説明

立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物、その製造方法、およびこれを含有する難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物

【課題】立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物、その製造方法、およびこれを含有する難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物の提供。
【解決手段】下記化学式(1)で表される立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物、その製造方法、およびこれを含有する難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。


前記化学式(1)中、RはC〜Cの直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基またはC〜C14のアリール基であり、RはC〜Cの直鎖アルキル基、またはC〜Cの分岐鎖アルキル基であり、nは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物、その製造方法、およびこれを含有する難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ポリカーボネート/スチレン含有共重合体のブレンドは、高いノッチ衝撃強度を保持しながら加工性を向上させた樹脂混合物である。そこで、通常、コンピュータハウジングまたは事務用機器などのように多量の熱を発散する大型の射出成形品に適用される。したがって、難燃性、耐熱性および高い機械的強度を保持することが必要とされる。
【0003】
このような樹脂組成物に難燃性を付与するために、従来はハロゲン系難燃剤とアンチモン化合物とが用いられてきた。しかしながら、ハロゲン系難燃剤を用いる場合、燃焼時に発生するガスが人体に有害性があるという問題のため、近年ハロゲン系難燃剤を含有しない樹脂に対する需要が急激に高まっている。
【0004】
ハロゲン系難燃剤を用いることなく、難燃性を付与するための方法として、通常リン酸エステル系難燃剤を用いる方法が用いられている。特許文献1は、非ハロゲンである芳香族ポリカーボネート樹脂、非ハロゲンであるスチレン−アクリロニトリル共重合体、非ハロゲンであるリン系化合物、テトラフルオロエチレン重合体、および少量のABSグラフト共重合体からなる熱可塑性樹脂組成物を開示している。また、特許文献2は、芳香族ポリカーボネート樹脂、ABSグラフト共重合体、スチレン系共重合体、リン酸エステルおよびテトラフルオロエチレン重合体からなる難燃性樹脂組成物を開示している。
【特許文献1】米国特許第4,692,488号公報
【特許文献2】米国特許第5,061,745号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の従来技術は、難燃性を十分に確保するために多量のリン酸エステル系難燃剤を添加しなければならないという問題がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、使用量が少量であっても熱可塑性樹脂の難燃性を向上させる難燃剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、新たな立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物を開発し、これを熱可塑性樹脂、特にポリカーボネート樹脂に対する難燃剤として使用することにより、優れた難燃性を有するのみならず環境負荷を低減させる特性を有する樹脂組成物を見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記化学式(1)で表される立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物である。
【0009】
【化1】

【0010】
前記化学式1中、Rは直鎖もしくは分枝鎖のC〜Cのアルキル基またはC〜C14のアリール基であり、Rは、それぞれ独立して、C〜Cの直鎖アルキル基またはC〜Cの分岐鎖アルキル基であり、nは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。
【0011】
また、本発明は、前記立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物の製造方法を提供する。前記製造方法は、立体障害性フェノール化合物とジハロゲンホスホン酸化合物とを反応させる段階を含む。
【0012】
本発明のさらに他の態様では、本発明の立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物、または前記の本発明の製造方法により得られる立体障害性フェノール系ホスホネート化合物を難燃剤として使用する熱可塑性樹脂の難燃性を向上させる方法を提供する。
【0013】
本発明のさらに他の態様では、前記立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物を含有する難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱可塑性樹脂に少量使用しても十分な難燃性効果を得られる、フェニル基含有ホスホネート化合物が提供される。また、本発明のフェニル基含有ホスホネート化合物を使用した、難燃性の高いポリカーボネート樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
(立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物)
本発明の立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物は、下記化学式(1)で表される。
【0017】
【化2】

【0018】
前記化学式(1)中、Rは直鎖もしくは分岐鎖のC〜〜Cのアルキル基またはC〜C14のアリール基であり、Rは、それぞれ独立して、C〜Cの直鎖アルキル基またはC〜Cの分岐鎖アルキル基であり、nは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態において、前記化学式(1)中のRはC〜C14のアリール基であり、RはC〜Cの直鎖アルキル基であり、nは2または3である。本発明の他の好ましい実施の形態において、前記化学式(1)中のRはC〜C14のアリール基であり、RはC〜Cの分岐鎖アルキル基であり、nは1〜3の整数である。本発明の更に他の好ましい実施の形態において、前記化学式(1)中のRはC〜C14のアリール基であり、RはC〜Cの直鎖アルキル基であり、nは2〜3の整数である。
【0020】
〜Cの直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−アミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、3−メチルペンタン−2−イル基、3−メチルペンタン−3−イル基、4−メチルペンチル基、4−メチルペンタン−2−イル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブタン−2−イル基、が挙げられる。
【0021】
〜C14のアリール基の例としては、フェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、テトラヒドロナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、オクタレニル基、as−インダセニル基、s−インダセニル基、ビフェニレニル基、アセナフチレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナレニル基、アントラセニル基が挙げられる。
【0022】
〜Cの直鎖アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−へキシル基が挙げられる。
【0023】
〜Cの分岐鎖アルキル基の例としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、iso−アミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、3−メチルペンタン−2−イル基、3−メチルペンタン−3−イル基、4−メチルペンチル基、4−メチルペンタン−2−イル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブタン−2−イル基が挙げられる。
【0024】
(立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物の製造方法)
本発明の他の態様では、本発明の立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物の製造方法を提供する。前記製造方法は、立体障害性フェノール化合物とジハロゲンホスホン酸化合物とを反応させる段階を含む。好ましくは、前記立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物は、下記化学式(2)で表される立体障害性フェノール化合物および下記化学式(3)で表されるジハロゲンホスホン酸化合物を、塩基の存在下で、12〜48時間還流反応させて得られる。好ましい具体例では、ピリジンを単独またはトルエンおよびトリエチルアミンと併用して用いることができ、これに限定されない。
【0025】
【化3】

