に、インクジェットヘッドの走査方向に直交する方向に印刷媒体を相対的に移動させながら、当該印刷媒体の表面に、インクジェットヘッドから吐出したインク液滴により印刷画像を形成し、
スポット状の照射熱を、前記印刷画像が形成された印刷媒体の表面部分に沿って走査して、当該表面部分を順次に加熱し、
この加熱によって、インク液滴を加熱乾燥して前記印刷画像を印刷媒体の表面部分に定着させると共に、この表面部分を加熱溶融して、印刷画像を形成しているインクの熱吸収率に応じた深さの窪みを形成することを特徴としている。
【0014】
スポット状の照射熱を印刷画像に沿って走査すると、印刷画像を構成しているインクの熱吸収率の違いに応じて、印刷画像の各部分の加熱状態が変化する。照射熱の熱量を適切に設定しておけば、熱吸収率の高いブラックインクが使用されている部分は印刷媒体が熱溶融するのに十分な温度まで加熱されて溶融し、ブラックインクが使用されている表面部分が溶融して窪んだ状態になる。これに対して、インクが付かずに印刷媒体の表面色、例えば白色がそのまま残っている表面部分は熱吸収率が小さいので、当該部分が溶融する温度まで加熱されることがない。したがって、当該部分は元の状態、例えば平坦面状態のまま残る。この結果、印刷媒体の表面に、印刷画像の構成色あるいは濃淡に応じて深さの異なる立体的な印刷画像を形成できる。
【0015】
ここで、インクジェットヘッドに追従して、前記印刷媒体の表面に沿ってスポット状の照射熱を走査することが望ましい。印刷媒体の表面部分に付着したインクを加熱乾燥させながら当該表面部分を溶融させると、インク液滴が滲み印刷画像の解像度が低下して印刷品位が劣化してしまうことを防止あるいは抑制できる。
【0016】
また、本発明の立体印刷画像の制作方法では、前記印刷媒体の表面に前記印刷画像として濃淡のある画像を形成し、印刷画像の濃淡に応じて、前記印刷媒体の表面部分を異なる深さに加熱溶融して、当該表面部分に、濃淡に応じて深さが変化している印刷画像を形成することができる。
【0017】
同様に、異なる色の色インクを吐出する複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを用いてカラー印刷画像を形成すれば、前記印刷媒体の前記表面部分を、当該表面部分に付着した各色インクの熱吸収率に応じて異なる深さに加熱溶融して、当該表面部分に、付着色に応じて深さが変化しているカラー印刷画像を形成することができる。
【0018】
ここで、インクジェットヘッドの走査に先行して、当該インクジェットヘッドの走査ラインに沿って、スポット状の予備照射熱を印刷媒体の表面を走査して、前記印刷画像が形成される直前の前記表面部分の各部を予熱することが望ましい。印刷媒体の表面を予熱しておくことにより、印刷画像を印刷媒体表面に迅速に定着させることができ、また、凹凸を付けるための印刷媒体表面部分の熱溶融を確実に行うことができる。
【0019】
また、本発明の立体印刷画像の制作方法では、前記照射熱の熱量を調整することにより、前記印刷媒体の前記表面部分に形成される窪みの深さを増減することができる。照射熱の熱量を下げることにより、印刷媒体表面を熱溶融させずに、単に、印刷画像を印刷媒体表面に定着させることも可能である。
【0020】
次に、本発明の立体印刷画像の制作方法では、レジンインクなどの熱硬化形インクを用いて印刷を行うことが望ましい。
【0021】
また、印刷媒体としては熱可塑性樹脂からなる発泡体などの多孔質素材からなるものを用いることができる。発泡体は、熱溶融した部分が大きく窪むので、立体印刷画像の制作に適している。
【発明の効果】
【0022】
本発明の立体印刷画像の制作方法では、インクジェットヘッドの走査ラインに沿って、スポット状の照射熱を印刷媒体の表面に沿って走査し、印刷媒体の表面に形成された印刷画像を構成している各インクの熱吸収率の差を利用して、選択的に印刷画像が形成されている印刷媒体の表面部分を熱溶融して所定深さの窪みを形成している。したがって、本発明によれば、印刷媒体の表面色、印刷画像の濃淡構成、印刷画像の構成色などに応じて凹凸が付けられた立体印刷画像を簡単に制作することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、図面を参照して、本発明の方法により立体印刷画像を制作する立体印刷画像の制作装置を説明する。
