説明

立体造形データ作成装置および立体造形データ作成プログラム

【課題】立体造形粉体を平坦化する過程で生じる造形層の変形の影響を抑制して正確な形状の立体造形物を作成するための立体造形データ作成装置、および立体造形データ作成プログラムを提供する。
【解決手段】PCは、引き摺りおよび膨張の少なくともいずれかの予測に用いる予測情報を取得する(S22、S23、S28、S35)。引き摺りおよび膨張は、平坦化ローラによって立体造形粉体が平坦化される際に、既に造形が完了している造形層に生じる現象である。詳細には、引き摺りとは、平坦化ローラによって平坦化が行われる過程で、立体造形粉体中に存在する造形層が引き摺られて位置がずれる現象である。膨張とは、平坦化が行われる過程で造形層が引き延ばされて膨張する現象である。PCは、取得した予測情報に基づいて立体造形データを作成する(S31〜S33)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体造形物を造形するための立体造形データを作成する立体造形データ作成装置、および立体造形データ作成プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、立体造形粉体と造形液とを混合して固化することで立体造形物を造形する立体造形装置が知られている。例えば、立体造形装置は、ステージ上に配置された立体造形粉体に対し、ローラ、棒、板等の平坦化手段を相対移動させることで、立体造形粉体を平坦化して層(以下、「粉体層」という。)を形成する。形成した粉体層に、インクジェットヘッドを用いて造形液を吐出する。立体造形粉体と造形液とが混合されると、立体造形粉体に含まれる接着剤が溶解し、溶解した接着剤同士が結合する。その結果、立体造形物の層(以下、「造形層」という。)が形成される。立体造形装置は、以上の工程を繰り返して造形層を重ねることで、所定の形状の立体造形物を造形する。
【0003】
立体造形物の造形中または造形後に、造形した立体造形物が変形する場合がある。特許文献1が開示している立体造形装置は、造形液の体積変化によって生じる歪みを推定し、歪みが打ち消されるように立体データを補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−107244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ステージ上に配置された立体造形粉体を平坦化手段によって平坦化する場合、既に造形が完了した造形層が立体造形粉体中に存在すると、平坦化の過程で造形層が変形する(特に、平坦化手段の移動方向に変形する)場合がある。特許文献1が開示している立体造形装置は、立体造形粉体を平坦化する過程で生じる造形層の変形の影響を抑制することはできなかった。
【0006】
本発明は、立体造形粉体を平坦化する過程で生じる造形層の変形の影響を抑制して正確な形状の立体造形物を作成するための立体造形データ作成装置、および立体造形データ作成プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の第一態様に係る立体造形データ作成装置は、造形液と混合することで固化する立体造形粉体が載置されるステージと、前記ステージに対し、前記ステージのステージ面と平行な方向に相対移動することで、前記ステージに載置された立体造形粉体の表面を平坦化して粉体層を形成する平坦化手段と、前記平坦化手段によって形成された前記粉体層に前記造形液を吐出することで、立体造形物の層である造形層を造形する吐出手段と、前記ステージ面と前記平坦化手段との間の、前記ステージ面に垂直な方向の距離を変化させる昇降手段とを備えた立体造形装置を制御するための立体造形データを、造形する前記立体造形物を示す立体データから作成する立体造形データ作成装置であって、造形が完了している前記造形層が、前記平坦化手段によって前記造形層の上面に前記粉体層が形成される過程で引き摺られて位置がずれる現象である引き摺り、および、引き延ばされて膨張する現象である膨張の少なくともいずれかの予測に用いる予測情報を取得する予測情報取得手段と、前記予測情報取得手段によって取得された予測情報に基づいて前記立体造形データを作成する立体造形データ作成手段とを備えている。
【0008】
本発明の第一態様に係る立体造形データ作成装置によると、立体造形装置は、立体造形粉体を平坦化する際に生じる引き摺りおよび膨張の少なくともいずれか(以下、単に「引き摺り・膨張」という。)が予め考慮された立体造形データに従って、立体造形物を造形することができる。よって、立体造形装置は、引き摺り・膨張の影響を抑制し、正確な形状の立体造形物を造形することができる。
【0009】
また、前記予測情報取得手段は、前記ステージに対する前記平坦化手段の移動方向の情報、および、前記立体データに基づく前記造形層の位置の情報を少なくとも取得し、前記立体造形データ作成手段は、前記立体データに基づく前記造形層の位置から前記平坦化手段の移動方向と逆の方向にずらした位置を、前記吐出手段に前記造形液を吐出させる吐出位置に設定することで、前記吐出手段を制御する吐出データを作成する第一吐出データ作成手段を備えてもよい。この場合、造形が完了した造形層が平坦化手段によって引き摺られることで、造形層の位置が正確な位置まで移動する。従って、立体造形装置は、平坦化によって引き摺りが生じる場合でも、正確な形状の立体造形物を造形することができる。
【0010】
また、前記予測情報取得手段は、前記ステージに対する前記平坦化手段の移動方向の情報、および、前記造形層が造形される範囲の情報を少なくとも取得し、前記立体造形データ作成手段は、前記造形層が造形される範囲を前記平坦化手段の移動方向と逆の方向に圧縮した範囲に、前記吐出手段に前記造形液を吐出させる吐出範囲を設定することで、前記吐出手段を制御する吐出データを作成する第二吐出データ作成手段を備えてもよい。この場合、造形が完了した造形層が平坦化手段によって引き延ばされると、造形層の位置および形状(つまり、造形層が造形される範囲)は、正確な位置および形状となる。従って、立体造形装置は、平坦化によって造形層に膨張が生じる場合でも、正確な形状の立体造形物を造形することができる。
【0011】
また、前記予測情報取得手段は、前記ステージに対する前記平坦化手段の移動方向の情報、および、前記造形層が造形される範囲の情報を少なくとも取得し、前記立体造形データ作成手段は、前記造形層が造形される範囲が、前記平坦化手段の移動方向に延びる軸に対して対称に近づくように、造形する前記立体造形物の前記ステージ上への配置角度を設定する第一角度設定手段を備えてもよい。この場合、引き摺り・膨張は、平坦化手段の移動方向に生じる。従って、造形層が造形される範囲を、平坦化手段の移動方向に延びる軸に対して対称に近づけることで、引き摺り・膨張の影響は対称に現れることになる。よって、予測した程度よりも大きい引き摺り・膨張が仮に生じた場合でも、立体造形物の見栄えが悪くなることを抑制することができる。
【0012】
また、前記予測情報取得手段は、前記ステージに対する前記平坦化手段の移動方向の情報、および、前記造形層が造形される範囲の情報を少なくとも取得し、前記立体造形データ作成手段は、前記造形層が造形される範囲を、前記平坦化手段の移動方向に垂直な平面に投影した場合の投影面積が最小となるように、造形する前記立体造形物の前記ステージ上への配置角度を設定する第二角度設定手段を備えていてもよい。この場合、造形層の引き摺り量および膨張量が最小になる。よって、立体造形装置は、より正確に立体造形物を造形することができる。
【0013】
また、前記立体造形データ作成手段は、前記予測情報取得手段によって取得された前記予測情報に従って、前記平坦化手段を制御するための平坦化データを作成する平坦化データ作成手段を備えていてもよい。この場合、立体造形装置は、予測される造形層の引き摺り・膨張に応じた最適な条件で平坦化手段を駆動することができる。
【0014】
また、前記予測情報取得手段は、前記造形層が造形される範囲の情報を少なくとも取得し、前記平坦化データ作成手段は、造形が完了した前記造形層上を通過する間の前記平坦化手段の移動速度を、前記造形層上を通過しない間の移動速度よりも遅い速度に設定してもよい。この場合、立体造形装置は、造形層上における平坦化手段の移動速度を遅くすることで、平坦化による引き摺り・膨張が生じることを抑制することができる。さらに、造形層上を通過しない間の移動速度を速くすることで、造形時間を短縮することができる。
【0015】
また、前記予測情報取得手段は、前記造形層が造形される範囲の情報を少なくとも取得し、前記平坦化手段は回転可能なローラであり、前記平坦化データ作成手段は、造形が完了した前記造形層上を通過する間の前記ローラの回転速度を、前記造形層上を通過しない間の回転速度よりも速い速度に設定してもよい。この場合、立体造形装置は、造形層上におけるローラの回転速度を速くすることで、平坦化による引き摺り・膨張が生じることを抑制することができる。さらに、造形層上以外の位置でローラを無駄に高速回転させることが無いため、効率よく立体造形物を造形することができる。
【0016】
