説明

立体画像認識装置

【課題】視角に依存せず、優れた遮光性を有し、クロストークが抑制された良好な状態で利用者に立体像を視認させる技術を提供する。
【解決手段】立体画像認識装置は、一対の第1及び第2シャッター素子(各々S1、S2)と、右目用画像と左目用画像の切り替えに対応してS1及びS2を選択的に動作させる駆動部を備える。S1及びS2は、各々の吸収軸を略直交させて配置された第1偏光板13及び第2偏光板17と、電圧無印加時において液晶分子が略垂直配向する液晶層を有し、13と17の間に配置された液晶素子15と、負の二軸光学異方性を有し、13と液晶素子の間に配置された第1光学補償板14を有する。液晶素子は液晶層の層厚方向の略中央における液晶分子の配向方向が13及び17の各々の吸収軸に対して略45°の角度をなすように配置され、14は面内遅相軸を13の吸収軸と略直交に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、利用者が立体的な表示を感得し得るための画像表示技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特開平5−257083号公報(特許文献1)には、偏光方向が90°異なる偏光板をそれぞれ左右の目に合うように貼り合わせた偏光めがねを用いた立体表示技術について開示されている。また、特開平6−178325号公報(特許文献2)や特開2002−82307号公報(特許文献3)には、立体表示用の左右の画像に同期させて左右のシャッターを開閉させる液晶シャッターメガネを用いた立体表示技術について開示されている。
【0003】
しかし、特許文献1に代表される先行例においては、液晶パネルにおいて画素列を1列おきに用いて右画像と左画像をそれぞれ形成しているため表示画像の解像度が低下するという不都合がある。また、このような偏光めがねを用いる立体表示技術の1つとして、微細偏光素子を規則正しく配列して構成された高価な光学フィルムを用いるものもある。しかし、その場合には液晶パネル等の表示装置の出射光側に上記の光学フィルムを高い精度で取り付ける必要があり、光学フィルムの設置が容易ではない。さらに、当該光学フィルムを用いる場合には、モアレを防ぐためにブラックマトリクスをより幅広に設ける必要があるため、表示装置からの出射光量が減少するという不都合もある。
【0004】
一方、特許文献2、3に代表される先行例は、液晶表示装置以外の方式の表示装置にも広く適用できる優れた技術である。しかし、特許文献2には液晶シャッターメガネの具体的な構成については開示されていない。同様に、特許文献3においても液晶シャッターメガネの具体的な構成については開示されていないが、当該文献の段落0037等における記載に鑑みると、当該シャッターメガネを構成する液晶封入ガラスの実体はTN型の液晶素子であると推測される。
【0005】
しかしながら、TN型の液晶素子を用いてシャッターメガネを構成した場合には、正面透過率を低くすることが比較的に難しい。すなわち、シャッターメガネの左右間における遮光性に劣る。このため、例えば左目用画像のみを視認させたいタイミングにおいて右目用画像も僅かに視認される状態(いわゆるクロストーク)を生じやすく、表示品位が低下する。また、当該シャッターメガネにおいては、視角に依存して大きな光抜けが見られる。このため、例えば画面中心では正常に視認できるが画面周縁部ではクロストークが発生したり、当該シャッターメガネを用いて立体的表示を視認する利用者が顔を振る、傾ける等によって視線を動かし液晶素子に対して傾いた方位で画面の視認を行った際に、視認される画像が入れ違い、あるいは混在するという不都合も生じやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−257083号公報
【特許文献2】特開平6−178325号公報