【0024】
(制作装置の構成)
図1は本実施の形態に係る立体印刷画像の制作装置を示す概略斜視図であり、図2はその制御系も含めて示す概略構成図である。立体印刷画像の制作装置1は、縦長の矩形枠状の架台2と、この架台2に搭載されている門型の支持ユニット3と、架台2の内側に設置された水平な長方形の媒体載置面4を備えたテーブル5(プラテン)とを有している。
【0025】
支持ユニット3は、左右の垂直枠6、7と、これらの間に架け渡した水平枠8とを備えている。水平枠8は左右の垂直枠6、7の間に水平に架け渡したキャリッジガイド9を備えており、このキャリッジガイド9に沿って、ヘッドキャリッジ10がプリンタ幅方向に往復移動可能である。ヘッドキャリッジ10にはインクジェットヘッド11が下向きに担持されている。ヘッドキャリッジ10はキャリッジモータ14を含むキャリッジ駆動機構によってプリンタ幅方向Xに往復移動する。
【0026】
ヘッドキャリッジ10における移動方向の一方の側面にはハロゲンランプ41を備えた加熱ランプユニット40(加熱器)が取り付けられている。加熱ランプユニット40からの照射光は放熱用開口42から下向きに照射される。なお、ハロゲンランプ以外の加熱ランプを用いることもできる。また、加熱ランプ以外の加熱手段を用いることもできる。さらに、後述のように、ヘッドキャリッジ10の両側に加熱ランプユニットを取り付けても良い。
【0027】
インクジェットヘッド11には不図示のインクタンクからレジンインクが供給され、レジンインクを用いて、媒体載置面4に載せた印刷媒体30の印刷面30aに印字が行われる。レジンインク以外の熱硬化形インクを用いることもできる。
【0028】
ここで、印刷媒体30は発泡スチロール、発泡ポリウレタンなどの熱溶融性の多孔質素材からなる矩形板であり、印刷面30aは例えば白色の平坦面である。印刷媒体30としては、その印刷面30aの部分が、熱溶融性を有し、溶融した部分が減容化して窪みが形成される素材であればよい。
【0029】
次に、ヘッドキャリッジ10などが搭載されている支持ユニット3は、架台2の左右のガイド枠15、16に沿ってプリンタ前後方向Yに移動可能な状態で支持されている。支持ユニット3は、送りモータ17を含む送り機構によってプリンタ前後方向Yに移動する。
【0030】
テーブル5には媒体載置面4を加熱するための加熱機構18が備わっている。媒体載置面4に載せた記録媒体30は、加熱機構18によって裏面側から加熱される。また、ヘッドキャリッジ10と一緒に移動する加熱ランプユニット40によって、上側からインク液滴が着弾した部分がスポット的に加熱される。本例では、加熱機構18には温度制御機能が組み込まれており、加熱ランプユニット40にはトランスなどからなる電圧制御回路19を介して駆動電流が供給され、加熱温度を制御可能となっている。
【0031】
なお、テーブル5は、例えば油圧式の昇降式テーブルであり、油圧駆動機構21によって高さ調整を行うことが可能となっている。また、各部の制御はマイクロコンピュータなどを中心に構成されているプリンタ制御盤22によって行われるようになっている。
【0032】
図3はヘッドキャリッジ10に搭載されている加熱ランプユニット40を示す概略斜視図、およびその概略断面図である。加熱ランプユニット40は、ハロゲンランプ41と、このハロゲンランプ41が取り付けられている反射鏡43と、この反射鏡43の射出開口部の側に同軸状態で取り付けられている矩形断面の鏡筒44とを備えており、鏡筒44の下端開口が放熱用開口42となっている。鏡筒44は矩形断面以外の形状でもよく、例えば円筒状のものであってもよい。ハロゲンランプ41の発光部からの出射光は、反射鏡43によって反射されて、媒体載置面4上の記録媒体30の印字面30aに所定の径の光スポット45を形成し、当該印字面30aの部位を加熱する。
【0033】