また、前記昇降手段は、前記ステージ面と前記平坦化手段との間の、前記ステージ面に垂直な方向の距離を調整することで、前記平坦化手段によって形成される前記粉体層の厚みを調整し、前記予測情報取得手段は、積層される複数の前記粉体層のうち、最下層からの積層順を示す情報である積層順情報を少なくとも取得し、前記立体造形データ作成手段は、前記予測情報取得手段によって取得された前記積層順情報に従って、前記昇降手段を制御するための厚みデータを作成する厚みデータ作成手段を備えてもよい。この場合、造形層の引き摺り量および膨張量は、造形層が造形される粉体層の積層順によって異なるため、立体造形データ作成装置は、積層順に応じて粉体層の厚みを制御することで、積層順に応じた適切な動作を立体造形装置に実行させて、引き摺り・膨張の影響を抑制することができる。
【0017】
また、前記厚みデータ作成手段は、前記複数の粉体層のうち、最下層から2番目の粉体層の厚みを最も厚くする前記厚みデータを作成してもよい。造形層が積層される程、造形層の重量の合計値が大きくなるため、引き摺り量および膨張量は少なくなる。従って、最下層に造形された造形層が、引き摺り・膨張の影響を最も受けやすい造形層となる。さらに、粉体層の厚みが厚い程、直下の粉体層中に存在する造形層の引き摺り量および膨張量は減少する。従って、最下層から2番目の粉体層の厚みを最も厚くすることで、引き摺り・膨張の影響を最も受けやすい最下層の造形層が受ける影響を効率よく低下させることができる。
【0018】
また、前記厚みデータ作成手段は、前記積層順情報が示す最下層からの積層順が閾値以下である粉体層の厚みのみを基準値よりも厚くしてもよい。粉体層の厚みが厚い程、直下の粉体層中に存在する造形層の引き摺り量および膨張量は減少する。一方で、粉体層の厚みが薄い方が、精密な立体造形物を造形することができる。また、造形層が積層される程、引き摺り量および膨張量は少なくなる。立体造形データ作成装置は、積層順が閾値以下の粉体層の厚みのみを厚くすることで、積層順が閾値よりも大きい粉体層において造形精度が低下することを防止することができる。また、全ての粉体層の厚みを調整する場合に比べて、データの作成時間も短縮できる。
【0019】
また、本発明の第二態様に係る立体造形データ作成プログラムは、造形液と混合することで固化する立体造形粉体が載置されるステージと、前記ステージに対し、前記ステージのステージ面と平行な方向に相対移動することで、前記ステージに載置された立体造形粉体の表面を平坦化して粉体層を形成する平坦化手段と、前記平坦化手段によって形成された前記粉体層に前記造形液を吐出することで、立体造形物の層である造形層を造形する吐出手段と、前記ステージ面と前記平坦化手段との間の、前記ステージ面に垂直な方向の距離を変化させる昇降手段とを備えた立体造形装置を制御するための立体造形データを、造形する前記立体造形物を示す立体データから作成するための立体造形データ作成プログラムであって、造形が完了している前記造形層が、前記平坦化手段によって前記造形層の上面に前記粉体層が形成される過程で引き摺られて位置がずれる現象である引き摺り、および、引き延ばされて膨張する現象である膨張の少なくともいずれかの予測に用いる予測情報を取得する予測情報取得ステップと、前記予測情報取得ステップにおいて取得された予測情報に基づいて前記立体造形データを作成する立体造形データ作成ステップと、を立体造形データ作成装置のコントローラに実行させるための指示を含んでいる。
【0020】
前記立体造形データ作成プログラムによると、立体造形装置は、立体造形粉体を平坦化する際に生じる引き摺りおよび膨張の少なくともいずれかが予め考慮された立体造形データに従って、立体造形物を造形することができる。よって、立体造形装置は、引き摺り・膨張の影響を抑制し、正確な形状の立体造形物を造形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】立体造形装置1の外観斜視図である。
【図2】造形台6の斜視図である。
【図3】図2におけるA−A線矢視方向断面図である。
【図4】立体造形装置1の内部構成を右側面から見た図である。
【図5】粉体供給部15および平坦化ローラ16の近傍の拡大斜視図である。
【図6】立体造形装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【図7】立体造形データのデータ構成を示す図である。
【図8】立体造形装置1が実行する立体造形処理のフローチャートである。
【図9】PC100の電気的構成を示すブロック図である。
【図10】平坦化による立体造形物の変形の態様を説明するための説明図である。
【図11】PC100が実行する立体造形データ作成処理のフローチャートである。
【図12】平坦化方向に垂直な仮想平面102に対する立体造形物105の投影面積106を説明するための斜視図である。
【図13】平坦化方向に平行な軸Oに対する立体造形物105の対称性を説明するための平面図である。
【図14】立体造形データ作成処理において実行される厚みデータ作成処理のフローチャートである。
【図15】PC100のHDD83に記憶されている厚み設定テーブルのデータ構成を示す図である。
【図16】立体造形データ作成処理において実行される吐出データ作成処理のフローチャートである。
【図17】PC100のHDD83に記憶されている移動量・圧縮量設定テーブルのデータ構成を示す図である。
【図18】立体造形データ作成処理において実行される平坦化データ作成処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。なお、参照する図面は、本発明が採用し得る技術的特徴を説明するために用いられるものである。図面に記載されている装置の構成、各種処理のフローチャート等は、それのみに限定する趣旨ではなく、単なる説明例である。図1および図2の左下側および右上側は、それぞれ、立体造形装置1の正面側および背面側である。図1および図2の左右方向および上下方向は、それぞれ、立体造形装置1の左右方向および上下方向である。図4の左側、右側、上側、下側、紙面手前側、紙面奥側は、それぞれ、立体造形装置1の正面側、背面側、上側、下側、右側、左側である。図5の左側、右側、上側、下側、紙面右手前側、紙面左奥側は、それぞれ、立体造形装置1の正面側、背面側、上側、下側、右側、左側である。立体造形装置1の右方をX座標の正方向、後方をY座標の正方向、上方をZ座標の正方向とする。
【0023】
図1を参照して、立体造形装置1の概略構成について説明する。立体造形装置1は、立体造形データ(図7参照)に従ってヘッド20等を駆動することで、立体造形物を造形することができる。パーソナルコンピュータ(以下、「PC」という。)100は、物体の三次元形状を示す立体データに基づいて立体造形データを作成し、ネットワーク等を介して立体造形装置1に送信する。立体造形装置1は、PC100から受信した立体造形データに従って立体造形物を造形する。なお、立体造形装置1は、立体データを他のデバイスから取得し、取得した立体データに基づいて自ら立体造形データを作成することもできる。
【0024】
立体造形装置1は、土台2と、造形台6と、粉体供給部15と、平坦化ローラ16と、ヘッド20と、ヘッドクリーニング機構22と、粉体回収部23とを主に備える。土台2は、左右方向(X軸方向)を長手方向とする矩形板状に形成されており、立体造形装置1の全体を支持する。造形台6はステージ11を備え、ステージ11上で立体造形物が造形される。粉体供給部15は、造形台6のステージ11上に立体造形粉体を供給する。平坦化ローラ16は、ステージ11上に載置された立体造形粉体の上面を平坦化し、立体造形粉体の層(以下、「粉体層」という。)を形成する。ヘッド20は、ステージ11上に形成された粉体層に造形液を吐出する。ヘッドクリーニング機構22は、ヘッド20の吐出口をワイプし、また、密着して造形液を吸引する。粉体回収部23は、ステージ11上で固化せずに残存した立体造形物周辺の余分な立体造形粉体(以下、「未硬化粉体」という。)を回収する。以下、各構成について説明する。
【0025】
造形台6について説明する。図2に示すように、造形台6は、造形台6を支持する基部7と、基部7の上部に支持される枠部9とを備える。基部7の左右の各々には、前後方向(Y軸方向)に貫通する貫通孔8が形成されている。図1に示すように、土台2の略中央には、前後方向に平行に延びる2本のレール3が設けられている。2本のレール3は、土台2の正面側端部に設けられた支持部4と、背面側端部に設けられた支持部(図示せず)とによって、土台2の上面から所定の高さで支持されている。2本のレール3の各々は、造形台6の基部7に形成された2つの貫通孔8の各々を貫通する。さらに、土台2の背面側端部には、造形台6を前後動させるための造形台前後動モータ41(図6参照)が設けられる。造形台前後動モータ41が駆動すると、キャリッジベルト(図示せず)を介して動力が造形台6に伝わり、造形台6は2本のレール3に沿って前後方向(Y軸方向)に移動する。つまり、造形台前後動モータ41が駆動すると、粉体供給部15、平坦化ローラ16、およびヘッド20は、造形台6のステージ11に対して前後方向(ステージ面と平行な方向)に相対移動する。
【0026】
図2に示すように、枠部9は、略立方体の箱型形状を成す。枠部9は、上面が開放された平面視矩形状の凹部であるステージ保持部10を有している。ステージ保持部10の内側には、立体造形物が造形されるステージ11が昇降可能に保持される。ステージ11は、ステージ保持部10の内周面に接するように平面視矩形状に形成されており、且つ、ステージ11の上面は水平に保たれている。つまり、枠部9は、ステージ11の側面に接し、且つステージ11の昇降範囲の外周を取り囲む。枠部9の右側面には、未硬化粉体をステージ保持部10内から粉体回収部23(図1参照)に導くための回収路12が接続している。ステージ保持部10の背面側には、上面が開放された平面視矩形の凹部である粉体落下口13が設けられている。粉体落下口13には、粉体層を形成する際に平坦化ローラ16によって集積された余剰粉体が落下する。粉体落下口13に落下した余剰粉体は、作業者によって、造形台6の上方に位置する粉体供給部15(図1、図4、および図5参照)内に戻される。しかし、立体造形装置1は、粉体落下口13に落下した余剰粉体を吸引等によって回収し、粉体供給部15に自動的に戻してもよい。