【特許文献3】特開2002−82307号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明に係る具体的態様は、視角にあまり依存せず、優れた遮光性を有し、クロストークが抑制された良好な状態で利用者に立体像を視認させることを可能とする技術を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る一態様の立体画像認識装置は、右目用画像と左目用画像を所定周期で交互に表示する画像表示装置と組み合わせて用いられる立体画像認識装置であって、(a)利用者に装着される一対の第1及び第2シャッター素子と、(b)前記画像表示装置による前記右目用画像と前記左目用画像の切り替えに対応して前記第1及び第2シャッター素子を選択的に動作させる駆動部を備える。前記第1及び第2シャッター素子は、各々、(c)各々の吸収軸を略直交させて配置された第1偏光板及び第2偏光板と、(d)電圧無印加時において液晶分子が垂直又は略垂直配向する液晶層を有し、前記第1偏光板と前記第2偏光板の間に配置された液晶素子と、(e)負の二軸光学異方性を有し、前記第1偏光板と前記液晶素子の間に配置された第1光学補償板を有する。前記液晶素子は、前記液晶層の層厚方向の略中央における液晶分子の配向方向が前記第1偏光板及び前記第2偏光板の各々の前記吸収軸に対して略45°の角度をなすように配置され、前記第1光学補償板は、面内遅相軸を前記第1偏光板の前記吸収軸と略直交に配置される。
【0009】
上記の立体画像認識装置によれば、視角にあまり依存せず、優れた遮光性を有し、クロストークが抑制された良好な状態で利用者に立体像を視認させることが可能となる。また、上記の立体画像認識装置は、液晶ディスプレイに限らず、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、ブラウン管ディスプレイ、電界放出ディスプレイなど種々の方式の画像表示装置と組み合わせて用いることが可能であり、かつ画像表示装置に対する改造等が不要であり、かつ解像度を落とすことなく立体的な表示を実現できる。
【0010】
上記の立体画像認識装置は、負の二軸光学異方性を有し、前記第2偏光板と前記液晶素子の間に配置された第2光学補償板を更に含むことも好ましい。この場合に、前記第2光学補償板は、面内遅相軸を前記第2偏光板の前記吸収軸と略直交に配置される。
【0011】
上記の立体画像認識装置においては、前記第1及び第2シャッター素子が所定位置を挟んで配置され、前記第1シャッター素子の前記液晶素子における前記液晶分子の配向方向と前記第2シャッター素子の前記液晶素子における前記液晶分子の配向方向は、それぞれ前記所定位置を挟んで外向きに設定されることも好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態の立体画像認識装置の概略構成を示す模式的な斜視図である。
【図2】各シャッター素子の詳細構成を示す模式的な断面図である。
【図3】シャッター素子の各構成における光学軸の配置例を示す図である。
【図4】各シャッター素子の電気光学特性の過渡応答の測定例を示す図である。
【図5】視角特性における方位角の定義について示す図である。
【図6】シャッター素子の視角特性の測定例を示す図である。
【図7】シャッター素子の視角特性の測定例を示す図である。
【図8】シャッター素子の視角特性の測定例を示す図である。
【図9】シャッター素子の視角特性の測定例を示す図である。
【図10】立体画像認識装置を画像表示装置に同期して動作させたときのタイムチャートの一例を示す図である。
【図11】立体画像認識装置を画像表示装置に同期して動作させたときのタイムチャートの一例を示す図である。
【図12】各シャッター素子における液晶セルの液晶分子の配向方向と上側偏光板、下側偏光板の貼り合わせ角度の好ましい関係について説明するための図である。
【図13】顔の形に合わせてメガネの角度を傾斜する場合の実施形態を説明するための図である。
【図14】画像表示装置の出射側の偏光板の透過軸が45°に傾いている場合における各シャッター素子の好ましい実施形態を説明するための図である。
【図15】画像表示装置の出射側の偏光板の吸収軸が垂直方向(縦方向)または水平方向(横方向)に傾いている場合における各シャッター素子の好ましい実施形態を説明するための図である。