【0026】
前記化学式(2)中、Rは、それぞれ独立して、C〜Cの直鎖アルキル基または、C〜Cの分岐鎖アルキル基であり、nは1〜3である。C〜Cの直鎖アルキル基およびC〜Cの分岐鎖アルキル基の具体例は、上記化学式(1)の説明中で述べたとおりである。前記化学式(2)で表される化合物の具体例としては、4−t−ブチルフェノール、2,4,6−トリメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノールなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのフェノール化合物は、通常市販されているものを使用することができる。
【0027】
【化4】

【0028】
前記化学式(3)中、Rは直鎖もしくは分岐鎖のC〜Cのアルキル基またはC〜C14のアリール基であり、Xはそれぞれ独立してClまたはBrである。C〜Cのアルキル基またはC〜C14のアリール基の具体例は、上記化学式(1)の説明中で述べたとおりである。前記化学式(3)で表される化合物の具体例としては、フェニルジクロロホスホネート、フェニルジブロモホスホネートなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、フェニルジクロロホスホネートを使用する。これらのハロゲン化ホスホネート化合物は、通常市販されているものを使用することができる。
【0029】
この反応の際、塩基は、溶媒を兼ねて単独で使用してもよいし、他の有機溶媒と併用しても良い。塩基の具体例としては、ピリジン、トリエチルアミンなどが挙げられる。塩基と共に用いられる他の溶媒としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。好ましくは、ピリジンを過量で溶媒として用いて、pH14に調整する。この場合、pHは厳密に14である必要はなく、反応が進行しさえすれば14近い値でよい。好ましい実施の形態としては、ピリジンを塩基と溶媒とを兼ねて単独で使用する形態か、またはピリジンとトルエンおよびトリエチルアミンとを併用して用いる形態を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0030】
前記立体障害フェノール化合物と前記ジハロゲンホスホン酸化合物との当量比は、立体障害性フェノール化合物2当量に対して、ジハロゲンホスホン酸化合物を1当量使用することが好ましい。反応条件は、溶媒および塩基の存在下において、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜160℃の反応温度で、好ましくは12〜48時間、より好ましくは18〜36時間還流反応させる。その後、ロータリーエバポレーターなどを用いて塩基および溶媒を減圧除去し、水を添加して攪拌すると、前記化学式(1)で表される化合物が水に不溶の固体として得られる。得られた固体は、減圧乾燥機などを用いて乾燥し、本発明の立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物を得ることができる。
【0031】
(立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物を含有する熱可塑性樹脂組成物)
本発明のさらに他の態様では、前記立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物を難燃剤として用いて、熱可塑性樹脂の難燃性を向上させる方法を提供する。前記立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物を熱可塑性樹脂の難燃剤として使用する場合、少量であっても熱可塑性樹脂の難燃性を大きく向上させることができる。一実施形態において、本発明の熱可塑性樹脂の難燃性を向上させる方法は、熱可塑性樹脂に本発明の立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物を混合して難燃性を改善することができる。本発明の立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物を適用することができる熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。これらのうち、特にポリカーボネートは、難燃性効果が高く機械的強度も強いため用途が広く、有用である。
【0032】
熱可塑性樹脂に対して前記立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物を難燃剤として添加する際には、熱可塑性樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5〜20質量部、より好ましくは1〜17質量部を添加すればよい。0.5質量部を下回ると難燃性向上の効果が十分でない可能性があり、20質量部を超えて加えても、難燃性の効果が向上しない可能性がある。
【0033】
本発明の立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物と熱可塑性樹脂との混合方法は特に限定されず、例えば、ニーダー、ロールミル、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、シュギミキサー、ハイスピードミキサー、ファーマトリックス、ペイントコンディショナー、ボールミル、スチールミル、サンドミル、振動ミル、アトライター、パールミル、コボールミル、バスケットミル、ホモミキサー、ホモジナイザー、ジェットミル、バンバリーミキサーのような回分式混練機、二軸押出機、単軸押出機、ローター型二軸混練機等の混合装置を用いる方法を挙げることができる。これらの混合装置は、1種のみ使ってもよく、または2種以上併用しても良い。
【0034】
本発明のさらに他の態様では、前記立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物を含有する難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物を提供する。具体例において、前記難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂を含有する基本樹脂(A)100質量部と、前記立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物(B)0.5〜20質量部とを含む。前記立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物(B)が0.5質量部未満であれば、難燃効果が低下する虞がある。一方、20質量部以上であれば、機械的強度などの物性が低下するか、または加工性が低下する可能性がある。前記立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物(B)は、基本樹脂(A)100質量部に対して、立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物(B)は、1〜17質量部添加することが好ましく、2.5〜15質量部添加することがより好ましく、4〜13質量部添加することがさらに好ましい。また、他の実施の形態では、基本樹脂(A)100質量部に対して、10〜20質量部添加することが特に好ましい。
【0035】
基本樹脂(A)は、ポリカーボネート樹脂(a1)を含む。前記ポリカーボネート樹脂(a1)は、ヒドロキノン、レゾルシノール、または下記化学式(4)で表されるジフェノール類を、ホスゲン、ハロゲン化ギ酸エステル、または炭酸ジエステルと反応させて得られる芳香族ポリカーボネート樹脂であることが好ましい。
【0036】
【化5】