【0027】
図3に示すように、ステージ11は、上部ステージ51および下部ステージ52を備える。上部ステージ51は矩形板状の部材であり、水平に配置される。上部ステージ51には、厚み方向に貫通する孔71(図2参照)が複数設けられている。下部ステージ52は、上部ステージ51と略同一形状の板状部材であり、上部ステージ51の下方において上部ステージ51と平行に配置される。下部ステージ52にも、上部ステージ51と同様に複数の孔(図示せず)が設けられている。しかし、平面視において、上部ステージ51に設けられた孔71の位置と、下部ステージ52に設けられた孔の位置とが重複しないように、上部ステージ51および下部ステージ52が形成されている。従って、上部ステージ51に立体造形粉体が載置されると、孔71が設けられていない位置では、上部ステージ51の上面に立体造形粉体が堆積する。孔71が設けられている位置では、立体造形粉体は孔71から下部ステージ52に落下する。しかし、落下地点には下部ステージ52の孔は形成されていない。よって、上部ステージ51から落下した立体造形粉体は、下部ステージ52の上面に堆積する。その結果、ステージ11上に立体造形粉体が堆積する。
【0028】
下部ステージ52の下方には、上部ステージ51および下部ステージ52を支持する受け皿53が設けられている。受け皿53は、下部ステージ52の全体の下部を覆うように、平面視略矩形状に形成されている。受け皿53の右端部近傍における前後方向略中心には、下部ステージ52から落下した未硬化粉体を回収路12に導く誘導口55が形成されている。受け皿53は、誘導口55に近づく程高さが低くなるように傾斜している。誘導口55の鉛直下方には、回収路12の入口である回収口65が配置されている。
【0029】
受け皿53の中心下部にはボールねじ57が接続している。ボールねじ57は、受け皿53から鉛直下方へ延び、ナット(図示せず)に装着されている。造形台6の下部には、ボールねじ57を回転させるためのステップモータであるステージ昇降モータ42(図6参照)が設けられている。ステージ昇降モータ42が駆動すると、ボールねじ57が回転して昇降し、ボールねじ57に接続している受け皿53が昇降する。その結果、受け皿53によって支持されているステージ11が昇降する。なお、造形台6には、ステージ11を振動させるための加振モータ46(図6参照)が配置されている。
【0030】
立体造形装置1は、立体造形物を造形する場合、回収口65よりも高い位置にステージ11を位置させる。詳細には、立体造形装置1は、昇降範囲の上部からステージ11を徐々に下降させながら立体造形物を造形する。立体造形装置1は、立体造形物の造形が完了すると、ステージ11を昇降範囲の下端まで下降させて、誘導口55を回収口65の近傍に近づける。次いで、加振モータ46の駆動を開始してステージ11を振動させる。ステージ11が振動すると、ステージ11上の未硬化粉体は受け皿53に落下し、誘導口55および回収口65を通じて回収される。
【0031】
粉体供給部15について説明する。図4および図5に示すように、粉体供給部15は、上方へ向けて徐々に前後方向の幅が広がる箱状に形成されており、内部に立体造形粉体を収容する。粉体供給部15は、造形台6の上方に位置するように、粉体回収部23(図1参照)の左側面に固定されている。粉体供給部15の下面には、左右方向を長手方向とする開口である供給口(図示せず)が形成されている。供給口は、ステージ11上の左右方向(X軸方向)に線状に延びる全領域に立体造形粉体を供給できるように、ステージ11の左右方向の幅以上の幅に形成されている。供給口には、供給口を開閉するシャッター(図示せず)が設けられている。立体造形装置1は、粉体供給モータ44(図6参照)によってシャッターの開閉を制御することで、ステージ11上に立体造形粉体を供給する。
【0032】
平坦化ローラ16について説明する。平坦化ローラ16は、ステージ11上に供給された立体造形粉体の上面を平坦化して粉体層を形成するために設けられる。図4および図5に示すように、平坦化ローラ16の回転軸17は、ステージ11の上面と平行な状態で、造形台6の移動方向と交差する方向(左右方向)に延びる。回転軸17は、粉体回収部23(図1参照)に配置されたローラ回転モータ43(図6参照)に接続している。ローラ回転モータ43が駆動すると、平坦化ローラ16は、図5に示す矢印方向(右側面視反時計回りの方向)に回転する。立体造形装置1は、粉体層を形成する場合、粉体供給部15のシャッターを開放させた状態で、平坦化ローラ16を回転させながら造形台6を後方から前方へ(Y軸の負の方向へ)移動させる。その結果、ステージ11(図2および図3参照)に載置された立体造形粉体の上面は、平坦化ローラ16によって平坦化される。平坦化ローラ16の背面側に集積した余剰粉体は、造形台6の背面側に形成された粉体落下口13に落下する。
【0033】
図4および図5に示すように、粉体供給部15の正面には板状のブレード18が固定されている。ブレード18は、平坦化ローラ16に付着した立体造形粉体を除去するために設けられる。ブレード18は、粉体供給部15の正面の壁面から前方斜め下方へ延び、平坦化ローラ16の背面側に隙間無く接触している。図5に示すように、平坦化ローラ16のうち、ブレード18が接触する位置Pは、回転軸17の高さH以下の高さに調整されている。従って、立体造形粉体は、ブレード18と平坦化ローラ16との間に堆積することなく、平坦化ローラ16の表面から容易に剥がれ落ちる。さらに、ブレード18の板面は、平坦化ローラ16の正面側の空間と背面側の空間との間を遮断する。従って、ブレード18は、平坦化ローラ16の背面側の立体造形粉体が正面側に飛散することを防止することができる。よって、平坦化ローラ16によって形成された粉体層の上面は平坦に保たれる。飛散した立体造形粉体がヘッド20に付着する可能性も低下する。
【0034】
ヘッド20について説明する。図示しないが、ヘッド20は、シアンヘッド、マゼンタヘッド、イエローヘッド、ブラックヘッド、およびクリアヘッドを備える。立体造形装置1の左胴部25(図1参照)の内部には、シアン造形液、マゼンタ造形液、イエロー造形液、ブラック造形液、およびクリア造形液の各々を収容した複数のタンクが装着されている。ヘッド20が備える各色のヘッドの各々は、可撓性を有するチューブ(図示せず)によって、対応する色の造形液を収容したタンクに接続されている。ヘッド20は、CPU30(図6参照)の制御によって、各色の造形液を粉体層に吐出する。なお、吐出する造形液の種類は変更できる。例えば、シアンヘッド、マゼンタヘッド、イエローヘッド、およびクリアヘッドによって、4種類の造形液を吐出してもよい。この場合、シアン、マゼンタ、およびイエローを混色させて黒色を再現する。4種類の液体を吐出するヘッドは、シアン、マゼンタ、イエロー、およびブラックのインクを吐出する通常の印刷装置で一般に用いられている。通常の印刷装置のヘッドのうち、ブラックのインクを吐出するヘッドをクリア造形液用に用いれば、印刷装置のヘッドを立体造形装置1にそのまま転用することができる。
【0035】
図1に示すように、造形台6の上方、且つ粉体供給部15の前方には、ヘッド20の左右方向の移動を案内するためのガイドレール21が設けられている。ガイドレール21は、立体造形装置1の左胴部25の右側面から右方へ真っ直ぐに水平に延び、粉体回収部23の左側面に接続する。ガイドレール21は、ヘッド20を左右方向に貫通しており、ヘッド20はガイドレール21に沿って左右に移動できる。立体造形装置1の左胴部25には、ヘッド20を移動させるためのヘッド移動モータ45(図6参照)が設けられている。ヘッド移動モータ45が駆動すると、キャリッジベルト(図示せず)を介して動力がヘッド20に伝わり、ヘッド20が左右方向(X軸方向)に移動する。
【0036】
ヘッドクリーニング機構22は、ヘッド20の下方のノズル面をワイプ(拭き取り)し、また、密着し、ノズルに各色の造形液が達するまで吸引を行う。また、ヘッドクリーニング機構22は、造形液の吐出が行われない場合にヘッド20のノズル面を覆い、造形液が乾燥することを防止する。
【0037】
粉体回収部23は、図1に示すように、造形台6と右胴部26との間に配置される。粉体回収部23は、造形台6のステージ保持部10(図2および図3参照)内の未硬化粉体を吸引するための粉体吸引ポンプ48(図6参照)を備える。粉体吸引ポンプ48が吸引を開始すると、ステージ保持部10内の未硬化粉体は、回収路12(図2、図3、および図5参照)および粉体回収部23を通じて、粉体供給部15に戻される。
【0038】
なお、立体造形装置1の右胴部26の正面には操作パネル27が設けられている。操作パネル27は、各種操作キーと表示部とを有する。作業者は、表示部を見ながら操作キーを操作することで、立体造形装置1に対する操作指示を入力する。
【0039】
図6を参照して、立体造形装置1の電気的構成について説明する。立体造形装置1は、立体造形装置1の制御を司るCPU30を備える。CPU30には、RAM31、ROM32、モータ駆動部33、ヘッド駆動部35、ヘッドクリーニング機構22、粉体吸引ポンプ48、操作パネル27、および外部通信I/F37が、バス39を介して接続されている。