この構造の加熱ランプユニット40には、ヒートパイプからなる冷却機構50が取り付けられている。本例の冷却機構50は、鏡筒44の内周面の四隅に上下方向に延びる4本の内蔵ヒートパイプ51を備えている。これらの内蔵ヒートパイプ51の上端は鏡筒44の上端面から上方に突出している。これらの上端は、それぞれ反射鏡43の背面に沿って配置した4本の外付けヒートパイプ52に接続されている。ヒートパイプの本数は4本に限定されるものではなく、1本でもよく、4本以外の複数本であってもよい。また、ヒートパイプは直線状のものであってもよいし、湾曲状のもの、螺旋状に巻いたものであってもよい。
【0034】
これらの外付けヒートパイプ52は一つに束ねられて上方に延び、それらの上端には水平に延びる放熱板53の下面に取り付けられている。放熱板53は、支持ユニット3の内側に形成されたガイド(図示せず)に沿ってプリンタ幅方向に移動可能な状態で支持されている。放熱板53の表面には移動方向に延びる複数枚の放熱フィン53aが形成されている。加熱ランプユニット40の発熱量が多くない場合、すなわち、ヒートパイプ51、52による放熱作用のみによって、加熱ランプユニット40を十分に冷却でき、インクジェットヘッド11に加熱による弊害が発生しない場合には、放熱板を省略することも可能である。
【0035】
(制作装置の動作)
この構成の立体印刷画像の制作装置1の動作を説明する。テーブル5の媒体載置面4に印刷媒体30を載せ、油圧駆動機構21によって印刷媒体30の印刷面30aとインクジェットヘッド11のギャップ調整を行う。これに先立って、あるいは、このギャップ調整の後に、加熱機構18を駆動して媒体載置面4を加熱する。
【0036】
しかる後に、キャリッジモータ14および送りモータ17を駆動して、支持ユニット3を図示のホームポジションからプリンタ前後方向Yに移動させると共に、そこに搭載されているヘッドキャリッジ10をプリンタ幅方向Xに移動させる。これに同期させて、ヘッドドライバ23を介してインクジェットヘッド11を駆動して、レジンインク液滴を印刷媒体30の印刷面30aに吐出しながら所望の印字を行う。
【0037】
ここで、インクジェットヘッド11の印刷動作に先立って加熱ランプユニット40が点灯する。したがって、インクジェットヘッド11から印刷媒体30の印刷面30aに吐出されてそこに付着したレジンインク液滴31は、直ちに、スポット状の照射熱によって走査されて加熱され、熱硬化を開始する。本例では、媒体載置面4も加熱されているので、印刷媒体30の印刷面30aを、レジンインクが熱硬化するのに適した最適な加熱状態に保持できる。よって、印刷動作と同時にレジンインク液滴が印刷面30aに定着していく。このようにして印刷および熱硬化が同時に行われながら、印刷媒体30の印刷面30aに印刷画像が形成される。
【0038】
また、スポット状の照射熱が当った印刷面30aの印刷画像の部分では、印刷画像の構成インクに応じて加熱状態が相違する。ブラックインクが付着している部分が最も熱吸収率が高く、白地のまま印刷面30aが残っている部分が最も熱吸収率が低い。例えば、スポット状の照射熱がブラックインクの付着部分に当った場合に、当該部分が瞬間的に印刷媒体30の熱溶融温度よりも高くなるように、照射熱の熱量を設定しておく。このようにすると、ブラックインクの付着部分においては、ブラックインクが熱硬化すると同時に、当該付着部分が熱溶融して所定深さの窪みが形成され、形成された窪みの表面に熱硬化したブラックインクが定着して、黒色の窪みが得られる。
【0039】
ブラックインク以外の色インクが付着している印刷画像の部分では、ブラックインクの付着部分に比べて加熱温度が低いので、熱溶融量も少なく、したがって、ブラックインクの付着部分に比べて浅い窪みが形成される。これに対して、白地のまま印刷面30aが残っている部分は平坦面のまま残る。
【0040】