【図16】画像表示装置の出射側の偏光板の吸収軸が垂直方向(縦方向)または水平方向(横方向)に傾いている場合における各シャッター素子の好ましい実施形態を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1は、一実施形態の立体画像認識装置(立体表示装置)の概略構成を示す模式的な斜視図である。図1に示す本実施形態の立体画像認識装置1は、一対のシャッター素子11a、11bと当該シャッター素子11a、11bを駆動する駆動部12を含んで構成されている。
【0015】
一対のシャッター素子11a、11bは、人間の両目の平均的な間隔に対応して、所定位置を挟んで一方向に並べて配置されており、例えば図1に示すようにメガネ状に構成されている。
【0016】
駆動部12は、画像表示装置2の画像表示タイミングに同期して所定の駆動電圧をシャッター素子11a、11bに供給する。駆動部12は、例えば駆動周波数1000Hzの矩形波電圧をシャッター素子11a、11bに供給する。駆動電圧は、例えばオフ電圧を0V、オン電圧を10Vとすることができる(スタティック駆動)。駆動部12による駆動電圧の供給方法についてはさらに後述する。なお、駆動部12はシャッター素子11a等と一体化されていてもよいし、画像表示装置2に内蔵されていてもよい。画像表示装置2と駆動部12は図1のような有線接続の他、電波や赤外線などによる無線通信によって接続されていてもよい。
【0017】
図2は、各シャッター素子の詳細構成を示す模式的な断面図である。各シャッター素子11a、11bは、それぞれ図2に示すように上側偏光板13、光学補償板14、液晶セル(液晶素子)15、光学補償板16、偏光板17を有して構成されている。
【0018】
上側偏光板13は、液晶セル15等を挟んで下側偏光板17と対向配置されている。この上側偏光板13は、各シャッター素子11a等が利用者に装着された際に、その視認位置を基準として当該視認位置から遠い側、換言すれば画像表示装置2に近い側に配置される。また、下側偏光板17は、各シャッター素子11a等が利用者に装着された際に、その視認位置を基準として当該視認位置に近い側、換言すれば画像表示装置2から遠い側に配置される。上側偏光板13と下側偏光板17は、各々の吸収軸が略直交するように配置される。
【0019】
光学補償板14は、上側偏光板13と液晶セル15に挟まれて配置されている。同様に、光学補償板16は、下側偏光板17と液晶セル15に挟まれて配置されている。本実施形態における各光学補償板14、16は、負の二軸光学異方性を有する光学板(二軸プレート)である。光学補償板14の面内遅相軸は、上側偏光板13の透過軸と略平行に配置される。同様に、光学補償板16の面内遅相軸は、下側偏光板17の透過軸と略平行に配置される。各光学補償板14、16は、例えば面内位相差が略45nm、厚さ方向位相差が略120nmである。
【0020】
液晶セル15は、電圧無印加時における液晶層の配向状態が略垂直な一軸配向状態を有するものである。図示のように液晶セル15は、上側基板21、上側電極22、配向膜23、下側基板24、下側電極25、配向膜26、液晶層27を含んで構成されている。
【0021】
上側基板21および下側基板24は、それぞれ、例えばガラス基板、プラスチック基板等の透明基板である。プラスチック基板は、軽い、割れにくい、曲げやすい等の長所を有するので、シャッター素子11a、11bをメガネ状に形成するにあたってより好ましい。この場合には、ガスバリア層などを有するプラスチック基板がより好ましい。上側基板21と下側基板24との相互間には、スペーサー(粒状体)が分散して配置されている。これらのスペーサーにより、上側基板21と下側基板24との間隙が所定距離(例えば2.0μm程度)に保たれる。
【0022】
上側電極22は、上側基板21の一面上に設けられている。同様に、下側電極25は、下側基板24の一面上に設けられている。上側電極22および下側電極25は、それぞれ、例えばインジウム錫酸化物(ITO)などの透明導電膜を適宜パターニングすることによって構成されている。
【0023】