【0040】
RAM31には、PC100から受信した立体造形データ等の各種データが一時的に記憶される。ROM32には、立体造形装置1の動作を制御するための制御プログラム、初期値等が記憶されている。モータ駆動部33は、造形台前後動モータ41、ステージ昇降モータ42、ローラ回転モータ43、粉体供給モータ44、ヘッド移動モータ45、および加振モータ46の各々の動作を制御する。ヘッド駆動部35はヘッド20に接続しており、ヘッド20の各吐出チャンネルに設けられた圧電素子を駆動する。外部通信I/F37は、立体造形装置1をPC100等の外部機器に接続する。なお、立体造形装置1は、USBインタフェース、インターネット等を介して、他のデバイス(例えば、USBメモリ、サーバ等)からデータを取得することも可能である。
【0041】
図7を参照して、立体造形データのデータ構成について説明する。立体造形データとは、立体造形装置1の動作を制御するためのデータである。立体造形装置1は、立体造形データを取得してRAM31に記憶し、記憶したデータに従って各部を動作させる。図7に示すように、立体造形データは、積層される複数の層(粉体層および造形層)の各々に対して作成されている。各層のデータには、最下層からの積層順Nが付されている。各層のデータには、吐出データ、平坦化データ、および厚みデータが含まれる。
【0042】
吐出データは、造形台前後動モータ41、ヘッド移動モータ45、およびヘッド20(図6参照)を駆動するためのデータであり、ヘッド20からの造形液の吐出を制御する。詳細には、吐出データは、座標(X,Y)の情報と、座標の情報が示すドットに対して各色の造形液を吐出するか否かを示す情報とを含む。図7では、「1」は吐出、「0」は不吐出、「−」はいずれの造形液も吐出しない(造形範囲外のドットである)ことを示す。
【0043】
平坦化データは、造形台前後動モータ41およびローラ回転モータ43(図6参照)を駆動するためのデータであり、立体造形粉体の上面を平坦化する動作を制御する。詳細には、平坦化データは、移動速度の情報と回転速度の情報とを含む。移動速度は、ステージ11に対する平坦化ローラ16の相対移動の速度である。本実施形態の立体造形装置1は、ステージ11を保持する造形台6を移動することで、平坦化ローラ16をステージ11に対して相対移動させる。しかし、ステージ11を固定して平坦化ローラ16を移動させる場合には、移動速度は平坦化ローラ16の速度となる。回転速度は、平坦化工程中の平坦化ローラ16の回転速度であり、本実施形態では単位をrps(回数/秒)で表す。
【0044】
厚みデータは、ステージ昇降モータ42(図6参照)を駆動するためのデータである。詳細は後述するが、粉体層を形成する場合、立体造形装置1は、厚みデータに従ってステージ11の下降量を調整することで、粉体層のZ軸方向の厚みを調整する。つまり、粉体層および造形層の厚みは、厚みデータによって定められる。
【0045】
図8を参照して、立体造形装置1が実行する立体造形処理について説明する。前述したように、立体造形装置1のROM32には、立体造形装置1の動作を制御するための制御プログラムが記憶されている。立体造形装置1のCPU30は、造形の開始指示を入力すると、制御プログラムに従って、図8に示す立体造形処理を実行する。
【0046】
まず、初期化処理が実行される(S1)。初期化処理では、ヘッドクリーニング機構22によって、ヘッド20の下面がワイプされ、また、ノズルに造形液が達するまで吸引が行われる。吸引によって、ヘッド20が造形液を吐出できる状態となる。また、ステージ11の上面の高さが、造形台6の上端部近傍まで移動され、立体造形を実行する際の土台となる粉体層が形成される。詳細には、ステージ11の上面の高さが、造形台6の上端部よりも3〜10mm程度下方に調整され、立体造形粉体の供給および平坦化が繰り返されることで、3〜10mm程度の厚みを有する平坦化された粉体層が土台として形成される。土台となる粉体層を予め形成しておくことで、その上部に積層される粉体層の上面を正確な平坦面とすることができる。また、初期化処理では、RAM31に記憶されているデータが一旦消去される。
【0047】
立体造形データ(図7参照)をPC100から入力したか否かが判断される(S2)。立体造形データを入力していなければ(S2:NO)、S2の判断が繰り返される。立体造形データを入力すると(S2:YES)、複数の層(粉体層および造形層)のうち、処理対象の層を特定するための積層順Nの値が、最下層を示す「1」とされる(S3)。
【0048】
立体造形データのうちのN層目のデータが読み出される(S4)。ステージ昇降モータ42が駆動されて、ステージ11の上面の高さが、N層目の厚みデータが示す厚み分だけ下降される(S5)。ステージ11に立体造形粉体が供給されて上面が平坦化され、粉体層が形成される(S6)。詳細には、粉体供給モータ44が駆動されて、ステージ11上への立体造形粉体の供給が開始される。ローラ回転モータ43が駆動されて、N層目の平坦化データが示す回転速度で平坦化ローラ16が回転される。造形台前後動モータ41が駆動されて、N層目の平坦化データが示す移動速度で造形台6が前方へ移動される。粉体層が形成されると、造形台前後動モータ41およびヘッド移動モータ45が駆動されて、ヘッド20が成形領域の初期位置に相対移動される。N層目の吐出データに応じて、ヘッド20の相対移動および吐出制御が実行されて、ヘッド20から造形液が吐出される(S7)。S4〜S7の処理によって、N層目の造形層が形成される。
【0049】
立体造形物の造形が完了したか否かが判断される(S9)。完了していなければ(S9:NO)、処理対象の層を特定するための積層順Nの値がインクリメント(「1」が加算)されて、1つ上の層が処理対象の層とされる(S11)。処理はS4へ戻り、次の粉体層および造形層が形成される(S4〜S7)。造形が完了すると(S9:YES)、ステージ11が下降されて、加振モータ46および粉体吸引ポンプ48が駆動され、未硬化粉体が回収される(S12)。立体造形処理は終了する。
【0050】
図9を参照して、PC100の電気的構成について説明する。PC100は、PC100の制御を司るCPU80を備える。CPU80には、RAM81、ROM82、ハードディスクドライブ(以下、「HDD」という。)83、表示制御部84、操作処理部85、CD−ROMドライブ86、および外部通信I/F87が、バス89を介して接続されている。
【0051】
RAM81は、各種情報を一時的に記憶する。ROM82には、CPU80が実行するBIOS等のプログラムが記憶されている。HDD83は不揮発性の記憶装置であり、立体造形データ作成プログラム、立体データ、立体造形データ(図7参照)等を記憶している。表示制御部84は、モニタ91の表示を制御する。操作処理部85は、ユーザが操作入力を行うためのキーボード92およびマウス93に接続し、操作入力を検知する。CD−ROMドライブ86には、記憶媒体であるCD−ROM94が挿入される。CD−ROM94に記憶されているデータは、CD−ROMドライブ86によって読み出される。PC100は、CD−ROM94およびインターネット等を介して、本発明に係る立体造形データ作成プログラム等を取得し、HDD83に記憶させる。外部通信I/F87は、PC100を立体造形装置1等の外部機器に接続する。
【0052】
図10を参照して、立体造形粉体を平坦化することで生じる立体造形物の変形の態様について説明する。図10では、径が等しい円形平板状の造形層を垂直に積層させる場合を例示する。この場合、平坦化による変形が生じなければ、図10の上部の斜視図に示すように、円柱状の立体造形物が造形される。しかし、平坦化ローラ16等の平坦化手段を、ステージ11のステージ面に平行に相対移動させる際に、既に造形が完了している造形層が下方の粉体層に含まれていれば、造形層に力が加わって変形する。
【0053】
変形には、引き摺りと膨張がある。引き摺りとは、下方の粉体層に含まれる造形層が平坦化方向に引き摺られて、位置がずれる現象である。引き摺りのみが生じる場合、造形層の形状自体は変化しないが、造形層の位置が所定の位置からずれる。その結果、立体造形物が変形する。膨張とは、下方の粉体層に含まれる造形層が平坦化方向に引き延ばされて膨張する現象である。膨張のみが生じる場合、造形層のうち、平坦化方向の上流側(図10の右方)の端部の位置は変化しないが、造形層の形状自体が平坦化方向に引き延ばされる。その結果、立体造形物が変形する。立体造形物には、引き摺りおよび膨張のいずれか一方のみが生じる場合もあるが、引き摺りおよび膨張が共に生じる場合もある。引き摺りおよび膨張が共に生じると、いずれか一方の変形が生じる場合に比べて、立体造形物の変形量は大きくなる。なお、「平坦化方向」とは、立体造形粉体が載置されたステージ11のステージ面に対して平坦化手段(平坦化ローラ16)が相対的に移動する方向である。例えば、平坦化手段を固定してステージ11を前方に移動させる場合でも、ステージ11を固定して平坦化手段を後方に移動させる場合でも、平坦化方向は共に後方となる。
【0054】