【0037】
前記化学式(4)中、Aは、単結合、C〜Cのアルキレン基、C〜Cのアルキリデン基、C〜Cのシクロアルキリデン基、−S−、または-SO−である。また、前記化学式(4)中のフェニル基は、任意の位置が塩素原子で置換されていてもよい。
【0038】
〜Cのアルキレン基の例としては、例えば、メチレン基、エチレン基、i−プロピレン基、n−プロピレン基、i−ブチレン基、n−ブチレン基、s−ブチレン基、t−ブチレン基、n−ペンチレン基が挙げられる。
【0039】
〜Cのアルキリデン基の例としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基、イソプロピリデン基、ブチリデン基、イソブチリデン基、ペンチリデン基が挙げられる。
【0040】
〜Cのシクロアルキリデン基の例としては、例えば、シクロペンチリデン基及びシクロヘキシリデン基が挙げられる。
【0041】
前記化学式(4)で表されるジフェノール類の具体例としては、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,4−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス−(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。これらの中でも、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス−(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、または1,1−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンが好ましい。特に好ましくは、工業的に最も多く用いられる芳香族ポリカーボネートに用いられている、ビスフェノールAとも呼ばれる、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパンである。
【0042】
本発明の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物に用いられるポリカーボネート樹脂は、重量平均分子量(Mw)が好ましくは10,000〜200,000であり、より好ましくは15,000〜80,000である。なお、本発明において、前記重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel permeation chromatography,GPC)により測定した値を採用するものとする。
【0043】
本発明の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物に用いられるポリカーボネートとしては、さらに分岐鎖を有するものが好ましく用いられる。好ましくは、前記ジフェノール類の他に、重縮合に用いられる前記ジフェノール類の全モル数に対して0.05〜2モル%の3官能またはそれ以上の多官能化合物、例えば3つまたはそれ以上のフェノール性ヒドロキシ基を有する化合物をさらに添加し、ホスゲン、ハロゲン化ギ酸エステル、または炭酸ジエステルと反応させて製造したポリカーボネートである。
【0044】
本発明の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物に用いられるポリカーボネート(a1)は、ホモポリカーボネート単独で用いても良いし、コポリカーボネート単独で用いても良いし、コポリカーボネートとホモポリカーボネートとのブレンド形態で用いても良い。
【0045】
また、本発明の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物に用いられるポリカーボネート(a1)の一部は、例えば、ジカルボン酸の存在下で重縮合反応させて得られる芳香族ポリエステル−ポリカーボネート樹脂に置き換えてもよい。
【0046】
他の実施形態において、前記基本樹脂(A)は、ポリカーボネート系樹脂(a1)50〜100質量%と、ゴム変性スチレン系樹脂(a2)0〜50質量%(ただし、(a1)と(a2)との含有量の合計は100質量%である)とを含むことが好ましい。前記ゴム変性スチレン系樹脂(a2)が50質量%以下である場合、難燃性および機械的強度のバランスに優れた基本樹脂(A)が得られる。より好ましくは、前記ゴム変性スチレン系樹脂(a2)の含有量10〜40質量%である。
【0047】
前記ゴム変性スチレン系樹脂(a2)は、スチレン系重合体からなるマトリックス(連続相)中にゴム状重合体が粒子状に分散して存在する重合体である。前記ゴム変性スチレン系樹脂(a2)は、ゴム状重合体の存在下にスチレン系単量体および前記スチレン系単量体と共重合可能な単量体を重合して製造することができる。このゴム変性スチレン系樹脂(a2)は、(1)乳化重合、懸濁重合、塊状重合などの重合により製造するグラフト法;(2)スチレン系共重合体樹脂とゴム状重合体とを混合押出して製造するポリマーブレンド法;などの公知の製造方法により製造されうる。(1)の塊状重合の場合、スチレン系共重合体樹脂とゴム状重合体とを別個に製造することなく、一段階の反応工程のみでゴム変性スチレン系樹脂を製造することができる。いずれの場合も、最終的に得られるゴム変性スチレン系樹脂(a2)中のゴム状重合体の含量は、基本樹脂(A)の全質量に対して、5〜30質量%が好ましい。
【0048】
前記ゴム変性スチレン系樹脂としては、例えば、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体樹脂(ABS)、アクリロニトリル−アクリル酸エステル−スチレン共重合体樹脂(AAS)、アクリロニトリル−エチレン・プロピレンゴム−スチレン共重合体樹脂(AES)などが挙げられる。
【0049】
本発明に使用されるゴム変性スチレン系樹脂(a2)は、スチレン系グラフト共重合体樹脂(a21)を単独で用いても良いし、スチレン系グラフト共重合体樹脂(a21)と芳香族ビニル系共重合体樹脂(a22)とを組み合わせて使用してもよい。組み合わせる場合には、それぞれの相溶性を考慮して配合することが好ましい。
【0050】
配合比としては、前記ゴム変性スチレン系樹脂(a2)は、スチレン系グラフト共重合体樹脂(a21)の含有量が20〜100質量%であり、かつ芳香族ビニル系共重合体樹脂(a22)の含有量が0〜80質量%である(ただし、(a21)と(a22)との含有量の合計は100質量%である)ことが好ましい。より好ましくは、スチレン系グラフト共重合体樹脂(a21)の含有量が20〜50質量%であり、かつ芳香族ビニル系共重合体樹脂(a22)の含有量が50〜80質量%(ただし、(a21)と(a22)との含有量の合計は100質量%である)である。
【0051】
前記スチレン系グラフト共重合体樹脂(a21)は、ゴム状重合体(a211)4〜65質量%と、スチレン系単量体(a212)30〜95質量%と、前記スチレン系単量体(a212)と共重合可能な単量体(a213)1〜20質量%と(ただし、(a211)と(a212)と(a213)との含有量の合計は100質量%である)、必要に応じて前記ゴム状重合体(a211)、前記スチレン系単量体(a212)、および前記スチレン系単量体(a212)と共重合可能な単量体(a213)の合計100質量%に対して加工性および耐熱性を付与する単量体0〜15質量%と、を含む混合物を、グラフト共重合させて得られるものが好ましい。