配向膜23は、上側基板21の一面側に、上側電極22を覆うようにして設けられている。同様に、配向膜26は、下側基板24の一面側に、下側電極25を覆うようにして設けられている。本実施形態においては、配向膜23および配向膜26としては、液晶層27の初期状態(電圧無印加時)における配向状態を略垂直配向に規制するもの(垂直配向膜)が用いられている。各配向膜23、26には配向処理(例えばラビング処理)が施されている。各配向膜23、26は、液晶層27の界面付近において当該液晶層27の液晶分子にプレティルト角を与える。本実施形態では89°程度のプレティルト角が与えられる。上側基板21と下側基板24は、各配向膜23、26に対する配向処理方向(例えばラビング方向)がアンチパラレル状態となるように位置合わせされる。これにより、液晶層27は90°より小さいプレティルト角を有する略垂直配向に制御される。なお、各配向膜23、26のうちの何れか一方にのみ配向処理が施されていてもよい。また、配向処理はラビング処理に限定されず、光配向法等であってもよい。
【0024】
液晶層27は、上側基板21の上側電極22と下側基板24の下側電極25の相互間に設けられている。本実施形態においては誘電率異方性Δεが負(Δε<0)の液晶材料(ネマティック液晶材料)を用いて液晶層27が構成されている。液晶層27に図示された太線は、電圧無印加時における液晶分子の配向方向(ダイレクタ)を模式的に示したものである。本実施形態の液晶表示装置においては、液晶層27の液晶分子の配向状態は初期状態(電圧無印加状態)において89°程度のプレティルト角を有する略垂直配向に設定されている。液晶層27に電圧が印加されると、液晶分子の長軸方向が電界方向と交差するように液晶層27の配向状態が変化する。液晶層7のリターデーションは略300nmである。
【0025】
図3は、シャッター素子の各構成における光学軸の配置例を示す図である。各光学軸の方位の基準(0°)は図中に示された通りである。シャッター素子11a、11bがほぼ水平方向(画像表示装置2の左右方向)に並んでいる状態を想定する。この状態は、例えば上記のようにシャッター素子11a、11bがメガネ状に構成されている場合においてはこれらを利用者がメガネと同様に装着し、かつ首を傾けずに画像表示装置2を正視した状態に相当する。
【0026】
液晶セル15は、液晶層27の層厚方向の略中央における液晶分子の配向方向が12時方向となるように配置される。なお、この液晶分子の配向方向については、左右の視角特性を重視すれば上記の12時方向または6時方向とすることが好ましいが、この限りではない。シャッター素子11aとシャッター素子11bの各液晶セル15における液晶分子の配向方向を相互に異ならせてもよい。
【0027】
上側偏光板13は、その吸収軸が12時方位から反時計回りに略45°回転させた位置に配置されている。これに対して、下側偏光板17は、その吸収軸が12時方位から時計回りに略45°回転させた位置に配置されている。これにより、上側偏光板13と下側偏光板17は、各々の吸収軸が略直交して配置される。
【0028】
光学補償板14は、その面内遅相軸が上側偏光板13の吸収軸に対して略直交となるように配置されている。これに対して、光学補償板16は、その面内遅相軸が下側偏光板17の吸収軸に対して略直交となるように配置されている。図示のように、光学補償板14と光学補償板16の各々の面内遅相軸は互いに略直交するように配置される。
【0029】
なお、光学補償板14、16のいずれか一方は省略されてもよい。また、各光学補償板14、16の厚さ方向の位相差(2つ用いる場合はその合計)については、液晶セル15のリターデーションΔndに対して略0.5〜略1倍に設定することが好ましい。また、光学補償板14、16の各々の面内位相差は略30nm〜略65nmに設定することが好ましい。
【0030】
図4は、各シャッター素子の電気光学特性の過渡応答の測定例を示す図である。図4(a)は透過光を暗状態から明状態に変化させる場合の測定例である。電気的には、駆動部12により液晶層27に供給される駆動電圧をオフ電圧からオン電圧へ変化させている(図中、「電圧ON」と表記)。また、図4(b)は透過光を明状態から暗状態に変化させる場合の測定例である。電気的には、駆動部12により液晶層27に供給される駆動電圧をオン電圧からオフ電圧へ変化させている(図中、「電圧OFF」と表記)。
【0031】