積層される造形層の合計重量は、層が積み重なる程増加する。造形層の合計重量が大きい程、引き摺りおよび膨張は生じ難くなる。従って、図10に示すように、積層順が早い程(造形層の位置が下側である程)、引き摺りによる変形量(以下、「引き摺り量」という。)および膨張による変形量(以下、「膨張量」という。)は大きくなる。積層順が閾値よりも大きくなると、引き摺り量および膨張量はほぼ無視できる量となる。なお、図10に示す例では、引き摺りおよび膨張が生じ得る積層順の閾値は「2」であり、積層順が「2」より大きい場合には、引き摺り量および膨張量は無視できる。しかし、閾値は、立体造形粉体の種類、造形層の厚み、吐出される造形液の量、平坦化ローラ16の移動速度・回転速度等の造形条件によって変化する。なお、引き摺り量および膨張量が造形条件の影響を受けることは言うまでもない。PC100は、引き摺りおよび膨張が生じることを予め考慮して立体造形データを作成することができる。以下、PC100が実行する処理について説明する。
【0055】
図11から図18を参照して、PC100が実行する立体造形データ作成処理について説明する。前述したように、PC100のHDD83には立体造形データ作成プログラムが記憶されている。PC100のCPU80は、立体造形データの作成指示を入力すると、立体造形データ作成プログラムに従って、図11に示す立体造形データ作成処理を実行する。
【0056】
まず、ユーザによって指定された物体の三次元形状を示す立体データが取得される(S21)。平坦化方向(つまり、ステージ11に対する平坦化ローラ16の相対的な移動方向)が取得される(S22)。本実施形態の立体造形装置1では、平坦化が行われる場合、平坦化ローラ16が固定された状態で、造形台6が前方に移動される。従って、平坦化方向は常に後方である。しかし、立体造形装置1が複数の平坦化方向で平坦化を実行できる場合、CPU80は、実際に立体造形装置1に実行させる平坦化工程の平坦化方向を取得する。次いで、複数の造形層の各々が造形される範囲の情報が取得される(S23)。S23では、立体データが示す物体のうち、各造形層に対応する部分が占める範囲(造形される予定の立体造形物が占める三次元上の範囲)の情報が、造形範囲の情報として取得される。
【0057】
次いで、立体造形物のステージ11上への配置角度が設定される(S24〜S27)。まず、図12に示すように、平坦化ローラ16の平坦化方向に垂直な仮想平面102に対する立体造形物105の投影面積106が最小となるように、立体造形物105のステージ11上への配置角度が設定される(S24)。図12に示す例では、立体造形物105の形状は、長手方向と短手方向とを有する直方体形状である。この場合、長手方向が平坦化方向と垂直となるように配置された立体造形物105Aでは、仮想平面102に対する投影面積106Aが大きくなる。一方で、長手方向が平坦化方向と平行となるように配置された立体造形物105Bでは、仮想平面102に対する投影面積106Bは最小となる。従って、図12に示す例では、CPU80は、長手方向が平坦化方向と平行となるように、立体造形物105Bの配置角度を設定する。投影面積106が最小となるように立体造形物105の配置角度を設定することで、引き摺り量および膨張量が最小となる。この効果を確認するための[評価試験1]については後述する。
【0058】
仮想平面102に対する投影面積106が最小となる配置角度が複数存在するか否かが判断される(S26)。ここで、仮想平面102に平行な軸を中心として、配置角度を180度回転させると、投影面積106は必ず同一となる。この場合の2つの配置角度は、S26の処理では同一(1つ)として処理する。S24の処理によって設定された配置角度が1つであれば(S26:NO)、処理はそのままS28へ移行する。
【0059】
S24の処理によって設定された配置角度が複数存在すれば(S26:YES)、図13に示すように、設定された複数の配置角度のうち、平坦化方向に延びる軸Oに対して立体造形物105の造形範囲が平面視において対称に最も近づく配置角度が採用される(S27)。図13に示す例では、立体造形物105の形状は平面視略U字状である。仮想平面102(図12参照)に対する投影面積106は、図13のパターン1とパターン2の間で差が無い。しかし、パターン1で配置された立体造形物105Cは、軸Oに対して平面視非対称である。この場合、仮に引き摺りおよび膨張が生じると、引き摺りおよび膨張が平坦化方向に現れるため、変形も非対称となり、立体造形物105Cの見栄えは大幅に悪化する。これに対し、パターン1の配置角度を反時計回りに90度回転させたパターン2では、立体造形物105Dは軸Oに対して平面視対称である。この場合、仮に引き摺りおよび膨張が生じても、変形が対称に現れるため、見栄えの悪化が抑制される。また、変形量を予測する場合にも、立体造形物105Dが軸Oに対して対称に配置されていれば、約半分の計算量で変形量を予測できる。
【0060】
次いで、複数の層(粉体層および造形層)のうち、データを作成する層を特定するための積層順Nの値が、最下層を示す「1」とされる(S28)。積層順Nの立体造形データが作成される(S31〜S33)。厚みデータ作成処理(S31)では、層(粉体層および造形層)の厚みを定めるための厚みデータが作成される。吐出データ作成処理(S32)では、造形液の吐出を制御するための吐出データが作成される。平坦化データ作成処理(S33)では、立体造形粉体の平坦化を制御するための平坦化データが作成される。以下、S31〜S33の処理について詳細に説明する。
【0061】
図14および図15を参照して、厚みデータ作成処理(S31)について説明する。厚みデータ作成処理では、引き摺りおよび膨張が生じやすい造形層の上に位置する粉体層の厚みが厚く設定される。粉体層の厚みが厚ければ、1つ下の造形層では、引き摺りおよび膨張は生じ難くなる。この効果を確認するための[評価試験2]については後述する。一方で、引き摺りおよび膨張が生じ難い造形層の上の粉体層の厚みは薄く設定される。その結果、引き摺りおよび膨張が生じ難い部分では薄い造形層が細かく積層されて、立体造形物105が正確に造形される。
【0062】
まず、積層順Nの値が閾値(本実施形態では「5」)以下であるか否かが判断される(S41)。閾値以下であれば(S41:YES)、HDD83に記憶されている厚み設定テーブル(図15参照)が参照されて、積層順Nに応じた厚みが設定され(S43)、処理は立体造形データ作成処理へ戻る。前述したように、積層順Nが早い(小さい)程、引き摺りおよび膨張が生じやすい。従って、図15に示す厚み設定テーブルでは、引き摺りおよび膨張が最も生じやすい最下層(N=1)の1つ上の層(N=2)における粉体層の厚みが、最も大きい値に設定されている。積層順Nの値が2よりも大きくなる程、厚みは徐々に小さくなる。最下層(N=1)の下には造形層は存在しないため、最下層の厚みは基準値に設定されている。なお、基準値とは、下の層に引き摺りおよび膨張が生じない場合に適用される通常の粉体層の厚みであり、立体造形物105の精密な形状を担保できる程度に薄い厚みである。また、積層順Nの値が閾値よりも大きければ(S41:NO)、1つ下の造形層に生じる引き摺り量および膨張量は無視できる程度に小さい(または、引き摺りおよび変形は生じない)。従って、粉体層の厚みが基準値(本実施形態では100μm)に設定されて(S42)、処理は立体造形データ作成処理へ戻る。次いで、吐出データ作成処理(S32、図11参照)が実行される。
【0063】
図16および図17を参照して、吐出データ作成処理(S32)について説明する。吐出データ作成処理では、N層目の造形層に生じ得る引き摺りおよび膨張が予め考慮されて、造形液の吐出位置および吐出範囲が設定される。つまり、引き摺りおよび膨張が生じることで、造形層の造形位置および造形範囲(形状)が正確な位置および範囲となるように、吐出データが作成される。
【0064】
まず、造形しようとするN層目の造形層の造形位置および造形範囲の情報が、造形する物体の立体データから取得される(S51)。積層順Nの値が閾値(本実施形態では「4」)以下であるか否かが判断される(S52)。S52で判断される閾値は、粉体層の厚みを設定するための閾値(S41、図14参照)と同じ値であってもよいし、異なる値であってもよい。前述したように、積層順Nの値が閾値よりも大きければ(S52:NO)、引き摺り量および膨張量は無視できる(または変形しない)。従って、S51で取得された情報が示す造形位置および造形範囲が、そのままN層目の粉体層に対する造形液の吐出位置および吐出範囲とされる。吐出位置および吐出範囲に造形液を吐出させるための吐出データが作成されて(S55)、処理は立体造形データ作成処理へ戻る。
【0065】
積層順Nの値が閾値以下であれば(S52:YES)、図17に示す移動量・圧縮量設定テーブルが参照される。本実施形態では、各造形層の引き摺り量および膨張量を予め実験によって測定し、測定した値に基づいて、図17に示す移動量・圧縮量設定テーブルが作成・記憶されている。移動量とは、S51で取得された情報が示す造形位置を、平坦化方向とは逆の方向にずらす量である。圧縮量とは、S51で取得された情報が示す造形範囲を、平坦化方向と逆の方向に圧縮する量(単位:%)である。積層順Nが小さい程、引き摺り量および膨張量は大きくなる。従って、移動量・圧縮量設定テーブルでは、積層順Nが小さい程、移動量および圧縮量が大きくなるように、各値が設定されている。
【0066】
なお、図17に示す移動量・圧縮量設定テーブル、および、図15に示す厚み設定テーブルは、立体造形粉体の種類、造形層の厚み、吐出される造形液の量、平坦化ローラ16の移動速度・回転速度等の造形条件に応じて複数設けられている。従って、立体造形装置1は、造形条件に応じた最適な動作を実行できる。
【0067】