【0052】
より好ましくは、前記スチレン系グラフト共重合体樹脂(a21)は、ゴム状重合体(a211)10〜60質量%と、スチレン系単量体(a212)35〜80質量%と、前記スチレン系単量体(a212)と共重合可能な単量体(a213)5〜20質量%と(ただし、(a211)と(a212)と(a213)との含有量の合計は100質量%である)、必要に応じて前記ゴム状重合体(a211)、前記スチレン系単量体(a212)、および前記スチレン系単量体(a212)と共重合可能な単量体(a213)の合計100質量%に対して加工性および耐熱性を付与する単量体0〜15質量%とを、グラフト共重合させて得られるものである。
【0053】
前記スチレン系グラフト共重合体樹脂(a21)に用いられるゴム状重合体(a211)としては、例えば、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴムなどのジエン系ゴム、該ジエン系ゴムを水素添加した水素添加ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、ポリアクリル酸ブチルなどのアクリル系ゴム、およびエチレン−プロピレン−ジエンの三元共重合体(EPDM)などが挙げられる。これらは単独でもまたは二種以上混合しても使用することができる。これらの中でも、ジエン系ゴムが好ましく、特に、ブタジエンゴムが好ましい。スチレン系グラフト共重合体樹脂(a21)の衝撃強度および外観を考慮して、前記ゴム状重合体(a211)の粒子の平均粒径は0.1〜4μmの範囲であることが好ましい。
【0054】
前記スチレン系単量体(a212)の例としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレンなどを用いることができ、これらは単独でもまたは二種以上混合しても用いることができる。これらの中で、特にスチレンが好ましい。
【0055】
前記スチレン系単量体(a212)と共重合可能な単量体(a213)としては、アクリロニトリル、エタクリロニトリル、またはメタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル系化合物などが挙げられ、これらは単独でもまたは二種以上混合しても使用することができる。
【0056】
前記スチレン系グラフト共重合体樹脂(a21)の製造時に、加工性および耐熱性などの特性を付与するために、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、およびN−置換マレイミドからなる群より選択される少なくとも1種の単量体(a214)をさらに加えてグラフト重合させてもよい。
【0057】
前記芳香族ビニル系共重合体樹脂(a22)は、前記スチレン系グラフト共重合体樹脂(a21)の成分の中で、ゴム状重合体(a211)を除いた単量体を含む。各単量体の割合は相溶性を考慮して選択することが好ましく、芳香族ビニル系単量体(a221)60〜90質量%と、前記芳香族ビニル系単量体(a221)と共重合可能な単量体(a222)10〜40質量%と(ただし、(a221)と(a222)との含有量の合計は100質量%である)、必要に応じて前記芳香族ビニル系単量体(a221)と、前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体(a222)との合計100質量%に対して加工性および耐熱性を加える単量体(a223)0〜30質量%と、を含む混合物を、共重合させて得られるものが好ましい。
【0058】
より好ましくは、前記芳香族ビニル系共重合体樹脂(a22)は、芳香族ビニル系単量体(a221)65〜85質量%と、前記芳香族ビニル系単量体(a221)と共重合可能な単量体(a222)15〜35質量%と(ただし、(a221)と(a222)との含有量の合計は100質量%である)、前記芳香族ビニル系単量体(a221)と前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体(a222)との合計100質量%に対して、加工性および耐熱性を加える単量体(a223)0〜25質量%とを共重合させて得られるものである。
【0059】
前記芳香族ビニル系単量体(a221)の例としては、スチレン、α−メチルスチレン、β−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、ジブロモスチレン、ビニルナフタレンなどが挙げられ、これらは単独でもまたは二種以上混合しても使用することができる。これらの中で、特にスチレンが好ましい。
【0060】
前記芳香族ビニル系共重合体樹脂(a22)には、前記芳香族ビニル系単量体(a221)と共重合可能な単量体(a222)を一種以上導入することができる。前記共重合可能な単量体(a222)の例としては、アクリロニトリル、エタクリロニトリル、メタクリロニトリルのような不飽和ニトリル系化合物が好ましく、これらは単独でもまたは二種以上混合しても使用することができる。
【0061】
前記芳香族ビニル系共重合体樹脂(a22)には、加工性および耐熱性などの特性を付与するために、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸、およびN−置換マレイミドからなる群より選択される少なくとも1種の単量体(a223)をさらに加えて共重合させてもよい。
【0062】
本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造方法も特に限定されず、例えば基本樹脂(A)と、立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物(B)とを、ニーダー、ロールミル、スーパーミキサー、ヘンシェルミキサー、シュギミキサー、ハイスピードミキサー、ファーマトリックス、ペイントコンディショナー、ボールミル、スチールミル、サンドミル、振動ミル、アトライター、パールミル、コボールミル、バスケットミル、ホモミキサー、ホモジナイザー、ジェットミル、バンバリーミキサーのような回分式混練機、二軸押出機、単軸押出機、ローター型二軸混練機等の混合装置を用いて混合する方法を挙げることができる。これらの混合装置は、1種のみ使ってもよく、または2種以上併用しても良い。基本樹脂(A)が2成分以上を含む場合、あらかじめ基本樹脂(A)の各成分を混合した後、基本樹脂(A)と立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物(B)とを混合しても良いし、基本樹脂(A)の各成分および立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物(B)を一度に混合しても良い。
【0063】
さらに他の実施形態において、本発明の難燃性ポリカーボネート樹脂組成物は、芳香族リン酸エステル化合物をさらに含むことができる。前記芳香族リン酸エステル化合物は、下記化学式(5)で表される構造を有するものを好ましく使用することができる。
【0064】
【化6】