図4(b)においては、オン電圧からオフ電圧への変化による透過率の変化は比較的に速いことが分かる。具体的には、透過率の最大値T100(本例では28%程度)からその10%の値であるT10へ変化するまでの時間toffは2ミリ秒間を下回っており、約1.9ミリ秒間である。一方、図4(a)においては、オフ電圧からオン電圧への変化による透過率の変化が相対的に遅いことが分かる。具体的には、透過率の最小値Tからその90%の値であるT90へ変化するまでの時間tonは3ミリ秒間を上回っており、約3.15ミリ秒間である。
【0032】
次に、明状態と暗状態の切り替わりに要する時間(切り替わり時間)について注目する。具体的には、透過率の最大値T100の10%の値であるT10から透過率の最大値T100の90%の値であるT90へ変化するまでの時間tと、透過率の最大値T100の90%の値であるT90から透過率の最大値T100の10%の値であるT10へ変化するまでの時間tのそれぞれを切り替わり時間とする。このとき、切り替わり時間tは約1.65ミリ秒間であり、切り替わり時間tは1.79ミリ秒間である。すなわち、いずれの切り替わり時間もほとんど差がないといえる。
【0033】
次に、明状態から暗状態または暗状態から明状態へ実際に透過率が変化し始めるまでに要する時間について注目する。具体的には、透過率の最小値TからT10へ変化するまでの時間tdrと、透過率の最大値T100からT90へ変化するまでの時間tdfのそれぞれに注目する。図4(a)に示すように、立ち上がりの時間tdrは約1.51ミリ秒間を要している。これに対して、図4(b)に示すように、立ち下がりの時間tdfについては約0.1ミリ秒間である。すなわち、立ち上がりの時間tdrと立ち下がりの時間tdfには大きなタイムラグが存在することが分かる。このタイムラグにおける透過率を図4(a)で確認すると、透過率が変化し始めるまでの間はほぼ0%であることが分かる。この現象は後述するように有効に利用できる。
【0034】
次に、本実施形態の立体画像認識装置1に用いられるシャッター素子11a(又は11b)の視角特性の測定例について説明する。駆動条件としては、駆動周波数を1000Hz、オフ電圧を0V、オン電圧を10Vのスタティック駆動とした。なお、視角特性における方位角の定義については図5に示す通りである。
【0035】
図6および図7は、上記した図4(a)および図4(b)の特性の測定に用いられたシャッター素子における視角特性を示す図である。オン透過率(透過状態)に注目すると、視角方向(12時方位)を除いては視角依存性が比較的に小さいことが分かる。特に左右方向(90°方向=9時−3時方向)は視角が広く、画像表示装置2をかなり斜めから見ても(例えば50°方向に見ても)透過率は25%以上であり、明るい表示を視認できることが分かる。一方、視角方向(12時方位)ではオン透過率の視角依存性がやや大きく、上方向(12時方位)に20°以上の視角では透過率が20%以下になることが分かる。このことは不都合とも考えられる。しかし、実際のメガネは一般に横長であり、また利用者が実際に画像表示装置2を視認する場合に、上記条件のように上方向に斜めに画像を視認すること(例えばうつ伏せの姿勢で視認)はほとんどないと考えられることから、実用上大きな問題とはならない。また、画像表示装置2の画面に対して各シャッター素子11a等を少し傾斜させると上記の問題は大きく改善される。図8に、各シャッター素子11a等の前面を画像表示装置2の画面に対して20°傾斜させたと仮定したときの視角特性を示す。図示のように視角特性が改善されており、上下にそれぞれ30°角度をずらしたとしても25%以上の明るい透過率を示すことが分かる。
【0036】
次に、オフ透過率(遮光状態)に注目する。図7は、図6に示した視角特性におけるオフ透過率を拡大して示した図である。正面方向での透過率はどの方位に対してもほぼ0%であり、±10°の角度に着目しても透過率の数値はいずれも0.02%以下である。従って実用上はほぼ完全な遮光状態を得られていることが分かる。さらに広い視角に対しても遮光性は非常に高く、±30°の角度においても透過率の数値はいずれも0.05%以下である。すなわち、各シャッター素子11aは優れたシャッターとして機能しているといえる。なお、上記図8と同様に各シャッター素子11a等の前面を画像表示装置2の画面に対して20°傾斜させたと仮定したときの視角特性を図9に示す。この場合も特に問題のない視角特性であることが分かる。