CPU80は、S51で取得した情報が示す造形位置を、積層順Nに応じた移動量だけ平坦化方向と逆の方向にずらすことで、吐出位置を設定する(S53)。S51で取得した情報が示す造形範囲を、積層順Nに応じた圧縮量だけ平坦化方向と逆の方向に圧縮することで、吐出範囲を設定する(S54)。CPU80は、設定した吐出位置および吐出範囲に造形液を吐出させるための吐出データを、立体データに基づいて作成する(S55)。処理は立体造形データ作成処理へ戻る。次いで、平坦化データ作成処理(S33、図11参照)が実行される。
【0068】
図18を参照して、平坦化データ作成処理(S33)について説明する。平坦化データ作成処理では、立体造形粉体を平坦化する動作を制御するための平坦化データが作成される。平坦化の工程では、ステージ11に対する平坦化ローラ16の相対的な移動速度が大きい程、造形に要する時間は短縮できるが、引き摺り量および膨張量は大きくなる。また、平坦化ローラ16の回転速度が小さい程、消費するエネルギーは節約できるが、引き摺り量および膨張量は大きくなる(後述する[評価試験3]参照)。従って、CPU80は、下の層に造形層が存在するか否かに応じて、平坦化ローラ16の相対的な移動速度および回転速度を設定する。これにより、引き摺りおよび膨張の発生を抑制しつつ、造形の効率化および時間短縮を実現する。
【0069】
まず、積層順Nの値が閾値以下であるか否かが判断される(S61)。閾値は、実験結果、造形条件等に応じて適切な値を適宜設定すればよい。積層順Nの値が閾値よりも大きければ(S61:NO)、引き摺りおよび膨張の発生は無視できる。従って、平坦化ローラ16の相対的な移動速度が高速度(本実施形態では70mm/s)に設定される(S62)。平坦化ローラ16の回転速度が低速度(本実施形態では5rps)に設定される(S63)。処理は立体造形データ作成処理へ戻る。
【0070】
積層順Nの値が閾値以下であれば(S61:YES)、N層目よりも下の層(N−1層目までの全ての層)の造形位置および造形範囲の情報が取得される(S65)。N層目よりも下の層の造形層の造形は、N層目の造形が行われる時点で既に完了している。よって、N層目よりも下の全ての層の造形範囲を「造形完了範囲」という。CPU80は、造形完了範囲の鉛直上方を通過する間の平坦化ローラ16の相対的な移動速度を、低速度(本実施形態では50mm/s)に設定する(S66)。造形完了範囲以外の範囲の鉛直上方を通過する間の移動速度を、高速度に設定する(S67)。CPU80は、造形完了範囲の鉛直上方を通過する間の平坦化ローラ16の回転速度を、高速度(本実施形態では8rps)に設定する(S68)。造形完了範囲以外の範囲の鉛直上方を通過する間の回転速度を、低速度に設定する(S69)。処理は立体造形データ作成処理へ戻る。
【0071】
図11の説明に戻る。1つの層の立体造形データの作成(S31〜S33)が完了すると、全ての層の立体造形データが完成したか否かが判断される(S34)。完成していなければ(S34:NO)、積層順Nの値がインクリメント(「1」が加算)されて(S35)、処理はS31へ戻り、1つ上の層の立体造形データが作成される。全ての層の立体造形データが完成すると(S34:YES)、作成された立体造形データが立体造形装置1に出力されて(S37)、処理は終了する。
【0072】
[評価試験1]
平坦化方向に垂直な仮想平面102(図12参照)に対する立体造形物105の投影面積106と、引き摺り量および膨張量との関係を確認するために、評価試験1を行った。評価試験1で使用した立体造形粉体は、25vol%のポリビニルアルコール(株式会社クラレ製、製品名「クラレポバール」)と、75vol%の炭酸カルシウム(CaCO)とを含む。ポリビニルアルコールおよび炭酸カルシウムの粒子径は、共に25〜53μmである。造形液の塗布密度は、3.01mg/cmとした。粉体層の厚みは全て100μmとし、30層の造形層を積層させた。平坦化速度は90mm/s、平坦化ローラ16の回転速度は5rpsとした。
【0073】
評価試験1では、同一の形状の立体造形物105を、異なる配置角度で2つ造形し、引き摺り量および膨張量の和を算出して比較した。造形した立体造形物105は、縦40mm、横10mm、高さ3mmの板状部材である。一方の立体造形物105は、長手方向が平坦化方向に対して垂直になるように配置したため、仮想平面102に対する投影面積106は120mmとなった。他方の立体造形物105は、長手方向が平坦化方向と平行になるように配置したため、投影面積106は30mmとなった。造形された各々の立体造形物105における引き摺り量および膨張量の和を、以下の表1に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示すように、仮想平面102に対する投影面積106が120mmである場合には、引き摺り量と膨張量の和は1.7mmとなった。これに対し、投影面積106が30mmである場合には、引き摺り量と膨張量の和は0.6mmとなった。以上のように、仮想平面102に対する投影面積106を小さくすることで引き摺り量と膨張量が減少することが、評価試験1によって確認できた。
【0076】
[評価試験2]
粉体層の厚みと、1つ下の粉体層に含まれる造形層に生じる引き摺りおよび膨張との関係を確認するために、評価試験2を行った。評価試験2で使用した立体造形粉体は、前述した評価試験1で使用した立体造形粉体と同じである。造形液の塗布密度は、3.01mg/cmとした。平坦化速度は50mm/s、平坦化ローラ16の回転速度は5rpsとした。造形した立体造形物105の形状は円柱状であり、水平方向の断面(円形)の直径が40mm、高さが3mmである。
【0077】
評価試験2では、同一の形状の立体造形物105を、層(粉体層および造形層)の厚みと、積層する造形層の数とを変えて2つ造形し、引き摺り量および膨張量の和を算出して比較した。一方の立体造形物105は、各層の厚みを100μmとし、30層の造形層を積層させることで造形した。他方の立体造形物105は、各層の厚みを200μmとし、15層の造形層を積層させることで造形した。造形された各々の立体造形物105における引き摺り量および膨張量の和を、以下の表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
表2に示すように、層の厚みを100μmとした場合には、引き摺り量と膨張量の和は1.7mmとなった。これに対し、層の厚みを200μmとした場合には、引き摺り量と膨張量の和は0mmとなった。以上のように、層の厚みを厚くすることで引き摺り量と膨張量が減少することが、評価試験2によって確認できた。
【0080】
[評価試験3]
平坦化速度と引き摺り・膨張の関係、および、平坦化ローラ16の回転速度と引き摺り・膨張の関係を確認するために、評価試験3を行った。評価試験3で使用した立体造形粉体は、前述した評価試験1および評価試験2で使用した立体造形粉体と同じである。造形液の塗布密度は、3.01mg/cmとした。粉体層の厚みは全て100μmとし、30層の造形層を積層させた。造形した立体造形物105の形状は円柱状であり、水平方向の断面(円形)の直径が40mm、高さが3mmである。
【0081】
評価試験3では、同一の形状の立体造形物105を、平坦化ローラ16の相対的な移動速度(平坦化速度)および回転速度の少なくとも一方を変えて5つ造形し、引き摺り量および膨張量の和を算出して比較した。具体的には、(平坦化速度、回転速度)の条件を、(70mm/s、1rps)、(70mm/s、5rps)、(70mm/s、8rps)、(50mm/s、5rps)、(90mm/s、5rps)として、5つの立体造形物105を造形した。造形された各々の立体造形物105における引き摺り量および膨張量の和を、以下の表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
表3に示すように、回転速度が5rpsの場合に着目すると、引き摺り量および膨張量の和は、平坦化速度が50mm/sの場合に1.7mm、平坦化速度が70mm/sの場合に6.7mm、平坦化速度が90mm/sの場合に24.3mmとなった。つまり、平坦化速度を遅くする程、引き摺り量および膨張量が減少することが確認できた。また、平坦化速度が70mm/sの場合に着目すると、引き摺り量および膨張量の和は、回転速度が1rpsの場合に30mm以上、5rpsの場合に6.7mm、8rpsの場合に4.5mmとなった。つまり、平坦化ローラ16の回転速度を速くする程、引き摺り量および膨張量が減少することが確認できた。
【0084】
以上説明したように、本実施形態に係るPC100によると、立体造形装置1は、立体造形粉体を平坦化する際に生じる引き摺りおよび膨張の少なくともいずれか(以下、単に「引き摺り・膨張」という。)が予め考慮された立体造形データに従って、立体造形物105を造形することができる。よって、立体造形装置1は、引き摺り・膨張の影響を抑制し、正確な形状の立体造形物105を造形することができる。
【0085】
PC100は、立体データに基づく造形層の造形位置から、平坦化方向と逆の方向にずらした位置を、造形液を吐出させる吐出位置に設定する。この場合、造形が完了した造形層が平坦化ローラ16によって引き摺られることで、造形層の位置が正確な位置まで移動する。従って、立体造形装置1は、平坦化によって引き摺りが生じる場合でも、正確な形状の立体造形物105を造形することができる。
【0086】