このようにして、印刷画像が形成された印刷媒体30の印刷面30aの部分には、印刷画像の濃淡、あるいは、印刷画像を構成する色インクの熱吸収率に応じた深さの凹凸が形成される。したがって、本例の制作装置1を用いることにより、印刷媒体表面に、印刷の濃淡あるいは印刷色に応じて深さが変化した立体印刷画像を簡単に形成することができる。また、スポット状の照射熱の強さを調節することにより立体印刷画像の凹凸の深さを変えることができ、レジンインクの熱硬化に必要な最小限の強さにしておくことにより、凹凸の無い印刷画面を得ることもできる。さらに、印刷の途中で照射熱の強さを変更することにより、部分的に深い窪みのある立体印刷画像を制作することも可能である。
【0041】
ここで、本例の加熱ランプユニット40は、そこに配置されている冷却機構50によって冷却されている。すなわち、加熱ランプユニット40で発生した熱は、4本の内蔵ヒートパイプ51、外付けヒートパイプ52を介して放熱板53に放出される。放熱板53はヘッドキャリッジ10と共にプリンタ幅方向Xに移動するので、ここに集まった熱は放熱板53の放熱フィン53aから効率良く外部に放出される。なお、印刷動作が終了すると、支持ユニット3は再び図示のホームポジションに復帰する。
【0042】
以上説明したように、本例の立体印刷画像の制作装置1では、レジンインクを用いて印刷媒体30の印刷面30aに印刷を行うようにしている。したがって、各種素材の印刷媒体に対してインク受像面を形成するための下地処理を前もって行うことなく、印刷を行うことができる。
【0043】
また、印刷動作と同時に加熱ランプユニット40によるスポット状の照射熱によってレジンインクを走査している。したがって、印刷面30aにレジンインクが着弾すると同時にそれが熱硬化し、同時に、照射熱の走査部分が熱溶融して窪みが形成される。よって、窪みの表面にレジンインクが熱硬化して定着した状態が形成される。印刷面30aには印刷画像の濃淡あるいは構成インクに応じた深さの窪みを備えた立体印刷画像が形成される。
【0044】
さらに、加熱ランプユニット40には冷却機構50が取り付けられており、加熱ランプユニット40で発生した熱が放熱板53から外部に効率良く放出される。よって、隣接した位置に配置されているインクジェットヘッド11が加熱ランプユニット40からの熱によって加熱されて、ノズルの目詰まり、インクジェットヘッド自体の熱破壊などが引き起こされることもない。
【0045】
これに加えて、本例では、テーブル5を昇降させることにより、プラテンギャップを調整できるので、各種の厚さの印刷媒体の表面に立体印刷画像を形成することができる。
【0046】
(その他の実施の形態)
図4は冷却機構50におけるヒートパイプの配置例を示す説明図である。図4(a)の例では、加熱ランプユニット40の鏡筒44の内周面に沿って螺旋状に1本のヒートパイプ55が取り付けられている。図4(b)の例では、鏡筒44の外周面を螺旋状に取り囲む状態で1本のヒートパイプ56が取り付けられている。図4(c)の例では、加熱ランプユニット40の反射鏡43(ランプカバー)の背面に沿って円錐台状に1本のヒートパイプ57が取り付けられている。
【0047】
次に、冷却機構50と断熱材を組み合わせて、インクジェットヘッド11が加熱されないようにすることもできる。例えば、図5に示すように、加熱ランプユニット40の鏡筒44Aとして円筒状のものを用い、その内周面に等角度間隔で、例えば4本のヒートパイプ58を鏡筒軸線方向に配置する。これらのヒートパイプ58の内側に、鏡筒内周面およびヒートパイプ58を覆うように円筒状の断熱材59を配置する。このようにすれば、放熱および断熱作用を利用して、インクジェットヘッド11の加熱を防止できる。
【0048】
一方、冷却機構50として、ヒートパイプと共に空冷機構を用いることもできる。例えば、図6に示すように、ヘッドキャリッジ10の両側に加熱ランプユニット40を取り付けた場合に、これらに配置した複数本のヒートパイプ60を一つに纏めて上方に引き出し、その上端部を放熱板61に接続する。放熱板61は表面に多数の放熱フィン61aを備えている。放熱板61は、図1における支持ユニット3の内部に形成したプリンタ幅方向に延びるダクト62内をプリンタ幅方向に移動可能な状態で支持されている。ダクト62の一方の端には、空冷用の送風機63が取り付けられており、放熱板61に向けてプリンタ幅方向に冷却用の風を吹き付けることが可能となっている。