【0037】
以上のような本実施形態によれば、視角特性に優れ、かつ暗状態の透過率が著しく低いシャッター素子を実現することができる。このシャッター素子を備えた立体画像認識装置を画像表示装置と組み合わせて用いることにより、良好な立体表示を実現することが可能となる。
【0038】
以下に、本実施形態の立体画像認識装置1の駆動方法について例示する。
【0039】
上記した画像表示装置2は、立体的表示を行うために、右目用画像と左目用画像を所定周期で切り替えながら交互に表示する。表示切り替え周波数は、例えば120Hzである。この場合、約8.3ミリ秒間ごとに右目用画像と左目用画像が切り替わる。画像表示装置2がいわゆる倍速表示を行うものである場合には、表示切り替え周波数は240Hzとなる。この場合には、約4.2ミリ秒間ごとに右目用画像と左目用画像が切り替わる。
【0040】
このとき、立体画像認識装置1は、駆動部12が画像表示装置2の表示切り替えタイミングに対応してシャッター素子11a、11bを駆動する。例えば、右目用画像が表示されているフレームでは、利用者の右目に対応付けられたシャッター素子11bには駆動部12からオン電圧が印加され、利用者の左目に対応付けられたシャッター素子11aには駆動部12からオフ電圧が印加される。それにより、シャッター素子11bは光透過状態となり、シャッター素子11aは遮光状態となるので、利用者は右目でのみ右目用画像を視認できる状態となる。逆に、左目用画像が表示されているフレームでは、利用者の左目に対応付けられたシャッター素子11aには駆動部12からオン電圧が印加され、利用者の右目に対応付けられたシャッター素子11bには駆動部12からオフ電圧が印加される。それにより、シャッター素子11aは光透過状態となり、シャッター素子11bは遮光状態となるので、利用者は左目でのみ左目用画像を視認できる状態となる。これらの動作を画像表示装置2による右目用画像と左目用画像の切り替えタイミングに同期して実行することにより、利用者は立体的な表示を視認することができる。
【0041】
図10は、立体画像認識装置を画像表示装置に同期して動作させたときのタイムチャートの一例を示す図である。本例では画像表示装置2における1フレームの時間が16.7ミリ秒間であり、当該1フレームが2つのサブフレームSB1、SB2に分割されている。各サブフレーム時間はそれぞれ約8.33ミリ秒間である。サブフレームSB1が右目用画像の表示期間であり、サブフレームSB2が左目用画像の表示期間である。各サブフレーム時間は、画像形成時間とバックライト点灯時間に分けられる。
【0042】
上記の画像表示装置2として、例えば液晶表示装置を想定した場合には、右目用、左目用の各画像を形成するのに数ミリ秒間の時間を要する。これを考慮し、本実施形態では、画像が形成されたタイミングで画像表示装置2のバックライトが点灯することにより、右目用または左目用の画像が選択的に表示される。これに対して、本実施形態の立体画像認識装置1における各シャッター素子11a、11bは、画像表示装置2における各画像形成時間に対して十分に速い応答特性を有している。従って、どのような条件で表示が行われる場合であってもバックライトの点灯に合わせてシャッター素子11a、11bの各液晶セル15を選択的に光透過状態または遮光状態に制御できる。
【0043】
なお、画像表示装置2が液晶表示装置である場合には、この液晶表示装置の出射側偏光板の透過軸(若しくは吸収軸)と、各シャッター素子11a等の入射側となる上側偏光板13の透過軸(若しくは吸収軸)とは同じ方向に揃えられていることが望ましい。
【0044】
図11は、立体画像認識装置を画像表示装置に同期して動作させたときのタイムチャートの他の例を示す図である。本例では、画像表示装置2プラズマ表示装置や有機EL表示装置等であり、右目用、左目用の各画像形成時間が短い場合を想定している。この場合には、各シャッター素子11a、11bの液晶セル15の応答速度が律速となる。
【0045】