PC100は、立体データに基づく造形層の造形範囲を、平坦化方向と逆の方向に圧縮した範囲に、造形液を吐出させる吐出範囲を設定する。この場合、造形が完了した造形層が平坦化ローラ16によって引き延ばされると、造形層の位置および形状(つまり、造形層が造形される範囲)は、正確な位置および形状となる。従って、立体造形装置1は、平坦化によって造形層に膨張が生じる場合でも、正確な形状の立体造形物105を造形することができる。
【0087】
PC100は、造形層が造形される範囲が、平坦化方向に延びる軸O(図13参照)に対して対称に近づくように、立体造形物105のステージ11上への配置角度を設定する。引き摺り・膨張は平坦化方向に生じる。従って、造形層が造形される範囲の平面視の形状を、平坦化方向に延びる軸Oに対して対称に近づけることで、引き摺り・膨張の影響は対称に現れることになる。よって、予測した程度よりも大きい引き摺り・膨張が仮に生じた場合でも、立体造形物105の見栄えが悪くなることを抑制することができる。
【0088】
PC100は、造形層が造形される範囲を、平坦化方向に垂直な仮想平面102に投影した場合の投影面積106(図12参照)が最小となるように、造形する立体造形物105のステージ11上への配置角度を設定する。この場合、造形層の引き摺り量および膨張量が最小になる(評価試験1参照)。よって、立体造形装置1は、より正確に立体造形物105を造形することができる。
【0089】
PC100は、引き摺り・膨張を予測するための情報に基づいて、立体造形装置1による平坦化の動作を制御するための平坦化データを作成する。よって、立体造形装置1は、予測される造形層の引き摺り・膨張に応じた最適な条件で平坦化を行うことができる。
【0090】
詳細にはPC100は、造形が完了した造形層上を通過する間の平坦化ローラ16の相対的な移動速度を、造形が完了した造形層以外の範囲の層上を通過する間の移動速度よりも遅い速度に設定する。その結果、平坦化による引き摺り・膨張が抑制され、且つ、造形時間を短縮することができる。また、PC100は、造形が完了した造形層上を通過する間の平坦化ローラ16の回転速度を、造形が完了した造形層以外の範囲の層上を通過する間の回転速度よりも速い速度に設定する。その結果、平坦化による引き摺り・膨張が抑制され、且つ、平坦化ローラ16が無駄に高速回転されることが防止される(評価試験3参照)。
【0091】
PC100は、層(粉体層および造形層)の積層順Nに従って、ステージ昇降モータ42を制御するための厚みデータを作成する。造形層の引き摺り量および膨張量は、造形層が造形される粉体層の積層順Nによって異なる。PC100は、積層順Nに応じて粉体層の厚みを制御することで、積層順Nに応じた適切な動作を立体造形装置1に実行させて、引き摺り・膨張の影響を抑制することができる。
【0092】
詳細には、PC100は、最下層から2番目の粉体層の厚みを最も厚くする厚みデータを作成する。造形層が積層される程、造形層の重量の合計値が大きくなるため、引き摺り量および膨張量は少なくなる。従って、最下層に造形された造形層が、引き摺り・膨張の影響を最も受けやすい造形層となる。さらに、粉体層の厚みが厚い程、直下の粉体層中に存在する造形層の引き摺り量および膨張量は減少する(評価試験2参照)。従って、最下層から2番目の粉体層の厚みを最も厚くすることで、引き摺り・膨張の影響を最も受けやすい最下層の造形層が受ける影響を効率よく低下させることができる。また、PC100は、最下層からの積層順Nが閾値以下である粉体層の厚みのみを基準値よりも厚くする。粉体層の厚みが厚い程、直下の粉体層中に存在する造形層の引き摺り量および膨張量は減少する。一方で、粉体層の厚みが薄い方が、精密な立体造形物105を造形することができる。造形層が積層される程、引き摺り量および膨張量は少なくなる。PC100は、積層順Nが閾値以下の粉体層の厚みのみを厚くすることで、積層順Nが大きい粉体層において造形精度が低下することを防止しつつ、引き摺り・膨張の影響を低下させることができる。また、全ての粉体層の厚みを調整する場合に比べて、立体造形データの作成時間も短縮できる。
【0093】
上記実施形態において、PC100が本発明の「立体造形データ作成装置」に相当する。平坦化ローラ16が本発明の「平坦化手段」に相当する。ヘッド20が「吐出手段」に相当する。ステージ昇降モータ42が「昇降手段」に相当する。図11のS22、S23、S28、S35、図16のS51、図18のS65で、引き摺り・膨張の予測に用いる情報(予測情報)を取得するCPU80が、本発明の「予測情報取得手段」として機能する。図11のS31〜S33で立体造形データを作成するCPU80が「立体造形データ作成手段」として機能する。
【0094】
図16のS53、S55で造形位置をずらして吐出データを作成するCPU80が「第一吐出データ作成手段」として機能する。図16のS54、S55で造形範囲を圧縮して吐出データを作成するCPU80が「第二吐出データ作成手段」として機能する。図11のS27で軸Oに対して対称に近づく配置角度を設定するCPU80が「第一角度設定手段」として機能する。図11のS24で投影面積106が最小となる配置角度を設定するCPU80が「第二角度設定手段」として機能する。図18に示す平坦化データ作成処理を実行するCPU80が「平坦化データ作成手段」として機能する。図14に示す厚みデータ作成処理を実行するCPU80が「厚みデータ作成手段」として機能する。積層順Nの値が「積層順情報」に相当する。
【0095】
図11のS22、S23、S28、S35、図16のS51、図18のS65で、引き摺り・膨張の予測に用いる情報(予測情報)を取得する処理が、本発明の「予測情報取得ステップ」に相当する。図11のS31〜S33で立体造形データを作成する処理が「立体造形データ作成ステップ」に相当する。
【0096】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、様々な変形が可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施形態のPC100は、平坦化データを作成する場合、既に形成された造形層上を通過するか否かに応じて、平坦化ローラ16の相対的な移動速度(平坦化速度)を、高速度および低速度のいずれかに設定する。しかし、平坦化速度の設定方法は変更できる。例えば、積層順Nの値が大きくなる程、造形層上の平坦化速度が速くなるように、平坦化速度を設定してもよい。この場合でも、上記実施形態と同様に、引き摺り・膨張の影響を低下させつつ、造形時間を短縮することができる。なお、この場合にCPU80が参照する予測情報には、積層順Nの情報が含まれることになる。また、平坦化ローラ16の回転速度についても同様に、積層順Nが大きくなる程回転速度が小さくなるように設定してもよい。
【0097】
上記実施形態のPC100は、厚みデータ作成処理(図14参照)、吐出データ作成処理(図16参照)、および平坦化データ作成処理(図18参照)の3つの処理によって、引き摺り・膨張の影響を低下させる。しかし、PC100は、上記の3つの処理のうち1つ、または2つのみを実行することで、引き摺り・膨張の影響を低下させることも可能である。また、図16に示す吐出データ作成処理では、PC100は、造形位置をずらす処理(S53)、および造形範囲を圧縮する処理(S54)のいずれか一方のみを行ってもよい。つまり、引き摺りおよび膨張のいずれか一方のみの影響を低下させても、立体造形物105の造形精度を向上させることができる。また、図18に示す平坦化データ作成処理では、平坦化ローラ16の移動速度を設定する処理(S66、S67)、および回転速度を設定する処理(S68、S69)のいずれか一方のみを行ってもよい。
【0098】
上記実施形態のPC100は、立体造形物105の配置角度を設定する場合、図11に示すように、仮想平面102に対する投影面積106に基づいて配置角度を設定する(S24)。S24の処理によって複数の配置角度が設定された場合に限り(S26:YES)、軸Oに対する対称性に基づいて、S24で設定された配置角度のうちの1つを採用する(S27)。しかし、PC100は、軸Oに対する対称性に基づく配置角度の設定(S27)を先に行い、複数の配置角度が設定された場合に、投影面積106に基づいて配置角度の1つを採用してもよい(S24)。また、投影面積106に基づく配置角度の設定(S24)、および、軸Oに対する対称性に基づく配置角度の設定(S27)のいずれか一方のみを実行してもよいことは言うまでもない。
【0099】
上記実施形態のPC100は、積層順Nが閾値より大きい層については、引き摺り・膨張の影響が無視できると予測し、造形位置、造形範囲等を補正する処理を実行しない。よって、無駄な処理を行うことを防止し、立体造形データを効率よく作成することができる。しかし、PC100は、積層順Nに関わらず、全ての層の造形位置、造形範囲等を補正してもよい。
【0100】
上記実施形態のPC100は、予め行われた実験結果に基づいて作成された厚み設定テーブル(図15参照)および移動量・圧縮量設定テーブル(図17参照)を参照することで、厚みデータおよび吐出データを作成する。しかし、PC100は、厚み、移動量、および圧縮量を設定するためのパラメータを予め記憶していない場合でも、本発明を実現できる。例えば、PC100は、造形された立体造形物105をカメラで撮影し、撮影した画像に対して画像処理を行うことで、引き摺り量・膨張量を算出する。算出した引き摺り量・膨張量に基づいて、厚み、移動量、および圧縮量を設定するためのパラメータを適宜作成し、立体造形データ作成処理(図11参照)において使用してもよい。この場合、PC100は、立体造形装置1の動作条件に応じた適切な立体造形データを作成することができる。