【0065】
前記化学式(5)中、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子、またはC〜Cの直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、XはC〜C10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基で置換されているかもしくは非置換のC〜C20のアリーレン基であり、nは0〜4の整数である。Xとして用いられる基の中でも、レゾルシノール由来の基、ヒドロキノン由来の基、またはビスフェノールA由来の基であることが好ましい。
【0066】
〜Cの直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、が挙げられる。
【0067】
〜C20のアリーレン基の例としては、例えば、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、ペンタレニレン基、インデニレン基、1−ナフチレン基、2−ナフチレン基、テトラヒドロナフチレン基、アズレニレン基、ヘプタレニレン基、オクタレニレン基、as−インダセニレン基、s−インダセニレン基、ビフェニレニレン基、アセナフチレニレン基、アセナフテニレン基、フルレンオレニレン基、フェナレニレン基、アントラセニレン基、メチルアントラセニレン基、9,10−[1,2]ベンゼノアントラセニレン基、フェナントリレン基、1H−トリンデニレン基、フルオランテニレン基、ピレニレン基、アセフェナントリレニレン基、アセアントリレニレン基、トリフェニレニレン基、クリセニレン基、テトラフェニレン基、ナフタセニレン基、プレイアデニレン基、ペリレニレン基、ビスフェノールAに由来する−C−C(CH−C−基などが挙げられる。
【0068】
〜C10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基の例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−アミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、3−メチルペンタン−2−イル基、3−メチルペンタン−3−イル基、4−メチルペンチル基、4−メチルペンタン−2−イル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブタン−2−イル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、1−(n−プロピル)ブチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1,4−ジメチルペンチル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,3,3−トリメチルブチル基、1−エチル−2,2−ジメチルプロピル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキサン−2−イル基、2,4−ジメチルペンタン−3−イル基、1,1−ジメチルペンタン−1−イル基、2,2−ジメチルヘキサン−3−イル基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、2−メチルヘプタン−2−イル基、3−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−4−イル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、1−プロピルペンチル基、2−プロピルペンチル基、1,1−ジメチルヘキシル基、1,4−ジメチルヘキシル基、1,5−ジメチルヘキシル基、1−エチル−1−メチルペンチル基、1−エチル−4−メチルペンチル基、1,1,4−トリメチルペンチル基、2,4,4−トリメチルペンチル基、1−イソプロピル−1,2−ジメチルプロピル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、n−ノニル基、1−メチルオクチル基、6−メチルオクチル基、1−エチルヘプチル基、1−(n−ブチル)ペンチル基、4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチル基、1,5,5−トリメチルヘキシル基、1,1,5−トリメチルヘキシル基、2−メチルオクタン−3−イル基、n−デシル基、1−メチルノニル基、1−エチルオクチル基、1−(n−ブチル)ヘキシル基、1,1−ジメチルオクチル基、3,7−ジメチルオクチル基が挙げられる。
【0069】
前記化学式(5)で表される化合物としては、例えば、nが0である化合物として、トリフェニルホスフェート、トリ(2,6−ジメチル)ホスフェートなどが挙げられる。nが1である化合物として、レゾルシノールビス(ジフェニル)ホスフェート、レゾルシノールビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート、レゾルシノールビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェート、ヒドロキノンビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート、ヒドロキノンビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスフェートなどが挙げられる。これらの芳香族リン酸エステル化合物は、単独でもまたは二種以上の混合物でも使用することができる。
【0070】
前記芳香族リン酸エステル化合物は、基本樹脂(A)100質量部に対して、10質量部以下、好ましくは0.5〜7質量部、より好ましくは1〜5質量部の範囲内で用いられる。
【0071】
前記樹脂組成物は、可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、滴下防止剤、相溶化剤、光安定剤、顔料、染料、無機添加剤などの添加剤をさらに含むことができる。これらの添加剤は、単独でもまたは二種以上混合しても用いることができる。これらを、樹脂組成物全質量に対して好ましくは10〜30質量%の範囲内で用いることができる。前記無機添加剤の例としては、例えば、石綿、ガラス繊維、タルク、セラミック、および金属の硫酸塩などが挙げられる。
【0072】
本発明のさらに他の態様では、前記ポリカーボネート系樹脂組成物を成形した成形品を提供する。成形方法は、押出成形、射出成形、真空成形、ブロー成形、鋳造成形などが可能であるが、これらに制限されるものではない。前記成形品は、耐衝撃性および難燃性に優れており、電気電子製品の外装部品および自動車精密部品に好適に用いられる。
【0073】
前記成形品は、125mm×13mmの大きさおよび1/8インチ(3.175mm)の厚さの試験片で、UL94VB難燃基準により測定した第1次の燃焼平均時間が0.5秒以下であることが好ましい。本発明に係るポリカーボネート樹脂組成物は、耐衝撃性、流動性、屈曲強度、耐薬品性、および耐候性に優れていることから、テレビ、洗濯機、洗浄機、コンピュータ、オーディオ、ビデオ、CDプレーヤー、携帯電話、電話機などの電気電子製品の外装材用射出物や自動車計器板、ドアライニング、バンパー、バッテリーカバー、配電器キャップ、ヒーターパネルなどの自動車部品に好適に適用可能である。
【実施例】
【0074】
本発明を、下記の実施例によってさらに詳細に説明する。ただし、下記の実施例は、本発明の具体的な例示に過ぎず、本発明の保護範囲を限定するか、または制限するものではない。
【0075】
実施例1〜3:立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物(サンプル名:B1〜B3)の製造
(実施例1)
4−t−ブチルフェノール(60g、0.40モル)、フェニルジクロロホスホン酸(43g、0.20モル)、およびピリジン(400mL)を容器に仕込み、140℃で一日間還流攪拌を行った。容器の温度を室温(25℃)に冷却した後、ロータリーエバポレーターを用いてピリジンを減圧除去した。固体だけが残った容器の中に、蒸留水500mLを添加し、25℃で1時間攪拌を行った。この工程で、反応中に生成したピリジン塩酸塩が水に溶解し、水に不溶の固体を濾過して得た。濾過した固体の水分を減圧乾燥機で一日間除去して、純粋な白色固体(B1)79g(収率94%)を得た。得られた化合物(B1)についてGC−MSおよび1H−NMR分析を行った。それぞれの分析結果を図1および図2に示す。
【0076】
(実施例2)
2,4,6−トリメチルフェノール(54g、0.40モル)、フェニルジクロロホスホン酸(43g、0.20モル)、およびピリジン(400mL)を容器に仕込み、140℃で一日間還流攪拌を行った。容器の温度を室温(25℃)に冷却した後、ロータリーエバポレーターを用いてピリジンを減圧除去した。固体だけが残った容器の中に、蒸留水500mLを添加し、25℃で1時間攪拌を行った。この工程で、反応中に生成したピリジン塩酸塩が水に溶解し、水に不溶の固体を濾過して得た。濾過した固体の水分を減圧乾燥機で一日間除去して、純粋な白色固体(B2)75.7g(収率96%)を得た。得られた化合物(B2)についてGC−MSおよび1H−NMR分析を行った。それぞれの分析結果を図3および図4に示す。
【0077】
(実施例3)
2,6−ジメチルフェノール(50g、0.40モル)、フェニルジクロロホスホン酸(43g、0.20モル)、およびピリジン(400mL)を容器に仕込み、140℃で一日間還流攪拌を行った。容器の温度を室温(25℃)に冷却した後、ロータリーエバポレーターを用いてピリジンを減圧除去した。固体だけが残った容器の中に蒸留水500mLを添加し、25℃で1時間攪拌した。この工程で、反応中に生成したピリジン塩酸塩が水に溶解し、水に不溶の固体を濾過して得た。濾過した固体の水分を減圧乾燥機で一日間除去して、純粋な白色固体(B3)69g(収率95%)を得た。得られた化合物(B3)についてGC−MSおよび1H−NMR分析を行った。分析結果を図5および図6にそれぞれ示す。
【0078】
上記実施例1〜3の立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物(B1)〜(B3)を製造する際の反応式を以下に示す。
【0079】
【化7】