【0049】
この構成によれば、放熱板61が空冷されるので冷却効果を高めることができる。また、送風機63によって外部から空気が導入されるので、これによって冷却効果が高まるという利点もある。
【0050】
次に、加熱ランプユニット40に冷却機構50を取り付けると共に、冷却機構をインクジェットヘッド11あるいはヘッドキャリッジ10に取り付けて、これらを直接に冷却することもできる。例えば、図7に示すように、ヘッドキャリッジ10に搭載されているインクジェットヘッド11の外周を取り囲む状態でヒートパイプ71を配置し、この先端をヘッドキャリッジ10の外側に引き出して、ヘッドキャリッジ10と一体となってプリンタ幅方向に移動する放熱板72に接続する。この構成によれば、インクジェットヘッド11が加熱状態に陥ることを確実に防止できる。
【0051】
なお、これに代えて、あるいは、これと共に、ヘッドキャリッジ10および/またはインクジェットヘッド11を空冷するようにしてもよい。
【0052】
(加熱器の制御方法)
なお、印刷媒体の材質が異なる場合などにおいては、各印刷媒体の材質に応じて比熱が異なり、そこに着弾したインク液滴を硬化させるために適した照射温度、あるいは、インク液滴が着弾した印刷媒体表面部分を熱溶融させるために適した照射温度も異なる。照射温度を変える方法としては、加熱手段、例えば加熱ランプの駆動電圧、駆動電流を制御すればよい。また、照射光の照射経路上に遮光フィルタを出し入れして、照射光量を増減して照射温度を変えることができる。
【0053】
照射温度の切替制御は、例えば、手動式の選択スイッチを配置しておき、これを操作することにより多段階に切り替えるようにすることができる。また、プリンタドライバ内に照射温度制御用のプログラムを搭載しておき、周囲温度、選択された記録媒体の素材の種類などに応じて自動的に照射温度を制御するようにしてもよい。
【0054】
また、加熱器による加熱を必要なときにのみ行うように制御することが望ましい。すなわち、インクジェットヘッド11によって実際に印字が行われるときにのみ、加熱器をオンにして記録媒体の表面を加熱すれば、インクジェットヘッド11が加熱されることを抑制でき、また、加熱器による消費電力も削減できる。
【0055】
ここで、加熱ランプユニットのランプとしてハロゲンランプなどの放電ランプを用いる場合には、次のようにハロゲンランプを駆動制御することが望ましい。まず、ハロゲンランプのスイッチがオンになったところで、瞬時に点灯して目標温度まで上げる。また、温度の立ち上がり速度を上げるために、ハロゲンランプの駆動電圧を制御することにより、半点灯状態を形成可能とする。
【0056】
そして、インクジェットヘッドが印字を行うときにのみ、全点灯状態に切り替え、それ以外の状態では消灯あるいは半点灯状態に保持する。例えば、インクジェットヘッドがそのホームポジションに待機している状態、インクジェットヘッドのクリーニング時には、そのような状態に保持する。さらに、極端な温度上昇を招くことのないように、ランプ駆動制御回路には、サーミスタ、熱電対を使い、温度管理を行う。また、非常時には緊急停止回路を設けて、ランプを強制的にオフに切り替えるようにする。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明を適用した立体印刷画像の制作装置の概略斜視図である。
【図2】図1の立体印刷画像の制作装置の概略構成図である。
【図3】図1の加熱器および冷却機構を示す概略斜視図および概略断面図である。
【図4】ヒートパイプの配置例を示す説明図である。
【図5】断熱材を備えた加熱器を示す説明図である。
【図6】ヒートパイプおよび送風機を備えた冷却機構の例を示す説明図である。
【図7】インクジェットヘッドの冷却機構の例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0058】
1 立体印刷画像の制作装置
2 架台
3 支持ユニット
4 媒体載置面
5 テーブル
6、7 垂直枠
8 水平枠