【0101】
上記実施形態では、PC100が立体データに基づいて立体造形データを作成し、作成した立体造形データを立体造形装置1に出力する。しかし、立体造形装置1は、図11に示す立体造形データ作成処理を自ら実行してもよい。この場合、立体造形装置1が本発明の「立体造形データ作成装置」に相当する。また、図11に示す立体造形データ作成処理は、メーカが保有するサーバ等で実行してもよいことは言うまでもない。この場合、サーバが本発明の「立体造形データ作成装置」に相当する。
【0102】
上記実施形態の立体造形装置1では、ステージ11のステージ面に対する、平坦化ローラ16の相対的な移動方向は、ステージ面に対して平行である。しかし、平坦化ローラ16をステージ面に対して平行とせずに、粉体層の厚みを変化させる場合でも、本発明は実現できる。つまり、「平行」には、略平行も含まれる。
【0103】
上記実施形態の立体造形装置1は、平坦化ローラ16を回転させながら立体造形粉体を平坦化する。しかし、平坦化ローラ16の代わりに、スキージ棒、平板等を用いて平坦化を行う場合にも、本発明は適用できる。また、立体造形装置1は、造形台6の位置を固定した状態で、平坦化ローラ16を水平に移動させることで、平坦化を行ってもよい。つまり、平坦化手段はステージ11に対して相対的に移動すればよい。ヘッド20による吐出動作も同様であり、立体造形装置1は、ヘッド20をステージ11に対して相対的に移動させればよい。また、立体造形装置1は、ステージ11を昇降させるのではなく、平坦化ローラ16を昇降させることで、粉体層の厚みを調整してもよい。
【符号の説明】
【0104】
1 立体造形装置
11 ステージ
16 平坦化ローラ
20 ヘッド
30 CPU
41 造形台前後動モータ
42 ステージ昇降モータ
43 ローラ回転モータ
45 ヘッド移動モータ
80 CPU
83 HDD
100 PC
102 仮想平面
105 立体造形物
106 投影面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形液と混合することで固化する立体造形粉体が載置されるステージと、
前記ステージに対し、前記ステージのステージ面と平行な方向に相対移動することで、前記ステージに載置された立体造形粉体の表面を平坦化して粉体層を形成する平坦化手段と、
前記平坦化手段によって形成された前記粉体層に前記造形液を吐出することで、立体造形物の層である造形層を造形する吐出手段と、
前記ステージ面と前記平坦化手段との間の、前記ステージ面に垂直な方向の距離を変化させる昇降手段と
を備えた立体造形装置を制御するための立体造形データを、造形する前記立体造形物を示す立体データから作成する立体造形データ作成装置であって、
造形が完了している前記造形層が、前記平坦化手段によって前記造形層の上面に前記粉体層が形成される過程で引き摺られて位置がずれる現象である引き摺り、および、引き延ばされて膨張する現象である膨張の少なくともいずれかの予測に用いる予測情報を取得する予測情報取得手段と、
前記予測情報取得手段によって取得された予測情報に基づいて前記立体造形データを作成する立体造形データ作成手段と
を備えたことを特徴とする立体造形データ作成装置。
【請求項2】
前記予測情報取得手段は、前記ステージに対する前記平坦化手段の移動方向の情報、および、前記立体データに基づく前記造形層の位置の情報を少なくとも取得し、
前記立体造形データ作成手段は、
前記立体データに基づく前記造形層の位置から前記平坦化手段の移動方向と逆の方向にずらした位置を、前記吐出手段に前記造形液を吐出させる吐出位置に設定することで、前記吐出手段を制御する吐出データを作成する第一吐出データ作成手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の立体造形データ作成装置。
【請求項3】
前記予測情報取得手段は、前記ステージに対する前記平坦化手段の移動方向の情報、および、前記造形層が造形される範囲の情報を少なくとも取得し、
前記立体造形データ作成手段は、
前記造形層が造形される範囲を前記平坦化手段の移動方向と逆の方向に圧縮した範囲に、前記吐出手段に前記造形液を吐出させる吐出範囲を設定することで、前記吐出手段を制御する吐出データを作成する第二吐出データ作成手段を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の立体造形データ作成装置。
【請求項4】
前記予測情報取得手段は、前記ステージに対する前記平坦化手段の移動方向の情報、および、前記造形層が造形される範囲の情報を少なくとも取得し、
前記立体造形データ作成手段は、
前記造形層が造形される範囲が、前記平坦化手段の移動方向に延びる軸に対して対称に近づくように、造形する前記立体造形物の前記ステージ上への配置角度を設定する第一角度設定手段を備えたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の立体造形データ作成装置。
【請求項5】
前記予測情報取得手段は、前記ステージに対する前記平坦化手段の移動方向の情報、および、前記造形層が造形される範囲の情報を少なくとも取得し、
前記立体造形データ作成手段は、
前記造形層が造形される範囲を、前記平坦化手段の移動方向に垂直な平面に投影した場合の投影面積が最小となるように、造形する前記立体造形物の前記ステージ上への配置角度を設定する第二角度設定手段を備えたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の立体造形データ作成装置。
【請求項6】
前記立体造形データ作成手段は、
前記予測情報取得手段によって取得された前記予測情報に従って、前記平坦化手段を制御するための平坦化データを作成する平坦化データ作成手段を備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の立体造形データ作成装置。
【請求項7】
前記予測情報取得手段は、前記造形層が造形される範囲の情報を少なくとも取得し、
前記平坦化データ作成手段は、
造形が完了した前記造形層上を通過する間の前記平坦化手段の移動速度を、前記造形層上を通過しない間の移動速度よりも遅い速度に設定することを特徴とする請求項6に記載の立体造形データ作成装置。
【請求項8】
前記予測情報取得手段は、前記造形層が造形される範囲の情報を少なくとも取得し、
前記平坦化手段は回転可能なローラであり、
前記平坦化データ作成手段は、
造形が完了した前記造形層上を通過する間の前記ローラの回転速度を、前記造形層上を通過しない間の回転速度よりも速い速度に設定することを特徴とする請求項6または7に記載の立体造形データ作成装置。
【請求項9】
前記昇降手段は、前記ステージ面と前記平坦化手段との間の、前記ステージ面に垂直な方向の距離を調整することで、前記平坦化手段によって形成される前記粉体層の厚みを調整し、
前記予測情報取得手段は、積層される複数の前記粉体層のうち、最下層からの積層順を示す情報である積層順情報を少なくとも取得し、
前記立体造形データ作成手段は、
前記予測情報取得手段によって取得された前記積層順情報に従って、前記昇降手段を制御するための厚みデータを作成する厚みデータ作成手段を備えたことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の立体造形データ作成装置。
【請求項10】
前記厚みデータ作成手段は、前記複数の粉体層のうち、最下層から2番目の粉体層の厚みを最も厚くする前記厚みデータを作成することを特徴とする請求項9に記載の立体造形データ作成装置。
【請求項11】
前記厚みデータ作成手段は、前記積層順情報が示す最下層からの積層順が閾値以下である粉体層の厚みのみを基準値よりも厚くすることを特徴とする請求項9または10に記載の立体造形データ作成装置。
【請求項12】
造形液と混合することで固化する立体造形粉体が載置されるステージと、
前記ステージに対し、前記ステージのステージ面と平行な方向に相対移動することで、前記ステージに載置された立体造形粉体の表面を平坦化して粉体層を形成する平坦化手段と、
前記平坦化手段によって形成された前記粉体層に前記造形液を吐出することで、立体造形物の層である造形層を造形する吐出手段と、
前記ステージ面と前記平坦化手段との間の、前記ステージ面に垂直な方向の距離を変化させる昇降手段と
を備えた立体造形装置を制御するための立体造形データを、造形する前記立体造形物を示す立体データから作成するための立体造形データ作成プログラムであって、
造形が完了している前記造形層が、前記平坦化手段によって前記造形層の上面に前記粉体層が形成される過程で引き摺られて位置がずれる現象である引き摺り、および、引き延ばされて膨張する現象である膨張の少なくともいずれかの予測に用いる予測情報を取得する予測情報取得ステップと、
前記予測情報取得ステップにおいて取得された予測情報に基づいて前記立体造形データを作成する立体造形データ作成ステップと
を立体造形データ作成装置のコントローラに実行させるための指示を含む立体造形データ作成プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2013−75391(P2013−75391A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215704(P2011−215704)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】