【0080】
実施例4〜9:立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物を用いた難燃性ポリカーボネート樹脂組成物の製造
下記の実施例および比較例において用いられる各成分の仕様は次の通りである。
【0081】
(a1)ポリカーボネート系樹脂
重量平均分子量(Mw)が25,000であるビスフェノールA型のポリカーボネートを用いた(帝人株式会社製、パンライト(登録商標) L1250 AP)。 (a2)ゴム変性スチレン系樹脂
(a21)スチレン系グラフト共重合体樹脂
ブタジエンゴム50質量部、グラフト重合される単量体であるスチレン36質量部、アクリロニトリル14質量部、および脱イオン水150質量部を含む混合物に、オレイン酸カリウム1.0質量部、クメンハイドロパーオキサイド0.4質量部、t−ドデシルメルカプタン(メルカプタン系連鎖移動剤)0.2質量部、ブドウ糖0.4質量部、硫酸鉄(II)水和物0.01質量部、およびピロホスフェートナトリウム塩0.3質量部を添加して、5時間にわたって75℃を維持して反応を行い、グラフト共重合体ラテックスを製造した。得られたグラフト共重合体ラテックス中の固形分に対して、硫酸を0.4質量部加えて凝固させることにより、スチレン系グラフト共重合体樹脂(a21)であるABS樹脂を粉末状で得た。
【0082】
(a22)芳香族ビニル系共重合体樹脂
スチレン75質量部、アクリロニトリル25質量部、脱イオン水120質量部の混合物に、重合開始剤であるアゾビスイソブチロニトリル0.2質量部、トリカルシウムホスフェート0.4質量部、およびt−ドデシルメルカプタン(メルカプタン系連鎖移動剤)0.2質量部を添加し、室温(25℃)から80℃まで90分かけて昇温させた後、80℃で180分間維持することにより、スチレン/アクリロニトリル共重合体を得た。これを水洗、脱水および乾燥して、芳香族ビニル系共重合体樹脂(a22)であるスチレン/アクリロニトリル共重合体樹脂(SAN)粉末状で得た。GPCにより測定したスチレン/アクリロニトリル共重合体樹脂(SAN)の重量平均分子量(Mw)は、80,000〜100,000であった。
【0083】
(B)立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物
前記実施例1〜3で製造した立体障害性フェニル基含有ホスホネート(B1)、(B2)および(B3)を用いた。
【0084】
(C)リン酸エステル化合物
大八化学工業株式会社製の1,3−フェニレンビス(ジ2,6−キシレニルホスフェート)(商品名:PX−200)を用いた。
【0085】
実施例4〜9
前記の成分を下記表1に記載された量で二軸押出機に投入し、200〜280℃の温度範囲で押出してペレットを製造した。表1中、樹脂の組成比の単位は質量部である。製造したペレットを80℃で2時間乾燥した後、射出成形機で成形温度180〜280℃、金型温度40〜80℃の条件下で成形して、難燃性評価用試験片を製造した。製造した試験片は、1/8インチ(3.175mm)の厚さで125mm×13mmの大きさとした。この試験片について、UL−94VB(米国Under Writers Laboratories Incで定められた規格)に準じて1サンプルにつき、平均燃焼時間を算出して、難燃性を評価した。第1次の燃焼平均時間は、最初に試験片を燃焼させてから試験片の火が消えるまでの時間を測定するものである。第2次の燃焼平均時間は、第1次燃焼の10秒後に試験片を燃焼させてから試験片の火が消えるまでの時間を測定するものである。測定結果は下記表1に示す。表1中、平均燃焼時間の単位は秒である。
【0086】
比較例1〜2
下記表1に記載したように、各成分の含有量を調整した以外は、実施例と同様に試験片を製造して物性を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0087】
【表1】