上記したシャッター素子11a等を前提とした場合には、各シャッター素子11a等の立ち上がり特性は駆動電圧をオン電圧としても約1.5ミリ秒間のタイムラグの間は透過率がほとんど変化しない状態である。これを前提とすると、例えば左目に対応する画像が表示されている期間に対して1〜1.5ミリ秒間だけ重畳して右目に対応するシャッター素子11bの駆動電圧をオン電圧としても、右目には左目用画像が視認されない状態とすることができる。一方、各シャッター素子11a等の立ち下がり特性については、駆動電圧をオフ電圧としてから1.9ミリ秒間〜3ミリ秒間経過後に光遮断状態となる。この場合に、光透過状態すべきシャッター素子の透過率上昇が1.8ミリ秒間〜2.2ミリ秒間経過後に飽和し、かつ遮光状態とすべきシャッター素子の透過率低下が飽和した状態となれば、画像表示装置2による画像表示を開始することが可能となる。つまり、サブフレーム時間の8.33ミリ秒間のうち、5.3〜6.6ミリ秒間を画像表示期間に充てることが可能となる。このように、各シャッター素子11a、11bの応答特性を利用して最適化することにより、画像をより明るく表示することが可能となる。
【0046】
次に、実際に装着する各シャッター素子11a、11bにおける液晶セル15の液晶分子の配向方向と上側偏光板13、下側偏光板17の貼り合わせ角度の好ましい関係について図12に基づいて説明する。ここでは、液晶セル15の液晶層27の層厚方向の略中央における液晶分子の配向方向(電圧印加時に液晶分子が倒れる方向)を視角方向と定義している。また、上側偏光板13及び下側偏光板17の透過軸に注目すると、各透過軸が略直交するように各偏光板が配置されており、視角方向とはそれぞれ45°ずれている。実際に利用者がメガネ状の各シャッター素子11a、11bを装着する場合を考えると、図13に示すように顔の形に合わせてメガネの角度を傾斜する場合(傾斜角θ)が設けられる。
【0047】
まず、画像表示装置2として液晶表示装置が用いられており、その出射側の偏光板の透過軸が45°に傾いている場合における各シャッター素子11a、11bの好ましい実施形態を図14に示す。この場合、液晶表示装置側の偏光板の透過軸の方向と、各シャッター素子11a等の入射側である上側偏光板13の透過軸の方向を揃える(略平行にする)ほうが光を有効利用できるため好ましいといえる。液晶セル15の視角方向(液晶分子の配向方向)は透過軸方向から略45°ずらすので縦方向または横方向となるが、上記のように横方向にするとメガネの左右方向の視角特性が悪くなるため、図14に示すように縦方向とすることが好ましい。図14では上方向に視角方向が設定されているが、下方向でも構わない。
【0048】
次に、画像表示装置2として液晶表示装置が用いられており、その出射側の偏光板の吸収軸が垂直方向(縦方向)または水平方向(横方向)に傾いている場合における各シャッター素子11a、11bの好ましい実施形態を図15および図16に示す。この場合も、液晶表示装置側の偏光板の透過軸の方向と、各シャッター素子11a等の入射側である上側偏光板13の方向を揃えるほうが光を有効利用できるため好ましい。液晶セル15の視角方向は透過軸方向から略45°ずらすので、図示のように45°傾斜した方向になるが、上記のように視角方向の透過率がやや低くなる傾向があるため、図12に示すように各シャッター素子11a等を顔の形に沿って傾斜させる場合には、視角方向(液晶分子の配向方向)を顔の外側になるように傾けたほうがよい。従って、右目用のシャッター素子11bと左目用のシャッター素子11aとで視角方向をそれぞれ異ならせたほうが好ましく、具体的には、視角方向(液晶分子の配向方向)は互いに所定位置を挟んで外向きに設定されることが好ましい。図示の例ではそれぞれ斜め上方向に視角方向が設定されるようにしているが、斜め下方向でも構わない。なお、傾斜角θ(図13参照)の値が小さい場合には、右目用のシャッター素子11bと左目用のシャッター素子11aとで視角方向を同一に設定しても構わない。
【0049】
一方、画像表示装置2として液晶表示装置以外のもの(例えば自発光型表示装置)が用いられている場合には、出射光が直線偏光となっていないため、上側偏光板13の貼り合わせ角度は任意になる。従って、シャッター素子11a等の傾斜角θに合わせて視角方向を任意に選ぶことができる。概ね、傾斜角θが0°の場合には視角方向を垂直方向に設定することが好ましく、傾斜角θが20〜30°の場合にはそれぞれが外側を向くように最大45°の方向に視角方向を設定することが好ましい。このとき、上方向でも下方向でも構わない。