9 キャリッジガイド
10 ヘッドキャリッジ
11 インクジェットヘッド
14 キャリッジモータ
15、16 ガイド枠
17 送りモータ
18 加熱機構
19 電圧制御回路
21 油圧駆動機構
22 プリンタ制御盤
23 ヘッドドライバ
25 前枠
30 印刷媒体
30a 印刷面
40 加熱ランプユニット
41 ハロゲンランプ
42 放熱用開口
43 反射鏡
44、44A 鏡筒
45 光スポット
50 冷却機構
51 内蔵ヒートパイプ
52 外付けヒートパイプ
53、61、72 放熱板
53a、61a 放熱フィン
55、56、57、58、60、71 ヒートパイプ
59 断熱材
62 ダクト
63 送風機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱溶融性の素材からなる印刷媒体の表面に沿ってインクジェットヘッドを相対的に走査すると共に、インクジェットヘッドの走査方向に直交する方向に印刷媒体を相対的に移動させながら、当該印刷媒体の表面に、インクジェットヘッドから吐出したインク液滴により印刷画像を形成し、
スポット状の照射熱を、前記印刷画像が形成された印刷媒体の表面部分に沿って走査して、当該表面部分を順次に加熱し、
この加熱によって、インク液滴を加熱乾燥して前記印刷画像を印刷媒体の表面部分に定着させると共に、この表面部分を加熱溶融して、印刷画像を形成しているインクの熱吸収率に応じた深さの窪みを形成することを特徴とする立体印刷画像の制作方法。
【請求項2】
請求項1において、
インクジェットヘッドに追従して、前記印刷媒体の表面に沿ってスポット状の照射熱を走査することを特徴とする立体印刷画像の制作方法。
【請求項3】
請求項1において、
前記印刷媒体の表面に前記印刷画像として濃淡のある画像を形成し、
印刷画像の濃淡に応じて、前記印刷媒体の表面部分を異なる深さに加熱溶融して、当該表面部分に、濃淡に応じて深さが変化している印刷画像を形成することを特徴とする立体印刷画像の制作方法。
【請求項4】
請求項1において、
前記インクジェットヘッドとして、異なる色の色インクを吐出する複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを用い、
前記印刷媒体の前記表面部分を、当該表面部分に付着した各色インクの熱吸収率に応じて異なる深さに加熱溶融して、当該表面部分に、付着色に応じて深さが変化しているカラー印刷画像を形成することを特徴とする立体印刷画像の制作方法。
【請求項5】
請求項1において、
インクジェットヘッドの走査に先行して、当該インクジェットヘッドの走査ラインに沿って、スポット状の予備照射熱を印刷媒体の表面を走査して、前記印刷画像が形成される直前の前記表面部分の各部を予備加熱することを特徴とする立体印刷画像の制作方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちのいずれかの項において、
前記照射熱の熱量を調整することにより、前記印刷媒体の前記表面部分に形成される窪みの深さを増減することを特徴とする立体印刷画像の制作方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のうちのいずれかの項において、
レジンインクなどの熱硬化形インクを用いて印刷を行うことを特徴とする立体印刷画像の制作方法。
【請求項8】
請求項1ないし7のうちのいずれかの項において、
印刷媒体として、熱可塑性樹脂からなる発泡体などの多孔質素材からなる印刷媒体を用いることを特徴とする立体印刷画像の制作方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−149560(P2008−149560A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339804(P2006−339804)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(594106911)株式会社マスターマインド (12)
【Fターム(参考)】