【0088】
前記表1の結果から、難燃剤として本発明の立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物を用いた実施例4〜9の場合には、難燃剤として(C)芳香族リン酸エステル化合物だけを用いた比較例1〜2の場合に比べて、1/8インチ(3.175mm)の厚さで難燃性に優れていることが分かった。
【0089】
本発明の単なる変形ないし変更は、この分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができ、このような変形や変更は、全て本発明の領域に含まれると認めるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の実施例1で得られた立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物(B1)のGC−MS分析の結果を示すチャートである。
【図2】本発明の実施例1で得られた立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物(B1)の1H−NMR分析の結果を示すチャートである。
【図3】本発明の実施例2で得られた立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物(B2)のGC−MS分析の結果を示すチャートである。
【図4】本発明の実施例2で得られた立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物(B2)の1H−NMR分析の結果を示すチャートである。
【図5】本発明の実施例3で得られた立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物(B3)のGC−MS分析の結果を示すチャートである。
【図6】本発明の実施例3で得られた立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物(B3)の1H−NMR分析の結果を示すチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表される立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物:
【化1】

前記化学式(1)中、RはC〜Cの直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基またはC〜C14のアリール基であり、Rは、それぞれ独立して、C〜Cの直鎖アルキル基またはC〜Cの分岐鎖アルキル基であり、nは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。
【請求項2】
下記化学式(2)で表される立体障害性フェノール化合物と下記化学式(3)で表されるジハロゲンホスホン酸化合物とを反応させる段階を含むことを特徴とする立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物の製造方法:
【化2】