【0050】
以上のような本実施形態によれば、視角にあまり依存せず、優れた遮光性を有し、クロストークが抑制された良好な状態で利用者に立体像を視認させることが可能となる。また、上記の立体画像認識装置は、液晶ディスプレイに限らず、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイ、ブラウン管ディスプレイ、電界放出ディスプレイなど種々の方式の画像表示装置と組み合わせて用いることが可能であり、かつ画像表示装置に対する改造等が不要であり、かつ解像度を落とすことなく立体的な表示を実現できる。
【0051】
なお、本発明は上述した実施形態の内容に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内において種々に変形して実施をすることが可能である。
【0052】
例えば、上記した実施形態では、液晶セルとして、90°より小さいプレティルト角を有する略垂直配向の液晶層を有するものを例示していたが、液晶素子はこれに限定されない。例えば、略90°のプレティルト角を有する垂直配向の液晶層を有し、スリットや突起部などを用いて発生させた斜め電界により配向制御を行う液晶素子が用いられてもよい。
【0053】
また、上記した実施形態では、シャッター素子の外形については特段に言及していなかったが、矩形状、五角形などの多角形や任意の曲線形状など所望の形状を選択することができる。
【符号の説明】
【0054】
1…立体画像認識装置 2…画像表示装置 2a、2b…偏光板 2c…液晶パネル 11a、11b…シャッター素子 12…駆動部 13…上側偏光板 14…光学補償板 15…液晶セル(液晶素子) 16…光学補償板 17…偏光板 21…上側基板 22…上側電極 23…配向膜 24…下側基板 25…下側電極 26…配向膜 27…液晶層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
右目用画像と左目用画像を所定周期で交互に表示する画像表示装置と組み合わせて用いられる立体画像認識装置であって、
利用者に装着される一対の第1及び第2シャッター素子と、
前記画像表示装置による前記右目用画像と前記左目用画像の切り替えに対応して前記第1及び第2シャッター素子を選択的に動作させる駆動部、
を含み、
前記第1及び第2シャッター素子は、各々、
各々の吸収軸を略直交させて配置された第1偏光板及び第2偏光板と、
電圧無印加時において液晶分子が垂直又は略垂直配向する液晶層を有し、前記第1偏光板と前記第2偏光板の間に配置された液晶素子と、
負の二軸光学異方性を有し、前記第1偏光板と前記液晶素子の間に配置された第1光学補償板と、
を有し、
前記液晶素子は、前記液晶層の層厚方向の略中央における液晶分子の配向方向が前記第1偏光板及び前記第2偏光板の各々の前記吸収軸に対して略45°の角度をなすように配置され、
前記第1光学補償板は、面内遅相軸を前記第1偏光板の前記吸収軸と略直交に配置された、
立体画像認識装置。
【請求項2】
負の二軸光学異方性を有し、前記第2偏光板と前記液晶素子の間に配置された第2光学補償板を更に含み、
前記第2光学補償板は、面内遅相軸を前記第2偏光板の前記吸収軸と略直交に配置された、請求項1に記載に立体画像認識装置。
【請求項3】
前記第1及び第2シャッター素子は、所定位置を挟んで配置されており、
前記第1シャッター素子の前記液晶素子における前記液晶分子の配向方向と前記第2シャッター素子の前記液晶素子における前記液晶分子の配向方向は、それぞれ前記所定位置を挟んで外向きに設定される、請求項1又は2に記載の立体画像認識装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−2844(P2012−2844A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−134875(P2010−134875)
【出願日】平成22年6月14日(2010.6.14)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】