前記化学式(2)中、RはC〜Cの直鎖アルキル基またはC〜Cの分岐鎖アルキル基であり、nは1〜3の整数であり、
【化3】

前記化学式(3)中、RはC〜Cの直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基またはC〜C14のアリール基であり、XはClまたはBrである。
【請求項3】
前記化学式(2)で表される立体障害性フェノール化合物と前記化学式(3)で表されるジハロゲンホスホン酸化合物とを反応させる段階は、前記化学式(2)で表される立体障害性フェノール化合物2当量と、前記化学式(3)で表されるジハロゲンホスホン酸化合物1当量とを還流反応させる段階であることを特徴とする請求項2に記載の立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物、または請求項2もしくは3に記載の製造方法により得られる立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物を難燃剤として使用する熱可塑性樹脂の難燃性を向上させる方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂がポリカーボネートを含むことを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
ポリカーボネート系樹脂を含む基本樹脂(A)100質量部と、
下記化学式(1)で表される立体障害性フェニル基含有ホスホネート化合物(B)0.5〜20質量部と、
を含むことを特徴とする難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物:
【化4】

前記化学式(1)中、RはC〜Cの直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基またはC〜C14のアリール基であり、Rは、それぞれ独立して、C〜Cの直鎖アルキル基またはC〜Cの分岐鎖アルキル基であり、nは、それぞれ独立して、1〜3の整数である。
【請求項7】
前記基本樹脂(A)中のポリカーボネート系樹脂(a1)の含有量が50〜100質量%であり、ゴム変性スチレン系樹脂(a2)の含有量が0〜50質量%である(ただし、(a1)と(a2)との含有量の合計は100質量%である)ことを特徴とする請求項6に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項8】
前記ゴム変性スチレン系樹脂中のスチレン系グラフト共重合体樹脂(a21)の含有量が20〜100質量%であり、芳香族ビニル系共重合体樹脂(a22)の含有量が0〜80質量%である(ただし、(a21)と(a22)との含有量の合計は100質量%である)ことを特徴とする請求項7に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項9】
前記スチレン系グラフト共重合体樹脂(a21)は、ゴム状重合体(a211)4〜65質量%と、スチレン系単量体(a212)95〜30質量%と、前記スチレン系単量体(a212)と共重合可能な単量体(a213)1〜20質量%と(ただし、(a211)と(a212)と(a213)との含有量の合計は100質量%である)、必要に応じて前記ゴム状重合体(a211)、前記スチレン系単量体(a212)、および前記スチレン系単量体(a212)と共重合可能な単量体(a213)の合計100質量%に対して加工性および耐熱性を付与する単量体0〜15質量%とを含む混合物をグラフト重合させて得られたものであり、
前記芳香族ビニル系共重合体樹脂(a22)は、芳香族ビニル系単量体(a221)60〜90質量%と、前記芳香族ビニル系単量体(a221)と共重合可能な単量体(a222)10〜40質量%と(ただし、(a221)と(a222)との含有量の合計は100質量%である)、必要に応じて前記芳香族ビニル系単量体(a221)と、前記芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体(a222)との合計100質量%に対して加工性および耐熱性を付与する単量体(a223)0〜30質量%とを含む混合物を共重合させて得られたものであることを特徴とする請求項8に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項10】
前記難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物は、基本樹脂(A)100質量部に対して、下記化学式(5)で表される芳香族リン酸エステル化合物を10質量部以下の含有量でさらに含むことを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物:
【化5】

前記化学式(5)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、またはC〜Cの直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基であり、XはC〜C20のアリーレン基、またはC〜C10の直鎖もしくは分岐鎖のアルキル基で置換されたC〜C20のアリーレン基であり、nは0〜4の整数である。
【請求項11】
可塑剤、熱安定剤、酸化防止剤、滴下防止剤、相溶化剤、光安定剤、顔料、染料、無機添加剤およびこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも一種の添加剤をさらに含むことを特徴とする請求項6〜10のいずれか1項に記載の難燃性ポリカーボネート系樹脂組成物。
【請求項12】
請求項6〜11のいずれか1項に記載のポリカーボネート系樹脂組成物を成形して製造され、125mm×13mmの大きさおよび1/8インチの厚さの試験片を用いて、UL94VB難燃基準により測定した第1次の燃焼平均時間が0.5秒以下であることを特徴とする成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−137942(P2009−137942A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−284311(P2008−284311)
【出願日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(308010354)第一毛織株式会社 (14)
【Fターム(参考)】